説明

インクジェット記録用インク組成物

【課題】活性エネルギー線による光重合反応性及び硬化性に優れ、かつ臭気が改善されたインクジェット記録用インク組成物の提供。
【解決手段】(メタ)アクリル酸とエステル又はアミドを形成している残基がスルホキシド基又はスルホン基を1個以上有し、片末端又は両末端にアクリル酸由来のビニル基を有する(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドモノマーから選ばれた少なくとも1種、及び、(II)重合開始剤、を含むインクジェット記録用インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線によって硬化するインクジェット記録用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紙などの記録媒体上に画像を形成する方法には、電子写真方式、昇華記録方式、熱転写記録方式、インクジェット記録方式など種々の方式がある。この中で、電子写真方式は、感光体上への帯電、露光によって静電潜像を形成し、最終的にはトナーを紙上に定着するプロセスを必要としており、システム全体が非常に複雑で、サプライも多く必要なことからコストが高くなるとともに、メンテナンスの負荷が大きくなってしまう。
また、昇華記録方式、熱転写記録方式は、紙などの被記録媒体以外には、昇華リボン、熱転写リボンなどのサプライがあればよいことから、システムも電子写真方式に比べると簡素な記録方式である。しかし、両方式ともインク成分をPETフィルム等の支持体上に全面塗布したインクリボンを用いることから、非画像部に該当する部分のインクリボンも消費され、実際のランニングコストは高くなってしまう。また、使用後のインクリボン(いわゆる抜け殻)が発生するため、廃棄物発生及び秘密保持上の問題が生じてくる。
【0003】
それに対して、インクジェット記録方式は、システムが簡素な上に必要な部分のみに対してインクを消費するので、前述の熱転写記録方式などに比べてインク消費の効率が高く省資源性に優れており、単位記録あたりのインクコストを低く抑えることが可能である。このような特長を有するインクジェット記録方式であるが、水性インクを用いて普通紙などの吸収性の媒体上に画像形成した場合、印字ドットの滲みが生じやすく画像品質が媒体によって変化してしまう。また、インクの耐水性が十分でないため、水との接触によって画像が流れてしまう。更に、印字率の高い画像を印刷した場合には、カールによる紙の波うちが発生したり、乾燥性が悪いために印刷直後に紙を重ねられないなどの不具合が生じることから、産業分野での使用において大きな障害となっていた。また、PETフィルムなどの各種フィルムに代表される非浸透性記録媒体に対して印刷できない点も、印刷用紙の制限となり、その実用範囲を狭めていた。
このような中、水の代わりに速乾性の有機溶剤を用いたソルベントタイプのインクを用いたインクジェット記録方式が登場したが、インクの溶剤として揮発性の高い有機溶剤を用いるため、引火性が高く取扱上の危険が生じてしまう上に、有機溶剤が印刷乾燥過程で蒸発するため、印刷を行うオペレーターの健康への悪影響、大気中へ放出されることによる環境への悪影響が懸念されている。また、揮発性の有機溶剤を用いているため、ヘッド周辺でのインク固化による目詰まりが発生しやすく、装置のメンテナンスにおいても問題点を有している。
【0004】
そこで、近年では活性エネルギー線によって硬化させることのできる活性エネルギー線硬化型のインクを用いたインクジェット記録方式が注目されている。例えば、活性エネルギー線として紫外線を用いた紫外線硬化型インクジェット記録方式は、溶剤の蒸発を伴うことなく速乾性に優れることから、環境面、揮発性溶剤によるオペレーターの健康面における問題を解決するとともに、溶剤蒸発に伴うインク固化も起こりにくく、ヘッド等のインク周辺機器のメンテナンス性に優れるものである。更に、普通紙、各種インクジェット用の専用紙(受容紙)等の浸透性記録媒体だけでなく、各種フィルムのような非浸透性の記録媒体に対しても印刷を行うことができる。
また、設備面においても、紫外線などの活性エネルギー線を出力できる光源があればよいことから、熱による乾燥、蒸発した有機溶剤の回収に比べると簡素な仕組みであるといえる。また、光源としてLEDランプを用いることにより、更なる省エネルギー化が可能となり、環境負荷の大幅な低減を期待することができる。
【0005】
このような活性エネルギー線硬化型インクジェット記録方式に用いられるインク組成物は、紫外線硬化型インク組成物として各種書籍、文献等に記載されており、通常、重合開始剤とモノマーを必須成分とし、必要に応じて、顔料、オリゴマー、ポリマー、増感剤などの成分が配合されているものであり、非特許文献1、2などの書籍の記載を一例として挙げることができる。
このように、インクを構成するモノマー成分は、硬化速度(感度)、インク粘度、硬化後の膜特性などの点から複数のモノマーを用いており、粘度が低く反応性に優れる低分子量のモノマーと、多官能で分子量の大きなモノマーを組み合わせて用いていることが多い。モノマーはインクジェット記録用インク組成物の80重量%近くを占める主成分であることから、材料開発に加えて、その配合(組み合わせ)に関する開発も活発に行われている。
【0006】
例えば、硬化性と硬化後の柔軟性を両立する目的で、分子内にアルキレンオキシド基を有する3官能以上の(メタ)アクリル酸のエステル又はアミド化合物を用いること(特許文献1)、分子内にアルキレンオキシド基を有する3官能以上の(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドと炭素数6〜12のアルキル部分を有する単官能(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドを組み合わせること(特許文献2)などが提案されている。更に、硬化性と硬化後の画像と記録媒体との接着性等を両立させる目的で、2級水酸基を有する脂肪族(メタ)アクリレート化合物と分子内に窒素原子及び重合性不飽和結合を有する化合物とを組み合わせて用いること(特許文献3)、分子内に重合性不飽和結合及びアミノ基を有する重合性化合物を用いること(特許文献4)を特徴とするインクジェット記録用インク組成物が提案されており、アルキレンオキシド構造、水酸基、アミノ基のように酸素原子、窒素原子のような電気陰性度の高い原子を含む構造を導入したモノマーを用いることによって、硬化後の膜の柔軟性や記録媒体との接着性を向上させる試みが行われている。
【0007】
一方、モノマー化合物中の構造として導入したスルフィド構造(−S−)やエーテル構造(−O−)のヘテロ原子によってラジカル重合の反応性が高くなることが、非特許文献3に報告されている。これに関連して、重合性化合物として分子内にスルフィド構造やジスルフィド構造を含有する化合物を用いるインクジェットインク組成物が提案されており(特許文献5、6)、分子内のスルフィド構造の存在によって、空気下(酸素存在下)でもラジカル重合が進行しやすく硬化性を向上させる狙いがあるとされている。
更に、モノマー材料の親水性や顔料の分散性を向上させる目的で、スルホン酸構造、スルホン酸エステル構造(特許文献7、8)や、リン酸構造、リン酸エステル構造(特許文献9、10)を分子構造内に含むモノマー化合物も各種提案されている。
【0008】
また、このようなインク組成物を使用する際には、その臭い(臭気)も労働環境上の重要な課題となってくる。一般に反応性モノマーを主成分とするインクジェット記録用の紫外線硬化型インク組成物には、希釈剤と呼ばれる低分子量の反応性モノマーが溶剤を兼ねた反応性モノマーとして多量に配合されており、粘度等のインク物性を適切な状態に保っている。このような(メタ)アクリレート系に代表される低分子量のモノマー化合物には、特有の臭気があり不快感を与えることが多い。
一般に化学物質の臭気は空気中に飛散した化合物分子を人間がその嗅覚で検知することによって認識されるものであるから、モノマー化合物のような特有の臭気を持つものに対しては、化合物自身が空気中に飛散しにくいものであることが臭気を抑える点で重要である。そこで、例えばモノマー化合物の分子量を大きくすることや、極性の官能基を導入して分子間相互作用を強くすることは、モノマー化合物が空気中に飛散するのを抑制する効果があり、臭気を改善する方法の一つになると考えられる。
【0009】
しかしながら高分子量のモノマー化合物だけでインクを作製した場合には、その粘度が高くなってしまいモノマーとしての反応性を低下させることに加え、高粘度であること自体がインクジェット用インク組成物には適さない。また、水酸基、アミノ基などの極性の高い官能基を有する前述の公知文献記載の低分子量モノマー化合物でも臭気の問題の改善が期待されるが、これだけで十分とは言い難い。更に、水酸基、アミノ基のように水素結合を形成しやすい官能基がフリーに存在している場合には、分子間相互作用が非常に大きく、粘度が極端に高くなってしまうため、インクジェット記録用インク組成物に必要な臭気と反応性、更には低粘度を満足させるという点において十分であるとは言いがたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、活性エネルギー線による光重合反応性及び硬化性に優れ、かつ臭気が改善されたインクジェット記録用インク組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸アミド化合物の分子構造中に特定の官能基を導入することにより、モノマーの不快な臭気が少なくなり、活性エネルギー線に対する反応性及び硬化性にも優れることを見出した。
即ち、上記課題は次の1)〜5)の発明によって解決される。
1) (I)下記式(1)〜(3)で表される、(メタ)アクリル酸とエステル又はアミドを形成している残基がスルホキシド基又はスルホン基を1個以上有し、片末端又は両末端にアクリル酸由来のビニル基を有する(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドモノマーから選ばれた少なくとも1種、及び、(II)重合開始剤、を含むことを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。
【化1】

