説明

インクジェットプリンタ

【課題】プリントと定着とのそれぞれの処理においての最適な条件を両立することで、ヘッドキャリッジへの機械的負担や記録媒体のダメージを抑えつつ、種々の記録媒体やデザインに対応したプリントを行うことのできるインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】連続した記録媒体にインクジェットプリントするインクジェットプリンタであって、記録媒体を搬送する搬送機構をプリント部と定着部とに個別に有し、該プリント部と定着部との間に、検知部を有するバッファ部を設けてなるインクジェットプリンタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタに関し、詳細には、様々な記録媒体やデザインに対応することのできるインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、インクジェット記録方式を利用したプリンタ装置が様々な分野で利用されており、使用される記録媒体や、デザインも多岐に亘っている。そこで、記録媒体を選ばず、速乾性もある紫外線硬化型のインクが使用される機会も多い。この紫外線硬化型インクを使用する場合、インクジェットヘッドあるいはその下流側に紫外線照射装置を設置して、紫外線硬化型インクを硬化させている。
【0003】
たとえば、特許文献1や特許文献5には、ヘッドキャリッジの搬送下流側に紫外線(UV)照射装置専用の走査機構を設けることが記載されている。このように、ヘッドキャリッジの搬送下流側にて、ヘッドキャリッジとは別機構でUV照射装置を走査しながら記録媒体への照射を行う場合、ヘッドキャリッジの大型化を回避することが可能である。しかし、主走査および副走査が、プリント部と照射部とで同じ速度条件にて行われるため、それぞれの処理速度などの処理条件を、プリント部と照射部とで合わせなければならず、それぞれの最適な条件にて両立させることは困難である。
【0004】
また、特許文献2には、ヘッドキャリッジ上の走査方向両端とヘッド下流側とに、一体的に形成されたUV照射装置を設けることが記載されている。このように、ヘッドキャリッジ上に大型のUV照射装置を設けてヘッドキャリッジを高速で走査させるには、架台、駆動機構、モータなどの強度や性能をアップさせることが必須となり、大型化、高コストになることを避けられない。また、プリントと照射処理を同機構で行うため、やはり、それぞれの処理条件を両立させることは困難である。
【0005】
特許文献3には、ヘッドキャリッジ上と搬送下流側に、ピーク波長および照度の異なる2つの照射手段を設けることが記載されている。しかし、プリントと照射処理を同機構で行うため、やはり、それぞれの処理条件を両立させることは困難である。
【0006】
さらに、特許文献4には、プリント部と定着部の搬送機構を分割して設け、それらを連動/独立制御させて、各処理を最適な条件にて行うことが記載されている。このように、プリント部と定着部との搬送機構を個別配置することにより、それぞれの処理の搬送条件を異ならせることができるため、それぞれの処理条件の両立が可能となる。しかし、乾燥部における1回の照射のみで必要な照射量を得るには、必然的に搬送速度が遅くなるため、UV照射された記録媒体には過熱ダメージが発生しやすいという問題がある。また、記録媒体が連続物である場合に、その速度差を解消する方法は開示されていない。
【0007】
このように、紫外線硬化型インクに限らず、各種記録媒体やデザインによる記録モードの違いによっても走査速度、搬送量、塗布量などが異なるため、プリント部と乾燥(定着)部とで、それぞれ最適な処理条件に合わせることは非常に困難である。とくに、記録媒体が連続物である場合に、この問題は顕著になってくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−167793号公報
【特許文献2】特開2005−313445号公報
【特許文献3】特許4051928号公報
【特許文献4】特許3896844号公報
【特許文献5】特開2008−087221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、プリントと定着とのそれぞれの処理においての最適な条件を両立することで、ヘッドキャリッジへの機械的負担や記録媒体のダメージを抑えつつ、種々の記録媒体やデザインに対応したプリントを行うことのできるインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、連続した記録媒体にインクジェットプリントするインクジェットプリンタであって、記録媒体を搬送する搬送機構をプリント部と定着部とに個別に有し、該プリント部と定着部との間に、検知部を有するバッファ部を設けてなるインクジェットプリンタに関する。
【0011】
前記プリント部が、紫外線硬化型インクによるプリントを行うことが好ましい。
【0012】
前記プリント部が、紫外線照射装置を備えていることが好ましい。
【0013】
