インクジェット装置
【課題】 気体中に浮遊するインクミストやその他の異物を高効率でトラップすることできるとともに、長期間に渡ってメンテナンスフリーを実現したミスト回収機構を備えたインクジェット装置の提供。
【解決手段】 液体を収容する液体容器(10)と、インクジェットヘッドが置かれる第1空間(A)の気体を、液体容器に収容される液体(14)の中で排出するためのダクト(30)と、液体容器の内部で液体の液面の上の第2空間(B)から気体を排出するポンプ(20)とを有する。ポンプを作動させると第2空間が第1空間に比べて減圧状態となり、第1空間の気体がダクトを通じて液体の中で排出されて気泡となって浮上する。
【解決手段】 液体を収容する液体容器(10)と、インクジェットヘッドが置かれる第1空間(A)の気体を、液体容器に収容される液体(14)の中で排出するためのダクト(30)と、液体容器の内部で液体の液面の上の第2空間(B)から気体を排出するポンプ(20)とを有する。ポンプを作動させると第2空間が第1空間に比べて減圧状態となり、第1空間の気体がダクトを通じて液体の中で排出されて気泡となって浮上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクミストの回収機構を備えたインクジェット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクジェットヘッドから発生するインクミストの飛散を抑制するためのミスト回収機構を備えるインクジェット装置が開示される。ミスト回収機構は、装置内部で気体を吸引して、多孔質部材やメッシュ部材などで形成される微細な目のフィルタによってインクミストをトラップするものである。フィルタはトラップしたインクミストで目詰まりしていくので、定期的に交換できるような構造となっている。
【0003】
特許文献2には、インクジェット装置とは分野は異なるものの、気体中のオイルミストをトラップする液体フィルタが開示されている。液体中に気体を吹き込んで気泡として通過させることで気体中のオイルミストを液体に溶解させ、気体中のオイルミストを除去するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−80495号公報
【特許文献2】特開2006−26620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の機構は、フィルタの目詰まりが進むにしたがって気体が通過する際の抵抗が徐々に増大して、気体の吸引力すなわちインクミストの回収能力が低下していく。そのため、インクミスト回収の性能を保つためには、定期的なフィルタの交換のメンテナンス作業を強いられる。
【0006】
フィルタの性能を向上させるために、特許文献2に開示されるような液体フィルタを用いることも考えられる。特許文献2はコンプレッサとエアタンクで圧縮した加圧気体を溶解液に吹き込む構成となっている。そのため、ミストが浮遊する気体がコンプレッサとエアタンクを通過する際にミストが内部に付着して汚れが蓄積していく。結局、短いサイクルで分解清掃などのメンテナンスが必要となる。とくにエアコンプレッサは複雑な構造を有し分解清掃は容易ではないため、短期間で使えなくなることは実用上の支障になる。
【0007】
本発明は上述の課題の認識に基づいてなされたものである。本発明の目的は、気体中に浮遊するインクミストやその他の異物を高効率でトラップすることできるとともに、長期間に渡ってメンテナンスフリーを実現したミスト回収機構を備えたインクジェット装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェット装置は、液体を収容する液体容器と、インクジェットヘッドが置かれる第1空間の気体を、前記液体容器に収容される前記液体の中で排出するためのダクトと、前記液体容器の内部で前記液体の液面の上の第2空間から気体を排出するポンプとを有し、前記ポンプを作動させると前記第2空間が前記第1空間に比べて減圧状態となり、前記第1空間の気体が前記ダクトを通じて前記液体の中で排出されて気泡となって浮上することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インクミストやその他の異物の発生源である第1空間から、液体を収容する液体容器までのダクトにポンプが存在しないので、ポンプ内部にインクミストや異物が短期間に蓄積することがなく、長期間に渡るポンプのメンテナンスフリーを実現する。加えて、インクミストが液体に溶け込んでも液体の水位の上昇はほとんどないため、液体の排出や交換などは基本的に不要であり、長期間に渡る液体のメンテナンスフリーを実現する。これにより、気体中に浮遊するインクミストやその他の異物を高効率でトラップすることできるとともに、長期間に渡ってメンテナンスフリーを実現したインクジェット装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態のインクジェット装置の構成図
【図2】図1の変形例の構成図
【図3】比較例の構成図
【図4】図1のさらなる変形例の構成図
【図5】液体フィルタの具体的構造の一例
【図6】液体フィルタの具体的構造の一例
【図7】液体フィルタの具体的構造の一例
【図8】液体フィルタの具体的構造の一例
【図9】液体フィルタの具体的構造の一例
【図10】液体フィルタの具体的構造の一例
【図11】第2実施例の構成図
【図12】第3実施例の構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は媒体に種々の処理(記録、加工、塗布、照射、読取、検査など)を施すインクジェット装置に適用可能である。本明細書において媒体とは、紙、プラスチック、フィルム、織物、金属、フレキシブル基板など、材質は問わずインクが付与される物品を意味する。
【0012】
<実施例1>
図1は本発明の実施形態のインクジェット装置の構成図を示す。全体構成は大きく、インクジェットヘッド4を含む記録部1、液体を収容する液体容器10、ポンプ20、加湿部25の各ユニットからなる。
【0013】
記録部1は概ね密閉された筐体2を有し、筐体2はインクジェットヘッド4、ならびに媒体3を支持するプラテン8からなる記録手段を収容する空間A(第1空間)を提供する。筐体2の側面には空間Aの気体を排出するための排出口5と、加湿された気体を空間Aに導入するための導入口6が設けられている。インクジェットヘッド4は、インクを吐出する多数のノズルが形成されている。インクジェット方式は、本例では発熱体を用いる方式であるが、これに限らず、ピエゾ素子、静電素子、またはMEMS素子を用いる方式等にも適用可能である。インクジェットヘッド4には、インクタンクなどのインク供給部(不図示)からインクが供給される。
【0014】
液体容器10の内部には液体14が収容されている。液体14はこの例では水であるが、水に限らずインクを溶解する液体、例えばインク自体であってもよい。液体14の液面の上部に存在する空間B(第2空間)は蓋11により塞がれて閉じた空間となっている。蓋11には入力孔12と出力孔13が設けられている。
【0015】
