説明

イソチアゾロン類の濃度測定方法および濃度測定キット

【課題】イソチアゾロン類を実際に使用している現場で、簡便且つ安価に適用することも可能なイソチアゾロン類の濃度測定方法および濃度測定キットを提供する。
【解決手段】イソチアゾロン類と反応生成物を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルを変化させることができる金属元素の金属イオン又は金属錯体とイソチアゾロン類とを接触させ、該金属元素とイソチアゾロン類の反応に由来する吸光又は蛍光スペクトルの変化を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソチアゾロン類の濃度を簡便かつ迅速に測定する方法およびイソチアゾロン類の濃度測定キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イソチアゾロン類は、動物や植物の疫病の原因となるものを含めて、カビ類、細菌、藻類、粘菌、フジツボ、ベト病菌等の多数の生物体に対して生物機能停止作用及び/又は殺生物作用を有しており、殺菌剤や殺生物剤として塗料、接着剤、化粧品、医薬品、紙パルプ、工業用水、冷却水、金属加工油等の産業分野で幅広く用いられている。
【特許文献1】米国特許第3761488号公報
【0003】
これらの用途分野においては、イソチアゾロン類の機能を充分発揮させるなどの為に、系中に含まれるイソチアゾロン類の濃度を適切に管理する必要がある。しかし、大多数の用途においては、系中のイソチアゾロン類の濃度がかなり低濃度であるため、簡便な検出方法がなく、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた煩雑な方法により濃度測定を行ってきた。そのため、濃度測定に多くの時間とコストが掛かり、適切な濃度管理に支障をきたしていた。
【0004】
これらの問題点を解決する方法の一つとして、免疫検定法を用い、イソチアゾロン類を比較的簡便に検出する方法が提案されている。しかし、この方法は測定に要する抗体を採取するのに煩雑な操作を必要とするため、濃度測定に要するコストが嵩むという欠点を有していた。また、該抗体は安定性に欠けるため寿命が短く、冷却保管を必要とすることから、イソチアゾロン類を実際に使用している現場での測定に不向きという問題があった。また、夾雑物の影響を受け易く、測定誤差が大きいという問題もあった。
【特許文献2】特開平7−294522号公報
【0005】
別の方法としては、200nm〜2500nmの幅広い波長領域で吸光又は発光スペクトルを測定し、化学測定アルゴリズムを該スペクトルに適用して濃度を算出する方法が提案されている。しかし、この方法は、サンプル溶液中に含まれるイソチアゾロン類以外の物質の濃度変化の影響を受け易いという問題を有していた。また、煩雑な装置を必要とするという欠点もあった。
【特許文献3】特開平6−317522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消したイソチアゾロン類の濃度測定方法および濃度測定キットを提供することである。即ち、イソチアゾロン類を実際に使用している現場で、簡便且つ安価に適用することも可能なイソチアゾロン類の濃度測定方法および濃度測定キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
比色法や蛍光法は高感度で簡便な測定法であるが、イソチアゾロン類自体は可視光領域に発色団を持たない。本発明者等は上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、イソチアゾロン類が或る特定の金属元素と反応生成物を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルが変化し、そのスペクトル変化がサンプル溶液などの中に存在するイソチアゾロン類の量に依存することから、該スペクトル変化を測定することでイソチアゾロン類の濃度を測定することができることを見出した。従って、本発明は、イソチアゾロン類と反応生成物を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルを変化させることができる金属元素を使用して、被分析系中のイソチアゾロン類濃度を測定する方法、特に好適には被分析系のサンプル溶液中のイソチアゾロン類濃度を測定する方法に関するものである。即ち、本発明によれば、イソチアゾロン類に、イソチアゾロン類と反応生成物を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルを変化させることができる金属元素の金属イオン又は金属錯体を接触させ、該金属元素とイソチアゾロン類の反応に由来する吸光又は蛍光スペクトルの変化を測定することによりイソチアゾロン類の濃度を求めることを特徴とするイソチアゾロン類の濃度測定方法が提供される。ここで、「反応生成物」とは、イソチアゾロン類と金属元素との「錯体」であると確信できるものもある一方で、例えば結晶が得られないなどの理由で現段階は錯体であると確信できないものもあるが、いずれにしてもイソチアゾロン類と金属元素の反応の結果として吸光又は蛍光スペクトルの変化が生じれば本発明の目的を達成することができるのは言うまでもない。
【0008】
