説明

イメージスキャナ用樹脂シート積層金属板

【課題】スキャン対象物、典型的にはフィルムなどの媒体、が接触した場合においても、当該対象物の表面における傷、典型的には上記媒体に形成された像の読み取りに影響を与えるようなサイズの傷、の発生を抑制できるイメージスキャナ用樹脂シート積層金属板を提供する。
【解決手段】金属板と超高分子量ポリエチレン多孔質シートとが、上記多孔質シートが露出するように一体化され、バウデン−レーベン型摩擦試験機により測定した上記多孔質シートの表面の動摩擦係数が0.20以下である樹脂シート積層金属板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板と樹脂シートとが一体化されたイメージスキャナ用樹脂シート積層金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、デジタルデータとしての画像の取得、記録、蓄積などが進められている。例えば、公文書、古文書あるいは美術品などをデジタルの画像データとして収蔵して、いわゆるデジタルアーカイブを構築することが試みられている。また例えば、医療分野において、カルテの電子化とともに、各種の検査によって得られた画像のデジタルデータとしての記録が進められている。このとき、X線透過撮影法など、フィルムあるいはイメージングプレートなどの媒体に像(本明細書において、「像」は潜像であってもよい)が形成される検査手法では、得られた像をデジタルの画像データとして記録するために、イメージスキャナによる当該媒体のスキャンが必要となる。
【0003】
イメージスキャナでは、一般に、媒体に形成された像を読み取るスキャン機構が筐体の内部に収容されており、例えば、筐体に設けられた挿入口から挿入された媒体は、上記スキャン機構へと機器の内部を搬送された後、スキャン機構にて像が読み取られる。像を読み取られた媒体は、再び機器内部を搬送され、排出口から排出されたり、イメージングプレートなどでは、潜像を消去した後、再利用のためにカセッテに収容されたりする。
【0004】
イメージスキャナの筐体には、一般に、金属板が使用される。しかし、単に金属板からなる筐体とした場合、機器の内部を媒体が搬送される際に筐体の内壁と媒体とが接触して、像の読み取りに影響を与えるようなサイズの傷(例えば、その幅にして百数十μm以上のサイズを有する傷)が媒体の表面につくことがある。媒体に形成された像を正確に読み取るためには、このような傷の発生は出来るだけ抑制されることが望まれる。特に医療分野では、誤診を防ぐとともに正確な診断を行うために、媒体における像が形成されている面(例えば、フィルムにおける感光面)だけではなく、その反対側の面(即ち、像が形成されていない面)に関しても、筐体の内壁との接触による上記傷の発生は出来るだけ抑制される必要がある。
【0005】
このような傷の発生を抑制するために、単なる金属板ではなく、金属板と樹脂シートとを一体化させた樹脂シート積層金属板を用いて筐体とすることが考えられる。従来より存在する樹脂シート積層金属板としては、例えば特許文献1に、金属板の表面を超高分子量ポリエチレン樹脂により被覆した積層体が開示されている。
【特許文献1】特開2001−205735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示の積層体は、自己摺動性および自己の耐摩耗性に優れる摺動部材としての使用を前提としており、当該積層体に接触した上記媒体などの物品の表面に傷を与え難いかどうかについては全く考慮されていない。後述するように、金属板の表面を単なる超高分子量ポリエチレンシートによって被覆するだけでは、当該ポリエチレンシートに接触した媒体の表面における上記傷の発生の抑制は困難である。
【0007】
そこで本発明は、スキャン対象物(典型的にはフィルムなどの上記媒体)が接触した場合においても、当該対象物の表面における傷(典型的には上記媒体に形成された像の読み取りに影響を与えるようなサイズの傷)の発生を抑制できる、イメージスキャナ用樹脂シート積層金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のイメージスキャナ用樹脂シート積層金属板では、金属板と超高分子量ポリエチレン多孔質シートとが、前記多孔質シートが露出するように一体化され、バウデン−レーベン型摩擦試験機により測定した前記多孔質シートの表面の動摩擦係数が0.20以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属板と、表面の動摩擦係数が所定の値以下である超高分子量ポリエチレン多孔質シートとを、多孔質シートが露出するように一体化した樹脂シート積層金属板とすることで、スキャン対象物(典型的にはフィルムなどの上記媒体)が接触した場合においても、当該対象物の表面における傷(典型的には上記媒体に形成された像の読み取りに影響を与えるようなサイズの傷)の発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、本発明の樹脂シート積層金属板の一例を模式的に示す断面図である。