説明

インクジェットプリンタ

【課題】液滴噴射面を傷つけることなく、液滴噴射面に付着したインクを拭き取ることのできるインクジェットプリンタを提供すること。
【解決手段】インクジェットプリンタは、搬送ベルト18に対してインクジェットヘッド10の液滴噴射面10aと反対側に配置された押圧ローラ30と、この押圧ローラ30を搬送ベルト18に押し当てて液滴噴射面10aに押し付けた状態で、押圧ローラ30を液滴噴射面10aに沿う方向に移動させるローラ駆動機構31とを備えている。そして、搬送ベルト18の走行が停止した状態において、ローラ駆動機構31により押圧ローラ30を搬送ベルト18に押し当てながら移動させることで、液滴噴射面10aに押し付けられた搬送ベルト18によって液滴噴射面10aに付着したインクを押し出して拭き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に画像等を記録するインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、多数のノズルを備えたインクジェットヘッドを有し、被記録媒体に対してインクジェットヘッドのノズルからインクの液滴を噴射させることにより、被記録媒体に画像等を記録する。
【0003】
ところで、上記インクジェットプリンタにおいて、画像等の記録中にノズルから噴射されたインクや、ノズルの噴射不良を解消するためのパージ動作によってノズルから強制的に排出されたインクが、インクジェットヘッドの液滴噴射面に付着することがある。この状態が放置されると、付着したインクがノズルから噴射される液滴に干渉することによる液滴の着弾位置ずれや、付着インクの固化に起因するノズル詰まり等、様々な不具合の発生要因となる。そこで、一般的なインクジェットプリンタは、液滴噴射面に付着したインクを拭き取るワイパーを備えている。
【0004】
例えば、特許文献1のインクジェットプリンタは、インクジェットヘッドの液滴噴射面と対向して配置されたタイミングベルトと、このタイミングベルトに取り付けられたワイパーブレードを有する。この構成において、タイミングベルトが走行すると、それに伴ってワイパーブレードが液滴噴射面に接触した状態で液滴噴射面と平行な方向に移動することで、液滴噴射面に付着したインクがワイパーブレードによって拭き取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−205816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成では、ワイパーブレードの先端部が液滴噴射面に対して摺動するため、液滴噴射面がワイパーブレードの先端部と擦れて摩耗する。また、液滴噴射面との間に異物が噛み込まれた状態でワイパーブレードが摺動することによって液滴噴射面が傷つく虞もある。
【0007】
本発明の目的は、液滴噴射面が摩耗したり、液滴噴射面を傷つけたりすることなく、液滴噴射面に付着したインクを拭き取ることのできるインクジェットプリンタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明のインクジェットプリンタは、複数のノズルが開口する液滴噴射面を有し、前記複数のノズルから被記録媒体に向けてインクの液滴を噴射するインクジェットヘッドと、前記液滴噴射面と対向した状態で走行するベルトと、前記ベルトを駆動するベルト駆動手段と、前記ベルトに対して前記液滴噴射面と反対側に配置された押圧部材と、前記押圧部材を前記ベルトに押し当てて前記ベルトを前記液滴噴射面に押し付けた状態で、前記押圧部材を前記液滴噴射面に沿う方向に移動させる押圧部材駆動手段と、を備え、
前記ベルトの走行が停止した状態において、前記押圧部材駆動手段により前記押圧部材を前記ベルトに押し当てながら移動させることで、前記液滴噴射面に押し付けられた前記ベルトによって前記液滴噴射面に付着したインクを押し出して拭き取ることを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、ベルトの走行が停止した状態で、押圧部材によりベルトを液滴噴射面に押し付け、さらに、押圧部材を液滴噴射面に沿う方向に移動させる。これにより、押圧部材によるベルトの押圧位置、即ち、ベルトの液滴噴射面との接触位置を連続的に変化させることで、液滴噴射面に付着したインクをベルトで押し出して拭き取る。つまり、ベルトの液滴噴射面との接触位置が変化するだけであって、ベルトが液滴噴射面に対して摺動するわけではないから、インクの拭き取り時に液滴噴射面が摩耗したり傷ついたりすることがない。
【0010】
第2の発明のインクジェットプリンタは、前記インクジェットヘッドは、所定の記録位置に固定された状態で前記被記録媒体にインクを噴射するものであり、前記ベルトが、前記記録位置にある前記インクジェットヘッドの前記液滴噴射面と対向した状態で走行し、前記被記録媒体を搬送する搬送ベルトであることを特徴とするものである。
【0011】
本発明では、被記録媒体を搬送する搬送ベルトによって液滴噴射面を拭き取ることから、インクを拭き取る専用の部材が不要となる。また、記録用紙の搬送のために、通常、液滴噴射面と対向して配置されている搬送ベルトによってインクを拭き取ることから、液滴噴射面へのインクの付着が発生したときに速やかに拭き取ることができる。さらに、インクの拭き取りのためにインクジェットヘッドを移動させる必要がなく、プリンタの構成が簡単になる。
【0012】
第3の発明のインクジェットプリンタは、前記第2の発明において、前記搬送ベルトによって前記液滴噴射面のインクを拭き取った後に、前記搬送ベルトに付着したインクを除去する、クリーニング手段をさらに備えたことを特徴とするものである。
【0013】
本発明によれば、搬送ベルトに付着したインクを確実に除去して、被記録媒体が汚れることを防止できる。
【0014】
第4の発明のインクジェットプリンタは、前記第3の発明において、前記押圧部材駆動手段は、前記押圧部材を、前記被記録媒体の搬送方向に移動させるものであり、前記クリーニング手段は、前記インクジェットヘッドよりも前記搬送方向の下流側の位置に配置されていることを特徴とするものである。
【0015】