〔式(1)〜(3)中、Xはアルキル基、Yはアルキレン基、Wはアルキレン基である。但し、硫黄同士が直接結合する場合には、Wは存在しない。Zは酸素原子又は−NR2−(R2は水素原子又はアルキル基)で表わされる基であり、R1は水素原子又はアルキル基である。mは1又は2である。〕
2) 前記式(1)〜(3)におけるmが2であることを特徴とする1)記載のインクジェット記録用インク組成物。
3) 前記式(1)のモノマーにおけるXが炭素数1〜4のアルキル基であることを特徴とする2)記載のインクジェット記録用インク組成物。
4) 前記式(1)のモノマーが下記式(4)で表わされるものであることを特徴とする3)記載のインクジェット記録用インク組成物。
【化2】

5) 前記式(3)のモノマーが下記式(5)で表わされるものであることを特徴とする2)記載のインクジェット記録用インク組成物。
【化3】

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、活性エネルギー線による光重合反応性及び硬化性に優れ、かつ臭気が改善されたインクジェット記録用インク組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
まず、本発明のインクジェット記録用インク組成物(以下、「インク組成物」ということもある)に含有される各成分について説明する。
<(I)の(メタ)アクリル酸エステル又はアミドモノマー>
本発明のインク組成物に使用するモノマーは、前記式(1)〜(3)で表される、(メタ)アクリル酸とエステル又はアミドを形成する残基がスルホキシド基又はスルホン基を1個以上有し、片末端又は両末端にアクリル酸由来のビニル基を有する(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドから選ばれた少なくとも1種である。
式(1)〜(3)におけるXはアルキル基であり、炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基が好ましい。Yはアルキレン基であり、炭素数1〜6の直鎖又は分岐アルキレン基が好ましい。Wは存在しないか又はアルキレン基であり、炭素数1〜4のアルキレン基が好ましい。また、Zは酸素原子又は−NR2−基(R2は水素原子又はアルキル基)であり、酸素原子が好ましい。R1は水素原子又はメチル基である。
【0014】
式(1)〜(3)で表されるモノマーは、その分子構造中に非プロトン性の極性官能基であるスルホキシ構造(−SO−)又はスルホン構造(−SO−)を有しており、これらの構造による適度な極性によって生じる分子間相互作用により反応性モノマーが近接し重合性部位同士の距離が近くなることにより、反応性や硬化性の向上が期待される。これらの極性基の特徴は水素原子を含んでいないことであり、生じる分子間相互作用は、水素結合を介した相互作用に比べて分子運動の自由度は高く保たれている。また、分子量が比較的小さい化合物であることも加わって、これらのモノマーの粘性上昇が抑制される傾向にあることから、モノマー(I)はインク組成物に適したものであるといえる。
【0015】
以下に(I)のモノマーの好ましい具体例を挙げる。
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
【化8】

