説明

インクジェットヘッド用基板の製造方法、およびインクジェットヘッド用基板

【課題】所定の位置にインク供給口を備えたインクジェットヘッド用基板を、簡易な工程で効率よく製造することができるインクジェットヘッド用基板の製造方法、および前記製造方法によって製造されるインクジェットヘッド用基板を提供する。
【解決手段】ガイド孔形成工程では、インク供給口10が形成される基板の板面に、インク供給口10の輪郭に沿って、基板を貫通する複数のガイド孔が形成される。次いで、破断工程では、ガイド孔形成工程において形成された複数のガイド孔によって囲まれた部位に、物理的な力が加えられることで、基板が破断される。その結果、所定の位置にインク供給口10が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルにインクを供給するインク供給口を備えたインクジェットヘッド用基板の製造方法、および前記製造方法によって製造されるインクジェットヘッド用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク供給口を備えたインクジェットヘッド用基板を製造するための種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1が開示している製造方法では、シリコン基板の板面に対し、インク供給口の輪郭に沿う形状の溝部が形成される。形成された溝部に、シリコン基板を貫通する複数のガイド孔が形成される。ガイド孔が形成された溝部にウェットエッチングが施されることで、インク供給口が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0065473号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示している製造方法では、ガイド孔を形成するためのウェットエッチングの工程に長い時間を要するため、製造の効率を向上させることは困難である。つまり、従来技術では、所定の位置にインク供給口を備えたインクジェットヘッド用基板を簡易な工程で効率よく製造することは困難だった。
【0005】
本発明は、所定の位置にインク供給口を備えたインクジェットヘッド用基板を、簡易な工程で効率よく製造することができるインクジェットヘッド用基板の製造方法、および前記製造方法によって製造されるインクジェットヘッド用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一態様に係るインクジェットヘッド用基板の製造方法は、インクを吐出する複数のノズルにインクを供給するインク供給口を備えたインクジェットヘッド用基板の製造方法であって、前記インク供給口が形成される基板の板面に、前記インク供給口の輪郭に沿って、前記基板を貫通する複数のガイド孔を形成するガイド孔形成工程と、前記複数のガイド孔によって囲まれた部位を、物理的な力によって前記基板から破断して除去することで、前記インク供給口を形成する破断工程とを含む。
【0007】
第一態様に係るインクジェットヘッド用基板の製造方法によると、複数のガイド孔によって囲まれた部位が物理的な力によって破断されることで、インク供給口が形成される。従って、ウェットエッチングを経る方法に比べて容易に、基板の所定の位置にインク供給口を形成することができる。
【0008】
前記製造方法は、前記基板の2つの板面のうち、前記複数のノズルが位置する側とは反対の板面に、前記インク供給口の輪郭に沿って溝部を形成する溝部形成工程をさらに含んでも良い。この場合、インク供給口の輪郭には、溝部と複数のガイド孔とが共に形成される。従って、破断工程において基板に与えられる物理的な力の大きさは、複数のガイド孔のみを形成する場合に比べて減少する。よって、より容易に破断工程を実行することができる。さらに、基板のうち物理的な力によって破断させる部分(以下、「破断部」という。)以外の部分に過度の力が加わり難いので、破断させる予定でなかった部分が破壊される可能性も低下する。
【0009】
前記製造方法は、前記基板のうち、前記インク供給口の輪郭が位置する板面を、前記ノズルからインクを吐出させるためのエネルギー発生素子が形成される板面よりも下げる段部を形成する段部形成工程をさらに含んでもよい。物理的な力で基板を破断させる際に、基板の角部が剥がれ落ちる場合がある。剥がれ落ちる角部の大きさが大きいと、エネルギー発生素子等が破損する可能性がある。しかし、破断される部分の板面を、エネルギー発生素子が形成される板面よりも下げることで、エネルギー発生素子が形成される板面の角部は剥がれ落ち難くなる。よって、歩留まりを向上させることができる。
