説明

イミド樹脂

【課題】 透明性等の光学特性に優れ、且つ、高温における成形加工時の揮発ガスの発生量を抑制した、成形加工性に優れるイミド樹脂を提供することを目的とする。
【解決手段】 ヘリウム雰囲気下、280℃、30分間加熱した時に発生する揮発ガスの発生量が樹脂1g当たり700μg以下、特に沸点が150℃以上の揮発ガス発生の発生量が樹脂1g当たり500μg以下であるイミド樹脂は、成形加工時の揮発ガスの発生量を抑制した、成形加工性に優れるイミド樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性等の光学特性に優れ、且つ高温においてなされる成形加工時に樹脂中から発生する揮発ガスの発生量が少ないイミド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器はますます小型化し、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表されるように、軽量・コンパクトという特長を生かし、多様な用途で用いられるようになってきている。一方、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの分野では画面の大型化に伴う重量増を抑制することも要求されている。
【0003】
上述のような電子機器をはじめとする、透明性が要求される用途においては、従来ガラスが使用されていた部材を透明性が良好な樹脂への置き換えの流れが進んでいる。
【0004】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体を代表とする種々の透明樹脂は、成形性、加工性が良好で、割れにくい、さらに軽量、安価という特徴などから、液晶ディスプレイや光ディスク、ピックアップレンズなどへの展開が検討され、一部実用化されている。
【0005】
自動車用ヘッドランプカバーや液晶ディスプレイ用部材など、用途の展開に従って、透明樹脂は透明性に加え、耐熱性も求められるようになっている。(メタ)アクリル酸エステル系重合体やスチレン系重合体は透明性が良好であり、価格も比較的安価である特徴を有しているものの、耐熱性が低いため、このような用途においては適用範囲が制限される。
【0006】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の耐熱性を改善する一つの方法として、(メタ)アクリル酸エステル系重合体に一級アミンを処理して、イミド化することにより耐熱性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。これらの(メタ)アクリル酸エステル系重合体に一級アミンを処理して得られるイミド樹脂は透明性や耐熱性が良好であり、各種用途、例えば光学用途等で好適に使用することができる可能性がある。特に、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体によるイミド樹脂は、イミド化の反応率に加え、共重合体ゆえにその組成比を任意に制御できるために、位相差等の光学特性や各種特性が(メタ)アクリル酸エステル系重合体を原料とするイミド樹脂より幅広い特徴を有することが期待される(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
このように特徴があり、幅広い用途へ期待されているメタクリル酸メチル−スチレン共重合体や(メタ)アクリル酸エステル系重合体を原料とするイミド樹脂(以下、単にイミド樹脂と言うことがある)であるが、溶融粘度が高いために高温下で成形加工する必要がある。このような高温下での成形加工時において揮発ガスが発生し、この揮発ガスに起因する成形機の汚染、例えば溶融製膜時にロールを汚染させる場合があった。この揮発ガスの発生を抑制するために、従来はイミド樹脂の熱履歴による分解との考え方から熱安定剤の添加などが検討されてきたが、その効果には改良の余地があった。
【特許文献1】米国特許4、246、374号
【特許文献2】WO2005/054311号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、以上のような課題を解決する為になされたものであり、成形加工時の揮発ガスの発生量を抑制した、成形加工性に優れるイミド樹脂を提供することを目的とする。また、さらに、フィルムにした場合に、機械特性が良好な樹脂を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決する為鋭意検討を行った結果、驚いたことに揮発ガス成分の主成分は樹脂の分解物、モノマーや重合溶媒に加え、イミド樹脂中に含まれる高沸点成分が主成分であることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(I) ヘリウム雰囲気下、280℃、30分間加熱した時に発生する揮発ガスの発生量が樹脂1g当たり700μg以下であることを特徴とするイミド樹脂。
(II)前記揮発ガスの発生量のうち、沸点が150℃以上の揮発ガスの発生量が1g当たり500μg以下であることを特徴とする(I)記載のイミド樹脂。
(III)前記イミド樹脂が、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位と、更に必要に応じ下記一般式(3)で表される単位を含んで形成されることを特徴とする、請求項(I)記載のイミド樹脂。
【0011】
【化1】

(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0012】
【化2】

(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0013】
【化3】

(但し、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温での成形条件下でも揮発ガスの発生が少ない、成形加工性に優れたイミド樹脂を提供することが可能となり、その結果揮発ガスに起因する欠陥がなく、表面性に優れる成形体を得られ、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のイミド樹脂は、ヘリウム雰囲気下、280℃、30分間加熱した時に発生する揮発ガスの発生量が樹脂1g当たり700μg以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明における揮発ガスは、通常問題となる原料のアクリル系樹脂のモノマーや重合時等に使用する溶媒等とともに、アクリル系樹脂やイミド樹脂中に存在する高沸点の揮発ガスである。高沸点の揮発ガスの主成分としては、(メタ)アクリル酸エステルの2量体、スチレンの2量体、3量体等、(メタ)アクリル酸エステルとスチレンからなる2量体、3量体等が挙げられる。これらの2量体、3量体等が多い場合、溶融製膜時のロール汚染等が顕著になる。また極端に多い場合は樹脂の安定性低下や着色を引き起こすこともある。
【0017】
以下、本発明における揮発ガスの発生量は、特に記載のない限りヘリウム雰囲気下、280℃、30分間加熱したときに発生するものである。本発明におけるこれらの揮発ガスの発生量の定量は、加熱脱着装置を取り付けたガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)により行うことができる。特定の溶剤を用いて検量線を作成し、GC/MSにより得られるトータルイオンクロマトグラムによる面積から揮発ガスの発生量を見積もることができる。本発明においては、スチレンによる検量線を用い、樹脂1g当たりの揮発ガスの発生量を定量できる。また、本発明においては、揮発ガスの発生量はGC/MSにおいて沸点40℃〜320℃における揮発分量の合計量を示す。
【0018】
成形加工時の成形機への汚染性や、成形品の欠陥を考慮すると、揮発ガスの発生量は、樹脂1g当たり700μg(以下700μg/g)以下であることが好ましく、より好ましくは500μg/g以下、さらに好ましくは400μg/g以下、特に好ましくは300μg/g以下である。揮発ガスの発生量が700μg/gより多い場合は成形加工時に揮発ガスが大量に発生し、その結果としてダイスやロール等に付着してメヤニや凹み欠陥、ダイラインの原因などになることがあり、好ましくない。
【0019】
