説明

インクジェット記録用水分散体の製造方法

【課題】吐出信頼性に優れたインクジェット記録用水分散体の製造方法、及びその方法で得られた水分散体を含有する吐出信頼性に優れた水系インクを提供する。
【解決手段】(1)25℃での粘度(A)が1〜50mPa・sであるアニオン性着色粒子を含有する水分散液と二酸化炭素ガスとを混合し、25℃での粘度(B)が100mPa・s以上である増粘物を得る工程(I)、得られた増粘物と水とを混合する工程(II)、得られた混合物を分散処理する工程(III)を有するインクジェット記録用水分散体の製造方法、及び(2)その方法で得られた水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出信頼性に優れたインクジェット記録用水分散体の製造方法、及びその方法で得られた水分散体を含有する水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
インクジェット記録に使用されるインクとしては、耐水性や耐候性の観点から、近年、顔料を水に分散させた顔料系インクが主に使用されている。
【0003】
特許文献1には、貯蔵安定性、光沢性等の向上を目的として、カルボキシ基に基づく酸価が30〜120の樹脂と顔料からなり、酸性化合物でpHを中性又は酸性にして樹脂を析出させて顔料に固着する工程によって得られる含水ケーキを、塩基性化合物を用いてカルボキシ基を中和することにより水性媒体中に分散させる特定の平均粒子径を有する水性顔料分散体の製造方法が開示されている。
特許文献2には、経時的な気泡発生によるカスレ防止、腐食防止を目的として、着色剤、増粘剤、水を含有する水性インキ中に、窒素、希ガス等の一種の気体又は大気と異なる組成の気体混合物をインキ中に溶解させるインキの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−31360号公報
【特許文献2】特開2004−352917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
顔料等の水に不溶な分散性色材を用いたインクをインクジェット用に用いると、インクジェットプリンターの吐出ノズル部分が微細であるため、吐出ノズル部分に乾燥等による付着物が残留し易く、目詰まり等の吐出不良が生じ易いという問題がある。
本発明は、吐出信頼性に優れたインクジェット記録用水分散体の製造方法、及びその方法で得られた水分散体を含有する水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、顔料等の水に不溶な分散性色材を用いたインクで十分な吐出信頼性が得られ難い原因は、十分に分散剤が吸着していない色材や粒径の非常に小さい色材等のインクの乾燥により凝集し易い不安定な粒子にあると考え、検討を行った。その結果、アニオン性着色粒子を含有する水分散液と二酸化炭素ガスを混合し、分散することで、吐出信頼性を向上させることができることを見出した。
すなわち、本発明は、次の(1)〜(2)を提供する。
(1)下記工程(I)〜(III)を有するインクジェット記録用水分散体の製造方法。
工程(I):25℃での粘度(A)が1〜50mPa・sであるアニオン性着色粒子を含有する水分散液と二酸化炭素ガスとを混合し、25℃での粘度(B)が100mPa・s以上である増粘物を得る工程
工程(II):工程(I)で得られた増粘物と水とを混合する工程
工程(III):工程(II)で得られた混合物を分散処理する工程
(2)前記(1)の方法で得られた水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、吐出信頼性に優れたインクジェット記録用水分散体を効率的に製造することができる。この水分散体を含有する水系インクは吐出信頼性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のインクジェット記録用水分散体の製造方法は、下記工程(I)〜(III)を有することを特徴とする。
工程(I):25℃での粘度(A)が1〜50mPa・sであるアニオン性着色粒子を含有する水分散液と二酸化炭素ガスとを混合し、25℃での粘度(B)が100mPa・s以上である増粘物を得る工程
工程(II):工程(I)で得られた増粘物と水とを混合する工程
工程(III):工程(II)で得られた混合物を分散処理する工程
本発明の製造方法により得られる水分散体及びそれを含有する水系インクが吐出信頼性に優れる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
アニオン性着色粒子を含有する水分散液を二酸化炭素ガスで処理して、水分散液のpHを低下させると、水分散液中でのアニオン性着色粒子の分散状態がやや不安定になり、水分散液中の粒子のうち、十分に分散剤が吸着していない色材や粒径の非常に小さい色材等の不安定な粒子のみが安定な状態を保とうとして選択的に強く凝集する。この凝集物を分散することで、不安定な部分は解砕されずに安定に分散できる部分のみが解砕され、再度水系媒体に分散するため、得られた水分散体及びそれを含有する水系インクは、吐出信頼性に優れるものと考えられる。
二酸化炭素ガスは、水分散体との混合時に水分散体を急激に不安定化させ過ぎて、必要以上に粒子を凝集させ過ぎることもなく、また分散工程の前に除去されるので、インクに悪影響を与える無機物のような不純物を残留させることもなく、吐出信頼性を向上させるものと考えられる。これに対して、酸性物質として例えば塩酸水溶液等を用いると、塩酸水溶液等の滴下時に、水分散体中に酸性物質の濃厚領域が生まれ、その領域で全ての粒子が強固に凝集してしまい、その後十分に分散できないものと考えられ、吐出信頼性を向上させることができないため、好ましくない。
以下、本発明に用いられる各成分及び工程等について説明する。
【0009】
[アニオン性着色粒子]
本発明に用いられるアニオン性着色粒子は、着色剤を含むアニオン性の粒子であれば特に制限はない。例えば、(i)顔料等の着色剤のみからなる粒子、(ii)着色剤がアニオン性界面活性剤で分散されてなる粒子、(iii)着色剤がアニオン性高分子分散剤で分散されてなる粒子、(iv)着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子等を包含する。
