説明

イオン性液体におけるセルロースエーテルの均質合成

【課題】新規なセルロースエーテルの均質合成方法を提供する。
【解決手段】イオン性液体を含んでなる溶剤中にセルロースを溶解させる工程と、無機塩基の非存在下で、少なくとも一種のエーテル化剤を前記溶液に加え、セルロースエーテルを形成する工程、前記反応混合物を、前記エーテル化反応で得られる前記セルロースエーテル用の非溶剤に加え、それによって、前記セルロースエーテルを沈殿させる工程、前記セルロースエーテルを分離する工程、および前記セルロースエーテルを精製する工程を含んでなる、セルロースエーテルの製造方法。得られたセルロースエーテルは、重合体鎖上に新規な置換基分布を示し、新規な特性および用途を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機または無機塩基を使用せずに、均質な反応媒体中でセルロースエーテルを製造する方法に関する。この均質な反応媒体は、セルロースのイオン性液体溶液を含んでなる。さらに、本発明は、本方法により製造されたセルロースエーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
不均質媒体におけるセルロースの反応
セルロースエーテルには、その傑出した特性により、非常に広範囲の用途があり、非常に多くの用途および製品に使用されている。それらの万能性にも関わらず、セルロースエーテルの工業的合成は、前世紀の20年代にErnst ad Sponselが最初の工業的に有用なセルロースエーテル製造方法を公開して以来、あまり変化していない。
【0003】
それに続く何年かの間、工業的研究者は、異なった種類の不活性反応媒体を導入することにより、あるいはエーテル化を幾つかの反応工程に分割することにより、この製法の改良を鋭意試みた。全ての工業的努力は、幾つかの事実を共通して有するプロセスに通じていた。反応は不均質様式で行われる、即ちセルロースおよびその反応中間体および生成物が、反応全体を通して、固体形態から一度も離れない。この不均質性のために、製品の品質は、攪拌装置の品質および反応容器の幾何学的構造によって大きく左右される(EP1293515)。
【0004】
今日まで開示されている不均質エーテル化方法は全て、例えば苛性ソーダ溶液を反応媒体に加えることにより、エーテル化の前にセルロースを活性化することを常に必要としている。苛性ソーダは、セルロースの結晶性区域を破壊し、エーテル化試剤に到達し易くするために、およびエポキシドとMichael基体の反応に対する触媒として、またはWilliamsonエーテル合成に関してはハロゲン化合物を使用する場合の化学量論的反応物としても必要である。セルロースのアルカリ化は、その不均質反応に対する重要性にも関わらず、学問的出版物における活発な議論の中でも、まだ十分には理解されていない(C. Cuissant and P. Navard, Macromol. Symp., 2006, 244, 19)。不均質経路の生態学的および経済的観点、例えばセルロースの活性化、使用する薬品の精製および重合体分解のための高コストならびにエネルギー消費、使用する薬品の精製、を考慮すると、アルカリの使用は好ましくない筈である。さらに、苛性ソーダを水と共に反応混合物に供給するが、これは、一方では、セルロースの活性化に必要である。他方、水を苛性ソーダと共に使用することにより、副生成物と未反応エーテル化試剤とのエーテル化の結果、副生成物、即ちグリコール、アルコールおよびエーテル、の形成が増加する。特に高度にエーテル化された生成物に関しては、副生成物を形成する経路が多いために、エーテル化効率が40%に低下する。反応混合物の中和に関して、アルカリは、除去する必要がある、好ましくない大量の塩を必然的に形成する。さらに、製造されたセルロースエーテルは、重合体鎖に沿って、および重合体鎖間に、置換基の好ましくない分布を示す。このため、セルロースエーテルは不完全な溶解度を示す。アンヒドログルコース単位のヒドロキシ部分のレギオ選択的誘導体化は、不均質経路では行うことができない。対照的に、セルロース誘導体の均質製造により、セルロースの活性化を行わずにセルロースエーテルを合成する方法を開発することができ、新規で、より優れた特性を有する製品を高収率で製造し、不均質合成の欠点を緩和することができる。
【0005】
均質媒体中におけるセルロース誘導体化
幾つかの溶剤が、それらの、実験室規模でセルロースを均質誘導体化するための媒体としての用途に関して研究されている。過去2世紀の間に、均質相でセルロースをエーテル化するための様々な水性および非水性セルロース溶剤系が研究されている。N,N-ジメチルアセトアミド/LiCl(T.R. Dawsey, C.L.McCormic, J. Macromol. Sci., Rev. Macromol. Chem. Phys. 1990. C30, 405)が、セルロースのエーテル化、例えばメチル化、ヒドロキシエチル化、ベンジル化およびカルボキシメチル化、用の反応媒体として使用された。しかし、この反応媒体は、収率が悪く、コストおよびエネルギー消費が高いと共に、使用する薬品の精製のために、実験室規模でしか使用できない。溶剤SO/ジエチルアミン/ジメチルスルホキシド(A. Isogai et al., J. Appl. Polym. Sci. 1984, 29, 3873)で、トリ-O-置換されたセルロースエーテル、例えばトリ-O-アリールメチルセルロース、の製造が行われた。N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO, DE19730090)、LiCl/1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(A. Takaragi et al., Cellulose 1999, 6, 93)、N,N-ジメチルホルムアミド/N(Th. Heinze, T. Liebert, Prog. Polym. Sci. 2001, 26, 1689)、Ni(tren)/(OH)[tren=トリス(2-アミノエチル)アミン]水溶液、LiClOx3HO、(Th. Heinze, T. Liebert, P. Klufers, F. Meister, Cellulose 1999, 6, 153)、NaOH/水性尿素溶液(J. P. Zhou et al., Macromol. Biosci. 2006, 6, 84)および溶剤ジメチルスルホキシドとフッ化アンモニウムの組合せ(S. Koehler, Th. Heinze, Macromol. Biosci. 2007, 7, 307)も、従来に無いセルロース誘導体の均質製造用の溶剤として適切であることが立証されている。これらの溶剤系は、セルロースを誘導体
