説明

イオン測定器

【課題】 イオンの再結合などによる測定誤差を生じにくいイオン測定器を提供する。
【解決手段】 10は電極体本体で、その内部には中心電極1が、先端に向かって径が細くなった先端部となった回転体形状に形成されており、中心電極1の外側には円筒状電極3が設けられ、円筒状電極3は中心電極1の外表面との間にガスイオンが層流として流されるように、中心電極1を囲むように円筒状に形成されている。中心電極1に正電圧、円筒状電極3に負電圧が印加される。ガスイオンはガスイオン導入口7から電極体本体10内に導入されると、両電極1,3間を層流となって流れながら、それぞれのイオンが検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線源や放電に伴うガスイオン発生量の測定を行うイオン測定器に関する。例えば、粒子を帯電させる際に用いられるイオン発生器からのガスイオン発生量を正確に測定又は検査するためのイオン測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分析、医薬、半導体分野等々に応用される帯電粒子やイオン(又はイオンクラスタ)は、使用される総量を測定することが精度を維持する上で重要である。そのためイオンの発生量を測定するイオン測定器が使用されている。帯電粒子とイオンはその電気的性質は同じであるが、イオンとは電気移動度が1cm2/Vs程度のもの、荷電粒子とはイオンよりも粒径は大きいが電気移動度はもっと小さいものを意味するものとする。
【0003】
粒子は、例えばガスイオンによる拡散荷電によって帯電粒子となる。これは、大気等の中性ガスの一部がアメリシウムやコロナ放電によりイオン化され、そのガスイオンが拡散により粒子に衝突し、それが粒子に付着、又はそれの電荷を交換することによって粒子が荷電されるというものである。
【0004】
図2は従来用いられているイオン測定器の垂直断面図である。このイオン測定器は上部にガスイオン(イオンを含むガス)のガスイオン導入口7、下部にガスイオンの排出口9が設けられた電磁シールド5の内部に、平行平板電極2a,2bを対向するように備えたものである。この装置では、全てのイオンを器内に取り込んでイオンの電荷量が測定される。
【0005】
平行平板電極2a,2bには、電源11によって数kV〜十数kVオーダーの直流電圧が印加され、両電極2a,2b間にイオン発生器15で発生したガスイオンを流すと、両電極2a,2bにより正負イオンがそれぞれ検出され、電流測定部13による電流値からイオン発生器15でのイオン発生量を測定する(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−14694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のイオン測定器では、シールド5内に備えられた平行平板電極2a、2bによってイオンの総電荷量が測定されているが、平行平板電極2a,2b間に電界をかけることによりシールド5と電極2a又は2bとの間に発生する電界によりイオンの一部がシールド5に捕捉され、誤差を生じることがあった。
【0007】
さらに、従来のイオン測定器の両電極2a,2bは平板が対向した形状であるため、電界により正負イオンを分離しようとしても、非常に激しい乱流がある場合にはガスが混ぜられて正負イオンが再結合し、これにより測定誤差が生じることがあった。
また、電界の弱い又は乱れているところにイオン流が滞留している場合は、イオン同士の再結合や拡散によって電流の流れを伴う壁への沈着などが起き、これにより測定誤差が生じることがあった。
【0008】
本発明は、このようなイオンの減少による測定誤差が生じにくいイオン測定器を提供し、粒子を帯電させるためのガスイオンの発生量を正確に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のイオン測定器は、中心軸上に配置され、先端に向かって径が細くなった先端部をもつ回転体形状の中心電極、中心電極の外側に配置された円筒状電極、及び円筒状電極の外側を囲む電磁シールドを備え、外部から上記先端部に向かってガスイオンを導入するガスイオン導入口を中心軸上にもち、先端部の反対側にガス排出口をもつ電極体本体と、両電極間にイオン検出用の直流電界を印加することで上記ガスイオンを正又は負のイオンに分離する電源と、上記分離されたイオンによる電流値を測定する電流測定部とを備えている。そして、上記円筒状電極は上記ガスイオン導入口の入口周辺まで形成されており、上記ガスイオン導入口の周囲にはガスイオン導入口から導入されたガスイオンの周囲を取り囲むシースガス流を形成するイオン又は荷電粒子を含まないガスを導入する複数のシースガス導入口が均等に配置されてあけられている。
【0010】
上記ガス排出口の下流に上記電極体本体内のガスを吸引するための排気機構をさらに備えるようにしてもよい。