【0010】
本発明の第二態様に係るインクジェットヘッド用基板は、前記製造方法によって製造される。従って、前記製造方法によって得られる効果と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】インクジェットヘッド用基板1の平面図である。
【図2】図1におけるA−A線矢視方向部分断面図である。
【図3】インクジェットヘッド用基板1の製造工程を示すフローチャートである。
【図4】ヒータ部形成工程(S1)を説明するための断面図である。
【図5】段部形成工程(S2)を説明するための断面図である。
【図6】流路形成層形成工程(S3)および埋め込み材料形成工程(S4)を説明するための断面図である。
【図7】ノズル形成工程(S5)を説明するための断面図である。
【図8】溝部形成工程(S6)を説明するための断面図である。
【図9】溝部形成工程(S6)を説明するための基板25の底面図である。
【図10】ガイド孔形成工程(S7)および破断工程(S8)を説明するための断面図である。
【図11】ガイド孔形成工程(S7)を説明するための基板25の底面図である。
【図12】図1におけるB−B線矢視方向部分断面図である。
【図13】ガイド孔形成工程(S7)の変形例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具現化した一実施形態について、図面を参照して説明する。参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いられるものである。図面に記載されている製造工程、インクジェットヘッド用基板1の構造等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。図1の上側、下側、右側、左側、紙面手前側、紙面奥側のそれぞれを、インクジェットヘッド用基板1の後側、前側、右側、左側、上側、下側として説明する。
【0013】
図1および図2を参照して、インクジェットヘッド用基板1について説明する。図1に示すように、インクジェットヘッド用基板1は、インク吐出ユニット5とフレキシブルプリント基板20とを備える。インク吐出ユニット5は、複数のノズル2を備える。複数のノズル2は前後方向に並べて設けられている。隣接するノズル2の間には隔壁3が形成されており、隔壁3によって囲まれた空間がインク室4となる。複数のノズル2の右方には、外部から複数のノズル2にインクを供給するための開口であるインク供給口10が設けられている。インク供給口10の輪郭には、破断部11と突出部12とが交互に形成されている。破断部11および突出部12の詳細については後述する。
【0014】
フレキシブルプリント基板20は、インク吐出ユニット5の左部に接続している。フレキシブルプリント基板20には、2つの電源用電極パッド21と、ノズル2の数と同数のチャンネル用電極パッド23とが前後方向に並べて配置されている。2つの電源用電極パッド21は、複数のチャンネル用電極パッド23の外側に位置する。電源用電極パッド21は電源Vcc(図示外)に接続する。さらに、2つの電源用電極パッド21の間には共通配線22が接続している。共通配線22は、後端側(図1の上側)の電源用電極パッド21から右方に延び、前方に屈曲する。共通配線22は、複数のノズル2に沿って前方に真っ直ぐに延び、左方に屈曲して、前端側の電源用電極パッド21に接続する。複数のチャンネル用電極パッド23の各々は、図示しないN個のチャンネル(Ch1〜ChN、Nはノズル2の数)の各々に接続する。複数の電極パッド21,23の配置間隔は、複数のノズル2の配置間隔よりも大きい。なお、Ch1〜ChNの各々は、図示しないGNDに接続されており、且つ、ON(接続)とOFF(非接続)とがスイッチによって切り替えられる。
【0015】
図2に示すように、インク吐出ユニット5は、複数の層が積層された積層構造を有する。複数のノズル2の各々の直下には、ヒータ部15が設けられている。ヒータ部15の各々の左端は第一導通路16に接続し、右端は第二導通路17に接続する。
【0016】
図1に示すように、複数の第一導通路16は、複数のチャンネル用電極パッド23にそれぞれ接続している。チャンネル用電極パッド23の配置間隔がノズル2の配置間隔よりも大きいため、複数の第一導通路16は放射状に広がっている。従って、複数の第一導通路16の間隔が広がらない場合に比べて、電力(信号)が他の第一導通路16に伝わる現象(容量結合によるクロストーク)は低下する。製造上の理由や経年劣化等に起因するショートも生じにくい。また、複数の第二導通路17は全て共通配線22に接続している。なお、第一導通路16の各々には、ヒータ部15における発熱量を調整するための調整抵抗部(図示外)が設けられる構成でもよい。
