説明

インクジェット記録材料およびディスプレー材料

【課題】 インク受容層を厚くでき、高いインク受容性、良好な発色性を実現することができ、接着剤を使用せずに、単純な工程で製造することができ、外的環境によって反りが生じることがなく、また、照明を当てた場合においても、光の反射により表示が見えなくなるという不都合を生じないディスプレー材料を製造することができるインクジェット記録材料を提供する。
【解決手段】 インクジェット記録材料を、ホットメルト接着性を有するインク受容層、前記インク受容層の上の基材層、および前記基材層の上の防眩処理層を有する積層フィルムにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリントにより画像を記録することができ、防眩性を有するインクジェット記録材料、およびこのインクジェット記録材料をホットメルト接着して作製されるディスプレー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタによる印刷技術が多数開発されると共に、プリンタ等のハードウエア、ラスターイメージプロセッサー等のソフトウエアが進化したことにより、インクジェットプリンタによって高精細な印刷が可能となった。それに伴い、インクジェットプリンタ用の記録材料(以下、「インクジェット記録材料」ということがある。)も進化し、高品質な画像を記録するに耐えうる記録材料が開発された。そのため、このようなインクジェット記録材料を用いた看板やパネル等のディスプレー材料が、市場にて多く見られるようになってきた。
【0003】
また、このようなディスプレー材料は、屋内において使用されることも多く、その場合、ディスプレー材料の表面平滑性が高い場合には、ディスプレー材料に照明を当てた場合に、光の反射によって、表示が見えなくなるという不具合が生じていた。このため、ディスプレー材料に防眩性を付与したものとして、特許文献1には、インクジェット式等の画像記録装置により、所定の画像を記録し、バックライトによりこの画像を視認するための画像記録シートにおいて、基材の裏面側に光拡散剤が混入されたインク受像層を形成し、前記基材の表面側に紫外線カット剤およびハードコート剤からなる保護層を形成した画像記録シートが記載され、この画像記録シートにおいて、前記保護層の少なくとも表面に防眩処理を施すことが記載されている。
【特許文献1】特開平11−321081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に、業務用のディスプレー材料おいては、遠方からでも明確に視認できる、高い視認性を有することが要求される。そのため、ディスプレー材料におけるインクジェット記録材料としては、高いインク吸収性及び受容性を有し、発色性が良いことが必要とされる。空隙型のインクジェット記録材料においては、インク受容層において多孔質無機微粒子が用いられ、この多孔質無機微粒子の空孔における毛細管現象によりインクを吸収し、保持している。一方、多孔質無機微粒子それぞれのインクの吸収量には限界がある。よって、高いインク受容性、良好な発色性を実現するためには、この多孔質無機微粒子からなるインク受容層の厚みを厚くする必要があった。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の画像記録シートにおいては、インク受容層は、インク受容層の形成材料を合成した水溶液を基材の表面に塗布することにより形成されることから、塗布量に限界があること、および、溶媒として高沸点の水を用いていることより、インク受容層を厚くすることは難しかった。
【0006】
また、インク受容層は耐水性や耐傷性に乏しいため、得られる画像記録シートに耐久性を付与するためには、インク受容層の裏面に保護シートを粘着剤、接着剤によって接着する必要があった。そのため、画像記録シートの製造工程が複雑になるという問題があり、また、接着層が存在するため、湿気、温度等の外的環境により、画像記録シートが反りを生じることがあるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、以上のような問題点に鑑みて、インク受容層を厚くすることができ、高いインク受容性、良好な発色性を実現できるインクジェット記録材料、および接着剤を使用せずに、単純な工程で製造することができ、外的環境によって反りが生じることがなく、また、照明を当てた場合においても、光の反射により表示が見えなくなるという不都合を生じないディスプレー材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0009】
第一の本発明は、ホットメルト接着性を有するインク受容層(30)、インク受容層の上の基材層(20)、および基材層の上の防眩処理層(10)を有する積層フィルムからなるインクジェット記録材料(100)である。
【0010】
上記のインクジェット記録材料(100)において、インク受容層(30)は、下記一般式(1)で表されるポリアルキレンオキシド系樹脂であることが好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
[一般式(1)において、Xは活性水素基を2個有する有機化合物の残基であり、Rはジカルボン酸類化合物残基またはジイソシアネート系化合物残基であり、Aは下記一般式(2)によって表される。]