インク中での分散安定性、及びインクの印字濃度を向上させる観点から、着色剤が顔料であるアニオン性顔料粒子が好ましく、(iv)着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子がより好ましく、顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子であることが更に好ましい。また、(iv)着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子は、着色剤を含有するアニオン性架橋ポリマー粒子であってもよく、後述するように、例えば、着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子を含む水分散体に架橋剤を添加して、着色剤を含有するアニオン性架橋ポリマー粒子の水分散体の形態として得ることができる。
【0010】
なお、本明細書において、「アニオン性」とは、未中和の化合物等を、純水に分散又は溶解させた場合、pHが7未満となること、又は化合物等が純水に不溶であり、pHが明確に測定できない場合には、純水に分散させた分散体のゼータ電位が負となることをいう。
アニオン性着色粒子の平均粒径は、インクの印字濃度の観点から、好ましくは30〜300nm、より好ましくは40〜200nm、更に好ましくは50〜150nm、特に好ましくは60〜90nmである。なお、平均粒径は、実施例記載の方法により測定される。
【0011】
(着色剤)
アニオン性着色粒子に用いられる着色剤としては、特に制限はなく、顔料、疎水性染料等を用いることができるが、印字濃度の観点から、顔料及び疎水性染料が好ましく、顔料がより好ましい。
顔料及び疎水性染料は、水分散体及び水系インクに使用する場合には、界面活性剤、ポリマーを用いて、水分散体及び水系インク中で安定な微粒子にすることが好ましい。特に、耐滲み性、耐水性等の観点から、ポリマーの粒子中に顔料及び/又は疎水性染料を含有させることが好ましい。
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0012】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、赤色有機顔料、黄色有機顔料、青色有機顔料、オレンジ有機顔料、グリーン有機顔料等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料を用いることができる。
キナクリドン固溶体顔料は、β型、γ型等の無置換キナクリドンと、2,9−ジクロルキナクリドン、3,10−ジクロルキナクリドン、4,11−ジクロルキナクリドン等のジクロロキナクリドンからなる。キナクリドン固溶体顔料としては、無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19)と2,9−ジクロルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド202)との組合せからなる固溶体顔料が好ましい。
【0013】
本発明においては、自己分散型顔料を用いることもできる。自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である無機顔料や有機顔料を意味する。
疎水性染料は、ポリマー粒子中に含有させることができるものであればよく、その種類には特に制限がない。疎水性染料は、ポリマー中に効率よく染料を含有させる観点から、ポリマーの製造時に使用する有機溶媒(好ましくメチルエチルケトン)に対して、2g/L以上、好ましくは20〜500g/L(25℃)溶解するものが望ましい。
疎水性染料としては、油溶性染料、分散染料等が挙げられ、これらの中では油溶性染料が好ましい。油溶性染料としては、例えば、C.I.ソルベント・ブラック、C.I.ソルベント・イエロー、C.I.ソルベント・レッド、C.I.ソルベント・バイオレット、C.I.ソルベント・ブルー、C.I.ソルベント・グリーン、及びC.I.ソルベント・オレンジからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられ、オリヱント化学株式会社、BASF社等から市販されている。
上記の着色剤は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0014】
[着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子]
(アニオン性ポリマー)
着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子(以下、「着色剤含有ポリマー粒子」ともいう)に用いられるアニオン性ポリマーとしては、水分散体及び水系インクの印字濃度向上の観点から、水不溶性ポリマーであることが好ましい。ここで、水不溶性ポリマーとは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量は、5g以下であることが好ましく、1g以下であることがより好ましい。その溶解量は、該ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
用いるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、水分散体の保存安定性の観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0015】
アニオン性ビニル系ポリマーとしては、(a)アニオン性モノマー(以下「(a)成分」ともいう)と、(b)疎水性モノマー(以下「(b)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位を有する。なかでも、更に(c)マクロマー(以下「(c)成分」ともいう)由来の構成単位を含有するものが好ましい。
【0016】
〔(a)アニオン性モノマー〕
(a)アニオン性モノマーは、着色剤含有ポリマー粒子を水分散体及び水系インク中で安定に分散させるために、アニオン性ポリマーのモノマー成分として用いられる。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体及び水系インク中での分散安定性の観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0017】