【0017】
ノズル2からインクが吐出される原理について説明する。例えば、N番目のチャンネルがスイッチによってONとされると、電源によって供給される電流が、共通配線22(図1参照)を通じてN番目の導通路16,17に流れる。図2に示すように、ヒータ部15は、第一導通路16と第二導通路17とが離間した部位である。第一導通路16および第二導通路17の底部には抵抗体26が接触している。導通路16,17が形成された部分では、電流は導通路16,17を流れるため、抵抗体26に電流が流れて発熱が生じることはない。一方で、ヒータ部15では導電路16,17が途切れているため、電流は抵抗体26を流れて発熱が生じる。つまり、抵抗体26のうち第一導通路16と第二導通路17との間の部位は、電流が流れることで発熱する発熱抵抗部18となる。発熱抵抗部18で発熱が生じると、インク室4内のインクが気化して体積が急激に増大する。その結果、N番目のインク室4内のインクが気泡に押し出され、N番目のノズル2からインクが吐出される。
【0018】
図2を参照して、インク吐出ユニット5が備える各層について説明する。インク吐出ユニット5は、下から順に、基板25、抵抗体26、配線導体27、保護層28、流路形成層29、およびノズル形成層30を備える。基板25はシリコン(Si)基板であり、インクジェットヘッド用基板1の全体を支持する。基板25にはインク供給口10が形成される。抵抗体26は、電流が流れることで発熱を生じさせる物質で形成される層である。本実施形態では、抵抗体26を形成する物質としてタンタルアルミニウム(TaAl)を用いた。配線導体27は、伝導性を有する物質で形成されればよい。詳細は後述するが、配線導体27の一部が除去されることで、第一導通路16および第二導通路17が形成される。本実施形態では、Al−Cu合金によって配線導体27を形成した。保護層28は、配線導体27および抵抗体26を覆ってインクから保護する。本実施形態では、窒化シリコン(SiNx)で保護層28を形成した。流路形成層29は、保護層28とノズル形成層30とを離間させてインクの流路を形成する。ノズル形成層30にはノズル2が形成される。本実施形態では、エポキシ樹脂によって流路形成層29およびノズル形成層30を形成した。
【0019】
図3から図11を参照して、インクジェットヘッド用基板1の製造工程について説明する。図3に示すように、製造工程が開始されると、ヒータ部形成工程(S1)が実行される。図4に示すように、ヒータ部形成工程(S1)では、まず基板25の上面の全面にタンタルアルミニウムの膜が成膜される。タンタルアルミニウムの膜に感光性レジストが塗布され、配線導体27(図2参照)の形状(平面視鉤状)のパターンと同じパターンがマスク露光される。次いで、露光されていない部分がエッチングによって除去されて、平面視鉤状の抵抗体26が複数形成される。抵抗体26の形状に一致するように、抵抗体26の上面に、平面視鉤状の複数の配線導体27が形成される。配線導体27の形成方法には、例えば、抵抗体26の形成方法と同様に、成膜・マスク露光・エッチングを用いればよい。
【0020】
次いで、配線導体27のうちヒータ部15に位置する部分が、レーザトリミング、サンドブラスト、エッチング等の物理的または化学的方法によって除去される。その結果、抵抗体26のうちヒータ部15に位置する部分は、電流が流れて発熱する発熱抵抗部18(エネルギー発生素子)となる。除去されずに残存した配線導体27は、第一導通路16および第二導通路17となる。なお、図示しないが、配線導体27のうちヒータ部15とは離間した部分の一部も除去される。その結果、調整抵抗部が形成される。調整抵抗部の抵抗値(つまり、配線導体27を除去する部分の長さ)を調整することで、ヒータ部15における発熱量を調整することができる。次いで、抵抗体26、第一導通路16、および第二導通路17の全てを覆うように、スパッタリングやCVD(Chemical Vapor Deposition)によって保護層28が形成され、ヒータ部形成工程(S1)は終了する。
【0021】
