説明

インクジェット記録装置

【課題】被記録媒体の波打ちが小さい領域にパターンを形成して、精度の高い調整をする。
【解決手段】インクジェットプリンタは、インクジェットヘッドの走査方向一方への走査時(往動走査時)と走査方向他方への走査時(復動走査時)の両方において、ノズルから記録用紙Pに向かってインクを噴射する、いわゆる両方向印刷を行うようになっている。そして、このインクジェットプリンタのパターン形成部は、4つのモードに対応したキャリッジの走査速度で4つの罫線調整パターン70の印刷領域が、搬送機構により搬送される1枚の記録用紙Pの、搬送方向に関して同じ位置であり、記録用紙Pを挟持する拍車と重なる領域を含み、当該拍車とこれに隣接する拍車とから等距離にあり前記搬送方向に延びる線を含まないように、罫線調整パターン70を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体にインクを噴射するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のインクジェット記録装置においては、被記録媒体の搬送方向に沿った間欠的な搬送動作と、搬送方向と直交する走査方向に沿った記録ヘッドの往復移動とを交互に繰り返しており、記録ヘッドを往動走査させる時と復動走査させる時との両方向の走査時にそれぞれインクを噴射させて、記録動作(両方向印刷)を行っている。
【0003】
この両方向印刷では、高い印刷品質を実現するため、往動走査時の着弾位置(ドット形成位置)と復動走査時の着弾位置が、走査方向に関して揃っていることが望まれる。ここで、ノズルから噴射されて着弾するまでの間、記録ヘッドの移動による慣性によってインクは走査方向にも飛翔することから、実際のインク噴射は、記録ヘッドの走査速度とインクの飛翔時間(インク速度と記録ヘッド−被記録媒体間のギャップから求まる)から求まる、所定距離だけドット形成位置よりも手前に位置する理論上のタイミングで行えば、往動走査時及び復動走査時の着弾位置を揃えることができる。
【0004】
しかしながら、実際には、インク速度は製品個体間でのばらつきがある、往動走査時と復動走査時でインク速度が完全に等しくはない、あるいは、記録ヘッドと被記録媒体のギャップが完全に一定ではないなどの理由から、往動走査時と復動走査時で、上述したようにして定められた理論上のタイミング(位置)で噴射させたとしても、わずかな着弾位置のずれが生じる。そのため、往動走査時及び復動走査時の噴射タイミングを理論上のタイミングから調整する必要がある。
【0005】
そこで、記録ヘッドの往動走査時のインク噴射タイミングと復動走査時のインク噴射タイミングを調整するために、特許文献1に記載のインクジェット記録装置では、往動走査中のインク噴射タイミングに対する復動走査中のインク噴射タイミングを段階的に異ならせたパターンを被記録媒体に形成している。そして、着弾位置のずれ量が最小のパターンを検出して、記録ヘッドの往動走査中のインク噴射タイミングと復動走査中のインク噴射タイミングを上述の最小のパターン時の噴射タイミングに調整して、往動走査時及び復動走査時の走査方向に関する着弾位置の相対的な位置ずれをなくしている。
【0006】
【特許文献1】特開2009−196367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載のインクジェット記録装置において、パターンを形成している被記録媒体は、周囲の湿度の影響を受けて、波打った形状に変形することがある。そして、周囲の湿度が大きくなるほど、被記録媒体の波打ち具合は大きくなるし、周囲の湿度が同じであっても、複数の被記録媒体の波打ち具合は一様ではなく、被記録媒体ごとでばらつきが生じる。
【0008】
このような波打ち具合にばらつきのある被記録媒体に対して、パターンを形成しようとすると、パターンが形成される被記録媒体の領域は、波打ちが大きかったり、小さかったりして、インクジェットヘッドと被記録媒体の間のギャップはばらついている。ギャップがばらつくと、インクジェットヘッドから噴射されたインクの飛翔時間がばらつくことになる。すると、飛翔するインクは、走査方向に移動するインクジェットヘッドの移動方向への初速を持っているため、飛翔時間のばらつきに応じて、走査方向に関する飛翔距離もばらつき、走査方向に関する着弾位置がばらついてしまう。そのため、ある被記録媒体の領域にパターンを形成して噴射タイミングを調整しても、被記録媒体ごとに波打ち具合がばらついているので、いずれの被記録媒体に対しても着弾位置のずれ量が小さくなるように調整することは困難であった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、被記録媒体の波打ちが小さい領域にパターンを形成して、精度の高い調整ができるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のインクジェット記録装置は、インクを噴射するノズルを有するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドを所定の走査方向に往復走査させる走査手段と、前記走査方向に互いに間隔をあけて配置され、被記録媒体を搬送可能に挟持する複数の挟持部を有し、前記インクジェットヘッドに対して、前記被記録媒体を前記走査方向と直交した搬送方向に搬送する搬送手段と、前記インクジェットヘッド、前記走査手段、及び、前記搬送手段を制御して、前記被記録媒体に記録を行わせる制御手段と、を備えたインクジェット記録装置であって、前記制御手段は、前記インクジェットヘッドを往動走査させる時と復動走査させる時とで前記被記録媒体にそれぞれインクを噴射させて、往動走査での着弾位置と復動走査での着弾位置の前記走査方向に関する相対的な位置ずれを検出するための少なくとも1つのマークを含んだ1以上のパターンを前記搬送手段によって搬送される前記被記録媒体に形成するパターン形成手段を含んでおり、前記パターン形成手段は、前記1以上のパターンのうち少なくとも1つのパターンに属する全ての前記マークの印刷領域が、前記複数の挟持部の1つの挟持部と前記搬送方向に重なる領域を含み、当該挟持部とこれに隣接する挟持部とから等距離にあり前記搬送方向に延びる線を含まないように前記パターンを形成する。
【0011】
被記録媒体は、周囲の湿度などの影響を受けて、波打った形状に変形することがあるが、搬送手段によって搬送される被記録媒体の、挟持部と搬送方向に重なる領域は、挟持部により挟持されている領域と搬送方向に重なっており、他の領域に比べて浮き上がりにくく、インクジェットヘッドとのギャップが安定している。このように挟持部が被記録媒体を拘束する効果は、挟持部と搬送方向に関して重なる領域で最も強く、この領域から走査方向に関して離れるほど効果が弱まっていき、挟持部と挟持部の中間で最も弱い。すなわち、挟持部と挟持部とから等距離にあり前記搬送方向に延びる線と重なった位置は最も浮き上がりやすく、インクジェットヘッドとのギャップが安定していない。本発明のインクジェット記録装置によると、このようなインクジェットヘッドとのギャップが不安定な領域を避け、安定した被記録媒体の波打ちが小さい領域にパターンを形成することで、周囲の湿度などの影響によらず、精度の高い調整をすることができる。
