説明

インクジェット記録媒体

【課題】 本発明は、オフセット印刷用塗工紙の風合いをもち、顔料インク印字部の耐擦過性や印字品質に優れ、さらに表面強度にも優れたインクジェット記録媒体を提供することを課題とする。
【解決手段】 支持体の片面又は両面に、顔料及びバインダーを含有するインク受容層を設けたインクジェット記録媒体において、前記インク受容層中に、好ましくは全ての無機顔料に対してカオリンを50質量%以上含有させ、かつインク受容層中にセルロースナノファイバーを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録媒体に関し、特にオフセット印刷用塗工紙の風合いを持つインクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、フルカラー化が容易なことや印字騒音が少ない事などから、印字性能の急速な向上に伴って多くの用途に利用されてきている。これらの用途として、例えば、文書作成ソフトからの文書記録、デジタル写真などのデジタル画像の記録、銀塩写真や本などの美麗な印刷体をスキャナーで取り込んでの複製、比較的少枚数のポスターなどの展示用画像作成が挙げられる。また、これらの用途毎に適した構成のインクジェット記録媒体が提案されており、例えば、単に文字を記録する場合は、紙上に直接記録する普通紙タイプの媒体が使用され、高い解像度と色再現性を得たい場合は、塗工層としてインク受容層を設けた塗工紙タイプの媒体が使用される。特に、銀塩写真に匹敵するような高い光沢度が要求される場合は、塗工紙タイプの塗工層をキャスト方式で形成したキャストコート紙タイプの媒体などが使用される。
【0003】
インクジェット記録方式の種々の分野への展開の一つとして、印刷分野が挙げられる。従来この分野では、主にオフセット方式が用いられてきたが、オフセット印刷方式は版を必要とし、製版、印刷の工程を経て印刷される。一方、インクジェット記録方式は、オフセット印刷方式と比較すると製版する必要がないため、少ロット印刷に容易に対応できると共に安価であり、一部毎に異なる可変情報を印刷することが可能となり、色の調整等の印刷機の操作に熟練の技術を必要としない等のメリットがある。
【0004】
ただし、従来の印刷物を代替することを考慮すると、インクジェットによる印字物にはオフセット印刷物と同等の風合いが求められる。また、オフセット印刷用塗工紙には、マット調からグロス調まで白紙光沢度の違いにより区分されたグレードが存在するが、インクジェット記録用紙では、印刷物に高級感やインパクトを与えるグロス調塗工紙の製造が困難であった。
【0005】
ところで、高品質なインクジェット記録画像を印字する場合、画像の色再現性の向上に伴ってプリンタからのインク吐出量が多くなるため、十分なインク吸収容量を有するインク受容層をインクジェット用紙に形成することが必要となる。このようなことから、インク受容層として、従来から合成非晶質シリカなどの多孔性物質が用いられる場合が多いが、この場合、インク吸収性は向上するものの光沢度が低く、質感もオフセット印刷物と異なるという問題がある。
【0006】
又、インク受容層の光沢度を高めたキャスト紙タイプのインクジェット記録媒体の場合、一般のオフセット印刷用塗工紙と比べて光沢度が非常に高くなり、また用紙が厚手であるため、やはりオフセット印刷物と風合いが異なる。又、インク受容層は、高価な原料、例えばシリカ、アルミナ、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、インク定着剤(ポリアミン系、DADMAC系、ポリアミジン系等)などを多量に用いているため、一般のオフセット印刷用塗工紙に比べ、製造原価が高い。
【0007】
一方、カオリンや炭酸カルシウムを塗工層の顔料として含有する一般的なオフセット印刷用塗工紙に対し、インクジェットプリンターで印字を行うと、塗工層のインク吸収容量が低いためにフェザーリング(滲み)、ブリード(色境界滲み)、ベタ部の印字ムラ(印字部の濃度ムラ)、コックリング(印字部の波打ち)、コスレ(印字部の擦過キズ)といった現象が起きる。
【0008】
これら問題を解決するために、インクと用紙の両方の側面から検討が行われている。
【0009】
例えば、インク受容層を形成する顔料としてカオリンを90質量部以上含有し、前記カオリンのうち5〜15質量部のカオリンの平均粒径が1.5μm以上であるインクジェット記録用紙に印字するインクとして、顔料と親水性高分子化合物の割合を60/40〜95/5とするインクジェット用水性顔料インクが提案されている(特許文献1)。
【0010】
又、風合いが一般コート紙に近いインクジェット記録媒体として、支持体表面にカオリン及び非晶質合成シリカを主に含有する下層側のインク受容層と、気相法アルミナを主な顔料とする上層側のインク受容層を設けたものが開示されている(特許文献2)。
【0011】
さらに、顔料インクのみならず染料インクへの適性が優れるインクジェット記録シートにおいて、インク受容層中にシリカ10〜90質量%と、炭酸カルシウム及び/またはカオリナイト90〜10質量%とを含有することが開示されている(特許文献3)。
【0012】
又、記録層(インク受容層)中に、平均粒子径0.2〜2.0μmで、かつ1≦L/W≦50(Lは粒子の長径、Wは粒子の短径(厚み)を表す)を満足する顔料を有し、JIS−Z 8741による75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用塗工紙が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−91627号公報
【特許文献2】特開2005−103827号公報
【特許文献3】特開2005−297473号公報
【特許文献4】特開2004−209965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、一般的なオフセット印刷用塗工紙に風合いを近付けたインクジェット記録用紙にインクジェット記録することが検討されているが、いずれも充分な印字品質、耐擦過性を得られていない。
【0015】
例えば、特許文献1に開示された顔料インクは、白紙光沢度が低い記録用紙(マット調のインクジェット記録用紙)に印字する場合には、ある程度の印字部耐擦過性を得ることができるが、白紙光沢度が比較的高い記録用紙(グロス調のインクジェット記録用紙)に記録する場合に十分な耐擦過性を得ることが難しい。
【0016】
また、特許文献2記載のインクジェット記録媒体の場合、インク受容層を2層にする必要があり生産性やコストの点で改善の余地がある。
