説明

インクジェットヘッド、その製造方法および製造装置

【課題】ノズルプレートとアクチュエータユニットとを比較的容易に、なおかつ高精度で接着することができるインクジェットヘッド、その製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】
実施形態のインクジェットヘッドには、基板上に形成され、側壁と底面により区画された複数の圧力室からなるアクチュエータユニットと、前記アクチュエータユニットの複数の圧力室を覆って圧力室側壁と接着され、圧力室それぞれと対応し連通する複数のノズル孔を有するノズルプレートと、前記ノズルプレートの、前記複数の圧力室の各側壁と対応する位置に形成された複数の貫通孔とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、複数の圧力室からなるアクチュエータユニットに複数のノズルが形成されたノズルプレートを張付けたインクジェットヘッド、その製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインクジェットヘッドとして、アクチュエータユニットにノズルプレートを張付けた構造がある。アクチュエータユニットには多数の側壁によって仕切られた圧力室が形成されている。ノズルプレートには、各々の圧力室に対応したノズル(孔)が形成されている。このノズルは、インクを吐出するために設けられている。アクチュエータユニットとノズルプレートの一般的な張付けかたとして、アクチュエータユニットに接着剤の塗布を行なった後に、ノズルプレートをアクチュエータユニットへ張付ける方法が知られている。
【0003】
しかしながら、接着剤を接着部に対して均一に塗布することは難しく、圧力室にはみ出してしまうこともある。はみ出した接着剤がノズルにかかると、インク滴の吐出性能に悪影響を与え、結果として印字品質が低下する。また、接着剤のはみ出しを抑えるために接着剤の塗布量を減らすと、接着剤の不足により隣接するチャンネル間が導通してしまい、同様に結果として印字品質が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−124955号公報
【特許文献2】特開2002−529289公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態が解決しようとする課題は、ノズルプレートとアクチュエータユニットとを比較的容易に、なおかつ高精度で接着することができ、接着剤の塗布等に起因する印字品質の低下を防げるインクジェットヘッド、その製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、実施形態のインクジェットヘッドは、基板上に形成され、側壁と底面により区画された複数の圧力室からなるアクチュエータユニットと、アクチュエータユニットの複数の圧力室を覆って圧力室側壁と接着され、圧力室それぞれと対応し連通する複数のノズル孔を有するノズルプレートと、前記ノズルプレートの、前記複数の圧力室の各側壁と対応する位置に形成された複数の貫通孔とを備えることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】アクチュエータユニットとノズルプレートの断面図。
【図2a】図1に示すアクチュエータユニットの側壁の動作を示す断面図。
【図2b】図1に示すアクチュエータユニットの側壁の動作を示す断面図。
【図3】本実施形態のインクジェットヘッドの概略構成を示す斜視図。
【図4a】側壁とノズルプレートの貫通孔の位置関係を示す平面図
【図4b】図4aに示す側壁と貫通孔の位置関係を線A-Aに沿って示す断面図。
【図5a】アクチュエータユニットのアライメントマークの位置を示す平面図。
【図5b】ノズルプレートのアライメント穴の位置を示す平面図。
【図6】アクチュエータユニットへのノズルプレート接着工程の初期状態を示す断面図。
【図7a】アクチュエータユニットとノズルプレートの位置合わせ工程を示す断面図。
【図7b】アライメントマークとアライメント穴の位置合わせ状態を示す図。
【図8】加圧ヘッドでノズルプレートをアクチュエータユニットへ加圧する状態を示す断面図。
【図9a】図8の加圧状態で、加圧面がやわらかい加圧ヘッドで押さえつけられたノズルプレートの状態を拡大して示す断面図。
【図9b】図8の加圧状態で、加圧面がかたい加圧ヘッドで押さえつけられたノズルプレートの状態を拡大して示す断面図。
【図10a】ノズルプレートのガイド溝の位置および形状を示す平面図。