【0012】
また、前記複数の挟持部のうち、一部の前記挟持部は、所定間隔よりも小さい間隔で並んだ密部を構成し、残りの前記挟持部は、前記密部と隣接して前記所定間隔以上の間隔で並んだ疎部を構成しており、前記パターン形成手段は、前記1以上のパターンのうち少なくとも1つのパターンに属する前記全てのマークの印刷領域が、前記疎部を構成する前記挟持部と前記搬送方向に重なる領域を含み、当該挟持部とこれに隣接する挟持部とから等距離にあり前記搬送方向に延びる線を含まないように前記パターンを形成することが好ましい。
【0013】
複数の挟持部を、全て同じ間隔ではなく、不均一な間隔で配置することがあり、複数の挟持部には、所定間隔よりも小さい間隔で並んで配置された密部と所定間隔以上の間隔で並んで配置された疎部が存在している。被記録媒体が周囲の湿度などの影響で波打つときに、走査方向に間隔をあけて山と谷が存在するような波状の変形をする場合がある。このように変形した被記録媒体を、複数の挟持部で局所的に挟持する場合を考えると、被記録媒体は、被記録媒体と挟持部の全変形エネルギーが最小となるような形状になるはずである。挟持部の間隔が小さい場合において、挟持部での変形がゼロになるようにするためには、被記録媒体の波打ち間隔が挟持部の間隔以下である必要があるが、被記録媒体の波打ち間隔が小さくなると、被記録媒体の変形エネルギーは急激に増大する。
【0014】
すると、被記録媒体に窮屈な変形をさせるエネルギーと、挟持部を弾性変形させるエネルギーとが逆転し、挟持部での被記録媒体の変形がゼロとならない場合が生じる。密部を構成する挟持部のうち、どの挟持部での変形がゼロで、どの挟持部での変形がゼロでないかをコントロールすることはほぼ不可能である。したがって、疎部に構成された挟持部における被記録媒体の変形はゼロとなり安定であるが、密部に構成された挟持部における被記録媒体の変形は不安定となる可能性がある。
【0015】
したがって、1以上のパターンのうち少なくとも1つのパターンに属する全てのマークの印刷領域が、疎部を構成する挟持部と搬送方向に重なる領域を含み、当該挟持部とこれに隣接する挟持部とから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないようにパターンを形成することで、インクジェットヘッドとのギャップが安定した被記録媒体の波打ちが小さい領域にパターンを形成することになり、より精度の高い調整をすることができる。
【0016】
さらに、前記制御手段は、予め設定された複数種類の走査速度から1つを選択し、その選択した走査速度で前記インクジェットヘッドを移動させるように前記走査手段を制御しており、前記パターン形成手段は、前記複数種類の走査速度にそれぞれ対応した複数の前記パターンを、1枚の前記被記録媒体に形成し、少なくとも、最も速い走査速度に対応した前記パターンに属する前記全てのマークの印刷領域が、前記疎部を構成する前記挟持部と前記搬送方向に重なる領域を含み、当該挟持部とこれに隣接する挟持部とから等距離にあり前記搬送方向に延びる線を含まないように前記パターンを形成することが好ましい。
【0017】
インクジェットヘッドと被記録媒体とのギャップが変動した場合に、インクジェットヘッドの走査速度が速いほど、同じ飛翔時間あたりの走査方向に関する飛翔距離が大きくなるので、走査方向に関する着弾位置のずれが大きくなる。そこで、複数のパターンのうち、最も速い走査速度に対応した前記パターンに属する全てのマークの印刷領域が、疎部を構成する挟持部と搬送方向に重なる領域を含み、当該挟持部とこれに隣接する挟持部とから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないようにパターンを形成することで、仮に、上述した領域に全てのパターンを形成可能な大きさが存在しない場合においても、着弾位置のずれが大きくなりやすい最も速い走査速度において、優先的に精度の高い調整をすることができる。
【0018】
加えて、前記パターン形成手段は、前記複数のパターンを、最も速い走査速度に対応した前記パターンから走査速度が遅くなっていく順番に、前記被記録媒体に形成することが好ましい。
【0019】
被記録媒体は、周囲の湿度の影響に加えて、インクを吸収することでも、波打った形状に変形する。すなわち、後から形成するパターンほど、先に形成されたパターンのインクの吸収による被記録媒体のさらなる波打ちの影響を受ける。そこで、速い走査速度に対応したパターンから先に、被記録媒体に形成することで、着弾位置のずれが大きくなりやすい走査速度ほど、精度の高い調整をすることができる。
【0020】
また、前記パターン形成手段は、前記複数のパターンを前記搬送方向にずらして形成し、前記複数のパターンのうち、速い走査速度に対応した前記パターンほど前記被記録媒体の前記搬送方向における上流側に形成することが好ましい。
【0021】
これによると、速い走査速度に対応したパターンから先に、被記録媒体に形成することが可能である。
【0022】
さらに、前記パターンは、前記インクジェットヘッドの、往動走査中のインク噴射タイミングに対する復動走査中のインク噴射タイミングが互いに異なる前記マークを複数有しており、前記パターン形成手段は、前記複数のマークが、前記搬送手段によって搬送される前記被記録媒体の、前記搬送方向に1列に並ぶように、前記パターンを形成することが好ましい。
【0023】
これによると、1つのパターンに属する複数のマークから1つのマークを選択するだけで簡単に短時間で調整することができる。通常、記録位置が特定の挟持部の搬送方向に関して重なる領域であるかそれ以外の領域であるかによる着弾位置の違いは、互いに少しずつ異なるタイミングでインクを吐出して形成する個々のパターン間の着弾位置の違いに比べて無視できないほど大きい。そこで、1つのパターンに属する複数のマークが被記録媒体の搬送方向に1列に並ぶようにパターンを形成することで、複数のマークが走査方向に並にようにパターンを形成する場合に比べて、被記録媒体のパターンを形成する領域とインクジェットヘッドとのギャップのばらつきを小さくすることができ、少しずつ位置をずらしたパターンを正確に形成することができる。
【0024】
加えて、前記パターン形成手段は、前記1以上のパターンのうち少なくとも1つのパターンに属する前記全てのマークの印刷領域が、前記被記録媒体を前記走査方向に関する最も外側で挟持する前記挟持部と前記搬送方向に重なる領域を含み、当該挟持部とこれに隣接する挟持部とから等距離にあり前記搬送方向に延びる線を含まないように前記パターンを形成することが好ましい。
【0025】
これによると、被記録媒体を走査方向に関する最も外側で挟持する挟持部よりさらに外側では被記録媒体が片持ち状になっているので、上述したような被記録媒体の変形エネルギーと挟持部の弾性変形エネルギーとの比較において、挟持部の片側にある被記録媒体の変形分しか考えなくてよいため、挟持部における被記録媒体の変形がゼロとなるかどうかについていえば、他の挟持部よりもゼロになりやすい。