【0017】
特許文献3記載のインクジェット記録シートの場合、シリカと炭酸カルシウムおよび/又はカオリンをインク受容層中に併用するため、インク吸収性とオフセット印刷用塗工紙並みの高い光沢度とが両立できない。また、シリカを配合することにより表面強度が弱くなり、光沢度を高くするために行うカレンダー処理時にカレンダーロールに塗工層が付着する、プリンター内に紙粉が堆積するなどの問題がある。一方、特許文献4記載のインクジェット記録用塗工紙の場合、光沢度は高いもののインク吸収性や印字部分の耐擦過性が十分ではない。
【0018】
従って本発明の目的は、オフセット印刷用塗工紙の風合いをもち、顔料インク印字部の耐擦過性や印字品質に優れ、表面強度にも優れ、さらに安価なインクジェット記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らはインクジェット印刷に適し、オフセット印刷用塗工紙の風合いを得られるインクジェット記録媒体について鋭意検討した結果、インク受容層中に特定のセルロースナノファイバーを配合することで上記課題を解決できることを見出した。
【0020】
すなわち、本発明のインクジェット記録媒体は、支持体の片面又は両面に、カオリンを含む顔料及びバインダーを主成分とするインク受容層を設けたインクジェット記録媒体であって、かつ前記バインダーとして濃度2%(w/v)の水分散液におけるB型粘度(60rpm、20℃)が500〜7000mPa・sであるセルロースナノファイバーを含有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、オフセット印刷用塗工紙の風合いを得られ、顔料インク印字部の耐擦過性や印字品質に優れ、表面強度も強く、さらに安価なインクジェット記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明のインクジェット記録媒体に係る実施形態について説明する。
【0023】
(支持体)
支持体としては、透気性支持体、非透気性支持体のいずれも使用できるが、透気性支持体が好ましい。非透気性支持体としては、セロハン、ポリエチレン、ポリプロピレン、軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエステル等のフィルム類、ポリオレフィン樹脂被覆紙、金属フォイル、合成紙、不織布などが挙げられる。好ましい透気性支持体としては、木材パルプを主成分とする原紙である。
【0024】
(原紙)
原紙は木材パルプを主成分とする。原料パルプとして、化学パルプ(針葉樹の晒または未晒クラフトパルプ、広葉樹の晒または未晒クラフトパルプ等)、機械パルプ(グラウンドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等)、脱墨パルプ等のパルプを単独または任意の割合で混合して使用することができる。
原紙の抄紙pHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでも良い。
【0025】
また、原紙中の填料の含有量が増えると、紙の不透明度が向上する傾向があるため、紙中に填料を含有させることは好ましい。填料としては、水和珪酸、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、合成樹脂填料等の公知の填料を使用することができる。さらに、原紙には必要に応じて、硫酸バンド、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、着色剤、染料、消泡剤、pH調整剤等の助剤を含有しても良い。なお原紙の坪量は特に制限されない。
【0026】
本発明においては、原紙に嵩高紙を用いることが好ましい。嵩高紙とは、一般用紙よりも低密度(0.5〜0.7g/cm程度)な紙であり、パルプスラリーに低密度化薬品を配合する、嵩高填料を配合する等、公知の方法で抄紙して得ることができる。
【0027】
前記低密度化薬品としては、油脂系非イオン性界面活性剤、糖アルコール系非イオン界面活性剤、糖系非イオン界面活性剤、多価アルコールの脂肪酸エステル等の多価アルコール型非イオン界面活性剤、高級アルコール、高級アルコール又は高級脂肪酸のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイド付加物、脂肪酸ポリアミドアミン、飽和脂肪酸モノアミド、脂肪族第4級アンモニウム塩などを低密度化薬品として例示することができる。特に飽和脂肪酸モノアミドを用いることが好ましい。
【0028】
嵩高紙としては、特開2005−54331号公報に記載された中性嵩高紙が挙げられる。前記嵩高填料としては、例えば、特開2001−214395号公報に開示された無定型シリケート、および特開2003−49389号公報に開示された無機微粒子・シリカ複合凝集体粒子を用いることができる。嵩高紙を原紙に用いた場合、同じ坪量の一般紙を用いた場合と比較すると、紙の剛度が高く搬送性に優れる、寸法安定性が高くカール・コックリングが低減できる等の利点がある。
【0029】
原紙にインク受容層を設ける前に、紙力増強やサイズ性付与などを目的とし、澱粉、ポリビニルアルコール、サイズ剤などから調成されたサイズプレス液を含浸または塗布しても良い。含浸または塗布の方法については特に制限されないが、ポンド式サイズプレスに代表される含浸法、又は、ロッドメタリングサイズプレス、ゲートロールコーター、若しくはブレードコーターに代表される塗布法、で行われることが好ましい。また、該サイズプレス液を含浸、又は塗布する際に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて蛍光染料、導電剤、保水剤、耐水化剤、pH調整剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、界面活性剤等の助剤を任意の割合で混合することができる。
【0030】
(インク受容層)
1.インク受容層の顔料
インク受容層の顔料は、カオリンを必須とする。カオリンはカオリナイト、ハロイサイト、ディッカイト、ナックライトといったカオリン鉱物を少なくとも1種類以上含む粘土であり、一般的なオフセット印刷用塗工紙に使用される公知のカオリンであれば、いかなるものを用いて良い。カオリンとしては、例えば、ジョージア産、ブラジル産、中国産等の産地のものや、1級、2級、デラミ等のグレードのものが存在するが、カオリンの産地やグレードはこれらに限定されない。又、1種類または2種類以上のカオリンを混合したものを適宜選択して顔料として使用することができる。また、インク受容層の全ての無機顔料に対し、上記したカオリンを50質量%以上含有することが必要であり、好ましくはカオリンを70重量%以上含有する。理由として、カオリンの形状は板状であり、配合量が多いほど白紙や印刷物の光沢度を高くしやすい傾向がある。この為、配合量が多いほど、同等の光沢度を得るためのカレンダー処理線圧を低くすることができ、結果的にインク吸収に有効な塗工層の空隙を維持することができる。
