説明

アントラキノン系色素を含むインク及び該インクに用いられる色素

【課題】低極性溶媒への溶解性に優れ、高い吸光係数、高い耐光性を有するアントラキノン系色素を含むインク及びそれに用いるアントラキノン系色素を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるアントラキノン系色素と低極性溶媒とを含むことを特徴とするインク。


(式中、R及びRは、各々独立に置換基を有してもよい、炭素数が2〜20のアルキル基又は炭素数が2〜20アルコキシアルキル基であるが、R及びRの少なくとも1つは、各々置換基を有してもよい、炭素数が3〜20の分岐アルキル基又は炭素数が3〜20の分岐アルコキシアルキル基である。アントラキノン環は、NHR及びNHR以外に置換基を有してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ材料等に有用なアントラキノン系色素及び該色素を含むインクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低消費電力で視認性の高い新しい方式の電気光学ディスプレイが提案され、電子ペーパー等に適用されつつある。電気泳動方式は、油性溶媒と着色電気泳動粒子とを内蔵する複数のマイクロカプセルをバインダ中に分散して薄く塗布した層に、電界を印加し着色電気泳動粒子を移動させることで、画像を表示する方式である。またエレクトロウェッティング方式は、基板上に水性媒体と油性着色インクの2相で満たされた複数のピクセルを配し、ピクセルごとに電圧印加のon−offによって水性媒体/油性着色インクの界面の親和性を制御し、油性着色インクを基板上に展開/凝集させることによって行う画像表示方式であり、電気泳動方式に比べると応答速度が高い(非特許文献1)。
【0003】
このようなディスプレイの油性インクに用いられる色素には、高溶解性、高吸光係数、耐光性等の高い耐久性が求められる。特許文献1には、エレクトロウェッティング方式ディスプレイの油性インクに用いる色素として、Oil Blue N、SolventGreen、Sudan Red、Sudan Blackが挙げられている。特許文献2及び3には、色素直接気化型熱記録方式用及び自動変速機油の着色剤として特定のアントラキノン系色素が開示されているが、ディスプレイ材料への適用は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−531917号公報
【特許文献2】特開平11−100523号公報
【特許文献3】特表平11−506151号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“Nature”(英国)、2003年、Vol.425、p.383-385
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、特許文献1に具体的に記載された色素は低極性溶媒への溶解性、吸光係数、耐光性等の点で更なる改善が必要であることが判明した。
本発明は、低極性溶媒への溶解性に優れ、高い吸光係数、高い耐光性を有するアントラキノン系色素及び該色素を含むインクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ある種の化学構造を有するアントラキノン系色素が、炭化水素系溶媒等の低極性溶媒への溶解性に優れ、しかも高いモル吸光係数、高い耐光性を有することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)下記一般式(I)で表されるアントラキノン系色素と低極性溶媒とを含むことを特徴とするインク。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R及びRは、各々独立に置換基を有してもよい、炭素数が2〜20のアルキル基又は炭素数が2〜20アルコキシアルキル基であるが、R及びRの少なくとも1つは、各々置換基を有してもよい、炭素数が3〜20の分岐アルキル基又は炭素数が3〜20の分岐アルコキシアルキル基である。アントラキノン環は、NHR及びNHR以外に置換基を有してもよい。)
(2)低極性溶媒が、炭化水素系溶媒、フルオロカーボン系溶媒、及びシリコーンオイルから選ばれた少なくとも1つを含むことを特徴とする(1)に記載のインク。
(3)アントラキノン系色素が、該色素をn−デカンに溶解させたとき、350〜750nm波長域における吸収極大波長が450〜570nmの範囲内にあり、かつ、該色素の吸収極大波長におけるモル吸光係数ε(Lmol−1cm−1)と室温(25℃)における同溶媒での飽和溶液の濃度C(molL−1)との積εCが500cm−1以上の値をもつ(1)又は(2)に記載のインク。
(4)更に、下記一般式(II)で表される色素及び/又は下記一般式(III)で表される
色素を含む(1)〜(3)のいずれかに記載のインク。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R3は置換基を有してもよい炭素数が2〜10のアルキル基を示し、Rは置換
基を有してもよい炭素数が3〜10のアルキル基を示す。フェニル基及びフェニレン基は各々独立して置換基を有してもよい。)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、Xは水素原子又はCOORを示し、R〜Rは各々独立に置換基を有してもよい炭素数が1〜20のアルキル基を示すが、R〜Rの少なくとも1つは置換基を有してもよい炭素数が4〜20の分岐アルキル基である。アントラキノン環は、X、NHR及びNHR以外に置換基を有してもよい。)
(5)ディスプレイ用又は光シャッター用である(1)〜(4)のいずれかに記載のインク。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のインクを含む複数のピクセルを有してなり、該ピクセルごとに電圧印加を制御することで画像を表示することを特徴とするディスプレイ。
(7)低極性溶媒に溶解させてインクとして用いられる色素であって、下記一般式(I)で表される色素であることを特徴とするアントラキノン系色素。
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R及びRは、各々独立に置換基を有してもよい、炭素数が2〜20のアルキル基又は炭素数が2〜20アルコキシアルキル基であるが、R及びRの少なくとも1つは、各々置換基を有してもよい、炭素数が3〜20の分岐アルキル基又は炭素数が3〜20の分岐アルコキシアルキル基である。アントラキノン環は、NHR及びNHR以外に置換基を有してもよい。)
(8)低極性溶媒が、炭化水素系溶媒、フルオロカーボン系溶媒、及びシリコーンオイルから選ばれた少なくとも1つを含むことを特徴とする(7)に記載のアントラキノン系色素。
(9)該インクがディスプレイ用又は光シャッター用である(7)又は(8)に記載のアントラキノン系色素。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアントラキノン系色素は、低極性溶媒への高い溶解性と高いモル吸光係数及び高い耐光性を併せもつため、これを低極性溶媒に溶解させたインクは視認性や耐久性が求められる用途に有用である。特に電気光学的に表示を行うディスプレイ、なかでもエレクトロウェッティングディスプレイに用いると、高い視認性と耐久性を実現できる利点がある。
【0017】
また、本発明のアントラキノン色素を他の特定の色素と組み合わせたインクは、黒色の色相に優れた良好な黒色インクとしうる利点があり、光シャッターとして機能する部材としても特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
(アントラキノン系色素)
本発明のアントラキノン系色素としては、下記一般式(I)で表される化学構造を有するものを用いる。
【0019】
【化5】