さらに、前記検知部が所定域をこえたことを検知すると、前記プリント部搬送機構と定着部搬送機構とを個別に駆動させ、所定域内に戻す制御部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プリント処理および定着処理について、それぞれの処理条件を個別に設定することができるため、記録媒体の過熱ダメージを抑えつつ、定着条件を変更することが可能となり、種々の記録媒体やデザインに対応することができる。
【0015】
また、プリント部と定着部との間で生じる搬送の速度差を、その中間に設けたバッファ部で吸収することができるため、記録媒体に過剰にテンションが掛ることによる記録媒体自体の破損や伸び、さらには、位置ズレによる印刷品位の低下を防ぐことができる。また、弛んだ記録媒体が搬送装置に巻き込まれることによる装置故障を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のプリンタの一例を示す模式図である。
【図2】本発明で使用されるバッファ部の動作を示す模式図である。
【図3】本発明で使用されるバッファ部の動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のインクジェットプリンタ1は、連続した記録媒体にインクジェットプリントするプリンタであって、図1に示すように、記録媒体を搬送する搬送機構をプリント部2と定着部3とに個別に有し(以下、プリント部搬送機構4および定着部搬送機構5と称する)、該プリント部2と定着部3との間に、検知部(以下、センサ6と称する。図示せず)を有するバッファ部7を設けてなる。
【0018】
記録媒体が連続物である場合、プリント部と定着部との処理速度が異なっていると、記録媒体に過剰なテンションが掛かり、印刷品位が低下してしまうため、通常は、これらの処理速度を同じにしている。しかし、記録媒体やデザインの多様化に伴い、これらの処理速度を等しくすることには限界があり、また、処理速度を等しく設定することによって、記録媒体がダメージを受けたり、定着が不十分になって品位が低下するという問題が生じる。そのため、本発明では、プリント部2と定着部3とにそれぞれ搬送機構4および5を設置し、さらに、それらの間に記録媒体のバッファ部7を設けることによって、プリント部2と定着部3との間で生じる搬送の速度差を吸収させている。
【0019】
前記連続した記録媒体とは、たとえば、長尺の布帛、紙、フィルムなどがあげられるが、とくに限定されるものではない。
【0020】
バッファ部7とは、記録媒体の余剰部分・緩衝地帯であり、記録媒体の速度を調整するものであるが、たとえば、ダンサーロールなどの可動式のロールなどがあげられる。
【0021】
バッファ部7は、前記の通り、その前後の工程における速度差を吸収させるために設けられており、センサ6を有している。さらに、記録媒体がある所定域をこえたことを、センサ6が検知すると、前記プリント部搬送機構4と定着部搬送機構5とを個別に駆動させて、所定域内に戻すように記録媒体をコントロールする制御部(図示せず)を有していることが好ましい。センサ6としては、たとえば、バッファ部7における記録媒体のテンションを検知するセンサや、バッファ部7における余剰部分としての記録媒体の量(重さや長さ)を検知するセンサなどがあげられ、とくに限定されるものではない。
【0022】
たとえば、記録媒体のテンションを検知するセンサを設ける場合、センサ6が所定のテンション値以上を検知すると、定着部搬送機構5を停止させてテンション値を所定値に戻し、逆に、センサ6が所定のテンション値以下を検知すると、プリント部搬送機構4を停止させてテンション値を所定値に戻す。
【0023】
記録媒体の重さを検知するセンサを設ける場合、センサ6が所定の重量値以上を検知すると、定着部搬送機構5を停止させて重量値を所定値に戻し、逆に、センサ6が所定の重量値以下を検知すると、プリント部搬送機構4を停止させて重量値を所定値に戻す。
【0024】
また、記録媒体の長さを検知するセンサを設ける場合、センサ6が所定の長さ以上を検知すると、定着部搬送機構5を停止させて長さを所定値に戻し、逆に、センサ6が所定の長さ以下を検知すると、プリント部搬送機構4を停止させて長さを所定値に戻す。
【0025】
たとえば、バッファ部7に、エアシリンダを使用したダンサーロールを用いた場合には、センサ6は、そのピストン位置を検知する。以下、バッファ部7にダンサーロール7aを用いた場合について、図2および3に基づいて説明する。ダンサーロール7aは、エアシリンダで制御されており、可動域内を上下に移動することにより、記録媒体の長さを所定値に保持している。この場合のセンサ6としては、記録媒体の長さを、ダンサーロール7aが可動域内の上限Aに達したこと、あるいは下限Bに達したことをピストンの位置を検知することによって、検知する。
【0026】