押圧部材を搬送方向に移動させて、液滴噴射面に付着したインクを搬送ベルトで押し出して拭き取る場合、拭き取られたインクは、搬送ベルトのインクジェットヘッドよりも搬送方向下流側の部分に主に付着する。ここで、インクジェットヘッドよりも搬送方向下流側にクリーニング手段が配置されていることから、前記インクが付着したベルト部分を搬送方向下流側に走行させて、クリーニング手段によって速やかにインクを除去できるため、すぐに次の搬送を開始できる。
【0016】
第5の発明のインクジェットプリンタは、前記第4の発明において、前記搬送ベルトの幅は、前記インクジェットヘッドの幅よりも大きいことを特徴とするものである。
【0017】
この構成によれば、液滴噴射面に付着したインクを、搬送ベルトにより搬送方向に拭き取ったときに、拭き取られたインクが搬送ベルトからこぼれにくくなる。尚、本願において、「インクジェットヘッドの幅」とは、インクジェットヘッドの、搬送ベルトの幅と平行な方向における長さのことをいう。
【0018】
第6の発明のインクジェットプリンタは、前記第2又は第3の発明において、前記押圧部材駆動手段は、前記押圧部材を、前記搬送ベルトの幅方向に移動させることを特徴とするものである。
【0019】
この構成によれば、押圧部材を搬送ベルトの幅方向に移動させることによって、液滴噴射面に付着したインクを前記幅方向に拭き取ることができる。
【0020】
第7の発明のインクジェットプリンタは、前記第6の発明において、前記搬送ベルトの幅は前記インクジェットヘッドの幅よりも大きいことを特徴とするものである。
【0021】
押圧部材を搬送ベルトの幅方向に移動させて、液滴噴射面に付着したインクを搬送ベルトで幅方向に押し出して拭き取る場合、拭き取られたインクは、搬送ベルトの、インクジェットヘッドよりも幅方向外側の部分に主に付着する。この部分は、インクジェットヘッドの液滴噴射面と対向しない部分、つまり、被記録媒体が載置されない部分であることから、被記録媒体が汚れにくい。
【0022】
第8の発明のインクジェットプリンタは、前記第2〜第7の何れかの発明において、前記搬送ベルトの幅方向端部には、前記液滴噴射面側に突出した壁部が設けられていることを特徴とするものである。
【0023】
この構成では、液滴噴射面から拭き取られたインクが、搬送ベルトからこぼれにくくなる。
【0024】
第9の発明のインクジェットプリンタは、前記第2〜第8の何れかの発明において、前記搬送ベルトの特定の一部分が、前記液滴噴射面のインクを拭き取る拭き取り部分であることを特徴とするものである。
【0025】
本発明では、搬送ベルトの特定の一部分(拭き取り部分)においてのみ、液滴噴射面に付着したインクを拭き取る。つまり、インクが付着するのは特定の拭き取り部分だけであって、搬送ベルトの他の部分には付着しないことから、被記録媒体が汚れにくい。
【0026】
第10の発明のインクジェットプリンタは、前記第9の発明において、前記拭き取り部分には、前記搬送ベルトの他の部分よりも厚みが薄くなった薄肉部が設けられていることを特徴とするものである。
【0027】
液滴噴射面のインクを拭き取る拭き取り部分に薄肉部が設けられることによって、拭き取り部分の曲げ剛性が低下し、押圧部材が押し当てられたときに拭き取り部分が変形しやすくなる。従って、拭き取り部分の液滴噴射面に対する密着性が向上して、インクを確実に拭き取ることができるようになる。
【0028】
第11の発明のインクジェットプリンタは、前記第10の発明において、前記拭き取り部分の前記液滴噴射面との対向面とは反対側の面に凹部が形成されることによって、前記薄肉部が形成されていることを特徴とするものである。
【0029】
拭き取り部分の、液滴噴射面との対向面が平滑な面となることから、液滴噴射面に対する密着性がさらに高くなる。
【0030】
第12の発明のインクジェットプリンタは、前記第9〜第11の何れかの発明において、前記搬送ベルトには、搬送する前記被記録媒体を前記搬送ベルトに吸着させるための複数の吸着孔が形成されており、前記拭き取り部分には、前記吸着孔が形成されていないことを特徴とするものである。
【0031】
搬送ベルトの拭き取り部分には吸着孔が形成されていないことから、この拭き取り部分によって液滴噴射面から拭き取られたインクが、吸着孔から漏れ落ちることがない。
【0032】
第13の発明のインクジェットプリンタは、前記第9〜第12の何れかの発明において、前記ベルト駆動手段を制御する制御手段を備え、前記制御手段は、前記被記録媒体の搬送時に、前記搬送ベルトの前記拭き取り部分には前記被記録媒体が載置されないように、前記ベルト駆動手段を制御することを特徴とするものである。
【0033】
本発明では、液滴噴射面に付着したインクを拭き取る拭き取り部分には、被記録媒体の搬送時に被記録媒体が載置されないことから、搬送される被記録媒体がインクで汚れることがない。
【0034】
第14の発明のインクジェットプリンタは、前記第1〜第13の何れかの発明において、前記押圧部材は、回転ローラであることを特徴とするものである。
【0035】
押圧部材が回転ローラである場合、押圧部材駆動手段によって駆動されたときに、この回転ローラは回転しながら液滴噴射面に沿う方向に移動する。従って、押圧部材が移動したときに、接触摩擦によって釣られてベルトが移動して、液滴噴射面に対して摺動してしまうことが防止される。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、ベルトの液滴噴射面との接触位置を連続的に変化させ、液滴噴射面に付着したインクをベルトで押し出すことによってインクを拭き取る。つまり、ベルトの液滴噴射面との接触位置が変化するだけであって、ベルトは液滴噴射面に対して摺動するわけではないから、液滴噴射面が傷つくことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタを概略的に示す上面図である。
【図2】図1のインクジェットプリンタの記録部を含む主要部の側面図である。
【図3】搬送ベルトの一部拡大平面図である。
【図4】搬送ベルトの拭き取り部分の断面図であり、(a)は図3のA−A線断面図、(b)は図3のB−B線断面図である。
【図5】メンテナンス時におけるインクジェットプリンタの側面図であり、(a)はキャップ部材のキャッピング状態、(b)は液滴噴射面のインクを拭き取るときの状態をそれぞれ示す。
【図6】清掃機構の具体的な構成とその動作を説明する図である。
