説明

インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法

【課題】印刷後の被記録媒体の膨張速度を抑制するインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置100は、両性イオン化合物と、10〜60質量%の水と、を含有するインク組成物を、被記録媒体101に印刷する印刷手段190と、上記インク組成物を上記印刷手段190により上記被記録媒体101に印刷する際に、当該印刷した部分に張力を付与しながら搬送する搬送手段140及び150とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクジェットヘッドからインクの液滴を飛翔させ、紙等の被記録媒体に着弾させて印刷を行う記録方法である。近年のインクジェット記録技術の革新的な進歩により、これまで写真やオフセット印刷の分野であった高精細な画像記録(印刷)にもインクジェット記録方法を用いられるようになってきている。
かかるインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置では、印刷を施された被記録媒体、特に薄い被記録媒体は、皺が生じやすく、また、搬送時に浮き上がったりして、インクジェットヘッドから被記録媒体までの距離が常に一定に維持されないという問題がある。
そこで、従来、そのような問題を解決すべく種々検討がなされている。例えば、特許文献1では、皺が生じやすく、インクジェットヘッドから被記録媒体までの距離が常に一定に維持されないという不都合を改善し、画像形成の対象がより薄いものであっても、好適に画像形成を行うことを意図して、搬送される被記録媒体に対して画像形成を行うインクジェットプリンタであって、インクを吐出するインクジェットヘッドに対向すると共に前記被記録媒体を沿わせて搬送させるガイド面を有するプラテンを備え、そのプラテンのガイド面を、少なくともインクジェットヘッドによるインク吐出範囲内については吐出方向に垂直となる平坦面状とし、その搬送方向上流側と下流側とについてはその断面形状を円弧状とする周面状としたことを特徴とするインクジェットプリンタが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−90484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被記録媒体として、特に薄い被記録媒体(例えば、普通紙)を用いた場合、インクが着弾した後に被記録媒体が膨張してしまうという問題がある。被記録媒体が膨張することで、印刷中に被記録媒体とインクジェットヘッドとが接触して画像が乱れる、いわゆるヘッドこすれが発生する。このヘッドこすれに対して、特許文献1に開示されているように被記録媒体に張力を付与しながら搬送したり、あるいは、被記録媒体を印刷面の裏側から吸引しながら搬送したりする手法も考えられる。
【0005】
しかしながら、被記録媒体を印刷面の裏側から吸引する手法は、装置が複雑になるため、コスト及び小型化の点で難点がある。また、張力を付与しながら被記録媒体を搬送することは、ヘッドこすれの面では有利であるものの、被記録媒体が印刷と共に急激に伸びてしまうため、インクの着弾位置ズレや罫線ズレといった問題が発生する。そこで、本発明者らは、これらの問題を解決するために種々検討を行った結果、印刷後の被記録媒体の膨張速度を遅くすればよいことを知見した。
【0006】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、印刷後の被記録媒体の膨張速度を抑制するインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
また、記録媒体の膨張速度を抑制すると共にインク付与によって記録媒体が膨張した分については当該膨張分に対応した張力を記録媒体に与えることによって、張力付与による被記録媒体の急激な伸びを回避しつつ、搬送中の被記録媒体に撓みや皺が発生しないようにするインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、印刷後の被記録媒体の膨張速度を遅くするには、印刷に用いられるインク組成物が特定の成分を含有すればよいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]両性イオン化合物と、10〜60質量%の水と、を含有するインク組成物を、被記録媒体に印刷する印刷手段と、
前記インク組成物を前記印刷手段により前記被記録媒体に印刷する際に、当該印刷した部分に張力を付与しながら搬送する搬送手段と、
を備えるインクジェット記録装置。
[2]前記両性イオン化合物は分子量100〜250のベタイン系化合物である、[1]のインクジェット記録装置。
[3]前記インク組成物は、その全量に対して、前記両性イオン化合物を10〜40質量%含有する、[1]又は[2]のインクジェット記録装置。
[4]前記搬送手段は、前記印刷手段による前記インク組成物の吐出量に応じて、付与する前記張力の強さを変化させるものである、[1]乃至[3]のいずれか1つのインクジェット記録方法。
[5]両性イオン化合物と、10〜60質量%の水と、を含有するインク組成物を、被記録媒体に印刷する印刷工程と、
前記インク組成物を前記印刷工程により被記録媒体に印刷する際に、当該印刷した部分に張力を付与しながら搬送する搬送工程と、
を備えるインクジェット記録方法。
【0009】
また、本発明者らは、上記特定のインク組成物による被記録媒体の膨張抑制に加えて、更に被記録媒体に生じる伸び(膨張)を判断してこの伸び分に見合った張力を被記録媒体に付与することによって被記録媒体の搬送中における弛みや皺の発生を回避するインクジェット記録装置に思い至った。
この発明は、下記のとおりである。
[6] [1]乃至[4]のいずれかに記載のインクジェット記録装置であって、
更に、前記搬送手段を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記被記録媒体の伸び及び縮みのうち少なくともいずれかに関連する情報データである伸縮パラメータが送信され、前記伸縮パラメータに基づいて前記被記録媒体の伸縮量を判断する伸縮量判断部と、前記伸縮量判断部により判断された前記伸縮量に対応する引張力を前記搬送手段に設定する駆動制御部と、を備えるインクジェット記録装置。
[7] [6]に記載のインクジェット装置であって、
前記伸縮量判断部は記憶部を備え、前記記憶部は、前記被記録媒体ごとの前記伸縮パラメータに対応した前記伸縮量を記憶している、インクジェット装置。
[8] [6]又は[7]に記載のインクジェット装置であって、
前記伸縮パラメータは、被記録媒体の種類、環境条件、印刷情報、インクの種類及びカートリッジ情報、のうち少なくともいずれかを含む、インクジェット装置。
[9] [5]に記載のインクジェット記録方法であって、
前記搬送工程は、前記被記録媒体の伸び及び縮みのうち少なくともいずれかの伸縮に関連する情報データである伸縮パラメータに基づいて前記被記録媒体の前記伸縮量を判断し、この判断結果に基づいて前記引張力を設定するものである、インクジェット記録方法。
[10] [9]に記載のインクジェット記録方法であって、
前記伸縮パラメータは、被記録媒体の種類、環境条件、印刷情報、インクの種類及びカートリッジ情報、のうち少なくともいずれかを含む、インクジェット記録方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一例に係るインクジェット記録装置を模式的に示す概略図である。
【図2】本発明の一例に係るインクジェット記録装置の一部を模式的に示す概略図である。
【図3】被記録媒体を搬送方向と交差する方向(例えば、直交方向)に広げるように作用する排出ローラの例を模式的に説明する説明図である。
【図4】制御部111を機能ブロック図で説明する説明図である。
【図5】制御部111による伸び調整を説明するフローチャートである。
【図6】本発明の第二の例に係るインクジェット記録装置を模式的に示す概略図である。
【図7】本発明の第二の例の制御部111を機能ブロック図で説明する説明図である。
【図8】本発明の本発明の第三の例に係るインクジェット記録装置を模式的に示す概略図である。
【図9】本発明の第三の例の制御部111を機能ブロック図で説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
また、以下の実施例では、印刷の対象物である被記録媒体が紙の場合について説明するが、被記録媒体は紙のみに限定されるものではない。本発明思想はインクジェット記録の際に被記録媒体に伸縮が生じ得るものについて適用可能である。被記録媒体としては、各種のカット紙やロール紙、剥離可能なシール用紙、切断用の孔が設けられたミシン目用紙、写真印刷に好適な表面処理された用紙等の加工紙の他、紙(パルプ)以外の材料であるシート状、ロール状の樹脂フィルム、電気回路のシート状印刷基板等が広く含まれるものであり、本願発明に関係する被記録媒体は実施例に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態のインクジェット記録装置は、例えば、図1及び2に示す構造を有する。図1は、インクジェット記録装置の特に用紙搬送部を模式的に示す概略図、図2は、印刷後の被記録媒体に対して張力を付与する方法を説明するための部分概略図である。
