説明

イミダゾール誘導体及びその用途

【課題】各種基質に対する溶解度及び親和性の低さの改善、ゴム組成物に使用した場合には、圧縮永久歪みに関する物性への影響が実質的になく、加硫への悪影響を及ぼすこともない老化防止剤、潤滑油に使用した場合には酸化防止効果が高く、着色の少ない酸化防止剤、ポリウレタン製造時には高いスコーチ低減効果を有するスコーチ防止剤として使用できる化合物の提供。
【解決手段】2−メルカプトベンゾイミダゾールをアクリル酸エステルと反応させることにより得られる2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類により達成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムの老化防止剤、加硫促進剤、金属キレート剤、過酸化物硬化樹脂用の還元剤、樹脂用酸化防止剤、ポリアミド樹脂の安定剤、樹脂用黄変防止剤、潤滑油用酸化防止剤、粘着剤用黄変防止剤、メッキ薬、フォトレジスト用洗浄剤、防錆剤、動物忌避剤、消臭剤、写真現像薬、フジツボなどの水生生物付着防止剤など様々な用途に利用可能な新規化合物、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ゴムの老化防止剤、加硫促進剤、或いは、金属キレート剤、過酸化物硬化樹脂用の還元剤、樹脂用酸化防止剤、樹脂用黄変防止剤、潤滑油用酸化防止剤、粘着剤用黄変防止剤などの用途には、2−メルカプトベンゾイミダゾールが広く利用されている。しかし、上述のような様々な基質に対する溶解度や親和性の点で十分満足出来る水準にはない。そのために、所望とされる性能が充分に発揮できない場合や、あるいは、使用できない場合がある。加えて、この化合物の形状は、一般に微粉末であり、使用中に作業者が吸引してしまうことが起こりやすい。その際に「にがみ」といわれる特有の不快感があり、改善が望まれているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、第1には、現在ゴム用添加剤として広く使用されている、2−メルカプトベンゾイミダゾールが本来有している性能を損なうことなく、その欠点である、各種基質に対する溶解度、及び、親和性の低さを改善し、また、使用態様によっては、2−メルカプトベンゾイミダゾールを使用したのでは、必要かつ十分であるとは言えない、例えば、2−メルカプトベンゾイミダゾールをゴムの老化防止剤として使用する場合に、得られたゴムの圧縮永久歪みに関する物性を悪くすることや、加硫への悪影響を示すことが知られているが、圧縮永久歪みに関する物性への影響も実質的になく、又、加硫への悪影響を及ぼすことなく使用できる化合物を提供することにある。更に、飛散がなく、2−メルカプトベンゾイミダゾールのように作業者が作業中に吸引してしまうことのない化合物を提供することにある。
【0004】
本発明の別の目的は、従来潤滑油の安定剤として使用されているジクミルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤の自己酸化による着色を防止できる酸化防止剤、特に、ジクミルジフェニルアミンや、ステアラーLAS(精工化学製)、ステアラーSTAR(精工化学製)等アミン系の酸化防止剤と同等あるいはそれ以上の酸化防止性能を有し、更にこれらアミン系の酸化防止剤のように着色を起こさない、潤滑剤用添加剤の提供にある。更に、本発明の別の目的は、従来ポリウレタン製造時のスコーチ防止剤としてジクミルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤が不可避的に有する材料の着色問題を起こすこと無く、又、着色が問題となっている分野でのBHTなど環境問題を抱えているフェノール系酸化防止剤の併用を回避できる酸化防止剤の提供にある。また、アミン系の酸化防止剤と併用し、使用したとき、フェノール系酸化防止剤との併用と同等程度の着色防止効果を示すスコーチ防止剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、2−メルカプトベンゾイミダゾールをアクリル酸エステルと反応させることにより得られる、下記式1、2又は3
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表される2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類が、上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0006】