【0020】
【化9】

【0021】
【化10】

【0022】
【化11】

【0023】
【化12】

【0024】
【化13】

【0025】
本発明のインク組成物における(I)のモノマーの含有量は、20〜98重量%が好ましく、30〜90重量%が更に好ましく、30〜80重量%の範囲が特に好ましい。
また、(I)のモノマーは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
<(II)重合開始剤>
本発明のインク組成物における重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤を用いることができるが、前記(I)のモノマーとの組み合わせにおいては、ラジカル重合開始剤とアニオン重合開始剤が好ましく、特にラジカル重合開始剤が好ましい。
重合開始剤は、モノマーの種類やインク組成物の使用目的に応じて、適宜選択することができる。本発明のインク組成物に使用する重合開始剤は、外部エネルギーを吸収して重合開始種を生成する化合物である。重合を開始するために使用される外部エネルギーは、熱又は活性エネルギー線に大別され、それぞれ熱重合開始剤又は光重合開始剤が使用される。活性エネルギー線には、γ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線を例示できる。また、熱重合開始剤及び光重合開始剤としては公知の化合物が使用できる。
好ましいラジカル重合開始剤としては(a)芳香族ケトン類、(b)アシルホスフィンオキシド化合物、(c)芳香族オニウム塩化合物、(d)有機過酸化物、(e)チオ化合物、(f)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(g)ケトオキシムエステル化合物、(h)ボレート化合物、(i)アジニウム化合物、(j)メタロセン化合物、(k)活性エステル化合物、(l)炭素ハロゲン結合を有する化合物、(m)アルキルアミン化合物等が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ラジカル重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4,4′−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、イソプロピルキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−エチルアントラキノン、アセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−4′−イソプロピルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、カンファーキノン、ベンズアントロン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4′−ジ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4,4′−トリ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′−ジ(メトキシカルボニル)−4,4′−ジ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4′−ジ(メトキシカルボニル)−4,3′−ジ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4′−ジ(メトキシカルボニル)−3,3′−ジ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−2−(o−ベンゾイルオキシム)、2−(4′−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3′,4′−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2′,4′−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2′−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4′−ペンチルオキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、4−[p−N,N−ジ(エトキシカルボニルメチル)]−2,6−ジ(トリクロロメチル)−s−トリアジン、1,3−ビス(トリクロロメチル)−5−(2′−クロロフェニル)−s−トリアジン、1,3−ビス(トリクロロメチル)−5−(4′−メトキシフェニル)−s−トリアジン、2−(p−ジメチルアミノスチリル)ベンズオキサゾール、2−(p−ジメチルアミノスチリル)ベンズチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、3,3′−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)、2−(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニル−1,2′−ビイミダゾール、2,2′−ビス(2−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラキス(4−エトキシカルボニルフェニル)−1,2′−ビイミダゾール、2,2′−ビス(2,4−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニル−1,2′−ビイミダゾール、2,2′−ビス(2,4−ジブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニル−1,2′−ビイミダゾール、2,2′−ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニル−1,2′−ビイミダゾール、3−(2−メチル−2−ジメチルアミノプロピオニル)カルバゾール、3,6−ビス(2−メチル−2−モルホリノプロピオニル)−9−n−ドデシルカルバゾール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0028】
中でもビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(チバジャパン社製のIRGACURE 819:商品名)又は2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(チバジャパン社製のDAROCUR TPO:商品名)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバジャパン社製のIRGACURE 184:商品名)、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン(チバジャパン社製のIRGACURE 907:商品名)、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン(チバジャパン社製のIRGACURE 379:商品名)等は、インク組成物中に含まれる他の成分との相溶性が高く、少ない紫外線照射量でインク組成物を硬化させることができるので好ましい。
【0029】
重合開始剤は、前記(I)のモノマー、任意成分として用いられる後述の他の重合性化合物及び着色剤の総重量に対して、1〜50重量%の範囲が好ましく、2〜40重量%の範囲がより好ましく、5〜30重量%の範囲が更に好ましい。また、重合開始剤と後述する増感剤を併用する場合には、重合開始剤:増感剤の重量比は、200:1〜1:200が好ましく、より好ましくは50:1〜1:50の範囲である。
本発明のインク組成物には、上記した成分に加えて、本発明の効果を損なわない限りにおいて、物性向上などの目的で、他の成分を併用することができる。以下、これらの任意成分について説明する。
【0030】
<着色剤>
本発明のインク組成物は着色剤を含有してもよく、これにより着色画像を形成することができる。着色剤については特に制限はなく、顔料、油溶性染料、水溶性染料、分散染料等の任意の公知の着色剤から適宜選択して用いることができる。
着色剤としては、耐候性に優れ、色再現性に富む顔料や油溶性染料が好ましく、顔料がより好ましい。また、本発明のインク組成物に好適に使用し得る着色剤は、活性エネルギー線による硬化反応の感度を低下させないという観点から、硬化反応である重合反応に対して重合禁止剤として機能しない化合物を選択することが好ましい。
本発明に使用できる顔料としては、特に限定されるわけではないが、例えばカラーインデックスに記載される下記の番号の有機又は無機顔料が挙げられ、目的に応じて適宜選択して使用できる。
【0031】
赤又はマゼンタ顔料としては、例えば、Pigment Red 3,5,19,22,31,38,43,48:1,48:2,48:3,48:4,48:5,49:1,53:1,57:1,57:2,58:4,63:1,81,81:1,81:2,81:3,81:4,88,104,108,112,122,123,144,146,149,166,168,169,170,177,178,179,184,185,208,216,226,257,Pigment Violet 3,19,23,29,30,37,50,88,Pigment Orange 13,16,20,36、等が挙げられる。
青又はシアン顔料としては、例えば、Pigment Blue 1,15,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,16,17−1,22,27,28,29,36,60、等が挙げられる。
緑顔料としては、例えば、Pigment Green 7,26,36,50、等が挙げられる。
黄顔料としては、例えば、Pigment Yellow 1,3,12,13,14,17,34,35,37,55,74,81,83,93,94,95,97,108,109,110,137,138,139,153,154,155,157,166,167,168,180,185,193、等が挙げられる。
黒顔料としては、例えば、Pigment Black 7,28,26、等が挙げられ、白色顔料としては、例えば、Pigment White 6,18,21、等が挙げられる。
【0032】
本発明で使用できる油溶性染料について説明する。ここで言う油溶性染料とは水に実質的に不溶な染料を意味する。具体的には、25℃での水への溶解度(水100gに溶解できる染料の重量)が1g以下であり、好ましくは0.5g以下、より好ましくは0.1g以下であるものを指す。従って、油溶性染料とは、水に不溶性の顔料や油溶性色素を意味し、これらの中でも油溶性色素が好ましい。
