説明

インクジェット用のインク、インクカートリッジ及びインクジェット記録方法

【課題】インクの蒸発安定性に優れ、かつ、記録媒体の種類によらずに画像濃度が高く、耐水性や耐マーカー性に優れる画像が得られるインク、該インクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】自己分散顔料、塩、及び水溶性有機溶剤を含有し、自己分散顔料は、ホスホン酸基を含む官能基が粒子表面に結合している顔料であり、該ホスホン酸基のカウンターイオン及び上記塩を構成するカチオンが、カリウムよりも原子量の小さいアルカリ金属のイオンであり、かつ、該塩の水への溶解度が、該塩を構成するのと同じ種類のアニオンからなるカリウム塩の溶解度より大きく、水溶性有機溶剤の25℃における比誘電率が40.0以上であり、インク中におけるカチオン濃度が0.05mol/L以上であり、インクの15質量%を蒸発させて得られた液体の25℃における粘度が、3.5mPa・s未満であるインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用のインク、インクカートリッジ及びインクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法に用いるインクには、近年、記録した画像における画像濃度をより一層向上することが求められている。画像を記録する記録媒体の中でも普通紙にはインクの浸透性が異なる様々な種類のものが存在し、その違いは画像特性に影響を及ぼす。特に、インクの浸透性が高い記録媒体は画像濃度が低下しやすい傾向がある。インクジェット記録方法の普及が著しい近年にあっては、このような浸透性が高い記録媒体を含め、その種類によらずに、記録した画像が高い画像濃度を達成することが要求されている。
【0003】
上記要求に対し、粒子表面にカルボキシ基などの官能基を結合させた自己分散顔料と塩を含有するインクによって、文字品位や画像濃度を向上させることに関する提案がある(特許文献1及び2参照)。特許文献2には、粒子表面における官能基の密度をより高めることで、記録画像の画像濃度をより高めることができることが記載されている。また、カルシウムとの反応性の指標であるカルシウム指数に基づき、カルシウムとの反応性が高い官能基を結合させた自己分散顔料を含有するインクによって画像濃度を向上させることに関する提案もある(特許文献3参照)。そして、特許文献3には、粒子表面にホスホン酸基を結合させた自己分散顔料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−198955号公報
【特許文献2】特開2002−080763号公報
【特許文献3】特表2009−515007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、従来、自己分散顔料及び塩を含有するインクによって画像濃度を高めることができるとされていたが、本発明者らの検討によれば、浸透性が高い記録媒体における画像濃度は未だ不十分である。これに対し、インクに塩を多く含有させることで画像濃度をさらに高めることはできるが、この場合には、物流時や使用時などにインクの蒸発が生じた際に、インク中の顔料の分散安定性が得られなくなるという別の課題が生じる。さらに、上記インクを用いて形成した、カルシウムの含有量が少ない普通紙などの記録媒体における記録画像は、耐水性が低く、画像をマーカーペンでマークすると画像が汚れるという課題が生じる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、自己分散顔料及び塩を含有するインクでありながら、インクの蒸発安定性に優れ、かつ、記録媒体の種類によらずに画像濃度が高く、耐水性や耐マーカー性に優れる画像が得られるインクジェット用のインクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、該インクを用いることで、上記の優れた画像の形成を可能とするインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、自己分散顔料、塩、及び水溶性有機溶剤を含有するインクジェット用のインクであって、前記自己分散顔料は、ホスホン酸基を少なくとも含む官能基が粒子表面に結合している顔料であり、前記ホスホン酸基のカウンターイオン及び前記塩を構成するカチオンが、カリウムよりも原子量の小さいアルカリ金属のイオンであり、かつ、該塩の水への溶解度が、該塩を構成するのと同じ種類のアニオンからなるカリウム塩の溶解度より大きく、前記水溶性有機溶剤の25℃における比誘電率が40.0以上であり、インク中におけるカチオン濃度が0.05mol/L以上であり、さらに、インクの15質量%を蒸発させて得られた液体の25℃における粘度が、3.5mPa・s未満であることを特徴とするインク、該インクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自己分散顔料及び塩を含有するインクでありながら、インクの蒸発安定性に優れ、かつ、記録媒体の種類によらずに画像濃度が高く、耐水性や耐マーカー性に優れる画像が得られるインクジェット用のインクを提供することができる。また、本発明によれば、該インクを用いることで、上記の優れた画像の形成を可能とするインクカートリッジ及びインクジェット記録方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の好適な実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の記載で、インクジェット用のインクのことを、単に「インク」と省略して記載することがある。また、ホスホン酸基を有する顔料を「ホスホン酸型自己分散顔料」と記載することがある。
