説明

インクジェット記録ヘッド用基板、及びインクジェット記録ヘッド、記録装置

【課題】インクジェット記録ヘッド用基板のサイズを大型化することなく、サージ等に対する安全性の向上を図る。
【解決手段】インクを吐出させるエネルギを発生する複数のヒータと、複数のヒータに電気的に接続され各ヒータに電力を印加するための共通配線110と、を備える。そして、共通配線110の少なくとも一部には、共通配線110に過電流が流れたときに溶断されて通電を遮断するヒューズ素子104が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材にインク等の液体を吐出して記録を行うためのインクジェット記録ヘッド用基板、及びインクジェット記録ヘッド、記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、いわゆるノンインパクト記録方式の記録装置であり、高速な記録が可能であること、様々な被記録材に対して記録することが可能であること、記録の際の騒音が殆ど生じないことなどの特徴がある。このようなことから、インクジェット記録装置は、プリンタ、複写機、ファクシミリ、ワードプロセッサ等の記録機構を担う装置として、広く採用されている。
【0003】
インクジェット記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッドは、種々の方式により吐出インク滴を形成するものが知られている。このような記録装置では、この吐出インク滴を記録紙などの被記録材に付着させることによって記録を行う。なかでも、吐出インク滴の形成のためのエネルギとして熱を利用するインクジェット記録ヘッドは、高密度なマルチノズル化を比較的容易に実現でき、高解像度、高画質、また高速な記録を可能にしている。この種の熱エネルギを利用してインクを吐出する方式の1つとして、吐出エネルギ発生素子として熱エネルギを発生する発熱抵抗体であるヒータが形成された面の垂直上方にインク滴を吐出する、いわゆるサイドシュータ型のインクジェット記録ヘッドが知られている。このタイプの記録ヘッドは、一般に、吐出に伴うインクの供給をヒータが設けられた基板の裏側から、この基板を貫通するインク供給口を介して行うものである。
【0004】
図18及び図19に、このようなサイドシュータ型のインクジェット記録ヘッドの一例を示す。図18は、吐出口等を形成する部材を一部破断して基板の一部を示す斜視図である。図19は、記録ヘッドの基板上の主に電源配線を示す平面図である。
【0005】
このタイプの記録ヘッドは、図18に示すように、基板を貫通するインク供給口803を挟んだ両側において千鳥状に配置された複数のヒータ802が基板805上に設けられる。また、これらの複数のヒータ802それぞれに対応してインクを吐出するためのインク吐出口801やインク流路804を形成するための部材が基板805上に形成されている。
【0006】
図19に示すように、基板805上には、複数のヒータ802を記録データに応じて選択的に駆動してインクを吐出するための電源側の電源共通配線902a、902bが配設されている。さらに、ヒータ802及びこのヒータ802に電力を供給するための電源配線、トランジスタ等の駆動素子、GND側の共通配線904a、904b等の配線もしくは回路が、この順で接続されるよう設けられている。駆動素子は、図19中にハッチングで示している部分の下層側に形成されている。そして、電源側及びGND側の各共通配線は、電極パッド903を介して基板外と電気的な接続を行うことができる。なお、図19では、層間絶縁膜や保護膜などを省略して示している。
【0007】
以上の構成を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、インクは、各吐出口801の近傍でメニスカスを形成して保持され、この状態でヒータ802を記録データに応じて選択的に駆動させる。その発生する熱エネルギを利用して熱作用面上のインクを急激に加熱沸騰させ、その際に発生する気泡の圧力によってインクを吐出することができる。
【0008】
ところで、インク吐出のためにヒータに供給される電気エネルギもしくは電力は、インク吐出に影響を及ぼす重要なファクターの1つである。すなわち、供給される電気エネルギが変化した場合、その変化に応じて発泡現象も変化し、良好な吐出を行えないことがある。例えば、供給された駆動エネルギが小さい場合には、エネルギ不足によりインクの膜沸謄現象が不安定になり易く、インク滴の吐出速度や吐出方向さらには吐出量の変動を招き、いわゆるヨレ、カスレなどといった記録画像の画質劣化を招く場合がある。一方、供給された駆動エネルギが高い場合には、過剰な熱エネルギによりヒータに機械的なストレスを与えたり、膜質に変化を生じさせたりしてしまう。これらによって、上述のような吐出不良を引き起こしたり、ひどい場合には記録ヘッドを破損させてしまったりすることもある。
【0009】
このため、複数のヒータそれぞれに一定のエネルギが供給され、また、各ヒータについて供給されるエネルギが常に一定であることが望ましい。
【0010】
一方、各ヒータに供給されるエネルギの変動要因として、1つの記録ヘッドで同時に駆動されるヒータの個数が変化することに伴うものが知られている。すなわち、記録データ等に応じて同時に駆動されるヒータの個数が変化した場合に、それによって生じる電圧降下が異なり、結果として各ヒータの駆動エネルギが変化するためである。
【0011】
この問題の対策の1つとして、図19に示すような構成が採られている(特許文献1参照)。この構成では、図19に示すように、ヒータ802と電極パッドとの間の配線、及び駆動素子と電極パッドとの間の配線が複数に分割され、かつ、各共通電極配線902a、902b、904a、904bについて配線抵抗値がほぼ等しくされている。この構成によれば、それぞれの共通電極配線について全てのヒータを駆動するときと、1つのヒータを駆動するときとの電圧降下の差を小さくすることができる。また、それぞれの共通電極配線に電気的に接続されるヒータについて、同時に駆動する個数を1つのヒータにすることによって、全部のヒータを駆動するときと、1つのヒータを駆動するときとの電圧ドロップの差をなくすことができる。これにより、各ヒータに対して常に一定の駆動エネルギを供給することができる。
【0012】
この構成は、ヒータを駆動する際に生じる電圧降下のうち共通電極配線による電圧降下を小さくすることを前提とするものである。このため、共通電極配線の幅をできるだけ大きく形成してその配線抵抗を小さくし、その上で、図19に示す共通電極配線の幅A、Bのようにその配線の長さに応じて配線の幅を異ならせることによって、各電極配線間の配線抵抗を等しくするものである。
【0013】
ところで、インクジェット記録ヘッドは、特許文献2に開示されているように、インクジェット記録ヘッド用基板内に温度センサを形成することで、高精度な基板温度の読み取りも可能にしている。この温度センサは、各電源が電流を消費する際に発生する熱によって変化するインク吐出特性の制御に活用されている。さらに、温度センサは、温度センサのモニタ値を利用して、電源ショートなどの基板上に何らかの異常が生じ、異常に温度上昇した際に強制的にシーケンスを一時停止する場合などにも活用されている。
【0014】
以上説明した記録ヘッドとインクジェット記録装置本体とを電気的に接続する手段は、記録ヘッドを装着して往復運動させるキャリッジに設けられている。具体的には、キャリッジに複数の接点が設けられており、記録ヘッドがキャリッジに装着された際に、キャリッジ側の接点と記録ヘッド側に設けられた複数の接点とが当接することによって、記録ヘッドとインクジェット記録装置本体とが電気的に接続されている。
