説明

アントラキノン組成物及びその製造方法

【課題】
アントラキノン法による過酸化水素の製造において還元、酸化、加水分解に対する安定性が高く、有機溶剤への溶解度が大きく、さらに水素化に使用される金属触媒の劣化速度を抑えた媒体として好適に用いられるアントラキノン組成物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
2−ペンチルアントラキノンの含有量が97.5重量%以上、アントラキノンの含有量が1.0重量%以下、2−三級ブチルアントラキノンの含有量が0.8重量%以下、2−エチルアントラキノンの含有量が0.5重量%以下であることを特徴とするアントラキノン組成物、および2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸を発煙硫酸を用いて環化反応させ、環化反応液を水と有機溶剤との混合液中で処理し、得られた溶剤抽出液をアルカリ水溶液と40℃以上で加熱処理後、溶剤を除去し、溶剤除去残分をアルコールで処理することを特徴とする、その製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラキノン組成物およびその製造法に関し、より詳しくは過酸化水素の製造法として工業的に最も広く採用されているアントラキノン法で媒体として好適に用いられるアントラキノン組成物およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−アルキルアントラキノンを媒体として用いて過酸化水素を製造するいわゆるアントラキノン法は、現在過酸化水素の製造方法として工業的に最も広く採用されている。
このアントラキノン法において2−アルキルアントラキノンは溶剤中、パラジウムや白金等の金属触媒の存在下に水素で還元され、次に酸素あるいは空気で酸化され過酸化水素を発生し、元の2−アルキルアントラキノンに再生される。この工程は連続的に循環して行われ、2−アルキルアントラキノンは繰り返し使用される。
このアントラキノン法において用いられる2−アルキルアントラキノンに要求される特性は、還元、酸化、加水分解に対する安定性が高いこと、有機溶剤に溶解度が高いこと、安価である事などであり、2−ペンチルアントラキノンが作動溶液に対する溶解度が大きい点から、最も好適に用いられている。
しかし、従来の2−ペンチルアントラキノンを使用して還元反応をおこなった場合、還元において使用されている金属触媒の活性速度の低下が速いという問題がある。
2−ペンチルアントラキノンは、通常、反応操作の容易さや製造コスト面の有利性等の理由で、例えば特許文献1に記載されているように、下記の反応式(1)〜(2)に示される公知のプロセスで製造されている。
【0003】

【0004】
反応式(1)で示される第1反応段階では、tert−ペンチルベンゼンと無水フタル酸とを塩化アルミニウムの存在下にフリーデルクラフツアシル化反応を行い、2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸を製造する。
反応式(2)で示される第2反応段階で、この2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸を発煙硫酸等の脱水剤を用いて環化反応を行い、2−ペンチルアントラキノンを得る。この際、得られる2−ペンチルアントラキノンには種々の副生物が混入する。例えば第1反応段階のフリーデルクラフツアシル化反応において生成する、ペンチル基の分解、異性化によると考えられる無置換のアントラキノンや炭素数が減少した2−アルキルアントラキノン類、及び溶媒として使用するハロゲン化炭化水素や塩化アルミニウムに由来すると考えられる塩素化化合物や、第2反応段階の環化反応工程で生成する、硫酸や発煙硫酸を使用することに起因すると考えられる硫黄化化合物などがある。
【0005】
これら副生物の多くは、アントラキノン法による過酸化水素の製造時に還元において使用されている金属触媒の活性を低下させる、いわゆる触媒毒となるため、2−ペンチルアントラキノンの製造においてできるだけ除くことが望ましい。これまで、副生物の混入の少ない2−アルキルアントラキノンを製造するためにさまざまな手段が提案されている。例えば特許文献2には、溶剤を用いて生成した2−アルキルアントラキノンを抽出分離するに当り、希釈反応液にアルカリを添加して含有硫酸の少なくとも5%を中和したのち、抽出処理を行うことを特徴とする2−アルキルアントラキノンの製造法が開示されている。しかしながらこの方法で得られる2−ペンチルアントラキノンは未だ純度が十分に高くなく、この2−ペンチルアントラキノンを用いてアントラキノン法による過酸化水素の製造を行った場合、還元において使用されている金属触媒の活性の低下が速い。
【0006】
【特許文献1】特開昭48−75558号公報
【特許文献2】特開昭62−93251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的はアントラキノン法による過酸化水素の製造において還元時に使用される金属触媒の活性の低下が少なく、過酸化水素を効率良く経済的に製造できる新規なアントラキノン組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成するべく鋭意研究を重ねた結果、2−ペンチルアントラキノンが主成分であり、特定の副成分の含有量が一定量以下であるアントラキノン組成物が、アントラキノン法による過酸化水素の製造において優れた特性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、