一般に、錯体を形成すると紫外〜赤外領域の吸光/蛍光スペクトルが変化する。この変化の様態としては、ピークの減少や増加、新たなピークの出現、ピークのシフトがある。スペクトル変化の測定は、これらの中の少なくとも一つを検出すれば本発明の目的には充分である場合が多い。このスペクトル変化を検出する手段としては、代表的には、特定波長における吸光度又は蛍光強度を測定する方法や色変化を目視で観察する方法が挙げられる。特定波長における吸光度又は蛍光強度を測定する方法によるスペクトル変化の測定の様態には2種類ある。一つは金属元素(金属イオン又は金属錯体)と接触させた後の吸光度又は蛍光強度を測定しその値からイソチアゾロン類の濃度を求める方法、もう一つは金属元素(金属イオン又は金属錯体)と接触させる前と後の差分を取りその値からイソチアゾロン類の濃度を算出する方法である。サンプル中に元々着色している成分のバックグラウンドを差し引くためには後者の方法を行う。前者の方法の場合も、ほぼ同様の被分析系に対して予め変化の様子を測定した検量線があり、該被分析系に特有の元々着色している成分のバックグラウンド分が検量線に組み込まれている訳であるから、スペクトル変化を金属イオン又は金属錯体と接触させた後の特定波長における吸光度又は蛍光強度の測定のみで検出して、その値からイソチアゾロン類の濃度を求めることができるのである。従って、両者の方法のいずれでもスペクトル変化を検出できることは容易に理解できよう。
【0009】
なお、「イソチアゾロン類と反応生成物を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルを変化」や「金属元素とイソチアゾロン類の反応に由来する吸光又は蛍光スペクトルの変化」という表現を採ったのは、(1)金属元素とイソチアゾロン類との反応生成物(典型的には金属−イソチアゾロン錯体)の吸光/蛍光スペクトルを測定する場合だけで無く、(2)系内に金属−配位子錯体を存在させる場合にその配位子がイソチアゾロン類と置換され、遊離した配位子の吸光又は蛍光スペクトルを測定する場合や、(3)溶液系内に金属−配位子錯体を存在させる場合にその配位子がイソチアゾロン類と置換されたり三者の錯体を形成したりして沈殿が生じ、例えば、後述の実施例6の様に沈殿を濾過し、濾液に残存する金属−配位子錯体の吸光又は蛍光スペクトルを測定する場合などもあるからである。従って、「イソチアゾロン類と反応生成物を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルを変化させることができる金属元素」とは、上述の意味で「スペクトル変化」を生じさせ得ると言う広い意味での「金属元素」であり、イソチアゾロン類以外の配位子が存在する場合はその配位子とも関連してくることがあるのは勿論である。
【0010】
本発明で濃度測定対象となるイソチアゾロン類は、「化1」の式で示される構造を有する化合物である。
【0011】
【化1】

【0012】
[式において、R、Rは、独立して水素、ハロゲンまたは炭素数1〜4を有するアルキル基であるか、あるいは、一緒になって飽和、不飽和もしくは芳香族の5または6員環を形成するものであり、Yは、水素、炭素数1〜18を有する非置換またはハロゲン置換アルキル基、炭素数2〜8を有する非置換またはハロゲン置換アルケニル基、炭素数2〜8を有する非置換またはハロゲン置換アルキニル基、炭素数3〜12を有する非置換またはハロゲン置換シクロアルキル基、炭素数10までの非置換、ハロゲン置換、アルキル(アルキル基の炭素数は1〜4である)置換またはアルコキシ(アルコキシ基の炭素数は1〜4である)置換アラルキル基、炭素数10までの非置換、ハロゲン置換、アルキル(アルキル基の炭素数は1〜4である)置換またはアルコキシ(アルコキシ基の炭素数は1〜4である)置換アリール基より選ばれる基である。]
【0013】
置換基Yの若干の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、へキシル、オクチル、シクロへキシル、4−メトキシフェニル、4−クロロフェニル、3,4−ジクロロフェニル、ベンジル、4−メトキシベンジル、4−クロロベンジル、フェネチル、4−フェニルブチル、クロロメチル、クロロプロピル、水素等が挙げられる。
【0014】
また、本発明で濃度測定対象となるイソチアゾロン類の若干の具体例としては、「化2」の式で示される2−メチル−3−イソチアゾロン、「化3」の式で示される5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロン、「化4」の式で示される2−n−オクチル−3−イソチアゾロン、「化5」の式で示される4,5−ジクロロ−2−シクロヘキシル−3−イソチアゾロン、「化6」の式で示される4,5−ジクロロ−2−オクチル−3−イソチアゾロン等が挙げられる。これらのイソチアゾロン類は、単独で使用されている場合、二種類以上が混合使用されている場合があるが、いずれの場合も本発明を適用できる。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
本発明において用いる金属元素としては、イソチアゾロン類と反応生成物(典型的には錯体)を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルを変化させることができるものであれば良い。かかる目的に適合する金属元素としては、多彩な色変化を発現することが可能なd電子を有し、且つ、酸素配位又は硫黄配位し易い金属元素であるのが望ましく、そのような金属元素としては5族から12族の元素および希土類元素の少なくとも一つを用いることができる。更に入手のし易さ、取扱い易さ等の観点からは、前記金属元素として、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、ユウロピウム、テルビウムの中の少なくとも一つを好適に用いることができる。本発明において用いられる金属元素の酸化数としては、例えば、V(II)、V(III) 、Cr(II)、Cr(III) 、Mn(II)、Mn(III) 、Mn(IV)、Fe(II)、Fe(III) 、Co(II)、Co(III) 、Ni(0)、Ni(II)、Cu(I)、Cu(II)、Zn(II)、Mo(III) 、Ru(II)、Ru(III) 、Pd(0)、Pd(II)、Ag(I)、Cd(II)、Os(II)、Ir(II)、Pt(0)、Pt(II)、Pt(IV)、Au(III) 、Hg(II)、Eu(III) 、Tb(III) が好適である。これらの金属元素は、イオン状態の金属イオンとして用いても、または、予め配位子を付加した金属錯体として用いても構わない。また、金属元素は1種類で用いてもよく、複数種類を同時に用いることにより、例えば複数種類の金属元素を含むいわゆる多核錯体などを形成するような条件で用いても構わない。