【特許文献1】特開平10−44416号公報
【特許文献2】特開平2−258266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような場合、インクジェット記録ヘッドは、インク交換時にユーザによって装着されることを前提としており、特にインクタンク一体型のものでは、インクを消耗するたびに、新しいインクジェット記録ヘッドが装着される。現時点では問題ないが、昨今においてはインクジェット記録ヘッドの用途も多岐にわたり、複合機や大判プリンタなど、ユーザによる取扱い時にその扱われ方によっては静電気やサージ等による過電圧が記録ヘッドに放電してしまう恐れがある。これにより、ロジック回路が故障し、論理が不定の状態で、もしも高電圧であるヒータへの電圧(例えば24V)が印加された場合には、記録ヘッドの論理が暴走し、ひどい場合には、異常昇温などで破損してしまう可能性がある。
【0016】
従来の記録ヘッドでは、上述したように、インクジェット記録ヘッド用基板内に温度センサが形成されており、温度センサによって高精度な基板温度の読み取りを行っていた。これにより、電源ショートなどインクジェット記録ヘッド用基板上に何らかの異常が生じて、異常に昇温した際にあるレベルに達した場合に、強制的にシーケンスを一時停止させていた。例えば、温度センサによるモニタ値を温度に換算したときに70℃を超えた場合などに、強制的にシーケンスを一時停止させ、そのような状況を未然に防いでいた。
【0017】
しかしながら、この構成の場合には、リーク電流や消費電力による基板の温度上昇に遅延時間があるため、異常を検知するまでに時間がかかってしまう不都合がある。このため、この構成では、異常を検知するまでの間、リーク電流や消費電力を流し続けていることになり、記録ヘッド及び駆動制御回路の安全性に関して十分でない場合が考えられた。そのため、より一層高精度で応答性が高い安全回路を記録ヘッド用基板に組み込む必要性がある。
【0018】
一方で、記録ヘッド等の小型化の要望があり、記録ヘッドのサイズの大型化を避ける必要がある制約の下で、記録ヘッドに回路的に新たな機能を組み込むということは、非常に困難な状況となっている。
【0019】
そこで、本発明は、上述の課題を解決し、インクジェット記録ヘッド用基板のサイズを大型化することなく、サージ等に対する安全性を向上することができるインクジェット記録ヘッド用基板及びインクジェット記録ヘッド、記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した目的を達成するため、本発明に係るインクジェット記録ヘッド用基板は、インクを吐出させるエネルギを発生する複数の吐出エネルギ発生素子と、複数の吐出エネルギ発生素子に電気的に接続され各吐出エネルギ発生素子に電力を印加するための共通配線と、を備える。そして、共通配線の少なくとも一部には、共通配線に過電流が流れたときに溶断されて通電を遮断するヒューズ素子が設けられる。
【0021】
また、本発明に係る他のインクジェット記録ヘッド用基板は、インクを吐出させるエネルギを発生する複数の吐出エネルギ発生素子と、複数の吐出エネルギ発生素子に電気的に接続され各吐出エネルギ発生素子に電力を印加するための共通配線と、を備えるインクジェット記録ヘッド用基板において、
共通配線は、複数の分割配線に分割され、少なくとも1つの分割配線に、分割配線に過電流が流れたときに溶断されて通電を遮断するヒューズ素子が設けられる。そして、ヒューズ素子の幅W2は、ヒューズ素子が配置された分割配線の幅W1よりも大きくされ、ヒューズ素子が分割配線の長手方向に分散して配置されている。また、ヒューズ素子に隣接する分割配線の幅が部分的に小さくされ、分割配線の長手方向に沿って、複数の分割配線の幅の総和が一定にされる。
【0022】
また、本発明に係る更に他のインクジェット記録ヘッド用基板は、インクを吐出させるエネルギを発生する複数の吐出エネルギ発生素子と、複数の吐出エネルギ発生素子に電気的に接続され各吐出エネルギ発生素子に電力を印加するための共通配線と、を備えるインクジェット記録ヘッド用基板において、
共通配線は、複数の分割配線に分割され、少なくとも1つの分割配線に、分割配線に過電流が流れたときに溶断されて通電を遮断するヒューズ素子が設けられる。そして、ヒューズ素子の幅W2が、各分割配線の幅W1よりも大きくされ、ヒューズ素子の幅方向が、分割配線の幅方向に対して傾斜させて配置され、各分割配線の幅が一定である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、インクジェット記録ヘッド用基板において電源系の共通配線にヒューズ素子が配置されることによって、サージ等の過電圧が生じたに場合であっても、共通配線が直接溶断されるので、記録ヘッドの信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
図1から図8は、本発明が実施または適用される好適な記録ヘッドを説明するための図である。以下、これらの図面を参照して各構成要素について説明する。
【0026】
本実施形態の記録ヘッドは、インクタンクと一体型の構成であって、図1(a)及び図1(b)では、ブラックインクが充填されたインクタンクを備える第1の記録ヘッド500を示している。図4(a)及び図4(b)では、カラーインク(シアンインク、マゼンタインク、イエローインク)が充填されたインクタンクを備える第2の記録ヘッド501を示している。これら第1及び第2の記録ヘッド500、501は、インクジェット記録装置本体に搭載されているキャリッジ上に、位置決め手段及び電気的な接点によって固定支持されるとともに、キャリッジに対して着脱可能に構成されている。インクタンクに充填されているインクが使用されて消耗した場合には、新たな記録ヘッドに交換することが可能にされている。
【0027】
以下、これら記録ヘッド500、501について、それぞれの構成要素を詳細に説明する。
【0028】
(記録ヘッド)
第1の記録ヘッド500及び第2の記録ヘッド501は、吐出エネルギ発生素子として、いずれも電気信号に応じて膜沸騰をインクに生じさせるための熱エネルギを生成する電気熱変換体であるヒータを用いたバブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッドでる。また、ヒータとインク吐出口とが対向するように配置された、いわゆるサイドシュータ型の記録ヘッドである。
【0029】
(1−1)第1の記録ヘッド500
図2(a)及び図2(b)は、第1の記録ヘッド500を示す分解斜視図である。第1の記録ヘッド500は、第1の記録素子基板1100、電気配線テープ1300、インク供給保持部材1500、フィルタ1700、インク吸収体1600、蓋部材1900、及びシール部材1800を備えて構成されている。
【0030】
(1−1−1)第1の記録素子基板1100
図3は、第1の記録素子基板1100の構成を説明するための図で、一部破断して示す斜視図である。第1の記録素子基板1100は、例えば、厚さ0.5mm〜1mmのSi基板1110に、インク流路である長溝状の貫通口のインク供給口1102が、Siの結晶方位を利用した異方性エッチングやサンドブラストなどの加工方法で形成されている。
【0031】
