説明

インクジェット用光硬化型インク組成物、インクジェット記録方法、および記録物

【課題】インクジェット記録方式により記録媒体上に耐擦性および密着性に優れた光輝性を有する画像を形成することが可能な光硬化型インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法、および記録物を提供する。
【解決手段】本発明に係るインクジェット用光硬化型インク組成物は、ガラスフレークと、重合性化合物と、光重合開始剤と、を含有し、前記ガラスフレークの平均粒径が5μm以上20μm以下である。本発明に係るインクジェット記録方法は、前記インクジェット用光硬化型インク組成物を、インクジェット記録装置を用いて記録媒体上に吐出する工程(a)と、吐出された前記光硬化型インク組成物に対して、光源から光を照射する工程(b)と、を含み、前記工程(a)と(b)の間隔が0.1秒以上5秒以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用光硬化型インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法、および記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材に光輝性を付与する技術として、光輝材を含有するインクを用いてスクリーン印刷する方法がある。しかしながら、スクリーン印刷により絵柄、図形、文字等を表現するためには、必要な絵柄等の数だけ版を作製しなければならず、多くの印刷工程を必要とした。
【0003】
そこで、より簡便に基材に光輝性を付与する技術の一つとして、例えば、特許文献1に記載されているように、光輝性顔料を含有するインク組成物をインクジェットプリンターに装填し、基材に向けて噴射することで、光輝性を有する画像を記録する技術が提案されている。また特許文献1には、光輝性顔料としては、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料、マイカ顔料、コレステリック液晶ポリマー顔料等が使用できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−36079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の光輝性顔料の1種であるガラスフレーク顔料は、表面の平滑さを利用して高い光輝性を発揮するが、インク調合時に加わる高いせん断力によるガラスフレークの変形・破壊を防止するために通常1μm以上の厚みを有している。そのため特許文献1に記載されているような水および水系バインダーを主成分とする水性インク組成物を用いて画像を記録した場合、その水性インク組成物中の水分が揮発してしまうので、記録媒体の表面にガラスフレークが露出する状態となり、画像の耐擦性および記録媒体との密着性が極めて悪いという課題があった。
【0006】
本発明に係る幾つかの態様は、前記課題を解決することで、インクジェット記録方式により記録媒体上に耐擦性および密着性に優れた光輝性を有する画像を形成することが可能な光硬化型インク組成物、およびそれを用いたインクジェット記録方法ならびに記録物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係るインクジェット用光硬化型インク組成物は、ガラスフレークと、重合性化合物と、光重合開始剤と、を含有するインクジェット用光硬化型インク組成物であって、前記ガラスフレークの平均粒径が5μm以上20μm以下であることを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、インクジェット記録方式により記録媒体上に耐擦性ならびに記録媒体との密着性に優れた光輝性を有する画像を形成することができる。適用例1のインクジェット用光硬化型インク組成物を用いてインクジェット記録方式により画像を記録した場合、前記画像の膜厚が5μm〜30μmとなるので、光硬化することで1μm程度の厚みを有するガラスフレークを前記画像中にしっかりと保持することができる。これより、耐擦性に優れた光輝性を有する画像を形成することが出来る。
【0010】
[適用例2]適用例1のインクジェット用光硬化型インク組成物において、20℃における粘度が、5mPa・s以上30mPa・s以下であることができる。
【0011】
[適用例3]適用例1ないし適用例2のいずれか一例のインクジェット用光硬化型インク組成物において、前記ガラスフレークの含有量が10質量%以上50質量%以下であることができる。
【0012】
[適用例4]本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、適用例1ないし適用例3のいずれか一例のインクジェット用光硬化型インク組成物を、インクジェット記録装置を用いて記録媒体上に吐出する工程(a)と、吐出された前記光硬化型インク組成物に対して、光源から光を照射する工程(b)と、を含む、インクジェット記録方法であって、前記工程(a)と前記工程(b)との間隔が0.1秒以上5秒以下であることができる。
【0013】
[適用例5]本発明に係る記録物の一態様は、上記適用例1ないし適用例3のいずれか1例のインクジェット用光硬化型インク組成物によって記録された記録物であって、記録媒体上に形成されたインク層の厚さが、5μm以上30μm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態に係るインクジェット記録方法に使用可能なインクジェット記録装置の斜視図。
【図2】図1に示した光照射装置の正面図。
【図3】図2のA−A矢視図。
【図4】実施例1で記録された画像の光学顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。なお、本発明において「画像」とは、ドット群から形成される印字パターンを示し、テキスト印字、ベタ印字も含める。
【0016】
1.インクジェット用光硬化型インク組成物
本発明の一実施形態に係るインク組成物は、インクジェットプリンター等のインクジェット記録方式に適用可能であり、光照射によって重合反応が進行し硬化することで画像を形成するものである。必須成分としては、ガラスフレーク、重合性化合物、光重合開始剤が挙げられる。まず、本実施の形態に係るインクジェット用光硬化型インク組成物に含まれる各成分について、以下に詳細に説明する。
【0017】
1.1.ガラスフレーク
本実施の形態に係るインクジェット用光硬化型インク組成物は、必須成分としてガラスフレークを含有する。ガラスフレークには、平滑なフレーク表面からの反射光を利用して、画像にきらきらと輝く光輝性を付与する効果がある。
【0018】
