説明

インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置

【課題】製造コストを上げることなく微細な構造を有するフィルタを部品の製造工程において構成し、ノズル径を微細化した場合でも異物による目詰まりの発生を防止することができ、且つ、クラック等の発生を防ぐ十分な強度を有するインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【解決手段】インクを吐出するノズルが複数形成されたノズル板と、前記ノズル板に接合し、前記ノズルに通じる個別液室と、個別流路を介して前記個別液室と連結する液供給室と、が前記ノズルごとに形成された流路基板と、前記流路基板の前記ノズル板とは反対側に積層され、前記個別液室に対応する位置に下部電極、圧電体及び上部電極を含む圧電素子が形成された振動板と、を有するインクジェットヘッドであって、前記ノズルごとに形成された液供給室が、一の液供給室と他の液供給室とが隔壁により区画されると共に、前記各液供給室がそれぞれ複数のインク供給口を有するインクジェットヘッドにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドに関し、特に、インク中の異物や、製造工程において付着する異物等を原因とするノズルの目詰まりを防止するインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像形成機器に対する高画質化の要求に伴って、インクジェットプリンタやレーザープリンタ等の高解像度化に関する技術開発が進められている。
【0003】
特にインクジェットプリンタを高解像度化する場合には、インクジェットヘッドのノズルの高密度化及び液滴の微細化が必須であり、インクを吐出するノズル径のさらなる微細化、高集積化が行われている。
【0004】
従来からインクジェットヘッドは、インク中に含まれる異物やインク成分に起因する凝集物等によってノズルの目詰まりが発生することがある。上記した様にノズル径の微細化を進める場合、許容できる異物の大きさも小さくなるため、単純にノズルの微細化を行うとノズルの目詰まりが増加してしまう、という問題が生じる。
【0005】
ノズルの目詰まりの原因となる異物は、インクに起因するもの以外では、インクジェットヘッドの製造工程においてインク流路に付着するものがある。インクジェットヘッドの製造工程では、各部品は洗浄された上で高度に管理されたクリーン環境下(クリーンブース、クリーンルーム等)で組み立てられるが、異物の付着を完全に防止できる訳ではない。
【0006】
インクに含まれる異物や凝集物は、インク成分の改良やフィルタを設けることで改善できるが、製造工程においてノズル付近に付着した異物を原因とする目詰まりを防止することは困難である。
【0007】
そこで、ノズルに可能な限り近い位置に、異物を除去するフィルタを部品の製造段階で形成し、後の製造工程で付着する異物による目詰まりの発生を防止することが考えられる。
【0008】
しかしながら、インクジェットヘッドの製造工程における部品の段階で上記フィルタを形成することは、製造コストの上昇を招く場合が多い。
【0009】
例えば、近年の数ピコリットルの液滴を吐出するインクジェットヘッドのノズル径は10〜20μmであり、異物を除去するフィルタの開口径も10μm以下の精密加工が必要になる。また、部品にフィルタを形成する場合には薄い単層のフィルタとすることが必要であり、開口径10μm程度の微細加工をしなければならない。
【0010】
この様にフィルタを微細に加工する方法としては、フォトリソグラフィを用いたエッチング法や電鋳法等が知られているが、いずれにしても製造コストの上昇を避けることができない。
【0011】
また、ノズルの微細化及び高密度化に伴い、ノズルに通じる液室に圧力をかけるアクチュエータ等を微細化する技術開発も進められている。具体的には、半導体プロセス技術を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術のインクジェットヘッドへの展開が挙げられる。MEMS技術を用いれば、シリコンウェハ上に振動板、液室、流路、アクチュエータ、電極等を作り込むことができ、ノズル、液室等の微細化が可能となる。
【0012】
しかしながら、MEMS技術で振動板、フィルタ等の構造体として利用できる材料は、Si3N4,SiO2,p−Si等のCVDで形成できる材料等に限定される。金属や合金材料は成膜手法がスパッタリング法や蒸着法等になるため、構造体とする緻密な膜を形成することが困難である。
【0013】
あるいは、ドライフィルムレジスト等の感光性樹脂材料を構造体として用いることも可能であるが、フィルタとしての剛性を確保するために厚くする必要があり、その結果として解像度が低下してしまう。また、この様な樹脂材料上に電極等を形成することは、耐湿性、表面性等の観点から困難であり、利用できる状況は限られている。
【0014】
従って、MEMS技術を用いて微細なフィルタを構成する材料としては、上記した窒化シリコン等の無機材料となるが、これらの材料は硬く、内部応力を持つためクラックの発生等によって変形、破損するリスクを内包している。
【0015】
以上の問題を解決するために、例えば特許文献1には、液滴を噴射するノズルを含む液体流路を有する流路ユニットと、前記液体流路内の液体に噴射のためのエネルギーを付与するエネルギー付与手段と、互いに積層された複数枚のプレートからなり、前記液体流路に供給される液体中の異物を除去するフィルタを含む積層体とを備えた液滴噴射装置に関する技術が開示されている。
【0016】
上記した特許文献1に係る液滴噴射装置によれば、上記複数枚のプレートの各々に液体流路に貫通する複数の貫通孔が形成され、各プレートの貫通孔が部分的に重なる様に積層されていることで、小さい異物も除去された液体を供給でき、ノズルの目詰まりを防止することができる。また、複数枚のプレートを積層して形成するため、製造コストの上昇を抑えてフィルタを構成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1に係る液滴噴射装置では、プレートを積層させる際の微小なずれによってフィルタとなる貫通孔の大きさにばらつきが生じ、異物を有効に除去できない場合がある。また、エネルギー付与手段である圧電アクチュエータが駆動する負荷によって、多数の貫通孔が形成されたプレートが変形、破損する可能性がある。さらに、複数のプレートでフィルタを構成するために部品点数が増え、製造コストの上昇は避けられないと考えられる。