【0013】
【化2】

【0014】
[一般式(2)において、Zは炭素数2以上の炭化水素基であり、a、b、cはそれぞれ1以上の整数であり、a、b、cより計算される質量比、{44×(a+c)/(炭素数4以上のアルキレンオキシドの分子量)×b}は、80/20〜94/6である。また、c/(a+c)は0.5以上1.0未満である。]
【0015】
上記のインクジェット記録材料(100)において、基材層(20)は、ポリエステル樹脂からなる層であることが好ましい。また、基材層(20)の表面は、易接着処理されていることが好ましい。また、基材層(20)の表面におけるインク受容層(30)を積層する側は、アンカーコートによる易接着処理されていることが好ましい。また、基材層(20)の表面における防眩処理層(10)を積層する側は、アンカーコートによる易接着処理やコロナ処理による表面活性化処理がされていることが好ましい。特に、基材層(20)がポリエチレンテレフタレートからなる層である場合は、基材層(20)における防眩処理層(10)を積層する側は、アンカーコートによる易接着処理されていることが特に好ましく、さらにコロナ処理による表面活性化が施されていることが好ましい。
【0016】
上記のインクジェット記録材料(100)において、防眩処理層(10)は、無機微粒子および高分子バインダーを含有する層、あるいは、熱硬化性樹脂の微粒子および高分子バインダーを含有する層であることが好ましい。
【0017】
また、上記のインクジェット記録材料(100)における、防眩処理層(10)側における、JIS B 0601:1994に基づく十点平均粗さ(Rz)は、1μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0018】
上記のインクジェット記録材料(100)における、インク受容層(30)は、押出成形により形成されていることが好ましい。
【0019】
第二の本発明は、上記のインクジェット記録材料(100)のインク受容層(30)に画像を記録する工程、画像を記録したインク受容層(30)側を、別素材(40)にホットメルト接着する工程、を有するディスプレー材料(200)の製造方法である。
上記の別素材(40)とは、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ABSなどの樹脂からなるシート、プレート、発泡成形体などをいう。
【0020】
第三の本発明は、上記のインクジェット記録材料(100)、および、このインクジェット記録材料(100)におけるインク受容層(30)側がホットメルト接着した別素材(40)を有する、ディスプレー材料(200)である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のインクジェット記録材料によると、インク受容層を厚くでき、高いインク受容性、良好な発色性を実現することができる。また、本発明のインクジェット記録材料を用いることによって、接着剤を使用せずに、単純な工程でディスプレー材料を製造することができる。さらに、そのディスプレー材料は、外的環境によって反りが生じることがなく、照明を当てた場合においても、光の反射により表示が見えなくなるという不都合を生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1に本発明のインクジェット記録材料の一実施形態の層構成を模式的に示す。本発明のインクジェット記録材料100は、ホットメルト接着性を有するインク受容層30、このインク受容層30の上に形成される基材層20、およびこの基材層20の上に形成される防眩処理層10を有する積層フィルムから構成されている。言い換えると、この積層フィルムは、基材層20の片面にホットメルト接着性を有するインク受容層30が形成され、他方の面に防眩処理層10が形成されている。
【0023】
(インク受容層30)
ホットメルト接着性を有するインク受容層30としては、ホットメルト接着性およびインク受容性の両方の性質を併せ持つ親水性樹脂を主成分とする単一成分系として構成することもできるし、ホットメルト接着性を有する樹脂に、インク受容性を持たせるための親水性樹脂および/または添加剤を混合して複合成分系として構成することもできる。
【0024】
以下、インク受容層30を構成する成分として、単一成分系を用いる場合について、説明する。ホットメルト接着性およびインク受容性の両方の性質を併せ持つ親水性樹脂としては、融点が40〜60℃であるポリアルキレンオキシド系樹脂を挙げることができる。
【0025】
このようなポリアルキレンオキシド系樹脂としては、下記一般式(1)で表される繰り返し単位から構成されるポリアルキレンオキシド系樹脂を挙げることができる。
【0026】
【化3】

【0027】
一般式(1)において、Xは活性水素基を2個有する有機化合物の残基であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビスフェノールA、アニリンプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。Rはジカルボン酸類化合物残基もしくはジイソシアネート系化合物残基であり、ジカルボン酸類化合物残基としては、環状ジカルボン酸化合物または直鎖状ジカルボン酸化合物が望ましく、例えば、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸の低級アルキルエステルが挙げられる。
