説明

インクジェット用記録紙

【課題】本発明の目的は、オフセット印刷用コート紙の様な外観を示し、かつ優れたインクジェット適性を有する低コストで製造可能なインクジェット用記録紙を提供することにある。
【解決手段】印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェット用記録紙において、シート状基材の少なくとも片面に顔料とバインダーを主体とした塗工層を少なくとも一層以上設けた記録紙であり、バインダーとして平均粒子径が40〜150nmのスチレン−ブタジエン系のラテックスバインダーを塗工層の顔料100質量部に対して3〜8質量部含有することを特徴とするインクジェット用記録紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェット用記録紙に関するものである。更に詳しくは、オフセット印刷用コート紙の様な外観と優れたインクジェット適性の両方を提供するインクジェット用記録紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式を用いて印刷する用途は、端末PC用プリンター、ファックス、または複写機に留まらず、多品種小ロット印刷、可変情報印刷などを可能とする、いわゆる、オンデマンド印刷分野でも実用化が進み、技術的進展が目覚ましい。近年では印刷速度と画質の向上に伴い、印刷部数が従来オフセットやグラビアなどの印刷で行われていた領域でも利用が検討されている。
【0003】
電子写真印刷は無版の印刷方式であるが故に可変情報を扱えるのがメリットである。一方でオフセットやグラビア印刷は可変情報を扱うことは出来ないものの、高品質の印刷を安価に大量に行うことに適している。そこでインクジェット方式においても、印刷機械、トナー、記録紙の面から高画質化、高速化、省電力化、そして低コスト化へ向けた技術開発が進められている。また、インク定着性、保存性、色再現性、走行性などといった品質の更なる改良要望がある。
【0004】
インクジェット方式は、細かなインク滴を被転写物表面に噴出し、画像を形成する方式である。近年の技術進歩は目覚ましく、非常に高画質となり、弱点であった耐候性も顔料タイプのインクの出現により大幅に改善されてきた。しかし、オフセット印刷やグラビア印刷と比べると、高画質を得るためには印刷速度が遅くなり、また高級感があり高画質な仕上がりとなるコート紙ではインク吸収性を向上させるためにシリカ系やアルミナ系の微細な顔料を良く用いるが高価であるという問題がある。
【0005】
そこで、オンデマンド印刷の領域で、可変情報を扱え、高画質、高速などの条件を満たすことを考えた場合、一つの解決策としてインクの定着性を向上させる薬剤をプリンター内において利用する方式が考え出された。具体的には、そのような定着剤を、着色を目的としたインクと同時に吐出する方法(例えば、特許文献1参照)、インクが着弾する前に吐出する方法(例えば、特許文献1参照)、インクと混合する方法(例えば、特許文献1、2参照)、インクが着弾した後に吐出する方法(例えば、特許文献3参照)、定着剤とインクが混合した後に乾燥する方法(例えば、特許文献4参照)などがある。また、インクを定着させる原理としては、アニオン性、カチオン性を利用したイオン間相互作用によるもの(例えば、特許文献1、2、3、4参照)、ポリマーによるオーバーコート(例えば、特許文献5、6参照)、インクを定着させる層間物質いわゆる顔料を吐出するもの(例えば、特許文献7参照)などがある。
【0006】
この様な技術が進展する中、本、カレンダー、パンフレット等の用途で高級感のあるオフセット印刷用コート紙の様な外観と優れたインクジェット適性の両方を提供出来るインクジェット用記録紙が望まれている。記録媒体としては、普通紙(例えば、特許文献1、4、6、7、9参照)、オフセット印刷用などの商業印刷用コート紙(例えば、特許文献4、8、9、10参照)、アルミナまたはシリカを塗布した媒体(例えば、特許文献11、12参照)、非多孔質のプラスチックシート(例えば、特許文献13参照)、布帛(例えば、特許文献14参照)などの記載例が挙げられる。しかしながら、印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェット用記録紙としての性能を特別に満足させるものではない。
【特許文献1】特開平10−016376号公報
【特許文献2】特許第3973794号公報
【特許文献3】特開2002−029141号公報
【特許文献4】特開2003−048317号公報
【特許文献5】特許第4065130号公報
【特許文献6】特開2005−297567号公報
【特許文献7】特開平07−096603号公報
【特許文献8】特開2004−130799号公報
【特許文献9】特開2008−105422号公報
【特許文献10】特開2004−181955号公報
【特許文献11】特開2002−001943号公報
【特許文献12】特開2005−001387号公報
【特許文献13】特開2003−025709号公報
【特許文献14】特開2004−143462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェットプリントにおいて、オフセット印刷用コート紙の様な外観を示し、かつ優れたインクジェット適性を有するインクジェット用記録紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の問題を解決すべく鋭意研究した結果、以下のようなインクジェット用記録紙を発明するに至った。
【0009】
すなわち、印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェット用記録紙において、シート状基材の少なくとも片面に顔料とバインダーを主体とした塗工層を少なくとも一層以上設けた記録紙であり、該バインダーが、平均粒子径が40〜150nmのスチレン−ブタジエン系ラテックスであり、かつ、最上層の顔料100質量部に対して3〜8質量部含有するインクジェット用記録紙である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の記録紙は印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェット用として、オフセット印刷用コート紙の様な外観を示し、かつ優れたインクジェット適性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のインクジェット用記録紙について、詳細に説明する。
