説明

イネの鉄などの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーター、その遺伝子

本発明は、イネの細胞や細胞内のオルガネラが鉄などの金属元素を錯体の形で内部に取り込むために必要なタンパク質及びそれをコードする遺伝子などを提供する。 本発明は、イネの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーター、それをコードする遺伝子に関する。より詳細には、本発明は、配列表の配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列などを有し、かつイネの鉄などの金属元素の錯体の吸収や輸送に関与する機能を有するイネのトランスポーター、及びそれをコードする遺伝子に関する。 また、本発明は、前記した本発明の遺伝子を含有してなるベクター、及び当該遺伝子を含有する遺伝子により形質転換された形質転換細胞に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネの金属錯体の吸収や輸送に関与しているトランスポーター、及びそれをコードする遺伝子、並びにそれを含有するベクター、及びその遺伝子による形質転換体に関する。イネは土壌中から鉄やマンガンなどの金属元素を吸収し、これを体内に輸送して鉄などの金属元素を補給している。本発明は、イネの生育に必須の成分である鉄などの金属元素の吸収や輸送に関与しているトランスポーターに関するものである。より詳細には、本発明は、イネの鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送に関与しているトランスポーターOsYSL1〜18、及びそれをコードする遺伝子、並びにそれを含有するベクター、及びその遺伝子による形質転換体に関する。
また、本発明は、OsYSL2による植物における鉄錯体及び/又はマンガン錯体の体内輸送を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は地殻上で4番目に存在量が多い元素であり、植物のみならず全ての生物にとって必須な栄養素の一つである。しかし、好気的条件下の土壌では多くの鉄は不溶態の3価鉄Fe(OH)3となる。特に塩類集積土壌、土壌がアルカリ性となる母材が石灰岩質の土壌では、土壌中のpHが高く、Fe(OH)3の溶解度は著しく下がる。植物は不溶態の鉄Fe(OH)3を吸収することができないため、このような土壌で生育する植物には深刻な鉄欠乏の症状が顕われる。世界の耕地面積のうち約3分の1は潜在的な鉄欠乏発生土壌といわれている。このため植物の鉄吸収や体内での輸送、分配、代謝のメカニズムを解明し、鉄欠乏に耐性を持つ植物を創り出すことは、昨今問題になっている食料問題の解決にとって非常に重要な課題である。
【0003】
高等植物は不溶態の3価鉄を利用するための機構を進化的に獲得してきた。植物におけるこのような鉄獲得機構は2つに大別でき、ストラテジー−I(Strategy−I)、及びストラテジー−II(Strategy−II)と呼ばれている。ストラテジー−Iはイネ科以外の植物に見られ、次のような特徴を持っている。まず根圏にキレート化合物を分泌し、不溶態の3価鉄を可溶化する。この3価鉄を根の細胞膜上の3価鉄還元酵素(FRO2)で2価鉄に還元し、2価鉄トランスポーター(IRT1)を介して2価鉄を吸収する。また、3価鉄の溶解度を上げ、3価鉄還元酵素の活性を高めるためにプロトンを放出し根圏のpHを下げている。一方、ストラテジー−IIはイネ科植物に見られ、ムギネ酸類という化合物に特徴を持っている。イネ科植物は根からムギネ酸類を分泌し、ムギネ酸類は根圏の不溶態3価鉄をキレートし、可溶化する。植物はこの可溶化した「ムギネ酸類−3価鉄」錯体を根の「ムギネ酸類−3価鉄」トランスポーターを介して吸収することにより鉄を獲得している。
【0004】
このような「ムギネ酸類−3価鉄」トランスポーターのひとつが、キューリーら(非特許文献1参照)によってトウモロコシから初めて単離され、「鉄−ムギネ酸類」錯体のトランスポーターをコードする遺伝子YS1と命名された。
また、ムギネ酸類を鉄獲得に利用するのはストラテジー−IIに属するイネ科植物のみであるが、ムギネ酸類を体内で合成しないストラテジー−Iの植物に属するシロイヌナズナのゲノム上にも、8つものYS1様の遺伝子(AtYSL)が存在することが報告されてきた。ストラテジー−Iの植物は、ムギネ酸類を体内で合成しないのであるから「ムギネ酸類−3価鉄」トランスポーターは必要ないはずである。ストラテジー−Iの植物にこのようなトランスポーターが存在することは、YS1様のトランスポーターが「ムギネ酸類−3価鉄」複合体のみを輸送するものではなく、「鉄−ニコチアナミン」錯体をも輸送するトランスポーターであると推測されている。即ち、ストラテジー−Iの植物であるシロイヌナズナのYS1様の遺伝子(AtYSL)は、植物体内での鉄輸送に関与していると考えられている「鉄−ニコチアナミン」錯体を輸送するトランスポーターをコードしているものと推測されている。
【0005】
本発明者らは、潜在的な鉄欠乏発生土壌においても生育可能な鉄吸収機構が強化された植物、とりわけ穀物植物を創製するために、植物の鉄吸収や体内での輸送、分配、代謝のメカニズムを解明する研究、特に鉄吸収に必要なムギネ酸の合成に関与する酵素群の解明を行ってきた(特許文献1〜4参照)。このような鉄欠乏に耐性を持つ植物、特にイネを創り出すことは、世界の食料問題の解決にとって非常に重要な課題である。
これまでの研究において、ムギネ酸類の合成酵素をコードする各種の遺伝子を本発明者らはクローニングしてきた。このような遺伝子を用いることにより、潜在的な鉄欠乏発生土壌における不溶態の鉄Fe(OH)3を植物が吸収可能な「ムギネ酸類−3価鉄」複合体に転換することが可能となった。例えば、最近の研究では、大麦のニコチアナミンアミノ転位酵素(NAAT)の遺伝子を導入した形質転換イネは、低Feのアルカリ土壌での生育において野生型よりも許容性があることが示されている(非特許文献2参照)。しかしながら、ムギネ酸類の分泌が増強されて土中に可溶化した「ムギネ酸類−3価鉄」複合体が生成しても、当該複合体を植物が吸収するためには、「ムギネ酸類−3価鉄」トランスポーターが必須のものとなる。
このように、鉄欠乏土壌におけるイネの生育を改善するためには、土中におけるムギネ酸類の分泌を改善させるだけでなく、それを吸収し、植物体の必要な箇所に輸送するための吸収輸送機構の改善が同時に必要となる。イネにおける鉄などの金属成分の吸収や輸送のための「ムギネ酸類−3価鉄」トランスポーターは未だ見出されておらず、イネにおける「ムギネ酸類−3価鉄」トランスポーターをコードする遺伝子の解明が求められていた。
【0006】
【特許文献1】WO99/57249号
【特許文献2】WO99/48356号
【特許文献3】WO01/01762号
【特許文献4】WO02/0777240号
【非特許文献1】Curie C.,et al.,Nature,409,346−349(2001)
【非特許文献2】Takahashi,M.,et al.,Nature biotechnology,19,466−469(2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、イネにおける鉄などの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーター及びその遺伝子を提供するものである。より具体的には、例えば、「ムギネ酸類−3価鉄」トランスポーター及びそれをコードする遺伝子、並びに「鉄−ニコチアナミン」錯体などの「金属−ニコチアナミン」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子などの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーター及びその遺伝子を提供するものである。また、本発明は、これらの遺伝子を含有するベクター、形質転換体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鉄などの金属元素の吸収や輸送が強化された潜在的な鉄欠乏発生土壌においても生育可能なイネを創出するために、鉄の吸収や輸送に関与している各種の酵素類のクローニングを行ってきた。これまでの研究により、イネが鉄を吸収し輸送するためのメカニズムを解明することができてきたが、イネの細胞が鉄を取り込むためのトランスポーターについては未だ解明されていなかった。トランスポーターは細胞や細胞内オルガネラが各種の栄養分や成分を内部に取り込むために必須のタンパク質であり、鉄吸収や輸送が強化された潜在的な鉄欠乏発生土壌においても生育可能なイネを創出するためには、各種の酵素類と共に必須のタンパク質となる。このために、本発明者らは、イネのトランスポーターのクローニングを試み、イネには鉄などの金属元素の錯体の吸収や輸送に関与する18種のトランスポーターが存在していることを見出した。
