説明

インクジェットヘッド

【課題】高精度、高密度に形成された円筒状のチューブを具備したインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】本発明のインクジェットヘッドは、複数の円管状チューブ5と、圧電素子6と、固定用プレート3と、ノズルプレート1とを有する。円管状チューブ5は、ガラスからなり、一端側5bからその内部にインクが供給される。圧電素子6は、円管状チューブ5の外壁5dを変形させて円管状チューブ5内のインクに圧力を印加するためのものであり、円管状チューブ5の外壁5dに設けられている。固定用プレート3は、円管状チューブ5の他端側5cが挿入されて固定される穴4が所定のピッチP3で複数形成されている。ノズルプレート1は、固定用プレート3の穴4が形成された位置と対応した位置に複数のノズル2が形成され、固定用プレート3に対して積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個のノズルを有するインクジェットヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドの方式において、インクに接した振動板を振動板に密接したPZTに電圧を印加し変位させることにより、インクに圧力を印加するピエゾ方式が知られている。さらに、ピエゾ方式には、ピエゾ素子と振動板のバイメタル効果による撓み変形を利用したカイザー型や、ピエゾ素子を積層し、直接振動板を変形させる直接押印型が知られている。また、さらにピエゾ方式には、ピエゾの変形方向にd15を利用し、斜め方向に変形させるシェア−モード方式や、円管状の振動板に円管状のPZTにより円管状の振動板を収縮変形させるグールド方式もが知られている。
【0003】
図4にグールド方式のインクジェットヘッドの一従来例における単ノズルの概略図を示す。
【0004】
円筒状チューブ33は一般にはガラス等から形成されており、この円筒状チューブ33の先端は絞られることでノズル32を形成している。ノズル32の最先端はインクを吐出させ、微小液滴38を形成させるための吐出口31が形成されている。
円筒状チューブ33は、ノズル32が形成された側とは反対側に、インクを供給するためのチューブ37を有する。
また、円筒状チューブ33は、ノズル32とチューブ37との間に円筒状チューブ33全体を囲むようにして設けられた圧電素子34接着固定されている。この圧電素子34は、円筒状チューブ33を加圧変形させるためのエネルギー変換素子である。この圧電素子34には、円筒形状を有しており、その外周面と内周面との間に電圧を印加すると、円筒の内径が縮む方向に変形し、電圧を除去すると変形が戻る性質を有している。圧電素子34の内周側の電極と繋がっている内周電極35と外部電極36の間に電圧を印加することにより円筒状チューブ33を縮小変形することができる。変形した円筒状チューブ33はその内部のインクを加圧し、インクはノズル32の方向に流れ、吐出口31から微小液滴として吐出される。電圧のパルスパターンはインクの粘度や表面張力の物性値や所望の吐出量に対し、最適化が図られる。
【0005】
グールド方式のヘッドは、振動板である円筒管を簡単に作成できるため、比較的多ノズル化が容易である。しかし、グールド型インクジェットヘッドの円筒状チューブは個別に形成されており、多ノズル化を実現するためには、個別のグールドヘッドの円筒状チューブを並べる必要がある。例えば、特許文献1に記載されているように、同一方向に開口した複数個の貫通穴を列状に設けたPZTに電圧を印加するための接点を備えたエネルギー変換ブロックに円筒状チューブを固定し、高密度化が図られている。ここで、図5に、図4に示すノズルを備えたインクジェットヘッドの一従来例の概略図を示す。
【0006】
複数の円筒状チューブ33は、圧電素子34が設けられた部分を保持するように、固定治具23に接着固定されている。
【0007】
なお、図4に示す円筒状チューブ33には、ノズル32が形成された側とは反対側に、インクを供給するためのチューブ37を有する構成を例示した。これに対して、図5に示すインクジェットヘッドでは、個々の円筒状チューブ33にチューブ37を備える構成ではなく、インクを供給するための共通インク室24が複数の円筒状チューブ33に接続されている。共通インク室24には、インク供給用の供給チューブ25が接続されている。また、共通インク室24内には、フィルタが設けられている。
【特許文献1】特公平6−98751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この方式だけでは、高密度化は実現できるが、高精度の位置合わせは困難である。近年の高精細化に対しては、円筒状チューブの組み付け時のアライメント精度を極めて高くする必要があり、この方式では高精度化に対して限界がある。
【0009】