Si基板1110には、インク供給口1102を挟んでその両側に、ヒータ1103が1列ずつ並べて配置されており、さらにヒータ1103に電力を供給するAl等からなる不図示の電気配線が形成されている。これらヒータ1103と電気配線は、既存の成膜技術を利用して形成することができる。各列のヒータ1103は、互いに千鳥状になるように配列されている。すなわち、各列の吐出口の位置が、その列方向に直交する方向に並ばないように少しずれて配置されている。
【0032】
また、Si基板1110には、電気配線に電力を供給したり、ヒータ1103を駆動するための電気信号を供給したりするための電極部1104が、ヒータ1103の列の両端に位置する側の辺部に沿って配列されている。そして、それぞれの電極部1104上にはAuなどからなるバンプ1105が形成されている。
【0033】
Si基板1110上の、配線及び抵抗素子などの記録素子のパターンが形成された面上には、ヒータ1103ごとにインク流路を備える、樹脂材料からなる構造体がフォトリソグラフィ技術によって形成されている。この構造体は、各インク流路を区切るインク流路壁1106とその上方を覆う天井部とを有し、天井部には吐出口1107が開口されている。吐出口1107は、ヒータ1103のそれぞれに対向して設けられており、これにより吐出口群1108を形成している。
【0034】
上述のように構成された第1の記録素子基板1100では、インク流路1102から供給されたインクは、各ヒータ1103の発熱によって発生した気泡の圧力によって、各ヒータ1103に対向する吐出口1107から吐出される。
【0035】
(1−1−2)電気配線テープ1300
電気配線テープ1300は、第1の記録素子基板1100に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成するものであり、ポリイミドのベース基材上に銅箔の配線パターンを形成することで構成されている。また、第1の記録素子基板1100を組み込むための開口部1303が形成されており、この開口部1303の縁付近には、第1の記録素子基板1100の電極部1104に接続される電極端子1304が形成されている。さらに、電気配線テープ1300には、本体装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子1302が形成されており、この外部信号入力端子1302と電極端子1304とが連続した銅箔の配線パターンでつながれている。
【0036】
電気配線テープ1300と第1の記録素子基板1100との電気的な接続は、次のように行われている。例えば、第1の記録素子基板1100の電極部1104に形成されたバンプ1105と、第1の記録素子基板1100の電極部1104に対応する電気配線テープ1300の電極端子1304とが、熱超音波圧着法によって電気接合されている。
【0037】
(1−1−3)インク供給保持部材1500
インク供給保持部材1500は、例えば、樹脂材料を用いた成形加工によって形成されている。樹脂材料としては、形状的な剛性を向上させるためにガラスフィラーを5%〜40%混入した樹脂材料を使用することが望ましい。図2(b)に示すように、インク供給保持部材1500は、内部にインクを保持し負圧を発生するための吸収体1600を有している。これにより、インクタンクの機能を、記録素子基板1100にそのインクを導くためのインク流路を形成することでインク供給の機能をそれぞれ実現している。インク吸収体1600としては、PP(ポリプロピレン)繊維を圧縮したものが使われているが、これに代えてウレタン繊維を圧縮したものを用いても良い。
【0038】
インク流路の上流部に位置するインク吸収体1600からのインクが供給される部分とインク流路との境界部には、第1の記録素子基板1100内部へのゴミの進入を防ぐためのフィルタ1700が溶着により接合されている。フィルタ1700は、SUS金属メッシュタイプでも良いが、SUS金属繊維焼結タイプの方が好ましい。
【0039】
インク流路の下流部には、第1の記録素子基板1100にブラックのインクを供給するためのインク供給口1200が形成されている。第1の記録素子基板1100のインク供給口1102がインク供給保持部材1500のインク供給口1200に連通するよう、第1の記録素子基板1100がインク供給保持部材1500に対して位置精度良く接着固定される。この接着に用いられる第1の接着剤は、低粘度で硬化温度が低く、短時間で硬化し、硬化後は、比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性のあるものが望ましい。この第1の接着剤としては、例えばエポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤がある。この熱硬化接着剤を用いた場合、その接着層の厚みは50μm程度が望ましい。
【0040】
また、第1の記録素子基板1100の接着面周囲の平面には、電気配線テープ1300の一部の裏面が第2の接着剤によって接着固定される。第1の記録素子基板1100と電気配線テープ1300との電気的な接続部分は、第1の封止剤1307及び第2の封止剤1308(図7参照)によって封止され、これにより電気的な接続部分をインクによる腐食や外的衝撃から保護している。第1の封止剤1307は、主に電気配線テープ1300の電極端子1312と第1の記録素子基板1100のバンプ1105との接続部の裏面側と、第1の記録素子基板1100の外周部分を封止している。さらに、第2の封止剤1308は、上述の接続部の表側を封止している。そして、電気配線テープ1300の未接着部は、折り曲げられて、インク供給保持部材1500の第1の記録素子基板1100の接着面にほぼ垂直な側面に熱カシメまたは接着等で固定される。
【0041】
(1−1−4)蓋部材1900
蓋部材1900は、インク供給保持部材1500の上部開口部に溶着されることで、インク供給保持部材1500内部を密閉するものである。蓋部材1900には、インク供給保持部材1500内部の圧力変動を逃がすための細口1910とそれに連通した微細溝1920が設けられている。細口1910と微細溝1920のほとんどをシール部材1800で覆い、微細溝1920の一端部を開口することで、大気連通口1924を形成している。また、蓋部材1900は、第1の記録ヘッドをインクジェット記録装置に固定するための係合部1930を有している。
【0042】
(1−2)第2の記録ヘッド501
第2の記録ヘッド501は、シアン、マゼンタ、イエローの3色のインクを吐出するための記録ヘッドである。図5(a)及び図5(b)に示すように、第2の記録ヘッド501は、第2の記録素子基板1101、電気配線テープ1301、インク供給保持部材1501、フィルタ1701、1702、1703を備えて構成されている。さらに、第2の記録ヘッド501は、インク吸収体1601、1602、1603、蓋部材1901、及びシール部材1801を備えて構成されている。
【0043】
(1−2−1)第2の記録素子基板1101
図6は、第2の記録素子基板1101の構成を説明するために一部破断して示す斜視図である。この第2の記録素子基板1101は、シアン、マゼンタ、イエロー用の3個のインク供給口1102が並列して形成されている点が、第1の記録素子基板1100と大きく異なる。それぞれのインク供給口1102を挟んでその両側にヒータ1103と吐出口1107とが一列に千鳥状に並んで配置されている。Si基板1110a上には、第1の記録素子基板1100におけるSi基板1110同様に、電気配線、ヒューズ素子もしくは抵抗、電極部などが形成されている。さらに、Si基板1110a上には、フォトリソグラフィ技術によって、樹脂材料からなるインク流路壁1106や吐出口1107が形成されている。電気配線に電力を供給するための電極部1104には、Au等のバンプ1105が形成されている。
