説明

イヌインフルエンザを治療するワクチンおよび方法

【課題】イヌインフルエンザウイルスに関連した疾患のワクチン及び治療の提供。
【解決手段】インフルエンザウイルス抗原と、これらの抗原をイヌ類、特にイヌに提示する方法と弱毒及び死滅ワクチンに関し、又実験的に生成されたイヌ及びウマインフルエンザウイルスに関するもので、H3、N8、H3N8、及びH7N7を含めたA型インフルエンザと、イヌ又はウマインフルエンザウイルスからの少なくとも1つのゲノムセグメントを含有するウイルスとが含まれる。インフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患から、イヌ類、特にイヌを防御する治療用組成物におけるこれらのウイルスの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌインフルエンザウイルスに関連した疾患の新規なワクチンおよび治療の提供に関する。本発明は、インフルエンザウイルス抗原と、これらの抗原をイヌ類、特にイヌに提示する方法とを開示する。本発明は、弱毒および死滅ワクチンに関する。本発明は、実験的に生成されたイヌおよびウマインフルエンザワクチンおよびウイルスに関する。本発明には、イヌまたはウマインフルエンザウイルスからの少なくとも1つのゲノムセグメントを含有するインフルエンザA、H3、N8、H3N8、およびH7N7ウイルスが含まれる。本発明は、インフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患から、イヌ類、特にイヌを防御する治療用組成物におけるこれらのウイルスの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ウマインフルエンザウイルスは、1956年頃から、ウマにおける主要な呼吸器病原として認識されている。ウマインフルエンザウイルスによって引き起こされる病徴は、重度なものとなることがあり、しばしば2次細菌感染がこれに続く。ウマインフルエンザウイルスの2つの亜型、すなわちA/Equine/Prague/1/56(H7N7)を原型とする亜型1およびA/Equine/Miami/1/63(H3N8)を原型とする亜型2が認識されている。現在、優勢なウイルス亜型は、亜型2、すなわちH3N8株である。いまでは、この株がイヌ類も感染させている可能性があると考えられており、それはかなり病原性の強いものであり得、場合によってはイヌ類の死亡率は36%という高いものであると報告されている。完全なウマインフルエンザウイルスまたはその一部の、イヌへの種間伝染の結果、急性呼吸器疾患に関連した新規なイヌ類特異的なインフルエンザウイルスが生じた可能性がある。「Transmission of Equine Influenza to Dogs」(P.C.Crawfordら、Science 310,482−485(2006年)を参照のこと。この新規なイヌインフルエンザを治療および予防する有効なワクチンを求める明確かつ説得力のある必要性が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、イヌインフルエンザによって引き起こされた感染、疾患、および症候から、イヌ類、特にイヌを治療するための、ウマおよびイヌインフルエンザ抗原、ワクチン、およびそれらのワクチンを使用する方法を提供する。本発明は、インフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患に対して動物を防御するための治療組成物をさらに提供する。上記ワクチンを作製する方法および動物を治療する方法を本明細書に記載する。本発明の抗原は、限定されるものではないが、H3N8抗原亜型を有するインフルエンザ、すなわちより一般的にはH3N8株と呼ばれるインフルエンザを含めた、任意のトリまたは哺乳動物に由来する、同定されているいかなるインフルエンザウイルス株でもよい。上記インフルエンザは、限定されるものではないがブタ類、鳥類、ウマ類、またはイヌ類起源を含めたいかなる哺乳動物起源のものでもよい。ウマおよびイヌインフルエンザウイルス、ならびに関連抗原が好ましい。H3またはN8と命名されたタンパク質を有する株を開示する。H3N8の両方を有する株が好ましい。H7N7と命名されたタンパク質を有する株も開示する。
【0005】
抗原濃度およびワクチン生産について記載する。細胞培養培地およびウイルス増殖について記載する。弱毒、死滅、および不活化ウイルスのワクチン調製、ならびにワクチンアジュバント、製剤、形態、および担体、用量、投与経路、およびアッセイについてもすべて記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
定義および略語
以下の定義をこの開示に適用し、定義されていない語は、当業者によって一般的に使用されている意味を有する。
【0007】
「約」は、測定可能な数値変数と併せて使用される場合、その変数の表示値と、いずれがより大きい場合でも、表示値の実験誤差以内(例えば平均の95%信頼区間以内)または表示値の10パーセント以内にある、その変数のすべての値を指す。
【0008】
「能動免疫」には、イヌの液性免疫および/または細胞性免疫の両方が含まれる。
【0009】
「抗体」は、特異抗原に対する免疫応答の結果としてその抗原に特異的に結合できる免疫グロブリン分子を指す。免疫グロブリンは、「定常」および「可変」領域を有する「軽鎖」および「重鎖」ポリペプチドで構成される血漿タンパク質であり、定常領域の組成に基づいて複数のクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM)に分割されている。所与の抗原に「特異的な」抗体とは、その抗体の可変領域が排他的に特異抗原を認識し、それに結合することを指す。抗体は、ポリクローナル混合物でも、モノクローナルでもあり得る。抗体は、天然発生源もしくは組換え体発生源由来の完全な免疫グロブリンでも、完全な免疫グロブリンの免疫反応性部分でもあり得る。抗体は、例えば、Fv、Fab’、F(ab’)を含めた様々な形態、ならびに1本鎖で存在しうる。
【0010】
「抗原」または「免疫原」は、対象に暴露された際に、その抗原に特異的な免疫応答を誘導するであろう、1または複数種のエピトープ(直線状、立体配座、または両方)を含有する分子を指す。エピトープは、抗原における、T細胞受容体または特異抗体に結合する特異的な部位であり、通常、約3アミノ酸残基から約20アミノ酸残基を含む。抗原という用語は、死滅、弱毒、または不活化細菌、ウイルス、菌類、寄生生物、または他の微生物に加えて、サブユニット抗原、すなわちその抗原が天然で随伴している生物全体から分離され、それとは異なっている抗原も指す。抗原という用語は、抗イディオタイプ抗体またはその断片などの抗体、および抗原または抗原決定基(エピトープ)を模倣できる合成ペプチドミモトープも指す。抗原という用語は、DNA免疫化適用におけるものなど、in vivoで抗原または抗原決定基を発現するオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドも指す。
【0011】
「抗原性」は、タンパク質またはポリペプチドに、そのタンパク質またはポリペプチドに対して産生された抗体が免疫特異的に結合する可能性を指す。
【0012】
「イヌ類」には、一般的にイヌと呼ばれるものも含まれるが、イヌ科の他の構成員も含まれる。
【0013】
「細胞性免疫応答」−免疫応答を参照のこと。
【0014】
本明細書で使用される場合、「伴侶動物」は、愛玩動物と考慮される束縛されている非ヒト動物を指す。これらには、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、サル、ならびにマウス、ラット、ハムスター、スナネズミ、およびケナガイタチを含めた齧歯動物が含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
「ウマ類」には、一般的にウマと呼ばれるものも含まれるが、ウマ科の他の構成員も含まれる。
【0016】
「賦形剤」は、抗原ではないワクチン成分のいかなるものも指す。
【0017】
「第1のワクチン」、「第2のワクチン」、および「第3のワクチン」などは、別々に投与できるワクチンを指し、これらは同じものでも異なるものでもよく、通常は任意の順序で投与してよい。したがって第3のワクチンは、第2のワクチンの前に対象に投与しても、後に投与してもよい。
【0018】
本明細書で使用する場合、「異種」は、異なったウイルス、種または株に由来することを意味する。
【0019】
「相同性」および「相同な」などは、本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の間で共有されている同一性の程度を意味する。
【0020】
ウイルスに関して使用される場合、「相同」種は、同一のウイルス種または株を意味する。
【0021】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」は、プラスミド、ウイルス、または他のベクターを保持する、細菌細胞、または哺乳動物、トリもしくは昆虫を含めた真核細胞を意味する。
【0022】
「液性免疫応答」−免疫応答を参照のこと。
【0023】
「ハイブリドーマ」−モノクローナル抗体を参照のこと。
【0024】
対象の「免疫応答」は、抗原に対する液性免疫応答、細胞性免疫応答、または液性および細胞性免疫応答の発生を指す。「液性免疫応答」は、抗体によって媒介されるものを指す。「細胞性免疫応答」は、Tリンパ球もしくは他の白血球、または両方によって媒介されるものであり、これには、サイトカイン、ケモカイン、ならびに活性化されたT細胞、白血球、または両方によって産生される同様な分子の産生が含まれる。免疫応答は、標準的なイムノアッセイおよび中和アッセイを用いて測定でき、それらのアッセイは当技術分野で知られている。
【0025】
「免疫原性」は、同定された疾患を引き起こす細菌またはウイルスに対して特異的に生じた免疫応答を、タンパク質またはポリペプチドが特異的に誘発する能力を指す。
【0026】