【0018】
そこで、本願発明では、製造コストを上げることなく微細な構造を有するフィルタを部品の製造工程において構成し、ノズル径を微細化した場合でも異物による目詰まりの発生を防止することができ、且つ、クラック等の発生を防ぐ十分な強度を有するインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係るインクジェットヘッドは、上記課題に鑑み、インクを吐出するノズルが複数形成されたノズル板と、前記ノズル板に接合し、前記ノズルに通じる個別液室と、前記個別液室と個別流路を介して連結する液供給室と、が前記ノズルごとに形成された流路基板と、前記流路基板の前記ノズル板とは反対側に積層され、前記個別液室に対応する位置に下部電極、圧電体及び上部電極を含む圧電素子が形成された振動板と、を有するインクジェットヘッドであって、前記ノズルごとに形成された液供給室は、一の液供給室と他の液供給室とが隔壁により区画されると共に、前記各液供給室がそれぞれ複数のインク供給口を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施例によれば、ノズルに通じる液供給室と共通液室との間にフィルタとなる複数のインク供給口を部品の製造段階で形成することで、製造過程において異物がインク流路に入り込む余地を無くし、且つ、インク中に含まれる異物をフィルタリングすることが可能になる。したがって、異物等によるノズルの目詰まりを防止し、吐出不良が生じることが無く、高品質な画像形成に供することが可能になる。
【0021】
また、各液供給室を隔壁で区画することで、振動板のインク供給口が形成された部分の変形又は破損の発生がなく、十分な強度を得ることが可能になる。したがって、長期に渡って使用可能で、画像品質を維持することができるインクジェットヘッドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1に係るインクジェットヘッドの上面概略図
【図2】図1に示した実施例1に係るインクジェットヘッドの断面図
【図3】図1に示した実施例1に係る保持基板を接合したインクジェットヘッドの断面図
【図4】図1に示した実施例1に係るインクジェットヘッドの断面図
【図5】比較例に係るインクジェットヘッドの上面概略図
【図6】実施例1に係るインクジェットヘッドの製造方法の例を説明する図
【図7】実施例2に係るインクジェットヘッドの上面概略図
【図8】実施例3に係るインクジェット記録装置の構成概略図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態(以下「実施形態」という)について、図面を用いて詳細に説明する。
[実施例1]
図1から図4に本発明の実施例1に係るインクジェットヘッド100の構造を示す。
【0024】
図1は、実施例1に係るインクジェットヘッド100を部分拡大した上面概略図であり、図2から図4は図1に示した部分の断面図である。
<インクジェットヘッド構造の概略>
図2に示した様に、ノズル68に通じるインク流路が形成された流路基板65には、ノズル68に通じる個別液室55と、個別流路54を介して個別液室55と連結するインク供給室53が形成されている。
【0025】
流路基板65の一方の面はノズル68が形成されたノズル板67と接合し、他方の面には振動板64が積層されている。
【0026】
振動板64には個別液室55に対応する位置に下部電極58、圧電体57、上部電極56からなる圧電素子77が形成されており、圧電素子77を駆動することにより、個別液室55内のインク圧力を変動させ、ノズル68からインクを吐出させる。
【0027】
個別液室55には、ノズル68から吐出された量と同量のインクがインク供給室53から供給され、ノズル68から繰り返しインクの吐出を行うことができる。
<ノズル板>
ノズル板67にはインクを吐出するノズル68が複数形成されている。図1に示した様に、個別液室55、個別流路54及びインク供給室53はノズル68ごとに形成されており、ノズル68はノズル板67にアレイ状又はマトリクス上に配置されている。
【0028】
ノズル68は任意の位置に設けることができるが、個別液室55の端部で、インク供給側と反対側に配設することで圧力に対して高い吐出効率を得ることができる。
【0029】
画像形成機器に用いるインクジェットヘッドの場合のノズル68の配置は、所望の画像解像度、画像形成速度等から最適な配置・密度に設計する必要がある。
【0030】
ノズル板67の材質は加工性、生産性、物性(剛性や耐薬品性など)から適切なものを用いることができる。例えば、SUS,Ni合金等の金属や合金、ポリイミド、ドライフィルムレジスト等の樹脂材料、Si、ガラス等の無機材料等が挙げられる。
【0031】
また、材質はノズルの加工方法に合わせて適宜選定する必要がある。プレス加工でノズル形成する場合は、金属・合金を用いる必要があり、電鋳(めっき)で形成する場合はNi等の電鋳可能な金属又は合金、レーザー加工には樹脂材料、フォトリソグラフィを用いる場合は感光性樹脂(ドライフィルムレジスト等)やSiが適している。
【0032】
ノズル68の径は、吐出性能や吐出するインクの物性に適した径に設計できるが、φ10μmからφ40μm程度が一般的である。形状は任意だが、真円形状にすることが液滴の直進性が良好なため好ましい。断面構造は、ストレート状、テーパー状、ラウンド状(Rを付けた形状)等の任意の形状を所望の吐出性能に基づいて選択することができる。
【0033】
ノズル板67と流路基板65とは、任意の方法により接合されるが、接着剤を用いた接合方法を用いるのが一般的である。
<流路基板>
流路基板65には、Si又はSiを主成分とするウェハを用いる。Siウェハを用いることで、フォトリソグラフィとエッチング等のMEMS工法を用いた微細加工が可能となる。エッチング方法はアルカリ液による異方性エッチングや、ボッシュプロセスを用いたICPドライエッチング等の任意の手法を用いることができる。
