説明

イソシアネートの製造方法

本発明は、適当なら少なくとも一種の不活性の媒体の存在下で、気相でアミンとホスゲンとを反応させるイソシアネートの製造方法であって、ホスゲンがエジェクターの第一の供給口から、アミンが第二の供給口から反応器内に供給される方法に関する。第一の供給口と第二の供給口は混合ゾーン(17)につながり、ここでホスゲンとアミンが混合されて、反応混合物を与える。混合ゾーン(17)の下流にはディフューザ(19)があり、ここでホスゲンとアミンからなる反応混合物の圧力と温度が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適当なら少なくとも一種の不活性の媒体の存在下で、アミンと気相のホスゲンとを反応させるイソシアネートの製造方法であって、ホスゲンがエジェクターの第一の供給口から、アミンが第二の供給口から反応器内に供給される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネート類は、原理的には、相当するアミンを液相のホスゲンまたは気相のホスゲンによりホスゲン化して製造できる。気相ホスゲン化には、高選択性や有毒ホスゲン滞留量の削減、省エネルギーが求められる。
【0003】
気相ホスゲン化では、アミン含有反応物流とホスゲン含有反応物流とがガス状で混合される。アミンとホスゲンが反応すると、HClを放出して相当するイソシアネートを与える。このアミン含有反応物流は通常液相で存在し、ホスゲン含有流と混合する前に、気化や適当なら加熱が必要となる。
【0004】
蒸気圧が小さいため、特にジアミンの蒸気圧が小さい、気化は高温で行われる。しかしながら、この気化により、アミンまたはジアミンの分解反応、例えば脱アミノ化や脱メチル化、二量体化が起こり、全体プロセスの選択性に悪影響を及ぼす。
【0005】
また、二つの反応物流が接触すると、高温であるため反応による変換が速やかに始まる。アミンのイソシアネートへのホスゲン化に加えて、望まざる副反応とそれに続く反応が始まることもある。例えば、生成したイソシアネートが系から除かれていないアミンと反応して尿素を形成することもある。また、カルボジイミドやシアヌレートが生成することもある。これは、まず本方法の選択性に悪影響を及ぼし、次に生成する固体副生成物がパイプなどの閉鎖を引き起こしプラントの稼働時間に悪影響を及ぼす。したがって一般的には、できる限り副次的成分の形成を加速する混合条件を避けるために、反応物流を非常に高速で混合するようにする。
【0006】
例えば、EP−A1319655は、ジイソシアネートやトリイソシアネートの製造方法であって、
相当する蒸気状のジ−及び/又はトリアミンとホスゲンとそれぞれ200℃〜600℃の範囲の温度に加熱し、これらを、内部でガス状反応物流が平行に流れる構造のスタチックミキサーに通過させ、アミンはノズルを経由してこのミキサー装置中の反応器に導き、ホスゲンをノズルを取り巻く環状の空間を経由して導く方法を開示している。この環状の空間は反応器と同じ径を持つ。アミンの流速は、ホスゲンの流速に比べると大きい。
【0007】
EP−A0928785は、微細構造ミキサー中でのアミンとホスゲンの混合を開示している。この場合、反応物は、薄いフリージェット状の部品から現れ、拡散及び/又は乱流の結果、非常に高速で混合が行われる。これにより混合操作が早まり、達成可能な歩留まりが上昇する。
【0008】
EP−A1555258には、円管状反応器の回転軸方向中心部に設けられた長いジャケット付き導入管をもつ円管状反応器中におけるアミンのホスゲン化によるイソシアネートの製造が記載されている。ジャケット付き導入管の内側と外側の間に同心円状環状の間隙が形成されている。反応には、蒸気状のジアミン及び/又はトリアミンとホスゲンとがそれぞれ別個に200℃〜600℃の範囲の温度に加熱され、蒸気状のジアミン及び/又はトリアミンとが同心円状環状の間隙から円管状反応器に供給され、ホスゲンが円管状の反応器のそれ以外の断面から供給される。
【0009】
EP−A1526129には、ジアミン及び/又はトリアミンを含む反応物流が中央ノズルを取り囲む環状空間を経由して円管状の反応器に供給され、ホスゲン含有反応物流が中央ノズルを経由して供給されるイソシアネートの製造方法が述べられている。この環状の空間は反応器と同じ径をもつ。乱流を作るため、乱流発生器が中央ノズル内に取り付けられている。
【0010】
EP−A0289840は、混合管内に伸びるノズルを経由してホスゲンを供給する方法を開示している。アミンは、ノズルを取り囲む環状の間隙から導入される。導入の前に、ホスゲンとアミンは、200〜600℃の範囲、好ましくは200〜500℃の範囲の温度に加熱される。
