説明

イオン解離性機能高分子の製造方法

【課題】本発明は、従来よりも温和な条件で行う、イオン解離性機能高分子の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒中で、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体と、連結分子とを反応させ、連結分子由来の連結鎖を介して前記イオン解離性機能分子前駆体が結合してなる反応生成物を得る工程(1)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン解離性機能高分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池等に用いられるプロトン伝導体としては、ナフィオン(Nafion(商品名)、DuPont社製、パーフルオロスルホン酸樹脂)が最も広く使用されている。
【0003】
ナフィオンの分子構造は、本質的に特性が異なる二つのサブ構造体、すなわち(1)疎水性の分子骨格をなす、パーフルオロ化された1本鎖の主鎖と、(2)親水性のスルホン酸基を含み、プロトン供与サイトとして機能する、パーフルオロ化された側鎖とからなる。この構造は、不飽和結合を含まずパーフルオロ化された構造であるため、熱的・化学的に安定であるが、乾燥雰囲気下や高温下では、プロトン伝導性を発現するために必要な、樹脂内部に吸蔵された水を失い、プロトン伝導度が低下しやすい。
【0004】
一方、フラーレン等のカーボンクラスターに硫酸水素エステル基(−OSO3H)また
はスルホン酸基(−SO3H)のようなプロトン解離性の基を導入したカーボンクラスタ
ー誘導体を主成分とする材料が、固体構造内でプロトン伝導できることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、プロトン解離性の基を、スペーサー基を介してフラーレンに導入したカーボンクラスター誘導体も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1および2には、フラーレン等のカーボンクラスターへ官能基を導入することにより、プロトン等のイオンを伝導させる材料とすることができることが記載されているが、上記材料の有するプロトン伝導機能を燃料電池等の電気化学装置へ応用する際には、その電気化学装置で求められる条件下で、上記材料が化学的、熱的に安定であることが求められる。
【0006】
化学的、熱的に安定なプロトン伝導性フラーレン誘導体として、特許文献2には、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基が結合したイオン解離性機能分子が、連結分子由来の連結鎖を介して結合した構造を有するイオン解離性機能高分子が開示されている。該イオン解離性機能高分子は、化学的、熱的に安定であり、また水不溶性を有しており、固体高分子電解質型燃料電池等に用いられるプロトン伝導体として有用であった。
【特許文献1】国際公開第01/006519号パンフレット
【特許文献2】特開2003−303513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献2に記載のイオン解離性機能高分子は、上述のように化学的、熱的に安定であり、また水不溶性を有しており、固体高分子電解質型燃料電池等に用いられるプロトン伝導体として有用であるが、その製造条件についての検討は未だ充分ではなかった。
【0008】
本発明は、従来よりも温和な条件で行う、イオン解離性機能高分子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の溶媒を用いる
ことにより、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体と、連結分子とを反応させ、連結分子由来の連結鎖を介して前記イオン解離性機能分子前駆体が結合してなる反応生成物を得る工程(1)の反応条件を、従来よりも温和な条件で行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒中で、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体と、
連結分子とを反応させ、連結分子由来の連結鎖を介して前記イオン解離性機能分子前駆体が結合してなる反応生成物を得る工程(1)を有することを特徴とする。
【0011】
前記ハロゲン化芳香族化合物が、トリクロロベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン化芳香族化合物であり、前記パーフルオロ脂肪族化合物が、パーフルオロトリアルキルアミンおよび炭素数12〜30のパーフルオロアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のパーフルオロ脂肪族化合物であることが好ましい。また、前記パーフルオロトリアルキルアミンが、パーフルオロトリペンチルアミンおよびパーフルオロトリブチルアミンからなる群から選択させる少なくとも1種のパーフルオロトリアルキルアミンであることが好ましい。
