説明

インクジェットプリンタ

【課題】インク循環を開始するときに、インク循環流量を印字中よりも少なくすることでノズルの圧力変化を抑えてノズルからインク漏れ出しや気泡吸い込みをなくし、且つこれらの不具合の原因となる増粘インクをインク循環開始時に取り除いてしまう。
【解決手段】インクを循環するためのインク循環経路と、循環インクを吐出して印字するインクヘッド1と、インク循環経路からインクヘッド1内に圧力制御しながらインクを供給するインク供給ポート4と、インクヘッド1内からインク循環経路に圧力制御しながらインクを排出するインク排出ポート5と、を備えるインクジェットプリンタにおいて、インク循環経路のインク循環を停止している待機状態から印字準備状態へと移行するときに、印字中のインク循環流量よりも少ないインク量で一定時間循環する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクヘッドから循環インクを吐出して印字するインク循環式のインクジェットプリンタに係り、インク循環を開始するときにインクヘッドのノズルの圧力変化を所定範囲内に抑える技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクヘッドのノズルからインクを吐出して印刷用紙などの記録媒体に印字するインクジェットプリンタには、インクの冷却やインク流路内のゴミを取り除くために、印字状態のときにインクを絶えず循環しているインク循環式のものがある。
【0003】
このようなインク循環式のインクジェットプリンタは、インクが循環するためのインク循環経路を備えている。また、インク循環経路中には、インクヘッドを介してその上流側と下流側にインクタンクが設けられている。さらに、インクタンク間には、インクを循環するために圧力を加えるポンプが設けられている。
【0004】
また、インク循環経路とインクヘッドの接続位置には、インクヘッド内にインクを供給するインク供給ポートと、インクヘッド内からインクを排出するインク排出ポートとが設けられている。
【0005】
さらに、インク循環式のインクジェットプリンタに使用するインクヘッドは、その内部がインクを循環できる構造となっている。インク循環構造のインクヘッドの一例として図5に示すようなシェアモード・インクヘッドがある。図示のように、シェアモード・インクヘッドは、インクヘッド1内にインク供給口2と、インク排出口3とが設けられている。インク供給口2とインク排出口3は、インクヘッド1の外側に設けられたインク供給ポート4とインク排出ポート5に連通している。また、インク供給口2とインク排出口3の間には、圧電素子からなる複数の隔壁6で区画された複数のインク室7が設けられている。
【0006】
図5のシェアモード・インクヘッド1内において、インクは、図中に矢線で示すように、インク供給ポート4からインクヘッド1内に供給された後に、インクヘッド1内の図示しないインク供給流路を通り、インク供給口2から各インク室7内に流れ込む。インク室7内に流れ込んだインクは、その一部がインク室7内の略中央に設けられたノズル8から吐出されるが、ノズル8から吐出されなかったインクがインク排出口3に流れ込む。そして、インク排出口3に流れ込んだインクは、図示しないインク排出流路を通り、インク排出ポート5からインク循環経路に排出され、再びインク循環経路を循環するようになる。
【0007】
なお、上述したようなインク循環構造のインクヘッドは、例えば下記特許文献1などにも記載されている。
【特許文献1】特開2006−88575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、図5のシェアモード・インクヘッド1のようなインク循環構造のインクヘッドは、インク供給ポート4からノズル8までの流路抵抗と、ノズル8からインク排出ポート5までの流路抵抗とが略同一の場合には、インク循環時(印字状態のとき)、インク供給ポート4に圧力Pi、インク排出ポート5に圧力Poをかけると、ノズル8の圧力Pnは、Pn=(Pi+Po)/2となる。
【0009】
このとき、ノズル8の圧力Pnが4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)より大きな正圧になると、ノズル8のメニスカスが破壊され、ノズル8からインクが漏れ出してしまう。その逆に、ノズル8の圧力Pnが−4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)より大きな負圧になると、ノズル8のメニスカスが破壊され、この場合はノズル8から気泡を吸い込んでしまう。
