説明

イオン水生成装置

【課題】水の電気分解でイオン水を生成するイオン水生成装置において、電解槽内における細菌の繁殖を抑制する。
【解決手段】電解槽(20)に電極ユニット部(1)を設ける。この電極ユニット部(1)は、電源部(4)から電極対(2,3)へ直流電圧を印加することにより、電解槽(20)の水中に電気分解を起して電極対(2,3)間に放電場を含む電流経路を形成するとともに、放電場で生起したストリーマ放電によって過酸化水素を発生するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン水生成装置に関し、特にイオン水生成装置の電解槽内における細菌の繁殖を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水の電気分解を利用してイオン水を生成するイオン水生成装置が知られている。そして、このイオン水生成装置の中には、特許文献1に示すように、上記イオン水生成装置における電解槽内の微生物の繁殖を防止するものがある。
【0003】
特許文献1のイオン水生成装置は、上記電解槽に接続される吸気管を有している。この吸気管を通じて上記電解槽内へ外部空気が吸入されることで、該電解槽で生成されたイオン水が外部へ排出される。特許文献1では、この吸気管に空気を濾過するフィルタが取り付けられている。このフィルタにより、上記電解槽内へ流入される空気に含まれる細菌が取り除かれ、上記電解槽内への細菌の流入が抑制される。この結果、上記電解槽内おける微生物の繁殖が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−136391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記電解槽内へ流入される空気を浄化できたとしても、上記電解槽へ供給される水道水は、該水道水の水質基準で所定数以下の一般細菌が許容される。このため、場合によっては、上記電解槽内に一般細菌が混入してしまうことがある。一方、この電解槽内では、上述したように電気分解が行われて、上記電解槽内における水道水の残留塩素が分解して減少する。この残留塩素の減少によって、電解槽内で一般細菌が繁殖してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、水の電気分解でイオン水を生成するイオン水生成装置において、電解槽内における細菌の繁殖を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、電解槽(20)と、上記電解槽(20)内に位置する電極対(2,3)と該電極対(2,3)に電気的に接続された電源部(4)とを有する電極ユニット部(1)とを備え、上記電極ユニット部(1)は、上記電源部(4)から上記電極対(2,3)へ直流電圧を印加することにより、上記電解槽(20)の水中に電気分解を起して上記電極対(2,3)間に放電場が介在した電流経路を形成するとともに、上記放電場で生起したストリーマ放電によって過酸化水素を発生するように構成されていることを特徴としている。
【0008】
第1の発明では、上記電解槽(20)の水中に電極対(2,3)が配置されている。この電極対(2,3)に直流電圧が印加されると、水の電気分解が生じるとともに上記電極対(2,3)間には放電場が介在した電流経路が形成される。この水の電気分解により、上記電解槽(20)内でイオン水(酸性水及びアルカリ水)が生成される。尚、この生成時に水中に含まれる残留塩素が減少する。
【0009】
又、この電流経路内の放電場ではストリーマ放電が生起している。このストリーマ放電によって、上記電解槽(20)内に過酸化水素が生成して上記電解槽(20)内に拡散する。これにより、上記電解槽(20)内の水が殺菌・浄化される。又、このストリーマ放電によって、上記電解槽(20)内に水酸ラジカル等の活性種も生成する。この活性種によって電解槽(20)内の水に含まれる有害物質(例えば硫黄系化合物)が酸化分解されて除去される。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、上記電解槽(20)内を上記第1室(12)及び第2室(13)に区画する導電性の区画部材(11)を備え、上記電極対(2,3)のうち、上記電源部(4)の正極側に接続された電極が第1室(12)に配置され、上記電源部(4)の負極側に接続された電極が第2室(13)に配置されていることを特徴としている。
【0011】
