説明

インクジェット記録用紙

【課題】芸術性のあるしっとりした光沢感を有するインクジェット記録用紙を提供することである。さらには印刷の黒濃度に優れ、印刷暗部の階調表現性に優れ、モノクロプリントに好適なインクジェット記録用紙を提供することである。
【解決手段】透気性を有する支持体の少なくとも一方の面に、少なくとも2層の顔料および結着剤を含有するインク受理層を設けたインクジェット記録用紙において、最外層のインク受理層に含まれる顔料全体の90質量%以上がコロイダルシリカであり、最外層以外の各インク受理層に含まれる顔料の少なくとも1種がアルミナ水和物であり、アルミナ水和物が最外層以外の各層における顔料全体の90質量%以上であり、少なくとも最外層のインク受理層がカレンダー処理されたことを特徴とするインクジェット記録用紙により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芸術性のあるしっとりした表面光沢感を有するインクジェット記録用紙に関し、特にモノクロプリント適性に優れたインクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、ノズルから記録用紙に向けて、色材と多量の溶媒よりなるインク液滴を高速で射出するものであり、装置が比較的小型化でき、フルカラー化が容易なことや、印刷騒音が低いこと、さらには顔料インクの出現によって、耐光性や保存性が進化し、めざましい普及を遂げている。
【0003】
このような背景により、写真・アートやデザイン作品の制作分野で画家、写真家、デザイナーまたはクリエーターに至るまでインクジェット記録方式のプリンタすなわちインクジェットプリンタで、特に顔料インクを搭載するインクジェットプリンタで作品を製作すること、さらにはインクジェットプリンタによって作品を複製印刷する要求が高まっている。その際、用紙の有する自然な光沢感の風合いを生かした、所謂「高光沢用紙」や「マット紙」ではない、しっとりした光沢感を有する芸術性や意匠性が高い記録用紙を求める場合がある。
【0004】
意匠性のために「てかり」を抑えた用紙として、基材上に平均粒子径1〜20μmのシリカアルミナ複合粒子と平均粒子径1〜20μmのシリカ粒子を含むインク受理層を有するインクジェット記録媒体がある(例えば、特許文献1参照)。また、オフセット印刷用のアート紙と同様の風合いの用紙として、光沢層の75°光沢が50%以上であり、20°光沢が10%以下であるインクジェット記録媒体がある(例えば、特許文献2参照)。また、高光沢用紙として、75°光沢値と20°光沢値との差が50以下であるインクジェット記録シートがある(例えば、特許文献3参照)。また、20°光沢が20%以上、75°光沢が75%以上であり、60°写像性が55%以上であるインクジェット記録用紙がある(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、これらの用紙は光沢のないマット紙あるいは写真プリント用の高光沢用紙であって、芸術性のあるしっとりした光沢感を有するものではない。
【0005】
一方、銀塩モノクロ写真印画紙の販売終了に伴い、顔料インクを搭載するインクジェットプリンタでモノクロプリントを作製するユーザーが増加している。モノクロプリントでは、黒100%の印刷濃度が高くなければ、幅広い黒濃度表現性が得られない。従って、マクベス光学反射濃度計で測定される印刷の黒濃度が2以上を要求されている。また印刷暗部の階調が得られなければ、印刷暗部の中で濃淡表現ができず、印刷暗部のモノクロ表現が得られない。従って、印刷暗部の階調表現性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−264470号公報
【特許文献2】特開2001−150800号公報
【特許文献3】特開2005−262512号公報
【特許文献4】特開2005−219218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、芸術性のあるしっとりした光沢感を有するインクジェット記録用紙を提供することである。さらには印刷の黒濃度に優れ、印刷暗部の階調表現性に優れ、モノクロプリントに好適なインクジェット記録用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、透気性を有する支持体の少なくとも一方の面に、少なくとも2層の顔料および結着剤を含有するインク受理層を設けたインクジェット記録用紙において、最外層のインク受理層に含まれる顔料全体の90質量%以上がコロイダルシリカであり、最外層以外の各インク受理層に含まれる顔料の少なくとも1種がアルミナ水和物であり、アルミナ水和物が最外層以外の各層における顔料全体の90質量%以上であり、最外層のインク受理層がカレンダー処理されたことを特徴とするインクジェット記録用紙により達成される。
【0009】