【0011】
中心電極の一例は、先端部を除いて円柱状であり、その円柱状部分と円筒状電極との間隔が一定となっていることが好ましい。
【0012】
ガスを層流にし易くするために、両電極間の一部にはガスの流れを両電極間の隙間に沿った流れにするガイドが設けられているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
先端に向かって径が細くなった先端部をもつ回転体形状の中心電極と、中心電極の外側に配置された円筒状電極を備え、円筒状電極をガスイオン導入口の入口周辺まで形成し、ガスイオン導入口の周囲にガスイオンの周囲を取り囲むシースガス流を形成するイオン又は荷電粒子を含まないガスを導入する複数のシースガス導入口を均等に配置したので、両電極の間にガスイオンが層流として流れやすくなり、イオンが電極で検出されないでシールドに捕捉されることが防止されてイオンの再結合が生じにくくなるために、イオンの電荷量を精度よく測定することができる。
【0014】
電極体本体内のガスを吸引する排気機構をさらに備えるようにすれば、比較的大量にガスを吸引することができるので、短時間にガスイオンを電極体本体内に導入できると共に、測定を短時間に行うことができる。
【0015】
中心電極を先端部を除いて円柱状にし、その円柱状部分では両電極間の間隔が一定となるようにすれば、導入されたガスを層流として流すのが容易になり、イオンの電荷量の測定精度を上げることができる。
【0016】
ガスの流れを両電極間の隙間に沿った流れにするガイドを設けるようにすれば、排気機構によって排気されるガス流を層流とすることが一層容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明を一実施例を挙げて具体的に説明する。
図1は一実施例のイオン測定器の概略図を示しており、(A)は垂直断面図、(B)は上面図である。10は電極体本体で、その内部には中心電極1が設けられている。中心電極1は、先端に向かって径が細くなった先端部をもち、先端部より下部が円柱状となった回転体形状に形成されて、中心電極1の中心軸と電極体本体10の中心軸が一致するように配置されている。ガスイオンの導入側を先端と呼び、ここでは上側が先端側となっている。
【0018】
中心電極1の外側には円筒状電極3が設けられ、円筒状電極3は中心電極1の外表面との間にガスイオンが層流として流されるように、中心電極1を囲むように円筒状に形成されている。円筒状電極3の中心軸も電極体本体10の中心軸と一致している。
中心電極1の円板状部分の直径は30mm、円筒状電極3の内側の直径は50mmであり、中心電極1の円柱状部分では中心電極1と円筒状電極3の間隔Lは約10mm程度で一定になっている。
【0019】
円筒状電極3の外側には絶縁材4を介して、電極体本体10の外部からの電磁ノイズの侵入を遮断するための金属板又は金網からなる電磁シールド5が備えられている。絶縁材4としては、例えば塩化ビニルその他の樹脂などを用いることができる。
電磁シールド5と絶縁材4の先端部にはガスイオンを電極体本体10の内部に導くためのガスイオン導入口7が中心軸上に設けられ、電磁シールド5と絶縁材4の後端部には測定後のガスを電極体本体10から外部に排出するための排出口9が中心軸上に設けられている。
【0020】
ガスイオン導入口7から導入されるガスを電極体本体10内で層流として流しやすくするために、中心電極1の先端部とガスイオン導入口7は20mmの間隔があけられている。また、中心電極1の長さは200mm、ガスイオン導入口7の穴の長さは2mmである。これらの数値はイオン測定器の大きさの一例を説明するためのものであり、これに限定されるものではない。
【0021】
排出口9の下流には、ガスイオン導入口7から導入されるガスイオンを排気するための排気機構としてポンプ20が設けられており、10L/分の流量で電極体本体10内部のガスを排気する。
電極体本体10の上端部の電磁シールド5と絶縁材4には、ガスイオン導入口7から導入されたガスイオンの周囲を囲むシースガス流を形成するイオン又は荷電粒子を含まないガスを導入するためのシースガス導入口17が均等に多数配置されてあけられている。ガスイオン導入口7の直径は10mm、シースガス導入口17の直径は2mmである。シースガス導入口17の直径は2mmに限られない。また、シースガス導入口17に代えて、例えばガスイオン導入口7と平行に穴があけられているフィルターなどをガスイオン導入口7のまわりに配置してもよい。
【0022】
ポンプ20により10L/分の流量で電極体本体10から外部に排気されるとき、ガスイオン導入口7からは1L/分の流量、シースガス導入口からは9L/分の流量で、それぞれガスイオンとイオン又は荷電粒子を含まないガスが導入される。
イオン又は荷電粒子を含まないガスとしては、例えば空気などを用いることができる。
【0023】