第2の発明では、上記電解槽(20)内が第1室(12)と第2室(13)に区画されている。これにより、上記電極対(2,3)に対する直流電圧の印加が止まった場合に、上記電源部(4)の正極側における電極の近傍で生成していた酸性水が上記第1室(12)内で拡散し、上記電源部(4)の負極側における電極の近傍で生成していたアルカリ水が上記第2室(13)内で拡散するようになる。つまり、上記電極対(2,3)に対する直流電圧の印加が止まっても、酸性水とアルカリ水とが混じり合って中和することがない。尚、上記区画部材(11)は導電性であるため、この区画部材(11)を通じて、上記電解槽(20)の水中に放電場が介在した電流経路が形成される。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、上記導電性の区画部材(11)には、該区画部材(11)を貫通して第1室(12)及び第2室(13)を連通する貫通孔部(14)が設けられていることを特徴としている。
【0013】
第3の発明では、上記ストリーマ放電によって、上記電源部(4)の正極側における電極の近傍で発生した過酸化水素が、上記区画部材(11)の貫通孔部(14)を通じて、第1室(12)から第2室(13)へ拡散するようになる。
【0014】
第4の発明は、第1の発明において、上記電解槽(20)内を上記第1室(12)及び第2室(13)に区画する絶縁性の区画部材(15)を備え、上記区画部材(15)には、該区画部材(15)を貫通して第1室(12)及び第2室(13)を連通する貫通孔部(16)が設けられる一方、上記電極対(2,3)のうち、上記電源部(4)の正極側に接続された電極が第1室(12)に配置され、上記電源部(4)の負極側に接続された電極が第2室(13)に配置されていることを特徴としている。
【0015】
第4の発明では、上記区画部材(15)が絶縁部材であることから、この電極対(2,3)に直流電圧が印加されると、この区画部材(15)の貫通孔部(16)を介して、上記電極対(2,3)間に放電場が介在した電流経路が形成される。つまり、この貫通孔部(16)は、上記第3の発明とは違い、第1室(12)で発生した過酸化水素を第2室(13)へ拡散させるだけでなく、第1室(12)から第2室(13)へ電気を流すことを可能にする。
【0016】
第5の発明は、第1の発明において、上記電解槽(20)内を上記第1室(12)及び第2室(13)に区画するイオン透過性の隔膜(17)と、上記第1室(12)の水から酸性水を生成して第2室(13)の水からアルカリ水を生成する電気分解ユニット部(30)とを備え、
上記電極ユニット部(1)の電極対(2,3)が、上記第1室(12)及び第2室(13)の少なくとも一方に配置されていることを特徴としている。
【0017】
第5の発明では、上記電気分解ユニット部(30)により、上記電解槽(20)の上記第1室(12)に酸性水が生成されて、上記第2室(13)にアルカリ水が生成される。又、上記第1室(12)の酸性水及び第2室(13)のアルカリ水は、上記電極ユニット部(1)で発生する過酸化水素によって殺菌・浄化される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記電極ユニット部(1)により、上記電解槽(20)の水中で電気分解が生じ、上記電極対(2,3)間に放電場が介在した電流経路が形成される。この水の電気分解によってイオン水が生成されるとともに上記電解槽(20)内の水に含まれる残留塩素が減少する。又、上記放電場で生起したストリーマ放電によって過酸化水素及び活性種が生成される。
【0019】
これにより、上記電解槽(20)内の残留塩素が減少したとしても、上記過酸化水素及び活性種によって上記電解槽(20)内の水を殺菌・浄化することができ、電解槽(20)内における細菌の繁殖を抑制することができる。
【0020】
また、上記第2の発明によれば、上記電極対(2,3)に対する直流電圧の印加が止まっても、上記電解槽(20)内の酸性水及びアルカリ水が混り合わないようにすることができる。ここで、仮に、上記電解槽(20)に区画部材(11)が設けられていない場合には、上記電極対(2,3)に対する直流電圧の印加が止まると、上記電解槽(20)内の酸性水及びアルカリ水が混じり合って中和してしまう。この場合には、上記電極対(2,3)に対する直流電圧の再印加によって、この中和した水を再び電気分解しなければならず、上記電極ユニット部(1)の電力を無駄に消費してしまう。
【0021】
上記第2の発明によれば、上記電解槽(20)内の酸性水及びアルカリ水が混り合わないので、上記電極対(2,3)に対する直流電圧の再印加の必要がなく、上記電極ユニット部(1)の省電力化を図ることができる。
【0022】
また、上記第3の発明によれば、上記区画部材(11)の貫通孔部(14)を通じて、上記ストリーマ放電によって発生した過酸化水素を第1室(12)から第2室(13)へ拡散させることができる。これにより、上記第1室(12)の酸性水だけでなく、上記第2室(13)のアルカリ水も過酸化水素で殺菌・浄化することができる。