【0012】
本発明者は、印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェット印刷において、オフセット印刷用コート紙の様な外観を示し、かつ優れたインクジェット適性を発現するための技術を検討した。その結果、塗工層に用いるラテックスバインダーの粒子径と配合量を適切に設計することで、安定したインク定着性が発現されることを見出した。
【0013】
本発明のインクジェット用記録紙は、印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェット方式に向けたものであって、シート状基材の少なくとも片面に顔料とバインダーを主体とした塗工層を少なくとも一層以上設けた記録紙であり、バインダーとして平均粒子径が40〜150nmのスチレン−ブタジエン系ラテックスを最上層の顔料100質量部に対して3〜8質量部含有する。平均粒子径が150nmより大きいものに比べて、塗工層の機械的強度を保つためにより少ない含有量しか必要としないため、インク定着剤の吸収において働く毛細管が発達し易い。しかしながら、該ラテックスバインダーの含有部数が3部未満であると、塗工層の強度を保つためには不十分であり、毛細管を発達させながら十分な塗工層の強度を得るためには、含有量は3〜8質量部が必要である。一方で、平均粒子径が40nm未満の該ラテックスバインダーは技術的に製造が困難であり現実的ではない。
【0014】
ここでの本発明のスチレン−ブタジエン系のラテックスバインダーとは、スチレンに代表される芳香族ビニル化合物、ブタジエンに代表される脂肪族共役ジエン化合物を主体として、ビニル系不飽和カルボン酸エステル化合物、ビニル系不飽和カルボン酸、シアノ基を有するビニル化合物、その他ビニル化合物などを共重合して得られる分散体のバインダーである。
【0015】
ここでの顔料とは塗工層に所定の白色度、光沢感、微細な空隙を設けるための顔料成分である。塗工量は片面あたり5〜30g/mであり、単層でも多層でも良い。
【0016】
本発明に用いられるインクジェット用記録紙の基材としては、木材パルプ、綿、麻、竹、サトウキビ、トウモロコシ、ケナフなどの植物繊維、羊毛、絹などの動物繊維、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどのセルロース再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリウレタン系繊維などの化学繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維などの無機繊維をシート状にしたものが使用される。
【0017】
また、これらの繊維には、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウムなどの各種填料、バインダー、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、紙力増強剤などの各種配合剤を各工程、各素材に合わせて好適に配合する。更には、これらの繊維シートの上に樹脂コート層を設ける場合もある。
【0018】
繊維のシート状基材を用いる場合に各繊維をシート状にする製法としては、一般的な抄紙工程、湿式法、乾式法、ケミカルボンド、サーマルボンド、スパンボンド、スパンレース、ウォータージェット、メルトブロー、ニードルパンチ、ステッチブロー、フラッシュ紡糸、トウ開維などの各工程から一つ以上が適宜選ばれる。
【0019】
該シート状基材は、必要とする密度、平滑度、透気度を得るために表面サイズなどの各種表面処理やカレンダー処理を施す場合がある。
【0020】
本発明において、シート状基材上の塗工層に用いる顔料としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリンの他に、タルクなどの精製した天然鉱物顔料、炭酸カルシウムと他の親水性有機化合物との複合合成顔料、サチンホワイト、リトポン、二酸化チタン、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、有機顔料などが挙げられる。
【0021】
塗工層に用いられるバインダーとしては、スチレン−ブタジエン系ラテックスであるが、その他のバインダーを含有しても構わないが、本発明の効果を失わない範囲で、例えば、顔料100質量部に対して3質量部まで併用することが出来る。例としては、アクリル系、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニルなどの各種共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ユリアまたはメラミン/ホルマリン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミドポリアミン/エピクロルヒドリンなどの水溶性合成物などが挙げられる。更には、天然植物から精製した澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、りん酸エステル化澱粉、酵素変性澱粉やそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性澱粉、デキストリン、マンナン、キトサン、アラビノガラクタン、グリコーゲン、イヌリン、ペクチン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの天然多糖類およびそのオリゴマー更にはその変性体が挙げられる。また、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、コラーゲンなどの天然タンパク質およびその変性体、ポリ乳酸、ペプチドなどの合成高分子やオリゴマーが挙げられる。これらは単独でも組み合わせでも使用することが出来る。
【0022】
また、塗工層に用いられる増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼイン、ポリアクリル酸ソーダなどの水溶性高分子、ポリアクリル酸塩、スチレンマレイン酸無水共重合体などの合成重合体、珪酸塩などの無機重合体などが挙げられる。
【0023】