すなわち、2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類及びその用途に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る下記式1、2又は3
【化2】

(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表される2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類は、2−メルカプトベンゾイミダゾールの使用分野において、2−メルカプトベンゾイミダゾールと同等〜それ以上の優れた効果を発揮する。
【0008】
また、潤滑油の酸化防止剤として使用したとき、ジクミルジフェニルアミンや、ステアラーLAS(精工化学製)、ステアラーSTAR(精工化学製)等のアミン系の酸化防止剤と同等あるいはそれ以上の酸化防止性能を有し、更にこれらアミン系の酸化防止剤のように着色を起こさないため、着色のない潤滑油を製造することができると言う効果を発揮する。更に又、ポリウレタンを製造時に使用することにより、ジクミルジフェニルアミン等のアミン系の酸化防止剤と同等あるいはそれ以上の酸化防止性能を有し、更にこれらアミン系の酸化防止剤のように着色を起こさないため、これをスコーチ防止剤として使用することによってBHT等のフェノール系酸化防止剤との併用なしに、着色のないポリウレタンを製造することができる。また、BHT等のフェノール系酸化防止剤の代わりにアミン系の酸化防止剤と併用し、使用してもフェノール系酸化防止剤同様に添加剤の着色を防止し、結果、着色のないポリウレタンを製造することができると言う効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る化合物である、2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類は、2−メルカプトベンゾイミダゾールをアクリル酸エステルと反応させることにより容易に製造することができる。本発明の原料化合物は、2−メルカプトベンゾイミダゾールおよびアクリル酸エステルは、いずれも公知の化合物であり商業的に入手できるか、または商業的に入手できる化合物から容易に得られる。本発明に係る化合物である2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類には、N,N’−ジ(3−プロピオン酸)ベンゾイミダゾリン−2−チオンジアルキルエステル類、N−(3−プロピオン酸)−2−メルカプトベンゾイミダゾールアルキルエステル類、及び2−(3−チオプロピオン酸)ベンゾイミダゾール類が含まれる。中でも、N,N’−ジ(3−プロピオン酸)ベンゾイミダゾリン−2−チオンジアルキルエステル類、及びN−(3−プロピオン酸)−2−メルカプトベンゾイミダゾールアルキルエステル類が好適に使用される。
【0010】
2−メルカプトベンゾイミダゾールとアクリル酸の使用割合としては、モル比率で1:1〜1:20で使用すればよい。特に、限定するものではないが、1:1〜1:3の範囲が好ましい。反応は塩基存在下で行なわれ、使用できる塩基としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等の無機塩基、又はトリエチルアミン、ピリジンなどの有機塩基が挙げられ、中でも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムが好ましい。塩基の使用量は、2−メルカプトベンゾイミダゾールに対し0.1〜10モル等量であり、特に限定するものではないが0.3〜3モル等量とするのが好ましい。
【0011】
反応は加温下で行うことができ、特に限定するものではないが、80℃〜140℃で行うのが好ましい。反応は通常30分〜6時間程度で完了する。反応は原料化合物であるアクリル酸エステルの原料アルコールと同じアルコールを溶媒として使用して行なっても良く、また、他の適当な溶媒中で行ってもよい。特に限定するものではないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブチルアルコールのようなアルコール類に加え、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンのような炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類などが好適に用いられる。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(プロピルに加え、イソプロピルをも含む)、アクリル酸ブチル(n−ブチルに加え、イソブチル、sec.−ブチル、tert.−ブチルをも含む)等が挙げられる。なお、上記化学式1、2又は3におけるRとは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec.−ブチル、tert.−ブチル等のアルキル基を意味するものである。