【0021】
典型的には、サンプル溶液に含まれるイソチアゾロン類の濃度を本発明の方法により測定するのが好適である。サンプル溶液に含まれるイソチアゾロン類の濃度を測定する方法は、該サンプル溶液に前記金属元素の金属イオン又は金属錯体を接触させて前記金属元素とイソチアゾロン類の反応(典型的には錯体形成)に由来する吸光又は蛍光スペクトルの変化を生じさせる工程、および、前記スペクトル変化を測定することによりイソチアゾロン類の濃度を求める工程を経て行われる。
【0022】
吸光又は蛍光スペクトルの変化を測定する方法としては、市販の吸光光度計や蛍光光度計を用いることができる。ここで、吸光光度計とは少なくとも一つの波長において光吸収強度を測定する装置を指称し、また、蛍光光度計とは少なくとも一つの波長においてサンプル溶液中に含まれる蛍光物質を励起し、且つ、少なくとも一つの波長において蛍光強度を測定する装置を指称する。また、吸光又は蛍光スペクトルの変化を測定する別の方法としては、目視による方法を用いても構わない。
【0023】
さらに本発明の他の構成態様は、サンプル溶液に含まれるイソチアゾロン類の濃度を測定するキットに関するものである。このようなキットは、(a)イソチアゾロン類と反応生成物(典型的には錯体)を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルの変化を生じさせることができる金属元素の金属イオン又は金属錯体、(b)前記金属イオン又は金属錯体を前記サンプル溶液と接触させる手段、および、(c)該金属元素とイソチアゾロン類の反応に由来する吸光又は蛍光スペクトルの変化を測定することによりイソチアゾロン類の濃度を求める手段を含んでいる。
【0024】
また、サンプル溶液に含まれるイソチアゾロン類の濃度を測定する操作を簡便にするため、金属イオン又は金属錯体が予め試験片に固定されている濃度測定キットも好適に用いられる。
【0025】
本発明の方法によりイソチアゾロン類の濃度を測定する際の測定条件としては、特に制限はなく、測定温度、pH、サンプル溶液中に含まれる金属濃度等は任意に設定することができる。ただし、イソチアゾロン類の検出感度は、測定温度、pHの影響を受けるため、これらに関しては一定した測定条件で測定を行うのが望ましい。また、pHの変動を避ける目的で緩衝溶液を用いるのが好ましく、この場合、緩衝剤としては、後に列挙するものを用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の方法を用いれば、イソチアゾロン類が高感度で且つ幅広い定量範囲で簡便に検出することが可能である。また、イソチアゾロン類を実際に使用している現場で、本発明の方法を用いることもできる。さらに、本発明の方法は、応答速度が速く操作が簡便なため、特に連続流れ分析法(FIA:Flow Injection Analysis)に代表される全自動連続測定系における測定法としての応用展開が可能であり、リアルタイムでの連続的なオンライン検出をも可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明がこれらに限定されるものでないことは言うまでもない。なお、サンプル溶液については、被分析系からサンプリングしたものをそのままサンプル溶液として用いる場合、被分析系からサンプリングした試料(固体状又は液状)を溶媒で一定の希釈率に希釈した溶液を用いる場合など種々の場合がある。
【0028】
本発明に係わるイソチアゾロン類と金属元素との反応は、(1)その反応生成物(典型的には金属錯体)の形成による色変化等のスペクトル変化として現れる場合、(2)系内に金属−配位子錯体を存在させる場合にその配位子がイソチアゾロン類と置換されてイソチアゾロン類と金属元素との反応が生じ、配位子の遊離による色変化等のスペクトル変化として現れる場合、(3)溶液系内に金属−配位子錯体を存在させる場合にその配位子がイソチアゾロン類と置換されたり三者の錯体を形成する様な反応が生じて、沈殿が生じ、例えば、後述の実施例6の様に沈殿を濾過し、濾液に残存する金属−配位子錯体に由来する色変化等のスペクトル変化として現れる場合などに関与する。これらの場合に吸光又は蛍光スペクトル測定によりイソチアゾロン類の濃度測定を容易に行うことができる。具体的には、例えば、予め特定波長における吸光度又は蛍光強度に基づく検量線を作成することができ、サンプル溶液と金属イオン又は金属錯体とを混合した溶液の吸光度又は蛍光強度から、検量線を用いてイソチアゾロン類の濃度を求めることができる。即ち、イソチアゾロン類の濃度測定にあたって先ず検量線作成のための濃度既知の系列試料としての複数のサンプル溶液を調製し、それぞれに一定量の金属元素を金属イオン又は金属錯体の形で添加混合し吸光度又は蛍光強度を測定する。得られた吸光度又は蛍光強度から検量線を作成し、この検量線をイソチアゾロン類の濃度未知のサンプル溶液の測定に用いることができる。
【0029】