【0011】
すべての既知の方法の欠点は、高温のため、混合とともに反応が直ちに始まり、アミンとイソシアネートが共存するため副反応で相当する尿素が生成することである。
【0012】
DE−A3842065には、エジェクターを用いる高沸点物質の気化が開示されている。
【0013】
第一の反応物が、高速で中央ノズル内のエジェクターを通過する。このため環状の空間から第二の反応物が引き出される。この結果、第二の反応物を反応器に供給する領域が減圧となる。したがって、気化を低温で行うことができる。しかしこれにより、エジェクターを出る反応混合物が、好適反応温度より低温となるという効果が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、アミンとホスゲンとを気相で反応させるイソシアネートの製造方法であって、反応物の高速混合を可能とし副生成物の生成を抑えることのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、適当なら少なくとも一種の不活性の媒体の存在下で、アミンと気相のホスゲンとを反応させるイソシアネートの製造方法であって、ホスゲンがエジェクターの第一の供給口から、アミンが第二の供給口から反応器内に供給される方法により達成される。第一の供給口と第二の供給口は、混合ゾーンに向けて開放されてあり、この中でホスゲンとアミンが混合されて反応混合物となる。この混合ゾーンの下流にはディフューザがあり、この中でホスゲンとアミンからなる反応混合物の圧力と温度が上昇する。
【0016】
このホスゲンは、好ましくは少なくとも音速で混合ゾーンに流入する。この結果、混合ゾーン中では、通常0.5Maを超える速度となり、このため混合ゾーン中の温度が反応器中よりかなりの低くなる。また、混合ゾーン中の圧力も反応器中より低くなる。反応器中の圧力に比べて混合ゾーンに至るアミン供給ラインの圧力をかなり低くすることで、低温でのアミンの気化が達成される。
【0017】
混合ゾーンに向けて開放されている第一供給口と第二供給口は、中央にあるノズルとその中央ノズルを取り囲む環状の間隙であることが好ましい。ある好ましい実施様態においては、ホスゲンが中央ノズルを通過し、アミンが中央ノズルを取り囲む環状の間隙を通過する。しかしながら、ホスゲンに中央ノズルを取り囲む環状間隙を通過させ、アミンに中央ノズルを通過させることもできる。ホスゲンを中央ノズルを取り囲む環状間隙を通して添加する場合は、中央ノズルを経由してホスゲンを添加する場合より付着物を形成する傾向が小さくなる。しかしながら、中央ノズルを取り囲む環状間隙を経由するホスゲンの添加は、圧力損失の点で不利である。したがって通常、ホスゲンは中央ノズルから供給される。
【0018】
エジェクターはホスゲンのアミンとの高速混合を可能とする。ホスゲン流が高速のため、ノズル下流の混合ゾーン中での流動が乱流となり、乱流混合が起こる。混合ゾーン下流のディフューザ中では、温度と圧力が、混合ゾーンと比較して上昇する。この結果、混合ゾーン中でのホスゲンとアミンの混合を、反応が最高反応速度で進行する温度より低い温度で行うことができる。同時にホスゲンとアミンの分圧も低下する。この結果、混合ゾーンでは反応速度が低下する。混合ゾーン中では反応速度が低いためイソシアネートの形成量が少なくなる。その結果、イソシアネートとアミンの共存により生成する副生成物の形成を、特に尿素の形成を抑えることができる。ディフューザ中では、温度が実際の反応温度にまで上昇し、反応圧力が上昇する。
【0019】
ホスゲンの流速が、好ましくは中央ノズルを経由するホスゲンの流速が高いため、供給アミン流中で、即ちホスゲンを中央ノズル経由で供給する場合には、中央ノズルを取り囲む環状間隙とこの環状間隙に至るガス供給開口部中で圧力低下が引き起こされる。物質の沸点は圧力に依存し、また沸点も低圧では低下するため、アミンは低圧では低温で気化する。低温での気化で、アミンがより穏やかに気化することとなる。
【0020】
アミンの供給において達成可能な圧力は、したがって供給アミン流の圧力は、ホスゲンの速度とノズルと環状間隙の幾何的な寸法に依存する。環状間隙中の圧力と供給アミン流の圧力は、ホスゲンの速度の上昇とともに減少する。
【0021】
一般的には、供給アミン流、またアミン供給路中での、好ましくは環状間隙とこの環状間隙への供給開口部に好適な圧力は、用いるアミンに依存する。アミン供給路の圧力は、好ましくは0.01〜3baraの範囲であり、特に0.05〜1.5baraの範囲である。