【図10b】ノズルプレートのガイド溝および貫通孔の位置とアクチュエータユニットを構成する側壁との関係を示す断面図。
【図10c】ノズルプレートのガイド溝と貫通孔の位置および形状と接着剤の供給を示す断面図。
【図11a】ノズルプレートとアクチュエータユニットの側壁との間への接着剤の自動充填を示す断面図。
【図11b】図11aに示す自動充填で、接着剤のはみ出しが抑制される様子を示す断面図。
【図12】ノズルプレートに枠板が接着された状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明を実施するための実施形態について説明する。
【0009】
一実施形態のインクジェットヘッドの構成を図1ないし図11bを参照して説明する。図1は、側壁1と底面2により区画された圧力室3が複数並んだアクチュエータユニット4にノズルプレート5が接着されたものの断面図である。ノズルプレート5は、底面2と平行になるように側壁1の上面に接着されている。ノズルプレート5には、各々の圧力室3に満たされたインクを吐出するためのノズル孔7が設けられている。側壁1は、矢印の示す向きに分極した2つの圧電素子からなっている。圧電素子とはピエゾ素子とも呼ばれ、電圧を加えると変形する素子のことである。側壁1と底面2には電極8が形成されており、電極8に電荷を供給すると側壁1の内部に電界が発生し、側壁1が変形して圧力室3からインクが吐出する。
【0010】
図2aと図2bは、アクチュエータユニット4の側壁1の動作を示す図である。この2つの図を用いて側壁1と圧力室3の動きを説明する。ただし、通常ならば側壁1の変位による圧力室3の容量変化に合わせて圧力室3に満たされているインクがノズルプレート5のノズル孔7から吐出する。両図において圧力室3が3つ図示されている。図2aは、中央の圧力室3が拡張しインクが満たされたときの様子を表している。図2bは、中央の圧力室3が縮小しインクがノズルプレート5のノズル孔7から吐出されたときの様子を表している。圧力室3には予めインクが満たされており、体積が小さくなったときに圧力室3に満たされているインクに圧力が加わりインクが吐出される。図2aと図2bの状態を繰り返し、2つおきの圧力室3ごとにインクが吐出される。
【0011】
図3は、一実施形態の概略構成を説明する図である。2列のアクチュエータユニット4を囲むように、基板9およびノズルプレート5に枠板10が接着され、共通流路11a、11bを形作っている。枠板10はアクチュエータユニット4の厚さと同等もしくはわずかに薄く、ノズルプレート5の外形よりも少し大きい。
【0012】
基板9には、前記2列のアクチュエータユニット4を挟んで、アクチュエータユニット間にはインク供給口12、各アクチュエータユニットの外側にはインク排出口13が形成されている。インク供給口12は共通流路11aと繋がり、インク排出口13は共通流路11bと繋がっている。インク供給口12およびインク排出口13は基板9の表裏を繋ぐ導通口として設けられており、アクチュエータユニット4に沿って等間隔に複数形成されている。
【0013】
図4aと図4bは、共にアクチュエータユニット4を構成する側壁1とノズルプレート5に形成した貫通孔14の位置関係を表す図である。図4aはノズルプレート5側から見たときの様子を表し、図4bは図4aのA−A断面を表している。ノズルプレート5には、各側壁1の端部に対応した位置に貫通孔14が形成されている。貫通孔14の直径は側壁1の幅よりも小さい。
【0014】
図5aは、基板9にアクチュエータユニット4と枠板10が接着された状態の概略図で、枠板10の形状は簡略化して描かれている。図5bはノズルプレート5の概略図で、ノズル孔7と貫通孔14は省略してある。アクチュエータユニット4には図5aに示すようにノズルプレート5との位置あわせのためのアライメントマーク16a、16bが形成されている。ノズルプレート5には図5bに示すようにアクチュエータユニット4との位置合わせのためのアライメント穴15a、15bが形成されている。
【0015】
ノズルプレート5の材質は、例えばSi(シリコン)である。ノズル孔7、貫通孔14およびアライメント穴15a、15bはフォトリソグラフィを用いたドライエッチング等により形成することができる。ここでドライエッチング技術とフォトリソグラフィ技術について簡単に説明する。
【0016】
ドライエッチングとは、気体やイオンなどを用いてエッチングする技法である。エッチングとは腐食作用を応用した表面加工技術であり、必要部分にのみ防食処理を施し、腐食剤により不要部分を除去する。この技法は微細な金属を加工するとき等に用いられる。