【0028】
上記ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マロン酸、コハク酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、イタコン酸が挙げられる。上記ジカルボン酸無水物としては、上記各種ジカルボン酸の無水物が挙げられる。また、上記ジカルボン酸の低級アルキルエステルとしては、上記各種のジカルボン酸のメチルエステル、ジメチルエステル、エチルエステル、ジエチルエステル、プロピルエステル、ジプロピルエステル等が挙げられる。特に好ましくは、炭素数12〜36の直鎖状ジカルボン酸およびその低級アルキルエステルが挙げられ、1,10−デカメチレンジカルボン酸、1,14−テトラデカメチレンジカルボン酸、1,18−オクタデカメチレンジカルボン酸、1,32−ドトリアコンタンメチレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0029】
ジイソシアネート系化合物残基の例としては、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等があげられる。
【0030】
上記の中でも、Rとしては、反応の容易性という観点から、上記ジカルボン酸無水物およびジカルボン酸の低級アルキルエステルを用いることが好ましい。これらは単独で、または2種以上併用して用いることができる。
【0031】
また、Aは下記一般式(2)によって表される。
【0032】
【化4】

【0033】
一般式(2)において、Zは炭素数2以上の炭化水素基であり、例えば好ましいものとしてはエチル基、プロピル基等のアルキル基が挙げられる。a、b、cはそれぞれ1以上の整数であり、a、b、cより計算される質量比、{44×(a+c)/(炭素数4以上のアルキレンオキシドの分子量)×b}は、80/20〜94/6である。80/20より小さくても、前記親水性樹脂として使用することができるが、この場合は、親水性が低下したり、インク吸水性、印刷適性が劣るものとなったり等の問題が生じる。一方、94/6を超えても、前記親水性樹脂として使用することがきできるが、この場合は、インクの滲み耐水性等の点で劣るという問題が生じる。a、b、cの割合を上述の範囲内とすることにより、親水性を失わず、かつ水に対して不溶化することができる。また、c/(a+c)は0.5以上1.0未満に設定される。
【0034】
インク受容層30を構成するポリアルキレンオキシド系樹脂の具体例としては、エチレングリコールにエチレンオキシドを付加重合した後、ブチレンオキシドを付加重合し、さらにエチレンオキシドを付加重合して得たポリアルキレンオキシドに、オクタデカン−1,18−ジカルボン酸メチルを加えエステル交換反応を行って得た樹脂(重量平均分子量:15万、融点:50℃、分解温度:230℃)を挙げることができる。
【0035】
上記の親水性樹脂を押出成形する場合には、親水性樹脂にトコフェロールなどの酸化防止剤を添加することで、熱分解等の問題を回避できる。
【0036】
以下、インク受容層30を構成する成分として、複合成分系を用いる場合について、説明する。ホットメルト接着性を有する樹脂に、インク受容性を持たせるための親水性樹脂および/または添加剤を混合して複合成分系として構成する場合における、インク受容性を持たせるための親水性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリエチレンオキシド等を用いることができる。
【0037】
この中で、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンを親水性樹脂として用いた場合は、これらを単独で用いたのでは、インク受容層に十分なインク受容性を持たせることができない。そこで、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンを親水性樹脂として用いた場合は、以下において説明する多孔質の無機微粒子を添加剤として加える必要がある。
【0038】
上記インク受容性を持たせるための親水性樹脂の中でも、ポリエチレンオキシドが、親水性が非常に高いことから、好ましい。また、例えば、インク受容性を持たせるための新水性樹脂としては、上記した一般式(1)で表されるポリアルキレンオキシド系樹脂を用いることもできる。
【0039】
ホットメルト接着性を有する樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリエステル、ロジン系ポリマー、ピネン系ポリマーおよびこれらの混合物、誘導体、共重合体や変性体等を用いることができる。また、ホットメルト接着性を有する樹脂としては、上記において例示した樹脂に対して、シランカップリング機能を付与したものや酸変性を行ったもの等を使用することもできる。これらの樹脂を用いた場合は、基材層20との接着強度、およびディスプレー材料にするときにおける別素材との接着強度をより高く維持することができる。