【0012】
前記反応における反応温度が160〜300℃であることが好ましい。
前記反応において、イオン解離性機能分子前駆体1.0当量に対して、連結分子1.0〜5.0当量を用いることが好ましい。
【0013】
前記イオン解離性基の前駆体基が、−SO2F、−SO2Cl、−COF、−COClからなる群から選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。
前記連結鎖が、下記一般式(1)で表わされる鎖であることが好ましい。
【0014】
−(CF2)n− ・・・(1)
(上記一般式(1)において、nは5〜10の整数である。)
前記スペーサー基が、下記一般式(2)で表わされる構造を有することが好ましく、下記一般式(3)で表わされる基であるこがより好ましい。
【0015】
−(CF2)m− ・・・(2)
(上記一般式(2)において、mは1〜10の整数である。)
−(CF2)m−O−(CF2)m− ・・・(3)
(上記一般式(3)において、mはそれぞれ独立に1〜10の整数である。)
前記工程(1)をラジカル開始剤存在下で行ってもよい。
【0016】
前記ラジカル開始剤の使用量は連結分子1.0当量に対して、0.1当量を超えて10当量以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、工程(1)を従来よりも温和な条件、すなわち常圧下または僅かな加圧下かつ、連結分子の使用量を低減した条件で行うことができるため、工業プロセス上優位にイオン解離性機能高分子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法は、ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒中で、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体と、連結分子とを反応させ、連結分子由来の連結鎖を介して前記イオン解離性機能分子前駆体が結合してなる反応生成物を得る工程(1)を有することを特徴とする。
【0019】
本発明のイオン解離機能性高分子の製造方法は、上記工程(1)において、ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒を用いることを特徴とする。該溶媒は沸点が160℃以上であるため、イオン解離性機能分子前駆体と、連結分子とを反応させる際に、常圧下で行うことができる。
【0020】
すなわち、一般にイオン解離性機能分子前駆体と、連結分子とを反応させる際には、通常160〜300℃の高温下で行われるが、従来の方法では、C66およびCS2の混合
溶媒中でイオン解離性機能分子前駆体と、連結分子とを反応させていた。しかしながら、CS2の沸点は46℃であり、前記混合溶媒は約50℃で沸騰するため、従来の方法では
オートクレーブ等を用いて、加圧下で反応を行う必要があった。また、従来の方法においては、連結分子を多量に用いる必要があった(例えばイオン解離性機能分子前駆体1当量あたり、24当量)が、上記工程(1)においては、連結分子の使用量を低減することができる(例えばイオン解離性機能分子前駆体1当量あたり、1.0〜5.0当量)。
【0021】
〔沸点が160℃以上の溶媒〕
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法の工程(1)は、前述のようにハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒中で行う。
【0022】
なお、本発明において、ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒を単に溶媒とも記す。
【0023】
上記溶媒を用いることにより、常圧または、僅かな加圧下で、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体と、連結分子とを反応させることができる。
【0024】
ハロゲン化芳香族化合物としては、沸点が160℃以上であれば特に限定はないが、通常は、トリクロロベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン化芳香族化合物が用いられる。
【0025】
トリクロロベンゼンとしては、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼンのいずれを用いてもよいが、価格や入手性の点で、1,2,4−トリクロロベンゼンが好ましい。
【0026】
また、パーフルオロ脂肪族化合物としては、沸点が160℃以上であれば特に限定はないが、通常は、パーフルオロトリアルキルアミンおよび炭素数12〜30のパーフルオロアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のパーフルオロ脂肪族化合物が用いられる。
【0027】