〔(b)疎水性モノマー〕
(b)疎水性モノマーは、ポリマーの顔料への吸着を強め、水系インクの吐出信頼性を高める観点から、アニオン性ポリマーのモノマー成分として用いられる。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0018】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましく、これらを併用することも好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
〔(c)マクロマー〕
(c)マクロマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500〜100,000の化合物であり、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体及び水系インク中での保存安定性の観点から、アニオン性ポリマーのモノマー成分として用いられる。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。(b)マクロマーの数平均分子量は500〜100,000が好ましく、1,000〜10,000がより好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(c)マクロマーとしては、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体及び水系インク中での分散安定性の観点から、芳香族基含有モノマー系マクロマー及びシリコーン系マクロマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b)疎水性モノマーで記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0019】
〔(d)ノニオン性モノマー〕
モノマー混合物には、更に、(d)ノニオン性モノマー(以下「(d)成分」ともいう)が含有されていることが好ましい。
(d)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでもポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレートがより好ましい。
商業的に入手しうる(d)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(a)〜(d)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
ビニル系ポリマー製造時における、上記(a)〜(d)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はビニル系ポリマー中における(a)〜(d)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、着色剤含有ポリマー粒子を水分散体及び水系インク中で安定に分散させる観点から、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは4〜30重量%、特に好ましくは5〜25重量%である。
(b)成分の含有量は、水分散体及び水系インクの印字濃度向上の観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜80重量%である。
(c)成分の含有量は、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体及び水系インク中での分散安定性の観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
(d)成分の含有量は、水分散体及び水系インクの分散性を高める観点から、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは15〜50重量%である。
また、〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の重量比は、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体及び水系インク中での分散安定性及び水分散体及び水系インクの印字濃度の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0021】
(アニオン性ポリマーの製造)
前記アニオン性ポリマーは、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましく、重合連鎖移動剤としては、2−メルカプトエタノールが好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50〜80℃が好ましく、重合時間は1〜20時間であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
本発明で用いられるアニオン性ポリマーの重量平均分子量は、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体及び水系インク中での分散安定性の観点から、5,000〜50万が好ましく、1万〜40万がより好ましく、1万〜30万が更に好ましく、2万〜30万が特に好ましい。なお、ポリマーの重量平均分子量は、実施例で示す方法により測定される。
【0022】
[着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子の製造]
着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子(着色剤含有ポリマー粒子)は、下記の工程(1)及び(2)を有する方法により、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体として効率的に製造することができる。
また、水分散体及び水系インクの保存安定性の観点から、下記の工程(3)を行うことより、着色剤を含有するアニオン性架橋ポリマー粒子(以下、「着色剤含有架橋ポリマー粒子」ともいう)としてもよい。
工程(1):アニオン性ポリマー、有機溶媒、着色剤、及び水を含有する混合物を分散処理して、着色剤含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた分散体に架橋剤を添加して、着色剤含有架橋ポリマー粒子の水分散体を得る工程