図1に示す樹脂シート積層金属板1は、金属板2と超高分子量ポリエチレン多孔質シート3とが、多孔質シート3の一方の主面全体が露出するように積層され、一体化された構造を有する。金属板2と多孔質シート3との間には接着層4が配置されている。バウデン−レーベン型摩擦試験機により測定した多孔質シート3の表面(露出面)の動摩擦係数は0.20以下である(以下、上記摩擦試験機により測定した動摩擦係数を、単に「動摩擦係数」ともいう)。
【0012】
このような樹脂シート積層金属板1では、金属板2と一体化する樹脂シートを、多孔質かつ表面の動摩擦係数が0.20以下である多孔質シート3とすることにより、スキャン対象物(典型的にはフィルムなどの上記媒体)が接触した場合においても、当該対象物の表面における傷(典型的には上記媒体に形成された像の読み取りに影響を与えるようなサイズの傷)の発生を抑制できる。実施例に後述するように、このような効果は、金属板と一体化する樹脂シートを、多孔質ではない通常の超高分子量ポリエチレンシート、あるいは、一般的に表面の動摩擦係数が多孔質シート3と同程度に小さいと考えられる、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂シート、とすることでは得ることができない。また、フッ素樹脂シートでは、スキャン対象物が接触した際に、フッ素樹脂シートが部分的に削れて粉体状の異物が発生しやすいという別の問題も存在する他、その接着性の低さから、金属板と一体化するために特殊な表面処理が必要とされるなど、フッ素樹脂シートは、超高分子量ポリエチレン多孔質シートに比べて樹脂シート積層金属板としての生産性に劣る。
【0013】
また、樹脂シート積層金属板1は、金属板2が有する高い強度、耐衝撃性などの特性から、例えば、イメージスキャナの筐体、あるいはイメージスキャナにおけるスキャン対象物の搬送路の壁面などに好適に用いることができる。樹脂シート積層金属板1によりイメージスキャナの筐体(あるいは上記壁面)を構成する際に、筐体の内側に(搬送路におけるスキャン対象物が搬送される側に)多孔質シート3が面するようにすれば、筐体内を(搬送路を)スキャン対象物が搬送される際に、当該対象物の表面における傷の発生を抑制できる。
【0014】
図1に示す樹脂シート積層金属板1では、多孔質シート3における一方の主面(金属板2に面する主面とは反対側の主面)全体が露出しているが、本発明の樹脂シート積層金属板における多孔質シートは、必ずしもその主面全体が露出していなくてもよい。例えば、イメージスキャナの筐体を構成したときに、多孔質シートにおけるスキャン対象物が接触する可能性がある部分のみが露出しているなど、少なくとも多孔質シート3の表面の一部が露出していればよい。
【0015】
多孔質シート3の表面の動摩擦係数は0.18以下が好ましい。この場合、スキャン対象物の表面における傷の発生をより抑制できる。なお、上記動摩擦係数の下限は特に限定されないが、例えば、0.10程度である。
【0016】
多孔質シート3の表面の動摩擦係数は、例えば、多孔質シート3の平均孔径、空孔率などを変化させることによって制御できる。また、金属板2と多孔質シート3とを一体化させる際の諸条件、例えば、熱ラミネートにより両者を一体化させる場合には、熱ラミネートの温度または圧力を変化させることによっても制御が可能である。一般に、熱ラミネートの温度を上昇させると(圧力を増加させると)、多孔質シート3の表面の動摩擦係数が増加する傾向を示す。
【0017】
多孔質シート3の厚さの下限は特に限定されないが、スキャン対象物の表面における傷の発生をより確実に抑制するためには、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。また、多孔質シート3の厚さの上限は特に限定されないが、例えば、0.5mm程度あるいは0.3mm程度としてもよい。樹脂シート積層金属板1をイメージスキャナの筐体、搬送路などに用いる場合、通常、予め定められた形状への変形が必要となるが、当該厚さが過度に大きくなると、上記形状へ変形させる際に、多孔質シート3が金属板2から剥離することがある。
