説明

インクジェットインク印刷方法

【課題】顔料インクジェットインクを用いて高光沢およびDOIを達成するためのインクジェット印刷方法を提供すること。
【解決手段】(a)支持体の所定の領域が1パスで定着されるようにほとんど全てのインクが噴射されることを可能にするプリントヘッド装置を備え、デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程と、
(b)印刷される支持体を前記プリンタに装填する工程と、
(c)顔料インクジェットインクを前記プリンタに装填する工程と、
(d)前記デジタルデータ信号に応答して前記支持体上に前記顔料インクジェットインクを用いて印刷する工程と
を含み、線走査速度が少なくとも6cm/秒であり、印刷が少なくとも300dpiの解像度において行なわれ、かつ前記プリントヘッド装置が、20pL以下である滴径を印刷する、支持体上にインクジェット印刷する方法であって、
支持体が60度の光沢が少なくとも30光沢単位である吸収性光沢媒体であり、支持体への印刷が顔料インクジェットインクを用いて1パスで行なわれ、前記プリントヘッドが、媒体の端から端まで走査によって作動することを含む印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料インクジェットインクを用いて高光沢およびDOIを達成するためのインクジェット印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、インクの液滴が紙などの印刷媒体上に付着されて所望の画像を形成する非衝撃印刷方法である。液滴は、マイクロプロセッサによって発生された電気信号に応答してプリントヘッドから射出される。このような記録において用いられるインクは、例えば、良好な分散安定性、射出安定性、および媒体への良好な固定など、厳しい要求を伴う。
【0003】
インクジェットプリンタは低コスト、高品質印刷を提供し、レーザープリンタなどの他のタイプのプリンタに代わる一般的な選択肢になっている。現世代のインクジェットプリンタの解像度は非常に良いので、それらはまた、多くの従来の写真印刷技術に取って代わりつつある。
【0004】
染料と顔料との両方が、インクジェットインクのための着色剤として使用されている。染料は典型的に調合しやすく、鮮やかな色を提供するが、それらは急速に退色し、耐水堅牢度を欠く傾向がある。顔料は、適切な条件下で良好な耐光堅牢度および良好な色を提供するが、顔料インクの調合および適用は難しい。
【0005】
顔料の耐退色性質は、写真または「写真品質」印刷のために特に有利である。これらのタイプの印刷はしばしば、多年に長持ちすることが期待されており、長期間、直接光に露光される。
【0006】
現世代の写真品質プリンタは典型的に、走査プリントヘッドを使用する。このタイプの印刷によって、プリントヘッドは、多数回、同じ領域の上を通過することができ、通常、通過し、インクの小滴を絡み合わせる。また、走査時に、プリントヘッドは他の方法で可能であるよりも高解像度を達成することができる。従ってプリントヘッドは、180dpi(180「固有」dpi)で離隔されたノズルを有してもよいが、媒体をマイクロステップ操作し、4回のパスを実施することによって、720の見掛解像度を達成することができる。
【0007】
高光沢および画像の明瞭さ(DOI)は、写真品質画像の望ましい特質である。これらの特質は一般に媒体の選択によって影響されるが、インクの選択もまた、役割を果たす。概して、染料インクによってよりも顔料インクによって、より低い光沢およびDOIが達成される。
【0008】
顔料インクによる低光沢の問題は、例えば、米国特許第6857733号明細書に記載されている(その開示内容は完全に明示するのと同様にあらゆる目的のために参照により本明細書中に組み込まれる)。その技術は、必ずしも高光沢ではなく、均一な光沢を達成することを目的としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
顔料インクで高光沢、高いDOIインクジェット印刷を行なう方法がさらに必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様によって、
(a)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程と、
