説明

イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート及びその製造方法

【課題】反応性の高い1級イソシアナート基を有する新規なイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート及びその製造方法の提供。
【解決手段】式(1)で表されるポリイソシアナート及びジハロゲン化物とシアン酸塩とを反応させるその製造方法。


(式中、m1は0または1を表し、nは1〜5の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート及びその製造方法に関するものであり、さらに詳細には無黄変性、高硬度、耐熱性及び耐候性を有するポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂の高反応性の原料として有用性が期待されるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イソシアヌレート環を有するポリイソシアナートは分子内にイソシアヌレート環を有することから耐熱性、耐候性等に優れ、塗料、接着剤、エラストマー、人口皮革、フォームなどに用いられるポリウレタン樹脂の原料として使用される。
【0003】
そして、無黄変性を有する特徴を持つことから塗料、接着剤に多く使用が望めるものとしてヘキサメチレンジイソシアナートから得られるイソシアヌレート環含有脂肪族ポリイソシアナート(例えば特許文献1参照。)、イソホロンジイソシアナートから得られるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート(例えば特許文献2参照。)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−038067号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平07−304842号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に提案のヘキサメチレンジイソシアナートから得られるイソシアヌレート環含有脂肪族ポリイソシアナートは、分子内に直鎖状の骨格を持つことから硬度が低く、硬くて強靭な樹脂を得ることが困難という課題があった。
【0006】
また、特許文献2に提案のイソホロンジイソシアナートから得られるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、分子内に環状骨格を持つことから、得られる樹脂は硬くて強靭となるという特徴を有する反面、該イソホロンジイソシアナートから得られるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、反応部位が2級イソシアナート基であるためポリオールに代表される活性プロトンを持つ反応剤との反応性が低く、樹脂化の際に乾燥性に劣るという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は無黄変性、高硬度を有するポリウレア樹脂やポリウレタン樹脂の材料となりうる反応性の高い1級イソシアナート基を有する新規なイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、新規なイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート及びその製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表されるポリイソシアナートであるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート及びその製造方法に関するものである。
【0010】
【化1】

(式中、m1は0または1を表し、nは1〜5の整数を表す。)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、上記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とするものであり、m1は0または1を表し、溶剤への溶解性が高く、しかも原料の入手が容易なことからm1は0であることが好ましい。また、nは1〜5の整数を表す。そして、該nは本発明のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートにおけるイソシアヌレート環繰り返し単位数を示すものであり、該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、nが1〜5のいずれかの整数を示すイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート、つまり、nが1のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート単独、nが2のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート単独、nが3のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート単独、nが4のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート単独又はnが5のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート単独はもとより、例えばnが1のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートとnが2のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの混合物;nが1のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート、nが2のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートとnが3のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの混合物;nが1のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート、nが2のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート、nが3のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートとnが4のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの混合物等に代表される混合物をも含むものである。その中でも該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの粘性が低く、しかも溶剤への溶解性が高くなることからnが1のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートであることが好ましく、nが1のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアネート10〜90重量%及びnが2〜5から選択される少なくとも1種以上のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート90〜10重量%からなる混合物であることが好ましく、特にnが1のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアネート30〜70重量%及びnが2〜5から選択される少なくとも1種以上のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート70〜30重量%からなる混合物であることが好ましい。ここで、nが6を越えるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートである場合、粘性が高くなるとともに溶剤への溶解性に劣るばかりか、官能基であるイソシアナート基の数が多すぎることになり、その取り扱い性に大きく劣るものとなる。
【0012】
そして、本発明の上記一般式(1)で表されるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートとしては、特に無黄変性、高硬度を有する樹脂材料として有用性が期待されることから、下記一般式(2)乃至一般式(5)のいずれかに示されるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートであることが好ましく、その中でも特に溶剤への溶解性が高く、しかも原料の入手が容易なことから一般式(2)または一般式(3)で表されるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートであることが好ましい。
【0013】
【化2】

