説明

アーク溶接制御方法

【課題】アーク期間Taが長くなり過ぎて溶滴の過熱及び巨大化が進行し、スパッタが多く発生するのを抑制する。
【解決手段】溶接ワイヤを送給すると共に、アーク期間Taと短絡期間Tsとを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、アーク期間Taが予め定めた基準期間未満である第1アーク期間Ta1中は溶接ワイヤを予め定めた第1前進送給速度Ffs1で前進送給し、アーク期間Taが前記基準期間以上である第2アーク期間Ta2中は溶接ワイヤを予め定めた第2前進送給速度Ffs2で前進送給し、前記第2前進送給速度Ffs2を前記第1前進送給速度Ffs1よりも大きな値に設定する。このように前進送給速度を加速することにより短絡を速やかに発生させ、アーク期間Taが長くなるのを抑制している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤを送給すると共に、アーク期間と短絡期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク期間と短絡期間とを繰り返すアーク溶接方法としては、炭酸ガスアーク溶接方法、マグ溶接方法、ミグ溶接方法等がある。また、溶滴移行形態としては、短絡移行形態、短絡を伴うブロビュール移行形態、短絡を伴うスプレー移行形態等がある。これらの溶接方法では、溶接ワイヤは一定の送給速度で前進送給されると共に、アーク期間と短絡期間とを繰り返して溶接が行われる。また、アーク期間中は溶接ワイヤを前進送給し、短絡期間中は溶接ワイヤを後退送給して溶接を行う方法(例えば、特許文献1参照)もある。以下、短絡期間中に溶接ワイヤを後退送給するこの従来技術について説明する。
【0003】
図4は、従来技術のアーク溶接制御方法を示す出力波形図である。同図(A)は溶接電圧Vwを示し、同図(B)は溶接電流Iwを示し、同図(C)は送給速度設定信号Frを示し、同図(D)は溶接ワイヤ先端の実際の送給速度Fsを示す。送給速度設定信号Fr及び送給速度Fsは、正の値のときは前進送給を示し、負の値のときは後退送給を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0004】
同図において、時刻t1〜t2の期間が第n−1回目のアーク期間Ta(n-1)であり、時刻t2〜t3の期間が第n−1回目の短絡期間Ts(n-1)であり、時刻t3〜t4の期間が第n回目のアーク期間Ta(n)であり、時刻t4〜t5の期間が第n回目の短絡期間Ts(n)である。ここで、基準期間Ttを予め定めた値とすると、Ta(n-1)<Ttの場合であり、Ta(n)>Ttの場合である。アーク期間が基準期間Tt未満である期間を第1アーク期間Ta1と呼び、基準期間Tt以上の期間を第2アーク期間Ta2と呼ぶことにする。このようにすると、時刻t1〜t2の第n−1回目のアーク期間Ta(n-1)は第1アーク期間Ta1中に短絡が発生したことになる。そして、時刻t3〜t4の第n回目のアーク期間Ta(n)は、時刻t3〜t32の第1アーク期間Ta1と、時刻t32〜t4の第2アーク期間Ta2とから形成されている。
【0005】
時刻t1〜t2のアーク期間Ta(n-1)中は、同図(C)に示すように、送給速度設定信号Frの値は予め定めた正の値の第1前進送給速度設定値Ffr1となり、同図(D)に示すように、送給速度Fsは第1前進送給速度Ffs1となる。同図(A)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値となる。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、溶接電源が定電圧制御されているので、第1前進送給速度Ffs1とアーク負荷とによって定まる電流値となる。したがって、この溶接電流Iwはアーク負荷の変動に伴い変動する波形となる。このアーク期間Ta(n-1)中において、溶接ワイヤの先端が溶融して溶滴が形成される。
【0006】
時刻t2において溶接ワイヤ先端に形成された溶滴が溶融池と接触すると、短絡状態となる。短絡状態になると、同図(A)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に減少する。この溶接電圧Vwがしきい値未満になったことを判別して短絡の発生を判別する。このしきい値は、10〜15V程度に設定される。短絡の発生を判別すると、溶接電源は定電流制御に切り換えられ、同図(B)に示すように、短絡電流Isは、時刻t2〜t21の予め定めた短絡初期期間Tsi中は予め定めた小電流値に維持され、時刻t21〜t23の予め定めた短絡電流増加期間Tsu中は曲線状に増加し、時刻t23からアークが発生する時刻t3までの短絡電流減少期間Tsd中は傾斜を有して減少する。同時に時刻t2において、同図(C)に示すように、送給速度設定信号Frは、予め定めた負の値の後退送給速度設定値Frrに切り換えられる。