説明

インクジェット記録用シート

【課題】基材シートとして、印刷適性がよく、且つ、例えば、耐水性かつ透明なものを使用し、印刷後、粘着剤層を介して床面に貼付施工したとき、床面を印刷画像で装飾でき、且つ床にこぼれた水などが印刷物層の周縁端面に接しても、画像のにじみやインク受容層界面における剥離が生じないインク受容層を有するインクジェット記録用シートを提供する。
【解決手段】インク受容層が、ポリウレタン系樹脂40〜70質量%、その他の水不溶性樹脂60〜30質量%を含む水不溶性樹脂55〜75質量部と、ポリビニルアルコール及び/又はその変性物30〜70質量%及びポリビニルピロリドン70〜30質量%から成る水溶性樹脂25〜45質量部とを合わせた100質量部と、無機質顔料50〜100質量部と、水溶性マグネシウム塩(無水塩換算)2〜20質量部から構成され、基材シートとインク受容層との界面にアンカーコート層を介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性が優れたインクジェット記録用シートに関し、詳しくは、耐水性基材表面に印刷適性と耐水性が優れたインク受容層を積層したインクジェット記録用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方式は、染料または顔料からなる色材を含有する水性インクの微小液滴をノズルから記録用シートの表面に噴射し、記録用シート表面にモノクロ又はカラーの画像を高速に印画する方式である。インクジェット記録に使用されているインクは水系インクと非水系インクとに大別されるが、通常、安全性、記録特性の観点から、水を主成分とし、それに少量のアルコール等が加えられた水性インクが使用されている。このような事情から従来インクジェット記録に使用される記録材料には、紙やプラスチックフイルムの表面に、インク溶液微粒子を受容するインク受容層を設けてなるものが使用されている。
【0003】
上記の受容層として、インク受容層にインクが付着したり、記録材料を湿度の高いところや乾燥したときに発生する膨張、収縮等によるカールを改良するために、疎水性樹脂と顔料を含むインク受容層を設けるもの(特許文献1)、一般的な汎用の材料を使用し、かさ高でかつ吸油、吸水性の高い塗工吸収層を提供するため吸収層の塗工液に使用する溶媒としてバインダーの良溶媒と貧溶媒との混合溶媒であって、かつ良溶媒の沸点が貧溶媒の沸点より低いものを使用するもの(特許文献2)、インク吸収性を阻害せずに耐水性を改良する方法として印字直後のラミネートする際の塗膜のインクによる膨潤速度とインクの定着性が両立することのできる新規な構成として、基材シート上にインクジェット方式による印字画像を記録するためのインク受容層が設けられてなる記録シートにおいて、該インク受容層が、ポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンと、ポリビニルアルコールを選択的に架橋する架橋剤と、ポリビニルアルコールポリエステル共重合体と、カチオン樹脂とを含有することを特徴とする記録用シート(特許文献3)等が提案されている。
【特許文献1】特開平08−258411号公報
【特許文献2】特開平08−230174号公報
【特許文献3】特開2001−113818号公報
【0004】
上記の各提案は、一般的用途のためのインクジェット記録材料を作製する場合の改良方法であるが、例えば、画像をインクジェット記録した印刷物の表面に、何らかの方法で裏面に粘着層を付与し、あるいは、印刷物の表面に両面粘着シートを貼り合わせ、これらの粘着剤層を介して床面に貼付施工したとき、床清掃時などに床にこぼれ流れる水が印刷物の周縁断面に接してインク受容層に水が浸透して画像がにじんだり、貼り合わせた床面を歩行する際の刺激によりインク受容層近辺で剥離して表面の基材シート部がめくれあがったりすることが多々ある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を克服し、インクジェット記録用シートの印刷性がおよび耐久性を改良することを目的とし、詳しくは、インク受容層に画像をインクジェット記録したときの印刷適性がよく、且つ、基材シートとして耐水性かつ透明な基材を使用し、インク受容層に印刷後、その印刷表面に例えば両面粘着シートなどの粘着剤層を介して床面に貼付施工して床面装飾用として使用するとき、床清掃時などに床にこぼれた水が印刷物の周縁断面に接しても水がインク受容層内部に実質的に浸透して行かず(耐水性)、さらに貼り付けたインクジェット記録材料のインク受容層近辺で剥離して表面の基材シートがめくれあがったりしないインクジェット記録用シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、基材シート層上にインク受容層が設けられて成るインクジェット記録用シートにおいて、インク受容層がアンカー層を介して基材シート層表面に積層され、当該受容層が、ポリウレタン系樹脂40〜70質量%およびその他の水不溶性樹脂60〜30質量%を含む水不溶性樹脂55〜75質量部と、ポリビニルアルコール及び/又はその変性物30〜70質量%及びポリビニルピロリドン70〜30質量%を含む水溶性樹脂25〜45質量部とを合わせた樹脂100質量部に対して、無機質顔料50〜100質量部と、水溶性マグネシウム塩(無水塩換算)2〜20質量部とを含有して構成されていることを特徴とするインクジェット記録用シートに存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット記録用シートは、インク受容層がアンカー層を介して基材シート層表面に積層され、当該受容層は画像をインクジェット印刷により記録するときの印刷適性がよく、且つ、基材シートとして耐水性かつ透明な基材を使用し、インク受容層に印刷後、その印刷表面に例えば両面粘着シートなどの粘着剤層を介して床面に貼付施工して床面装飾用として使用するとき、床清掃時などに床にこぼれた水が印刷物の周縁断面に接しても水がインク受容層内部に実質的に浸透して行かず(耐水性)、インク受容層近辺で剥離して表面の基材シートがめくれあがったりすることがない。この耐水性がある理由は定かではないが、両耐水性層に挟まれたインク受容層の周縁端面部のPVA等が水を吸収して自ら膨潤すると共に、PVA等が併存する水不溶性のポリウレタン系樹脂成分との相互作用によりPVA等が変質して水がさらに浸透していくのを抑制しているものと想像される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のインクジェット記録用シートは、基材シートの表面側にアンカー層を介してインク受容層が形成されて成る。
【0009】
(基材シート)
上記の基材シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン及びポリカーボネート等のフィルム、これらの発泡体フィルム、あるいは、これらに炭酸カルシウム又は酸化チタン等の顔料やパール顔料を含有させたフィルム等のプラスチックフイルム類、パルプ紙類、合成紙類、不織布類、織物類、およびそれらの表面にさらに他の皮膜層が形成されたものが挙げられる。
【0010】
上記基材シートの厚さは、印刷機に供給して印刷操作が可能なものであれば特に限定されず、印刷機の機能によっては可撓性が無いもの、厚さが2mm以上の厚いものであってもよいが、通常、25〜1000μmであり、実用的には50〜250μmである。また、上記基材シート表面には、その表面に形成されるインク受容層との接着性を改善するために、必要により、コロナ放電加工を施したり、後述のアンカー層との接着性を改善するために易接着層を設けたものを使用することができる。
