説明

イオンクロマトグラフ装置

【課題】 試料の濃縮を行なうイオンクロマトグラフ装置において、濃縮カラムを備えた従来の装置が有する、濃縮カラムに起因するバックグランドノイズの問題、試料の濃縮工程に時間がかかる問題、高精度な耐圧ポンプを必要とする問題、などを最大限に解決可能なイオンクロマトグラフ装置を提供すること。
【解決手段】 溶離液を送液する送液手段と、試料を濃縮する濃縮液を充填可能なループと前記ループに濃縮液を充填する濃縮液充填手段とを設け前記濃縮液充填手段で濃縮液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した濃縮液を前記送液手段で送液された溶離液により送液可能な状態とを切り替え可能な流路切り替え手段と、試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを前記濃縮液を充填可能なループに備えた試料導入手段と、分析カラムと、検出器と、を備えたイオンクロマトグラフ装置により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に微量に含まれる各種イオンの濃度を分離/分析するためのイオンクロマトグラフ装置に係り、特に本発明の装置は、従来試料を濃縮する際必要であった濃縮カラムを備えることなく試料の濃縮および分析が可能な装置である。
【背景技術】
【0002】
半導体製造業界や環境分析等で要求される、液体試料中に含まれる微量イオン成分の分析において、イオンクロマトグラフ装置が広く用いられている。また、液体試料中に含まれるイオン濃度が検出器の感度より低い場合、自動的に液体試料を濃縮して分析することが可能な、濃縮イオンクロマトグラフ装置も提案されている(たとえば特許文献1参照)。特許文献1を含め、従来からある濃縮イオンクロマトグラフ装置は、図2に示す装置のように、分析カラム(71)とは別に濃縮カラム(72)を装置に備えており、試料は濃縮カラム(72)により一旦濃縮してから、流路切り替えバルブ(42)のスイッチングにより濃縮カラム(72)と分析カラム(71)とを直列に連結し、分析を行なうことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−033232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図2に示す、濃縮カラムを備えた従来の濃縮イオンクロマトグラフ装置においては、濃縮カラムに起因するバックグランドノイズの問題が存在する(特許文献1参照)。また、試料の濃縮工程に時間がかかること、濃縮カラムの抵抗に抗して安定的な濃縮工程を推進するための高精度な耐圧ポンプが必要であること、などの課題がある。
【0005】
環境分析の分野で、前記従来の濃縮イオンクロマトグラフ装置を適用する場合、試料中に含まれる環境由来の成分も濃縮され、検出されることから、目的イオンとの迅速な分離に適したステップグラジエントによる溶出法を併用することがある(たとえば、図14に示す装置)。しかしながら、図14に示すような装置では、溶離液の切り替えが遅く、切り替えてからベースラインが再安定化するまでに長い時間を要する課題がある。
【0006】
そこで本発明は、前記課題を最大限に解決可能な、試料の濃縮を行なうイオンクロマトグラフ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた本発明は、以下の態様を包含する。
【0008】
本発明の第一の態様は、
溶離液を送液する送液手段と、
試料を濃縮する濃縮液を充填可能なループと前記ループに濃縮液を充填する濃縮液充填手段とを設け、前記濃縮液充填手段で濃縮液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した濃縮液を前記送液手段で送液された溶離液により送液可能な状態とを切り替え可能な、流路切り替え手段と、
試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを、前記濃縮液を充填可能なループに備えた、試料導入手段と、
分析カラムおよび検出器と、
を備えたイオンクロマトグラフ装置である。
【0009】
本発明の第二の態様は、
第1の溶離液を送液する送液手段と、
試料を濃縮する濃縮液を充填可能なループと前記ループに濃縮液を充填する濃縮液充填手段とを設け、前記濃縮液充填手段で濃縮液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した濃縮液を前記送液手段で送液された第1の溶離液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶離液を充填可能なループと前記ループに第nの溶離液を充填する第nの溶離液充填手段とを設け、前記第nの溶離液充填手段で第nの溶離液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第nの溶離液を前記送液手段で送液された第1の溶離液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに備えた第nの流路切り替え手段と、
試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを、前記濃縮液を充填可能なループに備えた、試料導入手段と、
分析カラムおよび検出器と、
を備えたイオンクロマトグラフ装置である。
【0010】
本発明の第三の態様は、第1の溶離液が有する、試料の溶出力が、第nの溶離液が有する、試料の溶出力より強い、前記第一または第二の態様に記載のイオンクロマトグラフ装置である。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明において、試料を濃縮する濃縮液とは、試料中の成分を分析カラム等に吸着保持させて通液し、前記成分の精製および濃縮に寄与する液体を意味し、水性試料に対しては純水が好ましく使用される。この意味で、濃縮液は前処理液とよぶこともできる。
【0013】
