説明

インクジェット装置

【課題】外装部材間に設けた隙間からのインクの内部浸入を防止し、インクジェットヘッドの位置精度に影響を与えないシール構造のインクジェット装置を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド10の周囲を取り囲むマスクプレート70の端面と、一対のサイドカバー50A,50Bの端面との間に設けた大隙間80に対してフッ素ゴム等の弾性部材からなるシール体90の無端状のシール本体91を弾性的に装着し、シール本体91の内周面に内側に向けて形成した差し込み片部92を大隙間80に差し込んで、小隙間93を差し込み片部92とサイドカバー50A,50Bの端面との間に形成し、小隙間93に外部から浸入したインクによって表面張力シールを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェットヘッドおよび配線部材等を保護する外装部材のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に使用されるインクジェット装置は、インクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドを前記インクジェット記録装置に取り付けるためのヘッド取り付け部材と、前記インクジェットヘッドの電極にフレキシブル配線板等を介して接続される回路基板と、前記インクジェットヘッドおよび前記回路基板を覆う外装部材等により構成されている。
【0003】
上述したインクジェット装置は、ノズルプレートと印字面とを所定間隔とするように、前記ヘッド取り付け部材に対して前記インクジェットヘッドが位置決め調整されて固定されている。
【0004】
また、前記外装部材としては、例えば前記インクジェットヘッドの周囲に配置されたヘッドカバー(マスクプレート)と、前記回路基板およびヘッド取り付け部材を覆うカバー部材等を備えている。
【0005】
このような構成のインクジェットヘッドにおいて、例えばインクボトル等の交換の際に漏れたインクが外装部材の外表面を伝わり、マスクプレートとインクジェットヘッドとの隙間、あるいは外装部材同士の隙間から内部にインクが浸入するのを防ぐために、前記隙間にシール材の充填、パッキンの装着等のシール構造が採用されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2007−185868号公報
【特許文献2】特許第3603579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のインクジェット装置において、前記マスクプレートとインクジェットヘッドとの隙間にシール材を充填するシール構造にあっては、充填したシール材が硬化する際に収縮することで生じた応力がインクジェットヘッド自体の形状精度に影響を及ぼすおそれがある他、前記隙間に幅が大きな部分と小さな部分とが存在していると、充填後のシール材の表面に凹凸が発生する場合があり、またシール材の充填及び硬化時間が部分的に異なり、全体としてシール材の充填・硬化時間が長くなる。
【0008】
また、密閉可能なパッキンを使用したシール構造にあっては、隙間の形状精度とパッキンの形状精度とを共に高度としなければならず、高価なものとなっている。
【0009】
一方、インクジェット記録装置の工場出荷の際における輸送時において、振動等の影響を受けてシール材およびパッキンがスプリングとして作用し、外装部材間の隙間を拡げ、前記取り付け部材に対するインクジェットヘッドの位置にずれが生じることも考えられる。
【0010】
本発明は、このような観点に鑑みなされたもので、寸法精度や形状精度に制約を受けず、しかも輸送時等において外部振動が伝達されても調整済みのインクジェットヘッド位置に影響を及ぼすことがない、インクの浸入を防止できるシール構造を備えたインクジェット装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するインクジェット装置は、図1の実施形態によれば、インクジェットヘッド10の周囲を取り囲むマスクプレート70の端面と、一対のサイドカバー50A,50Bの端面との間に設けた大隙間80に対してフッ素ゴム等の弾性部材からなるシール体90の無端状のシール本体91を弾性的に装着し、シール本体91の内周面に内側に向けて形成した差し込み片部92を大隙間80に差し込んで、小隙間93を差し込み片部92とサイドカバー50A,50Bの端面との間に形成し、小隙間93に外部から浸入したインクによって表面張力シールを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態を示すインクジェット装置の組み立て工程を示す図。