化する様々な見込みがあるにも関わらず、溶剤の複雑で経費のかかる循環使用、高毒性、揮発性および高分子量セルロースの限られた溶解度のために、大規模使用には適していない。セルロース溶剤としてのNMMOxHOは、成形(US-PS 4196282)およびセルロースの変性(例えばアクリロニトリルおよびメチルビニルケトンによる、US-PS 3447939)に使用される。塩基として水酸化ナトリウムの使用下でのセルロースのカルボキシメチル化が開示されている(DD-PS 207380)。エポキシまたはビニル部分を含む試薬、例えばエチレンオキシド、アクリロニトリル、およびアルキルハロゲン化物を含む試薬、例えば塩化メチル、による、水酸化ナトリウムのような塩基の存在下でのセルロースのエーテル化は、DE 19730090に記載されている。溶剤の不安定性のために、安定剤を使用する必要がある。有機または無機塩基の使用および安定剤の添加により、生物重合体の分解を引き起こし、循環使用およびその用途にとって非常に大きな欠点になっている。副反応、例えばホモリチックおよびヘテロリチック結合開裂、の発生、熱的不安定性または溶解工程に必要な高温は、エーテル化反応の工業的な応用を妨げている。
【0006】
イオン性液体
しかし、新規で効率的な、循環使用可能なセルロース溶剤が益々重要になっている。最近、イオン性液体がセルロースを溶解させるのに非常に大きな潜在的能力を有することが見出された。液化N-アルキル-ピリジニウムまたはN-ベンジル-ピリジニウム塩酸塩中における、好ましくは無水窒素含有塩基、例えばピリジン、の存在下でのセルロースの溶解は、1934年に開示されている(US 1943176)。今日、これらの塩は、イオン性液体、特に室温イオン性液体と呼ばれている。これらの溶融塩は、典型的には-100℃〜300℃の融点を示す(P. Wasserscheid, T. Welton (eds), Ionic Liquids in Synthesis 2003, WILEY-VCH, p. 1-6, 41-55 and 67-81)。イオン性液体の溶剤特性は、陰イオンおよび陽イオンの性質を単純に変えるだけで、極性およびサイズが変化するために調節することができる。さらに、イオン性液体は、測定できる程の蒸気圧が無く、熱安定性を有する。セルロース/イオン性液体溶液は、セルロースのエーテル化およびエステル化に好適である。WO 03/029329は、繊維状セルロース、木材パルプ、リンター、コットンボールまたは紙、即ち高純度形態にあるセルロース、の、マイクロ波放射線を適用する、様々なイオン性液体における、溶解方法を開示している。1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドのようなイオン性液体は、セルロースを、6500までの非常に高い重合度(DP)でも、誘導体化および分解を起こさずに、非常に容易に溶解させる(O.A. EI Seoud et al., Biomacromolecules, 2007, 8(9), 2629)。イオン性液体が、セルロースの均質誘導体化に、細菌性セルロイであっても、適切な反応媒体であることはすでに公知である。例えば、非常に様々なアシル化反応が開示されている(O.A. EI Seoud et al., Biomacromolecules, 2007, 8(9), 2629)。
【0007】
イオン性液体中におけるセルロースのエーテル化反応は、ほとんど報告されていない。WO 2005/054298では、セルロースのIL 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド中への溶解およびその、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、の存在下でのカルボキシメチル化が開示されている。合成されたセルロースエーテルは、続いて溶液から分離される。溶解およびエーテル化は、水の実質的な非存在下で、マイクロ波放射線および/または圧力を作用させることにより、行われる。KR 2006086069は、セルロースをイミダゾリニウム系イオン性液体、例えば1-アルキル-3-イミダゾリニウム塩中に溶解させ、セルロースを均質条件下で、触媒として金属水酸化物、例えばNaOH、を使用してエーテル化する工程を開示している。Th. Heinze, K. SchwikalおよびS. Baethelも、セルロースの1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド中、NaOHの存在下でのカルボキシメチル化を研究している(Th. Heinze et al., Macromol. Biosci, 2005, 5, 520)。さらに、トリフェニルメチルクロリドによるセルロースの誘導体化が、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド中、有機塩基、例えばピリジン、を使用して行われている(T. Erdmenger et al., Macromol. Biosci., 2007, 7, 440)。しかし、有機および無機塩基の使用は、幾つかの欠点がある。塩基性条件下での重合体分解に加えて、イミダゾリウム系イオン性液体は、C-2位置で脱プロトン化する傾向がある。脱プロトン化されたイミダゾリウム陽イオンは、アルデヒドのカルボニル部分に直接付加される場合がある(V. Aggarwal, Chem. Commun., 2002, 1612)。さらに、不可避な塩を中和後に除去する必要があり、技術的な困難がある。その上、さらに別の薬品を加えることは、それらの分離およびイオン性液体の循環使用のために、経費がかかり、非経済的である。
【0008】