【0011】
なお、本発明のインクジェット記録用シートに反転画像を印刷した後、当該印刷面に接着剤層を介して物体の表面に貼り付けて物体表面を装飾する場合は基材シートとして透明なものが使用され、特に、耐水性床面に貼付施工して床面装飾用に使用する場合は、基材シートとして耐水性かつ透明なものが使用され、さらに、インク受容層を積層する面の反対の面(歩行面となる面)にハードコート処理を施したものが好ましい。これらの基材シートは、高光沢タイプでもよいし艶消しタイプでもよいが、高光沢タイプの方が画像の鮮やかさ、コントラスト等をよりよく強調できる。上記のハードコート処理した基材シートの市販品としては、床材専用として開発されたポリエステルフィルムにハードコート層を塗布したレイハイパーVC01、VN01(商品名、東京中井商事株式会社発売元)が挙げられる。
【0012】
(アンカー層)
前記のアンカー層を構成する接着剤としては、使用される基材シート及び後述のインク受容層と接着性があり且つガラス転移温度が通常35℃以下のものであればそれを構成する素材には特に制限されない。かかる接着剤としては、例えば、溶剤系ポリウレタン系樹脂、水性ポリエステルポリウレタン系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、ポリエーテルウレタン系樹脂などを主剤とした接着剤を挙げることが出来、中でもポリウレタン系樹脂とイソシアネート系硬化剤とから成る接着剤が好適に使用できる。
【0013】
上記のアンカー層は、上記の基材シートと画像を記録するインク受容層との間に介在する層である。このアンカー層を介在させないで構成されたインクジェット記録シートに好みの画像を印刷して床面等に貼り付け、表面層となる基材シート層上を歩行したとき、その刺激により端縁部から表面層である基材シート層が剥離しめくれ上がり易いという現象がある。本発明のインクジェット記録シートを構成するインク受容層は、後述の通り樹脂成分の配合率が高く、容易に層間剥離しない強度を有している。この点を考慮して、上記の剥離現象をよく観察すると、剥離箇所は必ずしもインク受容層の層間あるいはインク受容層と基材シートとの界面に限らず、時には基材シートの層間剥離の場合も多い。この剥離し易い原因は理論的には明確ではないが、基材シート層とインク受容層との間の熱収縮応力差に基づく内部歪みが内在しているところに、その表面を歩行したときの刺激応力が重なって遂に端縁部で基材シートが剥離し、めくれ上がるものと推察される。そして、本発明においては、上記のアンカー層を介在させることにより、アンカー層の柔らかさにより基材シート層とインク受容層との熱収縮応力の差が緩和されて内部歪みが解消され、その表面の歩行による刺激だけでは基材シート層の剥離、めくれ上がりに至らなくなったのではないかと推察される。
そして、さらに、このアンカー層を介在させることにより、理論的には解明できていないが、この表面に形成されるインク受容層の層構造および表面平滑性が改善され、インクの吸収性が向上するという予想外の効果が得られ、剥離防止と印刷性向上の二つの効果を得ることが出来た。
【0014】
上記のインク受容層は、水不溶性樹脂、水溶性樹脂、無機質顔料、水溶性マグネシウム塩を含有するインクジェット受容層塗布液を上記の基材シート面に塗布し、乾燥して形成される。
【0015】
上記の水不溶性樹脂は、ウレタン系樹脂とその他の水不溶性樹脂とから成り、インク受容層を構成する水溶性樹脂と水不溶性樹脂との合計100質量部の全樹脂分の内55〜75質量部、好ましくは60〜70質量部が配合され、それぞれインクジェット受容層塗布液に対しては水性エマルジョンの形態で配合される。
【0016】
上記のポリウレタン系樹脂は、水溶性樹脂として併用される後述のポリビニルアルコール及び/又はその変成物(以下、PVA等と略記する)との相互作用によりPVA等を変質させてインク受容層のインク浸透性を改良するために併用される。上記の水性ポリウレタン系樹脂エマルジョンとしては、特に限定されないが、中でも分子中にポリカーボネート鎖を含有するポリウレタン系樹脂エマルジョン、分子中にポリカーボネート鎖とポリエステル鎖とを含有するポリウレタン系樹脂エマルジョン、および分子中にポリカーボネート鎖とスルホン酸基とを含有するポリウレタン系樹脂エマルジョンが好適に挙げられる。これらのポリウレタン系樹脂エマルジョンは、熟成なしに実用性がある被膜を形成することができる。かかるポリウレタン系エマルジョンは、形成される被膜強度や耐水性の問題から、乳化剤含有量のできるだけ少ないものを選定するのが好ましい。
【0017】
上記の各ポリウレタン系樹脂エマルジョンは、公知の製造法にて製造することができる。すなわち、具体的には、例えば、ポリカーボネート鎖を含むポリウレタン系樹脂エマルジョンは、ポリカーボネート鎖を含むポリオール(以下ポリカーボネートポリオールという)とジイソシアネートとを溶剤中で反応させ、その後、エマルジョン化することにより製造することができる。
【0018】
例えば、分子中にポリカーボネート鎖とポリエステル鎖とを含有するポリウレタン系樹脂エマルジョンは、ポリカーボネート鎖を含むポリオール(以下ポリカーボネートポリオールという)と、ポリエステル鎖を有するポリオール(以下ポリエステルポリオールという)と、ジイソシアネートとを溶剤中で反応させ、その後、エマルジョン化することにより製造する方法、あるいは、まず、ポリカーボネートポリオールとジイソシアネートとを溶剤中で反応させ、その後、
エマルジョン化したものとポリエステルポリオールとジイソシアネートとを溶剤中で反応させ、その後、 エマルジョン化したものとを混合することにより製造する方法を採用することができる。
【0019】
また、分子中にポリカーボネート鎖とスルホン酸基とを含有するポリウレタン系樹脂エマルジョンは、ポリカーボネート鎖を含むポリオール(以下ポリカーボネートポリオールという)と、スルホン酸基を有するジオール、ジアミン、ジイソシアネート等と、ジイソシアネートとを溶剤中で反応させ、その後、エマルジョン化することにより製造することができる。
【0020】
上記のポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,4ーブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等のグリコールとジフェニールカーボネート、ホスゲンとの反応によって得られる化合物が挙げられる。これらを単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0021】
上記のジイソシアネートとしては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2'−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、3,3'−ジクロロ−4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンテトラメチレンキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられ、それぞれ単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
上記のジイソシアネートのうち、安定性と耐光性等の点から脂肪族ジイソシアネートが好ましい。かかる脂肪族ジイソシアネートとしては、上記で掲げたジイソシアネートのうち、脂肪族ジイソシアネートに属するものがそのまま使用できる。
【0023】