本発明のイオンクロマトグラフ装置に備える、流路切り替え手段は、前記手段に設けた充填手段により前記手段に設けたループに溶離液または濃縮液を充填可能な状態(OFF状態)と、前記ループに充填した溶離液または濃縮液を本発明のイオンクロマトグラフ装置に備えた送液手段により送液された(第1の)溶離液により分析カラムおよび検出器へ送液可能な状態(ON状態)と、を相互に切り替え可能な手段であればよい。本発明のイオンクロマトグラフ装置に備える、試料導入手段は、前記手段に設けた試料充填手段により前記手段に設けたループに試料を充填可能な状態(OFF状態)と、充填した試料を本発明のイオンクロマトグラフ装置に備えた送液手段により送液された(第1の)溶離液により分析カラムおよび検出器へ送液可能な状態(ON状態)と、を相互に切り替え可能な手段であればよい。本発明のイオンクロマトグラフ装置に備える流路切り替え手段および試料導入手段の一例として、イオンクロマトグラフ装置で通常用いられる、二位置切り替え六方バルブがあげられる。
【0014】
本発明のイオンクロマトグラフ装置に備える、(第1の)溶離液を送液する送液手段は、(第1の)流路切り替え手段がOFF状態の場合は、(第1の)溶離液を(第1の)流路切り替え手段出口側に備えた分析カラムおよび検出器へ直接導入可能な手段であり、(第1の)流路切り替え手段がON状態の場合は、(第1の)溶離液で押し出す形で、流路切り替え手段(本発明の第一の態様の場合)または第1から第n(nは2以上)の流路切り替え手段(本発明の第二の態様の場合)に設けたループに充填した濃縮液または溶離液を(第1の)流路切り替え手段出口側に備えた分析カラムおよび検出器へ導入可能な手段である。前記送液手段の一例として、液体クロマトグラフ装置で通常用いられる、プランジャポンプがあげられる。
【0015】
本発明のイオンクロマトグラフ装置の一態様を図3に示す。図3に示すイオンクロマトグラフ装置は、
溶離液A(バッファA)(11a)を送液する送液ポンプ(31)と、
試料を濃縮する濃縮液(前処理液)(12)を充填可能なループ(52a、52b)とループ(52a、52b)に濃縮液を充填する充填ポンプ(32)とを設け、濃縮液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した濃縮液を溶離液Aで押し出す形で後述の分析カラム(71)へ送液可能な状態とを切替可能な流路切り替えバルブ(42)と、
試料(サンプル)(20)を充填可能なループ(51)と、ループ(51)に試料を充填する試料充填手段(不図示)を設けた、試料を導入する試料導入バルブ(41)と、
流路切り替えバルブ(42)出口側に備えた、分析カラム(71)、サプレッサ(90)および検出器(100)と、
を備えている。なお、試料導入バルブ(41)はループ(52a)とループ(52b)との間に備えている。
【0016】
図3に示すイオンクロマトグラフ装置を用いた試料分析について図5および図6を用いて詳細に説明する。
【0017】
工程1 濃縮液/試料充填工程(図5a)
流路切り替えバルブ(42)および試料導入バルブ(41)をOFF状態とし、流路切り替えバルブ(42)に設けたループ(52a、52b)に濃縮液を、試料導入バルブ(41)に設けたループ(51)に試料を、それぞれ充填手段を用いて充填する。なお、溶離液Aは流路切り替えバルブ(42)を経由し、分析カラム(71)へ導入される。
【0018】
工程2 濃縮液/試料連結工程(図5b)
試料導入バルブ(41)をON状態にし、濃縮液を充填したループ(52a、52b)と試料を充填したループ(51)とを連結し、試料が濃縮液にサンドイッチされた液柱を形成させる。なお、本操作は低圧下(たとえば、大気圧下)で行なうため、操作に伴うループ(52a、51、52b)内の圧力変動は生じない。
【0019】
工程3 濃縮および分析工程(図6c)
工程2の状態から、流路切り替えバルブ(42)をON状態にし、溶離液Aを送液する流路と、工程2で連結した濃縮液および試料を充填した流路(すなわちループ(52a)、ループ(51)、ループ(52b))とを連結する。これにより、溶離液Aで押し出される形でループ(52a)に充填した濃縮液、ループ(51)に充填した試料、ループ(52b)に充填した濃縮液、溶離液Aの順に分析カラム(71)に導入される。試料の導入位置(試料導入バルブ(41))を、ループ(52a)とループ(52b)との間に設けることにより、分析カラム(71)中の溶媒をループ(52a)に充填した濃縮液で置換(コンディショニング)してから試料が導入される。ループ(52a、52b)に充填した濃縮液は溶出力が極めて弱い。そのため、導入した試料は、ループ(51)から分析カラム(71)までの流路に残存した試料も含め、ループ(52b)に充填した濃縮液により分析カラム(71)入口付近に集められ、吸着されたままの状態となるため、試料濃縮に寄与する。
【0020】
本発明のイオンクロマトグラフ装置の別の態様を図15および16に示す。図15および16に示すイオンクロマトグラフ装置は、
溶離液B(バッファB)(11b)を送液する送液ポンプ(31)と、
試料を濃縮する濃縮液(前処理液)(12)を充填可能なループ(52a、52b)とループ(52a、52b)に濃縮液を充填する充填ポンプ(32a)とを設け、濃縮液をループ(52a、52b)に充填可能な状態とループ(52a、52b)に充填した濃縮液を溶離液Bで押し出す形で後述の分析カラム(71)へ送液可能な状態とを切り替え可能な第1の流路切り替えバルブ(42a)と、
溶離液A(バッファA)(11a)を充填可能なループ(53)とループ(53)に溶離液Aを充填する充填ポンプ(32b)とを設け、溶離液Aをループ(53)に充填可能な状態とループ(53)に充填した溶離液Aを溶離液Bで押し出す形で後述の分析カラム(71)へ送液可能な状態とを切り替え可能な第2の流路切り替えバルブ(42b)と、
試料(20)を充填可能なループ(51)とループ(51)に試料を充填する試料充填手段とを設けた、試料を導入する試料導入バルブ(41)と、
第1の流路切り替えバルブ(42a)出口側に備えた、分析カラム(71)、サプレッサ(90)および検出器(100)と、
を備えている。なお、第2の流路切り替えバルブ(42b)はループ(52b)に備えており、試料導入バルブ(41)はループ(52a)とループ(52b)との間に備えている。
【0021】
図15および16に示すイオンクロマトグラフ装置を用いた試料分析について前記図を用いて詳細に説明する。
【0022】
工程1 濃縮液/試料/溶離液A充填工程(図15a)
流路切り替えバルブ(42a、42b)および試料導入バルブ(41)をOFF状態とし、第1の流路切り替えバルブ(42a)に設けたループ(52a、52b)に濃縮液を、第2の流路切り替えバルブ(42b)に設けたループ(53)に溶離液Aを、試料導入バルブ(41)に設けたループ(51)に試料を、それぞれ充填手段を用いて充填する。なお、溶離液Bは第1の流路切り替えバルブ(42a)を経由し、分析カラム(71)へ導入される。