ガラスフレークとしては特に限定されないが、金属酸化物被覆や金属めっきがされていないガラスフレーク、金属酸化物被覆ガラスフレーク、または金属めっきガラスフレークでもよい。
【0019】
上記金属酸化物被覆や金属めっきがされていないガラスフレークは、例えば、Cガラス(耐蝕ガラス)で主成分がSiO2;65重量%、ZnO;4重量%、B23;5重量%、Na2O他;26重量%のものが好ましいが、これに限定されるものではない。また、平滑な表面を有するガラスフレークの表面に金属酸化物被覆や金属めっきが形成されているものをガラスフレークとして用いてもよい。ここで、平滑な表面を有するガラスフレークとは、溶融成形などにより製造され、表面を粗くするための処理を受けていないものである。
【0020】
また上記金属酸化物被覆ガラスフレークとしては、好ましくは上記平滑な表面を有するガラスフレークの表面に二酸化チタンを被覆したガラスフレークが挙げられる。液相法や、真空蒸着または化学気相蒸着法などで行うことができる。上記金属酸化物被覆ガラスフレークは、二酸化チタンをオングストローム単位で被覆する。
【0021】
さらに、上記金属めっきガラスフレークとしては、好ましくは上記平滑な表面を有するガラスフレークの表面に金、銀またはニッケル等の金属をめっきしたガラスフレークが挙げられる。これらの中でも金またはニッケルは、めっきにより特に耐酸性、耐アルカリ性、耐候性、耐水性および耐塩水性に優れた金属層を形成するので好ましい。また、銀をめっきした場合も所定の表面酸化防止処理(例えば、二酸化ケイ素のコーティング処理など) が施されていれば、高耐候性を示すので好ましい。金属皮膜の厚みはたとえば、0.05〜0.20μm程度である。この発明で用いる金属めっきガラスフレーク顔料は、上記平滑な表面を有するフレーク状ガラスの表面に、金属層を2層以上有していてもよい。このようなフレーク状ガラスの表面に形成された金属皮膜は、上記従来の金属箔顔料に比べて表面平滑度が高く、光沢および輝度も高い。金属めっきによる金属層の形成は、例えば無電解めっきにより行われるが、これに限られず、他の方法により形成されてもよい。
【0022】
ガラスフレークの形状は、画像に良好な光輝性を付与する観点から、平板状粒子であることが好ましい。ここで「平板状粒子」とは、ガラスフレークの平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、略平坦な面(X−Y平面)の面積より求めた円相当径お50%平均粒子径(D50)が5μm以上20μm以下であって、かつ、厚み(Z)が0.2μm以上3μm以下であることを満たすものをいう。
【0023】
「円相当径」とは、ガラスフレークの略平坦な面(X−Y平面)を、前記ガラスフレークの投影面積と同じ投影面積を持つ円と想定したときの当該円の直径である。例えば、ガラスフレークの略平坦な面(X−Y平面)が多角形である場合、その多角形の投影面を円に変換して得られた当該円の直径を、そのガラスフレークの円相当径という。
【0024】
前記平板状粒子の略平坦な面(X−Y平面)の面積より求めた円相当径の50%平均粒子系(D50)は、インクジェットプリンターにおける良好な吐出安定性を確保する観点から、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。D50が前記範囲内であると、インクジェットプリンターのヘッドのノズル径にもよるが、インクジェットプリンターでの連続印刷に際してノズルの目詰まりを防止できると共に、画像に十分な光輝性を付与することができる。なお、本明細書において、ガラスフレークの平均粒子とは、上述の平板状粒子の略平坦な面の円相当径の50%平均粒子径(D50)のことを言う。
【0025】
前記平板状粒子の略平坦な面(X−Y平面)の面積より求めた円相当径の最大粒子径は、50μm以下であることが好ましい。最大粒子径を50μm以下にすることで、インクジェットプリンターのノズルや、インク流路内に設けられた異物除去フィルター等にガラスフレークが目詰まりすることを防止することができる。
【0026】
前記平板状粒子の平面上の円相当径は、粒子像分析装置を用いて測定することができる。粒子像分析装置としては、例えば、フロー式粒子像分析装置FPIA−2100、FPIA−3000、FPIA−3000S(以上、シスメックス株式会社製)が挙げられる。
【0027】
厚み(Z)は、好ましくは0.2〜3μm、より好ましくは1μm〜2μmである。厚みが1〜2μm未満では、インク調合時に、過大のシェアがかかり、ガラスフレークに変形・破壊が発生し経時的に塗料が変色する不具合が生じ、3μmを超えると塗膜外観が低下する恐れがある。なお、厚み(Z)は、透過型電子顕微鏡、あるいは走査型電子顕微鏡を用いて測定され、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM,JEOL,JEM−2000EX)、電界放射走査型電子顕微鏡(FE−SEM,Hitachi,S−4700)などが挙げられる。また、厚み(Z)は、測定を10回行なった平均値とする。
【0028】
ガラスフレークとしては、市販されているものを使用することができ、例えば、METASHINE 1020RY、METASHINE 1020RR、METASHINE 1020RB、METASHINE 1020RG、METASHINE 1020RS、METASHINE 1018RS、METASHINE1018RY、METASHINE1018RR、METASHINE1018RB、METASHINE 1018RG(以上、日本板硝子株式会社社製)等のMETASHINEシリーズが挙げられる。
【0029】
ガラスフレークの含有量は、光硬化型インク組成物の全質量に対して、好ましくは10質量%以上50質量%以下である。ガラスフレークの含有量が前記範囲内であると、画像にきらきらと輝く光輝性を付与することができると共に、画像の硬化性が良好なものとなる。コレステリック液晶ポリマーの含有量が10質量%未満であると、画像に付与される光輝性が劣ることがある。一方、50質量%を超えると、インク組成物の粒子数が多くなることでノズルに目詰まりが発生し、吐出性が損なわれることがある。
【0030】
1.2.重合性化合物
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、必須成分として重合性化合物を含有する。重合性化合物としては、以下に示す単官能アクリレート、二官能アクリレート、三官能アクリレート、ウレタン系オリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、アミノアクリレート、N−ビニル化合物等が挙げられる。
【0031】
