説明

インクジェット印刷装置

【課題】電力消費量を抑制しつつ、用紙がインクジェットヘッドに接触することを防止する。
【解決手段】画像データに基づいてインクを吐出するインクジェットヘッド110〜117を、搬送路上を搬送される印刷用紙Wの搬送方向に向かってインクのインク色毎にそれぞれ複数配置したインクジェットユニット31を備えたインクジェット印刷装置1であって、搬送ベルト133面上から搬送方向における最下流のインクジェットヘッド116〜117までの距離が、搬送ベルト133面上から、インクジェット110〜115のうちいずれか1つのインクジェットまでの距離より長くなるように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドによりインクを吐出して印刷用紙に印刷を行うインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットヘッドによりインクを吐出して印刷用紙に印刷を行うインクジェット印刷装置では、水性インクが用いられることが多くなっている。なお、ここでいう水性インクとは、水分を含むインクのことであり、O/W(Oil in Water)型及びW/O(Water in Oil)型のエマルションインクをも含む概念である。
【0003】
ところで、このような水性インクを使用したインクジェット印刷装置では、水性インク中の水含有率が高くなると、用紙に含まれるセルロースの水素結合の間に水が入り、用紙の繊維間の距離が長くなるので、用紙の表面が波打つように変形する。
【0004】
このように用紙が変形すると、用紙を搬送する際、変形した用紙がインクジェットヘッドに接触する場合がある。変形した用紙がインクジェットヘッドに接触すると、紙ジャムを発生させたり、印刷用紙を汚したり、さらにはノズルプレートを損傷させる場合があった。
【0005】
そこで、特許文献1には、静電吸引プラテンを備え、記録環境によって静電吸引プラテンの設定電圧値を決定する記録装置が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、開閉自在な手差し給紙トレイの開角度に応じてインクキャリッジと用紙の間隔を調整するインクジェットプリンターが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−297777号公報
【特許文献2】特開2001−191607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の記録装置では、例えば、水性インクが吐出されることにより用紙の水含有率が高くなり用紙が大きく変形した場合、設定電圧値が大きくなるように決定する必要があるので、消費電力が大きくなるという課題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載のインクジェットプリンターでは、開閉自在な手差し給紙トレイの開角度に応じてインクキャリッジと用紙の間隔を調整するので、用紙が大きく変形した場合、用紙がインクジェットヘッドに接触する場合があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、電力消費量を抑制しつつ、用紙がインクジェットヘッドに接触することを防止するインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴は、画像データに基づいてインクを吐出するインクジェットヘッドを、搬送路上を搬送される印刷用紙の搬送方向に向かって前記インクのインク色毎にそれぞれ複数配置したインクジェットユニットを備えたインクジェット印刷装置であって、前記搬送路面上から前記搬送方向における最下流の前記インクジェットヘッドまでの距離が、前記搬送路面上から他のいずれか1つの前記インクジェットまでの距離より長くなるように配置されたことにある。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴は、前記印刷用紙の色に対して視認性の低い1色以上のインク色の前記インクジェットヘッドが前記搬送方向における下流側に配置されたことにある。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第3の特徴は、前記搬送路下部に備えられ、前記搬送される印刷用紙を吸引する複数の用紙吸引部を更に備え、前記複数の用紙吸引部のうち、前記搬送方向における下流側に配置された用紙吸引部ほど、前記印刷用紙を吸引する吸引力が強いことにある。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第4の特徴は、画像データに基づいてインクを吐出するインクジェットヘッドを、搬送路上を搬送される印刷用紙の搬送方向に向かって前記インクのインク色毎にそれぞれ複数配置したインクジェットユニットを備えたインクジェット印刷装置であって、前記搬送路下部に、前記搬送方向における下流側ほど、前記印刷用紙を吸引する吸引力が強くなるように配置された複数の用紙吸引部を備えたことにある。