さらに、本発明者らは、この中のOsYSL2が植物における鉄及びマンガンのニコチアナミン錯体の輸送に関与しているトランスポーターであることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、イネの鉄などの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーターに関する。より詳細には、本発明は、配列表の配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列、又はその一部のアミノ酸が欠失若しくは置換され、及び/又は他のアミノ酸が付加されることにより配列番号1〜18のいずれかに示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有しているアミノ酸配列を有し、かつイネの鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送に関与する機能を有するイネのトランスポーターに関する。
また、本発明は、前記した本発明のイネ由来のトランスポーターをコードし得る塩基配列を有する遺伝子、より詳細には、配列表の配列番号19〜36のいずれかに示される塩基配列、又はストリンジェントな条件でこれとハイブリダイズ可能な塩基配列を有する遺伝子に関する。
また、本発明は、前記した本発明の遺伝子を含有してなるベクター、及び当該遺伝子を含有する遺伝子により形質転換された形質転換細胞に関する。
さらに、本発明は、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列、又はその一部のアミノ酸が欠失若しくは置換され、及び/又は他のアミノ酸が付加されることにより配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有しているアミノ酸配列をコードする遺伝子を導入することからなる、植物における鉄錯体及び/又はマンガン錯体の体内輸送を調整する方法に関する。
【0010】
本発明者らは、トウモロコシのYS1遺伝子(非特許文献1参照)との相同性に基づいてイネの遺伝子(OsYSL)を検索した。このためのイネの遺伝子(OsYSL)として、ジャポニカ種のイネとしてOryza sativa L.ssp.japonica(cv.Nipponbare)(Goff et al.,2002)を、またインディカ種のイネとしてOryza sativa L.ssp.indica(cv.91−11)(Yu et al.,2002)の2つのイネゲノムデータベースを用いて、これらに対してブラスト(Blast)検索(Atlschul et al.,1990)を行った。以下、ジャポニカ種のデータベースをシンジェンタのデータベース(http://portal.tmri.org/rice/)と呼び、インディカ種のデータベースを中国のデータベース(http://btn.genomics.org.cn/rice/)と呼ぶことにする。
検索では、シンジェンタのデータベースを主に参考にした。しかし、このデータベースはシロイヌナズナのものほど完成されておらず、各コンティグがばらばらの状態での開示されており、そのため検索で得られたYS1に相同性が高いコンティグもOsYSLの全長を含んでいない場合が多かった。また、塩基解読の精度もそれほど高くなく、不明の塩基も数多くあった。そこで、中国のデータベースを検索することで得られたインディカ種のOsYSLの塩基配列も参考にした。これらの配列を基に、ばらばらになっていたジャポニカ種のOsYSLについても断片をつなぎ合わせ、推測される全長を同定した。
その結果、イネのゲノム中に18個のYS1に相同性の高い遺伝子が存在することを見出した。これらの18種の遺伝子を、それぞれOsYSL1〜OsYSL18と命名した。
そして、これらの遺伝子がイネの鉄輸送にかかわるトランスポーターの遺伝子であるかどうかを検討した。
【0011】
ブラスト(Blast)検索により見いだされた遺伝子はゲノムの配列であり、イントロンを含むために、エキソンを予測し、それらをつなぎ合わせて推測されるタンパク質のアミノ酸配列を決定しなければならない。しかし、キューリーら(非特許文献1参照)はYS1のゲノム配列を明らかにしておらず、YS1のcDNAは7つのエキソンから成り立っていることだけが報告されている。したがって、キューリーらのこの報告のみからエキソン領域を予測することはできないので、シロイヌナズナのYSL遺伝子のひとつであるAtYSL3のゲノム配列とYS1のcDNA配列を比べることにより、AtYSL3のイントロン及びエキソンの位置を決定することにした。シロイヌナズナのゲノム配列は明らかになっているので、このゲノム配列及びAtYSL3の配列に基づいてAtYSL3のイントロンとエキソンの位置を決定した。この結果を図1に示す。図1(A)はAtYSL3のゲノム配列を示している。灰色の部分がエキソン領域を示しており、白色の部分がイントロンを示している。図1の(B)はAtYSL3の推測されるmRNAの構造を模式的に示したものである。白三角印はイントロンを示し、その上の数字はその大きさを示している。このシロイヌナズナのAtYSL3のゲノム構造に基づいてOsYSLのイントロン及びエキソンを予測した。
ゲノム配列から予測されるOsYSLのORFがコードするタンパク質のアミノ酸配列を、図1に示すトウモロコシのYS1から予測し、SOSUIプログラム(Hirokawa T.,et al.,Bioinformatics,14,378−379(1998))で各OsYSLタンパク質の膜貫通領域を予測した。この結果、予測される膜貫通領域が7個から16個存在することが予想され、いずれも膜に存在するタンパク質である可能性が高かいことがわかった。
【0012】
得られた全てのOsYSLは、最後のエキソンが800塩基以上であったので、その一部をノーザン解析のプローブとして用いることとし、その断片を増幅するようなプライマー対を設計した。これらのプライマーの配列を次の表1に示す。
【0013】


【0014】
一つのエキソン内でプライマー対を設計したことにより、ゲノムDNAを鋳型にしたPCRをしても、cDNAを鋳型にした場合と同じ断片を増幅できるようにした。OsYSL1、OsYSL8、OsYSL16のPCRにはKOD−plus−(TOYOBO)、その他の遺伝子のPCRにはEx Taq(TaKaRa)をDNAポリメラーゼとして用いた。OsYSL1の増幅の際、反応液にDMSOを終り濃度5%(v/v)になるように加えた。KOD−plus−で増幅された断片はpCR4Blunt−TOPO(Invitrogen)に、その他の断片はpCR4−TOPO(Invitrogen)にクローニングした。クローニングの方法はキットに付属のプロトコールに従った。塩基配列を確認し、クローニングされた断片が目的のものであることを確かめた。
【0015】
得られたベクターを鋳型として断片を増幅し、32Pによる標識をしてプローブして用いたノーザン解析を行った。試料として、イネの第五葉目が展開した時に鉄欠乏処理を開始し、10日間鉄を除いた水耕液で栽培することで行った。コントロール条件のイネはそれまでと同じ濃度の鉄を加えた水耕液で栽培した。処理後10日目にコントロール区、及び鉄欠乏区ともにサンプリングを行い、鉄欠乏によるOsYSLの発現の変化を調べた。
結果を図2に図面に変わる写真で示す。図2の上からOsYSL2、OsYSL6、OsYSL13、OsYSL14、OsYSL15、及びOsYSL16をそれぞれ示す。各OsYSLの左側は根からのサンプルによるものであり、右側は葉からのサンプルによるものである。各サンプルの左側はコントロール条件(鉄十分条件)で栽培したものであり、右側は鉄欠乏条件で栽培したものである。
【0016】