【0018】
多孔質シート3の厚さは、イメージスキャナの筐体としての用途を考えた場合、0.05〜0.5mm程度の範囲が好ましい。
【0019】
多孔質シート3の平均孔径は特に限定されないが、通常、10〜100μm程度であり、15〜40μm程度の範囲が好ましい。
【0020】
多孔質シート3として好ましいその他の特性(圧縮弾性率およびショアD)を以下に示す。なお、多孔質シート3は、以下に示す両特性の数値範囲を必ずしも満たしていなくてもよい。
【0021】
多孔質シート3の圧縮弾性率(主面に垂直な方向の圧縮弾性率)は、100〜1000kgf/cm2(9.8〜98MPa)程度の範囲が好ましく、200〜400kgf/cm2(19.6〜39.2MPa)程度の範囲がより好ましい。多孔質シート3の圧縮弾性率が上記範囲にある場合、スキャン対象物の表面における傷の発生をより抑制できる。なお、多孔質シート3の圧縮弾性率は、厚さ2mmの多孔質シートを3枚積層して厚さ6mmの多層体とし、当該多層体を、引張圧縮試験機(テンシロン試験機)を用いて、その主面に垂直な方向に一定速度で圧縮したときに生じる応力を測定し、横軸を時間(圧縮量)、縦軸を上記測定した応力として描いた曲線における最大曲率を示す点の傾きから求めればよい。
【0022】
多孔質シート3の硬度を示すショアDは、30〜52程度の範囲が好ましく、35〜46程度の範囲がより好ましい。多孔質シート3のショアDが上記範囲にある場合、スキャン対象物の表面における傷の発生をより抑制できる。なお、ショアDは、いわゆるショアD硬度計、あるいは、JIS K6253に規定されるタイプDデュロメータを用いて評価すればよい。
【0023】
多孔質シート3を構成する超高分子量ポリエチレンとしては、その粘度平均分子量が50万〜1000万程度の範囲のポリエチレンが好ましく、当該分子量が100万〜700万程度の範囲のポリエチレンがより好ましい。
【0024】
超高分子量ポリエチレン多孔質シート3は、原料となる超高分子量ポリエチレンから、公知の方法、例えば、特開平2−24129号公報に開示されている方法、に基づいて形成できる。なお、上記公報に開示の方法では、添加物を何ら加えることなく、原料となる超高分子量ポリエチレンの粒子を焼結させて多孔質シートを形成するため、不純物の含有量が少ない多孔質シート3とすることができる。
【0025】
原料となる超高分子量ポリエチレンは、市販の材料、例えば、三井化学社製ハイゼックスミリオン、ティコナ(Ticona)社製ホスタレンGURなど、を用いることができる。
【0026】
また、多孔質シート3として、市販の超高分子量ポリエチレン多孔質シート、例えば、日東電工社製サンマップ、を用いてもよい。
【0027】
金属板2の種類は特に限定されず、各種の金属および合金の板、例えば、鋼板などの鉄板、あるいは、アルミ板などであってもよい。また必要に応じて、その表面に亜鉛めっき層などのめっき層が形成されていてもよい。
【0028】
樹脂シート積層金属板1を電子機器の筐体として用いる場合、金属板2は、亜鉛めっき鋼板であることが好ましい。亜鉛めっき鋼板には、JFEエクセルジンク(JFEスチール社製)などの市販品を用いることができる。
【0029】
金属板2の厚さは特に限定されず、樹脂シート積層金属板1の用途に応じて適宜選択すればよい。樹脂シート積層金属板1をイメージスキャナの筐体として用いる場合、金属板2の厚さは、一般的には、1〜2mm程度である。
【0030】
本発明の樹脂シート積層金属板において、超高分子量ポリエチレン多孔質シートと金属板とを一体化する方法は特に限定されないが、図1に示す樹脂シート積層金属板1のように、接着層4を介して、多孔質シート3と金属板2とが一体化されていることが好ましい。上述したように、樹脂シート積層金属板1をイメージスキャナの筐体などに用いる場合、通常、予め定められた形状への変形が必要となるが、多孔質シート3と金属板2とが接着層4を介して一体化されている場合、変形時における両者の剥離を抑制できる。
【0031】
接着層4の種類は特に限定されず、例えば、ホットメルト接着剤からなる層であればよい。この場合、多孔質シート3と金属板2とを熱ラミネートなどの手法により一体化でき、生産性に優れる樹脂シート積層金属板1とすることができる。
【0032】
接着層4がホットメルト接着剤からなる層である場合、樹脂シート積層金属板1では、金属板2と多孔質シート3とがホットメルト接着剤を介して一体化されている、ともいえる。
