説明

イオンプレーティング装置

【課題】チャンバ内における膜材の突出長を一定に維持して、安定した成膜レート及び良好な膜質で成膜できるイオンプレーティング装置を提供すること。
【解決手段】真空チャンバ3と、真空チャンバ3内にプラズマビームPを発生するプラズマガン4と、真空チャンバ3内においてプラズマビームPが照射されるハース5と、ハース5に収容された成膜用のタブレット21を真空チャンバ3内に露出するように支持するタブレット支持棒25と、タブレット支持棒25を介してタブレット21を真空チャンバ3内に押し出す駆動機構9と、真空チャンバ3内に突出したタブレット21の突出方向における先端面の少なくとも一部に接触する接触部37を有し、接触部37をタブレット21の先端面に当接させてタブレット21の先端面を所定位置に位置規制する位置規制部とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティング装置に関し、特に、突き上げ方式のイオンプレーティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置として、突き上げ方式のイオンプレーティング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このイオンプレーティング装置においては、ハースに形成された貫通孔に膜材としてのタブレットが収容され、このタブレットが下方から突き上げ棒により突き上げられることでチャンバ内に連続的に繰り出されている。そして、チャンバ内に発生したプラズマビームがステアリングコイル等によりハースに向かって誘導され、チャンバ内に繰り出されたタブレットの上面を照射することにより、照射により発生した気体がプラズマビームを通過してイオン化し、基板の表面に付着して成膜している。
【0003】
この場合、イオンプレーティング装置は、タブレットの減少速度に合わせてチャンバ内におけるタブレットの突出長が一定となるようにタブレット支持棒を駆動制御している。具体的には、ハースに電流計を接続すると共に、イオンプレーティング装置にタブレットの単位時間あたりの減少量とハースに流れる電流値との相関関係をマップデータとして記憶させておき、このマップデータを参照して検出された電流値に応じてタブレット支持棒の駆動量を制御している。
【特許文献1】特開2000−54127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したイオンプレーティング装置においては、ハースに流れる電流値に基づいてタブレットの減少量をマップデータから推定することで、タブレットの上昇量を制御しているため、タブレットの減少量とタブレットの上昇量との間に正確な相関関係を得ることができなかった。したがって、チャンバ内におけるタブレットの突出長を一定に維持することが困難となり、良好な膜質で成膜することができないという問題があった。この場合、チャンバ内にCCDを設けてタブレットの上面を監視しつつ、タブレットの上昇量をフィードバックする構成も考えられるが、CCDの撮像面にデポ物が付着して正確にタブレットの上面を撮像することが困難であった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、チャンバ内における膜材の突出長を一定に維持して、良好な膜質で成膜できるイオンプレーティング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のイオンプレーティング装置は、チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜用の膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する膜材支持部と、前記膜材支持部を介して前記膜材を前記チャンバ内に押し出す押出部と、前記チャンバ内に突出した膜材の突出方向における先端面の少なくとも一部に接触可能な接触部を有し、前記接触部を前記膜材の前記先端面に当接させて前記膜材の前記先端面を所定位置に位置規制する位置規制部とを備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、押出部により膜材が押し出されて膜材の突出方向の先端面が位置規制部に押し当てられるため、成膜中に膜材が消費によって減少した場合でも、膜材の先端面が所定位置に規制される。したがって、成膜中にチャンバ内における膜材の突出長を一定に維持することができ、安定した成膜レート及び良好な膜質でワークに成膜することができる。
【0008】
上記イオンプレーティング装置において、前記押出部は、ばね部材を有し、前記ばね部材の付勢力を利用して前記膜材を押し出す構成とすることができる。
【0009】
上記イオンプレーティング装置において、前記押出部は、トルクモータを有し、前記トルクモータのトルクを利用して前記膜材を押し出す構成とすることができる。