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第5の特徴は、前記画像データの印字率が高い程、前記印刷用紙の吸引力を強くするように前記複数の用紙吸引部を制御する駆動制御手段とを更に備えたことにある。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るインクジェット印刷装置によれば、電力消費量を抑制しつつ、用紙がインクジェットヘッドに接触することを防止する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置の構成を示す構成図である。
【図2】(a)は、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置が備える印刷部の平面図であり、(b)は、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置が備える印刷部の側面図である。
【図3】本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置の機能構成を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の処理手順を示したフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置が備えるROMに記憶された出力電圧関係式を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
<インクジェット印刷装置の全体構成>
本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1の構成について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1の構成を示す構成図である。
【0021】
図1に示すように、インクジェット印刷装置1は、サイド給紙部10と、内部給紙部20と、印刷部30と、排紙部40と、反転部50とを備えている。
【0022】
サイド給紙部10は、印刷用紙Wが積層される給紙台11と、この給紙台11から最上位置の印刷用紙Wのみを給紙搬送路FR上へ搬送させる1次給紙部12と、この1次給紙部12によって搬送された印刷用紙Wを循環搬送路CR上へ搬送する2次給紙部14とを備えている。
【0023】
内部給紙部20は、印刷用紙Wが積層される給紙台21aと、この給紙台21aから最上位置の印刷用紙Wのみを給紙搬送路FR上へ搬送させる1次給紙部22aと、印刷用紙Wが積層される給紙台21bと、この給紙台21bから最上位置の印刷用紙Wのみを給紙搬送路FR上へ搬送させる1次給紙部22bと、印刷用紙Wが積層される給紙台21cと、この給紙台21cから最上位置の印刷用紙Wのみを給紙搬送路FR上へ搬送させる1次給紙部22cと、印刷用紙Wが積層される給紙台21dと、この給紙台21dから最上位置の印刷用紙Wのみを給紙搬送路FR上へ搬送させる1次給紙部22dとを備えている。
【0024】
このように、2次給紙部14には、サイド給紙部10及び内部給紙部20から印刷用紙Wが搬送され、さらに、後述する反転部50からも印刷用紙Wが搬送される。
【0025】
そのため、搬送方向における2次給紙部14の手前には、給紙された印刷用紙Wの搬送経路と、一方の面が印刷された用紙が循環して搬送されてくる経路とが合流する合流地点が存在する。この合流地点を基準に、給紙機構側の経路を給紙搬送路FRと称し、それ以外の経路を循環搬送路CRと称している。
【0026】
印刷部30は、複数の印字ヘッドが組み込まれたインクジェットヘッドユニット31と、インクジェットヘッドユニット31の対向面に設けられた環状の搬送ベルト133とを備えており、2次給紙部14により給紙された印刷用紙Wは、環状の搬送ベルト133内に設置された後述する吸引ファン131,132によって搬送ベルト133上に吸引され、所定の搬送速度で搬送されながら、インクジェットヘッドユニット31から吐出されたインクにより印刷用紙Wに印刷される。
【0027】
印刷部30により印刷された印刷用紙Wは、循環搬送路CR上に配置された搬送ローラ等によって筐体内を循環搬送路CR上を搬送される。循環搬送路CR上には、循環搬送路CR上を搬送された印刷用紙Wを排紙部40へ誘導するか、又は循環搬送路CR上を再循環させるかを切り替える切り替え機構43が備えられている。
【0028】
切り替え機構43は、印刷用紙Wを、後述する排紙部40又は反転部50のいずれか1方へ誘導するために、切り替える。
【0029】