抗原の「免疫学的に保護的な量」または「免疫応答を産生するのに有効な量」は、有害健康作用またはその合併症を含めた疾患の徴候もしくは症候を予防するか、寛解させるのに適した、受容者の免疫原性応答を誘導するのに有効な量である。液性免疫もしくは細胞性免疫、または両方のいずれを誘導するものでもよい。ワクチン組成物に対する動物の免疫原反応は、例えば、抗体価の測定もしくはリンパ球増殖アッセイを介して間接的に、または野生型株を抗原暴露した後の徴候および症候をモニターすることを介して直接的に評価することができる。ワクチンによって与えられる防御免疫は、例えば、対象の死亡率、罹患率、体温数値などの臨床徴候の軽減、ならびに総合的身体状態、総合的健康および能力の測定によって評価することができる。免疫応答は、細胞性および/または液性免疫の誘導を含みうるが、これらに限定されない。治療上有効なワクチン量は、使用された特定のウイルス、またはワクチン接種される動物の状態に応じて異なり得るものであり、獣医師によって決定されうる。
【0027】
「鼻腔内」投与は、鼻を通して、または鼻によってワクチンなどの物質を対象の体内に導入することを指し、主として鼻粘膜を通り抜ける物質の転送を要する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「単離された」は、それが天然に存在する環境から、単独で、または異種宿主細胞、または染色体もしくはベクター(例えば、プラスミド、ファージなど)中で取り出されていることを意味する。「単離された細菌」、「単離された嫌気性細菌」、「単離された細菌株」、「単離されたウイルス」、「単離されたウイルス株」などは、それが天然に存在する環境から分離された場合などに、その中で、例えば培養物中でそれらの細菌またはウイルスが、実質的に他の微生物を含まない組成物を指す。「単離された」は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドなど、任意の特に定義された物質を記載するのに使用される場合、ポリペプチドまたは核酸などの物質が通常見出される元の細胞環境から分離されている物質を指す。したがって、本明細書で使用される場合、例としてのみ、本発明のポリヌクレオチドによって構築された組換え体細胞系は、「単離された」核酸を用いている。別法では、特定のタンパク質または特定の免疫原性断片が特許請求されているか、ワクチンとして使用されている場合、それは、それが天然で存在しているであろう在り方と比較して、同定され、分離され、さらにある程度精製されているであろうから、単離されていると考えられるであろう。上記タンパク質またはそれの特定の免疫原性断片が、上記抗原を産生する組換え体細菌発現ベクターまたは真核生物発現ベクターで産生される場合、それは単離されたタンパク質または核酸として存在すると考えられる。例えば、ポリヌクレオチドを用いて構築された組換え体細胞系は、「単離された」核酸を用いたものである。
【0029】
「代謝可能アジュバント」 植物油ベースのアジュバントなど、標的種が代謝できる成分からなるアジュバント。代謝可能アジュバントは、代謝可能油でもよい。代謝可能油は、典型的には植物および動物に存在する油脂であり、通常は、主として、トリグリセリドまたは中性脂肪と呼ばれる、トリアシルグリセロールの混合物からなる。これらの水に不溶な非極性物質は、グリセロールの脂肪酸トリエステルである。トリアシルグリセロールは、それらの3つの脂肪酸残基のアイデンティティーおよび配置に応じて異なる。「非代謝可能アジュバント」と比較のこと。
【0030】
「非代謝可能アジュバント」 乳剤が投与された動物対象の体が代謝できない成分からなるアジュバント。本発明の乳剤で使用するのに適した非代謝可能油には、アルカン、アルケン、アルキン、ならびに対応するそれらの酸およびアルコール、それらのエーテルおよびエステル、ならびにそれらの混合物が含まれる。上記油の個々の化合物は、軽炭化水素化合物、すなわち、6から30個の炭素原子を有する成分が好ましい。上記油は、合成によって調製することも、石油産物から精製することもできる。本発明の乳剤で使用するのに好ましい非代謝可能油には、例えば、ミネラルオイル、パラフィン油、およびシクロパラフィンが含まれる。「ミネラルオイル」という用語は、蒸留技法によってワセリンから得られる液体炭化水素の混合物である非代謝可能アジュバント油を指す。この用語は、「液化パラフィン」、「流動ワセリン」、および「白色ミネラルオイル」と同義である。この用語には、「軽油」、すなわち同様にワセリンの蒸留によって得られるが、白色ミネラルオイルよりわずかに比重が低い油も含まれるものとする。例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、第18版(米国ペンシルベニア州イーストン(Easton)所在、Mack Publishing社、1990年、788および1323頁)を参照のこと。ミネラルオイルは、様々な商業的供給源、例えば、J.T.Baker社(米国ペンシルベニア州フィリップスバーグ(Phillipsburg)所在)、USB Corporation社(米国オハイオ州クリーブランド(Cleveland)所在)から入手できる。好ましいミネラルオイルは、DRAKEOL(登録商標)という名称で市販されている軽油である。
【0031】
「モノクローナル抗体」は、すべて特定の抗原上の1つのエピトープに対して産生されたハイブリドーマ細胞の単一細胞系によって産生される抗体を指す。モノクローナル抗体を作るのに使用される抗原は、病原体の単離されたタンパク質として用意しても、病原体全体として用意してもよい。「ハイブリドーマ」は、骨髄腫細胞と特異的な抗体産生細胞との融合によって形成された雑種細胞からなるクローン細胞系である。一般的に、モノクローナル抗体はマウス起源のものであるが、モノクローナル抗体は、ファージディスプレイ法もしくはファージディスプレイ法と同等な方法によってまたは非マウス起源の雑種細胞によって産生された、抗原の特定のエピトープに対して作られた抗体のクローン集団も指す。
【0032】
ある事象の「N日」後または「M日」後はそれぞれ、その事象の後のN番目またはM番目の日における任意の時間を指す。例えば、第1のワクチンの投与の14日後に対象に第2のワクチンを接種するということは、第1のワクチンの後の14日目における任意の時に第2のワクチンを投与することを意味する。
【0033】
「ORF」は、「オープンリーディングフレーム」、すなわち遺伝子のコード領域を示す。
【0034】
「経口」(「oral」または「peroral」)投与は、口を通して、または経由させて対象の体内にワクチンなどの物質を導入することを指し、これには嚥下または口腔粘膜を横断する輸送(例えば舌下または口腔内粘膜吸収)が関与する。気管内投与も経口投与である。
【0035】
「経口鼻(oronasal)」投与は、口および鼻を通して、または経由させて対象の体内にワクチンなどの物質を導入することを指し、これは例えば鼻に1つまたは複数の液滴を入れることによって起こるであろう。経口鼻投与には、経口または鼻腔内投与に伴う輸送過程が関与する。
【0036】
「非経口投与」は、消化管を含まない経路を通して、または経由させて対象の体内にワクチンなどの物質を導入することを指す。非経口投与には、皮下投与、筋肉内投与、経皮投与、皮内投与、腹腔内投与、眼内投与、および静脈内投与が含まれる。この開示の目的では、主として口、鼻、気管、および肺の粘膜組織を横断する物質の輸送が関与する投与経路は非経口投与から除外する。
【0037】
「薬学的に許容できる」は、妥当な医学的判断の範囲内にある物質であって、対象の組織に接触した使用に、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などがなく、適しており、妥当な利益対危険比に相応し、かつそれらの意図された使用に有効である物質を意味する。
【0038】
「薬学的に許容できる担体」は、活性成分の生物活性の有効性を損なわず、かつそれが投与される対象にとって毒性でない担体媒体を指す。
【0039】
「ポリクローナル抗体」は、特定の病原体または抗原に対して産生された抗体の混合集合体を指す。一般に、上記集合体は、それぞれが上記病原体または抗原の特定のエピトープに対して産生された様々な抗体群を含有する。ポリクローナル抗体を作製するには、上記病原体または抗原に対する抗体を宿主が産生するように誘導する病原体全体または単離抗原を接種または感染によって宿主に導入する。
【0040】
「感染を防止する」は、同定された疾患を引き起こす細菌もしくはウイルスの複製を防止もしくは抑制すること、または上記細菌もしくはウイルスの伝染を防止すること、または上記細菌もしくはウイルスが宿主に定着するのを防止すること、または感染によって引き起こされた疾患の症候を軽減することを意味する。この処置は、細菌またはウイルス負荷の減少がある場合に治療効果があると考えられる。
【0041】
「防御」および「防御する」などは、ワクチンに関して本明細書で使用される場合、上記ワクチンで使用された抗原が由来する生物によって引き起こされる疾患の症候を、上記ワクチンが防止または軽減することを意味する。「防御」および「防御する」という用語は、上記ワクチンが、対象で既に存在する疾患または上記疾患の1つまたは複数の症候を「治療する」のに使用できることも意味する。
【0042】
「呼吸」投与は、吸入を通して、または経由させて対象の体内にワクチンなどの噴霧化(微粒化)された物質を導入することを指す。呼吸投与では、主要な輸送機構に、気管、気管支、および肺の粘膜を通した微粒化物質の吸収が関与しており、したがって、これは鼻腔内または経口投与とは異なる。
【0043】
本発明の抗体に関して記述するのに使用する場合、「に特異的な」は、本発明の抗体の可変領域が特定のH3N8株を排他的に認識し、それと結合する(すなわち、他の既知なタンパク質と特定のH3N8タンパク質とを、上記H3N8タンパク質とそのようなポリペプチドとの間に局所的な配列同一性、相同性、または類似性が存在するにもかかわらず、結合親和性の測定可能な相違によって識別できる)ことを示す。特異的な抗体は、その抗体の可変領域の外にある配列、とりわけその分子の定常領域との相互作用を介して、他のタンパク質(またはELISA法における他の抗体)とも相互作用しうることが理解されよう。本発明の抗体の結合特異性を測定するスクリーニングアッセイは、よく知られており、当技術分野で日常的に実施されている。そのようなアッセイの包括的な考察に関しては、Harlowら(編集)、「Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory社、米国ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor)所在(1988年)、第6章を参照のこと。本発明の抗体は、当技術分野でよく知られており、日常的に実施されている任意の方法を用いて産生できる。