ミクロクリスタリンセルロース、コットンリンターまたはクラフトセルロースを1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリドまたは1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド中に溶解させ、高出力超音波照射で支援し、溶解工程を強化する方法も知られている(J.-P Mikkola et al., 「イオン性液体におけるセルロース処理の超音波強化、溶解から官能化に向けて」(Ultrasound enhancement of cellulose processing in ionic liquids: from dissolution towards functionalization), in Green Chem. 9 [2007] 1229-1237)。この記事では、イオン性液体に溶解させたセルロースの、2-クロロ-プロパン酸または2-クロロブタン酸によるカルボキシエチル化およびカルボキシプロピル化が、詳細説明は無く、簡単に記載されている。このようにして製造されたセルロースエーテルの平均置換度(DS)は、反応混合物にNaOHを加えた場合以外は、かなり低い。他方、NaOHは、イオン性液体の分解を引き起こしている。
【0009】
WO 2005/054298 A1は、セルロースをイオン性液体溶剤と混合してセルロースを溶解させること、次いで溶解したセルロースをエーテル化剤で、無機塩基の存在下で処理し、セルロースエーテルを形成すること、および続いてセルロースエーテルを溶液から分離することを含んでなる、セルロースエーテルの製造方法を開示している。溶解およびエーテル化工程の両方を、有機塩基の非存在下で、および水の実質的な非存在下で行う。塩基は、少なくとも化学量論的量で加え、反応完了後に中和する必要があり、それによって、非常に大量の塩が形成され、この塩は、洗浄し、廃棄する必要がある。
【0010】
従って、本発明の目的は、有機および無機塩基を全く加える必要が無く、塩の量を低減させる、セルロースエーテルの簡単な製造方法を開発することである。別の目的は、エーテル化を、均質な、即ちセルロースが完全に溶解している反応混合物中で行う方法を提供することである。別の目的は、重合度(DP)が高いセルロースを使用できる方法を提供することである。これに関して、高いDPとは、1,000以上、特に1,500以上、さらには6,500まで高いDPを意味する。
【発明の概要】
【0011】
上記の目的を達成するために、セルロースをイオン性液体中に溶解させること、有機または無機塩基の非存在下でエーテル化で処理すること、続いてセルロースエーテルを溶液から沈殿させることを含んでなり、溶解およびエーテル化を、有機または無機塩基を全く加えずに行う、セルロースエーテルの製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
溶解およびエーテル化は、適度の量の水および/または触媒、例えば有機および無機酸、の非存在下でも、存在下でも、行うことができる。
【0013】
セルロースの溶解は、0℃〜250℃、好ましくは10℃〜170℃、例えば20℃〜130℃、で行うことができる。溶液は、セルロースが完全に溶解するまで攪拌する。
【0014】
溶解およびエーテル化の際、有機溶剤または共溶剤、好ましくはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタンおよびクロロホルム、を使用し、セルロース溶液の粘度、イオン性液体の極性、およびエーテル化剤とイオン性液体との混和性を調節する。
【0015】
溶解およびエーテル化は、保護する不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、これが必要であるという訳ではない。
【0016】
溶解およびエーテル化は、0〜25重量%の、少量および/または中-小量の水の非存在下または存在下で行う。好ましくは、含水量は、≧0重量%、特に好ましくは3〜20重量%、特に5〜15重量%であるが、それでもセルロースは、イオン性液体中に確実に溶解する。
【0017】
あらゆる種類のセルロース、ミクロクリスタリンセルロース、スプルース亜硫酸塩パルプ、木材パルプ、コットンリンターまたは6500までの広範囲の重合度を示す細菌性セルロースを使用する。
【0018】
イオン性液体中のセルロース濃度は、1〜35重量%、好ましくは4〜20重量%である。
【0019】
エーテル化は、セルロースをイオン性液体に溶解させる温度と同じ温度、0〜250℃、で行うことができる。好ましくは、エーテル化は20℃〜130℃で行う。
【0020】
驚くべきことに、有機または無機塩基は必要なく、従って、セルロースエーテルの溶解およびエーテル化の際に存在しない。この反応が、塩基を添加せずに、何故効果的に起こるのかは十分には理解されていない。これまで、エーテル化剤を加える前に、塩基、例えば水酸化ナトリウム、でセルロースを活性化することは不可欠であると考えられていた。
【0021】
エーテル化は圧力100〜2000 mbarで行うことができ、好ましくはエーテル化は1000〜1300 mbarで行う。融点-100℃〜200℃、好ましくは-50℃〜120℃のイオン性液体を使用することができる。
【0022】
イオン性液体は溶融塩であり、好ましくは有機陽イオンおよび有機ならびに無機陰イオンを含む。イオン性液体の陽イオンは、好ましくは異原子として一個以上の窒素、酸素または硫黄原子を含んでなる非対称性五員複素環でよいが、これに限定するものではない。
複素環は、芳香族であるか、または飽和されていてよい。陽イオンの例を下記の図に示す。
【化1】

式中、RおよびRは、互いに独立して、(C〜C)アルキルまたは(C〜C)アルコキシアルキル基を表し、
、R、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素またはハロゲン原子、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシアルキルまたは(C〜C)アルコキシ基を表す(ハロゲン原子は、好ましくはクロロ、ブロモまたはフルオロである)。
【0023】
好ましくは、上記の式中、RおよびRは、両方共、(C〜C)アルキル基であり、R〜Rは、存在する場合、好ましくは水素原子である。
【0024】
用語(C〜C)アルキルは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、イソブチル、ペンチル、ペンチルの異性体、ヘキシルおよびヘキシルの異性体を包含する。
【0025】
(C〜C)アルコキシは、酸素原子に結合した上記の(C〜C)アルキルを含む。(C〜C)アルコキシアルキルは、アルコキシ基により置換されたアルキル基であり、炭素原子の総数は、2〜6である。
【0026】
好ましい陽イオンは、一個以上の窒素、酸素または硫黄を含む5員の複素環、例えば
【化2】