ポンプ20は、液体容器10の内部で液体の液面の上の空間Bから気体を排出するための吸引ポンプである。ポンプ20には気体の導入口21と、吸引した気体を排出する排出口22が設けられている。ポンプ20は気体を吸引する機能を有するものであれば、容積ポンプ、非容積(ターボ形)ポンプ、ファンにより気流を発生させるタイプのポンプなど、その方式を問わない。
【0016】
加湿部25は、筐体2の内部に供給するための所定の湿度および温度で加湿された加湿気体を生成するユニットである。加湿部25には、循環気体を導入する導入口26、外気を導入する導入口27、加湿気体を排出する排出口28が設けられている。
【0017】
以上の各ユニットの間は、気体の流通路であるダクトによって接続されている。各ダクトは、加圧や減圧による変形が起きにくく且つフレキシブルであるチューブが好ましい。筐体2と液体容器10とはダクト30(第1流路)で接続されている。筐体2の排出口5にはダクト30の一端が接続され、ダクト30の他方の端部30aは蓋11の入力孔12を通して液体容器10の内部に引き入れられ、液体中の底付近に開口している。つまり、ダクト30により、筐体2の空間の気体が液体容器10の中の液体の液面よりも低い位置で液体の中で排出される。ダクト30は排出口5から液体容器10に接続される入力孔12まで、重力方向に関して水平な部位および上昇する部位がなく降下し続ける形状を有する。
【0018】
液体容器10とポンプ20とはダクト31(第2流路)で接続されている。ダクト31の端部31aは蓋11の出力孔13を通して液体容器10の内部に引き入れられ、液体容器10内部の液体の液面の上の空間Bの中で開放されている。ダクト31の他の端部はポンプ20の導入口21に接続されている。液体容器10の上部の空間Bの気体がポンプ20によって吸引されると、空間Bは減圧状態(負圧状態あるいは陰圧状態ともいう)となる。
【0019】
ポンプ20と加湿部25とは循環ダクトであるダクト32(第3流路)で接続されている。ダクト32の一端はポンプ20の排出口22に接続され、ダクト32の他端は加湿部26の導入口26に接続されている。加湿部26には導入口27からも外気が導入される。
【0020】
加湿部26と筐体2とはダクト33(第4流路)で接続されている。ダクト33の一端は加湿部26の排出口28に接続され、ダクト33の他端は筐体2の導入口6に接続されている。加湿部26で生成された加湿気体はダクト33を通して筐体2に導入される。
【0021】
以上のように、それぞれのユニットはダクトで接続され、全体として気体が循環するシステムとなっている。本例では気体は空気であるが、空気とは異なる気体であってもよい。
【0022】
この構成において、ポンプ20を作動させると、ダクト31から気体が吸引されて(矢印C、矢印d、矢印e)、液体容器10の空間Bが空間Aに比べて減圧状態となる。筐体2の空間Aと液体容器10の空間Bとの間に差圧(相対的な気圧の差)が生じる。この差圧によって筐体2の空間Aの気体がダクト30を通じて引き込まれる(矢印a、矢印b)。引き込まれた気体は液体14の中に排出されて、多数の小さな気泡Cとなって浮上し、浮上の後に空間Bに移動する。なお、本実施例では空間Aは大気圧であるが、空間Aが大気圧に対して正圧状態あるいは負圧状態であってもよい。その場合も、ポンプ20の作動により液体容器10の空間Bが空間Aに比べて減圧状態となって差圧が生まれるようにする。
【0023】
記録部1において、筐体2の空間Aには、インクジェットヘッド4で媒体3に記録する際に発生する、本来の液滴(主滴)とは異なる微小なインク粒子であるインクミストが浮遊している。また、媒体3から微細な紙紛が発生して浮遊することもある。空間Aから排出された気体が気泡Cに細分化されて液体14の中を通過する際には、気体中に含まれるインクミストやその他の異物はほとんどが液体に吸収され濾過される。すなわち、インク成分は水に溶解しやすいので、小さな気泡の中のインクミストは気泡周りの液体14に溶け込む。また、小さな気泡の中の紙紛等の微小物も気泡が浮上する途中で気泡周りの液体14に捕獲される、あるいは気泡が液面に達して破裂する際に液面で捕獲される。こうして、気体中のインクミストや微細な異物は、液体フィルタである液体14によって高効率に濾過される。液体フィルタは、インクミストが液体に溶け込んでも液体の水位の上昇はほとんどないため、液体の排出や交換などは基本的に不要であり、長期間に渡る液体のメンテナンスフリーを実現する。これにより、気体中に浮遊するインクミストやその他の異物を高効率でトラップすることできるとともに、長期間に渡ってメンテナンスフリーを実現したインクジェット装置となる。
【0024】
筐体2の排出口5は、液体容器10内の液体14の液面よりも重力方向において高い位置にある。また、ダクト30は排出口5よりも液体容器10に導入されるる入力孔12のほうが重力方向において低い位置にある。ダクト30は排出口5から液体容器10に導入される位置(入力孔12)まで、水平な部位および上昇する部位がなく降下し続ける形状を有するつまり、ダクト30は排出口5から端部30aまでの経路は、重力方向に徐々に下がっていく経路となっている。これにより、ダクト30の経路内壁に付着したインクミストはすべて重力によって液体容器10に流れ落ち、筐体2の側に逆流することがない。
【0025】
液体容器10の空間Bの気体は、液体14を通過した後のものなので湿度が高まっている。したがって、ポンプ20でダクト32に排出される気体も通常よりも湿度が高い。この気体は加湿部25の導入口26導入されて加湿気体の生成に利用されるので、加湿部25の加湿効率が高まる。すなわち、液体フィルタを通過した気体を循環することで加湿気体の生成補助とする優れた循環システムとなっている。なお、加湿部25には導入口27から外気を導入することも可能であり、導入口26からの事前に加湿された気体と外気とが所望の混合比でユニット内に取り込まれる。
【0026】
筐体2の導入口6から導入された加湿気体は、インクジェットヘッド4のノズルとプラテン8の支持面との間を所定方向に(矢印h方向)に流れて、排出口5から排出される。排出口5はインクミストの発生源の近傍で且つ加湿気体の気流の下流側に位置するので、発生したインクミストが筐体2の内部に広く拡散することが抑制され、インクミストは効率よく排出される。加えて、加湿気体がインクジェットヘッド4のノズル近傍を流れてノズルを保湿するので、未使用のノズルのインク乾燥が抑制される。
【0027】
本実施形態は、ポンプ20から排出した気体を循環して加湿気体の生成に再利用する循環システムである。もし、加湿部25が十分な性能を有している、あるいは加湿気体が不要であるならば非循環システムとしてもよい。図2は加湿部を有さない変形例の構成図である。記録部1は図1と同様、筐体の内部の空間Aにインクジェットヘッドなどが収容されている。記録部1には導入口37から外気が導入される。記録部1で発生したインクミストは上述したものと同様の液体フィルタにより除去されて。ポンプ20の排出口22からダクト34を通してそのまま装置の機外に排出される(矢印h、矢印i、矢印j)。排出される気体は液体フィルタによってインクミストや異物が濾過されたクリーンな気体であるので、装置の設置環境にインクミストが拡散することが防止される。
【0028】