【0044】
「サブユニットワクチン」は、ウイルス、細菌、寄生生物または真菌などの対象の病原体からの抗原に由来するか、または相同である、すべての抗原ではなく1つまたは複数の抗原を含有するワクチンの1タイプを指す。そのような組成物は、完全な病原体細胞、病原性粒子、またはそのような細胞もしくは粒子の溶解物を実質的に含まない。したがって、サブユニットワクチンは、上記病原体またはその類似体から少なくとも部分的に精製されているか、または実質的に精製されている免疫原性ポリペプチドから調製できる。上記サブユニットワクチン中の1または複数種の抗原を得る方法には、標準的な精製技法、組換え生産、または化学合成が含まれる。したがって、「サブユニットワクチン」は、完全なウイルス性免疫原、細菌性免疫原、または他の免疫原の特定されている1または複数種の抗原成分からなるワクチンを指す。
【0045】
「特異的な免疫原性断片」は、その配列に特異的な抗体によって認識可能な配列の一部を意味する。
【0046】
「対象」は、免疫系を有する任意の動物を指し、これには、イヌなどの哺乳動物も含まれる。
【0047】
「TCID50」は、「組織培養感染量」を指し、予防接種された所与のバッチの細胞培養の50%を感染させるのに必要なウイルスの希釈率と定義される。TCID50を計算するのに、本明細書を通して利用されているSpearman−Karber法を含めた様々な方法が使用できる。Spearman−Karber法の説明に関しては、B.W.MahyおよびH.O.Kangro、「Virology Methods Manual」、25〜46(1996年)を参照のこと。
【0048】
「治療薬」は、ウイルス感染、またはそれによって引き起こされた疾患もしくは状態の治療を補助する任意の分子、化合物、ウイルス、または治療、好ましくは弱毒もしくは死滅ウイルス、またはサブユニットもしくは化合物を指す。
【0049】
この開示の文脈では、「治療有効量」は、ウイルス(例えばH3N8)、細菌、寄生生物または真菌などの病原体の感染によって引き起こされる、有害健康作用またはその合併症を含めた、疾患の徴候もしくは症状を、その抗原またはワクチンが与えられた対象(例えばイヌ)で防止するか、または寛解させるのに十分な免疫応答を誘導するであろう抗原またはワクチンの量を指す。液性免疫もしくは細胞性免疫を誘導するものでも、液性免疫および細胞性免疫の両方を誘導するものでもよい。ワクチンに対する動物の免疫原性反応は、例えば、抗体価の測定もしくはリンパ球増殖アッセイを介して間接的に評価しても、野生型株を抗原暴露した後における徴候および症候のモニターを介して直接的に評価してもよい。ワクチンによって与えられる防御免疫は、例えば、対象の死亡率、罹患率、体温数値などの臨床徴候の軽減、ならびに総合的身体状態、総合的健康および能力の測定によって評価することができる。治療上有効なワクチン量は、使用される特定のウイルス、または対象の状態に応じて変動しうるものであり、当業者ならば決定できる。
【0050】
「伝染する」は、ウイルスが第1の動物(イヌ)から第2の動物(イヌ)に移ることが可能であることを意味し、その際、第2のイヌは伝染したウイルスへの血清転換を示す。
【0051】
「治療する」は、その用語が適用される障害、状態または疾患の進行を反転、軽減、もしくは阻止するか、それを予防すること、またはそのような障害、状態もしくは疾患の1つまたは複数の症候を予防することを意味する。
【0052】
「治療」は、すぐ上に定義された「治療する」行為を指す。
【0053】
「ワクチン」は、ウイルス、すなわち改変生ウイルス、弱毒ウイルス、もしくは死滅ウイルス、またはサブユニットワクチン、または前述したものの任意の組合せから選択された免疫原性組成物を指す。対象へのワクチンの投与は、その結果、免疫応答を引き起こす。上記ワクチンは、非経口投与および経口投与などを含めた任意の既知な経路の投与によって対象に直接導入できる。
【0054】
第1部 抗原およびウイルス株、それらの産生、製造、ワクチンへの製剤、およびワクチンの投与
本発明の一態様は、免疫原性応答を引き起こす以下の抗原を用いたワクチンを提供する。
【0055】
本発明の有用な抗原。本発明の抗原は、任意のトリまたは哺乳動物から得られるいかなる同定済みのインフルエンザウイルス株でもあり得、それらには、H3亜型赤血球凝集素およびN8亜型ノイラミニダーゼを有するインフルエンザウイルス、すなわちH3N8亜型、またはより一般的にはH3N8ウイルスと呼ばれるインフルエンザウイルスが含まれうるが、これらに限定されない。上記インフルエンザは、限定されるものではないがブタ類、ウマ類、またはイヌ類起源を含めたいかなる哺乳動物またはトリ起源のものでもよい。ウマインフルエンザ抗原およびイヌインフルエンザ抗原が好ましい。H3またはN8と命名されている亜型糖タンパク質を有する株が好ましく、H3およびN8の両方を有する株がより好ましい。
【0056】
「Transmission of Equine Influenza to Dogs」(P.C.Crawfordら、Science 310、482−485(2005年))に記載の株および変種、ならびにその変異体および変種も好ましい。ウイルスHAは、インフルエンザウイルスの宿主種特異性を決める極めて重要な決定因子である。
【0057】
本発明のインフルエンザ抗原は、家畜および野生両方のイヌ、ウマ、ブタ、および家禽から単離されうる。試料収集用に選択される動物は、軽度から重度の呼吸器症状および発熱が含まれうる急性および/または亜急性の臨床症候を示しているものであるべきである。動物は、食欲減退および嗜眠の徴候も示しているかもしれない。ウイルス単離の方法は当業者によく知られており、これらには、臨床標本、または鼻道もしくは喉のスワビング、または脾臓、肺、扁桃、肝臓もしくは肺洗浄液などの組織を収集することによる収集物から得た鼻粘膜または咽頭粘膜試料を、哺乳動物またはトリの細胞培養または孵化卵を接種することが含まれる。ウイルスの細胞変性作用は、細胞培養で観測されることができ、尿膜腔液または細胞溶解液は、インフルエンザウイルスの存在に関する推定証拠となる、それらがヒト、雄鳥、シチメンチョウ、またはモルモットの赤血球を凝集させる能力に関して試験することができる。
【0058】
ウイルス株および可能な抗原の命名法 A型インフルエンザウイルス株は、ウイルス粒子表面にあるそれらの糖タンパク質の抗原性特性に基づいて亜型に細分される。これらのウイルス糖タンパク質は、赤血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)である。通常、HA亜型を最初に指定し、NAを2番目に指定する。したがって、H3N8は、赤血球凝集素亜型3およびノイラミニダーゼ亜型8を有するウイルスを指す。この亜型は、HAおよびNAの血清学分析に基づいている。本明細書に開示された手順を用いて、これらの亜型のいずれのものワクチンも作製できる。現在、16の同定されているHA亜型と、9つの同定されているNA亜型とがある。野生では、まだ記載されていないものがさらにあるかもしれない。詳細には、同定されている亜型には、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、およびH16、ならびにN1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8、およびN9が含まれる。これらの組合せの亜型すべて、およびそれらの任意の組合せ、ならびに将来、上記の手順または実質的に同様な手順を用いて同定されるいかなる未来の亜型および亜型の組合せも、これにより、本発明の有用な抗原として記述し、特許請求する。他のすべてのHAおよびNAの組合せの亜型も開示する。これには、好ましい亜型であるH3N8およびH7N7も含まれるが、それらに限定されない。
【0059】
インフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)は、ウイルス粒子表面の糖タンパク質であって、そのウイルスを宿主細胞表面にあるその受容体に付着させ、ウイルスエンベロープをエンドサイトーシス小胞の膜に融合させて感染過程を開始させる糖タンパク質である。それは、防御抗体の刺激および形成で最も重要なウイルス粒子成分でもある。HAのアミノ酸配列、そしてそれゆえにNグリコシル化部位の位置は、ウイルスゲノムによって決定される。
【0060】
インフルエンザウイルスの分節マイナス鎖RNAゲノムは、有効な校正機能を欠くRNA依存性RNAポリメラーゼによって複製され、それによって、表面糖タンパク質HAおよびNAにおけるアミノ酸置換をもたらす結果となり得る高率の転写エラーが引き起こされる。この高頻度変異の結果の1つは、HAにおけるN結合グリカンの数および位置が大多数とは異なる変異体をウイルス集団が含有することである。これらのオリゴ糖の構造は、HAにおけるそれらの位置によって、そして、ウイルスが増殖している宿主細胞によって提供される生合成酵素およびトリミング酵素のアレイによって決定される。したがって、ウイルスゲノムの可塑性、および宿主によって特定されるグリコシル化機構は、いずれか単独の過程で発生できるであろうものより、構造および機能の異種性が高いウイルス集団を協同して生み出すことができる。この多様性は、これらのウイルスが様々な生物学的ニッチで生き延びること、ならびにそれらが中和抗体および抗ウイルス剤の阻害作用に打ち勝つ能力の原因となっていると考えられている。様々な株のウイルスゲノムにおける変異が同定されており、それらの変異株も本明細書で特許請求されている。例えば、これらの変異体の一部は、参照により本明細書に組み込まれている「Transmission of Equine Influenza to Dogs」(P.C.Crawfordら、Science 310、482−485(2005年))に記載されている。
【0061】