パーフルオロトリアルキルアミンとしては、例えばパーフルオロトリペンチルアミン、パーフルオロトリブチルアミン等が用いられ、炭素数12〜30のパーフルオロアルカンとしては、パーフルオロペンタデカン等が用いられる。
【0028】
前記溶媒としては、パーフルオロトリペンチルアミン、1,2,4−トリクロロベンゼンが好ましい。
なお、前記溶媒としては、ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物以外の成分を含む混合溶媒であってもよいが、溶媒の沸点は160℃以上である。
【0029】
〔イオン解離性機能分子前駆体〕
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法の工程(1)では、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体を用いる。
【0030】
なお、本発明において、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体を単に、イオン解離性機能分子前駆体とも記す。
【0031】
前記フラーレンの炭素数としては特に限定はなく、C36、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96、C266等、従来公知のフラーレンを用いることができる。なお、
フラーレンは炭素数の異なる混合物であってもよい。前記フラーレンとしては、入手容易なC60やC70またはその混合物を用いることが好ましい。
【0032】
また、前記フラーレンとして、ハロゲン原子、炭化水素基、フッ化炭化水素基、エーテル基、エステル基、アミド基、ケトン基等の官能基が付加されたフラーレンであってもよい。
【0033】
前記スペーサー基としては特に限定はないが熱的、化学的安定性の観点から、通常はフッ素原子を有する有機基が用いられる。
スペーサー基としては、下記(2)式で表わされる構造を有する基であることが好ましい。
【0034】
−(CF2)m− ・・・(2)
(上記一般式(2)において、mは1〜10の整数である。)
また、スペーサー基としては、エーテル構造を含む有機基が好ましく、具体的には下記一般式(3)で表わされる基であることが好ましい。
【0035】
−(CF2)m−O−(CF2)m− ・・・(3)
(上記一般式(3)において、mはそれぞれ独立に1〜10の整数である。)
イオン解離性基の前駆体基としては、加水分解等の処理によりイオン解離性基に変換できる基であれば特に限定はない。イオン解離性基の前駆体基は、通常は−SO2F、−S
2Cl、−COF、−COClからなる群から選択される少なくとも1種の基であり、
−SO2F、−COFからなる群から選択される少なくとも1種の基であることが好まし
い。
【0036】
前記イオン解離性機能分子前駆体は、フラーレンに、スペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなる。スペーサー基をRf、イオン解離性基の前駆体基をYで表すと、イオン解離性機能分子前駆体はフラーレンに−Rf−Yが結合した構造である。フラーレンに結合する−Rf−Yの数としては、特に限定はないが、通常はフラーレン1分子あたり平均3〜10であり、好ましくは5〜8である。
【0037】
本発明に用いるイオン解離性機能分子前駆体は、通常フラーレンに前記−Rf−Y構造を有する分子を結合させることにより得られる。前記−Rf−Y構造を有する分子としては、分子の末端にヨウ素原子を有するI−Rf−Yで表される分子等が用いられる。
【0038】
本発明に用いるイオン解離性機能分子前駆体の製造方法としては、特に限定は無く、例えば特開2003−303513号公報、特開2006−131517号公報、特開2007−22996号公報等に記載された従来公知の製法で得ることができる。
【0039】
イオン解離性機能分子前駆体の製造方法の一例を前記−Rf−Yが、-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fである場合を例にして示す。まず、1,2,4−トリクロロベンゼ
ン中、200℃程度の加熱下で、フラーレンおよびI-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fを反応させる。該反応では、加熱によりI-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fのヨウ素原子側の端部でヨウ素原子とラジカル(・CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2F)に分解し、該ラジカルがフラーレンに導入される。前記反応で得られた反応混合物を精製することによりフラーレンに-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2F結合してなるイオン解
離性機能分子前駆体を得ることができる。
【0040】
〔連結分子〕
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法の工程(1)では、連結分子を用いる。