油溶性染料のうち、イエロー染料としては、例えば、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロン類、ピリドン類、開鎖型活性メチレン化合物類を有するアリール若しくはヘテリルアゾ染料、カップリング成分として開鎖型活性メチレン化合物類を有するアゾメチン染料、ベンジリデン染料やモノメチンオキソノール染料等のようなメチン染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料等のようなキノン系染料等が挙げられ、これ以外の染料種としてはキノフタロン染料、ニトロ・ニトロソ染料、アクリジン染料、アクリジノン染料等を挙げることができる。
【0033】
油溶性染料のうち、マゼンタ染料としては、例えば、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類を有するアリール若しくはヘテリルアゾ染料、カップリング成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類を有するアゾメチン染料、アリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、オキソノール染料のようなメチン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料のようなカルボニウム染料、ナフトキノン、アントラキノン、アントラピリドンなどのようなキノン系染料、ジオキサジン染料等のような縮合多環系染料等を挙げることができる。
油溶性染料のうち、シアン染料としては、例えば、インドアニリン染料、インドフェノール染料或いはカップリング成分としてピロロトリアゾール類を有するアゾメチン染料、シアニン染料、オキソノール染料、メロシアニン染料のようなポリメチン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料のようなカルボニウム染料、フタロシアニン染料、アントラキノン染料、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類を有するアリール若しくはヘテリルアゾ染料、インジゴ・チオインジゴ染料等を挙げることができる。
油溶性染料の好ましい具体例としては、C.I.ソルベント・ブラック 3,7,27,29及び34、C.I.ソルベント・イエロー 14,16,19,29,30,56,82,93及び162、C.I.ソルベント・レッド 1,3,8,18,24,27,43,49,51,72,73,109,122,132及び218、C.I.ソルベント・バイオレット 3、C.I.ソルベント・ブルー 2,11,25,35,38,67及び70、C.I.ソルベント・グリーン 3及び7、C.I.ソルベント・オレンジ 2等が挙げられる。
【0034】
また、本発明においては、水非混和性有機溶媒に溶解する範囲で分散染料を用いることもでき、その好ましい具体例としては、C.I.ディスパースイエロー 5,42,54,64,79,82,83,93,99,100,119,122,124,126,160,184:1,186,198,199,201,204,224,237、C.I.ディスパーズオレンジ 13,29,31:1,33,49,54,55,66,73,118,119,163、C.I.ディスパーズレッド 54,60,72,73,86,88,91,92,93,111,126,127,134,135,143,145,152,153,154,159,164,167:1,177,181,204,206,207,221,239,240,258,277,278,283,311,323,343,348,356,362、C.I.ディスパーズバイオレット 33、C.I.ディスパーズブルー 56,60,73,87,113,128,143,148,154,158,165,165:1,165:2,176,183,185,197,198,201,214,224,225,257,266,267,287,354,358,365,368、C.I.ディスパーズグリーン 6:1,9等が挙げられる。
【0035】
着色剤は、インク組成物に添加された後、適度に分散していることが好ましく、分散には、ボールミル、サンドミル、リングミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等の各分散装置を用いることができる。
また、着色剤を分散させる際に分散剤を添加することも可能である。分散剤の種類には特に制限はないが、高分子分散剤が好ましい。これらの分散剤は、着色剤100重量部に対し、1〜50重量部添加することが好ましい。
着色剤は、インク組成物の使用目的に応じて1種又は2種以上を適宜選択して用いればよい。なお、インク組成物中において、固体のまま存在する顔料などの着色剤を使用する際には、着色剤粒子の平均粒径は、好ましくは0.005〜0.5μm、より好ましくは0.01〜0.45μm、更に好ましくは、0.015〜0.4μmとなるように、着色剤、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を設定することが好ましい。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、透明性及び硬化感度を維持することが好ましい。
着色剤の含有量は、インク組成物の使用目的により適宜選択されるが、インク物性や着色性を考慮すれば、一般的には、インク組成物全体の重量に対して、0.5〜10重量%であることが好ましく、1〜8重量%であることがより好ましい。なお、酸化チタン等の白色顔料を着色剤とする白色インク組成物である場合には、着色剤の含有量は、隠蔽性を確保するために、インク組成物全体の重量に対して、5〜30重量%であることが好ましく、10〜25重量%であることがより好ましい。
【0036】
<他の重合性化合物(モノマー)>
本発明のインク組成物は、前記(I)のモノマー以外の重合性化合物を含むことも可能である。併用可能な重合性化合物としてはラジカル重合性化合物、カチオン重合性化合物、アニオン重合性化合物が挙げられる。
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であり、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であれば特に限定されず、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態を持つものが含まれる。併用するラジカル重合性化合物は1種を単独で用いてもよく、また目的とする特性を向上させるために任意の比率で2種以上を併用してもよい。
ラジカル重合性化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸、それらの塩及び、これらから誘導される化合物、エチレン性不飽和基を有する無水物、アクリロニトリル、スチレン、更に種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0037】
具体的には、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、ネオペンチルグリコールジアクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エポキシアクリレート等のアクリル酸誘導体、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のメタクリル誘導体、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどのアクリルアミド誘導体、その他、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体が挙げられ、具体的には、非特許文献1の本文及び光反応材料データ編を始めとする資料等に記載されている市販品又は公知の反応性モノマー、オリゴマー、ポリマーを用いることができる。
【0038】
更に、ラジカル重合性化合物として、ビニルエーテル化合物を用いることも好ましい。好適に用いられるビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ヒドロキシエチルモノビニルエーテル、ヒドロキシノニルモノビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−o−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。ビニルエーテル化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0039】
本発明で併用可能な他の重合性化合物としては、(メタ)アクリル系モノマー又はプレポリマー、エポキシ系モノマー又はプレポリマー、ウレタン系モノマー又はプレポリマー等の(メタ)アクリル酸エステル(以下、適宜、アクリレート化合物と称する)も挙げることができる。
具体的には、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、エトキシ化フェニルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、ノニルフェノールエチレンオキシド付加物アクリレート、変性グリセリントリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、変性ビスフェノールAジアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物ジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートトリレンジイソシアナートウレタンプレポリマー、ラクトン変性可撓性アクリレート、ブトキシエチルアクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアナートウレタンプレポリマー、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアナートウレタンプレポリマー、ステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ラクトン変性アクリレート等が挙げられる。
【0040】
尚、重合開始剤と重合性化合物の選択に関しては、種々の目的に応じて、ラジカル重合性化合物とラジカル重合開始剤との組み合わせ以外にも、下記に示すようなカチオン重合性化合物とカチオン重合開始剤とを併用した、ラジカル・カチオンのハイブリッド型硬化インク組成物や、アニオン重合性化合物とアニオン重合開始剤とを併用したラジカル・アニオンハイブリッド型硬化インク組成物としてもよい。