【0017】
フォトリソグラフィは、パターンの作成技術である。主に半導体素子やプリント基板等の製造に用いられ、その名のとおり写真の現像技術を応用している。工程としては、まず基板の上に感光性物質を塗布し、パターンを形成したい箇所に例えば紫外線を照射する。現像液に基板を通すと、紫外線が照射された部分の感光性物質が基板から除去される。(逆に感光性物質が現像液に溶けなくなるようにする手法もある。)最終的に残るのはパターンが形成された基板である。
【0018】
つづいてインクジェットヘッドのノズルプレート5の接着工程について説明する。
【0019】
図6は、ノズルプレート5の接着工程の初期状態を表す図である。支持ベース51には、吸引口57が形成されているのが望ましい。吸引口57は、インク供給口12およびインク排出口13と繋がっており、支持ベース51の表側にインク供給口12およびインク排出口13の少なくとも一部に対応した溝が形成されている。溝の代わりに穴が形成されていても良い。
【0020】
基板9の表側にアクチュエータユニット4が接着されている。支持ベース51に基板9を固定する。ここでは固定方法として真空吸着を用いる。真空吸着を用いるためには、予め支持ベース51に真空吸着用の溝もしくは穴を形成しておくことが望ましい。ただし真空吸着以外の固定方法を用いても構わない。
【0021】
図7aおよび図7bはノズルプレート5の位置合わせ工程を説明するための図である。
【0022】
図7aはノズルプレート5がアクチュエータユニット4に接触し、支持されている状態を表している。アクチュエータユニット4の裏側が基板9の表側と接着しており、アクチュエータユニット4の表側がノズルプレート5の裏側と密着している。
【0023】
図7bは、アクチュエータユニット4に形成されたアライメントマーク16a、16bとノズルプレート5に形成されたアライメント穴15a、15bの位置が合った状態を示している。この状態では、未だノズルプレート5はアクチュエータユニット4に接着されていない。位置が合ったとはどういう状態かというと、ノズルプレート5においてアクチュエータユニット4との接着面とは逆の面から見たとき、アクチュエータユニット4のアライメントマーク16a、16bの全体像が、ノズルプレート5のアライメント穴15a、15bを通して見える状態である。位置合わせには、ここではCCDカメラ等を利用したアライメント装置を用い、アクチュエータユニット4に対してノズルプレート5の位置(x、y、θ)を調整する。このとき、ノズルプレート5とアクチュエータユニット4と間には接着剤54が介在していない。ゆえにノズルプレート5とアクチュエータユニット4とを接触させながら位置合わせを行なうこともできる。また、ノズルプレート5とアクチュエータユニット4とを接触させた後に離したり、移動させたりすることも可能である。そのため比較的容易により高精度で位置合わせを行なうことができる。
【0024】
位置合わせ後、ノズルプレート5とアクチュエータユニット4との位置合わせを良好な状態に保つために、吸引装置で吸引口57から空気を吸引する。空気を吸引することで、基板9とノズルプレート5に囲まれた空間の気圧が低くなり、ノズルプレート5がアクチュエータユニット4に引き寄せられ、密着支持される。
【0025】
図8は、インクジェットヘッドの製造装置を構成する加圧ヘッド52でノズルプレート5を加圧する状態を説明する図である。加圧ヘッドは、例えばフリップチップボンダーのような加圧装置に取り付けられている。加圧装置は加圧ヘッドのほかに、ステージ、加圧ヘッドの加熱装置、加圧ヘッドを上下動させる機構、加圧力を調整する機構を備えている。ステージはノズルプレート位置合わせと共用のものでも良い。
【0026】
加圧ヘッド52を、ノズルプレート5の表側に対して垂直に押し当て、加圧する。加圧後ノズルプレート5とアクチュエータユニット4との真空吸着を終了する。加圧ヘッド52の加圧面は硬質で、高水準の平面度を有しているのが望ましい。
【0027】
加圧ヘッド52の加圧面が硬質である場合と軟質である場合について、それぞれ説明する。図9aと図9bはともに加圧ヘッド52で押さえつけられたノズルプレート5の状態を説明する図である。図9aは軟質の加圧面を備えた加圧ヘッド52を用いたときの状態を表す図であり、図9bは硬質の加圧面を備えた加圧ヘッド52を用いたときの状態を表す図である。アクチュエータユニット4に設けられた側壁1の高さにはばらつきがある。高さとは圧力室3の底面2からノズルプレート5との接着面までの距離を表す。図9aのように、加圧ヘッド52の加圧面の材質がシリコンゴムのような軟質のものである場合、側壁1の高さのばらつきに従ってノズルプレート5が局所的に歪んでしまう。