(式中、n1は1〜5の整数を表す。)
【0014】
【化3】

(式中、n2は1〜5の整数を表す。)
【0015】
【化4】

(式中、n3は1〜5の整数を表す。)
【0016】
【化5】

(式中、n4は1〜5の整数を表す。)
本発明のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造方法としては、該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造が可能であればいかなる製造方法を用いてもよく、例えば下記一般式(6)で表されるジハロゲン化物とシアン酸塩とを反応することにより、効率的に製造することが可能である。
【0017】
【化6】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、m2は0又は1を表す。)
ここで、m2は0または1を表し、特に溶剤への溶解性が高く、しかも原料の入手が容易なことからm2は0であることが好ましい。また、Xは、それぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、特に該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの生産性に優れることから塩素原子または臭素原子であることが好ましく、特に塩素原子であることが好ましい。
【0018】
該一般式(6)で表されるジハロゲン化物としては、例えばトランス−1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサン、トランス−1,2−ビス(ブロモメチル)シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(ブロモメチル)シクロヘキサン、トランス−1,2−ビス(ヨードメチル)シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(ヨードメチル)シクロヘキサン、トランス−1−クロロメチル−2−ブロモメチルシクロヘキサン、トランス−1−ブロモメチル−2−ヨードメチルシクロヘキサン、シス−1−クロロメチル−2−ブロモメチルシクロヘキサン、シス−1−ブロモメチル−2−ヨードメチルシクロヘキサン、トランス−1,2−ビス(クロロメチル)デカヒドロナフタレン、シス−1,2−ビス(クロロメチル)デカヒドロナフタレン、トランス−1,2−ビス(ブロモメチル)デカヒドロナフタレン、シス−1,2−ビス(ブロモメチル)デカヒドロナフタレン、トランス−1,2−ビス(ヨードメチル)デカヒドロナフタレン、シス−1,2−ビス(ヨードメチル)デカヒドロナフタレン、トランス−1−クロロメチル−2−ブロモメチルデカヒドロナフタレン、トランス−1−ブロモメチル−2−ヨードメチルデカヒドロナフタレン、シス−1−クロロメチル−2−ブロモメチルデカヒドロナフタレン、シス−1−ブロモメチル−2−ヨードメチルデカヒドロナフタレンが挙げられ、その中でも、簡便に効率よく製造できることからトランス−1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサン、トランス−1,2−ビス(ブロモメチル)シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(ブロモメチル)シクロヘキサン、トランス−1,2−ビス(ヨードメチル)シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(ヨードメチル)シクロヘキサンが好ましく、特に安定性が高く、入手が容易であることから、トランス−1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサンがさらに好ましい。
【0019】
該一般式(6)で表されるジハロゲン化物の製造方法としては、例えば市販されているブタジエンと1,4−ジクロロ−2−ブテンを特開2009−184935号公報に開示されている方法により不飽和環状ジハロゲン化物を製造した後、該不飽和環状ジハロゲン化物の二重結合部位を水素化することによりジハロゲン化物とする方法を挙げることができる。
【0020】
また、該シアン酸塩としては、例えばシアン酸リチウム、シアン酸ナトリウム、シアン酸カリウム、シアン酸ルビジウム、シアン酸セシウム、シアン酸銀等が挙げられ、その中でも入手が容易であることから、シアン酸ナトリウム、シアン酸カリウムが好ましい。これらシアン酸塩は単独で用いても2種類以上混合して用いてもよい。
【0021】
該一般式(6)で表されるジハロゲン化物と該シアン酸塩との使用量(比率)については、該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造が可能である限りにおいて特に制限はなく、その中でも効率的に製造が可能となることから該ジハロゲン化物に対し該シアン酸塩を1.5〜50当量とすることが好ましく、特に1.8〜10当量とすることが好ましく、さらに1.5〜6当量とすることが好ましい。
【0022】
該一般式(6)で表されるジハロゲン化物と該シアン酸塩との反応による該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造においては、該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造効率を高くするために必要に応じて相間移動触媒、ルイス酸触媒、ハロゲン化金属触媒、クラウンエーテル触媒等を添加することができる。
【0023】
該相間移動触媒としては、例えば4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等を挙げることができ、該4級アンモニウム塩としては、より具体的には塩化テトラメチルアンモニウム塩、塩化テトラプロピルアンモニウム塩、塩化テトラブチルアンモニウム塩、臭化テトラエチルアンモニウム塩、臭化テトラブチルアンモニウム塩等を挙げることができる。該4級ホスホニウム塩としては、より具体的には塩化テトラブチルホスホニウム塩、塩化テトラフェニルホスホニウム塩、臭化テトラブチルホスホニウム塩等を挙げることができる。そして、より安定性が高く該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの生産効率に優れることから4級アンモニウム塩であることが好ましく、特に入手が容易であることから臭化テトラエチルアンモニウム塩、臭化テトラブチルアンモニウム塩であることが好ましい。これら相関移動触媒は単独で用いるのみならず2種類以上混合して用いることも可能である。
【0024】
該ルイス酸触媒としては、例えばルイス酸性を示すハロゲン化金属若しくはその錯体又は有機ハロゲン化金属を挙げることができ、該ハロゲン化金属としては、より具体的にはフッ化ホウ素(III)、塩化アルミニウム(III)、塩化スズ(IV)、塩化アンチモン(III)、塩化チタン(IV)、塩化鉄(III)、臭化亜鉛(II)、塩化銅(I)、塩化銅(II)等が挙げられる。該ハロゲン化金属錯体としては、より具体的には該ハロゲン化金属とのエーテル錯体、アンモニア錯体、有機アミン錯体、トリフェニルホスフィン錯体等が挙げられる。該有機ハロゲン化金属としては、より具体的にはEtAlCl、EtAlCl等を挙げることができる。そして、より安定性が高く該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの生産効率に優れることからハロゲン化金属であることが好ましく、さらに入手が容易であることからフッ化ホウ素(III)、塩化銅(I)、塩化銅(II)であることが好ましい。これらルイス酸触媒は単独で用いるのみならず、2種類以上混合して用いることも可能である。