以上の実施形態は、インクジェットヘッド4が置かれる空間Aの気体を、液体容器10に収容される液体の中で排出するためのダクト30と、液体容器10の中で液体の液面の上の空間Bから気体を排出するポンプとを備える。ポンプ20を作動させると空間Bが減圧状態となり、空間Aの気体がダクト30を通じて液体14の中で排出されて気泡となって浮上する。インクミストやその他の異物の発生源である空間Aから液体容器までのダクトにポンプが存在しないので、ポンプ内部にインクミストや異物が短期間に蓄積することがなく、長期間に渡るポンプのメンテナンスフリーを実現する。
【0029】
仮に、図3(比較例)のように記録部1と液体容器10の間にポンプ20を設けた構成にすると、インクミストが多く浮遊する気体がポンプ20に吸い込まれる。そのため、ポンプ20の内部にインクミストが付着して汚れが蓄積していき、短いサイクルで分解清掃などのメンテナンスが必要となる。とくにエアコンプレッサは複雑な構造を有し分解清掃は容易ではないため、短期間で使えなくなることは実用上の支障になってしまう。
【0030】
図4はさらなる変形例の構成図を示す。図2のレイアウトに比較して、ポンプ20の位置を記録部1よりも手前に持ってきたレイアウトである。ポンプ20を動作させると、ダクト35を通してポンプ20の導入口21に外気が取込まれる(矢印a、矢印b、矢印c)。ポンプ20から排出された気体は、排出口22からダクト36を通して記録部1に気体が送り込まれ(矢印d、矢印e)、記録部1の筐体の空間Aは加圧状態(正圧状態あるいは陽圧状態ともいう)となる。一方、液体容器10の空間Bに接続されたダクト31の先は大気開放されているので、空間Bは大気圧である。こうして、空間Aと空間Bの間では差圧が生じる。この差圧により、空間Aのインクミストが浮遊する気体は、ダクト30を通して液体14の液中に排出されて、多数の小さな気泡Cとなって浮上して、浮上の後に空間Bに移動する。気泡となって浮上する際にインクミストや異物は液体に吸収され濾過される。空間Bの気体は大気開放されているダクト31から排出される。
【0031】
このように図4の構成は、インクジェットヘッド4が置かれる空間Aの気体を、液体容器10に収容される液体の中で排出するためのダクト30と、空間Aに気体を吹き込むためのポンプ20とを備える。ポンプ20を作動させることで空間Aが加圧状態となり、図1や図2の例と同様、インクミストを含む気体がダクト30を通じて液体14の中に排出されて気泡となって浮上する。インクミストやその他の異物の発生源である空間Aから液体容器までのダクトにポンプが存在しないので、ポンプ内部にインクミストや異物が短期間に蓄積することがなく、長期間に渡るポンプのメンテナンスフリーを実現することができる。
【0032】
次に、以上の説明における液体フィルタのさらなる具体例について、いくつかの例を挙げる。いずれの例も液体容器10の内部には、気泡の浮上を抑制または撹拌して気泡を小さくするための構造体が設けられている。
【0033】
図5はその一例を示す。液体容器10の液体14の中には、非水溶性の固体、ここでは小さな球状のガラス球40が多数入っている。なお、固体の形状および材質はこれに限らない。ダクト30の端部30aから噴き出した気泡Cは、ガラス球40の間の隙間を抜けて浮上する際により小さく分割される。気泡が小さくなるほどに気泡内の気体が液体に触れる割合が高まるので、インクミストや異物をトラップするフィルタとしての効率が高まる。
【0034】
図6は別の例を示す。液体容器10の内壁には、複数個の突起物10a(例えばリブ)が、気泡Cの上昇経路に互い違いに複数段にわたって設けられている。ダクト30の端部30aから噴き出した気泡Cは、上昇に伴なって突起物に繰返し衝突して小さく分割されていく。こうして、インクミストや異物をトラップするフィルタとしての効率が高まる。
【0035】
図7は別の例を示す。液体容器10の液体14の底部近傍にフィルタ41が水平に設けられている。フィルタ41は多孔質部材やメッシュ部材などで形成され、網目のピッチは初期の気泡サイズよりも小さくなっている。ダクト30の端部30aから噴き出した気泡は、フィルタ41を通過することにより小さく分割される。こうして、インクミストや異物をトラップするフィルタとしての効率が高まる。
【0036】
図8は別の例を示す。ダクト30の端部30aにはフィルタ42が取り付けられている。フィルタ42は多孔質部材やメッシュ部材などで形成され、網目のピッチは初期の気泡サイズよりも小さくなっている。ダクト30の端部30aから噴き出した気泡は、フィルタ41を通過することにより小さく分割される。なお、インクジェットヘッド4がインクを吐出して、インクミストが生成されているときのみポンプ20が作動するように制御すると好ましい。ポンプ20を停止すると、ダクト30の端部30aよりもダクト30の内側に液体が入り込んで、ポンプ20が作動している時とは逆方向の流れが起きる。これにより、フィルタ42の目詰まりが起きにくくなる。
【0037】
図9は別の例を示す。液体容器10の中に液体14を撹拌する機構、例えば回転する撹拌スクリュー43が設けられている。撹拌スクリュー43が矢印S方向に回転すると、液体14に渦状の水流が発生する。ダクト30の端部30aから噴き出した気泡Cは、渦の動きと撹拌スクリュー43に直接当たることによって小さくなる。こうして、インクミストや異物をトラップするフィルタとしての効率が高まる。
【0038】
図10は別の例を示す。図10(a)のように、液体容器10内部は円筒形状となっている。ダクト30の端部30aからは、矢印Tのように気泡Cが円筒形状に沿って回転するような方向に排出される。排出された気泡は渦に沿いながら上昇していく際に小さく分割される。こうして、インクミストや異物をトラップするフィルタとしての効率が高まる。図10(b)は図10(a)の変形例を示す。液体容器10内部は円筒形状で且つ複数個の突起物10b(例えばリブ)が設けられている。矢印Uのように渦状に移動する気泡Cは突起物10bに衝突することでより細かく分割される。
【0039】
<実施例2>
図11を用いて第2実施例について説明する。これまでの例は、筐体2の内部で発生するインクミストを液体フィルタにより濾過するものである。これに対して本実施例は、インクジェットヘッドから発生する不要なインクを受ける受け部材を設けて、減圧によって受け部材からインクおよび気体を吸引して液体に溶け込ませるものである。受け部材は非使用時にインクジェットヘッドのノズルを覆うキャップである。
【0040】
インクジェットヘッド4に対向して、不要なインクの受け部材としてインクジェットヘッド4のノズルを覆うキャップ7が設けられている。キャップ7は、非使用時にキャップ7がインクジェットヘッド4を覆う状態と、使用時にキャップ7がインクジェットヘッド4を覆っていない状態に切り替わる。キャップ7の近傍には上述した実施例と同様にプラテンも置かれている。
【0041】
キャップ7の内部には、インク吸収体が設けられている。このインク吸収体はキャップ内に残留するインクを漏れなく効率良く保持するために設けられている。キャップ7の下部には排出口7aが設けられ、ここからインク吸収体に吸収されているインクが排出される。排出口8aにはダクト38の一端が接続され、ダクト38の他方の端部38aは液体容器10の液体14の底付近に開口している。つまり、ダクト38により、インク吸収体9のインクおよび気体が液体容器10の中の液体の液面よりも低い位置で液体の中で排出される。ポンプ20、ダクト31、ダクト34については、上述した図2の例と同様であるので説明は省略する。以上の各ユニットは記録部1の筐体の内部(第1空間)に収容されている。なお、上述の実施例と同様に液体容器10とポンプ20は記録部1の外に位置させるようにしてもよい。
