説明

インクジェット記録装置

【課題】帯電回路において載置面側の電極に使用する材料が制限されにくい。
【解決手段】帯電ローラ70は搬送ベルト53において用紙Pが載置される載置面54に対向している。電極63は、帯電ローラ70との間に搬送ベルト53を挟むように、載置面54とは反対側の内面55に対向している。帯電ローラ70及び電極63間に電圧Vが印加されると、帯電ローラ70から搬送ベルト53上に載置された用紙Pへと放電が発生し、用紙Pが搬送ベルト53に吸着する。電極63において搬送ベルト53側の表面には表層材64が積層されている。表層材64は、気温22.5℃且つ相対湿度50%の環境において帯電ローラ70及び電極63間に電圧Vが印加された際、体積抵抗率が1010〜1014Ω・cm(オームセンチメートル)となる樹脂材料から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体を搬送部材に吸着させて搬送するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体を無端ベルトに吸着させて記録ヘッドへと搬送するものとして特許文献1がある。この文献では、帯電ローラから無端ベルトへと放電して記録媒体を帯電させる帯電回路を形成することで記録媒体を無端ベルトに吸着させる吸着手段が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−230035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
記録媒体の抵抗が低い場合や、記録媒体がない場合等に、帯電回路に過度な電流が流れることを防止するためには、ある程度大きい抵抗値を有する材料が帯電回路中に必要である。この目的のため、一般的には帯電ローラの抵抗値をある程度調整することが行われるが、これによると、帯電ローラに用いる材料が制限されてしまい、不都合が生じるおそれがある。
【0005】
例えば、帯電ローラの抵抗値を調整するため、ウレタンやゴム等からなるベース材に導電材を含有させた材料を使用することがある。一方、無端ベルトに付着したインクが帯電ローラに付着すると、記録媒体を汚してしまうおそれがある。これを防ぐため、例えば、帯電ローラの表面にフッ素樹脂によるコーティング等の撥水処理を施すことが考えられる。しかし、フッ素樹脂によるコーティングは、200℃程度の高温での焼成が必要となるため、ウレタンやゴム等からなる帯電ローラに対して施すことは困難である。このように、帯電ローラに用いる材料が制限されることにより、撥水性を確保しにくくなる場合がある。
【0006】
本発明の目的は、帯電回路において載置面側の電極に使用する材料が制限されにくいインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体が載置される載置面を有する無端ベルトを所定の経路に沿って循環させることにより前記載置面に載置された記録媒体を搬送する搬送手段と、前記無端ベルトに対向して配置されたインクを吐出する記録ヘッドと、前記載置面と対向する位置であって記録媒体の搬送方向に関して前記記録ヘッドよりも上流の位置に配置された第1電極と、前記第1電極との間に前記無端ベルトを挟む位置であって前記載置面と反対側の内面と対向する位置に配置された第2電極とを有し、前記第1電極と前記第2電極との間に所定の電圧を印加することで前記載置面上の記録媒体と前記第1電極の間で放電させて当該記録媒体を前記載置面に吸着させる第1吸着手段とを備えており、前記第2電極において前記無端ベルトの前記内面に対向する表面に、イオン導電系の抵抗率制御材を含有し、気温22.5℃且つ相対湿度50%の環境において前記所定の電圧が印加された際に体積抵抗率が1010〜1014Ω・cm(オームセンチメートル)である樹脂材料からなる表層材が積層されている。
【0008】
本発明のインクジェット記録装置によると、第2電極において無端ベルトの内面に対向する表面に、抵抗値が印加電圧に応じて変化しにくいイオン導電系の抵抗率制御材を含有し、体積抵抗率が比較的高い、1010〜1014Ω・cm(オームセンチメートル)である樹脂材料からなる表層材を積層させる。これにより、第1吸着手段において形成される帯電回路に過大な電流が発生するのが防止されている。このため、帯電回路に過大な電流が発生するのを防ぐ目的では第1電極の材料を制限する必要がないため、第1電極に用いる材料の自由度を高くできる。例えば、第1電極として撥水処理に適した材料を選択できる。