【0023】
また、上記第4の発明によれば、上記絶縁性の区画部材(15)で上記電解槽(20)内を区画した場合であっても、上記電極対(2,3)間に放電場が介在した電流経路を形成することができる。
【0024】
また、上記第5の発明によれば、上記電気分解ユニット部(30)により、上記電解槽(20)の上記第1室(12)に酸性水が生成されて、上記第2室(13)にアルカリ水が生成される。第1室(12)の酸性水及び第2室(13)のアルカリ水は、上記電極ユニット部(1)で発生する過酸化水素によって殺菌・浄化される。これにより、上記電解槽(20)内における細菌の繁殖を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態1に係るイオン水生成装置の概略図である。
【図2】本実施形態1に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図3】本実施形態1に係るイオン水生成装置の概略図であり、電極ユニット部が放電を開始して気泡が形成された状態を示すものである。
【図4】本実施形態1の変形例1に係るイオン水生成装置の概略図である。
【図5】本実施形態1の変形例2に係るイオン水生成装置の概略図である。
【図6】本実施形態2に係るイオン水生成装置の概略図である。
【図7】本実施形態2に係る電極ユニット部の概略図である。
【図8】本実施形態2に係る電極ユニット部の概略図であり、電極ユニット部が放電を開始して気泡が形成された状態を示すものである。
【図9】その他の実施形態に係るイオン水生成装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
《発明の実施形態1》
以下、本発明の実施形態1を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本実施形態1に係るイオン水生成装置(10)の概略図である。このイオン水生成装置(10)は、電解槽(20)と電極ユニット部(1)とを備えている。
【0027】
〈電解槽〉
上記電解槽(20)は、水を貯留する貯水室(21)を有している。この電解槽(20)の上部に給水管(22)が接続されている。この給水管(22)を通じて水道水が必要に応じて上記貯水室(21)へ供給される。又、上記電解槽(20)の底部には、第1排水管(23)及び第2排水管(24)が接続されている。
【0028】
〈電極ユニット部〉
上記電極ユニット部(1)は、電極対(2,3)と電源部(4)と絶縁ケーシング(5)とを備えている。
【0029】
−電極対−
上記電極対(2,3)は、水中でストリーマ放電を生起するためのものであり、放電電極(2)及び対向電極(3)とからなる。この放電電極(2)は、左右に扁平な板状に形成され、例えばステンレス、銅等の導電性の金属材料で構成されている。又、上記放電電極(2)は、上記貯水室(21)の左寄りに配置された絶縁ケーシング(5)の内部に収容されている。この絶縁ケーシング(5)の近傍に上記第1排水管(23)の開口部が位置している。この対向電極(3)は、例えばステンレス、真鍮等の導電性の金属材料で構成されている。又、この対向電極(3)は、上記貯水室(21)の右寄りに位置している。この対向電極(3)の近傍には、上記第2排水管(24)の開口部が位置している。
【0030】
−電源部−
上記電源部(4)は、上記電極対(2,3)に所定の直流電圧を印加する直流電源で構成されている。即ち、電源部(4)は、電極対(2,3)に対して瞬時的に高電圧を繰り返し印加するようなパルス電源ではなく、電極対(2,3)に対して常に数キロボルトの直流電圧を印加する直流電源である。この電源部(4)の正極側に上記放電電極(2)が接続され、負極側に上記対向電極(3)が接続されている。又、上記電源部(4)の負極側はアースと接続されている。この電源部(4)には、電極対(2,3)の放電電力を一定に制御する定電力制御部が設けられている(図示省略)。
【0031】
−絶縁ケーシング−
上記絶縁ケーシング(5)は、例えばセラミックス等の絶縁材料で構成されている。絶縁ケーシング(5)は、一面(右面)が開放された容器状のケース本体(6)と、該ケース本体(6)の右側方の開放部を閉塞する板状の蓋部(7)とを有している。
【0032】
ケース本体(6)は、断面矩形状の筒壁部(6a)と、該筒壁部(6a)の左側開口部を閉塞する左側壁部(6b)とを有している。放電電極(2)は、左側壁部(6b)の内面に取り付けられている。絶縁ケーシング(5)では、蓋部(7)と左側壁部(6b)との間の左右方向の距離が、放電電極(2)の厚さよりも長くなっている。つまり、放電電極(2)と蓋部(7)との間には、所定の間隔が確保されている。これにより、絶縁ケーシング(5)の内部では、放電電極(2)とケース本体(6)と蓋部(7)との間に空間(S)が形成される。