【0020】
式中、R及びRは、各々独立に置換基を有してもよい、炭素数が2〜20のアルキル基又は炭素数が2〜20アルコキシアルキル基である。但し、R及びRの少なくとも1つは、置換基を有してもよい炭素数が3〜20の分岐アルキル基又は置換基を有してもよい炭素数が3〜20の分岐アルコキシアルキル基である。また、アントラキノン環はNHR及びNHR以外に置換基を有してもよい。
【0021】
及びRは、各々独立に置換基を有してもよい炭素数が2〜20のアルキル基又は炭素数が2〜20のアルコキシアルキル基である。なお、アルコキシアルキル基の炭素数はアルコキシ部分とアルキル部分の炭素の合計数を言う。
炭素数が2〜20のアルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数が2〜20の直鎖アルキル基、好ましくは炭素数が4〜10の直鎖アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基等の炭素数が3〜20の分岐アルキル基、好ましくは炭素数が4〜10の分岐アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルメチル基、4−ブチルメチルシクロヘキシル基等の炭素数が3〜20の環状アルキル基、好ましくは炭素数が4〜10の環状アルキル基等が挙げられる。
【0022】
炭素数が2〜20のアルコキシアルキル基としては、例えば、2−(2−エチルヘキシ
ルオキシ)エチル基、3−(2-エチルヘキシルオキシ)プロピル基等の炭素数が3〜20の分岐アルコキシアルキル基等が挙げられる。
及びRの少なくとも1つは、各々置換基を有してもよい、炭素数が3〜20の分岐アルキル基又は炭素数が3〜20の分岐アルコキシアルキル基である。また、分岐アルキル基として好ましくは炭素数が4〜10の分岐アルキル基である。R及びRの少なくとも1つが各々置換基を有してもよい、分岐アルキル基又は分岐アルコキシアルキル基であることで、低極性溶媒への溶解性が向上する場合がある。
【0023】
及びRにおけるアルキル基及びアルコキシアルキル基は任意の置換基を有してもよい。任意の置換基としては、低極性溶媒への溶解性を妨げない置換基が好ましく、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子等が挙げられる。但し好ましくは置換基を有しない。
アントラキノン環は、NHR及びNHR以外に任意の置換基を有してもよい。このような置換基としては、低極性溶媒への溶解性を妨げない置換基が好ましく、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数が1〜10のアルキル基等が挙げられる。
【0024】
一般式(I)で表わされるアントラキノン系色素の具体例を以下に例示する。本発明はその要旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。
【0025】
【化6】