イネに鉄を充分与えたコントロール条件(以下、鉄十分条件とも言う。)と、鉄を与えない鉄欠乏条件で水耕栽培し、OsYSL遺伝子の発現様式をノーザン解析によって明らかにした。ノーザン解析で転写産物が検出できたものについてのみ、図2に示している。OsYSL15とOsYSL16は根特異的に発現していた。OsYSL15はコントロール条件では根においてもほとんど発現していなかったが、鉄欠乏処理によって発現が強く誘導された。一方、OsYSL16は根においてコントロール条件でも微弱に発現し、鉄欠乏条件で僅かに発現が誘導された。OsYSL2は鉄欠乏条件の葉でのみ、発現が観察された。OsYSL6は葉、根のどちらでもコントロール条件で発現していて、鉄欠乏処理により発現が抑制された。OsYSL13は葉でも根でもコントロール条件で発現していた。葉における発現は鉄欠乏処理によって抑制されたが、根における発現に変化は無かった。一方、OsYSL14は葉、根のどちらでもコントロール条件で発現しており、鉄欠乏処理による発現の変化は観察されなかった。その他の遺伝子に関しては今回の栽培条件では発現は観察されなかった。
一方、オオムギでは根における「鉄−ムギネ酸類」錯体の吸収活性は鉄欠乏誘導的で、オオムギの根の細胞膜には鉄欠乏処理により誘導されるタンパク質がある(Mihashi and Mori,1989)。イネでも同様の応答が起きていると仮定すれば、「鉄−ムギネ酸類」錯体の吸収トランスポーターは特に根で鉄欠乏によって発現が誘導されると考えられる。
本発明のOsYSL15とOsYSL16は、前記したように根特異的に発現し、鉄欠乏条件で発現が誘導されることがノーザン解析によって明らかとなった(図2参照)。
【0017】
ブラスト検索で得られたOsYSL1〜18の翻訳領域のアミノ酸配列と、トウモロコシのYS1のアミノ酸配列とを比較した。結果を図3〜図5に示す。各行の最上段はYS1のアミノ酸配列を示す。各行の最下段はこれらの相同性を示し、*印は全てで保存されているアミノ酸であることを示し、・印は高度に保存されているアミノ酸であることを示す。
また、本発明の18個のOsYSLであるOsYSL1〜18の塩基配列の比較を、図6〜図14に示す。各行の最下段はこれらの相同性を示し、*印は全てで保存されている塩基であることを示し、・印は高度に保存されている塩基であることを示す。
これらのOsYSL1〜18のアミノ酸配列を配列番号1〜18に示し、その塩基配列を配列表の配列番号19〜36にそれぞれ示す。
また、これらのOsYSL1〜18の遺伝子が存在する染色体の番号(Chr.)、アミノ酸長(Length)、及びDDBJにおいてOsYSL1〜18の遺伝子が存在するContigをまとめて次の表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
トウモロコシのYS1、ロイヌナズナのYSL(AtYSL)、及び本発明のイネのOsYSLのアミノ酸配列に基づいて分子系統樹を作製した。結果を図15に示す。図15では、トウモロコシのYS1を赤色、シロイヌナズナのAtYSL1〜8を緑色、そして本発明のイネのOsYSL1〜18を青色で示している。この系統樹から明らかなようにこれらのトランスポーターは大きく5種類に分類される。YS1やAtYSL3と同様な位置に分類されるOsYSL2(*)、15(*)、16(*)、及び9からなる第1群、AtYSL4と同様な位置に分類されるOsYSL6(*)、及び5からなる第2群、AtYSL7と同様な位置に分類されるOsYSL10からなる第3群、OsYSL13(*)、14(*)、11、及び12のイネのトランスポーターのみからなる第4群、同様にOsYSL1、3、4、7、8、17、及び18のイネのトランスポーターのみからなる第5群となる。各OsYSLの後に付した(*)印は前記したノーザン解析により発現が確認されたものを示している。
【0020】
これらのトランスポーターの中では、OsYSL15とOsYSL16がYS1に最も近く位置した(図15参照)。これらの結果から、OsYSL15とOsYSL16は「鉄−ムギネ酸類」錯体の吸収トランスポーターであると考えられる。これは、酵母を用いたインビトロ(in vitro)系で、OsYSL15およびOsYSL16が「鉄−ムギネ酸類」錯体のトランスポーターであることを確認することができる。具体的には、本発明者らが開発した酵母の鉄吸収変異株frt1fet3fre1(Bughio et al.2002)を用いる。この酵母にOsYSL15またはOsYSL16を過剰発現させ、鉄源として「鉄−ムギネ酸類」錯体のみを与えた培地で生育できるかどうかを判定することにより、これらのタンパク質が「鉄−ムギネ酸類」錯体のトランスポーターであることを確認することができる。
さらに、アフリカツメガエル卵母細胞でOsYSL遺伝子を発現させ、「鉄−ムギネ酸類」、「鉄−ニコチアナミン」錯体を輸送するかどうかを確かめることにより、これらのタンパク質が「鉄−ムギネ酸類」、「鉄−ニコチアナミン」錯体のトランスポーターであることを確認することができる。
また、OsYSL15とOsYSL16の各プロモーター領域1.5kbにGUSレポーター遺伝子をつないだ、それぞれのコンストラクトでイネを形質転換して、形質転換植物のT1種子を用いてこれらの遺伝子の発現の組織局在を観察することができる。
【0021】
OsYSL15とOsYSL16と同じ第1群に属するOsYSL2は、鉄欠乏条件の葉でのみ発現していた(図2参照)。この結果からだけではOsYSL2が「鉄−ムギネ酸類」錯体または「鉄−ニコチアナミン」錯体のいずれのトランスポーターとして機能しているのかどうかを推測できないが、鉄などの金属のトランスポーターであることは確かであった。
本発明者らは、OsYSL2の機能についてさらに検証し、そして、OsYSL2が「鉄−ムギネ酸類」錯体または「鉄−ニコチアナミン」錯体のいずれのトランスポーターとして機能しているのかをさらに検証した。
【0022】
OsYSL2の発現をGFP法にてタマネギの表皮細胞で調べた。結果を図16に図面に代わるカラー写真で示す。図16aはOsYSL2とGFPの融合タンパク質の場合の結果を示し、図16bはGFPタンパク質単独の場合の結果を示す。この結果、GFP単独では、細胞の原形質と核の両方に局在しているが(図16b参照)、OsYSL2とGFPの融合タンパク質の場合には原形質膜に局在して存在することを観察することができた(図16a参照)。このことからOsYSL2は、膜貫通領域を保持するとともに原形質膜に局在するトランスポーターであることが確認された。
OsYSL2の発現は、先のノーザンブロット解析ではイネに鉄を十分与えたコントロール条件と鉄を与えない鉄欠乏条件の根では共に検出できなかったが、GUSレポーター遺伝子を結合させた分析では、コントロール条件下のイネの根中心部で検出され、鉄欠乏条件下では発現が増加していることを観察することができた。結果を図17に図面に代わるカラー写真で示す。図17aは鉄十分条件での結果を示し、図17bは鉄欠乏条件での結果を示す。図17a及びbの右下の写真はそれぞれ中心柱の中の篩部の細胞の倍率を上げて撮影した結果を示している。いずれも青色部分が発現を示している。しかし、鉄欠乏条件下の根の表皮および皮層においてもOsYSL2が検出されていないことは、OsYSL2が土からの「鉄−ムギネ酸」錯体のトランスポーターではないことを示している。
【0023】
次にイネの葉におけるOsYSL2の発現についてGUSレポーター遺伝子を結合させた分析を行った。結果を図18及び図19に図面に代わるカラー写真で示す。図18aは、葉鞘の維管束でのGUS発現を示し、図18bは葉鞘の維管束の部分を拡大して示している。この結果、OsYSL2の発現は篩部と、伴細胞(図18bの矢印)の中で明瞭に観察された。図19aは鉄十分条件での葉におけるGUSに発現(青色)を示し、図19bは鉄欠乏条件でのGUSの発現(青色)を示す。この結果、鉄十分条件の葉では、GUS染色は伴細胞を含む篩部での局在が観察されるが、鉄欠乏条件の葉では、すべての組織が伴細胞(図19の各矢印)と共に明確な強いプロモーター活性を示していることが観察された。このように、鉄を十分与えたコントロール条件下(鉄十分条件)では、イネの葉鞘と葉の維管束の篩部細胞にOsYSL2の発現を観察することができ(図19a参照)、また鉄欠乏条件下では、イネの葉鞘と葉の維管束のすべての細胞でOsYSL2の強い発現を観察することができた(図19b参照)。
【0024】