本発明においては、揮発ガスの発生量を樹脂1g当たり700μg/g以下とする方法は、イミド樹脂の原料である上記一般式(2)で示される繰り返し単位と、上記一般式(3)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、又は一般式(2)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体等に含まれる揮発ガスの発生量が少ないものを用いることにより得られる。原料中の揮発ガス量を減少させる方法としては、例えば、特開昭57−149311、特開昭57−153009、特開平10−152505、特開2001−31046、特開2004−27191に記載があるように、重合温度、重合溶媒種およびモノマー濃度、開始剤種・量や連鎖移動剤種・量などの調整によっても可能である。さらに、重合後の未反応モノマーや重合溶媒等の脱揮、除去により減少させることも可能である。未反応モノマーや重合溶媒等の脱揮、除去はベント付き押出機やフラッシュタンク等の公知の方法が活用可能である。また、これらの設備を複数用いて、多段とすることにより効率的に脱揮、除去が可能であり、好ましい。未反応モノマーや重合溶媒等の脱揮、除去の条件(温度、真空度など)も重要であり、市販の(メタ)アクリル酸エステル重合体を真空乾燥することや再沈澱によっても可能である。
【0020】
また、上記一般式(2)で示される繰り返し単位と、上記一般式(3)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体の場合は、上記一般式(3)で示される繰り返し単位の割合が少ない方が(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体中の揮発分も少なくなる。
【0021】
さらには、イミド樹脂中の揮発ガスの発生量は製造法によっても減少させることができる。例えば、製造されたイミド樹脂から揮発ガスを減圧下除去する方法や、トルエンなどの非反応性溶剤共存下や二酸化炭素などの液化ガス共存下で反応および減圧下除去する方法などが適用可能である。
【0022】
本発明において発生する揮発ガスの中でも沸点が150℃以上の高沸点揮発ガスの発生量がイミド樹脂1g当たり500μg(以下500μg/g)以下であることが好ましく、400μg/g以下であることがより好ましく、300μg/gであることがさらに好ましい。沸点が150℃以上の高沸点揮発ガスは、沸点が150℃未満の揮発ガスに比べてダイスやロールにより付着しやすく汚染の原因となる可能性がより高い。
【0023】
本発明におけるイミド樹脂は、ヘリウム雰囲気下、280℃、30分間加熱した時に発生する揮発ガスの発生量が樹脂1g当たり700μg以下であれば特に制限されないが、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位と、更に必要に応じ下記一般式(3)で表される単位を含んで形成されることが好ましい。
【0024】
【化4】

(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0025】
【化5】

(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0026】
【化6】

(但し、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0027】
以下、本発明の好ましいイミド樹脂の分子構造、またはその製造方法について説明する。本発明はこれに限定されるものではない。本発明の好ましいイミド樹脂を構成する第一の構成単位は、前記一般式(1)で表されるものであり、一般的にグルタルイミド単位と呼ばれることが多い(以下、一般式(1)をグルタルイミド単位と省略して示すことがある。)。
【0028】
好ましいグルタルイミド単位としては、R1、R2が水素またはメチル基であり、R3が水素、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基である。R1がメチル基であり、R2が水素であり、R3がメチル基である場合が、特に好ましい。
【0029】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R1、R2、R3が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0030】
尚、グルタルイミド単位は、以下に説明する第二の構成単位をイミド化することにより形成することが可能である。また、無水マレイン酸等の酸無水物またはそれらと炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸などもイミド化可能であり、グルタルイミド単位の形成に用いることができる。
【0031】
本発明の好ましいイミド樹脂を構成する第二の構成単位は、前記一般式(2)で表されるものであり、一般的には(メタ)アクリル酸エステル単位と呼ばれることが多い(以下、一般式(2)を(メタ)アクリル酸エステル単位と省略して示すことがある。)。
【0032】
本発明の好ましいイミド樹脂に必要に応じて含有させる第三の構成単位は、前記一般式(3)で表されるものであり、一般的には芳香族ビニル単位と呼ばれることが多い(以下、一般式(3)を芳香族ビニル単位と省略して示すことがある。)
好ましい芳香族ビニル構成単位としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でスチレンが特に好ましい。
【0033】
これら第三の構成単位は、単一の種類でもよく、R7、R8が異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0034】
本発明のイミド樹脂中の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、例えばR3の構造にも依存するが、イミド樹脂の10重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の好ましい含有量は、15重量%から90重量%であり、より好ましくは20〜80重量%である。グルタルイミド単位の割合がこの範囲より小さい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれることがある。また、この範囲を超えると不必要に耐熱性、溶融粘度が上がり、成形加工性が悪くなる他、得られる成形体の機械的強度は極端に脆くなり、また、透明性が損なわれることがある。
【0035】
イミド化樹脂の、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、イミド樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上が好ましい。芳香族ビニル単位の、好ましい含有量は、10重量%から40重量%であり、より好ましくは15〜30重量%、さらに好ましくは、15〜25重量%である。芳香族ビニル単位がこの範囲より大きい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足する。この範囲より小さい場合、得られる成形体の機械的強度が低下することがある。
【0036】
一般式(1)、(2)、(3)の割合を調整することで、各種要求される物性に調整することが可能である。例えば、本発明のイミド樹脂を、先ずメタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を重合した後にイミド化して形成する場合、例えば(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルの重合割合を調整することで一般式(3)の割合を決め(一般式(3)の割合を0とすることも可)、更に後イミド化時のイミド化剤の添加割合を調整することで、更に一般式(1)、(2)の割合を調整することができる。
【0037】
本発明のイミド樹脂には、必要に応じ、更に、第四の構成単位が共重合されていてもかまわない。第四の構成単位として、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を用いることができる。これらは熱可塑性樹脂中に、直接共重合してあっても良く、グラフト共重合してあってもかまわない。
【0038】
本発明のイミド樹脂は以下の方法により好適に製造することができる。
【0039】
先ず上記一般式(2)で示される繰り返し単位と、上記一般式(3)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、又は一般式(2)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体などを主原料とし、これにアンモニアまたは置換アミンなどのイミド化剤を処理した樹脂(以下、イミド樹脂中間体1と呼ぶことがある)を得ることができる。
【0040】