【0026】
上記一般式(I)で表される色素は、例えば、米国特許5558808号公報、特表平11−506151号公報に記載の方法に準じて合成することができる。
本発明のインクは上記アントラキノン系色素のいずれか1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を任意の組合せ及び比率で含んでいてもよい。
以上説明した本発明のアントラキノン系色素は、グラム吸光係数の点から、置換基を有する場合は置換基も含めて、その分子量が、通常2000以下、好ましくは1000以下であり、また、通常300以上、好ましくは400以上である。
【0027】
本発明のアントラキノン系色素は、低極性溶媒への溶解性、特に炭化水素系溶媒への溶解性に優れることを特徴とする。本発明のアントラキノン系色素は、室温(25℃)におけるn−デカン、テトラデカン、アイソパーG、アイソパーMの各溶媒に対する溶解度が、いずれも通常1質量%以上、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。溶解度は高いほど好ましいが、通常80質量%以下程度である。
【0028】
なお、本発明のアントラキノン系色素をエレクトロウェッティングディスプレイに用いる場合、その原理から言って水不溶性であることが望ましい。ここで「水不溶性」とは、25℃、1気圧の条件下における水に対する溶解度が、通常0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下であることを言う。
また、本発明のアントラキノン系色素は通常、赤色系の色調を呈する。すなわち、色素を低極性溶媒に溶解した場合に、350〜750nm波長域における吸収極大波長が450〜570nmの範囲内にあることが好ましい。具体的には色素をn−デカン、テトラデカン、アイソパーG、アイソパーMに溶解した場合に、350〜750nm波長域における吸収極大波長がそれぞれ450〜570nmの範囲にあることが好ましい。
【0029】
さらに、本発明のアントラキノン系色素は、n−デカン、テトラデカン、アイソパーG、アイソパーMの各溶媒に溶解したときの吸収極大波長におけるモル吸光係数ε(Lmol−1cm−1)と、上記各溶媒での室温(25℃)における飽和溶液の濃度C(molL−1)の積εCの値が、それぞれ通常500cm−1以上、好ましくは1000cm−1以上、より好ましくは2000cm−1以上である。
εC値は高いほど好ましく、上限は特にないが、通常40000cm−1以下程度である。
【0030】
本発明のインクにおけるアントラキノン系色素の濃度については、その目的に応じて任意の濃度で調製されるが、通常1質量%以上であり、また通常80質量%以下である。例えば、ディスプレイ用または光フィルター用の赤色色素として用いる場合、必要とされるεC値に応じて低極性溶媒に溶解又は分散して用いられるが、通常1質量%以上、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。濃度は高いほど好ましいが、通常80質量%以下程度である。
【0031】
本発明のアントラキノン系色素は、低極性溶媒への溶解性に優れ、高い吸光係数、高い耐光性を有することから、低極性溶媒に溶解又は分散させたインクとして、ディスプレイ材料、特にエレクトロウェッティングディスプレイ材料に好ましく適用できる。また他の色素と組みあわせたインクは光シャッター材料にも好ましく適用できる。
(低極性溶媒)
本発明において、低極性溶媒をインクの溶媒として用いる。本発明のインクは、例えば水層、油層などの層を有し、層の分裂又は層の移動に基づいた表示装置に用いることができる。表示を鮮明にするためには、インクが含まれる層と他の層とが混合せず、安定的に分裂又は移動することが必要であり、溶媒は、他の層との相溶性が低く、低極性である等が求められる。本発明は特定の低極性溶媒とアントラキノン系色素をインクに含むことによって、層が安定的に分裂又は移動することが可能となる。
【0032】
また、溶媒中で電荷を帯びた粒子(電気泳動粒子)が電界によって移動する電気泳動を用いた表示装置において、溶液の誘電率が大きいと駆動の妨げとなる場合がある。本発明の低極性溶媒と特定のアントラキノン系色素を用いることによって、粒子の移動を妨げることなく溶液の着色が可能になる。
また、本発明のインクをエレクトロウェッティング方式に用いる場合、低極性溶媒の接触角及び表面張力が表示装置の駆動に影響を与える場合がある。
【0033】
本発明で用いる低極性溶媒は、極性が低いものであれば特に限定はないが、例えば、測定周波数が1kHzにおいて比誘電率が通常3以下であることが好ましい。さらに好まし
くは比誘電率が2.5以下、より好ましくは2.2以下である。比誘電率の下限は特に制限されないが、通常1.5以上、好ましくは1.8以上である。比誘電率が3以下であることで、表示装置に支障をきたさずの駆動できる場合がある。低極性溶媒の比誘電率の測定方法は実施例に示す。
【0034】
本発明で用いる低極性溶媒の粘度は特に限定されないが、溶媒温度が25℃のときの粘度が0.1m−1以上であることが好ましい。また、10000m−1以下であることが好ましく、2000m−1以下であることがさらに好ましく、1000m−1以下であることが特に好ましい。低極性溶媒の粘度が上記範囲にあることで、色素等が溶解しやすく、表示装置に支障をきたさず駆動できる場合がある。
【0035】
本発明の低極性溶媒の沸点は特に限定されないが、120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、300℃以下であることが好ましい。沸点が上記範囲であることで、溶媒の融点及び粘度が適切な範囲となり、表示装置に支障をきたさず駆動できる場合があり、さらに溶媒の揮発が抑えられ、安定性及び安全性を得られる場合がある。
【0036】
低極性溶媒は、単独あるいは混合して用いることができる。具体例としては、炭化水素系溶媒、フルオロカーボン系溶媒、シリコーンオイル、高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。炭化水素系溶媒としては、直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、石油ナフサなどが挙げられる。脂肪族炭化水素系溶媒としては、例えば
n−デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、イソアルカン類等の脂肪族炭化水素系溶媒が挙げられ、市販品としては、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM(エクソン・モービル株式会社製)、IPソルベント(出光石油化学株式会社製)、ソルトール(フィリップス石油株式会社製)などが挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばハイソゾール(日本石油株式会社製)などが挙げられ、石油ナフサ系溶媒としては、シェルS.B.R.、シェルゾール70、シェルゾール71(シェル石油化学株式会社製)、ペガゾール(エクソン・モービル社製)などが挙げられる。
【0037】
フルオロカーボン系溶媒は、主にフッ素置換された炭化水素であり、例えば、C16、C18などのC2n+2で表されるパーフルオロアルカン類が挙げられ、市販品としては、フロリナートPF5080、フロリナートPF5070(住友3M社製)等が上げられる。フッ素系不活性液体としては、フロリナートFCシリーズ(住友3M社製)等、フルオロカーボン類としては、クライトックスGPLシリーズ(デュポンジャパンリミテッド社製)、フロン類としては、HCFC−141b(ダイキン工業株式会社製)、F(CFCHCHI、F(CFI等のヨウ素化フルオロカーボン類としては、I−1420、I−1600(ダイキンファインケミカル研究所製)等が挙げられる。
【0038】
シリコーンオイルとしては、例えば、低粘度の合成ジメチルポリシロキサンが挙げられ、市販品としては、KF96L(信越シリコーン製)、SH200(東レ・ダウコーニング・シリコーン製)等が挙げられる。
本発明において、低極性溶媒が、炭化水素系溶媒、フルオロカーボン系溶媒、及びシリコーンオイルから選ばれた少なくとも1つを含むことが好ましい。含有量は通常、低極性溶媒の50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0039】
なかでも好ましくは低極性溶媒が炭化水素系溶媒を含み、特に好ましくは脂肪族炭化水素系溶媒を含む。
本発明において、低極性溶媒は、溶媒中に水や極性溶媒を含有しないことが効果の観点から好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲においては、他の極性溶媒などを混合して用いてもよい。
【0040】
本発明のインクは、低極性溶媒とアントラキノン系色素とを含むものであり、アントラキノン系色素及び必要に応じて用いるその他の色素や添加剤等を、低極性溶媒に溶解することにより得られる。
ここで、溶解とは、アントラキノン系色素が低極性溶媒に完全に溶解している必要はなく、低極性溶媒に溶解させた溶液が0.1ミクロン程度のフィルターを通過し、かつ吸光係数が測定可能な程度の状態であればよく、色素の微粒子が分散している状態であってもよい。
【0041】
(他の色素)
本発明のインクは、上記アントラキノン系色素の他に、所望の色調とするために他の色素を含んでいてもよい。例えば、本発明のアントラキノン系色素に、黄色、青色の色素を混合して黒色とすることもできる。
本発明のインクが含んでいてもよい他の色素としては、使用する媒体に対して溶解性・分散性を有する色素の中から、本発明の効果を損なわない範囲で任意に選択することが可能である。
【0042】
本発明のインクをディスプレイ材料や光シャッター材料として用いる場合、他の色素と
しては、脂肪族炭化水素系溶媒等の低極性溶媒に溶解するものの中から、任意の色素を選択して用いることができる。具体的には、例えば、Oil Blue N、Solvent Green、Solvent Blue、Sudan Blue、Sudan Red、Sudan Yellow、Sudan Black等が挙げられる。これらの色素は、それ自体既知のものであり、市販品として入手できる。
【0043】
また、本発明のインクが含んでいてもよい他の色素としてはピラゾールジスアゾ系色素、ヘテロ環アゾ系色素、本発明以外のアントラキノン系色素が好ましく、これらを任意に組み合わせることにより、好ましい黒色インクを実現することができる。
ピラゾールジスアゾ系色素の具体例としては特に限定はないが、下記一般式(II)で表される色素が好ましい。
【0044】
【化7】