【0010】
そのため、インク循環構造のインクヘッドを使用する場合には、インク循環時におけるインク供給ポート4とインク排出ポート5の圧力を制御することによって、ノズル8の圧力が上記式の範囲内となるように制御している。
【0011】
しかしながら、インクジェットプリンタを長時間使用していない場合、つまり、インク循環を長時間停止している場合には、図6に示すように、インクヘッド1のノズル8付近のインクが増粘することがある。
【0012】
通常、インクジェットプリンタは、インク循環を停止している待機状態からインクを循環して実際に印字を始める状態に移行するためにインクを一定時間循環(ウォームアップ)する必要があり、従来のインクジェットプリンタを上記状態のままでインク循環すると、図6に示すように、ノズル8の上流側に増粘インク9aがある場合、ノズル8より上流側の流路抵抗が大きくなり、ノズル8に大きな負圧がかかるようになる。これにより、メニスカスが破壊されてノズル8から気泡を吸い込んでしまう。また、ノズル8の下流側に増粘インク9bがある場合は、ノズル8より下流側の流路抵抗が大きくなり、ノズル8に大きな正圧がかかるようになる。これにより、メニスカスが破壊されてノズル8からインクが漏れ出してしまう。
【0013】
そこで本発明は、インク循環を開始するときに、インク循環流量を印字中よりも少なくすることでノズルの圧力変化を所定範囲内に抑えて、ノズルからインクが漏れ出したり、ノズルから気泡を吸い込んだりすることをなくし、且つこれらの不具合の原因となる増粘インクをインク循環開始時に取り除いてしまうインクジェットプリンタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
次に、上記の課題を解決するための手段を、実施の形態に対応する図面を参照して説明する。
本発明の請求項1記載のインクジェットプリンタは、インクを循環するためのインク循環経路と、
循環インクを吐出して印字するインクヘッド1と、
前記インク循環経路から前記インクヘッド1内に圧力制御しながらインクを供給するインク供給ポート4と、
前記インクヘッド1内から前記インク循環経路に圧力制御しながらインクを排出するインク排出ポート5と、を備えるインクジェットプリンタにおいて、
前記インク循環経路のインク循環を停止している待機状態から印字準備状態へと移行するときに、印字中のインク循環流量よりも少ないインク量で一定時間循環することを特徴としている。
【0015】
請求項2記載のインクジェットプリンタは、前記待機状態から前記印字準備状態に移行するときの前記インク供給ポートにおける圧力Piが4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)よりも大きな正圧にならないように前記インク循環経路のインク循環流量を制御することを特徴としている。
【0016】
請求項3記載のインクジェットプリンタは、前記インク循環経路には、前記インクヘッド1よりも上流側に上流タンク12が設けられるとともに、前記インクヘッド1よりも下流側に下流タンク13が設けられ、
前記上流タンク12と前記下流タンク13のうち少なくとも上流タンク12が大気開放されており、前記上流タンク12内のインクの液面高さによって前記インク供給ポート4の圧力を制御することを特徴としている。
【0017】
請求項4記載のインクジェットプリンタは、前記インク循環経路には、前記インクヘッド1よりも上流側に上流タンク12が設けられるとともに、前記インクヘッド1よりも下流側に下流タンク13が設けられ、
前記上流タンク12と前記下流タンク13のうち少なくとも上流タンク12が密閉されており、前記上流タンク12内の圧力制御により前記インク供給ポート4の圧力を制御することを特徴としている。
【0018】
請求項5記載のインクジェットプリンタは、前記待機状態から前記印字準備状態に移行するときの前記インク排出ポートにおける圧力Poが−4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)よりも大きな負圧にならないように前記インク循環経路のインク循環流量を制御することを特徴としている。
【0019】
請求項6記載のインクジェットプリンタは、前記インク循環経路には、前記インクヘッド1よりも上流側に上流タンク12が設けられるとともに、前記インクヘッド1よりも下流側に下流タンク13が設けられ、
前記上流タンク12と前記下流タンク13のうち少なくとも下流タンク13が大気開放されており、前記下流タンク13内のインクの液面高さによって前記インク排出ポート5の圧力を制御することを特徴としている。