好ましくは、最外層のインク受理層表面におけるJIS P8142に準拠する75°入反射角度光沢度が60%以上85%以下であり、JIS Z8741に準拠する20°入反射角度光沢度が12%以上30%以下であり、JIS H8686で規定される像鮮明度(C値)として求められる写像性が25%以上45%以下のインクジェット記録用紙である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光沢紙でもなくマット紙でもない芸術性のあるしっとりした光沢感を有するインクジェット記録用紙を提供することができる。さらには印刷の黒濃度および印刷暗部の階調表現性に優れ、モノクロプリントに好適なインクジェット記録用紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のインクジェット記録用紙について詳細に説明する。
【0012】
本発明において、透気性を有する支持体は、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ等の木材パルプ、およびケナフ、バガス、竹、コットン等の非木材パルプと従来公知の顔料を主成分として、結着剤、およびサイズ剤や定着剤、歩留まり向上剤、カチオン化剤、紙力増強剤等の各種添加剤を必要に応じて混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等の各種装置で製造された紙支持体、さらに紙支持体に、澱粉、ポリビニルアルコール等でのサイズプレスやアンカーコート層を設けた紙支持体や、それらの上にコート層を設けたアート紙、コート紙、キャストコート紙等の塗工紙支持体も含まれる。このような紙支持体、および塗工紙支持体に、本発明にかかるインク受理層を直接設けてもよいし、平坦化をコントロールする目的でマシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー等のカレンダー装置を使用してカレンダー処理をしてからインク受理層を設けてもよい。また、支持体の坪量としては、通常40〜300g/mであるが、特に限定されない。
【0013】
本発明において、支持体の少なくとも一方の面に、少なくとも2層の顔料および結着剤を含有するインク受理層を設ける。インク受理層とは、顔料と結着剤を主成分とする塗被組成物を塗工し形成されるものである。インク受理層に用いられる顔料としては、公知の顔料を1種以上用いることができる。例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等、さらにアルミナ、ベーマイト、擬ベーマイト、水酸化アルミニウムのアルミナ水和物等の無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料が挙げられる。
【0014】
本発明において、最外層のインク受理層の顔料は、最外層のインク受理層に含まれる顔料全体の90質量%以上がコロイダルシリカである。最外層のインク受理層とは、原紙からみて最も外側のインク受理層をいう。
【0015】
本発明において、最外層のインク受理層に用いられるコロイダルシリカは、コロイド状に水に分散させた超微粒子シリカゾルであり、一般に公知のコロイダルシリカを使用することができる。コロイダルシリカの好ましい平均粒子径は、5nm以上80nm以下の範囲であり、より好ましくは10nm以上50nm以下の範囲である。
【0016】
本発明で使用される場合、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法あるいは動的光散乱法を用いた体積を基準とした粒度分布測定に基づく平均粒子径である。平均粒子径が3μm以上の場合は、コールターカウンター法に基づく平均粒子径である。例えば、日機装社製レーザー回折・散乱式粒度分布測定器Microtrac MT3000IIを用いて測定することができる。
【0017】
本発明において、最外層のインク受理層は、コロイダルシリカとしてコロイダルシリカ複合合成樹脂を含有することが好ましい。コロイダルシリカ複合合成樹脂はコロイダルシリカと合成樹脂が結合した複合体である。顔料インクを搭載するインクジェットプリンタに対し、最外層のインク受理層にコロイダルシリカ複合合成樹脂を含有することにより、印刷の黒濃度をより高めることができ、モノクロプリントにより好適となる。コロイダルシリカ複合合成樹脂が印刷の黒濃度をより高めることができる理由は不明であるが、コロイダルシリカと合成樹脂が結合しているために、顔料インクの沈み込みを抑制した小さな細孔の多孔質層を形成すると考えられる。
【0018】
本発明において、最外層のインク受理層に用いるコロイダルシリカ複合合成樹脂は、特開昭59−71316号公報、特開昭59−152972号公報、特開昭60−127371号公報、特許第3599677号公報に開示されている。
【0019】
コロイダルシリカ複合合成樹脂は、平均粒子径10nm以上100nm以下の合成樹脂粒子の表面に平均粒子径5nm以上80nm以下のコロイダルシリカが化学結合した構造を有する。本発明では、コロイダルシリカ複合合成樹脂を用いる時のコロイダルシリカの含有量は、コロイダルシリカ複合合成樹脂を構成するコロイダルシリカ分に相当する。また、コロイダルシリカ複合合成樹脂を構成する合成樹脂は結着剤の含有量に加える。
