説明

インクジェット印刷機における印刷動作中の休止機能の実施方法

【課題】休止機能の開始後における温度および環境空気の印刷材料ウェブへの不所望の影響が最小になる方法を提供することである。
【解決手段】印刷ヘッドを有する印刷横バーを備えた印刷ユニットにより印刷材料ウェブを印刷し、ウェブ張力センサによって前記印刷材料ウェブのウェブ張力の実際値を測定し、印刷動作時に、前記ウェブ張力の実際値を前記印刷材料ウェブの動作張力の所定の動作目標値に制御し、休止機能の開始とともに前記印刷材料ウェブのウェブ張力をさらに制御して、前記印刷材料ウェブのウェブ張力の目標値を、前記印刷材料ウェブが休止後に当該休止の開始前に取っていた前記印刷ヘッドに対する位置を取るように変化し、休止の終了後、前記印刷材料ウェブのウェブ張力の実際値を前記印刷材料ウェブのウェブ張力の動作目標値に再び制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
種々の材料、たとえば紙からなるベルト状の記録担体である印刷材料ウェブを1つまたは複数の色で印刷するためにインクジェット印刷機が使用される。
【背景技術】
【0002】
このようなインクジェット印刷機の構造はたとえば特許文献1から公知である。ドロップオンデマンド方式(DoD)で動作するインクジェット印刷機は、インクチャネルを含むノズルを備えた1つまたは複数の印刷ヘッドを有し、ノズルのアクチュエータが印刷制御部により制御され、インキ滴が印刷材料ウェブの方向に励振され、インキ滴が印刷材料ウェブの方向に向けられ、そこで印刷画像に対して圧点を加える。アクチュエータはインキ滴を熱的に(バブルジェット)または圧電的に形成することができる。
【0003】
印刷材料ウェブを印刷する際には、印刷動作中に印刷材料ウェブを休止機能で保持することがしばしば必要である。これはたとえば印刷ジョブの校正後に見当品質をコントロールするため、または印刷材料ウェブの後処理後に問題を除去するためである。印刷材料ウェブの再始動後に、休止機能のスイッチオン後に印刷ヘッドの直下にあったウェブ区間に印刷画像障害が発生することがある。インクジェット印刷機、たとえばインクジェットシステムでは転写ゾーンが比較的大きいため、とくにカラー印刷では休止により発生した印刷画像障害が多数の刷り損じの原因となる。発生した印刷画像欠陥は、印刷画像歪みまたは色見当誤差である。その原因は、印刷材料ウェブの膨張または収縮が休止中に生じ、およびこれと結び付いた印刷材料ウェブの位置変化が印刷ヘッドの下に生じることである。
【0004】
図1に基づいてこれらの問題を説明する。図示されているのは印刷機DRのうち印刷ユニット1と印刷制御部2である。印刷材料ウェブ3に沿って印刷ユニット1が配置されており、この印刷ユニット1は印刷材料ウェブ3の搬送方向に順次並んだ印刷ヘッド5を備える印刷横バー4を有する。カラー印刷の場合には、たとえば印刷すべき色ごとにそれぞれ1つの印刷横バー4を設けることができる。印刷材料ウェブ3はアウトレットドラム9によって印刷横バー4を通過し、このとき印刷材料ウェブはサドル上で案内ドラム8と当接する。印刷ユニット1の入力端には回転数検出ドラム6が配置されており、この回転数検出ドラム6は印刷材料ウェブ3により駆動され、印刷材料ウェブ3の送り運動に依存して回転数パルスを形成する。この回転数パルスは印刷機制御部2に供給され、個々の印刷ヘッド5において印刷過程を開始する時点を設定するために印刷機制御部2によって使用される。印刷材料ウェブ3は、回転数検出ドラム6の前に配置された駆動ドラム7によって回転数検出ドラム6に供給される。
【0005】
図1には、たとえば印刷装置DRの静止状態で印刷材料ウェブ3が印刷装置DRを通過する際に個々のウェブ区間BAにおいて、印刷ユニット1または環境空気によってどのように影響を受け得るかが原則的に示されている。駆動ドラム7と回転数検出ドラム6との間のウェブ区間BA1では印刷材料ウェブ3が環境空気に曝され、その結果、ここでは印刷材料ウェブ3の膨張が環境空気の湿気により発生し得る。しかしこれによる印刷材料ウェブ3の長さ変化は、回転数検出ドラム6によっては補償されない。回転数検出ドラム6の後方、印刷ユニット1までのウェブ区間BA2では環境空気により印刷材料ウェブ3の膨張が発生することがある。しかしこの膨張は回転数検出ドラム6によって考慮されないままである。このことは印刷ユニット1の印刷ヘッド5の下方のウェブ区間BA3に対しても当てはまる。そこでは印刷材料ウェブ3が印刷ヘッド5の動作温度のため収縮することがある。しかし印刷材料ウェブ3も環境空気に曝され、そのためとりわけ印刷横バー4間の間隔が大きいとウェブ区間3が環境空気の湿気のため膨張することがある。両方の影響は重なり合う。これにより印刷材料ウェブ3は駆動ドラムからアウトレットドラム9までに種々の環境の影響に曝され、これらは印刷ウェブ3の収縮または膨張を引き起こし得る。このことは上記に述べた印刷画像エラーを引き起こし得る。とりわけ印刷動作中の休止後、印刷過程が再びスタートされるときに引き起こし得る。