【0045】
式中、R3は置換基を有してもよい炭素数が2〜10のアルキル基を示し、Rは置換
基を有してもよい炭素数が3〜10のアルキル基を示す。また、フェニル基及びフェニレン基は各々独立して置換基を有してもよい。
の、炭素数が2〜10のアルキル基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数が2〜10の直鎖アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基等の炭素数が3〜10の分岐アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルメチル基、4−ブチルメチルシクロヘキシル基等の炭素数が3〜10の環状アルキル基等が挙げられる。
【0046】
としてはエチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基の炭素数が2〜6の直鎖アルキル基が特に好ましい。
としては、Rで例示したアルキル基のうち炭素数が3〜10の直鎖、分岐、環状アルキル基が挙げられる。高いグラム吸光係数及び原料の入手の容易さの点から、炭素数が3〜6のアルキル基が好ましい。また非極性溶媒への溶解性の点から分岐アルキル基が好ましく、Rとしてはtert−ブチル基が最も好ましい。
【0047】
及びRのアルキル基は任意の置換基を有してもよい。任意の置換基としては、低極性溶媒への溶解性を妨げない置換基が好ましく、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子等が挙げられる。
一般式(II)中、フェニル基及びフェニレン基は各々独立して置換基を有してもよい。
フェニル基が有してもよい置換基としては、炭化水素系溶媒などの非極性有機溶媒への溶解性の観点から非極性置換基が好ましく、炭素数が1〜10のアルキル基、炭素数が1〜10のアルコキシ基、炭素数が1〜10のハロアルキル基、及び炭素数が1〜10のハロアルコキシ基等が挙げられ、中でも、炭素数が1〜10のアルキル基及び炭素数が1〜10のアルコキシ基が好ましい。
【0048】
炭素数が1〜10のアルキル基としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖アルキル基;イソプロピル
基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソオクチル基等の分岐鎖アルキル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基等のシクロアルカン構造を有するアルキル基等が挙げられる。
【0049】
炭素数が1〜10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基等の直鎖アルコキシ基;イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、イソオクチルオキシ基等の分岐アルコキシ基;シクロプロポキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロプロピルメチルオキシ基等のシクロアルカン構造を有するアルコキシ基等が挙げられる。
【0050】
ハロアルキル基及びハロアルコキシ基としては、上記のアルキル基及びアルコキシ基が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子で置換された基であり、具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ノナフルオロブチル基、トリフルオロメトキシ基等が挙げられる。
フェニレン基が有してもよい置換基としては、フェニル基の置換基として挙げたものと同様の基が挙げられ、中でも炭素数が1〜10のアルキル基及び炭素数が1〜10のアルコキシ基が好ましく、特に好ましい置換基としては、例えばメチル基、エチル基等の炭素数が1〜4アルキル基、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数が1〜4アルコキシ基が挙げられる。
【0051】
以下に、前記一般式(II)で表される色素化合物の具体例を示すが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
上記一般式(II)で表される色素の中で特に好ましい化合物としては、下記の化合物が挙げられる。
【0052】
【化8】