【図7】プリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図8】変更形態に係る搬送ベルトの拭き取り部分の断面図である
【図9】別の変更形態の清掃機構の動作を示す図である。
【図10】さらに別の変更形態の清掃機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は本実施形態に係るインクジェットプリンタを概略的に示す上面図、図2は、図1のインクジェットプリンタの記録部を含む主要部の側面図である。図1、図2に示すように、インクジェットプリンタ1(以下、単にプリンタ1という)は、被記録媒体である記録用紙100に画像等を記録する記録部2と、この記録部2(特に、インクジェットヘッド10)のメンテナンスを行うメンテナンスユニット3と、プリンタ1の各部の制御を行う制御装置4等を備えている。
【0039】
記録部は、インクを噴射するインクジェットヘッド10と、このインクジェットヘッド10に対して被記録媒体である記録用紙100を搬送する搬送機構11を有する。
【0040】
図1に示すように、インクジェットヘッド10は、水平面に沿った所定方向(主走査方向)に沿って配列された複数のノズル13を有する。また、複数のノズル13は、主走査方向に直交する方向(副走査方向)に並ぶ4列のノズル列14を構成し、これらノズル列14の長さは記録用紙100の幅W3とほぼ同じである。また、インクジェットヘッド10は、前記複数のノズル13が開口した液滴噴射面10aを有し、この液滴噴射面10aが下を向いた姿勢で筐体6に固定されている。インクジェットヘッド10は、記録用紙100に対向する所定の記録位置に固定された状態で、搬送機構11によって搬送される記録用紙100にインクを噴射する。インクジェットヘッド10は、いわゆる、固定型のラインヘッドである。液滴噴射面10aには、フッ素樹脂等からなる撥インク膜のコーティングが施されている。これにより、液滴噴射面10aの撥インク性が高くなってインクが濡れにくくなっており、ノズル13の開口の周囲にインクが滞留することが防止される。
【0041】
筐体6には、カートリッジホルダ5が設けられている。カートリッジホルダ5には、4色(ブラック(K)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M))のインクをそれぞれ貯留するインクカートリッジ15が取り外し可能に装着される。カートリッジホルダ5に装着された4つのインクカートリッジ15から、4本のチューブ12を介してインクジェットヘッド10に供給される。そして、インクジェットヘッド10の4列のノズル列14(14K,14Y,14C,14M)が、次述の搬送機構11によって搬送される記録用紙100に対して、上記4色のインクをそれぞれ噴射するようになっている。尚、図1に示すように、4列のノズル列14のうち、3色のカラーインク(イエロー、シアン、マゼンタ)を噴射する3列のノズル列14Y,14C,14Mが、ブラックインクを噴射するノズル列14Kよりも、搬送方向上流側に位置している。
【0042】
図2に示すように、搬送機構11はインクジェットヘッド10の下側に配置されている。搬送機構11は、2つのプーリ16,17と、搬送ベルト18と、搬送モータ19を有する。プーリ16,17は、副走査方向に関してインクジェットヘッド10を挟むように、距離をあけて配置されている。搬送ベルト18は、2つのプーリ16,17に架け渡されている。搬送モータ19(ベルト駆動手段)は、プーリ16を回転駆動して搬送ベルト18を走行させる。尚、図2の側面図では、搬送ベルト18については断面で示している。
【0043】
搬送ベルト18は、ゴム等の可撓性材料によって形成された無端ベルトである。また、搬送ベルト18の上部18eが、インクジェットヘッド10の液滴噴射面10aとわずかな隙間を空けて対向した状態で配置されている。搬送ベルト18の上部18eには、図示しない給紙機構から供給された記録用紙100が載置される。そして、搬送モータ19により、図2の矢印方向に2つのプーリ16,17がそれぞれ回転駆動されるとそれに伴って搬送ベルト18が走行し、搬送ベルト18に載置された記録用紙100が、液滴噴射面10aに沿って、副走査方向と平行な方向(搬送方向)に搬送される。また、図1に示すように、搬送ベルト18の幅W1は、インクジェットヘッド10の幅W2(搬送ベルト18の幅方向と平行な、主走査方向の長さ)よりも大きく、また、搬送される記録用紙100の幅W3と比べても大きくなっている。
【0044】
尚、図2に示すように、搬送方向上流側に位置するプーリ16には、このプーリ16の回転角度及び回転数を検出するエンコーダ20が装着されている。そして、このエンコーダ20の検出信号に基づいて、制御装置4は、搬送ベルト18上の記録用紙100の位置を把握し、搬送モータ19による記録用紙100の搬送を制御する。
【0045】
図3は、搬送ベルト18の一部拡大平面図である。図2、図3に示すように、搬送ベルト18には、メンテナンス孔18aと、多数の吸着孔18bが形成されている。メンテナンス孔18aは、その長辺が搬送ベルト18の幅よりもやや小さい程度の矩形状の孔であり、後述するメンテナンスユニット3のキャップ部材23を通過させるための孔である。一方、吸着孔18bは、メンテナンス孔18aと比べて非常に孔径の小さい孔である。複数の吸着孔18bは、負圧源であるポンプや縁切り用のバルブ等で構成される用紙吸引装置39(図7参照)と接続されている。そして、用紙吸引装置39で発生した負圧を、複数の吸着孔18bの位置において記録用紙100に作用させることで、搬送中に落下しないように記録用紙100が搬送ベルト18に吸着保持される。
【0046】
後ほど詳しく説明するが、図3において、搬送ベルト18のメンテナンス孔18aに隣接した部分は、液滴噴射面10aに付着したインクを拭き取る部分(拭き取り部分21)である。図4は搬送ベルト18の拭き取り部分21の断面図であり、(a)は図3のA−A線断面図、(b)は図3のB−B線断面図である。図3、図4に示すように、この拭き取り部分21は、平面視でインクジェットヘッド10(液滴噴射面10a)よりも一回り大きい。また、拭き取り部分21には吸着孔18bは形成されていない。拭き取り部分21の幅方向両端部には、上方(液滴噴射面10a側)に突出した壁部18cがそれぞれ一体成形によって形成されている。さらに、拭き取り部分21の内側の面(液滴噴射面10aと反対側の面)に凹部18dが形成されることによって、拭き取り部分21には他の部分と比べて厚みが薄くなった薄肉部21aが設けられている。この拭き取り部分21による液滴噴射面10aの拭き取り動作、及び、拭き取り部分21に上記構成が採用されている理由については、後ほど説明する。