【図2】第1実施形態におけるシール体の装着手順を示す図。
【図3】図2のA-A矢視図。
【図4】第2実施形態を示すインクジェット装置の外観斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1〜図3は本発明の第1実施形態を示す。
【0015】
図1〜図3において、インクジェット装置1は、インクジェットヘッド10と、インクジェットヘッド10を位置調整可能に取り付けるヘッド取り付け部材30と、ヘッド取り付け部材30にビス等で取り付けられる外装部材をなす対向する一対のサイドカバー50A,50Bを有する。
【0016】
ヘッド取り付け部材30に一対のサイドカバー50A,50Bを取り付けた状態で、一対のサイドカバー50A,50Bの上部には上部開口50Cが形成され、下部には下部開口50Dが形成される。ヘッド取り付け部材30は不図示のインクジェット記録装置に対し上下、前後、左右方向等について調節可能に取り付けられ、印刷用紙との距離がL1となるように調節している。
【0017】
インクジェット装置1は、さらに、上部開口50Cを塞ぐ外装部材をなし、一対のサイドカバー50A,50Bの上端面にビス等で取り付けられるトップカバー60を有する。
【0018】
インクジェット装置1は、さらに、下部開口50Dに対向して、インクジェットヘッド10のインク吐出面側を覆う略直方体状のマスクプレート70を有しており、マスクプレート70の開口端面と一対のサイドカバー50A,50Bの下端開口端面との間に、図3に示すように、第1の隙間である高さh1の大隙間80を設けている。
【0019】
本実施形態のインクジェットヘッド10は、インク循環方式とし、図3に示すように、基板11の下面には、紙面の表裏方向を長手方向とする圧電部材からなる2列のアクチュエータ列11A,11Bを並設し、各アクチュエータ列11A,11Bの長手方向と直交する短手方向には、長手方向に沿って一定間隔で複数の溝部を形成し、各溝部を圧力室12としている。前記各溝部の内周面には電極(不図示)が形成され、これらの電極は基板11の表面に形成した配線パターン(不図示)を介して、基板11の短手方向両側に配置したフレキシブル回路基板13A,13Bに接続している。これらのフレキシブル回路基板13A,13Bは、例えば駆動IC14を外側に向けるようにして折り曲げられ、上方に向けて配置されている。
【0020】
基板11の周囲には枠部材15が配置され、枠部材15にノズルプレート16を接着剤により固定している。ノズルプレート16には、各圧力室12に対応してノズル17が形成されている。枠部材15の外周には、矩形枠形状に形成された絶縁性を有するマスクシール部材18が接着されている。マスクシール部材18は、外周面に仕切り片19が形成され、フレキシブル回路基板13A,13Bの基端部側の接続部分を覆うようにしている。そして、マスクプレート70の下端側開口部をこの仕切り片19に当接するまで押し込んで嵌合させている。なお、マスクプレート70は接着剤によってマスクシール部材18に固定している。
【0021】
また、インクジェットヘッド10は、基板11の上面側にインク供給管20とインク排出管21とが上方に向けて立設している。平板状に形成したヘッド取り付け部材30には、インク供給管20とインク排出管21が挿通される第1挿通孔31と第2挿通孔32が形成されている。第1挿通孔31に挿通されるインク供給管20と、第2挿通孔32に挿通されるインク排出管21は、インクジェット10のノズルプレート16とヘッド取り付け部材30との距離L2等を調節可能とするために、位置調節後に第1挿通孔31と第2挿通孔32に接着剤を充填して接着固定している。なお、インク供給管20の上端部およびインク排出管21の上端部はそれぞれ連結管22,23に連結され、これら連結管22,23を介して、不図示のインク供給部とインクジェットヘッド10との間でインクを循環させる。
【0022】
本実施形態において、インクジェット装置1は、大隙間80の回りに対応して、一対のサイドカバー50A,50Bおよびマスクプレート70の外周面側から大隙間80を覆うように矩形枠状に形成したバンド状のシール体90を装着している。なお、図2に示すように、シール体90は、インクジェットヘッド10のインク吐出面側からマスクプレート70を通して大隙間80に装着される。
【0023】
シール体90は、弾性を有するゴム、例えばフッ素ゴムにより形成されていて、矩形枠状に形成したバンド状のシール本体91の内周面に、内側に向けて突出し、大隙間80に差し込まれる差し込み片部92を一体に形成しており、一対のサイドカバー50A,50Bおよびマスクプレート70の外周面に締め付けられるように装着される。差し込み片部92は、図3に示すように、厚みh2が大隙間80の高さh1よりも小さく設定され、マスクプレート70の開口端面に接するように差し込まれている。