これに応動して、同図(D)に示すように、送給速度Fsは、時刻t2〜t22の期間中に、正の値の第1前進送給速度Ffs1から0を通って負の値の後退送給速度Frsへと変化する。すなわち、溶接ワイヤ先端の送給速度Fsは、時刻t2において短絡が発生すると第1前進送給速度Ffs1から減速して0となり、送給方向を反転させて加速し時刻t22において後退送給速度Frsに達する。したがって、この時刻t2〜t22の期間を送給反転期間と呼ぶことにする。この送給反転期間は、送給モータに応答性の良いサーボモータ等を使用し、溶接トーチの長さを数十cm程度に短くし、送給経路の摩擦を少なくすると、2ms程度となる。同図では、送給速度Fsが後退送給速度Frsになる時刻t22が、上記の短絡電流増加期間Tsu中となる場合である。時刻t22以降は、後退送給速度Frsによる後退送給が継続される。これにより、溶接ワイヤ先端が溶融池から離れる方向に次第に移動する。そして、時刻t3において溶融池との接触状態が解消されると、アークが再発生する。上記の短絡初期期間Tsiは、溶接条件に応じて実験によって0.5〜2ms程度に設定される。上記の短絡電流増加期間Tsuは、溶接条件に応じて実験によって2〜6ms程度に設定される。短絡初期期間Tsi中の短絡電流値Isは数十A程度に設定される。短絡電流増加期間Tsu中の短絡電流Isの最大値は溶接電流平均値に近い値に設定される。短絡初期期間Tsiは、溶滴と溶融池との接触を安定した短絡状態へと導くために設けている。短絡電流Isを増加させているのは、一般的な消耗電極アーク溶接のように溶滴に電磁的ピンチ力を作用させてくびれを形成して離脱を促進するためではなく、短絡期間Ts中にもジュール熱による加熱を確保するためである。したがって、短絡電流Isの最大値は、一般的な消耗電極アーク溶接では400〜500A程度であるが、同図では150〜250A程度である。後退送給によってアークが再発生するので、各短絡期間は略一定値となる。したがって、Tsi+Tsuの加算地が短絡期間の時間長さよりも1ms程度短くなるように両値を設定する。これは、短絡電流減少期間Tsdを1ms程度確保して、時刻t3のアーク再発生時点までに短絡電流Isが小さな値まで減少できるようにするためである。短絡電流減少期間Tsd中の短絡電流Isの減少速度は、短絡負荷の抵抗値、溶接電源からの通電路のインダクタンス値及び抵抗値によって決まる。この減少速度は、150A/ms程度である。したがって、時刻t23のときの短絡電流Isの最大値を200Aとし、短絡電流減少期間Tsdを上述したように1msとすると、時刻t3時点での電流値は50Aと小さな値となる。アーク再発生時の電流値が小さな値になると、スパッタの発生が削減される。例えば、数値例を挙げると、Tsi=1ms、Tsu=3ms及びTsd=1msとなり、この場合には短絡期間Ts=5msとなる。
【0007】
時刻t3において、アークが再発生すると、同図(A)に示すように、溶接電圧Vwは数十V程度のアーク電圧値に増加する。溶接電圧Vwがしきい値以上になったことを判別してアークの再発生を判別すると、同図(C)に示すように、送給速度設定信号Frは上記の第1前進送給速度設定値Ffr1に切り換えられる。これに応動して、同図(D)に示すように、送給速度Fsは、時刻t3〜t31の送給反転期間中に上記の後退送給速度Frsから上記の第1前進送給速度Ffs1へと変化する。また、時刻t3において、溶接電源は定電圧制御に切り換えられるので、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは第1前進送給速度Ffs1とアーク負荷とによって定まる電流値へと増加する。そして、時刻t32において、アーク期間が基準期間Ttに達すると、溶接電源は定電流制御に切り換えられて、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは予め定めた小電流値の低アーク電流値Iaに減少する。その後、しばらくの間、この第2アーク期間Ta2が続いた後に、時刻t4において、短絡が発生する。基準期間Ttは、10〜30ms程度の範囲に設定される。低アーク電流値Iaは、数十A程度に設定される。
【0008】
第n回目の 短絡期間Ts(n)についても、上記と同様である。同ずに示す送給制御方法では、時刻t3のアーク再発生時の電流値が小さな値であるので、スパッタ発生量は削減される。また、短絡期間中に後退送給を行うことによって確実にアークを再発生させることができるので、溶接状態の安定性が向上する。アーク期間が基準期間Ttに達したときは溶接電流Iwを減少させて小電流値に維持する理由は、以下のとおりである。すなわち、アーク期間の分布はほとんど一定の範囲に集中する。しかし、ときたま、溶融池の不規則な運動、陰極点形成位置の移動に伴うアーク長の変動等の外乱によってアーク期間が長くなる状態が生じる。アーク期間が通常時よりも長くなると、溶滴の大きさが大きくなると共に、溶滴が過熱されることになる。