ここで、本発明のイミド樹脂を得るためには、原料である一般式(2)で示される繰り返し単位と、上記一般式(3)で示される繰り返し単位からなる(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、又は、一般式(2)で示される繰り返し単位からなる(メタ)アクリル酸エステル重合体中の揮発ガスの発生量が樹脂1gあたり4000μg/g以下であることが好ましく、3000μg/g以下であることがさらに好ましい。揮発ガスの発生量が4000μg/gよりも多いとロール汚染性がひどくなり好ましくない。
【0041】
このイミド樹脂中間体1を得る際に、カルボキシル基および酸無水物基(以下、酸性分と呼ぶことがある)がイミド樹脂の側鎖に生成されることが多く、これに起因して他のポリマーとの相溶性が悪化したり、成形加工時に発泡したりすることがある。そこで、イミド樹脂中間体1をエステル化剤で処理し、必要により加熱処理等を行うことで、樹脂中に残存するカルボキシル基の割合を調整することが可能である(イミド樹脂中間体2)。酸成分量は滴定により酸価として定量することが可能である。
【0042】
さらに、イミド樹脂中間体2を減圧脱揮などにより、樹脂中に含まれる未反応のエステル化剤や一級アミン、またメタノール等の反応副生物、その他の揮発分が除去することにより、本発明のイミド樹脂を得ることができる。
【0043】
前述のような製造方法以外でも本発明のイミド樹脂が得られる方法であれば、特に製造方法に制限はない。
【0044】
以下、上記で示した各処理に使用する成分について説明する。
【0045】
本発明のイミド化剤は一般式(1)で表されるグルタルイミド単位を生成できるものであれば特に制限はないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンが挙げられる。また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素の如き加熱によりこれらのアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。これらのイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミン、アンモニア、シクロヘキシルアミンが好ましく、中でも、メチルアミンが特に好ましい。
【0046】
イミド化剤の添加量は必要な物性を発現するためのイミド化率によって決定される。
【0047】
イミド化剤によりイミド化する際には、一般に用いられる触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0048】
一方、エステル化剤としては、例えば、ジメチルカーボネート、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0049】
エステル化剤の添加量は必要な物性を発現するための特性によって決定される。
【0050】
イミド樹脂中間体1をエステル化剤での処理、および加熱処理する際には、一般に用いられる触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0051】
本発明のイミド樹脂中間体1およびイミド樹脂中間体2およびイミド樹脂を得るには、押出機などを用いてもよく、バッチ式反応槽(圧力容器)などを用いてもよい。
【0052】
本発明のイミド樹脂の製造方法を押出機にて行う場合には、各種押出機が使用可能であるが、例えば単軸押出機、二軸押出機あるいは多軸押出機等が使用可能である。特に、原料ポリマーに対するイミド化剤あるいはエステル化剤の混合を促進できる押出機として二軸押出機が好ましい。二軸押出機には非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式等があるが、二軸押出機の中では噛合い型同方向回転式が高速回転が可能であり、原料ポリマーに対するイミド化剤あるいはエステル化剤の混合を促進できるので好ましい。これらの押出機は単独で用いても、直列につないでも構わない。
【0053】
また、押出機には未反応のイミド化剤あるいは一級アルコール類などの副生物やモノマー類を除去するために、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。さらに、得られたイミド樹脂中に含まれるイミド化剤を1000ppm以下にするために、イミド樹脂を大気圧以下に減圧可能なベント口を装着した押出機などにより脱揮処理することが好ましい。このような脱揮処理によっても、本発明における揮発ガスを減少させることが可能であることから、好ましい製造法である。
【0054】
本発明のイミド樹脂中間体1およびイミド樹脂中間体2を得るにはイミド化あるいは酸成分量低減の反応を進行させ、かつ過剰な熱履歴による樹脂の分解、着色などを抑制するために、反応温度は150〜400℃の範囲で行う。180〜320℃が好ましく、さらには200〜280℃が好ましい。
【0055】
本発明のイミド樹脂中間体2を用いてイミド樹脂を得るにはエステル化剤等の除去を進行させ、かつ過剰な熱履歴による樹脂の分解、着色などを抑制するために、押出機バレルの温度は150〜400℃の範囲で行う。180〜320℃が好ましく、さらには200〜280℃が好ましい。
【0056】
押出機の代わりに、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に使用できる。
【0057】
本発明のイミド樹脂の製造方法をバッチ式反応槽(圧力容器)で行う際には、原料ポリマーを加熱により溶融させ、攪拌でき、イミド化剤あるいはエステル化剤を添加できる構造であれば特に制限ないが、反応の進行によりポリマー粘度が上昇することもあり、攪拌効率が良好なものがよい。例えば、住友重機械(株)製の攪拌槽マックスブレンドなどを例示することができる。
【0058】
上記一般式(2)で示される繰り返し単位と、上記一般式(3)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、又は一般式(2)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体は、リニアー(線状)ポリマーであっても、またブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマーであっても構わない。ブロックポリマーはA−B型、A−B−C型、A−B−A型、またはこれら以外のいずれのタイプのブロックポリマーであっても構わない。コアシェルポリマーはただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであっても、それぞれが多層になっていても構わない。
【0059】
本発明のイミド樹脂中で、一般式(3)を含有するタイプは、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体中の各構成単位量およびグルタルイミド単位の含有量を調節することで実質的に配向複屈折を有さない特徴を付与することも可能である。配向複屈折とは所定の温度、所定の延伸倍率で延伸した場合に発現する複屈折のことをいう。本明細書中では、特にことわりのない限り、イミド樹脂のガラス転移温度より5℃高い温度で、100%延伸した場合に発現する複屈折のことをいうものとする。
【0060】
ここで配向複屈折は、ポリマー構造由来の固有複屈折と分子配向状態に由来する配向分布関数の積であり、延伸軸方向の屈折率(nx)と、それと直行する軸方向の屈折率(ny)から、次式
△nor=nx−ny
で定義され、位相差計により測定される位相差Re(nm)を厚みd(μm)で割った値である。
配向複屈折△nor=Re/d
配向複屈折は上記したように、延伸軸方向の屈折率(nx)とそれと直行する軸方向の屈折率(ny)の差であるので、nxがnyより大きい場合は正の値を示し、逆にnxがnyより小さい場合は負の値を示す。
【0061】
配向複屈折の値としては、−0.1×10-3〜0.1×10-3であることが好ましく、−0.01×10-3〜0.01×10-3であることがより好ましい。配向複屈折が上記の範囲外の場合、環境の変化に対して、成形加工時に複屈折を生じやすく、安定した光学的特性を得ることが難しくなる。
【0062】
実質的に配向複屈折を有さないイミド樹脂を得るためには、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体中の各構成単位量を調節、更にイミド化の程度を調製する必要があり、一般式(1)で示される繰り返し単位と、一般式(3)で示される繰り返し単位が、重量比で2.0:1.0〜4.0:1.0の範囲にあることが好ましく、2.5:1.0〜4.0:1.0の範囲がより好ましく、3.0:1.0〜3.5:1.0の範囲が更に好ましい。
【0063】