【0006】
したがって休止機能の開始時には、印刷材料ウェブ3への以下の影響に注意すべきである。
・印刷材料ウェブ3と環境空気との温度差および湿度差、これには印刷材料ウェブ3の膨張または収縮が随伴する。
・印刷ヘッド5と印刷材料ウェブ3との温度差、これには印刷材料ウェブ3の収縮が随伴する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第0788882号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の基礎とする課題は、休止機能の開始後における温度および環境空気の印刷材料ウェブ3への不所望の影響、およびとりわけ印刷休止終了後の印刷画像への不所望の影響が最小になる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1の特徴によって解決される。
【0010】
本発明によればウェブ張力センサにより印刷材料ウェブのウェブ張力の実際値が測定され、ウェブ張力の実際値がウェブ張力の所定の目標値(以下、動作目標値とする)に制御される。印刷材料ウェブのウェブ張力のこの制御は、印刷休止中も行われる。休止機能を開始すると印刷材料ウェブのウェブ張力の目標値が、印刷材料ウェブが休止後に休止の開始前に取っていた印刷ヘッドに対する位置を取るように動作目標値から変化される。休止の終了後、印刷材料ウェブのウェブ張力の実際値がウェブ張力の動作目標値に再び制御される。
【0011】
本願発明の有利な改善形態は従属請求項から明らかとなる。
【0012】
印刷休止中に印刷材料ウェブの膨張が発生すると、ウェブ張力の目標値が休止機能の開始後に低下される。反対に、印刷休止中に印刷材料ウェブの収縮が発生すると、ウェブ張力の目標値が休止機能の開始後に上昇される。
【0013】
本発明の方法の利点は、休止の終了後に印刷ユニット下には休止前に印刷ヘッドの下にあった印刷材料ウェブのウェブ区間が印刷ユニットの下にあることである。この結果は、印刷材料ウェブのウェブ張力を制御するために使用される印刷機制御部によって単独で達成され、付加的なコンポーネントを必要としない。
【0014】
図面に示された実施例に基づき、本発明をさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インクジェット印刷機の印刷ユニットの基本図である。
【図2】印刷機制御部内に配置された制御回路の基本図であり、この制御回路は印刷機内での印刷材料ウェブの搬送を制御する。
【図3】印刷材料ウェブの送り速度Vと印刷材料ウェブのウェブ張力Sを時間tについて示す線図である。
【図4】印刷材料ウェブの送り速度Vと印刷材料ウェブのウェブ張力Sを時間tについて示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を図1に関連してさらに説明する。
【0017】
図1の印刷機DRはさらにウェブ張力センサ10を有し、これは印刷材料ウェブ3に隣接して、たとえば駆動ドラム7と回転数検出ドラム6との間に配置されている。ウェブ張力センサ10により検出された印刷材料ウェブのウェブ張力の実際値は、印刷動作中にウェブ張力の所定の目標値、すなわち動作目標値と比較され、実際値が目標値から偏差する場合には、たとえばアウトレットドラム9の回転数を調整することにより印刷材料ウェブ3のウェブ張力を再び動作目標値に制御することができる。このために必要な制御回路RSは印刷機制御部2内に配置することができる。制御回路RSの実施例がブロック回路図で図2に示されている。ここには印刷ユニット1を通る印刷材料ウェブ3の経過と制御回路RSだけが示されている。印刷材料ウェブ3は備蓄ローラ11から駆動ドラム7によって引き出される。そのために駆動ドラム78は、制御回路RSにある第1のサーボ増幅器SV1によって制御される。アウトレットドラム9も同様に制御回路RSにある第2のサーボ増幅器SV2によって駆動される。