【0023】
工程2 濃縮液/試料/溶離液A連結工程(図15b)
第2の流路切り替えバルブ(42b)および試料導入バルブ(41)をON状態にし、濃縮液を充填したループ(52a、52b)と試料を充填したループ(51)と溶離液Aを充填したループ(53)とを連結し、試料が濃縮液にサンドイッチされた液柱を形成させる。なお、本操作は低圧下(たとえば、大気圧下)で行なうため、操作に伴うループ(52a、51、52b、53)内の圧力変動は生じない。
【0024】
工程3 濃縮および分析工程(図16c)
工程2の状態から、第1の流路切り替えバルブ(42a)をON状態にし、溶離液Bを送液する流路と、工程2で連結した濃縮液、試料および溶離液Aを充填した流路(すなわち、ループ(52a)、ループ(51)、ループ(52b)、ループ(53))とを連結する。これにより、溶離液Bで押し出される形でループ(52a)に充填した濃縮液、ループ(51)に充填した試料、ループ(52b)に充填した濃縮液、ループ(53)に充填した溶離液A、溶離液Bの順に分析カラム(71)に導入される(第1の流路切り替えバルブ(42a)から第2の流路切り替えバルブ(42b)までの流路は濃縮液が充填されているが、その量は僅かであり無視できる)。なお、溶離液Aが分析カラム(71)に導入されているときに、必要に応じて第1の流路切り替えバルブ(42a)をOFF状態に切り替えることで、溶離液Aによる分析時間(溶離液Aの分析カラム(71)への導入時間)の調整が行なえる。溶離液Aと溶離液Bの組成および/または濃度が異なる場合、本工程で、試料の濃縮ならびに溶離液Aおよび溶離液Bによるステップグラジエント分析を行なうことができる。なお、前記場合において、溶離液Bが有する試料の溶出力を、溶離液Aが有する試料の溶出力より強くすると好ましい。
【0025】
図15および図16に示すイオンクロマトグラフ装置において、ステップグラジエント分析に用いる溶離液の種類を増やす場合は、第n(nは2以上)の流路切り替えバルブを、第(n−1)の流路切り替えバルブに設けたループに備える形で連結すればよい。例えば、図15および図16に示すイオンクロマトグラフ装置において、溶離液A、溶離液Bおよび溶離液Cによるステップグラジエント分析を行なおうとする場合、図15および図16に示すイオンクロマトグラフ装置のうち、溶離液Cを充填可能なループと前記ループに溶離液Cを充填する充填手段とを設けた第3の流路切り替えバルブを第2の流路切り替えバルブ(42b)に設けたループ(53)に備えればよい。なお、前記場合において、溶離液が有する試料の溶出力の強さは、溶離液B(強い)、溶離液C(中間)、溶離液A(弱い)の順にするとよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のイオンクロマトグラフ装置は、
溶離液を送液する送液手段と、
試料を濃縮する濃縮液を充填可能なループと前記ループに濃縮液を充填する濃縮液充填手段とを設け、前記濃縮液充填手段で濃縮液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した濃縮液を前記送液手段で送液された溶離液により送液可能な状態とを切り替え可能な、流路切り替え手段と、
試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを、前記濃縮液を充填可能なループに備えた、試料導入手段と、
分析カラムおよび検出器と、
を備えたイオンクロマトグラフ装置であり、従来の試料濃縮を行なうイオンクロマトグラフ装置には必要であった濃縮カラムを備える必要がなく、かつ濃縮液の充填を低圧下(たとえば、大気圧下)で行なうことができる。したがって、従来の装置では必要であった濃縮液を送液するための高精度な耐圧ポンプが不要になる。さらに、本発明のイオンクロマトグラフ装置は、試料を濃縮する操作と濃縮試料を分析カラムに導入する操作とを同時に行なうため、試料濃縮に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0027】
本発明のイオンクロマトグラフ装置において、分析カラムに濃縮液を導入する時間は濃縮液を充填可能なループの容量と濃縮液の流速とで決定し、その後試料が自動で導入される。そのため、見た目の初期化時間(すなわち、試料導入前に濃縮液を送液する時間)を変化させても実際の初期化時間は常に一定になる。そのため、濃縮液による必要以上の試料濃縮はなく、分析結果の再現性が向上する。
【0028】
本発明のイオンクロマトグラフ装置の別の態様である、
第1の溶離液を送液する送液手段と、
試料を濃縮する濃縮液を充填可能なループと前記ループに濃縮液を充填する濃縮液充填手段とを設け、前記濃縮液充填手段で濃縮液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した濃縮液を前記送液手段で送液された第1の溶離液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶離液を充填可能なループと前記ループに第nの溶離液を充填する第nの溶離液充填手段とを設け、前記第nの溶離液充填手段で第nの溶離液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第nの溶離液を前記送液手段で送液された第1の溶離液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに備えた第nの流路切り替え手段と、
試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを、前記濃縮液を充填可能なループに備えた、試料導入手段と、
分析カラムおよび検出器と、
を備えたイオンクロマトグラフ装置は、低圧グラジエント分析を利用した従来のイオンクロマトグラフ装置と比較し、溶離液(または濃縮液)の切り替えを短時間かつスムーズに行なうことができる。これにより、溶離液切り替え後のベースラインの安定が早く、その後に溶出するイオンの定性/定量精度を向上させることできる。また、溶離液の切り替えも短時間で済むことから、総分析時間の短縮にもつながる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】試料の濃縮を行なわないイオンクロマトグラフ装置の従来からある態様を示した図である。