カチオン重合性化合物としては、光酸発生剤から発生する酸により重合反応を開始し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、光カチオン重合性モノマーとして知られる各種公知のカチオン重合性モノマーを使用することができる。その例としては、非特許文献1などに記載されている各種エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。また、上記カチオン重合性化合物と併用するカチオン重合開始剤(光酸発生剤)としては、公知の各種材料を用いることができ、例えば、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどの芳香族オニウム化合物のB(C、PF、AsF、SbF、CFSO塩、スルホン酸を発生するスルホン化物、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物、鉄アレン錯体等が挙げられる。上記カチオン重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
アニオン重合性化合物としては、各種エポキシ化合物、ラクトン化合物、アクリル化合物、メタクリル化合物などを挙げることができるが、中でも、前記ラジカル重合性化合物として例示されたアクリル系化合物、メタクリル系化合物が好ましい。また、アニオン重合開始剤としては、いわゆる、光塩基発生剤を挙げることができ、オルトニトロベンジルカルバメート誘導体、オルトアシルオキシル誘導体、オルトカルバモイルオキシムアミジン誘導体などを挙げることができる。
【0042】
<増感剤>
本発明のインク組成物には、前記重合開始剤の活性光線照射による分解を促進させるために増感剤を添加することができる。増感剤は、特定の活性エネルギー線を吸収して電子励起状態となるものである。電子励起状態となった増感剤は、重合開始剤と接触して、電子移動、エネルギー移動、発熱などの作用を生じることにより、重合開始剤の化学変化(分解、ラジカル、酸又は塩基の生成)を促進させる。増感剤としては、重合開始剤に開始種を発生させる活性エネルギー線の波長に応じた化合物を使用すればよい。増感剤としては増感色素が好ましく、例えば以下のような、350〜450nm域に吸収波長を有するものを挙げることができる。
多核芳香族類(例えばピレン、ペリレン、トリフェニレン)、キサンテン類(例えば、フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガル)、シアニン類(例えばチアカルボシアニン、オキサカルボシアニン)、メロシアニン類(例えば、メロシアニン、カルボメロシアニン)、チアジン類(例えばチオニン、メチレンブルー、トルイジンブルー)、アクリジン類(例えばアクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビン)、アントラキノン類(例えばアントラキノン)、スクアリウム類(例えば、スクアリウム)、クマリン類(例えば、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン)
【0043】
<共増感剤>
本発明のインク組成物は、共増感剤を含有することもできる。共増感剤は、増感色素の活性エネルギー線に対する感度を一層向上させたり、酸素による重合性化合物の重合阻害を抑制する等の作用を有する。共増感剤の例としては、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ホルミルジメチルアニリン、p−メチルチオジメチルアニリン等のアミン系化合物、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−4(3H)−キナゾリン、β−メルカプトナフタレン等のチオール及びスルフィド類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
<その他の成分>
本発明のインク組成物には、必要に応じて、重合禁止剤、溶剤等のその他の成分を添加することができる。重合禁止剤は、インク組成物の保存性(保管安定性)を高める観点から添加する。また、本発明のインク組成物は、必要に応じて加熱し低粘度化して吐出することができ、その場合の熱重合によるヘッド詰まりを防ぐためにも重合禁止剤を添加することが好ましい。その例としては、ハイドロキノン、ベンゾキノン、p−メトキシフェノール、TEMPO、TEMPOL、クペロンAl等を挙げることができる。重合禁止剤の添加量は、インク組成物全量に対し、200〜20,000ppmが好ましい。
本発明のインク組成物は、活性エネルギー線硬化型インク組成物のため、溶剤を含まないことが好ましいが、硬化後のインクと記録媒体との接着性等の特性を向上させる目的で、インク組成物の硬化速度等に影響がない場合に限り、溶剤を含有させることもできる。溶剤としては有機溶剤や水が使用できる。有機溶剤の含有量は、インク組成物全体の重量に対し、0.1〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%の範囲である。
更に、必要に応じて、公知の添加剤である界面活性剤、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類等を、適宜選択して添加することができる。また、ポリオレフィンやPET等に対する接着性を改善するために、重合阻害のない粘着付与剤(タッキファイヤー)を含有させることも可能である。
【0045】
本発明のインク組成物の粘度は、インクジェット装置における吐出性を考慮し、吐出時の環境において、好ましくは7〜30mPa・s、より好ましくは7〜25mPa・sとする。この場合、必要に応じてインクを加熱することができ、その際の加熱温度によってインクの粘度を適切な範囲にコントロールすることが可能である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。尚、以下の例においては、「%」は「重量%」である。
調製したインク組成物は、本発明で用いる重合性化合物(モノマー)の効果をより明確にするため、着色剤を始めとする各種添加成分を含まない組成とした。
H−NMRは、JEOL製H−NMR(500MHz)を用いて測定し、IRは、PERKIN ELMER製FT−IR SpectrumGXを用いて測定した。
【0047】
〔合成例1〕
<2−アクリロキシエチルエチルスルホキシド(A−03)の合成>
酸化タングステン(IV)(0.20g)を蒸留水(80mL)中に加え、50%水酸化ナトリウム水溶液を数滴加えてpHを10〜11にした後、酢酸を数滴加えてpHを5〜6に調整し、次いで2−(エチルチオ)エタノール(12.74g,120mmol)を加えた。得られた混合物を約60℃に加熱し、30%過酸化水素水(13.54g,0.99eq)を系内温度が60〜67℃になるように冷却しながらゆっくりと滴下した。反応液のヨウ化カリウムでんぷん紙の反応が陰性であることを確認した後に濾過を行い、得られた濾液を減圧下で濃縮した。この濃縮物をアセトン(200mL)で抽出し、抽出物を減圧下で濃縮し、次いで、酢酸エチル(100mL)で抽出した。この抽出液を濾過後、減圧下で濃縮して、2−ヒドロキシエチルエチルスルホキシドを無色油状物(9.9g)として得た。収率は約68%。
次に、2−ヒドロキシエチルエチルスルホキシド(3.05g,25mmol)を脱水ジクロロメタン(70mL)中に加え、フラスコ内をアルゴンガスで置換した後、トリエチルアミン(3.64g,36mmol)を加えた。混合物を約−10℃に冷却した後、アクリル酸クロライド(2.72g,30mmol)を系内温度が、−10〜−5℃になるようにゆっくりと滴下し、その後、2時間室温下で攪拌した。析出物を濾過によって取り除き、濾液を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で濃縮して黄色油状物を得た。得られた油状物をカラムクロマトグラフィー(Wakogel C300 200g)により精製して、淡黄色油状物(3.8g)を得た。この淡黄色油状物は、下記H−NMR及びIRから2−アクリロキシエチルエチルスルホキシドであることが確認された。収率は約86%。
H−NMR(CDCl)δ1.37(t,3H),2.74−2.86(m,2H),2.93−2.99(m,1H),3.02−3.08(m,1H),4.54−4.59(m,1H),4.63−4.68(m,1H),5.89−5.91(dd,1H),6.11−6.17(m,1H),6.44−6.47(dd,1H)
IR(NaCl)3456,2982,2935,1740,1634,1455,1375,1319,1244,1144,1046,1021,942,808,644cm−1
【0048】
〔合成例2〕
<2−アクリロキシエチルエチルスルホン(C−03)の合成>
酸化タングステン(IV)(0.12g)を蒸留水(80mL)中に加え、50%水酸化ナトリウム水溶液を数滴加えてpHを10〜11にした後、酢酸を数滴加えてpHを5〜6に調整し、次いで、2−(エチルチオ)エタノール(4.43g,42mmol)を加えた。得られた混合物を約60℃に加熱し、30%過酸化水素水(4.7g,0.99eq)を系内温度が60〜65℃になるように冷却しながらゆっくりと滴下した。反応混合物を63℃で約1時間反応させ、反応液のヨウ化カリウムでんぷん紙の反応が陰性であることを確認した。次いで、反応混合物を約75℃に加熱した後、30%過酸化水素水(4.73g,1.0eq)をゆっくりと滴下した。反応混合物を約75℃で2.5時間反応させた後の反応液はヨウ化カリウムでんぷん紙の反応で陽性を示した。加熱を止め、反応液のヨウ化カリウムでんぷん紙の反応が陰性になるまで亜硫酸水素ナトリウムを加えた。反応液を濾過して不溶物を除去した後の濾液を減圧下で濃縮し、酢酸エチル(200mL)で抽出した。この抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で濃縮して2−ヒドロキシエチルエチルスルホンを無色油状物(5.7g)として得た。収率は約98%。
次に、2−ヒドロキシエチルエチルスルホン(3.45g,25mmol)を脱水ジクロロメタン(70mL)中に加え、フラスコ内をアルゴンガスで置換した後、トリエチルアミン(3.64g,36mmol)を加えた。混合物を約−10℃に冷却した後、アクリル酸クロライド(2.72g,30mmol)を系内温度が、−10〜−5℃になるようにゆっくりと滴下し、その後、2時間室温下で攪拌した。析出物を濾過によって取り除き、濾液を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で濃縮して茶色油状物を得た。得られた油状物を、カラムクロマトグラフィー(Wakogel C300 200g)により精製して、淡黄色油状物(3.3g)を得た。この淡黄色油状物は、下記H−NMR及びIRから、2−アクリロキシエチルエチルスルホンであることが確認された。収率は約69%。