【0020】
コロイダルシリカ複合合成樹脂において、コロイダルシリカ複合合成樹脂を構成する合成樹脂は、シリル基を有するラジカル重合性不飽和単量体とシリル基を有さない共重合可能なラジカル重合性不飽和単量体とを界面活性剤の存在下で乳化重合することによって得ることができる。
【0021】
乳化重合は、水性媒体中で重合開始剤の添加のもとに行われる。この際、他の成分としてさらに保護コロイド、連鎖移動剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、光酸化防止剤等を必要に応じて適宜使用することができる。
【0022】
乳化重合は、公知の乳化重合法を用いることができる。例えば、各成分を一括して反応缶に仕込んで重合するバッチ重合法、乳化剤を含む水媒体中で単量体の一部を初期重合した後に残りの乳化剤と単量体を滴下して重合する滴下重合法、または滴下する成分を予め水に乳化分散させて行う乳化単量体滴下法等の種々の重合方法が挙げられる。本発明に用いられるコロイダルシリカ複合合成樹脂の合成樹脂を得るための乳化重合法として、微粒子の合成樹脂を得るために乳化単量体滴下法を用いることが好ましい。さらに、重合段階での単量体組成を段階的に変化させる多段重合法や、単量体組成を随時変更させていくパワーフィード重合法、あるいは核となる種を加えて重合するシード重合法等を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0023】
本発明において、シリル基を有するラジカル重合性不飽和単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。これら不飽和単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましいシリル基を有するラジカル重合性不飽和単量体としては、重合性の観点から、ビニルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0024】
重合反応で使用するシリル基を有するラジカル重合性不飽和単量体の量は、使用する全ラジカル重合性不飽和単量体(後述のラジカル重合性界面活性剤も含む)100質量部に対して、0.1質量部以上15質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上10質量部以下である。シリル基を有するラジカル重合性不飽和単量体の使用量が0.1質量部未満であると、合成樹脂とコロイダルシリカとの複合化が不十分となる場合がある。また15質量部超であると、重合の不安定化、凝集物の多発生、反応溶液の高粘度化等が起こり、うまく重合できない場合がある。合成樹脂の単量体としてシリル基を有するラジカル重合性不飽和単量体を使用することによって、コロイダルシリカのシラノール基と合成樹脂とをカップリングさせることができ、コロイダルシリカと合成樹脂とが化学的に結合してコロイダルシリカ複合合成樹脂を形成することができる。
【0025】
本発明において、シリル基を有さない共重合可能なラジカル重合性不飽和単量体は、例えば、メチル、エチル、n−ブチル、t−ブチル、プロピル、2−エチルヘキシル、オクチル等のアルキル基の炭素数が1以上12以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、およびスチレンまたは分岐カルボン酸のビニルエステルからなる群より選ばれる1種以上と、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸またはマレイン酸からなるエチレン性不飽和カルボン酸群より選ばれる1種以上とを併用することが好ましい。アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、スチレン、およびアクリル酸2−エチルヘキシルからなる群より選ばれる1種以上と、(メタ)アクリル酸とを併用することがより好ましい。
【0026】
本発明において、乳化重合で用いられる界面活性剤は、乳化重合の際の乳化剤として機能する。乳化重合で用いられる界面活性剤には、通常のアニオン性、カチオン性またはノニオン性界面活性剤を用いることができる。また、分子内にラジカル重合可能な不飽和基を1個以上有するラジカル重合性界面活性剤を好ましく用いることができる。ラジカル重合性界面活性剤は、分子内の重合性不飽和結合の存在により、乳化重合の際に単量体と共に共重合することができる。これにより、乳化重合後に界面活性剤のままで残らないため、インク受理層を形成した時に遊離性の界面活性剤として皮膜表面にブリードアウトせず、インク吸収性を阻害しないために好ましい。このようなラジカル重合性界面活性剤は、公知の物質から適宜選択することができる。
【0027】