【0033】
ホットメルト接着剤の種類は特に限定されず、エチレンビニルアルコール(EVA)系、ポリイミド系、ポリオレフィン系などのホットメルト接着剤を用いることができる。
【0034】
本発明の樹脂シート積層金属板の構成は、金属板と超高分子量ポリエチレン多孔質シートとが、上記多孔質シートが露出するように一体化されている限り特に限定されない。例えば、金属板および上記多孔質シート以外の任意の層を備えた樹脂シート積層金属板であってもよく、当該任意の層が配置される位置についても特に限定されない。
【0035】
イメージスキャナにおける本発明の樹脂シート積層金属板が用いられる部分は特に限定されない。本発明の樹脂シート積層金属板は、例えば、上述したように、イメージスキャナにおける、筐体ならびにスキャン対象物が搬送される搬送路の壁面などに好適に使用できる。
【0036】
本発明の樹脂シート積層金属板を用いることができるイメージスキャナの具体的な構造は、特に限定されない。イメージスキャナは、スキャン対象物の像(典型的にはフィルムなどの上記媒体に形成された像)を読み取るスキャン機構を少なくとも備えるが、当該機構以外に、例えば、スキャン対象物を搬送する搬送機構を備えていてもよい。イメージスキャナが搬送機構を備える場合、当該スキャナの筐体あるいは搬送路の壁面に本発明の樹脂シート積層金属板を用いる効果が大きくなる。
【0037】
より具体的には、本発明の樹脂シート積層金属板が用いられるイメージスキャナは、例えば、スキャン対象物を挿入する挿入口が設けられた筐体と、筐体の内部に収容され、上記像を読み取るスキャン機構と、スキャン対象物を前記挿入口から前記スキャン機構へ搬送する搬送機構とを備えている。
【0038】
イメージスキャナの筐体に本発明の樹脂シート積層金属板を用いる場合、本発明の樹脂シート積層金属板における多孔質シートが筐体の内部に面するように、樹脂シート積層金属板を配置すればよい。イメージスキャナにおけるスキャン対象物の搬送路に本発明の樹脂シート積層金属板を用いる場合、本発明の樹脂シート積層金属板における多孔質シートが、搬送路におけるスキャン対象物が搬送される側に面するように、樹脂シート積層金属板を配置すればよい。本発明の樹脂シート積層金属板をこのように用いることによって、スキャン対象物(典型的にはフィルムなどの上記媒体)が、筐体あるいは搬送路の壁面に接触した場合においても、当該対象物の表面における傷(典型的には上記媒体に形成された像の読み取りに影響を与えるようなサイズの傷)の発生を抑制できる。
【0039】
スキャン対象物は特に限定されないが、当該対象物が、写真フィルム、X線フィルムあるいはイメージングプレートなど、その表面に傷が付きやすく、かつ、当該傷がスキャンの結果に影響を与えやすい物品である場合に、本発明の樹脂シート積層金属板をイメージスキャナに用いる効果が大きくなる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0041】
本実施例では、金属板の表面にホットメルト接着剤を介して超高分子量ポリエチレン多孔質シートを始めとする各種の樹脂シートを積層した後、熱ラミネートにより両者を一体化させて樹脂シート積層金属板を作製し、その特性を評価した。
【0042】
最初に、樹脂シート積層金属板サンプルの作製方法を示す。
【0043】
−サンプル1−
金属板として亜鉛めっき鋼板(JFEスチール社製、JFEエクセルジンク:厚さ1mm)を準備し、当該鋼板の表面にホットメルト接着剤(三井化学社製アドマー)を厚さ50μmで塗布した後、亜鉛めっき鋼板とともにホットメルト接着剤を狭持するように、超高分子量ポリエチレン多孔質シート(日東電工社製サンマップ:厚さ0.2mm、平均孔径17μm、圧縮弾性率350kgf/cm2、ショアD46)を配置した。
【0044】
次に、鋼板の温度を200℃に昇温し、鋼板と多孔質シートとの間に力を加えながら(圧力30kgf/600mm幅、線速度0.5m/分)両者を熱ラミネートして一体化させ、樹脂シート積層金属板(サンプル1)を形成した。
【0045】
−サンプル2−
熱ラミネート時における鋼板の温度を175℃とした以外は、サンプル1と同様にして、樹脂シート積層金属板(サンプル2)を形成した。
【0046】
−サンプル3−
熱ラミネート時における鋼板の温度を150℃とした以外は、サンプル1と同様にして、樹脂シート積層金属板(サンプル3)を形成した。
【0047】
−サンプルA(比較例)−