【0010】
本発明のインクは、自己分散顔料、塩及び水溶性有機溶剤を含有してなるが、ホスホン酸基を少なくとも含む官能基が粒子表面に結合している自己分散顔料を用いる。記録媒体に付与されたインク中の自己分散顔料は、インク中の水分などの蒸発や拡散、インクの成分比率の変化に伴って、その分散状態が不安定化し、凝集が引き起こされる。本発明では、顔料の粒子表面に結合させる官能基の構造と、併用する塩とを、本発明で規定する組み合わせにすることで、先に挙げた従来技術の課題を解決した。本発明のインクによれば、従来の、カルボン酸型の自己分散顔料と塩とを含有するインクを用いて得られる画像と比較し、その画像濃度を大きく向上させることができる。さらに、本発明のインクによって形成した画像は、蒸発安定性が保たれ、耐水性及び耐マーカー性を高いレベルで両立するものとなる。
【0011】
このような効果が得られるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。先ず、官能基にホスホン酸が含まれる顔料と、特定の塩との組み合わせに関しては、基本的には、このような顔料が、記録媒体に含まれているカルシウムと強く反応することで、前記した画像濃度向上効果が得られる。ただし、本発明者らの検討によれば、官能基にホスホン酸が含まれる顔料を含有するインクであっても、インクに特定の塩が添加されていないと、浸透性の高い記録媒体では、カルシウムとの反応による顔料の凝集よりもインクの浸透の影響が大きくなる。そして、この場合には顔料が記録媒体の表面近傍に残らず、画像濃度の向上の程度は限定されてしまうため、画像濃度の向上における大きな効果が期待できなくなる。これに対し、インクに特定の塩を添加することで、インク中の顔料の分散状態をある程度不安定化させれば、画像濃度の向上が効率よく図られることがわかった。すなわち、インクの構成を本発明のようにして、インクが記録媒体に付与された後に、素早くカルシウムと反応させ、浸透性の高い記録媒体においても記録媒体の表面近傍に顔料を多く残すようにして、画像濃度の向上を図ることが重要である。
【0012】
官能基に含まれるホスホン酸基の大半は、記録媒体に含まれるカルシウムと選択的に反応していくが、一部のホスホン酸基は、インク中のその他のカチオンと塩を形成した状態で記録媒体上に存在すると考えられる。ここで、普通紙の中にはカルシウムの含有量が少ないものもあり、そのような記録媒体上では、インク中のその他のカチオンと塩を形成したホスホン酸基の割合も大きくなると考えられる。リン酸塩の水に対する溶解度を考えると、カリウム塩に比べてナトリウムやリチウムの塩の方が、溶解度が小さい傾向があり、これはホスホン酸を含む官能基においても同様の傾向であると考えられる。つまり、インク中のその他のカチオンとの塩を形成したホスホン酸基の再溶解性が、耐水性や耐マーカー性に少なからず影響を及ぼし、その塩がナトリウム塩やリチウム塩の場合の方が、カリウム塩の場合に比べて耐水性や耐マーカー性の向上に繋がる。そして、その効果はカルシウム含有量が少ない記録媒体ほど、より顕著に現れる。
【0013】
本発明のインクには、自己分散顔料に加えて塩が含まれているが、インクが記録媒体に付与され、定着した後においても、その塩は顔料の凝集物と混在ないしは独立して記録媒体上に存在する。画像が水やマーカーペンのインクと接触した際、この記録媒体上に存在する塩の水に対する溶解度が比較的大きい場合には再溶解がより起こりやすく、画像に接触した水やマーカーペンのインクの電解質濃度が急激に上昇することとなる。その結果、塩析の作用により記録媒体に定着した自己分散顔料の再分散が抑制され、耐水性や耐マーカー性が向上する。すなわち、ホスホン酸基を含む官能基とカチオンの関係から、ナトリウムやリチウムの塩をインクに含有させる場合、水に対する溶解度が比較的大きい塩を使用することで耐水性や耐マーカー性の向上に相乗効果を与える。
【0014】
インクのカチオンをナトリウムやリチウムにした場合、ホスホン酸を含む官能基との相互作用の関係で、蒸発安定性を維持できるインク中のカチオン濃度の上限値が、カリウムの場合に比べて小さくなる傾向がある。しかしながら、このカチオン濃度は、蒸発安定性と同時に画像濃度にも影響する重要な因子であるため、あまり低すぎても好ましくない。そこで、本発明者らは、このトレードオフの関係を打開するため、インクに含有させる水溶性有機溶剤に着目して検討を行った。その結果、水溶性有機溶剤の25℃における比誘電率を40.0以上とすることで、上記の作用を発揮するために必要な濃度のカチオンと共存できるという知見を得た。
【0015】
これらの結果より、本発明では、画像濃度と蒸発安定性の両立の観点において、画像濃度については、インク中のカチオン濃度を0.05mol/L以上とし、上記した効果が得られる濃度範囲(下限値)を規定した。さらに、インクの蒸発安定性については、その性能を確保できるカチオンの濃度が、インクの組成により変わり得るため、インクの15質量%を蒸発させて得られた液体(蒸発率15質量%の液体)の25℃における粘度が3.5mPa・s未満であると規定した。そして、これらを規定することによって、幅広いインク組成においても、上記両立が図られるという考えに至り、本発明を完成した。
【0016】
なお、「蒸発率15質量%」という数値は、物流時や使用時などの状況を考慮した場合に起こり得るインクの蒸発量に対しても十分に高い値である。実際に想定される条件よりも、より厳しい条件において評価した蒸発安定性が十分であれば、本発明のインクが十分な蒸発安定性を有すると言える。
【0017】
<インク>