コロイダルシリカ複合合成樹脂を構成する合成樹脂は、粒子状であり、合成樹脂粒子の平均粒子径は10nm以上100nm以下であることが好ましい。合成樹脂粒子の平均粒子径が10nm未満であると、得られるコロイダルシリカ複合合成樹脂の粒子径が小さくなるため表面の多孔質性を低下させてしまい、インク吸収性を低下させる場合がある。平均粒子径が100nm超であると、逆に得られるコロイダルシリカ複合合成樹脂の粒子径が大きくなりすぎるため表面の多孔質性が過多となり、印刷の黒濃度が低下する場合がある。合成樹脂粒子の平均粒子径は20nm以上80nm以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明において、コロイダルシリカ複合合成樹脂は、上述で得られた合成樹脂をコロイダルシリカの存在下で攪拌しながら混合し、必要に応じて加温して合成樹脂のシリル基とコロイダルシリカのシラノール基とを反応させることによって得ることができる。
【0029】
本発明において、コロイダルシリカ複合合成樹脂を構成するコロイダルシリカは、上記のコロイダルシリカと同様、コロイド状に水に分散させた超微粒子シリカゾルであり、一般に公知のコロイダルシリカを使用することができる。コロイダルシリカ複合合成樹脂を構成する場合のコロイダルシリカの平均粒子径は、5nm以上80nm以下が好ましい。平均粒子径をこの範囲にすることによって、合成樹脂のまわりにコロイダルシリカが覆い尽くすように結合することができる。より好ましくは、平均粒子径は10nm以上50nm以下である。コロイダルシリカ複合合成樹脂の平均粒子径は20nm以上300nm以下であることが好ましい。より好ましくは、50nm以上200nm以下である。
【0030】
本発明において、コロイダルシリカ複合合成樹脂は、コロイダルシリカと合成樹脂の質量比がコロイダルシリカ/合成樹脂=30/70〜70/30の範囲であることが好ましい。
【0031】
本発明において、コロイダルシリカは、単独で使用されるコロイダルシリカの場合も、コロイダルシリカ複合合成樹脂を構成するコロイダルシリカの場合も、市販品を使用することができる。またメタアルミン酸イオン等の金属イオンにより表面処理されたコロイダルシリカも使用できる。コロイダルシリカの形状としては、単独粒子状のコロイダルシリカであってもよいし、粒子が特殊処理により数珠状に連なったり分岐して繋がったコロイダルシリカであってもよい。メタアルミン酸イオン等の金属イオンにより表面処理されたコロイダルシリカは、混和安定性に優れており、凝集し難い点で好ましい。
【0032】
本発明において、最外層以外の各インク受理層に含まれる顔料の少なくとも1種はアルミナ水和物であり、最外層を除く各層における各々の顔料全体の90質量%以上がアルミナ水和物である。最外層のインク受理層がコロイダルシリカを有し、最外層以外の各インク受理層にアルミナ水和物を有することで、しっとりした光沢感を得ることができる。
【0033】
アルミナ水和物の1次粒子として平均粒子径は5nm以上50nm以下が好ましく、より好ましくは5nm以上20nm以下である。アルミナ水和物の形状としては、単独粒子状のアルミナ水和物であってもよいし、複数の粒子が凝集した凝集粒子を形成したアルミナ水和物であってもよい。このようなアルミナ水和物の市販品を使用することができる。
【0034】
本発明において、最外層を含む各インク受理層に用いられる結着剤としては、澱粉または酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、ポリビニルアルコールまたはアセトアセチル変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸樹脂、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの重合体または共重合体等のアクリル系重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体、あるいはこれら各種重合体のカルボキシル基等の官能基含有単量体による官能基変性重合体、メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化合成樹脂等の水性接着剤、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂等の合成樹脂系接着剤等を挙げることができる。結着剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。結着剤の最外層を含む各インク受理層中の含有量としては、顔料100質量部に対して5質量部以上70質量部以下であり、より好ましくは10質量部以上35質量部以下である。
【0035】
最外層のインク受理層の結着剤は、少なくとも1種にシラノール変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。シラノール変性ポリビニルアルコールとコロイダルシリカを有することにより印刷黒濃度が高く、よりモノクロプリント適性に優れる。この理由は不明であるが、シラノール変性ポリビニルアルコールとコロイダルシリカとは相互作用が強く、シラノール変性ポリビニルアルコールとコロイダルシリカを有するインク受理層は顔料インクの沈み込みを抑制した小さな多孔質層を形成すると考えられる。シラノール変性ポリビニルアルコールの含有量は、最外層のインク受理層が含有するコロイダルシリカ(コロイダルシリカ複合合成樹脂を構成するコロイダルシリカ分を除く)100質量部に対し1質量部以上15質量部以下であることが好ましい。