この結果、溶滴内部のガスが過熱によって膨張して溶滴が破裂する現象が生じることになり、破裂に伴い多くのスパッタが飛散することになる。さらには、大きな溶滴が短絡すると、その瞬間に溶融池から多くのスパッタが飛散することになる。これらを防止するために、アーク期間が基準期間Tt以上になると溶接電流Iwを小電流値にすることで、アーク力を弱くして、短絡が早期に発生するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−216268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来技術では、外乱によってアーク期間が基準期間よりも長くなると、溶接電流値を減少させて小電流値に維持するようにしている。溶接電流が小電流値になると、アーク力が弱くなるために、溶融池の窪みが小さくなり、溶滴を上側に持ち上げている力も弱くなり、短絡が早期に生じるようになる。この結果、溶滴の過熱及び巨大化を防止して、スパッタの発生を抑制することができる。
【0011】
しかし、溶接電流を減少させても、それから5ms程度以下の時間で短絡が生じることは稀である。溶融池の窪み及び溶滴の持ち上がりが小さくなるのには、溶接電流値にもよるが7〜10ms程度以上は必要であるために、短絡もそれ以上の時間が経過した後でなければ発生しないことが多い。もちろん、溶接電流を減少させた方が短絡は早期に生じるが、その効果は限定的であった。溶滴の過熱及び巨大化をより確実に防止するためには、基準期間経過後にできるだけ速やかに短絡が発生することが望ましい。さらには、溶接電流を小電流値に維持する期間が長く続くと、ビード外観が悪くなる問題も新たに生じることになる。
【0012】
そこで、本発明では、アーク期間が基準期間以上になったときは速やかに短絡を発生させることができるアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接ワイヤを送給すると共に、アーク期間と短絡期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記アーク期間が予め定めた基準期間未満である第1アーク期間中は溶接ワイヤを予め定めた第1前進送給速度で前進送給し、
前記アーク期間が前記基準期間以上である第2アーク期間中は溶接ワイヤを予め定めた第2前進送給速度で前進送給し、
前記第2前進送給速度を前記第1前進送給速度よりも大きな値に設定する、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法である。
【0014】
請求項2の発明は、前記第2前進送給速度は、時間経過に伴って大きくなるように変化する、
ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接制御方法である。
【0015】
請求項3の発明は、前記第2アーク期間中の溶接電流値を、前記第1アーク期間中の溶接電流値よりも小さな値に減少させる、
ことを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載するアーク溶接制御方法である。
【0016】
請求項4の発明は、前記短絡期間中は、溶接ワイヤを後退送給する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載するアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アーク期間が予め定めた基準期間未満である第1アーク期間中は溶接ワイヤを予め定めた第1前進送給速度で前進送給し、アーク期間が前記基準期間以上である第2アーク期間中は溶接ワイヤを予め定めた第2前進送給速度で前進送給し、第2前進送給速度を第1前進送給速度よりも大きな値に設定する。これにより、アーク期間が基準期間よりも長くなると、前進送給の速度が加速されて早期に短絡状態へと導くことができる。この結果、溶滴の過熱及び巨大化を従来技術よりもより確実に防止することができるので、溶接品質がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す出力波形図である。
【図2】第2前進送給速度Ffs2の時間経過に伴う変化パターンを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【図4】従来技術のアーク溶接制御方法を示す出力波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
[実施の形態1]