なお、図示しないが、基板25と抵抗体26の間に、抵抗体26から基板25への熱の伝導を防止する蓄熱層を設けても良い。例えば、基板25の表面を熱酸化させることで形成される二酸化ケイ素(SiO)の層を蓄熱層とすればよい。また、タンタル(Ta)からなる対キャビテーション膜(図示外)を保護層28の上面に形成してもよい。対キャビテーション膜は、キャビテーションによってヒータ部15の中央付近に何度も衝撃力が加わって保護層28に壊食が起きることを防止し、ヒータ部15の耐久性を向上させる。キャビテーションとは、液体の圧力差によって短時間で気泡の発生と消滅が生じる現象である。
【0022】
次いで、段部形成工程(S2)が実行される。図5に示すように、段部形成工程(S2)では、保護層28および基板25の上部の一部がエッチング等によって除去されることで、平面視矩形状の段部35が形成される。段部35が形成される範囲は、インク供給口10(図2参照)が形成される部分よりも広い範囲であり、且つ、ヒータ部15、第一導通路16、および第二導通路17と重複しない範囲である。段部35が形成されることで、インク供給口10(図2参照)の輪郭が位置する板面36は、エネルギー発生素子である発熱抵抗部18が形成される板面37よりも下がる。詳細は後述するが、段部35を形成することで、インク供給口10の形成時に発熱抵抗部18等が破損する可能性が低下する。
【0023】
次いで、流路形成層形成工程(S3)が実行される。図6に示すように、流路形成層形成工程(S3)では、複数のノズル2とインク供給口10(図1および図2参照)とを全て取り囲む環状の流路形成層29が、保護層28の上面に形成される。
【0024】
次いで、埋め込み材料形成工程(S4)が実行される。図6に示すように、埋め込み材料形成工程(S4)では、保護層28および流路形成層29を全て覆うように埋め込み材料39が形成される。埋め込み材料39の物質は、例えばAZ(AZエレクトロニックマテリアルズ)等を用いることができる。図示しないが、形成された埋め込み材料39は、流路形成層29よりも上方の位置まで、上面が平坦になるように切削される。その後、流路形成層29の上面が露出するまで、埋め込み材料39の上部が溶解される。その結果、流路形成層29の上面と埋め込み材料39の上面とは同一平面上に位置する。
【0025】
次いで、ノズル形成工程(S5)が実行される。ノズル形成工程(S5)では、図7に示すように、平坦に形成された流路形成層29および埋め込み材料39(図7では省略)の上面に、ノズル形成層30が形成される。ノズル形成層30に対し、複数のノズル2が形成される。本実施形態では、フォトリソグラフィによって複数のノズル2が形成されるが、ノズル2の形成方法はこれに限定されるものではない。例えば、あらかじめノズル2が形成されたフィルムをノズル形成層30として用いてもよい。次いで、残存している埋め込み材料39が除去される。以上の工程によって、ノズル2およびインク室4が形成される。なお、保護層28の上面からノズル形成層30の上面までの距離は、約50μmである。
【0026】
次いで、溝部形成工程(S6)が実行される。溝部形成工程(S6)では、図8に示すように、基板25の2つの板面のうち、複数のノズル2が位置する側とは反対側の板面(図8の下側の板面)に溝部40が形成される。本実施形態では、基板25の厚みが約600μmであるのに対し、溝部40の深さは約550〜570μmであるが、寸法は適宜変更できる。溝部40の深さを深くする程、後述する破断工程(S8)において容易に基板25を破断させることができる。溝部40の深さを浅くする程、後述する破断部11(図2等参照)の大きさが大きくなり、塵および気泡等が係止し易い。以上の要素を考慮して溝部40の深さを決定するとよい。図9に示すように、溝部40は、その後に形成されるインク供給口10(図1等参照)の輪郭に沿って矩形環状に形成される。本実施形態では、基板25を台座に設置し、エンドミルを用いて基板25の背面を切削することで、溝部40を形成した。なお、エンドミルを用いる場合、数回の工程に分けて徐々に溝部40を切削するのが望ましい。数回の工程に分けることで、基板25が破損する可能性を低下させることができる。
【0027】
次いで、ガイド孔形成工程(S7)が実行される。図10および図11に示すように、ガイド孔形成工程(S7)では、インク供給口10(図1等参照)の輪郭に沿って(つまり、溝部40に)、基板25の板面を厚み方向に貫通するガイド孔42が複数形成される。ガイド孔42は、物理的な力で基板25を破断させて正確な形状のインク供給口10を形成するために設けられる。本実施形態では、ガイド孔42は、基板25を台座に設置した状態で、ドリル8を用いて基板25の底面側(図10の下側)から穿設される。
【0028】