であり、式中、R〜Rは、上に規定した通りである。この式中、R〜Rは、好ましくはそれぞれ水素であり、RおよびRは、独立して、(C〜C)アルキルまたは(C〜C)アルコキシアルキルである。より好ましくは、RおよびRの一方は、メチルであり、他方は(C〜C)アルキルである。この式中、Rは、ハロゲン、好ましくはクロロ、でもよい。
【0027】
イオン性液体の陰イオンは、ハロゲン、例えばクロリド、ブロミドまたはヨージド、疑似ハロゲン、例えばチオシアネートまたはシアネート、パークロレート、(C〜C)カルボキシレート、例えばホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、ラクテート、ピルベート、マレエート、フマレートまたはオキサレート、ナイトレート、ジシアノアミド、一個以上のハロゲン原子により置換された(C〜C)カルボキシレート、例えばトリクロロ酢酸、一個以上のハロゲン原子により置換された(C〜C)アルキルスルホネート、例えばトリフルオロメタンスルホネート(トリフレート)、ボレート、例えばテトラフルオロボレートおよびビス[オキサレート(2-)]ボレート、または六フッ化リン、六フッ化アンチモンおよびジブチルホスフェートの一つでよい。
【0028】
陽イオンが下記の
【化3】

であり、式中、RおよびRは、互いに独立して、C〜Cアルキルを表し、
、が水素原子またはメチルであり、
およびRが水素である場合、イオン性液体の好ましい陰イオンは、カルボキシレートまたはハライド、例えばアセテートおよびクロリド、である。
【0029】
第4級アンモニウム陽イオンのR10、R11、R12およびR13は、互いに独立して、(C〜C30)アルキル、これは直鎖状または分岐鎖状でよく、好ましくは(C〜C12)アルキル基である、(C〜C)炭素環式化合物、これはシクロアルキル、シクロアルケニル、フェニル、およびフェネチル基を包含する、または(C〜C)複素環式基、これは飽和、不飽和または芳香族でよく、窒素、酸素および硫黄からなる群から選択された異原子を含む、を表す。第4級アンモニウム塩の対応する陰イオンは、ハロゲン、疑似ハロゲン、パークロレート、(C〜C)カルボキシレート、イミド、ニトリルまたは水酸化物である。
【0030】
好ましいイオン性液体は、室温で液体である1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート、1-エチル-2,3-ジメチル-イミダゾリウムアセテートおよび1-ブチル-2,3-ジメチル-イミダゾリウムクロリドである。
【0031】
セルロースエーテルの合成には、広範囲な重合度を有する様々なセルロースを、下記の反応により使用できる。
【化4】

【0032】
上記の反応スキーム中、
は、(C〜C20)アルキル、アリールまたはアリール-(C〜C20)アルキルを表す。アルキルまたはアリールは、カルボキシル、ヒドロキシル、アミノ、アルコキシ、ハロゲン、シアノ、カルバモイル、スルホ、ホスホロ、ニトロおよびシリル部分から選択された一個以上の官能基で置換されていてよく、
は、(C〜C)アルキル、アリールおよびアリール-(C〜C)アルキル部分からなる3個の基によりシリル置換されていてもよく、
は、水素原子または基Rのいずれかを表し、
およびRは、互いに独立して、水素、または所望によりカルボキシル、ヒドロキシル、アミノ、アルコキシ、ハロゲン、シアノ、カルバモイル、スルホ、ホスホロ、ニトロおよびシリル部分から選択された一個以上の置換された官能基で置換された(C〜C20)アルキルを表し、
Xは、ハロゲン、例えばクロリド、ブロミドまたはヨージド、もしくはサルフェートを表し、
Zは、O(この環状化合物はエポキシドである)またはNH(この環状化合物はアジリジンである)を表し、
Yは、電子吸引性置換基、例えばシアノ(CN)、カルバモイル(CONH)またはスルホ(SO3Na)、を表し、
およびRは、互いに独立して、水素原子または(C〜C)アルキルを表し、
は、(C〜C)アルキルを表す。
【0033】
アリールおよびアリール-(C〜C)アルキルは、上に規定した通りである。アルコキシ基は、好ましくは(C〜C17)アルコキシである。
【0034】
エーテル化剤は、注意深く滴下しながら、少量ずつ、セルロース溶液に温度0℃〜250℃、好ましくは20℃〜130℃で加えることができる。
【0035】
有機および無機酸または固体状態触媒は、化学量論的または触媒量で加えることができるが、必要という訳ではない。
【0036】
化学量論的または触媒量の水を、必要という訳ではないが、使用することができる。
【0037】
本発明の方法により製造されるセルロースエーテルのエーテル基は、アリルでよく、C〜C20アルキル基を、アルコキシ、アリールオキシ、ハロゲン、カルボキシル、ヒドロキシル、アミノ、アンモニウム、シアノ、カルバモイル、スルホ、ホスホロ、ニトロおよびシリル、好ましくはヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシおよびハロゲン、から選択された一個以上の官能基で置換することができる。
【0038】
アリール基はナフチルを包含する。アリール-(C〜C)アルキル基(アラルキルとも呼ばれる)は、1、2または3個の炭素原子を含むアルキル基により、セルロースのO基に結合した上記のアリール基である。アリール-(C〜C)アルキル基の用語は、例えばベンジル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチルおよびフェネチルを含む。
【0039】
本発明の方法により製造される好ましいセルロースエーテルは、2-ヒドロキシエチルセルロース、2-ヒドロキシプロピルセルロース、2-ヒドロキシブチルセルロース、2-ヒドロキシ-3-イソプロポキシ-プロピルセルロース、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルセルロース、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルセルロース、(2-ヒドロキシ-3-トリメチルアンモニウムプロピル)-セルロースクロリドおよび2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルセルロースである(表1参照)。
【0040】