【0020】
請求項7記載のインクジェットプリンタは、前記インク循環経路には、前記インクヘッド1よりも上流側に上流タンク12が設けられるとともに、前記インクヘッド1よりも下流側に下流タンク13が設けられ、
前記上流タンク12と下流タンク13のうち少なくとも下流タンク13が密閉されており、前記下流タンク13内の圧力制御により前記インク排出ポート5の圧力を制御することを特徴としている。
【0021】
請求項8記載のインクジェットプリンタは、前記インク循環経路にはポンプP(P1 ,P2 )が設けられ、
前記ポンプP(P1 ,P2 )によって前記インク供給ポート4及び又は前記インク排出ポート5の圧力を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明による請求項1記載のインクジェットプリンタによれば、インク循環を停止している待機状態から印字準備状態に移行するとき、つまり、インク循環を開始するときに、インク循環流量を印字中よりも少なくすることで長時間のインク循環停止によってノズル付近のインクが増粘していたとしてもノズルの圧力変化を影響のない所定範囲内に抑えることができる。これにより、ノズルからインクが漏れ出したり、ノズルから気泡を吸い込んだりすることがなくなる。同時に、これらの不具合の原因となるノズル付近の増粘インクを取り除くことができ、これにより、印字準備状態のときにプリンタを正常状態に復帰させることができる。
【0023】
請求項2記載のインクジェットプリンタによれば、ノズルにかかる正圧が4γ/d[Pa]を上回らないことでノズルからインクが漏れ出してしまうことを防ぐことができる。
【0024】
請求項3記載のインクジェットプリンタによれば、少なくとも上流タンクが大気開放されていることにより、上流タンク内のインクの液面高さによってノズルの正圧制御が可能となる。これにより、ノズルを正圧制御するために高価な圧力センサや圧力制御装置などが不要となり、コストの低減を図ることができる。
【0025】
請求項4記載のインクジェットプリンタによれば、少なくとも上流タンクが密閉されることで上流タンク内の圧力制御によってノズルの正圧制御が可能となる。
【0026】
請求項5記載のインクジェットプリンタによれば、ノズルにかかる負圧が−4γ/d[Pa]を下回らないことでノズルから気泡を吸い込んでしまうことを防ぐことができる。
【0027】
請求項6記載のインクジェットプリンタによれば、少なくとも下流タンクが大気開放されていることにより、下流タンク内のインクの液面高さによってノズルの負圧制御が可能となる。これにより、ノズルを負圧制御するために高価な圧力センサや圧力制御装置などが不要となり、コストの低減を図ることができる。
【0028】
請求項7記載のインクジェットプリンタによれば、少なくとも下流タンクが密閉されることで下流タンク内の圧力制御によってノズルの負圧制御が可能となる。
【0029】
請求項8記載のインクジェットプリンタによれば、インクを循環するためのポンプによる循環量の制御によってノズルを正圧及び又は負圧制御できるようになり、上記請求項3及び6の効果と同様に、ノズルの圧力制御のために高価な圧力センサや圧力制御装置などが不要となる。この結果、コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して具体的に説明する。
図1は本発明によるインクジェットプリンタの第1の実施の形態の流路構成を示す説明図である。
【0031】
第1の実施の形態
この実施の形態は、インクヘッド1の特にノズル8(図5参照)付近でインクが増粘しないように印字中にインクを絶えず循環しているインク循環式のインクジェットプリンタである。図1において、11はインクを供給するためのインクボトル、12はインクボトルから供給されたインクを一時貯留する上流タンク、13はインクヘッド1から排出されたインクを一時貯留する下流タンクである。
なお、この実施の形態は、上述したシェアモード・インクヘッド1(図5参照)を使用しているため、その構成の説明は省略する。
【0032】
図1に示すように、シェアモード・インクヘッド(以下、インクヘッドという)1、上流タンク12、下流タンク13の間はインク流路14a〜14cによって流路接続されている。これらのインク流路14a〜14cのうち、インク流路14aの一端は、インクヘッド1のインク供給ポート4に接続されている。また、インク流路14bの一端は、インクヘッド1のインク排出ポート5に接続されている。したがって、上流タンク12からのインクはインク供給ポート4を通じてインクヘッド1内に供給され、インク排出ポート5を通じて下流タンク13に排出されるようになる。
