説明

イミド樹脂およびその製造方法、これを用いる光学用樹脂組成物、成形体

【課題】 本発明は、着色性が改善された、透明でポリメタクリル酸メチルに比べ耐熱性が優れたイミド樹脂を提供することを目的とする。
【解決手段】 (メタ)アクリル酸エステル系樹脂を一級アミンで処理する方法により得られる、グルタルイミド単位とアクリル酸エステル単位を含有するイミド樹脂を提供した。黄色度の値を2以下とすることができる。これまでポリメタクリル酸メチルを使用できなかった、耐熱性と透明性が要求される用途に使用することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色性が改善されたイミド樹脂、またはこれを含有する光学用樹脂組成物、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器はますます小型化し、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表されるように、軽量・コンパクトという特長を生かし、多様な用途で用いられるようになってきている。一方、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの分野では画面の大型化に伴う重量増を抑制することも要求されている。
【0003】
上述のような電子機器をはじめとする、透明性が要求される用途においては、従来ガラスが使用されていた部材を透明性が良好な樹脂へ置き換える流れが進んでいる。
【0004】
ポリメタクリル酸メチルを代表とする種々の透明樹脂は、ガラスと比較して成形性、加工性が良好で、割れにくい、さらに軽量、安価という特徴などから、液晶ディスプレイや光ディスク、ピックアップレンズなどへの展開が検討され、一部実用化されている。
【0005】
自動車用ヘッドランプカバーや液晶ディスプレイ用部材など、用途の拡大に従って、透明樹脂は透明性に加え、耐熱性も求められるようになっている。ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンは透明性が良好であり、価格も比較的安価である特徴を有しているものの、耐熱性が低いため、このような用途においては適用範囲が制限される。
【0006】
そのためポリメタクリル酸メチルの耐熱性を改善する方法として、ポリメチルメタクリレートに一級アミンを処理して、イミド化することで耐熱性を向上させるという技術が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。これらのポリメタクリル酸メチル等に一級アミンを処理して得られるイミド樹脂は透明性や耐熱性が良好であり、各種用途、例えば光学用途などで有効に使用できる可能性がある。
【0007】
しかし、これら公報に記載されている方法において得られるイミド樹脂は、着色抑制効果は十分ではなく、近年のより高度な無色性の要求を満たすものではなかった。
【0008】
従って、高い耐熱性と無色透明性が両立された熱可塑性樹脂が求められていた。
【特許文献1】米国特許第4246374号公報
【特許文献2】米国特許第4727117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、上記課題を鑑みて成されたものであって、着色性が改善された、透明でポリメタクリル酸メチルに比べ耐熱性が優れたイミド樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を鑑み鋭意検討した結果、例えば(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を一級アミンで処理する方法により得られるイミド樹脂を特定の条件で製造することにより、得られる樹脂の着色性が顕著に抑制でき、従来の知見では成し得ることができなかった高度な無色透明性を達成し、かつ耐熱性に優れたイミド樹脂が製造可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、[1]下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有するイミド樹脂であり、当該イミド樹脂の黄色度の値が2以下であり、かつガラス転移温度が110℃以上であることを特徴とするイミド樹脂、
【0012】
【化1】

【0013】
(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0014】
【化2】

【0015】
(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)、
【0016】
[2]更に一般式(3)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする[1]記載のイミド樹脂、
【0017】
【化3】

