説明

インクジェット記録装置

【課題】簡単な構成で、シート材の厚さの変化に起因する印字品質の低下を防止するようにしたインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド21a〜21dとこれを支持する支持部22とトレースローラ23,24とによりヘッドユニット11を構成する。ヘッドユニット11をリンク31,31によって平行状態で昇降可能に支持する。搬送ベルト13の印字基準面13aに担持されたシート材Sによってその厚さ分だけトレースローラ23が上昇されると、トレースローラ23と一体のヘッド印字面Nも同じだけ上昇される。これにより、シート材Sの厚さにかかわらず、ヘッド印字面Nとシート材S表面とのギャップGが一定に保持され、印字品質の低下を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクンクジェットヘッドのノズルからインクを噴射して印字を行うインクジェット記録装置に関し、詳しくは、シート材の厚さの変化に応じて適正な印字を行うことができるインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置において、シート材の搬送方向に直交する通紙幅方向(左右方向)に複数のノズルをヘッド印字面にライン状に並べてインクジェットヘッド(ラインヘッド)を構成し、さらにこのインクジェットヘッドをシート材搬送方向に複数列配列し、搬送ベルトによって印字部に搬送されてきたシート材に対して複数のインクジェットヘッドによりライン単位で異なる色の印字を行っていくものが知られている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置においては、各色ごとにノズルを有するヘッド印字面と、ノズルから吐出されたインクによって印字されるシート材表面との間に距離(以下「ギャップ」という。)を適正に保持する必要がある。このギャップが狭すぎる場合には、シート材がインクで汚染されたり、ノズルからインクが吐出されなかったりする。逆に、広すぎる場合には、印字が不鮮明になる。いずれの場合も印字品質が低下するという問題が発生する。
【0004】
ところが、一般に、インクジェット記録装置においては、ヘッド印字面から搬送ベルト表面までの距離、あるいはヘッド印字面から搬送ベルト裏面を支持するガイドプレートまでの距離を一定に保持する構成であるため、記録材の厚さが変化すると、上述のギャップが変化して印字品質が低下するという不具合があった。
【0005】
特許文献1には、このような不具合を解消すべく、ギャップを調整する技術が開示されている。シート材の厚みに応じて、ヘッド高さ可変レバーを操作してヘッド印字面の高さを調整し、これにより、シート材表面とヘッド印字面との間のギャップを調整するようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−196537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1によれば、シート材の厚さが異なるごとに手動でギャップを調整する必要があるため、その作業が煩雑であるという問題があった。またシート材の厚さを誤認した場合には、その誤認に基づいて間違ったギャップ調整が行われてしまうため、印字品質が低下するという問題があった。
【0008】
また、例えば、シート材の厚さを厚さ検知センサによって検知し、その検知結果に基づいて、ヘッド印字面の高さを制御することも考えられるが、この場合には、厚さ検知センサや制御装置が必要となり、構成の複雑化を招く上、シート材の微妙な厚さに最適な制御を行うことが困難であるといった問題もある。
【0009】
本発明の目的は、厚さ検知センサや制御装置が不要な簡単な構成でありながら、シート材の厚さが変化した場合でも、ギャップを最適に保持し、もって印字品質の低下を防止するようにしたインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、印字部の印字基準面上に搬送されたシート材に対して、複数のノズルからインクを噴射して印字を行うインクジェット記録装置に関するものである。このインクジェット記録装置は、前記印字基準面に対面するヘッド印字面に前記複数のノズルが形成されたインクジェットヘッドと前記インクジェットヘッドを支持する支持部と前記ヘッド印字面よりも下方に突設された第1トレース部とによって構成されたヘッドユニットと、前記ヘッドユニットを、前記印字基準面に対する前記ヘッド印字面の平行状態を維持して昇降させる昇降機構と、前記印字基準面上にシート材を搬送する搬送手段と、を備え、前記第1トレース部は、前記ヘッド印字面から下方への突出高さが最適印字距離に設定され、シート材搬送方向に沿っての前記ノズルの上流側でかつシート材の通紙幅内に配置され、前記印字基準面との間に搬送されたシート材によってシート材の厚さ分だけ上昇されるとともにシート材の搬送に伴ってシート材の表面に倣って相対移動する、ことを特徴としている。