【0010】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記位置規制部は、前記膜材の前記先端面の少なくとも2箇所に接触することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、位置規制部により膜材の先端面が2箇所以上で接触されるため、膜材の先端面をより安定的に規制することができる。
【0012】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記位置規制部を支持すると共に、前記膜材の突出方向の中心軸を中心として回転可能な回転支持部を備え、前記回転支持部の回転により前記膜材と前記位置規制部とが回転接触することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記膜材の突出方向の中心軸を中心として前記膜材支持部を介して前記膜材を回転可能とする膜材回転部を備え、前記膜材回転部の回転により前記膜材と前記位置規制部とが回転接触することを特徴とする。
【0014】
これらの構成によれば、プラズマビームが照射されない膜材の先端面と接触部との接触部分が遷移するため、膜材の先端面を均一に減少させることができる。
【0015】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記位置規制部は、前記膜材の突出方向の中心軸を中心とした周方向に等間隔で3箇所において接触し、前記膜材と前記位置規制部との接触部分は周方向に120度以上の角度範囲を回転移動することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、位置規制部により膜材の先端面が120度間隔の3箇所で接触されるため、膜材の先端面の水平姿勢を維持することができると共に、膜材と位置規制部との接触部分が全周に亘って接触するため、膜材の先端面を均一に減少させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、チャンバ内における膜材の突出長を一定に維持して、安定した成膜レート及び良好な膜質で成膜できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置は、タブレットの上面を所定の高さに位置規制することにより、真空チャンバ内におけるタブレットの突出長を一定に維持して、タブレットの上面に対するプラズマビームの当たりを一定とし、安定した成膜レート及び良好な膜質で成膜することができるようにしたものである。
【0019】
図1を参照して、イオンプレーティング装置の全体構成について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の模式図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1は、気密性の真空チャンバ3を備えており、真空チャンバ3の一の側壁3aには陰極として機能するプラズマビーム発生源としてのプラズマガン4が設けられている。真空チャンバ3の底壁3bには陽極として機能するハース5が設けられ、ハース5の周囲にはハース5を囲うように後述するタブレット21の突出長を規制する規制機構7が設けられている。また、真空チャンバ3の上壁3cには成膜対象のワークWを搬送する搬送部6が設けられ、真空チャンバ3のプラズマガン4が設けられた側壁3aに対向する側壁3dには、酸素ガスおよびアルゴンガス等のキャリアガスを導入するガス導入口8が形成されている。
【0021】
プラズマガン4は、ハース5に対してプラズマビームPを照射するものであり、プラズマビームPを発生させるプラズマガン本体11と、プラズマガン本体11の真空チャンバ3側においてプラズマガン本体11と同軸上に配置された第1の中間電極12および第2の中間電極13とを有して構成されている。プラズマガン本体11は、導体板14を介して直流電源16のマイナス端子に接続されており、導体板14とハース5との間で放電を生じさせることによりプラズマビームPを発生させている。第1の中間電極12および第2の中間電極13には、それぞれ永久磁石が内蔵されており、この永久磁石によりプラズマガン4により発生されたプラズマビームPが収束される。
【0022】
また、プラズマガン4の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第1のコイル15が設けられており、この第1のコイル15により第1の中間電極12および第2の中間電極13まで引き出されたプラズマビームPが真空チャンバ3の内部に誘導される。
【0023】