(1)2−ペンチルアントラキノンの含有量が97.5重量%以上、アントラキノンの含有量が1.0重量%以下、2−三級ブチルアントラキノンの含有量が0.8重量%以下、2−エチルアントラキノンの含有量が0.5重量%以下であることを特徴とするアントラキノン組成物。
(2)硫黄分の含有量が30ppm以下であり、かつ塩素分の含有量が250ppm以下である、(1)のアントラキノン組成物。
(3)2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸を発煙硫酸を用いて環化反応させ、環化反応液を水と有機溶剤との混合液中で処理し、得られた溶剤抽出液をアルカリ水溶液と40℃以上で加熱処理後、溶剤を除去し、溶剤除去残分をアルコールで処理することを特徴とする、(1)または(2)のアントラキノン組成物の製造方法。
(4)2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸が、tert−ペンチルベンゼンと無水フタル酸のフリーデルクラフツアシル化反応により製造されたものである(3)のアントラキノン組成物の製造方法
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アントラキノン法による過酸化水素の製造において還元、酸化、加水分解に対する安定性が高く、有機溶剤への溶解度が大きく、さらに水素化に使用される金属触媒の劣化速度を抑えた媒体として好適に用いられるアントラキノン組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(アントラキノン組成物)
本発明のアントラキノン組成物の主たる成分である2−ペンチルアントラキノンのペンチル基は、炭素数5の炭化水素基であれば特に制限されず、例としては、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、n-ペンチル基等が挙げられ、1,2−ジメチルプロピル基(以下、sec−ペンチル基とも呼ぶ)、1,1−ジメチルプロピル基(以下、tert−ペンチル基とも呼ぶ)が好ましい。
【0012】
本発明のアントラキノン組成物中、2−ペンチルアントラキノンは97.5重量%以上含有していることが必須であるが、98.2重量%以上が好ましく、98.7重量%以上がより好ましい。
本発明のアントラキノン組成物中、無置換のアントラキノンの含有量は1.0重量%以下であるが、好ましくは0.8重量%以下、より好ましくは0.6重量%以下である。
本発明のアントラキノン組成物中、2−三級ブチルアントラキノンの含有量は0.8重量%以下であるが、好ましくは0.6重量%以下、より好ましくは0.4重量%以下である。
本発明のアントラキノン組成物中、2−エチルアントラキノンの含有量は0.5重量%以下であるが、好ましくは0.2重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下である。
上記各成分の組成比が本発明の規定範囲外であるアントラキノン組成物をアントラキノン法による過酸化水素製造用の媒体として使用した場合、作動液中での溶解度が低下し、析出物が還元用金属触媒に接触して触媒反応速度を阻害する等の問題が起こる。
【0013】
さらに、本発明のアントラキノン組成物は、硫黄分の含有量が30ppm以下であり、かつ塩素分の含有量が250ppm以下である。硫黄分の含有量は好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。塩素分の含有量は好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下である。
硫黄分及び塩素分の含有量が上記規定値より多いアントラキノン組成物をアントラキノン法による過酸化水素製造用の媒体として使用した場合、還元用金属触媒の触媒作用に影響して還元速度が低下する等の問題が起こる。
なお、本発明における硫黄分とは、試料(g)を酸化燃焼させた後、電量滴定法により測定した試料中の硫黄分数値(μg)を意味する。測定機器としては例えば三菱化成(株)製TSX−10塩素・硫黄分析装置等が使用される。
又、塩素分とは、試料(g)を酸化燃焼させた後、電量滴定法により測定した試料中の塩素分数値(μg)を意味する。測定機器としては硫黄分の測定と同様に例えば三菱化成(株)製TSX−10塩素・硫黄分析装置等が使用される。
【0014】
(アントラキノン組成物の製造法)
次に、もうひとつの本発明であるアントラキノン組成物の製造方法について説明する。
本発明のアントラキノン組成物は、2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸を発煙硫酸を用いて環化反応させ、環化反応液を水と有機溶剤との混合液中で処理し、得られた溶剤抽出液をアルカリ水溶液と40℃以上で加熱処理後、溶剤を除去し、溶剤除去残分をアルコールで処理することにより製造できる。
2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸のペンチル基は、炭素数5の炭化水素基であれば特に制限されず、例としては、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、n-ペンチル基等が挙げられ、1,2−ジメチルプロピル基(以下、sec−ペンチル基とも呼ぶ)、1,1−ジメチルプロピル基(以下、tert−ペンチル基とも呼ぶ)が好ましい。