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に係るインクジェット記録装置において、前記搬送手段に相当する搬送ベルトと、前記搬送ベルトのうちの前記ヘッド印字面に対面するシート材担持面を裏面側からガイドするガイド部材と、を備え、前記シート材担持面が前記印字基準面に相当する、ことを特徴としている。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係るインクジェット記録装置において、インクジェット記録装置は、前記ヘッドユニットは、前記ヘッド印字面よりも下方に突設された第2トレース部を有し、前記第2トレース部は、前記ヘッド印字面からの下方への突出高さが前記最適印字距離に設定され、シート材搬送方向に沿っての前記ノズルの下流側でかつシート材の通紙幅内に配置され、前記印字基準面との間に搬送されたシート材によってシート材の厚さ分だけ上昇されるとともにシート材の搬送に伴ってシート材の表面に倣って相対移動する、ことを特徴としている。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3に係るインクジェット記録装置において、シート材搬送方向に沿っての、前記第1トレース部と前記第2トレース部との距離が、印字に供されるシート材における、シート材搬送方向長さが最小のシート材のそのシート材搬送方向長さよりも短く設定されている、ことを特徴としている。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に係るインクジェット記録装置において、前記昇降機構が、前記ガイド部材と前記ヘッドユニットとの間に配設された四節回転機構によって構成されている、ことを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、前記ヘッドユニットを上方に付勢する付勢手段を有する、ことを特徴としている。
【0016】
請求項7に係る発明は、請求項3乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、前記第1トレース部及び前記第2トレース部が、シート材の表面に倣って転動するローラ状のトレースローラによって構成されている、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、ヘッドユニットは、複数のインクジェットヘッドとこれらを支持する支持部と第1トレース部とによって構成されている。このうち、インクジェットヘッドは、印字基準面に対面するヘッド印字面を有していて、このヘッド印字面には、インクを噴射する複数のノズルが形成されている。また、第1トレース部は、ヘッド印字面からの下方への突出高さが最適印字距離に設定されており、さらにシート材搬送方向に沿ってのノズルの上流側でかつシート材の通紙幅内に配置されている。
【0018】
このヘッドユニット全体は、昇降機構により、印字基準面に対してヘッド印字面が平行を維持した状態で昇降される。
【0019】
このように、第1トレース部は、ノズルの上流側でかつ通紙幅内に配置されているので、シート材が印字部の印字基準面に搬送されてくると、搬送されてきたシート材の先端によってそのシート材の厚さに相当する分だけ上昇される。これによりヘッドユニット全体がシート材の厚さ分だけ上昇し、ヘッドユニットの一部を構成しているヘッド印字面も同様に、シート材の厚さ分だけ上昇する。すなわち、ヘッド印字面からシート材表面までの距離(ギャップ)は、第1トレース部が、シート材に倣って昇降するため、ヘッド印字面からの第1トレース部の下方への突出高さである最適印字距離に保持される。シート材の厚さ分だけ上昇した第1トレース部は、シート材の搬送に伴って、シート材の表面に倣って相対移動する。つまりシート材は、第1トレース部を上昇させて適正なギャップを維持した状態で、その先端がノズルに到達し、その後、ノズルからインクが噴射されて印字が行われる。
【0020】
このように請求項1の発明によれば、厚さ検知センサや制御装置が不要な簡単な機械的な構成でありながら、シート材の厚さが変化した場合であっても、ギャップを適正に維持することができ、これにより、シート材の厚さが変化することに起因する印字品質の低下を防止することができる。
【0021】
請求項2の発明によれば、搬送ベルトが搬送手段に相当し、また搬送ベルトのシート材担持面が、裏面側からガイド部材によってガイドされて印字基準面となる。したがって、搬送ベルトのシート材担持面に担持されたシート材の表面とヘッド印字面との間のギャップが最適印字距離に保持される。
【0022】