H−NMR(CDCl)δ1.42(t,3H),3.08(q,2H),3.35(t,2H),4.61(t,2H),5.92−5.94(dd,1H),6.11−6.16(m,1H),6.45−6.48(dd,1H)
IR(NaCl)3617,2985,2945,1728,1635,1621,1459,1410,1317,1273,1187,1128,1075,985,809,789,730cm−1
【0049】
〔合成例3〕
<2−アクリロキシエチルメチルスルホン(C−01)の合成>
酸化タングステン(IV)(0.12g)を蒸留水(80mL)中に加え、50%水酸化ナトリウム水溶液を数滴加えてpHを10〜11にした後、酢酸を数滴加えてpHを5〜6に調整し、次いで、2−(メチルチオ)エタノール(3.87g,42mmol)を加えた。得られた混合物を約60℃に加熱し、30%過酸化水素水(4.7g,0.99eq)を系内温度が60〜65℃になるように冷却しながらゆっくりと滴下した。反応混合物を63℃で約1時間反応させ、反応液のヨウ化カリウムでんぷん紙の反応が陰性であることを確認した。次いで、反応混合物を約75℃に加熱した後、30%過酸化水素水(4.73g,1.0eq)をゆっくりと滴下した。反応混合物を約75℃で2.5時間反応させた後の反応液はヨウ化カリウムでんぷん紙の反応で陽性を示した。加熱を止め、反応液のヨウ化カリウムでんぷん紙の反応が陰性になるまで亜硫酸水素ナトリウムを加えた。反応液を濾過して不溶物を除去した後の濾液を減圧下で濃縮し、酢酸エチル(200mL)で抽出した。この抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で濃縮して2−ヒドロキシエチルメチルスルホンを無色油状物(4.90g)として得た。収率は約94%。
次に、2−ヒドロキシエチルメチルスルホン(6.21g,50mmol)を脱水ジクロロメタン(70mL)中に加え、フラスコ内をアルゴンガスで置換した後、トリエチルアミン(7.3g,72mmol)を加えた。混合物を約−10℃に冷却した後、アクリル酸クロライド(5.43g,60mmol)を系内温度が、−10〜−5℃になるようにゆっくりと滴下し、その後、2時間室温下で攪拌した。析出物を濾過によって取り除き、濾液を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で濃縮して茶色油状物を得た。得られた油状物をカラムクロマトグラフィー(Wakogel C300 200g)により精製して、淡黄色油状物(7.0g)を得た。この淡黄色油状物は、下記H−NMR及びIRから、2−アクリロキシエチルメチルスルホンであることが確認された。収率は約79%。
H−NMR(CDCl)δ3.00(s,3H),3.39(t,2H),4.63(t,2H)5.93−5.95(dd,1H),6.12−6.17(m,1H),6.45−6.49(dd,1H)
IR(NaCl)3016,2934,1728,1635,1621,1461,1410,1314,1295,1187,1132,1074,984,964,809,742,665cm−1
【0050】
〔合成例4〕
<2−メタクリロキシエチルエチルスルホキシド(B−03)の合成>
合成例1におけるアクリル酸クロライドの代りに、メタクリル酸クロライドを用いた点以外は、合成例1と同様にして淡黄色油状物を得た。この淡黄色油状物は、下記H−NMR及びIRから、2−メタクリロキシエチルエチルスルホキシドであることが確認された。収率は約56%。
H−NMR(CDCl)δ1.37(t,3H),1.96(s,3H),2.74−2.82(m,2H),2.95−2.99(m,1H),3.02−3.08(m,1H),4.52−4.58(m,1H),4.62−4.67(m,1H),5.61−5.64(m,1H),6.14−6.16(m,1H)
IR(NaCl)2977,2934,1721,1637,1455,1404,1377,1321,1297,1161,1055,1021,947,815,651cm−1
【0051】
〔合成例5〕
<2−メタクリロキシエチルメチルスルホン(D−01)の合成>
合成例3におけるアクリル酸クロライドの代りに、メタクリル酸クロライドを用いた点以外は、合成例3と同様にして淡黄色油状物を得た。この淡黄色油状物は、下記H−NMR及びIRから、2−メタクリロキシエチルメチルスルホンであることが確認された。収率は約85%。
H−NMR(CDCl)δ1.96(t,3H),3.00(s,3H),3.39(t,2H),4.62(t,2H),5.65−5.67(m,1H),6.13−6.15(m,1H)
IR(NaCl)2933,1722,1637,1455,1407,1315,1295,1165,1131,1068,1017,962,814,661cm−1
【0052】
〔合成例6〕
<ビス(2−アクリロキシエチル)スルホキシド(F−01)の合成>
酸化タングステン(IV)(0.12g)を蒸留水(80mL)中に加え、50%水酸化ナトリウム水溶液を数滴加えてpHを10〜11にした後、酢酸を数滴加えてpHを5〜6に調整し、次いで、2,2′−チオジエタノール(8.55g,70mmol)を加えた。得られた混合物を約60℃に加熱し、30%過酸化水素水(7.9g,0.99eq)を系内温度が60〜67℃になるように冷却しながらゆっくりと滴下した。反応液のヨウ化カリウムでんぷん紙の反応が陰性であることを確認した後に濾過を行い、得られた濾液を減圧下で濃縮した。この濃縮物にアセトン(200mL)を加えて洗浄し、アセトンに不溶の無色結晶(7.3g)をビス(2−ヒドロキシエチル)スルホキシドとして得た。収率は約76%。
次に、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホキシド(4.15g,30mmol)を脱水ジクロロメタン(70mL)中に加え、フラスコ内をアルゴンガスで置換した後、トリエチルアミン(8.74g,86mmol)を加えた。混合物を約−10℃に冷却した後、アクリル酸クロライド(6.52g,72mmol)を系内温度が、−10〜−5℃になるようにゆっくりと滴下し、その後、2時間室温下で攪拌した。析出物を濾過によって取り除き、濾液を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で濃縮して茶色油状物を得た。得られた油状物をカラムクロマトグラフィー(Wakogel C300 200g)により精製して淡黄色油状物(5.0g)得た。この淡黄色油状物は、下記H−NMR及びIRから、ビス(2−アクリロキシエチル)スルホキシドであることが確認された。収率は約68%
H−NMR(CDCl)δ3.04−3.10(m,2H),3.12−3.19(m,2H),4.54−4.61(m,2H),4.65−4.70(m,2H),5.89−5.92(dd,2H),6.11−6.17(m,2H),6.43−6.48(dd,2H)
IR(NaCl)3442,2961,1726,1635,1620,1455,1409,1297,1269,1189,1046,986,810cm−1
【0053】
〔合成例7〕
<ビス(2−アクリロキシエチル)スルホン(H−01)の合成>
酸化タングステン(IV)(0.16g)を蒸留水(100mL)中に加え、50%水酸化ナトリウム水溶液を数滴加えてpHを10〜11にした後、酢酸を数滴加えてpHを5〜6に調整し、次いで、2,2′−チオジエタノール(12.2g,100mmol)を加えた。得られた混合物を約60℃に加熱し、30%過酸化水素水(11.28g,0.99eq)を系内温度が60〜65℃になるように冷却しながらゆっくりと滴下した。反応混合物を63℃で約1時間反応させ、反応液のヨウ化カリウムでんぷん紙の反応が陰性であることを確認した。次いで、反応混合物を約75℃に加熱した後、30%過酸化水素水(11.34g,1.0eq)をゆっくりと滴下した。反応混合物を約75℃で2.5時間反応させた後の反応液はヨウ化カリウムでんぷん紙の反応で陽性を示した。加熱を止め、反応液のヨウ化カリウムでんぷん紙の反応が陰性になるまで亜硫酸水素ナトリウムを加えた。反応液を濾過して不溶物を除去した後の濾液を減圧下で濃縮し、アセトン(200ml)で抽出した。この抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で濃縮して、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンを無色油状物(15.0g)として得た。収率は約97%。
次に、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン(3.75g,25mmol)を脱水ジクロロメタン(70mL)中に加え、フラスコ内をアルゴンガスで置換した後、トリエチルアミン(7.29g,72mmol)を加えた。混合物を約−10℃に冷却した後、アクリル酸クロライド(5.43g,60mmol)を系内温度が、−10〜−5℃になるようにゆっくりと滴下し、その後、2時間室温下で攪拌した。析出物を濾過によって取り除き、濾液を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で濃縮して茶色油状物を得た。得られた油状物をカラムクロマトグラフィー(Wakogel C300 200g)により精製して、淡黄色油状物(3.9g)得た。この淡黄色油状物は、下記H−NMR及びIRから、ビス(2−アクリロキシエチル)スルホンであることが確認された。収率は約59%。
H−NMR(CDCl)δ3.45(t,4H),4.62(t,4H),5.91−5.94(dd,2H),6.11−6.17(m,2H),6.43−6.47(dd,2H)
IR(NaCl)2990,2937,1728,1635,1621,1457,1411,1323,1296,1271,1184,1127,1072,984,809,723cm−1
【0054】
〔参考合成例1〕
<2−アクリロキシエチルエチルスルフィド(参考例1)の合成>
合成例1における2−ヒドロキシエチルエチルスルホキシドの代りに、2−(エチルチオ)エタノールを用いた点以外は、合成例1と同様にして無色油状物を得た。この無色油状物は、下記H−NMR及びIRから、下記〔化14〕に示す2−アクリロキシエチルエチルスルフィドであることが確認された。収率は約83%。
H−NMR(CDCl)δ1.28(t,3H),2.61(q,2H),2.80(t,2H),4.32(t,2H),5.84−5.87(dd,2H),6.11−6.16(m,2H),6.41−6.45(dd,2H)
IR(NaCl)2967,2929,1727,1636,1620,1454,1407,1297,1269,1183,1056,983,810,666cm−1
【化14】