【0031】
上記したカオリンの平均粒子径をレーザー回折法により測定したとき、0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の換算値で64%以上を占めることが好ましい。これは、粒度分布が上記範囲に集中していると、粒度分布の幅が狭く、粒子径が揃っているため、顔料粒子の充填密度が低く、ポーラスで嵩高なインク受容層を形成できるからと考えられる。ポーラスなインク受容層は、顔料の充填状態が密なインク受容層よりもインク吸収性に優れる。
【0032】
一方、上記粒度分布を持つカオリンに代えて、0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の積算値で64%未満となる粒度分布を有するカオリンを用いた場合、カオリンの粒度分布がブロードであるため、インク受容層中にカオリンが細密充填されるためインク受容層が密となり、インク吸収性が低下する。
【0033】
又、0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の積算値で64%未満であり、かつ4.2μm以上の粒子を多く含むカオリンを使用した場合、インク受容層の塗工表面に形成される細孔の数が少なくなるため、インクの吸収チャンネルが減り、インクの吸収性が劣る。さらに、このような粒子を用いると塗工表面の平滑性が悪化するため、所望の白紙光沢度を得るために強力なカレンダー処理を行わなければならず、塗工層中の空隙が減少してインク吸収性が劣る。
【0034】
レーザー回折法による粒度分布の測定は、光の散乱現象を利用したものであり、ミー(Mie)理論とフラウンホーファー近似式により求められる。但し、粒度測定機によって散乱光から粒度分布を算定する方法が異なるため、本発明においては、レーザー法粒度測定機(マルバーン社製マスターサイザーS型、光源は赤色光が633nm(He−Neレーザー)、青色光が466nm(LED))によって測定した値を使用する。
【0035】
又、粒度分布の測定方法は、純水中にカオリンを含む試料スラリーを滴下混合して均一分散体としたものをサンプルに用いる。
【0036】
また、インク受容層の顔料として、カオリンに加えて合成非晶質シリカを含むことが好ましい。また、合成非晶質シリカとしてはゲル法シリカが望ましい。本発明において「ゲル法シリカ」とは、ケイ酸ナトリウムと鉱酸(通常は硫酸)の中和反応を酸性のpH領域で進行させることにより、一次粒子の成長を抑えた状態で凝集を起こして得られる湿式法合成非晶質シリカ微粒子を言う。ゲル法シリカは沈降法シリカ(ケイ酸ナトリウムと鉱酸の中和反応をアルカリ性のpH領域で進行させて製造)に比較して、凝集後の反応時間が長く、一次粒子間結合が強く、また、細孔容積が大きくなる傾向にある。このためインク吸収性・耐擦過性能に優れる。
【0037】
合成非晶質シリカの平均二次粒子径は、目標とする白紙光沢度によって変更することができ、白紙光沢度が40%以上の高いレベルを目標とする場合には、平均二次粒子径が0.5μm以上4μm以下であることが好ましい。合成非晶質シリカの平均二次粒子径が4μmを超えると、得られるインクジェット記録媒体の平滑性や光沢感が低くなるが、マット調を目標とする場合には問題は少ない。一方、合成非晶質シリカの平均二次粒子径が0.5μm未満の場合にはインク吸収性が低下したり、顔料を分散する際に塗料粘度が増大して塗料の分散性が悪化することがある。上述した合成非晶質シリカの平均二次粒子径は、コールターカウンター法で測定することができる。コールターカウンター法は、細孔を通過するサンプル粒子の電気抵抗を検出するものであり、ベックマンコールター社の商品名マルチサイザー3を用いることができる。
【0038】
合成非晶質シリカの吸油量については特に制限を設けないが、150ml/100g以上500ml/100g以下であることが好ましく、200ml/100g以上400ml/100g以下であることがより好ましい。吸油量が150ml/100g未満であると、インク受容層のインクを保持する能力が十分でなく、印字部の耐擦過性やインク吸収性が劣る場合がある。吸油量が500ml/100gを超えると、顔料を分散する際、塗料粘度が増大して塗料の分散性が悪化する場合がある。なお、吸油量の測定はJIS−K 5101に定められた方法で行うことができる。
【0039】
また、インク受容層中の全ての無機顔料に対し、合成非晶質シリカを10〜30質量%含有することが好ましい。合成非晶質シリカの含有量が10質量%より少ない場合には、目的とするインク吸収性や耐擦過性の性能が得られ難い。一方、合成非晶質シリカの含有量が30質量%より多いと、インクの浸透が過剰となり発色性が悪化したり、ムラが発生する可能性がある。さらに、合成非晶質シリカの配合割合が増えるに伴い、オフセット印刷用塗工紙の風合いから遠ざかる傾向にあると共に、高い光沢度が得られ難くなってグロス調のインクジェット記録媒体を得ることが困難となる傾向にある。また、合成非晶質シリカの配合割合が30質量%を超えると、シリカの高い吸水性が起因となり、塗料の固形分が低くなって乾燥負荷の増大、生産速度の低下など、操業上不利となることがある。
【0040】
インク受容層に用いるその他の無機顔料(以下、上記した粒径範囲のカオリン及び合成非晶質シリカ以外の無機顔料を、「その他の無機顔料」と称する)としては、一般的なオフセット印刷用塗工紙に使用される公知の顔料であればいかなるものも用いて良い。その他の無機顔料として、例えば、上記した粒径範囲のカオリン以外のカオリン、合成非晶質シリカ以外のシリカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、シリカ−炭酸カルシウム複合粒子、タルク、上記カオリンを焼成した焼成カオリン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト及びスメクタイト等の無機顔料の中から1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。
【0041】