【0018】
(ここで、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)、[3]配向複屈折が0〜0.1×10-3である、請求項1〜2に記載のイミド樹脂、[4]不活性ガス雰囲気下で(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を一級アミン40部以下で処理する方法により得られる[1]〜[3]に記載のイミド樹脂、[5][4]に記載のイミド樹脂の製造方法、[6][1]〜[4]に記載のイミド樹脂を主成分とする光学用樹脂組成物、[7][6]記載の光学用樹脂組成物からなる成形体である。
【発明の効果】
【0019】
上記構成によれば、着色性が改善された、透明でポリメタクリル酸メチルに比べ耐熱性が優れたイミド樹脂を提供することが可能となり、従来耐熱性の問題でポリメタクリル酸メチルではガラスの置換ができなかった成形体への展開が可能となる可能性があり、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、特定の条件で(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を一級アミンで処理する方法により得られる着色性と耐熱性が両立されたイミド樹脂に関するものである。また、前記イミド樹脂は、特に下記一般式(1)、(2)で表される繰り返し単位を含有するイミド樹脂であることが好ましく、更に一般式(3)で表される繰り返し単位を含有するイミド樹脂であることが好ましい。
【0021】
【化4】

【0022】
(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0023】
【化5】

【0024】
(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0025】
【化6】

【0026】
(ここで、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0027】
また本発明のイミド樹脂は、黄色度(Yellowness Index)の値が2以下であることが必要である。尚、ここでいう黄色度(Yellowness Index)とは、上記イミド樹脂を溶液流延法により得られる厚さ50μmのフィルムをJIS K7105−1981の6.3記載の方法により、分光式色差計SE−2000(日本電色工業(株)製)を用いて測定したYI値である。また、本発明のイミド樹脂はガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが耐熱性の面で必要である。尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(島津製作所社製DSC−50)を用いて、昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度(Tg)である。
【0028】
さらに、本発明のイミド樹脂は、配向複屈折が0以上、0.1×10-3以下であることが好ましい。尚、ここでいう配向複屈折とは、上記イミド樹脂を溶液流延法により得られるフィルムをガラス転移温度+5℃で2倍に一軸延伸後、自動複屈折計(王子計測機器株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%、波長590nm、入射角0゜の条件で測定した複屈折である。
【0029】
以下、本発明の好ましいイミド樹脂の分子構造、またはその製造方法について説明する。但し、本発明はこれのみに限定されるものではない。本発明の好ましいイミド樹脂を構成する第一の構成単位は、下記一般式(1)で表されるものであり、一般的にグルタルイミド単位と呼ばれることが多い(以下、一般式(1)をグルタルイミド単位と省略して示すことがある。)。
【0030】
【化7】

【0031】
(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0032】
好ましいグルタルイミド単位としては、R1、R2が水素またはメチル基であり、R3が水素、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基である。R1がメチル基であり、R2が水素であり、R3がメチル基である場合が、特に好ましい。
【0033】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R1、R2、R3が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0034】
尚、グルタルイミド単位は、以下に説明する第二の構成単位をイミド化することにより形成することが可能である。また、無水マレイン酸等の酸無水物またはそれらと炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸などもイミド化可能であり、グルタルイミド単位の形成に用いることができる。
【0035】
本発明の好ましいイミド樹脂を構成する第二の構成単位は、下記一般式(2)で表されるものであり、一般的には(メタ)アクリル酸エステル単位と呼ばれることが多い(以下、一般式(2)を(メタ)アクリル酸エステル単位と省略して示すことがある。)。
【0036】
【化8】

【0037】
(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0038】
本発明の好ましいイミド樹脂に必要に応じて含有させる第三の構成単位は、下記一般式(3)で表されるものであり、一般的には芳香族ビニル単位と呼ばれることが多い(以下、一般式(3)を芳香族ビニル単位と省略して示すことがある。)。
【0039】
【化9】