前述した様に、本発明において用いる金属元素は、イソチアゾロン類と反応生成物(典型的には金属錯体)を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルを変化させることができる金属元素であれば良く、前に列挙した種々の金属元素類を用いることができるが、例えば、少なくともコバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、銀、カドミウム、白金、金、水銀のいずれか1つを含むのが好ましい。これらの金属元素は、サンプル溶液に溶解し、且つ、イソチアゾロン類とスペクトル変化を伴う反応生成物(典型的には金属錯体)を形成するものであれば良く、金属イオンの形態や予め配位子を付加した金属錯体の形態で用いる。
【0030】
金属元素を金属イオンとして用いる場合は、例えば、PdClのようなハロゲン化物塩、Cu(ClOのような過塩素酸塩等を用いることができる。
【0031】
金属元素を金属錯体として用いる場合の配位子としては、配位原子として窒素、酸素、硫黄およびハロゲンからなる群から選択される少なくとも一つを有する化合物などを好適に用いることができる。該配位子は無機配位子、有機配位子のいずれでもよく、また、単座配位子または多座配位子のいずれでもよい。無機配位子としては、例えば、NH、HO、Cl等のハロゲン化物イオン、OH、NCS、NO、CO等が挙げられる。
【0032】
有機配位子としては、例えば、ビピリジル化合物、イミダゾール化合物、フェナントロリン化合物、エチレンジアミン化合物、アミノ酸、トリアジン化合物、カルバゾン化合物、チオカルバゾン化合物、ビキノリン化合物、ピリジルアゾ化合物、ニトロソ化合物、オキシン化合物、ベンゾチアゾール化合物、アセチルアセトン化合物、アントラキノン化合物、キサンテン化合物、ポルフィリン化合物、フタロシアニン化合物、シュウ酸等が挙げられる。また、前記各化合物の誘導体も用いることができる。前記配位子の配位座以外における水素原子の少なくとも一つは、置換基により置換されていてもよい。前記置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アリル基、フェニル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、スルホン基、スルホニル基、ニトロ基、ニトロソ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アミノ基、アミノ基、アシル基、アミド基及びハロゲン基を挙げることができる。前記配位子を2種類以上用いた混合配位子錯体としてもよい。
【0033】
これらの有機化合物系配位子のうち、単座配位子としては例えばピリジン等が挙げられる。多座配位子のうち、二座配位子としては例えばエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、トリメチレンジアミン、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、ジチゾン、アセチルアセトン、シュウ酸イオン、グリシンイオン等が、また三座配位子としては例えばイミノ二酢酸イオン、ジエチレントリアミン、2,2’:6’,2”−ターピリジン等が、また四座配位子としてはトリエチレンテトラミン、ニトリロトリ酢酸イオン、5,10,15,20−テトラアザポルフィリン、テトラアザ[14]アヌレン等が、また五座配位子としてはヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸イオン等が、また六座配位子としてはエチレンジアミンテトラ酢酸イオン等が挙げられる。
【0034】
また、1つの配位子中に2種類以上の配位原子を有する配位子も好適に用いることができ、該配位子の例としては1−アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン等が挙げられる。
【0035】
また、大環状配位子であるクラウンエーテル化合物やクリプタンド化合物等も好適に用いることができる。クラウンエーテル化合物としては例えばジベンゾ−16−クラウン−6等が、クリプタンド化合物としては例えばクリプタンド[2,2,2]等が挙げられる。これらの配位原子である酸素原子を窒素原子または硫黄原子に置換した化合物も好適に用いることができる。配位原子として窒素原子を有する大環状配位子としては例えばサイクラム等が、硫黄原子を有する大環状配位子としては例えば18−チアクラウン−6等が挙げられる。
【0036】
更に濃度測定を簡便に行う目的で、イソチアゾロン類の濃度測定に必要な試薬(金属試薬、配位子試薬など)をシートに含浸、吸着又は結合させた試験片として用いることができる。その結果、必要に応じて各種のイソチアゾロン類濃度に対応する色チャートを作成しておけば、それとの対比を行うだけで、測定時の複雑な試薬の調整が省け、熟練者でなくても正確な測定ができる。かかる試験片は、試薬を保持できる多孔質材を支持体として用いるのが好ましく、試薬類は例えばそれらの溶液中に多孔質材を浸し、引き続いて液体を蒸発させることにより適用される。メタノール、エタノール、アセトニトリルのような有機溶媒が試薬類の溶媒として使用され得るが、典型的には、水性溶液が使用される。
【0037】
試験片の支持体として使用される多孔質材としては濾紙、ガラスフィルター、多孔性セラミック片、樹脂製の多孔質膜等の多孔質材が使用できる。この中でコストや取扱い性等の理由から、濾紙が好ましい。また前記樹脂製の多孔質膜の材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエステル、ナイロン、ニトロセルロース、ポリカーボネート等が挙げられる。これらの多孔質材の平均孔径は、例えば液体試料が浸透、保持されればよく、例えば0.1〜10μmの範囲であるのが好ましい。
【0038】