【0042】
キャップ7がインクジェットヘッド4を覆っていない状態で、ポンプ20が作動すると、液体容器10の液面上の第2空間が第1空間に比べて減圧状態となって、キャップ7内のインク吸収体を通して第1空間から気体が吸引される。気体中に浮遊するインクミストはインク吸収体にトラップされて、すでに吸収されているインクと一体になる。インク吸収体に溜まったインクは気体とともにダクト38に吸い込まれて、液体容器10の液体14に排出される。排出されたインクは液体に溶け込み、排出された気体は気泡となって浮上する。また、インクミストの一部はインク吸収体にトラップされずに隙間を通り抜けてミストのままダクト38に吸い込まれるが、上述したとおり液体中を気泡となって浮上する際にインクミストは液体にトラップされる。
【0043】
キャップ7がインクジェットヘッド4を覆っている状態で、ポンプ20が作動すると、第2空間が第1空間に比べて減圧状態となって、キャップ7の内部が減圧となる。これにより、インクジェットヘッド4のノズルの目詰まり等の吐出不良を解消するためのインク吸引が行われる。ここで、吸引されたインクはダクト38を通って液体容器10の液体14に排出される。
【0044】
<実施例3>
図12を用いて第3実施例について説明する。本実施例は実施例2と同様、インクジェットヘッドから発生する不要なインクを受ける受け部材を設けて、減圧によって受け部材からインクおよび気体を吸引して液体に溶け込ませるものである。ただし、受け部材はインクジェットヘッドから吐出した不要インクを吸収する吸収体である点が、実施例2と異なる。
【0045】
インクジェットヘッド4に対向して、媒体3の支持するプラテン8が設けられている。プラテン8内部には、不要なインクの受け部材としてインク吸収体9が保持されている。インク吸収体9は、インクジェットヘッド4から媒体3以外に向けて吐出された不要なインクを吸収するために設けられている。プラテン8の下部には排出口8aが設けられ、ここからインク吸収体9に吸収されているインクが排出される。排出口8aにはダクト39の一端が接続され、ダクト39の他方の端部39aは液体容器10の液体14の底付近に開口している。つまり、ダクト39により、インク吸収体9のインクおよび気体が液体容器10の中の液体の液面よりも低い位置で液体の中で排出される。ポンプ20、ダクト31、ダクト34については、上述した図2の例と同様であるので説明は省略する。以上の各ユニットは記録部1の筐体の内部(第1空間)に収容されている。なお、上述の実施例と同様に液体容器10とポンプ20は記録部1の外に位置させるようにしてもよい。
【0046】
ポンプ20が作動すると、液体容器10の液面上の第2空間が第1空間に比べて減圧状態となって、インク吸収体9を通して第1空間の気体が吸引される。気体中に浮遊するインクミストはインク吸収体9にトラップされて、すでに吸収されているインクと一体になる。インク吸収体9に溜まったインクは気体とともにダクト39に吸い込まれて、液体容器10の液体14に排出される。排出されたインクは液体に溶け込み、排出された気体は気泡となって浮上する。また、インクミストの一部はインク吸収体9にトラップされずに隙間を通り抜けてミストのままダクト39に吸い込まれるが、上述したとおり液体中を気泡となって浮上する際にインクミストは液体にトラップされる。
【符号の説明】
【0047】
1 記録部
2 筐体
10 液体容器
20 ポンプ
27 加湿部
30 ダクト
31 ダクト
32 ダクト(循環ダクト)
【技術分野】
【0001】
本発明はインクミストの回収機構を備えたインクジェット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクジェットヘッドから発生するインクミストの飛散を抑制するためのミスト回収機構を備えるインクジェット装置が開示される。ミスト回収機構は、装置内部で気体を吸引して、多孔質部材やメッシュ部材などで形成される微細な目のフィルタによってインクミストをトラップするものである。フィルタはトラップしたインクミストで目詰まりしていくので、定期的に交換できるような構造となっている。
【0003】
特許文献2には、インクジェット装置とは分野は異なるものの、気体中のオイルミストをトラップする液体フィルタが開示されている。液体中に気体を吹き込んで気泡として通過させることで気体中のオイルミストを液体に溶解させ、気体中のオイルミストを除去するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−80495号公報
【特許文献2】特開2006−26620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の機構は、フィルタの目詰まりが進むにしたがって気体が通過する際の抵抗が徐々に増大して、気体の吸引力すなわちインクミストの回収能力が低下していく。そのため、インクミスト回収の性能を保つためには、定期的なフィルタの交換のメンテナンス作業を強いられる。
【0006】
フィルタの性能を向上させるために、特許文献2に開示されるような液体フィルタを用いることも考えられる。特許文献2はコンプレッサとエアタンクで圧縮した加圧気体を溶解液に吹き込む構成となっている。そのため、ミストが浮遊する気体がコンプレッサとエアタンクを通過する際にミストが内部に付着して汚れが蓄積していく。結局、短いサイクルで分解清掃などのメンテナンスが必要となる。とくにエアコンプレッサは複雑な構造を有し分解清掃は容易ではないため、短期間で使えなくなることは実用上の支障になる。
【0007】
本発明は上述の課題の認識に基づいてなされたものである。本発明の目的は、気体中に浮遊するインクミストやその他の異物を高効率でトラップすることできるとともに、長期間に渡ってメンテナンスフリーを実現したミスト回収機構を備えたインクジェット装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェット装置は、液体を収容する液体容器と、インクジェットヘッドが置かれる第1空間の気体を、前記液体容器に収容される前記液体の中で排出するためのダクトと、前記液体容器の内部で前記液体の液面の上の第2空間から気体を排出するポンプとを有し、前記ポンプを作動させると前記第2空間が前記第1空間に比べて減圧状態となり、前記第1空間の気体が前記ダクトを通じて前記液体の中で排出されて気泡となって浮上することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インクミストやその他の異物の発生源である第1空間から、液体を収容する液体容器までのダクトにポンプが存在しないので、ポンプ内部にインクミストや異物が短期間に蓄積することがなく、長期間に渡るポンプのメンテナンスフリーを実現する。加えて、インクミストが液体に溶け込んでも液体の水位の上昇はほとんどないため、液体の排出や交換などは基本的に不要であり、長期間に渡る液体のメンテナンスフリーを実現する。これにより、気体中に浮遊するインクミストやその他の異物を高効率でトラップすることできるとともに、長期間に渡ってメンテナンスフリーを実現したインクジェット装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態のインクジェット装置の構成図