【0040】
親水性樹脂のインク吸収性を向上させるため多孔質の無機微粒子を添加することができるが、ここでいう無機微粒子としては、シリカやアルミナなどを用いることができる。また、空孔を制御したナノポーラスシリカやメソポーラスシリカ等の吸収能力の非常に高い無機微粒子を使用することもできる。
【0041】
インク受容層30において、疎水性成分であるホットメルト接着性を有する樹脂(以下、「疎水性成分」ということがある。)と、親水性成分であるインク受容性を持たせるための親水性樹脂(以下、「親水性成分」ということがある。)を混合する場合においては、疎水性成分であるホットメルト接着性を有する樹脂を海、親水性成分であるインク受容性を持たせるための親水性樹脂を島とする、海島構造とすることが好ましい。これは、高湿度下等においてインク受容層30が吸湿し、親水性樹脂の凝集力が低下した時に、親水性樹脂がインク受容層30の組成の大部分すなわち海の構造をとっている場合においては、凝集力の低下すなわち基材層20および別素材40との接着力の低下が発現するからである。これに対して、疎水性成分が海の構造をとっている場合においては、インク受容層30が吸湿した際においても、その疎水性成分での接着力にて基材層20および別素材40との接着力を保持することができる。
【0042】
上記のような好ましい構造である海島構造とするために、親水性成分と疎水性成分の比率は、60:40〜30:70(親水性成分:疎水性成分)、好ましくは、50:50〜45:65(親水性成分:疎水性成分)とすることが望ましい。親水性成分が多すぎると、親水性部分が多くなり吸湿時の凝集力低下が発現する。一方、疎水性成分が多すぎると、インク受容層30のインク吸収性が低下する。
【0043】
親水性成分と疎水性成分との構造的結合性を高めるために、架橋構造を構築することが有効である。架橋には電子線、紫外線、ガンマ線などの放射線などで架橋を施す方法等の他、以下の方法を挙げることができる。
【0044】
親水性成分と疎水性成分とのインタラクションを持たせるための架橋を施す方法としては、例えば、水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤を添加して製膜した後、紫外線光を適宜照射することにより架橋を行う等の方法を挙げることができる。ここで、水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤とは、他の分子から水素を引き抜く形でラジカルを生成する光重合開始剤であり、本発明で用いることができる代表的な水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン、あるいは、ベンジル、o−ベンゾイル安息香酸メチル、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、チオキサンソン、3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、ミヒラーケトン、テトラ(t−ブチルパーオキシカルカルボニル)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体の中から選ばれる1種または2種以上の混合物を用いることができる。上記で例示した水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤の中でも、透明性、硬化性の点でベンゾフェノンを用いることが好ましい。
【0045】
また、水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤は、解裂タイプ光重合開始剤と混合して用いることもできる。
【0046】
水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤の含有量は、インク受容層30の厚みや、紫外線照射条件に合わせて選択されるが、親水性成分および疎水性成分の全体を基準(100質量%)として、0.01〜10質量%の範囲であることが好ましく、厚膜硬化性、透明性、経時安定性を考慮すると、0.05〜2.0質量%であることがより好ましい。水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤の含有量が少なすぎると架橋が進行し難く、また、水素引き抜きタイプ光ラジカル重合開始剤の含有量が多すぎると、未反応の水素引き抜きタイプラジカル重合開始剤が多量に存在し、経時反応により吸水性に影響が出る。
【0047】
また、上記したインク受容層30を構成する成分としては、吸水性の調整のために更に、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル等を添加することができる。
【0048】
(基材層20)
基材層20としては、例えば、ハンドリングの良い二軸延伸ポリエステルフィルム、耐候性の良いアクリルシート、加工性の良いポリエステルやポリ塩化ビニル等の無延伸フィルム、透明性と耐衝撃性のよいポリカーボネートシート等を用いることができる。基材層20としては、画像の視認性を良好なものとするため、出来る限り透明性の高いフィルムを用いることが必要である。このような点から、基材層20は、ポリエステル樹脂からなる層とすることが好ましい。