【0040】
(ここで、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0041】
好ましい芳香族ビニル構成単位としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でスチレンが特に好ましい。
【0042】
これら第三の構成単位は、単一の種類でもよく、R7、R8が異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0043】
本発明のイミド樹脂中の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、例えばR3の構造にも依存するが、イミド樹脂の10重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の好ましい含有量は、15重量%から90重量%であり、より好ましくは20〜80重量%である。グルタルイミド単位の割合がこの範囲より小さい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれることがある。また、この範囲を超えると黄色度が悪くなる他、得られる成形体の機械的強度は極端に脆くなり、また、透明性が損なわれることがある。
【0044】
イミド樹脂の、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、イミド樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上が好ましい。芳香族ビニル単位の、好ましい含有量は、10重量%から40重量%であり、より好ましくは15〜30重量%、さらに好ましくは、15〜25重量%である。芳香族ビニル単位がこの範囲より大きい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足する。この範囲より小さい場合、得られる成形体の機械的強度が低下することがある。
【0045】
一般式(1)、(2)、(3)の割合を調整することで、各種要求される物性に調整することが可能である。例えば、本発明のイミド樹脂を、先ずメタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を重合した後にイミド化して形成する場合、例えば(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルの重合割合を調整することで一般式(3)の割合を決め(一般式(3)の割合を0とすることも可)、更にイミド化時のイミド化剤の添加割合を調整することで、更に一般式(1)、(2)の割合を調整することができる。
【0046】
本発明のイミド樹脂には、必要に応じ、更に、第四の構成単位が共重合されていてもかまわない。第四の構成単位として、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を用いることができる。これらは熱可塑性樹脂中に、直接共重合してあっても良く、グラフト共重合してあってもかまわない。
【0047】
本発明のイミド樹脂は以下の方法により好適に製造することができる。
【0048】
本発明のイミド樹脂を形成する為の原料樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が好適に使用でき、例えば一般式(2)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体、又は上記一般式(2)で示される繰り返し単位と、上記一般式(3)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体等が挙げられる。また、原料樹脂として使用する(メタ)アクリル酸エステル系樹脂は、リニアー(線状)ポリマーであっても、またブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマーであっても構わない。ブロックポリマーはA−B型、A−B−C型、A−B−A型、またはこれら以外のいずれのタイプのブロックポリマーであっても構わない。コアシェルポリマーはただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであっても、それぞれが多層になっていても構わない。
【0049】
(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を主原料とし、これにアンモニアまたは置換アミンなどのイミド化剤を処理することで得ることができる。
【0050】
前述のような製造方法以外でも本発明のイミド樹脂が得られる方法であれば、特に製造方法に制限はない。
【0051】
上記製法等で好適に使用可能なイミド化剤としては、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位を生成できるものであれば特に制限はないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンが挙げられる。また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素の如き加熱によりこれらのアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。これらのイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミン、アンモニア、シクロヘキシルアミンが好ましく、中でも、メチルアミンが特に好ましい。
【0052】
本発明のイミド樹脂を得るには、不活性ガス雰囲気下で(メタ)アクリル酸エステル系樹脂をイミド化剤で処理することが好ましい。酸素存在下でイミド化剤との処理を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。
【0053】
イミド化剤の添加量は、必要な物性を発現するためのイミド化率によって決定されるが、得られるイミド樹脂の黄色度を2以下にするためには、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂100重量部に対して、40重量部以下の割合が好ましく、30重量部以下がより好ましい。用いるイミド化剤の添加量が40重量部より多い場合には、イミド樹脂の黄色度が高くなる傾向が見られるため、無色透明な樹脂を得ることができないことがある。
【0054】
本発明のイミド樹脂を得るには、不活性ガス雰囲気下でイミド化剤と処理することが可能な装置であることが好ましく、例えば、押出機などを用いてもよくバッチ式反応槽(圧力容器)などを用いてもよい。
【0055】
本発明のイミド樹脂の製造方法を押出機にて行う場合には、各種押出機が使用可能であるが、例えば単軸押出機、二軸押出機あるいは多軸押出機等が使用可能である。特に、原料ポリマーに対するイミド化剤の混合を促進できる押出機として二軸押出機が好ましい。
【0056】
二軸押出機には非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式等があるが、二軸押出機の中では噛合い型同方向回転式が高速回転が可能であり、原料ポリマーに対するイミド化剤の混合を促進できるので好ましい。これらの押出機は単独で用いても、直列につないでも構わない。