上記のポリエステルポリオールとしては、アルコール類と酸成分とから脱水縮合反応によって得られるポリエステル、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応によって得られるポリエステル及びこれらの共重合ポリエステル等が挙げられる。
【0024】
上記のポリエステルポリオールを製造するのに使用されるアルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン及びそれらのアルキレンオキサイド付加体等のグリコール成分が挙げられる。
【0025】
また、上記のポリエステルポリオールを製造するのに使用される酸成分としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p'−ジカルボン酸及びこれらジカルボン酸の無水物あるいはエステル形成性誘導体;p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸及びこれらのヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
【0026】
前記のポリウレタン系樹脂エマルジョンを製造するのに使用するポリオールとしては、上記ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールの他に、これら以外のポリオールを使用することができる。上記以外のポリオールとしては、例えばアルキレンオキサイド鎖を有するポリオールがある。アルキレンオキサイド鎖とは、代表的なものとしてエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ビスフェノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられ、これら単独又は2種以上組み合わされていてもよい。アルキレンオキサイド鎖の含有量に特に制限はないが、一般には他のポリオール成分と併用することで、皮膜の機械的強度が実用レベルになる。
【0027】
上記の分子中にポリカーボネート鎖を含有するポリウレタン系樹脂エマルジョンの市販品としては、例えば大日本インキ化学工業(株)製の「パテラコール」、「ボンディック」(商品名)、「ハイドラン」(商品名)やバイエル社製の「インプラニール」(商品名)等が挙げられる。
【0028】
上記のポリウレタン系樹脂エマルジョンの平均粒子径は、樹脂エマルジョンの透明性や安定性や耐水性の点から、3μm以下であるのが好ましい。また、上記のポリウレタン系樹脂は、前記の全水不溶性樹脂の中で、固形分として、通常40〜70質量%、好ましくは50〜60質量%となるように配合される。40質量%未満では、PVA等との相互作用によるインク受容層の水浸透性を十分に抑制することができない。また、70質量%を超える場合は、PVA等の変質が過度になってインク受容層の吸水性が低下し、印刷後のインクが表面に残って色写りが生じ易い。
【0029】
前記のその他の水不溶性樹脂としては、例えば、アクリルまたはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ブチラール系樹脂、アルキッド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン/アクリル系樹脂などが挙げられ、中でもインク受容層の皮膜強度及び発色性の点で、酢酸ビニル系樹脂が好ましく、重合度が300〜10000のものが特に好ましい。
【0030】
上記の酢酸ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸ジエステル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体及び酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0031】
上記のその他の耐水性樹脂を配合する水性エマルジョンの平均粒子径は、樹脂エマルジョンの透明性や安定性や耐水性の点から、3μm以下とすることが好ましい。粒子径が3μmを超えると、耐水性や安定性、透明性、印刷光沢等が若干劣る傾向がある。また、かかるその他の水不溶性樹脂は、全水不溶性樹脂の中で30〜60質量%、好ましくは、40〜50質量%となるように配合される。
【0032】
前記の水溶性樹脂は、ポリビニルピロリドン(以下、PVPと略記する)とポリビニルアルコール及び/又はその変成物(以下、PVA等と略記する)とから成り、インク受容層を構成する水溶性樹脂と水不溶性樹脂の合計100質量部の樹脂分の内25〜45質量%、好ましくは30〜40質量%が配合される。上記のPVP及びPVA等は、共に親水性樹脂であり、その内、PVPは、きわめて優れたインク液吸収性を有しており、インクジェットヘッドから放出されるインクを素早く且つ大量に吸収する役割を担っている。また、PVA等は、吸水性であり且つインク受容層の結着剤としての役割を担っているが、本発明においては、さらに、本発明のインクジェット記録用シートに印刷後、例えば、その表面に両面粘着シート貼り合わせ等により形成した粘着剤層を介して耐水性床面に貼付施工したときのように両面が耐水性層に挟まれたとき現れるインク受容層の周縁断面部ではPVA等が水を吸収して自ら膨潤し、併用される水不溶性のポリウレタン系樹脂との相互作用により変質して、水がインク受容層のさらに中央部に浸透するのを実質的に遮断し、インク受容層の画像のにじみやインク受容層界面における剥離が生じない、という効果を呈する。
【0033】
上記のPVPは、通常、上記の水溶性樹脂の内30〜70質量%配合され、好ましくは40〜60質量%である。30質量%未満では、インク受容層のインクの吸収性が不十分であり、70質量%を超える場合は、PVA等の割合が低下して、併用されるウレタン系樹脂との相互作用によるインクジェット受容層の水浸透性を十分に抑制できない。また、前記のPVA等としては、吸水性と共に端部水浸透防止性があるものが使用され、具体的には、PVAの他、カチオン化PVA、カルボキシル基導入PVA等の変性PVAであっても良く、また、部分ケン化PVAと完全ケン化PVAのいずれをも使用可能であるが完全ケン化PVAが好ましい。その際、PVAなどの質量平均重合度は、十分な耐水性を発揮するために、1000以上、好ましくは1500以上である。かかるPVA等は、水溶性樹脂の中で30〜70質量%であり、好ましくは40〜60質量%である。
【0034】
前記の無機質顔料としては、例えば、カオリン、タルク、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、合成スメクタイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの顔料が挙げられ、通常、シリカが汎用されるが、中でも粒径が比較的大きく多孔質である合成非晶質シリカが特に好ましく、粒径が1μm程度以下の気相法シリカの場合は、高価で、且つ分散が困難なため特殊な微粒子用分散装置が必要であり工程が複雑となる。これらの無機質顔料は、2種以上併用することができる。特に、調製される塗布液中の無機質顔料を分散処理する際に同じく無機質顔料の一つでもある炭酸カルシウム微粒子を共存させておくのが好ましい。
【0035】