【0025】
該ハロゲン化金属触媒としては、例えばヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム等が挙げることができ、より安定性が高く該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの生産効率に優れることからヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムが好ましい。該ハロゲン化金属触媒は単独で用いるのみならず、2種類以上混合して用いることが可能である。
【0026】
該クラウンエーテル触媒としては、例えば18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、15−クラウン−5、12−クラウン−4等が挙げられ、より安定性が高く該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの生産効率に優れることから18−クラウン−6、15−クラウン−5が好ましい。該クラウンエーテル触媒は単独で用いるのみならず、2種類以上混合して用いることが可能である。
【0027】
これらの相間移動触媒、ルイス酸触媒、ハロゲン化金属触媒、クラウンエーテル触媒を用いる際のその使用量については、該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造が可能である限りにおいて特に制限はなく、より効率的に製造を行うことが可能となることから該一般式(6)で表されるジハロゲン化物に対して0.1〜80mol%であることが好ましく、さらに0.5〜20mol%であることが好ましく、特に1〜10mol%であることが好ましい。
【0028】
また、該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを製造する際には、製造効率を高めるため必要に応じ副反応抑制剤を用いることが可能であり、該副反応抑制剤としては、例えば第2族金属塩を挙げることができる。該第2族金属塩としては、第2族金属塩に属するものであれば如何なる制限を受けることなく用いることが可能であり、より具体的には安息香酸カルシウム、ギ酸カルシウム、コハク酸カルシウム、酢酸カルシウム、シアン酸カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、硝酸カルシウム、石炭酸カルシウム、ナフテン酸カルシウム、フタル酸カルシウム、ベンゼンスルホン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、硫酸カルシウム、トルエンスルホン酸カルシウム、ギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸マグネシウム、ナフテン酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ギ酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、ナフテン酸ストロンチウム、プロピオン酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、酢酸亜鉛、シアン酸亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硝酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、硫酸亜鉛、安息香酸バリウム、ギ酸バリウム、酢酸バリウム、塩化バリウム、臭化バリウム、硝酸バリウム、ナフテン酸バリウム、プロピオン酸バリウム、硫酸バリウム、トリフルオロ酢酸カルシウム、トリフルオロ酢酸バリウム、トリフルオロ酢酸マグネシウム、トリフルオロ酢酸亜鉛等を挙げることができ、より安定性が高く該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの生産効率に優れることから酢酸カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、硫酸マグネシウムが好ましく、特に塩化カルシウム、塩化マグネシウムが好ましい。これら第2族金属塩は単独で用いるのみならず、2種類以上混合して用いることも可能である。また、該第2族金属塩を使用する際の使用量については、該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造が可能である限りにおいて特に制限はなく、より効率的に製造を行うことが可能となることから該シアン酸塩に対して0.1〜50重量%であることが好ましく、さらに0.2〜25重量%であることが好ましく、特に0.3〜15重量%であることが好ましい。
【0029】
該一般式(6)で表されるジハロゲン化物と該シアン酸塩との反応により該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを製造する際には、溶媒中で反応を行うことが可能であり、該溶媒としては該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを製造することが可能である限りにおいて如何なる溶媒を用いることも可能であり、特に生成する該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートと溶媒との反応を抑制し効率よく該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを製造することが可能となることから、非プロトン性溶媒であることが好ましい。該非プロトン性溶媒としては、特に制限はなく、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族溶媒、等を挙げることができる。そして、その中でも、特に反応速度が速くなり、効率よく該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを製造することが可能となることから誘電率が15〜60である溶媒が好ましく、さらに該一般式(6)で表されるジハロゲン化物と該シアン酸塩の相溶性を高めることができることからジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒であることが好ましく、特にジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドが好ましい。また、これら溶媒は1種又は2種以上の混合物を用いても良い。
【0030】
該一般式(6)で表されるジハロゲン化物と該シアン酸塩との反応により該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを製造する際の反応温度としては、特に制限はなく、その中でも20〜300℃であることが好ましく、特に50〜250℃であることが好ましく、さらに90〜200℃であることが好ましい。また、反応圧力としては、特に制限はなく、常圧でも加圧下でも実施でき、特に常圧であることが好ましい。さらに、反応時間に関しては、反応温度、原料の基質濃度等により適宜選択することが可能であり、その中でも1分〜200時間であることが好ましく、特に5分〜50時間であることが好ましい。反応の際の雰囲気に特に制限はなく、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスによって置換して反応を行うことができる。そして、該イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを製造する際の反応は、回分式、半回分式、連続式のいずれで実施することも可能である。