【0036】
最外層を含む各インク受理層には、添加剤として、染料定着剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤等を適宜配合することもできる。
【0037】
最外層を含む各インク受理層の塗工方法としては、ブレードコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター、ショートドウェルコーター、サイズプレス等を挙げることができる。乾燥固形分の塗工量としては、最外層のインク受理層は1g/m以上7g/m以下が好ましく、最外層以外の各インク受理層は7g/m以上30g/m以下であることが好ましい。なお、最外層以外の各インク受理層合計の塗工量は30g/m以下が好ましい。
【0038】
本発明において、最外層のインク受理層は光沢感や写像性を調整するためにカレンダー処理される。また、各インク受理層を設けた段階の支持体は、必要とする密度、平滑度、透気度、吸水性、外観、光沢度を得るためにカレンダー処理を施すことができる。装置としては硬質ロール同士、弾性ロール同士、硬質ロールと弾性ロールの対の組み合わせからなるものが好適に使用され、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダー等と呼ばれており、意図的に加熱をする場合もある。加熱する際のロールの温度は30℃程の中低温から250℃程の高温に達する場合もある。また、ベルトとロールの組み合わせからなる装置も使用することができ、シューカレンダー、メタルベルトカレンダー等と呼ばれており、この場合も同様に加熱を伴う場合がある。また、ロール表面の微視的な形状は特に限定されるものではないが、好ましくは平滑面のロールである。
【0039】
本発明において、最外層のインク受理層表面のJIS P8142に準拠する75°入反射角度光沢度が60%以上85%以下であり、JIS Z8741に準拠する20°入反射角度光沢度が12%以上30%以下であり、且つJIS H8686で規定される像鮮明度(C値)として求められる反射角度45度の写像性が25%以上45%以下であることが好ましい。より好ましくは、75°入反射角度光沢度が75%以上85%以下であり、20°入反射角度光沢度が12%以上20%以下であり、反射角度45度の写像性が30%以上40%以下である。本発明者らは、反射角度が大きい時の光沢度が比較的低く、反射角度が比較的小さい時の光沢度が比較的高く、表面の写像が比較的見え難い時、知覚として「濡れている」と判断する傾向にあることを発見した。従って、本発明は、光沢度および写像性を上記の範囲にすることによって、このような知覚の傾向を利用することができる。
【0040】
光沢度が高く写像性が大きいほど光沢感が高くなるが、最外層のインク受理層表面の写像性が高いと外部光による光反射によって輝き感が強く、芸術性の観点から印刷物を作品として展示すると見づらくなる。最外層のインク受理層の光沢度や写像性を上記の範囲にすることによって、より芸術性のあるしっとりした光沢感を有するインクジェット記録用紙を得ることができる。本発明の芸術性のあるしっとりした光沢感とは、最外層のインク受理層に光を照射させた時、知覚される反射光に輝き感が小さいものであり、高い光沢度でありながら光沢感はあまり高くないことを指す。
【0041】
本発明において、写像性とは、光沢表面に物体が映った時、その像がどの程度鮮明に、また歪みなく映し出されるかの尺度であり、JIS H8686で規定される光学的装置を使用し、光学くしを通して得られた光量の波形から像鮮明度(C)として求める。光学くしは暗部明部の比が1:1で、その幅は0.125、0.5、1.0および2.0mmの各種のものがある。測定は、反射角度45度で、光学くしを移動させ、記録紙上の最高波形(M)および最低波形(m)を読み取り、C=(M−m)/(M+m)×100として像鮮明度を求める。像鮮明度Cは値が大きければ写像性がよく、小さければ「ぼやける」または「歪み」を持っていることを示す指標である。
【0042】
本発明において、写像性は、スガ試験機株式会社製写像性測定器を使用し、反射角度45度で、光学くしの幅2.0mmを用いて得られた像鮮明度C値である。
【0043】
本発明において、75°光沢度および20°光沢度は、JIS P8142およびJIS Z8741に準拠した村上色彩技術研究所製デジタル光沢計GM−26D型を使用し、入反射角を20°および75°として得られる値である。
【0044】
本発明において、75°光沢度、20°光沢度および写像性を本発明の範囲にする方法は、各層の顔料の種類や含有量を調整すること、最外層のインク受理層の塗工量を調整すること、および最外層のインク受理層に前記のカレンダー処理を施すことによって達成することができる。
【0045】
以下、実施例で説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例および比較例において「部」および「%」は、「質量部」および「質量%」を示す。