【図2】図1の変形例の構成図
【図3】比較例の構成図
【図4】図1のさらなる変形例の構成図
【図5】液体フィルタの具体的構造の一例
【図6】液体フィルタの具体的構造の一例
【図7】液体フィルタの具体的構造の一例
【図8】液体フィルタの具体的構造の一例
【図9】液体フィルタの具体的構造の一例
【図10】液体フィルタの具体的構造の一例
【図11】第2実施例の構成図
【図12】第3実施例の構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は媒体に種々の処理(記録、加工、塗布、照射、読取、検査など)を施すインクジェット装置に適用可能である。本明細書において媒体とは、紙、プラスチック、フィルム、織物、金属、フレキシブル基板など、材質は問わずインクが付与される物品を意味する。
【0012】
<実施例1>
図1は本発明の実施形態のインクジェット装置の構成図を示す。全体構成は大きく、インクジェットヘッド4を含む記録部1、液体を収容する液体容器10、ポンプ20、加湿部25の各ユニットからなる。
【0013】
記録部1は概ね密閉された筐体2を有し、筐体2はインクジェットヘッド4、ならびに媒体3を支持するプラテン8からなる記録手段を収容する空間A(第1空間)を提供する。筐体2の側面には空間Aの気体を排出するための排出口5と、加湿された気体を空間Aに導入するための導入口6が設けられている。インクジェットヘッド4は、インクを吐出する多数のノズルが形成されている。インクジェット方式は、本例では発熱体を用いる方式であるが、これに限らず、ピエゾ素子、静電素子、またはMEMS素子を用いる方式等にも適用可能である。インクジェットヘッド4には、インクタンクなどのインク供給部(不図示)からインクが供給される。
【0014】
液体容器10の内部には液体14が収容されている。液体14はこの例では水であるが、水に限らずインクを溶解する液体、例えばインク自体であってもよい。液体14の液面の上部に存在する空間B(第2空間)は蓋11により塞がれて閉じた空間となっている。蓋11には入力孔12と出力孔13が設けられている。
【0015】
ポンプ20は、液体容器10の内部で液体の液面の上の空間Bから気体を排出するための吸引ポンプである。ポンプ20には気体の導入口21と、吸引した気体を排出する排出口22が設けられている。ポンプ20は気体を吸引する機能を有するものであれば、容積ポンプ、非容積(ターボ形)ポンプ、ファンにより気流を発生させるタイプのポンプなど、その方式を問わない。
【0016】
加湿部25は、筐体2の内部に供給するための所定の湿度および温度で加湿された加湿気体を生成するユニットである。加湿部25には、循環気体を導入する導入口26、外気を導入する導入口27、加湿気体を排出する排出口28が設けられている。
【0017】
以上の各ユニットの間は、気体の流通路であるダクトによって接続されている。各ダクトは、加圧や減圧による変形が起きにくく且つフレキシブルであるチューブが好ましい。筐体2と液体容器10とはダクト30(第1流路)で接続されている。筐体2の排出口5にはダクト30の一端が接続され、ダクト30の他方の端部30aは蓋11の入力孔12を通して液体容器10の内部に引き入れられ、液体中の底付近に開口している。つまり、ダクト30により、筐体2の空間の気体が液体容器10の中の液体の液面よりも低い位置で液体の中で排出される。ダクト30は排出口5から液体容器10に接続される入力孔12まで、重力方向に関して水平な部位および上昇する部位がなく降下し続ける形状を有する。
【0018】
液体容器10とポンプ20とはダクト31(第2流路)で接続されている。ダクト31の端部31aは蓋11の出力孔13を通して液体容器10の内部に引き入れられ、液体容器10内部の液体の液面の上の空間Bの中で開放されている。ダクト31の他の端部はポンプ20の導入口21に接続されている。液体容器10の上部の空間Bの気体がポンプ20によって吸引されると、空間Bは減圧状態(負圧状態あるいは陰圧状態ともいう)となる。
【0019】
ポンプ20と加湿部25とは循環ダクトであるダクト32(第3流路)で接続されている。ダクト32の一端はポンプ20の排出口22に接続され、ダクト32の他端は加湿部26の導入口26に接続されている。加湿部26には導入口27からも外気が導入される。
【0020】
加湿部26と筐体2とはダクト33(第4流路)で接続されている。ダクト33の一端は加湿部26の排出口28に接続され、ダクト33の他端は筐体2の導入口6に接続されている。加湿部26で生成された加湿気体はダクト33を通して筐体2に導入される。
【0021】
以上のように、それぞれのユニットはダクトで接続され、全体として気体が循環するシステムとなっている。本例では気体は空気であるが、空気とは異なる気体であってもよい。
【0022】
この構成において、ポンプ20を作動させると、ダクト31から気体が吸引されて(矢印C、矢印d、矢印e)、液体容器10の空間Bが空間Aに比べて減圧状態となる。筐体2の空間Aと液体容器10の空間Bとの間に差圧(相対的な気圧の差)が生じる。この差圧によって筐体2の空間Aの気体がダクト30を通じて引き込まれる(矢印a、矢印b)。引き込まれた気体は液体14の中に排出されて、多数の小さな気泡Cとなって浮上し、浮上の後に空間Bに移動する。なお、本実施例では空間Aは大気圧であるが、空間Aが大気圧に対して正圧状態あるいは負圧状態であってもよい。その場合も、ポンプ20の作動により液体容器10の空間Bが空間Aに比べて減圧状態となって差圧が生まれるようにする。
【0023】
記録部1において、筐体2の空間Aには、インクジェットヘッド4で媒体3に記録する際に発生する、本来の液滴(主滴)とは異なる微小なインク粒子であるインクミストが浮遊している。また、媒体3から微細な紙紛が発生して浮遊することもある。空間Aから排出された気体が気泡Cに細分化されて液体14の中を通過する際には、気体中に含まれるインクミストやその他の異物はほとんどが液体に吸収され濾過される。すなわち、インク成分は水に溶解しやすいので、小さな気泡の中のインクミストは気泡周りの液体14に溶け込む。また、小さな気泡の中の紙紛等の微小物も気泡が浮上する途中で気泡周りの液体14に捕獲される、あるいは気泡が液面に達して破裂する際に液面で捕獲される。こうして、気体中のインクミストや微細な異物は、液体フィルタである液体14によって高効率に濾過される。液体フィルタは、インクミストが液体に溶け込んでも液体の水位の上昇はほとんどないため、液体の排出や交換などは基本的に不要であり、長期間に渡る液体のメンテナンスフリーを実現する。これにより、気体中に浮遊するインクミストやその他の異物を高効率でトラップすることできるとともに、長期間に渡ってメンテナンスフリーを実現したインクジェット装置となる。
【0024】