以下、本発明のインクを構成する各成分やインクの物性について詳細に説明する。
【0018】
(顔料)
顔料の種類としては、例えば、有機顔料や、カーボンブラックなどの無機顔料が挙げられ、インクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。また、調色などの目的のために、顔料に加えてさらに染料などを併用してもよい。本発明においては、顔料としてカーボンブラックを用いたブラックのインクとすることが特に好ましい。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のインクに用いる顔料は、ホスホン酸基を少なくとも含む官能基が顔料粒子表面に結合している自己分散顔料である。このような自己分散顔料を用いることにより、顔料をインク中に分散するための分散剤の添加が不要となる、又は分散剤の添加量を少量とすることができる。
【0020】
インク中において、上記ホスホン酸基−PO(O〔M1〕)2は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。つまり、インク中においてホスホン酸基は、−PO32(酸型)、−PO3-1+(一塩基塩)、及び−PO32-(M1+)2(二塩基塩)のいずれかの形態を取り得る。ここで、ホスホン酸基のカウンターイオンであるM1+はそれぞれ独立に、カリウムよりも原子量の小さいアルカリ金属のイオン、つまり、リチウム及びナトリウムのイオンのうち少なくとも一方である。
【0021】
また、本発明においては、画像濃度をより向上することができるため、官能基に2つのホスホン酸基が含まれているビスホスホン酸型自己分散顔料であることが好ましい。なお、トリスホスホン酸型自己分散顔料を用いると、インクの保存安定性が十分に得られない場合があるので、あまり好ましくない。
【0022】
また、ホスホン酸基が官能基の末端にあること、つまり、顔料の粒子表面とホスホン酸基の間に他の原子団が存在することが好ましい。前記他の原子団(−R−)としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基、アミド基、スルホン基、アミノ基、カルボニル基、エステル基、エーテル基が挙げられる。また、これらの基を組み合わせた基などが挙げられる。さらには、前記他の原子団が、前記アルキレン基及び前記アリーレン基の少なくとも一方と、水素結合性を有する基(アミド基、スルホン基、アミノ基、カルボニル基、エステル基、エーテル基)と、を含むことが特に好ましい。本発明においては、官能基に−C65−CONH−(ベンズアミド構造)が含まれることが特に好ましい。
【0023】
本発明においては、顔料の粒子表面に結合させる官能基に、−CQ(PO3〔M12)2の構造が含まれていることがより好ましい。ここで、式中のQは、水素原子、R、OR、SR、及びNR2のいずれかであり、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アラルキル基、及びアリール基のいずれかである。Rが炭素原子を含む基である場合、その基に含まれる炭素原子の数は1乃至18であることが好ましい。具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基など、アシル基としてはアセチル基、ベンゾイル基など、アラルキル基としてはベンジル基など、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基など、がそれぞれ挙げられる。また、M1はそれぞれ独立に、カリウムよりも原子量の小さいアルカリ金属、つまり、リチウム及びナトリウムの少なくとも一方である。本発明においては、前記Qが水素原子である、−CH(PO3〔M12)2の構造を含む官能基を顔料の粒子表面に結合させることが特に好ましい。
【0024】
〔官能基導入量〕
ホスホン酸型やビスホスホン酸型の自己分散顔料ではない、上述の特許文献2において検討されているようなカルボン酸基などのイオン性基が結合している従来の自己分散顔料の場合は、官能基導入量をより高めることにより、画像濃度の向上が図られていた。これは、官能基による立体障害の影響と、インク中の水溶性有機溶剤との親和性がある、顔料の粒子表面における官能基が結合していない部分の面積を小さくすることで、顔料に対して水溶性有機溶剤を溶媒和させにくくすることができるためである。
【0025】
しかし、カルボン酸型のものに比べて、ホスホン酸型、特に、ビスホスホン酸型自己分散顔料は凝集能が強く、インク中のカチオン濃度に敏感である。そのため、インクの蒸発安定性をより高いレベルで得るためには、官能基由来のカチオン量を少なくできるため、官能基導入量はより小さいことが好ましい。一方、画像濃度については、ホスホン酸型、特に、ビスホスホン酸型自己分散顔料は、カルシウムと非常に強く反応するため、官能基導入量の影響はほとんど受けないが、インクに添加する塩の量には左右される。このことから、画像濃度をより高いレベルで得るためにも、上記と同様に、カチオン濃度に対し許容度が高い官能基導入量をより小さくすることが好ましい。
【0026】
以上より、画像濃度と蒸発安定性とを高いレベルで両立するためには、従来のカルボン酸型自己分散顔料と異なり、ホスホン酸型やビスホスホン酸型の自己分散顔料においては、官能基導入量はより低いことが好ましく、具体的には0.40mmol/g以下がよい。ただし、官能基導入量が低過ぎると、顔料の分散状態が不安定になり、インクの保存安定性が十分に得られない場合があるため、上記自己分散顔料の官能基導入量は、0.10mmol/g以上であることが好ましい。これらを考慮すると、具体的には、官能基導入量が0.10mmol/g以上0.40mmol/g以下であることが好ましい。なお、官能基導入量の単位は、顔料固形分1g当たりの官能基のミリモル数である。