試験紙等の試験片に含有させた構成成分である薬剤の流出を防止するため、粘稠剤を用いることも可能である。粘稠剤の代表例としては、ポリビニールアルコール、ポリアクリルアミド、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。また、pHの変動を避ける目的で用いることができる緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム−水酸化ナトリウム、ベロナールナトリウム−塩酸、第一燐酸カリウム−第二燐酸ナトリウム、第一燐酸カリウム−水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0039】
以下に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、実施例は本発明のいくつかの実施態様を説明するものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0040】
イソチアゾロン類の試料としては2−メチル−3−イソチアゾロン又は5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロンを用い、純水又はアセトニトリルで希釈して所定の濃度に調整して用いた。なお、「mM」や「μM」の「M」はモル濃度を、「mL」はミリリットルを表す。
【実施例1】
【0041】
2−メチル−3−イソチアゾロンを含むアセトニトリル溶液をサンプル溶液とし、これに金属として過塩素酸銅(II)六水和物を溶解したアセトニトリル溶液を添加した。サンプル溶液の最終濃度は、2−メチル−3−イソチアゾロン濃度が1〜7mM、銅(II)イオン濃度が1mMであった。測定は、日立製作所製U−2000A形ダブルビーム分光光度計を用いて行った。試料セルとしては光路長1cmの石英セルを用いた。波長462nmにおける吸光度の測定結果を図1に示す。図1中、[MI]は2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を示し、「Absorbance」は吸光度を表す。
【0042】
図1より明かな通り、波長462nmにおける吸光度は2−メチル−3−イソチアゾロン濃度に依存して変化しており、この測定結果を検量線として用いることにより、被分析系のサンプル溶液中の2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を測定可能である。
【0043】
また、本実施例では、2−メチル−3−イソチアゾロンと銅(II)イオンの錯体により十分に目視可能な黄色が生じること、および、その強度は2−メチル−3−イソチアゾロン濃度に依存し、2−メチル−3−イソチアゾロン濃度が高くなるにつれて段階的に黄色が強くなったことから、必要により予め用意した色チャートとの比較により、目視による濃度測定も行えることが明らかとなった。
【実施例2】
【0044】
過塩素酸銅(II)六水和物を溶解したアセトニトリル溶液に濾紙を浸漬させ、乾燥させたものを2−メチル−3−イソチアゾロンの濃度測定用試験紙として製作した。過塩素酸銅(II)六水和物のアセトニトリル溶液は青色であったが、乾燥させた試験紙はほぼ無色となった。2−メチル−3−イソチアゾロンを含むアセトニトリル溶液をサンプル溶液とし、これに前記試験紙を浸漬させた。試験結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果より、製作した試験紙を用いることにより、必要により予め用意した色チャートとの比較により、被分析系のサンプル溶液中に含まれる2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を目視で測定できること、および、試験紙をサンプル溶液に浸漬させるだけという簡便な操作で濃度測定を行えることは明らかである。
【実施例3】
【0047】
2−メチル−3−イソチアゾロンを含む水溶液をサンプル溶液とし、これに金属としてテトラクロロ白金(II)酸カリウムを溶解した水溶液を添加した。サンプル溶液の最終濃度は、2−メチル−3−イソチアゾロン濃度が0.5〜7.5mM、白金(II)イオン濃度が2.5mMであった。測定は、日立製作所製U−2000A形ダブルビーム分光光度計を用いて行った。試料セルとしては光路長1cmの石英セルを用いた。波長379nmにおける吸光度の測定結果を図2に示す。図2中、[MI]は2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を示し、「Absorbance」は吸光度を表す。
【0048】
図2より明かな通り、波長379nmにおける吸光度は2−メチル−3−イソチアゾロン濃度に依存して変化しており、この測定結果を検量線として用いることにより、被分析系のサンプル溶液中の2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を測定可能であることは明らかである。
【実施例4】
【0049】
2−メチル−3−イソチアゾロンを含むアセトニトリル溶液をサンプル溶液とし、これに金属として過塩素酸銅(II)六水和物、配位子として1−メチル−4−ヒドロキシアントラキノンを溶解したアセトニトリル溶液を添加した。サンプル溶液の最終濃度は、2−メチル−3−イソチアゾロン濃度が25〜250μM、銅(II)イオン濃度が250μM、1−メチル−4−ヒドロキシアントラキノン濃度が1mMであった。測定は、日立製作所製U−2000A形ダブルビーム分光光度計を用いて行った。試料セルとしては光路長1cmの石英セルを用いた。波長350nm〜650nmの吸光スペクトルを図3に、波長523nmにおける吸光度の測定結果を図4に示す。図3及び図4中、[MI]は2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を示し、「Wavelength」は波長を、「Absorbance」は吸光度を表す。
【0050】