【0033】
図1及び図2に示すように、絶縁ケーシング(5)の蓋部(7)には、該蓋部(7)を厚さ方向に貫通する1つの開口部(8)が形成されている。この開口部(8)により、放電電極(2)と対向電極(3)との間で電界の形成が許容されている。蓋部(7)の開口部(8)の内径は、0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。以上のような開口部(8)は、電極対(2,3)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部を構成する。
【0034】
以上のように、絶縁ケーシング(5)は、電極対(2,3)のうちの一方の電極(放電電極(2))のみを内部に収容し、且つ電流密度集中部としての開口部(8)を有する絶縁部材を構成している。加えて、絶縁ケーシング(5)の開口部(8)内では、電流経路の電流密度が上昇することで、水がジュール熱によって気化して気泡(B)が形成される。つまり、絶縁ケーシング(5)の開口部(8)は、該開口部(8)に気相部としての気泡(B)を形成する気相形成部として機能する。そして、この気泡(B)の内部が放電場となり、この放電場でストリーマ放電が行われる。
【0035】
−運転動作−
次に、実施形態1のイオン水生成装置(10)の運転動作について説明する。
【0036】
実施形態1のイオン水生成装置(10)では、上記給水管(22)を通じて、上記電解槽(20)の貯水室(21)へ水道水が供給される。この水道水が所定量に達し、上記絶縁ケーシング(5)の内の空間(S)が浸水した状態(図1を参照)になると、上記電極ユニット部(1)が作動する。この作動により、上記電源部(4)から電極対(2,3)へ所定の直流電圧(例えば1kV)が印加され、電極対(2,3)の間に電界が形成される。上述したように、上記放電電極(2)の周囲は、絶縁ケーシング(5)で覆われている。このため、電極対(2,3)の間での漏れ電流が抑制されとともに、上記絶縁ケーシング(5)における開口部(8)内の電流経路の電流密度が上昇した状態となる。
【0037】
上記絶縁ケーシング(5)における開口部(8)内の電流密度が上昇すると、この開口部(8)内のジュール熱が大きくなる。その結果、絶縁ケーシング(5)では、開口部(8)の近傍において、水の気化が促進されて気泡(B)が形成される。この気泡(B)は、図3に示すように、開口部(8)のほぼ全域を覆う状態となり、対向電極(3)に導通する負極側の水道水と、正極側の放電電極(2)との間に気泡(B)が介在する。従って、この状態では、気泡(B)が、放電電極(2)と対向電極(3)との間での水道水を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、放電電極(2)と対向電極(3)との間の漏れ電流が抑制され、電極対(2,3)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、気泡(B)内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する。
【0038】
以上のようにして、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、上記対向電極(3)の近傍では、次式(1)に示すような反応が行われる。この反応により、水素イオン(H)が消費されて減少する。この結果、水素イオン指数(PH)が増加し、アルカリ水が生成される。このアルカリ水は、上記電解槽(20)の第2排水管(24)を通じて外部へ排出される。
【0039】
4HO+4e → 2H+4OH(1)
一方、上記気泡(B)における気液界面の近傍では、次式(2)に示すような反応が行われる。この反応により、水酸化イオン(OH)が減少して水素イオン(H)が増加する。この結果、水素イオン指数が減少し、酸性水が生成される。この酸性水は、上記電解槽(20)の第1排水管(23)を通じて外部へ排出される。
【0040】
2HO → O+4H+4e(2)
又、上記気泡(B)における気液界面の近傍では、水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素等が生成される。水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素は、ストリーマ放電に伴う熱によって貯水室(21)内を対流する。これにより、水中での活性種や過酸化水素の拡散が促される。また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、このストリーマ放電に伴ってこの気泡(B)でイオン風を生成し易くなる。よって、貯水室(21)内では、このイオン風を利用して、活性種や過酸化水素の拡散効果を更に向上できる。