単官能アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば(2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル(メタ)アクリレート、(2−メチル−2−イソブチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンフォルマルモノ(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの単官能アクリレートは、1種単独で用いることもできるし、2種以上併用してもよい。なお、本明細書中において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを示すものである。
【0032】
二官能アクリレートとしては、特に限定されないが、例えばアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、脂環式構造を有するジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとしては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン等が挙げられる。また、脂環式構造を有するジ(メタ)アクリレートとしては、例えばジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの二官能アクリレートは、1種単独で用いることもできるし、2種以上併用してもよい。
【0033】
三官能アクリレートとしては、特に限定されないが、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリ(メタ)アクリレート、グリセリンPO変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの三官能アクリレートは、1種単独で用いることもできるし、2種以上併用してもよい。
【0034】
ウレタン系オリゴマーとしては、例えばポリオールと、ポリイソシアネートおよびポリハイドロオキシ化合物と、の付加反応により生じるオリゴマーが挙げられる。ウレタン系オリゴマーとは、分子中にウレタン結合とラジカル重合可能な不飽和二重結合とを一以上有するものであって、相対分子質量(分子量と同義である。)の小さい分子から実質的あるいは概念的に得られる単位の少数回、一般的には約2回ないし20回程度の繰り返し構造をもつ中程度の大きさの相対分子質量を有する分子をいう。ウレタン系オリゴマーとしては、市販されているCN963J75、CN964、CN965、CN966J75(いずれもSARTOMER社から入手可能)等を用いることができる。
【0035】
エポキシアクリレートオリゴマーとしては、例えば二官能ビスフェノールAをベースとするエポキシアクリレートオリゴマーが挙げられる。オリゴマーとは、前記ウレタン系オリゴマーと同様に、相対分子質量(分子量と同義である。)の小さい分子から実質的あるいは概念的に得られる単位の少数回、一般的には約2回ないし20回程度の繰り返し構造をもつ中程度の大きさの相対分子質量を有する分子をいう。エポキシアクリレートオリゴマーとしては、市販されているCN120、CN131B(いずれもSARTOMER社から入手可能)等を用いることができる。
【0036】
アミノアクリレートとしては、特に限定されないが、二官能(メタ)アクリレートと、アミン化合物と、を反応させて得られるものが挙げられる。
【0037】
二官能アクリレートとしては、例えば、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、チオビスフェノールのエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、臭素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等のビスフェノールアルキレンオキシド付加物ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
アミン化合物としては、例えば、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、n−ペンチルアミン、イソペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、n−ドデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−オクタデシルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン等の単官能アミン化合物、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、メンタンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシルノメタン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、スピロアセタール系ジアミン等の多官能アミン化合物が挙げられる。また、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の高分子量タイプの多官能アミン化合物を用いてもよい。
【0039】
N−ビニル化合物としては、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0040】
重合性化合物の含有量は、光硬化型インク組成物の全質量に対して、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上95質量%以下である。重合性化合物の含有量が20質量%以上であると、記録媒体の上に形成された画像が良好な硬化性を有することができる。一方、重合性化合物の含有量が20質量%未満であると、記録媒体の上に形成された画像の硬化性が不十分となる場合がある。
【0041】
1.3.光重合開始剤
本実施形態における光硬化型インク組成物は、必須成分として光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては、分子開裂型または水素引き抜き型のものを用いるとよい。
【0042】
分子開裂型の光重合開始剤としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。前記例示したような分子開裂型の光重合開始剤が好ましい理由は、光開裂の前後で発色団の構造が大きく変化するため光の吸収の変化が大きく、フォトブリーチング(光退色)と呼ばれる光吸収の減少が見られるからである。これにより、記録媒体上に吐出された塗膜の内部にまで光が透過するので、画像の硬化性を向上させることができる。
【0043】