【0023】
工程(1)
工程(1)では、まず、アニオン性ポリマーを有機溶媒に溶解させてポリマーの有機溶媒溶液を得、この有機溶媒溶液に、着色剤、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。アニオン性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、中和剤、水、着色剤の順に加えることが好ましい。該ポリマーの有機溶媒溶液は、前記ポリマーの重合で得られたポリマー溶液をそのまま、あるいは更に有機溶媒で希釈したものを用いてもよい。
混合物中、着色剤は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましく、アニオン性ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%がより好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましい。
前記アニオン性ポリマーの量に対する着色剤の量の重量比〔着色剤/アニオン性ポリマー〕は、着色剤含有ポリマー粒子の分散安定性の観点から、50/50〜90/10であることが好ましく、70/30〜85/15であることがより好ましい。
中和剤を用いる場合、pHが7〜11であるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、アニオン性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
アニオン性ポリマーを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、メチルエチルケトンが好ましい。アニオン性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0024】
工程(1)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけで着色剤含有ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、着色剤含有ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程(1)の分散における温度は、0〜50℃が好ましく、0〜35℃がより好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、2〜25時間がより好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置、なかでも高速撹拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics 社、商品名)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、着色剤含有ポリマー粒子を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
得られた水分散体から、粗大粒子を除去するため、透析、限外濾過等の膜処理、遠心分離処理、ゲル濾過処理等を行うことが好ましく、効率と費用の観点から、遠心分離処理を行うことがより好ましい。
【0025】
工程(2)
工程(2)では、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を留去することで、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られた着色剤含有ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよく、架橋工程を後に行う場合は、必要により架橋後に再除去すればよい。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた着色剤含有ポリマー粒子の水分散体は、着色剤を含有する該ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。ここで、着色剤含有ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも着色剤とアニオン性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、該ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、該ポリマー粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が含まれる。
【0026】
工程(3)
工程(3)は、工程(2)で得られた分散体に架橋剤を添加して、着色剤含有架橋ポリマー粒子の水分散体を得る工程である。
アニオン性ポリマーの架橋は、工程(1)で得られた着色剤含有ポリマー粒子の分散体と架橋剤とを混合して行うこともできる。この場合は、該架橋工程で得られたアニオン性架橋ポリマー粒子の水分散体から、有機溶媒を除去する工程を前記工程(2)と同様に行うことにより、本発明の水分散体を得ることができる。
なお、アニオン性ポリマーの架橋処理は、前記工程(2)の有機溶媒を除去する前に行ってもよいが、保存安定性を向上させる観点から、工程(2)の後に行うことが好ましい。工程(2)の後に架橋することで、ポリマー粒子間により適切に架橋が起こり、本発明の水分散体及び水系インクの保存安定性を更に向上させることができるものと考えられる。
ここで、架橋剤の好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0027】
上記方法で得られた着色剤含有ポリマー粒子、又は着色剤含有架橋ポリマー粒子は、25℃での粘度(A)が1〜50mPa・sである水分散液として二酸化炭素ガスを混合して処理される。前記25℃での粘度(A)の調整は、水の量、及び必要に応じて添加する有機溶媒の量を調整することにより行うことができる。
また、着色剤含有ポリマー粒子、又は着色剤含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、水分散体及び水系インクの印字濃度の観点から、好ましくは40〜1000nm、より好ましくは60〜600nm、更に好ましくは80〜300nmである。なお、平均粒径は、実施例記載の方法で測定される。
