説明

イソシアネート官能性プレポリマーおよび該プレポリマーに基づく被覆材料

【課題】 スチレン-アリルアルコールコポリマーおよびMDIからの新規なイソシアネート官能性プレポリマーの製造方法、ならびに、腐食制御のための湿気硬化性ポリウレタン被覆物としての該プレポリマーの使用を提供する。
【解決手段】 ビニル芳香族化合物およびアリルアルコールからなるOH官能性コポリマーの1つまたはそれ以上とメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)とを、OH基:NCO基の当量比=1:2で反応させることを含んでなるPUプレポリマーの製造方法により上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン-アリルアルコールコポリマーおよびメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)からの新規なイソシアネート官能性プレポリマーの製造、ならびに、腐食制御に特に適する湿気硬化性ポリウレタン(PU)被覆物としての該プレポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンオキシドに基づくMDIプレポリマーが、スチールの腐食制御被覆のために使用されている
スチレン-アリルアルコールコポリマーまたはそのアルコキシル化生成物の製造ならびにこれらの(ブロック化)イソシアネートによる架橋が十分に確立されている。これらは、特許文献1および特許文献2の記載に従って製造することができる。しかし、特許文献1の教示によれば、ブロック化イソシアネートおよびスチレン-アリルアルコールコポリマーを含有するこの種の被覆材料は、架橋に必要なNCO基の脱ブロック化を含むため、225℃を超える高温で焼付けなければならない。さらに特許文献2によれば、ブロック化されていないイソシアネートを用いる場合には、スチレン-アリルアルコールコポリマーは、2成分系としてのみ適用することができるにすぎない。
【特許文献1】米国特許第3969569号明細書
【特許文献2】米国特許第4144215号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の目的は、スチレン-アリルアルコールコポリマーPU被覆材料の望ましい特性(例えば撥水性)を有するが、1成分系として適用することができ、かつ室温で硬化することができる被覆系を見いだすことであった。
【0004】
ここに、スチレン-アリルアルコールコポリマーとMDIとから、OH基:NCO基の当量比=1:2でプレポリマーを製造しうることを見いだした。このプレポリマーを用いて、臨界的基材において良好な腐食制御特性を有する湿気硬化性被覆材料を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、ビニル芳香族化合物およびアリルアルコールからなるOH官能性コポリマーの1つまたはそれ以上とメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)とを、OH基:NCO基の当量比=1:2で反応させることを含んでなるPUプレポリマーの製造方法を提供する。
このOH:NCOの当量比は、好ましくは1:2〜1:50、より好ましくは1:2〜1:20である。
さらに本発明は、本発明に従って得られるプレポリマー、およびこれらプレポリマーに基づく被覆系を提供する。
【0006】
本発明の各種態様は以下の通りである:
(1)ポリウレタンプレポリマーの製造方法であって、
(a)ビニル芳香族化合物およびアリルアルコールからなるOH官能性コポリマーの1つまたはそれ以上;および
(b)メチレンジフェニルジイソシアネート;
をOH基:NCO基の当量比=1:2で反応させることを含んでなる方法。
(2)成分(a)および(b)の反応が、
(i)コポリマーを基準に重量で0.3〜3倍量の非イソシアネート反応性溶媒中の成分(a)の溶液を調製し、
(ii)この溶液を、成分(b)中に、OH基:NCO基の当量比=1:2〜1:20で、0.5〜8.0時間にわたって計量して入れる、
ことを含んでなる上記(1)に記載の方法。
(3)ビニル芳香族化合物が、スチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、4-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-ブロモスチレン、3-ブロモスチレン、2-トリフルオロメチルスチレン、3-トリフルオロメチルスチレン、4-トリフルオロメチルスチレン、4-シアノスチレン、4-ビニル安息香酸のアルキルエステルおよびこれらの混合物からなる群から選択される上記(1)に記載の方法。
【0007】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法によって得られるプレポリマー。
(5)上記(4)に記載のプレポリマーを含有する湿気硬化性被覆材料。
(6)顔料、活性さび防止顔料、腐食抑制剤、充填剤、乾燥剤、触媒および/またはこれらの混合物をさらに含有する上記(5)に記載の湿気硬化性被覆材料。
(7)バインダーとして、追加のポリイソシアネートまたはイソシアネート官能性プレポリマーをさらに含有する上記(5)に記載の湿気硬化性被覆材料。
(8)乾燥剤が、トシルイソシアネート、反応性芳香族イソシアネート、オルトホルメートおよび/またはこれらの混合物に基づくものである上記(6)に記載の湿気硬化性被覆材料。
【0008】
(9)被覆を製造する方法であって、
(A)(a)ビニル芳香族化合物およびアリルアルコールからなるOH官能性コポリマーの1つまたはそれ以上、および(b)メチレンジフェニルジイソシアネートを、OH基:NCO基の当量比=1:2で反応させて、湿気硬化性被覆材料を製造し;
(B)該湿気硬化性被覆材料を基材に適用し;そして
(C)該被覆を0〜80℃の温度で硬化させる;
ことを含んでなる方法。
(10)上記(9)に記載の方法によって製造された生成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のプレポリマーは、次のように製造するのが好ましい:コポリマーを基準に重量で0.3〜3倍量の非イソシアネート反応性溶媒中の、ビニル芳香族化合物およびアリルアルコールからなるコポリマーの溶液を、0.5〜8時間にわたり、MDI中に、当量比(OH基:NCO基)=1:2〜1:20で計量して入れる。
【0010】
本発明の目的のためのビニル芳香族化合物およびアリルアルコールからなるコポリマーは、例えば、アリルアルコールと、スチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、4-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-ブロモスチレン、3-ブロモスチレン、2-トリフルオロメチルスチレン、3-トリフルオロメチルスチレン、4-トリフルオロメチルスチレン、4-シアノスチレン、4-ビニル安息香酸のアルキルエステルおよび/またはこれらの混合物とのコポリマー、好ましくはアリルアルコールとスチレンとのコポリマーである。