【0028】
他方、硬質の加圧面を備えた加圧ヘッド52を用いた場合、図9bに示すようにノズルプレート5の平面度を加圧ヘッド52の加圧面の高水準の平面度と同程度に保つことができる。硬質材料としては、鋼鉄、アルミ合金(ジュラルミン)等のような金属が望ましい。
【0029】
硬質の加圧面を備えた加圧ヘッド52を用いた場合、図8に示すように、加圧ヘッドの加圧力を調整するために、製造装置を構成する加圧調整部53を設ける必要がある。加圧調整部53は、ノズルプレート5のアクチュエータ4への加圧力を調整しており、加圧ヘッド52の押し込み量により加圧力を調整できるようになっている。加圧調整部53が無いと、加圧面が硬質であるため、加圧ヘッド52の僅かな降下量の変化でも過大な圧力がアクチュエータユニット4にかかり、アクチュエータユニット4が破損してしまう虞がある。加圧調整部53が加圧力を調整することにより、過大な圧力がアクチュエータユニット4にかかることを防ぐことができる。
【0030】
加圧調整部53が組み込まれているのは図8に示すように支持ベース51側でも良いし、加圧ヘッド52側でも良い。もしくは支持ベース51と加圧ヘッド52の双方に組み込まれていても良い。加圧調整部53の構成あるいは材料は、加圧ヘッド52の押し込み量に対応して加圧力が調整できるものであればよく、例えばコイルばねを複数利用した単純なものでもよい。
【0031】
また、このとき加圧ヘッド52の加圧面にはノズルプレート5を真空吸着するための溝もしくは穴が、ノズル孔7を避けてノズルプレート5を吸引できる位置に形成されているとさらに望ましい。加圧ヘッド52にノズルプレート5を真空吸着させることができ、ノズルプレート5の平面度を加圧ヘッド52の加圧面の高水準の平面度と同程度に保つことが確実にできる。
【0032】
次に、図8の状態で、アクチュエータユニット4とノズルプレート5とを接着剤54で接着する工程について説明する。ノズルプレート5の貫通孔14から接着剤54を注入する。このとき、ノズルプレート5には接着剤54を案内するためのガイド溝17が形成されていることが望ましい。
【0033】
図10a、図10b、図10cは、ノズルプレート5に形成されたガイド溝17の位置および形状を説明するための図である。図10aは、ノズルプレート5側から見たときのアクチュエータユニット4との関係を表している。ガイド溝17は、ノズルプレート5に形成された貫通孔14同士を繋ぐように形成されている。
【0034】
図10bは、図10aのB−B断面図である。図10aにあるB−Bの直線は、ノズルプレート5側から見たとき貫通孔14のほぼ中心を通る、ガイド溝17の長手方向に沿って引かれた直線である。
【0035】
図10cは、図10aのC−C断面図である。
【0036】
ノズルプレート5の貫通孔14から接着剤54を注入する。例えばディスペンサ56等の注入器を使い、ガイド溝17に沿って動かしながら接着剤54をガイド溝17に供給する。ディスペンサ56とは、定量の液体を精度よく供給するコントローラおよびその周辺機器の総称である。
【0037】
ガイド溝17があることで、様々な効果がある。ガイド溝17に沿ってディスペンサ56を動かしながら接着剤54を連続的に供給できるようになるため、各貫通口14に接着剤54を供給するためのディスペンサの移動と停止の繰り返しや、接着剤54の供給と停止の繰り返しを行なう必要がなく、時間が短縮できる。また、ガイド溝17は接着剤54の供給バッファとして働くので、接着剤54の供給量の調整に余裕があり、供給量の厳密なコントロールを必要としなくなる。また、余分な接着剤54はガイド溝17に保持されるので、ノズルプレート5の表面を接着剤54で汚すことがない。従って、すばやく、容易に、確実に接着剤54を貫通孔14に注入することができるようになる。
【0038】
また、このとき予めアクチュエータユニット4およびノズルプレート5を温めておくことが望ましい。そうすることで、注入した接着剤54は温められて粘度が低下するため、流動性が向上し、充填され易くなる。アクチュエータユニット4およびノズルプレート5を加熱する方法としては、支持ベース51に加熱機能(手段)を組み込むことで実現しても良いし、加圧ヘッド52に備えられた加熱手段を用いても良い。または、アクチュエータユニット4およびノズルプレートに5に熱風を供給する装置を設けても良い。また、これらの加熱手段を任意に組み合わせてもよい。