【0012】
反応終了後、反応液を冷却することで析出する結晶をろ別するか、溶媒を留去した残渣結晶として本発明化合物を得ることができる。得られた化合物は、ゴムの老化防止剤、加硫促進剤、金属キレート剤、過酸化物硬化樹脂用の還元剤、樹脂用酸化防止剤、ポリアミド樹脂の安定剤、樹脂用黄変防止剤、潤滑油用酸化防止剤、粘着剤用黄変防止剤、メッキ薬、フォトレジスト用洗浄剤、防錆剤、動物忌避剤、消臭剤、写真現像薬、写真現像液用成分、フジツボなどの水生生物付着防止剤などとして有用である。なお、これらに用途において使用される本発明に係る2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類の量は、その用途に応じて、適宜選択すればよいが、通常は、各種組成物中において、全組成物質量に対して、0.001質量%〜1質量%程度である。より好ましくは、0.05質量%〜1質量%程度である。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を、製造例、実施例及び比較例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0014】
(製造例1)
N,N’−ジ(3−プロピオン酸)ベンゾイミダゾリン−2−チオンジブチルエステルの合成
温度計、水分離機、還流冷却機および攪拌機を備えた反応器に2−メルカプトベンゾイミダゾール25g(0.17mol)、n−ブタノール50g、トルエン10g、水酸化カリウム3g(0.05mol)を加え、還流下、1時間攪拌する。水分離機への水の留出がみられなくなったところで、アクリル酸ブチル43g(0.33mol)を1時間かけて滴下する。そのまま2時間攪拌した後、反応液を20gの10%塩酸で洗浄し、続いて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄する。得られた有機層を濃縮し、油状液体として生成物を得た。(収量61g、GC純度90%)H−NMR、IR分析の結果、得られた生成物はN,N’−ジ(3‐プロピオン酸)ベンゾイミダゾリン−2−チオンジブチルエステルであることがわかった。なお、NMR及びIR分析の結果は、以下に示す。
【0015】
1H-NMR(CDCl3)
0.97ppm(6H),1.30ppm(4H),1.54ppm(4H)2.94ppm(4H),4.10ppm(4H),4.59ppm(4H),7.29ppm(4H)
IR(Neat)
3447,3156,2991,2950,2849,1924,1732,1610,1512,1479,1437,1408,1390,1362,1337,1284,1211,1169,1061,1024,1001,960,919,859,815,741,658,602
【0016】
(製造例2)
N−(3−プロピオン酸)−2−メルカプトベンゾイミダゾールブチルエステルの合成
温度計、水分離機、還流冷却機および攪拌機を備えた反応器に2−メルカプトベンゾイミダゾール25g(0.17mol)、n−ブタノール96g、水酸化リチウム7g(0.17mol)を加え、還流下、1時間攪拌する。水分離機への水の留出がみられなくなったところでアクリル酸ブチル32g(0.22mol)を1時間かけて滴下する。そのまま2.5時間攪拌した後、反応液を50gの10%塩酸で洗浄し、続いて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄する。得られた有機層を濃縮し、油状液体として生成物を得た。(収量49g、GC純度78%)H−NMR、IR分析の結果、得られた生成物はN−(3‐プロピオン酸)−2−メルカプトベンゾイミダゾールブチルエステルであることがわかった。
【0017】
なお、H−NMR、IR分析の結果は以下に示す。
1H-NMR(CDCl3)