連結分子としては、前記イオン解離性機能分子前駆体と反応し、連結分子由来の連結鎖を介してイオン解離性機能分子前駆体が結合してなる反応生成物を得ることができれば特に限定はないが、通常は前記連結鎖として、アルキル基、アリール基、−(CF2)n−
(nは5〜10の整数である。)で表されるフッ化アルキル基、エーテル基、エステル基、アミド基およびケトン基からなる郡から選択される少なくとも1種の基を有する。
【0041】
前記連結鎖の具体例としては、下記一般式(1)で表わされる鎖が挙げられる。
−(CF2)n− ・・・(1)
(上記一般式(1)において、nは5〜10の整数である。)
本発明に用いる連結分子は、上記連結鎖を有する化合物であり、例えばX−R−Xで表される化合物(XはCl、BrまたはIであり、Rは連結鎖である)が用いられる。
【0042】
本発明において、連結分子として前記X−R−Xで表される化合物を用いた場合には、工程(1)において、Xが脱離し、Rの端部が前記イオン解離性機能分子前駆体のフラーレン由来の構造に結合する。Rの端部が異なるフラーレン由来の構造に結合することにより、高分子量の反応生成物を得ることができる。すなわち、工程(1)において得られる反応性生物は、イオン解離性機能分子前駆体の複数のフラーレン由来の構造が、連結鎖を介して結合している。
【0043】
前記X−R−Xで表される化合物としては、X−(CF2)n−Xで表される化合物(
但し、nは5〜10の整数である。)が好ましい。
〔工程(1)〕
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法が有する工程(1)は、前記溶媒中で、前記イオン解離性機能分子前駆体と、前記連結分子とを反応させ、連結分子由来の連結鎖を介して前記イオン解離性機能分子前駆体が結合してなる反応生成物を得る工程である。
【0044】
なお、本発明において、連結分子由来の連結鎖を介して前記イオン解離性機能分子前駆体が結合してなる反応生成物を単に反応生成物とも記す。
工程(1)の反応条件としては特に限定は無いが、通常は温度160〜300℃で行われる。工程(1)の溶媒として、前記溶媒を用いることにより、従来よりも温和な条件で
反応生成物を得ることができる。すなわち、C66およびCS2の混合溶媒中でイオン解
離性機能分子前駆体と、連結分子とを反応させる場合には、前述のようにオートクレーブ等を用いて、加圧下で反応を行う必要があったが、本発明の工程(1)においては、前記沸点が160以上の溶媒を用いることにより、例えば、常圧下または、10kPa以下の僅かな加圧下で反応を行うことができる。
【0045】
また、工程(1)に用いる連結分子の量は、通常イオン解離性機能分子前駆体1.0当量に対して、1.0〜5.0当量であり、好ましくは1.1〜3.0当量である。
また、溶媒の使用量は、特に限定はないが、通常は重量比でイオン解離性機能分子前駆体の1〜10倍量である。
【0046】
また、工程(1)は、その反応時間を低減するためにラジカル開始剤存在下で行っても良い。
ラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化カリウム、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ジクロミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物が好ましく、ジ−t−ブチルパーオキシドがより好ましい。
【0047】
前記ラジカル開始剤の使用量は、特に限定はないが、通常は連結分子1.0当量に対して、0.1当量を超えて10当量以下であり、1〜5等量が好ましい。
工程(1)の反応時間としては、特に限定はないが、ラジカル開始剤存在下で行った場合には通常は0.5〜3日間であり、ラジカル開始剤非存在下で行った場合には通常は3〜10日間である。
【0048】
〔その他の工程〕
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法においては、上記工程(1)で得られる連結分子由来の連結鎖を介して前記イオン解離性機能分子前駆体が結合してなる反応生成物が有する、イオン解離性基の前駆体基を、イオン解離性基に変換することにより、イオン解離性機能高分子を得る工程を有する。
【0049】
すなわち、本発明の製造方法で得られる、イオン解離性機能高分子は、フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基が結合しており、複数のフラーレンが連結鎖を介して結合している。
【0050】
本発明のイオン解離性機能高分子の有するイオン解離性基としては、特に限定はないが、例えばスルホン酸基(−SO2OH)、カルボキシル基(−COOH)、スルホンアミ
ド基(−SO2−NH2)、カルボキサミド基(−CO−NH2)からなる群から選択され
る少なくとも1種の基が挙げられる。
【0051】