発煙硫酸としては濃度5〜15%、好ましくは5〜14%、より好ましくは6〜12%のものが好適に使用できる。
発煙硫酸の使用量は、2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸に対し1〜10倍重量、好ましくは1〜7倍重量、より好ましくは2〜5倍重量である。
環化反応の反応温度は60〜130℃、好ましくは70〜100℃、より好ましくは80〜95℃であり、反応時間は1〜10時間、好ましくは1〜8時間、より好ましくは1〜5時間である。環化反応終了後、反応物を室温まで冷却し、好ましくは氷を含む水中に注加する。これに有機溶剤を添加し、好ましくは加熱して目的物を抽出する。
【0015】
有機溶剤としてはトルエン、キシレン、ベンゼン等の非極性有機溶剤が好ましく、トルエンが最も好ましい。有機溶剤の使用量は2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸に対し2〜8倍容量、好ましくは5〜7倍容量である。溶剤抽出液を分取し、この溶剤抽出液に対してアルカリ水溶液での加熱処理を行う。
アルカリ水溶液に使用されるアルカリとしてはアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩が用いられ、具体的には水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等が用いられるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリが好ましく、水酸化ナトリウムが最も好ましい。
【0016】
アルカリの使用量は2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸に対し0.1〜0.8倍重量、好ましくは0.2〜0.6倍重量である。
アルカリ水溶液の濃度は特に制限はないが、0.5〜10重量%が好ましく、1〜5重量%がより好ましい。
アルカリ水溶液の使用量は特に制限されないが、溶剤抽出液に対して同容量以上使用することが好ましい。
アルカリ水溶液での加熱処理温度は40℃以上であるが、好ましくは40〜80℃、より好ましくは60〜75℃℃である。
アルカリ水溶液での加熱処理時間は20分以上、好ましくは30〜60分間、より好ましくは40〜50分間である。
溶剤抽出液のアルカリ水溶液と加熱処理が終了後、溶剤を好適には減圧下での蒸留により除去し、溶剤除去残分に対しアルコール処理を行う。
【0017】
アルコールとしてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アミルアルコール等の脂肪族アルコールが用いられるが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコールが好ましく、メタノールが最も好ましい。
アルコール処理に使用するアルコールの量は、溶剤濃縮残分に対して1〜20倍重量、好ましくは2〜10倍重量、より好ましくは2〜5倍重量である。
アルコール処理の温度は室温〜アルコールの還流温度が好ましく、40℃〜アルコールの還流温度がより好ましい。
アルコール処理の時間は10分〜5時間、好ましくは20分〜2時間、より好ましくは30分〜1時間であり、その間撹拌することが好ましい。
【0018】
溶剤抽出液のアルカリ水溶液との加熱処理操作及び溶剤除去残分のアルコール処理操作はそれぞれ1回行えば本発明のアントラキノン組成物を得ることができるが、複数回行うことにより、より効果を高めることができる。
アルコール処理終了後、得られたアルコール処理液を35〜45℃までゆっくりと冷却し、濾過により不溶解成分を除去する。次いで、アルコール処理液を20〜10℃に冷却し、同温で1時間以上、好ましくは2時間撹拌するとアントラキノン組成物が析出する。これを取り出し、室温付近で乾燥することにより本発明のアントラキノン組成物を得ることができる。
【0019】
(原料安息香酸の製法)
なお、本発明のアントラキノン組成物の原料となる2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸は、通常特開昭53−127445号公報等に記載されている公知の製法に従い、tert−ペンチルベンゼンと無水フタル酸のフリーデルクラフツアシル化反応により製造される。例えば、無水フタル酸1モルとtert−ペンチルベンゼン1.0〜1.2モルを、触媒として塩化アルミニウムを無水フタル酸1モルに対し2.0〜2.3モル量使用し、クロロベンゼン等の溶媒中10〜40℃で7〜15時間反応させる製造法が例示できる。
このような製法で得られた2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸を環化反応させて製造された生成物は、主成分である2-ペンチルアントラキノン以外に、前述したようにペンチル基の分解、異性化によると考えられる無置換のアントラキノンや炭素数が減少した2−アルキルアントラキノン類、及び溶媒として使用するハロゲン化炭化水素や塩化アルミニウムに由来すると考えられるクロロアントラキノン等の塩素化化合物や、第2反応段階の環化反応工程で生成する、硫酸や発煙硫酸を使用することに起因すると考えられるスルホン化されたアントラキノン化合物等の硫黄化化合物などが混入している。2−アルキルアントラキノン類としては2−エチルアントラキノンと2−三級ブチルアントラキノンを主として生成する。