13C NMRスペクトルは、製造されたセルロースエーテルの構造を示している。例えば、DMSO-d中の2-ヒドロキシプロピルセルロース(試料A、分子置換0.89)の13C DEPT 135 NMRスペクトルは、102.5 ppmで、2-ヒドロキシプロピル部分を支持するC-2原子に隣接するC-1に帰せられる信号を示す。さらに、置換された2-ヒドロキシプロピル部分にあるC-3炭素原子に対する小さなピークおよび遊離OH官能基を含む2-ヒドロキシプロピル部分におけるC-3原子に対する比較的大きなピークがある。
【0041】
本発明の方法により製造されるセルロースエーテルは、ただ一個の置換基を示す単一置換セルロースエーテル、および二個以上の異なった置換基を有する混合セルロースエーテルの両方でよい。
【0042】
得られるセルロースエーテルは、一般的に、セルロースエーテルの様々な興味深い特性を与える新規な置換パターンを示す。従って、本発明の方法により得られるセルロースエーテルも新規であり、本発明の一部である。
【0043】
セルロースのエーテル化反応時間、0.5〜96時間、好ましくは7〜20時間、の後、得られたセルロースエーテルを、好ましくは反応混合物をセルロースエーテルに対する非溶剤に加え、生成物を沈殿させることにより、単離することができる。非溶剤は、イオン性液体に対する溶剤であり、イオン性液体と混和し得るべきである。セルロースエーテルの適切な置換度に応じて、非溶剤はアルコール、例えば(C〜C)アルカノール、例えばメタノール、エタノール、プロパノールまたはイソプロパノール、でよい。また、他の非溶剤、例えばアセトン、アセトニトリル、ジクロロメタン、ポリグリコールおよび水でも、セルロースエーテルの適切な置換度では使用できる。
【0044】
さらに、セルロースエーテルは、使用するイオン性液体に対する適切な非溶剤で抽出することにより、分離することもできる。
【0045】
触媒を使用する場合、その触媒はイオン性液体から、好ましくは中和し、形成された塩を好ましくは濾過または押出により除去することにより、除去することができる。
【0046】
共溶剤を使用する場合、その共溶剤は、蒸留または押出により除去することができる。
【0047】
単離の後、得られたセルロースエーテルは、セルロースエーテルに対する非溶剤(上記参照)を使用し、生成物を洗浄し、得られたセルロースエーテルから副生成物を分離することにより、精製することができる。得られたセルロースエーテルを精製するためのもう一つの方法は、適切な置換度を有するセルロースエーテルを溶剤、例えば水、非プロトン性溶剤、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、アルコールまたはケトン、例えばアセトン、に溶解させることである。溶解後、セルロースエーテルを非溶剤(上記参照)、例えばイソプロピルアルコール、中で再沈殿させる。これらの2工程を、得られるセルロースエーテルが純粋になるまで、好ましくは3回、繰り返す。
【0048】
得られたセルロースエーテルは、空気乾燥、凍結乾燥または真空乾燥、好ましくは空気乾燥することができる。
【0049】
イオン性液体は、精製の後、再使用することができる。従って、触媒および水ならびに沈殿溶剤は、適切な分離方法(上記参照)により除去することができ、好ましくは溶剤は蒸留により分離することができる。イオン性液体は、高真空下で、温度20℃〜60℃で乾燥させることができる。最終的に、イオン性液体は再使用できる。
【0050】
本発明の利点は下記の通りである。
1)さらなる活性化を行わずに(塩基を必要としない)、セルロースをイオン性液体中に急速に、効率的に溶解させ、
2)高分子量セルロースをイオン性液体に、共溶剤の存在下でも、溶解させることができ、
3)イオン性液体に対する試薬の溶解性が良好であり、
4)共溶剤を使用して溶解性を改良することができ、
5)先行技術から公知の製法と比較して、好ましくない副生成物として生じる塩が無いか、またはほんの少量であり、
6)反応条件が穏やかであり、
7)有機および/または無機塩基が存在しないので、セルロース(エーテル)の鎖長の分解が無いか、またはほんの僅かであり、
8)アンヒドログルコース単位あたりエーテル化試薬のモル比、反応時間および温度の簡単な変化により、置換度を制御することができ、
9)広範囲な各種セルロースエーテルを製造する可能性があり、混合されたセルロースエーテルを製造する可能性を含み、
10)新規な置換基分布パターン、従って、新規な特性を有するセルロースエーテルを製造でき、
11)反応媒体としてイオン性液体およびマイクロ波放射線および圧力を使用する他の製法と比較して、セルロースエーテルの製造方法が経済的であり、
12)セルロースエーテルの単離/精製/乾燥が迅速で経済的であり、
13)イオン性液体の循環使用が可能である。
【0051】
本発明を下記の例により、より詳細に説明する。
【実施例】
【0052】
1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート中へのセルロースの溶解
生物重合体を、1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート中に、空気中、70℃で3時間まで攪拌しながら混合し、確実に完全に溶解させた。光学的に透明な溶液が得られた。
【0053】
例1 2-ヒドロキシプロピルセルロースの合成
セルロース(極限粘度数[η]Cuen=116)28.04 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート214.4 gに入れた溶液に、プロピレンオキシド121 mlを注意深く加え、反応混合物を70℃で15.5時間および21℃で8.5時間攪拌した。その後、反応混合物をアセトン/エタノールの25:75混合物1リットルに加え、2-ヒドロキシプロピルセルロース(表1、試料A)を沈殿させた。生成物を水に溶解させた後、溶液をエタノール4リットルに加え、生成物を単離し、エタノールで洗浄し、空気乾燥させた。
【0054】
DMSOおよび水に完全に溶解し得るヒドロキシプロピルセルロースは、Zeiselの方法により測定したMS=0.89を示した(収量22.1 g)。
【0055】
13C NMRスペクトル(135 MHz、DMSO-d) δ=102.5(C-1)、80.5(C-4)、79(2-ヒドロキシプロピル中のC-1)、75(C-5)、73.5(C-2、C-3)、66(2-ヒドロキシプロピル中のC-2)、61(C-6)、20.5(2-ヒドロキシプロピル中のC-3)
【0056】