【0027】
本発明において行われる自己分散顔料の粒子表面への官能基導入量は、下記のようにしてリンイオンを定量することで測定することができる。詳しくは、先ず、顔料(固形分)の含有量が0.03質量%程度になるように顔料分散液を純水で希釈して、A液を調製する。また、5℃で、80,000rpm、15時間の条件で顔料分散液に対して超遠心分離を行い、顔料が除去された上澄みの液体を採取し、これを純水で80倍程度に希釈して、B液を調製する。得られたA液及びB液について、ICP発光分光分析装置などにより、リンイオンの定量をそれぞれに行い、これらA液及びB液について測定値から求められるリンイオン量の差分から、ホスホン酸基の量を算出することができる。そして、顔料への官能基導入量は、ホスホン酸基の量/n(nは1つの官能基に含まれるホスホン酸基の数を示し、モノなら1、ビスなら2、トリスなら3となる)により算出することができる。ここで、官能基に含まれるホスホン酸基の数が不明である場合には、NMRなどによりその構造を解析することによって、その数を知ることができる。なお、上記では顔料分散液を用いて測定する方法について述べたが、インクを用いても同様に測定することができるし、勿論、官能基導入量の測定方法は上記のものに限られるものではない。
【0028】
(カチオンとアニオンとが結合して構成される塩)
本発明のインクは、蒸発安定性を維持しつつ、浸透性の大きな普通紙において高い画像濃度を発現させるため、塩を含有することが必須である。また、耐水性及び耐マーカー性を高いレベルで両立するためには、以下の2つの条件を満たす必要がある。すなわち、塩を構成するカチオンがカリウムイオンよりも原子量の小さいアルカリ金属であり、前記塩の水への溶解度が、該塩を構成するのと同じ種類のアニオンからなるカリウム塩の溶解度より大きい塩を含有することが必要である。
【0029】
すなわち、本発明のインクは、カチオンとアニオンとが結合して構成される塩を含有することを一つの特徴とする。そして、前記カチオンは、カリウムよりも原子量の小さいアルカリ金属のイオン、つまり、リチウムイオン及びナトリウムイオンの少なくとも一方である。また、前記アニオンは、Cl-、Br-、I-、ClO3-、ClO4-、NO2-、NO3-、及びSO42-からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。本発明においては、前述した自己分散顔料のホスホン酸基のカウンターイオン及び塩を構成するカチオンが、いずれもナトリウムイオンであることが特に好ましい。インク中における塩の形態は、その一部が解離した状態、又は全てが解離した状態のいずれの形態であってもよい。
【0030】
本発明のインクに用いることができるカチオンとアニオンとが結合して構成される塩としては、以下のものが挙げられる。例えば、(M2)Cl、(M2)Br、(M2)I、(M2)ClO3、(M2)ClO4、(M2)NO2、(M2)NO3、(M2)2SO4が挙げられる。なお、上記M2は、カリウムよりも原子量の小さいアルカリ金属、つまり、リチウム及びナトリウムの少なくとも一方である。
【0031】
インクには本発明の効果が十分得られる範囲の塩が含有されていればよく、具体的には、インク中の塩の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。含有量が10.0質量%を超えると、インクの保存安定性が十分に得られない場合があり、0.05質量%未満であると、本発明の効果が十分に得られない場合がある。
【0032】
塩の含有量に関して本発明者らが詳細な検討を行った結果、以下の2つの要件を満足するように塩の含有量を決定して、インクの設計をすることが特に好ましいことがわかった。その一つは、インクの35質量%を蒸発させて得られた液体における顔料の粒子径が、蒸発前の初期のインクにおける顔料の粒子径と比べて、1.2倍以上となるようにすることが好ましい。さらに、本発明のインクでは、インクの15質量%を蒸発させて得られた液体の25℃における粘度が3.5mPa・s未満となるように塩の含有量を決定する。なお、この場合の「蒸発前の初期のインク」とは、本発明のインクを収容したインクカートリッジが販売される形態であるプラスチックの包装袋を開封した時点でのインクのことであり、インクを調製した時点のインクと同等の状態である。本発明者らの検討によれば、塩の添加による記録媒体における顔料の凝集促進やそれによる画像濃度の向上に対する効果は、インクを35質量%蒸発させた際の顔料の粒子径によりある程度予測することができる。すなわち、本発明者らの検討によれば、蒸発前の初期のインクに比べて、35質量%を蒸発させて得られた液体における顔料の粒子径が1.2倍以上である場合には、画像濃度を十分に高める効果が得られたとより確実に判断できる。また、本発明者らの検討によれば、インクを15質量%蒸発させた液体の25℃における粘度が3.5mPa・s以上となると、インクジェット記録方式における信頼性において十分な性能が得られない場合があり、その点から規定する必要があることもわかった。
【0033】
(カチオン濃度)
本発明のインク中に存在するカチオンは、顔料の官能基のカウンターイオンと、塩を構成するカチオンと、に由来する、アルカリ金属のイオン、つまり、リチウム及びナトリウムの少なくとも一方である。勿論、本発明の効果が得られる範囲で、これら以外のカチオンが含有されていてもよい。本発明においては、インク中のカチオン濃度が0.05mol/L以上であることが必要である。本発明者らの検討によれば、0.05mol/L未満であると画像濃度が得られない。また、インク中のカチオン濃度の上限は、上述の蒸発時の顔料粒子径や粘度にも関係し、0.09mol/L以下であることが好ましい。その上限が0.09mol/Lを超えると、インクの蒸発安定性が十分に得られない場合があるので好ましくない。