【0014】
本実施形態のインクジェット記録装置100は、両性イオン化合物を含有するインク組成物により印刷を施された被記録媒体101を、その印刷部分に張力を付与しながら搬送する手段である、一対の搬送ローラ140と一対の排出ローラ150とを備えるものである。
【0015】
また、本実施形態のインクジェット記録方法は、両性イオン化合物を含有するインク組成物により印刷を施された被記録媒体101を、その印刷部分に張力を付与しながら搬送する搬送工程を有するものである。
【0016】
ここで、本明細書において「両性イオン化合物」とは、分子内に酸性基と塩基性基とを有する両性電解質の性質を有する化合物のことである。
【0017】
まず、図1を参照しながら説明する。一般に高速及び高密度の印刷が可能なライン型インクジェット記録装置100は、普通紙等の被記録媒体101に、インク組成物の液滴(以下、「インク滴」ともいう。)を吐出し画像を記録するためのインクジェットヘッドユニット190と、インクジェットヘッドユニット190に相対向して下方に設けられたプラテン部120と、印刷前の被記録媒体101を収納した収納カセット104と、収納カセット104から被記録媒体101を給紙する給紙ローラ105と、被記録媒体101を搬送するための一対の搬送ローラ(ゲートローラ)140と、被記録媒体101を搬送して排出するための一対の排出ローラ150と、印刷された被記録媒体101を収納する排紙カセット106と、制御部111と、給紙される被記録媒体101の位置検出をする位置検出センサ109とを備えている。
【0018】
被記録媒体101は、吸湿性及び可撓性を有するものが好ましく、例えば、電子写真複写用紙などの普通紙、シリカ、アルミナ、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等を含む水溶性インク吸収層を備えたインクジェット用紙等が挙げられる。また、水溶性インクの浸透速度が比較的小さなタイプの吸収性被記録媒体として一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。これらの中では、本発明による効果を一層有効に発揮する観点から普通紙が好ましい。
【0019】
本実施形態において、「普通紙」とは、一般に、パルプを主原料としプリンタなどに使用される紙をいい、JIS P 0001 番号6139で定義されている。具体的には、例えば、上質紙、PPCコピー紙、非塗工印刷紙などを挙げることができる。普通紙は各社から市販されているものを利用することもでき、例えば、Xerox 4200(Xerox社製)、GeoCycle(Gerogia−Pacific社製)等、種々のものを利用することができる。
また、坪量60〜120g/m2の被記録媒体101であると、本発明による効果を一層有効に発揮することができるので好ましい。
【0020】
インクジェットヘッドユニット190は印刷手段であり、インクの種類に対応した複数のインクジェットヘッド110及びそれらを搭載するキャリッジ(図示せず。)を備え、各インクジェットヘッドは、被記録媒体101の幅方向にわたって全幅に対応する多数のインク吐出ノズルを各々配列している、いわゆるラインヘッドで構成されている。
【0021】
プラテン部120は、被記録媒体101を、その搬送面120Aに沿って搬送させるものである。プラテン部120の搬送面120Aは、インクジェットヘッド190のインク吐出方向に垂直な平坦面である。搬送面120Aは、被記録媒体101にインク組成物が着弾する際に、その着弾方向に垂直な平面状態を維持できるような広さを有していれば、良好な画像形成を行うのに十分である。
【0022】
また、給紙ローラ105は、収納カセット104内部の被記録媒体101を搬送ローラ140へ送り出すためのローラであり、制御部111により駆動制御されるモータ118により駆動する。
【0023】
搬送ローラ140は搬送手段の一部であり、制御部111により駆動制御されるモータ116により駆動するローラユニットとしての駆動ローラ140Aと、駆動ローラ140Aに接触して従動する従動ローラ140Bとで構成している。排出ローラ150は搬送手段の一部であり、制御部111により駆動制御されるモータ117により駆動する駆動ローラ150Aと、駆動ローラ150Aに接触して従動する従動ローラ150Bとで排出ローラ対を構成している。
【0024】
制御部111は、印刷処理(記録処理)や各種処理を実行するCPU(Central Processing Unit)、ホストコンピュータなどからインタフェイス(IF)を介して入力される印刷データ(記録データ)をデータ格納領域に格納するあるいは各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)、各部を制御する制御プログラム等を格納するPROM,EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)などを備えている。
【0025】
位置検出センサ109は、例えば発光素子の赤外発光ダイオードと受光素子のフォトトランジスタを組み合わせた反射型フォトセンサを用いる。位置検出センサ109は、給紙ローラ105と搬送ローラ140の間の用紙搬送部に配置され、搬送される被記録媒体101の先端位置(被記録媒体101の有無)を検出して、その検出信号は制御部111に入力される。制御部111では、被記録媒体101の先端位置の検出信号に基づいて搬送ローラ140の駆動制御処理が行われる。
【0026】
被記録媒体101は制御部111からの駆動信号によりモータ116が駆動することにより回転する搬送ローラ140に到達し、被記録媒体101先端が搬送ローラ140に接触することにより被記録媒体101の先端面及び方向が整えられ、駆動ローラ140Aと従動ローラ140Bとの間に挟まれて紙送りされ、プラテン部120上に送り出される。そして、搬送ローラ140によってインクジェットヘッドユニット190下方の印刷領域に搬送された被記録媒体101は、搬送ローラ140に狭持された状態で排出ローラ150まで到達する。このとき、制御部111からの駆動信号によりモータ117が駆動されて駆動ローラ150Aが回転し、駆動ローラ150Aに接触して従動する従動ローラ150Bとの間に被記録媒体101が挟まれて紙送りされる。このようにして、被記録媒体101は、搬送ローラ140及び排出ローラ150の両方に挟まれた状態で搬送移動されると共に張力を付与されながら、インクジェットヘッドユニット190のノズルからインク滴が吐出されて印刷データに基づく印刷が施される。
【0027】
被記録媒体101への印刷は、制御部111において、IFを介してホストコンピュータから入手し、RAMに格納された印刷データを、CPUにおいて所定の処理を実行して、この処理データに基づいてヘッドドライバに駆動信号が出力され、ヘッドドライバを介して駆動信号がインクジェットヘッドユニット190に入力され、駆動信号が入力された静電アクチュエータの駆動により、これに対応するノズルから、被記録媒体101にインク滴が吐出されて印刷データに基づく画像の印刷(記録)が行われる。
【0028】
ただし、被記録媒体101への印刷は、上述の静電アクチュエータを用いた静電吸引方式に限定されない。つまり、本実施形態におけるインクジェット記録方式は、インク組成物を微細なノズルより液滴(インク滴)として吐出して、その液滴を被記録媒体に着弾、付着させる方式であればよい。具体的に以下に説明する。
【0029】
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、その液滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインクの液滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
第二の方法としては、小型ポンプで液状のインク組成物に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインクの液滴を噴射させる方式である。噴射された液滴は噴射と同時に帯電させ、その液滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0030】
第三の方法は圧電素子を用いる方式であり、液状のインク組成物に圧電素子で圧力と印刷情報信号とを同時に加え、インクの液滴を噴射・記録させる方式である。
第四の方式は熱エネルギーの作用により液状のインク組成物を急激に体積膨張させる方式であり、インク組成物を印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、その液滴を噴射・記録させる方式である。