また、イミド樹脂は、1×104ないし5×105の重量平均分子量を有することが好ましい。重量平均分子量が1×104を下回る場合には、成形品にした場合の機械的強度が不足し、5×105を上回る場合には、溶融時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下することがある。
【0064】
本発明のイミド樹脂のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記の値を下回ると、耐熱性が要求される用途においては適用範囲が制限される。
【0065】
本発明の樹脂を成形する方法としては、従来公知の任意の方法が可能である。例えば、射出成形、溶融押出フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、圧縮成形、紡糸成形等が挙げられる。また、本発明の樹脂組成物を溶解可能な溶剤に溶解させた後、成形させる溶液流延法やスピンコート法も可能である。その何れをも採用する事が出来るが、溶剤を使用しない溶融押出法が、本発明の効果が顕著に表れ易く、又、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境への影響等の観点から好ましい。
【0066】
本発明のイミド樹脂には、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂を添加することができる。成形加工の際には、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0067】
本発明において使用できる熱安定剤は、フェノール系安定剤、リン系安定剤、チオエーテル系安定剤、スズ系安定剤、アミン系安定剤、ラクトン系安定剤、フェノールアクリレート系安定剤などの一般的に使用される熱安定剤、よりなる群から選択される1以上の安定剤、を更に含む。これら特定の安定剤を用いることにより、光学特性を損なうことなく加工時の異物や樹脂分解ガスの発生を低減することが可能となる。特に、ヘーズが2%以下、全光線透過率が85%以上といった光学特性の優れた光学用フィルムを提供することが容易となる。
【0068】
上記ラクトン系安定剤としては、例えば、3−(3,4−ジメチルフェニル)−5,7−ジ−第三ブチル−3H−ベンゾフラン−2−オン等が挙げられる。また、HP−136(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)も挙げることができる。
【0069】
上記フェノールアクリレート系安定剤としては、例えば、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル(メタ)アクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0070】
上記フェノール系安定剤に於いて、好ましいフェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス〔2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5・5〕ウンデカン、2−tert−ブチル−6−(3'−tert−ブチル−5'−メチル−2'−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−tert−アミル−6−(3',5'−ジ−tert−アミル−2'−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)メチルフェニルアクリレート、2−tert−ブチル−6−(3'−tert−ブチル−2'−ヒドロキシ−5'−メチル−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,5−ジ−t−ブチル−6−(3',5'−ジ−t−ブチル−2'−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)メチルフェニルアクリレート等が挙げられる。また、IRGANOX1010、IRGANOX1035、IRGANOX1076、IRGANOX1098、IRGANOX1135、IRGANOX1330、IRGANOX1726、IRGANOX1425WL、IRGANOX1520L、IRGANOX245、IRGANOX259、IRGANOX3114、IRGANOX3790、IRGANOX5057、IRGANOX565、IRGAMOD295(いずれもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、アデカスタブAO−20、アデカスタブAO−30、アデカスタブAO−40、アデカスタブAO−50、アデカスタブAO−60、アデカスタブAO−70、アデカスタブAO−80、アデカスタブAO−330(いずれもADEKA)等も挙げられる。
【0071】
上記リン系安定剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト、トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル]オキシ]エチル]アミン、ビス(2,4―ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4'−ジイルビスホスフォナイト、6−[3−(3−t―4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジべンズ[d,f][1,3.2]ジオキサフォスフェピン等が挙げられる。また、IFGAFOS168、IRGANOX B、IFGAFOS38、IFGAFOS P−EPQ(いずれもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、アデカスタブPEP−36、アデカスタブPEP−8、アデカスタブPEP−8W、アデカスタブPEP−24G、アデカスタブPEP−36、アデカスタブPEP−36Z、アデカスタブHP−10、アデカスタブ2112、アデカスタブ260、アデカスタブ522A、アデカスタブ1178、アデカスタブ1500、アデカスタブC、アデカスタブ135A、アデカスタブ3010、アデカスタブTPP(いずれもADEKA)等も挙げられる。
【0072】
上記チオエーテル系安定剤としては、例えば、ジラウリル3,3'−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3'−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3'−チオプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル3,3'−チオジプロピオネート等が挙げられる。また、IRGANOX PS 800 FD、IRGANOX PS 802(いずれもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、アデカスタブAO−412S、アデカスタブAO−503等もあげられる。
【0073】
上記スズ系安定剤としては、例えば、オクチルスズマレエートポリマー等が挙げられる。
【0074】
上記アミン系安定剤に於いて、好ましいアミン系安定剤としては、ヒンダードアミン系安定剤が挙げられる。ヒンダードアミン系安定剤としては、例えば、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ}−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル]{(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジル)イミノ}]等が挙げられる。
【0075】
これらの熱安定剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
上述の熱安定剤のうち、6−[3−(3−tert―4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジべンズ[d,f][1,3.2]ジオキサフォスフェピンは、一分子中にヒンダードフェニル基およびリンの両方を有しており、上述のフェノール系安定剤とリン系安定剤の複合機能を有するため好ましい。
【0077】
滑剤としては、脂肪酸アミド(アマイド)系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、金属石鹸系滑剤、高分子系滑剤、脂肪族炭化水素系滑剤、脂肪族アルコール系滑剤、及び脂肪酸系滑剤よりなる群から選択される1種類以上の滑剤を添加することができる。
【0078】