【0034】
異方性エッチングを用いた場合、Siウェハの(111)結晶面に加工面が制約されるため、液室、流路の設計自由度が大きく低下する。一方、ドライエッチング法は上記の結晶面に対する制約が無く、設計自由度が高まるため好ましい。
【0035】
流路基板65には、個別液室55、個別流路54、インク供給室53が形成されている。また、これらはノズル68に通じると共に、ノズル68ごとにそれぞれ1つずつ形成される。
【0036】
個別液室55は、ノズル68から吐出されるインクを保持すると共に、後述する圧電素子77の駆動により内部圧力が変化し、ノズル68からインク液滴を吐出させる機能を有する。個別液室55の形状は吐出効率の高い形状とすることが好ましいが、所望の吐出性能に合わせて適切な構造・形状にすることができる。
【0037】
個別流路54は、個別液室55にインクを供給する機能を有する。また、幅や高さを個別液室55より小さくすることで流体抵抗を高める機能を持つ。これにより、個別液室55の圧力変化や、ノズル68からの吐出量に応じたインク供給量の調整や、個別液室内の圧力振動の緩和等を行うことができる。
【0038】
インク供給室53は、後述するインク供給口59からインクが供給され、個別流路54を介して個別液室55に通じるように形成されている。インク供給室53及びインク供給口59の構成、インク供給口59のフィルタ機能等については後述する。
<振動板>
図2に示した様に、流路基板65のノズル板67の反対側には、振動板64が積層され、少なくとも個別液室55、個別流路54及びインク供給室53のインク流路形成部の片面を被覆して形成される。
【0039】
振動板64は流路基板65のノズル板67とは反対側を封止し、個別液室55に対応する部分が圧電素子77により変位することで、個別液室55の体積変化を発生させる機能を有する。
【0040】
また、個別液室55、個別流路54及びインク供給室53をエッチングで形成する場合には、振動板64に流路基板65の材料とはエッチングレートが異なる材料を用いることで、エッチングストップ層とすることも可能である。
【0041】
振動板64は任意の材料を用いて構成することが可能であるが、本実施例ではMEMS製造工程による微細化が可能なことから、半導体製造工程で用いられる半導体、絶縁体を用いることが好ましい。
【0042】
これらの材料としては、Si,多結晶Si,アモルファスSi,SiO2,Si3N4を使用することができる。これらの材料を用いた場合、半導体製造工程で一般的に用いられる成膜装置(CVD,拡散炉など)を用いることができるため、安定した既存の製造技術を用いて微細加工を確実に行えるというメリットがある。
【0043】
また、これらの材料の積層構造とし、内部応力を低減するような構成にすることもできる。上記した材料をCVDで成膜した場合、圧縮応力となるSiO2と引っ張り応力となるSi3N4を複数積層することで振動板64全体として中立の構成とすることができる。積層数は必要とする膜厚に応じて適宜形成することができるが、3層〜10層の範囲が好ましい。層数が少ないと膜厚のばらつきによる残留応力が発生し、多いと生産性が低下する要因となってしまう。
【0044】
振動板64の厚さは吐出性能、振動板64の材料物性や生産性から適切な膜厚に形成することが可能であるが、1μmから10μmの範囲とすることが好ましい。
【0045】
振動板64を薄くすることで、振動板64の剛性が低下するため圧電素子77の駆動により変位し易くなるが、個別液室55内のインク圧力の影響を受け易くなると共に、圧電素子77を駆動しても圧力が上がりにくくなるため、吐出性能が低下してしまう。
【0046】
振動板64を厚くすると、上記した圧力の影響は低減されるが、振動板64の剛性が高くなるため、振動変位を確保するために圧電素子77の駆動電圧や性能を上げる必要が生じる。したがって、振動板64の厚さは圧電素子77の性能や駆動条件によって最適な厚さに形成することが必要である。
【0047】
また、振動板64の厚さや材料によって振動板64の剛性が変わると、インク流体を含む個別液室55のヘルムホルツ周期が変化する。インクの吐出周期はヘルムホルツ周期より長くする必要があるため、高速(短い周期)で吐出する場合は、ヘルムホルツ周期を含めて最適な振動板64の厚さ、材料を選定する必要がある。剛性の高い振動板とすることでヘルムホルツ周期を短くすることが可能であるが、前述の吐出性能への影響が生じるため、所望の特性に合わせて最適化する必要がある。
<圧電素子>
図1から図4に示した様に、振動板64の個別液室55に対応する位置には下部電極58、圧電体57及び上部電極56からなる圧電素子が形成される。圧電素子77は上部電極56と下部電極58の間に電圧を印加することで変形する電気機械変換素子である。
【0048】
圧電体57は任意の材料を用いることができるが、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、またはこれらの派生材料(金属元素を置換した材料)等が圧電体として一般的に用いられる。本実施例に係るインクジェットヘッド100は、温度安定性、科学的安定性から、チタン酸ジルコン酸鉛を用いている。
【0049】
圧電素子77の厚さは圧電体57の物性(圧電定数)や所望の変位量から適切な厚さに形成できるが、0.5μmから10μmの範囲が好ましい。薄すぎると電圧印加時に高電界が印加されるため耐圧不良等が発生しやすくなり、厚すぎると変位させるための印加電圧を高くする必要があり駆動回路等の負荷が高くなってしまう。また、圧電体57の厚さは前述した振動板64の厚さと同様にヘルムホルツ周期に影響するため、吐出性能に合わせて最適化する必要がある。
【0050】
下部電極58及び上部電極56の材料としては任意の導電材料を用いることができるが、圧電体57の焼結温度である700度程度の耐熱性のある材料とする必要がある。すなわち、高温で圧電体57を構成する物質と化学反応しない材料とする必要がある。
【0051】
この様な材料としては、例えば耐熱性の高い金属、合金、導電性化合物等が挙げられる。金属としては、Au,Pt,Ir,Pdの貴金属やこれらを主成分とする合金・酸化物が挙げられ、導電性化合物としては導電性酸化物がある。