さらに、同様にしてイネの生殖成長におけるOsYSL2の発現を調べた。結果を図20に図面に代わる写真で示す。図20は、花と種子における維管束でのGUSの発現を調べた結果を示し、図20aは開花の前の結果を示し、図20bは受精後の結果を示し、図20cは受精後5日目の結果を示し、図20dは受精後8日目の結果を示し、図20eは受精後20日目の結果を示し、図20fは受精後の30日目の結果をそれぞれ示す。この結果、GUSの発現は、開花前の花粉粒ではまったくなく、雄しべのヤクの中央領域では少し、小穂維管束では活発であることが観察することができた(図20a参照)。花の受精後は、維管束でのOsYSL2発現が強くなり、特にモミの上部では顕著であることが観察できた(図20b参照)。開花の5日後には、成長している子房にOsYSL2の強い発現が観察でき(図20c参照)、8日後にはたんぱく質とミネラルの蓄積される胚と胚乳の外皮に強い発現を観察することができた(図20d参照)。20日後には、子房は十分成長し、成熟した胚と胚乳の辺縁層にOsYSL2発現を観察でき(図20e参照)、30日後にも同じような発現を観察することができた(図20f参照)。このことは、RT−PCR解析でも種子の成長初期にOsYSL2の転写物が増加し、前述の事象を検証することができた(図21参照)。
【0025】
アフリカツメガエル卵母細胞にOsYS2遺伝子を発現させ、「鉄−ムギネ酸類」、「鉄−ニコチアナミン」などの「金属−ニコチアナミン」錯体を輸送するかどうかを調べた結果、OsYS2タンパク質が「鉄−ムギネ酸類」のトランスポーターではなく、「鉄−ニコチアナミン」、「マンガン−ニコチアナミン」錯体のトランスポーターであることが明らかになった。また、関連する化合物の基質誘導性内向電流を測定すると、OsYSL2は「鉄−ニコチアナミン」錯体および「マンガン−ニコチアナミン」錯体のトランスポーターとして活性であるが、「鉄−デオキシムギネ酸」錯体および「マンガン−デオキシムギネ酸」錯体のトランスポーターとしてまったく活性がないことが確認できた(図19aおよび19b参照)。しかし、OsYSL2は「マンガン−ニコチアナミン」錯体のトランスポーターとして活性を持つにもかかわらず、マンガン欠乏条件下でのイネの根および葉ではノーザン解析でOsYSL2発現の増加を確認することができなかった。また、「亜鉛−ニコチアナミン」錯体、「銅−ニコチアナミン」錯体およびの他の金属キレート錯体では、OsYSL2の輸送活性を確認することができなかった。
【0026】
OsYSL2の更なる特徴は、染色体2(chromosome2)の下腕部分に存在していることである。ZmYS1とのアミノ酸配列比較にて7つのエキソンがあることと、14の膜貫通領域(図22aおよび図22b参照)を含む674のアミノ酸からなることである。
イネでは、鉄欠乏によりクロロシスを呈した葉でイネのニコチアナミン合成酵素(OsNAS)の1種であるOsNAS1、及びOsNAS2の発現が強く誘導されており(Inoue H.,et al.,Plant J.,36,366−381)、OsNAS1、OsNAS2によって合成されたニコチアナミンが鉄欠乏条件の葉で発現したOsYSL2と何らかの相互作用を持っている可能性も考えられる。また、ショルツ(Scholz(1989))は、ニコチアナミンが新根や新葉への鉄の再分配に関与し、再分配が篩管を経て行われていることを示唆している。鉄欠乏条件では古い葉から新しい葉へ鉄がOsYSL2を介して再転流しているのかもしれない。
【0027】
第2群に属するOsYSL6と、第4群に属するOsYSL13はコントロール条件の葉で発現し、鉄欠乏処理によって発現が抑制された(図2参照)。シロイヌナズナのAtYSLのうちの一つは同様にコントロール条件の葉で発現し、鉄欠乏処理によって発現が抑制されたことが報告されている(Jean ML.,et al.,UdineItaly,p128(2002))。さらに、の遺伝子は鉄過剰処理により葉での発現が誘導され、この遺伝子を破壊した変異株は過剰の鉄に感受性を示すことも報告されている(Jean et al.,2002)。
これらの知見からすれば、本発明のOsYSL6、OsYSL13のどちらか、または双方が、過剰の鉄に対する耐性に関与しているのかもしれない。過剰の鉄を何らかの細胞内のオルガネラに隔離するためのトランスポーターとして機能しているのかもしれないことが予想される。このことは鉄過剰処理したイネを栽培し、ノーザン解析により確認することができる。また、OsYSL6やOsYSL13が恒常的に土壌からの「鉄−ムギネ酸類」錯体の吸収を行っていることも考えられる。イネマイクロアレイ解析の結果、OsYSL13は、亜鉛欠乏により葉で発現が誘導されることが明かになった。このことからOsYSL13は「亜鉛−ニコチアナミン」トランスポーターとして機能していることも考えられる。いずれにしても、レポーター遺伝子を用いた発現の組織特異性の解析や、インビトロ(in vitro)でのトランスポーター活性の確認を行うことにより、機能や組織内の分布などについてのさらなる知見を得ることができる。
【0028】
第4群のOsYSL14は葉、根のどちらでも発現しており、鉄欠乏処理による発現の変化は見られなかった(図2参照)。このことは、鉄以外の金属元素の輸送に関連している可能性がある。植物体内で合成されるニコチアナミンは、鉄だけでなく、マンガン、亜鉛、コバルト、ニッケル、銅などの遷移金属元素と比較的安定なキレートを形成することがしられており、これらの遷移金属元素が鉄と同様にニコチアナミンと錯体を形成して輸送されるのであれば、本発明のOsYSL14は鉄以外の金属元素とニコチアナミンとの錯体の輸送に関与している可能性がある。
【0029】
前記したノーザン解析の結果においては、上記以外の12個のOsYSLの発現は観察されなかった。しかし、これらの12個のOsYSLも、発現が確認された6個のOsYSLと同様にゲノムデータベースの検索によって見出された遺伝子なので、これらは発現していない擬似遺伝子の可能性もある。また、これらの遺伝子は他の金属元素欠乏ストレスや、過剰ストレス、または生育段階によって発現が制御されていて、今回の栽培条件では発現していなかったのかもしれない。実際、今回発現が確認できなかったOsYSL4、OsYSL8、OsYSL10、及びOsYSL12は、イネゲノムプロジェクトによる完全長cDNAライブラリー中に見出された。これらの4種類のcDNAクローンは花から抽出したmRNAをもとに作ったcDNAライブラリーから見出されるものである。これらの遺伝子は生殖段階において特異的に発現しているのかもしれない。
さらに、農業生物資源研究所遺伝子機能研究チームによって作成されているTos17によるイネの遺伝子破壊系統の中に、OsYSL12が破壊された変異株(NE7024)が見出された。この変異株は半分が不稔形質を示していた。したがって、18個のOsYSLのうちのいくつか、特にOsYSL12が生殖段階で「金属−ニコチアナミン」錯体の輸送に関与している可能性は高い。
【0030】
OsNAS1と同様にプロモーター領域をβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子につないだコンストラクトを作成し、形質転換イネを作出することにより、さらに詳細な発現の変化を観察したり、発現している組織を特定したりすることが出来る。その形質転換体を用いて様々な金属元素の欠乏、過剰処理を行うことで鉄やその他の金属元素の植物体内での輸送や移行に関する知見が得られる。
例えば、OsYSL2、OsYSL6、OsYSL9、OsYSL13、OsYSL14、OsYSL15、及びOsYSL16の各プロモーター領域1.5KbにGUSレポーター遺伝子をつないで、それぞれのコンストラクトを用いて、常法によりイネを形質転換対を作製して、様々な金属元素の欠乏、過剰処理を行うことで鉄やその他の金属元素の植物体内での輸送や移行に関する知見をえることができる。
【0031】
今回ノーザン解析で発現が認められたOsYSLに関してはcDNAライブラリーのスクリーニングを行い、得られたクローンがコードするOsYSLが「鉄−ムギネ酸類」または「鉄−ニコチアナミン」のトランスポート活性を有するかどうか確認しなければならない。
また、井上ら(2001)が行った鉄欠乏イネへの鉄分の葉面散布の実験では、鉄をニコチアナミンとの錯体として与えた場合にはクロロシスを回復したが、ムギネ酸類の一種であるデオキシムギネ酸との錯体で与えた場合や、塩化第二鉄として与えた場合にはクロロシスの回復は見られなかった。このことは、イネの葉で発現しているOsYSLが、葉面から与えられた「鉄−ニコチアナミン」錯体の吸収に関与していることを予測させる。「鉄−デオキシムギネ酸」錯体を与えた場合にクロロシスを回復しなかったことは興味深く、OsYSLは輸送する基質を厳しく選択している可能性がある。酵母の鉄吸収変異株frt1fet3fre1(Bughio et al.,2002)を用いて相補実験を行えば、これらのOsYSLが「鉄−ニコチアナミン」錯体と「鉄−デオキシムギネ酸」錯体を選択しているのかどうかが明らかになるだろう。