【0028】
[インクジェット記録用水分散体の製造]
本発明のインクジェット記録用水分散体の製造方法は、下記工程(I)〜(III)を有する。
工程(I):25℃での粘度(A)が1〜50mPa・sであるアニオン性着色粒子を含有する水分散液と二酸化炭素ガスとを混合し、25℃での粘度(B)が100mPa・s以上である増粘物を得る工程
工程(II):工程(I)で得られた増粘物と水とを混合する工程
工程(III):工程(II)で得られた混合物を分散処理する工程
本発明のインクジェット記録用水分散体の製造方法は、工程(II)と工程(III)の間に下記工程(IV)を行うことが吐出信頼性向上の観点から好ましい。
工程(IV):工程(I)で得られた混合物から二酸化炭素ガスを除去し、pHを0.1以上上昇させる工程
【0029】
(工程(I))
工程(I)は、25℃での粘度(A)が1〜50mPa・sであるアニオン性着色粒子を含有する水分散液と二酸化炭素ガスとを混合し、25℃での粘度(B)が100mPa・s以上である増粘物を得る工程である。
アニオン性着色粒子を含有する水分散液は、前記の着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子の製造方法で製造されたもの等を好ましく用いることができるが、25℃での粘度が50mPa・sを超える場合は、水や水溶性有機溶媒で希釈して、25℃での粘度を50mPa・s以下にして本工程に用いる。
アニオン性着色粒子を含有する水分散液の25℃での粘度(A)は、1〜50mPa・sであるが、インクの吐出信頼性及び二酸化炭素ガスとの良好な混合の観点から、2〜20mPa・sが好ましく、2〜10mPa・sがより好ましく、3〜6mPa・sが更に好ましい。
【0030】
工程(I)において、アニオン性着色粒子を含有する水分散液と二酸化炭素ガスの混合方法に特に制限はないが、アニオン性着色粒子を含有する水分散液に二酸化炭素ガスを導入する方法が好ましい。
前記二酸化炭素ガスの導入方法の具体例としては、下記(i)〜(iv)の方法が挙げられる。
(i)ガスボンベ又はガスを発生させる装置にチューブを接続し、チューブのもう一方の端をアニオン性着色粒子を含有する水分散液の容器に投入して、二酸化炭素ガスを水分散液中に通す方法。
(ii)減圧した容器にアニオン性着色粒子を含有する水分散液を入れ、二酸化炭素ガスを含む雰囲気中で容器を開放することにより、二酸化炭素ガスを水分散液中に導入する方法。
(iii)アニオン性着色粒子を含有する水分散液を入れた一部開放した容器を、二酸化炭素ガスを含む雰囲気中に入れ、加圧し、二酸化炭素ガスを水分散液中に導入する方法。
(iv)二酸化炭素ガスを溶媒に溶解した溶液を密閉容器に入れ、その密閉容器にチューブを接続し、チューブのもう一方の端をアニオン性着色粒子を含有する水分散液の容器に投入し、該溶液を加熱することにより、発生した二酸化炭素ガスを水分散液中に導入する方法。
(v)昇華すると二酸化炭素ガスとなる昇華性固体を、アニオン性着色粒子を含有する水分散液に投入し、昇華現象を用いて水分散液中で直接ガスを発生させて二酸化炭素ガスを水分散液中に導入する方法。
これらの中では、急激な不安定化を防ぎ、インクの吐出信頼性を向上させる観点から、ガスの導入を調節し易い(i)の方法が好ましい。
(i)の方法においても、二酸化炭素ガスを発生させる装置として、(v)に挙げた昇華すると二酸化炭素ガスとなる昇華性固体を入れた容器を用いることが、ガスの添加量を正確に定量できる点、及び急激な不安定化を防ぎ、インクの吐出信頼性を向上させる観点から好ましい。
二酸化炭素ガスとなる昇華性固体としては、ドライアイスが好ましく用いられる。
【0031】
二酸化炭素ガスの混合量はアニオン性着色粒子100重量部に対して、1〜300重量部であることが好ましく、二酸化炭素ガスとして、ドライアイスの昇華により得られた二酸化炭素ガスを用いる場合のドライアイスの量はアニオン性着色粒子に対して、1〜300重量部であることが好ましく、10〜200重量部であることがより好ましい。
本発明の、アニオン性着色粒子を含有する水分散液と二酸化炭素ガスを混合する工程において、インクの吐出信頼性を向上させる観点から、二酸化炭素ガス混合前の分散体のpHは7.0〜10.0が好ましく、8.0〜9.5がより好ましく、8.5〜9.5が更に好ましい。
また、水分散体及び水系インクの印字濃度を高める観点から、二酸化炭素ガスを混合することにより、水分散体のpHを0.5〜6.0低下させることが好ましく、2.0〜4.0低下させることがより好ましく、2.5〜3.5低下させることが更に好ましい。
ただし、二酸化炭素ガス混合後のpHは工程(II)において、水を混合した後に測定したものとする。
【0032】
工程(I)においては、アニオン性着色粒子を含有する水分散液と二酸化炭素ガスを混合することにより、粘度が100mPa・s以上の増粘物を得る。
増粘物の粘度(B)は、不安定な微粒子を凝集させ、吐出信頼性を向上させる観点から、200mPa・s以上が好ましく、300mPa・s以上がより好ましい。また、粘度(B)の上限は、工程(II)の混合工程及び工程(III)の分散工程を効率的に行う観点から、1200mPa・s以下が好ましく、800mPa・s以下がより好ましい。
前記の観点から、増粘物の粘度(B)は、100〜1200mPa・sが好ましく、300〜800mPa・sがより好ましい。
また、増粘物の粘度(B)は、該水分散液の25℃での粘度(A)の20倍以上であることが好ましい。増粘物の粘度(B)は、不安定な微粒子を凝集させ、吐出信頼性を向上させる観点から、前記粘度(A)の20〜1000倍が好ましく、20〜300倍がより好ましく、70〜200倍が更に好ましい。
本工程で得られる増粘物はペースト状であることが好ましい。ここで「ペースト状」とは、流動性があるが、容器に揺動を与えたときに追従しない状態をいう。
【0033】
(工程(II))
工程(II)は、工程(I)で得られた増粘物と水とを混合する工程である。
増粘物に混合する水には、本発明の効果を損なわない範囲で水溶性有機溶媒等を含んでいてもよいが、水単独がより好ましい。該増粘物と水を混合する方法に特に制限はないが、増粘物が得られた容器に水を添加して混合する方法が好ましく、十分に混合する観点から、攪拌機等を用いることが好ましい。