【0052】
電極の膜厚は任意に形成することができるが、50nmから1000nmの範囲が好ましい。また、これらの電極材料を積層構造とすることで残留応力の低減や密着性向上を図ることができる。
【0053】
下部電極58は、少なくとも個別液室55に対応する位置に形成されている必要があるが、個別液室55ごとに形成する必要はなく、図1に示した様に複数の個別液室55を覆うように形成しても良い。圧電体57及び上部電極56は、個別液室55ごとに形成される必要があり、インクを吐出させる箇所の上部電極56に電圧を印加することで、任意のノズル68からインクを吐出させることができる。
【0054】
圧電体57の形成領域は、図1及び図4等に示す様に、個別液室55の壁面より内側に形成する必要がある。この様な構成により、振動板64の変位量を増大させることが可能となる。
<絶縁膜と配線電極>
圧電素子77の端部を製造工程におけるダメージや、空気中の水分等から保護するために絶縁膜63を圧電体57の端部を含む領域に被覆しても良い。絶縁膜63により、圧電素子の耐環境性、信頼性を高めることができる。
【0055】
絶縁膜63として被覆する材料、膜厚、成膜方法は任意の方法を用いることができるが、材料としては無機材料、例えば金属酸化物、金属窒化物等の絶縁材料を用いることが好ましい。また、膜厚は保護機能を確保できる範囲で振動変位を阻害しない様に薄い方が好ましく、100nm以下であれば好適である。
【0056】
圧電素子77を構成する上部電極56及び下部電極58に駆動用電気信号を印加するために、各電極から信号入力部までの配線を形成する。図1の上面概略図及び図2の断面図に示した通り、上部電極56から個別配線電極51を、下部電極58からは共通電極配線52を引き出し、図示しない駆動回路に接続する。
【0057】
これらの配線電極を上部電極56及び下部電極58から引き出すために層間絶縁膜の機能を有する絶縁膜62を形成する。個別電極配線51と上部電極56とは、絶縁膜62と絶縁膜63に貫通して形成されるコンタクトホールを介して接続する。共通電極配線52と下部電極58とは任意の箇所で接続するように構成できるが、本実施例においては個別流路54に対応する位置に形成している。
【0058】
本実施例の様に、共通電極配線52と下部電極58とが個別流路54に対応する位置で接続する場合は、下部電極58を個別流路54上まで延伸すると共に、絶縁膜62,63に共通電極コンタクトホールを形成する。
【0059】
共通電極コンタクトホールは、複数の箇所に設けることで、接続信頼性を高めると共に、図1に示した様に個別液室55を並列して配設した場合において下部電極抵抗値による電圧降下を低減して吐出性能の均一性を向上することができる。
【0060】
絶縁膜62の材料は任意の絶縁材料を用いることができるが、半導体で用いられる一般的な絶縁材料を用いるのが、生産性を確保すると同時に既存技術を流用することで、微細な構造の形成が可能となるため好ましい。
【0061】
また、無機絶縁体材料、樹脂等を用いることもできるが、前述した既存技術を流用できるため、半導体製造工程で利用されている無機絶縁材料を用いることが好ましい。例えば、無機絶縁体材料としてはCVDで成膜できるSiO2やSi3N4、樹脂としてはポリパラキシレン、ポリイミド等が挙げられる。
【0062】
絶縁膜62の膜厚は下部電極58と上部電極56に印加される電圧に対して十分な絶縁性と耐圧性を有することが必要であり、上記したSiO2を用いた場合には、0.2μm以上あることが好ましい。
【0063】
個別電極配線51及び共通電極配線52には、上部電極56及び下部電極58とコンタクト抵抗が十分に低く、抵抗値の低い導電材料を用いる必要がある。材料は金属、合金、導電性化合物から選択できるが、抵抗値の観点から金属又は合金材料を用いることが好ましい。
【0064】
これらの材料の例としては、Au,Ag,Cu,Al,W,Ta等が挙げられ、これらに任意の元素を添加した合金としても良い。膜厚は抵抗値に基づいて決定する。
【0065】
個別電極配線51及び共通電極配線52にAl又はAl合金等の腐食されやすい材料を用いた場合には、配線保護(パシベーション)層として絶縁膜61を形成する。絶縁膜61は個別電極配線51及び共通電極配線52の駆動回路接続部を除く領域を被覆する必要がある。
【0066】
絶縁膜61の材料としては、配線保護できる絶縁体材料であれば任意の材料を用いることができ、例えば酸化物、窒化物、炭化物等の無機材料や樹脂を用いることができる。配線の腐食防止の観点からは、透気、透湿性から無機材料とすることが好ましく、例えば、SiO2,Si3N4,Sic,Al2O3,XrO2,TiO2,Ta2O5などの材料が挙げられるが、一般的なパシベーション材料として、Si3N4が好ましい。
【0067】
絶縁膜61,62,63は、それぞれ上記した領域以外にも形成することができる。特に、振動板64の個別流路54及びインク供給室53に対応する部分に絶縁膜を形成することで、振動板64の強度を高めることができる。
【0068】
この様に絶縁膜を形成し、個別流路54及びインク供給室に対応する部分の振動板64を補強することで、吐出性能を安定化することが可能となる。また、絶縁膜61,62は、圧電素子77の周辺部は除去することが好ましい。圧電素子77及びその周辺の振動板64が変形する部位の絶縁膜を除去することで振動変位を増大させ、吐出効率を高めることができる。
<保持基板、共通液室及び振動室>
本実施例に係るインクジェットヘッド100は、インク供給経路である共通液室70を有する保持基板69を流路基板65の振動板64側に接合して構成する。本実施例に係るインクジェットヘッド100において保持基板69を接合した状態の断面図を図3に示す。
【0069】
保持基板69は不図示のインクタンクに接続し、保持基板69内に形成された共通液室70を介して流路基板65のインク供給室53にインクを供給する。
【0070】
また、振動板64上の圧電素子77に対応する領域には振動室71が形成されている。振動室71は圧電素子77が変位する領域を確保するために必要であり、個別電極配線51及び共通電極配線52を駆動回路に接続する部分に開口部を持つことが必要である。
【0071】