本発明は、ウマインフルエンザ株A/Equine/2/Miami/1/63として収集および同定された特定の株から作製されたワクチンも開示する。この株は、ATCC VR317として、米国ヴァージニア州(10801 University Boulevard,Manassas,VA 20110−2209)所在のATCC(American Type Culture Collection)に寄託されている。この株は元々、1963年、マイアミで、病気のウマから得た鼻腔洗浄液から単離された。上記ウイルスは、ニワトリ胚で5回継代された。上記ウイルスは、H3N8とさらに分類される。
【0062】
ウマ由来の北米型H3N8インフルエンザウイルスの別の例はA/Equine/Kentucky/1998である。ウマ由来のH3N8の追加例は、A/Equine/Kentucky/15/2002、A/Equine/Ohio/1/2003、A/Equine/Kentucky/1/1994、A/Equine/Massachusetts/213/2003、A/Equine/Wisconsin/2003、およびA/Equine/NewYork/1999である。他の例は、欧州型H3N8インフルエンザウイルス由来のA/Equine/Newmarket/A2/1993である。
【0063】
本発明は、イヌインフルエンザ株A/canine/Iowa/13628/2005および株A/canine/Iowa/9A1/B5/08/D12として収集および同定された特定の株から作製されたワクチンも開示する。後者の株、すなわちA/canine/Iowa/9A1/B5/08/D12は、2006年6月29日にUC 25508として、米国ヴァージニア州(10801 University Boulevard,Manassas,VA 20110−2209)所在のATCC、ATCCアクセッション番号PTA−7694に寄託された。上記ウイルスは、H3N8とさらに分類される。
【0064】
上記の株に加えて、本発明者らは、以下の方法で得られた株も開示する。すなわち、呼吸器疾患の臨床徴候を示すイヌまたはイヌの一群を同定し、経口分泌物もしくは鼻汁の試料または呼吸器組織もしくは内臓組織由来の試料を上記イヌから採取し、上記試料をアッセイし、H3N8インフルエンザウイルスの存在を同定する。本明細書に記載の手順を用いて、このウイルス抗原を単離、精製、培養、増殖、産生、濃縮して、Pfizerイヌインフルエンザウイルスとして同定する。孵化卵もしくはイヌ類細胞、または両方に適応させ、その中で継代させ、種親イヌインフルエンザH3N8ウイルスとして同定する。イヌ類由来のH3N8インフルエンザウイルスが好ましい。ウマ類またはブタ類由来のH3N8も、H3またはN8亜型のインフルエンザウイルスも使用できる。本発明者らは以下の方法で得られた株を開示する。すなわち、イヌまたはイヌの一群をウマインフルエンザH3N8に感染させる。呼吸器疾患の臨床徴候または不顕性徴候を示すイヌから、経口分泌物もしくは鼻汁の試料または呼吸器組織もしくは肺洗浄液もしくは内臓組織由来の試料を採取し、上記試料をアッセイし、H3N8インフルエンザウイルスの存在を同定する。本明細書に記載の手順を用いて、このウイルス抗原を単離、精製、培養、増殖、産生、濃縮して、イヌインフルエンザウイルスとして同定する。孵化卵もしくはイヌ類細胞、または両方に適応させ、その中で継代させ、種親イヌインフルエンザH3N8ウイルスとして同定する。イヌ類由来のH3N8インフルエンザウイルスが好ましい。ウマ類またはブタ類由来のH3N8も、H3またはN8亜型のインフルエンザウイルスも使用できる。ブタ類由来のH3N8ウイルスは、本明細書に十全に記載されているウマ類またはイヌ類由来のウイルスと同じ方法で処理する。
【0065】
第2部 第1部の抗原から産生されたワクチンの産生、製造、製剤、および投与の詳細な記述
第2部a)考察 第1部のウイルス抗原は、その病原力が低減するように改変されたウイルス抗原を含む物質の有用な組成物に調製することができ、さらに有用な製剤またはワクチン製剤に処方できる。以下の記述は、イヌにおけるインフルエンザウイルス感染に関連した臨床徴候の予防もしくは治療、またはイヌもしくはウマインフルエンザウイルスによって引き起こされたイヌの疾患の予防に有用なワクチンの産生、製造、製剤、および投与の詳細を示すものである。治療するべきイヌインフルエンザ感染は、ウマインフルエンザウイルスによって引き起こされたものでもよく、ウマインフルエンザウイルスに由来する新規の改変イヌインフルエンザでもよい。本明細書に記載の治療は、イヌ疾患におけるイヌまたはウマインフルエンザウイルスの排出を防止する補助として作用しうる。
【0066】
ここでは、ワクチンを用いて動物を、より詳細にはウマおよびイヌインフルエンザウイルスに対してイヌを治療および免疫化する方法および物質について記述する。上記方法は、免疫応答、より詳細には上記イヌにおけるH3N8インフルエンザウイルスに対する免疫応答を誘導できる第1、第2、および または第3のワクチンを治療有効量、上記イヌに投与するステップを含む。本発明のワクチンは、概ね、ウマまたはイヌインフルエンザウイルスの病原性株によって引き起こされる疾患に対してイヌを免疫化する予防的治療を意図するものである。
【0067】
ここでは、本発明者らは、能動免疫および または受動免疫を生じさせるワクチンを開示する。上記ワクチン全体またはそれらのタンパク質の特異的な免疫原性断片は、ウマまたはイヌインフルエンザウイルスに対する治療上の処置として与えられた場合に有効となることが期待されるであろう。したがって、本発明によって提供される免疫は、能動免疫または受動免疫のいずれかであり得、上記ワクチンの意図されている使用は、予防的または治療的であり得る。好ましい実施形態では、任意の型のイヌまたはウマインフルエンザウイルスに対してイヌを免疫化するワクチンが上記ワクチンにさらに含まれる。
【0068】
第2部b)ワクチン産生および抗原濃度 この節に記載のワクチンは、選択されたウイルスを細胞内で増殖させることによって産生しうる。上記ウイルスの産生は、ウマ類またはイヌ類の哺乳動物細胞培養で行うことが好ましい。卵でのウイルス(抗原)増殖または産生も好ましい。イヌ腎臓細胞系も好ましい。ウイルスの増殖は、いかなる有用な培地および許容細胞系で行ってもよく、上記細胞系は、鳥類細胞系由来のものでも、ネコ類、ウマ類、ウシ類またはブタ類細胞系由来の哺乳動物細胞系由来のものでもよい。上記ワクチンは、通常、不活化前のウイルスレベルで10〜10 TCID50を含有する。別法では、上記ウイルス調製物中の抗原含量を、赤血球凝集反応阻害(HI)試験、単純放射拡散または赤血球凝集反応アッセイでアッセイすることができ、このアッセイを用いた場合、用量あたりに投与される量として、10から10000HA単位/mlまで、より一般的には100から2000HA単位/mlまで、しばしば100から1000HA単位/mlまでの間の力価を有するワクチンが好ましいであろう。
【0069】
ウイルス増殖:細胞系および孵化卵 インフルエンザウイルスを増殖させるための好ましい細胞系はイヌ腎臓(DK)である。初代および不死化ウマ腎臓(EK)、ウマ皮膚(ED)、ブタ精巣(ST)、ブタ腎臓(pK)、ウシ腎臓(Bk)、ネコ腎臓(FK)、Vero、ならびに初代および不死化ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)を含めた他の細胞系も利用できる。インフルエンザウイルスを増殖させるための好ましい細胞培養系は、伝統的な接着単層培養である。別法では、懸濁およびマイクロキャリア細胞培養系も利用できる。好ましいマイクロキャリアは、Cytodex3マイクロキャリアビーズ(Amersham Biosciences社)である。マイクロキャリアの他の例には、ガラス、シリコンおよびデキストラン、DEAE、コラーゲン、デキストラン、またはゼラチンで構成されたビーズが含まれる。
【0070】
細胞系の培養およびインフルエンザウイルスの増殖に好ましい容器は、ローラーボトルであり、好ましいローラーボトル表面積は、1760cmであるが、490〜4250cmの範囲であり得る。別法では、他の有用な細胞培養フォーマットに、フラスコ(150cm2〜420cm)、積層モジュール(21000cm〜340000cm)、および撹拌槽(1.0L〜900L)が含まれる。好ましい感染多重度(MOI)は、0.001〜0.1であるが、0.0001〜2.0の範囲であり得る。細胞培養からウイルスを採取するための好ましいウィンドウは、感染後2から5日目であるが、感染後1から7日目の範囲であり得る。
【0071】
ウイルスの増殖は、孵化卵に接種することによっても実現できる。通常は、日齢0〜12日の孵化卵をウイルスの増殖に用いる。ウイルス増殖には、日齢7〜8日の孵化卵を用いることが好ましい。上記ウイルスは、卵の羊膜腔に接種する。ウイルスは、羊膜の細胞で複製され、再び羊水中に多量に放出される。接種後2〜3日目の後に、羊水中のウイルスを採取することができる。
【0072】
細胞培養培地:インフルエンザウイルスを増殖させるのに好ましい細胞培養培地処方には、以下のもの、すなわち、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、改変イーグル基本培地(basal modified eagle media)、Optimem、およびLeibovitz−15(L−15)培地が含まれるが、これらに限定されない。通常、上記細胞培地に、0.1から10単位のトリプシンを補足する。別法では、ウイルスを効率的に増殖させるために、細胞培養物中で、2〜100の単位の範囲にある植物由来のトリプシン等価物(例えばAccutase(商標))を用いることができる。細胞培養培地は、動物由来の成分が存在しないものでも、存在するものでも用いることができる。動物由来の成分を補足している一例は、最終濃度0.5〜10%の範囲のガンマ線照射血清である。
【0073】
第2部c)不活化または死滅ワクチン、サブユニットワクチン、および弱毒改変生ワクチンの調製