また、工程(IV)を行う場合には、工程(IV)で用いる二酸化炭素ガスを除去するための容器中で該増粘物と水とを混合してもよい。
工程(II)で水を添加した後の分散体のpHは4.0〜7.0とすることが好ましく、5.0〜5.8とすることがより好ましい。
【0034】
(工程(III))
工程(III)は工程(II)又は後述の工程(IV)で得られた混合物を分散処理する工程である。
工程(III)の分散に用いる分散条件及び分散装置は、前記の着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子の製造で用いたものが好ましく用いられるが、中でも高圧ホモジナイザーが好ましく、チャンバー式の高圧ホモジナイザーがより好ましい。具体的にはマイクロフルイダイザー(Microfluidics 社、商品名)等が好ましく用いられる。
工程(III)における温度は、5〜50℃が好ましく、10〜35℃がより好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、2〜25時間がより好ましい。
【0035】
(工程(IV))
工程(IV)は、工程(II)で得られた混合物から二酸化炭素ガスを除去し、pHを0.1以上上昇させる工程である。
工程(IV)を行わなくても、二酸化炭素ガスは気体であるため、本工程の後に行われる工程(III)で行われる分散処理工程で除去されるため、本発明の効果は得られるが、分散処理工程の前に、二酸化炭素ガスを除去しておくことで、保存時に粘度等の変化のより少ない水分散体及び水系インクを得ることができる。
工程(IV)の二酸化炭素ガスを除去する工程の前後で上昇させるpHは0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1.0以上が更に好ましく、2.0以上が特に好ましい。上昇させるpHの上限は、6.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.7以下が更に好ましい。
また、インクの吐出信頼性を向上させる観点から、二酸化炭素ガス除去後のpHは7.0〜10.0が好ましく、8.0〜9.0がより好ましい。
工程(II)で得られた混合物から二酸化炭素ガスを除去する方法に特に制限はないが、例えば、混合物を加熱して除去する方法、混合物の入った容器を密閉し、減圧して除去する方法等が挙げられ、両者を同時に行う方法が好ましい。
加熱温度としては、分散液の分散安定性を保ち、吐出信頼性を向上させる観点から、40〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。
減圧して除去する場合の絶対圧力としては、分散液の分散安定性を保ち、吐出信頼性を向上させる観点から、1〜50kPaが好ましく、5〜20kPaがより好ましい。
混合物から二酸化炭素ガスを除去する装置としては、加熱と減圧を同時に行える装置を好ましく用いることができ、ロータリーエバポレーターを用いることがより好ましい。
【0036】
[インクジェット記録用水分散体]
本発明方法により得られる水分散体は、そのまま水系インクとして用いることもできる。
該水分散体に用いられるアニオン性着色粒子に含まれる着色剤の含有量は、水分散体の印字濃度を高める観点から、水分散体中、好ましくは2〜35重量%、より好ましくは3〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%である。
また、水の含有量は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
該水分散体の好ましい表面張力(20℃)は、30〜70mN/m、より好ましくは35〜65mN/mである。
該水分散体の20重量%(固形分)の粘度(20℃)は、好ましくは1〜12mPa・s、より好ましくは1〜9mPa・s、更に好ましくは2〜6mPa・s、特に好ましくは2〜5mPa・sである。
【0037】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、前記の製造方法で得られた水分散体を含有するものであるが、さらに水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等を添加することができる。
湿潤剤又は浸透剤としては、グリセリン、トリエチレングリコール等が好ましく用いられ、界面活性剤としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド10モル付加物等が好ましく用いられる。
本発明の水系インク中のアニオン性着色粒子に含まれる着色剤の含有量は、水系インクの印字濃度を高める観点から、水系インク中、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2〜20重量%、更に好ましくは4〜15重量%、特に好ましくは5〜12重量である。
また、水の含有量は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
本発明の水系インクの好ましい表面張力(20℃)は、23〜50mN/m、より好ましくは23〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mである。
本発明の水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出信頼性を維持するために、好ましくは2〜20mPa・sであり、より好ましくは2.5〜16mPa・s、更に好ましくは2.5〜12mPa・sである。
本発明の水系インクを適用するインクジェット記録方式は特に制限されないが、加熱により水系インクを吐出するサーマル方式のインクジェットプリンターで特に本発明の効果が発揮される。
【実施例】
【0038】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。なお、ポリマーの重量平均分子量、アニオン性着色粒子の平均粒径、水分散液等の粘度及びpHの測定は以下の方法により行い、水系インクについて、以下の方法により吐出信頼性を評価した。
(1)アニオン性ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶媒として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