例2 2-ヒドロキシプロピルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=116)13 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート99.3 gに入れた溶液に、プロピレンオキシド118 mlを注意深く加え、反応混合物を70℃で攪拌した。24時間後、メタノール1.5リットルを加えることにより、2-ヒドロキシプロピルセルロース(表1、試料B)を単離し、メタノール洗浄し、空気乾燥させた。
【0057】
DMSOおよび水に完全に溶解し得るヒドロキシプロピルセルロースは、Zeiselの方法により測定したMS=0.73を示した(収量13.6 g)。
【0058】
例3 2-ヒドロキシエチルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=116)6.5 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート49.7 gに入れた溶液に、20分間毎にエチレンオキシド5 ml(エチレンオキシドの総量20 ml)を注意深く加え、80℃で合計19時間攪拌した。水溶性ヒドロキシエチルセルロース(表1、試料G)を、イソプロピルアルコール2.5リットル中に沈殿させることにより単離し、水に溶解させ、イソプロピルアルコール3リットル中に沈殿させ、洗浄し、空気乾燥させた。
【0059】
DMSOおよび水に完全に溶解し得るヒドロキシエチルセルロースは、Zeiselの方法により測定したMS=1.07を示した(収量5.2 g)。
【0060】
13C NMRスペクトル(135 MHz、DMSO-d) δ=103(C-1)、82(C-2-s、C-3s)、80.5(C-4)、76.5(C-5)、74.5(C-2、C-3)、70.5(2-ヒドロキシエチル中のC-1)、61、60.5。
【0061】
例4 2-ヒドロキシエチルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=1470)4.0 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート76.2 gに入れた溶液に、20分間毎にエチレンオキシド4.2 ml(エチレンオキシドの総量41.2 ml)を、80℃で攪拌しながら注意深く加えた。19時間の反応後、得られたヒドロキシエチルセルロース(表1、試料H)を、イソプロピルアルコール2.5リットル中に沈殿させることにより単離し、洗浄し、空気乾燥させた。
【0062】
ヒドロキシエチルセルロースは、Zeiselの方法により測定したMS=0.09を示した(収量4.7 g)。
【0063】
例5 2-ヒドロキシエチルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=350)5.51 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート49 gに入れた溶液に、20分間毎にエチレンオキシド5.7 ml(エチレンオキシドの総量17.2 ml)を、80℃で攪拌しながら注意深く加えた。19時間の反応後、得られたヒドロキシエチルセルロース(表1、試料I)を、イソプロピルアルコール2.5リットル中に沈殿させることにより単離し、洗浄し、空気乾燥させた。
【0064】
ヒドロキシエチルセルロースは、Zeiselの方法により測定したMS=0.36を示した(収量5.02 g)。
【0065】
例6 3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=116)0.5 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート4.5 gに入れた溶液に、30分間毎に1-アリルオキシ-2,3-エポキシプロパン1.2 ml(1-アリルオキシ-2,3-エポキシプロパンの総量3.6 ml)を攪拌しながら80℃で注意深く加えた。合計48時間後、DMSOおよび水に溶解し得る3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルセルロース(表1、試料K)を、エタノール400 mlに沈殿させることにより単離し、水に溶解させ、メタノール400 ml中に沈殿させ、洗浄した。空気乾燥させた生成物を水に溶解させ、凍結乾燥させた。
【0066】
3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルセルロースは、過アセチル化後、H NMR分光法により測定したMS=0.30を示した(収量0.45 g)。
【0067】
13C NMRスペクトル(135 MHz、DMSO-d) δ=138(アリル中のC-2)、117(アリル中のC-3)、103(C-1)、80.5、75、72.5、72、69、60.5(C-6)。
【0068】
例7 2-ヒドロキシ-3-イソプロポキシプロピルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=116)0.5 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート4.5 gに入れた溶液に、2,3-エポキシプロピルエーテル4.1 mlを攪拌しながら80℃で注意深く加えた。合計48時間後、2-ヒドロキシ-イソプロポキシ-プロピルセルロース(表1、試料L)を、エタノール400 mlに沈殿させることにより単離し、水に溶解させ、メタノール400 ml中に沈殿させ、洗浄し、乾燥させた。
【0069】
2-ヒドロキシ-イソプロポキシ-プロピルセルロースは、過アセチル化後、H NMR分光法により測定したMS=0.21を示した(収量0.40 g)。
【0070】
13C NMRスペクトル(135 MHz、DMSO-d) δ=103.5(C-1)、80.5、75、73、71.5、70、60.5(C-6)、22.5。
【0071】
例8 3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=116)0.5 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート4.5 gに入れた溶液に、エピクロロヒドリン7.3 mlを攪拌しながら80℃で注意深く加えた。合計48時間後、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルセルロース(表1、試料M)を、エタノール100 mlに沈殿させることにより単離し、水に分散液させ、エタノール200 ml中に沈殿させ、洗浄し、乾燥させた。