【0057】
本発明のイミド樹脂を得るにはイミド化を進行させ、かつ過剰な熱履歴による樹脂の分解、黄色度などを抑制するために、反応温度は150〜400℃の範囲で行うことが好ましい。180〜320℃が好ましく、さらには200〜290℃が好ましい。
【0058】
また、押出機には未反応のイミド化剤あるいは一級アルコール類などの副生物やモノマー類を除去するために、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。
【0059】
押出機の代わりに、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に使用できる。
【0060】
本発明のイミド樹脂の製造方法をバッチ式反応槽(圧力容器)で行う際には、原料樹脂を不活性ガス雰囲気下において加熱により溶融、攪拌でき、イミド化剤を添加できる構造であれば特に制限ないが、反応の進行により溶融粘度が上昇することもあり、攪拌効率が良好なものがよい。例えば、住友重機械(株)製の攪拌槽マックスブレンドなどを例示することができる。
【0061】
イミド化剤によりイミド化する際には、一般に用いられる触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0062】
本発明のイミド樹脂中で、一般式(3)を含有するタイプは、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体中の各構成単位量及びグルタルイミド単位の含有量を調節する事で、光学異方性を小さくする事も可能である。ここでいう光学異方性が小さいことは、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが要求されることがある。すなわち、面内屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率をnx、ny、nz、フィルムの厚さをdとすると、面内位相差 Re=(nx−ny)×d 及び厚み方向位相差 Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d (||は絶対値を表す)がともに小さいことを意味している(理想となる、3次元方向について完全光学等方であるフィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthともに0となる。)。
【0063】
本発明の光学用フィルムは、フィルムの面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が20nm以下であることが好ましい。フィルムの面内位相差は、より好ましくは5nm以下である。厚み方向位相差は、より好ましくは10nm以下である。フィルムの面内位相差が10nmを超えたり、或いは厚み方向位相差が20nmを超える偏光子保護フィルムを偏光板として使用した場合、液晶表示装置においてコントラストが低下するなどの問題が発生する場合がある。
【0064】
本発明のイミド樹脂中で、一般式(3)を含有するタイプは、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体中の各構成単位量及びグルタルイミド単位の含有量を調節する事で実質的に配向複屈折を有さない特徴を付与する事も可能である(尚、必要に応じ、特定の配向複屈折に調整して使用することも可能である。)。配向複屈折とは所定の温度、所定の延伸倍率で延伸した場合に発現する複屈折の事をいう。本明細書中では、特にことわりのない限り、イミド樹脂のガラス転移温度より5℃高い温度で、100%延伸した場合に発現する複屈折の事をいうものとする。ここで、配向複屈折は、前述のnx、nyを用いて、△n=nx−ny=Re/dで定義される、位相差計により測定される。
【0065】
配向複屈折の値としては、0〜0.1×10-3である事が好ましく、0〜0.01×10-3である事がより好ましい。配向複屈折が上記の範囲外の場合、環境の変化に対して、成形加工時に複屈折を生じやすく、安定した光学的特性を得る事が難しくなる。
【0066】
実質的に配向複屈折を有さないイミド樹脂を得るためには、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体中の各構成単位量を調節、更にイミド化の程度を調製する必要があり、一般式(1)で示される繰り返し単位と、一般式(3)で示される繰り返し単位が、重量比で2.0:1.0〜4.0:1.0の範囲にあることが好ましく、2.5:1.0〜4.0:1.0の範囲がより好ましく、3.0:1.0〜3.5:1.0の範囲が更に好ましい。
【0067】
また、イミド樹脂は、1×104ないし5×105の重量平均分子量を有することが好ましい。重量平均分子量が1×104を下回る場合には、成形品にした場合の機械的強度が不足し、5×105を上回る場合には、溶融時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下することがある。
【0068】
本発明のイミド樹脂のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記の値を下回ると、耐熱性が要求される用途においては適用範囲が制限される。
【0069】
本発明のイミド樹脂は製造する際に副生するカルボキシル基や酸無水物基を減少させる目的で、エステル化剤による変性を行うことも可能である。
【0070】
エステル化剤としては、例えば、ジメチルカーボネート、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0071】
本発明のイミド樹脂には、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂を添加することができる。
【0072】
成形加工の際には、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0073】
本発明のイミド樹脂からなる成形体を成形する方法としては、従来公知の任意の方法が可能である。例えば、射出成形、溶融押出フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、圧縮成形、紡糸成形等が挙げられるが挙げられる。また、本発明のイミド樹脂を溶解可能な溶剤に溶解させた後、成形させる溶液流延法も可能である。その何れをも採用する事が出来るが、溶剤を使用しない溶融押出法が、本発明の効果が顕著に表れ易く、又、製造コストや溶剤による地球環境への影響等の観点から好ましい。
【0074】
本発明のイミド樹脂から得られる成形品は、そのまま最終製品として各種用途に使用する事ができる。或いは各種加工を行って、種々の用途に使用できる。例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)等が挙げられる。特に、本発明の成形体及びフィルムは、その優れた光学的均質性、透明性、低複屈折性等を利用して光学的等方フィルム、偏光子保護フィルムや透明導電フィルム等液晶表示装置周辺等の公知の光学的用途に好適に用いる事ができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0076】
