説明

アントシアニン系色素の製造方法

【課題】食塩を高濃度で含有するアントシアニン系色素の原料液からアントシアニン系色素を効率よく得ること。
【解決手段】アントシアニン系色素を含む色素原料を食塩と接触させてアントシアニン系色素を抽出する工程;抽出液を多孔性樹脂に接触させて多孔性樹脂にアントシアニン系色素を吸着させる工程;及びアントシアニン系色素を吸着した多孔性樹脂をアルコール水溶液に接触させてアントシアニン系色素を溶出する工程;を包含するアントシアニン系色素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の着色に使用可能なアントシアニン系色素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アントシアニン系色素は、果物や野菜などの植物に含まれている赤色乃至紫色の色素であり、食品、化粧品、医薬品などの様々な分野で天然着色料として広く用いられている。
【0003】
アントシアニン系色素は、アントシアニン系色素を含む色素原料液を吸着材に吸着させて夾雑物を除去し、その後アントシアニン系色素を吸着した吸着材からアントシアニン系色素を溶出させることにより製造される。アントシアニン系色素を含む色素原料液はアントシアニン含有植物等を液媒体に接触させ、成分を抽出して得ることができる。
【0004】
例えば、特許文献1では、アントシアニン含有植物を色素抽出可能な程度に裁断または粉砕し、硫酸、塩酸、リン酸等の鉱酸またはクエン酸等の有機酸によりpH1.5〜3.5程度の酸性に調整した適量の水に12〜48時間浸漬し、色素の溶出した溶液から原料残渣等を濾過処理する方法等により、色素原料液を得ている。また、特許文献2に示されているように、抽出にアルコールのような親水性有機溶媒を用いることも知られている。
【0005】
アントシアニン系色素を吸着させる吸着材として、特許文献1には、活性炭、無極性の多孔質重合樹脂、イオン交換樹脂等が記載されている。溶出液としては、メタノール、エタノール、アセトン等の親水性有機溶剤が記載されている。
【0006】
他方、植物から塩蔵漬物を製造する過程においては、廃液が大量に排出される。これらの廃液は従来から廃棄処分されてきたが、食塩を高濃度で含有する水溶液であり、廃棄する際に環境に与える負荷が非常に大きい。
【0007】
ところで、かかる塩蔵漬物廃液は浸透圧によって植物の成分が抽出された水溶液である。そうすると、塩蔵漬物の原料がアントシアニン含有植物である場合、塩蔵漬物廃液はアントシアニン系色素を含む色素原料液となる。しかしながら、従来の色素原料液と異なって食塩を高濃度で含有しており、従来のアントシアニン系色素の製造方法ではアントシアニン系色素を効率よく分離回収することは困難である。
【特許文献1】特開2003−292814
【特許文献2】特開平7−157679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、食塩を高濃度で含有するアントシアニン系色素の原料液からアントシアニン系色素を効率よく得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アントシアニン系色素を含む色素原料を食塩と接触させて成分を抽出する工程;
抽出液を多孔性樹脂に接触させて多孔性樹脂にアントシアニン系色素を吸着させる工程;及び
アントシアニン系色素を吸着した多孔性樹脂をアルコール水溶液に接触させてアントシアニン系色素を溶出する工程;
を包含するアントシアニン系色素の製造方法を提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【発明の効果】
【0010】
アントシアニン系色素を安価かつ簡便に効率よく製造することができる。また、現在は廃棄されている漬物加工廃液から有効性分を回収し、塩分を分離することができるため、漬物加工廃液を再資源化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
色素原料としては、成分にアントシアニン系色素を含む植物で有れば特に限定されない。このような植物としては、例えば、赤キャベツ、紫イモ、紫トウモロコシ、赤ダイコン、赤シソ、赤米等が挙げられる。なかでも、赤シソなどのシソ類が好ましい。
【0012】
色素原料は植物の塩蔵漬物を製造する際に通常行われる工程に供される。まず、アントシアニン含有植物を食塩と接触させる。その際には、アントシアニン含有植物に固体の食塩をふりかけてよく、アントシアニン含有植物を食塩水に浸漬してもよい。食塩水を用いる場合はできるだけ高濃度であることが好ましい。抽出効率が向上するからである。好ましくは飽和食塩水、より好ましくは固体の食塩と飽和食塩水の混合物である。接触中は放置しておいてよく、加圧、もみ、攪拌等の操作を行なってもよい。
【0013】
塩蔵漬物から液成分を分離し、原料残渣等を濾過などによって適宜除去して、抽出液を得る。抽出液は、アントシアニン含有植物から浸透圧の原理によって抽出された成分を含有する。また抽出液は高濃度で食塩を含有する。
【0014】
ついで、抽出液を多孔性樹脂に接触させる。その接触方法としては、容器中に多孔性樹脂と抽出液とを順次、混合するバッチ方式でもよく、抽出液を多孔性樹脂のカラムに通過させるカラム方式でもよい。カラム方式は使用する溶媒量を少なくできるため好ましい。これにより、多孔性樹脂にアントシアニン系色素を吸着させる。
【0015】
多孔性樹脂としては、食塩を吸着せずアントシアニン系色素を吸着するものを使用する必要がある。好ましい多孔性樹脂は架橋スチレン-ジビニルベンゼン系の多孔質重合体である。架橋スチレン-ジビニルベンゼン系とは、以下の化学式に示す骨格を有するこという。
【0016】
【化1】