【0072】
3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルセルロースは、元素分析により測定したMS=0.30を示した(収量0.31 g)。
【0073】
例9 (2-ヒドロキシ-3-トリメチルアンモニウムプロピル)-セルロースクロリドの合成
セルロース([η]Cuen=116)0.5 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート4.5 gに入れた溶液に、2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(QUAB(登録商標)151)14.04Gを攪拌しながら80℃で注意深く加えた。合計72時間後、(2-ヒドロキシ-3-トリメチルアンモニオノプロピル)-セルロースクロリド(表1、試料N)を、エタノール200 mlに沈殿させることにより単離し、洗浄し、乾燥させた。
【0074】
(2-ヒドロキシ-3-トリメチルアンモニオノプロピル)-セルロースクロリドは、元素分析により測定したMS=0.31を示した(収量0.69 g)。
【0075】
例10 2-ヒドロキシ-3-フェノキシ-プロピルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=116)0.5 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート4.5 gに入れた溶液に、フェニルグリシジルエーテル14.8 mlを攪拌しながら80℃で注意深く加えた。合計48時間後、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルセルロース(表1、試料O)を、エタノール200 mlに沈殿させることにより単離し、DMSOに溶解させ、イソプロパノール中に沈殿させ、洗浄し、乾燥させた。
【0076】
2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルセルロースは、過アセチル化後、H NMR分光法により測定したMS=2.00を示した(収量0.86 g)。
【0077】
13C NMRスペクトル(135 MHz、DMSO-d) δ=159(フェニルC-1)、130(フェニルC-4)、121(フェニルC-3)、114.5(フェニルC-2)、102、83、78、75、72、70、68.5、61。
【0078】
例11 2-ヒドロキシ-3-イソプロポキシプロピルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=116)0.5 gを1-ブチル-2,3-ジメチル-イミダゾリウムクロリド4.5 gに入れた溶液に、2,3-エポキシプロピルイソプロピルエーテル4.1 mlを攪拌しながら100℃で注意深く加えた。18時間後、反応温度を80℃に冷却し、この温度でさらに30時間攪拌した。2-ヒドロキシ-3-イソプロポキシプロピルセルロース(表1、試料P)を、メタノール200 mlに沈殿させることにより単離し、洗浄し、乾燥させた。
【0079】
2-ヒドロキシ-3-イソプロポキシプロピルセルロースは、過アセチル化後、H NMR分光法により測定したMS=0.25を示した(収量0.47 g)。
【0080】
例12 イオン性液体1-ブチル-2,3-ジメチル-イミダゾリウムクロリドの循環使用
2-ヒドロキシ-3-イソプロポキシプロピルセルロース(表1、試料P)をメタノール中に沈殿させることにより除去した後、試料11の濾液を蒸発により濃縮した。得られたイオン性液体を蒸留水10 mlで希釈し、この用液を酢酸エチル30 mlで5回抽出し、イオン性液体のポリ-2-イソプロポキシメチル-エチレングリコールを全て除去した。イオン性液体の水は、蒸発により除去し、蒸発に続き高真空下で除去する。循環使用されるイオン性液体の純度は、NMR分光法により確認する。得られる信号は、出発イオン性液体のH NMRスペクトルの信号と同等である。
【0081】
例13 3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=116)0.5 gを1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート4.5 gに入れた溶液に、プロピレンオキシド2.16 mlおよび1-アリルオキシ-2,3-エポキシプロパン3.63 mlを攪拌しながら80℃で注意深く一緒に加えた。合計48時間後、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルセルロース(表1、試料Q)を、メタノール200 mlに沈殿させることにより単離し、水150 mlに溶解させ、水に対して4日間透析(Spectra/Por(登録商標)した。脱イオン水は、3日間の期間中5回交換した。生物重合体水溶液の凍結乾燥後に生成物を得た(収量0.54 g)。
【0082】
例14 2-ヒドロキシプロピルセルロースの合成
セルロース([η]Cuen=116)0.4 gをベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド二水和物9.6 gに入れた溶液に、プロピレンオキシド1.73 mlを攪拌しながら80℃で注意深く滴下しながら加え、合計48時間反応させた。ヒドロキシプロピルセルロース(表1、試料R)を、エタノール250 mlに沈殿させることにより単離し、洗浄し、空気乾燥させた(収量0.33 g)。
【0083】
表1 1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテートにおけるセルロースのエーテル化結果
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性液体を含んでなる溶剤中にセルロースを溶解させる工程と、無機塩基の非存在下で、少なくとも一種のエーテル化剤を前記溶液に加え、セルロースエーテルを形成する工程、前記反応混合物を、前記エーテル化反応で得られる前記セルロースエーテル用の非溶剤に加え、それによって、前記セルロースエーテルを沈殿させる工程、前記セルロースエーテルを分離する工程、および前記セルロースエーテルを精製する工程を含んでなる、セルロースエーテルの製造方法。