【0053】
上記一般式(II)で表される色素は、例えば、国際公開2009/063880号パンフレットに記載の方法に準じて合成することができる。
ピラゾールジスアゾ系色素は、グラム吸光係数の点から、置換基を有する場合は置換基も含めて、その分子量が、通常2000以下、好ましくは1000以下である。
本発明以外のアントラキノン系色素としては、例えば前記一般式(I)で表される色素以外のアルキルアミン置換アントラキノン系色素が挙げられる。アルキルアミン置換アントラキノン系色素は特に限定はないが、下記一般式(III)で表される色素が好ましい。
【0054】
【化9】

【0055】
式中、Xは水素原子又はCOOR基を示し、R〜Rは各々独立に置換基を有してもよい炭素数が1〜20のアルキル基を示すが、R〜Rの少なくとも1つは置換基を有してもよい炭素数が4〜20の分岐アルキル基である。また、アントラキノン環は、X、NHR及びNHR以外に置換基を有してもよい。
〜Rの、炭素数が1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数が1〜20の直鎖アルキル基、好ましくは炭素数が1〜10の直鎖アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソオクチル基等の炭素数が3〜20の分岐アルキル基、好ましくは炭素数が3〜10の分岐アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルメチル基、4−ブチルメチルシクロヘキシル基等の炭素数が3〜20の環状アルキル基、好ましく炭素数が3〜10の環状アルキル基等が挙げられる。
【0056】
〜Rの少なくとも1つは、置換基を有してもよい炭素数が4〜20の分岐アルキル基である。具体的には、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソオクチル基が挙げられる。好ましくはsec−ブチル基、tert−ブチル基、イソオクチル基等の炭素数が4〜10の分岐アルキル基である。R〜Rの少なくとも1つが置換基を有してもよい炭素数が4〜20の分岐アルキル基であることで、低極性溶媒への溶解性が向上する場合がある。
【0057】
〜Rに係わるアルキル基は、任意の置換基を有してもよい。このような置換基としては、低極性溶媒への溶解性から低極性の置換基が好ましく、より具体的には、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数が1〜10のアルコキシ基等が挙げられる。
【0058】
さらに、一般式(III)におけるアントラキノン環は、X、NHR及びNHR以外
に任意の置換基を有してもよい。このような置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数が1〜10のアルキル基等が挙げられる。
【0059】
上記一般式(III)で表される色素の中で、特に好ましい化合物としては、下記の色素
の化合物が挙げられる。
【0060】
【化10】