【0033】
また、図1に示すように、インク流路14cの途中には、インクボトル11と二つのポンプP1 ,P2 が設けられている。二つのポンプP1 ,P2 のうちの一方は、インクボトル11と上流タンク12の間に上流ポンプP1 として設けられており、他方は、インクボトル11と下流タンク13の間に下流ポンプP2 として設けられている。
【0034】
この流路構成では、上流タンク12がインクボトル11からのインクを上流ポンプP1 にて循環量を制御しながらインクヘッド1内に供給し、下流タンク13がインクヘッド1から吐出されなかったインクを一時貯留した後に下流ポンプP2 にて循環量を制御しながらインクボトル11に供給することでインク循環経路を形成している。なお、インクボトル11は、その内部を大気開放するための大気開放口11aを備えている。
【0035】
インク循環経路のインク循環流量は、二つのポンプP1 ,P2 による循環量の制御によって調整されているが、この循環量の制御によってインクヘッド1の各ポート4,5の圧力も制御している。すなわち、上流ポンプP1 が循環量を制御することでインク供給ポート4の圧力を制御し、ノズル8にかかる正圧が4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)を上回らないようにしている。これにより、印字中にノズル8からインクが漏れ出してしまうことを防いでいる。また、下流ポンプP2 が循環量を制御することでインク排出ポート5の圧力を制御し、ノズル8にかかる負圧が−4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)を下回らないようにしている。これにより、印字中にノズル8から気泡を吸い込んでしまうことを防いでいる。
【0036】
さらに、インク循環を停止している待機状態からウォームアップのための印字準備状態に移行するとき、つまり、インク循環を開始するときに、インク循環経路のインク循環流量を二つのポンプP1 ,P2 によって印字中のインク循環流量よりも少ないインク量となるように制御している。
【0037】
上述した第1の実施の形態によれば、ウォームアップのためにインク循環を開始するときに、インク循環流量を印字中よりも少なくすることで、インク供給ポート4からインクヘッド1内に緩やかにインク供給されるとともに、インク排出ポート5から緩やかに排出されるようになり、この結果、長時間のインク循環停止によってノズル8付近のインクが増粘していたとしてもノズル8の圧力変化を所定範囲内に抑えることができる。これにより、インク循環開始時にノズル8からインクが漏れ出したり、ノズル8から気泡を吸い込んだりすることがなくなる。同時に、ノズル8付近の増粘インクをインク循環開始時に取り除くことができる。
【0038】
また、インク循環開始時にノズル8にかかる正圧が4γ/d[Pa]を上回らないことでノズル8からインクが漏れ出してしまうことを防ぐことができる。
【0039】
さらに、インク循環開始時にノズル8にかかる負圧が−4γ/d[Pa]を下回らないことでノズル8から気泡を吸い込んでしまうことを防ぐことができる。
【0040】
また、上流ポンプP1 と下流ポンプP2 によってノズル8の圧力を制御するため、ノズル8の圧力制御のために高価な圧力センサや圧力制御装置などが不要となる。
【0041】
図2は本発明によるインクジェットプリンタの第2の実施の形態の流路構成を示す説明図である。なお、以下で説明する実施の形態において、図1と比較した場合に同様の機能を有する部分については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
第2の実施の形態
この実施の形態は、上述した第1の実施の形態と同様に、印字中にインクを絶えず循環しているインク循環式のインクジェットプリンタである。
図2に示すように、インク流路14cの途中には、上流タンク12に循環量を制御しながらインクを供給するためのポンプPが設けられている。また、上流タンク12は内部を大気開放するための大気開放口12aを備えている。さらに、下流タンク13は密閉構造となっている。なお、この実施の形態も上述したシェアモード・インクヘッド1(図5参照)を使用しているため、その構成の説明は省略する。
【0043】
図2では、上流タンク12内のインク液面とインクヘッド1のノズル8のインク吐出面の高さの差(水頭差H1 )によってインク供給ポート4の圧力を制御している。すなわち、この水頭差H1 によってノズルにかかる正圧が4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)を上回らないようにしている。