【請求項2】
前記イオン性液体の融点が-100〜+200℃、好ましくは-50〜+150℃、特に好ましくは50〜120℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン性液体を含んでなる溶剤が、共溶剤を、それぞれの場合に前記溶剤の総重量に対して、好ましくは50重量%未満までの量で、特に好ましくは20重量%までの量でさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶剤が、それぞれの場合に前記溶剤の総重量に対して、25重量%まで、好ましくは15重量%までの水を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記共溶剤が、水、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメトキシエタンおよび/またはクロロホルムを含んでなる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記セルロースエーテル用の前記非溶剤が、前記イオン性液体用の溶剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記セルロースエーテル用の前記非溶剤が、アルコール、好ましくは直鎖状または分岐鎖状の(C〜C)アルカノール、ケトン、アクリロニトリル、オリゴ-またはポリグリコールおよび/または水である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
イオン性液体を含んでなる前記溶液中のセルロースの量が、それぞれの場合に前記溶液の総重量に対して、1〜35重量%、好ましくは4〜20重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン性液体中の前記陽イオンが、
【化1】

からなる群から選択された一種以上の陽イオンを含んでなり、式中、RおよびRが、互いに独立して、(C〜C)アルキルまたは(C〜C)アルコキシアルキル基を表し、R、R、R、R、R、RおよびRが、互いに独立して、水素またはハロゲン原子、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルコキシアルキルまたは(C〜C)アルコキシ基を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
およびRの両方が(C〜C)アルキル基であり、R〜Rが、存在する場合、水素原子である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン性液体中の前記陰イオンが、ハライド、好ましくはクロリド、ブロミドまたはヨージド;疑似ハライド、好ましくはチオシアネートまたはシアネート;パークロレート;(C〜C)カルボキシレート、好ましくはホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、ラクテート、ピルベート、マレエート、フマレートまたはオキサレート;ナイトレート;ジシアノアミド;一個以上のハロゲン原子により置換された(C〜C)カルボキシレート、好ましくはトリクロロアセテート;一個以上のハロゲン原子により置換された(C〜C)アルキルスルホネート、好ましくはトリフルオロメタンスルホネート(トリフレート);ボレート、好ましくはテトラフルオロボレートおよびビス[オキサレート(2-)]ボレート;六フッ化リン、六フッ化アンチモンおよびジブチルホスフェートからなる群から選択された一種以上の陰イオンを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記イオン性液体が、1-エチル-3-メチル-イミダゾリウムアセテート、1-エチル-2,3-ジメチル-イミダゾリウムアセテートおよび/または1-ブチル-2,3-ジメチル-イミダゾリウムクロリドである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記セルロースエーテルが、2-ヒドロキシエチルセルロース、2-ヒドロキシプロピルセルロース、2-ヒドロキシ-3-イソプロポキシ-プロピルセルロース、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルセルロース、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルセルロース、2-ヒドロキシ-3-トリメチルアンモニウム-プロピルセルロースまたは2-ヒドロキシ-3-フェノキシ-プロピルセルロースの塩化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記エーテル化剤が、アルキルハライド、アルキルサルフェート、エポキシド、アジリジン、アクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルスルホネートおよびジアゾアルカンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記エーテル化反応中に触媒が存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記触媒が、有機または無機酸もしくは固体状態触媒である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記イオン性液体が、前記セルロースエーテル用の非溶剤から循環使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法により得られるセルロースエーテル。

【公開番号】特開2009−209361(P2009−209361A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−24686(P2009−24686)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(509036584)エスエー、テュローゼ、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング、ウント、コンパニー、コマンディートゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】SE TYLOSE GMBH & CO.KG
【Fターム(参考)】