【0022】
混合ゾーン中での圧力は、0.05〜3baraの範囲であり、混合ゾーン中での温度は、200〜400℃の範囲である。混合ゾーン中での圧力と温度は、混合ゾーンに流入するホスゲンとアミンの圧力と温度より高くなる。混合ゾーンに流入するホスゲンは、250〜450℃の範囲の温度に加熱することが好ましい。
【0023】
ホスゲンとアミンを加熱し、同時にアミンを気化させるために、例えば、電気ヒーターまたは燃料燃焼による直接加熱または間接加熱が用いられる。用いる燃料は、通常燃料ガスであり、特に天然ガスである。しかし、アミン沸点が低下するため、例えばスチーム加熱も可能である。スチームの圧力は、アミンの沸点に応じて選択される。スチームの好適な蒸気圧は、例えば40〜100barの範囲である。この結果、スチームの温度は250〜311℃の範囲となる。
【0024】
一般に、多段でアミンを反応温度にまで加熱する必要がある。一般にこのために、アミンをまず前加熱し、次いで気化し、さらに加熱する。一般に、この気化のために滞留時間を最も長くする必要があり、このためアミンの分解が起こる。これを最小限に抑えるために、低温での気化が、例えば低圧で引き起こされる低温気化が有利である。気化アミンを反応温度にまで加熱するには、スチーム加熱は一般的には不十分である。したがって、加熱には、通常電気ヒーターまたは燃料燃焼による直接加熱または間接加熱が用いられる。
【0025】
アミンの気化とは異なり、ホスゲンの気化は、一般的にはかなり低温で実施される。このため、スチームは一般的にはホスゲンの気化に用いるべきである。しかしながら、ホスゲンの反応温度までの加熱は、一般的には、電気加熱または燃料燃焼による直接加熱または間接加熱のみで可能である。
【0026】
ディフューザ中で反応混合物の温度が反応温度に上昇する。同時に圧力も反応圧力にまで上昇する。ディフューザの幾何的構成に依存して圧力と温度が上昇する。用いるアミンによっては、ディフューザ温度を250〜450℃へ、圧力を0.5〜3baraに上げることが好ましい。より好ましくは、ディフューザ中での反応混合物の加熱目標温度は、300〜400℃の範囲である。反応混合物の加圧圧力は、より好ましくは0.8〜3.0baraの範囲である。
【0027】
ホスゲンは、第一の供給口中で、好ましくは中央ノズル中で、あるいは環状間隙中で、例えばラバルノズルを用いて音速または超音速に加速される。その結果、ホスゲンがノズルから音速または超音速の気流として出てくる。混合ゾーン中での圧力条件によっては、中央ノズルを出た後のホスゲンがさらに高速となることもある。
【0028】
ガスの音速は、一般的には温度に依存する。高温では超音速も大きくなる。中央ノズルから混合ゾーン中へ流入するホスゲンの温度は、250〜450℃の範囲であることが有利である。したがって、ノズル出口でのホスゲンの音速は210〜254m/sの範囲であることが好ましい。ホスゲンの混合ゾーンの流入速度は、少なくともこの音速に相当することが好ましい。好適なホスゲン供給部の幾何配置、例えばラバルノズル状の配置により、音速を超える加速、即ち超音速への加速が可能となる。
【0029】
混合ゾーンの速度が上がると温度と低圧が低下する。したがって、ホスゲンがアミンと低温低圧かつ低反応速度で混合される。この結果、非混合状態で副反応が減少し高選択性が達成される。ディフューザに流入し完全混合後に、圧力と温度が上昇して反応速度が上昇する。また、混合ゾーンが高速であると、固体の、例えば尿素、ウレトジオン、イソシアヌレート、塩酸塩またはビウレットの析出傾向が低下するため、プラントの操業時間の点でも有利である。
【0030】
中央ノズルや環状間隙の幾何構造によるが、中央ノズルからのあるいは環状間隙からのホスゲンの流出速度により、環状間隙または中央ノズルから出てくるアミンの速度が30〜160m/sの範囲となることが好ましい。環状間隙または中央ノズルからアミンが50〜150m/sの範囲の速度で流出することがより好ましい。
【0031】
混合ゾーン中でホスゲンとアミンとを完全混合するためには、混合ゾーンの長さ/直径比(L/D比)を2より大きくすることが好ましい。また、完全混合後にできるだけ速やかにアミンとホスゲンがディフューザに流入し、圧力と温度がまた反応速度が上昇するようにするには、L/D比が10以下であることが好ましい。このL/D比は好ましくは4〜7の範囲である。
【0032】