上記イオン解離性基は、イオンとしてプロトンを放出するプロトン解離性基であるが、本発明のイオン解離性機能高分子の有するイオン解離性基としては、上記イオン解離性基の水素原子がアルカリ金属原子で置換された基であってもよい。アルカリ金属原子としては、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子、セシウム原子が挙げられる。
【0052】
前記イオン解離性基の前駆体基をイオン解離性基に変換する方法としては、特に限定されないが、例えば、イオン解離性基の前駆体基が−SO2F基であり、イオン解離性基が
スルホン酸基(−SO2OH)である場合には、前記反応生成物を、C66やTHF(テ
トラヒドロフラン)中で、水および水酸化ナトリウムと反応させ加水分解し、−SO2
基を、−SO3Na基に変換する。ついで、−SO2F基を、−SO3Na基に変換した反
応混合物をHCl、H2SO4、HClO4、HNO3等の強酸と反応させることにより−SO3Na基を、スルホン酸基(−SO2OH)に変換し、イオン解離性機能高分子とすることができる。
【0053】
本発明のイオン解離性機能高分子の製造方法により得られるイオン解離性機能高分子は、熱的、化学的安定性にすぐれており、イオンを好適に放出することができる。イオン解離性基が、プロトン解離性基である場合には、本発明のイオン解離性機能高分子は、プロトン伝導度に優れる。具体的には、イオン解離性機能高分子の温度19℃、相対湿度70%の雰囲気中に1日以上おいた条件で測定したプロトン伝導度が通常は、1.0×10-2S/cm以上である。
【0054】
本発明のイオン解離性機能高分子は、燃料電池に用いるプロトン伝導体、イオン交換樹脂等の様々な用途に用いることができる。
特にイオン解離性基がプロトン解離性基である場合には燃料電池に用いるプロトン伝導体として用いることができる。
【実施例】
【0055】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔イオン解離性機能分子前駆体の製造〕
イオン解離性機能分子前駆体を以下の方法で製造した。
【0056】
滴下ロート、コンデンサー(冷却器)、温度計および攪拌機を装着した500mlのガラス製3つ口フラスコに、窒素気流雰囲気下で、フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製nanom mix ST(C60約60%、C70約25%))3.0gを加え、次いで1,2,4−トリクロロベンゼン300mlを加えた。
【0057】
前記フラーレンおよび1,2,4−トリクロロベンゼンを加えた3つ口フラスコを攪拌しながら、温度を200℃に保持して、スペーサー基およびイオン解離性基の前駆体基を有する分子としてI-CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2Fを42.6g(フラーレンの物
質量の24倍の物質量;フラーレン1当量に対して24当量)を約1日かけて滴下ロートから滴下した。滴下終了後、攪拌しながら200℃にて6日間反応させた。
【0058】
反応終了後、3つ口フラスコから反応混合物を取り出し、反応混合物から1,2,4−トリクロロベンゼンを減圧留去し、その残渣を150℃で終夜真空乾燥した。乾燥後の残渣にヘキサン200mlを加え、30分加熱還流させた。冷却後、デカンテーションにてヘキサン層を除き、残渣を真空乾燥し、暗茶色の粉末であるイオン解離性機能分子前駆体9.20gを得た。
【0059】
上記の反応では、前記前駆体原料分子は、ヨウ素原子側の端部でヨウ素原子とラジカル(・CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2F)に熱分解し、この結果生じたラジカルが、ヨウ素原子と結合していた不対電子によってフラーレン分子に付加する。
【0060】
なお、イオン解離性機能分子前駆体の19F−NMRを測定したところ、イオン解離性機能分子前駆体が、スペーサー基(−CF2-CF2-O-CF2-CF2−)を介して前駆体基(−SO2F)がフラーレンに付加した化合物(フラーレン)n-(CF2-CF2-O-CF2-C
2-SO2F)m(nは主として60であり、mは6〜10程度の整数。)であることが示
された。
【0061】
また、イオン解離性機能分子前駆体の元素分析を行った結果、フッ素含量は42質量%
、硫黄含量は8.1質量%であった。これより、イオン解離性機能分子前駆体においてフラーレンをC60とすると1分子に導入された、前駆体基とスペーサー基とからなる前駆体含有スペーサー基(−CF2-CF2-O-CF2-CF2-SO2F)の平均導入個数は、7と求められた。
【0062】
フラーレンをC60とした際のイオン解離性機能分子前駆体の構造を、下記一般式(4)で表す。
【0063】
【化1】

(上記式(4)において、mは6〜10の整数であり、mの平均は7である。)
〔実施例1〕
(工程(1))
攪拌器を取り付けたガラス製200ml四つ口フラスコに、上記イオン解離性機能分子前駆体10.0g(3.55mmol)を加え、連結分子としてIC816Iを3.67