筐体2の排出口5は、液体容器10内の液体14の液面よりも重力方向において高い位置にある。また、ダクト30は排出口5よりも液体容器10に導入されるる入力孔12のほうが重力方向において低い位置にある。ダクト30は排出口5から液体容器10に導入される位置(入力孔12)まで、水平な部位および上昇する部位がなく降下し続ける形状を有するつまり、ダクト30は排出口5から端部30aまでの経路は、重力方向に徐々に下がっていく経路となっている。これにより、ダクト30の経路内壁に付着したインクミストはすべて重力によって液体容器10に流れ落ち、筐体2の側に逆流することがない。
【0025】
液体容器10の空間Bの気体は、液体14を通過した後のものなので湿度が高まっている。したがって、ポンプ20でダクト32に排出される気体も通常よりも湿度が高い。この気体は加湿部25の導入口26導入されて加湿気体の生成に利用されるので、加湿部25の加湿効率が高まる。すなわち、液体フィルタを通過した気体を循環することで加湿気体の生成補助とする優れた循環システムとなっている。なお、加湿部25には導入口27から外気を導入することも可能であり、導入口26からの事前に加湿された気体と外気とが所望の混合比でユニット内に取り込まれる。
【0026】
筐体2の導入口6から導入された加湿気体は、インクジェットヘッド4のノズルとプラテン8の支持面との間を所定方向に(矢印h方向)に流れて、排出口5から排出される。排出口5はインクミストの発生源の近傍で且つ加湿気体の気流の下流側に位置するので、発生したインクミストが筐体2の内部に広く拡散することが抑制され、インクミストは効率よく排出される。加えて、加湿気体がインクジェットヘッド4のノズル近傍を流れてノズルを保湿するので、未使用のノズルのインク乾燥が抑制される。
【0027】
本実施形態は、ポンプ20から排出した気体を循環して加湿気体の生成に再利用する循環システムである。もし、加湿部25が十分な性能を有している、あるいは加湿気体が不要であるならば非循環システムとしてもよい。図2は加湿部を有さない変形例の構成図である。記録部1は図1と同様、筐体の内部の空間Aにインクジェットヘッドなどが収容されている。記録部1には導入口37から外気が導入される。記録部1で発生したインクミストは上述したものと同様の液体フィルタにより除去されて。ポンプ20の排出口22からダクト34を通してそのまま装置の機外に排出される(矢印h、矢印i、矢印j)。排出される気体は液体フィルタによってインクミストや異物が濾過されたクリーンな気体であるので、装置の設置環境にインクミストが拡散することが防止される。
【0028】
以上の実施形態は、インクジェットヘッド4が置かれる空間Aの気体を、液体容器10に収容される液体の中で排出するためのダクト30と、液体容器10の中で液体の液面の上の空間Bから気体を排出するポンプとを備える。ポンプ20を作動させると空間Bが減圧状態となり、空間Aの気体がダクト30を通じて液体14の中で排出されて気泡となって浮上する。インクミストやその他の異物の発生源である空間Aから液体容器までのダクトにポンプが存在しないので、ポンプ内部にインクミストや異物が短期間に蓄積することがなく、長期間に渡るポンプのメンテナンスフリーを実現する。
【0029】
仮に、図3(比較例)のように記録部1と液体容器10の間にポンプ20を設けた構成にすると、インクミストが多く浮遊する気体がポンプ20に吸い込まれる。そのため、ポンプ20の内部にインクミストが付着して汚れが蓄積していき、短いサイクルで分解清掃などのメンテナンスが必要となる。とくにエアコンプレッサは複雑な構造を有し分解清掃は容易ではないため、短期間で使えなくなることは実用上の支障になってしまう。
【0030】
図4はさらなる変形例の構成図を示す。図2のレイアウトに比較して、ポンプ20の位置を記録部1よりも手前に持ってきたレイアウトである。ポンプ20を動作させると、ダクト35を通してポンプ20の導入口21に外気が取込まれる(矢印a、矢印b、矢印c)。ポンプ20から排出された気体は、排出口22からダクト36を通して記録部1に気体が送り込まれ(矢印d、矢印e)、記録部1の筐体の空間Aは加圧状態(正圧状態あるいは陽圧状態ともいう)となる。一方、液体容器10の空間Bに接続されたダクト31の先は大気開放されているので、空間Bは大気圧である。こうして、空間Aと空間Bの間では差圧が生じる。この差圧により、空間Aのインクミストが浮遊する気体は、ダクト30を通して液体14の液中に排出されて、多数の小さな気泡Cとなって浮上して、浮上の後に空間Bに移動する。気泡となって浮上する際にインクミストや異物は液体に吸収され濾過される。空間Bの気体は大気開放されているダクト31から排出される。
【0031】
このように図4の構成は、インクジェットヘッド4が置かれる空間Aの気体を、液体容器10に収容される液体の中で排出するためのダクト30と、空間Aに気体を吹き込むためのポンプ20とを備える。ポンプ20を作動させることで空間Aが加圧状態となり、図1や図2の例と同様、インクミストを含む気体がダクト30を通じて液体14の中に排出されて気泡となって浮上する。インクミストやその他の異物の発生源である空間Aから液体容器までのダクトにポンプが存在しないので、ポンプ内部にインクミストや異物が短期間に蓄積することがなく、長期間に渡るポンプのメンテナンスフリーを実現することができる。
【0032】
次に、以上の説明における液体フィルタのさらなる具体例について、いくつかの例を挙げる。いずれの例も液体容器10の内部には、気泡の浮上を抑制または撹拌して気泡を小さくするための構造体が設けられている。
【0033】
図5はその一例を示す。液体容器10の液体14の中には、非水溶性の固体、ここでは小さな球状のガラス球40が多数入っている。なお、固体の形状および材質はこれに限らない。ダクト30の端部30aから噴き出した気泡Cは、ガラス球40の間の隙間を抜けて浮上する際により小さく分割される。気泡が小さくなるほどに気泡内の気体が液体に触れる割合が高まるので、インクミストや異物をトラップするフィルタとしての効率が高まる。
【0034】
図6は別の例を示す。液体容器10の内壁には、複数個の突起物10a(例えばリブ)が、気泡Cの上昇経路に互い違いに複数段にわたって設けられている。ダクト30の端部30aから噴き出した気泡Cは、上昇に伴なって突起物に繰返し衝突して小さく分割されていく。こうして、インクミストや異物をトラップするフィルタとしての効率が高まる。
【0035】
図7は別の例を示す。液体容器10の液体14の底部近傍にフィルタ41が水平に設けられている。フィルタ41は多孔質部材やメッシュ部材などで形成され、網目のピッチは初期の気泡サイズよりも小さくなっている。ダクト30の端部30aから噴き出した気泡は、フィルタ41を通過することにより小さく分割される。こうして、インクミストや異物をトラップするフィルタとしての効率が高まる。
【0036】
図8は別の例を示す。ダクト30の端部30aにはフィルタ42が取り付けられている。フィルタ42は多孔質部材やメッシュ部材などで形成され、網目のピッチは初期の気泡サイズよりも小さくなっている。ダクト30の端部30aから噴き出した気泡は、フィルタ41を通過することにより小さく分割される。なお、インクジェットヘッド4がインクを吐出して、インクミストが生成されているときのみポンプ20が作動するように制御すると好ましい。ポンプ20を停止すると、ダクト30の端部30aよりもダクト30の内側に液体が入り込んで、ポンプ20が作動している時とは逆方向の流れが起きる。これにより、フィルタ42の目詰まりが起きにくくなる。