混合ゾーン中での平均速度が好ましくは50〜260m/sの範囲である場合に、混合ゾーンでのホスゲンとアミンの高速混合と所望の温度と圧力の低下が達成される。混合ゾーン中での平均速度は、より好ましくは100〜250m/sの範囲である。この速度は、特に中央ノズルからのホスゲンの出口速度により達成される。混合ゾーンの下流に連結されたディフューザ中では、反応混合物の速度が低下する。その結果、圧力と温度が上昇する。アミンのホスゲン化に必要な温度を達成するには、ディフューザ出口での速度を1〜50m/sに範囲とすることが好ましい。ディフューザ出口での反応混合物の速度は、より好ましくは2〜30m/sの範囲である。
【0033】
ディフューザの下流には、アミンをホスゲン化してイソシアネートを製造するための通常の反応器が置かれている。一般に、使用される反応器は円管状の反応器である。この円管状の反応器の直径は、ディフューザの直径と一致することが好ましい。
【0034】
ディフューザ中での速度を低下させるため、また必要な圧力と温度の上昇のため、このディフューザの開口部角度を4〜20°の範囲とすることが好ましい。ディフューザ出口でのディフューザの長さ/直径比は、好ましくは3〜14の範囲である。このディフューザの開口部角度は、より好ましくは6〜16°の範囲であり、そのディフューザ出口でのディフューザの長さ/直径比は、3.5〜9.5の範囲である。
【0035】
ホスゲンとアミンの高速混合のため、また必要なアミン添加用の第二供給口の圧力低下のために、第二供給口の開口部断面/ホスゲン添加用の第一供給口の開口部断面の比が、1〜20の範囲にあることが好ましい。第二供給口の開口部断面積のホスゲン添加用の第一供給口の開口部断面積に対する比は、好ましくは1.2〜15の範囲である。この比率は、より好ましくは1.5〜10の範囲である。
【0036】
環状の間隙の開口部断面積のノズルの開口部断面積に対する比は、また、反応混合物中のホスゲンのアミンに対する比率を決める。アミンの比率は、アミンが環状の間隙から混合ゾーンに吸収される速度と環状の間隙の断面積に依存する。断面積が大きいほど、またアミンの速度が速いほど、アミンの比率が大きくなる。環状間隙から混合ゾーンに反応に必要なアミンを供給するために、アミンを不活性ガスと混合してもよい。特に、副生成物の生成を避けるために、ホスゲンを過剰に供給することが好ましい。アミン中に不活性ガスの比により、特定の幾何構造の中央ノズルと環状間隙と、特定の速度で、即ち特定の流量で供給されるホスゲンで供給されるアミンの量の流量が決まる。添加する不活性媒体は、反応室中でガス状で存在し、反応中に生成する化合物と反応しないものである。用いる不活性媒体としては、例えば、窒素、ヘリウムやアルゴンなどの希ガス、クロロベンゼン、クロロトルエン、o−ジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、クロロナフタレン、デカヒドロナフタレンなどの芳香族化合物、二酸化炭素または一酸化炭素があげられる。しかしながら、窒素及び/又はクロロベンゼンを不活性媒体として用いることが好ましい。
【0037】
しかし例えば大過剰のホスゲンを避けるために、ホスゲンを不活性媒体に添加してもよい。
【0038】
一般に、不活性媒体は、不活性媒体のアミンまたはホスゲンに対するガス体積が0.0001〜30、好ましくは0.01〜15、より好ましくは0.1〜5となるように添加される。
【0039】
イソシアネートの製造に用いることのできるアミンは、モノアミン、ジアミン、トリアミン、またはより高官能性アミンである。モノアミンまたはジアミンの使用が好ましい。用いるアミンに応じて、相当するモノイソシアネート、ジイソシアネート、トリイソシアネートまたは多官能性イソシアネートが形成さえる。本発明の方法によりモノイソシアネートまたはジイソシアネートを製造することが好ましい。
【0040】
アミンとイソシアネートは、脂肪族であっても脂環式または芳香族であってもよい。
【0041】
これらのアミンは、好ましくは脂肪族または脂環式であり、より好ましくは脂肪族である。
【0042】
脂環式イソシアネートは、少なくとも一個の脂環式環を有するものである。
【0043】
脂肪族イソシアネートは、直鎖又は分岐状鎖にイソシアネート基のみが結合したものである。
【0044】
芳香族イソシアネートは、少なくとも一個のイソシアネート基が少なくとも一個の芳香族環に結合したものである。
【0045】
本出願においては、脂肪族(脂環式)イソシアネートは、脂環式イソシアネート及び/又は脂肪族のイソシアネートを短縮した用語である。
【0046】
