説明

インクジェットプリンタのガター

【課題】 インク受口部の外周面にインク固化物が生じることを防ぐことにより、正常な印字を妨げることのないインクジェットプリンタのガターが望まれている。
【解決手段】 ガター1は、インクジェットプリンタのノズルから噴射されたインク粒子のうち、印字に使用しない不用インク粒子D0を受け取るインク受口部23を備えた筒状のガター1であって、インク受口部23の内周面23Aおよび/または外周面23Bを、インクの表面張力よりも小さな表面張力を有する被覆膜31で被った構成になっている。前記の被覆膜31を構成する材料としては、例えばフッ素樹脂、フッ素樹脂を含む材料、シリコーン樹脂、シリコーンを含む材料などが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字に使用しない不要インク粒子を受け取って再利用する連続式インクジェットプリンタのガターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のインクジェットプリンタは例えば下記の特許文献1に記載されている。かかる文献開示のインクジェットプリンタは、インク供給ポンプと、ガターを含むプリントヘッドと、インク回収ポンプと、インクタンクを備えている。インク供給ポンプによって加圧されたインクは、ノズルヘッド内の圧電素子の作動により規則的なインク粒子となってノズルから噴射される。インク粒子は、帯電電極により印字内容に応じて荷電され、偏向電極間の静電偏向場を通過する時に飛行方向が変えられて印字に使用される。一方、帯電電極で荷電されなかったインク粒子は偏向電極で偏向されず直進してガターに受け取られ、インク回収ポンプの吸引力によりインク回収路内を通り、インクタンクに戻って再利用されるようになっている。ガターは強度が高く耐食性のあるステンレス鋼などで構成されることが多い。ノズルから発射されるインク粒子は、一般的に粒径が数10〜100μmで、発射数は6000〜7000粒/秒であり、速度約20m/秒で飛行する。そして、産業用インクジェットプリンタで使用されるインクはアルコールや油に可溶な油溶性染料および合成樹脂バインダを溶剤に溶解させたものであり、粘度は3〜8mPa・sである。前記の溶剤はエチルアルコールなどの低級アルコール類やメチルエチルケトンなどのケトン類が汎用され、インク全体の約80重量%を占めている。
【0003】
上記した従来のインクジェットプリンタに使用されるガターを図8に示す。図示のガター51はステンレス鋼製の筒体であり、インクジェットプリンタのノズルに対面するようにインク受口部23の受口開口24が向けられている。そこで、インクジェットプリンタのノズルから噴射されたインク粒子のうち、印字に使用される使用インク粒子は偏向電極間で飛行方向が変えられて、例えば同図(a)のD1のようにガター51のインク受口部23からそれて被印刷物に向かう。一方、印字に使用されない不要インク粒子D0は飛行軌跡Q0上を真直ぐに飛行し、インク受口部23の受口開口24からガター51内に入って屈曲部32の内周面に衝突し、インク回収路を経て再利用されるようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−264410号公報
【0005】
【非特許文献1】接着剤と接着技術入門(書籍、初版、著者:Alphonsus V.Pocius、日刊工業新聞社発行、第123ページ(1999年))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した従来のガター51はステンレス鋼などの金属製であって表面張力が高いために、ガター51に受け取られたインクは濡れ作用により屈曲部32の内周面に付着して濡れ拡がる。そのうち、ガター内通路を流通する空気に伴い、インクから溶剤が揮散してガター51から持ち出される。これにより、同図(b)のように、屈曲部32の内周面にインク固化物が生じる。屈曲部32のインク固化物は図中L1のように屈曲部32の奥側に向かって成長する。一方、屈曲部32に生じたインク固化物に衝突して前方に撥ね返ったインクからもインク固化物が生じ、このインク固化物は図中K1のように屈曲部32から前向きに成長する。その後、同図(c)のように、屈曲部32のインク固化物はL2のように奥向きに成長するとともにK2のように前向きに成長する。そのうち、前向きのインク固化物K2は受口開口24の縁部に達する。
【0007】