その他の無機顔料の配合割合は、インク受容層に用いる上記した粒径範囲のカオリン及び合成非晶質シリカの合計に対し、10質量%以下であることが望ましい。
【0042】
インク受容層表面の白紙光沢度を向上させるため、インク受容層中にプラスチックピグメント等の有機顔料を含有することができる。有機顔料の配合割合は、無機顔料(上記した粒径範囲のカオリン、合成非晶質シリカ、及び他の無機顔料の合計)100質量部に対して0〜40質量部であることが好ましく、0〜30質量部であることがより好ましく、1〜25質量部であることが最も好ましい。
【0043】
インク受容層中に有機顔料を全く配合しない場合、マット調のインクジェット記録媒体に必要な光沢度は得られるが、グロス調のインクジェット記録媒体としては光沢度が十分ではないことがある。特に、インク受容層中の合成非晶質シリカの配合割合が増えるに伴い、インク受容層の光沢度が低下するため、グロス調のインクジェット記録媒体を製造するためには、合成非晶質シリカの配合割合を増やすに伴って有機顔料の配合量も増やす必要がある。
【0044】
一方、インク受容層中の無機顔料100質量部に対し、有機顔料を40質量部を超えて配合すると、高温に加熱されたカレンダーに通紙する際に有機顔料が溶融し、金属ロールに貼り付き、裂けや断紙トラブル等が発生する場合がある。なお、マット調インクジェット記録媒体を製造する場合には、有機顔料の配合量は特に制限されない。
【0045】
有機顔料としては、密実型、中空型、またはコア−シェル型等のタイプを、必要に応じて単独または2種類以上混合して使用することができる。有機顔料の構成重合体成分としては、好ましくは、スチレン及び/またはメチルメタアクリレート等のモノマーを主成分とし、必要に応じてこれらと共重合可能な他のモノマーが用いられる。この共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ジメチルスチレン等のオレフィン系芳香族系モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリロニトリル等のモノオレフィン系モノマー;及び酢酸ビニル等のモノマー;が例示される。
【0046】
また、上記した主成分のモノマーや他のモノマーに加え、さらに、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等のオレフィン系不飽和カルボン酸モノマー類;ヒドロキシエチル、メタアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸ヒドロキシプロピル等のオレフィン系不飽和ヒドロキシモノマー類;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド等のオレフィン系不飽和アミドモノマー類;ジビニルベンゼン等の二量体ビニルモノマー等を、一種または二種以上組み合わせて用いることができる。これらのモノマーは例示であり、共重合可能なモノマーであれば他のモノマーも使用することができる。
【0047】
2.インク受容層のセルロースナノファイバー
本発明では、インク受容層中にセルロースナノファイバーを含有させることが重要である。セルロースナノファイバーとは、セルロース系原料を解繊することにより得られる幅0.5〜20nm、好ましくは2〜5nm、長さ0.1〜15μm、好ましくは1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルである。本発明では、好ましくは濃度2%(w/v)(すなわち、100mlの分散液中に2gのセルロースナノファイバー(乾燥質量)が含まれる)におけるB型粘度(60rpm、20℃)が500〜7000mPa・s、さらに好ましくは500〜2000mPa・sであるセルロースナノファイバーの水分散液を用いる。本発明のセルロースナノファイバーは、適度な粘調性を有しており、所望の濃度に調整することで塗料として好適に使用できる。セルロースナノファイバーの2%(w/v)水分散液におけるB型粘度は、比較的低い方が、塗料を調製する際に取り扱いが容易であるため好ましく、具体的には、500〜2000mPa・s程度が好ましく、500〜1500mPa・s程度がより好ましく、500〜1000mPa・s程度がさらに好ましい。
【0048】
本発明のセルロースナノファイバーの水分散液のB型粘度は、公知の手法により測定することができる。例えば、東機産業社のVISCOMETER TV−10粘度計を用いて測定することができる。
【0049】
本発明に用いられる濃度2%(w/v)の水分散液におけるB型粘度(60rpm、20℃)が500〜7000mPa・s、好ましくは500〜2000mPa・sであるセルロースナノファイバーは、例えば、セルロース系原料を、(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物又はそれらの混合物の存在下で、酸化剤を用いて酸化し、さらに該酸化されたセルロースを湿式微粒化処理して解繊し、ナノファイバー化することにより製造することができる。
【0050】
本発明のセルロースナノファイバーの原料となるセルロース系原料は、特に限定されるものではなく、各種木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末状セルロース(以下、粉末セルロースともいう)、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末などを使用できる。また、ケナフ、麻、イネ、バガス、竹等の植物を使用することもできる。このうち、漂白済みクラフトパルプ、漂白済みサルファイトパルプ、粉末状セルロース、微結晶セルロース粉末を用いた場合、比較的低粘度(2%(w/v)水分散液のB型粘度において500〜2000mPa・s程度)のセルロースナノファイバーを効率よく製造することができるので好ましく、粉末状セルロース、微結晶セルロース粉末を用いることがより好ましい。
【0051】
粉末状セルロースとは、木材パルプの非結晶部分を酸加水分解処理で除去した後、粉砕・篩い分けすることで得られる微結晶性セルロースからなる棒軸状粒子である。粉末状セルロースにおけるセルロースの重合度は好ましくは100〜500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は好ましくは70〜90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。体積平均粒子径が、100μm以下であると、流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を得ることができるので好ましい。本発明で用いる粉末状セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、KCフロック(日本製紙ケミカル社製)、セオラスTM(旭化成ケミカルズ社製)、アビセル(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。