ニコチアナミンは鉄以外の遷移金属元素もキレートし、特に銅はニコチアナミンとの錯体で導管内を輸送されている(Pich and Scholz,1996)。また、亜鉛、マンガンなどの金属元素の篩管を通じた輸送にニコチアナミンが関与していると示唆されている(Stphan and Scholz,Physiol.Plantarum,88,522−529(1993))。銅や亜鉛、マンガンなどの金属元素を吸収できない酵母の変異株(それぞれctr1(Dancis et al.,1994)、zrt1zrt2(Zao and Eide,1996)、smf1(Supek F.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,93,5105−5110(1996))を用いて、相補実験を行うことによりOsYSLが鉄以外の金属元素の輸送に関与しているかどうかの知見を得ることができる。また、アフリカツメガエル卵母細胞に18個のOsYSL遺伝子を発現させ、「鉄−ムギネ酸類」、「鉄−ニコチアナミン」、「金属−ニコチアナミン」錯体を輸送するかどうかを確かめることにより、これらのタンパク質が「鉄−ムギネ酸類」、「鉄−ニコチアナミン」、「金属−ニコチアナミン」錯体のどの種類のトランスポーターであるかを確認することができる。
【0032】
このために、本発明者らは、アフリカツメガエル卵母細胞を使用してOsYSL2の輸送活性と基質特異性を調べた。OsYSL2を卵母細胞で発現させ、各種の基質で誘発される60mVの電流を測定した。この結果を図23にグラフで示す。図23aは、各種の基質についての電流(μA)を測定した結果を示し、図23bは鉄とマンガンのニコチアナミン(NA)と2’−デオキシムギネ酸(DMA)錯体についての基質添加後の電流(μA)の変化を示す。この結果、驚いたことに、OsYSL2はFe(II)−NAとMn(II)−NAを輸送したが、DMA錯体はいずれも輸送しないことがわかった。これによって、OsYSL2は、イネの金属−DMA錯体ではなく、金属−NA錯体の輸送のための機能を有することが判明した。また、OsYSL2が鉄の他にMn(II)−NAを輸送する機能を有することから、マンガンの欠乏がOsYSL2の発現を引き起こすかどうかをノーザンブロット解析で検討したが、OsYSL2の転写はMnマンガン欠乏イネの根でも葉でも増加しなかった(ここでは、データは示さない。)。
以上のことから、本発明のOsYSL2が、穀物植物におけるミネラル栄養素の篩部の輸送と移動にかかわるFeの制御下における金属−NAのトランスポーターであることが確証された。
【0033】
本発明の18個のOsYSLは、全て細胞膜に存在すると予測された。しかし、鉄欠乏処理によって発現が抑制されたOsYSL6やOsYSL13がイネの鉄過剰に対する耐性に関与しているとすれば、OsYSL6やOsYSL13は細胞膜に存在するよりも、液胞膜に存在する可能性が高い。ピッチら(Pich A.,et al.Planta,213,967−976(2001))は、鉄過剰処理したトマトの液胞中のニコチアナミン濃度が増加したと報告している。液胞は葉緑体におけるフェリチンと共に鉄の貯蔵に関与していると考えられており、ピッチら(Pich et al.(2001))は細胞質に存在する過剰な鉄はニコチアナミンとともに液胞に輸送されていることを示唆している。この機構に本発明のOsYSL6やOsYSL13が関与しているものと考えられる。このような細胞内での局在は、sGFPなどとの融合タンパク質を用いて確認することができる。
【0034】
本発明のイネの鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーター(OsYSL)は、配列表の配列番号1〜18に示されるアミノ酸配列を有するイネ由来のものに限定されるものではなく、イネにおける鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーターとしての機能を有するものであれば、その一部のアミノ酸が欠失し、若しくはその一部のアミノ酸が他のアミノ酸で置換され、及び/又は他のアミノ酸のいくつかが付加されたものであってもよいが、配列番号1〜18に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%以上、好ましくは85%以上又は90%以上や95%以上の相同性を有しているアミノ酸配列を有するタンパク質が包含される。
本発明のイネのトランスポーターにおける金属元素としては、鉄、マンガン、亜鉛、銅、コバルト、ニッケルなどのニコチアナミンと安定な錯体を形成する金属元素であり、好ましい金属元素としては鉄、マンガン、亜鉛、銅などが挙げられ、これらの金属元素の1種又は2種以上の吸収や輸送に関与するものである。本発明のイネのトランスポーターにおける好ましい金属元素としては、例えば、鉄、鉄とマンガン、鉄と亜鉛などが挙げられる。
また、本発明の遺伝子は、前記した本発明のイネの鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーター(OsYSL)をコードするものである。本発明の遺伝子としては、DNAでもRNAでもよい。好ましい本発明の遺伝子としては、配列表の配列番号19〜36に示される塩基配列を有するものが挙げられるが、これに限定されるものではなく、これとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能な配列も包含される。
【0035】
また、本発明は前記した本発明の遺伝子の一部の配列からなるオリゴヌクレオチドを提供するものである。本発明のオリゴヌクレオチドは、前記した本発明の遺伝子の一部の配列からなるものであり、好ましくは10〜150塩基、10〜100塩基、10〜50塩基、また15〜150塩基、15〜100塩基、15〜50塩基程度、より好ましくは15〜30塩基程度の長さを有するものである。本発明のオリゴヌクレオチドは、本発明の遺伝子を増幅させる際のプライマーや、本発明の遺伝子を検出や同定する際のプローブなどとして有用なものである。
【0036】
本発明は、前記した本発明の遺伝子を含有してなるベクターを提供するものでもある。本発明のベクターは、前記した本発明の遺伝子をコードする塩基配列を含有するものである。本発明のベクターは、必要により任意のプロモーターを付加してもよいし、既に用意されているプロモーター領域の下流側に本発明の遺伝子を有するものであってもよい。また、本発明のベクターは、本発明の遺伝子を含有しているものであれば、如何なる用途に使用されるものであってもよく、例えば、発現用のベクターであってもよいし、クローニング用のベクターであってもよい。
また、本発明は、本発明の遺伝子、又は本発明の遺伝子を含有する遺伝子が導入された形質転換体を提供する。導入される遺伝子は本発明の遺伝子が単独で導入されてもよいし、本発明の遺伝子に、さらに必要なプロモーター領域やシグナル領域などを付加した遺伝子として、導入することもできる。遺伝子の導入方法としては、プラスミドやファージなどを用いる公知の導入手段を採用できる。
本発明の形質転換体の宿主細胞としては、特に制限は無く動物細胞や植物細胞などを任意に選定することができる。本発明のイネの鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーター(OsYSL)を製造する場合には、大腸菌などを宿主細胞とすることができるし、また本発明の遺伝子を用いて他の植物を形質転換する場合にはイネやトウモロコシ、トマト、シロイヌナズナなどの植物細胞を宿主細胞とすることができる。
【0037】
また、本発明は、OsYSL2が、植物体内における鉄錯体及び/又はマンガン錯体、好ましくはニコチアナミン錯体の輸送に関与しているトランスポーターであることを明らかにしたものである。鉄などの金属成分は植物の発育や成長に必要なだけでなく、植物を食糧としている人間の栄養補給の点からも重要である。特に、本発明のOsYSL2は植物の生殖成長における鉄分やマンガン成分の輸送に大きく関与しており、鉄分やマンガン成分の強化された植物体の製造に有用となる。