【0024】
したがって、差し込み片部92と一対のサイドカバー50A,50Bの下端面との間に第2の隙間である高さh3(h3=h1−h2)の小隙間93が形成される。
【0025】
上記した構成のインクジェット装置を備えたインクジェット記録装置は、工場出荷の段階ではインクが充填されておらず、小隙間93が保持された状態で輸送される。
【0026】
また、シール本体91は、一対のサイドカバー50A,50Bおよびマスクプレート70の外周面に締め付け力を伴って装着されていても、その間には両者の面精度等の機械的加工精度の点より、サイドカバー50A、50Bの表面を伝わり落ちてくるインクが浸み込む。そして、浸み込んだインクは小隙間93内に導かれる。
【0027】
小隙間93内に導かれたインクは、小隙間93を構成する差し込み片部92と、サイドカバー50A、50Bの下端面との間において、その高さh3は、当該浸み込んだインクによって表面張力によるシール膜が形成できる高さに設定している。小隙間93にインクの表面張力によるシール膜が形成されると、サイドカバー50A,50Bの表面を伝わり落ちてくるインクは、このシール膜により小隙間93を通してインクジェット装置1の内部への浸入が阻止される。
【0028】
本実施形態において、インクジェット装置1を装備したインクジェット記録装置の工場出荷時において、小隙間93は単なる空隙である。この状態でインクジェット装置1に輸送時の振動が加わっても、シール体90の差し込み片部92は、サイドカバー50A、50Bの下端面と接触することがない。仮に、小隙間93が存在せず、大隙間80が全て差し込み片部92で埋まっている場合には、サイドカバー50A,50Bからの振動が差し込み片部92に直接伝達され、マスクプレート70が押されて大隙間80の高さが拡がることが考えられる。大隙間80の高さが拡がると、工場出荷時に調節した前記距離L2がずれるおそれがある。
【0029】
これに対し、本実施形態では、インクジェット記録装置が工場出荷時からユーザーに渡るまで、インクジェット装置1の小隙間93を空隙状態としており、実際に使用を開始する際に初めてインクを充填する際、あるいはインクボトル等の交換の際に、漏れたインクが連結管22,23の外面を伝わり、サイドカバー50A,50Bの外表面を滴り落ちて小隙間93に浸入する。そして、小隙間93の全周に渡ってインクが浸入すると、浸入インク部は表面張力によりその幅を縮めるように収縮して球形状になろうとし、半球形状となったインクの上面がサイドカバー50A,50Bの下端面に接触し、表面張力シールが完成する。
【0030】
インクジェット装置1は、ヘッド取り付け部材30に対してサイドカバー50A,50Bを取り付け、トップカバー60をサイドカバー50A,50Bに取り付けている。したがって、これらの部材間に生じる隙間は互いの部品精度により生じ、前記隙間の大きさは小さく、バラつきも小さい。トップカバー60はサイドカバー50A,50Bをオーバーラップするように構成され、インク交換の際等においてトップカバー60の上面に連結管22,23の外周面を伝わってインクが流れ落ち、さらにトップカバー60からインクが垂れてくると、サイドカバー50A,50B間及びサイドカバー50A,50Bの外表面を通じて垂れたインクは重力方向に移動する。サイドカバー50A,50Bとマスクプレート70の隙間(大隙間80)はバラつきが大きく、おのずと大隙間80の高さh1を大きくせざるを得ない。
【0031】
重力移動してきたインクによってこの大隙間80に仮に表面張力シールが完成したとしても、大隙間80の高さh1が大きいことからその表面張力が弱いので、さらに重力移動してきたインクの圧力に抗しきれず、ヘッド内部に浸入する。
【0032】
しかし、シール体90の差し込み片部92により、大隙間80の高さh1よりも狭い小隙間93を形成することにより、大隙間80で形成される表面張力シールの表面張力よりも大きな表面張力を備えた表面張力シールを形成することができ、外部から重力移動してきたインクの圧力に打ち勝ってインクの内部浸入を阻止できる表面張力シールを得ることができることになる。
【0033】
なお、小隙間93の高さh3として、前記浸入インク部が表面張力によって半球形状になろうとする前に、インクの上面がサイドカバー50A,50Bの下端面に接触するような高さであれば表面張力シールは完成されず、前記浸入インク部が表面張力によって半球形状となってもサイドカバー50A,50Bの下端面に接触しない高さであれば表面張力シールは完成されない。