振動室71は、個別液室55ごとに形成しても良く、複数の個別液室55を包含するように形成しても良い。流路板65の強度を高め、隣接する個別液室55の相互干渉を低減できるため、個別液室55ごとに振動室71を形成することが好ましい。
【0072】
保持基板69は、共通液室70及び振動室71といった開口部以外の振動板64上の絶縁膜と接する部分で接合される。
【0073】
接合方法は任意の方法を用いることができるが、接着剤を用いて接合することが好ましい。特にインク供給口59周辺の流路基板65と保持基板69の接合部はインク流路に接するためインクを封止できる接合方法を採用することが必要であり、接合界面の表面粗さを補完できる接着剤を用いて接合するのが好適である。
<インク供給室とインク供給口>
次に、インク供給室53とインク供給口59について説明する。
【0074】
本実施例に係るインクジェットヘッド100では、図1に示した様にインク供給口59がインク供給室53ごとに複数形成されている。本実施例では、1個のインク供給室53に対して5個のインク供給口59が形成されている。
【0075】
インク供給口59は、インク中に含まれる異物等が個別液室55内に入り込み、ノズル68に目詰まりが生じるのを防止するフィルタの機能を有している。
【0076】
インク供給口59が形成される振動板64は後述する流路基板65の加工工程の前段階で形成されるため、ノズル板67を接合した後の段階で個別液室55が外部と通じる経路はノズル68又はインク供給口59の2箇所のみとなる。そのため、インク供給口59の開口径をノズル68の径より小さくすることで、製造工程の早い段階で個別液室55にノズル径よりも大きい異物がインク流路に入ることを防止することができる。
【0077】
インク供給口59の形状は任意の形状にすることができるが、ノズル68の形状と同じ円形とすることが好ましく、その開口径はノズル68の径よりも小さくする必要がある。インク供給口59の径がノズル68の径よりも大きいと、ノズル径よりも大きい異物が個別液室55に混入し、ノズル68の目詰まり発生を有効に防止できないためである。
【0078】
また、インク供給口59の径がノズル68の径より小さい場合には、インク供給口59における流体抵抗値が高くなることから、インク吐出量に相当するインク供給量を確保するために、インク供給口59をインク供給室53それぞれに複数形成することが好ましい。
【0079】
インク供給口59における流体抵抗値は個別流路54の流体抵抗値よりも低くすることが好ましく、さらに1/2以下にすれば好適である。このため、インク供給口59をインク供給室53のそれぞれに複数形成することが必要であり、必要な個数は上記した流体抵抗値に基づいて設計することができる。
【0080】
本実施例に係るフィルタ機能を有するインク供給口59は、振動板64に形成され、部材を追加せずに形成できるため、製造コストを上げることなく作成できる。
【0081】
また、図1に示した様に、インク供給室53はそれぞれ他のインク供給室とは隔壁74で区画されている。この様に構成することで、インク供給口59が形成された薄膜の振動板64をインク供給室53の隔壁74で補強することができ、特に振動板64のインク供給口59が形成された部分の強度を確保することができる。
【0082】
本実施例に係る振動板64に用いられるSi,SiO2,Si3N4等の材料は硬く脆性があり、残留応力があることから、流路基板65のインク供給口59が形成された部分が広く開放された構造の場合にはクラックが発生しやすくなってしまう。
【0083】
しかし、本実施例に係るインクジェットヘッド100では、振動板64のインク供給口59に対応する部分にインク供給室53を区画する隔壁を有しているため、上記したクラックの発生を防止することができる。
【0084】
さらに、インク供給室53を隔壁74により個別に区画することで、隔壁74を設けない場合に比べて、流路基板65におけるインク供給室53、個別流路54及び個別液室55の上面から見た場合の開口面積の差を小さくすることができる。
【0085】
エッチングによって流路基板65を形成する場合には、開口面積によってエッチングレートが異なるため、インク供給室53、個別流路54及び個別液室55の開口面積の差が大きいと、寸法精度が悪化することが懸念される。
【0086】
例えば、開口面積の大きいインク供給室53のエッチングレートが高い場合に、開口面積の小さい個別流路54をエッチングする時に、インク供給室53がオーバーエッチングされてしまう。その結果、インク供給口59が形成された部分までオーバーエッチングすることになり、フィルタとして機能すべきインク供給口59の開口径がばらつき、フィルタとして機能しなくなってしまう可能性がある。また、インク流路における隔壁部がエッチングされるため、流体抵抗部を形成している個別流路54の寸法精度も悪化することが考えられる。
【0087】
本実施例に係るインクジェットヘッド100では、インク供給室53を隔壁74で区画し、インク供給室53、個別流路54及び個別液室55それぞれの開口面積の差を小さくすることでオーバーエッチングの発生を防止し、高精度な加工を実現している。
【0088】
また、振動板64のインク供給口59が形成された部分に、上記した絶縁膜を積層させる様に構成しても良い。本実施例では、振動板64のインク供給口59が形成された部分に絶縁膜を積層させている。
【0089】
絶縁膜は圧電体保護、層間絶縁、配線保護といった機能を発揮するために必要な膜であり、いずれも強度の高い緻密な膜である。高強度かつ緻密な膜を振動板64のインク供給口59が形成された部分に積層させることで、振動板64のインク供給口59の周辺部の強度をさらに高めることができる。
【0090】
強度を高めることにより、インク供給口59を形成する間隔を狭くすることができ、インク供給室53に通じる複数のインク供給口59における流体抵抗値を下げることが可能になる。このため、インク供給室53の面積を減らしてヘッドをさらに小型化することも可能になる。絶縁膜をインク供給口59周辺に積層させるのは、追加層及び追加工程無しで実現できるため、生産性を損なわずに上記した効果を得ることができる。
<製造方法>
図6に、本実施例に係るインクジェットヘッド100の製造方法の例を説明する図を示す。