不活化または死滅ワクチン 本発明の一実施形態では、上記ワクチンは、任意の感染性ウマインフルエンザ株またはイヌインフルエンザ株から選択されたH3N8ウマインフルエンザ株またはイヌインフルエンザ株を含む不活化または死滅H3N8インフルエンザウイルスワクチンを含む。「Transmission of Equine Influenza to Dogs」(P.C.Crawfordら、Science 310、482−485(2006年)を参照のこと。上記ワクチンは、ブタ類由来のインフルエンザH3N8またはH3もしくはN8亜型の任意のインフルエンザを含むものでもあり得る。上記不活化ワクチンは、当技術分野でよく知られている方法で作られる。例えば、ひとたび上記ウイルスが高力価まで増殖されれば、当技術分野でよく知られている方法によって上記ウイルスの抗原性物質塊を取得できるであろうことが当業者には容易に明らかとなるであろう。例えば、上記ウイルスの抗原性物質塊は、希釈、濃縮、または抽出によって取得できる。これらの方法のすべてが、ワクチン産生用の適切なウイルス性抗原性物質塊を取得するために利用されてきた。上記ウイルスは、ホルマリン(例えば0.1〜10%)、βプロピオラクトン(BPL)(例えば0.01〜10%)、またはバイナリーエチレンイミン(BEI)(例えば1〜10mM)、もしくはバイナリーエチレンイミン(BEI)(例えば1〜10mM)を用いた処置によって、または当業者に知られている他の方法を用いて不活化することができ、ここではバイナリーエチレンイミンを用いた処置が好ましい。一般的に用いられている条件および薬剤が示されているが、他の薬剤および濃度も当業者には明らかであろう。
【0074】
上記に詳述した死滅ウイルス産生に加えて、弱毒化の様々な手段も可能であり、当技術分野でよく知られ、記載されており、ここで利用できる。改変生ワクチンへと導く弱毒化も可能である。これらの技法の一部は、この節および以下に記述されている。弱毒化のより好ましい形態には、細胞培養物中での連続継代、動物体内での連続継代、遺伝子的改変を生じさせる様々な方法、および紫外線または化学的変異導入が含まれる。
【0075】
サブユニットワクチン 加えて、限定されるものではないが、異種原核細胞発現(例えば大腸菌、シュードモナス、サルモネラなど)、異種真核細胞発現(例えば、酵母[ピキア、イエロビア]、昆虫細胞[バクロウイルス]など)、およびウイルスベクター(例えば、イヌアデノウイルス、ヒトアデノウイルス、ポックスウイルス、イヌヘルペスウイルス)を含めた組換え体発現技法によって、ウマまたはイヌインフルエンザサブユニットワクチンを産生することができる。
【0076】
弱毒および改変生ワクチン 弱毒ウイルスイヌワクチンは、最適以下の温度での連続継代を含めた連続継代によって、もはや疾患を引き起こせないが、なお防御免疫応答を誘発できる状態にまで弱毒化された、細胞系または卵で培養されたインフルエンザウイルス、好ましくはインフルエンザ由来のH3N8から調製する。
【0077】
インフルエンザウイルスの弱毒化は、野生型インフルエンザウイルス株を細胞培養物中で連続継代させることによって実現しうる。上記ウイルス株の免疫原性特性を完全に保持させながら、疾患を生じさせるその能力が無くなるまで、様々な細胞システムで上記ウイルス株を継代させることができる。ひとたび宿主内に接種されれば、上記ウイルスは、ある程度、増殖することができるであろう。適した弱毒ウイルス株は、過剰弱毒化(over−attenuated)株を得るための連続継代でも取得されうる。「過剰弱毒化」は、弱毒化のための継代数が、病原性を除去するのに通常必要なものより実質的に多いことを意味する。上記弱毒ウイルスは、これらの多数の継代の後でも抗原性を保持し、例えばその赤血球凝集素抗原およびノイラミニダーゼ抗原両方を保持し、そのため、その免疫原性能力が損なわれていない。そのような株は、投与された際に症候または副作用を実際的に産生せず、したがって、安全かつ有効なワクチンである。
【0078】
インフルエンザウイルスの弱毒化は、インフルエンザウイルス株の低温適応を介して実現しうる。低温適応インフルエンザウイルス株は、野生型インフルエンザウイルスを継代し、その後、降温下で増殖するウイルスを選択するステップを含めた方法によって産生しうる。低温適応インフルエンザウイルスは、例えば、孵化ニワトリ卵で野生型インフルエンザウイルスを漸進的により低い温度で順次に継代させ、それによって、降温下で安定的に複製できる、ウイルス混合物中の特定のメンバーを選択することによって産生できる。低温適応インフルエンザウイルス株は、温度感受性表現型を示しうる。温度感受性低温適応インフルエンザウイルスは、降温下では複製するが、野生株ウイルスが複製およびプラーク形成するであろうある特定の、より高い生育温度での組織培養細胞内では、もはや複製もプラーク形成も行わない。温度感受性ウイルスが増殖するであろう温度は、本明細書では、その温度感受性ウイルスの「許容」温度と呼び、そして、その温度感受性ウイルスは増殖しないであろうが、対応する野生株ウイルスは増殖するであろう、より高い温度を、本明細書では、その温度感受性ウイルスの「非許容」温度と呼ぶ。例えば、ある特定の温度感受性低温適応インフルエンザウイルスは、約30℃またはそれ未満の温度の孵化ニワトリ卵で複製し、約34℃という許容温度の組織培養細胞ではプラーク形成するであろうが、約37℃という非許容温度の組織培養細胞ではプラーク形成しないであろう。ある種の低温適応インフルエンザウイルスは、優性干渉(dominant interference)表現型を有しうる。すなわち、それらは、別のインフルエンザウイルスと共に細胞に同時感染された際に感染を支配し、それによって、その他のウイルスの成長を損なう。低温適応インフルエンザウイルスは、組換え手法によっても産生しうる。このアプローチでは、同定されている低温適応、弱毒、温度感受性、または優性干渉表現型に関連した1つまたは複数の特定の変異を同定し、逆遺伝学アプローチを用いて再び野生型インフルエンザウイルス株に導入する。逆遺伝学は、インフルエンザウイルス感染細胞から単離されたRNAポリメラーゼ複合体を用いて、変異を含有する人工的インフルエンザウイルスゲノムセグメントを転写するステップと、合成されたRNAセグメントをヘルパーウイルスを用いてウイルス粒子に組み込むステップと、その後、所望の変化を含有するウイルスを選択するステップとを伴う。
【0079】
第2部d)ワクチンのアジュバント、製剤、形態、および担体 本明細書で提示するワクチン成分は、好ましくは1つまたは複数のアジュバントを含有しているであろう。アジュバントには、多数あるなかでも、RIBIアジュバントシステム(Ribi社)と、ミョウバン(0.5〜20%、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは2%および5%)、リン酸アルミニウム(0.5〜20%、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは2%および5%)、水酸化アルミニウム(0.5〜20%の範囲、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは2%および5%のAlhydrogelまたはRehydragel)を含めたアルミニウム塩と、コレステロールと、水中油型乳剤と、例えばフロイント完全アジュバントおよび不完全アジュバントなどの油中水型乳剤と、ブロック共重合体(CytRx社、米国ジョージア州アトランタ(Atlanta)所在)と、SAF−M(Chiron社、米国カリフォルニア州エマリービル(Emeryville)所在)と、AMPHIGEN(登録商標)アジュバントと、サポニンと、好ましいサポニン濃度が10〜100μg、好ましくは約50μgである、Quil A、QS−21(Cambridge Biotech社、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ(Cambridge)所在)、GPI−0100(Galenica Pharmaceuticals社、米国アラバマ州バーミンガム(Birmingham)所在)、または他のサポニン画分などのサポニン類と、モノホスホリルリピドAと、アブリジン脂質アミンアジュバントと、大腸菌由来の熱不安定腸管毒(組換え体またはその他)と、コレラ毒素と、ムラミルジペプチドとが含まれるが、これらに限定されない。上記免疫原性組成物には、例えばインターロイキン、インターフェロン、または他のサイトカインなど他の1つまたは複数の免疫調節剤もさらに含まれうる。上記免疫原性組成物には、ゲンタマイシンおよびMerthiolate(商標)も含まれうる。
【0080】
ワクチン成分には、担体、溶媒、希釈剤、等張薬剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、免疫調節剤(例えばインターロイキン、インターフェロンおよび他のサイトカイン)、血管収縮剤、抗菌因子、および抗真菌薬などを含めた薬学的に許容できる賦形剤が含まれうる。典型的な担体、溶媒、および希釈剤には、水、食塩水、ブドウ糖、エタノール、およびグリセロールなどが含まれる。代表的な等張薬剤には、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、およびラクトースなどが含まれる。有用な安定化剤には、ゼラチンおよびアルブミンなどが含まれる。
【0081】
H3N8インフルエンザウイルスワクチンは、投与経路および貯蔵要件などに応じて様々な形態で提供される。例えば、上記ワクチンは、注射器、点滴器、および噴霧装置などでの使用に適した水溶液または分散液として調製することも、使用の前に、食塩水、HEPES緩衝剤、または第2のイヌワクチン水性免疫原性画分などの中で再構成される凍結乾燥粉末として調製することもできる。
【0082】
本発明の実施形態のワクチンは、どの一形態のワクチンも、使用する投与の様式に応じて薬学的に許容される担体中に処方される。当業者ならば、生もしくは死滅ウマイヌインフルエンザもしくはイヌインフルエンザまたはその免疫原性断片、ウマもしくはイヌインフルエンザまたはその特異的免疫原性断片をコードする組換え体ウイルスもしくは細菌ベクター、またはウマもしくはイヌインフルエンザまたはその特異的な免疫原性断片をコードするDNA分子を含むワクチンを容易に処方することができる。
【0083】