【0044】
また、インク循環経路のインク循環流量は、ポンプPによる循環量の制御によって調整されているが、この循環量の制御により密閉構造の下流タンク13を介してインク排出ポート5の圧力も制御している。すなわち、ポンプPによってノズル8にかかる負圧が−4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)を下回らないようにしている。
【0045】
さらに、インク循環を停止している待機状態からウォームアップのために印字準備状態に移行するとき、つまり、インク循環を開始するときには、インク循環経路のインク循環流量をポンプPによって印字中のインク循環流量よりも少ないインク量となるように制御している。
【0046】
上述した第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、ウォームアップのためにインク循環を開始するときに、インク循環流量を印字中よりも少なくすることで長時間のインク循環停止によってノズル8付近のインクが増粘していたとしてもノズル8の圧力変化を所定範囲内に抑えることができる。これにより、インク循環開始時にノズル8からインクが漏れ出したり、ノズル8から気泡を吸い込んだりすることがなくなる。同時に、ノズル8付近の増粘インクをインク循環開始時に取り除くことができる。
【0047】
また、インク循環開始時にノズル8にかかる正圧が4γ/d[Pa]を上回らないことでノズル8からインクが漏れ出してしまうことを防ぐことができる。
【0048】
さらに、インク循環開始時にノズル8にかかる負圧が−4γ/d[Pa]を下回らないことでノズル8から気泡を吸い込んでしまうことを防ぐことができる。
【0049】
また、上流タンク12が大気開放口12aを備えることにより、上流タンク12内のインク液面の高さとノズル8のインク吐出面の高さの差H1 によってノズル8の正圧制御が可能となる。
【0050】
さらに、下流タンク13が密閉されていることで、下流タンク13内の圧力を制御すればノズル8の負圧制御が可能となる。
【0051】
図3は本発明によるインクジェットプリンタの第3の実施の形態の流路構成を示す説明図である。なお、以下で説明する実施の形態において、図1及び2と比較した場合に同様の機能を有する部分については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0052】
第3の実施の形態
この実施の形態は、上述した第1及び2の実施の形態と同様に、印字中にインクを絶えず循環しているインク循環式のインクジェットプリンタである。
図3に示すように、上流タンク12は密閉構造となっており、下流タンク13は内部を大気開放するための大気開放口13aを備えている。なお、この実施の形態も上述したシェアモード・インクヘッド1(図5参照)を使用しているため、その構成の説明は省略する。
【0053】
図3では、下流タンク13内のインク液面とインクヘッド1のノズル8のインク吐出面の高さの差(水頭差H2 )によってインク排出ポート5の圧力を制御している。すなわち、この水頭差H2 によってノズルにかかる負圧が−4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)を下回らないようにしている。
【0054】
また、インク循環経路のインク循環流量は、ポンプPによる循環量の制御によって調整されているが、この循環量の制御により密閉構造の上流タンク12を介してインク供給ポート4の圧力も制御している。すなわち、ポンプPによってノズル8にかかる正圧が4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)を上回らないようにしている。
【0055】
さらに、インク循環を停止している待機状態からウォームアップのために印字準備状態に移行するとき、つまり、インク循環を開始するときには、インク循環経路のインク循環流量をポンプPによって印字中のインク循環流量よりも少ないインク量となるように制御している。
【0056】
上述した第3の実施の形態によれば、第1及び2の実施の形態と同様に、ウォームアップのためにインク循環を開始するときに、インク循環流量を印字中よりも少なくすることで長時間のインク循環停止によってノズル8付近のインクが増粘していたとしてもノズル8の圧力変化を所定範囲内に抑えることができる。これにより、インク循環開始時にノズル8からインクが漏れ出したり、ノズル8から気泡を吸い込んだりすることがなくなる。同時に、ノズル8付近の増粘インクをインク循環開始時に取り除くことができる。