本発明のOsYSL2は、植物における鉄錯体及び/又はマンガン錯体の体内輸送に関与しており、これを用いて植物の体内における鉄錯体及び/又はマンガン錯体の輸送や蓄積を調節することが可能であり、本発明は当該OsYSL2を用いた植物における鉄錯体及び/又はマンガン錯体の体内輸送の調整方法を提供するものである。
本発明の調整方法としては、本発明のOsYSL2、例えば、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列、又はその一部のアミノ酸が欠失若しくは置換され、及び/又は他のアミノ酸が付加されることにより配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有しているアミノ酸配列をコードする遺伝子、好ましくは配列表の配列番号20に示される塩基配列を有する遺伝子を植物に導入する方法が挙げられる。植物としては、鉄成分やマンガン成分の輸送が行える植物であれば特に制限はないが、本発明のOsYSL2がイネ由来であることから、イネ科植物が好ましいがこれに限定されるものではない。
本発明のこの方法により、鉄分が強化された植物、例えば、野菜や果実などを製造することも可能となり、本発明のOsYSL2は鉄分などの金属成分の強化された植物の製造に極めて有用である。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送が強化された潜在的に鉄などの金属元素欠乏発生土壌においても生育可能なイネを創出するために必須となるイネの鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送に関与する、「鉄−ムギネ酸類」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子、「鉄−ニコチアナミン」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子、並びに「マンガンなどの金属−ニコチアナミン」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子を提供するものである。本発明のトランスポーターは、イネの細胞又は細胞内のオルガネラが「三価鉄−ムギネ酸類」、「二価鉄−ニコチアナミン」錯体となっている鉄や、「金属−ニコチアナミン」錯体となっている金属錯体を内部に取り込むために必須の膜輸送体であるトランスポーターを提供するものであり、鉄やマンガンなどの金属元素の吸収や輸送が強化された潜在的鉄及び金属元素欠乏発生土壌においても生育可能なイネを創出するために必須となるタンパク質であり遺伝子である。さらにイネ種子に鉄及び金属元素を集積させ栄養価の高い米を作出するためにも必須である。本発明のトランスポーターが有するそれぞれの機能に着目して、イネを生育させる土壌に応じたトランスポーターを有する新規なイネを創出することが可能となり、イネの耕作範囲を拡大することが可能となるため、世界の食糧問題の解決の糸口となる。さらに鉄および金属元素を種子可食部に集積させ、栄養価の高い米を作出することが可能になり、ヒトの鉄欠乏性貧血、金属元素欠乏症の解消に寄与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、シロイヌナズナのトランスポーターの予想されるゲノム構造を模式的に示したものである。
【図2】図2は、本発明のイネのトランスポーターの発現をノーザン解析によって確認した結果を示す図面に変わるカラー写真である。
【図3】図3は、本発明のイネの18個のトランスポーターとトウモロコシのYS1とのアミノ酸配列を比較した3枚の図面の1枚目である。
【図4】図4は、本発明のイネの18個のトランスポーターとトウモロコシのYS1とのアミノ酸配列を比較した3枚の図面の2枚目である。
【図5】図5は、本発明のイネの18個のトランスポーターとトウモロコシのYS1とのアミノ酸配列を比較した3枚の図面の3枚目である。
【図6】図6は、本発明のイネの18個のトランスポーターの塩基配列を比較した9枚の図面の1枚目である。
【図7】図7は、本発明のイネの18個のトランスポーターの塩基配列を比較した9枚の図面の2枚目である。
【図8】図8は、本発明のイネの18個のトランスポーターの塩基配列を比較した9枚の図面の3枚目である。
【図9】図9は、本発明のイネの18個のトランスポーターの塩基配列を比較した9枚の図面の4枚目である。
【図10】図10は、本発明のイネの18個のトランスポーターの塩基配列を比較した9枚の図面の5枚目である。
【図11】図11は、本発明のイネの18個のトランスポーターの塩基配列を比較した9枚の図面の6枚目である。
【図12】図12は、本発明のイネの18個のトランスポーターの塩基配列を比較した9枚の図面の7枚目である。
【図13】図13は、本発明のイネの18個のトランスポーターの塩基配列を比較した9枚の図面の8枚目である。
【図14】図14は、本発明のイネの18個のトランスポーターの塩基配列を比較した9枚の図面の9枚目である。
【図15】図15は、本発明のイネのトランスポーター(OsYSL)、トウモロコシのトランスポーター(YS1)、及びシロイヌナズナのトランスポーター(AtYSL)のYSLファミリーの分子系統樹を示したものである。
【図16】図16は、本発明のOsYSL2とGFPの融合タンパク質をタマネギの表皮細胞で発現させた結果を示す図面に代わるカラー写真である。図16aはOsYSL2−GFP融合タンパク質の場合を示し、図16bはGFPタンパク質単独の場合を示す。
【図17】図17は、イネの根における本発明のOsYSL2のプロモーターの発現をレポーター遺伝子GUSにより解析した結果を示す図面に代わるカラー写真である。GUSの発現を青色で示している。図17aは鉄十分条件の場合を示し、図17bは鉄欠乏条件の場合を示す。各図の挿入は中心柱の中の篩部細胞の拡大写真である。
【図18】図18は、イネの葉鞘の維管束における本発明のOsYSL2のプロモーターの発現をレポーター遺伝子GUSにより解析した結果を示す図面に代わるカラー写真である。GUSの発現を青色で示している。図18bはその拡大写真であり、矢印は伴細胞での発現を示している。
【図19】図19は、イネの葉における本発明のOsYSL2のプロモーターの発現をレポーター遺伝子GUSにより解析した結果を示す図面に代わるカラー写真である。GUSの発現を青色で示している。図19aは鉄十分条件の場合を示し、図19bは鉄欠乏条件の場合を示す。各図における矢印は、伴細胞での強い発現を示している。
【図20】図20は、イネの花と種子における維管束での本発明のOsYSL2のプロモーターの発現をレポーター遺伝子GUSにより解析した結果を示す図面に代わるカラー写真である。GUSの発現を青色で示している。図20aは開花の前の場合を示し、図20bは受精後の結果を示し、図20cは受精後5日目の結果を示し、図20dは受精後8日目の結果を示し、図20eは受精後20日目の結果を示し、図20fは受精後の30日目の結果をそれぞれ示す。
【図21】図21aは、本発明のイネのトランスポーターOsYSL2のアミノ酸配列をZmYS1と比較したものである。図21bは、本発明のイネのトランスポーターOsYSL2のアミノ酸配列を模式的に記載したものである。丸印が個々のアミノ酸を示している。
【図22】図22は、本発明のイネのトランスポーターOsYSL2のRT−PCR解析の結果を示す図面に代わる写真である。
【図23】図23は、本発明のイネのトランスポーターOsYSL2による金属キレート錯体の基質による誘発電流を測定した結果を示すグラフである。
【0040】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
イネゲノムデータベースを利用したイネのトランスポーター(OsYSL)の探索
イネの鉄及び他の金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーターを見出すために、ジャポニカ種のイネのゲノムデーターベースである、Oryza sativa L.ssp.japonica(cv.Nipponbare)(Goff et al.,2002)(http://portal.tmri.org/rice/)を用いて、トウモロコシのトランスポーターであるYS1と高い相同性をもつタンパク質をコードするイネの遺伝子(OsYSL)をブラスト(Blast)検索(Atlschul et al.,1990)した。