【0031】
本発明のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、上述のように該一般式(1)におけるnが1〜5の整数を表す構造を有するものであり、nが1〜5のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの混合物であってもよい。また、nが1〜5のいずれかのイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート単独とする際には、該混合物より公知の方法等により単離することにより得ることが可能であり、例えば液体クラマトグラフィ等により単離することが可能である。
【0032】
本発明のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、無黄変性、高硬度、耐熱性及び耐候性を有するポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂の原料として期待されるものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、無黄変性、高硬度、耐熱性及び耐候性を有するポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂の高反応性の原料として期待できる有用なイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート及びその効率的な製造方法を提供するものであり、工業的にも有用性が期待される。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0035】
以下に実施例に用いた測定方法を示す。
【0036】
<ガスクロマトグラフ分析>
反応液に内標としてトリデカンを加え、カラム(ジーエルサイエンス製、(商品名)TC−1カラム)を装着したガスクロマトグラフ(島津製作所製、(商品名)GC−1700)に反応液0.4μlを注入し、分析を行った。
【0037】
<FT−IR測定>
赤外分光光度計(Nicolet社製、(商品名)Impact410)を用い、測定を行った。
【0038】
<イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)測定>
得られたイソシアヌレート環含有ポリイソシアナートをクロロホルムに溶解し、メチルアルコールと60℃で20時間反応させ、メチルカーバメート化物とした。得られたメチルカーバメート化物をテトラヒドロフランに溶解し、溶液の濃度を1g/lに調整した後、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCと記す。)に該溶液を20μl注入し、メチルカーバメート化物の各溶出曲線より、メチルカーバメート化物の各数平均分子量を測定し、該各数平均分子量より、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)を算出した
なお、GPC測定には、カラムとして(商品名)TSKgel GMR−HHRL(東ソー(株)製)を2本直列に装着した高速GPC装置(東ソー(株)製、(商品名)HLC8220GPC)を用い、数平均分子量は、標準ポリスチレン換算として測定した。
【0039】
合成例1(ジハロゲン化物の合成)
(不飽和環状ジハロゲン化物の製造)
ブタジエン86g(1.6mol)とトランス−1,4−ジクロロ−2−ブテン800g(6.4mol)を2リットルのオートクレーブに仕込み、窒素置換した後、攪拌しながら170℃まで昇温し、そのまま5時間加熱攪拌を行った。反応終了後、25℃まで温度を下げ、オートクレーブから反応液を取り出した。得られた溶液を減圧下で蒸留し、純度94重量%のトランス−4,5−ビス(クロロメチル)−1−シクロヘキセン14g(ブタジエン基準の収率:5%)を得た。
(飽和環状ジハロゲン化物の製造)
200mlのオートクレーブに上記で得られたトランス−4,5−ビス(クロロメチル)−1−シクロヘキセンを14g、エタノール5g及び5wt%Pd/C(エヌ・イー ケムキャット社製)0.2gを仕込み、窒素置換した。その後、攪拌しながらオートクレーブ内の温度を50℃に上げ、水素を供給し1.0MPaに保ち2時間後、反応液を取り出した。得られた反応液をろ過後、減圧下で蒸留し、トランス−1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサン13g(収率91%)を得た。
【0040】
実施例1
窒素ガスで置換した50mlのシュレンク管に合成例1により得られたトランス−1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサン1.8g(10mmol)を仕込み、N−メチル−2−ピロリドン16mlとシアン酸カリウム(シグマ−アルドリッチ製、純度96%)2.2g(26mmol)を加えた。そして、スラリー状の反応混合物を攪拌しながら150℃まで昇温し、15時間加熱攪拌した。反応後、25℃まで温度を下げ、反応混合物から過剰なシアン酸カリウムをガラスフィルターでろ別分離した。ろ液から溶媒と低沸点成分及び残原料を減圧留去して、イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート1.1g(収率59%)を淡黄色透明液体として得た。
【0041】
得られたイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、FT−IR測定によりイソシアヌレート環部位のカルボニル1690〜1700cm−1及びイソシアナート基の吸収2220〜2230cm−1の吸収を有することを確認した。
【0042】
また、GPC測定により、得られたイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が1であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート43重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が2であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート11重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が3であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート23重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が4であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート13重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が5であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート10重量%からなることを確認した。
【0043】
得られたイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの構造を下記に示す。
【0044】
【化7】