【0057】
また、インク循環開始時にノズル8にかかる正圧が4γ/d[Pa]を上回らないことでノズル8からインクが漏れ出してしまうことを防ぐことができる。
【0058】
さらに、インク循環開始時にノズル8にかかる負圧が−4γ/d[Pa]を下回らないことでノズル8から気泡を吸い込んでしまうことを防ぐことができる。
【0059】
また、上流タンク12が密閉されていることで、上流タンク13内の圧力を制御すればノズル8の正圧制御が可能となる。
【0060】
さらに、下流タンク13が大気開放口13aを備えることにより、下流タンク12内のインク液面の高さとノズル8のインク吐出面の高さの差H2 によってノズル8の負圧制御が可能となる。
【0061】
図4は本発明によるインクジェットプリンタの第4の実施の形態の流路構成を示す説明図である。なお、以下で説明する実施の形態において、図1〜3と比較した場合に同様の機能を有する部分については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0062】
第4の実施の形態
この実施の形態は、上述した第1〜3の実施の形態と同様に、印字中にインクを絶えず循環しているインク循環式のインクジェットプリンタである。
図4に示すように、上流タンク12は内部を大気開放するための大気開放口12aを備えている。また、下流タンク13は内部を大気開放するための大気開放口13aを備えている。なお、この実施の形態でも上述したシェアモード・インクヘッド1(図5参照)を使用しているため、その構成の説明は省略する。
【0063】
図4では、上流タンク12内のインク液面とインクヘッド1のノズル8のインク吐出面の高さの差(水頭差H1 )によってインク供給ポート4の圧力を制御している。すなわち、この水頭差H1 によってノズルにかかる正圧が4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)を上回らないようにしている。
【0064】
下流タンク13内のインク液面とインクヘッド1のノズル8のインク吐出面の高さの差(水頭差H2 )によってインク排出ポート5の圧力を制御している。すなわち、この水頭差H2 によってノズルにかかる負圧が−4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズル8の直径)を下回らないようにしている。
【0065】
また、インク循環経路のインク循環流量は、ポンプPによる循環量の制御によって調整されている。
【0066】
さらに、インク循環を停止している待機状態からウォームアップのために印字準備状態に移行するとき、つまり、インク循環を開始するときには、インク循環経路のインク循環流量をポンプPによって印字中のインク循環流量よりも少ないインク量となるように制御している。
【0067】
上述した第4の実施の形態によれば、第1〜3の実施の形態と同様に、ウォームアップのためにインク循環を開始するときに、インク循環流量を印字中よりも少なくすることで長時間のインク循環停止によってノズル8付近のインクが増粘していたとしてもノズル8の圧力変化を所定範囲内に抑えることができる。これにより、インク循環開始時にノズル8からインクが漏れ出したり、ノズル8から気泡を吸い込んだりすることがなくなる。同時に、ノズル8付近の増粘インクをインク循環開始時に取り除くことができる。
【0068】
また、インク循環開始時にノズル8にかかる正圧が4γ/d[Pa]を上回らないことでノズル8からインクが漏れ出してしまうことを防ぐことができる。
【0069】
さらに、インク循環開始時にノズル8にかかる負圧が−4γ/d[Pa]を下回らないことでノズル8から気泡を吸い込んでしまうことを防ぐことができる。
【0070】
また、上流タンク12が大気開放口12aを備えることにより、上流タンク12内のインク液面の高さとノズル8のインク吐出面の高さの差H1 によってノズル8の正圧制御が可能となる。
【0071】
さらに、下流タンク13が大気開放口13aを備えることにより、下流タンク12内のインク液面の高さとノズル8のインク吐出面の高さの差H2 によってノズル8の負圧制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明によるインクジェットプリンタの第1の実施の形態の流路構成を示す説明図である。
【図2】同第2の実施の形態の流路構成を示す説明図である。
【図3】同第3の実施の形態の流路構成を示す説明図である。