実施の形態1に係る発明は、アーク期間Taが予め定めた基準期間Tt未満である第1アーク期間Ta1中は溶接ワイヤを予め定めた第1前進送給速度Ffs1で前進送給し、基準期間Tt以上である第2アーク期間Ta2中は溶接ワイヤを予め定めた第2前進送給速度Ffs2で前進送給し、第2前進送給速度Ffs2を第1前進送給速度Ffs1よりも大きな値に設定するものである。すなわち、アーク期間Taが基準期間Tt以上になると溶接ワイヤの前進送給速度を速くして、迅速に短絡へと導くものである。以下、この実施の形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す出力波形図である。同図(A)は溶接電圧Vwを示し、同図(B)は溶接電流Iwを示し、同図(C)は送給速度設定信号Frを示し、同図(D)は溶接ワイヤ先端の実際の送給速度Fsを示す。同図において、上述した図4と同一動作の期間(時刻t1〜t32及び時刻t4〜t5の期間)についての説明は省略する。同図では、時刻t32〜t4の期間の動作が図4と異なっている。以下、この期間について同図を参照して説明する。
【0022】
同図において、時刻t1〜t2の期間が第n−1回目のアーク期間Ta(n-1)であり、時刻t2〜t3の期間が第n−1回目の短絡期間Ts(n-1)であり、時刻t3〜t4の期間が第n回目のアーク期間Ta(n)であり、時刻t4〜t5の期間が第n回目の短絡期間Ts(n)である。Ta(n-1)<Ttの場合であり、Ta(n)>Ttの場合である。時刻t1〜t2の第n−1回目のアーク期間Ta(n-1)は第1アーク期間Ta1中に短絡が発生したことになる。そして、時刻t3〜t4の第n回目のアーク期間Ta(n)は、時刻t3〜t32の第1アーク期間Ta1と、時刻t32〜t4の第2アーク期間Ta2とから形成されている。但し、時刻t32〜t4の第2アーク期間Ta2の時間長さは、図4の場合に比べて半分以下の短い期間となっている。この理由については、後述する。
【0023】
時刻t3において、アークが再発生すると、同図(A)に示すように、溶接電圧Vwは数十V程度のアーク電圧値に増加する。溶接電圧Vwがしきい値以上になったことを判別してアークの再発生を判別すると、同図(C)に示すように、送給速度設定信号Frは予め定めた第1前進送給速度設定値Ffr1に切り換えられる。これに応動して、同図(D)に示すように、送給速度Fsは、時刻t3〜t31の送給反転期間中に上記の後退送給速度Frsから上記の第1前進送給速度Ffs1へと変化する。また、時刻t3において、溶接電源は定電圧制御に切り換えられるので、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは第1前進送給速度Ffs1とアーク負荷とによって定まる電流値へと増加する。
【0024】
そして、時刻t32において、アーク期間が予め定めた基準期間Ttに達すると、溶接電源は定電流制御に切り換えられて、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは予め定めた小電流値の低アーク電流値Iaに減少する。同時に、時刻t32において、同図(C)に示すように、送給速度設定信号Frは予め定めた第2前進送給速度設定値Ffr2に切り換えられ、同図(D)に示すように、送給速度Fsは第2前進送給速度Ffs2へと加速する。ここで、Ffr2>Ffr1であるので、Ffs2>Ffs1である。すなわち、前進送給速度は時刻t32において加速されて速くなるように制御される。この前進送給速度の加速によって、溶滴が溶融池と速やかに短絡することになる。この結果、時刻t32から 短時間後の時刻t4において短絡が発生する。前進送給速度の加速が開始されてから短絡が発生するまでの時間は、2〜5ms程度未満である。上記の低アーク電流値Iaは、30〜100A程度に設定される。この低アーク電流値Iaは、実験によって溶接条件(溶接法、溶接電流平均値、溶接ワイヤの材質、直径等)に応じて適正値になるように設定される。
【0025】
この前進送給速度加速制御においては、基準期間Tt及び第2前進送給速度Ffs2をどのように設定するかは重要である。以下、これらのパラメータの設定方法について説明する。
【0026】
(1)基準期間Ttの設定方法
実験によってアーク期間の分布を測定し、基準期間Tt以上となるアーク期間の比率が5〜10%になるように基準期間Ttを設定する。すなわち、ほとんどのアーク期間は基準期間Tt未満となる。これは、ときたま外乱によってアーク期間が長くなることがあり、この長くなったアーク期間を基準期間Ttによって判別しているためである。基準期間Ttは、溶接法、溶接電流平均値、溶接ワイヤの材質、直径等の溶接条件に応じて適正値に設定される。溶接法としては、炭酸ガスアーク溶接法、マグ溶接法、ミグ溶接法等がある。溶接電流平均値は、第1前進送給速度Ffs1によってほぼ定まる。また、基準期間Ttの別の設定方法としては、基準期間Ttを設定せずに、電流の減少及び送給速度の加速を行わないようにして溶接を行ない、そのときのアーク期間の平均値を算出する。そして、基準期間Ttを、この平均値の1.5〜2.0倍に設定するようにしても良い。
【0027】
(2)第2前進送給速度Ffs2の設定方法