【0044】
(1−2−2)電気配線テープ1301
電気配線テープ1301は、ポリイミドのベース基材上に銅箔の配線パターンを形成したものであり、第2の記録素子基板1101に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成する。電気配線テープ1301には、第2の記録素子基板1101を組み込むための開口部が形成されており、この開口部の縁付近には、第2の記録素子基板1101の電極部1104に接続される電極端子1304が形成されている。また、電気配線テープ1301には、本体装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子1302が形成されており、電極端子1304と外部信号入力端子1302は連続した銅箔の配線パターンでつながれている。
【0045】
電気配線テープ1301と第2の記録素子基板1101との電気的な接続は次のように行う。例えば、第2の記録素子基板1101の電極部1104に形成されたバンプ1105と、第2の記録素子基板1101の電極部1104に対応する電気配線テープ1301の電極端子1304とが熱超音波圧着法により電気接合されることでなされる。
【0046】
(1−2−3)インク供給保持部材1501
インク供給保持部材1501は、例えば、樹脂成形によって形成されている。樹脂材料には、形状的な剛性を向上させるためにガラスフィラーを5%〜40%混入した樹脂材料を使用することが望ましい。図5(a)及び図5(b)に示すように、インク供給保持部材1501は、インク収容部としてのインクタンク機能、及びインク供給機能を有している。インク供給保持部材1501は、内部にシアン、マゼンタ、イエローのインクを保持するための負圧を発生するためのインク吸収体1601、1602,1603をそれぞれ独立して保持するための空間を有することでインクタンク機能を実現している。また、インク供給保持部材1501は、記録素子基板1100の各インク供給口1102にそれぞれインクを導くための独立したインク流路を形成することでインク供給機能を実現している。
【0047】
インク吸収体1601、1602、1603としては、PP繊維を圧縮したものが用いられているが、これに代えてウレタン繊維を圧縮したものが用いられても良い。各インク流路の上流部に位置するインク吸収体1601、1602、1603と各インク流路との境界部には、記録素子基板1101内部へのゴミの進入を防ぐためのフィルタ1701,1702,1703がそれぞれ溶着により接合されている。各フィルタ1701、1702、1703は、SUS金属メッシュタイプでも良いが、SUS金属繊維焼結タイプの方がより好ましい。
【0048】
インク流路の下流部には、第2の記録素子基板1101にシアン、マゼンタ、イエローの各インクを供給するためのインク供給口1201が形成されている。第2の記録素子基板1101の各インク供給口1102がインク供給保持部材1501の各インク供給口1201に連通するように、第2の記録素子基板1101がインク供給保持部材1501に対して位置精度良く接着固定される。この接着に用いられる第1の接着剤は、低粘度で硬化温度が低く、短時間で硬化し、硬化後は、比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性を有するものが望ましい。このような第1の接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤がある。この熱硬化接着剤を用いた場合、その接着層の厚みは50μm程度が望ましい。
【0049】
また、インク供給口1201付近の周囲の平面には、電気配線テープ1301の一部の裏面が第2の接着剤によって接着固定される。第2の記録素子基板1101と電気配線テープ1301との電気接続部分は、第1の封止剤1307及び第2の封止剤1308(図7参照)によって封止されており、これにより電気接続部分をインクによる腐食や外的衝撃から保護している。第1の封止剤1307は、主に電気配線テープ1300の電極端子1312と記録素子基板のバンプ1105との接続部の裏面側と、記録素子基板の外周部分を封止し、第2の封止剤1308は、その接続部の表側を封止している。そして、電気配線テープ1301の未接着部は折り曲げられ、インク供給保持部材1501のインク供給口1201を有する面にほぼ直交した側面に熱カシメもしくは接着等で固定される。
【0050】
(1−2−4)蓋部材1901
蓋部材1901は、インク供給保持部材1501の上部開口部に溶着されることで、インク供給保持部材1501内部の独立した空間をそれぞれ閉塞している。また、蓋部材1901は、インク供給保持部材1501内部の各部屋の圧力変動を逃がすための細口1911、1912、1913と、これら細口にそれぞれ連通した微細溝1921、1922、1923とを有している。微細溝1921、1922の他端は、微細溝1923の途中に合流している。さらに、微細溝1923のほとんどの部分と、細口1911、1912、1913と微細溝1921、1922の全部とをシール部材1801で覆い、微細溝1923の他端部を開口させることで、大気連通口1925が形成されている。また、蓋部材1901は、第2の記録ヘッド501をインクジェット記録装置に固定するための係合部1930を有している。
【0051】
次に、上述した記録ヘッドのインクジェット記録装置への装着について具体的に説明する。
【0052】
図1及び図4に示したように、第1の記録ヘッド500及び第2の記録ヘッド501は、インクジェット記録装置本体のキャリッジの装着位置に案内するための装着ガイド1560を備えている。また、各記録ヘッド500、501は、ヘッドセットレバーによってキャリッジに装着固定するための係合部1930を備えている。また、各記録ヘッド500、501は、キャリッジの所定の装着位置に位置決めするためのX方向(キャリッジの走査方向)の突き当て部1570と、Y方向(被記録材の搬送方向)の突き当て部1580とを備えている。さらに、各記録ヘッド500、501は、Z方向(インク吐出方向)の突き当て部1590を備えている。そして、各記録ヘッド500、501は、これら突き当て部1570、1580、1590によってキャリッジに対して位置決めされている。これによって、各記録ヘッド500、501は、電気配線テープ1300、1301上の外部信号入力端子1302と、キャリッジ内に設けられた電気接続部のコンタクトピンとを精度良く電気的に接触させることが可能にされている。
【0053】
<インクジェット記録装置>
次に、上述したようなカートリッジタイプの記録ヘッドを搭載可能なインクジェット記録装置について説明する。図8は、本実施形態の記録ヘッドを搭載可能な記録装置の一例を示す説明図である。
【0054】
図8に示すように、記録装置は、図1に示した第1の記録ヘッド500、及び図4に示した第2の記録ヘッド501が位置決めされて交換可能に搭載されるキャリッジ52を有している。キャリッジ52には、各記録ヘッド500、501の外部信号入力端子を介して各吐出部に駆動信号等を伝達するための電気接続部が設けられている。
【0055】
キャリッジ52は、主走査方向に延在して装置本体に設置されたガイドシャフト53に沿って往復移動可能に支持されている。そして、キャリッジ52は、主走査モータ54によりモータプーリ55、従動プーリ56及びタイミングベルト57等の駆動機構を介して駆動されるとともに、その位置及び移動が駆動制御される。また、キャリッジ52には、ホームポジションセンサ130が設けられている。キャリッジ52上のホームポジションセンサ130が遮蔽板136の位置を通過したときに、ホームポジションとなる位置が検出される。