【図2】試料の濃縮を行なうイオンクロマトグラフ装置の従来からある態様を示した図である。aは試料濃縮工程、bは分析工程における流路構成をそれぞれ示している。
【図3】本発明のイオンクロマトグラフ装置の一態様を示した図である。
【図4】図3に示す装置を用いた分析における、分析カラムに導入する液体の組成変化を示した図である。
【図5】図3に示す装置を用いて試料を分析する際の流路構成を示した図である。aは濃縮液/試料充填工程を、bは濃縮液/試料連結工程をそれぞれ示している。
【図6】図3に示す装置を用いて試料を分析する際(濃縮および分析工程)の流路構成を示した図である。
【図7】図3に示す装置を用いた分析における、分析カラム内の液体の組成変化を示した図である。
【図8】図3に示す装置または図1に示す装置を用いて試料を分析したときのクロマトグラムである。aは試料300μLを図3に示す装置を用いて分析したときの、bは試料1570μLを図3に示す装置を用いて分析したときの、cは試料30μLを図1に示す装置を用い分析したときのクロマトグラムをそれぞれ示す。
【図9】図3に示す装置を用いて試料を分析したときに得られた、各イオンのピーク高さ比(濃縮比)およびピーク面積比(濃縮比)を示した図である。aは試料300μLを導入したときの、bは試料1570μLを導入したときの結果をそれぞれ示す。
【図10】図3に示す装置における分析再現性を示したクロマトグラムである。
【図11】図2に示す装置における分析再現性を示したクロマトグラムである。
【図12】図2に示す装置または図3に示す装置を用いて試料を分析したときのクロマトグラムである。aは図2に示す装置を用いて試料を分析したときの、bは図3に示す装置を用いて試料を分析したときのクロマトグラムをそれぞれ示す。
【図13】図2に示す装置または図3に示す装置を用いて試料を分析したときの初期化時間の影響をみたクロマトグラムである。aは図2に示す装置を用いて試料を分析したときの、bは図3に示す装置を用いて試料を分析したときのクロマトグラムをそれぞれ示す。
【図14】試料の濃縮を行ない、かつステップグラジエント法により分析するイオンクロマトグラフ装置の従来からある態様を示した図である。aは濃縮工程の流路構成を、bは分析工程の流路構成をそれぞれ示す。
【図15】本発明のイオンクロマトグラフ装置のうち、ステップグラジエント法により分析する装置の一態様を示した図である。aは濃縮液/試料/溶離液充填工程を、bは濃縮液/試料/溶離液連結工程の流路構成をそれぞれ示す。
【図16】本発明のイオンクロマトグラフ装置のうち、ステップグラジエント法により分析する装置の一態様を示した図であり、濃縮および分析工程における流路構成を示した図である。
【図17】図15および図16に示す装置を用いた分析における、分析カラムに導入する液体の組成変化および流路切り替えバルブの切り替えを示した図である。
【図18】図15および図16に示す装置を用いた分析における、分析カラム内の液体の組成変化を示した図である。
【図19】図3に示す装置または図15および図16に示す装置を用いて試料を分析したときのクロマトグラムである。aは図3に示す装置を用い溶離液Aによるアイソクラティック分析を行なったときの、bは図3に示す装置を用い溶離液Bによるアイソクラティック分析を行なったときの、cは図15および図16に示す装置を用いて溶離液Aから溶離液Bへのステップグラジエント分析を行なったときのクロマトグラフをそれぞれ示す。
【図20】図15および図16に示す装置における分析再現性を示したクロマトグラムである。
【図21】図14に示す装置における分析再現性を示したクロマトグラムである。
【図22】図14に示す装置または図15および図16に示す装置を用いて試料を分析したときのクロマトグラムである。aは図14に示す装置を用いて試料を分析したときの、bは図15および図16に示す装置を用いて試料を分析したときのクロマトグラムをそれぞれ示す。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
実施例1
本実施例で検討したイオンクロマトグラフ装置の流路図を図1および図3に示す。図1は試料の濃縮を行なわないイオンクロマトグラフ装置の流路図であり、図3は試料の濃縮が可能かつ濃縮カラムを備えない、本発明のイオンクロマトグラフ装置の流路図である。図3に示す装置は、図1の装置のうち、試料(20)を充填可能なループ(51)とループ(51)に試料を充填する試料充填手段(不図示)を設けた試料導入バルブ(41)を、
濃縮液(前処理液)(12)を充填可能なループ(52a、52b)と、ループ(52a、52b)に濃縮液を充填する充填ポンプ(32)と、を設けた流路切り替えバルブ(42)と、
試料(サンプル)(20)を充填可能なループ(51)とループ(51)に試料を充填する試料充填手段(不図示)を設けた、ループ(52a)とループ(52b)との間に備えた試料導入バルブ(41)と、
を備えた流路系に置き換えた装置である。
【0032】
図3に示す装置のうち、流路切り替えバルブ(42)は、
ループ(52a、52b)が送液ポンプ(31)からの流路および分析カラム(71)への流路と切り離された状態で、充填ポンプ(32)により濃縮液(12)をループ(52a、52b)に充填/保持可能な保持状態(OFF状態)と、
ループ(52a、52b)が送液ポンプ(31)からの流路および分析カラム(71)への流路と連結された状態で、送液ポンプ(31)で送液された溶離液A(バッファA)(11a)により、ループ(52a、52b)に充填した濃縮液を分析カラム(71)へ導入可能な導入状態(ON状態)と、
を切り替え可能なバルブである。また、試料導入バルブ(41)は、
ループ(51)がループ(52b)からの流路およびループ(52a)への流路と切り離された状態で、試料充填手段(不図示)により試料(20)をループ(51)に充填/保持可能な保持状態(OFF状態)と、
ループ(51)がループ(52b)からの流路およびループ(52a)への流路と連結された状態(ON状態)と、
を切り替え可能なバルブである。
【0033】