【0091】
図6(a)は、流路基板65上に振動板64及び圧電素子77を形成する工程である。
【0092】
まず、Siウェハの流路基板65に振動板64を成膜する。材料は前述の通りSi,SiO2,Si3N4等の半導体製造工程で成膜することができる一般的な材料を用いることができる。成膜方法は膜質を考慮するとLP−CVD法を用いることが好ましいが、プラズマCVD法や熱酸化膜等を組み合わせることも可能である。
【0093】
続いて、成膜した振動板64上に下部電極58を形成する。下部電極58はスパッタ法等の一般的な電極材料の成膜方法で成膜され、フォトリソグラフィとエッチングでパターニングされる。下部電極58上の圧電体57は、スパッタリング法や、有機金属溶液を塗布乾燥させて焼成するゾル−ゲル法を用いることが可能である。ただし、圧電体57の膜厚を1000nm以上形成する場合には、スパッタリング法では成膜レートが低く生産性が低下するため、生産性の高いゾル−ゲル法が好ましい。
【0094】
圧電体57を成膜した後には、圧電体57を結晶化させるための焼成を行う。一般的な圧電体であるチタン酸ジルコン酸鉛の場合、焼結温度は700度程度である。
【0095】
圧電体57のパターニング前に、上部電極56の成膜とパターニングを行うことで、圧電体57の膜厚を1μm以上とした場合に上部電極56のエッチング残が圧電体57の端部に残り、上部下部電極間のリークやショートの発生を低減できる。
【0096】
上部電極56のパターニングは下部電極58のパターニングと同一の手法を用いることができる。上部電極56のパターニング後に圧電体57のパターニングをフォトリソグラフィとドライエッチングにより行う。以上説明した方法により、個別化された圧電素子77を振動板64に形成することができる。
【0097】
次に、図6(b)に絶縁膜62,63を形成する工程を示す。
【0098】
絶縁膜63は圧電体57の端部保護膜であり、絶縁膜62は層間絶縁膜である。絶縁膜63は個別電極コンタクトホール75と共通電極コンタクトホール76をドライエッチングで開口し、絶縁膜62はコンタクトホール部と圧電素子77の不要な部分を除去する。
【0099】
インク供給口59を形成する部分にも絶縁膜62,63を形成することで、振動板64のインク供給口59が形成される部分を補強する効果が得られる。
【0100】
図6(c)には、個別電極配線51及び共通電極配線52をパターニングし、配線上に配線保護膜として絶縁膜61を形成する工程を示す。
【0101】
絶縁膜61の除去される領域は各配線51,52が不図示の駆動回路と接続する接続部と、圧電素子77及び圧電素子周辺の振動板が変形する部分である。
【0102】
各配線51,52と絶縁膜61のパターニングは任意の手法を用いることができるが、フォトリソグラフィと任意のエッチング方法を用いるのが一般的である。絶縁膜62,63と同様に、インク供給口59を形成する領域にも絶縁膜61を形成することで、振動板64のインク供給口59周辺部の強度を確保することができる。
【0103】
図6(d)に示す工程では、インク供給口59に相当する部分の絶縁膜と振動板64を除去する。インク供給口59のパターニングはフォトリソグラフィとドライエッチングにより行う。後述する図6(f)に示す工程でインク供給室53を加工する際に、インク供給口59が貫通する様に事前に加工しておくことで、フィルタ機能を有する微細な径のインク供給口59を部品の製造工程において形成し、その後の工程において形成される個別液室55等への異物の混入を防ぐことができる。
【0104】
続いて、図6(e)に示す工程では、保持基板69を流路基板65上に接合し、流路基板65を研磨する。流路基板65の研磨後の厚さは個別液室55、個別流路54を含む流路の設計に依存するが、200μm以下が好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0105】
Siウェハである流路基板65を100μm以下まで研磨すると、一方の面に振動板64等が積層されているため反りが発生しやすく、強度が低下してクラックが入る危険性が高くなる。この様な場合でも、保持基板69を流路基板65に接合させておくことで流路基板65の強度を確保し、反りの発生を低減する効果を得ることができる。
【0106】
保持基板69の接合は、接着剤を塗布して加圧(必要に応じて加熱)することで行うのが、生産性、インク封止性等から好適である。
【0107】
図6(f)に示した工程では、流路基板65に個別液室55等を形成し、ノズル板67との接合を行う。
【0108】
流路基板65の個別液室55等はフォトリソグラフィとSiエッチングで行う。Siエッチングはボッシュプロセスを用いたICP−RIEエッチング法を用いることがパターンの自由度、精度の観点から好ましい。
【0109】
インク供給室53は、個別液室55等と開口面積の差が小さいため、個別液室55及び個別流路54とエッチングレートが近い値となり、インク供給口59部分のオーバーエッチングを可能な限り低減することができる。そのため、エッチングによりインク供給口59が開口された後でも、保持基板69の共通液室70やインク供給口59等がエッチングのプラズマに晒される時間を最小限に抑えることができる。
【0110】
さらに、オーバーエッチング量を低減することで、前記した様に個別流路54や個別液室55の寸法精度を高めることができる。
【0111】
図には示さなかったが、この後の工程でインク供給口59にインクタンク等のインク供給系部材や、個別電極配線51と共通電極配線52の駆動回路接続部に駆動回路からの信号線を接合する工程がある。従来はこれらの工程において異物が個別液室55等のインク流路に混入することがあったが、製造工程において部品の段階でフィルタ機能を有するインク供給口59を形成することで、後の工程における異物の付着を防止することができ、製造工程の歩留まりが低下するのを防止することができる。
[実施例2]
図7に、実施例2に係るインクジェットヘッド102を部分拡大した上面概略図を示す。
【0112】
実施例2に係るインクジェットヘッド102は、インク供給室53を区画する隔壁の一部にインク流路73が形成されている点で実施例1と異なっている。
【0113】