芳香族モノイソシアネートとジイソシアネートの例としては、好ましくは6〜20個の炭素原子を持つもの、例えばフェニルイソシアネート、モノマー状メチレン2,4’−及び/又は4,4’−ジ(フェニルイソシアネート)(MDI)、トリレン2,4−及び/又は2,6−ジイソシアネート(TDI)、ナフチル1,5−または1,8−ジイソシアネート(NDI)があげられる。
【0047】
ジイソシアネートは、好ましくは脂肪族(脂環式)ジイソシアネートであり、より好ましくは4〜20個の炭素原子をもつ脂肪族(脂環式)ジイソシアネートである。
【0048】
通常使用されるジイソシアネートの例としては、テトラメチレン1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(1,6−ジイソシアナトヘキサン)、オクタメチレン1,8−ジイソシアネート、デカメチレン1,10−ジイソシアネート、ドデカメチレン1,12−ジイソシアネート、テトラデカメチレン1,14−ジイソシアネート、1,5−ジイソシアナトペンタン、ネオペンタンジイソシアネート、リシンジイソシアネートの誘導体、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリメチルヘキサンジイソシアネートまたはテトラメチルヘキサンジイソシアネート、また3(または4)、8(または9)−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン異性体混合物などの脂肪族のジイソシアネートと1,4−、1,3−または1,2−ジイソシアナトシクロヘキサン、4,4’−または2,4’−ジ−(イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、1,3−または1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2,4−または2,6−ジイソシアナト−1−メチルシクロヘキサンなどの脂環式ジイソシアネートがあげられる。
【0049】
1,6−ジイソシアナトヘキサンや、1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、4,4’−ジ(イソシアナトシクロヘキシル)メタン、リレンジイソシアネート異性体混合物が好ましい。1,6−ジイソシアナトヘキサンと、1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、4,4’−ジ(イソシアナトシクロヘキシル)メタンが特に好ましい。
【0050】
本発明の方法でイソシアネートを得るための反応に用いられるアミンは、選択された反応条件下でアミンと相当する中間体と相当するイソシアネートがガス状で存在しているものである。反応条件下で多くても2mol%程度までしか反応中に分解しないアミンが好ましく、分解率が多くても1モル%であるものがより好ましく、多くとも0.5モル%であるものが最も好ましい。特に好ましいのは、2〜18個の炭素原子をもつ脂肪族または脂環式炭化水素系のアミン、特にジアミンである。例としては、1,6−ジアミノヘキサンや、1,5−ジアミノペンタン、1,3−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサン、1−アミノ−3,3,5−トリメチル−5−アミノメチルシクロヘキサン(IPDA)、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンがあげられる。1,6−ジアミノヘキサン(HDA)を使用することが好ましい。
【0051】
本発明の方法に、あまり分解せずに気相に変換可能な芳香族アミンを使用することも可能である。好ましい芳香族アミンの例としては、トリレンジアミン(TDA)の2,4−または2,6−異性体またはその混合物、例えば80:20〜65:35(mol/mol)の混合物、ジアミノベンゼン、2,6−キシリジン、ナフチルジアミン(NDA)、2,4’−または4,4’−メチレン(ジフェニルアミン)(MDA)またはその異性体混合物があげられる。これらの中では、ジアミンが好ましく、特に2,4−及び/又は2,6−TDAまたは2,4’−及び/又は4,4’−MDAが好ましい。
【0052】
モノイソシアネートの製造に、脂肪族、脂環式または芳香族アミンを、通常モノアミンを使用することも可能である。好ましい芳香族モノアミンは、特にアニリンである。
【0053】