一定の前進送給速度で溶接ワイヤを送給して溶接を行う一般的なアーク溶接においては、母材の板厚、継手形状、溶接速度等に応じて送給速度は決定される。そして、この送給速度によって溶接電流の平均値が決まることになる。本実施の形態においても、第1前進送給速度Ffs1は、上述した一般的な溶接の場合と同様に、母材の板厚、継手形状、溶接速度等に応じて適正なビードが形成されるように設定される。そして、この第1前進送給速度Ffs1によって溶接電流の平均値がほぼ決まることになる。ほぼ決まるとしているのは、本実施の形態では、短絡期間中は溶接ワイヤが後退送給されるために、短絡回数の影響を受けて溶接電流の平均値が変化するからである。但し、安定した溶接状態においては、単位時間当たりの短絡回数はほぼ一定値と見なすことができるので、この場合には、第1前進送給速度Ffs1によって溶接電流の平均値が決まることになる。第2前進送給速度Ffs2は、この第1前進送給速度Ffs1の1.5〜2.0倍に設定される。上記の溶接条件に応じて第1前進送給速度Ffs1が変化すると、それに伴い、第2前進送給速度Ffs2も変化させれば良い。同図においては、第2前進送給速度Ffs2は、基準期間Ttにおいて第1前進送給速度Ffs1から階段状に変化しており、基準期間Tt経過後は一定値となっている。第2前進送給速度Ffs2を、基準期間Tt経過後の時間経過に伴い階段状、直線状、曲線状等に大きくなるようにしても良い。図2は、第2前進送給速度Ffs2の時間経過に伴う変化パターンを示す図である。同図の横軸は基準期間Tt経過後の時間経過t(ms)を示し、縦軸は第2前進送給速度Ffs2(m/min)を示す。したがって、同図において、t=0のときとは、アーク期間が基準期間Ttに達した時点である。同図において、実践で示すパターンP1は、第2前進送給速度Ffs2が時間経過によらず一定値である場合である。すなわち、パターンP1は、図1の場合である。次に、破線で示すパターンP2は、第2前進送給速度Ffs2が時間経過に伴い右肩上がりの直線状に予め定めたピーク値まで大きくなる場合である。さらに、一点鎖線で示すパターンP3は、第2前進送給速度Ffs2が階段状に大きくなる場合である。この場合は、アーク期間が基準期間Ttになると送給速度が第2前進送給速度Ffs2に加速され、それから所定期間が経過すると、さらに予め定めた速度だけ加速されることになる。パターンP2及びP3のように、第2前進送給速度Ffs2を時間経過に伴って大きくする理由は、短絡が発生したときの前進送給速度をあまり大きくしたくないためである。すなわち、短絡が発生したときの前進送給速度が大きいと、溶接ワイヤ先端が溶融池に押し込まれ過ぎて短絡状態が不安定になるおそれがあるからである。しかし、基準期間Ttにおいて前進送給速度を加速してから短絡が発生するまでの時間が長い場合には、さらに加速して短絡を早期に発生させる方がより重要になるからである。
【0028】
図3は、上述した本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各回路について説明する。
【0029】
電源主回路PMは、3相200V等の商用交流電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御によって出力制御を行い、溶接に適した溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用交流電源を整流する1次整流回路、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を上記の駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路、整流された直流を平滑するリアクトルから構成される。溶接ワイヤ1は、送給モータWMに直結した送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給され、母材2との間にアーク3が発生する。
【0030】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、この電圧検出信号Vdを入力として、その値によって短絡期間とアーク期間とを判別し、短絡期間中はHighレベルとなり、アーク期間中はLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。第2アーク期間判別回路ADは、この短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から予め定めた基準期間Ttが経過した時点でHighレベルになり、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点でLowレベルになる第2アーク期間信号Adを出力する。すなわち、第2アーク期間信号Adは、第2アーク期間中Highレベルになる信号である。
【0031】