排紙部40は、インクジェット印刷装置1の筐体から突出したトレイ形状をした排紙台41と、排紙台41に印刷用紙Wを誘導する一対の排紙ローラ42とを有している。そして、切り替え機構43により排紙部40に誘導された印刷用紙Wは、排紙ローラ42により排紙台41に搬送され、排紙台41に印刷面を下にして積載される。
【0030】
反転部50は、印刷用紙Wを反転させる反転台51と、循環搬送路CRから反転台51へ印刷用紙Wを搬送し、又は反転台51から循環搬送路CR上へ印刷用紙Wを搬送する反転ローラ52とを備えている。
【0031】
切り替え機構43により反転部50に誘導された印刷用紙Wは、反転ローラ52により循環搬送路CRから反転台51に搬送され、所定時間経過後、反転台51から循環搬送路CRへ搬送されることにより、循環搬送路CRに対して表裏が反転する。そして、表裏が反転された印刷用紙Wは、循環搬送路CR上に設けられた搬送ローラ53等の複数のローラにより循環搬送路CR上を印刷部30へ向かって搬送される。
【0032】
図2(a)は、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1が備える印刷部30の平面図であり、図2(b)は、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1が備える印刷部30の側面図である。
【0033】
図2(a)に示すように、インクジェットヘッドユニット31は、印刷用紙Wの搬送方向に向かって直交方向に複数のノズルが配列されたライン型の複数のインクジェットヘッド110〜117を有する。
【0034】
インクジェットヘッド110〜117は、搬送部32の上方に所定間隔で配置され、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色のインクを印刷用紙Wに吐出するようになっている。印刷時には、同一画素にこれらのインクを重畳させて吐出することにより、様々な色を形成していく。また、インクジェットヘッド110〜117には、インクタンクを有するインクカートリッジからインク供給路(いずれも図示せず)を経由してインクが供給されるようになっている。
【0035】
また、図2(b)に示すように、搬送部32は、周回する環状の搬送ベルト133と、搬送ベルト133を周回駆動させる駆動ローラ134と、駆動ローラ134を回転駆動させる搬送ベルトモータ136と、駆動ローラ134の従動ローラである搬送ベルトローラ135とを備える。搬送ベルト133は、多数の穴が空けられた無端ベルトからなり、搬送ベルト133の下部に設置された吸引ファン131,132により空気を穴から吸引することにより発生する負圧で印刷用紙Wを吸引し、印刷用紙Wを矢印Aの方向(搬送方向)に搬送する。
【0036】
また、インクジェットヘッド110〜117の印刷用紙Wの搬送方向手前には、紙ガイドローラー121〜129が設けられている。この紙ガイドローラー121〜129は、異なる径のガイドローラーを連結して一本のローラーとして形成したものであり、例えば、金属製のロッドを削り出すことにより成型される。具体的には、この紙ガイドローラー121は、径の大きい上流側ガイドローラー121aと、上流側ガイドローラー121aよりも径の小さい下流側ガイドローラー121bとを同一の回転軸上に交互に連結して配置した構成となっている。上流側ガイドローラー121aは、搬送方向において、各インクヘッド110の上流側に設けられている。一方、下流側ガイドローラー121bは、搬送方向において、各インクヘッド110の下流側に設けられ、搬送経路上面から所定距離離隔されて回転可能に軸支されている。また、紙ガイドローラー123〜129も、紙ガイドローラー121と同一構成を有する。
【0037】
このように、インクジェットヘッド110〜117は、印刷用紙Wの同一画素にブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色のインクを重畳させて吐出するので、印字率の高い画素では特に、搬送方向における下流程、印刷用紙Wは、インク中の水含有率が高くなる場合が多く、印刷用紙Wの表面が波打つように変形する。
【0038】
そのため、インクジェットヘッド110〜117のうち、特に搬送方向の下流側に配置されたインクジェットヘッド程、印刷用紙Wに接触する可能性が高かった。
【0039】
そこで、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1では、図2(b)に示すように、インクジェットヘッドユニット31は、印刷用紙Wの搬送方向における下流ほど、搬送ベルト133からの距離が長くなるように配置されている。
【0040】