【発明の効果】
【0026】
インクジェットヘッドとのギャップが不安定な領域を避け、安定した被記録媒体の波打ちが小さい領域にパターンを形成することで、周囲の湿度などの影響によらず、精度の高い調整をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略側面図である。
【図2】インクジェットプリンタの概略平面図である。
【図3】排紙ローラ対の正面図である。
【図4】インクジェットプリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図5】罫線調整パターンの平面図である。
【図6】罫線調整パターンの構成について説明する図であり、(a)は往動走査時に形成される一部のマークの平面図であり、(b)は復動走査時に形成される一部のマークの平面図であり、(c)は位置ずれがないときのマークの平面図であり、(d)は位置ずれしているときのマークの平面図である。
【図7】罫線調整パターンが形成された記録用紙の平面図である。
【図8】記録用紙の波打ち具合について説明する概略正面図である。
【図9】変形例1における罫線調整パターンが形成された記録用紙の平面図である。
【図10】変形例2における罫線調整パターンが形成された記録用紙の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態は、インクジェットヘッドから記録用紙に対してインクを噴射することにより、記録用紙に所望の画像や文字などを記録するインクジェットプリンタに本発明を適用した一例である。
【0029】
まず、本実施形態のインクジェットプリンタの概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略側面図である。図2は、インクジェットプリンタの概略平面図である。図1及び図2に示すように、インクジェットプリンタ1(インクジェット記録装置)は、所定の走査方向(図1の紙面直交方向)に沿って往復移動可能に構成されたキャリッジ2と、このキャリッジ2に搭載されたインクジェットヘッド3と、インクジェットヘッド3の下側に位置する用紙搬送経路5(図1に一点鎖線で示す)に沿って記録用紙Pを搬送する搬送機構4と、各部の動作を制御して全体動作を司る制御装置50などを有している。
【0030】
キャリッジ2は、走査方向に平行に延びる2本のガイド軸6、7に支持され、2本のガイド軸6、7に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ2には無端ベルト9が連結されており、キャリッジ駆動モータ64(図4参照)によって無端ベルト9が走行駆動されたときに、キャリッジ2は、無端ベルト9の走行にともなって走査方向に移動するようになっている。
【0031】
このキャリッジ2の下面には、インクジェットヘッド3が搭載されている。インクジェットヘッド3は、キャリッジ2が走査方向に往復移動するのにともない、走査方向に往復移動する。すなわち、本実施形態におけるキャリッジ2、及び、キャリッジ2を往復移動させるための構成である2本のガイド軸6、7、無端ベルト9、キャリッジ駆動モータ64が、本発明におけるインクジェットヘッド3を往復走査させる走査手段に相当する。
【0032】
このインクジェットヘッド3は、圧電式のアクチュエータにより、図示しないインクカートリッジから供給され、貯留された流路ユニットのインク流路内のインクを複数のノズル15から噴射させる。複数のノズル15は、搬送方向(走査方向と直交する図1の左右方向)に複数並べて配置されてノズル列を形成しているとともに、このノズル列が走査方向に4列配列されている。そして、このインクジェットヘッド3の下面が、走査方向及び搬送方向と平行であり、複数のノズル15がそれぞれ開口するインク噴射面3aとなっており、ノズル列ごとに、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクが噴射される。
【0033】
搬送機構4は、給紙ローラ8と、メインローラ対10と、排紙ローラ対13とを有しており、用紙搬送経路5に沿って記録用紙Pを搬送する。メインローラ対10と排紙ローラ対13は、搬送方向に関してキャリッジ2(インクジェットヘッド3)を挟んで配置されており、給紙ローラ8はそれらよりも下方に配置されている。
【0034】
給紙ローラ8は、給紙モータ61(図4参照)により回転駆動されて、積み重ねられた記録用紙Pのうち最も上方にある1枚の記録用紙Pを取り出して、用紙搬送経路5に送る。
【0035】
メインローラ対10は、メインモータ62(図4参照)により回転駆動されるメインローラ11と、メインローラ11の回転にともなって従動回転する従動ローラ12とを有している。従動ローラ12は、回転軸81の軸方向に間隔をあけて3つのゴム部材82が巻かれて形成されている。そして、メインローラ対10は、給紙ローラ8により取り出され、湾曲して搬送される記録用紙Pをメインローラ11と従動ローラ12との協働によってインクジェットヘッド3へ搬送する。
【0036】
図3は、排紙ローラ対の正面図である。図1〜図3に示すように、排紙ローラ対13は、排紙モータ63(図4参照)により回転駆動される複数の排紙ローラ14と、排紙ローラ14の回転にともなって従動回転する複数のスター型の拍車86とを有している。
【0037】
複数の拍車86は、走査方向に間隔をあけて配置されている。これら複数の拍車86のうち、記録用紙Pが搬送される領域の走査方向の中央に配置された一部の拍車86は、近接した間隔で並んだ密部87aを構成しており、その走査方向外側の残りの拍車86は、密部87aを構成する拍車86の間隔以上の間隔で並んだ疎部87bを構成している。なお、本実施形態における拍車86が、本発明における挟持部に相当する。また、複数の拍車86が、1つの付勢部材で一体的に保持されている組を複数組有している場合には、1つの拍車86の組を、本発明における挟持部とみなす。
【0038】
これは、本実施形態におけるインクジェットプリンタ1では、A4、ハガキなどサイズの異なる複数種類の記録用紙Pを搬送機構4により搬送するときに、記録用紙Pのサイズによらず、図示しない幅寄せ機構により、搬送される記録用紙Pを走査方向の中央に寄せている。このとき、図3に示すように、例えば、ハガキでもA4でも記録用紙Pが頻繁に通過する領域と、サイズの大きな記録用紙Pしか通過しない領域が存在することになる。このような場合に、全ての拍車86を、密部87aを構成する拍車86の間隔にしてもよいのだが、これでは、拍車86の数が増大してコストが増大してしまう。また、全ての拍車86を、疎部87bを構成する拍車86の間隔にしてもよいのだが、これでは、ハガキのような小さな記録用紙Pが搬送された場合に、拍車86により挟持される部分が少なく、搬送に要する摩擦力が不足してしまう。そこで、複数の拍車86を同じ間隔で配置せずに、密部87aと疎部87bを構成するように配置している。
【0039】
