説明

インクジェットプリントヘッド

【課題】 ヘッド部の高密度化を図り、インクを安定して飛翔させ、また記録印字、記録品質を向上させることができるインクジェットプリントヘッドを得る。
【解決手段】 熱毛細管現象を利用して、インク液面をSAW3の伝搬面まで移動させ、そこにSAWを入射させることにより、微小インクを飛翔させる。この時、インク供給部において、画素ごとにインク流路7、加熱手段(ヒーター9)を形成することにより、画像情報に応じて選択的にインク的を飛翔させ、記録媒体上に記録するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面弾性波(SAW)を利用してインクを飛翔させるインクジェットプリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から表面弾性波をインク滴飛翔の駆動源とするインクジェットプリンタヘッドが提案されている。これは、表面弾性波の伝搬面上に液体を付加し、表面弾性波をその液体中に放射させ、その励振出力を大きくすることにより、液体が微小粒子となって飛翔する現象を利用したものである。
【0003】
このような従来のインクジェットプリントヘッドにおいて、ノズルレス方式は大きく分けて、画素ごとに櫛歯状電極(IDT)を1つ設ける場合(例えば、特許文献1参照)と、駆動源として大きな1つのIDTと画素制御用の小さなIDTを設ける場合(例えば、特許文献2参照)とに分類される。
【0004】
【特許文献1】特開平10−193592号公報
【特許文献2】特開平4−189145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1のインクジェットプリントヘッドにおいて、IDTの交差幅は3波長以上必要といわれており、画素ごとにIDTを1つ持つ場合はこれがネックとなって、高密度化に制限がある。
【0006】
また、特許文献2のインクジェットプリントヘッドのように、駆動源として大きな1つのIDTと画素制御用の小さなIDTを設ける場合も、画素制御用のIDTの交差幅の最小値に制限があり、これに伴い高密度化に制限が付く。
【0007】
一般に圧電材として電気機械結合係数の大きなLiNb03 が使用されているが、これの音速は約4000m/秒であり、50MHzの高速で動作させても、波長は80μmとなる。よって、交差幅3波長のIDTを考えると240μmピッチ以上となり、これでは100dpi 相当のプリントヘッドしか実現できない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、可能な限り簡単な構成により、ヘッド部の高密度化を図り、しかもインクを安定して飛翔させ、所要の記録印字を行えるようにするとともに、記録品質を向上させることができるインクジェットプリントヘッドを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明に係るインクジェットプリントヘッドは、熱毛細管現象を利用して、インク液面をSAW伝搬面まで移動させ、そこにSAWを入射させることにより、微小インクを飛翔させるとともに、インク供給部において画素ごとにインク流路と加熱手段とを形成することにより、画像情報に応じて選択的にインク滴を飛翔させ、記録媒体上に記録するように構成したことを特徴とする。
【0010】
本発明(請求項2記載の発明)に係るインクジェットプリントヘッドは、請求項1において、インク供給部を構成する部材を、親水性の材質を使用して形成するか、または親水コーティングを施すことにより、インク流路の内壁および天板内面を親水性とするとともに、圧電基板と当接する面には、撥水コーティングを施し、流路を伝搬してきたインクが隣接流路に滲み出さないようすることを特徴とする。
【0011】
本発明(請求項3記載の発明)に係るインクジェットプリントヘッドは、請求項1または請求項2において、非印字時においてヒーターをOFFしたときには、圧力調整器により各インク流路におけるインク液面が矩形管状流路部の先端近傍に位置するようにインク室の圧力を調整することを特徴とする。
【0012】
本発明(請求項4記載の発明)に係るインクジェットプリントヘッドは、請求項1、請求項2または請求項3において、インク流路における天板なしインク流路部の長さを、SAWの波長の8倍以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明に係るインクジェットプリントヘッドによれば、SAWをインク滴飛翔の駆動力とするインクジェット方式において、熱毛細管現象(マランゴニ効果)を利用してインクを画像情報に応じて選択的にSAW伝搬面に供給して印字を行うようにしているから、簡単な構成であるにもかかわらず、ヘッド部の高密度化を図り、しかもインクを安定して飛翔させ、所要の記録印字を行えるようにするとともに、記録品質を向上させることができる。
【0014】
特に、本発明によれば、20V程度の低電圧でインク供給制御が可能であり、所要の記録印字を可能とし、記録品質を向上させることができる。
【0015】
また、本発明によれば、エッチング、又は、MEMS技術により容易に微細流路が形成可能であり、さらに個別ヒーターも印刷方式工程で形成可能であるから、容易に高密度化が可能である等の優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1および図2は本発明に係るインクジェットプリントヘッドの一実施形態を示す。
これらの図において、1は伝搬体としての圧電基板(一般的にはLiNb03 が使用される。)で、この圧電基板1上(伝搬面)には、幅広の櫛形交差指電極(IDT)2が、1つないしは複数個形成され、基材に端面を合せて貼り付けて構成されている。なお、このIDT2には、交流発生装置が接続されている。
また、3は弾性表面波(SAW)であり、圧電基板1の伝搬面上を伝搬するようになっている。