受口開口24の縁部に達したインク固化物は、同図(d)のK3で示すように、縁部からインク受口部23の外周面に回り込み、その位置で成長する。因みに、ガター内通路は溶剤蒸気が充満しているためにインクが乾きにくくなっているが、外部は溶剤が揮散しやすいのでインク受口部23の外周面でインクはインク固化物となって堆積しやすい。そして、インク固化物K3が成長を続けるうちに、ガター51の近くを飛行する使用インク粒子D1がインク固化物K3に衝突する。このように、使用インク粒子D1がインク受口部23外周面のインク固化物K3に衝突すると、使用インク粒子D1で表わされる予定であった印字部分が間引かれて正常な印字が妨げられる。また、上記のように使用インク粒子D1がインク固化物K3に衝突すると、インク固化物の成長が一気に加速されて、同図(e)のK4のように巨大化し、よりいっそう印字が妨げられることとなる。
【0008】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、インク受口部の外周面にインク固化物が生じることを防ぐことにより、正常な印字を妨げることのないインクジェットプリンタのガターの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るインクジェットプリンタのガターは、印字に使用しない不要インクを回収して再利用するインクジェットプリンタのノズルから噴射されたインク粒子のうち、印字に使用しない不要インク粒子を受け取るインク受口部を備えた筒状のガターにおいて、インク受口部の内周面および/または外周面を、インクの表面張力よりも小さな表面張力を有する被覆膜で被った構成にしてある。前記の被覆膜を構成する材料としては、例えばフッ素樹脂、フッ素樹脂を含む材料、シリコーン樹脂、シリコーンを含む材料などが挙げられる。
【0010】
また、前記構成において、被覆膜がフッ素系コーティング材もしくはシリコン系コーティング材から構成されたものである。
【0011】
そして、本発明に係るインクジェットプリンタのガターは、印字に使用しない不要インクを回収して再利用するインクジェットプリンタのノズルから噴射されたインク粒子のうち、印字に使用しない不要インク粒子を受け取るインク受口部を備えた筒状のガターにおいて、少なくともインク受口部を、インクの表面張力よりも小さな表面張力を有する材料で構成したものである。
【0012】
更に、前記構成において、インクの表面張力よりも小さな表面張力を有する材料としてフッ素系材料もしくはシリコン系材料を用いたものである。
【0013】
そして、本発明に係るインクジェットプリンタのガターは、親水性溶剤を含んで成るインクを使用するとともに印字に使用しない不要インクを回収して再利用するインクジェットプリンタの、ノズルから噴射されたインク粒子のうち、印字に使用しない不要インク粒子を受け取るインク受口部を備えた筒状のガターにおいて、少なくともインク受口部を、撥水性材料もしくは撥油性材料で構成したものである。前記の親水性溶剤としては、例えばエチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。また、前記の撥水性材料としては、例えばフッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。前記の撥油性材料としては、例えばフッ素樹脂などが挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に係るインクジェットプリンタのガターによれば、インク受口部の内周面および/または外周面がインクの表面張力よりも小さな表面張力を有する被覆膜で被われているので、インク受口部の内周面を前記被覆膜で被った場合、インク受口部に受け取られた不要インク粒子がインク受口部の内周面ではじかれる。これにより、不要インク粒子はインク受口部の内周面で濡れ拡がることなく直ちに下流側に回収される。従って、インク受口部の内周面にインク固化物が生じず成長することもなく、結果的にインク受口部の外周面までインク固化物が届かない。一方、インク受口部の外周面のみを被覆膜で被った場合、インク受口部の内周面にはインク固化物が生じてインク受口部の開口縁部まで成長することがある。しかしながら、インク受口部の外周面の被覆膜でインクが濡れずに弾かれるので、インク受口部の外周面にインク固化物を生じることがない。従って、いずれの場合も、使用インク粒子の衝突による印字の阻害を防止することができる。無論、インク受口部の内周面および外周面の双方を前記被覆膜で被った場合は、いっそう確実に正常な印字の妨げを防ぐことができ、ガター内外を清浄に保つことができる。
【0015】