図1および図3に示す装置は、ともに東ソー製イオンクロマトグラフ装置IC−2001を一部改良して組み立てた。試料導入バルブ(41)および流路切り替えバルブ(42)は、ともにレオダイン社製7010または7125を使用した。充填ポンプ(32)は、安価なダイアフラム式ポンプ(KNF製 Solenoid diaphragm metering pump FMM20)を使用した。溶離液A(バッファA)(11a)は1.9mmol/L炭酸水素ナトリウム+3.2mmol/L炭酸ナトリウムを使用し、濃縮液(12)は純水を使用した。分析カラム(71)は東ソー製分析用陰イオン交換カラム(TSK−GEL SuperIC−AZ 内径:4.6mm、長さ:15cm、粒径:4μm)を使用した。ループ(52a)は内径1.0mm×長さ200cmのSUSチューブ(容量:1570μL)を使用し、ループ(52b)は内径1.0mm×長さ100cmのSUSチューブ(容量:790μL)を使用した。
【0034】
試料(20)として、和光純薬工業製イオンクロマトグラフ用陰イオン混合標準液I(F:20mg/L、Cl:20mg/L、NO:100mg/L、Br:100mg/L:NO:100mg/L、PO:200mg/L、SO:100mg/L)を純水にて1000倍希釈したものを使用し、様々な量の前記試料を図2および図3の装置に導入し、イオンクロマトグラフィーによる分析を行なった。なお、溶離液A(11a)の流速は毎分0.8mLである。
【0035】
図3の装置を用いたイオンクロマトグラフィー分析について図5から図7を用いて詳細に説明する。
(A)流路切り替えバルブ(42)および試料導入バルブ(41)がOFF状態にあるとき(図5a)は、送液ポンプ(31)により送液される溶離液A(11a)は直接分析カラム(71)へ送液される。図5aの状態では、ループ(52a、52b)には濃縮液(12)が、ループ(51)には試料(20)がそれぞれ充填手段により充填される。
(B)一定時間後、試料導入バルブ(41)をOFF状態からON状態にし、濃縮液を充填したループ(52a)−試料を充填したループ(51)−濃縮液を充填したループ(52b)を大気圧下で連結する(図5bおよび図7a)。
(C)次に、流路切り替えバルブ(42)をOFF状態からON状態に切り替え、送液ポンプ(31)からの流路と(B)で接続したループ(52a)−ループ(51)−ループ(52b)と分析カラム(71)への流路とを連結し、分析を開始する(図6cおよび図7b)。
(D)まず、濃縮液がループ(52a)の容量分だけ分析カラム(71)に導入される(図7c)。
(E)その後、試料がループ(51)の容量分だけ分析カラム(71)に導入される(図7d)。
(F)続いて、濃縮液がループ(52b)の容量分だけ分析カラム(71)に導入された後、送液ポンプ(31)で送液された溶離液Aが分析カラム(71)に導入され、試料が分離される(図7e)。なお、本実施例の分析系では、濃縮液(純水)による試料溶出は全くない。
【0036】
前記(A)から(F)の操作により、まずループ(52a)の容量分だけ濃縮液(純水)が分析カラム(71)に導入されることで、分析カラム(71)が純水で置換され初期化される。続いてループ(51)の容量分だけ試料が分析カラム(71)に導入されるが、溶出は行なわれず、試料が分析カラム(71)の入り口付近に濃縮される。その後、ループ(52b)の容量分だけ濃縮液(純水)が分析カラム(71)に導入されるが、濃縮液(純水)による試料の溶出はないため、試料は分析カラム(71)の入り口付近に濃縮されたままである。最後に試料分離用の溶離液Aが送液され、この時点から試料の分離/分析が開始される。
【0037】
本実施例では、最初の約2分間(1570[μL]/0.8[mL/分])がカラムの初期化に費やされ、試料導入後約1分間(790[μL]/0.8[mL/分])試料濃縮に費やされ、その後分離/分析を行なう(図4)。
【0038】
図3に示すイオンクロマトグラフ装置に、容量300μLまたは容量1570μLのループ(51)を取り付け、取り付けたループ(51)の容量分の試料を分析カラム(71)に導入したときのクロマトグラムを図8aおよび図8bに示す。なお、図8aは容量300μLのループを取り付けたときの、図8bは容量1570μLのループを取り付けたときのクロマトグラムである。また比較例として、図1に示すイオンクロマトグラフ装置に、試料30μLを濃縮せずに導入したときのクロマトグラムを図8cに示す。
【0039】
本発明のイオンクロマトグラフ装置(図3、濃縮あり)で分析したとき、および従来のイオンクロマトグラフ装置(図1、濃縮なし)で分析したときの、各種イオンのピーク高さおよびピーク面積、ならびに本発明のイオンクロマトグラフ装置での分析値と従来のイオンクロマトグラフ装置での分析値とのピーク高さ比およびピーク面積比(濃縮率)を表1に示す。
【0040】
【表1】

図8に示すように、本発明のイオンクロマトグラフ装置(図3)は、300μLまたは1570μLといった大量の試料を導入した場合であっても、良好なクロマトグラムが得られることがわかる。また、ピーク高さ比やピーク面積比も、濃縮を行なわない分析(図1)と比較し、300μL導入時で約10倍、1570μL導入時で約40から50倍と、試料導入量にほぼ比例した値が得られている(図9および表1)。
【0041】
実施例2
図3に示す本発明のイオンクロマトグラフ装置の分析再現性を確認した。
【0042】
本実施例において、溶離液A(11a)は7.5mmol/L炭酸水素ナトリウム+1.1mmol/L炭酸ナトリウムを使用し、ループ(51)は内径1.0mm×長さ400cmのSUSチューブ(容量3140μL)を使用し、その他条件は、実施例1と同様とした。実施例1で使用した試料を3140μLずつ10回、本発明のイオンクロマトグラフ装置(図3)に導入し、測定した。
【0043】
結果のクロマトグラムを図10に示す。図10において、縦軸のCM(mV)は電気伝導度計の出力信号を表し(以下同じ)、横軸のR.Time(min)は保持時間(分)を表す(以下同じ)。また、各種イオンの溶出時間およびピーク面積を集計した結果を表2に示す。溶出時間のCv(変動係数)は0.020から0.044%、ピーク面積のCvも0.302から1.356%と非常に良好な値が得られた。
【0044】
【表2】

比較のため、図2に示す、従来からある、濃縮カラムを備えたイオンクロマトグラフ装置の分析再現性を確認した。
【0045】