また、一般には、グールド型のインクジェットヘッドのノズルは個別にノズルが形成されている。円筒状のチューブの材質は一般にガラスであり、ノズルはこのガラスを加熱溶融し、引っ張り、微小径を形成し顕微鏡で観察しながらダイサーなどで切断することによって形成されている。さらに、ノズル面の均一化には、さらに研磨工程が付加されている。ノズル形成は、1つずつ個別に形成されるため、ノズルの絞り部の形状とノズルの形状を同一に制御し、形成することも非常に困難である。
【0010】
そこで本発明は、高精度、高密度に形成された円筒状のチューブを具備したインクジェットヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のインクジェットヘッドは、ガラスからなり、一端側から内部にインクが供給される複数のチューブと、チューブの外壁を変形させてチューブ内のインクに圧力を印加するための、チューブの外壁に設けられたエネルギー変換素子とを有する。特に、本発明のインクジェットヘッドは、固定用プレートとノズルプレートとを有する。固定用プレートには複数の穴が所定のピッチで複数形成されており、チューブの他端側が各穴に挿入され、かつ固定されている。ノズルプレートは、固定用プレートの穴が形成された位置と対応する位置にノズルが形成され、固定用プレートに対して積層されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高精度、高密度に形成された円筒状のチューブを具備したインクジェットヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施例)
図1は本発明の第1の実施例であるインクジェットヘッドの概略図である。
【0014】
本実施例のインクジェットヘッドは、複数のノズル2が形成されているノズルプレート1に円筒状チューブ5を固定保持するための固定用プレート3が積層して配置されている。
【0015】
複数のノズル2の断面形状は、いずれも同一の形状を有しており、インクが流入する流入側2aからインクが吐出される吐出側2bに向けて窄まった形状に形成されている。ノズルプレート1に形成された各ノズル2は所定のピッチP1の間隔を空けて形成されている。ノズル2の形成方法は、ノズルプレート1の材質により異なってくる。本実施例では、ノズルプレート1として、ポリイミドを基体とし、その上にテフロン(登録商標)をスピンコートにより0.1μmコーティングした。次に、裏面に金属のマスクを位置決めした後、レーザ照射によりノズル2を形成した。
【0016】
固定用プレート3には、円筒状チューブ5の他端側5cを挿入して固定するための複数の穴4が形成されている。各穴4の内径は、円筒状チューブ5の外径よりも大きく、本実施例における穴4の内径4aは、円筒状チューブ5の外径に対して+0.05mm大きいものとし、また、ノズル2の流入側2aの口径よりも大きいものとした。また、各穴4は所定のピッチP4の間隔を空けて形成されている。ノズルプレート1におけるノズル2のピッチP1と、固定用プレート3における穴4のピッチP4とは等しい。すなわち、ノズルプレート1の各ノズル2は、固定用プレート3の穴4が形成された位置に対応して形成されている。このような構成の固定用プレート3をノズルプレート1に積層し、さらに固定用プレート3の穴4の中心軸4bとノズル2の中心軸2cとが一致するように位置決めする。その後、固定用プレート3とノズルプレート1とを接着剤により接着した。接着剤としてはエポキシ系の材料を用いた。
【0017】
複数の円筒状チューブ5は、いずれもガラスから形成されており、本実施例では、ガラスの肉厚を50μmとした。円筒状チューブ5の一端側5bにはインクチューブ9が接続されており、インクチューブ9を介して、円筒状チューブ5の内部にインクが供給される。内部に供給されたインクは、他端側5cに配置されたノズル2より吐出される。各円筒状チューブ5は、固定用プレート3の穴4の内壁に固定されることによりピッチP4で配列される。
【0018】
円筒状チューブ5の外壁5dであって、一端側5bと他端側5cとの間にはエネルギー変換素子である円筒状の圧電素子6が設けられている。この圧電素子6は、チューブの外壁5dの一部を変形させるためのものである。圧電素子6は、円筒状チューブ5を変形させインクに圧力を印加するためのエネルギー変換素子であり、その材質はPZTからなる。圧電素子6の形成方法は以下のとおりである。まず、圧電体を円柱状もしくは円筒状の型にてプレス加工し、その後、焼成する。その後、中心部に機械加工により穿孔、もしくは内径加工し、所望の肉厚の円筒状圧電体を形成する。さらにその後、下電極と上電極をめっき等により形成する。このように形成した円筒状の圧電素子6を円筒状チューブ5に接着固定している。接着剤にはエポキシ系接着剤を用いた。
【0019】