【0034】
(水性媒体)
本発明のインクには、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができるが、水溶性有機溶剤の25℃における比誘電率が40.0以上であることを要する。水溶性有機溶剤の極性を左右する一因子である比誘電率は、真空の静電容量に対する測定物の静電容量の比により、εr=(Cx/Co)の式により表される(Cxはサンプルの静電容量、Coは真空の静電容量である)。
【0035】
上記式で表わされる比誘電率が大きい水溶性有機溶剤は、イオン性物質を安定に溶解し、逆に比誘電率が小さい水溶性有機溶剤はイオン性物質を溶解する能力が低い。このため、インク中の水溶性有機溶剤の比誘電率を高めることによって、一定レベルの蒸発安定性を確保しながら、画像濃度の向上に寄与する塩の添加量を増やすことができる。
【0036】
本発明において規定する「水溶性有機溶剤の比誘電率」とは、インク中の水溶性有機溶剤が1種類である場合はその比誘電率の値を、また、複数種の水溶性有機溶剤を含有するインクの場合は、水溶性有機溶剤の混合物について測定した比誘電率の値である。インク中の水溶性有機溶剤の比誘電率は、まず、サンプルをセルに満たし、電極部をセル中のサンプルに浸し、温度25℃、周波数10kHzの条件で、電極間の静電容量Cxを測定する。そして、得られた静電容量Cxの値から、上記式に基づいて算出することができる。なお、後述する実施例においては、比誘電率測定装置(BI−870;Brookhaven製)を用いて水溶性有機溶剤の比誘電率を測定した。
【0037】
本発明においては、上述の通り、水溶性有機溶剤の25℃における比誘電率が40.0以上であることを満たせば、水溶性有機溶剤としては、インクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。例えば、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、その他の含窒素化合物類などを用いることができ、これらの水溶性有機化合物は、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。本発明においては、水溶性有機溶剤としてグリセリンを用いることが特に好ましい。グリセリンは25℃における比誘電率が40.0以上であることに加えて、保湿性に優れ、インクの蒸発抑制効果を有するため、好適である。特に、インク中におけるグリセリンの含有量が、インク中の水溶性有機溶剤の合計含有量に対して、80質量%以上であることが特に好ましい。なお、本発明において規定する、比誘電率を特定する対象となる水溶性有機溶剤には、後述するような添加剤、及び、先に述べた塩は含まないものとする。
【0038】
また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。また、水としては脱イオン水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0039】
(その他の添加剤)
本発明のインクには、上述した成分の他に、尿素やその誘導体などの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。インク中の常温で固体の水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じて、界面活性剤、樹脂、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、キレート剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0040】
本発明においては、例えば、アセチレングリコール系、フッ素系、シリコーン系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系などの界面活性剤をインクに含有させることが好ましい。インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0041】
(インクの物性)
本発明のインクは、25℃において、寿命時間50m秒における動的表面張力が40mN/m以上であることが好ましく、さらには45mN/m以上であることが好ましい。このような特性を満足することにより、記録媒体の表面上に顔料を特に効率よく存在させることができ、より高い画像濃度を得ることができる。本発明においては、インクの動的表面張力の測定には、最大泡圧法を採用した。この方法では、測定対象の液体中に浸したプローブ(細管)の先端部分から押し出された気泡を、放出するのに必要な最大圧力を測定して、表面張力を求める。また、本発明において、「寿命時間」とは、最大泡圧法測定においてプローブの先端部分から気泡が形成される際の、気泡が離れた後に新しい表面が形成されてから最大泡圧時(気泡の曲率半径とプローブ先端部分の半径が等しくなったとき)までの時間を意味する。
【0042】