図3より明かな通り、サンプル溶液中に含まれる2−メチル−3−イソチアゾロンが増加するに従い、波長523nmの光吸収強度が強くなることが分かる。この波長523nmにおける吸光度を2−メチル−3−イソチアゾロン濃度に対してプロットしたところ、図4に示す通り、吸光度は2−メチル−3−イソチアゾロン濃度に依存して変化しており、この測定結果を検量線として用いることにより、被分析系のサンプル溶液中の2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を測定可能であることは明らかである。
【0051】
また、本実施例は2−メチル−3−イソチアゾロン濃度の増加と共に赤色が強くなり、その変化は極めて鋭敏なため、より低濃度の2−メチル−3−イソチアゾロンを測定可能であることが判明した。
【0052】
なお、本実施例における反応機構は、予め銅(II)イオンに配位せしめた1−メチル−4−ヒドロキシアントラキノンが、2−メチル−3−イソチアゾロンとの配位子交換反応により銅(II)イオンから脱離し、銅(II)イオンに配位していた際には消失していた523nmの吸光ピークが出現したものと推察される。
【実施例5】
【0053】
2−メチル−3−イソチアゾロンを含む水溶液をサンプル溶液とし、これに金属として塩化パラジウム(II)を溶解した水溶液を添加した。サンプル溶液の最終濃度は、2−メチル−3−イソチアゾロン濃度が8.0mM、パラジウム(II)イオン濃度が1.0mMであった。測定は島津製作所製RF−5300PC形分光蛍光光度計を用いた。試料セルとしては光路長1cmの石英セルを用いた。励起波長238nmにおける蛍光スペクトル、および、蛍光波長367nmにおける励起スペクトルを図5に示す。また、比較のため、2−メチル−3−イソチアゾロン濃度8.0mMのアセトニトリル溶液、および、パラジウム(II)イオン濃度1.0mMのアセトニトリル溶液のそれぞれについて、同様の測定を行った結果を図6及び図7に示す。図5〜7において、「Wavelength」は波長を表し、「Intensity」は蛍光強度を表す。
【0054】
図5〜7より明かな通り、2−メチル−3−イソチアゾロン及びパラジウム(II)イオンのそれぞれ単独の場合は共に、励起波長238nmによる蛍光が観測されないのに対し、2−メチル−3−イソチアゾロンとパラジウム(II)イオンの混合溶液では波長367nmに強い蛍光が観測される。この蛍光強度は2−メチル−3−イソチアゾロン濃度に依存することから、本発明により2−メチル−3−イソチアゾロン濃度が蛍光強度を用いても測定可能であることは明らかである。
【実施例6】
【0055】
2−メチル−3−イソチアゾロンを含むアセトニトリル溶液をサンプル溶液とし、これに金属として硝酸銀(I)、配位子としてジチゾンを溶解したアセトニトリル溶液を添加した。サンプル溶液の最終濃度は、2−メチル−3−イソチアゾロン濃度が33〜260μM、銀(I)イオン濃度が800μM、ジチゾン濃度が160μMであった。混合後、10分放置した後に沈殿物を孔径0.45μmのメンブランフィルターで濾別し、濾液を測定に供した。測定は、日立製作所製U−2000A形ダブルビーム分光光度計を用いて行った。試料セルは光路長1cmの石英セルを用いた。波長465nmにおける吸光度の測定結果を図8に示す。図8中、[MI]は2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を示し、「Absorbance」は吸光度を表す。。
【0056】
図8より明かな通り、サンプル溶液中に含まれる2−メチル−3−イソチアゾロンが増加するに従い、波長465nmの吸収強度が弱くなることが分かる。この測定結果を検量線として用いることにより、サンプル溶液中の2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を測定可能であることは明らかである。なお、この実施例においては、銀(I)とジチゾンが錯体を形成し、該錯体が波長465nmに吸収ピークを有しており、また、イソチアゾロン類が銀と反応して沈殿しているのは確かであるが、ジチゾンが遊離してこないため、銀(I)−ジチゾン−イソチアゾロンの三成分による錯体が形成しているようにも思われる。
【実施例7】
【0057】
5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロンを含むアセトニトリル溶液をサンプル溶液とし、これに金属として過塩素酸銅(II)六水和物を溶解したアセトニトリル溶液を添加した。サンプル溶液の最終濃度は、5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロン濃度が0〜1.8mM、銅(II)イオン濃度が0.6mMであった。測定は日立製作所製U−2000A形ダブルビーム分光光度計を用いた。試料セルとしては光路長1cmの石英セルを用いた。波長300nmにおける吸光度の測定結果を図9に示す。図9中、[CMI]は5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を示し、「Absorbance」は吸光度を表す。。
【0058】
図9より明かな通り、波長300nmにおける吸光度は5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロン濃度に依存して変化しており、この測定結果を検量線として用いることにより、被分析系のサンプル溶液中の5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロン濃度を測定可能である。
【0059】
また、2−メチル−3−イソチアゾロンの場合と吸光波長が異なることから、5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロンと2−メチル−3−イソチアゾロンを混合して含むサンプルについても、それぞれ個別に定量することが可能である。