熱ラミネート時における鋼板の温度を220℃とした以外は、サンプル1と同様にして、比較例である樹脂シート積層金属板(サンプルA)を形成した。
【0048】
−サンプルB(比較例)−
熱ラミネート時における鋼板の温度を200℃とし、かつ、鋼板と多孔質シートとの間に加える圧力の大きさを50kgf/600mm幅とした以外は、サンプル1と同様にして、比較例である樹脂シート積層金属板(サンプルB)を形成した。
【0049】
−サンプルC(比較例)−
金属板として亜鉛めっき鋼板(JFEスチール社製、JFEエクセルジンク:厚さ1mm)を準備し、当該鋼板の表面にホットメルト接着剤(三井化学社製アドマー)を厚さ50μmで塗布した後、亜鉛めっき鋼板とともにホットメルト接着剤を狭持するように、多孔質ではない超高分子量ポリエチレンシート(日東電工社製No.440:厚さ0.2mm)を配置した。
【0050】
次に、鋼板の温度を175℃に昇温し、鋼板と超高分子量ポリエチレンシートとの間に力を加えながら(圧力30kgf/600mm幅、線速度0.5m/分)両者を熱ラミネートして一体化させ、比較例である樹脂シート積層金属板(サンプルC)を形成した。
【0051】
−サンプルD(比較例)−
金属板として亜鉛めっき鋼板(JFEスチール社製、JFEエクセルジンク:厚さ1mm)を準備し、当該鋼板の表面にホットメルト接着剤(三井化学社製アドマー)を厚さ50μmで塗布した後、亜鉛めっき鋼板とともにホットメルト接着剤を狭持するように、スパッタエッチング処理によって表面の接着性を向上させたポリテトラフルオロエチレンシート(日東電工社製No.900:厚さ0.2mm)を配置した。なお、ポリテトラフルオロエチレンシートを配置する際には、そのスパッタエッチング処理面とホットメルト接着剤とが接するようにした。
【0052】
次に、鋼板の温度を175℃に昇温し、鋼板とポリテトラフルオロエチレンシートとの間に力を加えながら(圧力30kgf/600mm幅、線速度0.5m/分)両者を熱ラミネートして一体化させ、比較例である樹脂シート積層金属板(サンプルD)を形成した。
【0053】
次に、上記のように作製した各サンプルについて、樹脂シートの表面(露出面:なお、各サンプルとも樹脂シートの一方の主面全体が露出している)における動摩擦係数、樹脂シートと金属板との接着度、および、樹脂シートにイメージングプレートを接触させた際に当該プレートの表面に形成された傷の程度(傷つき特性)を評価した。上記各項目の評価方法を以下に示す。
【0054】
(樹脂シート表面の動摩擦係数)
樹脂シート表面の動摩擦係数はバウデン−レーベン型摩擦試験機を用いて評価した。具体的には、接触子として鋼球(10mmφ)を用い、接触子に印加する加重を200gfとし、サンプルの摺動速度を150mm/分として、5回目の摺動時における動摩擦係数の値を測定値とした。
【0055】
なお、バウデン−レーベン(Bowden - Leben)型摩擦試験機とは、往復動摩擦試験機の1種であり、測定試料の表面に、荷重を印加しながら接触子を接触させた状態で、試料を直線的に摺動させ、その際に接触子に生じる応力を測定して、試料表面の摩擦係数を評価する装置である。
【0056】
(樹脂シートと金属板との接着度)
樹脂シートと金属板との接着度は、塗膜の付着強度の評価に用いられるエリクセン評価により評価した。具体的な評価方法は、JIS B7729に規定のエリクセン試験機を用い、JIS Z2247に規定のエリクセン試験方法に基づいて行った。なお、各サンプルに対する試験機のパンチの押し込み深さは6mmとした。
【0057】
上記手法による評価の結果、金属板から樹脂シートが剥離しなかった場合を「○」、金属板から樹脂シートが剥離した場合を「×」とした。
【0058】
(傷つき特性)
最初に、各サンプルを変形させて、図2に示すような送りローラ14を備える筐体11を形成した。送りローラ14の表面はゴムからなり、その中心軸を貫通する回転軸15により、回転自在の状態で筐体11に固定されている。なお、図2では送りローラ14は2つしか描かれていないが、実際には、イメージングプレート16を紙面の奥側あるいは手前側に移動できるように、より多くの送りローラ14が回転自在の状態で筐体11に固定されている。
【0059】
各サンプルを変形させる際には、金属板12に対して樹脂シート13が送りローラ14側、即ち、イメージングプレート16側となるようにした。また、樹脂シート13とイメージングプレート16との距離(図2に示すA)は2mmとした。
【0060】