以上のいずれの方式も本実施形態のインクジェット記録方法に採用することができる。
【0031】
印刷が行われた被記録媒体101は、搬送ローラ140及び排出ローラ150により紙送りされ、その間は、印刷された部分に張力が付与された状態にある。さらに、搬送ローラ140を通過し終えた後は排出ローラ150のみによって紙送りされ、排紙カセット106に収納される。
【0032】
上述の被記録媒体101への張力の付与は、搬送ローラ140及び排出ローラ150を回転させる時の周速度を調整することにより行われる。すなわち、排出ローラ150の周速度を、搬送ローラ140の周速度よりも速めることにより、被記録媒体101に張力を付与する。
【0033】
被記録媒体101に張力を付与する方法は、上述のものに限定されない。例えば、上述の方法に代えて又は加えて、図2に示すように、プラテン部120、搬送ローラ140及び排出ローラ150の位置関係を調整することによっても、被記録媒体101に張力を付与することができる。すなわち、図2の(A)に示すように、排出ローラ150の被記録媒体101を狭持する部分をプラテン部120の搬送面120Aよりも下方に配置してもよい。この場合、プラテン部120の搬送方向下流側の上縁端及び従動ローラ150Bに沿いながら被記録媒体101が搬送されることによって、被記録媒体101に張力が付与される。
【0034】
また、図2の(B)に示すように、搬送ローラ140の被記録媒体101を狭持する部分をプラテン部120の搬送面120Aよりも下方に配置してもよい。この場合、プラテン部120の搬送方向上流側の上縁端及び従動ローラ140Bに沿いながら被記録媒体101が搬送されることによって、被記録媒体101に張力が付与される。さらに、図2の(C)に示すように、搬送ローラ140及び排出ローラ150の両方の被記録媒体101を狭持する部分を、プラテン部120の搬送面120Aよりも下方に配置してもよい。この場合、プラテン部120の搬送方向上下流側の上縁端並びに従動ローラ140B及び150Bに沿いながら被記録媒体101が搬送されることによって、被記録媒体101に張力が付与される。
【0035】
また、図3に示すように、排出ローラ150A(あるいはインク付与後の搬送路に配置されるローラ)の被記録媒体101に対する駆動方向を被記録媒体101の搬送方向に対して少し斜めになるように配置することによって被記録媒体101を幅方向(搬送方向に直交する方向)に広げるように僅かに引張力(張力)を作用させ、被記録媒体101の弛みや皺を除くようにすることができる。また、被記録媒体のサイズ(例えば、用紙のサイズ)に対応して一対の排出ローラ150A、150A相互の間隔Lを可変としたローラ機構としても良い。
なお、排出ローラ105Aの回転方向(回転軸と直角方向)と紙送り方向との角度θも可変な構造とし、被記録媒体101の膨張に応じて伸縮量判断部111Bによって排出ローラ105Aの紙送り方向との角度θを変えるようにしても良い。被記録媒体101の膨張が大きいほど角度θを大きくし、幅方向への引張力を増加させることができる。
【0036】
さらに、上記両性イオン化合物を含むインク組成物を用いるインクジェット記録に付け加えて、被記録媒体に対しての印刷密度(インク組成物の吐出量)が高いほど被記録媒体の膨張が大きくなるため、印刷密度に応じて張力の強さを変化させるようにしてもよい。具体的には、印刷密度が高く被記録媒体の膨張が大きくなるほど、強い張力を付与する。被記録媒体の印刷密度に応じて張力の強さを調整するには、例えば、排出ローラ150の周速度と搬送ローラ140の周速度とを、被記録媒体の印刷密度に応じて変化させる。
【0037】
図4は、このような搬送される被記録媒体への張力を変更可能な構成とし、被記録媒体を伸縮させる条件に応じて搬送機構の張力を設定するように制御部を構成した例を示すものである。同図は制御手段としての制御部111を機能ブロック図で示しており、既述したCPU、ROM、RAM、インタフェース等のコンピュータシステムチップによって実現されている。被記録媒体としては紙を例として挙げている。
【0038】
制御部111は、インタフェース(あるいはパラメータ保持設定部)111A、伸縮量判断部111B、データベース部(記憶部)111C、及びモータの駆動制御部111Dなどによって構成されている。インタフェース111Aは、図示しない設定スイッチやセンサ、コンピュータなどから供給される伸縮パラメータ(あるいは伸びパラメータ)を保持している。伸縮パラメータは、例えば、被記録媒体の種類(メーカー、製品名、種類名、用紙サイズ、重量(厚さ)、紙質、縦目、横目など)、環境条件(温度、湿度など)、印刷情報(印刷密度、濃度、インク吐出量など)、インクの種類(インクの組成物など)、カートリッジ情報(インクカートリッジのROM等に記録された各種データなど)等が含まれる。また、伸縮パラメータのうち環境条件については、インクジェット装置が直接検知して制御部111にデータを送っても良い。
【0039】
例えば、一般にJISのA系列の用紙は縦目であり、JISのB系列の用紙は横目である。これらの用紙は、繊維の配列している方向に対して直交する方向に伸びやすい傾向にある。低湿度で用紙の繊維が乾いていると表裏の差が出やすくなくなる。低温・低湿度では、用紙のカールが強くなる。印刷密度、インク濃度、インク吐出量が増えると紙の繊維の水分が増えて膨張量が増加する。これ等の伸縮パラメータの全てを使用する必要は必ずしもなく、被記録媒体の伸縮に影響の大きいものを1つ又は複数使用することでおおよその伸縮量を判断することとしても良い。なお、インクジェット法による印刷では被記録媒体が紙である場合、通常、インクの付与によって紙記録媒体は伸びる傾向にあるので「伸縮パラメータ」は「伸びパラメータ」であっても良いが、ある条件下、例えば、被記録媒体101の両面に印刷をする場合には工程中において裏面が収縮する等の可能性がある。伸縮パラメータはこのような被記録媒体(用紙)が縮む条件(要素)にも対応し得るものである。
【0040】
また、伸縮パラメータとしての用紙の種類は、ユーザーによる記録設定等に基づいて判断がなされる。具体的には、インクジェット装置に接続されたホスト装置(例えばパーソナルコンピュータ)でユーザーが記録する被記録媒体の種類(例えば、メーカー、製品名、種類名、用紙サイズ、重量(厚さ)、紙質、縦目、横目など)、印刷情報、インクの種類等が選択され、インタフェース111Aに送られて保持(記憶)される。そして、インクジェット装置内では、予め記憶された被記録媒体の種類、印刷情報、インクの種類等に対応したデータがインタフェース111Aから伸縮判断部111Bに送信される。なお、ユーザーによる記録設定はホスト装置から行われる態様に限られない。例えば、インタフェース111Aにインクジェット装置に記録設定を入力する操作パネルを直接設けてもよい。
【0041】
伸縮量判断部111Bは、伸縮パラメータに基づいてインクジェット印刷後の被記録媒体の伸縮量を判断する。判断は、例えば、被記録媒体の伸縮量=プログラム関数f(インク量,紙の重量,湿度,…)等の予め求められている関係式によって計算する。ここで、プログラム関数fは予め求められている関数(サブルーチン)であり、インク量,紙の重量,湿度,…(パラメータ)は関数fの引数である。関数fは実験データやシュミレーションによって求められる。また、環境条件である温度や湿度に関しては、装置内に温度計や湿度計が備えられており、それらを用いて現在の環境を直接検知し、得られた情報を用いて伸縮部判断部111Bは伸縮量を判断してもよい。
【0042】
データベース部111Cには上記プログラム関数fに関するデータベースや、伸縮パラメータ(単独、複数のパラメータの組み合わせ)に対応した伸縮量が読み出し可能に記憶されている。
【0043】
駆動制御部111Dは、既述モータ116〜118を可変速度で駆動することができる駆動回路である。例えば、駆動制御部111DはPLL(位相同期ループ)回路によって構成され、モータ116〜118はステッピングモータによって構成される。駆動制御部111Dはコンピュータによって制御されるPLL制御を含んで構成され、駆動パルス信号V1〜V3をモータ116〜118にそれぞれ供給する。モータ116〜118は、例えば、ステッピングモータであり、駆動パルス信号のパルス数に応じた回転量、パルス周波数に応じた回転速度で動作する。
【0044】
図5は制御部111(伸縮量判断部111B)の動作を説明するフローチャートである。同図において、CPUが図示しない主制御プログラムにおいて張力制御をすべきことを認識すると本サブルーチンを実行する。まず、判断部(CPU)111Bはインタフェース部に111Aに保持されている伸縮パラメータを読み込む(S10)。次に、各伸縮パラメータの値をプログラム関数fに導入して被記録媒体の伸縮量を計算する。なお、伸縮パラメータを直接又は間接の引数としてメモリマトリクス等から対応するデータを読み取ることとしても良い(S20)。判別した被記録媒体101の伸縮量ΔJによる撓み等を解消すべく駆動制御部111DのPLL回路を調整してモータ116と117との間に相対的に速度差ΔVを設定する。2つのローラ間の速度差によって被記録媒体101には引張力が作用し、撓み(弛み)や皺の発生が防止される(S30)。モータ動作の設定後、主制御プログラムに戻る。なお、インクジェット装置においてはCPUによる上記張力制御以外の他の制御も行われるが本発明とは特に関係しないため、その説明は省略する。