また、前記構成における被覆膜がフッ素系コーティング材から構成されている場合、フッ素系コーティング材から成る被覆膜はインクとの表面張力差が各種材料中でも非常に大きな部類に入るためインクで濡れにくく、撥水性および撥油性も高いから、よりいっそう確実に、インク受口部の外周面にインク固化物が生じることを防止できる。一方、被覆膜がシリコン系コーティング材から構成されている場合、シリコン系コーティング材も撥水性が高いうえ、フッ素系コーティング材と比べて入手容易であり安価で済む。
【0016】
そして、本発明の請求項3に係るインクジェットプリンタのガターによれば、少なくともインク受口部がインクの表面張力よりも小さな表面張力を有する材料で構成されているので、インク受口部外周面にインク固化物が生じることを防いで正常な印字ができるのは無論のこと、ガター全体やガターの要部が成型などにより容易に得られるので、前記した被覆膜を製作する際の手間のかかるコーティング作業が必要でなく、簡単な製造により安価に提供することができる。
【0017】
更に、前記構成におけるインクの表面張力よりも小さな表面張力を有する材料として、フッ素系材料を用いた場合は、インクと被覆膜の表面張力差が非常に大きくなって濡れにくく撥水性および撥油性も高いから、よりいっそう確実に、インク受口部の外周面にインク固化物が生じることを防止できる。一方、シリコン系材料を用いた場合、シリコン系材料も撥水性が高いうえ、フッ素系材料と比べて入手容易であり安価で済む。
【0018】
また、親水性溶剤を含んで成るインクを使用するインクジェットプリンタにおいて、ガターの少なくともインク受口部を撥水性材料もしくは撥油性材料で構成した場合も、インク受口部内でインクが弾かれて回収されるので、インク受口部の内周面はもとより外周面にもインク固化物が生じず正常印字が可能となる。尚、撥油性を有する材料は当然に撥水性も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。ここに、図1は本発明の一実施形態に係るガターを用いたインクジェットプリンタの概略構成図、図2は前記インクジェットプリンタのプリントヘッドの概略構成図である。
各図において、この実施形態に係るインクジェットプリンタJは印字に使用しない不要インクを回収して再利用する方式の装置であり、相対移動(図2中の矢印F方向)する被印刷物Wに向けて、印字に使用する使用インク粒子Dnを噴射するプリントヘッド2を備えている。
【0020】
このインクジェットプリンタJにおいて、符号5は印字用のインクを貯留したインクタンク、8はインクを希釈する溶剤を貯留した溶剤タンク、12はインクと溶剤を混ぜ合わせて所定のインク粘度に調整するための粘度調整タンク、7はインクタンク5および溶剤タンク8とポンプ10の吸込側とを連結するインク通路、11はポンプ10の吐出側と粘度調整タンク12とを連結するインク通路、13は粘度調整タンク12とインク供給ポンプ14の吸込側とを連結するインク通路、16はインク供給ポンプ14の吐出側とプリントヘッド2とを連結するインク供給路、17はプリントヘッド2とインク回収ポンプ18の吸込側を連結するインク回収路、19はインク回収ポンプ18の吐出側とインクタンク5とを連結するインク供給路である。インクタンク5からのインク通路7の途中には、インク供給量を調整する電動式のバルブ6が配備されている。溶剤タンク8からのインク通路7の途中には、溶剤供給量を調整する電動式のバルブ9が配備されている。インク供給路16の途中には、粘度調整済みインクの供給量を調整する電動式のバルブ15が配備されている。
【0021】
プリントヘッド2は、本体ケーシング(図示省略)内に、前面にインク噴射用のノズル4を備えたノズルヘッド3と、ノズル4から噴射されたインク粒子Dに電源21からの出力に応じた電圧(この例ではマイナス電荷)をかける帯電電極20と、電荷が付加されたインク粒子Dの飛行方向を変える偏向電極22と、帯電電極20で電荷が付加されず印字に使用されない不要インク粒子D0を受け取って回収するガター1とを備えている。帯電電極20からインク粒子Dにかけられる帯電電圧PnVは例えば100〜300Vである。帯電電圧100V(=P1V)のときに不要インク粒子D0の飛行軌跡Q0からの偏向量が最も少なく、最下位置の使用インク粒子D1として被印刷物Wに付着する。一方、帯電電圧300V(=PnV)のときに不要インク粒子D0の飛行軌跡Q0からの偏向量が最も大きく、最上位置の使用インク粒子Dnとして被印刷物Wに付着するようになっている。尚、この実施形態で用いるインクの含有成分は、例えば、エチルアルコール70〜75wt%、プロピレングリコール5〜10wt%、ポリエステルなどの合成樹脂10wt%、油溶性染料10wt%であり、このインクの表面張力は28dynes/cmである。
【0022】