(2)アニオン性着色粒子の平均粒径の測定
大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて測定した。測定する粒子の濃度を、5×10-3重量%になるように水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
(3)粘度の測定
水分散液、増粘物又は混合物をE型粘度計(東機産業株式会社製、RE80L)により、標準ローター(1°34’×R24)を用いて測定温度25℃、測定時間1分の条件で測定した。回転数は測定可能な回転数で最も大きいものを用いた。ただし、最高100rpmを用いた。
(4)pHの測定
株式会社堀場製作所製のpHイオンメーター、商品名:F−23(測定用電極#6367−10D)を用いて20℃で測定した。
【0039】
(5)吐出信頼性の評価
インクジェットプリンター(キヤノン株式会社製、型番:PIXUS iP3600)の純正ブラックインクカートリッジ(インクタンクBCI−321BK)の内部を洗浄して乾燥させ、これを評価用カートリッジとした。
評価用カートリッジに実施例及び比較例で得られたインクジェット記録用水系インクを充填して、密封し、インクジェットプリンター(PIXUS iP3600)に装着した。次いで、該プリンターに接続したパーソナルコンピューターを用い、パワーポイント(マイクロソフト社製、商品名)により、横204mm、縦275mmの長方形のベタ印刷となるようにデータを作成し、印刷を行った。印刷条件は、用紙種類:普通紙、モード設定:標準、印刷には普通紙(商品名:XEROX4200、XEROX社製)を用いた。
この印刷方法により、10枚印刷を行った後の11枚目で不吐出となったノズルの本数を印刷後の紙から目視で数えた。不吐出となったノズルの本数(不吐出本数)の値が小さい方が吐出信頼性が良好である。
【0040】
製造例1(着色剤含有ポリマー粒子の水分散液の製造)
(1)アニオン性ポリマーの合成
(a)メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製、試薬)32部、(b)スチレン(和光純薬工業株式会社製、試薬)88部、(c)スチレンマクロマー(東亞合成株式会社製、商品名:AS−6S、数平均分子量:6000、固形分濃度50%)20部(固形分として)、(d)ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製、商品名:ブレンマーPP−800、プロピレンオキシド平均付加モル数13、末端:水酸基)60部を混合し、モノマー混合液を調製した。
反応容器内に、メチルエチルケトン20部及び2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.03部、前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、メチルエチルケトン60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量:80000)を得た。
【0041】
(2)着色剤含有ポリマー粒子の水分散液の調製
上記(1)で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部をメチルエチルケトン70部に溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液9.3部(中和度80%)及びイオン交換水230部を加え、更にブラック顔料(カーボンブラック、キャボットスペシャルティケミカルズ社製、商品名:Monarch880)75部を加え、プライミクス株式会社製、TKロボミックス(商品名)+TKホモディスパー2.5型を用いて回転数8000/分で60分間分散し、さらに、マイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製、商品名:M140K)で180MPaの圧力で10パス分散処理した。
得られた分散液に、イオン交換水250部を加えて攪拌した後、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、分散体(固形分25%)を得た。
得られた分散体を日立工機株式会社製の遠心沈降管500PAボトルに入れて、同社製冷却遠心分離機「himacCR22G」及びロータ(R12A、半径15.1cm)を用い、12000回転/分で遠心加速度24300Gをかけ、この状態で30分間保持(12150G・hr)した後に沈降部分を除去し、着色剤含有ポリマー粒子の水分散体を得た。
得られた分散体を孔径5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過したのちにイオン交換水で調整し、固形分濃度が20%の着色剤含有ポリマー粒子の水分散液(25℃での粘度4.2mPa・s、平均粒径105nm)を得た。得られた水分散液のpHは9.3であった。
【0042】
実施例1(インクジェット記録用水分散体の製造)
製造例1で得られた着色剤含有ポリマー粒子の水分散液100gを、攪拌子(長さ3cm)を入れた300mLナス型フラスコに入れた。次に、ドライアイス20gを4つ口セパラブルフラスコに入れ、室温で放置する方法で徐々にドライアイスを昇華させて二酸化炭素ガスを発生させ、発生した二酸化炭素ガスをシリコーンチューブで該ナス型フラスコの空間部分に二酸化炭素ガスを導入し、攪拌を行った。1時間攪拌を行い、ペースト状物(増粘物)を得た。
得られたペースト状物の25℃での粘度は300mPa・sであった(工程(I))。
ペースト状物の入ったナス型フラスコにイオン交換水50gを添加して混合した。この時点での混合物のpHは5.8であった(工程(II))。
ナス型フラスコをロータリーエバポレーターに取り付け、絶対圧力10.3kPaに減圧し、更に水浴で60℃に加熱して、二酸化炭素を除去した。得られた混合物のpHは8.4であった(工程(IV))。
得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製、商品名:M−110EH)で150MPaの圧力で5パス分散処理を行った(工程(III))。
得られた分散体にイオン交換水を添加して、固形分濃度を20%に調整し、前記フィルターを取り付けたシリンジで濾過して、固形分濃度が20%のインクジェット記録用水分散体を得た。