水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等が挙げられる。前記例示したような水素引き抜き型の光重合開始剤が好ましい理由は、反応系内に残存する酸素と反応することで、反応系内の酸素濃度を低下させる作用があるからである。すなわち、酸素濃度が下がる分だけ、ラジカル重合阻害の程度を低減することができるので、表面硬化性を改善することができる。
【0044】
これらの光重合開始剤は、1種単独で用いることもできるが、2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0045】
本実施の形態に係る光硬化型組成物を紫外線LEDにより硬化させる場合には、350nm以上430nm以下の波長領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤を用いることが好ましい。さらに、光重合開始剤の365nmにおけるモル吸収係数が300以上であることがより好ましい。365nmにおけるモル吸収係数が300以上である光重合開始剤であれば、照射される光のエネルギーが比較的低い紫外線LEDでも十分に機能するからである。なお、モル吸光係数とは、物質が特定波長の光を吸収する強さを示すものである。光重合開始剤のモル吸光係数は、分光光度計U−3300(株式会社日立ハイテク製)を用いて、光重合開始剤をアセトニトリルで溶解した溶液の365nmにおける吸光度を測定して、Lambert−Beerの法則に従い求めることができる。
【0046】
以上のような観点から、本実施の形態に係る光硬化型組成物を紫外線により硬化させる場合には、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドが好適である。
【0047】
具体的には、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドとしては、DAROCUR TPO(商品名、チバ・ジャパン株式会社製)が挙げられる。また、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドとしては、IRGACURE 819(商品名、チバ・ジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0048】
光重合開始剤の含有量は、光硬化型インク組成物の全質量に対して、3質量%以上15質量%以下であることが好ましく、7質量%以上13質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
1.4.その他の添加剤
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、必要に応じて、顔料、分散剤、界面活性剤、光増感剤、重合禁止剤等の添加剤を含有することができる。
【0050】
なお、本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、有機溶剤を含有せず、無溶剤の放射線硬化型インク組成物であることが好ましい。
【0051】
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、そのままでも使用することができるが、さらに顔料を添加してもよい。本実施の形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。一方、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キノフラロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
【0052】
本実施の形態で使用可能な顔料の具体例のうち、カーボンブラックとしては、C.I.ピグメントブラック7が挙げられ、例えば、三菱化学株式会社から入手可能なNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等が、コロンビアケミカルカンパニー社から入手可能なRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等が、また、キャボット社から入手可能なRegal400R、同330R、同660R、MogulL、同700、Monarch800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等が、さらに、デグッサ社から入手可能なColorBlackFW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、ColorBlackS150、同S160、同S170、Printex35、同U、同V、同140U、SpecialBlack6、同5、同4A、同4等が挙げられる。
【0053】
また、本実施の形態に係る光硬化型インク組成物をイエローインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185、213等が挙げられる。
【0054】
また、本実施の形態に係る光硬化型インク組成物をマゼンタインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0055】
また、本実施の形態に係る光硬化型インク組成物をシアンインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、16、22、60等が挙げられる。
【0056】
また、本実施の形態に係る光硬化型インク組成物をグリーンインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、8、36等が挙げられる。
【0057】
また、本実施の形態に係る光硬化型インク組成物をオレンジインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ51、66等が挙げられる。
【0058】
また、本実施の形態に係る光硬化型インク組成物をホワイトインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、塩基性炭酸鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0059】
本実施の形態で使用可能な顔料の平均粒子径は、好ましくは10nm〜350nmの範囲であり、より好ましくは50nm〜200nmの範囲である。
【0060】
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物に添加し得る顔料の添加量は、好ましくは反応成分100質量部に対して0.1質量部〜25質量部であり、より好ましくは0.5質量部〜15質量部である。
【0061】