【0047】
メンテナンスユニット3は、インクジェットヘッド10の液滴噴射性能の維持や回復(メンテナンス)を行うものであり、搬送ベルト18の内側に配置されている。図5は、メンテナンス時におけるインクジェットプリンタ1の側面図であり、(a)はキャップ部材23のキャッピング状態、(b)は液滴噴射面10を拭き取るときの状態をそれぞれ示す。
【0048】
図5に示すように、メンテナンスユニット3は、ゴム等の弾性部材からなるキャップ部材23と、このキャップ部材23に接続された吸引ポンプ24(図7参照)と、搬送ベルト18を液滴噴射面10aに押し付けて付着したインクを拭き取る清掃機構25等を有する。
【0049】
キャップ部材23は、モータ等の駆動源とギヤ等の動力伝達部材で構成されるキャップ駆動部26(図7参照)によって昇降駆動される。図5(a)に示すように、搬送ベルト18のメンテナンス孔18aがインクジェットヘッド10の液滴噴射面10aの真下の位置にある状態でキャップ部材23が押し上げられると、このキャップ部材23は、メンテナンス孔18aを通過してインクジェットヘッド10の液滴噴射面10aに密着し、液滴噴射面10aを覆うキャッピング状態となる。尚、キャッピング状態におけるキャップ部材23の密閉性を高めるために、液滴噴射面10aの、前記キャップ部材23が接触する外縁部に、シリコンゴム等で形成されたシール部材が設けられていてもよい。
【0050】
また、このキャッピング状態において、吸引ポンプ24は、キャップ部材23内を減圧することにより、インクジェットヘッド10の複数のノズル13からインクを強制的に排出する(吸引パージ)。この吸引パージによって、ノズル13の噴射不能、あるいは、噴射曲がりといった噴射異常の原因となる、インク流路内に混入した異物や気泡、あるいは、ノズル13内の乾燥によって生じる増粘インクなどを、ノズル13から排出することができる。
【0051】
尚、搬送ベルト18のメンテナンス孔18aが、液滴噴射面10aの真下に位置する状態で、インクジェットヘッド10は、ノズル13の乾燥を防止する目的で、ノズル13から液滴を噴射させるフラッシングを行うこともできる。そのために、図示は省略するが、メンテナンスユニット3は、上記フラッシングによって噴射されたインクを受ける液受け部も備えている。
【0052】
清掃機構25は、液滴噴射面10aにインクが付着したときに、その付着したインクを搬送ベルト18で拭き取るためのものである。液滴噴射面10aにインクが付着する例としては、まず、上記の吸引パージを行った場合に、キャップ部材23内に排出されたインクが液滴噴射面10aに付着することが挙げられる。また、記録用紙100への画像記録時や上述のフラッシング時において、ノズル13から噴射されたインクの一部が液滴噴射面10aに付着することもある。
【0053】
図6に、清掃機構25の具体的な構成を示す。図5(b)、図6に示すように、清掃機構25は、搬送ベルト18の下側(液滴噴射面10aと反対側)に配置された押圧ローラ30(押圧部材)と、この押圧ローラ30で搬送ベルト18を液滴噴射面10aに押し付けた状態で、押圧ローラ30を搬送方向に移動させるローラ駆動機構31(押圧部材駆動手段)を有する。
【0054】
押圧ローラ30は、搬送ベルト18の幅と同じかそれよりも長い円筒状の部材である。図6に示すように、押圧ローラ30は、上下に延びるローラ支持部材33の上端部に自由回転可能に取り付けられている。ローラ駆動機構31は、本体部32と、上記のローラ支持部材33と、上下駆動部34と、拭き取りモータ35を有する。本体部32は、ガイド部材36に沿って搬送方向に移動可能である。ローラ支持部材33は、本体部に上下に移動可能に取り付けられ、上下駆動部34によって本体部32に対して上下方向に駆動される。また、拭き取りモータ35は本体部32を搬送方向に移動させる。尚、上下駆動部34の具体的な構成について図示は省略するが、例えば、モータに連結されたネジ軸とこれに螺合するナットからなるネジ機構(好ましくはボールネジ)や、エアシリンダなどを採用できる。
【0055】
図6(a)の待機状態から、上下駆動部34によってローラ支持部材33が上方に駆動されると、図6(b)に示すように、押圧ローラ30が搬送ベルト18に押し当てられ、搬送ベルト18の一部分(拭き取り部分21)をインクジェットヘッド10に押し付ける。この状態で、拭き取りモータ35により、本体部32が搬送方向に駆動されることで、押圧ローラ30が回転しながら搬送方向に移動する。これにより、搬送ベルト18の液滴噴射面10aに接触する位置が搬送方向に変化し、液滴噴射面10aに付着したインク(符号Iで示す)が搬送ベルト18によって搬送方向に押し出されるようにして拭き取られる。インクの拭き取りが終了すると、図6(c)に示すように、上下駆動部34によりローラ支持部材33が下方に駆動され、押圧ローラ30が搬送ベルト18から離れた状態となる。この状態で、本体部32が拭き取りモータ35により搬送方向と反対側に駆動され、押圧ローラ30は図6(a)の待機状態に戻る。
【0056】
尚、図3、図5に示すように、インクジェットヘッド10よりも搬送方向下流側に位置するプーリ17の外周面と対向する位置にはクリーニング装置38(クリーニング手段)が配置されている。クリーニング装置38は、液滴噴射面10aの拭き取り後に搬送ベルト18の拭き取り部分21に付着したインクを除去する。このクリーニング装置38の構成は特定のものには限定されないが、例えば、インクを吸収する吸収体と、この吸収体を搬送ベルト18に対して接近/離間する方向に付勢する付勢手段等で構成できる。
【0057】
次に、プリンタ1の電気的構成について図7のブロック図を参照して説明する。図7に示すように、図7に示されるプリンタ1の制御装置4は、例えば、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、プリンタ1の全体動作を制御する為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むマイクロコンピュータを備え、ROMに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより、プリンタ1全体の動作を制御する。あるいは、制御装置4は、演算回路を含む各種回路が組み合わされたものであってもよい。