第1前進送給速度設定回路FFR1は、予め定めた第1前進送給速度設定信号Ffr1を出力する。第2前進送給速度設定回路FFR2は、上記の第2アーク期間信号Adを入力として、第2アーク期間信号AdがHighレベルになった時点からの経過時間を測定し、図2で例示したように予め定めた変化パターンから経過時間に対応した第2前進送給速度設定信号Ffr2を出力する。後退送給速度設定回路FRRは、予め定めた後退送給速度設定信号Frrを出力する。前進送給速度切換回路SFFは、上記の第2アーク期間信号Ad、上記の第1前進送給速度設定信号Ffr1及び上記の第2前進送給速度設定信号Ffr2を入力として、第2アーク期間信号AdがLowレベルのときはb側に切り換わり第1前進送給速度設定信号Ffr1を前進送給速度設定信号Ffrとして出力し、Highレベルのときはa側に切り換わり第2前進送給速度設定信号Ffr2を前進送給速度設定信号Ffrとして出力する。送給速度設定切換回路SFは、上記の短絡判別信号Sd、上記の前進送給速度設定信号Ffr及び上記の後退送給速度設定信号Frrを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときはb側に切り換わり前進送給速度設定信号Ffrを送給速度設定信号Frとして出力し、Highレベル(短絡期間)のときはa側に切り換わり後退送給速度設定信号Frrを送給速度設定信号Frとして出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frに従って溶接ワイヤを送給するための送給制御信号Fcを送給モータWMへ出力する。したがって、上述した図1に示すように、時刻t3〜t32の第1アーク期間中は、送給速度設定信号Frの値は第1前進送給速度設定信号Ffr1の値となり、送給速度Fsは第1前進送給速度Ffs1となる。時刻t32〜t4の第2アーク期間中は、送給速度設定信号Frの値は第2前進送給速度設定信号Ffr2の値となり、送給速度Fsは第2前進送給速度Ffs2となる。そして、時刻t4〜t5の短絡期間中は、送給速度設定信号Frの値は後退送給速度設定信号Frrの値となり、送給速度Fsは後退送給速度Frsとなる。
【0032】
短絡電流設定回路ISRは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になった時点から予め定めた短絡初期期間Tsi中は小電流値となり、続く予め定めた短絡電流増加期間Tsu中は曲線状に増加し、短絡電流増加期間Tsu経過後は減少するパターンの短絡電流設定信号Isrを出力する。低アーク電流設定回路IARは、予め定めた低アーク電流設定信号Iarを出力する。アーク電圧設定回路VARは、アーク期間中のアーク電圧を設定するための予め定めたアーク電圧設定信号Varを出力する。電流設定切換回路SIは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときはb側に切り換わり低アーク電流設定信号Iarを電流設定信号Irとして出力し、Highレベル(短絡期間)のときはa側に切り換わり短絡電流設定信号Isrを電流設定信号Irとして出力する。電流誤差増幅回路EIは、この電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記のアーク電圧設定信号Varと上記の電圧検出信号Vdとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。論理和回路ORは、上記の短絡判別信号Sdと上記の第2アーク期間信号Adとの論理和演算を行い、論理和信号Orを出力する。この論理和信号Orは、短絡期間及び第2アーク期間中はHighレベルになり、第1アーク期間中はLowレベルになる信号である。外部特性切換回路SPは、この論理和信号Or、上記の電流誤差増幅信号Ei及び上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、論理和信号OrがLowレベル(第1アーク期間)のときはb側に切り換わり電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力し、Highレベル(短絡期間及び第2アーク期間)のときはa側に切り換わり、上記の電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。したがって、第1アーク期間中は定電圧制御となり、短絡期間及び第2アーク期間中は定電流制御となる。駆動回路DVは、上記の誤差増幅信号Eaに従ってパルス幅変調制御を行い、インバータ回路を駆動する駆動信号Dvを出力する。
【0033】
