説明

インクジェットヘッド用封止材

【課題】 (1)形状保持性と均一充填性を両立し、(2)封止による部材の破損を抑制し、(3)部材同士を良好に接合し、(4)可使時間が長いインクジェットヘッド用封止材を提供すること。
【解決手段】 ビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂と、潜在性硬化剤とを含有するインクジェットヘッド用封止材であって、線膨張係数が80ppm/℃以下であることを特徴とするインクジェットヘッド用封止材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド用封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式を用いるインクジェットヘッドにおいては、その構成材料は、金属、熱可塑性樹脂、セラミックス、シリコン基板等、複数の異種部材からなる。このような異種部材間に存在する隙間の封止に適した封止材として、主剤と硬化剤の混合等を必要としない、所謂一液性の熱硬化型エポキシ樹脂組成物が知られている(特許文献1)。また、封止樹脂にかかる応力が低く、サーマルクラックテストにおける耐クラック性を向上させた封止材として、エポキシ樹脂からなる液状封止用樹脂組成物が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3794349号公報
【特許文献2】特開2001−89638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、インクジェットヘッドの封止を樹脂組成物によって行う場合には、下記のような課題があることを見出した。
【0005】
インクジェットヘッドは、図1(a)に示すように、記録素子ユニット104と、チッププレート105と、支持部材106が接合された形状である。記録素子ユニット104は、TAB(Tape−Automated Bonding)方式により作製された電気配線シート101、インクを吐出させるエネルギーを発生させる素子を有する記録素子基板102、電気配線シート101の変形を防止する変形防止部材103で構成されている。主に、変形防止部材103はアルミナ等で形成され、支持部材は変性PPE(ポリフェニレンエーテル)等で形成されている。チッププレート105が支持部材106の内部に入り込む形態で組み合わされるようになっており、組み立て性に優れている。また、変形防止部材103と支持部材106の間の隙間を封止すべく、樹脂等からなる封止材が用いられている。
【0006】
(1)形状保持性と均一充填性の両立
インクジェットヘッドは、複雑な構造である場合が多い。封止材の塗布を考慮すると、隙間を埋めるために設けられた樹脂の塗布部に溝が設けられていることが好ましいが、例えば、溝底面の縁から立ち上がる起立壁を片側のみに設けたL字型の構造の場合がある。また、塗布面が塗布の際に上方向の向きでなく、横の壁面に位置する構造の場合もある。
【0007】
封止に樹脂を適用する場合、樹脂の流動性が良いと途切れや気泡の巻き込みが生じにくく、塗布しやすい。一方で接合部の外へ流れ出してしまい、十分に隙間の充填を行えないことがある。特に加熱による硬化条件下では樹脂の粘度が一旦低下するため、より均一に充填される傾向にあるものの、封止部以外の場所へ樹脂が流れ出す懸念が一層高まる。これを抑制するために、低温速硬化タイプの樹脂を用いることも可能だが、塗布時に気泡等が発生した場合にその状態を保ったまま硬化してしまい、均一充填性が損なわれる可能性がある。近年は印字物を高画質化するために、インクジェットヘッドと紙等の記録媒体の距離が非常に近い傾向にある。このため、僅かな空隙に溜まった少量のインクであっても、印字物との接触等によって画像への影響を与えてしまうことがある。
このように、封止材において形状保持性と均一充填性の両立させることは非常に困難である。
【0008】
(2)硬化物の材料特性による部材破損
インクジェットヘッドの変形防止部材としては一般的にアルミナが用いられ、その線膨張係数は5〜10ppm/℃程度である。一方、支持部材としては樹脂、例えば変性PPE等が一般的に用いられ、変形防止部材に比べると線膨張係数が大きい。従って両部材間の隙間に対し、液状樹脂を塗布し硬化させるもしくは固形やパテ状の樹脂を充填し硬化させる場合、線膨張係数がこれらより大きく外れたものであると、熱硬化やサーマルクラックテスト等の温度変化を経たときに部材が破損する可能性がある。これは、部材及び充填物の膨張度合が異なり応力が発生するためと考えられる。特に変形防止部材は薄い板状であるため、亀裂が入りやすい。また、線膨張係数が好ましい範囲にあったとしても、隙間を充填した樹脂が硬く、前記温度変化内で硬度がほぼ一定であった場合、被着体である部材が伸縮を繰り返すうちに接合界面に応力がかかり、界面剥離、樹脂硬化物もしくは部材の破損が生じる可能性がある。変形防止部材は電気配線シートの変形防止を目的としているため、変形防止部材の破損によって電気配線シートもダメージを受ける可能性がある。また、変形防止部材の内側にインクを吐出する記録素子基板が存在するため、亀裂部にインクが侵入した場合、電気的ショートを生じる懸念がある。