(b)印刷される支持体を前記プリンタに装填する工程と、
(c)インクジェットインクを前記プリンタに装填する工程と、
(d)前記デジタルデータ信号に応答して前記支持体上に前記インクジェットインクを用いて印刷する工程と
を含む、支持体上にインクジェット印刷するための方法が提供され、前記支持体が吸収性光沢媒体であり、前記インクジェットインクが顔料インクジェットインクであり、印刷が1パスで行なわれ、前記プリンタが、前記支持体の所定の領域が1パスで定着されるようにほとんど全ての前記インクが噴射されることを可能にするプリントヘッド装置を備える。
【0011】
好ましくは、上記の方法において、印刷が少なくとも600dpiの解像度において行なわれ、および/またはプリントヘッド装置が約10pL以下である滴径で印刷し、および/または前記プリンタが、少なくともシアン、マゼンタおよびイエローインクを含むインクジェットインクセットを装填され、および/または線走査速度が少なくとも6cm/秒であり、および/または前記プリントヘッド装置が、媒体の端から端まで走査によって作動するか、または前記プリントヘッド装置が固定アレイであり、および/または印刷されていない媒体の60度の光沢が少なくとも約30光沢単位であり、および/またはインクセットが、着色されない領域において画像の全階調範囲の端から端までほぼ均等化された光沢に適用される無色インクをさらに含み、および/または100%または約100%の被覆において印刷された領域の60度の光沢が少なくとも約60光沢単位であり、および/または100%または約100%の被覆において印刷された領域のDOIが少なくとも約1.50DOIであり、および/または100%の被覆において印刷された画像の光沢が、印刷されていない媒体とほとんど同じ光沢を有する。
【0012】
本発明のこれらのおよび他の特徴および利点は、当業者ならば下記の詳細な説明を読むことによってより一層容易に理解するはずである。個々の実施形態の文脈において、分かりやすいように上および下に説明される本発明の特定の特徴はまた、単一の実施形態中に組み合わせて提供されることもある。逆に、簡略のため単一の実施形態の文脈中で述べる本発明の様々な特徴はまた、別々または任意の副次的組合せで提供されることもある。これに加えてその文脈が特別に指示しない限り、単数形についての言及にはまた複数形が含まれる可能性がある(例えば「単数」は1か、1以上を意味する)。さらに、範囲で記載された値への言及は、その範囲内の各々の、および全ての値を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
媒体
本発明に使用するために適した支持体は吸収性であり光沢がある。「吸収性」によって、媒体は、適用されたインク装填材料を流れることなく扱うことができ、印刷後すぐに扱うことができるように媒体が急速に乾燥することを意味する。「光沢」によって、媒体が、印刷された画像が十分な光沢を有することを可能にすることを意味するが、印刷されていない媒体自体が高光沢であることを必ずしも意味しない。好ましくは、印刷されていない媒体の60度の光沢は少なくとも約30光沢単位である。表面反射が明瞭になればなるほど、光沢がますます鮮やかにみえ、このため、印刷されていない媒体が好ましくは良好なDOIを有し、より好ましくは少なくとも約1.5である。
【0014】
吸収性でありかつ光沢がありうる2つのタイプの媒体が「微孔性」および「ハイブリッド」媒体として公知である。いわゆる微孔性媒体は概して、インクビヒクルの急速な吸収を可能にする表面に吸収性粒子のコーティングを有する。いわゆるハイブリッド媒体は典型的に、吸収性およびより高い光沢を提供するために吸収性粒子およびポリマーのコーティングを有する。ストレート「ポリマーコーティングされた」媒体は概して非常に光沢があるが、乾燥が緩慢なである傾向があり−本発明において使用するために概して緩慢すぎる傾向がある。いわゆる「普通紙」は十分に吸収性であるが、光沢プリントできないので本発明において有用でない。いくつかの市販されている吸収性の光沢媒体には、例えば、Epson SO41286およびSO41141、およびHewlett Packard Photo Paper Glossy C7890Aなどがある。
【0015】
プリンタ