【0017】
多孔性樹脂は、比表面積が500〜1500m/g、好ましくは800〜1200m/gである。比表面積が500m/g未満であるとアントシアニン系色素の吸着率が低下する。
【0018】
また多孔性樹脂は、最頻度細孔の大きさが2〜50nm、好ましくは3〜6nmである。最頻度細孔の大きさが8nm以上であるとアントシアニン系の色素の吸着率が低下する。
【0019】
多孔性樹脂は市販されているものを用いてよい。好ましい市販品には、三菱化学社製「ダイアイオンHP20」、同「ダイアイオンHP21」、同「セパビーズSP825」、、同「セパビーズ850」等が挙げられる。
【0020】
多孔性樹脂と抽出液との質量比は、抽出液の処理量や色素原料の種類、多孔性樹脂の種類等に応じて、実験的に適した比率を決定することができる。また、カラム内に残存した食塩は水洗して除去することができる。
【0021】
ついで、アントシアニン系色素を吸着した多孔性樹脂をアルコール水溶液に接触させる。接触の方法は、多孔性樹脂が充填されたカラムに、アルコール水溶液を通液すればよい。これにより、多孔性樹脂に吸着されていたアントシアニン系色素がアルコール水溶液に溶出される。得られた溶出液を、常法に従って濃縮あるいは脱溶媒処理することにより、アントシアニン系色素が得られる。
【0022】
ここで、アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、プロピレングリコール等を使用することができる。アントシアニン系色素を食品添加用色素として使用する場合には、アルコールとして食添用のエタノールやプロピレングリコールを使用することが好ましい。
【0023】
アルコール水溶液は、アルコールの濃度が40〜70%(v/v)、好ましくは50〜60%である。アルコールの濃度が40%未満であるとアントシアニン系色素は溶出効率が悪く、70%を超えるとアントシアニン系色素以外の脂溶性の成分の溶出が認められる。
【実施例】
【0024】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0025】
実施例1
赤シソ漬の生産工場より、片面シソ(Perrilla frutescens Brit. var. discolor Kudo)の塩蔵漬物から分離した加工製品であるシソ液を入手した。この塩蔵漬物は、片面シソの計量、選別(ゴミ、虫等の異物の除去)、水洗、塩の添加とモミ、ローラープレス(シソ廃液(1))、ほぐして層状に堆積(ポリタンク)(シソ廃液(2))、重しを置いての漬け込み(一昼夜)(シソ廃液(3))、及び深いタンク中に層状に漬け込み長期保存(シソ液)、という過程を経て製造されたものである。
【0026】
吸着材として三菱化学社製多孔性樹脂「セパビーズ825」を準備した。これは架橋スチレン系の多孔質重合体であり、比表面積が1000m/g、最頻度細孔サイズが5.7nmである。
【0027】
この吸着材を内径25mm、長さ200mmのカラム(容量約80ml)に充填し、シソ液及び塩蔵漬物の製造過程で排出する着色した廃液((1)〜(3))にクエン酸を約1%となるように添加した液各1Lをカラムの頭頂から通液したところ、色素は多孔性樹脂によく吸着された。カラムからの色素の漏洩は認められなかった。
【0028】
シソ液及び塩蔵漬物の製造過程で排出する着色した廃液((1)〜(3))を通液後、カラムに純水160mLを通液し洗浄した。次いで60%(v/v)エタノール水溶液を通液したところ、アントシアニン系色素成分は脱着し、溶出した液を40℃以下の温度で減圧濃縮し、濃縮色素溶液として回収した。
【0029】
535nmでの吸光度が0.3〜0.7の範囲になるようにこれらの液をpH3.0のMcIlvaineクエン酸緩衝液を用いて希釈し(シソ液とカラムで回収した濃縮色素溶液の場合約1000倍)535nmの吸光度を測定した。例えば、シソ液の場合の吸光度は0.466であった。カラムに入れる前の色素液を同様に希釈して測定した535nmの吸光度に対する百分率を計算することにより吸着回収率を計算した。例えば、シソ液の場合吸光度は0.469であり、吸着回収率は99.4%と計算された。
【0030】
また、濃縮色素溶液は40℃以下の温度で濃縮乾固してシソ色素粉末とした。色素の濃度の評価は、535nmでの吸光度が0.3〜0.7の範囲になるようにpH3.0のMcIlvaineクエン酸緩衝液を用いて可溶化して100mLとし、535nmの吸光度を測定し、色価(535nmの吸光度×10/採取色素量)として評価した。例えば、シソ廃液(3)を濃縮乾固した粉末の色価は100.0であった。
【0031】
吸着材にセパビーズ825を用いると色素吸着回収率が高く、着色物も残存せず樹脂の再利用も可能である。つまり、セパビーズ825はアントシアニン系色素を含む高濃度食塩水からアントシアニン系色素を回収するための吸着材に適していることが確認された。
【0032】
実施例2〜6
吸着材を表1に示す樹脂に変更すること以外は実施例1と同様にして水性色素抽出液を得、吸光度及び吸着回収率を測定した。結果を表3に示す。
【0033】
[表1]