図10に示すように、ガイド孔形成工程(S7)では、先端側ほど径が細くなるドリル8が、基板25の底面から挿入される。ドリル8の先端が基板25を貫通した直後に、ドリル8が下方に引き戻される。その結果、ガイド孔42の上端部分(ノズル2に最も近い部分)には、他の部分よりも径が小さい縮径部43が形成される。
【0029】
インク供給口10の輪郭(つまり、溝部40)のうち、前後方向に並べて設けられたノズル2に近接して、複数のノズル2に沿って延びる部分を、ノズル近傍部分41とする。図11に示すように、ノズル近傍部分41では、隔壁3に対向する位置(隔壁3の右方)にガイド孔42が形成される。つまり、ノズル近傍部分41では、ノズル2に対向する位置にはガイド孔42は形成されない。
【0030】
ノズル近傍部分41におけるガイド孔42の数(図11に示す例では6個)が、ノズル近傍部分41に並設してあるノズル2の数(図11に示す例では10個)よりも少なくなるように、ガイド孔42が形成される。
【0031】
ノズル近傍部分41におけるガイド孔42の密度(単位長さ当たりの個数)は、インク供給口10の輪郭におけるノズル近傍部分41以外の部分の密度よりも低い。つまり、ノズル近傍部分41におけるガイド孔42の間隔の平均Dは、ノズル近傍部分41以外の部分におけるガイド孔42の間隔の平均Lよりも長い。
【0032】
次いで、破断工程(S8)が実行される。破断工程(S8)では、複数のガイド孔42によって囲まれた部位が、物理的な力によって基板25から破断されることで、インク供給口10が形成される。本実施の形態では、図10に示すように、基板25が台座に設置された状態で、複数のガイド孔42によって囲まれた部位が下方に吸引されることで、基板25が破断、除去される。
【0033】
前述したように、インク供給口10の輪郭には、溝部40と複数のガイド孔42とが共に形成される。従って、破断工程(S8)において基板25に与えられる物理的な力の大きさは、複数のガイド孔42のみを形成する場合に比べて減少する。よって、より容易且つ正確に基板25を破断させることができる。基板25に過度の力が加わって必要な構造が破壊される可能性は低下する。微小なクラック(ひび)によってインクの漏れ等の不具合が生じる可能性も低下する。
【0034】
物理的な力で基板25を破断させる際に、破断される部分の角部が剥がれ落ちる場合がある。剥がれ落ちる角部の大きさが大きいと、ヒータ部15、第一導通路16、第二導通路17(図8等参照)等が破損する可能性がある。しかし、本実施形態に係る製造工程では、基板25の上面に段部35が形成されている。従って、ヒータ部15等が形成される層(抵抗体26、配線導体27、および保護層28)は破断されることは無く、仮に基板25の角部が剥がれ落ちてもヒータ部15等が破損する可能性は低い。よって、本実施形態に係る製造工程によると、歩留まりを向上させることができる。以上の工程によって、インクジェットヘッド用基板1のインク吐出ユニット5(図1参照)が製造される。
【0035】
以上の製造工程によって製造されるインクジェットヘッド用基板1の特徴について説明する。本実施形態の製造工程では、複数のガイド孔42によって囲まれた部位が物理的な力によって破断されることで、インク供給口10が形成される。詳細には、複数のガイド孔42によって囲まれた部位に物理的な力を加えると、隣り合う2つのガイド孔42によって挟まれる部分に力が集中して破断が生じる。その結果、複数のガイド孔42に沿った形状のインク供給口10が形成される。従って、ウェットエッチングを用いてインク供給口を形成する従来の方法に比べて、短時間で容易にインク供給口10を形成することができる。
【0036】
図1および図2に示すように、基板25のうち物理的な力で破断された部分(以下、「破断部11」という)には凹凸が生じる。インクが破断部11を通過すると、インクに含まれる塵および気泡等は破断部11の凹凸に引っ掛かる。よって、本実施形態の製造工程によると、塵および気泡等のノズル2への流入を抑制できるインクジェットヘッド用基板1を、容易に効率よく製造することができる。
【0037】
図11に示すように、ノズル近傍部分41では、隔壁3に対向する位置にガイド孔42が形成される。つまり、本実施形態の製造工程では、前記ガイド孔形成工程(S7、図3参照)において、前記インク供給口10の輪郭のうち、並べて設けられた前記複数のノズル2に沿って延びる部分の前記ガイド孔42を、前記複数のノズル2の各々を隔てる隔壁3に対向する位置に形成する。その結果、図1に示すように、ノズル2の各々は破断部11に対向する。従って、インクは、インク供給口10から各ノズル2に流入する際に破断部11を通過し易くなる。よって、インクジェットヘッド用基板1は、塵および気泡等をより効率よく破断部11で係止し、塵および気泡等のノズル2への流入を抑制することができる。