【0056】
例えば記録用紙やプラスチック薄板等の被記録材58は、給紙モータ135がギアを介してピックアップローラ131を回転させることによって、オートシートフィーダ(ASF)132から1枚ずつ分離されて給送される。さらに、被記録材58は、搬送ローラ59が回転駆動することによって、記録ヘッド500、501の吐出口面と対向する位置(記録部)を通って搬送(副走査)される。LFモータ134による駆動力は、ギアを介して搬送ローラ59に伝達される。給紙されたか否かの判定と給紙時の頭出し位置の確定は、被記録材58が紙端センサ133を通過した時点で行われる。この紙端センサ133は、被記録材58の後端の実際の位置を検出し、実際の後端から現在の記録位置を最終的に算出するためにも使用される。
【0057】
なお、被記録材58は、記録部において平坦な記録面を形成するように、その裏面がプラテン(不図示)によって支持されている。この場合、キャリッジ52に搭載された記録ヘッド500、501は、それらの吐出口面がキャリッジ52から下方へ突出して2組の搬送ローラの間で被記録材58と平行になるように保持されている。
【0058】
記録ヘッド500、501は、各吐出部における吐出口の並び方向がキャリッジ52の走査方向に対して交差する方向になるようにキャリッジ52に搭載され、これらの吐出口列からインクを吐出して記録を行う。
【0059】
なお、記録ヘッド501と同一の構成で、内部のインクがライトマゼンタ、ライトシアン、ブラックで構成された記録ヘッドを、記録ヘッド501と交換して使うことで高画質フォトプリンタとして使用することも可能である。
【0060】
図9は、本実施形態の記録素子基板の構造を示す平面図である。図9に示すように、インクジェット記録ヘッド用基板としての記録素子基板101には、外部から電力が供給される電極パッド102と、この電極パッド102に電気的に接続された共通配線110とを備えている。本実施形態では、共通配線110が、1つの電極パッド102の近傍から4つの分割配線103に分割されている。また、各分割配線103は、インクジェット記録ヘッドからインク滴を吐出させるためのエネルギ発生素子としての複数のヒータ105にそれぞれ電気的に接続されている。また、記録素子基板101には、ヒータ105の駆動を切り換え制御する駆動素子としてのMOSトランジスタ(不図示)が、各ヒータ105に対応して設けられている。
【0061】
そして、本実施形態において、ヒータ105を駆動する電流の流れは以下のとおりである。電流は、任意の電極パッド102から分割配線103を通り、MOSトランジスタを介して、ヒータ105に供給される。その後、分割配線103と異なる個別の配線を通り、任意の電極パッドと異なるパッドからGND(接地)に流れるように構成されている。図10に、図9中の部分Kの構成の等価回路を示す。等価回路において、ヒューズ素子104は、図10に示すような位置に配置されることになる。
【0062】
本実施形態では、1つの分割配線103に16個のヒータ105が電気的に接続されている構成が採られている。なお、分割配線103の分割数及び分割配線103に電気的に接続されたヒータ105の個数は、本実施形態の構成に限定されるものではなく、各種のインクジェット記録ヘッドの仕様にそれぞれ適当な個数であればよい。
【0063】
そして、各分割配線103には、分割配線103に過電流が流れたときに溶断されて通電を遮断するヒューズ素子104がそれぞれ配置されている。本実施形態において、ヒューズ素子104は、ヒータ105に使用されている材料と同一材料で形成されている。なお、ヒューズ素子104及びヒータ105の材料としては、例えばTaSiNを使用したが、これに限定されるものではない。
【0064】
次に、ヒューズ素子104の寸法について説明する。なお、以下に挙げる条件は、本発明に係る1つの実施形態に過ぎず、これらの数値によって本発明が限定されるものではない。
【0065】
本実施形態のインクジェット記録ヘッドでは、ヒータ105の駆動電源として24(V)のものを使用しており、インクを吐出させるためのエネルギ発生素子であるヒータ105の抵抗値が400(Ω)程度にされている。また、本実施形態では、ヒータ105の単位面積当たりの抵抗値が350(Ω)のものを使用した。
【0066】
ヒータ105に加えられる電気パルスは、1(μs)程度で駆動される。また、電極パッド102から各ヒータ105までの分割配線103の抵抗、MOSトランジスタの駆動時の抵抗、ヒューズ素子104の抵抗の合計は80(Ω)程度にされている。本実施形態において、各分割配線103は、配線抵抗値がそれぞれ同等になるように、その線幅、長さによって調整されている。本実施形態において、1つのヒータ105に流れる電流値は、24(V)÷480(Ω)=0.05(A)に設定されている。
【0067】
本実施形態のインクジェット記録ヘッドは、上述したように、1つの分割配線103に電気的に接続された複数のヒータ105において、2つ以上のヒータ105が同時に駆動されない、つまり1つのヒータ105のみが駆動されるように構成されている。すなわち、図10中に破線で囲んで示す各ヒータ群G1,G2,・・Gnにおける1つのヒータ105だけがそれぞれ同時に駆動される。そして、本実施形態において、各分割配線103は、同時に駆動させる複数のヒータ105の最大個数分の電流よりも大きな電流が流れたときにヒューズ素子104が溶断されるように構成されている。
【0068】
以上のように構成されたインクジェット記録ヘッドでは、分割配線103に同時にヒータ105の駆動電流の2つ分以上の電流が流れることは無い。もしも仮に、それ以上の電流が流れた場合には、記録素子基板101に設けられた配線がショートしている、または、ヒータ105を駆動するためのMOSトランジスタが破損している等の故障が考えられる。このような場合には、インクジェット記録ヘッドの更なる破損を引き起こすおそれがある。本実施形態ではそのような破損を防止するために、ヒューズ素子104にヒータ105を駆動するための電流が、最大個数分であるヒータ105の2つ分以上流れた場合に、ヒューズ素子104を溶断させて、通電状態を速やかに遮断することができる。
【0069】
本実施形態で用いたヒューズ素子104は、通常のヒータ駆動時に流れる電流の2倍で単位面積当たりのエネルギが4倍になったときに溶断されるように構成されている。本実施形態で用いたヒューズ素子104の材料としては、ヒューズ素子104にかかる単位面積当たりのエネルギが7500(μw/μm2)程度になったときに、ヒータ105の駆動パルス1(μs)程度が通電された場合に溶断される材料を用いた。記録素子基板101が正常な場合には、ヒューズ素子104にかかるエネルギがその1/4となり、当然、ヒューズ素子104は、1つのヒータ105を駆動する電流が流れているときには溶断されない。
【0070】
ヒューズ素子104の抵抗値を20(Ω)とするためには、ヒューズ素子104の縦:横=2:35となっていれば良い。これらの条件から、ヒューズ素子104の面積は、26.3(μm2)程度を必要としており、上述の縦横比を満たすように縦1.23(μm)×横21.6(μm)という外形寸法に形成すればよい。
【0071】
