説明

インクジェット記録用水系インク

【課題】印字濃度が高く、保存安定性に優れ、彩度が高いインクジェット記録用水分散体及び水系インク、及びインクジェット記録用水分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子、及びカチオン性ポリマーを含有するインクジェット記録用水分散体であって、ポリマー粒子を構成するポリマーがベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレートを由来とする構成単位を30〜80重量%含むものであるインクジェット記録用水分散体、(2)その水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク、及び(3)そのインクジェット記録用水分散体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水分散体、それを含有する水系インク、及びインクジェット記録用水分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
最近では、印刷物に耐候性や耐水性を付与するために、着色剤として顔料を用いるインクが広く用いられている。特にマゼンタ、レッド系のインクについては、耐候性に優れるキナクリドン系顔料が用いられている。しかしながら、構造が単純であるため、色相の種類が少ないという欠点がある。そこで、2種以上のキナクリドン、あるいは他の有機顔料との固溶体、いわゆる固溶体顔料とすることによって、様々な色相を得る試みがなされている。固溶体顔料は、キナクリドン特有の耐候性を有したまま、独特の色相、鮮明な色調を有しているという特徴を有する。
【0003】
たとえば、特許文献1には、彩度、保存安定性の改善を目的として、2種以上のキナクリドン系化合物を含むキナクリドン固溶体顔料を含む架橋ポリマー粒子であって、該架橋ポリマー1g当たり塩基で中和されたアニオン性基を0.2mmol/g以上含有する、インクジェット記録用架橋ポリマー粒子を含有する水系インクが開示されている。
特許文献2には、発色性、インク信頼性の改善を目的として、マゼンタ固溶体顔料と、該顔料をインク組成物中に分散可能とするポリマーとを含んでなり、前記ポリマーが、スチレンマクロマーと塩生成基含有モノマーとを含んでなるモノマー組成物を共重合して得られたものであるインク組成物が開示されている。
特許文献3には、長期保存信頼性の改善を目的として、固溶体マゼンタ顔料を含む水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体を含み、水不溶性ビニルポリマーが、少なくとも脂環式(メタ)アクリレート(A)及び塩生成基含有モノマー(B)を共重合した水不溶性ビニルポリマーであるインクジェット記録用水系インクが開示されている。
【0004】
一方、カチオン性ポリマーを用いた例としては、特許文献4には、普通紙印刷における彩度、濃度等の改善を目的として、顔料、アニオン性分散剤、ポリエチレンイミン等のカチオン性水溶性高分子化合物及び水性媒体からなる水性顔料インクが開示されている。
また、ベンジルアクリレートモノマーを用いた例として、特許文献5には、保存安定性、吐出安定性、発色性等の向上を目的として、50重量%以上のベンジルアクリレート、10重量%以上のスチレンモノマー及び/又はスチレンマクロモノマー、15重量%以下の(メタ)アクリル酸が重合され、特定の酸価を有するポリマーを用いて分散された顔料を含むインクジェット記録用インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−46595号公報
【特許文献2】国際公開第2006/137414号パンフレット
【特許文献3】特開2005−29597号公報
【特許文献4】特開2004−123865号公報
【特許文献5】特開2007−99922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
キナクリドン顔料をインクジェット記録用水系インクに用いる場合、印字濃度を向上させるために、単にインク中の顔料の配合量を増やすと、印字濃度は向上するが彩度が低下し、インクの保存安定性も低下するという問題があった。また、ジクロロキナクリドンを含む固溶体顔料を用いると彩度がある程度向上するが、より高い彩度が求められており、また、固溶体顔料ではインクの保存安定性が低下しやすいという問題があった。
本発明は、印字濃度が高く、保存安定性に優れ、彩度が高いインクジェット記録用水分散体及び水系インク、及びインクジェット記録用水分散体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次の(1)〜(3)を提供する。
(1)ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子、及びカチオン性ポリマーを含有するインクジェット記録用水分散体であって、該アニオン性ポリマー粒子を構成するポリマーが、ベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレートを由来とする構成単位を30〜80重量%含むものである、インクジェット記録用水分散体。
(2)前記(1)の水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。
(3)下記の工程Iを有する前記(1)のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
工程I:ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子を含む水分散体(a)にカチオン性ポリマーを添加して水分散体(A)を得る工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、印字濃度が高く、保存安定性に優れ、彩度が高いインクジェット記録用水分散体及び水系インク、及びインクジェット記録用水分散体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のインクジェット記録用水分散体及び水系インクは、ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子、及びカチオン性ポリマーを含有するインクジェット記録用水分散体であって、該アニオン性ポリマー粒子を構成するポリマーが、ベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレートを由来とする構成単位を30〜80重量%含むものであることを特徴とする。
本発明者らは、ジクロロキナクリドンを含む固溶体顔料をインクジェット記録用水系インクに用いた場合に保存安定性が低下し、彩度が不十分である原因を検討した。その結果、固溶体顔料は、異なる構造の分子を結晶化したものであるため結晶に乱れがあり、そのため、分散時又は溶媒中で再結晶化して凝集物が生じると考えられた。そこで、上記構成とすることにより、保存安定性と彩度のみならず、印字濃度も向上させることができることを見出した。以下、本発明に用いられる各成分等について説明する。
【0010】
[アニオン性ポリマー粒子]
本発明のインクジェット記録用水分散体及び水系インクにおいては、ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子であって、ポリマー粒子を構成するポリマーがベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレートを由来とする構成単位を30〜80重量%含むものであるアニオン性ポリマー粒子を含有する。