【0041】
以上のようにして、上記放電電極(2)の近傍で酸性水が生成され、上記対向電極の近傍でアルカリ水が生成される。又、上記放電電極(2)の近傍から拡散した水酸ラジカル等の活性種は、酸性水又はアルカリ水に含まれる被処理成分(例えばアンモニア等)を酸化分解して酸性水又はアルカリ水の浄化に利用される。
【0042】
また、上記放電電極(2)の近傍から拡散した過酸化水素は、酸性水又はアルカリ水の殺菌に利用される。これにより、本実施形態のイオン水生成装置(10)では、上記貯水室(21)内の清浄度が保たれる。
【0043】
−実施形態1の効果−
上記実施形態1によれば、上記電極ユニット部(1)により、上記電極対(2,3)間の水中に放電場が介在した電流経路が形成される。この電流経路の形成によって水の電気分解が起こり、上記放電場でストリーマ放電が起こる。上記実施形態1では、この放電場が上記絶縁ケーシング(5)における開口部(8)の気泡(B)である。この水の電気分解によって上記電解槽(20)内の水に含まれる残留塩素が減少する一方、ストリーマ放電によって過酸化水素及び活性種が生成される。
【0044】
これにより、上記電解槽(20)内の残留塩素が減少したとしても、上記過酸化水素及び活性種によって上記電解槽(20)内の水を殺菌・浄化することができ、電解槽(20)内における細菌の繁殖を抑制することができる。
【0045】
−実施形態1の変形例1−
変形例1のイオン水生成装置(10)は、図4に示すように、該イオン水生成装置(10)の貯水室(21)が、該貯水室(21)内に取り付けられた導電性の隔壁(区画部材)(11)によって酸性室(第1室)(12)及びアルカリ室(第2室)(13)に区画されている。上記酸性室(12)には放電電極(2)が位置し、上記アルカリ室(13)には対向電極(3)が位置している。又、上記酸性室(12)には第1排水管(23)が開口し、上記アルカリ室(13)には第2排水管(24)が開口している。又、上記酸性室(12)には第1給水管(22a)が開口し、上記アルカリ室(13)には第2給水管(22b)が開口している。
【0046】
この変形例1では、上記気泡(B)における気液界面の近傍で生成していた酸性水が上記酸性室(12)内で拡散し、上記電源部(4)の負極側における電極の近傍で生成していたアルカリ水が上記アルカリ室(13)内で拡散するようになる。つまり、上記電極対(2,3)に対する直流電圧の印加が止まっても、酸性水とアルカリ水とが混じり合って中和することがない。尚、上記区画部材(11)は導電性であるため、この区画部材(11)を通じて、上記電解槽(20)の水中に放電場を含む電流経路が形成される。
【0047】
ここで、上記実施形態1において、上記電極対(2,3)に対する直流電圧の印加が止まると、上記電解槽(20)内の酸性水及びアルカリ水が混じり合って中和してしまう。この場合には、上記電極対(2,3)に対する直流電圧の再印加によって、この中和した水を再び電気分解しなければならず、上記電極ユニット部(1)の電力を無駄に消費してしまう。この変形例1によれば、上記電解槽(20)内の酸性水及びアルカリ水が混り合わないので、上記電極対(2,3)に対する直流電圧の再印加の必要がなく、上記電極ユニット部(1)の省電力化を図ることができる。
【0048】
−実施形態1の変形例2−
変形例2のイオン水生成装置(10)では、図5に示すように、変形例1に係る導電性の隔壁(11)に貫通孔部(14)が形成されている。この貫通孔部(14)により、上記酸性室(12)と上記アルカリ室(13)とが連通している。
【0049】
この変形例2では、上記ストリーマ放電によって、上記気泡(B)における気液界面の近傍で発生した過酸化水素が、上記導電性の隔壁(11)の貫通孔部(14)を通じて、酸性室(12)からアルカリ室(13)へ拡散するようになる。これにより、上記酸性室(12)の酸性水だけでなく、上記アルカリ室(13)のアルカリ水も過酸化水素で殺菌・浄化することができる。
【0050】
《発明の実施形態2》
図6は、実施形態2に係るイオン水生成装置(10)の概略図である。このイオン水生成装置(10)は、電解槽(20)と電気分解ユニット部(30)と電極ユニット部(1)とを備えている。
【0051】
〈電解槽〉
上記電解槽(20)は、水を貯留する貯水室(21)を有している。上記貯水室(21)には、該貯水室(21)を酸性室(12)とアルカリ室(13)とに区画するイオン交換膜(17)が設けられている。又、この電解槽(20)の上部に第1及び第2給水管(22a,22b)が接続されている。上記第1給水管(22a)は上記酸性室(12)に開口しており、この第1給水管(22a)を通じて上記酸性室(12)に水道水が供給される。上記第2給水管(22b)は上記アルカリ室(13)に開口しており、この第2給水管(22b)を通じて上記アルカリ室(13)に水道水が供給される。