上記の無機質顔料の粒径は、通常、平均粒径は6〜10μmであり、好ましくは6〜9μmである。中でも、その粒子群の粒度分布が広いものが好ましく、例えば粒径6μm以下の粒子(小粒子)を20質量%以上、粒径10μm以上の粒子(大粒子)を20質量%以上含むものが好ましい。かかる分布は、例えば平均粒径が6μm以下の粒子群と平均粒径が10μm以上の粒子群を配合することにより構成することができる。上記の大粒子が20質量%未満ではインクの吸収性が不十分であり、小粒子が20質量%未満では、大粒子が多いことになるため、端部水浸透防止性が低下する。かかる大粒子および小粒子は、例えば合成非晶質シリカの場合、上記の大粒子はミズカシルP78D(平均粒度12μm、水澤化学工業株式会社製商品)が、また、上記の小粒子はサイリシア435(平均流度4μm、富士シリシア化学株式会社製商品)が、それぞれ市販されている。なお、かかる顔料は、そのインクのにじみ防止効果を向上するため、上記のサイリシア435ように表面をマグネシウムイオン処理したものがより好ましい。上記の無機質顔料は、前記の水溶性樹脂および水不溶性樹脂を合わせた100質量部に対して、通常、50〜100質量部、好ましくは60〜90質量部が配合される。
【0036】
前記の水溶性マグネシウム塩は、インク受容層のインクのにじみ防止特性をより一層改善するために添加される。かかるマグネシウム塩としては、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、乳酸マグネシウムおよび酢酸マグネシウムを挙げることができるが、中でも硝酸マグネシウム及び/又は塩化マグネシウムが好適に使用できる。上記の水溶性マグネシウム塩の配合比は、前記の水溶性樹脂および水不溶性樹脂を合わせた100質量部に対して、無水塩換算で通常、2〜20質量部、実用的には、3〜15質量部である。
【0037】
前記のインク受容層塗布液は、前記の水不溶性樹脂(水性ポリウレタン系樹脂エマルジョン及びその他の水不溶性樹脂エマルジョン)、水溶性樹脂(PVP及びPVA等)、無機質顔料および水溶性マグネシウム塩を水系溶媒に溶解および/または分散させて得られる。上記の塗布液の濃度は、特に限定されないが、通常、固形分濃度として10〜30質量%、実用的には12〜25質量%とされる。
【0038】
上記の水系溶媒は、主成分が水であり、配合する成分に応じて適宜有機溶媒を配合する。かかる有機溶媒としては、特に制限されないが、工程の環境への配慮から、例えばメタノール、イソプロピルアルコール等の有機溶媒が好適に使用される。かかる有機溶媒の種類および配合比は、添加する樹脂成分の種類および添加量により適宜設定される。
【0039】
上記のインキ受容層塗布液の調製の際、PVA等の内、比較的難溶性のものは、他の成分と配合する前に、それぞれ別途よく溶媒に溶解しておくのが好ましい。また、合成非晶質シリカなどの無機質顔料は、同様に、インキ受容層塗布液に配合する前に、水系溶媒に添加してホモミキサーなどを使用してよく十分分散しておくのが好ましい。この際、分散した無機質顔料は、経時的に沈降しやすく、一旦沈降すると再度攪拌して分散させても好ましい分散状態に回復するのが困難である。かかる沈降現象は特にPVPやPVA等の濃度が低い場合に生じやすい。かかる無機質顔料の分散安定性を改良するため、前述のように、上記の無機質顔料を分散処理する際に同じく無機質顔料の一つでもある炭酸カルシウム微粒子を共存させておくのが好ましい。かかる炭酸カルシウム微粒子の添加量は、調製されるインク受容層塗布液全体の固形分に対して15質量%以下で十分であり、通常3〜10質量%である。
【0040】
上記のインキ受容層塗布液には、必要に応じて、本発明の趣旨に反しない範囲で、その他の顔料分散剤、無機及び合成樹脂のビーズ、着色顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤などの他の添加剤を適宜添加することが出来る。
【0041】
上記のインキ受容層塗布液を基材シート表面に塗布する方法は、公知の方法で行うことができるが、例えば、バーコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ファンテンリバースコーター、スプレーコーター、カーテンコーター、Eバーコーター及びコンマコーター等により実施することができる。このようにして塗布される塗布量は、乾燥後の厚さとして、通常、15〜40μm、実用的には20〜30μmである。
【0042】
また、上記のインキ受容層塗布液を乾燥する方法は、基材が熱劣化等の支障をきたさず、有機溶剤が十分に蒸発し、皮膜が形成される条件であれば、どのような乾燥方法も用いることができるが、例えば、熱風乾燥炉や乾燥ドラム等を用いることができる。かかる熱風の温度としては、例えば、80〜120℃である。
【0043】
以上のようにして得られる本発明のインクジェット記録用シートは、そのままインクジェットプリンタに供して印刷処理することにより、印刷性および耐水性が優れた印刷物を作成することができるが、その印刷物を、床材と積層して画像模様付き床材を製造するのに使用される場合など、上記のインク受容層に両面粘着シートの接合などによりアクリル系などの粘着剤層を形成する場合は、その粘着剤との接着性を改良するために、上記のインク受容層の表面に、オーバーコート層を形成するのが好ましい。かかるオーバーコート層を形成する塗布樹脂液成分としては、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブチレン・スチレン、アクリル系カチオン、アクリルウレタン、ニトリルゴム・フェノール樹脂などが挙げられ、市販品としては、サフトマー(商品名、綜研化学株式会社製)、ビニロール(商品名、昭和高分子株式会社製)などが挙げられる。
【0044】
上記のオーバーコート層は、上記の塗布成分を適切な有機溶媒に溶解して1〜5質量%の希薄な塗布液とし、これをインク受容層の表面に塗布し、乾燥して形成される。上記の有機溶媒は、塗布成分がビニロール2400の場合は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びダイアセトンアルコールの混合溶媒が使用される。上記の塗布液の塗布量は、乾燥後の塗布量として、通常、0.05〜0.5g/m、実用的には、0.1〜0.2g/mとされる。
【0045】
本発明のインクジェット記録用シートに印刷して得られた印刷物を床材などに貼り付けるのに使用される接着剤層を構成する接着剤は、耐水性のものであれば特に制限されないが、前記のオーバーコート層形成用塗布液成分として上記のニトリルゴム・フェノール樹脂を使用した場合は、接着剤として市販のアクリル系粘着剤が好適に使用できる。上記の粘着剤層は、前記の印刷面に粘着剤を塗布して形成することも出来るが、印刷面に両面粘着シートを貼り付けて形成するのが実用的である。かかる両面粘着シートは、通常、芯材シートの両面に粘着剤層を形成したものであるが、離型紙面上に粘着剤層を形成したものでもよく、さらに、熱硬化性樹脂接着剤シートであっても良い。なお、上記の芯材シートは、基材シートが透明な場合、基材シート側から画像を透視して見る場合の印刷画像の背景層ともなる層となるため、印刷画像を鮮明で高コントラストで表示するには、芯材シートとして白色基材シートを使用するのが好ましい。かかる白色基材シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートに酸化チタンなどの白色顔料を練り込むなどして成膜した白色PETフィルムが好ましい。市販品としては、ルミラー50E20、ルミラー75E20(商品名、東レ株式会社製)が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を、実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定するものではない。なお、以下の例中の部および%はそれぞれ質量部および質量%を示す。また、実施例および比較例で得られたインクジェット記録用シートについて、表面粗さRz(十点平均粗さ)、乾燥後ハンドピール強度、水浸漬後ハンドピール強度、水浸漬後爪剥離強度を、以下の方法で評価した。なお、印刷処理は、ミマキ社製インクジェットプリンタ(JV22−130型)に当該プリンタ用純正の水性顔料インクを使用して行った。