ハース5は、プラズマガン4から出射されたプラズマビームPを下方に吸引するものであり、導電材料で形成され直流電源16のプラス端子に接続されている。また、ハース5には、プラズマビームPが入射される中央部分に貫通孔5aが形成されており、この貫通孔5aに円柱状のタブレット21が充填されている。貫通孔5aの周囲には絶縁パイプ23が設けられており、ハース5とタブレット21とが真空チャンバ3の内部において絶縁されている。これにより、真空チャンバ3内においてハース5とタブレット21の異常放電が防止される。なお、本実施の形態における真空チャンバ3の内部とは、絶縁パイプ23とタブレット21との対向空間等のように図示しないパッキン等により真空雰囲気が保たれている部分を含むものである。
【0024】
貫通孔5aの同軸上には、タブレット21を下方から支持するタブレット支持棒25が上下方向に移動可能に設けられており、このタブレット支持棒25によりタブレット21が突き上げられてハース5に対してタブレット21が供給される。タブレット支持棒25は、上下方向に延在し、上端においてタブレット21を弾性挟持し、下端において押出部としての駆動機構9に接続されている。
【0025】
ハース5の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第2のコイル29が設けられており、この第2のコイル29によりハース5に入射されるプラズマビームPの向き等が修正される。
【0026】
タブレット21は、成膜用の膜材であり、酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により円柱状に焼結成形されている。タブレット21の上面にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPにより加熱されて昇華し、タブレット21の上方に位置するワークWの表面にZnO膜が成膜される。
【0027】
また、本実施の形態で使用されるタブレット21は、60[mm]以上のロングサイズのタブレット21であり、20[mm]程度のスモールサイズのタブレットを縦一列に重ねた状態と異なり、タブレット間の合わせ目を少なくしている。これにより、タブレット間の合わせ目で生じる異常放電を抑制している。また、タブレットが消費されて細かい破片だけが、残った場合には、破片が真空チャンバ3の内部に飛び散って汚染の原因となるが、タブレット間の合わせ目が少ないため、真空チャンバ3の内部の汚染を抑制することも可能となる。
【0028】
駆動機構9は、タブレット21の消費速度に合わせてタブレット支持棒25を上方に移動させるものであり、タブレット支持棒25を真空チャンバ3の内部に向けて下方から付勢する圧縮ばね31を有している。圧縮ばね31は、一端がタブレット支持棒25の下端に接続され、他端がトルクモータ32によって上下動する駆動棒33の上端に接続されている。圧縮ばね31は、トルクモータ32の駆動により駆動棒33を介して押圧され、タブレット支持棒25に対する付勢力が制御されている。なお、この場合、駆動機構9にクラッチ等を設けて圧縮ばね31の付勢力を制御するようにしてもよい。
【0029】
規制機構7は、圧縮ばね31より突き上げられるタブレット21を所定の突出長で規制している。規制機構7は、中空円筒状に形成され、タブレット21の中心軸を中心として回転可能な回転支持部35と、回転支持部35の内壁面から中央に向かって直線状に延びる3つのアーム部36と、各アーム部36の先端に設けられ、この先端から下方に延びてタブレット21の上面に接触する3つの接触部37とを有している。回転支持部35は、絶縁材料で形成されており、タブレット21の中心軸に中心が位置するように真空チャンバ3の底壁3bの上面に配置されている。また、回転支持部35は、図示しないモータに接続されており、このモータの駆動により回転可能に構成されている。
【0030】
3つのアーム部36は、回転支持部35の内壁に周方向に等間隔で片持支持されており、先端がタブレット21の周縁部上方に位置している。また、各アーム部36は、耐プラズマ性を有する、例えば、真空チャンバ3と同様なステンレス等で形成されている。さらに、各アーム部36は、タブレット21が圧縮ばね31の付勢力により押圧されて接触部37に当接した場合でも撓まない程度の剛性を有している。3つの接触部37は、先端がハース5の上面から所定の高さに位置しており、タブレット21の上昇を所定の高さで位置規制している。なお、請求項に記載の位置規制部は、アーム部36および接触部37を含んで構成されている。
【0031】
ここで、図2を参照して、接触部とタブレットとの接触状態について説明する。図2は、接触部とタブレットとの接触状態の説明図である。
【0032】