図2の装置は、東ソー製イオンクロマトグラフ装置IC−2001に東ソー製液体クロマトグラフ用ポンプDP−8020を組み合わせて、組み立てた。分析カラム(71)は、東ソー製分析用陰イオン交換カラム(TSK−GEL IC−Anion AZ 内径:4.6mm、長さ:15cm)を使用した。濃縮カラム(72)は、東ソー社製TSKgel IC−Anion PWXL(内径:4.6mm、長さ:7.5cm)を使用した。なお、分析カラム(71)および濃縮カラム(72)は分析中40℃に保っている。溶離液A(バッファA)(11a)は、7.5mmol/L炭酸水素ナトリウム+1.1mmol/L炭酸ナトリウムを使用した。濃縮液(前処理液)(12)は純水を使用した。なお、溶離液A(11a)の流速は毎分0.8mLであり、濃縮液(12)の流速は毎分0.5mLである。
【0046】
流路切り替えバルブ(42)がOFF状態のときに実施例1で使用した試料を濃縮カラム(72)へ3140μL導入し、15分間濃縮操作を行なった後、流路切り替えバルブ(42)をON状態に切り替えることで濃縮カラム(72)と分析カラム(71)とを連結し試料分析した。前記操作を10回行なった。
【0047】
結果のクロマトグラムを図11に示す。また、各イオンの溶出時間およびピーク面積を集計した結果を表3に示す。溶出時間のCvは0.126から0.270%、ピーク面積のCvも1.036から3.252%と、本発明のクロマトグラフ装置(図3)と比較し正確性に乏しいことが分かる。
【0048】
【表3】

従来からある、濃縮カラムを備えたイオンクロマトグラフ装置(図2)、および本発明のクロマトグラフ装置(図3)で試料を分析したときの代表的なクロマトグラムを図12に示す。図12のうち、aが従来からある、濃縮カラムを備えたイオンクロマトグラフ装置(図2)で分析したときの、bが本発明のクロマトグラフ装置(図3)で分析したときの、代表的なクロマトグラムである。従来からある、濃縮カラムを備えたイオンクロマトグラフ装置(図2)では、濃縮カラム(72)のみが濃縮液で置換されるため、分析開始後のウォーターディップは小さい。一方、本発明のイオンクロマトグラフ装置(図3)では、分析カラム(71)が濃縮液で置換されるため、分析開始後のウォーターディップが大きくなるものの、フッ化物イオン(F)との分離は十分であり定量/同定に問題はない。
【0049】
従来からある、濃縮カラムを備えたイオンクロマトグラフ装置(図2)、および本発明のクロマトグラフ装置(図3)で試料を分析したときの、初期化時間(試料注入前に濃縮液を送液する時間)の影響を示したクロマトグラムを図13に示す。図13のうち、aが従来からある、濃縮カラムを備えたイオンクロマトグラフ装置(図2)で分析したときの、bが本発明のクロマトグラフ装置(図3)で分析したときの、クロマトグラムである。
【0050】
従来からある、濃縮カラムを備えたイオンクロマトグラフ装置(図2)では、フッ化物イオン(F)と塩化物イオン(Cl)との間に未知ピーク(UN Peak)が存在し、濃縮カラム(72)の初期化時間を長くするにつれ未知ピークの高さが高くなっている。また塩化物イオン(Cl)のピーク高さも、初期化時間を長くするにつれ、徐々に高くなっている。その理由として、初期化工程で濃縮カラム(72)に濃縮液が導入される際に、濃縮液に僅かに混入している成分も濃縮カラム(72)に濃縮されるためである。そのため、従来からある、濃縮カラムを備えたイオンクロマトグラフ装置(図2)では、濃縮液は高純度な溶媒を用いる必要があり、測定間隔も常に一定にするなど煩雑な管理が必要となり、初期化を長時間行なった場合は正確な測定をするために一度濃縮カラム(72)を洗浄する必要がある。
【0051】
一方、本発明のイオンクロマトグラフ装置(図3)では、前記現象は発生しない。その理由として、見た目の初期化時間を(試料導入バルブ(41)をOFF状態にする時間)を変化させても実際の初期化時間(濃縮液を導入する時間)はループ(52b)の容量と濃縮液の流速で決定するため常に一定であり、必要以上に濃縮液成分が濃縮されることはないためである。そのため、本発明のイオンクロマトグラフ装置(図3)では、濃縮液の純度管理はあまり気にする必要はなく、どのようなバルブ状態からでも直ちに分析可能である。
【0052】
以上をまとめると、本発明のイオンクロマトグラフ装置は、濃縮カラムを必要とせず、かつ濃縮液充填も低圧下で行なえるため、濃縮液充填ポンプとしてダイアフラムポンプやペリスタポンプ(チューブポンプ)といった安価なポンプを使用することができる。また、濃縮操作における初期化時間、濃縮時間は濃縮液を充填するループの容量と濃縮液の流速で決まるため、環境中の不要成分を必要以上に濃縮することもなく、濃縮工程の時間管理も不要である。よって、ラフな分析操作でも精度よく、試料中に含まれる微量イオンの定性分析および定量分析が可能となる。
【0053】
実施例3
本発明のイオンクロマトグラフ装置を、溶離液を複数切り替えて分離を行なうステップグラジエント分析に適用した装置を用いて分析を行なった。本実施例で使用した装置を図15および図16に示す。図15および図16に示す装置は、図3に示す装置に、さらに溶離液を充填可能なループ(53)とループ(53)に溶離液を充填する充填ポンプ(32b)とを設けた第2の流路切り替えバルブ(42b)を、ループ(52b)に備えており、2種類の溶離液(バッファ)を分析カラム(71)に導入できるようにしている。
【0054】
図15および図16に示す装置は、東ソー製イオンクロマトグラフ装置IC−2001を一部改良して組み立てた。試料導入バルブ(41)および流路切り替えバルブ(42a、42b)は、レオダイン社製7010または7125を使用した。充填ポンプ(32a、32b)は、安価なダイアフラム式ポンプ(KNF製 Solenoid diaphragm metering pump FMM20)を使用した。溶離液A(バッファA)(11a)は4mmol/L炭酸水素ナトリウム+0.5mmol/L炭酸ナトリウムを使用し、溶離液B(バッファB)(11b)は12.5mmol/L炭酸水素ナトリウム+2.5mmol/L炭酸ナトリウムを使用した。濃縮液(前処理液)(12)は純水を使用した。分析カラム(71)は東ソー社製分析用陰イオン交換カラム(TSK−GEL SuperIC−AZ 内径:4.6mm、長さ:15cm、粒径:4μm)を使用した。ループ(52a)は内径1.0mm×長さ200cmのSUSチューブ(容量:1570μL)を使用し、ループ(52b)は内径1.0mm×長さ100cmのSUSチューブ(容量:790μL)を使用し、ループ(51)は内径1.0mm×長さ400cmのSUSチューブ(容量:3140μL)を使用し、ループ(53)は内径2mm×長さ400cmのSUSチューブ(容量:12570μL)を使用した。
【0055】