【0047】
(表面粗さ)
オーバーコート層を形成したインクジェット記録用シートの表面について、JIS 94号に準じて、表面粗さ計(SE1700α、株式会社小坂研究所製)を使用し、カットオフ条件をλ=0.8mmとしてRzの値を測定し、3試料の測定値の平均値を評価結果とした。
【0048】
(乾燥後ハンドピール強度)
オーバーコート層を形成したインクジェット記録用シートを100℃で20分乾燥した後、厚さ50μmの白色基材(商品名:ルミラー50E20、東レ株式会社製)にアクリル系粘着剤(名称:オリバインBPS、東洋インキ製造株式会社製)を各面にそれぞれ厚さ25μmとなるように塗布した両面粘着シートを、ロール式ラミネーターにて貼合(ロール温度は室温、圧力は4kgf/cm、速度は1m/min)し、25mm×150mmに裁断する。これを24時間後にハンドピール(操作法:インクジェット記録用シートの基材層と白色基材層の間に意図的に剥離口を設けた後、両層をそれぞれ左および右の指先でつまみ、強制的に剥離する)にて剥がし、剥がれ具合を次の5段階に区分評価した。
その評価基準を以下に示す。
1段階:抵抗なく簡単に剥がれる。
2段階:全面積の1/2以上が抵抗感なく簡単に剥がれる。
3段階:全面積の1/2〜1/5が抵抗感なく簡単に剥がれる。
4段階:一部に弱い部分はあるが、全体として剥がすのに粘着剤による抵抗がある。
5段階:剥がすのに、全面積に粘着剤の抵抗がある。
【0049】
(水浸漬後爪剥離強度・・5段階評価):
オーバーコート層を形成したインクジェット記録用シートを100℃20分乾燥した後、白色基材にアクリル系粘着剤を両面塗布した両面粘着シートをラミネーターにて貼合(ロール温度室温、圧力4kgf/cm、速度1m/min)し、25mm×130mmに裁断する。これを24時間後に65mm×150mm、厚さ3mmのアクリル板に貼り付け、深さ30mmになるよう25℃の水を張ったバット中に浸漬する。24時間放置した後、取り出して紙ウェスにて表面の水分を軽く吸い取った後、かど部を人差し指の爪先で引っ掻き、その時のインクジェット記録用シートの剥がれやすさを5段階に区分して評価した。
その評価基準を以下に示す。
1段階:水浸漬中に全体が剥がれてしまっている。
2段階:爪で周縁部が10mm以上剥がれる。
3段階:爪で周縁部が10mm未満剥がれる。
4段階:爪が周縁部に3mm以下しか入らない。
5段階:爪が周縁部に1mm以下しか入らない。
【0050】
(水浸漬後ハンドピール強度)
前述の水浸漬後爪剥離強度評価後のサンプルをハンドピールにて剥がし、剥がれ具合を5段階評価した。評価基準は上述の乾燥後ハンドピール強度と同様とした。
【0051】
(インク吸収時間)
評価すべきインクジェット記録用シートに、インクジェットプリンタ(JV22−130型、株式会社ミマキエンジニアリング製)を使用し、この印刷機に専用のシアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの4色のインクを使用して、200%(ブラック100% + イエロー100%)のベタ部を、解像度720×720ドット、8パス、片道印刷条件で印刷し、印刷後、1分毎に新しい白色PETルミラー50E20(商品名、東レ株式会社製)シート片を押し当て、当該白色PETに上記の印刷インキが転写汚染しなくなる迄の時間をインク吸収時間(分)とした。
【0052】
(シリカ微粒子分散液Aの調製)
先ず、イオン交換水155部とIPA(イソプロピルアルコール)18部からなる混合溶媒に、平均粒度が12μmの合成非晶質シリカ微粒子(ミズカシルP78D、水澤化学工業株式会社製)20部、平均粒度が4μmの表面をマグネシウムイオン処理した合成非晶質シリカ微粒子(商品名:サイリシア435、富士シリシア化学株式会社製)20部および平均粒径1.5μmの炭酸カルシウム6部を投入し、ホモミキサーを用いて6000rpmで10分間分散処理した。次いで、IPAの31部を追加して、さらにホモミキサーを用いて6000rpmで10分間分散し、シリカ微粒子分散液Aを得た。
【0053】
(アンカー層用塗布液Aの調製)
ニッポラン2301(商品名、溶剤系ポリウレタン系樹脂、ガラス転移温度:30℃、NV=40質量%、日本ポリウレタン工業株式会社製)10質量部を混合有機溶媒(メチルエチルケトン/トルエン=2/1)21.80質量部に溶解し、これにアクリル系ビーズ(商品名:エポスターMA1002、株式会社日本触媒製)0.04質量部を添加し、よく攪拌してビーズを均等に分散させ、アンカー層用塗布液Aを得た。
【0054】
(アンカー層用塗布液Bの調製)
ニッポラン2301(商品名、溶剤系ポリウレタン系樹脂、ガラス転移温度:30℃、NV=40質量%、日本ポリウレタン工業株式会社製)10質量部を混合有機溶媒(メチルエチルケトン/トルエン=2/1)21.8質量部に溶解し、これにイソシアネート系硬化剤(商品名:コロネートHL、NV=75質量%、日本ポリウレタン工業株式会社製)0.27質量部を溶解し、よく攪拌後にさらにアクリル系ビーズ(商品名:エポスターMA1002、株式会社日本触媒製)0.04質量部を添加し、よく攪拌してビーズを均等に分散させ、アンカー層用塗布液Bを得た。
【0055】
(アンカー層用塗布液Cの調製)
ニッポラン2304(商品名、溶剤系ポリウレタン系樹脂、ガラス転移温度:−23℃、NV=35質量%、日本ポリウレタン工業株式会社製)10質量部を混合有機溶媒(メチルエチルケトン/トルエン=2/1)19.0質量部に溶解し、これにイソシアネート系硬化剤(商品名:コロネートHL、NV=75質量%、日本ポリウレタン工業株式会社製)0.23質量部を溶解し、よく攪拌後にさらにアクリル系ビーズ(商品名:エポスターMA1002、株式会社日本触媒製)0.04質量部を添加し、よく攪拌してビーズを均等に分散させ、アンカー層用塗布液Cを得た。
【0056】
(アンカー層用塗布液Dの調製)
MELUSI−5022(商品名、水性ポリエステルポリウレタン系樹脂、ガラス転移温度:−20〜−30℃、NV=50質量%、トーヨーポリマー株式会社製)10質量部とSBU−0772S(商品名、イソシアネート系硬化剤、NV=75質量%、住化バイエルウレタン株式会社製)0.33質量部とを水に分散溶解し、よく攪拌後にさらにアクリル樹脂系ビーズ(商品名:エポスターMA1002、株式会社日本触媒製)0.05質量部を添加し、よく攪拌してビーズを均等に分散させ、NVが20質量%のアンカー層用塗布液Dを得た。
【0057】
(アンカー層用塗布液Eの調製)
ポリゾールAM3000(商品名、エチレン酢酸ビニル系樹脂、ガラス転移温度:9℃、NV=56質量%、昭和高分子株式会社製)10質量部とSBU−0772S(商品名、イソシアネート系硬化剤、NV=75質量%、住化バイエルウレタン株式会社製)0.37質量部とを水に分散溶解し、よく攪拌後にさらにアクリル樹脂系ビーズ(商品名:MA1002、株式会社日本触媒製)0.06質量部を添加し、よく攪拌してビーズを均等に分散させ、NVが20質量%のアンカー層用塗布液Eを得た。
【0058】
(アンカー層用塗布液Fの調製)