【0052】
又、上記電解槽(20)の底部には、第1排水管(23)及び第2排水管(24)が接続されている。上記第1排水管(23)は上記酸性室(12)に開口しており、この第1排水管(23)を通じて上記酸性室(12)で生成された酸性水を外部へ排出する。上記第2排水管(24)は上記アルカリ室(13)に開口しており、この第2排水管(24)を通じて上記アルカリ室(13)で生成されたアルカリ水を外部へ排出する。
【0053】
〈電気分解ユニット部〉
上記電気分解ユニット部(30)は、電気分解用の電極対(31,32)と電気分解用の電源部(33)とを備えている。上記電気分解用の電極対(31,32)は、水中で電気分解を起こすためのものであり、陽電極(31)と陰電極(32)とからなる。上記陽電極(31)は上記酸性室(12)に配置されている。又、上記陰電極(32)は、上記イオン交換膜(17)を挟んで上記アルカリ室(13)に配置されている。
【0054】
上記電気分解用の電源部(33)は、上記電気分解用の電極対(31,32)に所定の電圧を印加するものである。この電気分解用の電源部(33)の正極側に上記陽電極(31)が接続され、負極側に上記陰電極(32)が接続されている。
【0055】
〈電極ユニット部〉
この電極ユニット部(1)の構成については、上記実施形態1の電極ユニット部(1)と異なる点を主として説明する。図6に示すように、実施形態2の電極ユニット部(1)は、電極部(25)と放電用の電源部(4)とを備えている。
【0056】
上記電極部(25)は、上記電解槽(20)の酸性室(12)及びアルカリ室(13)にひとつづつ設けられている。この電極部(25)は、上記電解槽(20)の外側から内部に向かって挿入されて固定される、いわゆるフランジユニット式に構成されている。また、上記電極部(25)は、図7に示すように、放電電極(2)と対向電極(3)と絶縁ケーシング(5)とが一体的に組立てられている。
【0057】
実施形態2の絶縁ケーシング(5)は、大略の外形が円筒状に形成されている。絶縁ケーシング(5)は、ケース本体(6)と蓋部(7)とを有している。
【0058】
実施形態2のケース本体(6)は、ガラス質又は樹脂製の絶縁材料で構成されている。ケース本体(6)は、円筒状の基部(6c)と、該基部(6c)から電解槽(20)側に向かって突出する筒状壁部(6d)と、該筒状壁部(6d)の外縁部から更に電解槽(20)側に向かって突出する環状凸部(6e)とを有している。また、ケース本体(6)には、環状凸部(6e)の先端側に先端筒部(6g)が一体に形成されている。基部(6c)の軸心部には、円柱状の挿入口(6f)が軸方向に延びて貫通形成されている。筒状壁部(6d)の内側には、挿入口(6f)と同軸となり、且つ挿入口(6f)よりも大径となる円柱状の空間(S)が形成されている。
【0059】
実施形態2の蓋部(7)は、略円板状に形成されて環状凸部(6e)の内側に嵌合している。蓋部(7)は、セラミックス材料で構成されている。蓋部(7)の軸心には、蓋部(7)を上下に貫通する円形状の1つの開口部(8)が形成されている。
【0060】
放電電極(2)は、軸直角断面が円形状となる縦長の棒状の電極で構成されている。放電電極(2)は、上記ケース本体(6)における基部(6c)の挿入口(6f)に嵌合している。これにより、放電電極(2)は、絶縁ケーシング(5)の内部に収容されている。実施形態2では、放電電極(2)のうち電解槽(20)とは反対側の端部が、電解槽(20)の外部に露出される状態となる。このため、電解槽(20)の外部に配置される放電用の電源部(4)と、放電電極(2)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0061】
放電電極(2)のうち電解槽(20)側の端部(2a)は、絶縁ケーシング(5)の内部の空間(S)に臨んでいる。なお、実施形態2では、放電電極(2)の端部(2a)が、挿入口(6f)の開口面よりも上側(電解槽(20)側)に突出しているが、この端部(2a)の先端面を挿入口(6f)の開口面と略面一としてもよいし、端部(2a)を挿入口(6f)の開口面よりも下側に陥没させてもよい。また、放電電極(2)は、実施形態1と同様、開口部(8)を有する蓋部(7)との間に所定の間隔が確保されている。
【0062】
対向電極(3)は、円筒状の電極本体(3a)と、該電極本体(3a)から径方向外方へ突出する鍔部(3b)とを有している。電極本体(3a)は、絶縁ケーシング(5)のケース本体(6)に外嵌している。鍔部(3b)は、電解槽(20)の壁部に固定されて電極部(25)を保持する固定部を構成している。電極部(25)が電解槽(20)に固定された状態では、対向電極(3)の電極本体(3a)の一部が浸水された状態となる。