請求項3の発明によれば、ヘッドユニットは、第2トレース部を有していて、この第2トレース部は、ヘッド印字面からの下方への突出高さが最適印字距離に設定されており、さらにシート材搬送方向に沿ってのノズルの下流側でかつシート材の通紙幅内に配置されている。したがって、シート材の後端がノズルを通過し終える際も、シート材の表面に乗っかってギャップを適正に維持することができる。
【0023】
請求項4の発明によれば、第1トレース部から第2トレース部までの距離が、印字に供されるシート材のシート材搬送方向長さが最小のものよりも短く設定されているので、印字に供されるすべてのシート材に対して、シート材がノズルの下方を完全に通過し終えるまでは、適正なギャップを保持することが可能である。
【0024】
請求項5の発明によれば、四節回転機構を利用した簡単なもので、昇降機構を構築することができる。
【0025】
請求項6の発明によれば、付勢手段によってヘッドユニットを上方に付勢しているので、搬送されてきたシート材が第1トレース部に衝突してヘッドユニット全体を上昇させる際に、小さい力で上昇させることができる。また、シート材の後端から第1トレース部から外れる場合、又は第2トレース部を有する場合には、第2トレース部から外れる場合のショックを低減することができる。
【0026】
請求項7の発明によると、第1トレース部及び第2トレース部がローラ状のトレースローラによって構成されているので、第1トレース部及び第2トレース部からシート材に作用する搬送抵抗を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づき詳述する。
【0028】
<実施形態1>
図1,図2,図3に、本発明に係るインクジェット記録装置10を示す。このうち図1は、インクジェット記録装置10を上方から見た図である。同図における右側がシート材S(記録材としてのコピー用紙,プラスチックフィルム,封筒等)の搬送方向(矢印Ks方向)に沿っての上流側であり、左側が下流側である。ここで、シート材Sの搬送方向及びこの逆方向を適宜「シート搬送方向」又は単に「搬送方向」という。また、図1中の下側及び上側をそれぞれインクジェット記録装置10の左側及び右側とする。これに従うと、搬送方向に直交する方向である通紙幅方向が左右方向となる。この通紙幅方向(以下適宜「左右方向、ベルト幅方向」という。)は、図1におけるシート材Sの先端S1の方向と一致する。図2は、インクジェット記録装置10を左側から見た図(図1中の下側から見た図)を示している。図3は、図2におけるヘッドユニット11の上流側近傍の拡大図である。
【0029】
なお、以下の説明において、印字部Pとは、シート材Sに対してインクにより実際に印字が行われる領域のことをいい、具体的には、上流側のインクジェットヘッド21aの下方から下流側のインクジェットヘッド21dの下方に至る領域を示すものとする。
【0030】
図1〜図3に示すように、インクジェット記録装置10は、ヘッドユニット11と、このヘッドユニット11を昇降させる昇降機構12と、印字部Pにシート材Sを搬送する搬送手段としての搬送ベルト13と、を備えている。以下、この順に説明する。
【0031】
ヘッドユニット11は、インクジェットヘッド21a,21b,21c,21dと、これらインクジェットヘッド21a〜21dを支持する支持部22と、上流側のトレースローラ(第1トレース部)23と、下流側のトレースローラ(第2トレース部)24とを有している。なお、以下の説明では、上流側から下流側にかけて4列に配列された4個のインクジェットヘッド21a,21b,21c,21dを有する場合を例に説明するが、これらを総称する場合や区別する必要がない場合には、単に「インクジェットヘッド21」というものとする。この点については、ノズルna,nb,nc,ndについても同様であり、適宜「ノズルn」というものとする。
【0032】
各インクジェットヘッド21は、左右方向に長く形成されていて、いわゆるラインヘッドを構成している。本実施形態では、通紙幅方向(左右方向)に長い4個のインクジェットヘッド21a,21b,21c,21dが、図1,図2に示すように、上流側から下流側にかけて等間隔で配列されている。
【0033】
インクジェットヘッド21は、後述する搬送ベルト13の印字基準面(シート材担持面)13aに対面する平面状のヘッド印字面Nを有していて、このヘッド印字面Nには、インクを噴射(吐出)するための多数のノズルnがシート搬送方向にほぼ直交する通紙幅方向(左右方向)に沿ってライン状に整列されている。ここで、ほぼ直交するとは、直交することが望ましいが、製造誤差や組み立て誤差による多少のずれは許容するという意味である。ノズルnは、例えばインクジェット記録装置10の解像度が600dpi(ドット/インチ:1インチ当たりのドット数)である場合には、その直径が20μm程度であり、隣接するノズル間のピッチが40μm程度となる。なお、ライン状に整列されたノズルとしては、通紙幅方向に1列に直線状に整列されたものであっても、また、通紙幅方向に千鳥状に整列されたものであってもよい。上述のヘッド印字面Nには、撥水加工が施されている。