バイロンUR1350(商品名、溶剤系ポリウレタン系樹脂、ガラス転移温度:46℃、NV=40質量%、東洋紡績株式会社製)10質量部を混合有機溶媒(メチルエチルケトン/トルエン=2/1)21.80質量部に溶解し、これにイソシアネート系硬化剤(商品名:コロネートHL、NV=75質量%、日本ポリウレタン工業株式会社製)0.27質量部を溶解し、これにアクリル系ビーズ(商品名:エポスターMA1002、株式会社日本触媒製)0.04質量部を添加し、よく攪拌してビーズを均等に分散させ、アンカー層用塗布液Fを得た。
【0059】
[実施例1]
(インク受容層用塗布液Aの調製)
上記のシリカ微粒子分散液A300部に、ルビテックK90(商品名、ポリビニルピロリドン20%水溶液、BASF社製)を75部、NM−14(商品名、PVA、日本合成化学工業株式会社製)の10%水溶液を250部、パテラコールIJ−26(商品名、大日本インキ株式会社製、水性ポリウレタン系樹脂エマルジョン固形分15%)を270部、ポリゾールAM3000(商品名、エチレン酢酸ビニルの56%水溶液、昭和高分子株式会社製)を35部、硝酸マグネシウムの20%(無水塩換算)水溶液を40部添加し、さらにホモミキサーを用いて6000rpmで10分間分散して固形分が約15質量%のインク受容層用塗布液Aを得た。
【0060】
(アンカーコート層の形成)
基材シートとして、厚さ100μmのポリエステルフィルムの片面にハードコート処理したレイハイパーVC01(商品名、東京中井商事株式会社発売元)の非ハードコート処理面に、前記のアンカー層用塗布液Aを0.1mmのワイヤーを捲いたメイヤーバーを使用して上記のアンカー層用塗布液を、乾燥後の塗布量が1.7g/mとなるように塗布し、100℃の熱風中で30秒間乾燥してアンカー層を形成した。
【0061】
上記のアンカー層を形成した基材シートのアンカー層の表面に、1.8mmのワイヤーを捲いたメイヤーバーを使用して上記のインク受容層用塗布液Aを燥後の厚さが25μmとなるように塗布し、110℃の熱風中で3分間乾燥して受容層とし、本発明のインク受容層を得た。
【0062】
(オーバーコート層の形成)
別に、メチルエチルケトン55部、メチルイソブチルケトン55部およびダイアセトンアルコール55部の混合溶媒中に、ビニロール2400の40部を添加して溶解し、オーバーコート層塗布液を得た。
【0063】
上記のインクジェット記録用シートの受容層の表面に、実施例1の場合と同様乾燥後の塗布量が0.5g/mとなるように塗布し、100℃の熱風中で30秒間乾燥してオーバーコート塗布層を形成し、本発明のインクジェット記録用シートを得た。得られたインクジェット記録用シートについて、前記の評価方法により、表面粗さ、乾燥後ハンドピール強度、水浸漬後爪剥離強度、水浸漬後ハンドピール強度、インク乾燥時間について評価し、その結果をアンカー層、受容層の主な成分組成と共に表1に示した。
【0064】
[実施例2]
実施例1において、アンカーコート層として前記のアンカーコート層用塗布液Bを使用したこと以外は実施例1と全く同様にして本発明のインクジェット記録用シートを得た。得られたインクジェット記録用シートについて、前記の評価方法により、表面粗さ、乾燥後ハンドピール強度、水浸漬後爪剥離強度、水浸漬後ハンドピール強度、インク乾燥時間について評価し、その結果をアンカー層、受容層の主な成分組成と共に表1に示した。
【0065】
[実施例3]
実施例1において、アンカーコート層として前記のアンカーコート層用塗布液Cを使用したこと以外は実施例1と全く同様にして本発明のインクジェット記録用シートを得た。得られたインクジェット記録用シートについて、前記の評価方法により、表面粗さ、乾燥後ハンドピール強度、水浸漬後爪剥離強度、水浸漬後ハンドピール強度、インク乾燥時間について評価し、その結果をアンカー層、受容層の主な成分組成と共に表1に示した。
【0066】
[実施例4]
実施例1において、アンカーコート層として前記のアンカーコート層用塗布液Dを使用したこと以外は実施例1と全く同様にして本発明のインクジェット記録用シートを得た。得られたインクジェット記録用シートについて、前記の評価方法により、表面粗さ、乾燥後ハンドピール強度、水浸漬後爪剥離強度、水浸漬後ハンドピール強度、インク乾燥時間について評価し、その結果をアンカー層、受容層の主な成分組成と共に表1に示した。
【0067】
[実施例5]
実施例1において、アンカーコート層として前記のアンカーコート層用塗布液Eを使用したこと以外は実施例1と全く同様にして本発明のインクジェット記録用シートを得た。得られたインクジェット記録用シートについて、前記の評価方法により、表面粗さ、乾燥後ハンドピール強度、水浸漬後爪剥離強度、水浸漬後ハンドピール強度、インク乾燥時間について評価し、その結果をアンカー層、受容層の主な成分組成と共に表1に示した。
【0068】
[比較例1]
実施例1において、アンカーコート層を設けなかった他は、実施例1と全く同様にして本発明のインクジェット記録用シートを得た。得られたインクジェット記録用シートについて、前記の評価方法により、表面粗さ、乾燥後ハンドピール強度、水浸漬後爪剥離強度、水浸漬後ハンドピール強度、インク吸収時間について評価し、その結果をアンカー層、受容層の主な成分組成と共に表1に示した。
【0069】
[比較例2]
(インク受容層用塗布液Bの調製)
上記のシリカ微粒子分散液375部に、ルビテックK90(商品名、ポリビニルピロリドン20%水溶液)を100部、PVA235(商品名、PVA変性物、クラレ株式会社製)の8%水溶液を188部、パテラコールIJ−26(商品名、大日本インキ株式会社製、水性ポリウレタン系樹脂エマルジョン固形分15%)を270部、ポリゾールAM3000(商品名、エチレン酢酸ビニルの56%水溶液、昭和高分子株式会社製)を50部、塩化マグネシウムの20%(無水塩換算)水溶液を50部およびメタノール67%水溶液を40部添加し、さらにホモミキサーを用いて6000rpmで10分間分散して固形分が約16.2%のインク受容層用塗布液Bを得た。
【0070】
基材シートとして、厚さ100μmのポリエステルフィルムの片面にハードコート処理したレイハイパーVC01(商品名、東京中井商事株式会社発売元)の非ハードコート処理面に、1.8mmのワイヤーを捲いたメイヤーバーを使用して上記のインク受容層用塗布液Bを燥後の厚さが25μmとなるように塗布し、110℃の熱風中で3分間乾燥して受容層とし、本発明のインク受容層を得た。
【0071】
(オーバーコート層塗布液の調製)
別に、メチルエチルケトン55部、メチルイソブチルケトン55部およびジアセチルアセトン55部の混合溶媒中に、ビニロール2400の40部を添加して溶解し、オーバーコート層塗布液を得た。
【0072】
上記のオーバーコート層塗布液を0.1mmのワイヤーを捲いたメイヤーバーを使用して上記のインクジェット記録用シートの受容層の表面に、乾燥後の塗布量が0.5g/mとなるように塗布し、100℃の熱風中で乾燥してオーバーコート層を形成し、本発明のインクジェット記録用シートを得た。
【0073】
得られたインクジェット記録用シートについて、前記の評価方法により、表面粗さ、乾燥後ハンドピール強度、水浸漬後爪剥離強度、水浸漬後ハンドピール強度、インク吸収時間について評価し、その結果を受容層の主な構成要素と共に表1に示した。
【0074】
[比較例3]
実施例1のアンカー層用塗布液Aを前記のアンカー層用塗布液Fに変更した以外は実施例1の場合と全く同様にして本発明のインクジェット記録用シートを得た。得られたインクジェット記録用シートについて、前記の評価方法により、表面粗さ、乾燥後ハンドピール強度、水浸漬後爪剥離強度、水浸漬後ハンドピール強度、インク吸収時間について評価し、その結果を受容層の主な構成要素と共に表1に示した。
【0075】
【表1】