ここで、本明細書における「アニオン性」とは、未中和の物質を、純水に分散又は溶解させたときにpHが7未満となること、又は物質が純水に不溶でありpHが明確に測定できない場合には、純水に分散させた分散体のゼータ電位が負となることを意味する。
固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子の平均粒径は、分散性、印字濃度の観点から、50〜300nmが好ましく、60〜200nmがより好ましく、70〜150nmが更に好ましい。平均粒径は、動的光散乱法で測定されるものであり、具体的には実施例の方法によって測定される。
本発明で用いられるアニオン性ポリマー粒子は、少なくともジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料と、ベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレートを由来とする構成単位を30〜80重量%含むポリマーにより粒子が形成されている。このポリマー粒子の形態としては、ポリマーに顔料が内包された粒子形態、ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、ポリマー粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれる。
アニオン性ポリマー粒子は、保存安定性向上の観点から、ポリマー粒子中の該ポリマーを架橋剤で架橋処理して、架橋ポリマー粒子の形態で用いることがより好ましい。
【0011】
〔固溶体顔料〕
本発明に用いられる固溶体顔料は、少なくともジクロロキナクリドンを含有する。
ジクロロキナクリドンは、固溶体顔料の1成分として用いたとき、その塩素基由来の電子状態の変化により、固溶体顔料自体の透明性や彩度を高めるという効果を示すため、発色性の観点から用いられる。
ジクロロキナクリドンとしては、2,9−ジクロロキナクリドン、3,10−ジクロロキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン等が挙げられる。
ジクロロキナクリドンと固溶体化される顔料としては、β型、γ型等の無置換キナクリドン、ジメチルキナクリドン等が挙げられる。
固溶体顔料の中では、2,9−ジクロロキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド202)と無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19)との組合せからなる固溶体顔料がより好ましい。
固溶体顔料中、ジクロロキナクリドンの含有量は、5〜95重量%が好ましく、10〜90重量%がより好ましく、15〜85重量%が更に好ましい。
上記の固溶体顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができ、本発明の効果を損なわない範囲で、他の着色剤、例えば顔料を併用してもよい。
【0012】
〔アニオン性ポリマー〕
ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子(以下、単に「アニオン性ポリマー粒子」又は「ポリマー粒子」ともいう)に用いられるアニオン性ポリマーとしては、水分散体及び水系インクの印字濃度及び保存安定性向上の観点から、水不溶性ポリマーが好ましい。
ここで、水不溶性ポリマーとは、ポリマー固形分換算100gを105℃で2時間乾燥させ、恒量に達した後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量は、5g以下であることが好ましく、1g以下であることがより好ましい。その溶解量は、該ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
アニオン性ポリマー粒子を構成するポリマーは、彩度、保存安定性、印字濃度の観点から、ベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレートを由来とする構成単位を30〜80重量%含有し、好ましくは40〜80重量%、より好ましくは50〜75重量%、更に好ましくは60〜75重量%含有する。
該ポリマーは、印字濃度及び保存安定性の観点から、全て同一の重合性基を有するモノマーを由来とする構成単位からなるものが好ましく、同一の重合性基が、メタクリロイル基であるものがより好ましい。これは、同一の重合性基を有するモノマーの重合速度はほぼ等しくなるため、得られるポリマー分子の組成が均一になり、ポリマー分子中に設計した通りの比率でモノマーを導入することができるためであると考えられる。
本発明においては、ベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレート由来の構成単位による固溶体顔料への吸着性と、アニオン性基によるカチオン性ポリマーとの相互作用を両立させることができるため、印字濃度及び保存安定性が向上するものと考えられる。
【0013】
アニオン性ポリマーは、印字濃度向上の観点から、アニオン性モノマー(a)(以下「(a)成分」ともいう)由来の構成単位と、ベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレートモノマー(b)(以下「(b)成分」ともいう)由来の構成単位とを有するポリマーが好ましい。更に(a)成分や(b)成分と共重合可能なモノマー由来の構成単位を含むことが好ましい。(a)成分や(b)成分と共重合可能なモノマーとしては、マクロマー(c)、ノニオン性モノマー(d)が好ましく挙げられ、マクロマー(c)がより好ましい。
このアニオン性ポリマーは、(a)成分、(b)成分、及びそれらと共重合可能なモノマーを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させることにより製造することができる。
【0014】
〔アニオン性モノマー(a)〕
アニオン性モノマー(a)は、ポリマー粒子の保存安定性の観点から用いられる。
アニオン性モノマーとしては、カルボキシ基を有するカルボン酸モノマー、スルホン酸基を有するスルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられ、リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、保存安定性の観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0015】
〔マクロマー(c)〕
マクロマー(c)(以下「(c)成分」ともいう)は、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500〜100,000の化合物であり、ポリマー粒子の保存安定性の観点から用いられる。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。数平均分子量は500〜100,000が好ましく、1,000〜10,000がより好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
マクロマー(c)としては、ポリマー粒子の分散安定性の観点から、スチレン系マクロマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマー及びシリコーン系マクロマーが好ましい。