合成例2
(不飽和環状ジハロゲン化物の製造)
1,4−ジクロロ−2−ブテン(トランス体:シス体=90:10)150g(1.2mol)を500ミリリットルのオートクレーブに仕込んだ。内部を窒素置換した後、攪拌しながら180℃まで昇温し、1,3−ブタジエン39.6g(0.733mol)をポンプで8時間30分かけて供給した。供給終了後さらに6時間加熱攪拌し、ディールスアルダー反応を行った。反応終了後、25℃まで温度を下げ、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液は褐色溶液であった。得られた褐色の溶液を0.4kPaの減圧下で蒸留し、65〜75℃の範囲の留出分を集めることにより、純度90重量%の1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセン14g(1,3−ブタジエン基準の収率:10%)を無色溶液として得た。
(飽和環状ジハロゲン化物の製造)
300mlのオートクレーブに上記で得られた1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセン10g、エタノール100g及び水素化触媒として5wt%Pd/C(エヌ・イー・ケムキャット社製)0.1gを入れて、窒素置換した。その後、攪拌しながらオートクレーブ内の温度を50℃に上げ、水素を供給し1.0MPaに保ち2時間後、反応液を取り出した。得られた反応液をろ過後、0.4kPaの減圧下で蒸留し70〜79℃の範囲の留出分を集めガスクロマトグラフで分析した結果、1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセンは完全に転化し、1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサン(トランス体:シス体=81:19)を選択率95%で得た。
【0045】
実施例2
トランス−1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサンの代わりに、合成例2により得られた1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサン(トランス体:シス体=81:19)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、イソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを得た。
【0046】
得られたイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が1であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート45重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が2であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート12重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が3であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート25重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が4であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート10重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が5であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート8重量%からなることを確認した。
【0047】
実施例3
シアン酸カリウムの代わりに、シアン酸ナトリウム(シグマ−アルドリッチ製、純度96%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを得た。
【0048】
得られたイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が1であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート35重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が2であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート8重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が3であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート33重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が4であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート14重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が5であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート10重量%からなることを確認した。
【0049】
実施例4
N−メチル−2−ピロリドンの代わりに、ジメチルホルムアミドを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によりイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを得た。
【0050】
得られたイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が1であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート44重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が2であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート11重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が3であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート20重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が4であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート15重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が5であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート10重量%からなることを確認した。
【0051】
実施例5
相間移動触媒として臭化テトラエチルアンモニウム(和光純薬製)及びヨウ化ナトリウムをトランス−1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサンに対してそれぞれ5mol%加えたこと以外は、実施例1と同様の方法によりイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを得た。
【0052】
得られたイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が1であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート48重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が2であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート17重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が3であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート19重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が4であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート9重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が5であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート7重量%からなることを確認した。
【0053】
実施例6
副反応抑制剤として塩化カルシウム(和光純薬製)をシアン酸カリウムに対して27mol%加えたこと以外は、実施例1と同様の方法によりイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートを得た。
【0054】
得られたイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が1であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート43重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が2であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート10重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が3であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート26重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が4であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート11重量%、イソシアヌレート環繰り返し単位数(n)が5であるイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート10重量%からなることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の新規なイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートは、反応性の高い1級イソシアナート基を有すると共に脂環族構造を有することから、無黄変性、高硬度を有するポリウレア樹脂やポリウレタン樹脂の材料として期待されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるポリイソシアナートであることを特徴とするイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート。
【化1】