プリンタは、支持体の所定の領域が1パス(シングルパス)で定着されるようにほとんど全てのインクが噴射されることを可能にするプリントヘッド装置を備える。適した装置は、走査ヘッドまたは固定アレイであってもよい。
【0016】
走査ヘッドにおいて、プリントヘッドがページの端から端まで走査し、インクを帯状に印刷する。次に、次の帯状部を印刷するためにページを送る。本発明によって規定されるように、走査プリントヘッドによって印刷された各帯状部は、同じ領域の上をさらに走査することなく終了する。帯状部の間にオーバーラップはほとんどないが、実際的な見地から、おそらく、帯状部が接触する1つまたは2つのノズルの幅の、わずかなオーバーラップがある場合がある。1回の走査は、1回(「1パス」)、ページの端から端までのプリントヘッドの通過を意味する。印刷を一方向だけで行なうことができ、例えば、戻り走査での印刷なしに送り走査だけで帯状部を印刷することができる。あるいは、印刷は、送り走査で1つの帯状部を印刷し、戻り走査で次の帯状部を印刷することによって両方の方向で行なうことができる。
【0017】
現在利用可能な全てではないにしてもほとんどの写真品質プリンタは走査プリントヘッドを使用する。これらのプリンタは、少なくとも300dpi、より好ましくは少なくとも600dpiの固有印刷解像度を可能にするノズル構成を設備することによって、および1パスで印刷を可能にする印刷駆動機構を改良することによって本発明に使用するようにできる。
【0018】
本発明に使用するために適した別のタイプのインクジェットプリンタは、所定の位置に固定されるプリントヘッドアレイ(固定アレイ)を備えたインクジェットプリンタである。プリンタは、例えば、米国特許第6443555号明細書(その開示内容は完全に明示するのと同様にあらゆる目的のために参照により本明細書中に組み込まれる)に記載されたプリンタと同様であってもよい。このようなプリンタのプリントヘッドは、例えば、米国特許第6426014号明細書および米国特許出願公開第20020033863号明細書(その開示内容もまた、完全に明示するのと同様にあらゆる目的のために参照により本明細書中に組み込まれる)に記載されたプリントヘッドであってもよい。
【0019】
固定アレイプリントヘッドは、印刷領域にわたって1パスで支持体の所定のdpiを達成するために十分なノズルを有するように構成される。印刷領域の幅は、印刷される領域の幅と少なくとも同じ幅である。したがって、この種類のプリントヘッドは、一般にページ幅アレイまたは全幅アレイと称される。いわゆる「SOHO」(小さなオフィス、ホームオフィス)および「ネットワーク」印刷については、印刷領域の幅は、A4サイズの紙および/またはレターサイズ(8.5×11インチ)紙などの標準紙と少なくとも同じ幅である。いわゆる「ワイドフォーマット」印刷については、印刷領域は好ましくは、少なくとも約24インチの幅であり、ロールから供給される媒体を受け入れることができる。
【0020】
1インチ当たりの小滴、またはドット(dpi)は、全(100%)被覆について媒体の1平方インチ当たりのインク小滴の数を指す。dpiは好ましくは少なくとも300dpi、より好ましくは少なくとも600dpiである。さらにより好ましくはdpiは少なくとも720であり、もっと高くてもよい。
【0021】
小滴体積は好ましくは約20pL未満、より好ましくは約10pL未満、さらにより好ましくは約5pL未満、さらにより好ましくは約2pL未満である。
【0022】
線走査速度は、プリントヘッド装置を通り過ぎる媒体の相対移動を指す。走査プリントヘッドの場合、それは、プリントヘッドがページの端から端まで移動する速度である。固定アレイの場合、それは媒体の線送り速度である。好ましくは線走査速度は少なくとも約6cm/秒、より好ましくは少なくとも約15cm/秒、さらにより好ましくは少なくとも約25cm/秒である。
【0023】
顔料インクおよびインクセット
顔料インクはビヒクルおよび不溶性(顔料)着色剤を含み、一般に当業者に公知であるような他の成分をさらに含んでもよい。適したインクには、Epson Stylus C84、Epson Stylus Photo 2200およびHewlett Packard DesignJet Large Format Series(UVインク)のインクなどの市販されているインクがある。
【0024】
ビヒクル