本発明のインクが上述の動的表面張力の特性を満足するようにするためには、上記で挙げた界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用することが特に好ましい。さらには、使用するポリオキシエチレンアルキルエーテルは、グリフィン法により求められるHLB値が13以上20以下であり、アルキル基の炭素原子数が12以上20以下のものが特に好適である。そして、インク中のポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上2.0質量%以下、さらには0.05質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。
【0043】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を有し、前記インク収容部に、上記で説明した本発明のインクが収容されてなるものである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、負圧によりインクを含浸した状態で保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室、及び、負圧発生部材により含浸されない状態でインクを収容するインク収容室で構成されるものが挙げられる。又は、上記のようなインク収容室を持たず、インクの全量を負圧発生部材により含浸した状態で保持する構成や、負圧発生部材を持たず、インクの全量を負圧発生部材により含浸されない状態で収容する構成のインク収容部としてもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0044】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0045】
上述のメカニズムを考慮すると、カルシウムを含有する記録媒体に画像を記録するために上記で説明した本発明のインクを用いることがより好ましく、このような記録媒体としては、光沢紙や普通紙が挙げられるが、中でも普通紙を用いることが特に好ましい。勿論、本発明のインクジェット記録方法において使用することができる記録媒体はこれらに限られるものではない。
【実施例】
【0046】
以下、実施例、比較例及び参考例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、以下の記載で、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限り質量基準である。
【0047】
<顔料分散液の調製>
(顔料の官能基導入量)
先ず、顔料の官能基導入量を測定する方法を説明する。まず、測定対象である顔料の含有量が0.03%程度になるように顔料分散液を純水で希釈してA液を調製した。一方、5℃で、80,000rpm、15時間の条件で顔料分散液に対して超遠心分離を行い、ホスホン酸型自己分散顔料が除去された上澄みの液体を採取し、これを純水で80倍程度に希釈してB液を調製した。上記のようにして得た測定用試料のA液及びB液について、ICP発光分光分析装置(SPS5100;SIIナノテクノロジー製)を用いてリンイオンの定量を行った。そして、得られたA液及びB液におけるリンイオン量の差分からホスホン酸基の量を求め、1つの官能基に含まれるホスホン酸基の数で割ることで、顔料への官能基導入量を算出した。
【0048】
(顔料分散液A)
(アレンドロン酸ナトリウムの4−アミノベンゼンスルホンアミド)
アレンドロン酸ナトリウムを用いて、(4−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸ナトリウムを合成した。この際、アレンドロン酸ナトリウムには、(4−アミノ−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸の一ナトリウム塩(Zentiva製)を用いた。500mLのビーカーを用いて、34g(104mmol)のアレンドロン酸塩を150mLの純水中に加え、濃水酸化ナトリウム水溶液を用いて液体のpHを11に調整して、溶解させた。これに、100mLのテトラヒドロフラン中に溶解させた25g(110mmol)のニトロフェニルスルホニルクロライドを滴下した。この際、水酸化ナトリウム水溶液をさらに加えて、液体のpHを10〜11に保った。滴下が終わった後、この液体を室温でさらに2時間撹拌した。その後、真空中でテトラヒドロフランを蒸発させ、そして、この液体のpHを4になるように調整し、固体を析出させた。4℃にて一晩冷却した後、この固体をろ過して、純水で洗浄、乾燥させることで、(4−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸ナトリウムを得た。
【0049】
次に、20g(固形分)のカーボンブラック、10mmolの上記で得た(4−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸ナトリウム(処理剤)、20mmolの硝酸、及び200mLの純水を混合した。この際、カーボンブラックには、比表面積220m2/g、DBP吸油量105mL/100gのものを用い、混合は、シルヴァーソン混合機を用いて、室温で6,000rpmにて混合した。30分後、この混合物に、少量の水に溶解させた20mmolの亜硝酸ナトリウムをゆっくり添加した。亜硝酸ナトリウムを添加することによって、混合物の温度は60℃に達し、この状態で1時間反応させた。その後、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、混合物のpHを10に調整した。30分後、20mLの純水を加え、スペクトラムメンブランを用いてダイアフィルトレーションを行い、顔料の含有量が10.0%となるようにして、分散液を得た。このようにして、顔料の粒子表面に、カウンターイオンがナトリウムである(4−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸基が結合している自己分散顔料が水中に分散された状態の顔料分散液Aを得た。官能基の導入量は0.35mmol/gであった。