【0034】
図1,図2に示すように、4個のインクジェットヘッド21a,21b,21c,21dは、上流側から順に等間隔で配設されていて、それぞれ異なる色のインクを噴射するように構成されている。例えば、上流側から順に、ブラック,イエロー,マゼンタ,シアンの各色のインクを噴射する。本実施形態では、これら4色のインクジェットヘッド21a〜21dによって、シート材Sに対しそれぞれ異なる色でライン単位で印字を行い、全体として4色フルカラーの印字を行うことができる。これら4個のインクジェットヘッド21は、支持部22によって支持されている。
【0035】
ヘッドユニット11には、シート搬送方向に沿っての上流側にトレースローラ23が配設され、下流側にトレースローラ24が配設されている。本実施形態では、トレースローラ23として、2個のトレースローラ23a,23bが配設されている。これらトレースローラ23a,23bは、支持部22によって回転自在に支持されている。トレースローラ23a,23bは、ヘッド印字面Nよりも下方に突設されており、ヘッド印字面Nからトレースローラ23a,23bの下端部までの距離、すなわち突出高さは、最適印字距離Hに設定されている。ここで最適印字距離Hとは、上述のノズルnから吐出したインクによってシート材S表面に印字を行う際に、最適な印字を行うことができる距離をいい、これよりも距離が短いあるいは長い場合には、印字品質が低下することになる。なお、本実施形態においては、この最適印字距離Hは、後述するギャップG(ヘッド印字面Nからシート材S表面までの距離)と等しい。言い換えると、後述のように、最適印字距離Hによって、適正なギャップGを確保するようにしている。
【0036】
これらトレースローラ23a,23bは、シート搬送方向及び上下方向については同じ位置に配置されており、左右方向の位置については、シート材Sの通紙幅Wsの中心に対して左右に振り分けで配置されている。また、これらトレースローラ23a,23bは、回転軸が左右方向を向くように配設されており、シート搬送方向に沿っての回転軸の位置は、前述のインクジェットヘッド21のノズルnのうち、最上流側に配設されたノズルnaよりもさらに上流側に配設されている。つまり、これらトレースローラ23a,23bと、後述する搬送ベルト13の印字基準面13aとの接点は、最上流側のノズルnaよりもさらに上流側に配置されている。すなわち、後述するように、シート材Sの先端がノズルnaの印字位置に到達するときには、すでにシート材Sの先端側が、搬送ベルト13の印字基準面13aとトレースローラ23a,23bとの間に入り込んでいる。
【0037】
一方、下流側のトレースローラ24として、2個のトレースローラ24a,24bが配設されている。これらトレースローラ24a,24bは、ヘッドユニット11の支持部22によって回転自在に支持されている。これらトレースローラ24a,24bは、シート搬送方向及び上下方向については同じ位置に配置されており、左右方向の位置については、シート材Sの通紙幅Wsの中心に対して左右に振り分けで配置されている。またこれらトレースローラ24a,24bは、回転軸が左右方向を向くように配設されており、シート搬送方向に沿っての回転軸の位置は、前述のインクジェットヘッド21のノズルnのうち、最下流側に配設されたノズルndよりもさらに下流側に配設されている。つまり、これらトレースローラ24a,24bと、後述する搬送ベルト13の印字基準面13aとの接点は、最下流側のノズルndよりもさらに下流側に配置されている。すなわち、後述するように、シート材Sの後端がノズルndの印字位置を通過し終えても、依然として、シート材Sの後端側が、搬送ベルト13の印字基準面13aとトレースローラ24a,24bとの間を通過し終えていない。さらに、左右のトレースローラ23a,23b間の距離、及び左右のトレースローラ24a,24b間の距離は、通紙幅が最小のシート材Sのその通紙幅よりも短く設定されている。すなわち、インクジェットヘッド21によって印字されるシート材Sは、搬送ベルト13の印字基準面13aによって担持搬送され、必ずトレースローラ23a,23b及びトレースローラ24a,24bを通過するようになっている。この際、上流側のトレースローラ23a,23bは、上述のように最上流側のノズルnaよりもさらに上流側に配設されているため、トレースローラ23a,23bは、印字前のシート材Sに接触することになる。これに対し、下流側のトレースローラ24a,24bは、最下流側のノズルndよりもさらに下流側に配設されているので、トレースローラ24a,24bは、印字後のシート材Sに接触することになる。そこで、トレースローラ24a,24bとしては、シート材Sの印字面に対する接触面積を小さくするために、例えば、周方向に複数の切欠が形成された拍車状のものを使用するとよい。なお、ノズルnから吐出するインクとして、速乾性のインクを使用し、例えば、印字面が下流側のトレースローラ24a,24bに到達する前に、印字面のインクが乾燥するような場合には、下流側のトレースローラ24a,24bの形状を上述の拍車状のもの等に限定する必要はない。