ビヒクルは好ましくは、水、あるいは水と少なくとも1種類の水溶性有機溶剤(補助溶剤)との混合物を意味する「水性ビヒクル」である。適切な混合物の選択は、その特定の用途の必要条件、例えば望ましい表面張力および粘度、選択した着色材、インクの乾燥時間、およびそのインクが印刷される支持体の種類に左右される。選択することができる水溶性有機溶剤の典型的な例が、米国特許公報5085698号明細書に開示されている(その開示内容は完全に明示するのと同様にあらゆる目的のために参照により本明細書中に組み込まれる)。
【0025】
水と水溶性溶剤との混合物を使用する場合、この水性ビヒクルは一般に水を約30%〜約95%含有することになり、残分(すなわち約70%〜約5%)が水溶性溶剤である。好ましい組成物は、水性ビヒクルの全重量に対して、水を約60%〜約95%含有する。
【0026】
インク中の水性ビヒクルの量は、典型的に、インクの全重量に対して、約70%〜約99.8%、好ましくは約80%〜約99.8%の範囲にある。
【0027】
グリコールエーテルおよび1,2−アルカンジオールなどの界面活性剤または浸透剤を含有することによって水性ビヒクルベースのインクを速い浸透性(急速乾燥性)にすることができる。グリコールエーテルには、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、およびジプロピレングリコールモノ−イソプロピルエーテルなどがある。1,2−アルカンジオールは好ましくは1,2−C4−6アルカンジオール、最も好ましくは1,2−ヘキサンジオールである。適した界面活性剤には、エトキシ化アセチレンジオール(例えばAir Products製のSurfynols(登録商標)シリーズ)、エトキシ化第一(例えばShell製のNeodol(登録商標)シリーズ)および第二(例えばUnion Carbide製のTergitol(登録商標)シリーズ)アルコール、スルホスクシネート(例えばCytec製のAerosol(登録商標)シリーズ)、オルガノシリコーン(例えばWitco製のSilwet(登録商標)シリーズ)およびフッ素系界面活性剤(例えばDuPont製のZonyl(登録商標)シリーズ)などがある。
【0028】
添加されたグリコールエーテルと1,2−アルカンジオールとの量は適切に定量されなければならないが、典型的に、インクの全重量に対して約1〜約15重量%、より典型的に約2〜約10重量%の範囲である。界面活性剤は、典型的に、インクの全重量に対して約0.01〜約5%、好ましくは約0.2〜約2%の量で用いられてもよい。
【0029】
顔料着色剤
伝統的に顔料は、ポリマー分散剤または界面活性剤などの分散剤によってビヒクル中の分散に対して安定化させる。けれども最近ではいわゆる「自己分散可能」または「自己分散性」顔料(以後「SDP」)が開発されている。その名が暗示するようにSDPは、分散剤なしで水または水性ビヒクル中に分散可能である。黒色顔料は、自己分散性になるように表面処理(例えば米国特許第6852156号明細書を参照されたい。その開示内容は完全に明示するのと同様にあらゆる目的のために参照により本明細書中に組み込まれる)することによって、伝統的な方法で分散剤で処理することによって、または表面処理と分散剤の幾つかの組合せによって分散に対して安定化されうる。
【0030】
分散剤を使用する場合、これらの分散剤は好ましくはランダムまたは構造化されたポリマー分散剤である。好ましいランダムポリマーには、アクリルポリマーおよびスチレン−アクリルポリマーが挙げられる。最も好ましくは、AB、BAB、およびABCブロックコポリマー、分枝ポリマー、およびグラフトポリマーを含めた構造化された分散剤である。幾つかの有用な構造化されたポリマーが、米国特許第5085698号明細書、EP−A−0556649号明細書および米国特許第5231131号明細書(その開示内容は完全に明示するのと同様にあらゆる目的のために参照により本明細書中に組み込まれる)に開示される。
【0031】
有用な顔料の粒度は一般に約0.005ミクロン〜約15ミクロンの範囲にある。好ましくは顔料の粒度は約0.005ミクロン〜約5ミクロン、より好ましくは約0.005ミクロン〜約1ミクロン、また最も好ましくは約0.005ミクロン〜約0.3ミクロンの範囲にあるべきである。
【0032】