筋肉内注射が好ましい場合には、等張製剤が好ましい。通常、等張にするための添加物には、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、およびラクトースが含まれうる。特定の場合には、リン酸緩衝溶液などの等張液が好ましい。上記製剤は、ゼラチンおよびアルブミンなどの安定化剤をさらに提供するものであり得る。一部の実施形態では、上記製剤に血管収縮剤が添加される。本発明による製剤は、無菌かつ発熱物質のない状態で提供される。しかし、当業者には、本発明のワクチンを含む薬学的に許容される担体の好ましい処方は、米国農務省、またはカナダもしくはメキシコもしくは欧州諸国のいずれか一国などの外国の同等な政府機関によって発布された、任意のイヌワクチン、ポリペプチド(抗原)サブユニットワクチン、組換え体ウイルスベクターワクチン、およびDNAワクチンに関する法規で承認されている薬学的担体であることがよく知られている。したがって、本発明のワクチンを商業産生するための薬学的に許容される担体は、アメリカ合衆国もしくは外国の適切な政府機関によって既に承認されているか、または承認されるであろう担体である。上記ワクチンはさらに、薬学的に許容できるアジュバントと混合することができる。本発明のワクチンの特定の製剤では、他のイヌ類の病原体によって引き起こされる様々な疾患に対してイヌ類を防御できる多価ワクチン産物を産生するように、上記ワクチンが他のイヌワクチンと混合されている。
【0084】
上記ワクチン組成物は、薬学的溶媒、賦形剤、または媒体として働くワクチン適合性の薬学的に許容できる(すなわち無菌かつ非毒性)液体、半固体、または固体の希釈剤を任意選択で含みうる。希釈剤には、水、食塩水、ブドウ糖、エタノール、およびグリセロールなどが含まれうる。等張剤には、とりわけ、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、およびラクトースが含まれうる。安定化剤には、とりわけ、アルブミンが含まれる。代謝可能アジュバントおよび非代謝可能アジュバント、フロイント完全アジュバントおよびフロイント不完全アジュバントなどの油ベースのアジュバント、ミコレートベースのアジュバント(例えばトレハロースジミコレート)、細菌性リポ多糖(LPS)、ペプチドグリカン(すなわち、ムレイン、ムコペプチド、またはノカルジアオパカ(N−Opaca)、ムラミルジペプチド[MDP]、もしくはMDP類似体などの糖タンパク質)、プロテオグリカン(例えば肺炎桿菌から抽出される)、レンサ球菌調製物(例えばOK432)、Biostim(商標)(例えば01K2)、欧州特許第109942号、第180564号、および第231039号の「Iscoms」、水酸化アルミニウム、サポニン、DEAEデキストラン、ニュートラルオイル(miglyol(商標)など)、植物油(ラッカセイ油など)、リポソーム、ならびにPluronic(登録商標)ポリオールを含めた、当技術分野で知られているいかなるアジュバントも、上記ワクチン組成物で使用できる。
【0085】
本発明の免疫原性組成物は、投与経路に応じて様々な形態で作ることができる。例えば、上記免疫原性組成物は、注射での使用に適した無菌水溶液もしくは分散液の形態で作ることも、凍結乾燥技法を用いて凍結乾燥された形態で作ることもできる。凍結乾燥された免疫原性組成物は、通常、約4℃に維持され、アジュバントの存在下または非存在下で安定化溶液中、例えば食塩水または/およびHEPES中で再構成することができる。
【0086】
加えて、本発明の免疫原性組成物およびワクチン組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容できる担体を含みうる。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容できる担体」には、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、アジュバント、安定化剤、希釈剤、保存剤、抗菌薬、抗真菌薬、等張剤、および吸収遅延薬剤などが含まれる。上記担体は、本発明の成分との適合性を有し、免疫化される対象に有害でないという意味で「許容できる」ものでなくてはならない。通常、上記担体は、無菌かつ発熱物質を含まないものであろう。
【0087】
第2部e)ワクチン用量およびアッセイ H3N8インフルエンザウイルスワクチンの用量サイズは、投与経路に応じて、通常約2.0〜0.1mlの容積の範囲にある。上記不活化ワクチンは、通常、不活化前のウイルスレベルで10〜10 TCID50を含有する。別法では、上記ウイルス調製物中における抗原含量は、用量あたり投与される量として、10〜10000HA単位/mlの間の力価を有するワクチンが好ましく、それは、100〜2000HA単位/mlを有するものでもよく、より好ましくは100〜1000HA単位/mlの間の力価を有する。改変生ウイルスまたは弱毒ウイルスを含有するワクチン用には、治療有効用量は、通常、両端を含めて、約10TCID50から約10TCID50の範囲であろう。インフルエンザH3またはN8タンパク質など、サブユニット抗原を含有するワクチンの治療有効用量は、通常、両端を含めて、約10μgから約100μgの範囲であろう。本発明の前後関係で有用なアジュバントおよび添加物の量および濃度は、当業者ならば容易に決定できるが、本発明は、約50μgから約2000μgのアジュバントと、好ましくは約500μg/2ml用量のワクチン組成物とを含む組成物を企図している。
【0088】
アッセイ インフルエンザウイルスは、ウイルスの単離によって、またはウイルス抗原、ウイルスRNA、もしくは特異的抗体の検出法によって検出できる。ウイルスまたはウイルス成分を検出するのに用いられる方法には、肺組織、鼻上皮細胞、もしくは細気管支肺胞内容物の免疫蛍光法、組織試料の免疫組織化学、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、細胞培養および免疫ペルオキシダーゼ、ウイルス型および亜型決定のための蛍光抗体染色、ならびに急速酵素免疫測定膜試験(rapid enzyme−immunoassay membrane test)が含まれる。インフルエンザウイルスの評価を通常行う組織には、肺、肺洗浄液、扁桃、気管、脾臓、ならびに血清が含まれる。様々なウイルスエピトープ、すなわち、赤血球凝集素(HA)エピトープおよびノイラミニダーゼ(NA)エピトープを特異的に標的にするモノクローナル抗体も利用可能である。インフルエンザの診断をするための最も一般的な血清学アッセイは、赤血球凝集素阻害(HI)アッセイである。その利点の1つは、それが様々な亜型相互および亜型内の抗原変異体相互を識別できることである。HIアッセイは、ウマ類、イヌ類、ブタ類、または鳥類由来の血清を用いて実施できる。抗体を測定するための、より正確な方法は、単純放射状拡散溶血反応(SRH)技法を用いるものである。SRHはHIアッセイより高感度であり、より高度な精度を有する。領域面積の50%増大は、抗体の増大を表し、最近の感染を示す証拠である。
【0089】
第2部f)投与のタイミングおよび経路 イヌへの接種は、好ましくは6週齢以上、より好ましくは8週齢以上のイヌに行う。イヌは、好ましくは2回の投与を皮下注射(SC)を介して受けるべきであり、それらは通常、そのイヌの状態およびその環境に応じて、それぞれ3〜4週間、好ましくは3週間の間をあけて投与される。これは、完全で広い免疫原性応答を得るためのものであろう。本発明の別の実施形態では、完全で広い免疫応答を生み出すために、3回の一連のワクチン接種をイヌに行う。年に1回、単回用量の再予防接種が推奨される。必要に応じて、3および または6ヶ月目にイヌにブースターを任意選択で与えてもよい。好ましい経路は、約1mLを用いた皮下注射であるが、約1mLを用いた筋肉内(IM)経路、0.1〜0.3mLを用いた皮内(ID)経路、0.2〜0.5mLを用いた経口、経口鼻、もしくは経鼻経路も好ましい。投与の他の時間、注射部位、使用量、およびタイプも当業者には明らかであろう。
【0090】
本発明のワクチンの実施形態のいずれか1つのための投与経路には、皮内、筋肉内、眼内、腹腔内、静脈内、経口、経口鼻、および皮下経路、ならびに吸入法、坐剤、または経皮が含まれるが、これらに限定されない。投与の好ましい経路には、皮内、筋肉内、腹腔内、経口鼻、および皮下注射が含まれる。上記ワクチンは、限定されるものではないが、注射器、ネブライザー、噴霧器、無針注入装置、または微粒子銃遺伝子銃(微粒子照射)を含めた任意の手段で投与することができる。
【0091】
第3部 選択されたワクチンの産生、製造、製剤、および投与の具体的記述
ここで本発明者らは、イヌインフルエンザを治療するための死滅または不活化単価ワクチンに関するより詳細な具体的記述を提供する。
【0092】
第3部a)死滅または不活化ウイルス一価イヌインフルエンザワクチン 不活化およびアジュバント添加されたH3N8インフルエンザウイルスの培養物を含めた、イヌもしくはウマインフルエンザ由来の好ましいインフルエンザ由来H3N8抗原を含めた、上記第1部に記載の抗原のうち任意のものを用いる。
【0093】
死滅または不活化ウイルス二価イヌインフルエンザワクチン
上記第1部に記載の抗原のうち任意のもの、好ましくはイヌもしくはウマインフルエンザ由来の好ましいインフルエンザ由来H3N8抗原、不活化およびアジュバント添加されたH3N8インフルエンザウイルスの培養物を用いる。その際、上記イヌ抗原は、1株のイヌインフルエンザウイルスに由来し、上記ウマ抗原は、1株のウマインフルエンザウイルスに由来する。上記イヌ抗原は、2株のイヌインフルエンザウイルスまたは2株のウマインフルエンザウイルスからなるものでもあり得る。
【0094】
死滅または不活化ウイルス三価イヌインフルエンザワクチン
上記第1部に記載の抗原のうち任意のものを用いるが、より好ましくはイヌもしくはウマインフルエンザ由来の好ましいインフルエンザ由来H3N8抗原、不活化およびアジュバント添加されたH3N8インフルエンザウイルスの培養物を用いる。以下の三価ワクチンについて記述する。a)イヌ類抗原が1株のイヌインフルエンザウイルスに由来し、ウマ類抗原が2株のウマインフルエンザウイルスに由来する。b)イヌ類抗原が2株のイヌインフルエンザウイルスに由来し、ウマ類抗原が1株のウマインフルエンザウイルスに由来する。c)イヌ類抗原が3株のイヌインフルエンザウイルスに由来し、かつ またはウマ類抗原が3株のウマインフルエンザウイルスに由来する。上記のいかなる組合せも、三価ワクチンを作製するために記述する。
【0095】