具体的には、インクジェットヘッド110,111から搬送ベルト133までの距離を距離H1(=約1.5mm)とすると、インクジェットヘッド112,113から搬送ベルト133までの距離H2がH1より長く、インクジェットヘッド114,115から搬送ベルト133までの距離H3がH2より長く、インクジェットヘッド116,117から搬送ベルト133までの距離H4(第1の距離)がH3より長くなるようにそれぞれ配置されている。ここで、H4は、約3.0(mm)である。即ち、下記の(数式1)を満たすように、インクジェットヘッド110〜117が配置されている。
H1<H2<H3<H4 ・・・(数式1)
【0041】
このように、搬送ベルト133面上から搬送方向における最下流のインクジェットヘッド116〜117までの距離(H4)が、搬送ベルト133面上から、インクジェット110〜115のうちいずれか1つのインクジェットまでの距離より長くなるように配置されているので、電力消費量の増大を伴う制御を行うことなく、変形した印刷用紙Wがインクジェットヘッド110〜117に接触することを防止することができる。
【0042】
さらに、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1では、印刷用紙W搬送方向における下流の吸引ファンのほうが上流の吸引ファンよりも、印刷用紙Wを吸引する吸引力が強くなるように設定されている。具体的には、吸引ファン131の吸引力より吸引ファン132の吸引力の方が強くなるように、吸引ファン132の駆動装置への出力電圧を、吸引ファン131の駆動装置への出力電圧より高く設定している。
【0043】
これにより、インクジェットヘッド110〜117の印刷用紙Wの搬送方向における下流のほうが、強い吸引力で搬送ベルト133に吸引されるので、印刷用紙Wがインクジェットヘッド110〜117に接触することを防止することができる。
【0044】
また、インクジェットヘッド110〜117の印刷用紙Wの搬送方向手前には、紙ガイドローラー121〜129が設けられているので、インクジェットヘッド110〜117の印刷用紙Wの搬送方向における下流のほうが、強い吸引力で搬送ベルト133に吸引されることにより、印刷用紙Wの紙ガイドローラー121〜129への衝突を防止することができ、紙ジャムの発生を低減することができる。
【0045】
また、インクジェットヘッド110〜117は、印刷用紙Wの搬送方向において視認性の低いインク色のインクジェットヘッドが下流になるように、即ち、イエロー(Y)が最下流になるように配置されている。例えば、イエロー(Y)のように視認性の低いインク色では、印刷された画像に対するインクジェットヘッドから搬送ベルトまでの距離の影響度が小さいので、インクジェットヘッドから搬送ベルトまでの距離が離れても鮮明な画像を印刷することができる。
【0046】
<インクジェット印刷装置1の機能構成>
次に、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1の機能構成について説明する。
【0047】
図3は、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1の機能構成を示した図である。
【0048】
図3に示すように、インクジェット印刷装置1は、外部インタフェース部71と、ROM72と、RAM73と、インクジェットヘッドユニット31と、ドライバ74と、吸引ファン131,132と、搬送ベルトモータ136と、制御部75とを備える。これらの構成のうち、インクジェットヘッドユニット31と、吸引ファン131,132と、搬送ベルトモータ136とは、上述したので、説明を省略する。
【0049】
外部インタフェース部71は、外部機器に接続するためのインタフェース機器であり、例えば、外部機器より入力された印刷開始を要求する操作信号等の各種信号を制御部75に供給する。
【0050】
ROM72は、不揮発性半導体等で構成され、制御部75が実行する各種制御プログラム等を記憶している。また、ROM72は、制御部75が吸引ファン132の出力電圧を算出する際に用いられる全色印字率と出力電圧比との関係式を出力電圧関係式として記憶している。
【0051】
RAM73は、揮発性半導体等で構成され、制御部75が各種処理を実行する上で必要なデータ等を記憶する。また、RAM73は、外部インタフェース部71を介して外部機器より供給された操作信号に含まれるCMYK変換された画像データを記憶する。
【0052】
ドライバ74は、制御部75からの指示に基づいて、吸引ファン131,132と、搬送ベルトモータ136とを駆動させる。
【0053】
制御部75は、インクジェット印刷装置1は中枢的な制御を行う。また、制御部75は、その機能上、印字率算出部75aと、画像処理部75bと、駆動制御部75cとを備える。
【0054】
印字率算出部75aは、外部インタフェース部71から供給された操作信号に含まれる画像データに基づいて、インク色毎の印字率を算出し、この算出されたインク色毎の印字率を、全て加算することにより、全色印字率を算出する。