有用な顔料には、例えば、(シアン)ピグメント・ブルー15:3および15:4;(マゼンタ)ピグメント・レッド122;(イエロー)ピグメント・イエロー128、ピグメント・イエロー95、ピグメント・イエロー155およびピグメント・イエロー74;および(ブラック)カーボンブラックなどがある。
【0033】
他のインク成分
他の成分を、このような他の成分がインクの安定性およびジェット能力を妨げない程度にインクジェットインクに調合してもよく、これは日常実験によって容易に測定できる。このような他の成分は、一般的な意味において本技術分野に公知である。
【0034】
ポリマー添加剤もまた、インクに含有されてもよい。ポリマーはビヒクルに可溶性であるかまたは分散型であり(例えば「エマルションポリマー」あるいは「ラテックス」)、イオン性または非イオン性であってもよい。有用なクラスのポリマーには、アクリル系誘導体、スチレン−アクリル系誘導体およびポリウレタンなどがある。
【0035】
殺生剤を用いて微生物の成長を抑制することができる。
【0036】
金属イオン封鎖(またはキレート)剤、例えばエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、エチレンジアミン−ジ(o−ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸(CyDTA)、デチレントリアミン−N,N,N’,N’’、N’’−ペンタ酢酸(DTPA)、およびグリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸(GEDTA)、およびそれらの塩を含有することは、例えば、重金属不純物の有害な影響を除くのに有利である場合がある。
【0037】
インク性質
噴出速度、液滴の分離距離、滴径、および流れの安定性は、インクの表面張力および粘度に非常に影響される。インクジェットインクは一般に、25℃において約20ダイン/cm〜約70ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。粘度は、25℃において最高30cPであってもよく、一般にいくぶんより低く、より一般的には約1センチポアズ〜約20センチポアズの範囲にある。インクは、射出条件およびプリントヘッド設計に調節される物理的性質を有する。インクは、インクジェット装置内に著しく詰まらせないように長期間のすぐれた貯蔵安定性を有するべきである。さらにインクは、それが接触するインクジェット印刷装置の部品を腐食してはならず、また本質的に無臭かつ非毒性であるべきである。インクは、ドロップ・オン・デマンドインクジェットプリントヘッド、特にサーマルおよびピエゾプリントヘッドに特に適している。
【0038】
成分の比率
本明細書に記載された成分を様々な比率および組み合わせで配合して、上に概述したように、および別の方法で当業者によって一般に認識されるように所望のインク性質を有するインクを作製することができる。特定の最終用途にインクを最適にするために特定の実験が必要であることがあるが、このような最適化は一般に本技術分野の通常の技術の範囲内である。
【0039】
例えば、インク中のビヒクルの量は一般的に、インクの全重量に対して約70重量%〜約99.8重量%、好ましくは約80重量%〜約99.8重量%の範囲である。
【0040】
顔料着色剤は一般的に、全インクの約12重量%まで、より一般的に約0.1〜約9重量%の範囲の量で存在する。
【0041】
不溶性着色剤の安定化のために必要とされるとき、分散剤は着色剤の量に基づいたレベルで使用され、通常、重量比として表される。概して、分散剤は、約1:3〜約4:1の範囲の顔料対分散剤の重量比で使用される。
【0042】
他の成分(添加剤)は、存在する場合、一般にインクの全重量に対して約15重量%未満を占める。界面活性剤は、添加されるとき、一般にインクの全重量に対して約0.2〜約3重量%の範囲である。ポリマーが必要に応じて添加されてもよいが、一般に、インクの全重量に対して約15重量%未満である。
【0043】
インクセット
本発明によるインクセットは、少なくとも3つの異なる着色顔料インク(CMYなど)を含み、好ましくは少なくとも4つの異なる着色インク(CMYKなど)を含む。インクセットは、橙色インク、緑色インク、赤色インクおよび/または青色インクなどの異なった着色インク、およびそのままの濃度とライトシアンおよびライトマゼンタなどの薄い濃度のインクとの組合せなど、1つまたは複数の「全領域拡大(gamut−expanding)」インクをさらに含んでもよい。