【0011】
ビニル芳香族化合物およびアリルアルコールからなるコポリマーは、ビニル芳香族化合物とアリルアルコールとのフリーラジカル共重合によって製造することができる。
【0012】
また、これらのコポリマーは、ビニル芳香族化合物とアクリル酸アルキルまたはアクリル酸もしくはマレイン酸誘導体(例えば無水マレイン酸)またはフマル酸誘導体とからなるコポリマーを、金属水素化物(例えば水素化アルミニウムリチウム)で還元することによっても製造することができるが、アリルアルコールとのフリーラジカル共重合が好ましい経路である。
【0013】
ビニル芳香族化合物およびアリルアルコールからなるこの種のコポリマーは、好ましくは2〜10重量%、より好ましくは3〜8.5重量%のOH含量、好ましくは800〜5000g/モルの数平均分子量、および好ましくは1500〜11000g/モルの重量平均分子量を有する。
【0014】
メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)は、通常は、少なくとも80重量%のモノマージイソシアネート異性体2,2'-、2,4'-および4,4'-MDIを含む異性体混合物である。
【0015】
好ましいのは、少なくとも90重量%のモノマージイソシアネート異性体2,2'-、2,4'-および4,4'-MDIを含む異性体混合物であり、特に好ましいのは、少なくとも95重量%のモノマージイソシアネート異性体2,2'-、2,4'-および4,4'-MDIを含む異性体混合物であり、極めて特に好ましいのは、少なくとも98重量%のモノマージイソシアネート異性体2,2'-、2,4'-および4,4'-MDIを含む異性体混合物である。
【0016】
モノマージイソシアネート異性体の合計が、少なくとも90重量%の4,4'-MDIおよび2,4'-MDI、より好ましくは少なくとも95重量%の4,4'-MDIおよび2,4'-MDI、特に好ましくは少なくとも98重量%の4,4'-MDIおよび2,4'-MDIを含む上記した種類の異性体混合物を使用するのが好ましい。
【0017】
使用する異性体混合物は、25重量%までのMDIオリゴマー(メチレン架橋によって結合した少なくとも3個の芳香族部分からなり、各芳香族部分が1個のイソシアネート基を有する)、好ましくは15重量%までのMDIオリゴマー、より好ましくは5重量%までのMDIオリゴマー、極めて好ましくは2重量%までのMDIオリゴマーを含有することができる。
【0018】
本発明の目的のための非イソシアネート反応性溶媒は、どのようなセリビチノフ(cerivitinov)活性水素原子をも含まず、好ましくはエーテル基および/またはエステル基および/またはハロゲン原子および/またはニトリル基および/またはアミド基を含む脂肪族、芳香族またはアリール脂肪族溶媒である。適する溶媒の例には、酢酸メトキシプロピル、酢酸メトキシエチル、エチレングリコール二酢酸、プロピレングリコール二酢酸、グリム、ジグリム、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、tert-ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、アニソール、1,2-ジメトキシベンゼン、酢酸フェニル、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、酢酸フェノキシエチルおよび/またはこれらの混合物が含まれる。好ましい溶媒は、エーテルおよびエステル基を含む溶媒、例えば酢酸メトキシプロピルである。
【0019】
過剰のMDIの一部または全部を、プレポリマー生成の後に、真空蒸留によって、好ましくは薄膜蒸留によって除去することができる。
【0020】
さらに本発明は、本発明のプレポリマーおよびバインダーを含有する湿気硬化性被覆材料を提供する。プレポリマーの含量は、プレポリマーとバインダーの合計を基準に、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは60〜90重量%である。
これらの湿気硬化性被覆材料は、1成分系として適用することができる。
【0021】
追加のバインダーとして、湿気硬化性被覆材料は、他のポリイソシアネートまたはイソシアネート官能性プレポリマーを含有することができる。この後者は、ポリアルキレンオキシドおよびポリイソシアネートから、好ましくは、OH官能価が2〜4であり、数平均分子量が400〜6000g/モルであるポリプロピレンオキシドおよび芳香族ポリイソシアネート(例えば、TDI、TDIトリマー、TDI付加物およびMDI)から製造される。
【0022】
さらに可能な被覆材料の成分には、顔料、活性さび防止顔料、腐食抑制剤、充填剤、障壁効果充填剤(板状フィロケイ酸塩またはフィロアルミノケイ酸塩、グラファイトまたはアルミニウムフレーク)、およびナノ充填剤(例えば、粘土およびケイ酸アルミニウム)が含まれる。
【0023】
さらに、貯蔵安定性を高めるために乾燥剤(例えば、トシルイソシアネート、反応性芳香族イソシアネートまたはオルトホルメート)および触媒(スズ化合物、アミン、アミジン、グアニジン、亜鉛化合物、コバルト化合物、ビスマス化合物、リチウム塩、例えばモリブデン酸リチウム、マグネシウム塩、カルシウム塩)を存在させることもできる。
【0024】
固形分を基準に、被覆材料は、少なくとも5重量%〜100重量%の非イソシアネート反応性溶媒を含有するのが好ましい。
被覆材料を、通常は0〜80℃の温度、好ましくは10〜70℃の温度、より好ましくは15〜50℃の温度で硬化させる。
【0025】
本被覆材料は、好ましくは、簡単な手段(ISO 12944-4に従う表面前処理ST2)のみによってさびが除去された臨界的スチール基材を被覆するために使用される。
本発明の被覆材料は、以下に挙げる実施例に示すように、従来技術の被覆物とは、主に改善された腐食制御によって区別される。
【実施例】
【0026】
測定方法:
粘度:回転式粘度計VT550(Haake GmbH、Karlsruhe、独国)、粘度<10000mPa・s/23℃のためにはMV-DINカップ、粘度>10000mPa・s/23℃のためにはSV-DINカップ;
NCO含量:アセトン中での過剰のジブチルアミンとの反応に続く1モル/LのHClによる逆滴定(DIN EN ISO 11909に基づく)。
以下に挙げる全ての割合(%)は、他に特記することがなければ重量による。
【0027】
本発明のプレポリマーの製造(実施例1〜6)
一般的操作
酢酸メトキシプロピル(MPA)中のスチレン-アリルアルコールコポリマー(SAA)の溶液を、2,4'-および4,4'-MDIの1:1混合物(1000g)に、90℃で3時間かけて滴下し、この混合物を、一定のNCO値に達するまで撹拌した。
使用したSAAは次の通りであった:
SAA-100(登録商標)[Lyondell AG、米国から;OH含量 6.4重量%ならびに分子量 Mn 1400g/モルおよびMw 3100g/モルを有する];および
SAA-101(登録商標)[Lyondell AG、米国から;OH含量 7.7重量%ならびに分子量 Mn 1200g/モルおよびMw 2600g/モルを有する]。
【0028】
【表1】