このサーボ増幅器はたとえば電子的シャフト12を介して第1のサーボ増幅器SV1と結合されており、これによりアウトレットドラム9は駆動ドラム7と同期している。ウェブ張力センサ10により測定されたウェブ張力の実際値は、この実施例では第2のサーボ増幅器SV2に供給され、このサーボ増幅器にはウェブ張力の目標値も供給される。第2のサーボ増幅器SV2に含まれる制御器13はウェブ張力の実際値を目標値に制御する。目標値は、印刷動作に整合された所定の動作目標値である。たとえばウェブ張力の実際値が過度に小さいと、印刷材料ウェブ3のウェブ張力の目標値に達するまでアウトレットドラム9が加速される。同じことがウェブ張力の実際値が過度に大きい場合にも当てはまる。この場合、ウェブ張力の目標値に達するまでアウトレットドラム9の回転数が低減される。
【0018】
実施例では、駆動ドラム7がマスタ駆動部であり、アウトレットドラム9はスレーブモードで駆動ドラム7にしたがう。しかしアウトレットドラム9がマスタ駆動部として使用され、駆動ドラム7がスレーブモードで動作し、ウェブ張力用の制御器が第1のサーボ増幅器SV1に配置されてもよい。
【0019】
印刷動作が休止に移行すると、冒頭に述べた問題が発生する。たとえば印刷材料ウェブ3は湿気に曝されると休止中に膨張することがあり、または印刷材料ウェブ3が熱に曝されると収縮することがある。
【0020】
・第1の場合、印刷休止での印刷材料ウェブ3の膨張はウェブ張力を減少させる。制御回路RSは相変わらず活動しているから、印刷休止中に本発明を適用しなければ印刷材料ウェブ3のウェブ張力が再び動作目標値にもたらされ、印刷材料ウェブ3はアウトレットドラム9により前方に送られる(図1の矢印PF1)。
【0021】
・第2の場合、印刷休止での印刷材料ウェブ3の収縮はウェブ張力を増大させる。ここでは本発明を使用しなければ、印刷休止中に制御回路RSによって印刷材料ウェブ3のウェブ張力が、ウェブ張力の動作目標値に達するまで減少され、印刷材料ウェブ3がアウトレットドラム9によって逆方向に移動される(図1では矢印PF1とは反対の矢印PF2)。
【0022】
両方の場合とも休止中に印刷材料ウェブ3が移動され、休止の終了後には印刷ヘッド5に対する印刷材料ウェブ3の位置が、休止前の印刷材料ウェブ3の位置と比較して変化している。結果として、印刷ヘッド5により形成される印刷材料ウェブ3を休止後に印刷する圧点がこの圧点の目標位置に対してずらされ、印刷画像エラーが発生する。
【0023】
この印刷画像エラーを回避するために本発明では、ウェブ張力を制御する駆動ユニットにおいてウェブ張力の目標値を休止の開始時に動作目標値から出発して変化させ、休止終了後の印刷ヘッド5下の印刷材料ウェブ3の位置が休止前の位置に対応するようにする。
【0024】
第1の場合(印刷材料ウェブ3の膨張)、ウェブ張力の目標値は休止の開始時に動作目標値から出発して低下され、制御器13は、休止終了後の印刷材料ウェブ3の位置が休止前に存在していた印刷材料ウェブ3の位置と一致するように調整する。こうして膨張によって形成された印刷材料ウェブ3の延長が、休止終了後の印刷材料ウェブ3の位置のずれを引き起こさない。アウトレットドラム9は印刷材料ウェブ3を、膨張による延長が休止の経過後に補償されるよう引っ張る。これに対する例が図3に示されている。図3には、時間t上に印刷材料ウェブ3の速度V、印刷材料ウェブ3のウェブ張力S、および休止クロックPがプロットされている。休止の開始とともに印刷材料ウェブ3の速度Vがゼロに戻る。印刷材料ウェブ3が保持されると、湿気のため印刷材料ウェブ3の膨張が開始する。同時にウェブ張力の目標値が低減され、休止の終了後には印刷材料ウェブ3の位置が休止前に印刷材料ウェブ3が取っていた位置に対応するようウェブ張力が制御される。休止の終了後、印刷材料ウェブの目標値は動作目標値に再び高められる。
【0025】
温度上昇による印刷材料ウェブ3の収縮の際の関係が図4に示されている。ここでも印刷材料ウェブ3の速度V、ウェブ張力Sおよび休止信号Pが時間tの上にプロットされている。印刷材料ウェブ3は休止中に温度上昇のため収縮するから、ウェブ張力の目標値が高められ、印刷材料ウェブ3は、制御器13による印刷材料ウェブ3のウェブ張力の制御を介して印刷過程の再開時に、休止前に存在していた位置を取る。これにより印刷エラーが排除される。
【0026】
同等の結果が、第1の場合に休止の開始前に印刷材料ウェブ3のウェブ張力の目標値を高め、休止中にウェブ張力の目標値を動作目標値に置くことによっても達成することができる。
【0027】