【0038】
上述のようにインクジェットヘッド21a,21b,21c,21d、支持部22、上流側のトレースローラ23a,23b、下流側のトレースローラ24a,24bは、全体としてヘッドユニット11を構成している。そして、このヘッドユニット11は、次に説明する昇降機構12によって昇降可能に支持される。
【0039】
昇降機構12として、本実施形態では、ヘッドユニット11の左右の両側面に、それぞれ同じ構成の四節回転機構を配設している。四節回転機構は、上流側と下流側とに配設した相互に平行な一対のリンク31を有している。上流側のリンク31は、基端側(下端側)が、後述するガイドプレート(ガイド部材)51の上流側の下部から左方に突設された軸32によって回動自在に支持され、また先端側(上端側)が、上述のヘッドユニット11の上流側の上部から左方に突設された軸32によって回動自在に支持されている。上流側のリンク31は、ヘッドユニット11に連結された上端側が、上流側に傾斜するように配設されている。一方、下流側のリンク31は、基端側(下端側)が、ガイドプレート51の下流側の下部から左方に突設された軸32によって回動自在に支持され、また先端側(上端側)が、ヘッドユニット11の下流側の上部から左方に突設された軸32によって回動自在に支持されている。下流側のリンク31は、ヘッドユニット11に連結された上端側が、上流側に傾斜するように配設されている。上流側及び下流側のリンク31が回動自在に連結されている4つの軸32は、全体として平行四辺形を構成している。なお、以上では、ヘッドユニット11の左側面に配設された四節回転機構について説明したが、ヘッドユニット11の右側面に配設された四節回転機構も同様な構成であるので、説明は省略する。
【0040】
このような構成の昇降機構12は、後述するガイドプレート51のガイド面51aやこのガイド面51aにガイドされる搬送ベルト13の印字基準面13aに対して、ヘッドユニット11を、そのヘッド印字面Nが平行な状態を維持して昇降させることができる。
【0041】
本実施形態においては、ヘッドユニット11をその自重を相殺する方向に付勢する付勢手段として、引っ張りばね56が配設されている。引っ張りばね56は、基端側がインクジェット記録装置10の装置本体の一部10Aに取り付けられ、先端側が、ヘッドユニット11における、下流側のリンク31の先端部近傍に取り付けられている。引っ張りばね56全体の向きは、下流側のリンク31に対してほぼ直角となるように配置されている。すなわち、引っ張りばね53は、リンク31の回転方向とほぼ同方向にヘッドユニット11を付勢している。このため、ヘッドユニット11の円滑な動きを可能としている。引っ張りばね56の付勢力は、後述する搬送ベルト13に担持されたシート材Sがトレースローラ23a,23bに衝突した際に、ヘッドユニット11全体がシート材Sの搬送を阻害することなく円滑に上昇することができる程度に設定されている。
【0042】
搬送ベルト13は、無端状(エンドレス)に構成されており、下流側に配設された駆動ローラ42と、上流側に配設された従動ローラ41との間に掛け渡されている。搬送ベルト13の左右方向の幅W13は、シート材Sの通紙幅Wsよりも広く設定されている。従動ローラ41の上方には、従動ローラ41との間に搬送ベルト13を挟み込むように吸着ローラ43が配設されている。吸着ローラ43は、電源(不図示)によって帯電バイアスが印加されており、これによりシート材Sに電荷を付与する。電荷を付与されたシート材Sは、搬送ベルト13上に静電気的に吸着される。上述の駆動ローラ42は、駆動手段としてのモータ(不図示)によって駆動回転され、これに伴って搬送ベルト13が矢印R13方向に回転(無端移動)される。搬送ベルト13のうち、その回転方向に沿っての従動ローラ41の下流側で、かつ駆動ローラ42の上流側に位置する部分の表面側は、シート材Sを担持するシート材担持面である。このシート材担持面は、裏面13b側が、ガイドプレート51によってガイドされる。ガイドプレート51は、上面に、平面状に形成されたガイド面51aを有している。このガイド面51aは、上述のヘッドユニット11のヘッド印字面Nと平行に配設されていて、矢印R13方向に回転する搬送ベルト13の裏面をガイドする。これにより、搬送ベルト13のシート材担持面は、ヘッド印字面Nに対して平行状態を維持して矢印R13方向に回転する。このシート材担持面は、印字基準面13aとなる。なお、ヘッド印字面Nから印字基準面13aまでの距離を印字基準距離Xとすると、シート材Sが担持されない状態における、この印字基準距離Xは、上述の最適印字距離H、すなわちヘッド印字面Nからトレースローラ23a,23bの下端までの距離と同じである。