上記脂肪酸アミド(アマイド)系滑剤としては、公知の任意の脂肪酸アミド(アマイド)系滑剤が使用され得る。脂肪酸アミド(アマイド)系滑剤とは、脂肪酸とアミンからなるアミド(アマイド)であり、分子内に長鎖脂肪族基とアミド基を持つものであり、飽和・不飽和モノアミド(アマイド)、置換アミド(アマイド)、飽和・不飽和ビスアミド(アマイド)、メチロールアミド(アマイド)、エタノールアミド(アマイド)、エステルアミド(アマイド)、芳香族ビスアミド(アマイド)、置換尿素などがある。好ましい脂肪酸アミド(アマイド)系滑剤の例としては、例えば、ステアリン酸アミド(アマイド)、オレイン酸アミド(アマイド)、エルカ酸アミド(アマイド)、ベヘニン酸アミド(アマイド)、ステアリルエルカ酸アミド(アマイド)、エチレンビスエルカ酸アミド(アマイド)、エチレンビスステアリン酸アミド(アマイド)、エチレンビスオレイン酸アミド(アマイド)、N−オレイルパルミトアミド(アマイド)、N−ステアリルエルカアミド(アマイド)、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物などが挙げられる。また、脂肪酸アミド(アマイド)系滑剤としては、カワスリップ−VL、WX−1アマイド6S(いずれも川研ケミカル)等も挙げられる。
【0079】
上記脂肪酸エステル系滑剤としては、公知の任意の脂肪酸エステル系滑剤が使用され得る。脂肪酸エステル系滑剤とは、脂肪酸と各種のアルコールとを原料とするエステルであり、分子内に長鎖脂肪基とエステル基を持つものである。脂肪酸エステル系滑剤の好ましい例としては、例えば、一価アルコールの高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸(部分)エステル、モンタン酸エステル、モンタン酸部分ケン化エステル、モンタン酸の複合エステルが挙げられる。さらに具体的には、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂肪酸オクチルエステル、ラウリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸縮合エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、トリメチロールプロパントリオレート、トリメチロールプロパントリ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ネオペンチルグリコールジオレート、ペンタエリスリトールテトラオレート、ペンタエリスリトールテトラオレイン酸エステル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ネオペンチルグリコールジカプリン酸エステル、トリメチロールプロパンジカプリン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサイソノナン酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸縮合エステルなどが挙げられる。
【0080】
上記金属石鹸系滑剤としては、公知の任意の金属石鹸系滑剤が使用され得る。金属石鹸系滑剤とは、脂肪酸(例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ひまし油脂肪酸、など)とアルミニウム、カルシウム、亜鉛、マグネシウムおよびバリウムなどの金属との塩である。金属石鹸系滑剤の好ましい例としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。より好ましくは、ステアリン酸亜鉛である。また、Liステアレート、Liヒドロキシステアレート、CS−6(いずれも川研ケミカル)等も挙げられる。
【0081】
上記高分子系滑剤は、公知の任意の高分子系滑剤が使用され得る。高分子系滑剤の好ましい例としては、例えば、アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物が挙げられる。
【0082】
上記脂肪族炭化水素系滑剤は、公知の任意の脂肪族炭化水素系滑剤が使用され得る。脂肪族炭化水素系滑剤の好ましい例としては、例えば、C16以上の流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、天然パラフィン、合成パラフィン、ポリエチレンワックスなどのポリオレフィンワックス、およびこれらの部分酸化物、あるいはフッ化物、塩化物などが挙げられる。
【0083】
上記脂肪族アルコール系滑剤は、公知の任意の脂肪族アルコール系滑剤が使用され得る。脂肪族アルコール系滑剤の好ましい例としては、例えば、ヘキサノール(カプロイルアルコール)、オクタノール(カプリリルアルコール)、デシルアルコールデカノール(カプリルアルコール)、ドデカノール(ラウリルアルコール)、テトラデカノール(ミリスチルアルコール)、ヘキサデカノール(セチルアルコール)、オクタデシノール(ステアリルアルコール)、エイコサノール(アラキジルアルコール)、ドコサノール、ベヘニルアルコール)などが挙げられる。より好ましくは、オクタデシノール(ステアリルアルコール)である。
【0084】
上記脂肪酸系滑剤は、公知の脂肪酸系滑剤が使用され得る。脂肪酸系滑剤の好ましい例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。
【0085】
本発明に用いられる滑剤は、上記脂肪酸アミド(アマイド)系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、金属石鹸系滑剤、高分子系滑剤、脂肪族炭化水素系滑剤、脂肪族アルコール系滑剤、及び脂肪酸系滑剤よりなる群から選ばれる1種類以上が組み合わされた複合滑剤であっても構わない。一種類の滑剤のみですべての特性を満足することは難しいことも多く、用途に合わせてこれらの各種滑剤を適切に組み合わせることが好ましい。
【0086】
本発明に用いられる滑剤は、脂肪酸アミド系滑剤と、金属石鹸系滑剤の組み合わせが特に好ましい。さらに好ましくは、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物と、ステアリン酸亜鉛の組み合わせである。また、脂肪族アルコール系滑剤も好適であり、オクタデシノール(ステアリルアルコール)が特に好ましい。 本発明に用いられる紫外線吸収剤は、アクリル系樹脂が光、特に紫外線により劣化し、変質することを防止するために添加されるものである。
【0087】
上記紫外線吸収剤は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えばトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤、およびオキサジアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。これらの紫外線吸収剤は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。この中でも、低揮発性の紫外線吸収剤が好ましく、特にトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤がより好ましく、さらに、トリアジン系紫外線吸収剤は、低飛散性であることが知られており、さらに好ましい(「ファインケミカルシリーズ 高分子添加剤の開発と環境対策 監修:大勝靖一 シーエムシー出版」57ページを参照)。
【0088】
また、上記紫外線吸収剤は、窒素雰囲気下での1%重量減少温度が330℃以上であることが好ましく、340℃以上であることがより好ましい。このような紫外線吸収剤によれば、本発明にかかるアクリル系樹脂組成物を成形する際、及び成形後における紫外線吸収剤のブリードを軽減し、また紫外線吸収剤のブリードによる金型汚染を防止することができる。特に、本発明にかかるアクリル系樹脂組成物を溶融押出しにより、フィルムに成形する際、ベントおよびダイからのガス揮発をより低減することができる。
【0089】
トリアジン系紫外線吸収剤の好ましい化合物として、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(へキシル)オキシ]−フェノール、2,4−ビス[2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジンを挙げることができる。
【0090】
また、上記例示した以外にも、Tinuvin1577、Tinuvin460、Tinuvin400、Tinuvin479(いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ)等を好適に用いることができる。