第3部b)死滅または不活化ワクチンの産生および抗原濃度 この節に記載のワクチンは、選択されたウイルスを細胞内で増殖させることによって産生できる。ウイルスの産生は、ウマ類またはイヌ類哺乳動物細胞培養が好ましく、卵内でのウイルス(抗原)の増殖または産生も好ましい。イヌ腎臓細胞株がさらに好ましい。ウイルスの増殖は、許容細胞系を含めたいかなる有用な媒体上でも実現でき、上記許容細胞系は、ネコ類、ウマ類、ウシ類、鳥類、またはブタ類細胞系から由来したものでよい。上記ワクチンは、不活化前のウイルスレベルで、10〜10TCID50を含有するべきである。別法では、上記ウイルス調製物は、赤血球凝集反応阻害(HI)試験または赤血球凝集反応アッセイでアッセイできるであろう。このアッセイを用いた場合、投与される量として、10から10000HA単位/mlまで、より一般的には100から2000HA単位/mlまで、しばしば100から1000HA単位/mlまでの間の力価を有するワクチンが好ましいであろう。
【0096】
死滅または不活化ウイルスの増殖:細胞系および孵化卵 インフルエンザウイルスを増殖させるための好ましい細胞培養系は、伝統的な接着単層培養である。別法では、懸濁細胞培養系およびマイクロキャリア細胞培養系も利用できる。好ましいマイクロキャリアは、Cytodex3マイクロキャリアビーズ(Amersham Biosciences社)である。細胞系の培養およびインフルエンザウイルスの増殖のための好ましい容器は、ローラーボトル型式であり、好ましいローラーボトル表面積は、1760cmであるが、850〜4250cmの範囲をとり得る。好ましい感染多重度(MOI)は、0.001〜0.1であるが、0.0001〜2.0の範囲をとり得る。細胞培養からのウイルスの好ましい採集は、感染後の2から5日目であるが、感染後の1から7日目の範囲をとり得る。
【0097】
細胞培養培地:インフルエンザウイルスを増殖させるための好ましい細胞培養培地処方には、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、改変イーグル基礎培地、Optimem、およびLeibovitz−15(L−15)培地が含まれるが、これらに限定されない。通常、細胞培養培地には、0.1から10単位のトリプシンが補足される。
【0098】
第3部c)死滅または不活化 産生の後、上記ウイルスは、当技術分野で一般的に使用されている任意の方法で、殺すか、不活化することができる。より好ましい方法は、以下に記載のBEIでウイルス液を不活化することであろう。ウイルス含有液をホルマリンまたはBPLで不活化するのも有用である。
【0099】
第3部d)死滅または不活化ワクチンのアジュバント、製剤、形態、および担体 有用なワクチンを産生するために、第1部の抗原、とりわけ不活化または死滅ウイルスを様々な方法で製剤することができる。好ましい製剤は、死滅ワクチンをアジュバントと混合するものである。多数のアジュバントが、本発明のワクチンと共に使用でき、好ましいいくつかのものを記述する。アジュバントの量は、通常、両端を含めて、1mL用量あたり約25μgから1000μgを含む。イヌインフルエンザワクチン用の特に有用なアジュバントは以下の通り、すなわち、ミョウバン(0.5〜20%、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは2%および5%)、リン酸アルミニウム(0.5〜20%、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは2%および5%)を含めたアルミニウム塩、水酸化アルミニウム(0.5〜20%の範囲、より好ましくは10%未満、さらに好ましくは2%および5%のAlhydrogelまたはRehydragel)、AMPHIGEN(登録商標)アジュバント、サポニン(好ましくは、1〜100μgの範囲のQuil A、またはQS−21もしくはQA−21、Cambridge Biotech社、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ(Cambridge)所在)、好ましいサポニン濃度が10〜100μgおよび好ましくは約50μgであるGPI−0100(Galenica Pharmaceuticals社、米国アラバマ州バーミンガム(Birmingham)所在)、コレステロール、または他の合成重合体、DEAEデキストラン、スクアレンなどであり、これらは組み合わせて用いてもよく、好ましい組合せは以下に記述する。
【0100】
好ましいアジュバントおよび組合せは、以下の通り、すなわち、2、3、4、または5%ミョウバン、QuilAとミョウバンとの任意の組合せ、コレステロール、ならびに既知な商業ワクチンアジュバントおよび製剤の使用である。特に好ましいのは、2〜5%ミョウバンのみ、Quil Aのみ、ならびに「QAC」として知られているQuil Aとコレステロールとの組合せである。QACは、単独または追加のQuil Aおよびコレステロールと組み合わせて使用できる。他の既知なアジュバントも使用できる。上記ワクチンの物理的性質および化学性質を改変するために、上記ワクチンの他の成分を調整してもよい。例えば、アジュバントは、通常、両端を含めて、1mL用量あたり約25μgから1000μgを含む。同様に、本明細書に記載のワクチンは、抗生物質と併用することができるであろう。上記抗生物質は、両端を含めて、1mL用量あたり約1μgから60μgを含みうる。他の成分も可能である。
【0101】
第3部e)死滅または不活化ワクチンの用量およびアッセイ 上記H3N8インフルエンザウイルスワクチンの用量サイズは、投与経路に応じて、通常、約2.0〜0.1mlの範囲である。改変生ウイルスまたは弱毒ウイルスを含有するワクチンの治療有効用量は、通常、両端を含めて、約10TCID50から約10TCID50の範囲であろう。インフルエンザH3またはN8タンパク質などのサブユニット抗原を含有するワクチンの治療有効用量は、通常、両端を含めて、約10μgから約100μgの範囲である。不活化インフルエンザウイルスを含有するワクチンには、上記ワクチンは、不活化前のウイルスレベルで、10〜10TCID50を含有するべきである。上記ワクチンは、用量あたりの投与量として、好ましくは、100〜1000HA単位/mlを有するであろう。最も好ましいのは、用量あたり約640HAである。
【0102】
第3部f)死滅または不活化ワクチン、タイミングおよび投与経路 ワクチン接種のタイミングに関しては第2部fを参照のこと。好ましい経路は、約1mLを用いた皮下注射すなわちSCであるが、約1mLの筋肉内経路すなわちIM、または1.0〜0.2mLを用いた皮内経路、ならびに0.2〜0.5mLを用いた経口鼻および経鼻経路も好ましい。
【0103】
第4部 ワクチンの組合せ
本発明の抗原およびワクチンは、他の産物またはワクチンと併用することができる。例えば、それらは、多くの産物を含有するPfizer’s Canine Vanguard(登録商標)系、および または同様に多くの産物を含有する、Vanguard Plus CCV/L4(登録商標)を含めたPfizer’s Canine Vanguard Plus(登録商標)系の液体または乾燥分画、ならびに主要な子イヌ疾患に対して完全な防御を提供するための他の組合せと併用できる。ウマまたはイヌインフルエンザウイルス抗原は、任意の様々な組合せで以下のイヌ抗原、すなわち、イヌパラインフルエンザ(CPN)、イヌジステンパーウイルス(CDV)、イヌパルボウイルス(CPV)、イヌアデノウイルス−1(CAV−1)、イヌアデノウイルス−2(CAV−2)、レプトスピラカニコーラ、レプトスピラグリポティフオーサ、黄疸出血病レプトスピラ、レプトスピラポモナ、レプトスピラブラティスラバ、イヌ呼吸器コロナウイルス(CRCV)、イヌ腸コロナウイルス(CCV)、ウシコロナウイルス(BCV)、および気管支敗血症菌抗原と併用できる。
【0104】
加えて、本発明のウマまたはイヌインフルエンザウイルス抗原およびワクチンは、気管支敗血症菌(p68またはBronchicine(登録商標)もしくはCanvac CCi(登録商標))および/またはイヌパラインフルエンザ(CPN)および/またはイヌ呼吸器コロナウイルス(CRCV)および/またはウシコロナウイルス(BCV)ワクチンと併用して、ケンネルコフの一般的病原体から防御するための、ボーディング前用ワクチンを提供することができる。混合ワクチンの初回用量は、1mLを3週間間隔で2回であろう。そして、その後のボーディングの前に、1mLの単回ブースターを与えることができるであろう。
【0105】
第5部 ワクチンの具体的な例
以下のワクチンを具体的に示す。
例1〜3 哺乳動物細胞増殖
a)2もしくは5%ミョウバン、またはb)QAC中の細胞由来のPfizerウマH3N8(A/Equine/2/Miami/1/1963)
例4〜6 哺乳動物細胞増殖
a)2もしくは5%ミョウバン、またはb)QAC中の細胞由来のPfizer臨床分離株イヌH3N8 A/Canine/Iowa/9A1/B5/D8/D12
例7〜9 鳥類卵増殖
a)2もしくは5%ミョウバン、またはb)QAC中の卵由来のPfizerウマH3N8
例10〜11 鳥類卵増殖
a)2もしくは5%ミョウバン、またはb)QAC中の卵由来のPfizerイヌH3N8
【0106】
第6部 ワクチン試験手順の具体的な例
本発明のワクチンは、以下の手順を用いて評価および確認できる。
【0107】
6週齢以上、目的品種の研究用のイヌに、本明細書に記載のワクチンを投与する。イヌをワクチン群に割り当て、1群あたり5〜20頭のイヌを用いる。ワクチンは、3週間間隔で1mL用量を2回または0.5mL用量を2回、皮下または筋肉内経路で投与する。対照イヌにはプラセボワクチンを与える。血清試料は、第1のワクチン接種および第2のワクチン接種の日、その後、第2のワクチン接種の後に週2回、そして抗原暴露後に、それぞれのイヌから収集する。ワクチン接種されたイヌからの血清を、ワクチン抗原への血清転換がないかどうか、HI(赤血球凝集素阻害)またはSRH(単純放射拡散溶血反応)を介して試験する。第2のワクチン接種後の14日目または28日目に、鼻腔内経路または経口経路(これには気管内経路も含まれうる)を介して、エアゾールまたは液滴によってH3N8ウイルスにイヌを暴露する。抗原暴露の後、呼吸器症状、発熱、食欲減退、嗜眠などの臨床徴候をモニターすることによって、上記疾患の臨床徴候があるかどうかイヌを観察する。攻撃ウイルスの排出を測定するために、抗原暴露後の10〜14日間、1日おきに、ワクチン接種されたイヌおよび非接種の対照をスワビングすることによって鼻汁を収集する。排出ウイルスの存在は、細胞組織培養(好ましくはイヌ腎臓)によって確認する。抗原暴露後のイヌの部分集団から、気管、扁桃、肺を含めた組織試料を収集する。イヌ組織試料中のウイルスの存在は、上述の通り、または免疫組織学的分析によって確認する。攻撃ウイルスの排出量と組織試料中のウイルス量を比較することによって、有効なワクチンを接種されたイヌは、非接種の対照イヌと比較して、より小さいウイルス負荷、すなわちより少ないウイルス量を有するであろう。有効なワクチンは、ワクチン接種された動物体内のウイルス負荷の低下、すなわちウイルス量の減少をもたらすであろう。そして、ワクチン接種された動物は、非接種の対照と比較して、インフルエンザ感染に関連した臨床徴候の軽減を示すであろう。