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、前述した顔料の分散性を高める目的で分散剤を添加してもよい。本実施の形態で使用可能な分散剤としては、Solsperse3000、5000、9000、12000、13240、17000、24000、26000、28000、36000(以上、ルーブリゾール社製)、ディスコールN−503、N−506、N−509、N−512、N−515、N−518、N―520(以上、第一工業製薬株式会社製)等の高分子分散剤が挙げられる。
【0062】
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、界面活性剤を添加してもよい。本実施の形態で使用可能な界面活性剤としては、好ましくはシリコーン系界面活性剤であり、より好ましくはポリエステル変性シリコーン系界面活性剤またはポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤である。具体的には、ポリエステル変性シリコーン系界面活性剤としては、BYK−347、同348、BYK−UV3500、同3510、同3530(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられ、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、BYK−378、BYK−3570(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0063】
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、重合促進剤を添加してもよい。本実施の形態で使用可能な重合促進剤としては、アミン化合物(脂肪族アミン、芳香族基を含むアミン、ピペリジン、エポキシ樹脂とアミンの反応生成物、トリエタノールアミントリアクリレートなど)、尿素化合物(アリルチオ尿素、o−トリルチオ尿素など)、イオウ化合物(ナトリウムジエチルジチオホスフェート、芳香族スルフィン酸の可溶性塩など)、ニトリル系化合物(N,N−ジエチル−p−アミノベンゾニトリルなど)、リン化合物(トリ−n−ブチルフォスフィン、ナトリウムジエチルジチオフォスファイドなど)、窒素化合物(ミヒラーケトン、N−ニトリソヒドロキシルアミン誘導体、オキサゾリジン化合物、テトラヒドロ−1,3−オキサジン化合物、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドとジアミンの縮合物など)、塩素化合物(四塩化炭素、ヘキサクロロエタンなど)等が挙げられる。
【0064】
本実施の形態に係る光硬化型インク組成物は、重合禁止剤を添加してもよい。本実施の形態で使用可能な重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ベンゾキノン、p−メトキシフェノール、ハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0065】
1.5.物性
本実施の形態に係るインクジェット用光硬化型インク組成物の20℃における粘度は、好ましくは5mPa・s以上30mPa・s以下であり、より好ましくは10mPa・s以上30mPa・s以下である。光硬化型インク組成物の20℃における粘度が前記範囲内にあると、ノズルから光硬化型インク組成物が適量吐出され、光硬化型インク組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。なお、粘度の測定は、粘弾性試験機MCR−300(Pysica社製)を用いて、20℃の環境下で、Shear Rateを10〜1000に上げていき、Shear Rate200時の粘度を読み取ることにより測定することができる。
【0066】
本実施の形態に係るインクジェット用光硬化型インク組成物の20℃における表面張力は、好ましくは20mN/m以上30mN/m以下である。光硬化型インク組成物の20℃における表面張力が前記範囲内にあると、光硬化型インク組成物が撥液処理されたノズルに濡れにくくなる。これにより、ノズルから光硬化型インク組成物が適量吐出され、光硬化型インク組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0067】
2.インクジェット記録方法
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、(a)前述したインクジェット用光硬化型インク組成物を、インクジェット記録装置を用いて記録媒体上に吐出する工程と、(b)吐出された光硬化型インク組成物に対して、光源光を照射する工程と、を含み、前記工程(a)と(b)との間隔を0.1秒以上5秒以下にすることを特徴とする。
【0068】
以下、本実施の形態に係るインクジェット記録方法について各工程ごとに説明する。
【0069】
2.1.工程(a)
本工程は、前述したインクジェット用光硬化型インク組成物を、インクジェット記録装置を用いて記録媒体上に吐出する工程である。
【0070】
インクジェット用光硬化型インク組成物については、前述したとおりであるから、詳細な説明を省略する。
【0071】
記録媒体としては、特に限定されないが、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート等のプラスチック類およびこれらの表面が加工処理されているもの、ガラス、コート紙等が挙げられる。
【0072】
本実施の形態に係るインクジェット記録方法は、光硬化型インク組成物を吐出する手段としてインクジェット記録装置を用いるが、例えば、以下に説明するようなインクジェット記録装置を用いることができる。
【0073】
図1は、本実施の形態に係るインクジェット記録方法に使用可能なインクジェット記録装置の斜視図である。
【0074】
図1に示したインクジェット記録装置20は、記録媒体Pを副走査方向SSに送るモーター30と、プラテン40と、インクジェット用光硬化型インク組成物を微少粒径にしてヘッドノズルから噴射して記録媒体Pに吐出する記録ヘッドとしての印刷ヘッド52と、該印刷ヘッド52を搭載したキャリッジ50と、キャリッジ50を主走査方向MSに移動させるキャリッジモーター60と、印刷ヘッド52によってインクジェット用光硬化型インク組成物を吐出した記録媒体P上のインク付着面に光を照射する一対の光照射装置90A、90Bとを備えている。
【0075】
キャリッジ50は、キャリッジモーター60に駆動される牽引ベルト62によって牽引され、ガイドレール64に沿って移動する。
【0076】