【0060】
[参考例1]
イソチアゾロン類が金属元素に配位し金属錯体を形成することを確認するため、以下の試験を行った。まず、過塩素酸銅(II)六水和物0.14mmolを約20mLのエタノール中に予め溶解させ、これに2−メチル−3−イソチアゾロン0.30mmolを加え、さらに約10mLのエタノールを加えた後、室温にてしばらく攪拌を行った。溶媒を除去し、次にアセトンを加え、再び溶媒を除去した。得られた固体を酢酸エチルで洗浄し乾燥させたところ、橙色固体0.014gを得た。これをアセトンから再結晶することにより単結晶を得た。得られた結晶について、X線単結晶構造解析を行った結果を図10に示す。この図10は、2−メチル−3−イソチアゾロンと銅(II)イオンの錯体構造を示すORTEP図である。なお、ORTEP図とは、Oak Ridge Thermal Ellipsoid Plot(ORTEP)プログラムにより作成された図である。図10中、「MI」は2−メチル−3−イソチアゾロン部分を示す。
【0061】
図10から明かな通り、2−メチル−3−イソチアゾロンは酸素原子が銅(II)イオンに配位していることが確認された。
【0062】
[参考例2]
イソチアゾロン類が金属元素に配位し金属錯体を形成することを確認するため、以下の試験を行った。まず、2−メチル−3−イソチアゾロン0.023mmolを水酸化ナトリウムの希薄溶液(約5mL)に溶解し、これをクロロホルム約50mLによって抽出した。クロロホルム層を蒸発乾固し、そこにエタノール約30mLを加え、この溶液に過塩素酸銀(I)0.30mmolを加え、減光下にてしばらく攪拌した。溶媒を除去し、そこに少量のアセトンを加え、その溶液にエーテル蒸気を拡散させることによって結晶を得た。得られた結晶について、X線単結晶構造解析を行った結果を図11に示す。この図11は、2−メチル−3−イソチアゾロンと銀(I)イオンの錯体構造を示すORTEP図である。図11中、「MI」は2−メチル−3−イソチアゾロン部分を、「ClO4」はClO部分を示す。
【0063】
図11から明かな通り、2−メチル−3−イソチアゾロンは酸素原子が銀(I)イオンに配位していることが確認された。
【0064】
[参考例3]
イソチアゾロン類が金属元素に配位し金属錯体を形成することを確認するため、以下の試験を行った。まず、テトラクロロ白金(II)酸カリウム0.13mmolと「化7」の下式で示されるジベンゾ−16−クラウン−6(Dibenzo−18−crown−6)の0.12mmolを純水5mLに溶解させて10分間攪拌した。その後、その溶液に2−メチル−3−イソチアゾロンのクロロホルム溶液60mL(予め2−メチル−3−イソチアゾロン0.20mmolを純水5mLに溶解しさらに水酸化ナトリウム溶液を加え中和した後にクロロホルムに抽出した溶液)を加え、室温で3日間程攪拌した。黄色に着色したクロロホルム層を分離し、溶媒を除去し、黄色結晶を得た。得られた結晶についてX線単結晶構造解析を行った結果を図12に示す。この図12は、2−メチル−3−イソチアゾロンと配位子と白金(II)イオンの錯体構造を示すORTEP図である。図12中、「MI」は2−メチル−3−イソチアゾロン部分を示す。
【0065】
【化7】

【0066】
図12から明かな通り、2−メチル−3−イソチアゾロンは硫黄原子が白金(II)イオンに配位していることが確認された。
【0067】
[参考例4]
イソチアゾロン類が金属元素に配位し金属錯体を形成することを確認するため、以下の試験を行った。まず、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)過塩素酸塩0.1mmolをアルゴン雰囲気下で3mLのクロロホルムに溶解させ、その溶液に2−メチル−3−イソチアゾロンのクロロホルム溶液15mL(予め2−メチル−3−イソチアゾロン0.4mmolを純水に溶解しさらに水酸化ナトリウム溶液を加え中和した後にクロロホルムに抽出した溶液)を加え、室温にて1時間撹拌した。その後、40mLのエチルエーテルを加えて3ヶ月間放置し単結晶を得た。得られた結晶について、X線単結晶構造解析を行った結果を図13に示す。この図13は、2−メチル−3−イソチアゾロンと配位子と銅(II)イオンの錯体構造を示すORTEP図である。図13中、「MI」は2−メチル−3−イソチアゾロン部分を、「ClO4」はClO部分を示す。。
【0068】
図13から明かな通り、2−メチル−3−イソチアゾロンは酸素原子が銅(II)イオンに配位していることが確認された。
【0069】
なお、参考例1と参考例4を比べると、条件により異なった錯体が生じることを示している。上記各参考例は、錯体の結晶を得る為に相当の工夫がなされている。濃度測定時と錯体の結晶を得る時の条件は一致しないので、あくまでも参考例はイソチアゾロン類が金属と錯体を形成し得る物質であることを示す例に過ぎないが、濃度測定時に如何なる化学構造であれ錯体が形成されているであろうことを実証するには充分であると考える。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、イソチアゾロン類の濃度が簡便かつ安価な操作で測定できるため、イソチアゾロン類が殺菌剤や殺生物剤として添加されている幅広い用途範囲において本発明の応用が可能である。そのような用途の具体例としては、製紙工場処理液、化粧品、塗料、接着剤、医薬品や農薬等の薬剤、樹脂、ゴム、金属加工油、工業用水、冷却水等に含まれるイソチアゾロン類の定量分析等が挙げられる。
【0071】