0.97ppm(3H),1.30ppm(2H),1.54ppm(2H)2.94ppm(2H),4.10ppm(2H),4.59ppm(2H),7.29ppm(4H)
IR(Neat)
3142,3103,2958,2871,1731,1618,1499,1479,1460,1376,1341,1202,1171,1138,1105,1055,1012,948,840,739,613,587,529,421
【0018】
(実施例1)
天然ゴム100部、亜鉛華5部、ステアリン酸2部、HAFカーボン50部、アロマ系オイル6部、硫黄2部、加硫促進剤サンセラーCM(三新化学工業株式会社製)1.3部、老化防止剤ノンフレックスDCD(精工化学株式会社製)2部に、製造例2で得た化合物(以下MBBAと称する。)を1部配合し、老化防止剤含有未加硫ゴム組成物を調製した。
【0019】
(実施例2)
SBRゴム100部、亜鉛華5部、ステアリン酸2部、HAFカーボン50部、アロマ系オイル10部、硫黄1.5部、加硫促進剤サンセラーCM(三新化学工業株式会社製)1.5部、加硫促進剤サンセラーD(三新化学工業株式会社製)1.5部、老化防止剤ノンフレックスDCD(精工化学株式会社製)2部に、MBBAを1部配合し、老化防止剤含有未加硫ゴム組成物を調製した。
【0020】
(実施例3)
NBRゴム100部、亜鉛華5部、ステアリン酸1部、SRFカーボン50部、アデカサイザーRS−735(旭電化工業株式会社製)10部、コロイド硫黄0.3部、加硫促進剤サンセラーCM(三新化学工業株式会社製)2部、加硫促進剤TT(三新化学工業株式会社製)2部、老化防止剤ノンフレックスDCD(精工化学株式会社製)2部に、MBBAを1部配合し、老化防止剤含有未加硫ゴム組成物を調製した。
【0021】
(実施例4)
EPTゴム100部、亜鉛華5部、ステアリン酸1部、FEFカーボン60部、パラフィン系オイル30部、硫黄1.1部、加硫促進剤サンセラーEM−2(三新化学工業株式会社製)3部、加硫促進剤CM(三新化学工業株式会社製)0.5部、老化防止剤ノンフレックスDCD(精工化学株式会社製)2部に、MBBAを1部配合し、老化防止剤含有未加硫ゴム組成物を調製した。
【0022】
(比較例1)
天然ゴム100部、亜鉛華5部、ステアリン酸2部、HAFカーボン50部、アロマ系オイル6部、硫黄2部、加硫促進剤サンセラーCM(三新化学工業株式会社製)1.3部、老化防止剤ノンフレックスDCD(精工化学株式会社製)2部に、ノンフレックスMB(精工化学株式会社製:なお、ここで、MBとは、2−メルカプトベンゾイミダゾールを意味する表示である。以下同じ。)を1部配合し、老化防止剤含有未加硫ゴム組成物を調製した。
【0023】
(比較例2)
SBRゴム100部、亜鉛華5部、ステアリン酸2部、HAFカーボン50部、アロマ系オイル10部、硫黄1.5部、加硫促進剤サンセラーCM(三新化学工業株式会社製)1.5部、加硫促進剤サンセラーD(三新化学工業株式会社製)1.5部、老化防止剤ノンフレックスDCD(精工化学株式会社製)2部に、ノンフレックスMB(精工化学株式会社製)を1部配合し、老化防止剤含有未加硫ゴム組成物を調製した。
【0024】
(比較例3)
NBR100部、亜鉛華5部、ステアリン酸1部、SRFカーボン50部、アデカサイザーRS−735(旭電化工業株式会社製)10部、コロイド硫黄0.3部、加硫促進剤サンセラーCM(三新化学工業株式会社製)2部、加硫促進剤TT(三新化学工業製)2部、老化防止剤ノンフレックスDCD(精工化学株式会社製)2部に、ノンフレックスMB(精工化学株式会社製)を1部配合し、老化防止剤含有未加硫ゴム組成物を調製した。
【0025】
(比較例4)
EPT100部、亜鉛華5部、ステアリン酸1部、FEFカーボン60部、パラフィン系オイル30部、硫黄1.1部、加硫促進剤サンセラーEM−2(三新化学工業株式会社製)3部、加硫促進剤CM(三新化学工業株式会社製)0.5部、老化防止剤ノンフレックスDCD(精工化学株式会社製)2部に、ノンフレックスMB(精工化学株式会社製)を1部配合し、老化防止剤含有未加硫ゴム組成物を調製した。
【0026】
なお、上記の実施例、及び比較例における、ゴム練りについては公知の方法により1.7Lのバンバリー試験機および直径約24cmの2本ロールにて混練りを行った。未加硫ゴム評価についてはJISK−6300−2に準拠してキュラストメーター試験を、JISK−6300−1に準拠してムーニースコーチタイム試験を行い加硫速度およびスコーチ性を確認した。また所定温度にてプレス加硫し、熱老化試験用試料および圧縮永久歪試験用試料を作成した。熱老化試験はJISK−6257に準拠して行い、圧縮永久歪試験についてはJISK−6262に準拠して行った。また、各実施例、比較例において、MB又はMBBAを使用しないものを別途調製し、対照(control)とした。