【0049】
また、基材層20の表面は、易接着処理されていることが好ましい。特に、基材層20の表面におけるインク受容層30を積層する側には、アンカーコートによる易接着処理が施されていることが好ましい。これにより、基材層20とインク受容層30との密着性を向上させることができる。ここで、アンカーコートによる易接着処理とは、きわめて薄い接着剤成分をコートし乾燥させておくことをいい、例えば、基材層20の表面にアンカー剤を塗布することによって行う処理をいう。アンカー剤の塗布方法としては、グラビアコート法で乾燥厚さ1〜10μmとなるように塗布するのが好ましい。
【0050】
また、以下において説明する防眩処理層10との密着性を向上させるために、基材層20の表面における防眩処理層10を積層する側には、アンカーコートによる易接着処理やコロナ処理による表面活性化を施すことができるが、基材がポリエチレンテレフタレートの場合はアンカーコートによる易接着処理を施すことが特に効果的であり、さらに、コロナ処理による表面活性化が施されていることが好ましい。
【0051】
(防眩処理層10)
防眩処理層10は、基材層20においてインク受容層30を形成した面とは反対の面に形成され、インクジェット記録材料100の表層を形成する。また、インクジェット記録材料100におけるインク受容層30側が、別素材40にホットメルト接着して、後に説明するディスプレー材料200が形成されるので、防眩処理層10は、ディスプレー材料200の表層を形成する。
【0052】
防眩処理層10は、このディスプレー材料200の表層に凹凸を付与することによって、ディスプレー材料200の表面に照射された光を分散し、光が反射してディスプレー材料200の表示が見えなくなるという不具合を防止する。以下、ディスプレー材料200における防眩処理層10について説明するが、インクジェット記録材料100における防眩処理層10についても同様のことが言える。
【0053】
この防眩処理層10は、無機微粒子および/または熱硬化性樹脂の微粒子を高分子バインダーをともなって基材層20上にコーティングすることにより形成される。防眩処理層10の形成方法の一例としては、熱硬化性樹脂の微粒子を高分子バインダーを溶解した塗液に分散させ、この分散液を基材層20上にグラビアコーティングし、熱硬化させる方法がある。溶剤としては、トルエン等の有機溶剤や、水、アルコール等を用いることができる。
【0054】
防眩処理層10における無機微粒子としては、タルク、シリカ、酸化チタン等を用いることができる。
【0055】
また、防眩処理層10における熱硬化性樹脂の微粒子としては、メラミン樹脂、フェノール樹脂等を用いることができる。
【0056】
また、防眩処理層10における高分子バインダーとしては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂,ポリエステル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、セルロース系樹脂等を用いることができる。
【0057】
ディスプレー材料200表面の凹凸(表面粗さ)は、防眩処理層10と基材層20をあわせた2層の表面粗さにより決定され、この表面粗さが画像の視認性を決定する重要なファクターとなる。表面粗さは、JIS B 0601:1994に基づく十点平均粗さ(Rz)により測定される。
【0058】
本発明における、ディスプレー材料における表面粗さは、十点平均粗さ(Rz)で、下限としては、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。また、上限としては、5μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましい。表面粗さが大きすぎる場合は照明を当てた際のディスプレー材料200表面での光の反射は防止できるが、ディスプレー材料200の透明性が低下しすぎて通常光下におけるディスプレー材料200の表示の視認性・鮮明性が低下する。また、表面粗さが小さすぎる場合には、通常光下でのディスプレー材料200の表示の視認性・鮮明性は良好であるが、照明を当てた際のディスプレー材料200表面での光の反射により画像の視認性が低下する。
【0059】
(積層フィルムの製造方法)
本発明のインクジェット記録材料100を構成する、インク受容層30、基材層20、防眩処理層10を有する積層フィルムの製造方法について説明する。積層フィルムの製造方法においては、基材層20にインク受容層30および防眩処理層10を積層する順序は限定されず、どちらを先に積層してもよい。
【0060】
以下、一例として、防眩処理層10を積層した後に、インク受容層30を積層する製造方法を示す。
【0061】
インク受容層30は、溶融押出成形により形成される。具体的には、インク受容層30を構成する、樹脂、酸化防止剤、無機微粒子等の添加剤を、押出機において溶融混練し、これをダイから連続的に押し出してシート状に成形する。
【0062】
防眩処理層10は、無機微粒子および/または熱硬化性樹脂の微粒子をバインダーをともなって基材層20上にコーティングすることにより形成される。また、防眩処理層10を形成する前に、基材層20の防眩処理層10を形成する側の表面に、アンカー剤等を塗布して、アンカーコートによる易接着処理を施し、さらに、コロナ処理による易接処理を施しておくことが好ましい。