【0061】
上記一般式(III)で表される色素は、例えば、特開2000−313174号公報に
記載の方法に準じて合成することができる。
上記一般式(III)で表されるアルキルアミン置換アントラキノン系色素は、グラム吸
光係数の点から、置換基を有する場合は置換基も含めて、その分子量が、通常2000以下、好ましくは1000以下であり、また、通常300以上、好ましくは400以上である。
【0062】
一般式(II)及び(III)を含む、一般式(I)以外の色素のインク中濃度については
、その目的に応じて任意の濃度で調製されるが、通常0.2質量%以上であり、また通常40質量%以下である。例えば、ディスプレイ用または光フィルター用の色素として用いる場合、必要とされるεC値に応じて非極性溶媒に希釈して用いられるが、通常0.2質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。濃度は高いほど好ましいが通常40質量%以下程度である。
【0063】
本発明のインクは、上記一般式(I)、(II)及び(III)の色素を含むことが好まし
い。これらの色素を含むことにより、可視光領域内の広い波長範囲において高い光吸収を実現することができる。また、これらの色素を混合して用いた場合でも、溶媒に対する溶解性が低下することなく高い溶解性を示す点で優れている。さらに、これらの色素を混合して用いた場合でも耐光性が悪化することがなく、高い耐光性を示す点で優れている。
【0064】
さらに、本発明のインクは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、また各用途に適した任意の添加剤を含んでいてもよい。
本発明のインク温度が25℃の時のインクの粘度の下限は特に限定されないが、通常0.1m−1以上であることが好ましい。また、上限は10000m−1以下であることが好ましく、2000m−1以下であることがさらに好ましく、1000m−1以下であることが特に好ましい。インクの粘度が適当な範囲にあることで、表示装置に支障をきたさず駆動できる場合がある。
【0065】
本発明の溶媒と、該溶媒と色素などを含むインクの比誘電率や粘度は、溶媒とインクの値の差が小さいほうが、表示装置などで用いる際の駆動特性への影響が小さくなり好ましい。従って、本発明のインクは、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、また各用途に適した任意の添加剤を含んでいてもよいが、溶媒の特性を変化させないようにすることが好ましい。
【0066】
(用途)
本発明のインクはディスプレイ用インクである。ディスプレイの方式としては、エレクトロウェッティング法、電気泳動法、などが例示される。ディスプレイの用途としては、コンピューター用、電子ペーパー用、電子インク用など様々なものが挙げられ、既存の液晶表示ディスプレイの用途のほとんどを代替することができる可能性がある。本発明のインクは、中でも、エレクトロウェッティングディスプレイ用のインクとして特に好ましい。
【0067】
また、本発明のインクは、黒色の色相に優れた良好な黒色インクとしうる利点があり、光シャッターとして機能する部材としても特に有用である。
【実施例】
【0068】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1−1]
<色素1の合成>
2−エチルヘキシルアミン(10.6g)、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン15.4g、酢酸ナトリウム4.2g、炭酸ナトリウム2.4gの混合物を140℃で30分攪拌後120℃まで放冷し、1,5−ジクロロアントラキノン5.6gを加え、130℃で1時間攪拌した。放冷した後、メタノールで希釈し沈殿を濾取し、水で洗浄した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=7/1)で精製し、得られた粉末をメタノールで洗浄し、赤色色素3.09gを得た。この色素1は下記の3つの化合物の混合物であり、混合比は高速液体クロマトグラフィーで決定した。
【0069】
【化11】

【0070】
[実施例1−2]
<色素2の合成>
2−エチルヘキシルアミン12.9g、酢酸ナトリウム0.34g、酢酸銅(II)0.13g、2−ブトキシエタノール10mlの混合物を150℃で8時間攪拌後放冷し、ジクロロメタンでろかした。ろ液の濃縮後水を加えトルエンで抽出した。有機層を濃縮後得られた固体をメタノールで洗浄し、赤色の色素2を3.4g得た。
【0071】
【化12】

【0072】
[実施例1−3]
<色素3の合成>
3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン138.6g、酢酸ナトリウム19.2g、炭酸ナトリウム10.5gの混合物を140℃で30分攪拌後120℃まで放冷し
、1,5−ジクロロアントラキノン25.0gを加え、130℃で1時間攪拌した。放冷した後、メタノールで希釈し沈殿を濾取し、水で洗浄した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)で精製し、得られた粉末をメタノールで洗浄し、赤色の色素3を28.7g得た。
【0073】
【化13】