【0045】
図6及び図7は本発明の他の実施形態を示している。両図において、図1及び図4と対応する部分には同一符号を付し、かかる部分の説明は省略する。この例では、図2(A)に示すような構成を備えており、搬送ローラ150(のユニット)がローラの昇降機構によって昇降可能に構成されている。この昇降機構には、例えば、送りねじ機構を駆動するステップモータ119Aが配置されており、駆動制御部111Dから駆動パルス信号V4をステップモータ119Aに供給することによって搬送ローラ150は上下方向に移動し、位置決めがなされる。
【0046】
かかる構成において、被記録媒体101が搬送ローラ140と排出ローラ150とに挟まれている状態で、排出ローラ150を押し下げると、被記録媒体101はプラテン部120の搬送面120Aに押し付けられ、張力が発生する。この張力によって被記録媒体101に印刷直後に発生した撓みや皺を抑制することができる。なお、上記排出ローラ150の位置制御に加えて上述した搬送ローラ140と排出ローラ150間の相対的な速度差設定を行っても良い。具体的には、排出ローラ150の回転速度を搬送ローラ140の回転速度よりも相対的に早くすることで被記録媒体101に引張力を付与しても良い。また、給送ローラ140を排出ローラ150に対して逆に回転させて引張力を付与しても良い。
なお、被記録媒体としてロール紙(連続的な被記録媒体)を使用する場合には、被記録媒体101が搬送ローラ140と排出ローラ150とに挟まれている状態を継続させることができる。
【0047】
また、上述した図3のような、被記録媒体101を幅方向(搬送方向に直交する方向)に広げるように僅かに引っ張り力を作用させる機構と、あるいは伸縮量判断部111Bからの伸縮パラメータに基づいて搬送方向に対してローラの配置角度を変更して、被記録媒体101に対する引張力を変化させる機構と、上述の昇降機構とを組み合わせても良い。
【0048】
図8及び図9は本発明の更に他の実施形態を示している。両図において、図1及び図4と対応する部分には同一符号を付し、かかる部分の説明は省略する。この例では、図2(C)に示すような構成、すわなち、搬送ローラ140の配置と排出ロモータ150の配置とがそれぞれ昇降機構によって昇降可能に構成されている。搬送ローラ140の昇降機構の送りねじを駆動するステップモータ119Bに駆動制御部111Dから駆動パルス信号V5を供給することによって搬送ローラ140は上下方向に移動可能になされている。また、搬送ローラ150の昇降機構のステップモータ119Aに駆動制御部111Dから駆動パルス信号V4を供給することによって搬送ローラ150は上下方向に移動可能になされている。
【0049】
かかる構成において、被記録媒体101が搬送ローラ140と排出ローラ150とに挟まれている状態で、搬送ローラ140及び排出ローラ150を押し下げると、被記録媒体101はプラテン部120の搬送面120Aに押し付けられ、張力が発生する。この張力によって被記録媒体101に印刷直後に発生した撓みや皺を抑制することができる。
なお、上記搬送ローラ140及び排出ローラ150の位置制御に加えて上述した搬送ローラ140と排出ローラ150間の相対的な速度差設定を行っても良い。更に、図3に示す、ローラの角度を調整することによって引張力を設定する機構を組み合わせても良い。
【0050】
インクジェット記録装置100に具備される上記以外の構成は、従来公知の構成であってもよい。
【0051】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に用いられるインク組成物について、詳細に説明する。
【0052】
本実施形態に係るインク組成物は、安全性、取扱性及び性能面(発色性、裏抜け適性、インク信頼性)の観点から水を含有する。このように水を含有するインク組成物が、本実施形態のように両性イオン化合物を含有すると、本実施形態による効果を有効に発揮することができる。
【0053】
また、このインク組成物は、安全性、取り扱い上の観点から、インクの主溶媒が水である水性インク組成物であることが好ましく、水はイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインクの長期保存を可能にする点で好ましい。インクの適正な物性値(粘度等)の確保、インクの安定性及び信頼性の確保という観点で、インク組成物は、その全量に対して、水を10質量%〜60質量%含有する。
【0054】
インク組成物に含まれる水の含有量を上記の範囲に規定することにより、普通紙中のセルロースに吸収される水分量が従来のインク組成物よりも少なくなる結果、コックリングカールの原因と考えられているセルロースの膨潤を抑制することができる。以下、コックリング又はカールを抑制するのに適した性質を、それぞれ「コックリング適性」、「カール適性」ともいう。
【0055】
水分含有量が10質量%未満の場合は、被記録媒体への定着性が低下する場合がある。一方、水分含有量が60質量%を超える場合は、従来の水性インク組成物と同様、インク吸収性が乏しい紙支持体の吸収層を有する被記録媒体に対して印刷する際に、コックリングやカールが発生しやすい。
【0056】
両性イオン化合物としては、特に限定されず、例えば、ベタイン系化合物、アミノ酸及びその誘導体が挙げられる。より具体的にはベタイン系化合物として、グリシンベタイン(分子量117、「トリメチルグリシン」ともいう。)、γ−ブチロベタイン(同145)、ホマリン(同137)、トリゴネリン(同137)、カルニチン(同161)、ホモセリンベタイン(同161)、バリンベタイン(同159)、リジンベタイン(同188)、オルニチンベタイン(同176)、アラニンベタイン(同117)、スタキドリン(同185)及びグルタミン酸ベタイン(同189)等のアミノ酸のN−トリアルキル置換体が挙げられる。また、アミノ酸として、グリシン(分子量75)、アラニン(同89)、セリン(同105)、トレオニン(同119)、バリン(同117)、メチオニン(同149)、システイン(同121)、プロリン(同115)、リシン(同146)、ヒスチジン(同155)、アルギニン(同174)やそれらの誘導体が挙げられる。これらの中では、印刷後の被記録媒体の膨張速度をより確実に遅くする観点、及びインク吐出ノズルの目詰まりを防止する観点から、ベタイン系化合物が好ましく、トリメチルグリシンがより好ましい。両性イオン化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、トリメチルグリシンとして、アミノコート(旭化成ケミカルズ社製)を使用することもできる。
【0057】
また、両性イオン化合物の分子量は100〜250であると好ましい。その分子量が100未満であると、10℃〜40℃での粘度差が大きくなる傾向が強くなり、また、印刷後の被記録媒体が乾燥するのに伴い変形しカールが生じやすくなる傾向にある。一方で、その分子量が250を超えると、インク組成物中のその化合物の添加量に対して、インク組成物の粘度が増加しやすく、また、印刷後の被記録媒体にカール等の変形が生じた場合に、その被記録媒体が完全に乾燥してもその変形が解消し難くなる傾向にある。
【0058】
インク組成物は、印刷後の被記録媒体の膨張速度を抑制する観点、並びに、インクジェットヘッドにおけるインク吐出ノズルの目詰まりを防止する観点から、その全量に対して、両性イオン化合物を10〜40質量%含有すると好ましく、10〜25質量%含有するとより好ましい。この含有量が10質量%を下回ると、上記膨張速度の抑制が困難になる傾向にあり、40質量%を超えると、上記目詰まりの防止が困難になる傾向にある。
【0059】
インクの10℃〜40℃の温度範囲における粘度は、インクに含まれる着色剤、保湿剤、溶剤等の持つ温度特性に影響を受ける。これらの中では特に保湿剤の影響が大きく、保湿剤の種類や添加量、含有比によっては、10℃での粘度がより上がりやすく、40℃での粘度がより下がりやすい。なお、本明細書中では、10℃〜40℃での粘度差がより少ないことを、インクの温度による粘度特性に優れると表記する。
【0060】
本実施形態に係るインク組成物は、カール、コックリング適性、裏抜け適性、目詰まり適性、インクの温度による粘度特性のバランスを適正に保つという観点から、下記(A)及び(B)の保湿剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の保湿剤を含むことが好ましい。ここで(A)の保湿剤は、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、(B)の保湿剤は、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0061】