【0039】
図11aと図11bは、貫通孔14から注入された接着剤54がアクチュエータユニット4を構成する側壁の上部とノズルプレート5との間に充填される様子を説明する図である。貫通孔14から注入された接着剤54は毛管現象によりノズルプレート5と側壁1の間に形成された空隙に適量かつ適正な箇所に充填される。貫通孔14から注入された接着剤54の表面S1が凹面であるか凸面であるかにより、充填が促進されるか抑制されるかが変化する。
【0040】
図11aは、接着剤54が充填されている途中の様子を表す図である。矢印は貫通孔14から注入された接着剤54の進行方向を表している。接着剤54の表面はノズルプレート5と側壁1との間では凹面状の充填促進表面S1となり、ノズルプレート5と側壁1との間に形成された空隙に毛細管現象により充填される。
【0041】
ノズルプレート5と側壁1の上面は平行なので、接触角θは90度未満であればノズルプレート5と側壁1との間では接着剤表面S1は凹面となり、接着剤54の表面張力による力が、接着剤54が充填される方向に働くが、90度近辺ではその力は弱く、接着剤54をすばやく充填できない。接触角θはより小さいほうが、接着剤表面S1の曲率半径が小さくなり、接着剤54の表面張力の接着剤充填方向の成分が大きくなるので、接着剤54はよりすばやく充填される。従って、接着剤54の充填速度を考慮すると、接触角θは小さい方が望ましい。
【0042】
図11bは、接着剤54のはみ出しが抑制されている様子を表している。接着剤54が側壁1の縁に達すると、接着剤54の側壁1との接触面がノズルプレート5に対して平行な面から垂直な面へと急激に変化する。それに伴い接着剤の表面は凹面状の充填促進表面S1から凸面状の充填抑制表面S2へと変化する。接着剤54の表面が凸面状の充填抑制表面S2の場合、表面張力により接着剤54の圧力室3へのはみ出しを抑制する方向に力が働き、接着剤54のはみ出しを防ぐことができる。
【0043】
ノズルプレート5と側壁1の側面とのなす角は90度なので、接触角θは45度より大きければ、接着剤54の充填が進んで側壁1の縁に到達した際に接着剤54の表面は凸面となり、接着剤54の表面張力による力が接着剤54のはみ出しを抑える方向に働くが、45度近辺ではその力は弱く、接着剤のはみ出しを抑えるのに十分な力が得られない。接触角θはより大きいほうが、接着剤表面Sの曲率半径が小さくなり、接着剤54の表面張力のはみ出しを抑える方向の成分が大きくなるので、接着剤54のはみ出しをより少なくすることができる。従って、接着剤54のはみ出しを抑えることを考慮すると、接触角θは大きいほうが望ましい。
【0044】
側壁1とノズルプレート5との空隙の大きさには多少のバラツキがあっても良い。接着剤54は毛細管現象により充填されるため、空隙の大きさに応じた量が充填されるためである。側壁1、ノズルプレート5および接着剤54の材料としては、前述の接触角範囲を満足できる組み合わせであればいずれのものでも良い。ただし接着剤54については低粘度の方が、充填速度が大きくなるので望ましい。
【0045】
次に、上述のようにして充填された接着剤54を硬化させて、ノズルプレート5をアクチュエータユニット4に接着する。このためには、例えば、前述のように加圧ヘッド52に組み込まれた加熱機能を用いて加圧ヘッド52を加熱し、接着剤54を硬化させる。加熱機能は、支持ベース51にも組み込まれていても良い。
【0046】
接着剤54は、段階的に硬化させるのが望ましい。接着剤54の本硬化温度よりも低温である程度硬化させ、その後に本硬化温度で硬化させる。これにより、本硬化温度で一気に接着剤54を硬化させる場合と比べて、低温で接着剤54を硬化できる。低温であるほどノズルプレート5とアクチュエータユニット4との熱膨張率の違いによる影響を少なくすることができる。そのため、ノズルプレート5とアクチュエータユニット4との位置ずれが小さくなる。
【0047】
接着剤54の硬化後、加圧ヘッド52を通常の位置に戻す。
【0048】
ノズルプレート5と枠板10との接着について図12を用いて説明する。図12は、枠板接着後の状態を表している。ノズルプレート5の外形は、枠板10の外形よりも少し小さいため、ノズルプレート5と枠板10には段差がある。ディスペンサ等を用いて段差に枠板接着剤を供給する。ノズルプレート5と枠板10との間には空隙がある。毛細管現象により空隙は枠板接着剤で満たされる。
【0049】
ワーク23を支持ベース51から取り外し、オーブンで枠板接着剤を硬化させる。ここでいうワーク23とは、図面12において、アクチュエータユニット4、ノズルプレート5、基板9、枠板10のことを総称したものである。