スチレン系マクロマーとしては、スチレン系モノマー単独重合体、又はスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。共重合体の場合、分散安定性の観点から、スチレン系モノマーの含有量は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、クロロスチレン等が挙げられる。共重合される他のモノマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレート又はアクリロニトリル等が挙げられる。スチレン系マクロマーの市販品例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
【0016】
芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレートの単独重合体又はそれと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。共重合体の場合、分散安定性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレート系モノマーの含有量は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい炭素数7〜22のアリールアルキル基、又はヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい炭素数6〜22のアリール基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。その具体例としては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられ、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。共重合される他のモノマーとしては、スチレン系モノマー又はアクリロニトリル等が挙げられる。
また、シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0017】
〔ノニオン性モノマー(d)〕
ノニオン性モノマー(d)(以下「(d)成分」ともいう)としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテル、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(d)成分の市販品例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G、同230G、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400、同1000、PP−500、同800、同1000、AP−150、同400、同550、同800、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(a)〜(d)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
アニオン性ポリマー製造時における、上記(a)〜(c)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はアニオン性ポリマーを構成する前構成単位中の(a)〜(c)成分に由来する構成単位の含有量は、得られる水分散体及び水系インクの保存安定性と印字濃度の観点から、次のとおりである。
(b)成分の含有量は30〜80重量%、好ましくは40〜80重量%、より好ましくは50〜75重量%、更に好ましくは60〜75重量%である。
(a)成分の含有量は好ましくは3〜40重量%、より好ましくは4〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%であり、(c)成分の含有量は、好ましくは5〜67重量%、より好ましくは10〜60重量%である。
また、〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の重量比は、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0019】
(アニオン性ポリマーの製造)
アニオン性ポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
重合の際には、さらに、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0020】
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、重合時間は、好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
【0021】
アニオン性ポリマーの重量平均分子量は、得られる水分散体及び水系インクの印字濃度及び保存安定性の観点から、5,000〜50万が好ましく、1万〜40万がより好ましく、1万〜30万が更に好ましく、2万〜30万が更に好ましい。なお、ポリマーの重量平均分子量は、実施例で示す方法により測定される。
アニオン性ポリマーは、(a)アニオン性モノマー由来のアニオン性基を有している場合は中和剤により中和して用いることが好ましい。中和剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、各種アミン等の塩基が挙げられる。
アニオン性ポリマーのアニオン性基の中和度は、分散安定性の観点から、10〜300%であることが好ましく、20〜200%がより好ましく、30〜150%が更に好ましい。
アニオン性ポリマーを架橋させる場合は、分散安定性と架橋効率の観点から、架橋前のポリマーのアニオン性基の中和度は10〜90%であることが好ましく、20〜80%であることがより好ましく、30〜70%であることが更に好ましい。
ここで中和度は、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[アニオン性ポリマーの酸価(KOHmg/g)×アニオン性ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
酸価は、アニオン性ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。又は、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0022】
〔ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子の製造〕
本発明の水分散体及び水系インクに含有されるジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子の水分散体は、下記の工程(1)及び(2)を有する方法により、効率的に製造することができる。
工程(1):アニオン性ポリマー、有機溶媒、固溶体顔料、及び水を含有する混合物を分散処理して、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体を得る工程
【0023】
工程(1)
工程(1)では、まず、アニオン性ポリマーを有機溶媒に溶解させてポリマーの有機溶媒溶液を得、この有機溶媒溶液に、固溶体顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。アニオン性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、中和剤、水、着色剤の順に加えることが好ましい。該ポリマーの有機溶媒溶液は、前記ポリマーの重合で得られたポリマー溶液をそのまま、あるいは更に有機溶媒で希釈したものを用いてもよい。