【0009】
また、本発明においては、記録媒体の搬送方向に関して前記第1電極及び前記第2電極よりも下流の位置であって前記内面と対向する位置に配置された第3電極を有し、前記第2電極と前記第3電極の間に電圧を印加して前記載置面上の記録媒体を前記載置面に吸着させる第2吸着手段をさらに備えることが好ましい。これによると、第1吸着手段の電極と第2吸着手段の電極を共用できるため、部品点数を削減できる。
【0010】
また、本発明においては、前記第2電極が、記録媒体の搬送方向に関して前記記録ヘッドよりも上流の位置であって前記載置面に沿った方向に延びる連繋部と、当該連繋部から前記載置面に沿った方向に櫛歯状に延びる櫛歯部とを有し、前記第1電極が、前記連繋部に対向するように配置されていることが好ましい。連繋部の周辺は記録媒体を安定して吸着できないことが多いため、記録ヘッドをその付近に配置できず、デッドスペースとなりやすい。このようなデッドスペースに第1電極を配置するので、搬送方向に関する装置の幅を抑制できる。
【0011】
また、本発明においては、前記第1電極の前記載置面と接触する表面が、撥水性を有する材料で被覆されていることが好ましい。これによると、第1電極にインクが付着しにくく、記録媒体を汚しにくい構成とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
第2電極において無端ベルトの内面に対向する表面に、抵抗値が印加電圧に応じて変化しにくいイオン導電系の抵抗率制御材を含有し、体積抵抗率が比較的高い、1010〜1014Ω・cm(オームセンチメートル)である樹脂材料からなる表層材を積層させる。これにより、第1吸着手段において形成される帯電回路に過大な電流が発生するのが防止されている。このため、帯電回路に過大な電流が発生するのを防ぐ目的では第1電極の材料を制限する必要がないため、第1電極に用いる材料の自由度を高くできる。例えば、第1電極として撥水処理に適した材料を選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンタの内部構成を概略的に示す模式図である。
【図2】図1の搬送機構周辺の平面図であり、搬送ベルトの一部及び吸着プラテンの上部の図示が省略され、吸着プラテンの下部が図示されている。
【図3】図2のIII−III線断面の部分拡大図である。
【図4】図2のV−V線断面図における帯電ローラ周辺の拡大図である。
【図5】記録媒体、吸着プラテン及び搬送機構間に形成される電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な一実施の形態について、図1〜図5を参照しつつ説明する。
【0015】
第1の実施形態におけるインクジェットプリンタ1は、図1に示すように、直方体形状の筐体1aを有しており、上部に排紙部15が設けられている。筐体1a内は、上から順に2つの空間S1,S2に区分されている。空間S1には、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクをそれぞれ吐出する4つのインクジェットヘッド2(記録ヘッド)及び搬送方向Aに用紙Pを搬送する搬送機構50が上方から順に配置されている。空間S2には、給紙装置10が配置されている。さらに、インクジェットプリンタ1には、これらの動作を制御する制御部100が含まれている。なお、本実施形態においては、搬送機構50で用紙Pを搬送するときの搬送方向Aと平行な方向を副走査方向とし、副走査方向と直交する方向であって水平面に沿った方向を主走査方向とする。
【0016】
インクジェットプリンタ1の内部には、給紙装置10から排紙部15に向けて図1に示す太矢印に沿って用紙Pが搬送される用紙搬送経路が形成されている。給紙装置10は、積層された複数の用紙Pを収容可能な給紙カセット11と、給紙カセット11から用紙Pを送り出す給紙ローラ12と、制御部100により制御され給紙ローラ12を回転させる給紙モータ(不図示)とを有している。