【0050】
(顔料分散液Bの調製)
先の顔料分散液Aの調製において、イオン交換することで、ナトリウムイオンをカリウムイオンに置換した以外は同様にして、顔料分散液Bを調製した。得られた顔料分散液Bの顔料の粒子表面には、カウンターイオンがカリウムである((4−アミノベンゾイルアミノ)−メタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸基が結合していた。官能基の導入量は0.35mmol/gであった。
【0051】
<インクの調製>
表1に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが2.5μmであるポリプロピレンフィルター(ポール製)にて加圧ろ過を行って、各インクを調製した。表1中における「NIKKOL BL−9EX」は、日光ケミカルズ製のポリオキシエチレンラウリルエーテルであり、グリフィン法により求められるHLB値が14.5、エチレンオキサイド基の付加モル数が9の界面活性剤である。
【0052】

【0053】
<インクの主特性>
(水溶性有機溶剤の比誘電率)
インク中の水溶性有機溶剤の比誘電率は、比誘電率測定装置(BI−870;Brookhaven製)を用いて以下のようにして測定した。上記表1に示したように、実施例1、2及び参考例1のインクはグリセリン、比較例1のインクはグリセリン、2−ピロリドン、トリエチレングリコール及びトリメチロールプロパンの混合物が、インクに含有される水溶性有機溶剤となる。そこで、測定対象の水溶性有機溶剤(の混合物)23mLをセルに満たし、上記装置の電極部をセル中のサンプルに浸し、温度25℃、周波数10kHzの条件で比誘電率を測定した。結果を表2に示した。
【0054】
(インクのカチオン濃度)
上記で得られたインク中の顔料(固形分)の含有量が吸光度換算で0.03%となるように純水を用いて希釈した液体について、ICP発光分光分析装置(SPS5100;SIIナノテクノロジー製)を用いて、インク中のカチオン濃度を測定した。結果を表2に示した。
【0055】
(蒸発インクの粘度)
上記で得られた各インクをそれぞれ開放系の容器に入れ、温度30℃、相対湿度10%の条件でインクを蒸発させ、初期の質量の85%になるまで各インクを濃縮、つまり、インクの質量の15%を蒸発させ、液体を得た。得られた各液体について、E型粘度計(RE−80L;TOKI製)を用いて、25℃における粘度を測定し、蒸発安定性の評価を行った。なお、上述の通り、蒸発率15%という数値は、物流時や使用時などの状況を考慮した場合に起こり得るインクの蒸発量に対しても十分に高い値であり、実際に想定される条件よりもより厳しいものである。したがって、このように厳しい条件において評価した蒸発安定性が十分であれば、インクが十分な蒸発安定性を有すると言える。以下の評価基準で評価し、結果を表2に示した。本発明においては、下記の評価基準でA及びBを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。
A:インクを15%蒸発させた液体の粘度が3.0mPa・s未満であった。
B:インクを15%蒸発させた液体の粘度が3.0mPa・s以上3.5mPa・s未満であった。
C:インクを15%蒸発させた液体の粘度が3.5mPa・s以上であった。
【0056】
(インクの動的表面張力)
上記で得られた各インクについて、最大泡圧法を利用したBubble Pressure Tensiometer BP2 MK2(商品名、Kruss製)を用いて、25℃における動的表面張力を測定した。評価基準は以下の通りである。結果を表2に示した。
A:寿命時間50m秒における動的表面張力が40mN/m以上であった。
B:寿命時間50m秒における動的表面張力が40mN/m未満であった。
【0057】
(インク中の塩含有量)
画像濃度の向上に有効な程度に塩がインクに含有されているか否かは、蒸発前のインクにおける顔料の粒子径と、インクの35%を蒸発させて得られた液体における顔料の粒子径とを比べることでおおよそ把握することができる。先ず、上記で得られた各インクについて顔料の粒子径を測定した。また、各インクをそれぞれ開放系の容器に入れ、温度60℃の条件でインクを蒸発させ、初期の質量の65%になるまで各インクを濃縮、つまり、35%を蒸発させ、液体を得た。得られた各液体について顔料の粒子径を測定した。なお、顔料の粒子径は、濃厚系粒度分布測定装置FPAR−1000(商品名、大塚電子製)を用いて測定した体積平均粒子径である。そして、蒸発前後の顔料の粒子径の変化率(蒸発後の顔料の粒子径/蒸発前の顔料の粒子径)の値を求め、インク中の塩含有量の判定を行った。本発明においては、下記の評価基準でAである場合を画像濃度の向上に有効な程度に塩が含有されているもの、そうでない場合をBとした。結果を表2に示した。
A:顔料の粒子径の変化率が1.2倍以上であった。
B:顔料の粒子径の変化率が1.2倍未満であった。
【0058】

【0059】
<評価>
(画像濃度)