【0091】
さらに、特開2004−352728号に記載の式I、式IIで表される化合物、特開平6−211813号に記載の化合物(1)から(29)、特開平5−232630号に記載の化合物No.(3)から(38)、特開2003−261725号に記載の(化13)から(化17)で表される化合物、特表2006−501339号に記載のIで表される化合物、特開平10−17337号公報に記載の化合物No.1から化合物No.6、特開平10−17556号公報に記載の化合物No.1から化合物No.6、特開平9−20760号に記載の化合物No.1から化合物No.5、特開11−71356号に記載の化合物No.1から化合物No.10、特開平5−117444号に記載の化合物No.1から化合物No.11等のトリアジン系紫外線吸収剤を用いることもできる。
【0092】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の好ましい化合物しては、例えば、2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、5% 2−メトキシ−1−メチルエチルアセテート 95% ベンゼンプロパン酸、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ、C7−9側鎖及び直鎖アルキルエステル、オクチル−3−[3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−[3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネートの混合物を挙げることができる。
【0093】
また、上記例示したもの以外にも、Tinuvin360、TinuvinP、Tinuvin234、Tinuvin326、Tinuvin320、Tinuvin329、Tinuvin213、Tinuvin571、Tinuvin328、TinuvinPS、Tinuvin99−2、Tinuvin384−2、Tinuvin109(いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、KEMISOB72(ケミプロ化成)、Sumisorb250(住友化学)、SEESORB704、SEESORB707(いずれもシプロ化学)、CHISORB5228(ダブルボンドケミカル)等を好適に用いることができる。
【0094】
さらに、特表2006−501339号に記載のIIaで表される化合物、特表2005−517787号に記載の(I)から(III)で表される化合物、特開8−291151号に記載の(化1)で表される化合物、特開2002−363536号に記載の(I)及び(II)で表される化合物等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を用いることもできる。
【0095】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の好ましい化合物としては、例えば、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェニル)−ブタン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン−5,5'−ビス(ソディウムサルフォネイト)、2,3,4,4’,5−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,3’,4,4’,5−ヘキサヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸三水和物、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェニル)−ブタン、2,2−ジ−ヒドロキシ−4−ベンゾフェノンを挙げることができる。
【0096】
また、上記例示したもの以外にも、Uvinul3049、Uvinul3048、Uvinul3000(いずれもBASF)、Chimassorb81(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、LA−51(ADEKA)、SEESORB151、SEESORB101S、SEESORB103、SEESORB105、SEESORB111(いずれもシプロ化成)、4HBP、6HBP(いずれも三協化成)等を好適に用いることができる。
【0097】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤の好ましい化合物としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、1,3−ビス−[(2’−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス−{[(2’−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル}プロパン、2−シアノ−3−(2−メチルインドリィル)メチルアクリレートを挙げることができる。
【0098】
また、上記例示したもの以外にも、Uvinul3035、Uvinul3039、Uvinul3030(いずれもBASF)等を好適に用いることができる。
【0099】
さらに、特表2006−501339号に記載のIIbで表される化合物、特開平7−207250号に記載の化合物No.1から化合物No.6で表される化合物等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤を用いることもできる。
【0100】
ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤の好ましい化合物としては、例えば、2,2’−(1,4−フェニレン)−ビス−4H−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、パイオニンZA−101(竹本樹脂)を挙げることができる。
【0101】
また、本発明にかかるアクリル系樹脂組成物は、上記例示した紫外線吸収剤以外の紫外線吸収剤(以下、「その他の紫外線吸収剤」ともいう)を含んでいてもよい。その他の紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、シュウ酸アミド系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、反応性紫外線吸収剤を反応・結合させた共重合樹脂型紫外線吸収剤、オキサゾロン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、およびサリシレート系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0102】
シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤としては、例えば、2−エチル−2’−エトキシ−オキシアニリド、HostavinUSV(クラリアントジャパン)を好適に用いることができる。
【0103】
マロン酸エステル系紫外線吸収剤としては、例えば、Hostavin B−CAP、Hostavin PR−25、Hostavin PR−31(いずれもクラリアントジャパン)を好適に用いることができる。
【0104】
オキサゾロン系紫外線吸収剤としては、例えば、特開2006−45458号公報に記載の化合物を好適に用いることができる。
【0105】
ベンゾエート系紫外線吸収剤の好ましい化合物としては、例えば、2,4−ジ−tert−ペンチルフェニル−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、KEMISORB111(三協化成)、Tinuvin120(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)を挙げることができる。
【0106】
サリシレート系紫外線吸収剤の好ましい化合物としては、例えば、フェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレート、SEESORB201、SEESORB202(シプロ化成)を挙げることができる。
【0107】