【0055】
〔参考合成例2〕
<2−メタクリロキシエチルエチルスルフィド(参考例2)の合成>
参考合成例1におけるアクリル酸クロライドの代りに、メタクリル酸クロライドを用いた点以外は、参考合成例1と同様にして無色油状物を得た。この無色油状物は、下記H−NMR及びIRから、下記〔化15〕に示す2−メタクリロキシエチルエチルスルフィドであることが確認された。収率は約82%。
H−NMR(CDCl)δ1.28(t,3H),1.95−1.96(dd,3H),2.61(q,2H),2.80(t,2H),4.31(t,2H),5.58−5.59(m,1H),6.12−6.13(m,1H)
IR(NaCl)2965,2929,1785,1719,1637,1453,1404,1376,1320,1296,1160,1049,1011,975,942,814,653cm−1
【化15】

【0056】
実施例1〜7、比較例1〜3
モノマー化合物(表1記載の化合物)を950mg、重合開始剤2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン(チバジャパン製IRGACURE−907)を50mgの比率で混合したものをマグネティックスターラーで混合して評価用試料を調製した。
これらの試料について、以下のようにして、光重合反応性、光硬化性及びインク組成物の臭気を評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
<光重合反応性評価>
SII製DSC−7020とHAYASHI WATCH−WORKS製スポット光源(LA−410UV)を組み合わせた測定装置(以下、Photo−DSCという)を用いて、評価用試料の光重合反応性評価を実施した。尚、照射光には波長365nmの光を用い、光量は200mW/cmとした。
光照射後に進行する重合反応に伴う発熱量をPhoto−DSCで測定したが、モノマー化合物の重合反応が終了するのに十分な時間光照射した場合の発熱量の測定を、一つの試料に対して二度繰り返して実施した。一回目の測定で得られる発熱量は、モノマー化合物の重合反応に伴う発熱量に加えて、光照射に伴う発熱量も含んでいる。そこで、一回目の測定で重合反応が終了している試料に対して、同じ条件で再度光照射を行ってモノマーの重合反応熱以外の発熱量を測定した。そして、一回目と二回目の発熱量の差から、モノマー化合物の重合反応に伴う発熱量を得た。
この発熱特性において、光照射開始から最大発熱量に到達するまでの時間をT1(sec.)として、光重合反応の速さを比較する指標とした。
【0058】
<光硬化性評価>
REOLOGICA製粘弾性測定装置VAR200ADと浜松ホトニクス製LED光源(LIGHTNINGCURE LC−L1)を組み合わせた測定装置(以下、Photoレオメーター)を用いて評価用試料の光重合による硬化性の評価を実施した。
測定は、φ20mmコーンプレートを用いて10μmのギャップに試料を挟み、LEDを光源とする光(365nm、50mW/cm)を照射して、硬化に伴う粘弾性の変化を測定し、弾性率(Pa)が飽和した点で硬化終了とした。測定結果から弾性率の到達点を求め硬化レベルの指標とした。通常、1×10(Pa)のレベルで十分硬化しているレベルにあると言える。また、弾性率が飽和するまでに照射された光エネルギー(硬化エネルギー)は、照射光強度(ここでは、50mW/cm)と光を照射した時間(sec.)の積によって算出される。
【0059】
<臭気評価>
評価用試料(インク組成物)の臭いを嗅いだときの不快感を次の基準で評価した。
〔判定基準〕
○:臭いをほとんど感じず不快ではない。
×:特有の悪臭により不快感が生じる。
△:○と△の中間
【0060】
【表1】