【0017】
給紙ローラ12は、給紙カセット11に収納された複数枚の用紙Pを、上方から順に1枚ずつ送り出す。搬送機構50の上流には、給紙カセット11から上方に向かって湾曲しながら延在する搬送ガイド17が設けられている。搬送機構50の下流には、搬送機構50から用紙Pを剥離する剥離プレート9が設けられている。さらに、剥離プレート9の下流には、用紙Pを排紙部15へと導く送りローラ21a及び21b、搬送ガイド18並びに送りローラ22a及び22bが設けられている。
【0018】
この構成において、制御部100の制御により、給紙ローラ12が用紙Pを送り出す。用紙Pは搬送ガイド17を通って搬送機構50に送り出される。搬送機構50は、インクジェットヘッド2の下方の、インクの吐出面2aに対向する領域へと用紙Pを搬送する。インクジェットヘッド2は、搬送機構50によって搬送された用紙Pへとインクを吐出する。これによって、用紙P上に画像が形成される。画像が形成された用紙Pは、搬送機構50の右端で剥離プレート9によって剥離され、送りローラ21a及び21b、搬送ガイド18並びに送りローラ22a及び22bによって、上方の排紙部15へと排出される。
【0019】
以下、搬送機構50についてより詳細に説明する。搬送機構50は、図1及び図2に示すように、4つのインクジェットヘッド2と対向する位置に配置されており、2つのベルトローラ51,52と、両ローラ51,52間に架け渡されるように巻回された無端の搬送ベルト53と、制御部100に制御されベルトローラ52を回転させる搬送モータ(不図示)とを有している。これらの部材により本発明の搬送手段が構成されている。2つのベルトローラ51,52は、搬送方向Aに沿って並設されており、筐体1aに回転可能に支持されている。搬送ベルト53は可撓性の材質から構成されており、用紙Pが載置される表面である載置面54と、載置面54とは反対側の表面である内面55とを有している。
【0020】
また、搬送機構50は、4つのインクジェットヘッド2に対向する吸着プラテン60(第2吸着手段)を有している。吸着プラテン60は、図2及び図3に示すように、絶縁材料から構成された板状のベース部材61と、その上面61aに接着された電極62及び63(第3電極及び第2電極)とを含んでおり、搬送ベルト53の内面55に対向している。電極62及び63は、主走査方向に沿って延びる連繋部62b及び63bと、副走査方向に沿って延在する複数の櫛歯部62a及び63aとを有している。連繋部62bは用紙Pの搬送方向に関してインクジェットヘッド2よりも下流に配置されており、連繋部63bは用紙Pの搬送方向に関してインクジェットヘッド2よりも上流に配置されている。櫛歯部62aは連繋部62bから連繋部63bに向かって延びており、櫛歯部63aは連繋部63bから連繋部62bに向かって延びている。櫛歯部62aと櫛歯部63a同士は、主走査方向に関して交互に配置されている。このように、電極62及び63はそれぞれ全体として櫛歯状に形成されており、互いの櫛歯部が互い違いに隣接するように配置されている。
【0021】
電極62及び63が形成された領域は、主走査方向に関して用紙Pとほぼ同じ幅を有しており、インクジェットヘッド2が配置された領域を副走査方向に関して跨いでいる。電極62及び63の上面は水平に沿って形成され、互いに同じ高さに配置されている。電極62は筐体1a内に設けられた電源69に接続されており、電極63はグランド接続されている。電源69は、制御部100により制御される。電極62及び63には導電性を有する金属などの材質が用いられている。
【0022】
電極62及び63の上面には表層材64が接着によって積層されている。表層材64は電極62及び63を跨いで形成されており、電極62及び63の上面を全体に亘って覆っている。これにより、電極62及び63の表面が搬送ベルト53との接触による磨耗等から保護されている。なお、図2には吸着プラテン60から表層材64を取り外した状態が図示されている。
【0023】