【0108】
具体例
イヌにおけるイヌインフルエンザワクチンの抗原暴露および効力試験評価 インフルエンザウイルスに対する交差防御をイヌに与えるウマインフルエンザワクチン死滅ウイルスの評価
ウマインフルエンザウイルスであるA/Equine/2/Miami/1/63およびA/Equine/Ohio/1/2003を含有するワクチンの血清防御を評価するために、7〜10週齢のイヌを9つの治療群の1つに割り当てた(表2)。試験日0日目および21日目に、皮下経路で1.0mL用量をイヌにワクチン接種した。血清用の血液は、この研究に登録されたすべてのイヌから、試験日0日目(第1のワクチン接種)、21日目(第2のワクチン接種)、および35日目(第2のワクチン接種後の14日目)に収集した。Miami63、Ohio03、およびCIVに対するHAIに関して、すべての血清試料をアッセイした。血清反応データを表3に示す。以下のIVP群、すなわちT02、T03、T04、T06、T07、T08、およびT09で、試験35日目に、非接種動物と比較した血清力価の統計的有意差が示された(表3)。加えて、以下のIVP群、すなわちT06、T07、T08、およびT09で、試験日21日目に統計的有意差が観測された(表3)。
【0109】
予備的安全性評価
本研究では、血清反応の測定に加えて、予備的なワクチン安全性も評価した。全体にわたって、臨床的に重要なワクチン関連反応は、評価されたいずれのIVPに伴うものも観測されなかった。研究期間中は、いかなるワクチン関連の全身性反応も観測されなかった。加えて、第1のワクチン接種後における注射部位腫脹は、治療群のいずれでも観測されなかった。21日目(第2のワクチン接種の前)に、5つの治療群における34頭の動物で、注射部位の小さな腫脹が触診で検出された。これらの群のうち、4つ(T02、T03、T06、およびT07)は、2%ミョウバンのアジュバントが添加されたものであり、第5の治療群(T09)は、Quil−A/コレステロール/プラス他のアジュバントを添加されたものであった。この21日目の腫脹の相乗平均容積は、あらゆる処置で0.07〜0.24cmの範囲のサイズであった。
【0110】
第2のワクチン接種の後、試験日22〜24日目には、87頭の動物のうち58頭で注射部位腫脹が観測された。これらの腫脹は、ワクチン接種(22日目)の24時間後にピークに達し、試験日24日目までに消散に向けてサイズを縮小した。注射部位腫脹には、触れて痛いもの、もしくは熱いものはなかったが、5つは触れると硬く感じられた。
【0111】
インフルエンザウイルスに対する交差防御をイヌに与えるウマインフルエンザワクチン死滅ウイルスの、抗原暴露による評価
9つの治療群のうち6つ、すなわちT01、T02、T03、T06、T07、およびT09は、CIVに暴露した。試験日0日目、すなわち抗原暴露の日に、第2のワクチン接種の6週間後の動物は、50mlあたり、ほぼ1:8のHAを有し、これは1mLあたり6.9ログのCIVを表す。ブタインフルエンザウイルス呼吸器疾患モデルに類似したモデルで、気管内経路を介してイヌに抗原暴露した。呼吸器疾患に関連した臨床徴候、すなわち、鼻漏、眼漏、くしゃみ、吐き気、食欲減退、うつ、または咳に関して、毎日、すべての動物を観察した。加えて、鼓室温度およびウイルス単離用の鼻腔/咽頭スワブを毎日収集した。
【0112】
抗原暴露された動物の50%が呼吸器疾患の臨床徴候を示すまで、毎日、臨床知見を報告し、追跡した。抗原暴露後の5日目に、抗原暴露された59頭の動物のうち31頭が、以下の臨床徴候、すなわち、鼻漏、眼漏、および/または咳のうち1つまたは複数を示した。したがって、試験日の5日目にすべての動物を安楽死させ、死体解剖を行った。肺硬化スコアを記録し、ウイルス単離用の試料を収集した。
【0113】
肺硬化スコアのパーセントは、呼吸器疾患の実証が、この抗原暴露によって成功したことを示すものであった。硬化のパーセントのすべての動物にわたる範囲は、9頭の動物における60%から、10〜35%の硬化を有する8頭の動物、<10%の硬化を示す26頭の動物、および硬化を全く示さない16頭の動物までであった(図2)。治療群全体での肺硬化を有する動物の数を表5に示す。治療群と陰性対照との間で数値の相違は観測されたが、肺硬化、ならびに肺および扁桃組織におけるウイルス単離における統計的有意差は検出されなかった(表6)。肺洗浄試料からは、陰性対照とT02、T07、およびT09との間でウイルス単離結果の統計的有意差(P≦0.05)が検出された(表7)。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
【表3】

【0117】
【表4】

【0118】
【表5】

【0119】
【表6】

【0120】
具体的記述の結論
本明細書および添付されている特許請求の範囲で使用される場合、「a」、「an」、および「the」などの単数冠詞は、文脈によって別段のことが明確に示されない限り、1つの対象も、複数の対象も示しうることに留意するべきだある。したがって、例えば、「a compound(化合物)」を含有する組成物に関する言及は、単一化合物も、2種以上の化合物も含有しうる。
【0121】
上記の記述は、限定的ではなく、例示的であることが意図されていると理解するべきである。当業者には、上記の記述を読むことによって多くの実施形態が明らかとなるであろう。したがって、本発明の範囲は、添付されている特許請求の範囲と、そのような特許請求の範囲に権利が与えられている等価物の完全な範囲とを参照して判定するべきである。特許、特許出願、および出版物を含めたすべての論文および参照文献の開示を、あらゆる目的に関して、参照により全体として本明細書に組み込む。
【0122】
本明細書で開示および特許請求されている組成物および/または方法はすべて、本明細書の開示に照らして、過度の実験をすることなく作製および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態に関して記述したが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱せずに、上記の組成物および/または方法、ならびに本明細書に記載の方法のステップまたはステップの順序に変異を適用しうることは、当業者には明らかであろう。より詳細には、同一または同様な結果が実現されるであろう場合には、本明細書に記載の薬剤を、化学的かつ生理的に関連している特定の薬剤で置換しうることが明らかであろう。当業者に明らかなそのようなすべての類似した置換および改変は、添付されている特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲、および概念に包含されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】ウマ抗原ワクチンを接種されたイヌの相乗平均注射部位反応を示す図である。
【図2】ウマインフルエンザウイルスワクチンを接種され、イヌインフルエンザウイルスに暴露された動物の平均肺硬化パーセントを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌをインフルエンザウイルスに対して免疫化する方法であって、イヌから単離された少なくとも1種の弱毒または死滅インフルエンザウイルスを含有する治療有効量のワクチンをイヌに投与するステップを含む方法。
【請求項2】
前記ウイルスがH3、N8およびH3N8亜型、ならびにこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ウイルスがH3N8亜型インフルエンザである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ウイルスの量が10から10000HA単位である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ウイルスの量が100から1000HA単位である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルスが死滅している、請求項1から5に記載の方法。
【請求項7】
前記ワクチンがさらにアジュバントを含有し、前記アジュバントが、a)代謝可能アジュバント、b)非代謝可能アジュバント、c)2%ミョウバン、d)5%ミョウバン、e)Quil A、およびf)コレステロール、またはこれらの任意の組合せから選択できる、請求項1から5に記載の方法。
【請求項8】
ワクチンを生産する方法であって、前記ワクチンが請求項1から5に記載のワクチン組成物を含む方法。
【請求項9】
イヌをインフルエンザウイルスに対して免疫化する薬物を調製するための、請求項1から5に記載のワクチンの使用であって、前記薬物が、イヌから単離された少なくとも1種の弱毒または死滅インフルエンザウイルスを含有する治療有効量のワクチンを含む使用。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−298802(P2009−298802A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187997(P2009−187997)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【分割の表示】特願2008−534101(P2008−534101)の分割
【原出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】