試料(20)として、和光純薬工業製イオンクロマトグラフ用陰イオン混合標準液I(F:20mg/L、Cl:20mg/L、NO:100mg/L、Br:100mg/L、NO:100mg/L、PO:200mg/L、SO:100mg/L)を純水にて1000倍希釈したものを使用し、前記試料を図15および図16に示す装置に導入し、イオンクロマトグラフィーによる分析を行なった。なお、流速は毎分0.8mLである。
【0056】
図15および図16の装置を用いたイオンクロマトグラフィー分析について図15、図16および図18を用いて詳細に説明する。
(A)第1の流路切り換えバルブ(42a)、第2の流路切り替えバルブ(42b)および試料導入バルブ(41)がOFF状態にあるとき(図15a)は、送液ポンプ(31)により送液される溶離液B(11b)は直接分析カラム(71)へ送液される。図15aの状態では、ループ(52a、52b)には濃縮液(12)が、ループ(51)には試料(20)が、ループ(53)には溶離液A(11a)がそれぞれ充填手段により充填される。
(B)一定時間後、第2の流路切り替えバルブ(42b)および試料導入バルブ(41)をOFF状態からON状態にし、濃縮液を充填したループ(52a)−試料を充填したループ(51)−濃縮液を充填したループ(52b)−溶離液Aを充填したループ(53)を大気圧下で連結する(図15bおよび図18a参照)。
(C)次に、第1の流路切り替えバルブ(42a)をOFF状態からON状態に切り換え、送液ポンプ(31)からの流路と(B)で接続したループ(52a)−ループ(51)−ループ(52b)−ループ(53)と分析カラム(71)への流路とを連結し、分析を開始する(図16c、図18b参照)。
(D)まず、濃縮液がループ(52a)の容量分だけ分析カラム(71)に導入される(図18c)。
(E)その後、試料がループ(51)の容量分だけ分析カラム(71)に導入される(図18d)。
(F)続いて、濃縮液がループ(52b)の容量分だけ分析カラム(71)に導入された後、ループ(53)に充填された溶離液Aが分析カラム(71)に導入され、試料が溶離液Aにより分離される(図18e)。なお、本実施例の分析系では、濃縮液(純水)による試料の溶出は全くない。
(G)そして、送液ポンプ(31)で送液された溶離液Bが分析カラム(71)に導入され、溶離液Bによる試料の分離を行なう(図18f)。なお、第1の流路切り替えバルブ(42a)から第2の流路切り替えバルブ(42b)までの流路は濃縮液が充填されているが、その量は僅かであり無視できる。
【0057】
前記(A)から(G)の操作により、まずループ(52a)の容量分だけ濃縮液(純水)が分析カラムに導入されることで、分析カラムが純水で置換され初期化される。続いて、ループ(51)の容量分だけ試料が分析カラムに導入されるが、溶出は行なわれず、試料が分析カラムの入り口付近に濃縮される。その後、ループ(52b)の容量分だけ濃縮液(純水)が送液されるが、濃縮液(純水)による試料の溶出はないため、試料は分析カラムの入り口付近に濃縮されたままである。最後に試料分離用の溶離液Aおよび溶離液Bが送液され、この時点から試料の分離/分析が開始される。
【0058】
本実施例では、最初の約2分間(1570[μL]/0.8[mL/分])がカラムの初期化に費やされ、試料導入に約4分間(3140[μL]/0.8[mL/分])費やされた後、約1分間(790[μL]/0.8[mL/分])試料濃縮に費やされる。その後、溶離液Aによる最大15.7分間(12570[μL]/0.8[mL/分])の1段階目の分離が行なわれ、引き続き溶離液Bによる2段階目の分離が行なわれる(図17参照)。なお、溶離液Aから溶離液Bへの切り替え時間(溶離液Aの送液時間)は、第2の流路切り替えバルブ(42b)をON状態からOFF状態に切り替えることで調整することができる。
【0059】
図15および図16に示すイオンクロマトグラフ装置を用いて試料を分離したときのクロマトグラムを図19cに示す。なお、図19cでは分析開始23分後に溶離液Aから溶離液Bへの切り替え(第2の流路切り替えバルブ(42b)をON状態からOFF状態への切り替え)を行ない、分析開始28分後に切り替えに伴うベースライン変動の補正を行なっている。なお、比較例として、図3に示す装置を用いて溶離液Aのみによるアイソクラティック分析で試料を分離したときのクロマトグラムを図19aに、図3に示す装置を用いて溶離液Bのみによるアイソクラティック分析で試料を分離したときのクロマトグラムを図19bに、それぞれ示す。溶離液Aのみによるアイソクラティック分析(図19a)では溶出に45分から55分要した、リン酸イオン(PO)および硫酸イオン(SO)が、図15および図16に示すイオンクロマトグラフ装置を用いることで、30分から33分に溶出できることがわかる。
【0060】
実施例4
図15および図16に示す本発明のイオンクロマトグラフ装置の再現性を確認した。本実施例で使用した装置および分析条件は実施例3と同様である。
【0061】
結果のクロマトグラムを図20に示す。また、各種イオンの溶出時間およびピーク面積を集計した結果を表4に示す。溶出時間のCvは0.033から0.210%、ピーク面積のCvは0.723から1.405%と非常に良好な値が得られた。
【0062】
【表4】

比較のため、図14に示す、一般的な低圧ステップグラジエント分析を行なう、従来からある、濃縮カラムを備えたイオンクロマトグラフ装置の再現性を確認した。
【0063】
図14に示す装置は、図2の装置のうち、溶離液Aを送液する送液ポンプ(31a)の入口側に溶離液Aと溶離液Bとを切り替え可能な三方電磁弁(43)をさらに備えた装置である。分析カラム(71)は、東ソー製陰イオン交換分析用カラム(TSKgel IC−Anion AZ 内径:4.6mm、長さ:15cm)を使用した。濃縮カラム(72)は、東ソー製TSKgel IC−Anion PWXL(内径:4.6mm、長さ:7.5cm)を使用した。なお、分析カラム(71)および濃縮カラム(72)は分析中40℃に保っている。溶離液A(バッファA)(11a)は4mmol/L炭酸水素ナトリウム+0.5mmol/L炭酸ナトリウムを使用し、溶離液B(バッファB)(11b)は12.5mmol/L炭酸水素ナトリウム+2.5mmol/L炭酸ナトリウムを使用した。濃縮液(前処理液)(12)は純水を使用した。なお、溶離液A(11a)の流速は毎分0.8mLであり、濃縮液(12)の流速は毎分0.5mLである。
【0064】