混合物中、固溶体顔料は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましく、ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%がより好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましい。
アニオン性ポリマー量に対する固溶体顔料量の重量比〔固溶体顔料/アニオン性ポリマー〕は、分散安定性の観点から、1.0〜9.0が好ましく、2.3〜5.7がより好ましい。
アニオン性ポリマーを中和剤で中和する場合、最終的に得られる水分散体のpHが7〜11となるようにすることが好ましい。またポリマーを予め中和しておいてもよい。
有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒及びジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
該有機溶媒の水100gに対する溶解量は、20℃において、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上であり、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンが好ましい。
【0024】
工程(1)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけでアニオン性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程(1)の分散における温度は、5〜50℃が好ましく、5〜35℃がより好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、2〜25時間がより好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置、具体例としては、ウルトラディスパー、デスパミル(浅田鉄工株式会社、商品名)、マイルダー(株式会社荏原製作所、太平洋機工株式会社、商品名)、TKホモミクサー、TKパイプラインミクサー、TKホモジェッター、TKホモミックラインフロー、フィルミックス(以上、プライミクス株式会社、商品名)等の高速撹拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー(株式会社イズミフードマシナリ、商品名)に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー(Microfluidics 社、商品名)、ナノマイザー(吉田機械興業株式会社、商品名)、アルティマイザー、スターバースト(スギノマシン株式会社、商品名)等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、スターミル(アシザワ・ファインテック社製、商品名)、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製、商品名)、MSCミル(三井鉱山株式会社製、商品名)、ダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製、商品名)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、固溶体顔料の小粒子径化の観点から、メディア式分散機と高圧ホモジナイザーを併用することが好ましい。
【0025】
工程(2)
工程(2)では、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を留去して水系にすることで、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られた該アニオン性ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよく、架橋工程を後に行う場合は、必要により架橋後に再除去すればよい。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
【0026】
[カチオン性ポリマー]
本発明の水分散体及び水系インクにおいては、印字濃度向上の観点から、カチオン性ポリマーを含有する。
ここで、カチオン性ポリマーの「カチオン性」とは、未中和のポリマーを純水に分散又は溶解させた場合、pHが7より大となること、第4級アンモニウム塩等を有するポリマーの場合はその対イオンを水酸化物イオンとして純水に分散又は溶解させた場合、pHが7より大となること、又はポリマー等が純水に不溶であり、pHが明確に測定できない場合には、純水に分散させた分散体のゼータ電位が正となることをいう。
カチオン性ポリマーとしては、第1〜第3級アミノ基、第4アンモニウム塩基、ヒドラジン等のカチオン性基を有するポリマーが好ましく、該ポリマーは、カチオン性基を有するモノマーの単独重合体やその他のモノマーとの共重合体又は縮重合体であることが好ましい。
また、カチオン性ポリマーは、アニオン性ポリマー粒子と効率的に相互作用を生じさせ、水分散体又はインクの印字濃度を向上させる観点から、水溶性であるものが好ましい。ここで、「水溶性ポリマー」とは、カチオン性ポリマーを105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10gを超えるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは20g以上、より好ましくは100g以上である。
【0027】
カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミン−エピクロルヒドリン反応物、ポリアミド−ポリアミン樹脂、ポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂、キトサン、カチオン化デンプン、ポリアミンスルフォン、ポリビニルイミダゾール、ポリアミジン、ジシアンアミドポリアルキレンポリアミン縮合物、ポリアルキレンポリアミンジシアンジアミドアンモニウム塩縮合物、ジシアンジアミドホルマリン縮合物、エピクロルヒドリン・ジアルキルアミン重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド・SO2共重合物、ビニルピロリドン・ビニルイミダゾール共重合体、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート重合物又はそれらの酸中和物等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記カチオン性ポリマーの中では、水分散体又はインクの印字濃度を向上させる観点から、アミノ基を有するカチオン性ポリマーが好ましく、その具体例としては、前記の例のうち、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミン−エピクロルヒドリン反応物、ポリアミド−ポリアミン樹脂、ポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂等が挙げられる。中でも、ポリエチレンイミンが特に好ましい。
【0028】
(ポリエチレンイミン)
ポリエチレンイミンは、−(CH2CH2NH)n−で表され、エチレンイミン単位が分岐状、直鎖状又は網目状に重合した水溶性高分子化合物である。ポリエチレンイミンは、水分散体中でポリカチオンとして存在し、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子のアニオン性基と相互作用し、該ポリマー粒子を連鎖状に繋ぐ役割を果たすと考えられる。