しかし、このデータベースは完成されたものではなく、各コンティグがばらばらの状態での開示であり、そのため検索で得られたYS1に相同性が高いコンティグもOsYSLの全長を含んでいない場合が多かった。また、塩基解読の精度もそれほど高くなく、不明の塩基も数多くあった。
そこで、本発明者らは、インディカ種のイネについてのゲノムデーターベースであるOryza sativa L.ssp.indica(cv.91−11)(Yu et al.,2002)(http://btn.genomics.org.cn/rice/)を検索することで得られたインディカ種のOsYSLの塩基配列も参考にした。これらの配列を基に、ばらばらになっていたジャポニカ種のOsYSLについても断片をつなぎ合わせ、推測される全長を同定した。この結果、合計18個のOsYSLが見出された。これらのトランスポーターをそれぞれOsYSL1〜18と命名した。
この配列に基づいて、シロイヌナズナのトランスポーターであるAtYSL3のゲノム配列から、イネにおけるこれらの配列を決定した。決定されたそれぞれのアミノ酸配列を配列表の配列番号1〜18にそれぞれ示す。また、その塩基配列を配列表の配列番号19〜36にそれぞれ示す。
決定されたアミノ酸配列とトウモロコシのYS1とのアミノ酸の比較を図3〜5に順次示す。また、これらのOsYSL1〜18の塩基配列の比較を図6〜14に順次示す。
このようにして得られたOsYSL1〜18は、予測されたアミノ酸配列がトウモロコシのYS1と高い相同性を示したこと(図3〜5参照)、そのうちのいくつかはイネゲノムプロジェクトによる完全長cDNAライブラリーに一致するcDNAが発見されたことから、本発明の推測は極めて精度の高いものであると考えられた。これらのタンパク質は全て7個から16個の膜貫通領域を持つと推測され、YS1と同様に膜タンパク質である可能性が高いことも明らかとなった。
【実施例2】
【0042】
試料用のイネの調製
試料用のイネは、次に示す組成を有する水耕液で栽培した。
Ca(NO3)2・4H2O 2000μM
MgSO4・7H2O 500μM
Fe(III)・EDTA 100μM
K2SO4 700μM
KCl 100μM
KH2PO4 100μM
H3BO3 10μM
MnSO4・5H2O 0.5μM
ZnSO4・7H2O 0.5μM
CuSO4・5H2O 0.2μM
(NH4)6Mo7O24・4H2O 0.01μM
イネの第五葉目が展開した時に鉄欠乏処理を開始し、10日間鉄を除いた水耕液で栽培することで鉄欠乏処理を行った。コントロール条件のイネはそれまでと同じ濃度の鉄を加えた水耕液で栽培した。処理後10日目にコントロール区、鉄欠乏区ともにサンプリングを行った。
【実施例3】
【0043】
ノーザン解析用のプローブの調製
前記表1に示すプライマー対を設計し、ゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行った。OsYSL1、OsYSL8、OsYSL16のPCRにはKOD−plus−(TOYOBO)を、その他の遺伝子のPCRにはExTaq(TaKaRa)をDNAポリメラーゼとして用いた。OsYSL1の増幅の際、反応液にDMSOを終濃度5%(v/v)になるように加えた。KOD−plus−で増幅された断片はpCR4Blunt−TOPO(Invitrogen)に、その他の断片はpCR4−TOPO(Invitrogen)にクローニングした。クローニングの方法はキットに付属のプロトコールに従った。塩基配列を確認し、クローニングされた断片が目的のものであることを確認した。
得られた断片を通常の方法により32Pで標識化した。
【実施例4】
【0044】
ノーザン解析
実施例2で栽培したイネをサンプリングして、根と葉の部分について、実施例3で調製したプローブを用いてノーザン解析を行った。
結果を図2に示す。
【実施例5】
【0045】
OsYSL2−sGFPを含むプラスミドの構築とその発現
カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター−sGFP(S65T)−NOS3’の構造を有するプラスミドpUC18は、丹羽博士(静岡県立大学)から提供された。このプラスミドは、35Sプロモーターの3’側にSalIとNcoIサイトを持っている。このNcoIサイト「CCATGG」は、sGFPの開始コドンを含んでいる。そして、このNcoIとSalIサイトの間にアニールドオリゴマー(5’TCGAGATATCGGTACCAGATCTGAGCTCGAGGTCGAと5’CTAGTCGACCTCGAGCTCAGATCTGGTACCGATATC)を挿入し、新しいEcoR Vサイト(GATATC)を導入した。導入されたEcoR Vサイトに、5’末端にattR1サイト、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ccdBの遺伝子、及びattR2サイトカセットを含む1579bpのマルチサイトゲートウェイスリー断片(Invitrogen)を挿入した。そして、この修飾ベクターは、pDEST35S−sGFPと命名され、デェスティネーションベクター(destination vector)として使用された。
一方、OsYSL2のORFを、’5’−CACCATGGAAGCCGCCGCTCCCGAGATAGと3’−GCTTCCGGGAGTGAACTTCAGCAGの2つのプライマーを用いて増幅した。OsYSL2のコード配列を含む増幅された断片は、pENTR/D−TOPO(Invitrogen)にサブクローニングされた。OsYSL2のコード配列を含むこのpENTR/D−TOPOエントリーベクターは、pENTR−OsYSL2と命名され、前記のデェスティネーションベクター(destination vector)とこのエントリーベクターの間のサブセキュエントLRリコンビネーション反応(Invitrogen)により、35S−OsYSL2−sGFPをコードする遺伝子を含む発現クローンを得た。
【0046】
たまねぎ表皮細胞に、水野らの方法(Mizuno,D.,et al.,Plant Physiol.132,1989−1997(2003))パーティクルガン法(Biolistic PDS−1000/He(BioRad))により前記で製造したベクターを導入した。
また、同様にGFPのみを有するベクターを導入した。
遺伝子が導入され、可視化された結果を図16に示す。
【実施例6】
【0047】
OsYSL2のプロモーターのβ−グルクロニダーゼ(GUS)分析
OsYSL2の推定されるプロモーター領域(翻訳開始コドンからの−1500〜−1bp)を含むゲノム配列を、ゲノムDNAからのPCR法により増幅した。得られたイネのトランスポーターOsYSL2のプロモーター領域1.5KbにGUSレポーター遺伝子を結合させて、これをイネに導入した。イネへの形質転換及びGUS染色は井上らの方法(Inoue,H.,et al.,Plant J.36,366−381(2003))に準じて行った。
結果を、図17〜図20にそれぞれ示す。
【実施例7】
【0048】
RT−PCR解析
イネの開花前、開花5日後および開花8日後の試料を処理して、RT−PCR解析を行った。その結果を図22に図面に代わる写真で示す。図22の左側のレーンは開花前の場合を示し、中央のレーンは開花5日後の場合を示し、右側のレーンは開花8日後の場合を示す。
【実施例8】
【0049】
アフリカツメガエル卵母細胞におけるOsYSL2の基質輸送能
OsYSL2をEcoRIとXbaIとで消化して、OsYSL2の2022bpの断片を得た。これを、pGEM−3zf(t)ベクターのEcoRI、XbaIサイトに挿入した。得られたプラスミドpGEMYSL2TをXbaIで消化して鎖状とした。キャップ付きの相補RNA(cRNA)を、MEGAscript SP6キット(TX、Ambion、オースチン、米国)を用いてインビトロで合成した。
卵母細胞は、イガラシらの方法(Igarashi,Y.,ET al.,Plant Cell Physiol.41,750−756(2000))により調製した。これに、前記で得たOsYSL2 cRNAの10ngを注入した。注入された卵母細胞は、2日間のND溶液で培養され、pH7.5で電気的測定に供せられた。卵母細胞の膜の電流は、TEV−200システム(MN、Dagan、ミネアポリス、米国)を有する自動化された日立システムを使用する、2−マイクロボルテージクランプ法により測定した。卵母細胞は、−60mVに固定され、そして、金属キレートの複合体(10μL、5mM)の添加に対応した定常電流が得られた。電流は、Mac Labシステム(NSW、Adinstruments、シドニーオーストラリア)で絶え間なくモニターして、分析した。OsYSL2遺伝子が注入された独立している6つの卵母細胞を、電流を測定するのに使用した。また、コントロールとして6つの独立している水注入の卵母細胞を用いた。