また、反応性紫外線吸収剤を反応・結合させた共重合樹脂型紫外線吸収剤としては、例えば、NCI−707S−30T(ニッコー化学)、UVA−635L(BASF)、ニューコートUVA-204W、ニューコートUVA-4512W、ニューコートUVA−5080W、ニューコートUVA−5080W(OHV20)、バナジレンUVA−7075W、バナジレンUVA−7076W(OHV20)(いずれも新中村化学)、ハイステーブP−UV−111、ハイステーブP−UV−211、ハイステーブP−UV−311、ハイステーブP−UV−411(大日精化)、ULS−935LH、ULS−700LH、ULS−635LH、ULS−195LH、ULS−635LH(一方社)を好適に用いることができる。また、上記例示したもの以外に、例えば、特開2003−128730号公報に記載の紫外線吸収剤を用いることもできる。
【0108】
本発明にかかるアクリル系樹脂組成物において、上記例示した紫外線吸収剤は、単一種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0109】
本発明にかかるアクリル系樹脂組成物において、紫外線吸収剤の含有量は特に限定されるものではないが、具体的には、アクリル系樹脂100重量%に対して、0.1重量%〜5重量%とすることが好ましく、0.2重量%〜3重量%とすることがより好ましい。
【0110】
紫外線吸収剤の含有量が上記範囲内であれば、紫外線を効果的に吸収することができ、かつ、フィルム成形時のフィルムの透明性が低下することがない。
【0111】
一方、紫外線吸収剤の含有量が0.1重量%より少ない場合、380nmにおける紫外線透過率が高くなり、紫外線の遮断効果が不十分となる傾向がある。また、紫外線吸収剤の含有量が5重量%より多い場合、着色が激しくなったり、成形後のフィルムのヘーズが高くなり、透明性が悪化したりする傾向がある。
【0112】
これら紫外線吸収剤は単一でもよくまた複数を混合して用いてもかまわない。例えば、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールと2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノールの組み合わせ等を例示できる。
【0113】
可塑剤とは、プラスチックに添加して、加工性を改善したり、物理的性状を変化させる物質のことである。あるいはそのプラスチックの溶融粘度を減少し、ガラス転移点、弾性率等を低下させる物質である。
【0114】
本発明で使用する好ましい可塑剤は、リン酸トリブチル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル、オレイン酸ブチル、グリセリンモノオレイン酸エステル等の脂肪族一塩基酸エステル、アジピン酸ジ−n−ヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸アルキル610、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等の脂肪族二塩基酸エステル、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチラート等の二価アルコールエステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチル、ブチルフタリルブチルグリコール、アセチルクエン酸トリブチル等のオキシ酸エステル、塩素化パラフィン、塩素化ビフェニル、ジノニルナフタリン、o−およびp−トルエンスルホンエチルアミド、ショウ脳、アビエチン酸メチル等が挙げられる。また、ポリサイザーA−51、ポリサイザーA−55、ポリサイザーTD−1700(いずれも大日本インキ化学工業)、アデカサイザーPN−150、アデカサイザーPN−160、アデカサイザーPN−170、アデカサイザーPN−260、アデカサイザーPN−310、アデカサイザーPN−350、アデカサイザーP−200、アデカサイザーRS−735、アデカサイザーRS−1000(いずれもADEKA)、エポサイザーW−128、エポサイザーW−131(いずれも大日本インキ化学工業)等のポリエステル系、ジョンクリル(BASF)、BAA−15(大八化学)等の高分子系可塑剤も挙げられる。
【0115】
本発明のイミド樹脂は成形することによって、例えば、フィルムとすることができる。フィルム化は例えばWO2005/054311などに記載の方法によって実施することができる。本発明のイミド樹脂を用いて得られるフィルムは、製膜時のロールの汚染が無くなり、フィルム上の凹み欠陥の発生を抑制することが可能である。
【0116】
本発明のイミド樹脂から得られる成形品は、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具、などに使用可能である。
【0117】
又、本発明の成形体及びフィルムの表面には、必要に応じハードコート層等のコーティング層を形成する事ができる。又、本発明の成形体及びフィルムは、コーティング層を介して、又は、介さずに、スパッタリング法等によりインジウムスズ酸化物系等の透明導電層を形成する事ができ、プラスチック液晶表示装置の電極基板やタッチパネルの電極基板として用いる事もできる。
【実施例】
【0118】
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0119】
各物性値は以下のようにして測定した。
【0120】
(1)フィルムの濁度
フィルムから、幅50mm×長さ50mmのサンプルを切り出し、JIS K7105−1981の6.4記載の方法により、日本電色工業(株)製濁度計NDH−300Aを用いて測定した。
【0121】
(2)フィルムの全光線透過率
フィルムから、幅50mm×長さ50mmのサンプルを切り出し、JIS K7105−1981の5.5記載の方法により、日本電色工業(株)製濁度計NDH−300Aを用いて測定した。
【0122】
(3)フィルムの表面外観
暗室内で1m2のフィルム表面を目視にて観察し、株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(VH−Z75)によって、最大長さが10μm以上、深さが1μm以上の凹み欠陥の数をカウントした。100個以上ある場合を×、100個以下を○とした。
【0123】
(4)ロール汚染性
製膜した際のロールの外観を目視で観察し、汚染の有無を確認し、付着物がない場合を○、ある場合を×で評価した。
【0124】
(5)イミド樹脂中の一般式(1)の割合(イミド化率)
生成物のペレットを塩化メチレンに溶解し、その溶液をSensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度(Absester)と、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度(Absimide)の比からイミド化率(Im%(IR))を求めた。ここで、イミド化率とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0125】
(6)イミド樹脂中の酸価
塩化メチレン37.5mlにイミド樹脂0.3gを溶解させ、メタノール37.5mlを添加した。この溶液に1wt%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加し。0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加し、1時間攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(Aml)を測定した。
【0126】
次に、塩化メチレン37.5mlとメタノール37.5mlの混合液に1wt%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加した。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加し、1時間攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(Bml)を測定した。
【0127】
樹脂中に残存する酸成分の割合(酸価)をCmmol/gとし、次式で求めた。
C=0.1×((5−A−B)/0.3)
【0128】
(7)ガラス転移温度(Tg)
生成物10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、(株)島津製作所製DSC−50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0129】
(8)イミド樹脂の分子量測定
樹脂5mgを2mLのクロロホルムに溶解させ、その溶液をディスポシリンジ(テルモシリンジ2.5mL、テルモ製)の先端にフィルター(DISMIC−13JP PTFE 0.5μm、アドバンテック製)をセットしたもので濾過した。下記GPCシステムによりポリスチレン検量線を作成し、樹脂の粘度平均分子量(Mw)を測定した。
【0130】