ポリエチレンイミンの数平均分子量は、600〜100,000が好ましく、800〜70,000がより好ましく、1,000〜50,000が更に好ましい。該数平均分子量が600以上であると印刷紙面上への顔料の定着性がより向上し、印字濃度の向上効果が高くなり、100,000以下であれば、水分散体又はインクの粘度が低く、分散安定性により優れるものとなる。ポリエチレンイミンの数平均分子量は、沸点上昇法等で求めることができる。
ポリエチレンイミンの製法は特に制限されず、公知の重合法により製造することができる。例えば、〔1〕エチレンイミンを二酸化炭素、塩酸、臭化水素酸等を触媒として開環重合させる方法、〔2〕塩化エチレンとエチレンジアミンを重縮合させる方法、〔3〕オキサゾリドン−2を加熱する方法等が挙げられる。
ポリエチレンイミンは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水分散体中のポリエチレンイミンの含有量は、水系インクの基本物性と印字濃度向上を両立させる観点から、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子に対して、好ましくは0.01〜3重量%、より好ましくは0.05〜2重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%含有される。
【0029】
[インクジェット記録用水分散体の製造]
本発明のインクジェット記録用水分散体の製造方法は、下記の工程Iを有する方法であり、本方法によれば、本発明のインクジェット記録用水分散体を効率的に製造することができる。
工程I:ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子を含む水分散体(a)にカチオン性ポリマーを添加してインクジェット記録用水分散体(A)を得る工程
また任意の工程であるが、本発明のインクジェット記録用水分散体の製造方法には、更に下記の工程IIを有することが好ましい。
工程II:工程Iで得られた水分散体(A)に架橋剤を添加して、水分散体(A)中のアニオン性ポリマーを架橋処理し、インクジェット記録用水分散体(B)を得る工程
【0030】
工程I
工程Iでは、前記製造法で得られたジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子を含む水分散体(a)にカチオン性ポリマーを添加して水分散体(A)を得る。
カチオン性ポリマーを水分散体(a)中に均一に分散させ、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子と均一に反応させるため、カチオン性ポリマーを添加する際には、攪拌機や分散機等でせん断をかけながら添加することが好ましい。得られた固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子を含む水分散体(A)は、保存安定性、印字濃度に優れたものとなっている。
【0031】
工程II
工程IIでは、工程Iで得られた固溶体顔料を含有するポリマー粒子を含む水分散体(A)に架橋剤を添加して、水分散体(A)中のアニオン性ポリマーを架橋処理することによって、固溶体顔料を含有する架橋アニオン性ポリマー粒子がカチオン性ポリマーとの作用により連鎖状に繋がれた形態のポリマー粒子を含む水分散体(B)として得ることができる。
アニオン性ポリマーを架橋処理することによって、水分散体の保存安定性を向上させることができる。なお、アニオン性ポリマーの架橋処理は、前記工程(2)の有機溶媒を除去する前に行ってもよいが、保存安定性を向上させる観点から、工程Iの後に行うことが好ましい。
工程Iの後に架橋することで、連鎖状に繋がれたアニオン性ポリマー粒子間での架橋が起こり、本発明の水分散体及び水系インクの保存安定性を更に向上させることができるものと考えられる。
ここで、架橋剤としては、アニオン性ポリマーのアニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上、好ましくは2〜6有する化合物がより好ましい。
ここで用いられる架橋剤は、アニオン性ポリマー、中でも水不溶性アニオン性ポリマーの表面を効率よく架橋する観点から、25℃の水100gに溶解させたときの溶解量が、好ましくは50g以下、より好ましくは40g以下、更に好ましくは30g以下である。また、その分子量は、架橋反応のし易さ及び水分散体の保存安定性の観点から、好ましくは120〜2000、より好ましくは150〜1500、更に好ましくは150〜1000である。
【0032】
(架橋剤)
架橋剤の好適例としては、次の(i)〜(iii)が挙げられる。
(i)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物:例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル。
(ii)分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物:例えば、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、1,3−フェニレンビスオキサゾリン、1,3−ベンゾビスオキサゾリン等のビスオキサゾリン化合物、該化合物と多塩基性カルボン酸とを反応させて得られる末端オキサゾリン基を有する化合物。
(iii)分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物:例えば、有機ポリイソシアネート又はイソシアネート基末端プレポリマー。
これらの中では、(i)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0033】
架橋剤の使用量は、水分散体の保存安定性の観点から、〔架橋剤/アニオン性ポリマー〕の重量比で0.3/100〜50/100が好ましく、1/100〜40/100がより好ましく、2/100〜30/100が更に好ましく、5/100〜25/100が更に好ましい。
また、架橋剤の使用量は、保存安定性の観点から、アニオン性ポリマー1g当たりのアニオン性基量換算で、該ポリマーのアニオン性基0.1〜20mmolと反応する量であることが好ましく、0.5〜15mmolと反応する量であることがより好ましく、1〜10mmolと反応する量であることが更に好ましい。
架橋処理して得られたアニオン性架橋ポリマーは、ポリマー1g当たり、塩基で中和されたアニオン性基(好ましくはカルボキシ基)を0.5mmol以上含有することが好ましい。かかる架橋ポリマーは、水分散体中で解離して、アニオン同士の電荷反発により、固溶体顔料を含有する架橋ポリマー粒子の安定性に寄与すると考えられる。
ここで、下記式(1)から求められるアニオン性架橋ポリマーの架橋率(モル%)は、保存安定性の観点から、好ましくは10〜80モル%、より好ましくは20〜70モル%、更に好ましくは30〜60モル%である。架橋率は、架橋剤の使用量と反応性基のモル数、アニオン性ポリマーの使用量と架橋剤の反応性基と反応できるアニオン性ポリマーの反応性基のモル数から計算で求めることができる。
架橋率(モル%)=[架橋剤の反応性基のモル数×100/アニオン性ポリマーが有する架橋剤と反応できる反応性基のモル数] (1)
式(1)において、「架橋剤の反応性基のモル数」とは、使用する架橋剤の重量を反応性基の当量で除した値である。即ち、使用する架橋剤のモル数に架橋剤1分子中の反応性基の数を乗じたものである。
【0034】
上記の製造方法により得られる固溶体顔料を含むアニオン性(架橋)ポリマー粒子の水分散体は、固溶体顔料を含むアニオン性ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。