【0044】
1つの実施形態において、インクセットの1つまたは複数の有色顔料インクは、インクの全重量に対して少なくとも2.5%の顔料を含む。別の実施形態において、インクセットは、インクの全重量に対して、少なくとも2.0重量%の顔料を含むシアンインク、少なくとも2.5重量%の顔料を各々含むマゼンタおよびイエローインクを含む。
【0045】
さらに別の印刷方法
インクセットは無色インクをさらに含有することができる。前に組み込まれた米国特許第6857733号明細書に開示されているように、無色インクは、画像の全階調範囲にわたって光沢をほぼ均等化するために、着色インクによって被覆されていない印刷画像の領域において(同時にまたは連続的に)適用されてもよい。無色インクはまた、耐久性などの印刷画像の性質を改良するために保護被膜として着色インクの上に適用されてもよい。
【実施例】
【0046】
本発明はさらに説明されるが、以下の実施例によって限定されない。
【0047】
印刷試験
特に指示しない限り、媒体を取り付ける回転ドラムの上の固定位置に設けられた2つのEpson 850圧電インクジェットプリントヘッドからなる印刷装置で印刷を行なった。2つのプリントヘッドは支持体の同じ領域上に印刷するように整列され、2つの流体の印刷の時間間隔が、所望の間隔を提供するために必要とされる時に変化されうるドラム速度によって制御されるように、それらの間に固定隙間がある。プリントヘッドは約1cm幅であり、同じ幅のストライプを生じた。圧電素子駆動信号を変えることによって滴径を変化させることができる。必要な場合、ドラム方向を逆にして2つの流体の印刷順序を変えた。2つのプリントヘッドを交互に配置して700dpiの解像度をもたらした。全ての印刷は、特に指示しない限り、100%の被覆において行なわれた。
【0048】
比較のために、いくつかの印刷をEpson 980(1440dpi、写真モード)で実施した。印刷はマルチパスであるが、正確な印刷アルゴリズムは知られていない。
【0049】
全ての試験について使用された媒体は、Epson SO41286光沢媒体であった。60度の光沢は32であり、DOIが2.24であった。
【0050】
光学濃度をGreytag−MacBeth Spectropotometerで測定した。
【0051】
光沢をByk−Gardner ミクロTRI光沢計で測定した。
【0052】
DOIをBYK−Gardner Wave Scan DOIで測定した。
【0053】
ポリマー1(BZMA/MAA92/8のランダム直鎖状ポリマー)
ポリマー1を以下のように調製した。5リットルフラスコは、機械的撹拌機、温度計、窒素入口、乾燥管出口および添加漏斗を備えた。1715.1gのテトラヒドロフラン(THF)をフラスコに入れ、その後に、アセトニトリル中の触媒(テトラブチルアンモニウムm−クロロベンゾエート)の1.0M溶液1.2mlを入れた。51.33gの開始剤(0.295M、1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−メチルプロペンを注入し、次いで供給I(テトラブチルアンモニウムm−クロロベンゾエート、アセトニトリルおよびTHF中の1.0M溶液1.2ml、10.0g)を開始し、180分にわたって添加した。供給II(トリメチルシリルメタクリレート、213.2g(1.69M)およびベンジルメタクリレート、1334.5g(7.42M))を0.0分において開始し、70分にわたって添加した。173分において、60.5gのメタノールを上記の溶液に添加し、蒸留を開始した。蒸留の第1段階の間、503.0gの材料を除去した。最終ポリマーは固形分51.7重量%であった。ポリマーは、BZMA/MAA92/8の組成および5047の分子量(Mn)を有した。
【0054】
ポリマー2(ETEGMA//BZMA//MAA3.6//13.6//10.8)