【0052】
セルロース系原料を酸化する際に用いるN−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、本発明で使用されるN−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される物質が挙げられる。
【0053】
【化1】

(式1中、R〜Rは同一又は異なる炭素数1〜4程度のアルキル基を示す。)
式1で表される化合物のうち、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)、及び4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、4−ヒドロキシTEMPOと称する)を発生する化合物が好ましい。また、TEMPO又は4−ヒドロキシTEMPOから得られる誘導体も好ましく用いることができ、特に、4−ヒドロキシTEMPOの誘導体が最も好ましく用いることができる。4−ヒドロキシTEMPO誘導体としては、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基を、炭素数4以下の直鎖或いは分岐状炭素鎖を有するアルコールでエーテル化して得られる誘導体か、あるいは、カルボン酸又はスルホン酸でエステル化して得られる誘導体が好ましい。4−ヒドロキシTEMPOをエーテル化する際には、炭素数が4以下のアルコールを用いれば、アルコール中の飽和、不飽和結合の有無に関わらず、得られる誘導体が水溶性となり、酸化触媒として良好に機能する4−ヒドロキシTEMPO誘導体を得ることができる。
【0054】
4−ヒドロキシTEMPO誘導体としては、例えば、以下の式2〜式4の化合物が挙げ
られる。
【0055】
【化2】

【0056】
【化3】

【0057】
【化4】

【0058】
(式2〜4中、Rは炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖である。)
さらに、下記式5で表されるN−オキシル化合物のラジカル、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルも、短時間で、均一なセルロースナノファイバーを製造できるため、特に好ましい。
【0059】
【化5】

【0060】
(式5中、R5及びR6は、同一又は異なる水素又はC1〜C6の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基を示す。)
セルロース系原料を酸化する際に用いるTEMPOや4−ヒドロキシルTEMPO誘導体などのN−オキシル化合物の量は、セルロース系原料をナノファイバー化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmol、好ましくは0.01〜1mmol、さらに好ましくは0.05〜5mmol程度である。
【0061】
セルロース系原料の酸化の際に用いる臭化物またはヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などを使用することができる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmol、好ましくは0.1〜10mmol、さらに好ましくは0.5〜5mmol程度である。
【0062】
セルロース系原料の酸化の際に用いる酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。中でも、生産コストの観点から、現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが特に好適である。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度である。
【0063】
本発明におけるセルロース系原料の酸化は、上記のとおり、(1)4−ヒドロキシTEMPO誘導体などのN−オキシル化合物と、(2)臭化物、ヨウ化物及びこれら混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を用いて、水中で、セルロース系原料を酸化することを特徴とする。この方法は、温和な条件であってもセルロース系原料の酸化反応を円滑に効率良く進行させることができるという特色があるため、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。なお、反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率良く進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加することにより、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが望ましい。
【0064】
上記のように、(1)N−オキシル化合物、及び(2)臭化物、ヨウ化物、又はこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用いて得られた酸化処理されたセルロース系原料を、湿式微粒化処理して解繊することにより、セルロースナノファイバーを製造することができる。湿式微粒化処理としては、例えば、高速せん断ミキサーや高圧ホモジナイザーなどの混合・攪拌、乳化・分散装置を必要に応じて単独もしくは2種類以上組合せて用いることができる。特に、100MPa以上、好ましくは120MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上の圧力を可能とする超高圧ホモジナイザーを用いて湿式微粒化処理を行なうと、比較的低粘度(2%(w/v)水分散液のB型粘度において500〜2000mPa・s程度)のセルロースナノファイバーを効率よく製造することができるので好ましい。
【0065】