【0037】
図9は別の例を示す。液体容器10の中に液体14を撹拌する機構、例えば回転する撹拌スクリュー43が設けられている。撹拌スクリュー43が矢印S方向に回転すると、液体14に渦状の水流が発生する。ダクト30の端部30aから噴き出した気泡Cは、渦の動きと撹拌スクリュー43に直接当たることによって小さくなる。こうして、インクミストや異物をトラップするフィルタとしての効率が高まる。
【0038】
図10は別の例を示す。図10(a)のように、液体容器10内部は円筒形状となっている。ダクト30の端部30aからは、矢印Tのように気泡Cが円筒形状に沿って回転するような方向に排出される。排出された気泡は渦に沿いながら上昇していく際に小さく分割される。こうして、インクミストや異物をトラップするフィルタとしての効率が高まる。図10(b)は図10(a)の変形例を示す。液体容器10内部は円筒形状で且つ複数個の突起物10b(例えばリブ)が設けられている。矢印Uのように渦状に移動する気泡Cは突起物10bに衝突することでより細かく分割される。
【0039】
<実施例2>
図11を用いて第2実施例について説明する。これまでの例は、筐体2の内部で発生するインクミストを液体フィルタにより濾過するものである。これに対して本実施例は、インクジェットヘッドから発生する不要なインクを受ける受け部材を設けて、減圧によって受け部材からインクおよび気体を吸引して液体に溶け込ませるものである。受け部材は非使用時にインクジェットヘッドのノズルを覆うキャップである。
【0040】
インクジェットヘッド4に対向して、不要なインクの受け部材としてインクジェットヘッド4のノズルを覆うキャップ7が設けられている。キャップ7は、非使用時にキャップ7がインクジェットヘッド4を覆う状態と、使用時にキャップ7がインクジェットヘッド4を覆っていない状態に切り替わる。キャップ7の近傍には上述した実施例と同様にプラテンも置かれている。
【0041】
キャップ7の内部には、インク吸収体が設けられている。このインク吸収体はキャップ内に残留するインクを漏れなく効率良く保持するために設けられている。キャップ7の下部には排出口7aが設けられ、ここからインク吸収体に吸収されているインクが排出される。排出口8aにはダクト38の一端が接続され、ダクト38の他方の端部38aは液体容器10の液体14の底付近に開口している。つまり、ダクト38により、インク吸収体9のインクおよび気体が液体容器10の中の液体の液面よりも低い位置で液体の中で排出される。ポンプ20、ダクト31、ダクト34については、上述した図2の例と同様であるので説明は省略する。以上の各ユニットは記録部1の筐体の内部(第1空間)に収容されている。なお、上述の実施例と同様に液体容器10とポンプ20は記録部1の外に位置させるようにしてもよい。
【0042】
キャップ7がインクジェットヘッド4を覆っていない状態で、ポンプ20が作動すると、液体容器10の液面上の第2空間が第1空間に比べて減圧状態となって、キャップ7内のインク吸収体を通して第1空間から気体が吸引される。気体中に浮遊するインクミストはインク吸収体にトラップされて、すでに吸収されているインクと一体になる。インク吸収体に溜まったインクは気体とともにダクト38に吸い込まれて、液体容器10の液体14に排出される。排出されたインクは液体に溶け込み、排出された気体は気泡となって浮上する。また、インクミストの一部はインク吸収体にトラップされずに隙間を通り抜けてミストのままダクト38に吸い込まれるが、上述したとおり液体中を気泡となって浮上する際にインクミストは液体にトラップされる。
【0043】
キャップ7がインクジェットヘッド4を覆っている状態で、ポンプ20が作動すると、第2空間が第1空間に比べて減圧状態となって、キャップ7の内部が減圧となる。これにより、インクジェットヘッド4のノズルの目詰まり等の吐出不良を解消するためのインク吸引が行われる。ここで、吸引されたインクはダクト38を通って液体容器10の液体14に排出される。
【0044】
<実施例3>
図12を用いて第3実施例について説明する。本実施例は実施例2と同様、インクジェットヘッドから発生する不要なインクを受ける受け部材を設けて、減圧によって受け部材からインクおよび気体を吸引して液体に溶け込ませるものである。ただし、受け部材はインクジェットヘッドから吐出した不要インクを吸収する吸収体である点が、実施例2と異なる。
【0045】
インクジェットヘッド4に対向して、媒体3の支持するプラテン8が設けられている。プラテン8内部には、不要なインクの受け部材としてインク吸収体9が保持されている。インク吸収体9は、インクジェットヘッド4から媒体3以外に向けて吐出された不要なインクを吸収するために設けられている。プラテン8の下部には排出口8aが設けられ、ここからインク吸収体9に吸収されているインクが排出される。排出口8aにはダクト39の一端が接続され、ダクト39の他方の端部39aは液体容器10の液体14の底付近に開口している。つまり、ダクト39により、インク吸収体9のインクおよび気体が液体容器10の中の液体の液面よりも低い位置で液体の中で排出される。ポンプ20、ダクト31、ダクト34については、上述した図2の例と同様であるので説明は省略する。以上の各ユニットは記録部1の筐体の内部(第1空間)に収容されている。なお、上述の実施例と同様に液体容器10とポンプ20は記録部1の外に位置させるようにしてもよい。
【0046】
ポンプ20が作動すると、液体容器10の液面上の第2空間が第1空間に比べて減圧状態となって、インク吸収体9を通して第1空間の気体が吸引される。気体中に浮遊するインクミストはインク吸収体9にトラップされて、すでに吸収されているインクと一体になる。インク吸収体9に溜まったインクは気体とともにダクト39に吸い込まれて、液体容器10の液体14に排出される。排出されたインクは液体に溶け込み、排出された気体は気泡となって浮上する。また、インクミストの一部はインク吸収体9にトラップされずに隙間を通り抜けてミストのままダクト39に吸い込まれるが、上述したとおり液体中を気泡となって浮上する際にインクミストは液体にトラップされる。
【符号の説明】
【0047】
1 記録部
2 筐体
10 液体容器
20 ポンプ
27 加湿部
30 ダクト
31 ダクト
32 ダクト(循環ダクト)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する液体容器と、
インクジェットヘッドが置かれる第1空間の気体を、前記液体容器に収容される前記液体の中で排出するためのダクトと、
前記液体容器の内部で前記液体の液面の上の第2空間から気体を排出するポンプと、を有し、
前記ポンプを作動させると前記第2空間が前記第1空間に比べて減圧状態となり、前記第1空間の気体が前記ダクトを通じて前記液体の中で排出されて気泡となって浮上することを特徴とするインクジェット装置。
【請求項2】
前記ポンプによって前記第2空間から排出された気体を再び前記第1空間に導入するための循環ダクトを有することを特徴とする、請求項1記載のインクジェット装置。
【請求項3】