気相ホスゲン化においては、反応中に生成する化合物が、具体的には反応物(アミンとホスゲン)と中間体(特に中間体として生成するモノ−およびジカルバモイルクロリド)、最終製品(ジイソシアネート)、添加するいずれかの不活性化合物が反応条件下で気相となるようにしている。もしこれらの成分等が、例えば反応器壁面または他の装置部品上に気相から析出する場合は、これらの析出物が、当該部品の伝熱性またはその成分の流動性を変化させる可能性がある。これは、特に自由アミノ基と塩化水素から形成されるアミン塩酸塩の場合に該当する。これは、得られるアミン塩酸塩が容易に析出し、再気化が難しいからである。
【0054】
円管状反応器の使用に加えて、実質的に立方体状の反応室を、例えばプレート反応器を用いることもできる。この場合、ディフューザは、ディフューザの出口断面が反応器の断面に一致するように構成される。好ましくは、反応器の長さが、断面形状に係らず反応器中でアミンがほぼ完全に相当するイソシアネートに変換されるように選択される。この目的のためには、反応混合物の接触時間が、一般的には0.001秒〜5秒、好ましくは0.01〜3秒、より好ましくは0.015〜2秒となる。脂肪族(脂環式)アミンの変換の場合、平均接触時間は、より好ましくは0.015〜1.5秒であり、特に0.015〜0.5秒、特に0.02〜0.1秒であり、しばしば0.025〜0.05秒である。この接触時間は、反応器内での反応混合物の速度と反応器の長さにより決まる。
【0055】
なお、平均接触時間は、反応物の混合開始から後処理段階で反応室を去るまでの時間を意味するものとする。ある好ましい実施様態においては、本発明の方法での反応器中の流れは、10を超える、好ましくは100、より好ましくは500を超えるボーデンステイン番号をもつことに特徴がある。
【0056】
ディフューザ出口でも速度が高いため、反応器内の流れは、通常乱流である。その結果、通常6パーセント以下の低標準偏差をもつ狭い滞留時間分布が可能となる。反応器は細くするとさらに閉塞しやすくなるため、反応器を細くする必要はない。しかしながら、当業界の熟練者には公知のように、例えば反応器中に整流器を取り付けることも賢明であろう。
【0057】
必要なら、反応容器の温度を制御してもよい。通常、温度は反応器のジャケットを経由して制御される。高プラント能力の製造プラントを建設するために、複数のチューブ反応器を並列に連結することができる。この場合には、周囲に環状空間をもつ中央ノズルとその下流にある混合ゾーンとディフューザを経由して、個々の反応管に供給がなされる。個々の管を管束として配列し、管束反応器とする。反応器を温度制御せずに、反応を例えば断熱的に行うこともできる。この場合、個々の反応器は通常断熱されている。
【0058】
この反応器の下流には通常処理部がある。一般に、反応器から去るガス状混合物は、好ましくは130℃を超える温度で溶媒で吸収される。好適な溶媒は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素である。好適な溶媒の例としては、ヘキサン、ベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、ニトロベンゼン、アニソール、クロロベンゼン、クロロトルエン、o−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジエチルイソフタレート(DEIP)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、キシレン、クロロナフタレン、デカヒドロナフタレン、トルエンがあげられる。用いる溶媒は、より好ましくはモノクロロベンゼンである。しかしながら、用いる溶媒が、例えばそのイソシアネートであってもよい。この吸収でイソシアネートが選択的に洗浄溶液に移動する。次いで、残留ガスと得られた洗浄溶液が、好ましくは精留により、イソシアネートと溶媒、ホスゲン、塩化水素に分離される。
【0059】
反応器を去る混合ガスは、好ましくはスクラビング塔で吸収される。その場合、生成するイソシアネートは、不活性の溶媒中での凝縮により、ガス状混合物から除去され、過剰のホスゲンや塩化水素、適当なら不活性媒体は、ガス状の後処理装置を通過する。不活性溶媒の温度を、選択されたスクラビング媒体中のアミンに対応するカルバミルクロリドの溶解温度を超えるように維持することが好ましい。不活性溶媒の温度を、アミンに対応するカルバミルクロリドの融点を超えるように維持することが特に好ましい。
【0060】
この吸収は、当業界の熟練者には公知のいずれか所望の装置で実施できる。好適な例は、攪拌容器や、他の既存の装置、例えばカラムや混合沈殿装置があげられる。
【0061】