この結果を図23に示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のトランスポーター及びその遺伝子は、鉄などの金属錯体の吸収や輸送が強化された潜在的な鉄などの金属元素欠乏発生土壌においても生育可能なイネを創出するために必須となるイネの金属錯体の吸収や輸送に関与するものである。また、地球上には鉄などの金属元素欠乏発生土壌が広大に存在し、このような土壌においても生育できるイネなどの穀物植物を創出することは、世界の食糧問題を解決する上で極めて有効な方法である。また、鉄などの金属元素のミネラル含量の高い米を作出することは、ヒトの鉄欠乏性貧血、金属元素欠乏症を解消するために有効である。
本発明は、イネの「鉄−ムギネ酸類」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子、「鉄−ニコチアナミン」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子、並びに「金属−ニコチアナミン」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子を提供するものであり、潜在的な鉄などの金属元素欠乏発生土壌においても生育可能なイネを創出するため、さらに鉄および金属元素を種子可食部に集積させた栄養価の高い米を作出するために不可欠の、鉄などの金属錯体の吸収や輸送に関与するタンパク質及びその遺伝子を提供するものであり、産業上極めて有用なものである
【配列表フリーテキスト】
【0051】
配列番号1 OsYSL1のアミノ酸配列
配列番号2 OsYSL2のアミノ酸配列
配列番号3 OsYSL3のアミノ酸配列
配列番号4 OsYSL4のアミノ酸配列
配列番号5 OsYSL5のアミノ酸配列
配列番号6 OsYSL6のアミノ酸配列
配列番号7 OsYSL7のアミノ酸配列
配列番号8 OsYSL8のアミノ酸配列
配列番号9 OsYSL9のアミノ酸配列
配列番号10 OsYSL10のアミノ酸配列
配列番号11 OsYSL11のアミノ酸配列
配列番号12 OsYSL12のアミノ酸配列
配列番号13 OsYSL13のアミノ酸配列
配列番号14 OsYSL14のアミノ酸配列
配列番号15 OsYSL15のアミノ酸配列
配列番号16 OsYSL16のアミノ酸配列
配列番号17 OsYSL17のアミノ酸配列
配列番号18 OsYSL18のアミノ酸配列
配列番号19 OsYSL1の塩基配列
配列番号20 OsYSL2の塩基配列
配列番号21 OsYSL3の塩基配列
配列番号22 OsYSL4の塩基配列
配列番号23 OsYSL5の塩基配列
配列番号24 OsYSL6の塩基配列
配列番号25 OsYSL7の塩基配列
配列番号26 OsYSL8の塩基配列
配列番号27 OsYSL9の塩基配列
配列番号28 OsYSL10の塩基配列
配列番号29 OsYSL11の塩基配列
配列番号30 OsYSL12の塩基配列
配列番号31 OsYSL13の塩基配列
配列番号32 OsYSL14の塩基配列
配列番号33 OsYSL15の塩基配列
配列番号34 OsYSL16の塩基配列
配列番号35 OsYSL17の塩基配列
配列番号36 OsYSL18の塩基配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーター。
【請求項2】
トタンスポーターが、配列表の配列番号1〜18のいずれかに記載のアミノ酸配列、又はその一部のアミノ酸が欠失若しくは置換され、及び/又は他のアミノ酸が付加されることにより配列番号1〜18のいずれかに示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有しているアミノ酸配列を有し、植物の鉄吸収又は金属の輸送に関与するトランスポーターである請求項1に記載のトランスポーター。
【請求項3】
トランスポーターが、配列表の配列番号2、6、13、14、15又は16に記載のアミノ酸配列、又はその一部のアミノ酸が欠失若しくは置換され、及び/又は他のアミノ酸が付加されることにより配列番号2、6,13、14、15又は16のいずれかに示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有しているアミノ酸配列を有し、植物の鉄吸収又は金属の輸送に関与するトランスポーターである請求項1に記載のトランスポーター。
【請求項4】
トランスポーターが、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列、又はその一部のアミノ酸が欠失若しくは置換され、及び/又は他のアミノ酸が付加されることにより配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有しているアミノ酸配列を有し、植物の金属錯体の輸送に関与するトランスポーターである請求項1に記載のトランスポーター。
【請求項5】
イネの金属錯体の輸送に関与するトタンスポーターである請求項1に記載のトランスポーター。
【請求項6】
金属錯体における金属が、鉄、マンガン、亜鉛、銅、コバルト、又はニッケルの1種又は2種以上の金属である請求項1に記載のトランスポーター。
【請求項7】
金属錯体における金属が、鉄及び/又はマンガンである請求項6に記載のトランスポーター。
【請求項8】
金属錯体が、ニコチアナミン錯体である請求項5に記載のトランスポーター。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のイネ由来のトランスポーターをコードし得る塩基配列を有する遺伝子。
【請求項10】
遺伝子が、配列表の配列番号19〜36のいずれかに示される塩基配列を有するものである請求項9に記載の遺伝子。
【請求項11】
遺伝子が、配列表の配列番号20に示される塩基配列を有するものである請求項9に記載の遺伝子。
【請求項12】
請求項9から11のいずれかに記載の遺伝子を含有してなるベクター。
【請求項13】
ベクターが、発現ベクターである請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
請求項9から11のいずれかに記載の遺伝子を含有する遺伝子により形質転換された形質転換細胞。
【請求項15】
細胞が、植物細胞である請求項14に記載の形質転換細胞。
【請求項16】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列、又はその一部のアミノ酸が欠失若しくは置換され、及び/又は他のアミノ酸が付加されることにより配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有しているアミノ酸配列をコードする遺伝子を導入することからなる、植物における鉄錯体及び/又はマンガン錯体の体内輸送を調整する方法。
【請求項17】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列、又はその一部のアミノ酸が欠失若しくは置換され、及び/又は他のアミノ酸が付加されることにより配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有しているアミノ酸配列をコードする遺伝子が、配列表の配列番号20に示される塩基配列を有するものである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
金属錯体が、ニコチアナミン錯体である請求項16に記載の方法。
【請求項19】
植物が、イネ科植物である請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【国際公開番号】WO2005/030950
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514219(P2005−514219)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014064
【国際出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】