圧電素子6が形成されている複数の円筒状チューブ5は、円筒状チューブ5の吐出側が固定用プレート3の穴4内に挿入されている。円筒状チューブ5の他端側(吐出側とは反対側)は、固定治具7に挿入、固定されている。円筒状チューブ5は、円筒状チューブ5の中心軸5aとノズル2の中心軸2cとが一致するように位置決めされた後、固定治具7に接着固定される。接着剤には、エポキシ系接着剤を用いた。圧電素子6は、固定用プレート3と固定治具7との間に位置している。円筒状チューブ5の他端には、インクを供給するためのインクチューブ9が接続されている。すなわち、固定治具7は、圧電素子6とインクチューブ9との間に位置している。このインクチューブ9は、円筒状チューブ5に接続されている側との反対側が不図示のインクタンクに接続されている。
【0020】
本実施例のインクジェットヘッドは、以下のようにしてノズル2からインクを吐出する。インクは、不図示のインクタンクからインクチューブ9を介して円筒状チューブ5内に供給される。そして、円筒状チューブ5内にインクが供給された状態で圧電素子6に電圧が印加される。圧電素子6に電圧が印加されることで円筒状チューブ5の内径が縮む方向に変形する。これにより、円筒状チューブ5内のインクが加圧され、インクはノズル2の方向に押されて、最終的にノズル2からインクが吐出される。電圧のパルスパターンはインクの粘度や表面張力の物性値や所望の吐出量に対し、最適化が図られる。
【0021】
上述した製造方法により製造された本実施例のインクジェットヘッドは、以下の効果を奏する。
【0022】
本実施例のインクジェットヘッドは、複数のノズル2が同一のノズルプレート1上に形成されている。このため、ノズル間のノズルピッチや、ノズル2の形状は同一のものを形成することができる。インクの吐出状態にもっとも影響を与えるのはノズルの状態であるが、各ノズル2の形状が比較的同一形状に加工することができるため、各ノズル2におけるインクの吐出状態を均一なものとすることが可能となる。
【0023】
さらに、本実施例の場合、圧電素子6の特性評価を、インクジェットヘッドに組み込む前に予め行うことができるため、良品の圧電素子6を備えた円筒状チューブ5のみ予め選別することが可能となる。
【0024】
さらに、本実施例のインクジェットヘッドは、円筒状チューブ5がインク供給側にて固定治具7に位置決め固定されている。このため、ノズル2の中心軸と円筒状チューブ5の中心軸とを一致させるように組み立てることが可能となる。その結果、吐出したインク液滴の飛翔方向を、ノズル2の中心とほぼ同一方向とすることが可能となり、インクの着弾精度を向上させることができる。
【0025】
また、円筒状チューブ5が固定治具7に固定されていることで、圧電素子6により円筒状チューブ5を変形させる際に生じる振動を抑えることが可能となり、その結果、より高周波数でインクを吐出することが可能となる。
【0026】
なお、本実施例のインクジェットヘッドを外部の電源を用いて駆動し、インクの吐出を行い、ナノパルス光源を利用したストロボ観察系で液滴の状態及び安定性を確認した。これによると、複数のノズルから吐出されるインクの吐出方向のばらつきはほとんど観察されず、また、その吐出状態の安定性も良好であった。また、駆動周波数に対する安定性も非常に安定であり、10kHzまで問題なく吐出できることを確認した。
(第2の実施例)
図2は、本発明の第2の実施例であるインクジェットヘッドの概略図である。なお、本実施例のインクジェットヘッドの製造方法及び構造は、基本的には第1の実施例と同様であるため、以下の説明では、第1の実施例と異なる点のみ説明するものとする。
【0027】
本実施例の圧電素子6は、例えば、特開昭59−80361号公報に記載のエアロゾルデポジッション法により形成されている。圧電素子に電圧を印加するための下電極は圧電素子を形成する前にスパッタ法などにより形成し、その後圧電素子を形成し、最後に上電極をスパッタ法などにより形成する。
【0028】
第1の実施例では、円筒状チューブ5には、ノズル2が形成された側とは反対側に、インクを供給するためのインクチューブ9を有する構成を例示した。これに対して、本実施例に示すインクジェットヘッドでは、個々の円筒状チューブ5にインクチューブ9を備える構成ではなく、インクを供給するための共通インク室10が複数の円筒状チューブ5に接続されている例を示す。共通インク室10には、インク供給用の供給チューブ11が接続されている。また、共通インク室10内には、フィルタが設けられている。
【0029】
本実施例のインクジェットヘッドを外部の電源を用いて駆動し、インクの吐出を行い、ナノパルス光源を利用したストロボ観察系で液滴の状態及び安定性を確認した。これによると、複数のノズルから吐出されるインクの吐出方向のばらつきはほとんど観察されず、また、その吐出状態の安定性も良好であった。また、駆動周波数に対する安定性も非常に安定であり、10kHzまで問題なく吐出できることを確認した。また、バルクの圧電体に比べて駆動周波数に対する安定性もさらに安定化され、15kHzまで問題なく吐出できることを確認した。