g(5.61mmol)および1,2,4−トリクロロベンゼンを20ml(室温で29g)加え、窒素気流雰囲気下、200℃のオイルバスで7日間加熱・攪拌しつづけた。このとき、次第にフラスコ内にヨウ素結晶が析出していった。また、時折反応液をサンプリングして19F−NMRを測定し、連結分子由来の−59ppmのピークが小さくなっていく様子を確認した。その積分値は、反応開始から3日目には反応開始時に比べておよそ3分の2であり、7日目には10分の1以下であり、反応が順調に進行していた。
【0064】
オイルバスの温度を150℃にして、1,2,4−トリクロロベンゼンを減圧蒸留の形で留去し、さらに150℃で1時間減圧乾燥した。室温に戻した後、四つ口フラスコ内の残渣をクロロホルム20mlで1回、10mlで4回洗浄して、不溶物でろ別し、得られた固形物を室温で1晩減圧乾燥し、黒色固形物である反応生成物を得た。
【0065】
(加水分解工程)
工程(1)で得た黒色固形物である反応生成物を乳鉢で粉砕して、200mlのナスフラスコに移し、そこへTHF10mlと1規定NaOH水溶液50mlを加えて室温で30分間混ぜ合わせた。次いで、フラスコにコンデンサー(冷却器)を取り付け、80℃のオイルバスで1時間還流させた。次いでオイルバスの温度を100℃に設定してTHFを常圧蒸留により留去した後、室温まで放冷した。
【0066】
フラスコを氷水浴で冷やしながら、濃塩酸20mlを加え、この液体をHITACHI製冷却遠心機05PR−22(設定10℃、3000rpm×15min、以下同様)にかけて、沈殿物と上澄み液とに分離し、上澄み液を除去した。
【0067】
沈殿物に10%塩酸30mlを加えてよく混ぜ合わせた後、同様に遠心分離機にかけて、沈殿物と上澄み液とに分離し、上澄み液を除去した。
沈殿物に10%塩酸30mlを加えて、フラスコに移し、80℃のオイルバスで1時間加熱した後、氷水浴で充分に冷やした後、再び遠心分離機にかけて、沈殿物と上澄み液とに分離し、上澄み液を除去した。
【0068】
沈殿物に10%塩酸30mlを加えてよく混ぜ合わせた後、同様に遠心分離機にかけて、沈殿物と上澄み液とに分離し、上澄み液を除去した。
沈殿物に水30mlを加えてよく混ぜ合わせた後、同様に遠心分離機にかけて、沈殿物と上澄み液とに分離し、上澄み液を除去した。
【0069】
沈殿物に水を加えた後に遠心分離機にかける工程(以下、洗浄と記す)を合計5回繰り返した。
洗浄後の沈殿物をシャーレに移して、50℃の送風乾燥機内で2日間乾燥した。
【0070】
乾燥後の沈殿物を乳鉢で粉砕した後、さらに30℃設定のサンプルオーブン中で、1晩真空乾燥を行い、7.30gのイオン解離性機能高分子を得た。
なお、上記加水分解工程により、スルホニルフルオリド基−SO2Fは、スルホン酸基
(−SO2OH)に変換される。
【0071】
〔実施例2〕
実施例1で用いた、1,2,4−トリクロロベンゼン20ml(室温で29g)をパーフルオロトリペンチルアミン(商品名Fluorinert FC−70)20ml(室温で38g)に変え、IC816Iの使用量を4.13g(6.31mmol)に変え、実
施例1で行った7日間の加熱・攪拌を8日間とした以外は、実施例1と同様に行い、7.27gのイオン解離性機能高分子を得た。
【0072】
〔実施例3〕
(工程(1))
攪拌器を取り付けたガラス製200ml四つ口フラスコに、上記イオン解離性機能分子前駆体11.5g(4.09mmol)を加え、1,2,4−トリクロロベンゼン30ml(室温で44g)を加えて、窒素気流雰囲気下、200℃のオイルバスで加熱・攪拌した。そこへIC816Iを2.64g(4.04mmol)とジ−t−ブチルパーオキシ
ド(以下(t−BuO)2と表すことがある)を0.90g(6.16mmol)とを1,2,4−トリクロロベンゼン9.5gに溶解したものを8分割して1時間おきに加え終夜
攪拌した。
【0073】
翌日IC816Iを2.11g(3.23mmol)と(t−BuO)2を0.71g(4.86mmol)とを1,2,4−トリクロロベンゼン7.6gに溶解したものを8分割して1時間おきに加え終夜攪拌した。
【0074】
翌日(t−BuO)2を1.06g(7.26mmol)を1,2,4−トリクロロベン
ゼン2.1gに溶解したものを8分割して1時間おきに加え終夜攪拌した。
なお、攪拌はすべて200℃で行った。時折、反応液をサンプリングして19F−NMRを測定し、−59ppmのピークが小さくなっていく様子を確認した。
【0075】
翌日(反応開始から3日後)にオイルバスの温度を150℃にして、1,2,4−トリクロロベンゼンを減圧蒸留の形で留去し、さらに150℃で1時間減圧乾燥を行った。室温に戻した後、フラスコ内の残渣をクロロホルム20mlで1回、10mlで4回洗浄して
不溶物をろ取し、得られた固形物を室温で1晩減圧乾燥し、黒色固形物である反応生成物を得た。
【0076】
(加水分解工程)
加水分解工程は実施例1と同様に行い、9.26gのイオン解離性機能高分子を得た。
〔比較例1〕
実施例1で用いた1,2,4−トリクロロベンゼンを、CS2/C66混合溶媒(CS2:C66(体積比=1:1)に変え、実施例1で行った200℃での加熱・攪拌を45℃(前記混合溶媒の還流温度)とした以外は実施例1と同様に行った。
【0077】