(A)の保湿剤は、特に目詰まりの抑制に対して効果があり、また、カール、コックリングの抑制に対しても効果を合わせ持つ物質である。しかしながら、その優れた被記録媒体への浸透性から裏抜け適性には劣る物質である。上述の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、(A)の保湿剤として、グリセリン及びトリエチレングリコールが好ましい。
(B)の保湿剤は、特に目詰まりの抑制に対して効果があり、また、浸透抑制効果を持つため裏抜け適性に優れる物質である。それらの効果をより有効かつ確実に奏する観点から、(B)の保湿剤として、トリメチロールプロパンが好ましい。
(A)及び(B)の保湿剤は、その物質のもつ10℃〜40℃での粘度差が大きいという特性のため、インク組成物中の含有量が増えるに従って、温度による粘度特性に大きく影響し、インク組成物も10℃〜40℃での粘度差が大きくなる。
【0062】
本実施形態に係るインク組成物が、両性イオン化合物に加えて、上記(A)及び/又は(B)の保湿剤を含有する場合、カール適性、コックリング適性、裏抜け適性、目詰まり適性の観点から、上記両性イオン化合物、(A)及び(B)の合計の含有量は、インク組成物の全体量に対して、10質量%〜40質量%であることが好ましい。
また、(A)及び(B)の保湿剤並びに両性イオン化合物について、含有量の質量比は、それらによる上記効果をバランス良く発揮させる観点から、(A):(B):(両性イオン化合物)=(1.0):(0.1〜1.0):(1.0〜3.5)であると好ましい。(A)の群から選ばれる保湿剤(「(A)の保湿剤」という。以下同様。)に対して、(B)の保湿剤の質量比を上記よりも多くすると、カール適性及びコックリング適性が低下し、少なくすると、裏抜け適性が低下する。(A)の保湿剤に対して、両性イオン化合物の質量比を上記よりも多くすると、目詰まり適性が低下し、少なくすると、カール適性及びコックリング適性が低下する。
【0063】
また、本実施形態に係るインク組成物は、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まり防止やインクの被記録媒体への浸透性や滲みを適度に制御したり、インクの乾燥性を付与する目的で、水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。水溶性有機溶剤は、上記観点から、1,2−アルカンジオール及び/又はグリコールエーテルを含有することが好ましい。1,2−アルカンジオールの具体的な例としては、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオールが挙げられる。また、グリコールエーテルの具体的な例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルが挙げられる。また、上記以外に、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなども水溶性有機溶剤として用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種又は2種以上を用いることができ、インクの適正な物性値(粘度等)の確保、印刷品質、信頼性の確保という観点で、インク組成物中に1質量%〜50質量%含まれることが好ましい。
【0064】
さらに、インクの被記録媒体への濡れ性を制御し、被記録媒体への浸透性やインクジェット記録方法における印字安定性を得るために、インク組成物は表面張力調整剤を含有することが好ましい。表面張力調整剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤やポリエーテル変性シロキサン類が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の例としては、サーフィノール420、440、465、485、104、STG(以上、エアープロダクツ社製、製品名)、オルフィンPD−001、SPC、E1004、E1010(以上、日信化学工業(株)製、製品名)、アセチレノールE00、E40、E100、LH(以上、川研ファインケミカル(株)製、製品名)が挙げられる。またポリエーテル変性シロキサン類としては、BYK−346、347、348、UV3530(ビックケミー社製品)などが挙げられる。これらは、インク組成物中に1種又は2種以上用いることができ、インク組成物の表面張力を好ましくは20mN/m〜40mN/mに調整するよう含まれ、好ましくはインク組成物中に0.1質量%〜3.0質量%含まれる。
【0065】
また、必要に応じて、インク組成物に、pH調整剤、錯化剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することもできる。pH調整剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ及び/又はアンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミンを用いることができる。特に、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンから選択される少なくとも1種類のpH調整剤を含み、pH6〜10に調整されることが好ましい。pHがこの範囲を外れると、インクヘットプリンタを構成する材料等の悪影響を与え、目詰まり回復性が劣化する傾向にある。また、錯化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びその塩(例えばナトリウム塩、アンモニウム塩)などのアミノポリカルボン酸が挙げられる。
【0066】
本実施形態に係るインク組成物は、画像形成や印字を目的として顔料を含むことが好ましい。本実施形態に係るインク組成物に用いられる顔料としては、公知の無機顔料及び有機顔料のいずれをも用いることができる。そのような顔料としては、例えば、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー、ピグメントブラック等の顔料の他、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系等の顔料が例示できる。また、黄色4号、5号、205号、401号;橙色228号、405号;青色1号、404号等の有機顔料や、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クローム等の無機顔料が挙げられる。顔料のカラーインデックスとしては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,3,12,13,14,17,24,34,35,37,42,53,55,74,81,83,95,97,98,100,101,104,108,109,110,117,120,128,138,150,153,155,174,180,198、C.I.ピグメントレッド1,3,5,8,9,16,17,19,22,38,57:1,90,112,122,123,127、146,184、202、C.I.ピグメントバイオレッド1,3,5:1,16,19,23,38、C.I.ピグメントブルー1,2,15,15:1,15:2,15:3,15:4,16、C.I.ピグメントブラック1,7が挙げられ、1種又は2種以上の顔料をインク組成物に含んでもよい。
【0067】
本実施形態に用いられる顔料は、樹脂分散型の態様であってもよい。そのような態様の顔料は、高分子分散剤や界面活性剤などの分散剤と共に、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速攪拌型分散機などを用いて水性媒体中に分散させた顔料分散液として、あるいは、顔料表面に分散性付与基(親水性官能基及び/又はその塩)を直接又はアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させ、分散剤なしで水性媒体中に分散及び/又は溶解する自己分散型顔料として加工され、水性媒体中に分散させた顔料分散液として、インク組成物中に配合されることが好ましい。
【0068】
分散剤の例としては、高分子分散剤として、にかわ、ゼラチン、サポニンなどの天然高分子化合物やポリビニルアルコール類、ポリピロリドン類、アクリル系樹脂類(ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体など)、スチレン−アクリル酸系樹脂類(スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−酢酸ビニルーアクリル酸共重合体など)、スチレン−マレイン酸系樹脂類、酢酸ビニル−脂肪酸ビニル−エチレン共重合体の樹脂類など及びこれらの塩などの合成高分子化合物が挙げられ、共重合体の構成はランダムタイプ、ブロックタイプ、グラフトタイプのいずれでもよい。
【0069】