ところで、各種物質の表面張力(単位=dynes/cm、固体は臨界表面張力)としては、一般に、紙が43、水が71、鉄が4000、有機溶剤が23〜25、汎用工業油が20程度、ポリテトラフルオロエチレンが18、フッ素系コーティング材膜が15〜18、ポリエチレンおよびポリプロピレンが31、シリコーン樹脂が21であることが知られている。これらの一部は、例えば既述した非特許文献1に記載されている。これら液体や固体の表面張力は、例えば円環引上げ法、ペンダントドロップ法、接触角計測法などにより常法に従って測定される。
【0023】
この実施形態に係るガター1は、図3および図4に示すように、ステンレス鋼を材料として複数箇所で屈曲した筒状に形成されたガター本体34から主に構成されている。このガター本体34は、不要インク粒子D0を受け取るインク受口部23(筒内径=0.8〜1mm)と、不要インクD0を再利用するためのインク回収路17に連結されるインク出口部25と、インク受口部23とインク出口部25との間に介在する中間部26と、インク受口部23と中間部26との間に存在する屈曲部32とを備えている。屈曲部32は不要インク粒子D0の飛行軌跡Q0と交差する位置に配置されている。ガター本体34はその内周面全体とインク受口部23の外周面23Bがフッ素系コーティング材から成る被覆膜31で被われている。この被覆膜31はインクの表面張力よりも小さな表面張力を有している。インク受口部23の受口開口24の開口端面およびインク出口部25の開口端面も被覆膜31で被われている。被覆膜31において、符号31aはインク受口部23の受口開口24から屈曲部32までの内周面23Aを被う被覆膜、31bはインク出口部25の内周面を被う被覆膜、31cはインク出口部25から屈曲部32までの中間部26の内周面を被う被覆膜であり被覆膜31aおよび被覆膜31bと一体につながっている。31dはインク受口部23の受口開口24から外周面23Bを被う被覆膜であり、被覆膜31aと一体につながっている。
【0024】
実際上、このガター1のガター本体34は取付用ブロック27内に中間部26が形成され、取付用ブロック27の上面から突出したインク受口部23が中間部26の一端につながり、取付用ブロック27の下面から突出したインク出口部25が中間部26の他端につながっている。このガター1は取付用ブロック27のネジ用穴28に通されたビス(図示省略)により、インク受口部23の受口開口24をノズルヘッド3のノズル4に対面させた状態でプリントヘッド2の偏向電極22の前方位置に取り付けられる。
【0025】
上記したガター1のコーティング作業を説明する。コーティング作業に先立って、フッ素コーティング材溶液(旭硝子株式会社製のCTL−109A(商品名):パーフルオロブテニルビニルエーテル環化重合物のパーフルオロ系溶剤溶液)100gをフッ素系溶剤(旭硝子株式会社製のCT−SOLV−100(商品名):パーフルオロ系溶剤)100gで希釈して、取り扱い易い粘度のフッ素コーティング材溶液に調整しておく。尚、パーフルオロ系溶剤としては、炭化水素あるいはアルキル基、アリール基などの水素原子がすべてフッ素置換された常温常圧下で液体の化合物であって、フッ素コーティング材を溶解するものであれば特に限定されない。
【0026】
そこで、常温常圧下において、フッ素コーティング材溶液を収容した注入器30の吐出口とガター1のインク出口部25とを接続チューブ29で連結する。注入器30のピストンを手で押してフッ素コーティング材溶液10mL程度をインク出口部25から注入し、中間部26、屈曲部32、インク受口部23内にフッ素コーティング材溶液を満たして、数分間そのままに保持しフッ素コーティング材溶液をガター1の内面に馴染ませる。このとき、スポイトなどを用いてインク出口部25の外周面にもフッ素コーティング材溶液を塗布しておく。
次に、接続チューブ29をインク出口部25から外して、エアコンプレッサの吐出ノズルをインク出口部25につなぐ。エアコンプレッサを駆動して10〜1000mL/分程度の空気をガター1内に流通させる。これにより、フッ素コーティング材溶液からフッ素系溶剤を蒸散させてフッ素コーティング材の半乾き膜を形成させる。このガター1をオーブンに入れて180℃で1時間加熱する。これにより、フッ素系溶剤が完全に揮散し、フッ素コーティング材の半乾き膜から堅牢な被覆膜31ができあがる。被覆膜31の表面張力は16mN/m(=dynes/cm)であり、インクの表面張力(=28mN/m)よりもかなり小さい。
【0027】