排紙ローラ14は、排紙モータ63に接続された回転軸83の軸方向に間隔をあけて複数のゴム部材84が巻かれて形成されている。複数のゴム部材84は、複数の拍車86と対向して配置されており、複数の拍車86との間で記録用紙Pを挟持し、各々独立に記録用紙Pに対して離間する方向へ弾性変位可能に構成されている。そして、排紙ローラ対13は、インクジェットヘッド3により画像や文字などが記録された後の記録用紙Pを排出する。
【0040】
図1及び図2に示すように、搬送方向に関するメインローラ対10と排紙ローラ対13の間の、キャリッジ2の下方(図1の下方)には、プラテン16が配置されており、インク噴射面3aと対向するその上面には、図示しない複数のリブが形成されている。この複数のリブは記録用紙Pとの接触面積を減らして、記録用紙Pとの摩擦を小さくするものであり、搬送方向に延びて配置されている。そして、複数のリブの先端部を含む仮想面が、記録用紙Pが搬送され、インク噴射面3aと平行な搬送面となっており、記録用紙Pを支持する。
【0041】
そして、インクジェットヘッド3が、キャリッジ2とともに一体的に走査方向に沿って往復走査を行いながら、プラテン16に支持され、搬送機構4により搬送方向下流側に搬送される記録用紙Pに向けて、多数のノズル15からインクをそれぞれ噴射することで、記録用紙Pに所望の画像や文字などが記録される。
【0042】
次に、インクジェットプリンタ1の全体制御を司る制御装置50について説明する。図4は、インクジェットプリンタの電気的な構成を示すブロック図である。制御装置50は、例えば、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、インクジェットプリンタ1の全体動作を制御するための各種プログラムやデータなどが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータなどを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)などを備え、ROMに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより、以下に説明するような種々の制御を行うものであってもよい。あるいは、演算回路を含む各種回路が組み合わされたハードウェア的なものであってもよい。
【0043】
図4に示すように、この制御装置50は、ヘッド制御部51と、搬送制御部52と、キャリッジ制御部53と、モード選択部54と、パターン形成部55とを有している。
【0044】
ヘッド制御部51は、外部装置であるPC60から入力されたデータに基づいて、インクジェットヘッド3を制御して、記録用紙Pにインクを噴射させる。搬送制御部52は、搬送機構4の給紙モータ61、メインモータ62及び排紙モータ63を駆動して、給紙ローラ8、メインローラ11及び排紙ローラ14によって記録用紙Pを用紙搬送経路5に沿って搬送させる。キャリッジ制御部53は、キャリッジ駆動モータ64を制御して、キャリッジ2を走査方向に往復移動させて、インクジェットヘッド3を往復走査させる。
【0045】
そして、このインクジェットプリンタ1は、外部装置であるPC60から印刷指令が入力された際に、ヘッド制御部51、搬送制御部52及びキャリッジ制御部53にインクジェットヘッド3、給紙モータ61、メインモータ62、排紙モータ63及びキャリッジ駆動モータ64を制御させて、記録用紙Pに記録を行う。このとき、このインクジェットプリンタ1は、インクジェットヘッド3の走査方向一方(図1の左方)への走査時(往動走査時)と走査方向他方(図1の右方)への走査時(復動走査時)の両方において、ノズル15から記録用紙Pに向かってインクを噴射する、いわゆる両方向印刷を行うようになっている。
【0046】
モード選択部54は、PC60から入力された記録データの解像度に基づいて、印刷モードを選択する。印刷モードとは、要求される印刷品質の度合に応じて定められた複数のモードであり、本実施形態においては、モード選択部54は、4つのモードから1つのモードを選択可能である。これら4つのモードを比較すると、低解像度のモードであるほど、印刷品質よりも印刷時間を優先して、ヘッド制御部51によるキャリッジ2(インクジェットヘッド3)の走査速度が速くなっている。インクジェットヘッド3の走査速度が速いほど、印刷品質が低下してしまう理由は、同じ周期でインクを吐出した場合に形成される走査方向長さあたりのインクドット数が少なくなることに加え、個々のインクドットの着弾位置ずれが大きくなるためである。個々のインクドットの着弾位置ずれが大きくなる理由については後述する。
【0047】
パターン形成部55は、外部装置であるPC60から罫線調整を行う旨の指令が入力された際に、ヘッド制御部51、搬送制御部52及びキャリッジ制御部53にインク噴射タイミングや搬送量などを設定して、記録用紙Pに罫線調整パターン70(図5参照)を形成する。罫線調整パターン70とは、詳しくは後述するが、両方向印刷におけるインクジェットヘッド3の往動走査時と復動走査時のインク噴射タイミングを最適に調整するために参照するパターンである。
【0048】
両方向印刷において、仮に、往動走査時と復動走査時で記録用紙Pの同じ位置にインクを着弾させる(ドットを形成する)ためには、往動走査時と復動走査時でインクジェットヘッド3からのインク噴射タイミング(走査方向に関する噴射位置)を変えてやる必要がある。
【0049】
このときのインクジェットヘッド3の往動走査時と復動走査時のインク噴射タイミングの最適値は、キャリッジ2の走査速度、インクジェットヘッド3のインク噴射面3aと搬送機構4を搬送される記録用紙Pの間のギャップ、及び、インクジェットヘッド3から噴射されたインクの飛翔速度に依存しており、個体ごとにそれぞれ調整する必要がある。
【0050】
調整するタイミングとしては、出荷前の製造段階や、ユーザが使用中に印刷不良であると判断した場合などであり、例えば、ユーザがボタンなどの入力部(図示せず)で罫線調整を行うモードを選択して開始される。そして、調整方法としては、インクジェットヘッド3からインクを噴射して、搬送機構4により搬送される記録用紙Pに後述する罫線調整パターン70を形成して、この記録用紙Pに形成された罫線調整パターン70を参照して調整する。図5は、罫線調整パターンの平面図である。図6は、罫線調整パターンの構成について説明する図であり、(a)は往動走査時に形成される一部のマークの平面図であり、(b)は復動走査時に形成される一部のマークの平面図であり、(c)は位置ずれがないときのマークの平面図であり、(d)は位置ずれしているときのマークの平面図である。
【0051】
具体的には、図5に示すように、罫線調整パターン70は、記録用紙Pの長手方向に並べて形成された7つのマーク71a〜71gからなる。7つのマーク71a〜71gは、往動走査中のインク噴射タイミングを固定にして、復動走査中のインク噴射タイミングを所定のタイミングずつずらして、復動走査時に噴射されたインクの走査方向に関する着弾位置を所定距離ずつずらしている。各マーク71は、図6(a)に示すように、往復走査時に、所定幅の矩形状の4つのドット群72を、このドット群72の幅と同じ間隔をあけて等間隔に形成する。そして、図6(b)に示すように、搬送方向に関する位置を変えずに、復動走査時に、ドット群73と同じ幅の矩形状の3つのドット群73を、ドット群72と同じ間隔をあけて等間隔に形成する。