また、分散剤として用いられる界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルキルジカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩類、高級アルキルスルホン酸塩などのアニオン性界面活性剤、脂肪酸アミン塩、脂肪酸アンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤、ポリオオキシアルキルエーテル類、ポリオキシアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類などのノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0070】
これらの分散剤の中で、特に水不溶性樹脂が好ましい。水不溶性樹脂として、具体的には、疎水性基を有するモノマーと親水性基を有するモノマーとのブロック共重合体樹脂からなり、少なくとも塩生成基を有するモノマーを含有しているもので、中和後に25℃の水100gに対する溶解度が1g未満である樹脂が好ましい。疎水性基を有するモノマーとしては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類や酢酸ビニル等のビニルエステル類やアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。親水性基を有するモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタアクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコールモノメタアクリレートが挙げられ、これらは1種を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。塩生成基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンカルボン酸、マレイン酸が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。さらに、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロモノマー、シリコーン系マクロモノマーなどのマクロモノマーやその他のモノマーを併用することもできる。
【0071】
この水不溶性樹脂は、エチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ中和剤で中和した塩として用いることが好ましく、重量平均分子量が10000〜150000程度のものが、顔料を安定的に分散させる点で好ましい。
【0072】
分散剤なしに水に分散及び/又は溶解が可能な自己分散型顔料は、例えば、顔料に物理的処理又は化学的処理を施すことで、分散性付与基又は分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理が例示できる。また、化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法が例示できる。自己分散型顔料を含有するインク組成物は、通常の顔料を分散させるために含有させる前述のような分散剤を含む必要がないため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんどなく、吐出安定性に優れるインクを調製しやすい。また、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるので、顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度を十分に高めることが可能になる、あるいは、取り扱いが容易となる。このような利点があることから、自己分散型顔料は、特に高濃度を必要とするブラックインク組成物に有効であり、本実施形態のインク組成物として用いるブラックインク組成物には、分散剤なしに水に分散及び/又は溶解が可能な自己分散型顔料が少なくとも含まれることが好ましい。
【0073】
本実施形態においては、次亜ハロゲン酸及び/又は次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、又はオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料が、高発色という点で好ましい。また、自己分散型顔料として市販品を利用することも可能であり、そのような市販品として、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キャボット社製)が例示できる。
【0074】
また、これらの顔料は、インクの保存安定性やノズルの目詰まり防止等の観点から、インク中での体積平均粒子径が50nm〜200nmの範囲であることが好ましい。これらの体積平均粒子径は、Microtrac UPA150(マイクロトラック社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子(株)製)等の粒径測定によって得ることができる。
【0075】
これらの顔料は、インク組成物中に6質量%以上の範囲で含有されることが好ましい。その含有量が6質量%未満では印字濃度(発色性)が不充分である場合がある。また、その含有量の上限は特に限定されないが、例えば、含有量が25質量%以下であってもよい。含有量が25質量%よりも大きいと、ノズルの目詰まりや、吐出の不安定を起こす等の信頼性に不具合が生じる場合がある。
【0076】
本実施形態に係るインク組成物は、被記録媒体への定着性を高める等の観点から、樹脂エマルジョンを含むことが好ましい。樹脂エマルジョンは、最低造膜温度が20℃未満の樹脂粒子を含むことが好ましい。樹脂エマルジョンとして、最低造膜温度が20℃未満の樹脂粒子を含むものを用いることにより、通常20℃以上である使用環境下の周囲温度において、樹脂粒子が膜化するので、インク組成物の被記録媒体への定着性や耐擦性を向上させる。
ここで、最低造膜温度は、下記のようにして測定される。まず、温度勾配試験装置のステンレス板上に0.3mmの厚さに樹脂エマルジョンを塗布する。塗布後、直ちにシリカゲルの入ったバスケットを板の上にのせ、透明プラスチック製の蓋で覆う。塗膜が乾燥した後、一様な連続皮膜部分と白濁している部分の境界部の温度を読み取り、最低造膜温度とする。
【0077】
これらの樹脂エマルジョンとしては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上の樹脂粒子を含むものであることが好ましい。これらの樹脂はホモポリマーとして使用されてもよく、また、コポリマーして使用されてもよく、単相構造及び複相構造(コアシェル型)のいずれのものも使用できる。
【0078】
さらに、本実施形態で用いられるインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンは、少なくともいずれかが、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョンの形態で、インク組成物中に配合されることが好ましい。樹脂粒子を単独でインク組成物中に添加しても、該樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるため、インク組成物の製造上、エマルジョンの形態が好ましい。また、エマルジョンとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリル樹脂粒子のエマルジョン、すなわちアクリルエマルジョンが好ましい。
樹脂粒子のエマルジョン(アクリルエマルジョン等)は、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を、重合開始剤及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0079】
不飽和単量体としては、例えば、一般に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体、メタクリル酸エステル単量体、芳香族ビニル単量体、ビニルエステル単量体、ビニルシアン化合物単量体、ハロゲン化単量体、オレフィン単量体、ジエン単量体が挙げられる。
【0080】
不飽和単量体として、さらに具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;酢酸ビニル等のビニルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体;スチレン、α−チルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン;ブタジエン、クロロプレン等のジエン;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N'−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体が挙げられる。これらは1種を単独又は2種以上を混合して用いられる。
【0081】