上記の製造方法により得られる固溶体顔料を含むアニオン性(架橋)ポリマー粒子の平均粒径は、分散性、印字濃度の観点から、50〜300nmが好ましく、60〜200nmがより好ましく、70〜150nmが更に好ましい。平均粒径は、動的光散乱法で測定されるものであり、具体的には実施例の方法によって測定される。
【0035】
[インクジェット記録用水分散体]
本発明の水分散体は、ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子、及びカチオン性ポリマーを含有するインクジェット記録用水分散体であって、ポリマー粒子を構成するポリマーがベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレートを由来とする構成単位を30〜80重量%含むものであるが、乾燥防止のために、保湿剤、有機溶媒を添加することができ、そのまま水系インクとして用いることもできる。
本発明の水分散体中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
本発明の水分散体に用いられるアニオン性ポリマー粒子に含まれる固溶体顔料の水分散体中での含有量は、印字濃度を高める観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2〜20重量%、更に好ましくは4〜15重量%、更に好ましくは4〜8重量である。
また、アニオン性ポリマー粒子と、カチオン性ポリマーの比〔アニオン性ポリマー粒子/カチオン性ポリマー〕は、水分散体の印字濃度を高める観点から、好ましくは5000〜40、より好ましくは2000〜80、更に好ましくは1000〜100である。
水の含有量は、好ましくは20〜90重量%,より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
本発明の水分散体の好ましい表面張力(20℃)は、30〜70mN/m、より好ましくは35〜65mN/mである。
本発明の水分散体の20重量%(固形分)の粘度(20℃)は、好ましくは1〜12mPa・s、より好ましくは1〜9mPa・s、より好ましくは2〜6mPa・s、更に好ましくは2〜5mPa・sである。
【0036】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子、及びカチオン性ポリマーを含有するインクジェット記録用水分散体であって、ポリマー粒子を構成するポリマーがベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレートを由来とする構成単位を30〜80重量%含むものであるが、水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等を添加することができる。
本発明の水系インク中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
本発明の水系インクに用いられるアニオン性ポリマー粒子に含まれる固溶体顔料のインク中での含有量は、水系インクの印字濃度を高める観点から、水系インク中で、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2〜20重量%、より好ましくは4〜15重量%、更に好ましくは5〜12重量である。
水の含有量は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
本発明の水系インクの好ましい表面張力(20℃)は、23〜50mN/m、より好ましくは23〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mである。
本発明の水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出信頼性を維持するために、好ましくは2〜20mPa・sであり、より好ましくは2.5〜16mPa・s、更に好ましくは2.5〜12mPa・sである。
本発明の水系インクを適用するインクジェットの方式は制限されないが、顔料等分散性色材を含有する分散液の吐出に適したピエゾ方式のインクジェットプリンターに好適である。
【実施例】
【0037】
以下の実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。なお、ポリマーの重量平均分子量、ポリマー粒子の平均粒径の測定は、以下の方法により行い、実施例及び比較例で得られた水系インクについて、保存安定性を評価し、以下の印刷方法により印刷して、印字濃度及び彩度を評価した。
(1)アニオン性ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶媒として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
(2)固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子及びアニオン性架橋ポリマー粒子の平均粒径の測定
大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて測定した。測定する粒子の濃度を、約5×10-3重量%なるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0038】
(3)保存安定性
水系インクをガラス製密閉容器に充填し、70℃で14日間保存し、保存前後の水系インクの粘度をE型粘度計(東機産業株式会社製、RE80L、ローター1)を用いて、20℃、50r/minの条件で粘度を測定し、下記式より粘度変化率を求めた。
測定した粘度の値を用い、下記式より粘度変化率を算出し、以下の評価基準に基づいて
保存安定性を評価した。粘度変化率の絶対値が小さいほど、保存安定性が良好である。
粘度変化率(%)=((〔保存後の粘度〕−〔保存前の粘度〕)/〔保存前の粘度〕)×100
【0039】
(4)印刷方法
インクを、シリコンチューブを介して、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EM−930C、ピエゾ方式)のブラックヘッド上部のインク注入口に充填する。次いで、フォトショップ(アドビ社製、商品名)によりベタ印字の印刷パターン(横204mm×縦275mmの大きさ)を作成し、ベタのDutyを変化させて試し印字〔印字条件=用紙種類:普通紙、モード設定:ブラック、ファイン、双方向〕を行い、実際の吐出量が0.75±0.01mg/cm2となるようにDutyを調整した。吐出量は、インクが入ったスクリュー管の重量変化を測定した。調整したDutyのベタ画像を用い、市販の普通紙(商品名:XEROX4200、XEROX社製、上質普通紙)に印字を行った。
【0040】
(5)印字濃度の測定
印字物を25℃湿度50%で24時間放置後、印字面の印字濃度を測定した。印字濃度の測定にはマクベス濃度計(グレタグマクベス社製、スペクトロアイ、商品名)を用い、測定条件は、観測光源を D65とし、観測視野を2度とし、濃度基準を DIN16536とし、マゼンタの色濃度成分の数値を読み取った。測定回数は、測定する場所を変え、双方向印字の往路において印字された部分から5点、復路において印字された部分から5点をランダムに選び、合計10点の平均値を求めた。
印字濃度は、数値が大きいほど良好である。
【0041】
(6)彩度の測定
印字物を25℃湿度50%で24時間放置後、前記のマクベス濃度計を用い、測定モードをL***に設定し、観測光源をD65とし、観測視野を2度とし、CIELAB基準で、印字面のa*値、b*値を測定し、彩度(メトリック彩度)を算出した。測定回数は、測定する場所を変え、双方向印字の往路において印字された部分から5点、復路において印字された部分から5点をランダムに選び、合計10点の平均値を求めた。