【0052】
そして、図6(c)に示すように、7つのマーク71a〜71gのうちマーク71dが、ドット群72とドット群73が走査方向に関して重なることがなく、白すじのない真っ黒な平面を形成しており、インクジェットヘッド3の往動走査時と復動走査時のインク噴射タイミングが最適、すなわち、往復走査時のインクの着弾位置と復動走査時のインクの着弾位置に走査方向に関する位置ずれがないものとする。
【0053】
また、図6(d)に示すように、7つのマーク71a〜71gのうちマーク71gは、ドット群72の右端とドット群73の左端が重なって、反対側であるドット群72の左端とドット群73の右端との間に白すじが形成されており、マーク71dと比べると、インクジェットヘッド3の往動走査時のインク噴射タイミングに対して復動走査時のインク噴射タイミングが早く、往復走査時のインクの着弾位置と復動走査時のインクの着弾位置に走査方向に関する位置ずれが生じているものである。残りのマーク71e、71fについても、インクジェットヘッド3からの復動走査時のインク噴射タイミングが早く、往復走査時のインクの着弾位置と復動走査時のインクの着弾位置に71gと同様の走査方向に関する位置ずれが生じているものである。
【0054】
マーク71a〜71cについては、逆にドット群72の右端とドット群73の左端が重なって、反対側であるドット群72の左端とドット群73の右端との間に白すじが形成されており、マーク71dと比べると、インクジェットヘッド3の往動走査時のインク噴射タイミングに対して復動走査時のインク噴射タイミングが遅く、往復走査時のインクの着弾位置と復動走査時のインクの着弾位置に71gとは逆の走査方向に関する位置ずれが生じているものである。どちらの場合も、走査方向に関する位置ずれは白すじとして目視で確認することができる。
【0055】
このように、往動走査中のインク噴射タイミングを固定にして、復動走査中のインク噴射タイミングを所定のタイミングずつずらして、復動走査時に噴射されたインクの走査方向に関する着弾位置を所定距離ずつずらした7つのマーク71a〜71gを記録用紙Pに形成して、ユーザがその7つのマーク71a〜71gから最も白すじが目立たず、真っ黒な平面となっているマーク71を選んで、ボタンなどの入力部(図示せず)でそのマーク71の番号を入力する。すると、選んだマーク71を形成したときの、インクジェットヘッド3の往動走査時と復動走査時のインク噴射タイミングが最適な噴射タイミングとして制御装置50に設定されて、往復走査時のインクの着弾位置と復動走査時のインクの着弾位置に走査方向に関する位置ずれをなくすことができる。
【0056】
そして、この調整を各モードに対して行うために、パターン形成部55は、1枚の記録用紙Pに4つのモードに対応したキャリッジ2の走査速度で4つの罫線調整パターン70を、搬送方向に関して同じ位置であり、走査方向にずれた位置にそれぞれ形成する(図7参照)。走査速度のそれぞれ異なる4つの罫線調整パターン70を記録用紙Pの搬送方向に関する同じ位置に形成するには、インクジェットヘッド3をそれぞれの走査速度で1往復ずつ計4往復走査させて、1往復ごとに1つの罫線調整パターン70の一部を形成して、これを罫線調整パターン70の搬送方向の長さ分だけ行う。
【0057】
ここで、罫線調整パターン70を形成する際に、キャリッジ2の走査速度、及び、インクジェットヘッド3から噴射されたインクの飛翔速度については、罫線調整する環境の影響、例えば、低湿度や高湿度な環境であってもその影響を受けることはさほどない。しかしながら、インクジェットヘッド3のインク噴射面3aと搬送機構4により搬送される記録用紙Pの間のギャップについては、周囲の湿度の影響を大きく受ける。これは、記録用紙Pは、周囲の湿度が大きくなるほど、吸湿して伸びて、大きく波打つように変形するからである。また、周囲の湿度が同じであっても、複数の記録用紙Pの波打ち方は一様ではなく、記録用紙Pごとでまちまちである。
【0058】
すると、このような波打ち具合にばらつきのある記録用紙Pに対して、罫線調整パターン70を形成しようとすると、罫線調整パターン70は調整のたびに記録用紙Pの波打ちが大きな領域に形成されたり、波打ちが小さな領域に形成されたりして、インクジェットヘッド3と記録用紙Pの間のギャップはばらついてしまい、走査方向に関する着弾位置がばらついてしまう。そのため、ある記録用紙Pの領域に罫線調整パターン70を形成して噴射タイミングを調整しても、記録用紙Pごとに波打ち具合がばらついているので、いずれの記録用紙Pに対しても着弾位置のずれ量が小さくなるように調整することは困難であった。
【0059】
そこで、本実施形態においては、図7に示すように、パターン形成部55は、罫線調整パターン70の印刷領域が、拍車86と搬送方向に重なる領域を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないように、搬送機構4により搬送される記録用紙Pに罫線調整パターン70を形成する。なお、上述した当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線とは、上記2つの拍車86の内側の端どうしの中間を通り搬送方向に延びる線である。図7は、罫線調整パターンが形成された記録用紙の平面図である。なお、図7においては、4つの罫線調整パターン70のうち、最も速い走査速度に対応した罫線調整パターンを罫線調整パターン70aとして、以下走査速度が遅くなるにつれて、罫線調整パターン70b、70c、70dとする。また、拍車86が通過する領域を2点鎖線で示している。
【0060】
そして、罫線調整パターン70aに属する全てのマーク71a〜71gの印刷領域が、記録用紙Pを走査方向に関する一方の最も外側で挟持し、疎部87bを構成する拍車86と搬送方向に重なる領域X1を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線X4を含まないように、罫線調整パターン70aに属する全てのマーク71a〜71gを形成する。また、罫線調整パターン70bに属する全てのマーク71a〜71gの印刷領域が、他方の最も外側で挟持し、疎部87bを構成する拍車86と搬送方向に関して重なる領域X2を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線X4を含まないように、罫線調整パターン70bに属する全てのマーク71a〜71gを形成する。さらに、罫線調整パターン70cに属する全てのマーク71a〜71g、及び、罫線調整パターン70dに属する全てのマーク71a〜71gの印刷領域が、記録用紙Pを挟持する、これら走査方向の最も両端の拍車86よりは内側であって、疎部87bを構成する拍車86と搬送方向に関して重なる領域X3を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線X4を含まないように、罫線調整パターン70cに属する全てのマーク71a〜71g、及び、罫線調整パターン70dに属する全てのマーク71a〜71gを形成する。