図2及び図4に示すように、吸着プラテン60の上流端であって電極63の連繋部63bと対向する位置には、帯電ローラ70(第1電極)が配置されている。帯電ローラ70は、搬送ベルト53の載置面54に対向している。帯電ローラ70は、軸方向が主走査方向に沿った円柱状の概略形状を有しており、主走査方向に関してほぼ搬送ベルト53の一端から他端まで延びている。帯電ローラ70は、図4に示すように、回転軸71とその外周に固定されたローラ本体72とを有している。回転軸71は、制御部100によって制御される電源79と接続されていると共に、筐体1a内に設けられた軸受けに回転可能に支持されている。
【0024】
この構成において、制御部100の制御により、ベルトローラ52が図1中時計回りに回転することによって、搬送ベルト53が循環する。一方、給紙装置10から送り出された用紙Pは、搬送ベルト53の載置面54と帯電ローラ70との間に挟みこまれる。帯電ローラ70は、搬送ベルト53との間に用紙Pを挟みこみつつ、用紙Pの移動に伴って図4において反時計回りに回転する。ここで、帯電ローラ70の回転軸71に所定の大きさの電圧が供給されていると、帯電ローラ70から用紙Pに向かって放電が発生し、用紙Pの表面が正に帯電する。この帯電によって、用紙Pの搬送ベルト53と対向する面が負に分極すると共に、搬送ベルト53の用紙Pと対向する面が正に分極する。したがって、用紙Pは搬送ベルト53の載置面54に静電吸着される。このように、帯電ローラ70及び電極63は、放電によって用紙Pを帯電させる帯電回路を形成しており、これによって用紙Pを搬送ベルト53に吸着させる吸着手段(第1吸着手段)を構成している。
【0025】
帯電ローラ70によって載置面54に吸着された用紙Pは、櫛歯部62a及び63aと対向する位置へと搬送される。一方、制御部100の制御により電極62には正の電位が印加され、電極63にはグランド電位が印加される。用紙Pが櫛歯部62a及び63aと対向している状態で電極62及び63間に電圧が印加されると、搬送ベルト53や用紙Pを介して電極62及び63間に電流が流れる。図5は、電極62及び63間に所定の電圧Vを印加した際に形成される電気回路を示している。本実施形態においては、電圧Vの大きさは3kV(キロボルト)に設定されているが、その他の大きさであってもよい。なお、図5に示す電気回路は、本実施形態を電気的な構成として理想化した場合に想定される単なる一モデルである。
【0026】
この電気回路は、電極62→搬送ベルト53→用紙P→搬送ベルト53→電極63の経路を含んでいる。図5のRk,Rgb,Rb,Rgp及びRpは、この経路に沿った各部分の電気抵抗を表している。具体的には、Rkは表層材64の電気抵抗に対応している。Rgbは、表層材64と搬送ベルト53との接触抵抗に対応している。Rbは、搬送ベルト53の電気抵抗に対応している。Rgpは、搬送ベルト53と用紙Pの接触抵抗に対応している。Rpは、用紙Pの電気抵抗に対応している。
【0027】
また、この電気回路は、上記の経路に並列に接続された迂回経路を含んでおり、RkmやRbmはこれらの迂回経路の電気抵抗を示している。具体的には、Rkmは、電極62及び63間を表層材64のみを介して直接結ぶ迂回経路の電気抵抗を示している。Rbmは、電極62側と電極63側とを用紙Pを介さず搬送ベルト53を介して結ぶ迂回経路の電気抵抗を示している。
【0028】
この電気回路には、図5に示すように、各電気抵抗に並列に接続されたコンデンサが形成される。用紙P及び搬送ベルト53の互いの対向面には微小な凹凸が形成されており、電極62及び63間に電圧が印加されると、用紙P及び搬送ベルト53が接触しているところでは用紙Pと搬送ベルト53との間隙に微小な電流が流れ、この間隙に電位差が発生する。用紙P及び搬送ベルト53が接触していないところでは極性の互いに異なる電荷が蓄えられ両者間にクーロン力である吸着力が働く。この吸着力はジョンセン・ラーベック力と呼ばれており、これによって搬送ベルト53上の用紙Pが載置面54に静電吸着される。
【0029】
このように、本実施形態においては、帯電ローラ70及び電極63による吸着手段と、用紙Pの搬送方向に関してその下流に設置された電極62及び63による吸着手段との2つの吸着手段が設けられている。したがって、用紙Pは、搬送方向の上流において帯電ローラ70及び電極63によって搬送ベルト53に吸着されると共に、下流に配置された電極62及び63に向かって搬送される。そして、電極62及び63によってさらに確実に搬送ベルト53に吸着されつつ、搬送ベルト53の移動に伴ってインクジェットヘッド2の下方を通過し、剥離プレート9へと向かう。