GPCシステム:HPLC−6AD(島津製作所製)、溶媒:クロロホルム
カラム温度:40℃
流速:1mL/min
検出器:示差屈折計検出器RID−10A(島津製作所製)
カラム:K806M(Shodex製)×直列2本
データ処理:GPC for CLASS−VP(島津製作所製)
【0131】
(9)メタクリル酸メチル−スチレン共重合体およびイミド樹脂の揮発ガスの発生量の定量
生成物のペレットをそのまま用いて、パーキンエルマー製加熱脱着装置TurboMatrix ATDを装着したガスクロマトグラフィー(アジレントテクノロジー製6890plus)/質量分析計(アジレントテクノロジー製5973)(GC/MS)で測定した。
【0132】
約20gのペレットをステンレススチール製サンプルチューブ(パーキンエルマー製(1次トラップ(吸着剤無し))に入れ、石英ウールで両端を固定した。このサンプルチューブを用いて、以下の測定条件により得られたトータルイオンクロマトグラム(TIC)の全面積を用いてスチレンによる検量線を作成し、当該検量線により樹脂1g当たりの揮発ガスの発生量(μg/g)を計算した。また、揮発ガスの沸点は昇温速度とGC/MSの保持時間から決定した。
【0133】
A)加熱脱着装置の測定条件
A−1)試料加熱条件
加熱温度・脱着温度 :280℃×30min
脱着流量 :30mL/min
入口スプリット :30mL/min
A−2)トラップチューブ脱着条件
トラップ温度 :−30℃
脱着温度 :280℃
出口スプリット :30mL/min
バルブ温度 :250℃
トランスファーライン温度:260℃
B)GC/MS測定条件
カラム :DB−5MS(0.25mmID×30m(膜圧0.25μm))
オーブン温度 :40℃(5min保持)→10℃/min→320℃(10min保持)
キャリアガス :He、10psi
インターフェース温度 :280℃
イオン化室温度 :250℃
EM電圧 :2400eV
測定質量範囲 :35〜500amu.
【0134】
(10)フィルムの耐柔疲労(MIT)
フィルムから幅15mm(TD方向)×長さ110mm(MD方向)のサンプルを切り出した。東洋精機製作所製、MIT耐柔疲労試験機(FOLDING ENDURANCE TESTER)D型を用いて、試験速度175回/分、試験角度135°、試験荷重6.35N、折り曲げクランプ曲率半径R=5.0の条件で行った。
【0135】
(樹脂製造例1)
原料の樹脂としてメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(St量11mol%、揮発ガスの発生量2800μg/g)、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、イミド化樹脂を製造した。
【0136】
使用した押出機は口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数は150rpmとした。メタクリル酸メチル−スチレン共重合体を2kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して25重量部のモノメチルアミンを注入した。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のメチルアミンをベント口の圧力を−0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきたイミド樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。
【0137】
次いで、口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機にて、押出機各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数150rpmとした。ホッパーから得られたイミド樹脂を1kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して8重量部の炭酸ジメチルと2重量部のトリエチルアミンの混合液を注入し樹脂中のカルボキシル基の低減を行った。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰の炭酸ジメチルをベント口の圧力を−0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化し、酸価を低減したイミド樹脂を得た。
【0138】
さらに、得られた酸価を低減したイミド樹脂を口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機にて、押出機各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数150rpm、供給量1kg/hrの条件で炭酸ジメチルをベント口の圧力を−0.095MPaに減圧して再び除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた脱揮したイミド樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。
【0139】
メタクリル酸メチル−スチレン共重合体の特性値を表1に、得られたイミド樹脂、酸価を低減したイミド樹脂、脱揮したイミド樹脂の特性値を表2に示す。
【0140】
(樹脂製造例2)
原料の樹脂としてメタクリル酸メチル−スチレン共重合体として、St量15mol%、揮発ガスの発生量3700μg/gのものを用いた以外は、樹脂製造例1と同様に行った。特性値を表1および表2に示す。
【0141】
(樹脂製造例3)
メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(St量22mol%、揮発ガスの発生量4900μg/g:比較樹脂製造例1で記載した共重合体)を塩化メチレンに溶解し(固形分濃度20%)、大量のメタノールに滴下することにより再沈澱して精製した後、100℃で真空乾燥して得た樹脂(揮発ガスの発生量3000μg/g)を原料の樹脂として用いた以外は、樹脂製造例1と同様に行った。特性値を表1および表2に示す。
【0142】
(樹脂製造例4)
原料の樹脂として市販のメタクリル酸メチル系重合体(住友化学製スミペックスVH)を用いた以外は樹脂製造例1と同様に行った。特性値を表1および表2に示す。
【0143】
(比較樹脂製造例1)
メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(St量22mol%、揮発ガスの発生量4900μg/g)を用いた以外は、樹脂製造例1と同様に行った。特性値を表1および表2に示す。
【0144】
(実施例)
樹脂製造例1〜4、比較樹脂製造例1で得られた脱揮したイミド樹脂を100℃で5時間乾燥した後、40mmφ単軸押出機と400mm幅のTダイとを用いて260℃で押出し、キャストロールへ展開して得られるシート状の溶融樹脂を冷却ロールで冷却して幅300mm、厚み150μmのフィルムを得た。
【0145】
押出時のロール汚染の程度および得られたフィルム中の欠陥、およびフィルムの特性を表3に示す。
【0146】
【表1】

【0147】
【表2】

【0148】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリウム雰囲気下、280℃、30分間加熱した時に発生する揮発ガスの発生量が樹脂1g当たり700μg以下であることを特徴とするイミド樹脂。
【請求項2】
前記揮発ガスの発生量のうち、沸点が150℃以上の揮発ガスの発生量が1g当たり500μg以下であることを特徴とする請求項1記載のイミド樹脂。
【請求項3】
前記イミド樹脂が、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位と、更に必要に応じ下記一般式(3)で表される単位を含んで形成されることを特徴とする、請求項1記載のイミド樹脂。
【化1】

(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化2】

(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化3】

(但し、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)

【公開番号】特開2009−74086(P2009−74086A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222198(P2008−222198)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】