【実施例1】
【0046】
<支持体の作製>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム12部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤0.10部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で酸化澱粉(商品名:MS#3800、日本食品化工社製)を乾燥付着量で3.0g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量178g/mの支持体を作製した。
【0047】
<最外層のインク受理層塗工液1の調製>
コロイダルシリカ 100部
コロイダルシリカ複合合成樹脂(内コロイダルシリカ:54部) 90部
シラノール変性ポリビニルアルコール(ケン化度98%、平均重合度1700) 4部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度10%に調製した。なお、コロイダルシリカは平均粒子径35nmである。またコロイダルシリカ複合合成樹脂を構成する合成樹脂は、シリル基を有する単量体にビニルトリエトキシシランを用い、シリル基を有さない単量体としてスチレンおよびアクリル酸ブチルを用いた。コロイダルシリカ複合合成樹脂を構成するコロイダルシリカは平均粒子径30nmのコロイダルシリカを用いた。コロイダルシリカ複合合成樹脂を構成するコロイダルシリカと合成樹脂の質量比は、コロイダルシリカ/合成樹脂=60/40であり、コロイダルシリカ複合合成樹脂の平均粒子径は150nmである。
【0048】
<最外層のインク受理層塗工液2の調製>
コロイダルシリカ 100部
コロイダルシリカ複合合成樹脂(内コロイダルシリカ:54部) 90部
合成非晶質シリカ 15部
シラノール変性ポリビニルアルコール(ケン化度98%、平均重合度1700) 4部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度10%に調製した。なお、コロイダルシリカおよびコロイダルシリカ複合合成樹脂は最外層のインク受理層塗工液1と同様であり、合成非晶質シリカは平均粒子径2.6μmである。
【0049】
<最外層のインク受理層塗工液3の調製>
コロイダルシリカ 100部
コロイダルシリカ複合合成樹脂(内コロイダルシリカ:54部) 90部
合成非晶質シリカ 28部
シラノール変性ポリビニルアルコール(ケン化度98%、平均重合度1700) 4部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度10%に調製した。なお、コロイダルシリカ、コロイダルシリカ複合合成樹脂および合成非晶質シリカは最外層のインク受理層塗工液2と同様である。
【0050】
<最外層のインク受理層塗工液4の調製>
コロイダルシリカ 100部
シラノール変性ポリビニルアルコール(ケン化度98%、平均重合度1700)15部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度10%に調製した。なお、コロイダルシリカは最外層のインク受理層塗工液1と同様である。
【0051】
<最外層のインク受理層塗工液5の調製>
コロイダルシリカ 100部
コロイダルシリカ複合合成樹脂(内コロイダルシリカ:54部) 90部
ポリビニルアルコール(ケン化度88%、平均重合度3500) 4部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度10%に調製した。なお、コロイダルシリカおよびコロイダルシリカ複合合成樹脂は最外層のインク受理層塗工液1と同様である。
【0052】
<最外層以外のインク受理層塗工液1の調製>
アルミナ水和物 100部
アミド硫酸 0.2部
硼砂 1部
ポリビニルアルコール(ケン化度88%、平均重合度3500) 6部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度20%に調製した。なお、アルミナ水和物は平均粒子径10nmである。
【0053】
<最外層以外のインク受理層塗工液2の調製>
アルミナ水和物 90部
合成非晶質シリカ 10部
アミド硫酸 0.2部
硼砂 1部
ポリビニルアルコール(ケン化度88%、平均重合度3500) 6部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度20%に調製した。なお、アルミナ水和物は最外層以外のインク受理層塗工液1と同様であり、合成非晶質シリカは平均粒子径2.6μmである。
【0054】
<最外層以外のインク受理層塗工液3の調製>
アルミナ水和物 75部
合成非晶質シリカ 25部
アミド硫酸 0.2部
硼砂 1部
ポリビニルアルコール(ケン化度88%、平均重合度3500) 6部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度20%に調製した。なお、アルミナ水和物および合成非晶質シリカは最外層以外のインク受理層塗工液2と同様である。