【0030】
本実施例のインクジェットヘッドは、圧電素子6をエアロゾルデポジッション法で形成している。このため、圧電素子6の肉厚を薄くすることができ、よって、より高密度でインクジェットヘッドを形成することが可能となる。また、本実施例のインクジェットヘッドは、円管状チューブ5内に供給するインクを貯留するための共通インク室10を有する。共通インク室10を設けることによりインク供給系のフィルタの共通化や簡便化が達成される。
【0031】
さらに、本実施例のインクジェットヘッドは、図3に示すように、ノズルプレート1と固定用プレート3との間に中間板12を挟んで接着する構成としてもよい。中間板12には、固定用プレート3の各穴4に対応する位置に連通穴13が形成されている。中間板12は、連通穴13の中心軸13aがノズル2の中心軸2cと一致するようにして、ノズルプレート1と固定用プレート3とに挟持されている。連通穴13の中心軸13aと円管状チューブ5の中心軸5aも一致している。なお、連通穴13の内径13bは、ノズルプレート1の流入側2aの口径よりも大きく、かつ固定用プレート3の穴4の内径4aよりも小さい。この中間板12は、円筒状チューブ5のコンダクタンスとノズル2のコンダクタンスとの中間のコンダクタンスを備えるものとしてもよい。このような中間板12を設けることで、インクの流れの乱れを抑制することができ、より高周波数で安定に動作することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施例のインクジェットヘッドの概略図である。
【図2】本発明の第2の実施例のインクジェットヘッドの概略図である。
【図3】本発明の第2の実施例における他の構成のインクジェットヘッドの概略図である。
【図4】グールド方式のインクジェットヘッドの一従来例における単ノズルの概略図である。
【図5】図4に示すノズルを備えたインクジェットヘッドの一従来例の概略図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ノズルプレート
2 ノズル
3 固定用プレート
4 穴
5 円管状チューブ
5b 一端側
5c 他端側
5d 外壁
6 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスからなり、一端側から内部にインクが供給される複数のチューブと、前記チューブの外壁を変形させて前記チューブの内部に供給されたインクに圧力を印加する、前記チューブの外壁に設けられたエネルギー変換素子とを有するインクジェットヘッドにおいて、
複数の穴が所定のピッチで形成された固定用プレートであって、前記チューブの他端側が前記穴に挿入され、かつ固定されている固定用プレートと、
前記固定用プレートの各前記穴が形成されたそれぞれの位置と対応する位置にノズルが形成され、前記固定用プレートに対して積層されたノズルプレートと、を有することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記チューブの中心軸と、前記ノズルプレートの前記ノズルの中心軸とが一致するように前記チューブを固定する固定治具を有する、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
各前記チューブの各前記一端側に接続され、各前記チューブ内に供給するインクを貯留する共通インク室を有する、請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ノズルにおける前記固定用プレート側の口径よりも大きく、かつ前記固定用プレートの前記穴の内径よりも小さい径の貫通穴が、前記固定用プレートの前記穴が形成された位置と対応する位置に形成された中間板を有し、前記中間板は、前記固定用プレートと前記ノズルプレートとの間に挟持されている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記チューブは、前記固定用プレートの前記穴の内壁に接着剤により固定されている、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記エネルギー変換素子が圧電素子からなる、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記圧電素子がエアロゾルデポジッション法により形成されている、請求項6に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−149404(P2010−149404A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330603(P2008−330603)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】