【0030】
ところで、用紙Pの抵抗が低い場合や用紙Pが載置面54上にないなどの場合に、帯電ローラ70及び電極63によって形成される上記の帯電回路に過大な電流が発生することを防止するため、この帯電回路にはある程度大きな抵抗値を有する部材を介在させる必要がある。一般的には、この目的のため、帯電ローラ70の材料そのものを抵抗値がある程度大きい材料とすることがなされている。例えば、ウレタンやゴム等の樹脂材料からなるベース材に適当な導電材を含有させた材料によって10Ω程度の抵抗値とした帯電ローラ70が形成されたりする。
【0031】
しかし、抵抗値を調整するために帯電ローラ70の材料を制限すると不都合を招くおそれがある。例えば、帯電ローラ70は搬送ベルト53の載置面54に対向する位置にあるため、載置面54に付着したインクによって汚染されることがある。また、インクジェットヘッド2とも近いため、インクジェットヘッド2から吐出されたインクによって直接汚染されることもある。帯電ローラ70がインクで汚染されると、帯電ローラ70に付着したインクがさらに用紙Pを汚染するおそれがある。これを防ぐため、帯電ローラ70の表面に例えばフッ素樹脂によるコーティング等の撥水処理を施し、帯電ローラ70がインクで汚染されにくくすることが考えられる。しかし、フッ素樹脂によるコーティングは200℃程度の高温での焼成が必要となる。したがって、上記のように帯電ローラ70がウレタンやゴム等で形成されていると、フッ素樹脂によるコーティングのような高温の焼成を必要とする撥水処理を施すのは困難である。このように、帯電ローラ70に使用する材料を、抵抗値を調整する目的で制限すると、撥水性が確保できないなどの不都合が生じる場合がある。
【0032】
そこで、本実施形態では、帯電ローラ70に使用する材料を制限しないような構成とした。このため、帯電ローラ70を電極63と対向する位置に配置し、帯電回路を帯電ローラ70及び電極63によって形成した。これにより、帯電回路中には電極63の表面を保護する保護層である表層材64が含まれることとなり、表層材64の抵抗値を調整することで帯電回路全体の抵抗値を調整することができるようになる。
【0033】
具体的には、表層材64の材料として、樹脂材料に抵抗率制御材を含有させることにより、抵抗値を比較的大きくなるよう調整した材料を用いる。本発明者はこのとき、表層材64にイオン導電系の抵抗率制御材を用いることが好ましいことを見出した。これは、イオン導電系の抵抗率制御材が、印加電圧に対する体積抵抗率の変動が小さいためである。ある測定結果によると、イオン導電系の抵抗率制御材を含有した樹脂材料からなる試料に100V(ボルト)の電圧を印加した際の試料の体積抵抗率は1013Ω・cm程度であり、500Vの電圧を印加した際の試料の体積抵抗率は、1012〜1013Ω・cm程度であった。これに対して、例えば、カーボンブラックなどの電子導電系の抵抗率制御材を含有した樹脂材料からなる試料に100Vの電圧を印加した際の試料の体積抵抗率は1012Ω・cm程度であり、500Vの電圧を印加した際の試料の体積抵抗率は、10Ω・cm程度であった。
【0034】
上記の抵抗値は次の測定条件により測定されたものである。[測定条件]測定機器:三菱化学株式会社製の「Hiresta UP」(「Hiresta」は登録商標)。使用プローブ:UR100。測定時間:60秒。測定環境:常温常湿(気温22.5℃且つ相対湿度50%)。気温22.5℃且つ相対湿度50%の環境は、インクジェットプリンタ1において想定される主たる使用環境に対応する。
【0035】
イオン導電系の抵抗率制御材としては、例えば、イオン系の界面活性剤、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属、有機イオン電解質などが単独で用いられるか、あるいは複数が併用される。特に、アルキル四級アンモニウム塩が用いられることが好ましい。例えば、イオン導電系の抵抗率制御材としてアルキル四級アンモニウム塩が表層材64に用いられると、環境変動に対する抵抗率制御材の体積抵抗率の変動が抑制される。