また、重合可能な二重結合を2つ以上有する架橋性単量体も、不飽和単量体として使用することができる。重合可能な二重結合を2つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;メチレンビスアクリルアミド;ジビニルベンゼンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0082】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好ましい。
【0083】
本実施形態において、樹脂エマルジョンは、インク組成物のインクジェット適性物性値、信頼性(目詰まりや吐出安定性等)、定着性等をより有効に得る観点から、インク組成物中の樹脂粒子が1質量%〜10質量%の範囲となるよう、含有されることが好ましい。
【0084】
インク組成物に含まれる樹脂エマルジョンの体積平均粒子径は、インク組成物中における樹脂粒子の分散安定性の観点及び定着性の観点から、5nm〜400nmであることが好ましく、50nm〜200nmであることがより好ましい。この体積平均粒子径は、例えばコールターカウンターN4(コールター社製、商品名)を用いて測定される。
【0085】
本実施形態のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法によると、張力の付与によってヘッドこすれを防止しながら、しかも、印刷後に生じ得る被記録媒体の膨張速度を遅くさせることが可能となる。これは、インク組成物が両性イオン化合物を含有することにより、被記録媒体に印刷を施すことによる繊維間の水素結合等の結合が切れた部分に両性イオン化合物が入り込んで、繊維間の結合をある程度保持するためと考えられる。
【0086】
すなわち、普通紙などの被記録媒体は、繊維間が水素結合等により結合しているため、その形状が維持されている。その被記録媒体に印刷すると、インク組成物に含まれる水などが繊維間の上記結合を切断してしまう。この状態で、被記録媒体に張力を付与すると、被記録媒体が一方向に変形(伸びたり大きく変形したり)すると考えられる。ところが、本発明によると、インク組成物中の両性イオン化合物が、繊維間に入り込んで被記録媒体中の繊維間の結合をある程度保持することにより、張力を付与しても被記録媒体の変形(急激な膨張)を抑制することができると推測される。ただし、膨張速度が遅くなる要因はこれに限定されない。
かかる観点から、被記録媒体の張力を付与する方向を、そのせルロースなどの繊維の配列方向に対して直交する方向にする場合は、繊維間の結合を維持する効果を更に有効に奏することができ、繊維の配列方向に平行する方向に張力を付与する場合との膨張速度の差が小さくなる。したがって、上記張力を付与する方向を繊維の配列方向に対して直交する方向にすることにより、本実施形態のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法が一層有用となる。
【0087】
また、被記録媒体の膨張速度が遅くなると、膨張により被記録媒体の印刷しようとする部分がずれる程度も小さくなる。その結果、被記録媒体におけるインクの着弾位置ズレや罫線ズレといった問題も軽減されるため、印刷品質を向上することができる。
さらに、従来、被記録媒体に付与する張力の大きさが小さくなると、被記録媒体の膨張速度が高いため、被記録媒体に撓みが生じ、それに伴うヘッドこすれ、皺、着弾ズレなどが発生しやすくなっていた。ところが、本実施形態によると、被記録媒体の膨張速度が遅いため、付与する張力が小さくても、撓みは生じ難い。
【0088】
また、被記録媒体への印刷が、局所的に濃淡があるパターンの印刷である場合、従来、被記録媒体の印刷された濃い部分と薄い部分との間に膨張むらが生じる可能性がある。このような膨張むらが生じると、被記録媒体が記録装置内部で詰まる現象(紙ジャム)が発生したり、被記録媒体に皺が生じたりするため、印刷品質の低下が発生する。ところが、本実施形態によれば、印刷の濃い部分における膨張速度を遅くすることにより、印刷の薄い部分との間における膨張むらも抑制することが可能となるので、紙ジャムや皺の発生を防止でき、そのような観点からも印刷品質を向上することができる。
さらには、本実施形態では、被記録媒体に張力を付与しながら印刷するため、被記録媒体を印刷面の裏側から吸引する必要がなくなり、コスト及び小型化の観点からも有利となる。
【0089】
本実施形態に係る記録物は、上記インクジェット記録方法によって記録が行われて得られるものである。この記録物は、本実施形態に係るインクジェット記録方法により得られることにより、印刷後の膨張速度が遅くなったものであるので、ヘッドこすれや、インクの着弾位置ズレ、罫線ズレを抑制されたものである。しかも、目詰まりも抑制されているため、インク組成物が所望のとおりに被記録媒体に着弾し、ドット抜けなどの少ない画像が形成された記録物となる。また、この記録物は、インクの安全性、安定性に優れ、種々の被記録媒体について、使用温度によらず、常に同等の記録品質を実現すると共に、普通紙について、優れたカール適性、コックリング適性、裏抜け適性、両面印刷適性を有する。
【0090】
本実施形態のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法によると、両性イオン化合物を含有するインクを使用することにより、印刷後に生じ得る被記録媒体の膨張速度を遅くさせることが可能となる。更に、当該インクを用いても生じ得る被記録媒体の膨張に対応する張力を伸縮パラメータに基づいて被記録媒体に付与することにより、被記録媒体に生じ得る撓み、皺などを被記録媒体に過剰な張力を与えることなく回避することが可能となって都合がよい。印刷の際に生じる被記録媒体の膨張を当該伸び分に対応した張力を付与するので被記録媒体にダメージや(張力印加による)急激な膨張の発生を回避することが出来て具合がよい。
【0091】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、上記本実施形態は、ライン型インクジェット記録装置に関するが、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置は、複数パスで印刷を行うシリアル型インクジェット記録装置に関するものであってもよい。特に、駆動ローラの回転距離ごとにインク吐出ノズルを配列して、ローラの周期的なズレを修正するヘッド配列をもつものは、被記録媒体の印刷を開始してから完了するまでに時間差が生じるため、被記録媒体が膨張しやすくなる。したがって、かかる構成を有するものに対して、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を採用すれば、本発明による膨張速度の抑制という効果を、より有効に活用できるので、好ましい。
また、プラテン部には、被記録媒体の搬送を補助する搬送ベルトを備えてもよい。
【実施例1】
【0092】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0093】
[着色剤の準備]
(顔料分散液B1)
市販のカーボンブラックであるカラーブラックS170(商品名:デグサ・ヒュルス社製)100gを水1kgに混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて粉砕した。この粉砕原液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度12%)1400gを滴下して、ボールミルで粉砕しながら5時間反応させ、さらに攪拌しながら4時間煮沸して湿式酸化を行った。得られた分散原液をガラス繊維ろ紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水5kgに再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩及び精製し、さらに顔料濃度が20質量%になるまで濃縮して顔料分散液B1を調製した。
この分散液の顔料の体積平均粒子径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、110nmであった。
【0094】
(顔料分散液B2)
上記で得られた顔料分散液B1に対して、40℃にて3日間、減圧乾燥を行うことにより水分を除去した。得られたペーストを丸底フラスコへ秤量し、固形分濃度が20質量%となるようにトリエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテルを添加し、マグネチックスターラーを用いて24時間撹拌を行った。引き続き、超音波洗浄槽にトリエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル分散液の入った丸底フラスコを設置し、超音波分散を行いながらアスピレーターにて8時間減圧脱気処理を行うことによって、分散液中の空気をトリエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテルで完全に置換し、顔料分散液B2を得た。
【0095】
(顔料分散液Y1)