【0063】
対向電極(3)は、電極本体(3a)よりも小径の内側筒部(3c)と、該内側筒部(3c)と電極本体(3a)との間に亘って形成される連接部(3d)とを有している。内側筒部(3c)及び連接部(3d)は、電解槽(20)内の水中に浸漬している。内側筒部(3c)は、その内部に円柱空間(26)を形成している。内側筒部(3c)の軸方向の一端は、蓋部(7)と当接して該蓋部(7)を保持する保持部を構成している。また、電極本体(3a)と内側筒部(3c)と連接部(3d)の間には、ケース本体(6)の先端筒部(6g)が内嵌している。内側筒部(3c)の軸方向の他端側には、円柱空間(26)を覆うようにメッシュ状の漏電防止材(27)が設けられている。この漏電防止材(27)は、対向電極(3)と接触することで、実質的にアースされている。これにより、漏電防止材(27)は、電解槽(20)の内部の空間(水中)のうち、円柱空間(26)の内側から外側への漏電を防止している。
【0064】
対向電極(3)は、電極本体(3a)の一部が電解槽(20)の外部に露出される状態となる。このため、対向電極(3)と放電用の電源部(4)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0065】
−運転動作−
次に、実施形態2のイオン水生成装置(10)の運転動作について説明する。
【0066】
実施形態2のイオン水生成装置(10)では、上記第1及び第2給水管(22a,22b)を通じて、上記電解槽(20)の貯水室(21)へ水道水が供給される。この水道水が所定量に達し、上記電気分解ユニット部(30)及び上記電極部(25)の内の空間(S)が浸水した状態となると、上記電気分解ユニット部(30)及び上記電極ユニット部(1)が作動する。
【0067】
上記電気分解ユニット部(30)が作動すると、上記電気分解用の電極対(31,32)に電圧が印加され、水の電気分解が起こる。これにより、上記陽電極(31)の近傍で酸性水が生成されて、上記陰電極(32)の近傍でアルカリ水が生成される。
【0068】
一方、上記電極ユニット部(1)の作動時には、上述したように、上記電極部(25)の空間(S)が浸水した状態となっている(図8を参照)。電源部(4)から電極対(2,3)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、開口部(8)の内部の電流密度が上昇してく。
【0069】
図7に示す状態から、電極対(2,3)へ更に直流電圧が継続して印加されると、開口部(8)内の水が気化されて気泡(B)が形成される(図8を参照)。この状態では、気泡(B)が開口部(8)のほぼ全域を覆う状態となり、円柱空間(26)内の負極側の水と、放電電極(2)との間に気泡(B)による抵抗が付与される。これにより、放電電極(2)と対向電極(3)との間の電位差が保たれ、気泡(B)でストリーマ放電が発生する。その結果、上記酸性室(12)及び上記アルカリ室(13)では、水酸ラジカルや過酸化水素が生成される。
【0070】
尚、上記電極ユニット部(1)において、放電電極(2)の近傍で生成酸性水が生成され、対向電極(3)の近傍でアルカリ水が生成されるが、この酸性水とアルカリ水とは中和しやすい。したがって、実施形態2のイオン水生成装置(10)において、実質的に酸性水とアルカリ水を生成するのは上記電気分解ユニット部(30)である。
【0071】
−実施形態2の効果−
上記実施形態2によれば、上記電気分解ユニット部(30)により、上記電解槽(20)の上記酸性室(12)に酸性水が生成されて、上記アルカリ室(13)にアルカリ水が生成される。酸性室(12)の酸性水及びアルカリ室(13)のアルカリ水は、各電極ユニット部(1)で発生する過酸化水素によって殺菌・浄化される。これにより、上記電解槽(20)内における細菌の繁殖を抑制することができる。
【0072】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0073】
上記実施形態1の変形例2では、上記電解槽(20)が導電性の隔壁(11)で区画されていたが、これに限定する必要はなく、図9に示すように、上記電解槽(20)が絶縁性の隔壁(区画部材)(15)で区画されていてもよい。この場合にも、上記実施形態1の変形例2と同様に、隔壁(15)には貫通孔部(16)が設けられている。
【0074】