【0058】
この制御装置4は、記録部2による記録用紙100への記録動作を制御する記録制御部40を有する。記録制御部40は、さらに、インクジェットヘッド10を制御するヘッド制御部41と、搬送機構11の搬送モータ19や記録用紙100を搬送ベルト18に吸着させるための用紙吸引装置39を制御する搬送制御部42を有する。さらに、制御装置4は、メンテナンスユニット3のメンテナンス動作を制御するメンテナンス制御部43を備えている。尚、記録制御部40及びメンテナンス制御部43のそれぞれの機能は、実際には、制御装置4を構成している上述のマイクロコンピュータの動作、あるいは、演算回路を含む各種回路の動作によって実現される。
【0059】
次に、メンテナンスユニット3によって実行されるメンテナンス動作のうちの、特に、液滴噴射面10aのインク拭き取り動作について、以下、詳細に説明する。
【0060】
インクジェットヘッド10の液滴噴射面10aの拭き取りを行う際には、まず、搬送制御部42が搬送モータ19を制御して搬送ベルト18を走行させる。そして、図5(b)に示すように、拭き取り部分21を、液滴噴射面10aと対向した位置に移動させる。この制御は、エンコーダ20から入力された信号に基づき、搬送制御部42が、搬送ベルト18の拭き取り部分21の位置を把握することによって可能となる。
【0061】
尚、図3、図5(a)、(b)のように、搬送ベルト18の拭き取り部分21は、メンテナンス孔18aよりも搬送方向上流側に隣接している。そのため、図5(a)のように、メンテナンス孔18aが液滴噴射面10aの真下にある状態で、吸引パージやフラッシングを行った後に液滴噴射面10aの拭き取りを行う場合、図5(a)の状態から、搬送ベルト18を少し走行させるだけで、拭き取り部分21を液滴噴射面10aに対向させることができる。従って、吸引パージ等の終了後に、速やかに液滴噴射面10aの拭き取り動作に移行できる。
【0062】
液滴噴射面10aの拭き取り前の状態では、清掃機構25において、図6(a)に示すように、押圧ローラ30は、搬送ベルト18に接触しない位置まで下げられた状態で、インクジェットヘッド10よりも搬送方向上流側の位置に待機している。この状態で、メンテナンス制御部43により清掃機構25(特に、上下駆動部34及び拭き取りモータ35)が制御されることによって、以下のように、液滴噴射面10aの拭き取りが行われる。
【0063】
液滴噴射面10aの拭き取りは、搬送ベルト18が停止した状態で行う。まず、拭き取りモータ35に駆動されて本体部32が搬送方向に移動する。同時に、上下駆動部34により押圧ローラ30が上方に駆動されて搬送ベルト18に押し当てられる。これにより、図6(b)に示すように、搬送ベルト18の拭き取り部分21の1箇所が押圧ローラ30により局所的に押し上げられて、インクジェットヘッド10の液滴噴射面10aに押し付けられる。
【0064】
この状態で押圧ローラ30が搬送方向に移動すると、搬送ベルト18の拭き取り部分21の液滴噴射面10aとの接触位置が搬送方向に連続的に変化し、拭き取り部分21は、液滴噴射面10aに付着したインク(符号Iで示す)を搬送方向下流側へ押し出すようにして拭き取る。この拭き取り動作においては、押圧ローラ30による搬送ベルト18の押圧位置、即ち、搬送ベルト18の液滴噴射面10aとの接触位置が連続的に変化するだけである。つまり、搬送ベルト18が液滴噴射面10aに対して摺動するわけではないから、液滴噴射面10aが摩耗したり傷ついたりすることが防止される。特に、本実施形態のように、液滴噴射面10aが撥インク膜でコーティングされている構成では、撥インク膜が傷ついて液滴噴射面10aがインクで濡れやすくなることが防止される。
【0065】
また、記録用紙100を搬送する搬送ベルト18によって液滴噴射面10aを拭き取ることから、液滴噴射面10aを拭き取る専用の部材が不要となる。また、記録用紙100の搬送を行うために、液滴噴射面10aと対向して配置されている搬送ベルト18を、液滴噴射面10aに押し付けることによってインクを拭き取ることから、液滴噴射面10aにインクが付着したときに速やかに拭き取り動作を行うことができる。さらに、インクの拭き取りの際に、記録時の位置が固定されているインクジェットヘッド10を移動させる必要がないため、プリンタ1の構成が簡単になる。
【0066】
また、本実施形態では、搬送ベルト18を液滴噴射面10aに押し付ける押圧部材が回転ローラ(押圧ローラ30)であり、この押圧ローラ30は搬送ベルト18に押し当てられた状態で回転しながら搬送方向に移動する。従って、搬送ベルト18との間の接触摩擦が非常に小さくなるため、押圧ローラ30が移動したときに、接触摩擦によって釣られて搬送ベルト18の拭き取り部分21が搬送方向に移動して、液滴噴射面10aに対して摺動することが防止される。
【0067】
搬送ベルト18の拭き取り部分21による液滴噴射面10aの拭き取りが終了すると、図6(c)に示すように、上下駆動部34によって、押圧ローラ30が搬送ベルト18から離れた位置まで下降駆動され、これによって拭き取り部分21が液滴噴射面10aに平行な状態に戻る。さらに、拭き取りモータ35に駆動されて本体部32が搬送方向と反対方向に移動することで、押圧ローラ30が待機位置に戻る。
【0068】
図3に示すように、インクジェットヘッド10よりも搬送方向下流側にクリーニング装置38が配置されている。そして、拭き取り部分21による上述の拭き取り動作が終了した後に、搬送ベルト18を走行させることで、拭き取り部分21に付着したインクをクリーニング装置38で確実に除去することができる。従って、搬送ベルト18で搬送される記録用紙100がインクで汚れることを防止できる。
【0069】