【0061】
ここで、仮に、波打っている記録用紙Pを搬送機構4により搬送したときの、記録用紙Pの波打ち具合について、図8を参照して説明する。図8は、記録用紙の波打ち具合について説明する概略正面図である。なお、図8においては、拍車86とゴム部材84の挟持部分を黒点で図示している。
【0062】
本実施形態においては、例えば、A4サイズの縦目紙の記録用紙Pを、その長手方向と搬送方向が平行になるように搬送して、この記録用紙Pに罫線調整パターン70を形成することを想定している。縦目紙の記録用紙Pとは、複数の繊維が長手方向に延びており、幅方向に並んだ用紙である。このような縦目紙の記録用紙Pは、高湿度の環境などで吸湿すると、幅方向に伸びて波打ち、走査方向に数センチ程度の間隔で山と谷が存在するような波状の変形をする。
【0063】
そして、図8に示すように、記録用紙Pの疎部87bを構成する拍車86とゴム部材84で挟持された黒点の部分においては、挟持されて伸びることができず、浮き上がっていない。そして、記録用紙Pのインクジェットヘッド3と対向した領域の2つの黒点に挟まれた部分においては、自由に伸びることができるが、黒点の部分である両端が固定されており、下からプラテン16で支持されているため、浮き上がる。このように疎部87bを構成する拍車86が記録用紙Pを拘束する効果は、拍車86と搬送方向に関して重なる領域で最も強く、拍車86と重なる領域から走査方向に離れるほど効果が弱まっていき、拍車86と拍車86の中間で最も弱い。すなわち、拍車86と拍車86の中間位置と搬送方向に重なった領域は最も浮き上がりやすく、インクジェットヘッド3とのギャップが安定していない。
【0064】
ところで、疎部87bを構成する拍車86、密部87aを構成する拍車86に限らず、記録用紙Pの変形は、記録用紙Pと拍車86の全変形エネルギーが最小となるような形状になるはずである(最小ポテンシャルエネルギーの原理)。そして、拍車86と拍車86の間に間隔が十分にあれば、拍車86で記録用紙Pの変形がゼロとなり、拍車86と拍車86の間で記録用紙Pが変形する形状になる。
【0065】
拍車86で変形ゼロとするためには記録用紙Pの波打ち間隔が拍車86の配置間隔以下にならなければならないが、記録用紙Pの波打ち間隔を小さくすると記録用紙Pの変形エネルギーは急激に増大する。拍車86と拍車86の配置間隔が狭いと、記録用紙Pに窮屈な変形をさせるエネルギーと、拍車86を弾性変形させるエネルギーとが逆転し、拍車86での記録用紙Pの変形がゼロとならない場合が生じる。密部87aを構成する拍車86のうち、どの拍車86での変形がゼロで、どの拍車86での変形がゼロでないかは複雑系の事象に属し、コントロールすることはほぼ不可能である。
【0066】
したがって、疎部87bを構成する拍車86における記録用紙Pの変形はゼロとなり安定であるが、密部87aを構成する拍車86における記録用紙Pの変形は不安定となる可能性がある。しかしながら、拍車86と拍車86の中間位置と搬送方向に重なった位置に比べると、インクジェットヘッド3とのギャップは安定している。
【0067】
そこで、本実施形態においては、パターン形成部55は、罫線調整パターン70の印刷領域が、所定間隔以上の間隔で並んで配置された疎部87bを構成する拍車86と搬送方向に関して重なる領域を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とを結ぶ線を含まないように罫線調整パターン70を形成する。
【0068】
また、インクジェットヘッド3と記録用紙Pの間のギャップが変動した場合に、インクジェットヘッド3の往復走査中における走査速度が速いほど、同じ飛翔時間あたりの走査方向に関する飛翔距離が大きくなるので、走査方向に関する着弾位置のずれが大きくなる。
【0069】
このとき、例えば、高解像度モードでは写真印刷などを行うが、インクジェットヘッド3の走査速度が遅く、着弾位置のずれが小さいのに加えて、解像度を上げるために重ね打ちを行っているために、着弾位置のずれが目立ちにくい。これに対して、低解像度のモードではテキスト印刷などを行うが、インクジェットヘッド3の走査速度が速く、着弾位置のずれが大きいのに加えて、重ね打ちなど行わないために、着弾位置のずれが目立ちやすい。
【0070】
なお、記録用紙Pを走査方向に関する最も外側で挟持する拍車86よりさらに外側では記録用紙P媒体が片持ち状になっているので、上述したような記録用紙Pの変形エネルギーと拍車86の弾性変形エネルギーとの比較において、拍車86の片側にある記録用紙Pの変形分しか考えなくてよいため、拍車86における記録用紙Pの変形がゼロとなるかどうかについていえば、他の挟持部よりもゼロになりやすい。
【0071】
そこで、4つのモードに対応した4つの罫線調整パターン70のうち、最も速い走査速度に対応した罫線調整パターン70aに属する全てのマーク71a〜71gの印刷領域がが、記録用紙Pを走査方向に関する一方の最も外側で挟持し、疎部87bを構成する拍車86と搬送方向に関して重なる領域X1を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線X4を含まないように罫線調整パターン70aに属する全てのマーク71a〜71gを形成し、さらに、2番目に速い走査速度に対応した罫線調整パターン70bに属する全てのマーク71a〜71gの印刷領域が、罫線調整パターン70aと搬送方向に関する位置が同じであり、且つ、他方の最も外側で挟持し、疎部87bを構成する拍車86と搬送方向に関して重なる領域X2を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線X4を含まないように罫線調整パターン70bに属する全てのマーク71a〜71gを形成する。
【0072】
そして、残りの2つの罫線調整パターン70cに属する全てのマーク71a〜71g、及び、罫線調整パターン70dに属する全てのマーク71a〜71gの印刷領域が、罫線調整パターン70aと搬送方向に関する位置が同じであり、且つ、記録用紙Pを挟持する、これら走査方向の最も両端の拍車86よりは内側であって、疎部87bを構成する拍車86と搬送方向に関して重なる領域X3を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線X4を含まないように罫線調整パターン70cに属する全てのマーク71a〜71g、及び、罫線調整パターン70dに属する全てのマーク71a〜71gを形成する。
【0073】