このような外形寸法に形成されたヒューズ素子104が各分割配線103に設けられることによって、分割配線103に異常な電流が流れた場合においても、ヒューズ素子104が速やかに溶断される。したがって、インクジェット記録ヘッドの破損を招くおそれがある重大な問題を回避することができる。
【0072】
本実施形態では、ヒューズ素子104の構成の一例を示したに過ぎない。すなわち、ヒューズ素子104が溶断される場合の電流値、ヒューズ素子104の溶断されるための単位面積当たりのエネルギなど、それぞれのインクジェット記録ヘッドの仕様に応じたマージンを付け加える等の変更を適宜行うことは可能である。
【0073】
本実施形態によれば、電源系の共通配線から分割された分割配線に各ヒューズ素子が配置されることによって、サージ等の過電圧が生じて、仮に論理が暴走した場合であっても、分割配線が直接溶断されるので、記録ヘッドの信頼性を向上することができる。
【0074】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について、図11を参照して説明する。図11に示すように、本実施形態の記録素子基板201上には、ヒータ駆動電圧を供給する電極パッド202が設けられている。電極パッド202は、ヒューズ素子205を介して、分割配線203に電気的に接続されている。共通配線210は、1つの電極パッド202から4つの分割配線203に分割されており、それぞれインクを吐出するためのエネルギ発生素子である複数のヒータに電気的に接続されている。さらに、ヒータは、ヒータを駆動するためのMOSトランジスタ(不図示)を介して、分割配線207に接続されている。分割配線207は、ヒューズ素子206を介してGND側の電極パッド204に電気的に接続されている。
【0075】
本実施形態では、共通配線210が、1つの電極パッド202,204から4つの分割配線203,207に分割されるように構成されたが、この構成に限定されるものではない。また、本実施形態では、全ての電極パッド202,204に通ずる各分割配線203,207にヒューズ素子205,206がそれぞれ設けられている。したがって、各ヒューズ素子205,206は、例えば分割配線203と分割配線207とのように隣接する分割配線間におけるショートの場合に、必要以上の過電流が流れたときに溶断される。また、このような場合ばかりでなく、各ヒューズ素子205,206は、他に存在する電気配線等と各分割配線203,207とがショートした場合にも、必要以上の過電流が流れたときに溶断される。すなわち、本実施形態の記録素子基板201によれば、各分割配線203,207にヒューズ素子205,206がそれぞれ設けられることによって、信頼性を更に向上することができる。
【0076】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について、図12を参照して説明する。図12に示すように、電極パッド302,304と各分割配線303,307は、ヒューズ素子305を介して電気的に接続されている。本実施形態の記録素子基板301では、共通配線310にヒューズ素子305,306が配置されており、電極パッド302,304からヒューズ素子305,306を越えた位置から、共通配線310が複数の分割配線303,307にそれぞれ分割されている。言い換えれば、ヒューズ素子305,306は、電極パッド302,304の近傍に配置されており、共通配線310における複数の分割配線303,307が連結されている位置に配置されている。
【0077】
以上のように構成することで、分割配線303,307の幅を比較的細く形成することが可能になる。このため、ヒューズ素子の材質等の理由からヒューズ素子の寸法が大きくなってしまう場合等に、記録素子基板の面積の大型化を抑制するとともに、ヒューズ素子を配置することが可能になる。なお、この構成の場合においても、ヒューズ素子305,306は、流れる電流が、同時に駆動されるヒータの個数分の電流よりも大きくなった場合に溶断されるように構成されている。
【0078】
(第4の実施形態)
図13は、第4の実施形態の記録素子基板の構成を模式的に示す平面図である。図14は、記録素子基板に配列されるヒータ群のうち1つのヒータ周辺である図13中の部分Pを拡大して模式的に示す平面図である。この記録素子基板401は、イエロー、マゼンタ及びシアンの3色に対して各2列ずつのヒータ列が一体に形成されている。以下、この記録素子基板401上の配線について例示するが、基本的な配線構造は、ブラックインク用の記録素子基板にも適用可能であることは勿論である。
【0079】
各ヒータ405は、インク供給口412を挟んだ両側にそれぞれ1列ずつ、配列ピッチを1/2だけ、インク供給口412の長手方向(吐出口の配列方向)にずらした千鳥状に配列されている。このような複数のヒータ405は、これらを選択的に駆動するためのスイッチングトランジスタ等の半導体素子からなる駆動素子を含む駆動回路が予め形成された記録素子基板401上に、配列されて形成される。さらに、各ヒータ405に対する電極配線(ヒータ配線)413を形成するための電極配線層を積層する。その後、これらにエッチングを連続的に施して所望のパターニングを行い、さらに電極配線層を部分的に除去してその部分のヒータ層を露出させることで形成することができる。
【0080】
図14に示すように、ヒータ405の一端は、ヒータ配線413の一方の部分を介して電源分割配線407に電気的に接続されている。ヒータ405の他端は、ヒータ配線413の他方の部分から、例えばスルーホールを介して、下層に形成された駆動回路に電気的に接続され、さらに駆動回路からGND分割配線403に電気的に接続されている。記録素子基板401全体においては、図13に示すように、配列された複数のヒータ405を複数個ごとのブロックに分割し、その各ブロック単位で電極パッド404まで接続する配線が設けられ、各ブロック単位の配線の抵抗値が等しくなるように構成されている。
【0081】
続いて、本実施形態におけるヒューズ素子の配置について説明する。図15は、分割配線内でのヒューズ素子の配置を示す平面図である。ヒューズ素子406は、1つの分割配線403,407に対して1つずつ配置されている。ここで、電源分割配線407及びGND分割配線403は、図13に示したように、電極部の電極パッド404の近傍で連結されている。ヒューズ素子406は、図13中に示す共通配線410の部分Mに配置することも考えられる。また、1つの分割配線403,407に電気的に接続されている複数のヒータ405のうちで同時に駆動させるヒータ405の個数が1つに限られている。そのため、本実施形態では、ヒューズ素子406に流れる電流量を設定しやすく、下層が平坦な形状が得られ易いインク供給口412から各分割配線が連結される連結部までの間の領域である分割配線の部分Nに、ヒューズ素子406がそれぞれ配置されている。
【0082】
ヒューズ素子の形状は、図15に示すように、ヒューズ素子406の幅方向に直交する長さ方向の両側に、ヒューズ素子406の幅W2と同一の幅に形成されたヒューズ電極408を有している。また、ヒューズ素子406は、信頼性及び溶断の安定性を向上するために、ヒューズ素子406及びそのヒューズ電極408が配置されている部分の下層には、段差などが無く、平坦な形状に形成されている部分に配置されている。ヒューズ素子は、通常、ヒータの電源系配線として用いられるので、できる限り抵抗値を低く抑える必要がある。このため、本実施形態において、ヒューズ素子の形状は、各々の分割配線の幅に対して幅広な形状に形成されている。そして、1つのヒータが駆動する際に流れる通常の電流よりも大きな過電流が流れたときにのみヒューズ素子が溶断するようにヒューズ素子の形状が設定される。