有機溶媒(メチルエチルケトン)20質量部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03質量部、重合開始剤、及び表1に示す各モノマーを用い、窒素ガス置換を十分に行った反応容器内に入れて75℃攪拌下で重合し、モノマー成分100質量部に対してメチルエチルケトン40質量部に溶解した2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル0.9質量部を加え、80℃で1時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
【0096】
【表1】

【0097】
得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたうちの5質量部をメチルエチルケトン15質量部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。さらに、C.I.ピグメントイエロー74を15質量部加え、更に水を加えながら分散機で混練した。得られた混練物にイオン交換水100質量部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20質量
%のイエロー顔料の水分散体(顔料分散液Y1)を得た。
この分散液の顔料の体積平均粒子径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、100nmであった。
【0098】
(顔料分散液M1)
C.I.ピグメントイエロー74の代わりにC.I.ピグメントレッド122を用いた以外は顔料分散液Y1の調製方法と同様にして、顔料分散液M1を得た。
この分散液の顔料の体積平均粒子径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、140nmであった。
【0099】
(顔料分散液C1)
C.I.ピグメントイエロー74の代わりにC.I.ピグメントブルー15:4を用いた以外は顔料分散液Y1の調製方法と同様にして、顔料分散液C1を得た。
この分散液の顔料の体積平均粒子径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、80nmであった。
【0100】
[樹脂エマルジョンの調製]
最低造膜温度が20℃未満の樹脂エマルジョン(ポリマー1)は、水中で、アクリルアミド20gにメチルメタクリレート600g、n−ブチルアクリレート125g、メタクリル酸30g、トリエチレングリコールジアクリレート5gを乳化重合することにより製造した。エマルジョン中の樹脂粒子の体積平均粒子径は50nm、最低造膜温度は10℃であった。なお、樹脂粒子の体積平均粒子径は、コールターカウンターN4(コールター社製、商品名)を用いて測定し、最低造膜温度は上述のようにして測定した。
【0101】
[インク組成物の調製]
表2に示す割合で各成分を混合し、室温にて2時間攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過して、製造例1〜12の各インク組成物を調製した。ただし、表2中に示す添加量は全て質量%の濃度として表されており、顔料分散液の( )内の数字は顔料の固形分濃度(質量%)を示し、樹脂エマルジョンの( )の数字は樹脂粒子濃度(質量%)を示す。またイオン交換水の「残量」とは、インク組成物の全量が100質量%となるようにイオン交換水を加えることを意味する。
【0102】
【表2】

【0103】
<各種評価>
(試験1)膨張速度評価
プリンタとして、PX−5800(セイコーエプソン製)を、外部コントローラにより、打ち込み量、紙送り、インクジェットヘッドユニットに備えられるキャリッジの移動を制御できるように機構を改造したものを使用し、用紙(製品名「ゼロックスP」、富士ゼロックス製)に対して12mg/inch2の打ち込み量で上記各インク組成物により印刷(印字)した。その後、被記録媒体を固定したまま、12inch/sの速度でキャリッジを空走し続け、ヘッドこすれが発生した時間を測定し、以下の評価基準でコックリングの状態を判定した。
A:10秒以上ヘッドこすれが発生しなかった。
B:5〜10秒の間でヘッドこすれが発生した。
C:5秒未満でヘッドこすれが発生した。
結果を表3に示す。
【0104】
(試験2)目詰まり回復性
プリンタとして、PX−B500(セイコーエプソン製)を用いて、10分間連続して印刷し、全てのノズルから正常にインク組成物が吐出していることを確認した後、インクカートリッジを取り外し、記録ヘッドをヘッドキャップから外した状態で、40℃の環境下に1週間放置した。放置後、全ノズルが初期と同等に吐出するまでクリーニング動作を繰り返し、以下の判断基準により、回復しやすさを評価した。
A:6回未満のクリーニング操作で初期と同等に回復
B:6回〜8回のクリーニング操作で初期と同等に回復
C:クリーニング9回以上で初期と同等に回復
結果を表3に示す。
【0105】
【表3】

【符号の説明】
【0106】
100…インクジェット記録装置、101…被記録媒体、104…収納カセット、105…給紙ローラ、106…排紙トレイ、109…位置検出センサ、110…インクジェットヘッド、111…制御部、116、117、118、119A、119B…モータ、120…プラテン部、140…搬送ローラ、150、152、154…排出ローラ、190…インクジェットヘッドユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両性イオン化合物と、10〜60質量%の水と、を含有するインク組成物を、被記録媒体に印刷する印刷手段と、
前記インク組成物を前記印刷手段により前記被記録媒体に印刷する際に、当該印刷した部分に張力を付与しながら搬送する搬送手段と、
を備えるインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記両性イオン化合物は分子量100〜250のベタイン系化合物である、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インク組成物は、その全量に対して、前記両性イオン化合物を10〜40質量%含有する、請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記搬送手段は、前記印刷手段による前記インク組成物の吐出量に応じて、付与する前記張力の強さを変化させるものである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
両性イオン化合物と、10〜60質量%の水と、を含有するインク組成物を、被記録媒体に印刷する印刷工程と、
前記インク組成物を前記印刷工程により被記録媒体に印刷する際に、当該印刷した部分に張力を付与しながら搬送する搬送工程と、
を備えるインクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載のインクジェット記録装置であって、
更に、前記搬送手段を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、
前記被記録媒体の伸び及び縮みのうち少なくともいずれかに関連する情報データである伸縮パラメータが送信され、前記伸縮パラメータに基づいて前記被記録媒体の伸縮量を判断する伸縮量判断部と、
前記伸縮量判断部により判断された前記伸縮量に対応する引張力を前記搬送手段に設定する駆動制御部と、
を備えるインクジェット記録装置。
【請求項7】
請求項6に記載のインクジェット装置であって、
前記伸縮量判断部は記憶部を備え、
前記記憶部は、前記被記録媒体ごとの前記伸縮パラメータに対応した前記伸縮量を記憶している、インクジェット装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のインクジェット装置であって、
前記伸縮パラメータは、被記録媒体の種類、環境条件、印刷情報、インクの種類及びカートリッジ情報、のうち少なくともいずれかを含む、インクジェット装置。
【請求項9】
請求項5に記載のインクジェット記録方法であって、
前記搬送工程は、
前記被記録媒体の伸び及び縮みのうち少なくともいずれかの伸縮に関連する情報データである伸縮パラメータに基づいて前記被記録媒体の前記伸縮量を判断し、この判断結果に基づいて前記引張力を設定するものである、インクジェット記録方法。
【請求項10】
請求項9に記載のインクジェット記録方法であって、
前記伸縮パラメータは、被記録媒体の種類、環境条件、印刷情報、インクの種類及びカートリッジ情報、のうち少なくともいずれかを含む、インクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−240697(P2011−240697A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198030(P2010−198030)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】