【0009】
(3)接着性
隙間を充填するのに用いられる封止材としては、固形、ペースト状、液状等様々な形態が存在する。インクジェットヘッドの隙間は微小な空間かつ構造が複雑であり、また製造上の作業性から液状樹脂による充填を行うことが多い。隙間を充填するだけであれば、樹脂に接着性が無くとも良いが、インクジェットヘッドが落下等で衝撃を受けた場合や、封止材の劣化等による収縮等の影響で部材との間に隙間が新たに生じてしまうと、隙間にインクがたまってしまうことがあり、上記(1)で述べたように好ましくない。よって、単に封止を行うだけでなく、部材を接着させることが求められる。
【0010】
(4)可使時間
封止材を製造工程で長時間使用したい場合、粘度が上昇すると安定した塗布量の制御が困難となり、作業効率が低下する。あるいは、使い切る前に破棄せざるを得ず無駄が生じてしまう。反応の進行を抑制するために低温下で使用する方法もあるが、低温にすると組成物の固化につながってしまい、やはり作業効率が低下することがある。
【0011】
以上のような課題について検討すると、特許文献1に記載の封止材は、(2)、(3)及び(4)の点ではよいが、積極的に流動性をもたせたものであるため(1)の点で課題がある。また、特許文献2に記載の封止材は、(1)、(2)及び(4)の点ではよいが、(3)の点で課題があり、接着性が不足する場合がある。
【0012】
本発明は、上記(1)〜(4)の課題を解決するインクジェットヘッド用封止材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。即ち本発明は、ビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂と、潜在性硬化剤とを含有するインクジェットヘッド用封止材であって、線膨張係数が80ppm/℃以下であることを特徴とするインクジェットヘッド用封止材である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、(1)形状保持性と均一充填性を両立し、(2)封止による部材の破損を抑制し、(3)部材同士を良好に接合し、(4)可使時間が長いインクジェットヘッド用封止材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インクジェット記録ヘッドの概略の構成を示す図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体例をもって詳細に説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0017】
(インクジェットヘッド用封止材)
本発明の封止材は、インクジェットヘッド用封止材として適したものである。インクジェットヘッドの記録素子ユニットは、アルミナ等で形成される部材(変形防止部材)と、変性PPE等で形成される支持部材とを有し、封止材はこれらの間の隙間を封止し、かつ両部材を良好に接合する必要がある。
【0018】
両部材は異種材料であるため、温度変化による熱膨張の違いから熱応力が生じ、部材の破損等につながる可能性がある。変形防止部材に用いられるアルミナは、線膨張係数が5〜10ppm/℃と低い。一方、支持部材の変性PPE樹脂は、変形防止部材に比べると線膨張係数が高く50〜60ppm/℃である。これら両部材及びその間の封止材間における線膨張係数の差が大きい場合、熱硬化等の温度変化を経たときに各々が異なる熱膨張及び伸縮を示すため、部材に応力がかかり部材の破損や封止材の剥離が発生することがある。そこで、本発明者は、封止材の線膨張係数を80ppm/℃以下とすることで、これら課題を抑制できることを見出した。製造の点から、好ましくは5ppm/℃以上である。また、本発明の封止材の線膨張係数は、両部材の線膨張係数の範囲内にあることがより好ましい。即ち、変形防止部材の線膨張係数が5ppm/℃、支持部材の線膨張係数が60ppm/℃の場合、5ppm/℃以上60ppm/℃以下であることが好ましい。尚、熱膨張率について、温度の上昇に対応して長さが変形する割合を線膨張係数といい、熱機械分析(TMA)により求めることができる。本発明において、封止材の線膨張係数は引張りモードで測定し、引張り荷重をかけたときの試料の熱膨張を温度の関数として求めた。
【0019】