【0043】
搬送ベルト13の下方には、給紙カセット44が配設されている。給紙カセット44には、積層状態で多数のシート材Sが収納されている。シート材Sは、給紙ローラ45によって給紙カセット44から給紙され、さらに搬送ローラ46及び重送防止用のリタードローラ47によって1枚ずつ分離され、ガイド48に沿って、停止中のレジストローラ対49に搬送される。搬送されたシート材Sは、停止中のレジストローラ対49によって斜行が矯正されるとともに、その後のレジストローラ対49の回転によって、搬送ベルト13と吸着ローラ43との間のニップ部に供給される。供給されたシート材Sは、従動コロ23によって搬送ベルト13の印字基準面13aに担持され、搬送ベルト13の矢印R13方向の回転に伴って印字部Pに供給され、インクジェットヘッド21によって印字が行われる。印字後のシート材Sは、搬送ベルト13から分離され、排紙トレイ52に排出されて収納される。
【0044】
次に、主に図3を参照し、適宜図2を援用して、上述構成のインクジェット記録装置10の作用・効果について説明する。なお、以下の説明では、上流側のトレースローラ23a,23bをまとめてトレースローラ23とし、また下流側のトレースローラ24a,24bをまとめてトレースローラ24として説明する。
【0045】
ここで、印字基準距離X、最適印字距離H、ギャップGについて整理する。印字基準距離Xは、ヘッド印字面Nから印字基準面(搬送ベルト13のシート材担持面)13aまでの距離である。本実施形態では、この印字基準距離Xは、印字基準面13aの高さ位置が変化しないので、ヘッド印字面Nの位置が変化した場合には、これに伴って変化することになる。最適印字距離Hは、ヘッド印字面Nからトレースローラ23,24の下端までの距離(突出高さ)であり、本実施形態では、この最適印字距離Hは常に一定である。そして、ギャップGは、ヘッド印字面Nからシート材S表面までの距離である。
【0046】
印字品質の低下を防止するためには、このギャップGを一定に保持することが肝要である。本実施形態では、ヘッド印字面Nからの距離が最適印字距離Hに保持されたトレースローラ23,24が、シート材Sに倣って相対移動することで、シート材Sの厚さが変化した場合でも、ギャップGが一定に保持されるようにしている。この点について、以下、詳述する。
【0047】
図3中においては、トレースローラ23及びヘッドユニット11の位置を、実線、点線、一点鎖線の3種類で示している。このうち、実線は、搬送ベルト13の印字基準面13aとトレースローラ23との間にシート材Sがない場合(以下(1)の場合という)を、また、点線は、薄いシート材Sa(点線で図示)がある場合(以下(2)の場合という。)を、そして、一点鎖線は、厚いシート材Sb(一点鎖線で図示)がある場合(以下(3)の場合という。)をそれぞれ示している。
【0048】
(1)の場合、トレースローラ23は、搬送ベルト13の印字基準面13aに接触している。この場合、印字基準距離Xと、最適印字距離Hと、ギャップG(シート材Sの厚さが0と考える)とは等しい。
【0049】
(2)の場合、搬送ベルト13の印字基準面13aに担持されて搬送されてきた薄いシート材Saがトレースローラ23と搬送ベルト13との間のニップ部Aに供給されて、シート材Sの先端がトレースローラ23に衝突すると、トレースローラ23がシート材Saの厚さ分だけ上昇する。これに伴い、上流側及び下流側のリンク31が基端側の軸32を中心に矢印R32方向(図3参照)に回転し、ヘッドユニット11全体が、印字基準面13aに対してヘッド印字面Nの平行状態を維持したまま、シート材Saの厚さ分だけ上昇する。つまり、ヘッド印字面Nが、シート材Saの厚さ分だけ上昇する。さらに、シート材Saの搬送に伴って、トレースローラ23がシート材Saの表面に倣って相対移動する。その後、シート材Saに対して、ノズルna〜ndによって印字が行われる。各ノズルna〜ndによる印字に際し、ギャップGは、トレースローラ23が点線で示すようにシート材Saの厚さ分だけ上昇するのに伴ってヘッド印字面Nが同じ分だけ上昇するため、最適印字距離Hと同じに設定される。すなわち、印字は、最適なギャップGを維持した状態で行われる。さらに、本実施形態では、上流側のトレースローラ23と下流側のトレースローラ24との距離が、シート材Saの搬送方向長さよりも短く設定されているので、シート材Saの後端が上流側のトレースローラ23を通過し終える前に、このシート材Saの先端が下流側のトレースローラ24に到達する。このため、シート材Saの後端が下流側のトレースローラ24を通過し終えるまでは、ヘッドユニット11は、シート材Saの厚さだけ上昇した状態を維持される。