【0083】
本実施形態では、各分割配線403,407に対してヒューズ素子406をそれぞれ設ける必要があるため、上述のような幅広のヒューズ素子406を、分割配線を一定の幅にして導入した場合には、幅広のヒューズ素子406の分だけ面積を余分にとってしまう。このため、記録素子基板のサイズの大型化を招く原因になってしまう。さらに、各分割配線403,407の各ヒューズ素子406を一箇所にまとめて配置した場合には、ヒューズ素子406の配置部分を迂回して配線をレイアウトする必要がある。このため、配線の引き回しが困難になる等の不都合が生じ、記録素子基板のサイズの更なる増加の要因になる。
【0084】
そこで、本実施形態では、図15に示すように、ヒューズ素子406が、分割配線403,407の長さ方向に対して位置を互いにずらして配置、すなわち分散して配置されている。加えて、隣接する分割配線403,407において、ヒューズ素子406に隣接する部分の幅を小さく形成することにより、ヒューズ素子406が配置されたことによって分割配線403,407が占める領域の面積が増加するのを抑えることができる。
【0085】
つまり、ヒューズ素子406の幅W2は、ヒューズ素子406が配置された分割配線403,407の幅W1よりも大きくされ、ヒューズ素子406が分割配線403,407の長手方向に分散して配置されている。また、ヒューズ素子406に隣接する分割配線403,407の幅は部分的に小さくされ、分割配線403,407の長手方向に沿って、複数の分割配線403,407の幅の総和が一定にされている。
【0086】
また、ヒューズ素子は、ヒータと同一材料によって、同一の工程(製造プロセス)で形成されている。このため、ヒューズ素子を形成するために新たに成膜工程やパターニング工程等を設定することなく形成することが可能であり、製造コストを増加させずに安全回路の機能を組み込むことができる。
【0087】
本実施形態によれば、記録素子基板にヒューズ素子が配置された構成であっても、複数の分割配線の幅の総和が増加しないので、記録素子基板のサイズを大型化することなく、安価で小型の記録ヘッドを提供することができる。
【0088】
図16は、実施形態の他の構成例を示す模式図である。この図16に示すように、ヒューズ素子406の配置箇所は、第4の実施形態と同様に下層が平坦に形成されており、各ヒューズ素子406が分割配線403,407に配置されている。ヒューズ素子406は、第4の実施形態と同様の機能を維持するために、比較的幅広の形状に形成されているが、ヒューズ素子406の幅方向が、分割配線403,407の幅方向に対して平行ではなく、所定の角度をもって傾斜されて配置されている。このようにヒューズ素子406の幅方向を配置することによって、ヒューズ素子406の所望の幅W2を確保しながらも、分割配線403,407の幅が増加することが抑えられる。このため、記録ヘッドのサイズの増加を抑えつつ、電源系配線の安全性を向上することができる。
【0089】
上述した実施形態では、図13中に示す部分Nに配置する構成を挙げたが、部分Nだけに限らずに、その他の分割されている分割配線上の箇所にヒューズ素子が配置されてもよいことは勿論であり、その他に考えられる配置個所を以下に示す。
【0090】
図17(a),(b)は、図13中に示すヒータの駆動素子(MOSトランジスタ)の部分Zを拡大して示す模式図であり、電源分割配線の数と駆動素子列の数との関係を示している。駆動素子列606は、電源分割配線607に対して直交する向きで配置されている。図17(a)は、電源分割配線607の数が比較的少ない場合の構成例であり、1つのヒータ605に対して2列の駆動素子列606が設けられている。
【0091】
一方、図17(b)に示す構成は、電源分割配線607の数が多く、複数の電源分割配線群が幅方向に占める寸法が、図17(a)における寸法Fから図17(b)における寸法2Fに2倍になり、電源分割配線607が占める面積も2倍になっている。この構成において、上述した図17(a)に示した構成と同様の駆動能力を得るためには、駆動素子を、電源分割配線607の幅方向に対して2倍に延ばし、1列で配置すればよい。特に、多数のノズルを有する長尺状の記録素子基板においては、ヒータの個数の増加に伴って分割配線の個数も増えることになるため、図17(b)に示したように、電源分割配線607の幅方向に占める面積が増加して大きくなる。したがって、電源分割配線607の幅方向に対する増加量の分だけ駆動素子を列方向に対して延ばすことで、駆動素子の列数を減らすことができる。これによって、図17(b)中に部分Eで示す空きスペースに、ヒューズ素子を配置することが可能になる。したがって、空きスペースにヒューズ素子を配置することで、ヒューズ素子を配置するための新たな領域を確保する必要がなく、ヒューズ素子による安全回路を設けることができる。
【0092】
なお、上述した実施形態の記録素子基板は、インクを吐出するための記録素子基板と、この記録素子基板に供給するインクを収容するインク収容部とが一体に構成された記録ヘッドカートリッジのような、使い捨てタイプのものに適用されて好適である。
【0093】
また、本発明に係る記録装置は、一般的なプリント装置の他、複写機、通信システムを有するファクシミリ、記録部を有するワードプロセッサ等の装置、あるいは、これらの各種装置を複合してなる多機能記録装置等に採用されて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施形態のインクジェット記録ヘッドを構成する第1の記録ヘッドを説明するための斜視図である。
【図2】第1の記録ヘッドを示す分解斜視図である。
【図3】第1の記録ヘッドを構成する第1の記録素子基板の一部を破断して示す斜視図である。
【図4】実施形態のインクジェット記録ヘッドを構成する第2の記録ヘッドを説明するための斜視図である。
【図5】第2の記録ヘッドを示す分解斜視図である。
【図6】第2の記録ヘッドを構成する第2の記録素子基板の一部を破断して示す斜視図である。
【図7】実施形態のインクジェット記録ヘッドの一部を示す断面図である。
【図8】実施形態のインクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
【図9】第1の実施形態の記録素子基板を示す平面図である。
【図10】第1の実施形態の記録素子基板を示す等価回路図である。
【図11】第2の実施形態の記録素子基板を示す平面図である。
【図12】第3の実施形態の記録素子基板を示す平面図である。
【図13】第4の実施形態の記録素子基板を示す平面図である。
【図14】上記実施形態におけるヒータ周辺を示す拡大図である。
【図15】上記実施形態におけるヒューズ素子の配置の一例を示す平面図である。
【図16】上記実施形態におけるヒューズ素子の配置の他の例を示す平面図である。
【図17】上記実施形態におけるヒータの駆動素子を拡大して示す模式図である。
【図18】従来のインクジェット記録基板を示す斜視図である。
【図19】従来のインクジェット記録基板の電源系配線を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0095】
101 記録素子基板(インクジェット記録ヘッド用基板)
102 電極パッド
103 分割配線
104 ヒューズ素子
105 ヒータ
110 共通配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出させるエネルギを発生する複数の吐出エネルギ発生素子と、前記複数の吐出エネルギ発生素子に電気的に接続され前記各吐出エネルギ発生素子に電力を印加するための共通配線と、を備えるインクジェット記録ヘッド用基板において、