反応器を出る混合物の吸着や後処理は、一般的には例えば、WO−A2007/028715に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の方法を実施するためのエジェクターの概略図である。
【0063】
以下、本発明を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0064】
図は、本発明の方法を実施するためのエジェクターの概略図である。
【0065】
エジェクター1は、チューブ3と、その中にある中央ノズル5をもつ。このチューブ3は、中央ノズル5への供給管7を覆っている。この供給管7は、円管状であり、チューブ3の中心軸に沿って伸びる部分9をもつ。このようにして、供給管7の部分9と、供給管7の部分9を取り囲むチューブ3との間に環状の間隙が形成される。
【0066】
供給管7を通してホスゲンがエジェクター1に供給される。供給管7から中央ノズル5を経由して高速でホスゲンが出てくる。このホスゲンは、好ましくは中央ノズル5から音速で出てくる。
【0067】
中央ノズル5から出るホスゲンは、幅の広がるジェット流13を形成し、外界から媒体を引き込む。このため環状間隙11中に減圧が発生する。環状間隙中に発生する減圧により、アミンが、例えばアミンを含む貯蔵容器から吸引され、このアミンが、環状間隙11を通り、チューブ3内で中央ノズル5の下流に設置された混合ゾーン17中に流入する。アミンの流入を、図中の矢印15で示す。
【0068】
チューブ3内の中央ノズル5の下流にある混合ゾーン17において、中央ノズル5から流れ出るホスゲンとホスゲン混合物により環状の間隙11から同伴するアミンとが反応混合物を与える。ホスゲンの速度が大きいため、混合ゾーン17の流れは乱流となり、アミンとホスゲンとが速やかに混合される。
【0069】
上述のように、アミン及び/又はホスゲンは、適当なら不活性媒体を含んでいてもよい。窒素またはクロロベンゼンを不活性媒体として用いることが好ましい。
【0070】
環状間隙が減圧されるため、アミンは実際、好ましい反応温度より低温で気化する。その結果、混合ゾーン17中でのアミンとホスゲンとの反応速度が低下し、より少量のイソシアネートが形成される。その結果、イソシアネートとアミンの反応で得られる副生成物の量も、同様に減少する。
【0071】
この混合ゾーン17の下流にはディフューザ19が取り付けられている。このディフューザ19中で、気流断面が一般的には連続的に増加する。このために、ディフューザ19の開口部角度は、4〜20°の範囲、好ましくは6〜16°の範囲となっている。
【0072】
ディフューザ19中では反応混合物の速度が減少する。同時に圧力が上昇し、この圧力のため温度も上昇する。ディフューザ19の長さは、好ましくはディフューザの出口で高反応速度に必要な反応温度と圧力となるように選択される。
【0073】
ディフューザ19の下流には反応器21があり、ここでアミンがホスゲンと反応してイソシアネートを与える。この反応器は、好ましくは円管状の反応器である。
【0074】
この反応器の下流にイソシアネートを含む製品混合物の処理部があってもよい。
【実施例】
【0075】
本発明の噴射器ノズルにおいて、1.75kg/hのトリレンジアミンと8.5kg/hのホスゲンを混合する。トリレンジアミンは、2,4−と2,6−TDAの80:20異性体混合物の形で存在している。反応は、初期温度が400℃で圧力が2baraで行う。
【0076】
ホスゲンを、内径が2.9mmでL/D比が6の混合チューブに連結している直径が1.6mmの中央ノズルから供給する。アミン投入部の断面積は4.6mmである。ホスゲンの上流圧力として、4.4baraが必要である。これにより混合チューブ内の理論速度が190m/sとなる。ホスゲンは、ノズルから音速の245m/sで出てくる。ホスゲンの加速の結果、温度が360℃にまで下がる。したがって、混合ゾーンの初めでアミンの吸引ライン中の圧力が約1.25baraとなる。圧力が2baraから1.25baraに低下するため、アミンの沸点が315℃から295℃に低下する。反応物の分圧の低下のため、混合ゾーンの初めでの反応速度が、反応器内に存在する条件より60%を超えて低下する。
【0077】
混合ゾーンの下流に連結された開口角度が12°のディフューザでは、直径が2.9mmから18mmに増加する。ディフューザを通過する反応混合物の温度が400℃に増加し、圧力が2baraとなる。
【符号の説明】
【0078】
1:エジェクター
3:チューブ
5:中央ノズル
7:供給部
9:供給管7
11:環状の間隙
13:先広がりのジェット流
15:アミン供給部
17:混合ゾーン
19:ディフューザ
21:反応器