対応することが第2の場合にも当てはまる。ここでは休止の開始前に印刷材料ウェブ3のウェブ張力の目標値が低下され、休止中にウェブ張力の目標値が動作目標値に置かれる。
【0028】
印刷材料ウェブ3の長さ変化と湿気または温度との依存関係は印刷材料ウェブ3の種類ごとに既知である。または使用事例では印刷機ごとおよび印刷材料ウェブの種類ごとに測定により求め、この測定値にウェブ張力の目標値を割り当てることができる。次にこの目標値を制御回路RSに記憶し、印刷動作で使用する印刷材料ウェブ3の種類に応じて、ウェブ張力の目標値として休止機能の開始時にたとえばアウトレットドラム9の制御器13に供給することができる。
【符号の説明】
【0029】
DR 印刷機
SV サーボ増幅器
RS 制御回路
1 印刷ユニット
2 印刷機制御部
3 印刷材料ウェブ
4 印刷横バー
5 印刷ヘッド
6 回転数検出ドラム
7 駆動ドラム
8 案内サドル
9 アウトレットドラム
10 ウェブ張力センサ
11 印刷材料ウェブ用の備蓄ロール
12 電子的シャフト
13 制御器
V 速度
t 時間
P 休止

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの印刷機(DR)を備えるインクジェット印刷システムの印刷動作で休止機能を実施する方法であって、
印刷ヘッド(5)を有する印刷横バー(4)を備えた印刷ユニット(1)により印刷材料ウェブ(3)を印刷し、
ウェブ張力センサ(10)によって前記印刷材料ウェブ(3)のウェブ張力の実際値を測定し、
印刷動作時に、前記ウェブ張力の実際値を前記印刷材料ウェブ(3)の動作張力の所定の動作目標値に制御し、
休止機能の開始とともに前記印刷材料ウェブ(3)のウェブ張力をさらに制御して、前記印刷材料ウェブ(3)が休止後に当該休止の開始前に取っていた前記印刷ヘッド(5)に対する位置を取るように前記印刷材料ウェブ(3)のウェブ張力の目標値を変化させ、
休止の終了後、前記印刷材料ウェブ(3)のウェブ張力の実際値を前記印刷材料ウェブ(3)のウェブ張力の動作目標値へと再び制御する方法。
【請求項2】
休止中に印刷材料ウェブ(3)の膨張が発生する場合、前記印刷材料ウェブ(3)のウェブ張力の目標値を、休止機能の開始後に前記動作目標値よりも低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
膨張による前記印刷材料ウェブ(3)の長さ変化を補償するために、前記印刷材料ウェブ(3)のウェブ張力の目標値を、休止機能の開始前に前記動作目標値よりも上昇させ、
休止の開始後に前記ウェブ張力を再び前記動作目標値に制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
休止中に前記印刷材料ウェブ(3)の収縮が発生する場合、前記ウェブ張力の目標値を休止の開始後に前記動作目標値よりも高める、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
収縮による前記印刷材料ウェブ(3)の長さ変化を補償するために、前記印刷材料ウェブ(3)のウェブ張力の目標値を、休止機能の開始前に前記動作目標値よりも低下させ、
休止の開始後に前記ウェブ張力を再び前記動作目標値に制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記印刷ユニット(1)を通る前記印刷材料ウェブ(3)の搬送を制御回路(RS)によって制御し、
前記制御回路(RS)は、前記印刷ユニット(1)の出口に配置されたアウトレットドラム(9)を、印刷動作中および印刷休止時に前記印刷材料ウェブ(3)のウェブ張力が所定の目標値を取るように制御する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−86513(P2013−86513A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232549(P2012−232549)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(397018925)オーセ プリンティング システムズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (68)
【氏名又は名称原語表記】Oce Printing Systems GmbH
【住所又は居所原語表記】Siemensallee 2, D−85586 Poing, Germany
【Fターム(参考)】