また、必要に応じて、分散剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤などの通常使用されている各種助剤、およびこれらの各種助剤をカチオン化したものが好適に用いられる。
【0024】
本発明において、塗工する方法は特に限定されるものではなく、液だまりを有するサイズプレス、メタリングサイズプレス、ゲートロール、シムサイザーなどの各種フィルムトランスファーコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、キャストコーターなどの各方式を適宜使用する。
【0025】
更に、一連の操業で、製造された記録紙は要求される密度、平滑度、透気度、外観を得るために、必要に応じてカレンダー処理などの各種仕上げ処理が施される。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り、質量部および質量%を示す。
【0027】
(実施例1)〜(実施例12)および(比較例1)〜(比較例9)
下記の内容に従って、インクジェット用記録紙を作製した。
【0028】
<パルプスラリーの調製>
LBKP(濾水度400mlcsf) 70部
NBKP(濾水度480mlcsf) 30部
填料(原紙中灰分で表示) 8部
市販カチオン化澱粉 1.0部
市販カチオン系ポリアクリルアミド歩留まり向上剤 0.03部
上記をパルプを叩解して所定の濾水度の調製し、内添薬品を上記の配合で撹拌し、1質量%濃度のパルプスラリーに調製し、長網抄紙機で60.0g/mの坪量で原紙を抄造した。
【0029】
<シート状基材の作製>
この原紙に対して、サイズプレスにより両面0.8g/mの酸化澱粉を付着させ、シート状基材を作製した。
【0030】
<塗工液の調製>
配合は以下の通りである。
重質炭酸カルシウム顔料(平均粒子径0.8μm) 80部
カオリン(平均粒子径1.5μm) 20部
市販スチレンブタジエン系ラテックスバインダー 平均粒子径と配合部数は表1に記載
市販りん酸エステル化澱粉 配合部数は表1に記載
市販ステアリン酸カルシウム系潤滑剤 0.3部
市販カルボキシメチルセルロース系増粘剤(CMC) 0.1部
上記配合にて、塗工液を配合し分散・撹拌を行い、塗工液を水酸化ナトリウムにてpH9.6に、水によって固形分濃度60%に調製した。
【0031】
これらの塗工液をブレードコーターにて、シート状基材に塗工し乾燥させ、スーパーカレンダー処理し、インクジェット用記録紙を作製した。塗工量は15g/mとした。
【0032】
上記実施例1〜12および比較例1〜9により得られたインクジェット用記録紙について、下記の測定方法により測定し、その評価結果を表1に掲げた。
【0033】
印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェットプリンターとして、ヒューレット・パッカード社製「CM8060」を用いてインクジェット印刷後の画像品位について評価を行った。
<折り割れ>
塗工層の強度を評価するため、インクジェット印刷後のシートについて、十分乾燥した後にシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックそれぞれのベタ部を折り、塗工層の破壊程度を目視で判定した。品質判定基準は以下の通りである。
◎:塗工層が殆ど破壊されない。
○:塗工層が若干破壊される。
△:塗工層が破壊されるが実用上問題ないレベル。
×:塗工層がほぼ完全に破壊される。
【0034】
<乾燥性>
インクジェット印刷後のシートについて、直ちにシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックそれぞれのベタ部に普通紙を強く押し付け、乾燥不良によるインクの転写を目視で判定した。品質判定基準は以下の通りである。
◎:インクの転写が殆どない。
○:インクが若干転写される。
△:インクが転写されるが実用上問題ないレベル。
×:インクがひどく転写され、実用上問題があり使用不可レベル。
【0035】
【表1】

【0036】
<評価結果>
比較例1から3については、ラテックス平均粒子径は請求項1の範囲にあるが、含有量が請求項1の範囲よりも多いため、折り割れは特に優れた特性を示したもののインクの乾燥性に劣った。また、比較例4から6はラテックス平均粒子径が同じく適切であるが、含有量が請求項1の範囲よりも少ないため、インク乾燥性は良好であるものの、折り割れ特性に劣った。これに比較して、実施例1から9は、ラテックスの平均粒子径と含有量が適切であり、折り割れ強度と乾燥性を両立することが出来た。実施例10から12はその他のバインダーとして澱粉を3部配合したが、その特性には特に問題はなく良好な結果を得た。比較例7から9は、ラテックス平均粒子径が請求項1の範囲よりも大きいサンプルで、ラテックスの含有量を変化させて折り割れとインク乾燥性の両立を試みたものだが、それは出来なかった。
【0037】
印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェット印刷において、オフセット印刷用コート紙の様な外観と優れたインクジェット適性の両方を持ち合わせる記録紙として利用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明におけるインクジェット用記録紙は、インクジェット用記録紙としての使用に留まらず、湿式および乾式電子写真、オフセット印刷、グラビア印刷、熱転写等の他の印刷方式に使用することも出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷前にインク定着剤を記録紙に供給する形式のインクジェット用記録紙において、シート状基材の少なくとも片面に顔料とバインダーを主体とした塗工層を少なくとも一層以上設けた記録紙であり、該バインダーが平均粒子径が40〜150nmのスチレン−ブタジエン系ラテックスであり、かつ、最上層の顔料100質量部に対して3〜8質量部含有することを特徴とするインクジェット用記録紙。

【公開番号】特開2010−76118(P2010−76118A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243837(P2008−243837)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】