本発明のセルロースナノファイバーは、絶乾1gのセルロースナノファイバーにおけるカルボキシル基量として、0.5mmol/g以上、好ましくは0.9mmol/g以上、さらに好ましくは1.2mmol/g以上であると、均一な分散液の状態となるから望ましい。セルロースナノファイバーのカルボキシル基量は、セルロースナノファイバーの0.5質量%スラリーを60ml調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
【0066】
カルボキシル基量(mmol/gパルプ)=a(ml)×0.05/酸化パルプ質量(g)
本発明のインクジェット用記録媒体は、インク受容層にセルロースナノファイバーを含有させることにより、塗工層中の顔料どうし、あるいは顔料と原紙中のパルプ繊維が、セルロースナノファイバーを介して結合することでインク受容層が高い表面強度を有する。また、セルロースナノファイバーは、親水性でかつ繊維状の形状を維持していることからインクの吸収性も高いと考えられる。このような理由より、セルロースナノファイバーをインク受容層に含有させることにより、表面強度とインク受容性が両立されたインクジェット用記録媒体が得られると考えられる。
【0067】
インク受容層におけるセルロースナノファイバーの含有量は、顔料100重量部に対して0.005〜3重量部であることが好ましく、0.01〜1重量部であることが特に好ましい。0.005重量部未満であると表面強度向上の効果が乏しく、3重量部を超えると塗工液の粘度が高くなりすぎ、配管を通して輸送できない等の操業上の不具合が生じる。
【0068】
3.インク受容層のバインダー
その他、インク受容層に用いるバインダーとしては、一般的なオフセット印刷用塗工紙や、インクジェット記録媒体に使用される公知のバインダーであればいかなるものも用いて良い。バインダーとしては、例えば、酸化澱粉やエーテル化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;スチレン・ブタジエン共重合体(SB)ラテックスやアクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NB)ラテックス等のラテックス類;ポリビニルアルコール及びその変性物;カゼイン;ゼラチン;カルボキシメチルセルロース;ポリウレタン;酢酸ビニル;及び不飽和ポリエステル樹脂等のバインダーの中から1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。
【0069】
インク受容層用塗料(塗工液)の流動性や塗工適性の観点から、ラテックス類、澱粉類、またはそれらの混合物を用いることが好ましい。
【0070】
インク受容層に含まれる全ての無機顔料の合計100質量部に対し、バインダーの割合が4質量部以上35質量部以下であることが好ましく、5質量部以上30質量部未満であることがさらに好ましい。バインダーの含有量が4質量部未満の場合、インク受容層の強度が不足する傾向にある。一方、バインダーの含有量が35質量部を超えると、インク受容層中に存在する空隙がバインダーによって満たされ、インクの吸収容量が少なくなるため、良好な印字品質を得ることが困難となる傾向にある。
【0071】
(その他の成分)
インク受容層には、その他必要に応じて、顔料分散剤、増粘剤、保水剤、滑剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、防腐剤、耐水化剤、界面活性剤、pH調整剤等の助剤を適宜添加することができる。
【0072】
(塗工量)
インク受容層の塗工量は特に制限を設けないが、片面あたり1g/m以上40g/m未満であることが好ましく、特に片面あたり4g/m以上30g/m未満であることが好ましい。塗工量が多いほどインク受容層の空隙量も多くなるため、インク吸収性が良好となる。
【0073】
インク受容層の塗工量が片面あたり1g/m未満の場合、支持体となる原紙を充分に被覆することができないため、塗工紙表面にガサつきが残り、非塗工紙に似た風合いを帯び、本発明が所望する白紙光沢度を得ることが困難となり、目的としたオフセット印刷用塗工紙の風合いを持つインクジェット記録媒体を得ることができ難い。また、インク受容層の塗工量が片面あたり1g/m未満の場合、インク受容層の吸収容量も充分ではないため、フェザーリングやブリードといった印字不良を起こしやすい。一方、インク受容層の塗工量が片面あたり40g/m以上になると、インク受容層塗工時の乾燥負荷が大きいため、作業性が劣り、また高コストとなる。
【0074】
(塗工方法)
原紙上にインク受容層を設ける方法としては、一般的な塗工装置である、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、フレキソグラビアコーター、スプレーコーター、サイズプレス等の各種塗工装置を、オンマシンまたはオフマシンで使用することができる。
【0075】
また、セルロースナノファイバーを含有するインク受容層は、原紙の片面、両面のいずれに設けて良く、1層又は2層以上設けても良い。本発明においてはインク受容層が1層であっても充分な性能が得られるため、コストを低減する点からインク受容層を1層のみを設けることが好ましい。なお、セルロースナノファイバーを含有するインク受容層は最表層であることが好ましく、セルロースナノファイバーを含有するインク受容層の下層にセルロースナノファイバーを含有しないインク受容層あるいは下塗り層を設けてもよい。
【0076】
本発明において、JIS−Z 8741による、インク受容層表面の光入射角75度の白紙光沢度は特に制限されず、インクジェット記録媒体の用途に応じて適宜設定することが出来る。例えば、オフセット印刷用のグロス調塗工紙の風合いを付与するためには、光入射角75度の白紙光沢度が50%以上85%以下であることが好ましい。オフセット印刷用のマット調塗工紙の風合いを付与するためには、75度白紙光沢度が20%以上50%未満であることが好ましい。
【0077】
白紙光沢度の調整は、インク受容層を設けた後にマシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー、シューカレンダー等のカレンダー装置を用い、カレンダーの処理温度、処理速度、処理線圧、処理段数、ロールの径、および材質等の条件を適宜調整して処理することにより行うことができる。
【0078】
また、オフセット印刷用のマット調塗工紙の風合いを付与する場合、カレンダー処理を行わなくてよい。
【0079】
なお、本発明のインクジェット記録媒体は、インクジェットプリンターのみならず、電子写真プリンター、オフセット印刷機にも使用することができる。
【実施例】
【0080】