流路切り替えバルブ(42)がOFF状態のときに実施例3で使用した試料を濃縮カラム(72)に3140μL導入し、15分間濃縮操作を行なった(図14a)後、流路切り替えバルブ(42)をON状態に切り替えることで濃縮カラム(72)と分析カラム(71)とを連結し(図14b)、試料分析した。
【0065】
前記条件において、分析開始後23.4分後に電磁弁(43)を切り替えることで溶離液Aから溶離液Bへの切り替えを行ない、測定を10回行なったときのクロマトグラムを図21に示す。また、各イオンの溶出時間およびピーク面積を集計した結果を表5に示す。溶出時間のCvは0.033から0.066%、ピーク面積のCvは0.189から3.039%であった。
【0066】
【表5】

本発明のイオンクロマトグラフ装置の結果(表4)と濃縮カラムを備えた従来のイオンクロマトグラフ装置の結果(表5)とを比較したところ、溶離液Bで溶出する2価イオン(PO、SO)の溶出時間の再現性は、濃縮カラムを備えた従来のイオンクロマトグラフ装置の方が精度が高いものの、その他のイオン(F、Cl、NO、Br、NO)の溶出時間の再現性は両装置でほぼ同等の精度であった。また、ピーク面積の再現性は全てのイオンについて両装置でほぼ同等の精度であった。
【0067】
図15および図16に示す本発明のイオンクロマトグラフ装置を用いて測定を行なったときと、図14に示す濃縮カラムを備えた従来のイオンクロマトグラフ装置を用いて測定を行なったときとでクロマトグラムのベースラインを比較した図を図22に示す。図22aは図14に示す装置を用いた測定におけるクロマトグラムを、図22bは図15および図16に示す本発明の装置を用いた測定におけるクロマトグラムを、それぞれ示しており、各クロマトグラムの溶離液切り替え時付近を拡大している。
【0068】
図14に示す装置は、電磁弁(43)から分析カラム(71)までに、送液ポンプ(31a)など種々の部品が存在する。そのため、実際に分離が寄与するまで時間を要するとともに、溶離液の切り替えもなだらかである(図22a)。一方、図15および図16に示す本発明の装置は、第1の流路切り替えバルブ(42a)から分析カラム(71)までの流路が比較的短く、溶離液界面を乱す部品が存在しない。そのため、実際に分離が始まるまでの時間が短く、溶離液の切り替えも鋭くなる(図22b)。また、図14に示す装置を用いた測定では、ベースラインが安定するまで長い時間がかかるが、図15および図16に示す本発明の装置を用いた測定ではベースラインが短時間で安定する(図22b)ため、本発明の装置は流路切り替え後に溶出するイオンの定性精度および定量精度の向上が期待できる。
【0069】
さらに、分析カラムとして内径4.6mmのカラムを用いる場合、濃縮カラムを備えない従来のイオンクロマトグラフ装置(図1)ではカラムへの導入量は最大でも数十μLであるのに対し、本発明のイオンクロマトグラフ装置(図15および図16)では数百μLから数千μLといった大量の試料を分析カラムに導入することができるため、試料中に含まれるイオンが微量であっても分析を容易に行なうことができる。
【0070】
以上をまとめると、図15および図16に示す本発明のイオンクロマトグラフ装置は、濃縮カラムを備えた従来のイオンクロマトグラフ装置と比較し、溶離液の切り替えが短時間でスムーズに行なうことができるため、溶離液切り替え後のベースラインの安定が早く、これ以降に溶出するイオンの定性精度および定量精度を向上させることが可能できる。また、溶離液の切り替わりが短時間のため、総分析時間の短縮も可能である。
【符号の説明】
【0071】
11:溶離液(バッファ)
12:濃縮液(前処理液)
20:試料(サンプル)
31:送液ポンプ
32:充填ポンプ
41:試料導入バルブ
42:流路切り替えバルブ
43:電磁弁
51、52、53:ループ
60:プレヒートコイル
71:分析カラム
72:濃縮カラム
80:カラム恒温槽
90:サプレッサ
100:検出器
110:抵抗管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶離液を送液する送液手段と、
試料を濃縮する濃縮液を充填可能なループと前記ループに濃縮液を充填する濃縮液充填手段とを設け、前記濃縮液充填手段で濃縮液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した濃縮液を前記送液手段で送液された溶離液により送液可能な状態とを切り替え可能な、流路切り替え手段と、
試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを、前記濃縮液を充填可能なループに備えた、試料導入手段と、
分析カラムおよび検出器と、
を備えたイオンクロマトグラフ装置。
【請求項2】
第1の溶離液を送液する送液手段と、
試料を濃縮する濃縮液を充填可能なループと前記ループに濃縮液を充填する濃縮液充填手段とを設け、前記濃縮液充填手段で濃縮液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した濃縮液を前記送液手段で送液された第1の溶離液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第1の流路切り替え手段と、
第n(nは2以上)の溶離液を充填可能なループと前記ループに第nの溶離液を充填する第nの溶離液充填手段とを設け、前記第nの溶離液充填手段で第nの溶離液を前記ループに充填可能な状態と前記ループに充填した第nの溶離液を前記送液手段で送液された第1の溶離液により送液可能な状態とを切り替え可能な、第(n−1)の流路切り替え手段に設けたループに備えた第nの流路切り替え手段と、
試料を充填可能なループと前記ループに試料を充填する試料充填手段とを、前記濃縮液を充填可能なループに備えた、試料導入手段と、
分析カラムおよび検出器と、
を備えたイオンクロマトグラフ装置。
【請求項3】
第1の溶離液が有する、試料の溶出力が、第nの溶離液が有する、試料の溶出力より強い、請求項1または2に記載のイオンクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−127804(P2012−127804A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279561(P2010−279561)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)