【0063】
そして、基材層20の防眩処理層10が形成された面とは反対の面に、上記において作製したインク受容層30を張り合わせる。上記で作製したシート状のインク受容層30と基材層20とを重ね合わせた状態で加熱加圧することで、基材層20とインク受容層30とを張り合わせることができる。また、インク受容層30をあらかじめシート状に成形せずに、インク受容層30を基材層20上に直接溶融押出ラミネートし、冷却固化することによって、基材層20上にインク受容層30を積層することもできる。また、インク受容層30を基材層20上に張り合わせ等する前に、基材層20のインク受容層30を積層する側の表面に、アンカーコートによる易接着処理を施しておくことが好ましい。
【0064】
上記の製造方法によって積層フィルムを形成することによって、インク受容層30を厚くすることができ、それにより、インクジェット記録材料100に高いインク受容性、良好な発色性を持たせることができる。また、接着剤を使用せずに、単純な工程によりインクジェット記録材料100を作製することができ、得られたインクジェット記録材料100は外的環境によって反りが生じることがない。
【0065】
(ディスプレー材料200の製造方法)
本発明のディスプレー材料200は、インクジェット記録材料100におけるインク受容層30の基材層20が積層された面とは反対の面を、別素材40にホットメルト接着することによって作製することができる。別素材40としては、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ABS等の樹脂からなるシート、プレート、発泡成形体等を用いることができる。本発明のディスプレー材料200は、接着剤を使用せずに、単純な工程により作製することができる。よって、得られたディスプレー材料200は、外的環境によって反りが生じることがない。
【実施例】
【0066】
以下実施例および比較例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
エチレングリコールにエチレンオキシドを付加重合した後、ブチレンオキシドを付加重合し、さらにエチレンオキシドを付加重合して得たポリアルキレンオキシドにオクタデカン−1,18−ジカルボン酸メチルを加えエステル交換反応を行って重量平均分子量15万の樹脂Aを得た。これに酸化防止剤としてトコフェロール(UVINUL2000AO、BASF社製)を1部添加したものをT型マルチマニホールドダイにて35μmの溶融成形を行いインク受容層を得た。
【0067】
また、三菱化学ポリエステル社製PETフィルム「T600E50(両面易接着品)」の片側易接着面に表面粗さ(Rz)が3となるように「防眩処理A(後に説明付与)」を施した。そして、上記で製造したインク受容層をPETフィルムの他方の面にラミネートすることによりインクジェット記録材料を得た。このインク受容層に画像をエプソン社製PX−7000にて印刷し、発泡PSボード(7mm)に熱ラミネートして、ディスプレー材料を得た。インク受容層およびPSボードとPETフィルムとのラミネートは、いずれも、ロール温度100℃、ロール線圧118N/cm、の一対のロール間で、0.5m/分の速度で行った。
【0068】
ここで、防眩処理Aとは、大日本インキ社製コーティング剤 SF No.136をグラビアコートし、150℃×20秒で乾燥させ、乾燥状態で10g/mの塗布層を形成したものである。
【0069】
実施例2
実施例1において、防眩処理Aの代わりに、防眩処理Bを施した以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録材料およびディスプレー材料を得た。ここで、防眩処理Bとは、荒川塗料工業社製コーティング剤 フラットコート A−55を用い、防眩処理Aと同様にして乾燥状態で10g/mの塗布層を形成したものである。
【0070】
参考例1
実施例1において防眩処理Aの表面粗さ(Rz)が0.8となるようにした以外は全て同様の方法によって、インクジェット記録材料およびディスプレー材料を得た。
【0071】
参考例2
実施例1において防眩処理Aの表面粗さ(Rz)が5.5となるようにした以外は全て同様の方法によって、インクジェット記録材料およびディスプレー材料を得た。
【0072】
参考例3
実施例1において三菱化学ポリエステル社製PETフィルム「T600E50(片面易接着品)」の未処理面側に防眩処理Aの表面粗さ(Rz)が5.5となるようにした以外は全て同様の方法によって、インクジェット記録材料およびディスプレー材料を得た。
【0073】
比較例1
市販のインクジェット記録材料「ピクトリコ」の裏面に粘着加工を施した後、表面に実施例1と同様のインクジェット印刷を行った。PETフィルム(T600E50、両面易接着品、三菱化学ポリエステル社製)の片側易接着面に実施例1と同様のコロナ処理を施した後に防眩処理を施し、他方の面に粘着加工を施した。PETフィルムの粘着加工を施した面に、上記のインクジェット記録材料のインクジェット印刷を行った表面を粘着を介してラミネートした。そして、インクジェット記録材の粘着加工を施した裏面を発泡PSボードに貼り付けて、ディスプレー材料を得た。