【0055】
<インクジェット記録用紙の作製>
上記の支持体の上に、最外層以外のインク受理層塗工液を乾燥固形分の塗工量で10g/mとなるようにエアナイフコーターで塗工・乾燥した。このインク受理層上に最外層以外のインク受理層塗工液を乾燥固形分の塗工量で10g/mとなるようにエアナイフコーターで塗工・乾燥した。さらに、この2層目のインク受理層上に最外層のインク受理層塗工液を乾燥固形分の塗工量で1g/mとなるようにエアナイフコーターで塗工・乾燥した。続いて、平滑化のためのカレンダー処理を行い各インクジェット記録用紙を得た。なお、カレンダー処理は、金属ロールからなる装置を用いて、ニップ線圧は幅方向の厚みプロファイルが適切に得られる範囲において線圧80kN/m、金属ロール温度30℃または線圧180kN/m、金属ロール温度60℃で行った。
【0056】
表1にインク受理層塗工液および最外層のインク受理層塗工液の組み合わせ、カレンダー条件、並びに下記の方法による測定および評価結果を示した。
【0057】
【表1】

【0058】
(光沢度)
光沢度は、JIS Z8741およびJIS P8142に準拠した村上色彩技術研究所製デジタル光沢計GM−26D型を用いて入反射角度が20°、75°でそれぞれ測定した。
【0059】
(写像性)
スガ試験機株式会社製写像性測定器ICM−1DPを使用し、JIS H8686で規定される写像性C値を光学くしの幅2.0mm、反射角度45度で測定した。各サンプルについて5回測定し、平均値を採用した。
【0060】
(印刷黒濃度)
インクジェット記録用紙に、セイコーエプソン製インクジェットプリンタ「MAXART PX−5500(設定:EPSON写真用紙絹目調/きれい)」を用いて黒100%ベタ画像を印刷した。黒ベタ印刷部分をマクベスRD−918型反射濃度計により、光学反射濃度を測定し、印刷黒濃度を評価した。モノクロプリントに好適とするためには印刷黒濃度2以上である。
【0061】
(印刷暗部階調表現性)
インクジェット記録用紙に、セイコーエプソン製インクジェットプリンタ「MAXART PX−5500(設定:EPSON写真用紙絹目調/きれい)」を用いて黒100%帯画像、黒95%帯画像および黒90%帯画像を繰り返し密接させた帯模様の画像を印刷した。帯模様の濃淡が識別できるか否かを、目視により下記4段階で評価・判断した。モノクロプリントに必要な印刷暗部階調表現性は3以上である。
4:直ちに識別できる
3:目を凝らすと識別できる
2:90%のみ識別できる
1:識別できない
【0062】
(しっとりした光沢感)
目視により下記の4項目で評価・判断した。実用上では、しっとりした表面光沢感として○、△あるいは▲でなければならない。
○:鈍い光沢であり、しっとり感である
△:光沢が勝り、しっとり感にやや欠ける
▲:光沢が不足し、しっとり感にやや欠ける
×:光沢に欠ける
【0063】
(評価)
表1から明らかなように、本発明の実施例に相当する例1〜例3、例6、例7、例10〜例13は、芸術性のあるしっとりした表面光沢感を有することが分かる。特に75°光沢、20°光沢および写像性が本発明の好ましい範囲である例1、例3、例6、例7、例10および例12は、印刷暗部階調性に優れ、より好ましいことが分かる。一方、比較例に相当する例4、例5、例8、例9、例14〜例16では印刷黒濃度、印刷暗部階調表現性、しっとりした光沢感の評価の少なくとも1つを満足しない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のインクジェット記録用紙は、カラーデータをインクジェットプリンタで印刷する用紙にも用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透気性を有する支持体の少なくとも一方の面に、少なくとも2層の顔料および結着剤を含有するインク受理層を設けたインクジェット記録用紙において、最外層のインク受理層に含まれる顔料全体の90質量%以上がコロイダルシリカであり、最外層以外の各インク受理層に含まれる顔料の少なくとも1種がアルミナ水和物であり、アルミナ水和物が最外層以外の各層における顔料全体の90質量%以上であり、最外層のインク受理層がカレンダー処理されたことを特徴とするインクジェット記録用紙。
【請求項2】
最外層のインク受理層表面におけるJIS P8142に準拠する75°入反射角度光沢度が60%以上85%以下であり、JIS Z8741に準拠する20°入反射角度光沢度が12%以上30%以下であり、JIS H8686で規定される像鮮明度(C値)として求められる反射角度45度の写像性が25%以上45%以下である請求項1に記載のインクジェット記録用紙。

【公開番号】特開2012−45799(P2012−45799A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189210(P2010−189210)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】