これらの副生物はアントラキノン法による過酸化水素の製造時に還元において使用されている金属触媒の活性を低下させる、いわゆる触媒毒となるが、従来は効率良く除くことが困難であった。本発明の製造方法により、アントラキノン法による過酸化水素の製造に好適なアントラキノン組成物を製造できる。
なお、本発明のアントラキノン組成物中の主成分である2-ペンチルアントラキノンは、前述したようにペンチル基の異性化によりsec−ペンチル基とtert−ペンチル基の異性体混合物として存在している。通常はtert−ペンチル基の含有量が多い方が、溶解性の点から好ましい。
本発明のアントラキノン組成物を媒体に用いたアントラキノン法による過酸化水素製造方法としては、従来公知のあらゆる技術を用いることができ、特に限定されないが、例えばVCH,“ULLMANN’S ENCYCLOPEDIA OF INDUSTRIAL CHEMISTRY”VolA13、pp.447-456に詳細に記載されている。
【実施例】
【0020】
以下に本発明を実施例、比較例によりさらに具体的に説明する。なお、アントラキノン組成物の特性は、下記の方法で測定及び評価した。
(1)2−ペンチルアントラキノン、アントラキノン、2−エチルアントラキノン及び2−三級ブチルアントラキノン含有量:
試料を、ガスクロマトグラフ測定器(島津製作所製GC−14A)を用いて測定した各成分のピーク面積を算出し、百分率法によりそれぞれの含有量を算出した。
(2)2−ペンチルアントラキノン中の2−sec−ペンチルアントラキノンと2−tert−ペンチルアントラキノンの異性体比:
液体クロマトグラフ(島津製作所製LC−9A)を用いて測定した2−sec−ペンチルアントラキノンと2−tert−ペンチルアントラキノンのピーク面積を算出し、百分率法により異性体比を求めた。
(3)アントラキノン組成物中の硫黄分・塩素分含有量:
塩素・硫黄分析装置(三菱化成(株)製TSX−10)を使用して試料を酸化燃焼させた後、電量滴定法により試料中の硫黄分、塩素分の量を測定した。
(4)アントラキノン組成物の過酸化水素製造用媒体としての性能:
下記の方法に従って、アントラキノン組成物を媒体として過酸化水素を製造した際の還元用パラジウム触媒の劣化速度試験を行い、アントラキノン組成物の性能を評価した。
ジイソブチルカルビノール50mLと1,2,4−トリメチルベンゼン50mLの混合溶液に、アントラキノン組成物13.9gとアルミナ担体の1%パラジウム触媒(100〜200メッシュ)0.1gを加えて、90℃で10時間撹拌した。
この処理液を使用して、下記の方法により水素の吸収速度を測定した。
処理液の入った容器を湯浴により50℃に保った。これに、水素消費量が測定でき、かつ水素圧を常に1気圧に保持できる水素貯めを連結し、処理液を1気圧の水素でパージした。処理液を1,000rpmの速度で撹拌し、撹拌開始から、25℃に保たれた水素貯めにおいて476mLの水素(使用したアントラキノン組成物の0.5倍モル量×85%)が吸収される時間を測定した。水素化吸収時間が短いほど、パラジウム触媒の劣化速度が低いことを表す。
【0021】
なお、本発明は以下の実施例、比較例により限定されるものではない。
[実施例1]
アントラキノン組成物(1)の合成
温度計、撹拌機、ガス導入管を装着した300mL四つ口フラスコに窒素ガスを導入下、クロロベンゼン150mL、無水フタル酸40g、第三級アミルベンゼン42.6gを仕込み、冷却しながら20℃以下で無水塩化アルミ77.5gを4時間で分割添加した。20℃以下で30分撹拌後、30分を要して40℃に昇温した。さらに7時間同温で撹拌した後、氷水400gに濃硫酸50gを加えたものに縮合反応物を排出した。
排出液を70℃に昇温後水層を除去し、湯で洗浄後、有機層を濃縮乾固した。更に減圧下150℃で2時間加熱溶融した後、冷却固化した。60℃で乾燥後粉砕して、2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸を80g得た。この2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸中のペンチル基における異性体比をHPLCにて測定した結果を以下に示す。
tert−ペンチル体 : sec−ペンチル体 = 76 : 24
温度計、撹拌機を装着した300mL四つ口フラスコに10%発煙硫酸280gを仕込み、冷却下30℃以下で、上記で得た2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸70gを10分間で分割添加した。さらに同温で50分撹拌した後、10分間を要して95℃に昇温した。同温で2時間30分反応後10分間を要して室温まで冷却した。次に、氷水400gに前記反応物を注加後70℃に昇温し、トルエン200mLで”抽出した後硫酸層を除去した。
(i)アルカリ水溶液との加熱処理
トルエン抽出液に5%苛性ソーダ水溶液400mLを添加し、65℃に昇温して45分間撹拌した。苛性ソーダ水溶液を除去し、トルエン抽出液を湯で洗浄して中性とした後、減圧下にトルエンを除去した。
(ii)アルコール処理