【0038】
図11に示すように、ノズル近傍部分41におけるガイド孔42の数は、ノズル近傍部分41に並設してあるノズル2の数よりも少ない。つまり、本実施形態の製造工程では、前記ガイド孔形成工程(S7、図3参照)において、前記インク供給口10の輪郭のうち、並べて設けられた前記複数のノズル2に沿って延びる部分に形成する前記ガイド孔42の数を、前記複数のノズル2の数よりも少なくする。従って、図1に示すように、ノズル近傍部分41におけるガイド孔42の数がノズル2の数以上である場合に比べて、破断部11を通過するインクの量は多くなる。よって、インクジェットヘッド用基板1は、塵および気泡等をより効率よく破断部11で係止することができる。多くのガイド孔42を形成する必要がないため、作業の効率も向上する。
【0039】
図11に示すように、ノズル近傍部分41におけるガイド孔42の密度(単位長さ当たりの個数)は、他の部分の密度よりも低い。つまり、本実施形態の製造工程では、前記ガイド孔形成工程(S7、図3参照)において、前記インク供給口10の輪郭のうち、並べて設けられた前記複数のノズル2に沿って延びる部分の前記ガイド孔42の密度を、前記複数のノズル2に沿って延びる部分以外の部分の前記ガイド孔42の密度よりも低くする。従って、図1に示すように、インク供給口10のノズル2側の輪郭では、他の輪郭よりも破断部11が形成される割合が高い。インクはインク供給口10からノズル2へ向けて流れるため、多くのインクがノズル2側の輪郭を通過する。よって、効率よく塵および気泡等を係止できる。ノズル2側の輪郭以外の輪郭では、破断部11が形成される箇所が相対的に少ないため、破断に必要な力が小さくなり、容易に基板25を破断させることができる。
【0040】
本実施形態の製造工程では、前記ガイド孔形成工程(S7、図3参照)において、前記複数のガイド孔42の各々に、径が縮小された縮径部43を形成する。その結果、図12に示すように、基板25が破断されてインク供給口10が形成されると、ガイド孔42の縮径部43(図10参照)が存在していた部分には、インク供給口10の内側に向かって突出する突出部12が形成される。突出部12が亀裂等を有すると、塵および気泡等は突出部12に引っ掛かる。さらに、突出部12が形成された部分では、インクの流れが妨げられる。従って、突出部12が形成されない場合に比べて、突出部12の間に位置する破断部11(図1および図2参照)のインク流量が増加する。よって、インクジェットヘッド用基板1は、より効率よく塵および気泡等を係止することができる。ガイド孔42の上端部に縮径部43を形成すれば、突出部12がノズル2に近い位置に形成され、ノズル2への塵等の流入を抑制する効率が向上する。また、図10に示すように、溝部40の幅は、ガイド孔42の径よりも広く形成されている。この場合、図12に示すように、ガイド孔42の下端と溝部40との間に角部46が形成され、角部46に塵および気泡等が引っ掛かる。よって、より多くの塵および気泡等を係止することができる。
【0041】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、様々な変形が可能であることは言うまでもない。図13を参照して、ガイド孔形成工程(S7、図3参照)の変形例について説明する。図13に示す変形例では、ガイド孔42が形成される前に、ドリル8を挿入するためのドリル挿入用孔48がノズル形成層30に穿設される。ドリル挿入用孔48は、ノズル2を形成する場合と同様の方法で穿設されればよい。次いで、ドリル挿入用孔48からドリル8が挿入され、基板25の上方からガイド孔42が穿設される。ガイド孔42の穿設が終了すると、インク漏れを防止するために、ドリル挿入用孔48が閉塞される。以上のように、ガイド孔42の形成方法は、上記実施形態で例示した方法に限られない。また、ガイド孔42、溝部40等は、フォトリソグラフィ、エッチング等を用いて形成してもよい。
【0042】