【0050】
ノズルプレート5と枠板10との接着工程において、ノズルプレート5とアクチュエータユニット4との接着はすでに完了している。そのためノズルプレート5にかかるさまざまな作用、例えばノズルプレート5の熱膨張、枠板接着剤の収縮などが、ノズルプレート5とアクチュエータユニット4との位置関係に影響を及ぼすことはほとんどない。
【0051】
本実施形態では、枠板接着剤55の供給は、ノズルプレート5とアクチュエータユニット4との接着が完了した後に行なっているが、接着剤54の供給と同じタイミングであってもよい。また、枠板接着剤は接着剤54と同一であっても、異なっていてもよい。また、枠板接着剤の供給は、ワーク23が支持ベース51に固定されている必要はないので、ワーク23を支持ベース51から取り外した後に行なってもよい。
【0052】
以上説明の実施の形態によれば、ノズルプレート5をアクチュエータユニット4に接着する時に、接着剤54の圧力室3側へのはみ出しや接着剤54不足を抑制でき、ノズルプレート5をアクチュエータユニット4に押し当てながらノズルプレート5とアクチュエータユニット4との位置合わせを行うことができる。また、ノズル面の局所的な傾きを防止できる。従って、印字品質の優れたインクジェットヘッド20を提供できる。
【0053】
本実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 側壁
2 底面
3 圧力室
4 アクチュエータユニット
5 ノズルプレート
8 電極
10 枠板
11a 共通流路a
11b 共通流路b
12 インク供給口
13 インク排出口
14 貫通孔
15a アライメント穴a
15b アライメント穴b
16a アライメントマークa
16b アライメントマークb
17 ガイド溝
20 インクジェットヘッド
23 ワーク
51 支持ベース
52 加圧ヘッド
53 加圧調整部
54 接着剤
55 枠板接着剤
56 ディスペンサ
57 吸引口
S 接着剤表面
S1 充填促進表面
S2 充填抑制表面
θ 接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、側壁と底面により区画された複数の圧力室からなるアクチュエータユニットと、
前記アクチュエータユニットの複数の圧力室を覆って圧力室側壁と接着され、各圧力室と繋がる複数のノズル孔と、各側壁と対応する位置に形成された複数の貫通孔とを有するノズルプレートと、
を備えたインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記複数の貫通孔は、前記アクチュエータユニットの各側壁の端部と対応する位置に設けられている請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記ノズルプレートは、前記複数の貫通孔を連結するように形成されたガイド溝を更に有する請求項1あるいは2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記アクチュエータユニットを取り囲む枠板と、
前記基板の表裏を繋ぎ、前記アクチュエータユニット、前記枠板、前記基板、前記ノズルプレートで区画形成される空間に開口する導通口と、
を備える請求項1ないし3のいずれかひとつに記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
基板上に形成され、側壁と底面により区画された複数の圧力室からなるアクチュエータユニットと、
前記アクチュエータユニットの複数の圧力室を覆って圧力室側壁と接着され、各圧力室と繋がる複数のノズル孔と、各側壁と対応する位置に形成された複数の貫通孔とを有するノズルプレートと、
を備えたインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレートの貫通孔を前記側壁に対応するようにして、ノズルプレートを前記アクチュエータユニットに押し当てた後、前記貫通孔から接着剤を前記側壁とノズルプレートの間に注入するインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記ノズルプレートと前記アクチュエータユニットの側壁との間に接着剤を注入する前に、前記ノズルプレートの貫通孔と前記側壁の位置合わせを行う請求項5に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