ポリマー2を以下のように調製した。3リットルフラスコは、機械的撹拌機、温度計、窒素入口、乾燥管出口および添加漏斗を備えた。291.3gのTHFをフラスコに入れ、その後に、アセトニトリル中の触媒(テトラブチルアンモニウムm−クロロベンゾエート)の1.0M溶液0.44mlを入れた。20.46gの開始剤(0.0882M、1,1−ビス(トリメチルシロキシ)−2−メチルプロペン)を注入し、次いで供給I(テトラブチルアンモニウムm−クロロベンゾエート、アセトニトリルおよびTHF中の1.0M溶液0.33ml、16.92g)を開始し、185分にわたって添加した。供給II(トリメチルシリルメタクリレート、152.00g(0.962M))を0.0分において開始し、45分にわたって添加した。供給IIが終了した180分後(モノマーの99%超が反応していた)、供給III(ベンジルメタクリレート、211.63g(1.20M))を開始し、30分にわたって添加した。供給IIIが終了した40分後(モノマーの99%超が反応していた)、供給IV(エトキシトリエチレングリコールメタクリレート、78.9g(0.321M))を開始し、30分にわたって添加した。400分において、73.0gのメタノールおよび111.0gの2−ピロリドンを上記の溶液に添加し、蒸留を開始した。蒸留の第1段階の間、352.0gの材料を除去した。次いで、340.3gの2−ピロリドンを添加し、付加的な81.0gの材料を完全に蒸留した。最後に、さらに86.9gの2−ピロリドンを添加した。最終ポリマーは固形分40.0重量%であった。ポリマーは、ETEGMA//BZMA//MAA4//12//12の組成、および4200の分子量(Mn)を有した。
【0055】
顔料分散体1
600グラムのカーボンブラック(Degussa製のNipex(登録商標)180IQ)を、4400グラムの脱イオン水を有する高速分散機(HSD)容器に充填した。オゾン処理の前に30分間、顔料を予備湿潤するために先端速度を5.5m/秒に維持し、次いでオゾン処理の間、11m/秒に増加させた。オゾンを5.5〜6.0重量%の濃度に維持し、毎分4.5リットルの流量でHSD容器の底部に供給した。3時間の処理後にそのpHを7に増加させるために水酸化ナトリウムを混合物に添加した。pHを調節した後、次いで混合物を5時間、マイクロフルイダイザ(登録商標)M110F中を再循環させた。水酸化ナトリウムを定期的に混合物に添加してpHを6.5〜7.5の間に維持した。生成物は自己分散性であり、室温で6ヶ月超の貯蔵後に粒子の沈降またはゲル化は全くなかった。これは、16.2重量%の顔料濃度の分散体を形成した。
【0056】
顔料分散体2
15.0gのHostaperm PインクEw−Dと、14.51gのポリマー1溶液と、0.75gの45%KOHと、10.0gのトリエチレングリコールと59.74gの水との混合物を高速分散機中でブレンドした。次いでこの混合物をMinimill 100(Eigermachinery Inc.,Bensenville,IL,USA)に入れた。ミル粉砕を1時間、3500RPMにおいて実施して、14.87重量%の顔料、顔料/分散剤比2/1の顔料分散体を生じた。
【0057】
インクの調製
インクを以下の処方によって調製した。概して、ビヒクル成分を別々に混合し、次いで分散体にゆっくりと添加した。Surfynol(登録商標)465は、Air Products(Allentown,PA,USA)製の界面活性剤である。水は使用前に脱イオン化された。
【0058】

【0059】
インク6
T0423カートリッジからのEpson C82商用マゼンタインクを使用した。このインクは、約6重量%の顔料を有すると推定された。
【0060】
実施例1
インク1〜3の光沢を、Epson 980での1パス印刷〜マルチパス印刷について比較した。
【0061】

【0062】
結果は、1パスの印刷で最大光沢を示す。より高い光沢は、ポリマーを添加することによって得ることができる。特定のポリマーは、他のポリマーよりも大きい光沢を付加するように思える。
【0063】
実施例2
マルチパスと比較した1パスの印刷の光沢の利点をインク4〜6について示す。
【0064】

【0065】
マルチパスに比較して1パスで印刷された時に全てのインクについて、より高い光沢があるが、いくつかのインクは他のインクよりもさらに光沢がある。
【0066】
実施例3
いろいろなインクおよび印刷条件についてのDOIを以下の表に記載する。DOI値が高くなると、画像の品質がますます良くなる。
【0067】

【0068】
印刷モードにおいての「980」の記載は、Epson 980プリンタでの印刷を指す。DOIは、(du+Wa+Wb+Wc+Wd+We)/100から計算される。
【0069】
比較例