彩度は、L***表色系で、下記式のとおり、中心(a*、b*が共に0の位置:無彩色)からの距離で表される。彩度は、数値が大きいほど、色があざやかで良好である。
彩度=〔(a*2+(b*21/2
【0042】
実施例1(インクジェット記録用水分散体の調製)
(1)アニオン性ポリマーの合成
ベンジルメタクリレート142部、メタクリル酸38部、末端にメタクリロイル基を有するスチレンマクロマー(東亞合成株式会社製、商品名:AS−6S)(固形分50%)40部を混合し、モノマー混合液を調製した。
反応容器内に、メチルエチルケトン18部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03部、前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%と前記重合連鎖移動剤0.27部とメチルエチルケトン42部及び重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合したものを入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了から75℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ベンジルメタクリレートを由来とする構成単位を71重量%含むアニオン性ポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量:90000)を得た。
【0043】
(2)固溶体顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体の調製
上記(1)で得られたアニオン性ポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたアニオン性ポリマー45部をメチルエチルケトン300部に溶かし、その中に中和剤5N水酸化ナトリウム水溶液10.2部と25%アンモニア水12.2部、及びイオン交換水1150部を加え、更にマゼンタ顔料(2,9−ジクロロキナクリドンと無置換キナクリドンからなる固溶体顔料、チバ・ジャパン株式会社製、商品名:クロモフタルジェットマゼンタ2BC)180部を加え、ディスパー翼7000rpmで20℃で1時間混合したのち、ビーズミル型分散機(寿工業株式会社製、ウルトラ・アペックス・ミル、型式UAM-05、メディア粒子:ジルコニアビーズ、粒径:0.05mm)を用いて20℃で40分間混合分散した。得られた分散液をマイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製、高圧ホモジナイザー、商品名、型式M-140K)を用いて、180MPaの圧力でさらに5パス分散処理した。
得られた分散液を、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、フィルター(ザルトリウス社製、ミニザルトシリンジフィルター、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して粗大粒子を除き、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:30.0%、平均粒径80nm)を得た。
【0044】
(3)インクジェット記録用水分散体の調製
上記(2)で得られた固溶体顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体50gをビーカーに入れ、0℃の水浴に漬け、ホモジナイザーで7000rpmで分散しながら、ポリエチレンイミン(株式会社日本触媒製、エポミンSP−200、数平均分子量1万)の0.3%水溶液9.5gを20ml/分の速度で滴下した。得られた分散液を前記フィルター(ザルトリウス社製、孔径:5μm)でろ過して粗大粒子を除き、平均粒径110nmのインクジェット記録用水分散体を得た。さらに、得られた水分散体40gに、エポキシ系架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321、エポキシ当量140)0.47gとイオン交換水1.07gを加えて、90℃温浴で、撹拌しながら1時間保持した。冷却後、前記フィルター(ザルトリウス社製、孔径:5μm)でろ過して粗大粒子を除き、平均粒径115nmの固溶体顔料を含有するアニオン性架橋ポリマー粒子(前記式(1)による架橋ポリマーの架橋率:56.8モル%)とポリエチレンイミンを含有するインクジェット記録用水分散体を得た。
【0045】
実施例2(インクジェット記録用水分散体の調製)
(1)アニオン性ポリマーの合成
実施例1(1)において、ベンジルメタクリレートをベンジルアクリレートに代えた以外は、実施例1(1)と同様にして、アニオン性ポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量:90000)を得た。
(2)固溶体顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体の調製
実施例1(2)において、実施例1(1)で得られたアニオン性ポリマー溶液を、調製例2(1)で得られたアニオン性ポリマー溶液に代えた以外は、実施例1(2)と同様にして、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:30.0%、平均粒径80nm)を得た。
(3)インクジェット記録用水分散体の調製
実施例1(3)において、実施例1(2)で得られた固溶体顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体を、調製例2(2)で得られた固溶体顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体に代えた以外は、実施例1(3)と同様にして、インクジェット記録用水分散体を得た。
【0046】
比較例1(インクジェット記録用水分散体の調製)
(1)アニオン性ポリマーの合成
実施例1(1)において、ベンジルメタクリレートをスチレンに代えた以外は、実施例1(1)と同様にして、アニオン性ポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量:90000)を得た。
(2)固溶体顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体の調製
実施例1(2)において、実施例1(1)で得られたアニオン性ポリマー溶液を、比較例1(1)で得られたアニオン性ポリマー溶液に代えた以外は、実施例1(2)と同様にして、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:30.0%、平均粒径85nm)を得た。
(3)インクジェット記録用水分散体の調製
実施例1(3)において、実施例1(2)で得られた顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体を、比較例1(2)で得られた固溶体顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体に代えた以外は、実施例1(3)と同様にして、インクジェット記録用水分散体を得た。
【0047】
比較例2(インクジェット記録用水分散体の調製)
(1)アニオン性ポリマーの合成
実施例1(1)と同様にして、アニオン性ポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量:90000)を得た。
(2)固溶体顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体の調製