また、本実施形態では、押圧ローラ30は、搬送方向に移動するときのみ、搬送ベルト18の拭き取り部分21を液滴噴射面10aに押し付けている。つまり、拭き取り部分21による液滴噴射面10aの拭き取り方向は搬送方向となる。従って、図6(c)に示すように、拭き取られたインクは、拭き取り部分21の、インクジェットヘッド10よりも搬送方向下流側の部分に主に付着する。その上で、インクジェットヘッド10よりも搬送方向下流側にクリーニング装置38が配置されていることから、搬送ベルト18を少し走行させて拭き取り部分21を搬送方向下流側に移動させるだけで、クリーニング装置38により速やかにインクを除去できるため、すぐに次の搬送動作を開始できる。
【0070】
尚、拭き取り部分21による液滴噴射面10aの拭き取り方向は、搬送方向と逆方向であってもよいが、拭き取り部分21に付着したインクをクリーニング装置38で除去する際に少し支障が出る。搬送方向と逆方向に拭き取った場合には、図6(c)とは逆に、拭き取り部分21の搬送方向上流側の端部にインクが付着する。このとき、インクジェットヘッド10よりも搬送方向下流側にクリーニング装置38が配置されていると、インクが付着した拭き取り部分21を、再び液滴噴射面10aの下を通過させる必要があり、そのときに、拭き取ったインクが液滴噴射面10aに再付着して汚す虞がある。また、インクジェットヘッド10よりも搬送方向上流側にクリーニング装置38が配置されていると、このクリーニングのためだけに、搬送モータ19を逆回転させて、記録用紙100の搬送時とは逆向きに搬送ベルト18を走行させる必要が生じる。以上から、本実施形態では、拭き取り方向を搬送方向に限定している。
【0071】
また、図1に示すように、本実施形態では、4色のインクをそれぞれ噴射する4列のノズル列14のうち、ブラックインクのノズル列14Kが、3色のカラーインクのノズル列14Y,14C,14Mよりも、搬送方向下流側に配置されている。そのため、液滴噴射面10aの拭き取りを搬送方向に限定して行うことにより、液滴噴射面10aに付着したブラックインクが、カラーインクのノズル13に入り込んで混色が生じることが防止される。尚、逆に、カラーインクがブラックインクのノズル13に入り込む可能性はあるが、ブラックインクにカラーインクが多少混じっても印字品質にほとんど影響を及ぼさない。
【0072】
さらに、本実施形態では、搬送ベルト18の特定の一部分(拭き取り部分21)を液滴噴射面10aと対向させ、この拭き取り部分21により液滴噴射面10aの拭き取りを行う。即ち、液滴噴射面10aの拭き取りによってインクが付着するのは、拭き取り部分21だけであって、他の部分にはインクが付着しないことから、記録用紙100が汚れにくい。
【0073】
また、搬送制御部42(ベルト制御手段)は、記録用紙100の搬送時には、メンテナンス孔18aはもちろんのこと、拭き取り部分21にも記録用紙100が載置されないように、以下のように搬送モータ19を制御する。搬送制御部42は、エンコーダ20から入力された信号に基づいて、搬送ベルト18のメンテナンス孔18aや拭き取り部分21の位置を把握している。その上で、図示しない給紙機構から記録用紙100が供給される際に、記録用紙100の供給側のプーリ16の近傍に、メンテナンス孔18aや拭き取り部分21が位置している場合には、搬送制御部42は、搬送モータ19を制御して搬送ベルト18を走行させる。これにより、メンテナンス孔18aや拭き取り部分21の位置を搬送方向下流側にずらす。このように、拭き取り部分21には記録用紙100が載置されないようにすることで、一層、記録用紙100が汚れにくくなる。
【0074】
さらに、下記のように、拭き取り部分21は、液滴噴射面10aに付着したインクの拭き取りに適した構造となっている。
【0075】
まず、図3、図4に示すように、上記拭き取り部分21に凹部18dが形成されることによって、拭き取り部分21に薄肉部21aが設けられている。これにより、拭き取り部分21の曲げ剛性が低下し、押圧ローラ30が押し当てられたときに拭き取り部分21が変形しやすくなる。特に、本実施形態では、拭き取り部分21に形成された薄肉部21a(凹部18d)の大きさ(面積)が、インクジェットヘッド10の液滴噴射面10aよりも大きくなっており、液滴噴射面10aの全域にわたって拭き取り部分21が変形しやすくなる。従って、拭き取り部分21の液滴噴射面10aに対する密着性が向上し、液滴噴射面10aに付着したインクを確実に押し出して拭き取ることができる。また、薄肉部21aを形成する凹部18dは、拭き取り部分21の液滴噴射面10aと反対側の面に形成されていることから、拭き取り部分21の液滴噴射面10aとの対向面は平滑な面となり、液滴噴射面10aに対する密着性が一層高くなる。
【0076】
さらに、拭き取り部分21には、記録用紙100を吸着させるための吸着孔18bが形成されていない。そのため、拭き取り部分21によって液滴噴射面10aから拭き取られたインクが、吸着孔18bから下に漏れ落ちることがない。
【0077】
また、図2〜図4に示すように、搬送ベルト18の幅W1は、インクジェットヘッド10の幅W2よりも大きくなっている。これに加えて、拭き取り部分21の幅方向両端部には、それぞれ液滴噴射面10a側に突出する壁部18cが形成されている。これにより、拭き取られたインクが拭き取り部分21の縁からこぼれにくくなる。尚、図3では、壁部18cは、拭き取り部分21の縁部に形成されているが、インクジェットヘッド10の液滴噴射面10aと干渉しない範囲内で、拭き取り部分21の縁よりも内側の位置に壁部18cが形成されてもよい。また、壁部18cは、拭き取り部分21にのみ形成されるのではなく、拭き取り部分21よりも搬送方向上流側部分、及び、搬送方向下流側部分まで延びていてもよい。
【0078】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0079】
1]拭き取り部分21の形状は、例えば下記のように適宜変更可能である。図8(a)に示すように、拭き取り部分21の薄肉部21aが、インクジェットヘッド10の液滴噴射面10aよりも小さくてもよい。この場合、拭き取り部分21の曲げ剛性低下の効果は、前記実施形態(図4(b))と比べて小さくなるが、薄肉部分が小さくなることにより搬送ベルト18自体の強度低下が抑えられるという利点がある。
【0080】
あるいは、図8(b)に示すように、拭き取り部分21の上面(液滴噴射面10a側の面)に凹部18dが形成されてもよい。但し、この場合は、拭き取り部分21の上面が凹凸になるため、少なくとも液滴噴射面10aと対向する部分の表面が平滑面となるように、凹部18dの大きさはインクジェットヘッド10よりも大きいことが好ましい。