図2(a)に示すように、各接触部37は、周方向に120度間隔でタブレット21の上面に接触しており、タブレット21の上面の水平姿勢を維持した状態で規制可能となっている。また、各接触部37は、それぞれアーム部36を介して回転支持部35に支持されているため、回転支持部35の回転によりタブレット21の上面に回転接触する。このように、各接触部37は、プラズマビームPが照射されないタブレット21の上面との接触部分を遷移させることにより、タブレット21の上面を均一に減少させている。
【0033】
図2(b)に示すように、各接触部37の先端は球状に形成されており、タブレット21の上面との回転接触によりタブレット21の上面が傷つくことが防止される。また、各接触部37は、耐プラズマ性および耐熱性を有する、例えば、アルミナ又はジルコニア等により形成されている。
【0034】
図1に戻り、搬送部6は、真空チャンバ3内においてハース5の上方にワークWを支持している。
【0035】
直流電源16は、可変直流電源であり、マイナス端子にプラズマガン4が接続され、プラス端子にハース5が接続されている。そして、直流電源16がハース5とプラズマガン4との間に直流電圧を印加することにより、真空チャンバ3の内部にプラズマビームPが発生し、ワークWに成膜処理が行われる。なお、プラズマビームPの強度は、直流電源16の印加電圧に左右される。
【0036】
具体的には、直流電源16によりハース5とプラズマガン4との間に直流電圧が印加されると、プラズマビームPが発生される。このプラズマビームPは、第1のコイル15および第2のコイル29等により形成される磁界に誘導されてハース5に照射される。タブレット支持棒25によりハース5に供給されたタブレット21は、プラズマビームPの照射により上面が加熱されて昇華される。タブレット21の気体は、プラズマビームPを通過中にイオン化して、ワークWの表面に付着して被膜を形成する。
【0037】
次に、図3を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るイオンプレーティング装置による位置規制動作について説明する。図3は、本発明の第1の実施の形態に係るイオンプレーティング装置による位置規制動作の動作遷移図である。
【0038】
図3(a)に示すように、タブレット21は、タブレット支持棒25を介して下方から圧縮ばね31により付勢されて3つの接触部37に押し付けられており、タブレット21の上面が所定の高さに位置規制されている。このとき、各接触部37は、回転支持部35の回転によりタブレット21の上面に回転接触し、プラズマビームPがタブレット21の上面に均一に照射されるように接触部分を遷移させている。この状態においてプラズマビームPがタブレット21の上面に照射されると、図3(b)に示すように、タブレット21の上面が昇華されてタブレット21が減少する。なお、図3(b)においては、説明を分かり易くするために、タブレット21の減少量を強調して図示している。
【0039】
タブレット21の減少によりタブレット21のサイズが縮小すると、図3(c)に示すように、圧縮ばね31によりサイズの縮小分だけタブレット21が押し上げられて、タブレット21が各接触部37に押し付けられるため、タブレット21の上面が所定の高さで位置規制される。このとき、各接触部37は周方向に等間隔でタブレット21の上面に接触しているため、タブレット21の上面が水平姿勢を保った状態で各接触部37に押し付けられる。このように、タブレット21の上面が水平姿勢を保ったまま、所定の高さに位置規制されるため、プラズマビームPの照射によりタブレット21が減少しても、タブレット21の真空チャンバ3の内部におけるハース5の上面からの突出長が常に一定に維持される。
【0040】
以上のように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1によれば、圧縮ばね31によりタブレット21が押し出されてタブレット21の上面が接触部37に押し当てられるため、成膜中にタブレット21が消費によって減少した場合でも、タブレット21の上面が所定位置に規制される。したがって、成膜中に真空チャンバ3の内部におけるハース5の上面からのタブレット21の突出長を一定に維持することができ、安定した成膜レート及び良好な膜質でワークWに成膜することが可能となる。
【0041】
なお、上記した第1の実施の形態においては、トルクモータ32により圧縮ばね31の付勢力を制御する構成としたが、タブレット21の強度が高いものであれば、ばね定数の大きな圧縮ばね31を使用することでトルクモータ32を設けない構成としてもよい。また、逆にトルクリミッタ付きのトルクモータ32を使用することで圧縮ばね31を設けない構成としてもよい。
【0042】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本発明の第2の実施の形態に係るイオンプレーティング装置は、上述した第1の実施の形態に係るイオンプレーティング装置と接触部に対するタブレットの接触状態に応じてタブレットの上昇量を制御する点においてのみ相違している。したがって、特に相違点についてのみ説明する。図4は、本発明の第2の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の模式図である。