【0055】
画像処理部75bは、インクジェットヘッド110〜117の吐出タイミングを補正する。
【0056】
駆動制御部75cは、外部インタフェース部71から供給された操作信号に含まれる画像データに基づいて、印刷処理を実行する。
【0057】
また、駆動制御部75cは、画像データの印字率が高い程、印刷用紙Wの吸引力を強くするように吸引ファン131,132を制御する。具体的には、駆動制御部75cは、ROM72に記憶された出力電圧関係式に基づいて、印字率算出部75aにより算出された全色印字率に対応する出力電圧比を算出し、この算出された出力電圧比になるように出力電圧を算出し、この算出された出力電圧で吸引ファン131,132を制御する。
【0058】
<インクジェット印刷装置1の作用>
次に、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置1の作用について説明する。
【0059】
図4は、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置1の処理手順を示したフローチャートである。
【0060】
図4に示すように、制御部75は、印刷開始が要求されたか否かを判定する(ステップS101)。具体的には、制御部75は、外部インタフェース部71から、印刷を要求する操作信号が供給されたか否かを判定する。
【0061】
ステップS101において、印刷開始が要求されたと判定した場合(YESの場合)、制御部75の印字率算出部75aは、供給された操作信号に含まれる画像データに基づいて、インク色毎の印字率を算出する(ステップS103)。具体的には、印字率算出部75aは、インク色毎に、画像データの画素が、印字する画素(有色の画素のこと、以下、印字画素という)、又は印字しない画素(無色の画素のこと、以下、非印字画素という)のいずれであるかを判定し、全体の画素数に対する印字画素数の割合を、印字率として算出する。
【0062】
次に、印字率算出部75aは、ステップS103において算出したインク色毎の印字率を、全て加算することにより、全色印字率を算出する(ステップS105)。例えば、ステップS103において算出したブラック(K)の印字率が0(%)、シアン(C)の印字率が40(%)、マゼンダ(M)の印字率が60(%)、イエロー(Y)の印字率が30(%)であるとすると、全色印字率は130(%)となる。
【0063】
そして、制御部75の駆動制御部75cは、ステップS105において算出された全色印字率と、ROM72に記憶された出力電圧関係式とに基づいて、吸引ファン131,132の出力電圧を算出する(ステップS107)。
【0064】
図5は、ROM72に記憶された出力電圧関係式を示した図である。
【0065】
図5に示す出力電圧関係式201は、全色印字率と吸引ファン132の出力電圧の関係を示しており、出力電圧関係式202は、全色印字率と吸引ファン131の出力電圧の関係を示している。
【0066】
出力電圧関係式201は、全色印字率(%)が高い程出力電圧比(%)が高くなるように、そして、全色印字率が400(%)である場合、即ち、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の印字率がそれぞれ100(%)である場合、出力電圧比が100(%)となるように関係づけられている。
【0067】
出力電圧関係式202は、全色印字率(%)が高い程出力電圧比(%)が高くなるように、そして、全色印字率が400(%)である場合、即ち、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の印字率がそれぞれ100(%)である場合、出力電圧比が60(%)となるように関係づけられている。
【0068】
そこで、駆動制御部75cは、図5に示した出力電圧関係式に基づいて、ステップS105において算出された全色印字率に対応する出力電圧比を算出し、この算出された出力電圧比になるように出力電圧を算出する。
【0069】
例えば、駆動制御部75cは、ステップS105において算出された全色印字率が400(%)である場合、吸引ファン131の出力電圧を定格電圧の60(%)、吸引ファン132の出力電圧を定格電圧の100(%)になるように、出力電圧を算出する。
【0070】
次に、制御部75の画像処理部75bは、インクジェットヘッド110〜117の吐出タイミングを補正する(ステップS109)。
【0071】
上述したように、インクジェットヘッド110〜117の印刷用紙Wの搬送方向における下流ほど、インクジェットヘッド110〜117から搬送ベルト133までの距離が長くなるように配置されているので、インクジェットヘッド110〜117毎に、インクジェットヘッド110〜117から吐出されてから搬送ベルト133上を搬送されている印刷用紙Wに着弾するまでの時間が異なることとなる。