(式中、m1は0または1を表し、nは1〜5の整数を表す。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、少なくともnが1であるポリイソシアナートからなることを特徴とする請求項1に記載のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート。
【請求項3】
上記一般式(1)において、nが1であるポリイソシアナート10〜90重量%及びnが2〜5から選択される少なくとも1種以上のポリイソシアナート90〜10重量%からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート。
【請求項4】
上記一般式(1)において、m1が0であるポリイソシアナートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナート。
【請求項5】
下記一般式(2)で表されるジハロゲン化物とシアン酸塩とを反応することにより、上記一般式(1)で表されるポリイソシアナートを製造すること特徴とするイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造方法。
【化2】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、m2は0又は1を表す。)
【請求項6】
非プロトン性溶媒中で反応を行うことを特徴とする請求項5に記載のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造方法。
【請求項7】
非プロトン性溶媒が誘電率15〜60であることを特徴とする請求項6に記載のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造方法。
【請求項8】
非プロトン性溶媒がジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造方法。
【請求項9】
シアン酸塩がシアン酸ナトリウム及び/またはシアン酸カリウムであることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のイソシアヌレート環含有脂環族ポリイソシアナートの製造方法。

【公開番号】特開2011−111423(P2011−111423A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270577(P2009−270577)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】