インクジェットヘッド102は、インク供給室53を区画する隔壁74を設けることで、インク供給口59周辺部の振動板64の強度を確保している。本実施例においては、隔壁74によって振動板64の強度を維持しつつ、インク供給室53と隣接する他のインク供給室との間の隔壁74の一つにインク流路73が設けられている。
【0114】
インク供給室53の隔壁74に設けるインク流路73は、振動板64の強度を損なわない範囲で設けることができる。図7に示した様に、インク供給室53の幅L1に対してインク流路73の幅L2を1/2以下とし、隔壁74一つにつき1箇所とすることが好ましい。
【0115】
この様な構成により、インク供給口59の一部がインク中に含まれる異物等によって詰まった場合でも、隣接するインク供給室53からインクの供給を受けることが可能になり、インク中に含まれる異物等に対する耐性を向上させることができる。
[実施例3]
図8に、実施例3に係るインクジェット記録装置10の構成概略図を示す。
【0116】
インクジェット記録装置10は、給紙トレイ4から給紙される用紙3を取り込み、搬送機構5で用紙3を搬送しつつ、画像形成部2によって画像を記録した後、排紙トレイ6に用紙3を排出する。
【0117】
また、インクジェット記録装置10は、着脱可能に設けられた両面ユニット7を備えている。両面印刷を行うときには、一方の面(表面)の印刷終了後に、搬送機構5によって用紙3を逆方向に搬送しながら両面ユニット7内に取り込み、反転させて他方の面(裏面)を印刷面として搬送し、裏面印刷終了後に排紙トレイ6に用紙3を排出する。
【0118】
ここで、画像形成部2は、ガイドシャフト11,12にキャリッジ13を摺動可能に保持し、図示しない主走査モータでキャリッジ13を用紙3の搬送方向と直交する方向に移動(主走査)させる。
【0119】
キャリッジ13は、液滴を吐出する複数の吐出口であるノズル孔を配列されたインクジェットヘッド14を搭載し、インクジェットヘッド14に液体を供給するインクカートリッジ15を着脱自在に搭載している。
【0120】
なお、インクカートリッジ15に代えてヘッドタンクを搭載し、メインタンクからインクをヘッドタンクに補充供給する構成とすることもできる。
【0121】
インクジェットヘッド14としては、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のインク滴を吐出する液滴吐出ヘッドとしているが、各色のインク滴を吐出する複数のノズル列を有する1又は複数のヘッドを用いる構成とすることもできる。なお、色の数及び配列の順序はこれに限るものではない。
【0122】
インクジェットヘッド14は、実施例1又は2のいずれかに記載のインクジェットヘッドと同様の構成であり、ノズルの目詰まりが起こりにくく、強度が高いため長期に渡って画像形成に供することができる。
【0123】
給紙トレイ4の用紙3は、給紙コロ21と図示しない分離パッドとによって1枚ずつ分離され装置本体1内に給紙され、搬送機構5に送り込まれる。
【0124】
搬送機構5は、給紙された用紙3をガイド面23aに沿って上方にガイドし、また両面ユニット7から送り込まれる用紙3をガイド面23bに沿ってガイドする搬送ガイド部23を有している。また、用紙3を搬送する搬送ローラ24と、この搬送ローラ24に対して用紙3を押し付ける加圧コロ25と、ガイド部材26,27と、搬送ローラ24から送り出す用紙3を押圧する押し付けコロ28とを有している。
【0125】
さらに、搬送機構5は、インクジェットヘッド14で用紙3の平面性を維持したまま搬送するために、駆動ローラ31と従動ローラ32との間に掛け渡した搬送ベルト33と、この搬送ベルト33を帯電させるための帯電ローラ34と、この帯電ローラ34に対向するガイドローラ35とを有している。また、図示しないが、搬送ベルト33を画像形成部2に対向する部分で案内するガイド部材と、搬送ベルト33に付着したインクを除去するためのクリーニング手段である多孔質体などからなるクリーニングローラ等を有している。
【0126】
搬送ベルト33は無端状ベルトであり、駆動ローラ31と従動ローラ32との間に掛け渡されて、矢印方向(用紙搬送方向)に周回するように構成している。
【0127】
この搬送ベルト33は、単層構成又は2層構成あるいは3層以上の構成とすることができる。例えば、抵抗制御を行っていない純粋な厚さ40μm程度の樹脂材、例えばETFEピュア材で形成した用紙吸着面となる表層と、この表層と同材質でカーボンによる抵抗制御を行った裏面(中抵抗層、アース層)とで構成する。
【0128】
帯電ローラ34は、搬送ベルト33の表層に接触し、搬送ベルト33に従動して回転するように配置されている。帯電ローラ34には図示しない高圧回路(高圧電源)から高電圧が所定のパターンで印加される。
【0129】
搬送機構5の下流側には、画像が記録された用紙3を排紙トレイ6に送り出すための排紙ローラ38を備えている。
【0130】
搬送ベルト33は矢印方向に周回し、高電位の印加電圧が印加される帯電ローラ34と接触することで正に帯電される。この場合、帯電ローラ34は所定の時間間隔で極性を切り替えることによって、所定の帯電ピッチで搬送ベルト33を帯電させる。
【0131】
高電位に帯電した搬送ベルト33上に用紙3が給紙されると、用紙3内部が分極状態になり、搬送ベルト33上の電荷と逆極性の電荷が用紙3のベルト33と接触している面に誘電される。ベルト33上の電荷と搬送される用紙3上に誘電された電荷同士が互いに静電的に引っ張り合い、用紙3は搬送ベルト33に静電的に吸着される。吸着された用紙3は、反りや凹凸が矯正され、平滑な面が形成される。搬送ベルト33に吸着された用紙3は、画像形成部2まで搬送される。
【0132】
用紙3が画像形成部2を通過する間に、キャリッジ13を片方向又は双方向に移動走査しながら画像信号に応じてインクジェットヘッド14を駆動し、ノズルからインク滴を吐出させて、停止している用紙3にインク滴を付着させてドットを形成することにより、1行分を記録した後、用紙3を所定量搬送して次の行の記録を行う。
【0133】
記録終了信号又は用紙3の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了する。
【0134】