【0072】
そこで、制御部75の画像処理部75bは、この時間的なずれを補正する。具体的には、搬送速度をV1(mm/sec)、吐出された液滴の速度がV2(m/sec)とすると、駆動制御部75cは、搬送速度V1(=約630mm/sec)と、液滴速度V2(=約10m/sec)と、インクジェットヘッド110,111から搬送ベルト133までの距離H1〜H4とに基づいて、インクジェットヘッド110〜117から着弾するまでの時間的なずれにより印刷用紙Wに印刷する画素にずれが生じないように、インクジェットヘッド110〜117の吐出タイミングを補正する。即ち、画像処理部75bは、この時間的なずれ分だけ早く吐出するようにインクジェットヘッド110〜117の吐出タイミングを補正する。
【0073】
次に、制御部75の駆動制御部75cは、ステップS101において供給された操作信号に含まれる画像データに基づいて、印刷処理を実行する(ステップS111)。具体的には、制御部75の指示により、ドライバ74が、搬送ベルトモータ136を所定の搬送速度V1になるように回転させて印刷用紙Wを搬送させると共に、ステップS107において算出された出力電圧に基づいて、吸引ファン131,132を駆動する駆動装置を駆動して、搬送された印刷用紙Wを搬送ベルト133に吸引させる。そして、制御部75は、搬送された印刷用紙Wに対して、ステップS109により補正された吐出タイミングでインクジェットヘッド110〜117からインクを吐出させる。
【0074】
以上のように、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1によれば、搬送ベルト133面上から搬送方向における最下流のインクジェットヘッド116〜117までの距離(H4)が、搬送ベルト133面上から、インクジェット110〜115のうちいずれか1つのインクジェットまでの距離より長くなるように配置されているので、電力消費量の大幅な増大を伴うことなく、印刷用紙Wがインクジェットヘッド110〜117に接触することを防止することができる。
【0075】
また、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1では、吸引ファン131の吸引力より吸引ファン132の吸引力の方が強くなるように、吸引ファン132の駆動装置への出力電圧を、吸引ファン131の駆動装置への出力電圧より高く設定しているので、インクジェットヘッド110〜117の印刷用紙Wの搬送方向における下流のほうが、強い吸引力で搬送ベルト133に吸引される。これにより、吸引ファンの吸引力増加分に相当する電力消費量が増加する程度で、印刷用紙Wがインクジェットヘッド110〜117及び紙ガイドローラー121〜129に接触することを防止することができる。
【0076】
さらに、画像データの印字率が高い程、印刷用紙Wの吸引力を強くするように吸引ファン132を制御するので、印刷用紙Wの変形が大きい場合に効率よく強い吸引力で吸引する。そのため、電力消費量を抑制しつつ、印刷用紙Wがインクジェットヘッド110〜117及び紙ガイドローラー121〜129に接触することを防止することができる。
【0077】
なお、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1では、搬送ベルト133により搬送される印刷用紙Wを吸引する用紙吸引部として吸引ファン131,132を用いたが、これに限らない。
【0078】
例えば、導電性の金属板によって形成された複数の電極が備えられ、電力に印可される電圧に応じて搬送される印刷用紙Wの吸引力を可変することができる複数の静電吸引板を用いても良い。
【0079】
また、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1では、インクジェットヘッド110〜117の印刷用紙Wの搬送方向における下流ほど、インクジェットヘッド110〜117から搬送ベルト133までの距離が長くなるように配置したが、画像データの印字率が高い程、インクジェットヘッド110〜117から搬送ベルト133までの距離が長くなるように、インクジェットヘッド110〜117を上下方向に可動するようにしてもよい。
【0080】
また、制御部75は、インクジェットヘッド110〜117から搬送ベルト133までの距離が長い程、インクジェットヘッド110〜117の吐出電圧を高くするように、吐出電圧を補正するようにしてもよい。
【0081】
また、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1では、インクジェットヘッド110〜117は、印刷用紙Wの搬送方向において視認性の低いインク色のインクジェットヘッドが下流になるように、即ち、イエロー(Y)が最下流になるように配置したが、これに限らず、比較的視認性の低いマゼンダ(M)とイエロー(Y)とのいずれか一方が最下流になるように配置してもよいし、上流側から印刷用紙Wの色に対して視認性の高い順にインクジェットヘッドを配置するようにしてもよい。