本実施形態のインクジェットプリンタ1によると、搬送機構4によって搬送される記録用紙Pの、拍車86と搬送方向に関して重なる領域は、拍車86により挟持されている領域と搬送方向に重なっており、他の領域に比べて浮き上がりにくく、インクジェットヘッド3とのギャップが安定している。このように拍車86が記録用紙Pを拘束する効果は、拍車86と搬送方向に関して重なる領域で最も強く、この領域から走査方向に関して離れるほど効果が弱まっていき、拍車86と拍車86の中間で最も弱い。すなわち、拍車86と拍車86の中央位置と搬送方向に関して重なった位置は最も浮き上がりやすく、インクジェットヘッド3とのギャップが安定していない。
【0074】
そこで、このようなインクジェットヘッド3とのギャップが不安定な領域を避け、安定した記録用紙Pの波打ちが小さい領域に罫線調整パターン70を形成することで、周囲の湿度などの影響によらず、精度の高い調整をすることができる。また、このとき、記録が行われる記録用紙Pを利用しており、波打ちにくい罫線調整用の記録用紙Pと同じ厚みの媒体を利用する必要もなく、ランニングコストを低減することができる。
【0075】
また、複数の罫線調整パターン70a〜70dのうち、最も速い走査速度に対応した罫線調整パターン70aに属する全てのマーク71a〜71gの印刷領域が、記録用紙Pの、疎部87bを構成し、記録用紙Pを走査方向に関する一方の最も外側で挟持する拍車86と搬送方向に関して重なる領域を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないように罫線調整パターン70aに属する全てのマーク71a〜71gを形成することで、本実施形態のように、走査方向に重なる位置に全ての罫線調整パターン70a〜70dを形成可能な領域が存在しない場合においても、着弾位置のずれが大きくなりやすい最も速い走査速度において、優先的に精度の高い調整をすることができる。
【0076】
さらに、複数の罫線調整パターン70a〜70dのうち、走査速度が次に速い走査速度に対応した罫線調整パターン70bに属する全てのマーク71a〜71gの印刷領域が、記録用紙Pの、疎部87bを構成し、罫線調整パターン70aと搬送方向に関する位置が同じであり、且つ、記録用紙Pを走査方向に関する他方の最も外側で挟持する拍車86と搬送方向に関して重なる領域を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないように罫線調整パターン70bに属する全てのマーク71a〜71gを形成することで、着弾位置のずれが大きくなりやすい上位2つの走査速度において、優先的に精度の高い調整をすることができる。
【0077】
また、仮に、横目紙の記録用紙Pの長手方向を搬送方向と平行に搬送して、上述した領域に罫線調整パターン70を形成したとしても、インクジェットヘッドとのギャップは安定しているため、どのような目紙の記録用紙Pを用いても、安定して位置ずれを検出することができる。
【0078】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0079】
パターン形成部55は、複数の罫線調整パターン70の印刷領域が、拍車86と搬送方向に関して重なる領域を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないようにした上で、複数の罫線調整パターン70を搬送方向にずらして形成してもよい。例えば、図9に示すように、複数の罫線調整パターン70のうち、遅い走査速度に対応した罫線調整パターン70ほど記録用紙Pの搬送方向における上流側に形成してもよい(変形例1)。また、このとき、複数の罫線調整パターン70は、搬送方向にずらし、さらに、走査方向にずらして形成してもよい。
【0080】
これによると、記録用紙Pは、吸湿により波打つため、周囲の湿度の影響に加えて、インクを吸収することでも、波打つ。すなわち、後から形成する罫線調整パターン70ほど、先に形成された罫線調整パターン70のインクの吸収による記録用紙Pの変形の影響を受ける。そこで、速い走査速度に対応した罫線調整パターン70を、この罫線調整パターン70より遅い走査速度に対応した罫線調整パターン70よりも先に、記録用紙Pに形成することで、記録用紙Pを一定の向きに搬送しながら、着弾位置のずれが大きくなりやすい走査速度ほど、精度の高い調整をすることができる。
【0081】
また、本実施形態においては、パターン形成部55は、1つの罫線調整パターン70に属する複数のマーク71を搬送方向に並べて形成していたが、走査方向に並べて形成してもよい(変形例2)。この一例について、図10を参照して説明する。図10は、変形例2における罫線調整パターンが形成された記録用紙の平面図である。なお、ここでは、説明の簡単のため、1つの罫線調整パターン70に属するマーク71の数を少なくして図示している。
【0082】
例えば、図10に示すように、まず、4つのモードに対応した4つの罫線調整パターン70のうち、最も速い走査速度に対応した罫線調整パターン70aの印刷領域が、搬送機構4によって搬送される記録用紙Pの、搬送方向に関して疎部87bを構成する複数の拍車86と重なる領域を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないように、罫線調整パターン70aに属する全てのマーク71a〜71gを走査方向に沿って1列に形成する。そして、残りの罫線調整パターン70を、遅い走査速度に対応した罫線調整パターン70ほど記録用紙Pの搬送方向における上流側に形成されるように、搬送方向に関する位置をずらしながら、最も速い走査速度に対応した罫線調整パターン70aと同様に走査方向に沿って1列に形成する。
【0083】
これによると、上述した実施形態に比べて、記録用紙Pのある所定の搬送方向に関する位置でのインクジェットヘッド3の走査回数が少なくなり(具体的には、実施形態では4回、変形例2では1回で済む)、罫線調整に要する時間を短くすることができる。
【0084】
また、本実施形態においては、全ての罫線調整パターン70の印刷領域が、疎部87bを構成する拍車86と搬送方向に関して重なる領域を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないように、全ての罫線調整パターン70を形成していたが、全ての罫線調整パターン70の印刷領域が、密部87aを構成する拍車86と搬送方向に関して重なる領域を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86ととから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないように、全ての罫線調整パターン70を形成してもよい。
【0085】
また、本実施形態においては、全ての罫線調整パターン70の印刷領域が、拍車86と搬送方向に関して重なる領域を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないように、全ての罫線調整パターン70を形成していたが、全ての罫線調整パターン70のうち一部の罫線調整パターン70の印刷領域だけが、拍車86と搬送方向に関して重なる領域を含み、当該拍車86とこれに隣接する拍車86とから等距離にあり搬送方向に延びる線を含まないように、全ての罫線調整パターン70のうち一部の罫線調整パターン70を形成してもよい。