前記共通配線の少なくとも一部には、前記共通配線に過電流が流れたときに溶断されて通電を遮断するヒューズ素子が設けられていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項2】
前記共通配線は、複数の分割配線に分割され、少なくとも1つの前記分割配線に前記ヒューズ素子が設けられ、
前記各分割配線は、複数の前記吐出エネルギ発生素子に電気的に接続され、同時に駆動させる複数の前記吐出エネルギ発生素子の最大個数分の電流よりも大きな電流が流れたときに前記ヒューズ素子が溶断されるように構成されている、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項3】
1つの前記分割配線に電気的に接続された複数の前記吐出エネルギ発生素子のうちの1つの前記吐出エネルギ発生素子のみが駆動される、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項4】
前記複数の分割配線は抵抗値がほぼ等しい、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項5】
前記ヒューズ素子は、前記共通配線における複数の前記分割配線が連結されている位置に配置されている、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項6】
前記吐出エネルギ発生素子の駆動を切り換え制御する駆動素子を備え、
前記駆動素子は、前記各吐出エネルギ発生素子に対応して設けられている、請求項1ないし5いずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項7】
前記ヒューズ素子は、前記吐出エネルギ発生素子と同一材料で形成されている、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板と、前記インクジェット記録ヘッド用基板に供給するインクを収容するインク収容部とが一体に構成されているインクジェット記録ヘッド。
【請求項9】
インクを吐出させるエネルギを発生する複数の吐出エネルギ発生素子と、前記複数の吐出エネルギ発生素子に電気的に接続され前記各吐出エネルギ発生素子に電力を印加するための共通配線と、を備えるインクジェット記録ヘッド用基板において、
前記共通配線は、複数の分割配線に分割され、少なくとも1つの前記分割配線に、前記分割配線に過電流が流れたときに溶断されて通電を遮断するヒューズ素子が設けられ、
前記ヒューズ素子の幅W2は、前記ヒューズ素子が配置された前記分割配線の幅W1よりも大きくされ、前記ヒューズ素子が前記分割配線の長手方向に分散して配置され、
前記ヒューズ素子に隣接する前記分割配線の幅が部分的に小さくされ、前記分割配線の長手方向に沿って、複数の前記分割配線の幅の総和が一定にされていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項10】
前記ヒューズ素子は、前記吐出エネルギ発生素子と同一材料によって、同一の工程で形成されている、請求項9に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項11】
前記各分割配線には、前記ヒューズ素子に電気的に接続されるヒューズ電極が設けられ、
前記ヒューズ電極の幅は、前記ヒューズ素子の幅と等しい、請求項9又は10に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項12】
前記ヒューズ素子及び前記ヒューズ電極が配置される部分の下層が平坦に形成されている、請求項11に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項13】
前記各分割配線は複数の前記吐出エネルギ発生素子に電気的に接続され、1つの前記分割配線に電気的に接続された前記複数の前記吐出エネルギ発生素子のうちの1つの前記吐出エネルギ発生素子のみが駆動される、請求項9ないし12のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項14】
複数の前記分割配線は、電力が供給される電極パッドの近傍で連結されている、請求項9ないし13のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項15】
請求項9ないし14のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板を備えるインクジェット記録ヘッド。
【請求項16】
請求項15に記載のインクジェット記録ヘッドが着脱可能に支持され、前記インクジェット記録ヘッドを被記録材に対して走査するためのキャリッジを備える記録装置。
【請求項17】
インクを吐出させるエネルギを発生する複数の吐出エネルギ発生素子と、前記複数の吐出エネルギ発生素子に電気的に接続され前記各吐出エネルギ発生素子に電力を印加するための共通配線と、を備えるインクジェット記録ヘッド用基板において、
前記共通配線は、複数の分割配線に分割され、少なくとも1つの前記分割配線に、前記分割配線に過電流が流れたときに溶断されて通電を遮断するヒューズ素子が設けられ、
前記ヒューズ素子の幅W2が、前記各分割配線の幅W1よりも大きくされ、前記ヒューズ素子の幅方向が、前記分割配線の幅方向に対して傾斜させて配置され、前記各分割配線の幅が一定であることを特徴とするインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項18】
前記ヒューズ素子は、前記吐出エネルギ発生素子と同一材料によって、同一の工程で形成されている請求項17に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項19】
前記ヒューズ素子が配置されている部分の下層が平坦に形成されている、請求項17又は18に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項20】
前記各分割配線は複数の前記吐出エネルギ発生素子に電気的に接続され、1つの前記分割配線に電気的に接続された前記複数の前記吐出エネルギ発生素子のうちの1つの前記吐出エネルギ発生素子のみが駆動される、請求項17ないし19のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項21】
複数の前記分割配線は、電力が供給される電極パッドの近傍で連結されている、請求項17ないし20のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項22】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板を備えるインクジェット記録ヘッド。
【請求項23】
請求項22に記載のインクジェット記録ヘッドが着脱可能に支持され、被記録材に対して走査させるためのキャリッジを備える記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−178862(P2009−178862A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17747(P2008−17747)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】