ガスイオンとシースガスの流れを両電極1,3間の隙間に沿った流れにするために、中心電極1の下部の円柱状となった位置を囲むようにガイド18が備えられている。ガイド18としては、樹脂など非導電性材質を用いることができ、中心軸に平行に多数の隙間を有するものであればよい。
【0024】
11は直流電源装置であり、両電極1,3間に0〜+10kV又は0〜−10kV程度の直流電圧を印加するために両電極1,3に接続されている。また、両電極1,3には直流電界によって引き寄せられたガスイオンを測定するための電流測定部13が接続されている。
【0025】
ガスイオン導入口7の上流側には高周波の高電圧でコロナ放電させることで、正と負のガスイオンをほぼ同じ濃度で発生させることができるイオン発生器15が設けられている。本発明のイオン測定器の主たる目的は、このイオン発生器15によるガスイオン発生の性能を調べることである。
イオン発生器15としては高圧電源や放電式イオン発生器のほか、内部にイオン発生源としての放射性物質のα線源アメリシウムが備えられているものなどが挙げられる。
【0026】
次に、同実施例の動作を説明する。
電源11により中心電極1に正電圧、円筒状電極3に負電圧を印加しておき、電磁シールド5は接地しておく。この図の場合では円筒状電極3とアースとの間のイオン、つまり正のイオン量を測定する。
測定対象ガスは粒子を帯電させるときに使用されるガスイオンであり、ガスイオン発生器15によって発生させられたものを用いる。ポンプ20で電極体本体内部のガスを排出口9から吸引することにより、ガスイオンはガスイオン導入口7から、空気はシースガス導入口17から内部に導入され、ガイド18に沿ってガスイオンが層流となって両電極1,3間を流れる。
【0027】
ガスイオンは正又は負に帯電しているため、激しい乱流が起きることなしに層流となって流れ、イオンの再結合は起こりにくくなる。そのため、イオンは中心電極1又は円筒状電極3に選択的に捕捉され、電流測定部13で両電極1,3間に流れる電流値が測定され、粒子の総電荷量が精度よく求められる。
【0028】
上記の実施例では正のイオン量を測定する場合を説明したが、負のイオン量を測定する場合は、電源11による電圧の方向を反対にするか、又は電源11と電流測定部13の位置を反対にすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、放射線源や放電に伴うガスイオン発生量の測定を行うイオン測定器に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】一実施例のイオン測定器の概略図を示しており、(A)は垂直断面図、(B)は上面図である。
【図2】従来のイオン測定器を示す概略図である。
【符号の説明】
【0031】
1 中心電極
3 円筒状電極
4 絶縁材
5 電磁シールド
7 ガスイオン導入口
9 排出口
10 電極体本体
11 電源
13 電流測定部
15 イオン発生器
17 シースガス導入口
18 ガイド
20 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸上に配置され、先端に向かって径が細くなった先端部をもつ回転体形状の中心電極、前記中心電極の外側に配置された円筒状電極、及び前記円筒状電極の外側を囲む電磁シールドを備え、外部から前記先端部に向かってガスイオンを導入するガスイオン導入口を中心軸上にもち、前記先端部の反対側にガス排出口をもつ電極体本体と、
前記両電極間にイオン検出用の直流電界を印加することで前記ガスイオンを正又は負のイオンに分離する電源と、
前記分離されたイオンによる電流値を測定する電流測定部とを備え、
前記円筒状電極は前記ガスイオン導入口の入口周辺まで形成され、
前記ガスイオン導入口の周囲にはガスイオン導入口から導入されたガスイオンの周囲を取り囲むシースガス流を形成するイオン又は荷電粒子を含まないガスを導入する複数のシースガス導入口が均等に配置されてあけられているイオン測定器。
【請求項2】
前記ガス排出口の下流に前記電極体本体内のガスを吸引するための排気機構をさらに備えた請求項1に記載のイオン測定器。
【請求項3】
前記中心電極は先端部を除いて円柱状であり、その円柱状部分と前記円筒状電極との間隔が一定となっている請求項1又は2に記載のイオン測定器。
【請求項4】
前記両電極間の一部にはガスの流れを両電極間の隙間に沿った流れにするガイドが設けられている請求項1から3のいずれかに記載のイオン測定器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−127457(P2007−127457A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318697(P2005−318697)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】