(1)イミド化率の測定
生成物のペレットをそのまま用いて、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度(Absester)と、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度(Absimide)の比からイミド化率(Im%)を求めた。ここで、イミド化率とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0077】
(2)ガラス転移温度(Tg)
生成物10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、(株)島津製作所製DSC−50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0078】
(3)黄色度
生成物を塩化メチレンに溶解させ、溶液流延法により厚さ50μmのキャストフィルムを得た。フィルムから、50mm×50mmの試験片を切り出し、JIS K7105−1981の6.3記載の方法により、日本電色工業(株)製分光式色差計SE−2000を用いて測定した。
【0079】
(4)ヘーズ
(3)で得た試験片を、JIS K7105−1981の6.4記載の方法により、日本電色工業(株)製濁度計NDH−300Aを用いて測定した。
【0080】
(5)全光線透過率
(3)で得た試験片を、JIS K7105−1981の5.5記載の方法により、日本電色工業(株)製濁度計NDH−300Aを用いて測定した。
【0081】
(6)配向複屈折
(3)で得たキャストフィルムから、幅50mm×長さ150mmのサンプルを切り出し、延伸倍率2倍で、ガラス転移温度より5℃高い温度で、一軸延伸フィルムを作成した。この一軸延伸フィルムのTD方向の中央部から35mm×35mmの試験片を切り出した。この試験片を、自動複屈折計(王子計測機器株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0゜で位相差を測定した。この位相差を、デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した試験片の厚みで割った値を配向複屈折とした。
【0082】
(実施例1)
原料樹脂である(メタ)アクリル酸エステル系樹脂としてメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS)樹脂(一般式2と一般式3の組成は80モル%:20モル%)100重量部を、イミド化剤としてモノメチルアミン(三菱ガス化学株式会社製)を20重量部用いて、イミド樹脂を製造した。
【0083】
使用した押出機はL/D=90、口径40mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機である。ホッパーより不活性ガスである窒素を200ml/minの流量で押出機内にフローした。押出機の反応ゾーン(一級アミン添加口からベント口の間)の設定温度を270℃、スクリュー回転数は200rpmとした。ホッパーから110℃で8時間乾燥させた原料樹脂を20kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから原料樹脂に対して20重量部のモノメチルアミン(4kg/hr)を注入した。反応ゾーンの末端(ベント口の手前)にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のモノメチルアミンをベント口の圧力を−0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。
【0084】
得られたイミド樹脂の得られたの種々の特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
(実施例2〜4および比較例1〜3)
原料の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の種類およびイミド化条件を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にイミド樹脂の製造を行った。得られたイミド樹脂の種々の特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0087】
(実施例5)
原料樹脂100重量部とともに、熱安定剤として、0.2重量部のチバ・スペシャリティー・ケミカルズ製イルガノックス1010を用いて、実施例1と同様に、イミド樹脂を製造した。得られたイミド樹脂の種々の特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0088】
(実施例6)
熱安定剤を、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製イルガノックスHP2215へ変更した以外は、実施例5と同様に、イミド樹脂を製造した。得られたイミド樹脂の種々の特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0089】
(実施例7)
押出機各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数150rpmとした口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機のホッパーへ、実施例1で得られたイミド樹脂を1kg/hrの速度で供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂100重量部に対して、エステル化剤として8重量部の炭酸ジメチル、および触媒として2重量部のトリエチルアミンの混合液を注入し、樹脂中のカルボキシル基の低減を行った。また、反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。その後、反応後の副生成物および過剰の炭酸ジメチルをベント口の圧力を−0.09MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。
【0090】
さらに、この様にして得られたエステル化剤により変性されたイミド樹脂のペレットを、口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機にて、押出機各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数150rpm、供給量1kg/hrの条件で、ベント口の圧力を−0.09MPaに減圧して、残存する揮発分を除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。
【0091】
この残存する揮発分を除去したペレット100重量部を単軸押出機にてペレットにし、得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、400mm幅のTダイを取り付けた40mm単軸押出機を用いて240℃で押出し、厚み150μmのフィルムを得た。得られたイミド樹脂の種々の特性を評価し、その結果を表2に示した。なお、表中の黄色度、透明性、全光線透過率は厚み50μmに換算した数値を記載した。
【0092】
【表2】