本発明の封止材は、上述の線膨張係数に加えて、力学的な材料特性も考慮することが好ましい。エポキシ樹脂の硬化物をはじめとする高分子材料は粘弾性体として知られており、硬さ成分(弾性)と粘り成分(粘性)の両特性を有している。本発明では、これらの力学物性評価の一つとして知られる動的粘弾性測定(DMA)を行う装置を用いて、引張りモードで試料に正弦波振動を与えたときの応力応答から粘弾性値を求めた。この方法の特徴は、試料の粘弾性特性として、弾性成分である貯蔵弾性率(E′)、粘性成分である損失弾性率(E″)、応力吸収性の指標となる損失正接(tanδ=E′/E″)等の温度依存性や周波数依存性を同時に測定することができる点である。また、tanδが最大値を示す温度より、ガラス転移温度(Tg)を精度よく求めることができる。線膨張係数の異なる部材同士をエポキシ樹脂で封止、接合した構造物を、サーマルクラックテストのような温度変化のある環境下においた場合、線膨張係数差による応力が発生し粘弾性体であるエポキシ樹脂の硬化物は変形する。このとき与えられた力の大部分は変形のエネルギーとして貯えられ、応力が復元エネルギーとして作用するが、一部は歪みに伴う内部摩擦が生じ最終的に熱エネルギーとして消費される。この内部摩擦の大小は損失正接(tanδ)で表され、値が大きいほど応力吸収性が高いことを示す。さらに粘弾性体は、ガラス転移点より高温下でゴム状態となり柔軟な構造へ変化するため、応力の緩和が可能となる。本発明者は、サーマルクラックテストもしくは使用環境の温度範囲内のtanδが大きければ応力の発生量は小さく、さらにその範囲内にTgを有すれば応力が発生しても緩和されるため部材破損の抑制につながることを見出した。本発明の封止材は、25℃下での引張り弾性率をXとした場合、1.3GPa・s≦X≦5.0GPa・sを満たすことが好ましい。1.3GPa・sより小さいと低弾性となり部材破損を抑制することができるが、強度も低下する。一方、5.0GPa・sより大きいと応力の発生量が大きくなり部材破損の程度も大きくなる。また、貯蔵弾性率(E′)が1.3GPa・s以上5.0GPa・s以下の封止材のTanδは、−30℃から60℃におけるTanδの最大値をYとしたとき、0.1≦Y≦5.0であることが好ましい。0.1未満の場合、応力吸収性が不足するため部材破損を生じることがある。5.0を超える材料は一般的な材料としてはなく、特殊な材料を用いることになる。
【0020】
本発明の封止材は、ビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂と、潜在性硬化剤とを含有することで、上述の線膨張係数の規定と相まって、インクジェットヘッド用封止材として有用に用いることができる。
【0021】
ビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂は、分子内に2個以上のオキシラン基を有する。例えば、ADEKA製「EP−4000S」や「EP−4010S」を挙げることができる。好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である。この他に、別の種類のエポキシ樹脂を併用してもよい。
【0022】
潜在性硬化剤は、あらかじめエポキシ樹脂に混合した状態で長期保存でき、熱・光・圧力・湿気などの刺激が与えられると硬化反応を開始する硬化剤のことである。潜在性硬化剤としては、例えば加熱により溶解または分解、活性化し、アニオン機構によりエポキシ基を自己重合させる第三アミン(3級アミン)やイミダゾール、またはこれらの塩が挙げられる。例えば、固体分散型アミン系潜在性硬化剤が挙げられる。固体分散型アミン系潜在性硬化剤とは、室温(25℃)ではエポキシ樹脂に不溶の固体であり、分散させた状態にあるが、加熱により溶解し、硬化剤としての機能を発現するアミン系硬化剤のことである。潜在性硬化剤を用いることで、可使時間を長くすることができる。しかし、部材によっては加熱温度を高くすることができないため、融解温度が100℃以下の潜在性硬化剤を用いるのが望ましい。本発明においては、アミン−エポキシアダクト系化合物を用いるのが好ましい。アミン系硬化剤は接着性に優れることが知られている。本発明において用いられるビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂と、被着体となる変性ポリフェニレンエーテルの構造は類似している。従って、本発明においては、ビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂と潜在性硬化剤とが相乗的に作用して、上記(1)〜(4)の課題を解決する封止材を提供することができる。
【0023】
本発明の封止材は、ビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂100質量部に対して、潜在性硬化剤を15質量部以上35質量部以下含有していることが好ましい。また、15質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明の封止材は、無機充填剤を含有していることが好ましい。無機充填剤によって、線膨張係数を良好に調整することができる。無機充填剤としては、例えば電気化学工業製「FB−940」を挙げることができる。無機充填剤は、ビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂100質量部に対して、20質量部以上60質量部以下であることが好ましい。