比較のために、染料系インク(DuPont Co.,Wilmington,DE,USA製のFusion(登録商標)インク)を印刷し、測定した。
【0070】

【0071】
見ることができるように、パス数は、染料インクに対して差を生じない。また、染料インクは光沢を付加しない。
次に、本発明の態様を示す。
1.(a)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程と、
(b)印刷される支持体を前記プリンタに装填する工程と、
(c)インクジェットインクを前記プリンタに装填する工程と、
(d)前記デジタルデータ信号に応答して前記支持体上に前記インクジェットインクを用いて印刷する工程と
を含み、前記支持体が吸収性光沢媒体であり、前記インクジェットインクが顔料インクジェットインクであり、印刷が1パスで行なわれ、前記プリンタが、前記支持体の所定の領域が1パスで定着されるようにほとんど全ての前記インクが噴射されることを可能にするプリントヘッド装置を備える、支持体上にインクジェット印刷するための方法。
2. 前記印刷が少なくとも600dpiの解像度において行なわれる、上記1に記載の方法。
3. 前記プリントヘッド装置が、約10pL以下である滴径を印刷する、上記1に記載の方法。
4. 線走査速度が少なくとも6cm/秒である、上記1に記載の方法。
5. 印刷されていない媒体の60度の光沢が少なくとも約30光沢単位である、上記1に記載の方法。
【0072】
6. 100%または約100%の被覆において印刷された領域の60度の光沢が少なくとも約60光沢単位である、上記1に記載の方法。
7. 100%または約100%の被覆において印刷された領域のDOIが少なくとも約1.50である、上記11に記載の方法。
8. 100%の被覆において印刷された画像の光沢が、印刷されていない媒体とほとんど同じ光沢を有する、上記1に記載の方法。
9. 前記プリントヘッドが、媒体の端から端まで走査によって作動する、上記1〜8のいずれか一項に記載の方法。
10. 前記プリントヘッド装置が固定アレイである、上記1〜8のいずれか一項に記載の方法。
11. 前記プリンタが、少なくともシアン、マゼンタおよびイエローインクを含むインクジェットインクセットを装填される、上記1〜10のいずれか一項に記載の方法。
12. 前記インクセットの少なくとも1つまたは複数の顔料インクが、インクの全重量に対して少なくとも2.5重量%の顔料を含有する、上記11に記載の方法。
13. 前記インクセットが、着色されない領域において画像の全階調範囲の端から端までほぼ均等化された光沢に適用される無色インクをさらに含む、上記11に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)支持体の所定の領域が1パスで定着されるようにほとんど全てのインクが噴射されることを可能にするプリントヘッド装置を備え、デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程と、
(b)印刷される支持体を前記プリンタに装填する工程と、
(c)顔料インクジェットインクを前記プリンタに装填する工程と、
(d)前記デジタルデータ信号に応答して前記支持体上に前記顔料インクジェットインクを用いて印刷する工程と
を含み、線走査速度が少なくとも6cm/秒であり、印刷が少なくとも300dpiの解像度において行なわれ、かつ前記プリントヘッド装置が、20pL以下である滴径を印刷する、支持体上にインクジェット印刷する方法であって、
支持体が60度の光沢が少なくとも30光沢単位である吸収性光沢媒体であり、支持体への印刷が顔料インクジェットインクを用いて1パスで行なわれ、前記プリントヘッドが、媒体の端から端まで走査によって作動することを特徴とする印刷方法。

【公開番号】特開2012−16954(P2012−16954A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222845(P2011−222845)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【分割の表示】特願2007−513343(P2007−513343)の分割
【原出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】