【0086】
また、本実施形態においては、走査速度のそれぞれ異なる4つの罫線調整パターン70を、記録用紙Pの搬送方向に関する同じ位置に、インクジェットヘッド3をそれぞれの走査速度で1往復ずつ計4往復走査させて形成していたが、1往復の間で走査速度を可変させて4つの罫線調整パターン70を形成してもよい。
【0087】
さらに、本実施形態においては、往動走査中のインク噴射タイミングを固定にして、復動走査中のインク噴射タイミングを所定のタイミングずつずらして、7つのマーク71a〜71gからなる罫線調整パターン70を形成していたが、復動走査中のインク噴射タイミングを固定にして、往動走査中のインク噴射タイミングを所定のタイミングずつずらしてもよいし、両方のインク噴射タイミングをずらしてもよい。
【0088】
また、罫線調整パターン70の数は、モードの数(走査する走査速度)に合わせて増減させてもよい。また、1つの罫線調整パターン70に属するマーク71の数も適宜増減させてもよい。また、マークをユーザが見て着弾位置のずれを判断するとしていたが、マークを光学センサで読み込んで、自動的に判断を行ってもよい。このとき、複数のパターンを比較しなくても、着弾位置のずれの絶対量を判断できる程度の精度のあるセンサであれば、形成するマークの数は1つでもよい。
【0089】
さらに、本実施形態においては、1枚の記録用紙Pに全ての罫線調整パターン70を形成していたが、それぞれの罫線調整パターン70を大きく形成したいときなどには、複数枚の記録用紙Pにわけて形成してもよい。このとき、仮に、各記録用紙Pに1つの罫線調整パターン70ずつ形成する場合、他の罫線調整パターン70を形成時のインクの吸収潤を考慮することなく、複数の罫線調整パターン70の形成順序は気にしなくてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 インクジェットプリンタ
2 キャリッジ
3 インクジェットヘッド
4 搬送機構
6、7 ガイド軸
9 無端ベルト
15 ノズル
50 制御装置
51 ヘッド制御部
52 搬送制御部
53 キャリッジ制御部
55 パターン形成部
70 罫線調整パターン
86 拍車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを噴射するノズルを有するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドを所定の走査方向に往復走査させる走査手段と、
前記走査方向に互いに間隔をあけて配置され、被記録媒体を搬送可能に挟持する複数の挟持部を有し、前記インクジェットヘッドに対して、前記被記録媒体を前記走査方向と直交した搬送方向に搬送する搬送手段と、
前記インクジェットヘッド、前記走査手段、及び、前記搬送手段を制御して、前記被記録媒体に記録を行わせる制御手段と、を備えたインクジェット記録装置であって、
前記制御手段は、前記インクジェットヘッドを往動走査させる時と復動走査させる時とで前記被記録媒体にそれぞれインクを噴射させて、往動走査での着弾位置と復動走査での着弾位置の前記走査方向に関する相対的な位置ずれを検出するための少なくとも1つのマークを含んだ1以上のパターンを前記搬送手段によって搬送される前記被記録媒体に形成するパターン形成手段を含んでおり、
前記パターン形成手段は、前記1以上のパターンのうち少なくとも1つのパターンに属する全ての前記マークの印刷領域が、前記複数の挟持部の1つの挟持部と前記搬送方向に重なる領域を含み、当該挟持部とこれに隣接する挟持部とから等距離にあり前記搬送方向に延びる線を含まないように前記パターンを形成することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記複数の挟持部のうち、一部の前記挟持部は、所定間隔よりも小さい間隔で並んだ密部を構成し、残りの前記挟持部は、前記密部と隣接して前記所定間隔以上の間隔で並んだ疎部を構成しており、
前記パターン形成手段は、前記1以上のパターンのうち少なくとも1つのパターンに属する前記全てのマークの印刷領域が、前記疎部を構成する前記挟持部と前記搬送方向に重なる領域を含み、当該挟持部とこれに隣接する挟持部とから等距離にあり前記搬送方向に延びる線を含まないように前記パターンを形成することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、予め設定された複数種類の走査速度から1つを選択し、その選択した走査速度で前記インクジェットヘッドを移動させるように前記走査手段を制御しており、
前記パターン形成手段は、
前記複数種類の走査速度にそれぞれ対応した複数の前記パターンを、1枚の前記被記録媒体に形成し、
少なくとも、最も速い走査速度に対応した前記パターンに属する前記全てのマークの印刷領域が、前記疎部を構成する前記挟持部と前記搬送方向に重なる領域を含み、当該挟持部とこれに隣接する挟持部とから等距離にあり前記搬送方向に延びる線を含まないように前記パターンを形成することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記パターン形成手段は、前記複数のパターンを、最も速い走査速度に対応した前記パターンから走査速度が遅くなっていく順番に、前記被記録媒体に形成することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記パターン形成手段は、
前記複数のパターンを前記搬送方向にずらして形成し、
前記複数のパターンのうち、速い走査速度に対応した前記パターンほど前記被記録媒体の前記搬送方向における上流側に形成することを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記パターンは、前記インクジェットヘッドの、往動走査中のインク噴射タイミングに対する復動走査中のインク噴射タイミングが互いに異なる前記マークを複数有しており、
前記パターン形成手段は、前記複数のマークが、前記搬送手段によって搬送される前記被記録媒体の、前記搬送方向に1列に並ぶように、前記パターンを形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記パターン形成手段は、前記1以上のパターンのうち少なくとも1つのパターンに属する前記全てのマークの印刷領域が、前記被記録媒体を前記走査方向に関する最も外側で挟持する前記挟持部と前記搬送方向に重なる領域を含み、当該挟持部とこれに隣接する挟持部とから等距離にあり前記搬送方向に延びる線を含まないように前記パターンを形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−96378(P2012−96378A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243505(P2010−243505)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】