以下に実施例にて本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0081】
<セルロースナノファイバーの製造>
漂白済みの未叩解針葉樹クラフトパルプ(日本製紙(株)製)15g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム754mg(7.4mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)50ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10を維持するように調整した。2時間反応させた後、遠心操作(6000rpm、30分、20℃)で酸化したパルプを分離し、十分に水洗することで酸化処理したパルプを得た。酸化処理したパルプの2%(w/v)スラリーをミキサーにより12,000rpm、15分処理し、さらにパルプスラリーを超高圧ホモジナイザーにより140MPaの圧力で5回処理したところ、セルロースナノファイバーの透明なゲル状分散液が得られた。得られたセルロースナノファイバーは、濃度1%(w/v)の水分散液におけるB型粘度(60rpm、20℃)が3000mPa・s、カルボキシル基量が1.2mmol/gであった。
次に、上記の方法により得られたセルロースナノファイバーを含む塗料を紙に塗布することにより製造した例を示す。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
【0082】
(原紙の作製)
広葉樹漂白クラフトパルプ(濾水度400ml)100質量%に対し、カチオン化澱粉を対パルプ0.5%添加し、アルキルケテンダイマーを対パルプ0.05%添加し、硫酸バンドを対パルプ2%添加し、炭酸カルシウムを対パルプ12%添加し、低密度化薬品として多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物(製品名:KB−115、花王社製)0.3部を添加し、紙料とした。この紙料を用いてオントップツインワイヤー抄紙機で紙匹を形成し、3段のウェットプレスを行い乾燥した後、2ロールサイズプレスコーターにて10質量%濃度の酸化澱粉水溶液を塗布して再び乾燥し、坪量80g/mの原紙を得た。
【0083】
[実施例1]
カオリンA(製品名:ECLIPS650、エンゲルハード社製)80部、ゲル法シリカA(製品名:NIPGEL AY−200、東ソーシリカ社製)20部、有機顔料A(製品名:P8900、旭化成ケミカルズ社製)10部、バインダーとして上記のセルロースナノファイバーの製造例にて得られたセルロースナノファイバー0.5部及びSBラテックス(ガラス転移温度15℃)10部、水酸化ナトリウム0.2部、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ0.25部、及び希釈水を混合して固形分51%の塗料を得た。
この塗料を、ブレードコーターを用いて片面あたり塗工量12g/mとなるようにして、上記原紙の両面に塗工した。尚、この時の塗工速度は500m/minであった。塗工後、紙中水分率5%となるまで乾燥し、JIS−Z 8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が60%となるようにスーパーカレンダー処理し、インクジェット記録媒体を得た。
【0084】
[実施例2]
セルロースナノファイバーの配合量を2部としたこと以外は、実施例1と同様にして、JIS−Z 8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が60%となるようにスーパーカレンダー処理し、インクジェット記録媒体を得た。
尚、実施例2の塗料の固形分は30%であり、ブレードコーターで所定の紙中水分に管理するため、塗工速度を200m/minまで低下させる必要が生じた。
【0085】
[実施例3]
セルロースナノファイバーの配合量を0.01部としたこと以外は、実施例1と同様にして、JIS−Z 8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が60%となるようにスーパーカレンダー処理し、インクジェット記録媒体を得た。
【0086】
[実施例4]
上記塗料中のカオリンAの配合量を95部に変更し、ゲル法シリカAの配合量を5部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、JIS−Z 8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が60%となるようにスーパーカレンダー処理し、インクジェット記録媒体を得た。
【0087】
[実施例5]
上記塗料中のカオリンAの配合量を60部に変更し、ゲル法シリカAの配合量を40部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、JIS−Z 8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が40%となるようにスーパーカレンダー処理し、インクジェット記録媒体を得た。
尚、実施例5の塗料の固形分は40%であり、ブレードコーターで所定の紙中水分に管理するため、塗工速度を300m/minまで低下させる必要が生じた。
【0088】
[実施例6]
上記塗料中のカオリンAの配合量を100部に変更し、ゲル法シリカAを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、JIS−Z 8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が60%となるようにスーパーカレンダー処理し、インクジェット記録媒体を得た。
【0089】
[比較例1]
上記塗料中のセルロースナノファイバーを配合しなかったこと以外は、実施例1とまったく同様にして、JIS−Z 8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が30%となるようにスーパーカレンダー処理し、インクジェット記録媒体を得た。
【0090】
[比較例2]
上記塗料中のゲル法シリカの配合量を100部に変更し、カオリンAを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、JIS−Z 8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が30%となるようにスーパーカレンダー処理し、インクジェット記録媒体を得た。