【0036】
なお、アルキル四級アンモニウム塩としては、ラウリルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの過塩素酸塩、塩素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、硫酸塩、エトサルフェート塩、ハロゲン化ベンジル塩(臭化ベンジル塩、塩化ベンジル塩等)等が挙げられる。
【0037】
以上より、本実施形態においては、表層材64にはイオン導電系の抵抗率制御材を含有する樹脂材料が用いられている。そして、この樹脂材料には、気温22.5℃且つ相対湿度50%の環境下で電極62及び63間に所定の電圧Vが印加された際の体積抵抗率が1010〜1014Ω・cmになるように、イオン導電系の抵抗率制御材が含有されている。また、帯電ローラ70の表面はフッ素樹脂によるコーティング等により撥水性を有する材料で被覆されている。
【0038】
樹脂材料の体積抵抗率が1010〜1014Ω・cmに調整されているのは以下の理由による。用紙Pの体積抵抗率は、種類や吸湿度によって異なり、10〜1014Ω・cmの範囲となる。樹脂材料の体積抵抗率の上限が1014Ω・cmとなっているのは、用紙Pの体積抵抗率の最大値が1014Ω・cmであるため、帯電回路に過大な電流が発生するのを抑制するためには表層材64の体積抵抗率を1014Ω・cm程度とすればよい一方で、表層材64の体積抵抗率が1014Ω・cmを超えると、帯電回路全体の抵抗値が大きくなりすぎ、用紙Pと搬送ベルト53間の吸着力が得られなくなるからである。また、樹脂材料の体積抵抗率が1010〜1014Ω・cmと幅のある範囲とされているのは、樹脂材料にイオン導電系の抵抗率制御材を含有させて体積抵抗率を調整する際、通常、体積抵抗率の目標値に対して最大で10±2倍程度の製造上のばらつきが生じざるを得ないためである。したがって、1014Ω・cmを体積抵抗率の上限とする4桁分の幅が表層材64に用いられる樹脂材料の好適な範囲として想定されている。
【0039】
このように、表層材64の体積抵抗率が比較的大きく、1010〜1014Ω・cmの範囲内であることにより、帯電ローラ70及び電極63によって構成される帯電回路中に表層材64の抵抗値が加わり、帯電回路全体の抵抗値が比較的大きくなる。これにより帯電回路に過大な電流が発生するのが防止されるので、帯電ローラ70の材料を抵抗値で制限する必要がなくなる。したがって、例えば、帯電ローラ70を構成する回転軸71及びローラ本体72を、導電性の金属材料や導電性をある程度有する半導電性の材料によって構成することができる。また、高温の焼成を伴うフッ素樹脂によるコーティングにより撥水処理を施すことが可能な材料を選定することができる。
【0040】
また、本実施形態では、帯電ローラ70及び電極63による吸着手段とは別に、電極62及び63による吸着手段が設けられており、これらの2つの吸着手段に電極63が共用されている。このため、部品を共有しない場合と比べて部品点数が削減される。
【0041】
また、本実施形態では、電極63のうち、連繋部63bに対向する位置に帯電ローラ70が配置されている。連繋部63bの周辺は、電極62及び63による吸着手段において安定して吸着力を発生させることができない領域に相当する。したがって、連繋部63bの周辺は用紙Pが搬送ベルト53に確実に吸着されない場所であり、インクジェットヘッド2が配置されないためデッドスペースとなりやすい。しかし、本実施形態のように、このような場所に帯電ローラ70が配置されていることにより、デッドスペースを有効に利用して帯電ローラ70が配置されることになり、用紙Pの搬送方向に関して各部がコンパクトに配置される。
【0042】
<変形例>
以上は、本発明の好適な実施形態についての説明であるが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0043】
上述の実施形態では、帯電ローラ70及び電極63による吸着手段と電極62及び63による吸着手段との両方が設けられているが、帯電ローラ70及び電極63による吸着手段のみが設けられていてもよい。また、帯電ローラ70の代わりに、ローラの形状を有さない固定電極等が用いられてもよい。