【0043】
図4に示すように、本発明の第2の実施の形態のイオンプレーティング装置41において、各アーム部76が回転支持部75の内壁に対して上下方向にスライド可能に片持支持されており、各アーム部76の基端側にはそれぞれ接触部77とタブレット61の上面との接触を検出する検出スイッチ78が設けられている。なお、請求項に記載の接触検出部は、アーム部76、接触部77および検出スイッチ78を含んで構成されている。
【0044】
各検出スイッチ78は、接触子がアーム部76の上面に接触しており、アーム部76の高さに応じてON・OFFを切り替え可能となっている。例えば、タブレット61の上面と接触部77とが接触状態の場合には、接触子が水平姿勢を保ち、各検出スイッチ78がOFF状態を維持している。この状態から、タブレット61の上面と接触部77とが非接触状態になると、アーム部76が下方に移動し、接触子が水平姿勢から傾いて各検出スイッチ78がON状態になる(図5参照)。また、各検出スイッチ78は、制御部71に接続されており、制御部71に対して接触部77とタブレット61の上面との接触状態を示すON・OFF信号を出力している。
【0045】
トルクモータ72は、制御部71の制御によりタブレット支持棒65を上下方向に移動させる構成となっている。制御部71は、各検出スイッチ78から出力されたON・OFF信号に応じてトルクモータ72を駆動制御し、タブレット61の上面を所定の高さに上昇させる。なお、トルクモータ72が制御部71を有する構成としてもよい。
【0046】
次に、図5を参照して、本発明の第2の実施の形態に係るイオンプレーティング装置による位置調整動作について説明する。図5は、本発明の第2の実施の形態に係るイオンプレーティング装置による位置調整動作の動作遷移図である。
【0047】
図5(a)に示すように、タブレット61は、タブレット支持棒65により下方から押し上げられて、タブレット61の上面が3つの接触部77に接触する高さに調整されている。このとき、各接触部77は、回転支持部75の回転によりタブレット61の上面に回転接触し、プラズマビームPがタブレット61の上面に均一に照射されるように接触部分を遷移させている。この状態においてプラズマビームPがタブレット61の上面に照射されると、図5(b)に示すように、タブレット61の上面が昇華されてタブレット61が減少する。なお、図5(b)においては、説明を分かり易くするために、タブレット61の減少量を強調して図示している。
【0048】
タブレット61の減少によりタブレット61のサイズが縮小すると、各接触部77とタブレット61とが非接触状態となり、各アーム部76が下方に移動して各検出スイッチ78の接触子が傾いて各検出スイッチ78から制御部71にON信号が出力される。各検出スイッチ78から制御部71にON信号が出力されると、図5(c)に示すように、トルクモータ72によりタブレット支持棒65が一定量上昇され、接触部77とタブレット61とが接触する。このように、タブレット61の上面が所定の高さに位置調整されるため、プラズマビームPの照射によりタブレット61が減少しても、タブレット61の真空チャンバ43の内部におけるハース45の上面からの突出長が常に一定に維持される。
【0049】
以上のように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置41によれば、検出スイッチ78により検出されたタブレット61の上面と接触部77との接触状態に応じてトルクモータ72によりタブレット61の押し出し量が制御されるため、成膜中にタブレット61が消費によって減少した場合でも、タブレット61の上面が所定位置に調整される。したがって、成膜中に真空チャンバ43の内部におけるハース45の上面からのタブレット61の突出長を一定に維持することができ、良好な膜質でワークWに成膜することができる。
【0050】
なお、上記した第2の実施の形態においては、検出スイッチ78により接触部77とタブレット61との接触状態を検出する構成としたが、接触部77とタブレット61との接触圧を検出する構成としてもよい。この場合には、接触部77とタブレット61との接触圧が所定圧より低下した場合に、接触部77とタブレット61との接触圧が所定圧になるまでトルクモータ72を駆動するようにする。
【0051】
また、上記した第2の実施の形態においては、各接触部77のそれぞれに検出スイッチ78を設ける構成としたが、いずれか1つの接触部77に検出スイッチ78を設ける構成としてもよい。
【0052】