【0034】
(第2実施形態)
図4は本発明の第2実施形態を示す。
【0035】
本実施形態は、サイドカバー50Aとサイドカバー50Bのカバー下部51に、適当間隔で縦溝部52を形成している。カバー下部51はその上部と段差を有し、サイドカバー50Aとサイドカバー50Bの外表面を滴り落ちたインクを該段差を介し、あるいは直接これらの縦溝部52に集め、シール本体91とカバー下部51との密着面を通して小隙間93に導く。
【0036】
したがって、小隙間93の全周に渡って表面張力シールが完成するのに要する漏出インクを無駄なく集めることができ、インクジェット記録装置の使用を開始してから早期に表面張力シールを完成させることができる。
【0037】
上述の各実施形態によれば、インクジェット装置1のシール性が不要な工場出荷時からユーザーへの納品までは、シール体90は小隙間93を空隙状態として液密シールの機能を果たさず、これによりノズル取り付け部材30とノズルプレート16との距離L2が輸送時等の外部振動等を受けても変化することが防止できる。そして、インクジェット記録装置の使用開始後、インクの交換作業の際等に漏出するインクを利用して小隙間93に表面張力シールを形成することで、インクジェットヘッド装置1内へのインクの浸入を防止することが可能となる。
【0038】
なお、本実施形態において、漏出インクにより表面張力シールを形成しているが、予め用意したインク、あるいは油、純水等の非導電性の液体をシール体90とサイドカバー50A,50Bの密着面、あるいは図4に示す縦溝部52にたらすようにしてもよい。この場合、最初に使用する際に表面張力シールを完成させておくことができる。また、非導電性液体を使用すれば、例えばインクジェット装置1の分解の際等においてシール体90を取り外す場合、表面張力シールを構成する非導電性液体が誤ってフレキシブル回路基板13A,13Bに飛散してもショート等の問題が発生しない。
【符号の説明】
【0039】
1 インクジェット装置
10 インクジェットヘッド
11 基板 11A,11B アクチュエータ列 12 圧力室
13A,13B フレキシブル回路基板 14 駆動IC
15 枠部材 16 ノズルプレート 17 ノズル
18 マスクシール部材 19 仕切り片
20 インク供給管 21 インク排出管 22,23 連結管
30 ヘッド取り付け部材
31 第1挿通孔 32 第2挿通孔
50A,50B サイドカバー
50C 上部開口 50D 下部開口
51 カバー下部 52 縦溝部
60 トップカバー
70 マスクプレート
80 大隙間
90 シール体
91 シール本体 92 差し込み片部 93 小隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドの周囲を取り囲む複数の外装部材を有し、前記複数の外装部材の端面同士を周方向全周に渡る第1の隙間を隔てて配置したインクジェット装置であって、
前記第1の隙間に配置され、前記第1の隙間に前記第1の隙間よりも狭い第2の隙間を形成し、前記第2の隙間に液体による表面張力シールを形成可能とするシール体を有するインクジェット装置。
【請求項2】
前記インクジェットヘッドを下向きにして使用する使用状態において、前記外装部材の外表面に、重力で移動するインクを前記第2の隙間に導く縦溝部を形成した請求項1に記載のインクジェット装置。
【請求項3】
前記第1の隙間は、前記インクジェットヘッドのインク吐出面側を覆う外装部材であるマスクプレートと、前記インクジェットヘッドのインク吐出面側と反対側を覆う外装部材であるサイドカバーとの端面間に形成された請求項1または2に記載のインクジェット装置。
【請求項4】
前記シール体は、前記第1の隙間を形成する外装部材の外表面に前記第1の隙間を跨いで当接する無端状のシール本体と、前記シール本体の内面側から内側に向けて突出し、前記第1の隙間に差し込まれる差し込み片部とにより構成した請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット装置。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドには回路基板が接続され、前記回路基板が前記外装部材で囲まれる内部に配置された請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−121293(P2012−121293A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275897(P2010−275897)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】