【図4】同第4の実施の形態の流路構成を示す説明図である。
【図5】インク循環構造のインクヘッド(シェアモード・インクヘッド)の底面図である。
【図6】同インクヘッドにおける不具合を説明するための底面図である。
【符号の説明】
【0073】
1…インクヘッド(シェアモード・インクヘッド)
4…インク供給ポート
5…インク排出ポート
12…上流タンク
13…下流タンク
P…ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを循環するためのインク循環経路と、
循環インクを吐出して印字するインクヘッドと、
前記インク循環経路から前記インクヘッド内に圧力制御しながらインクを供給するインク供給ポートと、
前記インクヘッド内から前記インク循環経路に圧力制御しながらインクを排出するインク排出ポートと、を備えるインクジェットプリンタにおいて、
前記インク循環経路のインク循環を停止している待機状態から印字準備状態へと移行するときに、印字中のインク循環流量よりも少ないインク量で一定時間循環することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記待機状態から前記印字準備状態に移行するときの前記インク供給ポートにおける圧力が4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズルの直径)よりも大きな正圧にならないように前記インク循環経路のインク循環流量を制御することを特徴とする請求項1記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記インク循環経路には、前記インクヘッドよりも上流側に上流タンクが設けられるとともに、前記インクヘッドよりも下流側に下流タンクが設けられ、
前記上流タンクと前記下流タンクのうち少なくとも上流タンクが大気開放されており、前記上流タンク内のインクの液面高さによって前記インク供給ポートの圧力を制御することを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記インク循環経路には、前記インクヘッドよりも上流側に上流タンクが設けられるとともに、前記インクヘッドよりも下流側に下流タンクが設けられ、
前記上流タンクと前記下流タンクのうち少なくとも上流タンクが密閉されており、前記上流タンク内の圧力制御により前記インク供給ポートの圧力を制御することを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記待機状態から前記印字準備状態に移行するときの前記インク排出ポートにおける圧力が−4γ/d[Pa](但し、γ:インクの表面張力、d:ノズルの直径)よりも大きな負圧にならないように前記インク循環経路のインク循環流量を制御することを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記インク循環経路には、前記インクヘッドよりも上流側に上流タンクが設けられるとともに、前記インクヘッドよりも下流側に下流タンクが設けられ、
前記上流タンクと前記下流タンクのうち少なくとも下流タンクが大気開放されており、前記下流タンク内のインクの液面高さによって前記インク排出ポートの圧力を制御することを特徴とする請求項1〜5の何れか1つに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記インク循環経路には、前記インクヘッドよりも上流側に上流タンクが設けられるとともに、前記インクヘッドよりも下流側に下流タンクが設けられ、
前記上流タンクと下流タンクのうち少なくとも下流タンクが密閉されており、前記下流タンク内の圧力制御により前記インク排出ポートの圧力を制御することを特徴とする請求項1〜5の何れか1つに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記インク循環経路にはポンプが設けられ、
前記ポンプによって前記インク供給ポート及び又は前記インク排出ポートの圧力を制御することを特徴とする請求項1〜7の何れか1つに記載のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−196207(P2009−196207A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40245(P2008−40245)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】