加熱・攪拌開始から3日の時点で、フラスコ内にヨウ素の析出がなく、19F−NMRでの変化もないため、反応が起きていないと判断し、反応を中止した。
〔イオン伝導度の測定〕
実施例1〜3で合成したイオン解離性機能高分子を室温下で12時間真空乾燥後、得られた粉末200mgを錠剤成型器で直径1.3cmの円形ペレット状になるようにプレス圧300MPaで加圧成型した。金メッキ電極で上記ペレットを密着できる状態で挟み込み、温度19℃、相対湿度70%の雰囲気中に3日以上置いた。
【0078】
このペレット電極接合体について、交流インピーダンスアナライザーを用いて周波数1MHz〜1Hz、印加電圧10mVでインピーダンス測定を行った。
測定終了後、ペレットの面積と厚みを測った。分析した測定データから、各イオン解離性機能高分子のプロトン伝導度を算出した。
【0079】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化芳香族化合物およびパーフルオロ脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、沸点が160℃以上の溶媒中で、
フラーレンに、少なくとも一部がフッ素化されたスペーサー基を介してイオン解離性基の前駆体基が結合してなるイオン解離性機能分子前駆体と、
連結分子とを反応させ、
連結分子由来の連結鎖を介して前記イオン解離性機能分子前駆体が結合してなる反応生成物を得る工程(1)を有することを特徴とするイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化芳香族化合物が、トリクロロベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレンからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン化芳香族化合物であり、
前記パーフルオロ脂肪族化合物が、パーフルオロトリアルキルアミンおよび炭素数12〜30のパーフルオロアルカンからなる群から選択される少なくとも1種のパーフルオロ脂肪族化合物であることを特徴とする請求項1に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項3】
前記パーフルオロトリアルキルアミンが、パーフルオロトリペンチルアミンおよびパーフルオロトリブチルアミンからなる群から選択させる少なくとも1種のパーフルオロトリ
アルキルアミンであることを特徴とする請求項2に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項4】
前記反応における反応温度が160〜300℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項5】
前記反応において、イオン解離性機能分子前駆体1.0当量に対して、連結分子1.0〜5.0当量を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項6】
前記イオン解離性基の前駆体基が、−SO2F、−SO2Cl、−COF、−COClからなる群から選択される少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項7】
前記連結鎖が、下記一般式(1)で表わされる鎖であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
−(CF2)n− ・・・(1)
(上記一般式(1)において、nは5〜10の整数である。)
【請求項8】
前記スペーサー基が、下記一般式(2)で表わされる構造を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
−(CF2)m− ・・・(2)
(上記一般式(2)において、mは1〜10の整数である。)
【請求項9】
前記スペーサー基が、下記一般式(3)で表わされる基であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
−(CF2)m−O−(CF2)m− ・・・(3)
(上記一般式(3)において、mはそれぞれ独立に1〜10の整数である。)
【請求項10】
前記工程(1)をラジカル開始剤存在下で行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれ
かに記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。
【請求項11】
前記ラジカル開始剤の使用量が連結分子1.0当量に対して、0.1当量を超えて10当量以下であることを特徴とする請求項10に記載のイオン解離性機能高分子の製造方法。

【公開番号】特開2010−55945(P2010−55945A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219836(P2008−219836)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】