尚、比較例2の塗料の固形分は30%であり、ブレードコーターで所定の紙中水分に管理するため、塗工速度を250m/minまで低下させる必要が生じた。
【0091】
[比較例3]
炭酸カルシウム(製品名:FMT−75、ファイマテック社製)100部、有機顔料A15部、バインダーとして製造例1にて製造したセルロースナノファイバー0.5部及びSBラテックス(ガラス転移温度15℃)10部、水酸化ナトリウム0.2部、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ0.2部及び希釈水を混合して固形分60%の塗料を得た。この塗料を、ブレードコーターを用いて片面あたり塗工量12g/mとなるようにして、上記原紙の両面に塗工した。塗工後、紙中水分率5%となるまで乾燥し、JIS−Z 8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が60%となるようにスーパーカレンダー処理し、インクジェット記録媒体を得た。
【0092】
実施例、比較例で得られたインクジェット記録媒体について、下記の評価を行った。
<評価方法>
1.白紙品質(白紙光沢度)
JIS−Z 8741に準じて、光沢度計(村上色彩技術研究所製、True GLOSS GM−26PRO)を用い、インク受容層表面に対し光入射角75度の白紙光沢度を測定した。
2.インクジェット印字品質
市販の顔料インクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、GP−700)で印字を行い、以下の評価方法に準じて印字評価した。
2−1.乾燥性(インク吸収性)
上記プリンター(写真用紙/きれいモード)にて1.5ポイントの太さの黒色直線を印字し、印字10分後に指で擦り、以下の基準で乾燥性を評価した。
○:指で擦っても印字部が殆ど延びず、インク吸収速度が速く、良好なレベルである。
△:指で擦ると印字部が若干延び、ややインク吸収速度が遅いが、実用上問題の無いレベルである。
×:指で擦ると印字部が延び、インク吸収速度が遅く、実用に耐えないレベルである。
2−2.印字部の耐擦過性
上記インクジェットプリンター(写真用紙/きれいモード)にて1.5ポイントの太さの黒色直線を5本並べて印字し、印字10分後及び5時間後に乾いた綿棒で擦り、以下の基準で耐擦過性を評価した。
○:綿棒で擦ってもインクが剥がれず、良好なレベルである。
△:綿棒で擦るとインクが若干剥がれるが、実用上問題の無いレベルである。
×:綿棒で擦るとインクが剥がれ、実用に耐えないレベルである。
2−3.色間の境界滲み
上記インクジェットプリンター(写真用紙/きれいモード)にて、黄色べた部内に黒文字が入るパターンを印字し、目視で文字の滲みを評価した。
○:全く滲んでおらず、良好なレベルである。
△:若干黄色ベタ部に滲んでいるが、実用上問題の無いレベルである。
×:ひどく滲んでいて、実用に耐えないレベルである。
2−4.オフセット印刷用塗工紙の風合い
上記インクジェットプリンターにて所定のパターンをインクジェット印字した。これと同一のパターンをオフセット印刷用塗工紙(オーロラコート:日本製紙社製、坪量104.7g/m)にオフセット印刷した。各インクジェット印刷物の見た目や手触り等の質感をオフセット印刷物と比較し、以下の基準で評価した。
○:見た目や手触り等の質感がオフセット印刷用塗工紙に近く、オフセット印刷物の風合いを有している。
×:見た目や手触り等の質感がオフセット印刷用塗工紙と異なり、オフセット印刷物の風合いを有していない。
2−5.表面強度
RI印刷機にて、東洋インキ製造社製 特殊インキ SMX タックグレード15を用いて、表面強度を以下の基準で評価した。
○:全く表面が剥けておらず、問題ないレベルである。
△:少々剥けているが、実用上耐えられるレベルである。
×:ひどく剥け、実用に耐えないレベルである。
得られた結果を表1に示す。
【0093】
【表1】


表1に示すようにインク受容層にセルロースナノファイバーを含有することにより、オフセット印刷用紙の風合いを持ち、インク吸収性、表面強度に優れたインクジェット記録媒体を製造することが出来る。なお、実施例2、5のようにセルロースナノファイバーの添加量を増加すると塗料の粘度が上昇するので、固形分濃度を低下させる必要があり、結果的に塗工速度が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の片面又は両面に、顔料及びバインダーを含有するインク受容層を設けたインクジェット記録媒体であって、前記インク受容層中にセルロースナノファイバーを含有することを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記インク受容層におけるセルロースナノファイバーの含有量が、顔料100重量部に対して0.005〜3重量部であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記インク受容層は、全ての無機顔料に対してカオリンを50質量%以上含有する請求項1〜2のいずれかに記載のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記インク受容層は、全ての無機顔料に対して合成非晶質シリカを10〜30質量%含有する請求項3に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項5】
支持体が木材パルプを主成分とする紙である請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録媒体。
【請求項6】
前記セルロースナノファイバーが、
(1)N−オキシル化合物、及び
(2)臭化物、ヨウ化物及びこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、セルロース系原料を酸化剤を用いて酸化して酸化されたセルロースを調製する工程、及び該酸化されたセルロースを湿式微粒化処理してナノファイバー化させる工程を含む方法により得られる、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録媒体。

【公開番号】特開2011−11447(P2011−11447A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157359(P2009−157359)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】