なお、上記した各実施の形態においては、ハース5、45を真空チャンバ3、43の底壁3b、43bに設け、下方からワークWの表面に成膜する構成としたが、図6に示すように、複数のハース85を真空チャンバ83の側壁83dに設け、側方からワークWの表面に成膜する構成としてもよい。この構成により、ワークWを立てた状態でワークWの表面に成膜することができ、ワークWを水平した状態のように自重により撓むことがないため、大面積の大型ワークに成膜することが可能となる。
【0053】
また、上記した各実施の形態においては、タブレット21、61に対して接触部37、77を回転させる構成としたが、接触部37、77とタブレット21、61とを相対回転させる構成であればよく、例えば、接触部37、77に対してタブレット21、61を回転させる構成としてもよい。この場合、タブレット支持棒25、65にタブレット21、61の中心軸を中心として回転可能な機構を接続するようにする。
【0054】
また、上記した各実施の形態においては、3つの接触部37、77とタブレット21、61の上面とが3箇所で接触する構成としたが、接触部37、77とタブレット21、61とが安定して接触するのであれば何箇所で接触する構成としてもよい。例えば、接触部37、77とタブレット21、61とが2箇所で接触する場合には、タブレット21、61の中心軸を中心として点対象となる位置に接触するようにする。
【0055】
また、上記した各実施の形態においては、3つの接触部37、77とタブレット21、61の上面とが回転接触する構成としたが、3つの接触部37、77とタブレット21、61の上面との接触部分が遷移する構成であればよく、例えば、3つの接触部37、77とタブレット21、61の上面との接触部分を120度の回転角度で往復移動させる構成としてもよい。
【0056】
また、上記した各実施の形態においては、3つのアーム部36、76を回転させるために回転支持部35、75に片持支持する構成としたが、各アーム部36、76を回転させずに真空チャンバ3、43の側壁に片持支持する構成としてもよい。
【0057】
また、上記した各実施の形態においては、トルクモータ32、72によりタブレット支持棒25、65を上下動させる構成としたが、タブレット支持棒25、65を上下動させるアクチュエータであればどのような構成でもよい。例えば、アクチュエータとしてエアーシリンダや油圧シリンダを用いてもよい。
【0058】
また、上記した各実施の形態においては、本発明をロングサイズのタブレット21、61に適用した例を挙げて説明したが、本発明をショートサイズのタブレットに適用することも可能である。また、膜材として酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により焼結成形したタブレットを使用したが、ワークWを成膜するものであればこれに限定されるもではない。
【0059】
また、上記した各実施の形態においては、ハース5、45の中央にタブレット21、61を収容して、ハース5、45とタブレット21、61とを近接配置した例を示して説明したが、タブレット21、61がハース5、45に近接配置されていれば、ハース5、45の中央にタブレット21、61を収容する構成に限定されない。
【0060】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0061】
また、以下の内容も本発明は含む。本発明のイオンプレーティング装置は、チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜用の膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する膜材支持部と、前記膜材支持部を介して前記膜材を前記チャンバ内に押し出すアクチュエータと、前記チャンバ内に突出した膜材の突出方向における先端面の少なくとも一部に接触可能な接触部を有し、前記膜材の前記先端面と前記接触部との接触を検出する接触検出部とを備え、前記アクチュエータは、前記接触検出部の検出結果に基づいて前記膜材の押し出し量を制御することを特徴とする。
【0062】
この構成によれば、接触検出部により検出された膜材の先端面と位置規制部との接触状態に応じてアクチュエータにより膜材の押し出し量が制御されるため、成膜中に膜材が消費によって減少した場合でも、膜材の先端面が所定位置に調整される。したがって、成膜中にチャンバ内における膜材の突出長を一定に維持することができ、良好な膜質でワークに成膜することができる。なお、接触検出部とは、膜材と位置規制部との接触の有無のみならず、膜材と位置規制部との接触圧を検出する態様を含むものである。
【0063】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記接触検出部を支持すると共に、前記膜材の突出方向の中心軸を中心として回転可能な回転支持部を備え、前記回転支持部の回転により前記膜材と前記接触部とが回転接触することを特徴とする。
【0064】