このような筐体11に対し、市販のイメージングプレート16を3000回、図2の紙面の奥側と手前側との間を往復移動させて、当該プレートの筐体11側の表面に発生した傷の程度を評価した。具体的には、プレート16の上記表面に発生した傷のうち、最も大きい幅を有する傷を見たときに、当該幅が20μm未満である場合(即ち、幅にして20μm以上の傷が形成されなかった場合)を「◎」、当該幅が20〜150μmの範囲にある場合を「○」、当該幅が150μmを超える場合(即ち、幅にして150μmを超える傷が形成された場合)を「×」とした。なお、傷つき特性を評価するにあたり、イメージングプレート16の感光面は筐体11とは反対側になるようにした。
【0061】
各サンプルにおける上記各項目の評価結果を以下の表1に示す。また、傷つき特性について、樹脂シート積層金属板の代わりに、樹脂シートを積層していない金属板(上記亜鉛めっき鋼板)を用いて図2の筐体11に準ずる筐体17を形成した場合(図3参照。図3では、筐体17は金属板12からなる)の評価結果を、サンプルEとして併せて表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、金属板と超高分子量ポリエチレン多孔質シートとが一体化された構造を有し、当該多孔質シートの表面の動摩擦係数が0.20以下であるサンプル1〜3では、その他のサンプルに比べて、イメージングプレート16の表面における、幅にして150μmを超える傷の発生を抑制できた。
【0064】
なお、熱ラミネートの温度が高いサンプルA、および、熱ラミネートの圧力が高いサンプルBでは、多孔質シートの表面の動摩擦係数は0.25と、サンプル1〜3に比べて大きくなった。
【0065】
樹脂シートとしてポリテトラフルオロエチレンシートを用いたサンプルDでは、樹脂シートと金属板とを一体化できたものの、両者の接着度は、サンプル1〜3およびサンプルA〜Cに対して劣る結果となった。樹脂シートを積層していないサンプルEでは、イメージングプレート16の表面に発生した傷のサイズが、全サンプル中で最も大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、スキャン対象物(典型的にはフィルムなどの上記媒体)が接触した場合においても、当該対象物の表面における傷(典型的には上記媒体に形成された像の読み取りに影響を与えるようなサイズの傷)の発生を抑制できる、イメージスキャナ用樹脂シート積層金属板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のイメージスキャナ用樹脂シート積層金属板の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例において、イメージングプレートに対する傷つき特性を評価するために形成した筐体の構造を示す模式図である。
【図3】実施例において、イメージングプレートに対する傷つき特性を評価するために形成した別の筐体の構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0068】
1 樹脂シート積層金属板
2 金属板
3 超高分子量ポリエチレン多孔質シート
4 接着層
11 筐体
12 金属板
13 樹脂シート
14 送りローラ
15 回転軸
16 X線フィルム
17 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と超高分子量ポリエチレン多孔質シートとが、前記多孔質シートが露出するように一体化され、
バウデン−レーベン型摩擦試験機により測定した前記多孔質シートの表面の動摩擦係数が0.20以下である、イメージスキャナ用樹脂シート積層金属板。
【請求項2】
前記動摩擦係数が0.18以下である請求項1に記載のイメージスキャナ用樹脂シート積層金属板。
【請求項3】
前記多孔質シートの厚さが0.05〜0.5mmの範囲である請求項1に記載のイメージスキャナ用樹脂シート積層金属板。
【請求項4】
前記金属板と前記多孔質シートとが、ホットメルト接着剤を介して一体化されている請求項1に記載のイメージスキャナ用樹脂シート積層金属板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−182931(P2009−182931A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22545(P2008−22545)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】