以上の過程を経て画像が記録された用紙3は排紙ローラ38によって排紙トレイ6に排紙される。
【0135】
インクジェット記録装置10は、実施例1又は2のいずれかに記載したインクジェットヘッドを備えており、異物等を原因とするノズル目詰まりの発生を低減し、強度に優れた構造を有している。この様なインクジェットヘッドを有することにより、インクジェット記録装置10は長期に渡って安定して高解像度の画像を形成することができる。
[比較例]
図5に、比較例に係るインクジェットヘッド101を部分拡大した上面概略図を示す。
【0136】
インクジェットヘッド101は、個別液室55及び個別流路54はノズルごとに形成されているが、インク供給室53は隔壁によって区画されることなく、複数の個別流路54に通じるように構成されている。
【0137】
この様な構成では、流路基板65におけるインク供給室53の開口面積が大きく、振動板64のインク供給口59が形成された部分の強度が不足し、クラック等が発生する可能性が高くなる。
【0138】
また、インク供給室53の開口面積が個別液室55及び個別流路54と大きく異なっており、流路基板65をエッチングする際のエッチングレートが各部で異なるため、部分的にオーバーエッチング時間が長くなることで流路基板65個別液室55等の寸法精度が悪化することになる。
【0139】
本比較例に係るインクジェットヘッド101は、インク供給室53を隔壁により区画しない構造であり、振動板64のインク供給口59が形成された部分の強度を確保できず、流路基板65のエッチングによる加工精度を担保することができない。
<まとめ>
以上説明した様に、本発明の実施例によれば、製造工程における部品の段階でインク供給口59を形成することにより、後の工程でインク流路内に異物が付着することを防止し、ノズル68を微細化した場合でも目詰まりの発生を有効に防止することができる。また、インク供給口59はフィルタ機能を有しており、インク中に含まれる凝集物等の異物をフィルタリングし、インク流路中への異物の混入を防止することができる。さらに本発明の実施例によれば、この様なフィルタ機能を有するインク供給口59を製造コストを上昇させることなく形成することができる。
【0140】
インク供給室53を他のインク供給室と隔壁74でそれぞれ区画することで、振動板64のインク供給口59が形成される部分の強度を隔壁74により補うことができる。また、個別液室55、個別流路54及びインク供給室53の開口面積の差を小さくすることができ、流路基板65の製造工程においてオーバーエッチングを低減し、高精度な加工を可能にする。
【0141】
本発明の実施例によれば、上記した様に異物への耐性が高く、強度に優れた構造を有しているため、長期に渡って安定して画像形成に供することができる。また、当該インクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置は、高解像度の画像形成を長期に渡って安定して行うことが可能となる。
【0142】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に、その他の要素との組み合わせなど、ここで示した構成に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0143】
10 インクジェット記録装置
53 インク供給室(液供給室)
54 個別流路
55 個別液室
56 上部電極
57 圧電体
58 下部電極
59 インク供給口
61 絶縁膜(積層膜)
62 絶縁膜(積層膜)
63 絶縁膜(積層膜)
64 振動板
65 流路基板
67 ノズル板
68 ノズル
69 保持基板
73 インク流路
74 隔壁
77 圧電素子
100 インクジェットヘッド
【先行技術文献】
【特許文献】
【0144】
【特許文献1】特開2008-18662号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルが複数形成されたノズル板と、
前記ノズル板に接合し、前記ノズルに通じる個別液室と、個別流路を介して前記個別液室と連結する液供給室と、が前記ノズルごとに形成された流路基板と、
前記流路基板の前記ノズル板とは反対側に積層され、前記個別液室に対応する位置に下部電極、圧電体及び上部電極を含む圧電素子が形成された振動板と、
を有するインクジェットヘッドであって、
前記ノズルごとに形成された液供給室は、一の液供給室と他の液供給室とが隔壁により区画されると共に、前記各液供給室がそれぞれ複数のインク供給口を有する
ことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記インク供給口の開口面積は、前記ノズルの開口面積より小さい
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記振動板の前記個別流路及び前記液供給室に対応する部分に、絶縁体からなる積層膜を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記振動板及び前記積層膜は、酸化シリコン及び窒化シリコンの少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記液供給室と隣接する他の液供給室との間の前記隔壁の一つに、インク流路を設けた
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記流路基板の振動板側に、前記液供給室にインクを供給する共通液室が形成された保持基板が接合され、
前記共通液室は、前記流路基板の複数の前記個別液室と前記インク供給口を介して連通している
ことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドを有する
ことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−993(P2013−993A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134828(P2011−134828)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】