上記のように構成されたインクジェットプリンタJにおいては、インク供給ポンプ14によりインク供給路16からノズルヘッド3に供給されたインクが圧電素子(図示省略)の作動によりノズル4から噴射される。噴射されたインク粒子Dのうち、印字に使用される使用インク粒子Dn(n=1〜n)は帯電電極20において印字パターンに応じた量の電荷が付加され、偏向電極22で飛行方向が変えられて被印刷物Wへ向かう。ノズル4から噴射されたインクDのうち、印字に使用されない不要インク粒子D0は飛行軌跡Q0上を飛行し、インク受口部23の受口開口24に飛び込む。印字動作中はインク回収ポンプ18が駆動しており、空気もインク受口部23からガター1内に吸込まれている。そこで、前記のように飛び込んだ不要インク粒子D0は屈曲部32に衝突したのち、ガター内通路33を中間部26からインク出口部25へと流通する。インク出口部25に達したインクはインク回収路17からインク回収ポンプ18およびインク通路19を経てインクタンク5に戻り再利用される。
【0028】
前記のように屈曲部32の内周面の被覆膜31に衝突したインクは、被覆膜31の表面で濡れずに弾かれて、溶剤が揮散する間もなく中間部26からインク出口部25へと移動し、インク回収路17を経てインクタンク5に戻される。従って、屈曲部32においてインク固化物が生じず成長することもなく、ガター1のガター内通路33は常に清浄になっている。これにより、インク受口部23の受口開口24の縁部やインク受口部23の外周面にインク固化物(図8(d),(e)中のK3,K4参照)を生じないから、インク受口部23の最も近い位置を飛行する使用インク粒子D1が、従来技術のようにインク固化物K3,K4に衝突して印字を阻害するといったことがない。
【0029】
尚、図5に示したガター1aのように、インク受口部23の外周面だけをフッ素コーティング材から成る被覆膜31dで被ったものも本発明に含まれる。このガター1aの場合、不要インク粒子D0が屈曲部32の内周面に衝突すると、屈曲部32の内周面で濡れ拡がり、時間経過とともに溶剤だけが蒸散してインク固化物を生じる。そして、屈曲部32のインク固化物は下向きに成長して中間部26へ向かうインク固化物L2となったり、上向きに成長してインク受口部23へ向かうインク固化物K2となる。この場合、上側のインク固化物K2は成長して前進し受口開口24の縁部に達する。しかしながら、受口開口24の縁部およびインク受口部23の外周面には被覆膜31dがあるため、受口開口24の縁部およびインク受口部23の外周面ではじかれてその部分に留まらないからインク固化物を生じさせない。すなわち、インク受口部23の外周面にインク固化物が堆積しないから、インク受口部23に近い位置を飛行する使用インク粒子D1がインク固化物に衝突して印字を阻害することがない。このガター1aは、インク受口部23がインク固化物K2で詰まるまで、あるいは中間部26やインク出口部25がインク固化物L2で詰まるまでの比較的長期間使用することができる。
【0030】
また、図6に示したガター1bのように、インク受口部23の内周面および屈曲部32だけを被覆膜31aで被ったものも本発明に含まれる。このガター1bの場合、屈曲部32内周面の被覆膜31aに衝突したインクは被覆膜31aで濡れることなく弾かれて直ちに中間部26からインク出口部25へ移動する。従って、屈曲部32の内周面はもとより、インク受口部23の内周面および外周面にインク固化物を生じることがなく、印字阻害を防ぐことができる。
【0031】
更には、屈曲部32の内周面に被覆膜31を設けず、インク受口部23の内周面23Aだけに被覆膜31を設けたガターも本発明に含まれる。
また、本発明において被覆膜を形成するコーティング方法は、上例のようにフッ素コーティング材溶液を浸漬または塗布したのちに乾燥する方法に限らず、他の公知方法を用いても構わない。
【0032】
そして、本発明の被覆膜はシリコン系コーティング材を用いて形成することも可能である。この場合も、既述したフッ素コーティング材の場合とほとんど同じ条件および態様でシリコン系コーティング材がコーティングされる。シリコン系コーティング材としては、例えば信越化学工業株式会社製のメチルハイドロジェンシリコーンオイルKF99(商品名)をそのまま用いた。すなわち、メチルハイドロジェンシリコーンオイルKF99の約10mLを注入器30でガター1内に注入し、スポイトなどでインク出口部25の外周面に塗布した。尚、シリコンコーティング材半乾き膜のオーブン加熱条件は150℃で20分間として、シリコンコーティング材からなる堅牢な被覆膜を得た。このようにして得られた被覆膜は撥水性が高く、フッ素系コーティング材と比べて入手容易で安価である。
【0033】