【0074】
[比較例1−1]
<比較例色素1の合成>
特開平02−241784号公報の記載に基づき合成を行った。
【0075】
【化14】

【0076】
[比較例1−2]
<比較例色素2の合成>
特開昭50−073887号公報の記載に基づき合成を行った。
【0077】
【化15】

【0078】
[比較例1−3]
<比較例色素3の合成>
特開平01−136787号公報の化合物M−2の記載に基づき合成を行った。
【0079】
【化16】

【0080】
<色素の溶解性評価>
上記色素1〜3、比較例色素1〜3について、n−デカン、テトラデカン、アイソパーM、アイソパーGへの溶解性をそれぞれ次のとおり測定した。
n−デカンに色素1を溶解残存分が生じるまで添加し、30度で30分間超音波処理を
した。5℃で24時間放置後、超小型遠心機を用い、0.1ミクロンのフィルターで遠心濾過した(遠心力5200xg)。得られた飽和溶液を適当な濃度に希釈し、あらかじめ測定した吸光係数との関係から各色素の溶解度を計算し、またモル吸光係数ε(Lmol−1cm−1)と飽和溶液の濃度C(molL−1)の積εCの値を求めた。色素2、3、比較例色素1、2についても同様に測定を行いεCの値を求めた。
【0081】
また、他の溶媒についても同様に色素1〜3、比較例色素1〜3について測定し、εCの値を求めた。
<耐光性試験>
上記色素1〜3、比較例色素1〜3について、溶媒にn−デカン、テトラデカン、アイソパーM、アイソパーGを用いた場合の耐光性をそれぞれ次のとおり測定した。1mgの色素1を、容器内でn−デカン200mlに溶解し、理工科学産業株式会社製の光反応装置UVL−400HA(400W高圧水銀ランプ)を用い、2時間光照射した。この間、容器を冷媒で冷却して内部温度を10〜30℃に保った。下式による計算で色素の残存率を決定し、耐光性を評価した。
【0082】
色素の残存率 =(照射後の吸収極大波長における吸光度)/(照射前の吸収極大波長における吸光度)
色素2、3、比較例色素1〜3についても同様に測定を行い、耐光性を評価した。また、他の溶媒についても同様に色素1〜3、比較例色素1〜3について測定を行い、耐光性を評価した。
【0083】
<試験結果>
色素1〜3、比較例色素1〜3の溶液の色、吸収極大波長、溶解度、εCをn−デカン、テトラデカン、アイソパーM、アイソパーGの各溶媒ごとに表1〜4に、耐光性試験後の残存率を表5にまとめた。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
表1〜5より、比較例色素に比べ色素1〜3が高溶解度、高いεC、高い耐光性を有することが分かる。
このことから、本発明のアントラキノン系色素は低極性溶媒への高い溶解性と高いモル
吸光係数及び高い耐光性を併せもつため、これを低極性溶媒に溶解させたインクをディスプレイ等に適用すると高い視認性や耐久性が得られることが裏付けられた。
【0090】
[実施例2−1]
<インク1の調製>
色素1ならびに後述する、黄色色素1、青色色素1及び青色色素3からなる色素組成物1を、表6の配合にて、テトラデカン(東京化成工業社製)50gに溶解させて黒色のインク1を調製した。
【0091】
【表6】

【0092】
[実施例2−2]
<インク2の調製>
色素1ならびに後述する、黄色色素1、青色色素1及び青色色素3からなる色素組成物2を、表6の配合にて、脂肪族炭化水素系の溶媒であるアイソパーM(エクソン・モービル社製)50gに溶解させて黒色のインク2を調製した。
【0093】
[実施例2−3]
<インク3の調製>
色素1ならびに後述する、黄色色素2、青色色素1及び青色色素2からなる色素組成物3を、表6の配合にて、脂肪族炭化水素系の溶媒であるアイソパーM(エクソン・モービル社製)50gに溶解させて黒色のインク3を調製した。
【0094】
[実施例2−4]
<インク4の調製>
色素1ならびに後述する、黄色色素2、青色色素1及び青色色素2からなる色素組成物4を、表6の配合にて、脂肪族炭化水素系の溶媒であるアイソパーG(エクソン・モービル社製)50gに溶解させて黒色のインク4を調製した。
【0095】
黄色色素1
国際公開2009/063880号パンフレット記載に準じて合成を行った。
【0096】
【化17】

【0097】
黄色色素2
国際公開2009/063880号パンフレット記載に準じて合成を行った。
【0098】
【化18】

【0099】
青色色素1
特開平11−124510号公報の記載に準じて合成を行った。
【0100】
【化19】

【0101】
青色色素2
特開2000−313174号公報の記載に準じて合成を行った。
【0102】
【化20】

【0103】
青色色素3
特開2000−313174号公報の記載に準じて合成を行った。
【0104】
【化21】

【0105】
[比較例2−1]
<比較例インク1の調製>
市販の油溶性黒色染料であるSudan Black B(東京化成工業社製)をテトラデカン(東京化成工業社製)に、溶解残存分が生じるまで添加し、30℃で30分間超音波処理した。5℃で24時間放置後、超小型遠心機を用い、0.1ミクロンのフィルターで遠心濾過した(遠心力5200xg)。得られたテトラデカン飽和溶液を適当な濃度に希釈し、あらかじめ測定した吸光係数との関係から色素の溶解度を計算したところ、0.15%となった。
【0106】
Sudan Black Bのテトラデカン飽和溶液を調製し、比較例インク1とした。
*Sudan Black B
【0107】
【化22】

【0108】
<色相評価>
インク1〜4及び比較例インク1を光路長0.01mmのセルを用いてスペクトルを測定し、日立分光光度計U−4100付属の色彩計算プログラムを用いてD65光源、視野角2度の条件で測色を行うことにより、色相を表色系色度により定量的に評価した。なお、CIE表色系色度Lにおいて、Lは明度を表し、L=0は黒、L=100は白の拡散色を表す。よって、Lの値が0に近いほど、黒色としては好ましい。
【0109】
インク1〜4及び比較例インク1の色彩計算結果を表7に示す。
【0110】
【表7】