【0076】
(実施例等の結果の考察)
上記の表1の結果から明らかなように、実施例1〜5の各実施例は、インク受容層と基材シート層との間に、ガラス転移温度が35℃以下の樹脂を主成分としたアンカー層を介在させたものであり、いずれも、基材シートとインク受容層との間のピール強度(剥離し難さ)が乾燥状態および水浸漬後も優れ、しかも印刷後のインクの吸収性が優れている(吸収時間が短い)。これに対して、比較例1は、アンカー層が無いものであり、ピール強度が弱く、しかもインク吸収性も劣っている。比較例2は、比較例1のインク吸収性を改善するために合成シリカ等の無機質粒子の配合を増量したものであり、インク吸収性は改善されたがピール強度はさらに低下している。比較例3は実施例1〜3と同様にアンカー層を介在させたが、使用した主剤樹脂のガラス転移温度が高いためピール強度およびインク吸収性は比較例1と大差なかった。すなわち、ガラス転移温度が35℃以下の樹脂を主成分としたアンカー層を介在させることにより、ピール強度と、さらに予期せざるインク吸収性が改良されたことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のインクジェット記録用シートは、基材シート層表面にアンカー層を介してインク受容層が設けられて成り、このインク受容層に画像をインクジェット印刷により記録するときは印刷適性が優れており、さらに、基材シートとして耐水性かつ透明な基材シートを使用し、その印刷物の表面に例えば両面粘着シート貼り合わせ等により形成した粘着剤層を介して耐水性床面に貼付施工したとき、表面側となる基材層シートを経て鮮明な画像を表示でき、しかも、床にこぼれた水や床清掃時の水などがこの印刷物の周縁端面に接しても、インク受容層の端部水浸透防止性が優れているため、画像のにじみやインク受容層界面における剥離は生じない。特に基材シートとインク受容層との界面にアンカーコート層を介在させることにより、貼り付け周縁部からのめくれ上がりやすい現象を抑制することができる。さらに印刷時のインク吸収時間がほぼ半減するという効果も発現し、印刷工程の高速化にも寄与する事が出来る。
これにより画像による床面の装飾、あるいは広告媒体としての利用が可能であり、耐水性の床面を幅広く装飾して生活環境を夢あるものにすることができ、産業上の利用可能性は大である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1のインクジェット記録用シートの層構成の説明図
【図2】実施例1のインクジェット記録用シートを、両面粘着シートを介して床材表面に貼り付けた場合の層構成の説明図
【符号の説明】
【0079】
1:ハードコート層
2:基材シート
3:インク受容層
4:オーバーコート層
5:両面粘着シートの粘着剤層
6:両面粘着シートの芯材シート層
7:両面粘着シートの粘着剤層
8:床材