本発明はその他の変更も可能である。上記実施形態では、吸引によって基板25に物理的な力を加え、複数のガイド孔42によって囲まれた部位を破断させている。しかし、吸引以外の方法で物理的な力を加えてもよい。例えば、基板25を押圧してもよい。物体を基板25に衝突させることで基板25を破断させてもよい。微小粒子を衝突させて物体を除去加工する工法(所謂サンドブラスト工法)を使用し、基板25を削って破断させてもよい。この場合でも、エッチング工程を経ることなく、破断部11を備えたインクジェットヘッド用基板1を製造することができる。つまり、破断部11に凹凸を形成できる物理的な力を用いれば、インクに含まれる塵および気泡等のノズルへの流入を抑制できるインクジェットヘッド用基板1を、簡易な工程で効率よく製造することができる。
【0043】
前述したように、ガイド孔42を形成する位置、ガイド孔42の数、ガイド孔42の密度を規定することで、より効率よく塵および気泡等を係止することができる。しかし、ガイド孔42の位置、数、密度を規定しなくても本発明が実現できることは言うまでもない。同様に、溝部40を形成せずにガイド孔42のみを形成して基板25を破断させることも可能である。また、溝部40の断面形状をU字状等に変更してもよい。
【0044】
上記実施形態では、基板25の上面に段部35を形成することで、ヒータ部15等が破損する可能性を低下させている。しかし、段部35を形成せずに基板25を破断させることも可能である。この場合、本発明における「インク供給口が形成される基板」とは、基板25のみでなく、基板25と保護層28とが積層された部位となる。つまり、ガイド孔42は、基板25および保護層28を共に貫通するように形成され、基板25および保護層28が物理的な力で破断される。また、段部35の高さを変更できることは言うまでもない。例えば、保護層28にのみ段部35を形成してもよい。
【0045】
上記実施形態では、縮径部43はガイド孔42の上端部(ノズル2側の端部)に形成される。ガイド孔42の上端部に縮径部43を形成すれば、突出部12がノズル2に近い位置に形成され、ノズル2への塵等の流入を抑制する効率が向上する。しかし、ガイド孔42の上端部以外の部位に縮径部43を形成してもよい。縮径部43の形成方法を変更してもよい。また、縮径部43を形成しなくても本発明は実現できる。
【0046】
図3に示す工程の順番を変更してもよい。例えば、段部形成工程(S2)を実行した後にヒータ部形成工程(S1)を実行してもよい。ガイド孔形成工程(S7)を実行した後に溝部形成工程(S6)を実行してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 インクジェットヘッド用基板
2 ノズル
3 隔壁
10 インク供給口
11 破断部
12 突出部
15 ヒータ部
16 第一導通路
17 第二導通路
18 発熱抵抗部
25 基板
26 抵抗体
27 配線導体
30 ノズル形成層
35 段部
40 溝部
42 ガイド孔
43 縮径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルにインクを供給するインク供給口を備えたインクジェットヘッド用基板の製造方法であって、
前記インク供給口が形成される基板の板面に、前記インク供給口の輪郭に沿って、前記基板を貫通する複数のガイド孔を形成するガイド孔形成工程と、
前記複数のガイド孔によって囲まれた部位を、物理的な力によって前記基板から破断させることで、前記インク供給口を形成する破断工程と
を含むインクジェットヘッド用基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板の2つの板面のうち、前記複数のノズルが位置する側とは反対の板面に、前記インク供給口の輪郭に沿って溝部を形成する溝部形成工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド用基板の製造方法。
【請求項3】
前記基板のうち、前記インク供給口の輪郭が位置する板面を、前記ノズルからインクを吐出させるためのエネルギー発生素子が形成される板面よりも下げる段部を形成する段部形成工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットヘッド用基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の製造方法によって製造されるインクジェットヘッド用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−49188(P2013−49188A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188282(P2011−188282)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】