【0111】
表7より、インク1〜4は、比較例インク1と比較してLの値が0に近く、黒色の色相に優れた良好な黒色インクであることがわかる。
このことから、本発明のアントラキノン色素を他の特定の色素と組み合わせて低極性溶媒に溶解させたインクは黒色の色相に優れた良好な黒色インクであり、これをディスプレイや光シャッターとして機能する部材に適用すると、高い遮光性が得られることが裏付けられた。
【0112】
[実施例3]
表8に示した組成で色素を溶媒に溶解し、インク5〜10を調整した。いずれの組成でも色素は溶媒に完全に溶解した。
【0113】
【表8】

【0114】
〈粘度測定〉
インク1、2、5〜7、9、10及び各インクの溶媒の粘度を、BROOKFIELD社製のデジタル粘度計 DV-I+を用いて、15℃、30℃、50℃の各温度で測定した。測定では、YAMATO−KOMATSU社製クールニクスサーキュレータCTE42Aを用いて一定温度を保持した。
【0115】
【表9】

【0116】
<表面張力測定>
インク1、2、5〜10及び各インクの溶媒の表面張力を、KRUSS社製のバブルプレッ
シャー動的表面張力計 BP−2を用いて、温度20℃,気泡発生周期が1Hz時の表面張力を測定した。
【0117】
【表10】

【0118】
<比誘電率測定法>
インク1、2、5、8及び各インクの溶媒の比誘電率を、アジレント・テクノロジー株式会社製のプレシジョンLCRメータ 4284Aを用いてインピーダンスメーター法によ
り測定した。インク及び溶媒それぞれを電極間隔30μmに対向、並行平板のITO電極付きガラス基板で挟持した後、測定周波数1KHz,テスト信号電圧0.1V印加時の等
価並列容量を測定し、下式による計算で比誘電率を決定し、評価した。
【0119】
比誘電率=等価並列容量×電極間隔/電極面積/真空の誘電率(ε
【0120】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のインク及びアントラキノン系色素は、例えばディスプレイ及び光シャッター、なかでも、電子ペーパーなどのエレクトロウェッティングディスプレイ用として特に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアントラキノン系色素と低極性溶媒とを含むことを特徴とするインク。
【化1】

(式中、R及びRは、各々独立に置換基を有してもよい、炭素数が2〜20のアルキル基又は炭素数が2〜20アルコキシアルキル基であるが、R及びRの少なくとも1つは、各々置換基を有してもよい、炭素数が3〜20の分岐アルキル基又は炭素数が3〜20の分岐アルコキシアルキル基である。アントラキノン環は、NHR及びNHR以外に置換基を有してもよい。)
【請求項2】
低極性溶媒が、炭化水素系溶媒、フルオロカーボン系溶媒、及びシリコーンオイルから選ばれた少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のインク。
【請求項3】
アントラキノン系色素が、該色素をn−デカンに溶解させたとき、350〜750nm波長域における吸収極大波長が450〜570nmの範囲内にあり、かつ、該色素の吸収極大波長におけるモル吸光係数ε(Lmol−1cm−1)と室温(25℃)における同溶媒での飽和溶液の濃度C(molL−1)との積εCが500cm−1以上の値をもつ請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
更に、下記一般式(II)で表される色素及び/又は下記一般式(III)で表される色素
を含む請求項1〜3のいずれかに記載のインク。
【化2】

(式中、R3は置換基を有してもよい炭素数が2〜10のアルキル基を示し、Rは置換
基を有してもよい炭素数が3〜10のアルキル基を示す。フェニル基及びフェニレン基は各々独立して置換基を有してもよい。)
【化3】

(式中、Xは水素原子又はCOORを示し、R〜Rは各々独立に置換基を有してもよい炭素数が1〜20のアルキル基を示すが、R〜Rの少なくとも1つは置換基を有してもよい炭素数が4〜20の分岐アルキル基である。アントラキノン環は、X、NHR及びNHR以外に置換基を有してもよい。)
【請求項5】
ディスプレイ用又は光シャッター用である請求項1〜4のいずれかに記載のインク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のインクを含む複数のピクセルを有してなり、該ピクセルごとに電圧印加を制御することで画像を表示することを特徴とするディスプレイ。
【請求項7】
低極性溶媒に溶解させてインクとして用いられる色素であって、下記一般式(I)で表される色素であることを特徴とするアントラキノン系色素。
【化4】

(式中、R及びRは、各々独立に置換基を有してもよい、炭素数が2〜20のアルキル基又は炭素数が2〜20アルコキシアルキル基であるが、R及びRの少なくとも1つは、各々置換基を有してもよい、炭素数が3〜20の分岐アルキル基又は炭素数が3〜20の分岐アルコキシアルキル基である。アントラキノン環は、NHR及びNHR以外に置換基を有してもよい。)
【請求項8】
低極性溶媒が、炭化水素系溶媒、フルオロカーボン系溶媒、及びシリコーンオイルから選ばれた少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項7に記載のアントラキノン系色素。
【請求項9】
該インクがディスプレイ用又は光シャッター用である請求項7又は8に記載のアントラキノン系色素。

【公開番号】特開2012−158741(P2012−158741A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170458(P2011−170458)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】