【0050】
(3)の場合については、(2)の場合と比較して、シート材Sbの厚さが厚くなる分、一点鎖線で示すように、トレースローラ23の上昇高さが高くなり、これに伴ってヘッド印字面Nの上昇高さも高くなる。したがって、この場合でも、ギャップGは、(2)の場合と同じく、最適な距離に保持されることになる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によると、ヘッド印字面Nからの距離が最適印字距離Hに保持されたトレースローラ23,24が、シート材Sの厚さが変化した場合でもシート材Sの表面に倣って相対移動し、さらにヘッド印字面Nとシート材S表面とのギャップGを一定に保持するスペーサとして作用する。したがって、シート材Sの厚さが変化した場合であっても、常にギャップGを一定に保持し、高品質な印字を可能とする。
【0052】
また、本実施形態では、第1トレース部と第2トレース部とが、それぞれトレースローラ23,24によって構成されているので、搬送ベルト13によって搬送されるシート材Sの搬送抵抗を低減させることができる。なお、第1トレース部及び第2とレース部は、可動部材であるローラに代えて、不動の凸部(不図示)によって構成することも可能である。この場合には、凸部における、搬送ベルト13の印字基準面13aやシート材Sの表面に接触する面に、これらとの間の摩擦力を低減することができる低摩擦材をコーティングするとよい。
【0053】
以上の実施形態においては、最上流側のノズルnaのさらに上流側にトレースローラ23を配設し、また最下流側のノズルndのさらに下流側にトレースローラ24を配設し、加えて、トレースローラ23,24間の距離が、シート材Sの搬送方向長さよりも短く設定されている。このため、シート材Sの先端が最上流側のノズルnaに到達したときには、既にシート材Sによってトレースローラ23が上昇されて最適なギャップGが設定されている。また、シート材Sの後端が最下流側のノズルndを通過し終えても、トレースローラ24を通過し終えるまでは、最適なギャップGは保持される。このため、シート材Sの先端及び後端に余白を設けることなく、先端から後端までの全域にわたって、最適なギャップGで印字を行うことができる。しかも、シート材Sの厚さを検知するための厚さ検知センサや、その検知結果に基づいてヘッドユニット11の高さを制御する制御手段などを必要としない、簡単な機械的な構成で、最適なギャップGでの印字を可能とする。
【0054】
なお、以上では、上流側と下流側とにそれぞれトレースローラ23,24を配設する場合を例に説明したが、条件によっては、下流側のトレースローラ24を省略することも可能である。例えば、インクジェットヘッド21が4列ではなく1列のみで、かつそのノズルからトレースローラ23までの距離をY(図3参照)として場合に、印字に供されるシート材Sの後端にこの距離Yよりも長い余白部を設けることが可能な場合には、上流側のトレースローラ23のみで、上述と同様の作用・効果を奏することができる。すなわち、この場合には、シート材Sの後端がトレースローラ23を抜けて、ヘッドユニット11全体が下降した時点でギャップGが狭まるが、この時点では、ノズルは既にシート材S後端の余白部に対応していて、それ以上、印字を行う必要がない。このため、上流側のトレースローラ23だけで、シート材Sの厚さが変化した場合であっても、ギャップGを一定に保持して、最適な印字を行うことが可能である。
【0055】
<実施形態2>
図4に実施形態2を示す。本実施形態は、上述の実施形態1では搬送手段が搬送ベルト13であったのに代えて、搬送手段として搬送ローラ55を採用している。
【0056】
図4に示すように、トレースローラ23に下方から接するように、搬送ローラ55を設ける。搬送ローラ55は、駆動手段(不図示)によって矢印R55方向に駆動回転される。搬送ローラ55の下流側及び上流側には、搬送ガイド53,54を設け、それぞれのガイド面53a(印字基準面),54aによって裏面側からシート材Sの搬送をガイドする。本実施形態においても、搬送ローラ55とトレースローラ23との間のニップ部Bに供給されて、挟持搬送されるシート材Sの厚さ、例えば、点線で示す薄いシート材Sa、一点鎖線で示す厚いシート材Sbに応じて、トレースローラ23及びヘッドユニット11がそれぞれ点線、一点鎖線に移動するので、ギャップGを一定に保持して高品質の印字を行うことができる。さらに、本実施形態によると、搬送手段として搬送ベルトを使用する場合と比較して、構成を簡略化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のインクジェット記録装置は、上述の使用態様に限定されず、例えば、ネットワーク等のデータ通信網によって印字情報を受信できるようにして、パーソナルコンピュータ等の出力装置として使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施形態1のインクジェット記録装置を上方から見た図である。