上記で得られた各インクを充填したインクカートリッジを、熱エネルギーによりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置PIXUS MP480(商品名;キヤノン製)にセットした。なお、上記のインクジェット記録装置では、下記の条件で記録した画像を記録デューティが100%であると定義した。すなわち、解像度が600dpi×600dpiであり、1/600dpi×1/600dpiの単位領域に、1滴当たりの質量が25ng±10%であるインク滴を1滴付与する条件で記録した画像を記録デューティが100%であるとした。そして、次の4種の記録媒体(普通紙)に、記録デューティが100%であるベタ画像(2cm×2cm/1ライン)を記録した。記録媒体に、下記の4種類を用いた。GF500、Canon Extra Multifunctional Paper、Office Planner(以上キヤノン製)、Xerox 4024 Premium Multipurpose White Paper(ゼロックス製)を用いた。記録の1日後に、反射濃度計Macbeth RD−918(商品名、マクベス製)を用いて、4種の記録媒体におけるベタ画像の画像濃度を測定し、その平均値により画像濃度の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表3に示す。本発明においては、下記の評価基準でA及びBを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。
A:参考例1と比べて、画像濃度の平均値が高かった。
B:参考例1と比べて、画像濃度の平均値が同等であった。
C:参考例1と比べて、画像濃度の平均値が低かった。
【0060】
(耐水性)
上記の画像濃度の評価と同じようにしてベタ画像を記録した。記録の1日後に、ベタ画像の部分に流水をかけた後、記録媒体の非記録部分の汚れの状態を目視で観察して、4種の記録媒体のうち中間程度の画像について、耐水性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表3に示す。本発明においては、下記の評価基準でA及びBを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。
A:参考例1と比べて、耐水性が高かった。
B:参考例1と比べて、耐水性が同等であった。
C:参考例1と比べて、耐水性が低かった。
【0061】
(耐マーカー性)
上記の画像濃度の評価と同じようにしてベタ画像を記録した。記録の1日後に、ベタ画像の部分にマーカーペン(OPTEX2;ZEBRA製)を用いてマーキングを行い、記録媒体の非記録部の汚れの状態を目視で観察して、4種の記録媒体のうち中間程度の画像について、耐マーカー性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表3に示す。本発明においては、下記の評価基準でA及びBを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。
A:参考例1と比べて、耐マーカー性が高かった。
B:参考例1と比べて、耐マーカー性が同等であった。
C:参考例1と比べて、耐マーカー性が低かった。
【0062】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己分散顔料、塩、及び水溶性有機溶剤を含有するインクジェット用のインクであって、
前記自己分散顔料は、ホスホン酸基を少なくとも含む官能基が粒子表面に結合している顔料であり、
前記ホスホン酸基のカウンターイオン及び前記塩を構成するカチオンが、カリウムよりも原子量の小さいアルカリ金属のイオンであり、かつ、該塩の水への溶解度が、該塩を構成するのと同じ種類のアニオンからなるカリウム塩の溶解度より大きく、
前記水溶性有機溶剤の25℃における比誘電率が40.0以上であり、
インク中におけるカチオン濃度が0.05mol/L以上であり、
さらに、インクの15質量%を蒸発させて得られた液体の25℃における粘度が、3.5mPa・s未満であることを特徴とするインク。
【請求項2】
前記塩を構成するアニオンが、Cl-、Br-、I-、ClO3-、ClO4-、NO2-、NO3-、及びSO42-からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記水溶性有機溶剤がグリセリンを含み、かつ、インク中の前記グリセリンの含有量がインク中の水溶性有機溶剤の合計含有量に対して、80質量%以上である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
前記ホスホン酸基のカウンターイオン及び前記塩を構成するカチオンが、いずれもナトリウムイオンである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
前記官能基が、少なくとも2つのホスホン酸基を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
前記自己分散顔料の粒子表面に結合している官能基の導入量が、0.10mmol/g以上0.40mmol/g以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
インクを収容するインク収容部を有するインクカートリッジであって、前記インク収容部に収容されているインクが、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項8】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記インクが、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2012−102213(P2012−102213A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251001(P2010−251001)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】