a)三菱化学株式会社製
b)オレガノ株式会社製
【0034】
比較例1〜6
吸着材を表2に示す樹脂に変更すること以外は実施例1と同様にして水性色素抽出液を得、吸光度及び吸着回収率を測定した。結果を表3に示す。
【0035】
[表2]

a)三菱化学株式会社製
b)オレガノ株式会社製
【0036】
[表3]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントシアニン系色素を含む色素原料を食塩と接触させて成分を抽出する工程;
抽出液を多孔性樹脂に接触させて多孔性樹脂にアントシアニン系色素を吸着させる工程;及び
アントシアニン系色素を吸着した多孔性樹脂をアルコール水溶液に接触させてアントシアニン系色素を溶出する工程;
を包含するアントシアニン系色素の製造方法。
【請求項2】
前記多孔性樹脂が架橋スチレン系の多孔質重合体である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記多孔性樹脂が比表面積500〜1500m/g、及び最頻度細孔の大きさが2〜10nmを有する請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記色素原料がシソである請求項1〜3のいずれか記載の方法。
【請求項5】
前記アルコール水溶液がアルコール濃度40〜70%(w/v)を有する請求項1〜4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法によって得られたアントシアニン系色素。

【公開番号】特開2007−145945(P2007−145945A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340307(P2005−340307)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(596177272)株式会社サンアクティス (7)
【出願人】(000219152)
【Fターム(参考)】