【0017】
5は圧電基板1の端部に当接して配置されるインク供給部であり、インク室6を有するとともに、このインク室6から画素に対応した個別インク流路7が矩形管状に形成されている。そして、圧力調整器(図示せず)で調整された圧力がチューブなどを通じてインク室6に伝えられ、各個別インク流路7におけるインク液面が矩形管状部の先端近傍に位置するように調整するようになっている。
【0018】
8はこのインク供給部5において個別インク流路7のインク室6側の一部を覆うように設けた流路天板であり、この流路天板8の各流路7に対応する部分には、個別にヒーター9が設けられている。10はこれらのヒーター9を個別にON/OFFする個別制御SWである。なお、7aは矩形管状流路部、7bは天板なし流路部である。
【0019】
ここで、インク供給部5を構成する部材には親水性の材質を使用し、流路7の内壁及び、天板内面は親水性とする。親水コーティングを施して、同様の構成としても良い。ただし、圧電基板1と当接する端面は撥水コーティングを施し、流路7を伝搬してきたインクが隣接流路7に滲み出さないようする。
【0020】
画像情報に応じてインク滴を飛翔させる場合は、個別制御Sw10を短絡しヒーター9で矩形管状流路部7aを加熱する。すると、加熱された部分の表面張力が低下(熱毛細管現象又は、マランゴニ効果とも言う。)し、天板8のない流路部(7b)へインクが流れ出し、SAW伝搬面に到達する。
なお、ヒーター9の加熱は一般的な薄膜ヒーターを用いて20V程度の低圧電源で可能である。
【0021】
そして、例えば50MHz、30〜50Vppで励振させたSAW3をここに入射すると、インク液内部でSAW3が縦波に変換され、その縦波がインクを微小液滴としてレーリー角方向に飛翔し、その先に置いた記録媒体に記録される。
【0022】
また、ヒーター9をOFFし、矩形管状流路部7aの温度が低下すると、表面張力は元に戻り、流れ出したインクは引き戻される。
【0023】
天板なし流路部7bをインクが移動することによりインク滴の飛翔を制御するために、この距離は短い方がよいが、この部分はまた、SAW3が縦波にモード変換する領域でもあるために、SAW3がインク液内部に十分に侵入する必要があり、8波長以上を確保する必要がある。
【0024】
よって、LiNb03 基板1でSAW発生部を構成し、上記のように50MHzで励振させた場合はSAW3の波長は80μmとなるため、天板なし流路部7bの長さは640μm以上とする。
【0025】
このような構成によるインクジェットプリントヘッドによれば、20V程度の低電圧でインク供給制御が可能となる。さらに、エッチング、又は、MEMS技術により容易に微細流路が形成可能であり、個別ヒーターも印刷方式工程で形成可能であるから、容易に高密度化が可能となる。
【0026】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、インクジェットプリントヘッドを構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【0027】
たとえば上述した実施形態では、流路7の断面の形を矩形としたが、これに限定するものではなく、半円形、半楕円形などでもかまわない。
また、インク流路7において、流路天板8に設けたヒーター9に対応する部分の流路7の流路幅を幅狭に形成するように構成する等の変形例も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るインクジェットプリントヘッドの一実施形態を示す概略分解斜視図である。
【図2】図1のインクジェットプリントヘッドの組立状態を示す平面図、正面図および左、右側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1…圧電基板(伝搬体)、2…交差指電極(IDT)、3…弾性表面波(SAW)、5…インク供給部、6…インク室、7…個別インク流路、8…流路天板、9…ヒーター、10…個別制御SW。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱毛細管現象を利用して、インク液面をSAW伝搬面まで移動させ、そこにSAWを入射させることにより、微小インクを飛翔させるとともに、
インク供給部において画素ごとにインク流路と加熱手段とを形成することにより、画像情報に応じて選択的にインク滴を飛翔させ、記録媒体上に記録するように構成したことを特徴とするインクジェットプリントヘッド。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェットプリントヘッドにおいて、
インク供給部を構成する部材を、親水性の材質を使用して形成するか、または親水コーティングを施すことにより、インク流路の内壁および天板内面を親水性とするとともに、
圧電基板と当接する面には、撥水コーティングを施し、流路を伝搬してきたインクが隣接流路に滲み出さないようすることを特徴とするインクジェットプリントヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のインクジェットプリントヘッドにおいて、
非印字時においてヒーターをOFFしたときには、圧力調整器により各インク流路におけるインク液面が矩形管状流路部の先端近傍に位置するようにインク室の圧力を調整することを特徴とするインクジェットプリントヘッド。
【請求項4】
請求項1、請求項2または請求項3記載のインクジェットプリントヘッドにおいて、
インク流路における天板なしインク流路部の長さを、SAWの波長の8倍以上とすることを特徴とするインクジェットプリントヘッド。

【図1】
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【図2】
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