【0025】
本発明において、均一な液状の封止材を調整するには、前述した各成分を攪拌型の分散機で混合したり、ビーズミルで分散したり、三本ロールで分散混合したりすることによって行うことが好ましい。その他添加剤として、シリコン複合パウダー、シリコーンゴム、変性ニトリルゴム、オレフィン系共重合体、変性ポリブタジエンゴム等、揺変剤であるシリカ微粒子(エアロジル)、アルミナ、雲母、有酸化ポリスチレン等を配合してもよい。
【0026】
(インクジェットヘッド)
本発明のインクジェットヘッド用封止材をインクジェットヘッドに適用した例を、図1(a)及び図1(b)を用いて説明する。図1(a)はインクジェットヘッドの構成を分解して示す分解斜視図であり、図1(b)は図1(a)に示された各構成部材を組み合わせた状態を示す斜視図である。
【0027】
図1(a)に示すインクジェットヘッドは、記録素子ユニット104と、チッププレート105と、支持部材106が接合された形状である。記録素子ユニット104は、TAB方式により作製された電気配線シート101、インクを吐出させるエネルギーを発生させる素子を有する記録素子基板102、電気配線シートの変形を防止する変形防止部材103で構成されている。支持部材106は、インクを供給する供給口107や、配線基板108を有する。記録素子ユニット104は、チッププレート105及び支持部材106に支持されている。図2に示すように、記録素子ユニット104が固定されたチッププレート105は、支持部材106の内部に入り込む形態で組み合わされている。このとき、記録素子ユニット104の変形防止部材103と、支持部材106との間の隙間が、本発明の封止材で封止する充填部201である。本発明の封止材で封止する場所は、図2に示す位置には限られない。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例にて説明する。以下において、「部」及び「%」とあるのは全て質量基準である。
【0029】
<評価用部品>
下記評価において図1および図2に示す形態のヘッド用の部品を使用する場合、変形防止部材103はアルミナ製、支持部材106は変性PPEであるノリルRN1300(GEプラスチック製)で形成したものを用いた。
【0030】
<封止材>
以下の表1〜3に示す原材料を用いて、真空攪拌脱法ミキサー(V−mini300、EME製)によって表4に示す組成(数値は質量部)で調合を行い、実施例1〜14および比較例1で用いる封止材を得た。また、比較例2および3の封止材として、市販品であるECCOBOND E−3210(一液性熱硬化型ウレタン含有エポキシ樹脂、アミン硬化タイプ)(ヘンケル製)を用いた。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
<評価>
以上の封止材を用い、以下の評価を行った。
【0036】
(物性)
長さ30mm×幅3mm×厚さ1mmのサイズの硬化物を作製し、封止材の物性を以下のようにして測定した。
【0037】
弾性率(E′)およびtanδは、動的粘弾性測定装置 DMS6100(セイコーインスツルメンツ社製)にて、引張りモードにより、サンプル間長15mm、測定周波数1Hz、測定温度範囲20〜120℃について昇温速度2℃/min で測定した。
【0038】
線膨張係数(CTE)は、熱機械分析装置 TMA/SS6100(セイコーインスツルメンツ社製)にて、引張りモードにより、サンプル間長15mm、引張り荷重50mN、測定温度範囲−30℃〜120℃、昇温速度2℃/minにおけるガラス転移温度以下の範囲を測定した。
【0039】
(評価項目)
(1)加熱硬化時の粘度低下状態
レオメーターにより、加熱硬化時の封止材の最低粘度を測定した。液状の組成物を用いて、レオメーター AR−G2(ティー・エイ・インスツルメント社製)にて、オシレーションモードにより、測定子25mm径アルミニウム平行プレート、ギャップ1mm、測定周波数1Hz、測定温度範囲25〜100℃、昇温速度5℃/minにおける最低粘度値を測定した。最低粘度が10Pa・s以下までのものを○とし、それより高粘度のものを×とした。
【0040】
(2)塗布性
図1及び図2に示す形態のヘッド用の部品を使用して、記録素子ユニット(変形防止部材)と支持部材との間の隙間に封止材を連続塗布した。塗布形状を目視で評価し、塗布形状の保持性に優れるものを○とし、そうでないものを×とした。
【0041】
(3)硬化性