【0027】
熱老化試験は試験管加熱老化機(テストチューブ法)を用いて所定温度、所定時間熱老化させた後、物性を測定し破断強度(TB)、破断伸び(EB)の熱老化試験前の物性からの変化率を比較した。なお、実施例1及び2並びに比較例1及び2においては、試験条件として、100℃、168時間を採用し、実施例3及び4並びに比較例3及び4においては、試験条件として、120℃、240時間を採用した。圧縮永久歪試験については、100℃にて70時間圧縮し、解放後のゴムの厚みを測定し試験前の厚みからの変化率を比較した。結果は、表1及び表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
表1および表2から明らかなように、MBBAは、MBの欠点である加硫を早めることも少なく、圧縮永久歪についてもMBと同等かそれ以上の効果が得られ、耐熱性能についても、それと同等〜それ以上の効果を発揮する。特に、実施例1においては、MBと比較して、加硫に対する影響はかなり軽減されており、圧縮永久歪についてもかなりの性能の向上がみられる。
【0031】
(実施例5)潤滑油用安定剤としての効果試験(1)
製造例2で得た化合物(以下MBBA)0.2重量%及び比較例としてノンフレックスDCD(精工化学株式会社製)0.2重量%とステアラーLAS(精工化学製)、ステアラーSTAR(精工化学株式会社製)0.2重量%及び150ニュートラル油99.8重量%からなる組成物を、JIS K2514 回転ボンベ式酸化安定度試験(RBOT)に供し、得られた酸素吸収誘導時間の結果を表3に示した。
【0032】
【表3】

【0033】
酸素吸収誘導時間は、酸化安定性の尺度として測定され、その時間が長ければ長いほど酸化安定性が良い。従って、本発明に係るイミダゾール誘導体は例示のアミン系酸化防止剤と同等か、それ以上の潤滑油に対する酸化防止性能を持つことが判明した。
【0034】
(実施例6)潤滑油用安定剤としての効果試験(2)
次に、着色防止効果について試験した。NOx試験については以下のような手順で行った。
1)所定量のサンプルをスクリュー管にはかり、DMAc15gを加え、溶解させる。
2)完全に溶解させたサンプル液をバイアルびんに10gはかりとり、密栓(ゴムキャップ、アルミホルダー)する。
3)NOx発生装置で発生させたNOxガスを、シリンジを使って2mlとり、サンプル液を入れたバイアルびんに注入し、よく振ってNOxガスとサンプル液を混ぜる。
4)室温にて1時間放置後、ガードナー比色計で標準液と比較し、色数を求める。
その結果を以下の表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
本発明に係るイミダゾール誘導体は、市販のアミン系酸化防止剤と比較し、着色安定性が高いことが確認された。
【0037】
(実施例7)ウレタン製造時における酸化防止効果試験(1)
製造例2で得た化合物(以下MBBA)0.2重量%とステアラーSTAR(精工化学株式会社製)0.2重量%及びポリエーテルポリオール99.6重量%からなる組成物、比較例としてBHT0.2重量%とステアラーSTAR(精工化学株式会社製)0.2重量%及びポリエーテルポリオール99.6重量%からなる組成物をJIS K2514 回転ボンベ式酸化安定度試験(RBOT)に供し、得られた酸素吸収誘導時間の結果を表5に示した。
【0038】
【表5】

【0039】
酸素吸収誘導時間は、酸化安定性の尺度として測定され、その時間が長ければ長いほど酸化安定性が良い。本発明に係るイミダゾール誘導体は、市販品のアミン系酸化防止剤と同等か、それ以上のポリオールに対する酸化防止性能を持つことが判明した。即ち、市販の酸化防止剤との併用で、BHT同等以上のポリオールに対する酸化防止性能を持つことが判明した。
【0040】
(実施例8)ウレタン製造時における酸化防止効果試験(2)
BHTを使用したこと以外は、実施例6と同じ手順で着色防止効果についての試験を行った。その結果は表6に示す。
【0041】
【表6】

【0042】