そして、上記ではガター本体34に被覆膜31を形成した例を示したが、本発明はそれに限定されず、ガター自体を、インクの表面張力よりも小さな表面張力を有する材料で構成しても構わない。例えば、図7に示したガター1cでは、ガター本体34aの全体を、インクの表面張力(=28mN/m)よりも小さな表面張力(=18mN/m)を有する材料であるテトラフルオロエチレン樹脂(フッ素系材料)で構成してある。
このガター1cによっても、インク受口部23の外周面におけるインク固化物の発生を防いで正常印字ができるのは無論のこと、ガター全体やガターの要部が成型などにより容易に得られるので、前記した実施形態のように被覆膜を製作する際に手間のかかっていたコーティング作業が不要となる。尚、テトラフルオロエチレン樹脂で構成する部位はガター本体全体でなくても構わないが、ガター本体の少なくともインク受口部をテトラフルオロエチレン樹脂で構成するとよい。更には、ガター本体全体または少なくともインク受口部を、シリコン樹脂成型品(シリコン系材料であり、表面張力が21mN/m)で構成しても構わない。
【0034】
また、上記のようにエチルアルコールおよびプロピレングリコール(親水性溶剤)を含むインクを使用する場合は、ガター1cのようにガター全体を、またはガターの少なくともインク受口部を、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、シリコン樹脂などの撥水性材料で構成することができる。かかる場合も、インク受口部でインクが弾かれて回収されるので、インク受口部の内周面はもとより外周面にもインク固化物が生じず正常印字が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係るガターを用いたインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】前記インクジェットプリンタのプリントヘッドの概略構成図である。
【図3】前記一実施形態に係るガターの側断面図である。
【図4】前記ガターにコーティング処理を施す態様を示す外観図である。
【図5】本発明の別の実施形態に係るガターの側断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るガターの側断面図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態に係るガターの側断面図である。
【図8】従来のガターにおけるインクの固化状態を(a)〜(e)に順次示す側断面図である。
【符号の説明】
【0036】
J インクジェットプリンタ
1,1a,1b,1c ガター
4 ノズル
23 インク受口部
23A 内周面
23B 外周面
31a,31d 被覆膜
32 屈曲部
33 ガター内通路
34,34a ガター本体
D インク粒子
D0 不要インク粒子
K1,K2,K3,K4,L1,L2 インク固化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字に使用しない不要インクを回収して再利用するインクジェットプリンタのノズルから噴射されたインク粒子のうち、印字に使用しない不要インク粒子を受け取るインク受口部を備えた筒状のガターにおいて、インク受口部の内周面および/または外周面を、インクの表面張力よりも小さな表面張力を有する被覆膜で被ったことを特徴とするインクジェットプリンタのガター。
【請求項2】
被覆膜がフッ素系コーティング材もしくはシリコン系コーティング材から構成されている請求項1に記載のインクジェットプリンタのガター。
【請求項3】
印字に使用しない不要インクを回収して再利用するインクジェットプリンタのノズルから噴射されたインク粒子のうち、印字に使用しない不要インク粒子を受け取るインク受口部を備えた筒状のガターにおいて、少なくともインク受口部を、インクの表面張力よりも小さな表面張力を有する材料で構成したことを特徴とするインクジェットプリンタのガター。
【請求項4】
インクの表面張力よりも小さな表面張力を有する材料がフッ素系材料もしくはシリコン系材料である請求項3に記載のインクジェットプリンタのガター。
【請求項5】
親水性溶剤を含んで成るインクを使用するとともに印字に使用しない不要インクを回収して再利用するインクジェットプリンタの、ノズルから噴射されたインク粒子のうち、印字に使用しない不要インク粒子を受け取るインク受口部を備えた筒状のガターにおいて、少なくともインク受口部を、撥水性材料もしくは撥油性材料で構成したことを特徴とするインクジェットプリンタのガター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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