また、本発明の方法は、イソチアゾロン類を実際に使用している現場でも適用でき、最近注目されている連続流れ分析法による全自動連続測定系への応用展開が可能である。従って、本発明の方法は、冷却水処理システムに代表される各種水処理システムにも有効に応用することができると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】銅(II)イオンを添加したイソチアゾロン類のサンプル溶液についての吸光度の測定例を示す図である。
【図2】白金(II)イオンを添加したイソチアゾロン類のサンプル溶液についての吸光度の測定例を示す図である。
【図3】銅(II)イオン及び1−アミノ−4−ヒドロキシアントラキノンを添加したイソチアゾロン類のサンプル溶液についての測定例を示す吸光スペクトル図である。
【図4】銅(II)イオン及び1−アミノ−4−ヒドロキシアントラキノンを添加したイソチアゾロン類のサンプル溶液についての吸光度の測定例を示す図である。
【図5】パラジウム(II)イオンを添加したイソチアゾロン類のサンプル溶液についての測定例を示す蛍光スペクトル図である。
【図6】イソチアゾロン類のアセトニトリル溶液についての蛍光スペクトル図である。
【図7】パラジウム(II)イオンのアセトニトリル溶液についての蛍光スペクトル図である。
【図8】イソチアゾロン類のサンプル溶液に銀(I)イオン及びジチゾンを添加して、生じた沈殿を濾別し、得られた濾液についての吸光度の測定例を示す図である。
【図9】銅(II)イオンを添加した他のイソチアゾロン類のサンプル溶液についての吸光度の測定例を示す図である。
【図10】イソチアゾロン類と銅(II)イオンの錯体構造を示すORTEP図である。
【図11】イソチアゾロン類と銀(I)イオンの錯体構造を示すORTEP図である。
【図12】イソチアゾロン類と配位子と白金(II)イオンの錯体構造を示すORTEP図である。
【図13】イソチアゾロン類と銅(II)イオンの錯体構造を示す別のORTEP図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソチアゾロン類と反応生成物を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルを変化させることができる金属元素の金属イオン又は金属錯体とイソチアゾロン類とを接触させ、該金属元素とイソチアゾロン類の反応に由来する吸光又は蛍光スペクトルの変化を測定することによりイソチアゾロン類の濃度を求めることを特徴とするイソチアゾロン類の濃度測定方法。
【請求項2】
前記イソチアゾロン類が、2−メチル−3−イソチアゾロン、5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロン、2−n−オクチル−3−イソチアゾロン、4,5−ジクロロ−2−シクロヘキシル−3−イソチアゾロン及び4,5−ジクロロ−2−オクチル−3−イソチアゾロンからなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載のイソチアゾロン類の濃度測定方法。
【請求項3】
前記金属元素が、少なくとも5族から12族の元素及び希土類元素の中の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のイソチアゾロン類の濃度測定方法。
【請求項4】
前記金属元素が、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、銀、カドミウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、ユウロピウム、テルビウムからなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項3に記載のイソチアゾロン類の濃度測定方法。
【請求項5】
前記スペクトル変化の測定が、少なくとも1点以上の波長における吸光度又は蛍光強度の測定により行うことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のイソチアゾロン類の濃度測定方法。
【請求項6】
サンプル溶液に含まれるイソチアゾロン類の濃度を測定する方法であって、前記サンプル溶液に前記金属イオン又は金属錯体を接触させて前記金属元素とイソチアゾロン類の反応に由来する吸光又は蛍光スペクトルの変化を生じさせる工程、および、前記スペクトル変化を測定することによりイソチアゾロン類の濃度を求める工程を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のイソチアゾロン類の濃度測定方法。
【請求項7】
前記スペクトル変化の測定が、目視で行われることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のイソチアゾロン類の濃度測定方法。
【請求項8】
サンプル溶液に含まれるイソチアゾロン類の濃度を測定するキットであって、(a)イソチアゾロン類と反応生成物を形成する際に吸光又は蛍光スペクトルを変化させることができる金属元素の金属イオン又は金属錯体、(b)前記金属イオン又は金属錯体を前記サンプル溶液と接触させる手段、および、(c)該金属元素とイソチアゾロン類の反応に由来する吸光又は蛍光スペクトルの変化を測定することによりイソチアゾロン類の濃度を求める手段を含むことを特徴とするイソチアゾロン類の濃度測定キット。
【請求項9】
前記金属イオン又は金属錯体が予め試験片に固定されていることを特徴とする請求項8に記載のイソチアゾロン類の濃度測定キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−240301(P2007−240301A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62396(P2006−62396)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】