図1に示した印刷ヘッド52は、3色以上のインクを噴射するフルカラー印刷用のシリアル型ヘッドであり、各色ごとに多数のヘッドノズルが備えられている。印刷ヘッド52のノズル径は、5μm以上20μm以下程度の50%平均粒子径を有するガラスフレークを使用する観点から、50μm以上であることが好ましい。印刷ヘッド52が搭載されるキャリッジ50には、前記印刷ヘッド52の他に、印刷ヘッド52に供給される黒色インクを収容したブラックインク容器としてのブラックカートリッジ54と、印刷ヘッド52に供給されるカラーインクを収容したカラーインクとしてのカラーインクカートリッジ56とが搭載されている。本実施の形態に係るインクジェット用光硬化型インク組成物は、カートリッジ54、56のいずれに収容されていてもよい。
【0077】
キャリッジ50のホームポジション(図1の右側の位置)には、停止時に印刷ヘッド52のノズル面を密閉するためのキャッピング装置80が設けられている。印刷ジョブが終了してキャリッジ50がこのキャッピング装置80の上まで到達すると、図示しない機構によってキャッピング装置80が自動的に上昇して、印刷ヘッド52のノズル面を密閉する。このキャッピングにより、ノズル内のインクの乾燥が防止される。キャリッジ50の位置決め制御は、例えば、このキャッピング装置80の位置にキャリッジ50を正確に位置決めするために行われる。
【0078】
このようなインクジェット記録装置20を使用することにより、記録媒体P上にインクジェット用光硬化型インク組成物を吐出することができる。なお、記録媒体P上にインクジェット用光硬化型インク組成物を吐出する際には、記録媒体Pをあらかじめ30℃以上40℃以下の温度に保たれるようにしておくとよい。記録媒体Pを前記温度範囲に保っておくことで、吐出安定性を良好な状態にすることができる。記録媒体Pを前記温度範囲に保つための手段としては、特に制限されないが、例えば図示しない記録媒体送り機構にヒーターや温風ドライヤーを設けて温度調節する手段がある。
【0079】
また、インクジェット記録装置20によれば、工程(a)と工程(b)とを別個の装置で行うことなく、工程(a)と工程(b)とを一の装置で連続的に行うことが可能となる。
【0080】
2.2.工程(b)
本工程は、吐出されたインクジェット用光硬化型インク組成物に対して、光源から光を照射する工程である。本工程によれば、記録媒体上に吐出されたインクジェット用光硬化型インク組成物に特定波長の光を照射することにより、該インクジェット用光硬化型インク組成物が硬化されて、記録媒体上に画像を記録することができる。
【0081】
以下、前述したインクジェット記録装置20を用いて、工程(b)を行う場合について詳細に説明する。
【0082】
図2は、図1に示した光照射装置90A(図2の190Aに相当)、90B(図2の190Bに相当)の正面図である。図3は、図2のA−A矢視図である。
【0083】
図1ないし図3に示すように、光照射装置190A、190Bは、キャリッジ50の移動方向に沿った両側端にそれぞれ取り付けられている。
【0084】
図2に示すように、印刷ヘッド52の向かって左側に取り付けられた光照射装置190Aは、キャリッジ50が右方向(図2の矢印B方向)に移動する右走査時に、記録媒体P上に吐出されたインク層196に対して光照射を行う。一方、印刷ヘッド52の向かって右側に取り付けられた光照射装置190Bは、キャリッジ50が左方向(図2の矢印C方向)に移動する左走査時に、記録媒体P上に吐出されたインク層196に対して光照射を行う。
【0085】
ここで、記録媒体P上に吐出されたインク層196に対して光照射を行うタイミングは、記録媒体P上にインクが吐出されてから好ましくは0.1秒以上5秒以下、より好ましくは0.1秒以上1秒以下、特に好ましくは0.5秒以上1秒以下となるように設定しておくとよい。前記工程(a)と前記工程(b)の間隔が、5秒を超えるとガラスフレークが沈降し、記録媒体上に堆積するため、画像の光輝性および記録媒体との密着性が著しく低下し、前記工程(a)と前記工程(b)の間隔が、0.1秒より短くなると、液滴中のガラスフレークが塗膜上面に存在したまま硬化するため、ガラスフレークが重合性化合物によって十分固定されず、画像の耐擦性が著しく低下するからである。
【0086】
光照射装置190A、190Bは、キャリッジ50に取り付けられており、光源192をそれぞれ1個ずつ整列支持した筐体194と、光源192の発光および消灯を制御する(図示しない)光源制御回路とを備えている。図2および図3に示すように、光照射装置190A、190Bには、光源192がそれぞれ1個ずつ設けられているが2個以上設けてもよい。光源192としては、LEDまたはLDのいずれかを使用することが好ましい。これにより、光源として水銀灯ランプ、メタルハライドランプ、その他のランプ類を使用した場合と比較して、フィルター等の装備のために光源が大型化することを回避することができる。また、フィルターによる吸収で出射された光強度が低下することがなく、インクジェット用光硬化型インク組成物を効率良く硬化させることができる。
【0087】
また、各光源192は、出射される波長が同じものでもよいし、異なっていてもよい。光源192としてLEDまたはLDを使用する場合、出射される光の発光ピーク波長は350〜430nm程度の範囲のいずれかとすればよい。
【0088】
以上に説明した光照射装置190A、190Bによれば、図2に示すように、印刷ヘッド52からの吐出で記録媒体P上に付着させたインク層196に対して、印刷ヘッド52近傍の記録媒体P上を照射する光源192により光192aが照射され、インク層196の表面および内部を硬化させることができる。
【0089】
光の照射量は、記録媒体P上に付着させたインク層196の厚さにより異なるため厳密には特定できず、適宜好ましい条件を選択するものではあるが、前述したインクジェット用光硬化型インク組成物を用いているので、100〜1000mJ/cm2程度の光照射量で十分に硬化させることができる。
【0090】
インクジェット記録装置20によれば、インクジェット用光硬化型インク組成物の粘度が低く、インク層の膜厚が比較的薄いフルカラー印刷時においても、記録媒体P上に吐出された複数の光硬化型インク組成物を滲みや色混じりという不具合を生じることなく、良好に硬化させることができる。
【0091】
なお、インクジェット記録装置20の構成は、前述した記録ヘッド、キャリッジおよび光源等の構成に限定されるものではなく、本実施の形態に係るインクジェット記録方法の趣旨に基づいて種々の形態を採用することができる。
【0092】
3.記録物
本発明の一実施形態に係る記録物は、前述したインクジェット記録方法によって記録されたものである。記録媒体上に記録した画像は、前述したインクジェット用光硬化型インク組成物を用いて形成されたものであるから、画像にきらきらとした光輝性を付与することができる。
【0093】