トルエン除去残分にメタノール180mLを添加し、還流温度で30分間撹拌した。40℃までゆっくりと冷却し、メタノール抽出液を濾過して不溶解成分を除去した。20℃に冷却し、同温で2時間撹拌後析出物を取り出してアントラキノン組成物(1)を49.6g(75.4%)得た。得られたアントラキノン組成物(1)を前記した方法により分析した結果を表1に示す。
過酸化水素製造用媒体としての性能試験
このようにして得られたアントラキノン組成物(1)について、前記方法に従って、アントラキノン組成物(1)を媒体として過酸化水素を製造した際の還元用パラジウム触媒の劣化速度試験を行い、過酸化水素製造用媒体としての性能の指標とした。
【0022】
[実施例2]
実施例1の2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸の環化反応において発煙硫酸の濃度を7%に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、アントラキノン組成物(2)52.3g(79.7%)得た。分析結果及び過酸化水素製造用媒体としての性能試験結果を表1にそれぞれ示す。
【0023】
[実施例3]
実施例1の2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸の製造操作において、窒素ガスを導入しなかったこと以外は実施例1と同様にして、2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸を75g得た。この2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸中のペンチル基における異性体比をHPLCにて測定した結果を以下に示す。
tert−ペンチル体 : sec−ペンチル体 = 47 : 53
次に、実施例1の2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸の環化反応において、2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸を上記で合成した2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、アントラキノン組成物(3)を51.5g(78.4%)得た。得られたアントラキノン組成物の分析結果及び過酸化水素製造用媒体としての性能試験結果を表1にそれぞれ示す
【0024】
[比較例1]
実施例1において(i)のアルカリ処理を行わなかったこと以外は、前記実施例1と同様の操作を行ってアントラキノン組成物(A)を52.9g(80.6%)得た。分析結果及び過酸化水素製造用媒体としての性能試験結果を表1にそれぞれ示す。
【0025】
[比較例2]
実施例1において(ii)のアルコール処理操作を行わなかったこと以外は、前記実施例1と同様の操作を行ってアントラキノン組成物(B)を53.1g(80.8%)得た。分析結果及び過酸化水素製造用媒体としての性能試験結果を表1にそれぞれ示す。
【0026】
[比較例3]
実施例1において(i)のアルカリ処理及び(ii)のアルコール処理操作を行わないことに変更した以外は、前記実施例1と同様の操作を行ってアントラキノン組成物(C)を53.4g(81.4%)得た。分析結果及び過酸化水素製造用媒体としての性能試験結果を表1にそれぞれ示す。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、アントラキノン法による過酸化水素の製造において還元、酸化、加水分解に対する安定性が高く、有機溶剤への溶解度が大きく、さらに水素化に使用される金属触媒の劣化速度を抑えた媒体として好適に用いられるアントラキノン組成物、及びその製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ペンチルアントラキノンの含有量が97.5重量%以上、アントラキノンの含有量が1.0重量%以下、2−三級ブチルアントラキノンの含有量が0.8重量%以下、2−エチルアントラキノンの含有量が0.5重量%以下であることを特徴とするアントラキノン組成物。
【請求項2】
硫黄分の含有量が30ppm以下であり、かつ塩素分の含有量が250ppm以下である請求項1に記載のアントラキノン組成物。
【請求項3】
2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸を発煙硫酸を用いて環化反応させ、環化反応液を水と有機溶剤との混合液中で処理し、得られた溶剤抽出液をアルカリ水溶液と40℃以上で加熱処理後、溶剤を除去し、溶剤除去残分をアルコールで処理することを特徴とする、請求項1または2記載のアントラキノン組成物の製造方法。
【請求項4】
2−(4−ペンチルベンゾイル)安息香酸が、tert−ペンチルベンゼンと無水フタル酸のフリーデルクラフツアシル化反応により製造されたものである、請求項3記載のアントラキノン組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−105942(P2010−105942A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278182(P2008−278182)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000179904)山本化成株式会社 (70)
【Fターム(参考)】