【0082】
なお、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置1では、上述した(数式1)を満たすように、インクジェットヘッド110〜117が配置された構成としたが、これに限らない。具体的には、下記の(数式2)〜(数式6)を満たすように、インクジェットヘッド110〜117が配置されていてもよい。即ち、本発明は、搬送ベルト133面上から搬送方向における最下流のインクジェットヘッド116〜117までの距離(H4)が、搬送ベルト133面上から、インクジェット110〜115のうちいずれか1つのインクジェットまでの距離より長くなるように配置されていればよい。
H1=H2=H3<H4 ・・・(数式2)
H1<H2=H3=H4 ・・・(数式3)
H1=H2<H3=H4 ・・・(数式4)
H1>H2<H3=H4 かつH1≦H4 ・・・(数式5)
H1=H2<H3>H4 かつH2<H4 ・・・(数式6)
【0083】
これにより、電力消費量の大幅な増大を伴うことなく、印刷用紙Wがインクジェットヘッド110〜117に接触することを防止することができる。
【0084】
なお、本発明の一実施形態は、使用されるインクとして、水性インクのみならず、水性インクに比べれば、効果は低いものの、油性インクにも適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1…インクジェット印刷装置
10…サイド給紙部
20…内部給紙部
30…印刷部
31…インクジェットヘッドユニット
32…搬送部
40…排紙部
50…反転部
71…外部インタフェース部
72…ROM
73…RAM
74…ドライバ
75…制御部
75a…印字率算出部
75b…画像処理部
75c…駆動制御部
110〜117…インクジェットヘッド
121〜129…紙ガイドローラー
131,132…吸引ファン(用紙吸引部)
133…搬送ベルト
134…駆動ローラ
135…搬送ベルトローラ
136…搬送ベルトモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データに基づいてインクを吐出するインクジェットヘッドを、搬送路面上を搬送される印刷用紙の搬送方向に向かって前記インクのインク色毎にそれぞれ複数配置したインクジェットユニットを備えたインクジェット印刷装置であって、
前記搬送路面上から前記搬送方向における最下流の前記インクジェットヘッドまでの距離が、前記搬送路面上から他のいずれか1つの前記インクジェットまでの距離より長くなるように配置された
ことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記印刷用紙の色に対して視認性の低い1色以上のインク色の前記インクジェットヘッドが前記搬送方向における下流側に配置された
ことを特徴とする請求項1記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記搬送路下部に備えられ、前記搬送される印刷用紙を吸引する複数の用紙吸引部を更に備え、
前記複数の用紙吸引部のうち、前記搬送方向における下流側に配置された用紙吸引部ほど、前記印刷用紙を吸引する吸引力が強い
ことを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
画像データに基づいてインクを吐出するインクジェットヘッドを、搬送路上を搬送される印刷用紙の搬送方向に向かって前記インクのインク色毎にそれぞれ複数配置したインクジェットユニットを備えたインクジェット印刷装置であって、
前記搬送路下部に、前記搬送方向における下流側ほど、前記印刷用紙を吸引する吸引力が強くなるように配置された複数の用紙吸引部を、
備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項5】
前記画像データの印字率が高い程、前記印刷用紙の吸引力を強くするように前記複数の用紙吸引部を制御する駆動制御手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項3又は4記載のインクジェット印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−51119(P2011−51119A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199498(P2009−199498)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】