本発明に係るイミダゾール誘導体は例示のアミン系酸化防止剤と比較し、着色安定性が高いことが判明した。更に、市販のアミン系酸化防止剤にこのイミダゾール誘導体を添加したとき、BHT同様着色を抑える効果があることが判明した。以上のことから、本発明に係るイミダゾール誘導体は従来のアミン系酸化防止剤と比較し、ポリオールの酸化防止と着色安定性において優れており、それゆえに優れたスコーチ防止剤となりうることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類は、ゴムの添加剤として使用したとき、現在汎用されている2−メルカプトベンゾイミダゾールと同等かそれ以上の効果を発揮できるだけでなく、2−メルカプトベンゾイミダゾールの欠点とされる加硫に対する悪影響も少なく、圧縮永久歪についてもかなりの性能の向上が認められることから、ゴム組成物用の添加剤として有用である。当然のことながら、2−メルカプトベンゾイミダゾールが使用される分野において、同等〜それ以上の効果の発揮が期待される。また、2−メルカプトベンゾイミダゾールのように飛散の問題がなく、作業者が作業中に吸引してしまう心配がないため、2−メルカプトベンゾイミダゾール特有の使用時における「苦み」による不快感を作業者が感ずることはない。また、上記の実施例6〜8から明らかなように、潤滑油の酸化防止剤として、また、ポリオールの酸化防止と着色安定性において優れていることから、優れたスコーチ防止剤としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1、2又は3
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表される2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類。
【請求項2】
該2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類が、N,N’−ジ(3−プロピオン酸)ベンゾイミダゾリン−2−チオンジアルキルエステル類、又はN−(3−プロピオン酸)−2−メルカプトベンゾイミダゾールアルキルエステル類である、請求項1に記載の2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類。
【請求項3】
該2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類が、N,N’−ジ(3−プロピオン酸)ベンゾイミダゾリン−2−チオンジ(n−ブチル)エステル、又はN−(3−プロピオン酸)−2−メルカプトベンゾイミダゾールn−ブチルエステルである、請求項1又は2に記載の2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類。
【請求項4】
下記式(1)
【化2】

(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
で表される2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類の添加剤としての使用。
【請求項5】
該2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類の添加剤としての使用が、ゴム組成物における使用、潤滑油での使用又はポリウレタン製造時におけるスコーチ防止のための使用である請求項4に記載の使用。
【請求項6】
該2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類が、N,N’−ジ(3−プロピオン酸)ベンゾイミダゾリン−2−チオンジアルキルエステル類、又はN−(3−プロピオン酸)−2−メルカプトベンゾイミダゾールアルキルエステル類である、請求項4又は5に記載の使用。
【請求項7】
該2−メルカプトベンゾイミダゾールプロピオン酸エステル類が、N,N’−ジ(3−プロピオン酸)ベンゾイミダゾリン−2−チオンジ(n−ブチル)エステル、又はN−(3−プロピオン酸)−2−メルカプトベンゾイミダゾールn−ブチルエステルである、請求項4〜6のいずれか1項に記載の使用。

【公開番号】特開2007−186491(P2007−186491A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236629(P2006−236629)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000195616)精工化学株式会社 (28)
【Fターム(参考)】