加湿気体を生成する加湿部と、生成した加湿気体を前記インクジェットのノズル近傍に供給する手段とをさらに有し、前記循環ダクトは前記加湿部に接続されていることを特徴とする、請求項2記載のインクジェット装置。
【請求項4】
前記ポンプによって排出された気体は前記第1空間を提供する筐体の外に排出されることを特徴とする、請求項1記載のインクジェット装置。
【請求項5】
前記ダクトは前記第1空間を提供する筐体の排出口よりも前記液体容器に導入される位置のほうが重力方向において低い位置にあり、且つ、前記排出口は前記液面よりも重力方向において高い位置にあることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット装置。
【請求項6】
前記ダクトは前記排出口から前記液体容器に導入される位置まで、重力方向に関して水平な部位および上昇する部位がなく降下し続ける形状を有することを特徴とする、請求項5記載のインクジェット装置。
【請求項7】
前記液体容器の内部には、前記気泡の浮上を抑制または撹拌して気泡を小さくするための構造体が設けられていることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のインクジェット装置。
【請求項8】
前記第1空間を提供する筐体の内部において、前記インクジェットヘッドにより物品に記録を行なう記録手段を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載のインクジェット装置。
【請求項9】
液体を収容する液体容器と、
インクジェットヘッドが置かれる空間の気体を、前記液体容器に収容される前記液体の中で排出するためのダクトと、
前記空間に気体を吹き込むためのポンプと、
を有し、
前記ポンプを作動させると前記空間が加圧状態となり、前記インクジェットヘッドから発生するインクミストを含む気体が前記ダクトを通じて前記液体の中に排出されて気泡となって浮上することを特徴とするインクジェット装置。
【請求項10】
インクジェットヘッドから発生する不要なインクを受ける受け部材と、
液体を収容する液体容器と、
前記受け部材で受けたインクを前記液体容器に収容される前記液体の中で排出するためのダクトと、
前記液体容器の内部で前記液体の液面の上の空間から気体を排出するポンプと、
を有し、
前記ポンプを作動させると前記空間が前記受け部材が置かれた空間に比べて減圧状態となり、前記受け部材からインクおよび気体が前記ダクトを通じて前記液体の中に導入されて、前記インクは前記液体に溶け込み且つ前記気体は気泡となって浮上することを特徴とするインクジェット装置。
【請求項11】
前記受け部材は、非使用時に前記インクジェットヘッドのノズルを覆うキャップを有することを特徴とする、請求項10記載のインクジェット装置。
【請求項12】
前記受け部材は、媒体を支持するプラテンに設けられ前記インクジェットヘッドから吐出された不要なインク吸収する吸収体を有することを特徴とする、請求項10記載のインクジェット装置。
【請求項1】
液体を収容する液体容器と、
インクジェットヘッドが置かれる第1空間の気体を、前記液体容器に収容される前記液体の中で排出するためのダクトと、
前記液体容器の内部で前記液体の液面の上の第2空間から気体を排出するポンプと、を有し、
前記ポンプを作動させると前記第2空間が前記第1空間に比べて減圧状態となり、前記第1空間の気体が前記ダクトを通じて前記液体の中で排出されて気泡となって浮上することを特徴とするインクジェット装置。
【請求項2】
前記ポンプによって前記第2空間から排出された気体を再び前記第1空間に導入するための循環ダクトを有することを特徴とする、請求項1記載のインクジェット装置。
【請求項3】
加湿気体を生成する加湿部と、生成した加湿気体を前記インクジェットのノズル近傍に供給する手段とをさらに有し、前記循環ダクトは前記加湿部に接続されていることを特徴とする、請求項2記載のインクジェット装置。
【請求項4】
前記ポンプによって排出された気体は前記第1空間を提供する筐体の外に排出されることを特徴とする、請求項1記載のインクジェット装置。
【請求項5】
前記ダクトは前記第1空間を提供する筐体の排出口よりも前記液体容器に導入される位置のほうが重力方向において低い位置にあり、且つ、前記排出口は前記液面よりも重力方向において高い位置にあることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット装置。
【請求項6】
前記ダクトは前記排出口から前記液体容器に導入される位置まで、重力方向に関して水平な部位および上昇する部位がなく降下し続ける形状を有することを特徴とする、請求項5記載のインクジェット装置。
【請求項7】
前記液体容器の内部には、前記気泡の浮上を抑制または撹拌して気泡を小さくするための構造体が設けられていることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のインクジェット装置。
【請求項8】
前記第1空間を提供する筐体の内部において、前記インクジェットヘッドにより物品に記録を行なう記録手段を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載のインクジェット装置。
【請求項9】
液体を収容する液体容器と、
インクジェットヘッドが置かれる空間の気体を、前記液体容器に収容される前記液体の中で排出するためのダクトと、
前記空間に気体を吹き込むためのポンプと、
を有し、
前記ポンプを作動させると前記空間が加圧状態となり、前記インクジェットヘッドから発生するインクミストを含む気体が前記ダクトを通じて前記液体の中に排出されて気泡となって浮上することを特徴とするインクジェット装置。
【請求項10】
インクジェットヘッドから発生する不要なインクを受ける受け部材と、
液体を収容する液体容器と、
前記受け部材で受けたインクを前記液体容器に収容される前記液体の中で排出するためのダクトと、
前記液体容器の内部で前記液体の液面の上の空間から気体を排出するポンプと、
を有し、
前記ポンプを作動させると前記空間が前記受け部材が置かれた空間に比べて減圧状態となり、前記受け部材からインクおよび気体が前記ダクトを通じて前記液体の中に導入されて、前記インクは前記液体に溶け込み且つ前記気体は気泡となって浮上することを特徴とするインクジェット装置。
【請求項11】
前記受け部材は、非使用時に前記インクジェットヘッドのノズルを覆うキャップを有することを特徴とする、請求項10記載のインクジェット装置。
【請求項12】
前記受け部材は、媒体を支持するプラテンに設けられ前記インクジェットヘッドから吐出された不要なインク吸収する吸収体を有することを特徴とする、請求項10記載のインクジェット装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−11693(P2012−11693A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151172(P2010−151172)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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