本実施の形態においては、第2アーク期間になると溶接電流を小電流値に減少させる場合を説明したが、この電流の減少を行わないようにしても良い。これは、第2アーク期間に入ると前進送給速度を加速する制御によって短絡を迅速に導くことができるので、溶接電流平均値が200A程度以下の場合には電流の減少を行う必要がないためである。本実施の形態においては、短絡期間中は溶接ワイヤを後退送給する場合を説明したが、一般的なアーク溶接のように、短絡期間中も第1前進送給速度で前進送給するようにしても良い。この場合には、短絡電流Isは、予め定めた短絡初期期間Tsi中は予め定めた小電流値に減少させて維持し、それ以降は曲線状に増加させて予め定めたピーク値にアークが再発生するまで維持する。すなわち、短絡電流減少期間Tsdを設けないようにしている。本実施の形態においては、第2アーク期間中の低アーク電流値を定電流制御によって通電する場合を説明したが、アーク電圧設定値Varを第2アーク期間中は小さくなるように減少させて定電圧制御によって通電するようにしても良い。この場合には、アーク期間中は全ての期間中定電圧制御されることになる。本発明は、短絡移行溶接、短絡を伴うグロビュール移行溶接、短絡を伴うスプレー移行溶接等に適用することができる。また、本発明は、炭酸ガスアーク溶接、マグ溶接、ミグ溶接、パルスアーク溶接、交流パルスアーク溶接等にも適用することができる。
【0034】
上述した実施の形態1によれば、アーク期間が予め定めた基準期間未満である第1アーク期間中は溶接ワイヤを予め定めた第1前進送給速度で前進送給し、アーク期間が前記基準期間以上である第2アーク期間中は溶接ワイヤを予め定めた第2前進送給速度で前進送給し、第2前進送給速度を第1前進送給速度よりも大きな値に設定する。これにより、アーク期間が基準期間よりも長くなると、前進送給の速度が加速されて早期に短絡状態へと導くことができる。この結果、溶滴の過熱及び巨大化を従来技術よりもより確実に防止することができるので、溶接品質がさらに向上する。
【符号の説明】
【0035】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
AD 第2アーク期間判別回路
Ad 第2アーク期間信号
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
Ffr 前進送給速度設定信号
FFR1 第1前進送給速度設定回路
Ffr1 第1前進送給速度設定(値/信号)
FFR2 第2前進送給速度設定回路
Ffr2 第2前進送給速度設定(値/信号)
Ffs1 第1前進送給速度
Ffs2 第2前進送給速度
Fr 送給速度設定信号
FRR 後退送給速度設定回路
Frr 後退送給速度設定(値/信号)
Frs 後退送給速度
Fs 送給速度
Ia 低アーク電流値
IAR 低アーク電流設定回路
Iar 低アーク電流設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Ir 電流設定信号
Is 短絡電流
ISR 短絡電流設定回路
Isr 短絡電流設定信号
Iw 溶接電流
OR 論理和回路
Or 論理和信号
PM 電源主回路
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
SF 送給速度設定切換回路
SFF 前進送給速度切換回路
SI 電流設定切換回路
SP 外部特性切換回路
Ta アーク期間
Ta1 第1アーク期間
Ta2 第2アーク期間
Ts 短絡期間
Tsd 短絡電流減少期間
Tsi 短絡初期期間
Tsu 短絡電流増加期間
Tt 基準期間
VAR アーク電圧設定回路
Var アーク電圧設定(値/信号)
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 溶接電圧
WM 送給モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給すると共に、アーク期間と短絡期間とを繰り返して溶接するアーク溶接制御方法において、
前記アーク期間が予め定めた基準期間未満である第1アーク期間中は溶接ワイヤを予め定めた第1前進送給速度で前進送給し、
前記アーク期間が前記基準期間以上である第2アーク期間中は溶接ワイヤを予め定めた第2前進送給速度で前進送給し、
前記第2前進送給速度を前記第1前進送給速度よりも大きな値に設定する、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【請求項2】
前記第2前進送給速度は、時間経過に伴って大きくなるように変化する、
ことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接制御方法。
【請求項3】
前記第2アーク期間中の溶接電流値を、前記第1アーク期間中の溶接電流値よりも小さな値に減少させる、
ことを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載するアーク溶接制御方法。
【請求項4】
前記短絡期間中は、溶接ワイヤを後退送給する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載するアーク溶接制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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