α:開口部角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適当なら少なくとも一種の不活性の媒体の存在下で、気相でアミンをホスゲンと反応させるイソシアネートの製造方法であって、ホスゲンをエジェクター(1)の第一の供給口から、アミンを第二の供給口から反応器(21)に流し、第一の供給口と第二の供給口が混合ゾーン(17)に連結しており、この中でホスゲンとアミンが混合されて反応混合物を与え、この混合ゾーン(17)の下流にディフューザ(19)があり、この中でホスゲンとアミンの反応混合物の圧力と温度が上昇することを特徴とする方法。
【請求項2】
第一の供給口からのホスゲンの流れが、第二の供給口と、該第二の供給口を通じるアミン供給に減圧を引き起こす請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第二の供給口と第二の供給口に通じる供給の圧力が、0.01〜3baraの範囲にある請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第一の供給口が中央ノズル(5)であり、第二の供給口が中央のノズル(5)を取り囲む噴射器(1)の環状の間隙(11)である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
混合ゾーン(17)の圧力が0.05〜3baraの範囲であり、混合ゾーン(17)の温度が200〜400℃の範囲である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ディフューザ(19)中で温度が250から450℃に上昇し、圧力が0.5から3baraに上昇する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ホスゲンが中央ノズル(5)から出る速度が音速または超音速である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ホスゲンが中央ノズル(5)から出る速度が200〜500m/sの範囲である請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
アミンが環状の間隙(11)から出る速度が30〜160m/sの範囲である請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
混合ゾーン(17)の長さ/直径比が2〜10の範囲である請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
混合ゾーン(17)の平均速度が100〜250m/sの範囲であり、ディフューザ(19)出口での反応混合物の平均速度が1〜50m/sの範囲である請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ディフューザ(19)の開口角度(a)が4〜20°であり、ディフューザ(19)のディフューザの長さ/ディフューザ(19)出口での直径の比が3〜14の範囲である請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
アミン添加用の第二の供給口の開口部断面/ホスゲン添加用の第一の供給口の開口部断面の比が1〜20の範囲である請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記イソシアネートがモノイソシアネートまたはジイソシアネートである請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
用いるアミンが1,6−ジアミノヘキサン、モノマーの2,4’−及び/又は4,4’−メチレン(ジフェニルアミン)、2,4−及び/又は2,6−トリレンジアミンまたは1−アミノ−3,3,5−トリメチル−5−アミノメチルシクロヘキサンである請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−528696(P2011−528696A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519168(P2011−519168)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059460
【国際公開番号】WO2010/010135
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】