これらの構成によれば、プラズマビームが照射されない膜材の先端面と接触部との接触部分が遷移するため、膜材の先端面を均一に減少させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明は、チャンバ内における膜材の突出長を一定に維持して、安定した成膜レート及び良好な膜質で成膜できるという効果を有し、特に突き上げ方式のイオンプレーティング装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係るイオンプレーティング装置の第1の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置の模式図である。
【図2】本発明に係るイオンプレーティング装置の第1の実施の形態を示す図であり、接触部とタブレットとの接触状態の説明図である。
【図3】本発明に係るイオンプレーティング装置の第1の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置による位置規制動作の動作遷移図である。
【図4】本発明に係るイオンプレーティング装置の第2の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置の模式図である。
【図5】本発明に係るイオンプレーティング装置の第2の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置による位置調整動作の動作遷移図である。
【図6】本発明に係るイオンプレーティング装置の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1、41 イオンプレーティング装置
3、43 真空チャンバ(チャンバ)
4、44 プラズマガン(プラズマビーム発生源)
5、45 ハース
5a、45a 貫通孔
6 搬送部
7 規制機構
8 ガス導入口
9 駆動機構(押出部)
21、61 タブレット(膜材)
25、65 タブレット支持棒(膜材支持部)
32、72 トルクモータ(アクチュエータ)
33 駆動棒
35、75 回転支持部
36、76 アーム部(位置規制部、接触検出部)
37、77 接触部(位置規制部、接触検出部)
71 制御部
78 検出スイッチ(接触検出部)
W ワーク
P プラズマビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜用の膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する膜材支持部と、前記膜材支持部を介して前記膜材を前記チャンバ内に押し出す押出部と、前記チャンバ内に突出した膜材の突出方向における先端面の少なくとも一部に接触可能な接触部を有し、前記接触部を前記膜材の前記先端面に当接させて前記膜材の前記先端面を所定位置に位置規制する位置規制部とを備えたことを特徴とするイオンプレーティング装置。
【請求項2】
前記押出部は、ばね部材を有し、前記ばね部材の付勢力を利用して前記膜材を押し出すことを特徴とする請求項1に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項3】
前記押出部は、トルクモータを有し、前記トルクモータのトルクを利用して前記膜材を押し出すことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項4】
前記位置規制部は、前記膜材の前記先端面の少なくとも2箇所に接触することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項5】
前記位置規制部を支持すると共に、前記膜材の突出方向の中心軸を中心として回転可能な回転支持部を備え、
前記回転支持部の回転により前記膜材と前記位置規制部とが回転接触することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項6】
前記膜材の突出方向の中心軸を中心として前記膜材支持部を介して前記膜材を回転可能とする膜材回転部を備え、
前記膜材回転部の回転により前記膜材と前記位置規制部とが回転接触することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項7】
前記位置規制部は、前記膜材の突出方向の中心軸を中心とした周方向に等間隔で3箇所において接触し、
前記膜材と前記位置規制部との接触部分は周方向に120度以上の角度範囲を回転移動することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のイオンプレーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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