【0044】
また、上述の実施形態では、電極62に正の電圧を印加する電源69が設けられているが、電極62及び63間に所定の大きさの電位差を発生させる構成であればどのような構成でもよい。例えば、電極62に負の電位が印加されてもよいし、電極62にグランド電位が、電極63にグランド電位とは異なる電位が印加されてもよい。
【0045】
また、上述の実施形態では、表層材64が電極62及び63を跨ぐように吸着プラテン60の全面に亘って形成されているが、表層材64が吸着プラテン60の上面を部分的に覆うように形成されていてもよい。
【0046】
また、上述の実施形態は、ノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドに本発明を適用した一例であるが、本発明を適用可能な対象はこのようなインクジェットヘッドに限られない。例えば、導電ペーストを吐出して基板上に微細な配線パターンを形成したり、あるいは、有機発光体を基板に吐出して高精細ディスプレイを形成したり、さらには、光学樹脂を基板に吐出して光導波路等の微小電子デバイスを形成するための、液滴吐出ヘッドに適用することができる。さらに、サーマル方式などその他の方式で印字する記録ヘッドに適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 インクジェットプリンタ
2 インクジェットヘッド
50 搬送機構
51,52 ベルトローラ
53 搬送ベルト
54 載置面
60 吸着プラテン
62,63 電極
64 表層材
70 帯電ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体が載置される載置面を有する無端ベルトを所定の経路に沿って循環させることにより前記載置面に載置された記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記無端ベルトに対向して配置されたインクを吐出する記録ヘッドと、
前記載置面と対向する位置であって記録媒体の搬送方向に関して前記記録ヘッドよりも上流の位置に配置された第1電極と、前記第1電極との間に前記無端ベルトを挟む位置であって前記載置面と反対側の内面と対向する位置に配置された第2電極とを有し、前記第1電極と前記第2電極との間に所定の電圧を印加することで前記載置面上の記録媒体と前記第1電極の間で放電させて当該記録媒体を前記載置面に吸着させる第1吸着手段とを備えており、
前記第2電極において前記無端ベルトの前記内面に対向する表面に、イオン導電系の抵抗率制御材を含有し、気温22.5℃且つ相対湿度50%の環境において前記所定の電圧が印加された際に体積抵抗率が1010〜1014Ω・cm(オームセンチメートル)である樹脂材料からなる表層材が積層されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
記録媒体の搬送方向に関して前記第1電極及び前記第2電極よりも下流の位置であって前記内面と対向する位置に配置された第3電極を有し、前記第2電極と前記第3電極の間に電圧を印加して前記載置面上の記録媒体を前記載置面に吸着させる第2吸着手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第2電極が、記録媒体の搬送方向に関して前記記録ヘッドよりも上流の位置であって前記載置面に沿った方向に延びる連繋部と、当該連繋部から前記載置面に沿った方向に櫛歯状に延びる櫛歯部とを有し、
前記第1電極が、前記連繋部に対向するように配置されていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第1電極の前記載置面と接触する表面が、撥水性を有する材料で被覆されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−156725(P2011−156725A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19281(P2010−19281)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】