【0081】
また、搬送ベルト18の曲げ剛性が低く、薄肉部21aがなくとも拭き取り部分21が液滴噴射面10aに十分に密着する場合には、薄肉部21aを省略してもよい。
【0082】
2]前記実施形態では、押圧ローラ30をローラ駆動機構31により搬送方向に移動させて、液滴噴射面10aを搬送方向に拭き取っていたが、押圧ローラ30を搬送方向と逆方向に(搬送方向上流側に向けて)移動させて液滴噴射面10aを拭き取ってもよい。また、押圧ローラ30を搬送方向に移動させて拭き取りを行った後、押圧ローラ30をそのまま待機させておき、次に液滴噴射面10aの拭き取りが必要になったときに押圧ローラ30を搬送方向と反対側に移動させて拭き取りを行ってもよい。即ち、両方向に拭き取りを行ってもよい。
【0083】
また、図9に示すように、ローラ駆動機構31により、押圧ローラ30を搬送方向と直交する、搬送ベルト18の幅方向(主走査方向)に移動させて、液滴噴射面10aを幅方向に拭き取ってもよい。この場合において、図9(a)のように、搬送ベルト18の幅がインクジェットヘッド10の幅よりも大きいと、幅方向に拭き取られたインクは、搬送ベルト18の、インクジェットヘッド10よりも幅方向外側の部分に主に付着する。この外側部分は、インクジェットヘッド10の液滴噴射面10aとは対向しない部分であって、記録用紙100が載置されない部分であることから、記録用紙100がインクで汚れにくい。さらに、搬送ベルト18の幅方向端部に壁部18cが形成されていると、幅方向に拭き取られたインクが搬送ベルト18の縁からこぼれにくい。尚、図9(a)において、液滴噴射面10aが常に図の左方向に拭き取られるのであれば、壁部18cは、搬送ベルト18の左端部にのみ設けられていればよい。
【0084】
あるいは、図9(b)のように搬送ベルト18の縁部の下側にインク吸収体45が設置され、液滴噴射面10aが搬送ベルト18の幅方向に拭き取られたときに、搬送ベルト18の縁部に付着したインクをインク吸収体45で回収する構成であってもよい。この場合には、搬送ベルト18に付着したインクを積極的にインク吸収体45へ押し出して回収することから、搬送ベルト18の幅をインクジェットヘッド10の幅に対してそれほど大きくしなくともよく、また、図9(a)の壁部18cも不要である。但し、この図9(b)においても、搬送ベルト18に付着したインクをインク吸収体45に全て押し出すことは難しく、搬送ベルト18の幅方向端部にインクが残存する可能性があることを考慮すれば、この形態においても、搬送ベルト18の幅をインクジェットヘッド10の幅よりも大きくし、インクが残存する虞のある搬送ベルト18の端部に記録用紙100が載置されないようにしてもよい。
【0085】
3]清掃機構25は前記実施形態(図6)の構成には限られず、様々な構成のものを採用できる。以下に、清掃機構25の変形例をいくつか挙げる。
【0086】
図10(a)では、インクジェットヘッド10と搬送ベルト18を挟んで反対側に、液滴噴射面10aと対向する領域において隆起したガイド面46aを有するガイド部材46が設置されている。そして、押圧ローラ30を支持する本体部32が、このガイド部材46のガイド面46aに沿って移動することにより、押圧ローラ30が搬送ベルト18を液滴噴射面10aに押し付けつつ液滴噴射面10aに沿って移動する。尚、本体部32と押圧ローラ30との間にバネ47が介装されていると、押圧ローラ30がより確実に搬送ベルト18に押し付けられる。
【0087】
また、図10(b)では、本体部32は、液滴噴射面10aと平行なガイド軸48に沿って移動可能であり、この本体部32に、押圧ローラ30に連結されたローラ支持部材33が上下に移動可能に挿通されている。また、ガイド軸48よりもさらに下方の位置には、液滴噴射面10aと対向する領域において隆起したガイド面46aを有するガイド部材46が設置されており、ローラ支持部材33の下端はガイド面46aに当接している。この構成において、本体部32がガイド軸48に沿って移動すると、ローラ支持部材33がガイド面46aに沿って移動しながら押し上げられるため、押圧ローラ30は搬送ベルト18を液滴噴射面10aに押し付けた状態で移動することになる。
【0088】
また、図10(c)では、押圧ローラ30が回動軸51とアーム52で連結されている。そして、押圧ローラ30が回動軸51を中心に回動することにより、押圧ローラ30が搬送ベルト18を液滴噴射面10aに押し付けた状態で移動する。
【0089】
また、搬送ベルト18を液滴噴射面10aに押し付ける押圧部材が回転するローラであることは必ずしも必要でないが、押圧部材と搬送ベルト18との接触抵抗が小さくなる工夫がなされていることが好ましい。例えば、押圧部材の搬送ベルト18との接触部分の硬度を上げる、あるいは、前記接触部分に、その表面摩擦係数を低下させるコーティングを施す、などが考えられる。
【0090】
4]前記実施形態では、記録用紙100の搬送時に、液滴噴射面10aを拭き取る拭き取り部分21に記録用紙100が載置されないように制御されていたが、拭き取り部分21にも記録用紙100が載置されて搬送が行われてもよい。また、前記実施形態では、液滴噴射面10aを拭き取る搬送ベルト18の部分が、特定の一部分(拭き取り部分21)に限定されていたが、拭き取り部分21を特定せず、搬送ベルト18の不特定の部分で拭き取るようにしてもよい。尚、この場合、搬送ベルト18のどの部分でもインクの拭き取りを行う可能性がある。そのため、前記実施形態のように、インクのこぼれ防止のために壁部18cが設けられる場合は、搬送ベルト18の全長にわたって壁部18cが形成されることが好ましい。
【0091】
5]前記実施形態では、1つのインクジェットヘッド10が、複数色(例えば4色)のインクをそれぞれ噴射する複数のノズル列14を有する構成であったが、各色毎にインクジェットヘッド10が分けられてもよい。つまり、複数色のインクをそれぞれ噴射する複数のインクジェットヘッド10が、搬送方向に並べて配置されてもよい。また、この場合においても、複数のインクジェットヘッド10の液滴噴射面10aを1つの押圧部材の移動によって搬送ベルト18で拭き取る構成も可能であるが、複数のインクジェットヘッド10の液滴噴射面10aをそれぞれ拭き取るための、複数の押圧部材が設けられてもよい。
【0092】