【0074】
評価方法
(1)画像視認性(通常環境下)
各サンプルを蛍光灯から200cm離した位置に設置して、画像を見た際の画像の視認性を評価した。
【0075】
(2)画像視認性(照明下)
各サンプルに40Wのハロゲンランプを斜め45度から30cm離して入射させた場合において、画像を見た際の画像の視認性を評価した。
【0076】
(3)製造の容易さ
印刷してから最終製品になるまでの作業性や製造コストを比較評価した
【0077】
(4)堅牢度テスト
堅牢度テストは、JIS D 0202:1988に準拠して碁盤目テープ剥離試験をおこなって評価した。具体的には、セロハンテープ(「CT24」、ニチバン社製)を用い、セロハンテープを作製したディスプレー材料の防眩処理層側に指の腹で密着させた後、剥離し、剥離面の様子を目視で判定した。判定は剥離面を100マスに分割し、(剥離しないマス目の数)/100が、100/100であって、まったく剥離しない場合を「○」とし、99/100以下で、少しでも剥離する場合を「×」として評価した。
【0078】
【表1】

【0079】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うインクジェット記録材料およびディスプレー材料もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のインクジェット記録材料の一実施形態の層構成を示す概念図である。
【図2】本発明のディスプレー材料の一実施形態の層構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0081】
10 防眩処理層
20 基材層
30 インク受容層
40 別素材
100 インクジェット記録材料
200 ディスプレー材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットメルト接着性を有するインク受容層、前記インク受容層の上の基材層、および前記基材層の上の防眩処理層を有する積層フィルムからなるインクジェット記録材料。
【請求項2】
前記インク受容層が、下記一般式(1)で表されるポリアルキレンオキシド系樹脂である、請求項1に記載のインクジェット記録材料。
【化1】

[一般式(1)において、Xは活性水素基を2個有する有機化合物の残基であり、Rはジカルボン酸類化合物残基またはジイソシアネート系化合物残基であり、Aは下記一般式(2)によって表される。]
【化2】

[一般式(2)において、Zは炭素数2以上の炭化水素基であり、a、b、cはそれぞれ1以上の整数であり、a、b、cより計算される質量比、{44×(a+c)/(炭素数4以上のアルキレンオキシドの分子量)×b}は、80/20〜94/6である。また、c/(a+c)は0.5以上1.0未満である。]
【請求項3】
前記基材層が、ポリエステル樹脂からなる層である、請求項1または2に記載のインクジェット記録材料。
【請求項4】
前記基材層の表面が、易接着処理されている、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録材料。
【請求項5】
前記易接着処理が、アンカーコートによる易接着処理である、請求項4に記載のインクジェット記録材料。
【請求項6】
前記防眩処理層が、無機微粒子および高分子バインダーを含有する層である、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録材料。
【請求項7】
前記防眩処理層が、熱硬化性樹脂の微粒子および高分子バインダーを含有する層である、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録材料。
【請求項8】
前記インクジェット記録材料における、前記防眩処理層側における、JIS B 0601:1994に基づく十点平均粗さ(Rz)が、1μm以上5μm以下である、請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット記録材料。
【請求項9】
前記インク受容層が、押出成形により形成されている、請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェット記録材料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェット記録材料の前記インク受容層に画像を記録する工程、
画像を記録した前記インク受容層側を、別素材にホットメルト接着する工程、
を有するディスプレー材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェット記録材料、および、このインクジェット記録材料における前記インク受容層側がホットメルト接着した別素材を有する、ディスプレー材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−38506(P2007−38506A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224676(P2005−224676)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】