図2に示すように、プリント部2における搬送速度より、定着部3における搬送速度が速い場合、初期の段階では、プリント部搬送機構4のみを駆動させて、バッファ部7に記録媒体の余剰部分を形成させる(a)。このとき、ダンサーロール7aは可動域内にあるため、記録媒体の長さは所定値であると判断され、この処理は継続される。バッファ部7において記録媒体の余剰部分が形成されてくると、やがて、ダンサーロール7aが可動域内の上限Aに達する。これをセンサ6が検知し、定着部搬送機構5を駆動させる(b)。ここでは定着部3における搬送速度の方が速いため、やがて、ダンサーロール7aは可動域の下限Bに達する。これをセンサが検知して、ふたたび定着部搬送機構5を停止させる(c)。この動作を繰り返して、バッファ部7における記録媒体の長さを所定値に保つ。もちろん、プリント部搬送機構4を駆動させる場合には、プリント部2においてプリント処理が行われている。同様に、定着部搬送機構5を駆動させる場合には、定着部3において定着処理を行い、停止させる場合には、定着処理も停止させる。
【0027】
一方、図3に示すように、定着部3における搬送速度より、プリント部2における搬送速度が速い場合、初期の段階では、プリント部搬送機構4および定着部搬送機構5をともに駆動させて、バッファ部7に記録媒体の余剰部分を形成させる(a)。このとき、ダンサーロール7aは可動域内にあり、記録媒体の長さは所定値であると判断される。バッファ部7において記録媒体の余剰部分が形成されると、やがて、ダンサーロール7aが可動域内の上限Aに達する。これをセンサ6が検知し、プリント部搬送機構4を停止させる(b)。定着部搬送機構5のみが駆動しているため、やがて、ダンサーロール7aは可動域の下限Bに達する。これをセンサ6が検知して、ふたたびプリント部搬送機構4を駆動させる(c)。この動作を繰り返して、バッファ部7における記録媒体の長さを所定値に保つ。もちろん、プリント部搬送機構4を駆動させる場合には、プリント部2においてプリント処理を行い、停止させる場合には、プリント処理も停止させる。同様に、定着部搬送機構5を駆動させる場合には、定着部3において定着処理を行っている。
【0028】
このように、バッファ部7に設けられたセンサ6により、プリント部2およびプリント部搬送機構4と、定着部3および定着部搬送機構5との動作を制御して、バッファ部7における記録媒体を所定値に維持することができる。したがって、プリント部と定着部とでそれぞれ最適な処理条件が異なる場合であっても、そのそれぞれ最適な処理条件にて処理を行うことができるため、様々な記録媒体やデザインに対応することができるのである。
【0029】
とくに、プリントに紫外線硬化型インクを使用する場合に、本発明は好適である。紫外線硬化型インクは、その塗布量の幅をとくに大きく設定することができるため、同一の記録媒体中においてもその塗布量の幅が大きくなる場合がある。定着部3における紫外線照射の条件は、インクの塗布量に依存するため、この場合は、同一の記録媒体において定着部3での処理条件が多様になってくる。このような場合であっても、バッファとそれに設けられたセンサにより、それぞれに最適な処理条件にて処理を行うことができる。
【0030】
また、紫外線硬化型インクを使用する場合、プリント部にも定着装置(紫外線照射装置)を備えて、記録直後の紫外線硬化型インクを、滲みを抑える程度に仮硬化させることが好ましい。仮硬化されたインクを、後工程の定着部において完全に硬化させるようにすれば、インクの滲みの少ない良好な画像記録を得ることができる。なお、一度の紫外線照射工程にてインクを確実に硬化させるためには、照射量を大きく設定しなければならず、それに合せて紫外線照射装置も大型化しなければならない。プリント部においてこれを行うには、紫外線照射装置の大型化に対応するようにキャリッジの大型化や移動機構の駆動力の強化が必要となり、コスト負担が増加してしまうという懸念がある。そのため、定着工程を2回に分けて行うことが好ましい。
【符号の説明】
【0031】
1 インクジェットプリンタ
2 プリント部
3 定着部
4 プリント部搬送機構
5 定着部搬送機構
6 センサ
7 バッファ部
7a ダンサーロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した記録媒体にインクジェットプリントするインクジェットプリンタであって、記録媒体を搬送する搬送機構をプリント部と定着部とに個別に有し、該プリント部と定着部との間に、検知部を有するバッファ部を設けてなるインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記プリント部が、紫外線硬化型インクによるプリントを行う請求項1記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記プリント部が、紫外線照射装置を備えている請求項2記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
さらに、前記検知部が所定域をこえたことを検知すると、前記プリント部搬送機構と定着部搬送機構とを個別に駆動させ、所定域内に戻す制御部を有する請求項1、2または3記載のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−207054(P2011−207054A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77267(P2010−77267)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】