【図2】実施形態1のインクジェット記録装置をシート材搬送方向に向かって左側から見た図である。
【図3】図1におけるトレースローラの上流側近傍の拡大図である。
【図4】実施形態2のトレースローラの上流側近傍の拡大図である。
【符号の説明】
【0059】
10……インクジェット記録装置、11……ヘッドユニット、12……昇降機構、13……搬送ベルト(搬送手段)、13a,53a……印字基準面(シート材担持面)、21,21a,21b,21c,21d……インクジェットヘッド、22……支持部、23,23a,23b……上流側のトレースローラ(第1トレース部)、24,24a,24b……下流側のトレースローラ(第2トレース部)、51……ガイドプレート(ガイド部材)、55……搬送ローラ(搬送手段)、56……引っ張りばね(付勢手段)、H……最適印字距離、n,na,nb,nc,nd……ノズル、N……ヘッド印字面、P……印字部、S……シート材、Sa……薄いシート材、Sb……厚いシート材、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字部の印字基準面上に搬送されたシート材に対して、複数のノズルからインクを噴射して印字を行うインクジェット記録装置において、
前記印字基準面に対面するヘッド印字面に前記複数のノズルが形成されたインクジェットヘッドと前記インクジェットヘッドを支持する支持部と前記ヘッド印字面よりも下方に突設された第1トレース部とによって構成されたヘッドユニットと、
前記ヘッドユニットを、前記印字基準面に対する前記ヘッド印字面の平行状態を維持して昇降させる昇降機構と、
前記印字基準面上にシート材を搬送する搬送手段と、を備え、
前記第1トレース部は、
前記ヘッド印字面から下方への突出高さが最適印字距離に設定され、
シート材搬送方向に沿っての前記ノズルの上流側でかつシート材の通紙幅内に配置され、
前記印字基準面との間に搬送されたシート材によってシート材の厚さ分だけ上昇されるとともにシート材の搬送に伴ってシート材の表面に倣って相対移動する、
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記搬送手段に相当する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトのうちの前記ヘッド印字面に対面するシート材担持面を裏面側からガイドするガイド部材と、を備え、
前記シート材担持面が前記印字基準面に相当する、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記ヘッドユニットは、前記ヘッド印字面よりも下方に突設された第2トレース部を有し、
前記第2トレース部は、
前記ヘッド印字面からの下方への突出高さが前記最適印字距離に設定され、
シート材搬送方向に沿っての前記ノズルの下流側でかつシート材の通紙幅内に配置され、
前記印字基準面との間に搬送されたシート材によってシート材の厚さ分だけ上昇されるとともにシート材の搬送に伴ってシート材の表面に倣って相対移動する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
シート材搬送方向に沿っての、前記第1トレース部と前記第2トレース部との距離が、印字に供されるシート材における、シート材搬送方向長さが最小のシート材のそのシート材搬送方向長さよりも短く設定されている、
ことを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記昇降機構が、前記ガイド部材と前記ヘッドユニットとの間に配設された四節回転機構によって構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記ヘッドユニットを上方に付勢する付勢手段を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第1トレース部及び前記第2トレース部が、シート材の表面に倣って転動するローラ状のトレースローラによって構成されている、
ことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−190737(P2007−190737A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9409(P2006−9409)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】