【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート層表面にインク受容層が設けられて成るインクジェット記録用シートにおいて、インク受容層がアンカー層を介して基材シート層表面に積層され、当該受容層が、ポリウレタン系樹脂40〜70質量%およびその他の水不溶性樹脂60〜30質量%を含む水不溶性樹脂55〜75質量部と、ポリビニルアルコール及び/又はその変性物30〜70質量%及びポリビニルピロリドン70〜30質量%を含む水溶性樹脂25〜45質量部とを合わせた樹脂100質量部に対して、無機質顔料50〜100質量部と、水溶性マグネシウム塩(無水塩換算)2〜20質量部とを含有して構成されていることを特徴とするインクジェット記録用シート。

【請求項2】
基材シートが耐水性かつ透明であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用シート。

【請求項3】
基材シートの裏面がハードコート処理されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録用シート。

【請求項4】
アンカー層を構成する接着剤がポリウレタン系接着剤であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のインクジェット記録用シート。

【請求項5】
ポリウレタン系接着剤のガラス転移温度(Tg)が35℃以下であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載のインクジェット記録用シート。

【請求項6】
無機質顔料が主に合成非晶質シリカから成ることを特徴とする請求項1から5までのいずれか一つに記載のインクジェット記録用シート。

【請求項7】
無機質顔料が炭酸カルシウム微粒子3〜15質量部を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のインクジェット記録用シート。

【請求項8】
水溶性マグネシウム塩が塩化マグネシウム及び/又は硝酸マグネシウムであることを特徴とする請求項1から7までのいずれか一つに記載のインクジェット記録用シート。

【請求項9】
インク受容層中のポリウレタン系樹脂が分子中にポリカーボネート鎖を含有するポリウレタン系樹脂エマルジョンであることを特徴とする請求項1から8までのいずれか一つに記載のインクジェット記録用シート。

【請求項10】
インク受容層の表面に水不溶性樹脂を主成分とする塗布液を塗布・乾燥してオーバーコート層を形成して成ることを特徴とする請求項1から9までのいずれか一つに記載のインクジェット記録用シート。

【請求項11】
基材シートが透明である記録用シートのインク受容層に反転画像を印刷した後、当該印刷面に接着剤層を介して物体の表面に貼り付けて物体表面を装飾することを特徴とする請求項1から10までのいずれか一つに記載のインクジェット記録用シートの使用方法。

【請求項12】
請求項1から11までのいずれか一つに記載のインクジェット記録用シートと、当該インクジェット記録用シートを印刷後にその表面に積層して粘着性を付与する両面粘着シートとのキット。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−160746(P2007−160746A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360845(P2005−360845)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(591145335)パナック株式会社 (29)
【Fターム(参考)】