6]搬送ベルト18に記録用紙100を吸着させる手段としては、前記実施形態のような、吸着孔18bからの吸引によるものには限られない。例えば、搬送ベルト18の表面を帯電させることにより、記録用紙100との間に静電気力を発生させて吸着させる手段を採用することもできる。
【0093】
7]前記実施形態は、記録用紙100を搬送する搬送ベルト18を、インクジェットヘッド10の液滴噴射面10aを拭き取るベルトとしても使用した例であるが、液滴噴射面10aを拭き取るベルトが専用に設けられてもよい。特に、インクジェットヘッドが、記録用紙の幅方向に移動しながらインクを噴射する、いわゆる、シリアルタイプのヘッドである場合に、記録用紙100と対向する位置から離れたメンテナンスのための位置に、拭き取り専用のベルトと清掃機構が設置されてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 インクジェットプリンタ
4 制御装置
10 インクジェットヘッド
10a 液滴噴射面
13 ノズル
18 搬送ベルト
18b 吸着孔
18c 壁部
18d 凹部
19 搬送モータ
21 拭き取り部分
21a 薄肉部
30 押圧ローラ
31 ローラ駆動機構
38 クリーニング装置
42 搬送制御部
100 記録用紙


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが開口する液滴噴射面を有し、前記複数のノズルから被記録媒体に向けてインクの液滴を噴射するインクジェットヘッドと、
前記液滴噴射面と対向した状態で走行するベルトと、
前記ベルトを駆動するベルト駆動手段と、
前記ベルトに対して前記液滴噴射面と反対側に配置された押圧部材と、
前記押圧部材を前記ベルトに押し当てて前記ベルトを前記液滴噴射面に押し付けた状態で、前記押圧部材を前記液滴噴射面に沿う方向に移動させる押圧部材駆動手段と、を備え、
前記ベルトの走行が停止した状態において、前記押圧部材駆動手段により前記押圧部材を前記ベルトに押し当てながら移動させることで、前記液滴噴射面に押し付けられた前記ベルトによって前記液滴噴射面に付着したインクを押し出して拭き取ることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記インクジェットヘッドは、所定の記録位置に固定された状態で前記被記録媒体にインクを噴射するものであり、
前記ベルトが、前記記録位置にある前記インクジェットヘッドの前記液滴噴射面と対向した状態で走行し、前記被記録媒体を搬送する搬送ベルトであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記搬送ベルトによって前記液滴噴射面のインクを拭き取った後に、前記搬送ベルトに付着したインクを除去する、クリーニング手段をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記押圧部材駆動手段は、前記押圧部材を、前記被記録媒体の搬送方向に移動させるものであり、
前記クリーニング手段は、前記インクジェットヘッドよりも前記搬送方向の下流側の位置に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記搬送ベルトの幅は、前記インクジェットヘッドの幅よりも大きいことを特徴とする請求項4に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記押圧部材駆動手段は、前記押圧部材を、前記搬送ベルトの幅方向に移動させることを特徴とする請求項2又は3に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記搬送ベルトの幅は、前記インクジェットヘッドの幅よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記搬送ベルトの幅方向端部には、前記液滴噴射面側に突出した壁部が設けられていることを特徴とする請求項2〜7の何れかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項9】
前記搬送ベルトの特定の一部分が、前記液滴噴射面のインクを拭き取る拭き取り部分であることを特徴とする請求項2〜8の何れかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項10】
前記拭き取り部分には、前記搬送ベルトの他の部分よりも厚みが薄くなった薄肉部が設けられていることを特徴とする請求項9に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項11】
前記拭き取り部分の前記液滴噴射面との対向面とは反対側の面に凹部が形成されることによって、前記薄肉部が形成されていることを特徴とする請求項10に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項12】
前記搬送ベルトには、搬送する前記被記録媒体を前記搬送ベルトに吸着させるための複数の吸着孔が形成されており、
前記拭き取り部分には、前記吸着孔が形成されていないことを特徴とする請求項9〜11の何れかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項13】
前記ベルト駆動手段を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記被記録媒体の搬送時に、前記搬送ベルトの前記拭き取り部分には前記被記録媒体が載置されないように、前記ベルト駆動手段を制御することを特徴とする請求項9〜12の何れかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項14】
前記押圧部材は、回転ローラであることを特徴とする請求項1〜13の何れかに記載のインクジェットプリンタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−75468(P2013−75468A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217727(P2011−217727)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】