実施例1(2)において、固溶体顔料を2,9−ジメチルキナクリドンと無置換キナクリドンからなる固溶体顔料(DIC株式会社製、商品名:Fastgen Super Magenta RY)、に代えた以外は、実施例1(2)と同様にして、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:30.0%、平均粒径85nm)を得た。
(3)インクジェット記録用水分散体の調製
実施例1(3)において、比較例2(2)で得られた固溶体顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体を用いた以外は、実施例1(3)と同様にしてインクジェット記録用水分散体を得た。
【0048】
比較例3(インクジェット記録用水分散体の調製)
(1)アニオン性ポリマーの合成
実施例1(1)と同様にして、アニオン性ポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量:90000)を得た。
(2)キナクリドン顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体の調製
実施例1(2)において、固溶体顔料を2,9−ジメチルキナクリドンからなる顔料(DIC株式会社製、商品名:Fastgen Super Magenta RG)、に代えた以外は、実施例1(2)と同様にして、キナクリドン顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体〔固形分濃度:30.0%、平均粒径90nm〕を得た。
(3)インクジェット記録用水分散体の調製
実施例1(3)において、比較例3(2)で得られたキナクリドン顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体を用いた以外は、実施例1(3)と同様にしてインクジェット記録用水分散体を得た。
【0049】
比較例4(インクジェット記録用水分散体の調製)
(1)アニオン性ポリマーの合成
実施例1(1)と同様にして、アニオン性ポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量:90000)を得た。
(2)キナクリドン顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体の調製
実施例1(2)と同様にして、固溶体顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:30.0%、平均粒径80nm)を得た。
(3)インクジェット記録用水分散体の調製
実施例1(3)でポリエチレンイミンを添加しなかったこと以外は、実施例1(3)と同様にしてインクジェット記録用水分散体を得た。
【0050】
実施例3〔インクの製造〕
1,2−ヘキサンジオール(東京化成工業株式会社製)2.0部、2−ピロリドン(和光純薬株式会社製)2.0部、サーフィノール465(日信化学工業株式会社製)0.5部、オルフィンE1010(日信化学工業株式会社製)0.5部、グリセリン(花王株式会社製)2.0部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(商品名:ブチルトリグリコール、日本乳化剤株式会社製)10.0部、プロキセルXL2(アビシア株式会社製)0.3部、及びイオン交換水をマグネチックスターラーで撹拌しながら、混合し、更に室温で15分間攪拌して、混合溶液を得た。ここでイオン交換水の配合量は、混合溶液と前記実施例1で得られたインクジェット記録用水分散体を加えた全量が100部となるように調整した量である。
次に実施例1で得られたインクジェット記録用水分散体41.7部(固形分換算12.5部、顔料分換算10.0部)をマグネチックスターラーで撹拌しながら、前記混合溶液を添加し、1.2μmのフィルター(酢酸セルロース膜、ザルトリウス社製)で濾過し、水系インクを得た。
【0051】
実施例4〔インクの製造〕
実施例3において、実施例2で調製した水分散体を用いたこと以外は、実施例3と同様にして水系インクを得た。
比較例5〔インクの製造〕
実施例3において、比較例1で調製した水分散体を用いたこと以外は、実施例3と同様にして水系インクを得た。
比較例6〔インクの製造〕
実施例3において、比較例2で調製した水分散体を用いたこと以外は、実施例3と同様にして水系インクを得た。
比較例7〔インクの製造〕
実施例3において、比較例3で調製した水分散体を用いたこと以外は、実施例3と同様にして水系インクを得た。
比較例8〔インクの製造〕
実施例3において、比較例4で調製した水分散体を用いたこと以外は、実施例3と同様にして水系インクを得た。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から、実施例3〜4のインクは、比較例5〜8のインクに比べて、印字濃度、保存安定性に優れ、彩度が高いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子、及びカチオン性ポリマーを含有するインクジェット記録用水分散体であって、該アニオン性ポリマー粒子を構成するポリマーが、ベンジルメタクリレート及び/又はベンジルアクリレートを由来とする構成単位を30〜80重量%含むものである、インクジェット記録用水分散体。
【請求項2】
固溶体顔料がジクロロキナクリドン及び無置換キナクリドンからなる、請求項1に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項3】
カチオン性ポリマーがポリエチレンイミンである、請求項1〜2のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項4】
アニオン性ポリマー粒子を構成するポリマーが架橋剤によって架橋されたものである、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項5】
アニオン性ポリマー粒子を構成するポリマーが、全て同一の重合性基を有するモノマーを由来とする構成単位からなるものである、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項6】
モノマーの重合性基がメタクリロイル基である、請求項5に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水分散体を含有する、インクジェット記録用水系インク。
【請求項8】
下記の工程Iを有する請求項1に記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
工程I:ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子を含む水分散体(a)にカチオン性ポリマーを添加して水分散体(A)を得る工程
【請求項9】
下記の工程I及び工程IIを有する請求項4に記載のインクジェット記録用水分散体の製造方法。
工程I:ジクロロキナクリドンを含有する固溶体顔料を含むアニオン性ポリマー粒子を含む水分散体(a)にカチオン性ポリマーを添加して水分散体(A)を得る工程
工程II:工程Iで得られた水分散体(A)に架橋剤を添加して、水分散体(A)中のアニオン性ポリマーを架橋処理し、インクジェット記録用水分散体を得る工程

【公開番号】特開2010−265398(P2010−265398A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118468(P2009−118468)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】