【0029】
被覆配合物(実施例7〜12、比較例)
一般的指図
以下に挙げる混合物を、バインダーとして使用した:
【表2】

【0030】
メタチン(ジブチルスズアセチルアセトネート)[Acima Buchs、スイス国](0.2g)を、全体処方に加え、次いでこれを、ブラシにより、およその皮膜厚み80μmでST2前処理したスチールパネルに塗布した。被覆を、室温で1日間硬化させた(ST2前処理:ISO 12944-4に従い、ワイヤブラシを用いて清浄にした)。
【0031】
試験は、SA DIN 53167に従い、塩噴霧試験によって行った(採点および耐候性)。クラックにおける皮膜下腐食および/または重度のさび貫通が観察されたときに試験を終了した。
【表3】

【0032】
本発明のプレポリマーは、腐食制御の目的でこれまで使用されていた上記の従来技術によるプレポリマーよりも非常に効果の高い腐食制御を与える。
【0033】
例示の目的で上記において本発明を詳細に記載したが、該詳細が該目的のためだけのものであり、当業者なら、特許請求の範囲によって限定されることを除き、本発明の思想および範囲から逸脱することなく、それに変更を為しうることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンプレポリマーの製造方法であって、
(a)ビニル芳香族化合物およびアリルアルコールからなるOH官能性コポリマーの1つまたはそれ以上;および
(b)メチレンジフェニルジイソシアネート;
をOH基:NCO基の当量比=1:2で反応させることを含んでなる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法によって得られるプレポリマー。
【請求項3】
請求項2に記載のプレポリマーを含有する湿気硬化性被覆材料。
【請求項4】
被覆を製造する方法であって、
(A)(a)ビニル芳香族化合物およびアリルアルコールからなるOH官能性コポリマーの1つまたはそれ以上、および(b)メチレンジフェニルジイソシアネートを、OH基:NCO基の当量比=1:2で反応させて、湿気硬化性被覆材料を製造し;
(B)該湿気硬化性被覆材料を基材に適用し;そして
(C)該被覆を0〜80℃の温度で硬化させる;
ことを含んでなる方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法によって製造された生成物。

【公開番号】特開2007−126666(P2007−126666A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299000(P2006−299000)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】