【0061】
表1から分かるように、実施例1〜7のインクは、光硬化性における硬化後の弾性率が高く、光硬化性に優れる(光によってしっかりと固まる)とともに、臭気の問題もないことから、実用性に優れるものである。特に、実施例2及び5〜7のインクは、硬化に必要な光エネルギー(硬化エネルギー)が小さく、少ないエネルギーでしっかりと硬化でき、中でも実施例5、7が優れている。一方、光重合反応性については、実施例2〜7のインクはT1(sec.)が小さく、光照射時のモノマーの重合反応が速く進行することから、未反応モノマーが残りにくい点で優れている。
このような視点で比較例を見ると、比較例1〜3はいずれも不快な臭気を有し実用に適さない。更に、比較例1では、光重合反応性に優れるものの、重合反応後の硬化物は弾性率が低く硬化不十分である。また、比較例2では、重合反応後も全く硬化しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0062】
【特許文献1】特開2007−231231号公報
【特許文献2】特開2007−231233号公報
【特許文献3】特開2009−67926号公報
【特許文献4】特開2009−144057号公報
【特許文献5】特開2006−160824号公報
【特許文献6】特開2009−127030号公報
【特許文献7】特開2009−197126号公報
【特許文献8】特許第4576989号公報
【特許文献9】特開2008−230216号公報
【特許文献10】特開2008−303260号公報
【非特許文献】
【0063】
【非特許文献1】光応用技術・材料事典(光応用技術・材料事典編集員会編 株式会社産業技術サービスセンター 2006年発行)
【非特許文献2】最新 UV硬化樹脂の最適化(株式会社 技術情報協会 2008年発行)
【非特許文献3】Journal of Polymer Science:PartA:Polymer Chemistry,Vol.31,2365−2371(1993)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)下記式(1)〜(3)で表される、(メタ)アクリル酸とエステル又はアミドを形成している残基がスルホキシド基又はスルホン基を1個以上有し、片末端又は両末端にアクリル酸由来のビニル基を有する(メタ)アクリル酸のエステル又はアミドモノマーから選ばれた少なくとも1種、及び、(II)重合開始剤、を含むことを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。
【化16】

〔式(1)〜(3)中、Xはアルキル基、Yはアルキレン基、Wはアルキレン基である。但し、硫黄同士が直接結合する場合には、Wは存在しない。Zは酸素原子又は−NR2−(R2は水素原子又はアルキル基)で表わされる基であり、R1は水素原子又はアルキル基である。mは1又は2である。〕
【請求項2】
前記式(1)〜(3)におけるmが2であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項3】
前記式(1)のモノマーにおけるXが炭素数1〜4のアルキル基であることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項4】
前記式(1)のモノマーが下記式(4)で表わされるものであることを特徴とする請求項3記載のインクジェット記録用インク組成物。
【化17】

【請求項5】
前記式(3)のモノマーが下記式(5)で表わされるものであることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録用インク組成物。
【化18】


【公開番号】特開2012−233025(P2012−233025A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100457(P2011−100457)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】