記録媒体上に形成されたインク層の厚さは、5μm以上30μm以下であることが好ましい。インク層の厚さが前記範囲内であると、画像にきらきらとした光輝性を付与することができると共に、インク層の硬化性が良好となる。5μm未満では光輝性が不十分となることがあり、30μmを超えると、インク層を硬化させるのに長時間を要するためキャリッジ50の移動速度を遅くしなければならず、印刷速度が低下することがある。
【0094】
本実施の形態に係る記録物の用途は、特に限定されず、前述した記録媒体上に記録した画像として使用することができる。記録媒体上に記録した画像は、きらきらとした光輝性を有していることから、画像に付加価値を付けることができる。
【0095】
4.実施例
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0096】
4.1.インク組成物の調製
4.1.1.光硬化型インク組成物の調製
表1〜表2の組成となるように、重合性化合物、光重合開始剤、界面活性剤および重合禁止剤を撹拌・混合して完全に溶解させた。そこに、表1〜表2の組成となるようにガラスフレークをさらに加えた後、常温で1時間混合撹拌し、さらに50μmのメンブランフィルターで濾過することにより表1〜表2に記載の光硬化型インク組成物を得た。
【0097】
なお、表中で使用した成分は、以下のとおりである。
(1)重合性化合物
・フェノキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社、商品名「V#192」)
・4−ヒドロキシブチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社、商品名「4−HBA」)
・ジプロピレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社、商品名「APG−100」)
・トリメチロールプロパントリアクリレート(大阪有機化学工業株式会社、商品名「V#295」)
・エポキシアクリレートオリゴマー(サートマー社製、商品名「CN120」)
(2)光重合開始剤
・IRGACURE 819(チバ・ジャパン株式会社製、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド)
・DAROCUR TPO(チバ・ジャパン株式会社製、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)
(3)重合禁止剤
・ハイドロキノンモノメチルエーテル(関東化学株式会社製、商品名「P−メトキシフェノール」)
(4)界面活性剤
・BYK−UV3500(ビックケミー・ジャパン株式会社製)
・BYK−UV3570(ビックケミー・ジャパン株式会社製)
(5)ガラスフレーク
・METASHINE 1020RY(日本板硝子株式会社社製:平均粒径20μm)
・METASHINE 1020RR(日本板硝子株式会社社製:平均粒径20μm)
・METASHINE 1020RB(日本板硝子株式会社社製:平均粒径20μm)
・METASHINE 1020RG(日本板硝子株式会社社製:平均粒径20μm)
・METASHINE 1020RS(日本板硝子株式会社社製:平均粒径20μm)
・METASHINE 2025PS(日本板硝子株式会社社製:平均粒径25μm)
・HIPRESICA FQ(宇部日東化成株式会社製:平均粒径1μm)
なお、平均粒径5μmのガラスフレークは、METASHINE 1020RS(日本板硝子株式会社社製)を乳鉢で粉砕したものを使用した。
【0098】
4.1.2.水性インク組成物の調製
表3の組成となるように、水、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等を順じ添加した後、表3の組成となるようにガラスフレークをさらに加えた後、pH=8.0となるようにpH調整剤ジメチルエタノールアミンを加え、常温で1時間混合撹拌し、さらに50μmのメンブランフィルターで濾過することにより表3に記載の水性インク組成物を得た。
【0099】
なお、表中で使用した成分は、以下のとおりである。
(1)溶媒
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(東京化成工業株式会社製、商品名「トリエチレングリコールモノブチルエーテル」)
・ジエチレングリコール(関東化学株式会社製、商品名「ジエチレングリコール」)
・グリセリン(関東化学株式会社製、商品名「グリセリン」)
(2)界面活性剤
・サーフィノール(登録商標)104A(エアープロダクツアンドケミカルズ社製、商品名「サーフィノール104A」)
(3)pH調整剤
・ジメチルエタノールアミン(関東化学株式会社製、商品名「2−ジメチルエタノールアミン」)
(4)ガラスフレーク
・METASHINE 1020RS(日本板硝子株式会社製:平均粒径20μm)
【0100】
4.2.光硬化型インク組成物を用いた評価試験
4.2.1.記録物の作製
まず、50μmのノズル径を有するヘッドおよびキャリッジの両側に紫外線照射装置(UV−LED)を備えたインクジェットプリンター試作機を用意した。
次に、解像度720x720dpi、液滴重量30ngの条件で、「4.1.光硬化型インク組成物の調製」によって得られた光硬化型インク組成物を黒色PETフィルム(桜井株式会社製、商品名「VC901」、A4サイズ)上にベタパターン画像として印刷すると共に、キャリッジの横に搭載した紫外線照射装置(UV−LED、発光ピーク波長395nm、照度60mW/cm2)の紫外線を照射して硬化させることにより記録物を得た。なお、ベタパターン画像を指触してべたつきが感じられなくなる状態(すなわち、完全に硬化された状態)となるようにキャリッジ移動速度を適宜調節した。
【0101】
4.2.2.耐擦性の評価
得られた記録物を20℃で16時間保った後、学振型摩擦堅牢試験機AB−301(テスター産業社製)を用いて、荷重500g,摩擦回数100回の条件で、摩擦用白綿布(カナキン3号)を取り付けた摩擦子と記録物とを擦り合わせ、画像の表面状態を目視にて観察した。
なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
「○」:画像の表面に全く傷が付いていなかった。
「△」:画像の表面に10箇所未満の傷が付いていた。
「×」:画像の表面の10箇所以上に傷が付いていた。
【0102】
4.2.3.密着性の評価
JIS K5600−5−6(塗料一般試験法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法))に準じて、記録媒体と画像との密着性の評価を行った。なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
「○」:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥がれがない。
「△」:塗膜がカットの縁に沿って、および/または交差点において剥がれている。
「×」:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大剥がれを生じており、および/または目のいろいろな部分が、部分的または全面的に剥がれている
【0103】
4.2.4.光輝性の評価
前記「4.2.1.記録物の作製」により得られた記録物について、鏡面反射を目視により確認した。
なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
「○」:ラメ調およびメタリック調の演色が確認できた。
「△」:ラメ調およびメタリック調の演色がわずかに確認できた。
「×」:ラメ調およびメタリック調の演色がまったく確認できなかった。
【0104】
4.2.5.吐出性の評価
前記「4.2.1.記録物の作製」に従い、連続して10枚の記録物を作製した。この記録物の作製時において、インクジェットプリンターのノズルに目詰まりが生じるか否かについて評価した。
なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
「○」:ノズルの目詰まりが生じなかった。
「△」:ノズルの目詰まりが生じたが、連続して印刷することはできた。
「×」:ノズルの目詰まりが生じたため、印刷続行が不可能であった。
【0105】
4.2.6.印刷速度の評価
前記「4.2.1.記録物の作製」に要した時間を評価した。
なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
「○」:ベタパターン画像を記録するのに要した時間が300秒未満であった。
「△」:ベタパターン画像を記録するのに要した時間が300秒以上600秒未満であった。
「×」:ベタパターン画像を記録するのに要した時間が600秒を超えていた。
【0106】
4.3.評価結果
以上の耐擦性、密着性、光輝性、吐出性の評価結果を、表1〜表3に併せて示す。なお、実施例1において形成された画像について光学顕微鏡により観察された写真を図4に示す。図4において確認される白斑点は、ガラスフレークであり、実際の画像ではこの白斑点がラメ調およびメタリック調の演色を有している。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

【0110】
表1〜3に記載の実施例1〜22および比較例1〜3から明らかなように、実施例1〜実施例23の光硬化型インク組成物によれば、前述したインクジェット記録装置を用いることで、耐擦性、密着性、光輝性、吐出性のいずれの評価項目においても良好な結果となることが判った。なお、光硬化型インク組成物の組成や硬化条件の違いによって、以下のような知見が得られた。
【0111】
実施例6では、光硬化型インク組成物の粘度が3mPa・sと低いため、ガラスフレークの沈降により連続印刷時にノズルが目詰まりしやすい傾向が確認された。
【0112】
実施例9では、光硬化型インク組成物の粘度が32mPa・sと高いため、連続印刷時にノズルが目詰まりしやすい傾向が確認された。
【0113】
実施例10では、光硬化型インク組成物中のガラスフレークの含有量が少ないため、画像の光輝性が損なわれる傾向が確認された。
【0114】
実施例13では、光硬化型インク組成物中のガラスフレークの含有量が多いため、連続印刷時にノズルが目詰まりしやすい傾向が確認された。
【0115】
実施例14では、インク層の形成膜厚が薄すぎるため、耐擦性および密着性が低下する傾向が確認された。しかしながら、実施例14で形成された画像は、比較例3に記載される水系インク組成物を用いて形成された画像よりも耐擦性及び密着性が良好であることが確認された。
【0116】
実施例17では、インク層の形成膜厚が厚すぎるため、インク層を完全に硬化させるのに長時間の光照射を要し、印刷速度がやや遅くなった。
【0117】
実施例21では、インクを吐出した後、紫外線照射までの時間が長いため、ガラスフレークの沈降により密着性および光輝性が低下する傾向が確認され、印刷速度がやや遅くなった。
【0118】
一方、比較例1では、ガラスフレークの平均粒子径が20μmを超えるため、ノズルが目詰まりを起こし、印刷できなかった。また比較例2ではガラスフレークの平均粒子径が5μmより小さいため、画像の光輝性が確認されなかった。
【0119】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0120】
20…インクジェット記録装置、30…モーター、40…プラテン、50…キャリッジ、52…印刷ヘッド(記録ヘッド)、54…ブラックインクカートリッジ、56…カラーインクカートリッジ、60…キャリッジモーター、62…牽引ベルト、64…ガイドレール、80…キャッピング装置、90A(190A)、90B(190B)…活性放射線照射装置、192…活性放射線光源、194…筐体、196…インク層、P…記録媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフレークと、重合性化合物と、光重合開始剤と、を含有するインクジェット用光硬化型インク組成物であって、
前記ガラスフレークの平均粒径が5μm以上20μm以下であることを特徴とするインクジェット用光硬化型インク組成物。
【請求項2】
20℃における粘度が、5mPa・s以上30mPa・s以下である、請求項1に記載のインクジェット用光硬化型インク組成物。
【請求項3】
前記ガラスフレークの含有量が10質量%以上50質量%以下である、請求項1または請求項2に記載のインクジェット用光硬化型インク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット用光硬化型インク組成物を、インクジェット記録装置を用いて記録媒体上に吐出する工程(a)と、
吐出された前記光硬化型インク組成物に対して、光源から光を照射する工程(b)と、
を含む、インクジェット記録方法であって、
前記工程(a)と前記工程(b)との間隔が0.1秒以上5秒以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット用光硬化型インク組成物によって記録された記録物であって、
記録媒体上に形成されたインク層の厚さが、5μm以上30μm以下である、記録物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−144669(P2012−144669A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5567(P2011−5567)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】