【0043】
実施例2(インクジェット記録用水分散体の製造)
実施例1の工程(I)において、二酸化炭素ガスの導入と攪拌を3時間行った以外は実施例1と同様にして、固形分濃度が20%のインクジェット記録用水分散体を得た。なお、ペースト状物の粘度、混合物のpHは表1に示した通りである。
【0044】
実施例3(インクジェット記録用水分散体の製造)
実施例1の工程(I)において、二酸化炭素ガスの導入と攪拌を30分行った以外は実施例1と同様にして、固形分濃度が20%のインクジェット記録用水分散体を得た。なお、ペースト状物の粘度、混合物のpHは表1に示した通りである。
【0045】
実施例4(インクジェット記録用水分散体の製造)
実施例1の工程(I)において、二酸化炭素ガスの導入と攪拌を4時間行った以外は実施例1と同様にして、固形分濃度が20%のインクジェット記録用水分散体を得た。なお、ペースト状物の粘度、混合物のpHは表1に示した通りである。
【0046】
比較例1(インクジェット記録用水分散体の製造)
製造例1で得られた着色剤含有ポリマー粒子の水分散液100gを、攪拌子(長さ3cm)を入れた300mLナス型フラスコに入れた。次に、濃塩酸0.1gをシリコーンチューブを連結した三方管を具備した50mLナス型フラスコに入れ、該ナス型フラスコを50℃の温浴で加熱する方法で徐々に塩化水素ガスを発生させ、発生した塩化水素ガスをシリコーンチューブで該ナス型フラスコの空間部分に導入し、攪拌を行った。1時間攪拌を行い、ペースト状物を得た(工程(I))。以降の工程は、実施例1と同様にして、固形分濃度が20%のインクジェット記録用水分散体を得た。なお、ペースト状物の粘度、混合物のpHは表1に示した通りである。
【0047】
比較例2(インクジェット記録用水分散体の製造)
製造例1で得られた着色剤含有ポリマー粒子の水分散液100gを、攪拌子(長さ3cm)を入れた300mLナス型フラスコに入れた。次に、分散液を攪拌しながら、1N塩酸水溶液を2g添加し、ペースト状物を得た。
得られたペースト状物の25℃での粘度は380m・sであった(工程(I))。
ペースト状物の入ったナス型フラスコにイオン交換水50gを添加して混合した。この時点での混合物のpHは5.8であった(工程(II))。
ナス型フラスコをロータリーエバポレーターに取り付け、絶対圧力10.3kPaに減圧し、更に水浴で60℃に加熱し、60分間処理したが、ペースト状のままであった。得られた混合物のpHは6.0であった(工程(IV))。
得られた混合物に1N水酸化ナトリウム水溶液2gを添加し、ロータリーエバポレーターで攪拌し、混合物の粘度を下げた上で、マイクロフルイダイザー(M−110EH)で150Mの圧力で5パス分散処理を行った(工程(III)。
【0048】
実施例5(水系インクの製造)
実施例1で得られた水分散体25部、グリセリン15部、トリエチレングリコール7部、アセチレノールE100(川研ファインケミカル株式会社製、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド10モル付加物)0.5部、イオン交換水52.5部をマグネチックスターラーで撹拌して混合し、1.2μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジで濾過して、水系インクを得た。
得られた水系インクの吐出信頼性の評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例6〜8及び比較例3〜4(水系インクの製造)
実施例5において、実施例1で得られた水分散体に替えて、表1に示すように、実施例2〜4及び比較例1〜2で得られたインクジェット記録用水分散体を用いた以外は実施例5と同様にして、水系インクを得た。結果を表1に示す。
比較例5(水系インクの製造)
実施例5において、実施例1で得られた水分散体に替えて、表1に示すように、製造例1で得られた着色剤含有ポリマー粒子の水分散液を用いた以外は実施例5と同様にして、水系インクを得た。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から、実施例5〜8の水系インクは、比較例3〜5の水系インクに比べて、吐出信頼性が優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(I)〜(III)を有するインクジェット記録用水分散体の製造方法。
工程(I):25℃での粘度(A)が1〜50mPa・sであるアニオン性着色粒子を含有する水分散液と二酸化炭素ガスとを混合し、25℃での粘度(B)が100mPa・s以上である増粘物を得る工程
工程(II):工程(I)で得られた増粘物と水とを混合する工程
工程(III):工程(II)で得られた混合物を分散処理する工程
【請求項2】
工程(II)と工程(III)の間に下記工程(IV)を行う、請求項1に記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
工程(IV):工程(II)で得られた混合物から二酸化炭素ガスを除去し、pHを0.1以上上昇させる工程
【請求項3】
粘度(B)が、粘度(A)に対して、20倍以上である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項4】
アニオン性着色粒子に含まれる着色剤が顔料である、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項5】
アニオン性着色粒子が着色剤を含有するアニオン性ポリマー粒子である、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項6】
工程(I)において、二酸化炭素ガスを混合することにより、水分散体のpHを0.5〜6.0低下させる、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法で得られた水分散体を含有する、インクジェット記録用水系インク。

【公開番号】特開2011−122114(P2011−122114A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282805(P2009−282805)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】