この場合には、上記電解槽(20)の隔壁(15)が絶縁部材であることから、上記電極ユニット部(1)の電極対(2,3)に直流電圧が印加されると、この隔壁(15)の貫通孔部(16)を介して、上記電極対(2,3)間に放電場を含む電流経路が形成される。つまり、この貫通孔部(16)は、酸性室(12)で発生した過酸化水素をアルカリ室(13)へ拡散させるだけでなく、酸性室(12)からアルカリ室(13)へ電気を流すことを可能にする。このように、上記電解槽(20)を絶縁性の隔壁(15)でも区画することができる。
【0075】
又、上記実施形態1の変形例2では、上記電解槽(20)を区画部材(11)として貫通孔部(16)が形成された隔壁(15)を用いていたが、これに限定される必要はなく、例えばイオン交換膜であってもよい。この場合には、イオン交換膜の微細孔が、過酸化水素を酸性室(12)からアルカリ室(13)へ拡散させるための連通孔となる。
【0076】
又、上記実施形態2では、上記酸性室(12)及び上記アルカリ室(13)に電極ユニット部(1)がひとつづつ設けられていたが、これに限定される必要はなく、上記酸性室(12)及び上記アルカリ室(13)のどちらか一方に電極ユニット部(1)を配置してもよい。この場合には、上記電解槽(20)の一方の室の水を殺菌・浄化できる。これにより、電極ユニット部(1)を2つ設ける場合に比べて、イオン水生成装置の省エネ性を確保できる。
【0077】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明は、イオン水生成装置に関し、特にイオン水生成装置の電解槽内における細菌の繁殖を抑制する技術について有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 電極ユニット部
2 放電電極
3 対向電極
4 電源部
5 絶縁ケーシング
10 イオン水生成装置
11 隔壁(区画部材)
12 酸性室(第1室)
13 アルカリ室(第2室)
20 電解槽
21 貯水室
22a 第1給水管
22b 第2給水管
23 第1排水管
24 第2排水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽(20)と、
上記電解槽(20)内に位置する電極対(2,3)と該電極対(2,3)に電気的に接続された電源部(4)とを有する電極ユニット部(1)とを備え、
上記電極ユニット部(1)は、上記電源部(4)から上記電極対(2,3)へ直流電圧を印加することにより、上記電解槽(20)の水中に電気分解を起して上記電極対(2,3)間に放電場が介在した電流経路を形成するとともに、上記放電場で生起したストリーマ放電によって過酸化水素を発生するように構成されていることを特徴とするイオン水生成装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記電解槽(20)内を上記第1室(12)及び第2室(13)に区画する導電性の区画部材(11)を備え、
上記電極対(2,3)のうち、上記電源部(4)の正極側に接続された電極が第1室(12)に配置され、上記電源部(4)の負極側に接続された電極が第2室(13)に配置されていることを特徴とするイオン水生成装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記導電性の区画部材(11)には、該区画部材(11)を貫通して第1室(12)及び第2室(13)を連通する貫通孔部(14)が設けられていることを特徴とするイオン水生成装置。
【請求項4】
請求項1において、
上記電解槽(20)内を上記第1室(12)及び第2室(13)に区画する絶縁性の区画部材(15)を備え、
上記区画部材(15)には、該区画部材(15)を貫通して第1室(12)及び第2室(13)を連通する貫通孔部(16)が設けられる一方、
上記電極対(2,3)のうち、上記電源部(4)の正極側に接続された電極が第1室(12)に配置され、上記電源部(4)の負極側に接続された電極が第2室(13)に配置されていることを特徴とするイオン水生成装置。
【請求項5】
請求項1において、
上記電解槽(20)内を上記第1室(12)及び第2室(13)に区画するイオン透過性の隔膜(17)と、
上記第1室(12)の水から酸性水を生成して第2室(13)の水からアルカリ水を生成する電気分解ユニット部(30)とを備え、
上記電極ユニット部(1)の電極対(2,3)が、上記第1室(12)及び第2室(13)の少なくとも一方に配置されていることを特徴とするイオン水生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−75975(P2012−75975A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220497(P2010−220497)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】