記基板上に前記アクチュエータユニットを取り囲むように枠板が固定されており、前記基板には、基板の表裏を繋ぎ、前記アクチュエータユニット、前記枠板、前記基板、前記ノズルプレートで区画形成される空間に開口する導通口が形成されており、前記ノズルプレートの貫通孔と前記側壁の位置あわせの後、前記導通口から空気を吸い出すことにより、前記ノズルプレートと前記アクチュエータユニットとを真空吸着する請求項6記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記ノズルプレートを前記アクチュエータユニットに押し当てた状態で加熱する請求項5ないし7のいずれかひとつに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記インクジェットヘッドのノズルプレートは、前記複数の貫通孔を連結するように形成されたガイド溝を更に有し、接着剤は、前記ガイド溝を介して前記貫通孔から注入される請求項5ないし8に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記ノズルプレートを前記アクチュエータユニットに接着した後に、前記アクチュエータユニットを取り囲む枠板に前記ノズルプレートを接着する請求項5ないし9に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記ノズルプレートの前記貫通孔から接着剤を注入する前に、前記ノズルプレートおよび前記アクチュエータユニットを加熱する請求項5、8ないし9のいずれかひとつに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記側壁と前記ノズルプレートの間に接着剤を注入した後、この接着剤を段階的に硬化させる請求項5あるいは9に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項13】
基板上に形成され、側壁と底面により区画された複数の圧力室からなるアクチュエータユニットと、
前記アクチュエータユニットの複数の圧力室を覆って圧力室側壁と接着され、各圧力室と繋がる複数のノズル孔と、各側壁と対応する位置に形成された複数の貫通孔とを有するノズルプレートと、
を備えたインクジェットヘッドを製造するインクジェットヘッド製造装置において、
前記インクジェットヘッドを載置する支持ベースと、
前記支持ベース上のインクジェットヘッドを、前記ノズルプレートを介して加圧する加圧ヘッドと、
前記圧力室の側壁と前記ノズルプレートの間に前記貫通孔から接着剤を注入する注入器とを備えたインクジェットヘッド製造装置。
【請求項14】
前記加圧ヘッドの加圧面は、硬質な平面であり、加圧ヘッドの加圧力を調整する加圧調整部を更に備える請求項13に記載のインクジェットヘッド製造装置。
【請求項15】
前記加圧調整部は、前記支持ベース、もしくは前記加圧ヘッド、もしくは双方に設けられていることを特徴とする請求項14に記載のインクジェットヘッド製造装置。
【請求項16】
前記加圧ヘッドの加圧面には、吸着溝、もしくは吸着穴、もしくは双方が設けられ、それらは、前記ノズルプレートの複数のノズル孔と重ならない位置に設けられている請求項13ないし15に記載のインクジェットヘッド製造装置。
【請求項17】
前記加圧ヘッドは、インクジェットヘッドを加熱する加熱手段を有し、前記圧力室の側壁とノズルプレートの間の接着剤を本硬化温度以下で加熱して仮硬化させた後、本硬化させる請求項13ないし16に記載のインクジェットヘッド製造装置。
【請求項18】
前記支持ベースは、インクジェットヘッドを加熱する加熱手段を有し、前記圧力室の側壁とノズルプレートの間の接着剤を本硬化温度以下で加熱して仮硬化させた後、本硬化させる請求項13ないし17に記載のインクジェットヘッド製造装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図11a】
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【図11b】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−162043(P2012−162043A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25612(P2011−25612)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】