【0093】
(実施例8)
残存する揮発分を除去する工程において、エステル化剤により変性されたイミド樹脂100重量部とともに、熱安定剤として、0.2重量部のチバ・スペシャリティー・ケミカルズ製イルガノックス1010を用いた以外は、実施例7と同様に行った。得られたイミド樹脂の種々の特性を評価し、その結果を表2に示した。なお、表中の黄色度、透明性、全光線透過率は厚み50μmに換算した数値を記載した。
【0094】
(実施例9)
熱安定剤を、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製イルガノックスHP2215へ変更した以外は、実施例8と同様に、イミド樹脂を製造した。得られたイミド樹脂の種々の特性を評価し、その結果を表2に示した。なお、表中の黄色度、透明性、全光線透過率は厚み50μmに換算した数値を記載した。
【0095】
(比較例4)
実施例1で得られたイミド樹脂を、比較例1で得られたイミド樹脂へ変更した以外は、実施例8と同様に、イミド樹脂を製造した。得られたイミド樹脂の種々の特性を評価し、その結果を表2に示した。なお、表中の黄色度、透明性、全光線透過率は厚み50μmに換算した数値を記載した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有するイミド樹脂であり、当該イミド樹脂の黄色度の値が2以下であり、かつガラス転移温度が110℃以上であることを特徴とするイミド樹脂。
【化1】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化2】

(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【請求項2】
更に一般式(3)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする請求項1記載のイミド樹脂。
【化3】

(ここで、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【請求項3】
配向複屈折が0〜0.1×10-3である、請求項1〜2に記載のイミド樹脂。
【請求項4】
不活性ガス雰囲気下で、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂100重量部に対して、一級アミン40重量部以下の割合で処理する方法により得られる、請求項1〜3に記載のイミド樹脂。
【請求項5】
請求項4に記載のイミド樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4に記載のイミド樹脂を主成分とする光学用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6記載の光学用樹脂組成物からなる成形体。

【公開番号】特開2007−9191(P2007−9191A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149051(P2006−149051)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】