封止材2.5gを100℃2時間で熱硬化して得られた硬化物を、クリアインク50mlに浸漬し、121℃、2atm下に10時間投入した後、硬化物および前記クリアインクの外観観察を目視にて行った。ここで用いたクリアインクは、グリセリンを9%、トリエチレングリコールを9%、メタノールを5%、アセチレノールA100を1%、残りを水で計100%として処方したものである。判断基準は、硬化物に著しい膨潤や溶解が見られなかった場合を○、硬化物に著しい膨潤や溶解が見られた場合を×とした。
【0042】
(4)保存安定性
封止材を常温(25℃)下で保管し、保管前に対する粘度の増加を観測した。粘度はE型粘度計にて25℃下で測定し、20日後の粘度増加率が1.3倍以下だったものを◎、7日後の粘度増加率が1.3倍以下だったが20日後の粘度増加率が1.3倍を超えたものを○、7日後の粘度増加率が1.3倍を超えたものを△とした。
【0043】
(5)封止信頼性
図1及び図2に示す形態のヘッド用の部品を使用して、記録素子ユニット(変形防止部材)と支持部材との間の隙間を封止材で封止し、100℃2時間の熱硬化を行った。支持部材106へ表面処理(コロナ処理)を施す場合は、コロナ放電処理装置(春日電気社製)によりコロナ放電処理を行った。処理条件は、ワーク間距離1mm、放電出力0.30kW、処理速度10mm/secで2往復とした。
【0044】
(5−1)硬化後の均一性
熱硬化後の封止材の状態を目視で観察し、均一な固形物であるものを○とし、気泡が存在するものを×とした。
【0045】
(5−2)硬化後の流れ出し
熱硬化後の封止材の状態を目視で観察し、隙間(充填部)に留まり硬化したものを○とし、隙間以外へ封止材が付着し硬化してしたものを×とした。
【0046】
(5−3)変形防止部材の外観状態
熱硬化後の部品50セットについて、サーマルクラックテスト(−30℃;2時間、25℃;2時間、60℃;2時間、25℃;2時間を1サイクルとし、合計10サイクル)を行い、テスト後の変形防止部材の外観を目視で観察した。このとき、テスト前後で全数とも外観に変化がみられないものを○とし、テスト後の変形防止部材に亀裂がみられるものが半数以下のものを△とし、テスト後に亀裂が生じたものが半数を超えたものを×とした。
【0047】
(5−4)破壊試験
熱硬化後の封止材を破壊し、封止材及び部材の状態について目視にて評価を行い、封止材の凝集破壊が発生もしくは部材が破壊したものを○、封止材が界面剥離していずれかの部材上で硬化していたものを×とした。
【0048】
以上の評価結果を表5に示す。
【0049】
【表5】



【0050】
表5に示す通り、実施例1〜14の封止材は、いずれの項目も△以上の評価であり、良好なインクジェットヘッド用封止材である。
【0051】
一方、線膨張係数が高い比較例1〜3の封止材は、粘度低下状態、硬化後均一性、サーマルクラックテスト耐性、破壊試験耐性の少なくともいずれかが良好ではなかった。
【0052】
以上のことから、本発明によれば、(1)形状保持性と均一充填性を両立し、(2)封止による部材の破損を抑制し、(3)部材同士を良好に接合し、(4)可使時間が長いインクジェットヘッド用封止材を提供することができることが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂と、潜在性硬化剤とを含有するインクジェットヘッド用封止材であって、線膨張係数が80ppm/℃以下であることを特徴とするインクジェットヘッド用封止材。
【請求項2】
25℃下での引張り弾性率をXとした場合、1.3GPa・s≦X≦5.0GPa・sを満たす請求項1に記載のインクジェットヘッド用封止材。
【請求項3】
−30℃から60℃におけるtanδの最大値をYとした場合、0.1≦Y≦5.0を満たす請求項1または2に記載のインクジェットヘッド用封止材。
【請求項4】
前記ビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂である請求項1から3のいずれかに記載のインクジェットヘッド用封止材。
【請求項5】
インクを吐出させる記録素子を有する記録素子ユニットと、前記記録素子ユニットを支持する支持部材と、前記記録素子ユニットと前記支持部材との間の隙間を封止する封止材とを有するインクジェットヘッドであって、前記封止材が請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットヘッド用封止材であることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記記録素子ユニットはアルミナで形成される部材を有し、前記支持部材は変性ポリフェニレンエーテルで形成され、前記封止材は前記アルミナで形成される部材と前記支持部材との間の隙間を封止する封止材であることを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッド。


【図1】
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【図2】
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